本発明はアクリル酸の製造方法に関し、詳しくは、アクリル酸の製造方法において、アクリル酸を高収率で製造する方法に関する。
プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化させてアクリル酸を製造する方法においては、接触気相酸化反応時に、水やプロピオン酸、酢酸、マレイン酸などの酸類、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類などに加えて、精製工程における、熱や触媒の作用により、アクリル酸の2〜5量体やオリゴマーといったミカエル付加物が副生成物として生じることが知られている。これらの副生成物は、アクリル酸製造の安定操業を妨げ、目的物であるアクリル酸の収率を低減させる原因となる。また、アクリル酸は易重合性物質であるため、加熱を伴う合成工程や、蒸留などの精製工程においてアクリル酸重合物が生成し、装置内に閉塞を生じたり、製品収率が減少するといった問題があった。かかる問題を解決し、アクリル酸を効率よく安定に製造することを目的として様々な技術が提案されている。
特許文献1〜4には、接触気相酸化法により得られたガス状のアクリル酸をアクリル酸溶液として捕集し、当該溶液中に含まれる副生成物を蒸留により除去する蒸留精製法を採用したアクリル酸の製造方法が記載されており、これらの技術においても、アクリル酸の重合を抑制する方法や、ミカエル付加物を分解してアクリル酸として回収する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、重合防止剤が均一に分散されるように、捕集塔や蒸留塔の特定の位置から重合防止剤を供給することや、各工程間に冷却器を設置して供給液を冷却することで重合物の発生を抑制し、さらに、薄膜蒸発器と熱分解槽を使用してアクリル酸オリゴマー(ミカエル付加物)を分解してアクリル酸を回収する方法が記載されている。特許文献2,3には、反応蒸留装置や、薄膜蒸発装置を備えた蒸留塔と、熱分解槽を使用してミカエル付加物を分解し、アクリル酸を回収する方法が提案されている。また、特許文献4には、アクリル酸の精製塔塔底液に含まれるアクリル酸多量体(ミカエル付加物)をアクリル酸に分解し、回収してアクリル酸の収率を向上させる方法が記載されている。
特開2004‐51489号公報
特開平11‐12222号公報
特開2003−160532号公報
特開2003−246765号公報
また、上記特許文献では、アクリル酸の製造工程において副生するマレイン酸がアクリル酸の収率を低減させたり、製造の安定操業を妨げることも指摘されている。マレイン酸は、アクリル酸合成時に副生し、プロセス内の組成によって(有水)マレイン酸(低温で水が存在する環境下)か、無水マレイン酸(高温で水不存在の環境下)の状態で存在する。特にマレイン酸は、アクリル酸への溶解度が低いため析出し易く、また、アクリル酸との共重合体も形成し易い。
しかしながら、上述のようなアクリル酸の製造工程では、合成工程で生成した水や捕集工程で使用した水を系内から完全に除去することは困難であり、このように水が存在する環境下ではマレイン酸は無水化され難く、析出し易い状態となる。さらに、マレイン酸は、加熱されると容易にフマル酸へと転移するが、これらマレイン酸やフマル酸は、無水マレイン酸に比べて析出し易いため、アクリル酸溶液の粘度を上昇させてミカエル付加物の分解効率を低減させたり、製造装置内の配管の閉塞や汚れの原因となる。
このようなマレイン酸に関する問題について、特許文献1にはマレイン酸分離塔を使用して、熱分解(ミカエル付加物の分解)後の分解液中のマレイン酸量を低減することが記載されており、特許文献2、3には、ミカエル付加物の分解反応時の反応温度や操作圧力をコントロールして、アクリル酸と同時に回収されるマレイン酸量を低減させ、マレイン酸や無水マレイン酸が回収系内に蓄積するのを避けることが記載されている。
しかしながら、かかる分解、回収条件の適正化のみではマレイン酸および無水マレイン酸の含有量を低減するには限界があり、連続運転する間に系内におけるマレイン酸の蓄積量が増加していく虞がある。
また、特許文献4では、ミカエル付加物の分解に先立って、あるいは、ミカエル付加物分解後の回収液に、積極的に水や非水溶性溶媒を添加してマレイン酸を析出させて分離する方法が記載されている。しかしながら、新たな工程の設置は更なる設備投資を要し、アクリル酸の製造コストを上昇させる結果となる。また、使用溶媒量の増加も、経済面および環境面からは好ましいものではない。
本発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的は、アクリル酸の製造工程において、特に、精製工程でアクリル酸から分離されたミカエル付加物を含む高沸点成分からアクリル酸を回収する際に、マレイン酸に由来する問題(例えば、配管や装置の閉塞、装置内の圧力上昇など)や、高沸点成分含有液の性状悪化などのトラブルを抑制し、効率よくミカエル付加物の分解を進め、高収率でアクリル酸を製造する方法を提供することにある。
上記問題点に着目して鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、アクリル酸の製造方法において、特に、アクリル酸から分離される高沸点成分に含まれるミカエル付加物を分解してアクリル酸として回収する際に、当該高沸点成分に含まれる有水マレイン酸量を特定量以下に低減することで、その後の分解工程におけるマレイン酸の析出、アクリル酸との共重合物の生成などに起因する汚れ、粘度上昇、塔内圧損などのトラブルを顕著に抑制し得ることを見出した。すなわち、反応工程で副生するマレイン酸の総量を低減することは困難であるが、精製工程で水の存在により有水化した(有水)マレイン酸量の割合を低減し、さらにこれを無水化(無水マレイン酸)とすれば、分解工程におけるマレイン酸由来のトラブルを抑制でき、効率良くアクリル酸を回収できることが明らかとなったのである。
上記課題を解決した本発明のアクリル酸の製造方法とは、原料ガスを気相酸化して得られたアクリル酸含有ガスを粗アクリル酸含有液として捕集し、捕集された粗アクリル酸含有溶液を精製するアクリル酸の製造方法であって、前記粗アクリル酸含有溶液を精製する工程として、蒸留塔で、高沸点成分を分離する高沸点成分分離工程を含み、さらに、前記高沸点成分に含まれるミカエル付加物を分解し、アクリル酸を生成させる分解工程、前記分解工程で生成したアクリル酸を回収する回収工程を含み、前記高沸点成分分離工程から分解工程に供給される高沸点成分中のマレイン酸量の割合を70%以下(下記数式より算出される値であり、マレイン酸と無水マレイン酸の合計を100%としたときのマレイン酸量の割合である。)とするところに要旨を有するものである。
上述のようにマレイン酸はアクリル酸への溶解度が低く、無水マレイン酸に比べて析出し易いため、予め分解工程に供給されるマレイン酸量を低減しておけば、当該分解工程において、マレイン酸とアクリル酸の共重合物やマレイン酸が析出し難くなる。また、通常、分解工程に供給される高沸点成分は、すでに水など低沸点成分が除去されているので、分解処理を受ける間にマレイン酸から水が脱離し無水化される。このとき生成する無水マレイン酸は、マレイン酸よりも融点が低いため、高沸点成分中に溶液状態で存在させることができる。
したがって、上記本発明の方法、すなわち、高沸点成分に含まれる有水マレイン酸の量と無水マレイン酸に対する有水マレイン酸の量を、特定量以下になるようにすることで、配管の閉塞や装置内の圧力上昇を生じることなく、安定なミカエル付加物の分解、および、効率のよいアクリル酸の回収を行うことができる。
上記高沸点成分分離工程は、蒸留塔の塔底温度90〜130℃、塔底液の滞留時間を2〜30時間とし、当該蒸留塔からの抜き出し液の質量Bに対する、当該蒸留塔へ供給する液の質量Fの比「F/B」(以下、「F/B」を濃縮倍率と言う場合がある)を5〜20として行うのが好ましい。また、上記分解工程に供給する高沸点成分中のミカエル付加物の濃度は20〜60質量%とするのが好ましく、上記分解工程は、反応蒸留形式で行うことが推奨される。特に、棚段式蒸留塔で分解工程を行うことは本発明の好ましい実施態様であり、このとき、還流比を0.5〜6とするのが好ましい。また、上記棚段式蒸留塔としては、理論段が3段以上の蒸留塔を使用するのが好ましく、この棚段式蒸留塔の塔頂側を基点とした総理論段の70〜100%の部位を125℃以下に加熱することが好ましい。また、棚段式蒸留塔としては、孔径10〜50mmの開口を有するトレイを備えたものが好ましい。
上記分解工程は、強制循環型熱交換器を使用し、分解工程に供給された高沸点成分を155〜220℃に加熱し、且つ、当該強制循環型熱交換器の熱源と、当該強制循環型熱交換器により加熱された高沸点成分との温度差が15〜80℃となるようにして行うことが推奨される。
さらに、上記分解工程は、N‐オキシル化合物の存在下で行うことが推奨される。
なお、本明細書において「低沸点物質」とは、標準状態(25℃、大気圧下)においてアクリル酸よりも沸点が低い物質をいい、「高沸点物質」とは、標準状態においてアクリル酸よりも沸点が高い物質をいう。
また、「ミカエル付加物」とは下記式(1)に示されるアクリル酸の多量体を言う。このようなミカエル付加物としては、例えば、アクリル酸二量体であれば、β‐アクリロキシプロピオン酸やこれらの塩を含むものである。
(ただし、式(1)中、nは1〜5の整数を表し、−X−は、−CH2CH2−、または、−CH(CH3)−を表す。なお、nが2以上の場合、複数の−X−は同一であってもよく、また、異なるものであってもよい。)
さらに、「精製」には、蒸留、放散、晶析、抽出、吸収などが含まれる。ここに「蒸留」とは、溶液をその沸点まで加熱し含まれる揮発性成分を分離する方法であり、「晶析」とは、目的物を結晶として分離するものを意味するものとする。
また、本明細書において「マレイン酸」とは、特に断りが無い場合には「有水マレイン酸」を意味し、無水マレイン酸とは区別して使用する。
本発明の製造方法によれば、ミカエル付加物の分解工程において、マレイン酸の析出や、これに由来する分解装置内の圧力上昇などのトラブルが起こり難いため、ミカエル付加物の分解を効率よく進められ、アクリル酸を効率よく安定に製造することができる。
本発明のアクリル酸の製造方法とは、原料ガスを気相酸化して得られたアクリル酸含有ガスを粗アクリル酸含有液として捕集し、捕集された粗アクリル酸含有溶液を精製するアクリル酸の製造方法であって、前記粗アクリル酸含有溶液を精製する工程として、蒸留塔で高沸点成分を分離する高沸点成分分離工程を含み、さらに、前記高沸点成分に含まれるミカエル付加物を分解し、アクリル酸を生成させる分解工程、前記分解工程で生成したアクリル酸を回収する回収工程を含み、前記高沸点成分分離工程から分解工程に供給される高沸点成分中のマレイン酸量の割合を70%以下(下記数式により算出される値であり、マレイン酸と無水マレイン酸の合計を100%としたときのマレイン酸量の割合である。)とするところに特徴を有するものである。
上述のように、分解工程に供給される高沸点成分中のマレイン酸量の割合(総マレイン酸量[有水マレイン酸+無水マレイン酸]に対する有水マレイン酸の割合)を上記範囲とすれば、分解工程で析出物や装置内の圧力上昇の発生を抑制できるので、効率よくミカエル付加物の分解が行え、アクリル酸を安定して製造することができる。
上記数式により算出される高沸点成分中のマレイン酸量の割合は50%以下であるのが好ましく、より好ましくは40%以下で、もちろん、マレイン酸量の割合が0%であるのが最も好ましいことは言うまでもない。
但し、上記マレイン酸量の割合を0%とするには、特定の工程に厳しい運転条件を採用したり(製造工程の安定稼動性が損なわれることがある)、アクリル酸の製造効率を犠牲にしなければならない場合がある。したがって、上記数式により算出されるマレイン酸量の割合を0%とすることは実操業上困難であり、経済的な観点からも好ましくない。なお、通常は、上記数式により算出されるマレイン酸量の割合の下限は0%より大きい値となる。具体的には、上記マレイン酸量の割合の下限は5%であり、より詳しくは10%、さらには20%である。
上記高沸点成分とは、アクリル酸よりも沸点の高い成分を含むものであって、ミカエル付加物をはじめとするアクリル酸製造時の副生物を含むものである。なお、本発明では、かかる高沸点成分からアクリル酸を回収して、アクリル酸の製造効率を一層向上させることを目的とするものである。そして、上述のように本発明は、分解工程に供給する高沸点成分中のマレイン酸量を特定量以下に低減させるところに特徴を有するものである。したがって、本発明では、アクリル酸の合成方法については一切限定されず、従来公知のアクリル酸の製造方法であれば、いずれの方法も採用できる。例えば、上記高沸点成分を含む液としては、精製工程(例えば、上記蒸留、放散、晶析、抽出、吸収など)から排出されるもの、あるいは、精製工程を経た後、必要に応じて任意に設けられる更なる精製工程において、製品となるアクリル酸から分離されるものなどが挙げられる。もちろん、高沸点成分を含む液にはアクリル酸が含まれていてもかまわない。代表的な例としては、蒸留塔塔底液や晶析精製で生じる残留母液などが挙げられる。
なお、工業的なアクリル酸の製造方法としては、プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化させる方法が一般的である。そこで、本明細書では、アクリル酸の合成方法として接触気相酸化法を採用する場合を例として具体的に説明する。
まず、プロピレンおよび/又はアクロレインなどのアクリル酸原料と、空気などの分子状酸素含有ガス、および希釈ガスを混合し、原料ガスを調製する。この原料ガスを、接触気相酸化触媒を充填した反応器に供給し、接触気相酸化反応によってアクリル酸含有ガスを得る(合成工程)。
次いで、得られたアクリル酸含有ガスを捕集溶剤と接触させてアクリル酸含有溶液として捕集する捕集塔へと供給する(捕集工程)。上記捕集塔は、アクリル酸ガスとアクリル酸を捕集する捕集用溶剤とを、十分に接触させることができるものであれば特に限定されず、例えば、棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の捕集塔を使用できる。
上記捕集用溶剤としては、アクリル酸を吸収、溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジフェニルエーテル、ジフェニル、o‐ジメチルフタレート、ジフェニルエーテルとジフェニルとの混合物などの高沸点有機溶剤、水、アクリル酸精製プロセスから発生する有機酸を含んだ水やアクリル酸溶液、エジェクター廃水など、従来公知のものを広く使用することができる。
上記アクリル酸含有ガスは捕集塔塔底から供給され、一方、捕集溶剤は、捕集塔塔頂から供給される。このとき、アクリル酸含有ガスと捕集用溶剤との接触方法は限定されず、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイ、ガーゼ型、シート型、グリット型の規則充填物、および、不規則充填物を用いる向流接触など、公知の接触方法がいずれも使用できる。
次いで、捕集塔で得られたアクリル酸含有溶液を、捕集塔塔底から抜き出し、精製工程へ供給する。精製工程は特に限定されず、従来公知の精製法、例えば、蒸留精製法、晶析精製法、膜分離法、薬剤処理法などを単独で、或いは組み合わせて採用することができる。
なお、上記蒸留精製法を採用する場合には、共沸溶剤の存在下で蒸留を行って、アクリル酸含有溶液から粗製アクリル酸溶液を得る共沸分離法(共沸分離工程)を採用してもよい。共沸分離法に使用可能な蒸留塔としては、棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の塔を用いることができる。上記共沸溶媒としては、トルエン、ヘプタン、ジメチルシクロトルエン、メチルイソブチルケトン、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、ヘキサン、酢酸ブチル等が挙げられる。
上記アクリル酸の合成工程、アクリル酸ガスの捕集工程、共沸分離工程、および精製工程の運転条件は特に限定されず、生成したアクリル酸ガスの組成、アクリル酸含有溶液および粗製アクリル酸溶液の組成などを考慮して適宜調整しながら行えばよい。
本発明では、上記工程に加えて、蒸留塔で高沸点成分を分離する高沸点成分分離工程、前記高沸点成分に含まれるミカエル付加物を分解し、アクリル酸を生成させる分解工程、前記分解工程で生成したアクリル酸を回収する回収工程を採用する。回収工程は、分解工程で生成したアクリル酸を回収できる工程であればよく、例えば、捕集工程や精製工程などの前段工程を回収工程とすればよい。なお、製品品質上は、前段工程の高沸点成分分離工程で回収するのが好ましい。
本発明で採用する高沸点成分分離工程は、精製工程に含まれていてもよい。また、上記分解工程及び回収工程は、精製工程に含まれていても、精製工程とは異なる工程として設けるものであってもよい。なお、本発明の好ましい態様としては、精製工程において目的生成物であるアクリル酸から分離され(高沸点成分分離工程)、排出される高沸点成分含有液を分解工程、回収工程へと供して、アクリル酸を回収する態様が挙げられる。
次に、本発明の好ましい態様について、図1に示すプロセスを参照しながら具体的に説明する。
[高沸点成分分離工程]
合成工程、捕集工程を経て、精製工程(図示せず)に供給され、当該工程においてアクリル酸から分離された高沸点成分含有液を、ラインL‐1を通じて、高沸点成分を分離する蒸留塔1(高沸点成分分離塔)へと供給する(高沸点成分分離工程)。
この高沸点成分分離工程は、精製工程においてアクリル酸と高沸点成分を分離する工程であってもよく(図示せず)、また、精製工程においてアクリル酸から分離された高沸点成分含有液に含まれる高沸点成分と、当該高沸点成分含有液中に含まれるアクリル酸やその他の低沸点成分とを分離する工程のいずれであってもよい。分離されたアクリル酸は、蒸留塔1の塔頂から留出させて、ラインL‐2を通じて、凝縮器E‐1で凝縮させた後、製品として、あるいは、更なる精製工程などへと供給するために回収する。また、このときラインL‐2に導入されたアクリル酸は、その一部を蒸留塔1へと循環させて還流液として使用してもよい。
一方、蒸留塔1の塔底液(高沸点成分)は、ラインL‐3を通じて、反応装置(蒸留塔)2(分解工程)へと供給する。また、ラインL−3に導入された高沸点成分は全て次工程へと供給しても良いが、一部をラインL−3上の熱源E−2を経由させた後、再び蒸留塔1へ循環させても良い。なお、蒸留塔1から留去される留出液および排出される塔底液は、次工程に供給する前にストレーナーに通して、留出液又は塔底液に含まれる不溶成分を除去しても良い。
ここで、高沸点成分とは、アクリル酸製造時の副生物あるいは出発原料を意味し、標準状態でアクリル酸よりも沸点の高い成分を含むものである。具体的な高沸点成分としては、ミカエル付加物(アクリル酸の二量体など)、フルフラール、プロトアネモニン、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
上記高沸点成分分離工程の蒸留塔(高沸分離塔)として使用可能な装置としては、充填塔、棚段塔(トレイ塔)などが挙げられる。上記充填塔に充填する充填物としては、後述する分解工程で充填物として例示するものはいずれも使用可能であり、また、棚段塔に設けるトレイには、後述する分解工程で例示するトレイを用いることができる。もちろん、上記充填物とトレイは組み合わせて使用しても良い。なお、留出液(アクリル酸)へのマレイン酸の混入を低減する観点からは棚段塔を採用するのが好ましい。例えば、棚段塔の理論段数は2〜20段とするのが好ましく、より好ましくは4〜12段であり、還流比は0.2〜4とするのが好ましく、より好ましくは0.4〜2である。
蒸留塔(高沸点成分分離塔)の運転条件は、アクリル酸と、高沸点成分とを分離できる条件であればよく、導入する高沸点成分(粗製アクリル酸溶液)のアクリル酸濃度や水濃度、酢酸濃度などによって、適宜選択することができる。例えば、塔底温度は90℃以上とするのが好ましく、より好ましくは95℃以上であり、好ましくは130℃以下、より好ましくは125℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。一方、蒸留塔の塔頂温度は、通常40〜90℃とするのが好ましく、より好ましくは50〜80℃である。また、塔底液の滞留時間は2〜30時間とするのが好ましい。より好ましくは4〜25時間である。さらに、蒸留塔からの抜き出し液(塔底液)の質量Bに対する、蒸留塔へ供給する液の質量Fの比「F/B」(以下、F/Bを濃縮倍率という)は、5〜20とするのが好ましく、より好ましくは8〜15である。なお、塔頂圧力(絶対圧)は1.0〜40kPaとするのが好ましく、より好ましくは1.5〜30kPa、さらに好ましくは2.0〜20kPaである。塔頂圧力が上記範囲であれば、蒸留塔や蒸留塔に敷設するコンデンサや真空装置の大型化も必要なく、また、アクリル酸などが重合する虞も低い。
蒸留塔(高沸蒸留塔)の熱源E−2としては、多管式熱交換器、プレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器、強制循環型熱交換器、薄膜蒸発器等の熱交換器や、リボイラーを使用することができる。
なお、蒸留時には、アクリル酸などの重合性物質の重合を防止するために、還流液に重合防止剤を添加してもよい。このような重合防止剤としては、特開2001‐348360号公報、特開2001‐348358号公報、特開2001‐348359号公報等に記載されるN‐オキシル化合物、フェノール化合物、酢酸マンガン等のマンガン塩、ジブチルチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、ニトロソ化合物、アミン化合物およびフェノチアジンからなる群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
上記蒸留工程で得られる留出液は、製品(アクリル酸)として使用してもよく、また、更なる精製工程へと供給してもよい。もちろん、上記蒸留塔(高沸分離塔)からの留出液は、当該蒸留工程の上流側の工程である捕集工程や共沸脱水工程等へ、アクリル酸含有液として供給してもよい(回収)。
一方、蒸留塔1(高沸分離塔)の塔底液は、ラインL‐3を通じて、反応装置2(反応蒸留塔)へと供給され、当該塔底液に含まれる有価物を分解させてアクリル酸を生成させる(分解工程)。
なお、本発明法では、分解工程へ供給する高沸点成分に含まれるマレイン酸と無水マレイン酸の合計量を100質量%としたときの、マレイン酸量の割合を70%以下とする。なお、このときの総マレイン酸濃度(マレイン酸と無水マレイン酸の合計濃度)は、分解工程へ供給される液(高沸点成分含有液)100質量%中、3〜25質量%とするのが好ましい。より好ましくは5〜20質量%であり、さらに好ましくは7〜14質量%である。また、分解工程へ供給する高沸点成分に含まれるミカエル付加物の濃度(高沸点成分含有液100質量%に対して)は20〜60質量%とするのが好ましい。より好ましくは25〜55質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。なお、高沸点成分中の、マレイン酸量を上記範囲とするには、高沸点成分分離工程における蒸留塔の塔底温度、滞留時間、濃縮倍率、使用する蒸留装置の理論段数や、還流比などの運転条件を上述のように制御すればよい。また、後述する分解工程の分解(塔底)温度、滞留時間、濃縮倍率、還流比、塔内温度などの条件を制御し、分解工程からの留出液(循環液)を使用して、蒸留塔に供給される高沸点成分中の有水マレイン酸量や、ミカエル付加物量を調整してもよい。
このように、高沸点成分含有液におけるマレイン酸の量を調整することに合わせて、ミカエル付加物の量も特定の範囲に調整することは本発明の好ましい実施形態である。これによって、後述する分解工程におけるマレイン酸に由来する配管の閉塞や、付着物、廃油粘度の上昇といった問題を一層低減させることができる。
[分解工程]
前記蒸留工程において、蒸留塔1(高沸点成分分離塔)の塔底から抜き出した高沸点成分を、ラインL‐3を通じて、ミカエル付加物の分解を行う反応装置2(蒸留塔2)へと供給する。上記高沸点成分には、アクリル酸二量体、アクリル酸三量体、アクリル酸オリゴマーなどのミカエル付加物が含まれているが、これらは分解することでアクリル酸として回収できる。すなわち、本発明に係る分解工程とは、高沸点成分を加熱し、当該高沸点成分に含まれるミカエル付加物などの有価物を分解してアクリル酸を生成させる工程である(分解工程)。
図1に示しているように、反応装置2で生成したアクリル酸は、反応装置2の塔頂から留出させ、ラインL‐4および高沸分離塔に連結しているラインL‐1を通じて、あるいはラインL‐4から直接蒸留塔1へと循環させる(図示せず)。一方反応装置2の残留液は、ラインL‐5を通じて系外へと排出させればよい。もちろん、残留液の一部は熱交換器E−3に循環させて、反応装置2へ戻してもよい。なお、図1では、熱交換器として強制循環型熱交換器を使用する例を示している。
本発明では、分解工程は、ミカエル付加物の分解と、分解生成物(アクリル酸)の蒸発あるいは蒸留を同時に行える反応蒸留形式を採用するのが好ましい。ここで、反応蒸留形式とは、ミカエル付加物を分解しつつ、分解生成物を蒸留により留去させる手法を意味する。アクリル酸からミカエル付加物が生成する反応は平衡反応である。したがって、反応蒸留形式を採用して、ミカエル付加物の分解反応と同時に分解生成物であるアクリル酸を蒸留により留去させれば、アクリル酸生成量が増加する向きに平衡が移動するので、分解反応が促進され、効率的なミカエル付加物の分解が行える。
上記反応蒸留の実施態様は限定されず、回分式、半連続式、連続式のいずれでも行えるが、連続式を採用するのが好ましい。また、反応器の形式にも特に制限はなく、単蒸留器、蒸留塔、充填塔のような単純な反応器、反応器にトレイ(棚段)を設けた蒸留塔、反応器と精留塔を組み合わせた装置、攪拌器を備えた反応器等、一般的な反応蒸留装置が使用できる。
なお、塔内の汚れを防止し、マレイン酸や、アクリル酸と近い沸点を有する副生物(例えば、ベンズアルデヒドやフルフラールなど)を効率よく分離する観点からは、棚段式蒸留塔を採用するのが好ましい。この場合、例えば理論段は2以上とするのが好ましく、より好ましくは3段以上、好ましくは15段以下、より好ましくは10段以下であり、還流比は0.5〜6、より好ましくは0.7〜4とするのが好ましい。理論段や還流比を上記範囲とすることで、フルフラールやベンズアルデヒドの留出を抑制できるので、製品品質を良好に保つことができる。さらに、塔内組成、トレー1枚当たりの液深を制御することで、塔内でのマレイン酸の濃縮や析出、アクリル酸との共重合物の発生が一層抑制されるので、汚れや塔内圧力損失上昇などのトラブル、運転費などのユーティリティの増大が抑えられる。留出液は、循環液として合成工程や捕集工程などの前段工程に供給される場合があり、循環液にマレイン酸が含まれていると、上記前段工程には水が存在しているため、当該工程においてマレイン酸は再び有水化することがある。このような場合には、分解工程への供給液中の有水マレイン酸量が増加する場合がある。したがって、分解工程への供給液中の有水マレイン酸量を一層低減させるためにも、留出液中のマレイン酸濃度はできるだけ低減しておくのが望ましく、理論段、還流比を上記範囲とすることが好ましい。
上記分解反応装置内に設ける棚段(トレイ)としては、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイなどが挙げられる。上述と同様に、塔内におけるマレイン酸の濃縮や析出、アクリル酸との共重合物の蓄積を防止する観点から、孔径10〜50mm(より好ましくは12〜30mm)の開口を有するトレイを採用するのが好ましい。また、トレイと充填物とを組み合わせて使用しても良い。
充填物としては、加圧、高温に対する耐久性を備え、残留母液中の成分と反応し難いものが好ましく、かかる観点からは、アルミナ製、またはステンレス鋼などの金属製のものが推奨される。また、充填物の形状は、反応蒸留装置の圧力損失を上昇させ難いものであるのが好ましい。かかる充填物としては、公知のラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、フレキシリング、カスケード・ミニ・リング(ドットウェル社製)、ラシヒスーパーリングや、インタロックス・メタルタワー・パッキング(ノートン社製)およびインタロックスサドル(ノートン社製)、化学工学便覧(化学工学会編、第6版604頁図11,13)に記載の充填物、メラパック(住友重機工業社製)、ジェムパック(千代田化工建設社製)、テクノパック(三冷テクノ社製)、モンツパック(モンツ社製)、インタロックスハイパフォーマンスストラクチャードパッキング(ノートン社製)、その他化学工学便覧(化学工学協会偏、第6版)567頁の金属板型規則充填物が挙げられる。これらの充填物は、使用する反応装置のサイズ、残留母液の供給量、温度条件、圧力条件、理論段数、圧力損失、最低液流量、その他の要素によって、使用する径、形状などを選択すればよい。上述の充填物の中でも、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、フレキシリング、カスケード・ミニ・リング、ラシヒスーパーリング、インタロックス・メタルタワーパッキングおよびインタロックスサドルは、いずれも1m3あたりの充填物表面積および空隙率が高いため、物質交換が効率的に行われ、且つ、圧力損失を減少できるので好ましい。最も好ましいものは、カスケード・ミニ・リングである。
上記反応装置として棚段式蒸留塔を採用する場合には、塔頂側を基点とした総理論段の70〜100%の部位を125℃以下に加熱するのが好ましい。より好ましくは90〜120℃、さらに好ましくは95〜115℃である。なお、「塔頂側を基点とした総理論段の70〜100%の部位」とは、塔頂を1段目と数えたときの総理論段数の70〜100%のいずれかの部位の意味であり、棚段式蒸留塔の高さ方向の下部に相当する。この部分は、熱交換器で加熱された反応液(高沸点成分)が供給される位置に該当するため、蒸留装置内では温度が上昇し易い位置であり、マレイン酸の濃縮による有水マレイン酸の析出、有水マレイン酸とアクリル酸の共重合物の生成が起こり易い箇所の一つと言える。また、かかる位置の温度が低すぎる場合には、ミカエル付加物の分解反応を進行し難くなる場合がある。したがって、当該部位の温度を上記範囲とすることで、重合物の生成を抑制し、ミカエル付加物の分解反応をより円滑に進行させることができる。
反応装置内における反応液(高沸点成分)の滞留時間(抜き出し液基準)は塔底温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.2〜30時間とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜15時間、さらに好ましくは1〜10時間である。温度が高すぎたり、滞留時間が長すぎると、分解反応は進行するが、粘度上昇など反応液の性状を悪化させたり、反応装置内に汚れの付着を招く場合がある。一方、温度が低すぎたり、滞留時間が短すぎると、ミカエル付加物を十分に分解し難い場合がある。また、共沸脱水工程を採用する場合には、高沸点成分中のマレイン酸は有水マレイン酸として存在する場合が多く、析出などのトラブルが生じ易いため、上記条件のように、速やかにミカエル付加物の分解反応が平衡に達するような温度に加熱し、且つ、滞留時間を短くすれば、一層効率よく、且つ、反応液の性状を悪化させることなくミカエル付加物を分解させることができる。
反応蒸留装置の熱源E−3としては、多管式熱交換器、プレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器、強制循環型熱交換器、薄膜式蒸発器、リボイラーなどが使用できる。特に、分解対象物の粘度が高い場合や、反応装置の塔底部を高温に保つ必要がある場合には、上述の熱交換器の中でも、強制循環型熱交換器を採用するのが好ましい。強制循環型熱交換器には、循環用ポンプが備わっており、反応装置内の塔底液の一部を連続的に取り出して加熱し、反応装置内へと戻す構成を採用するものであるので、反応装置内の壁面を通して加熱する場合に比べて、装置内における重合物および析出物の生成や付着が低減される。上記強制循環型熱交換器としては、例えば、特開平09‐110778号公報に記載されているように、配管の途中にしぼり構造が設けられているものであってもよい。かかる構成を有するものは、液体の過加熱状態を維持でき、沸騰、気化に必要なエネルギーを効率よく反応装置内へ供給できるからである。また、汚れや性状悪化によるトラブルも抑制されるので、速やかに分解反応を行うことができる。
強制循環型熱交換器を使用する場合、分解温度(塔底温度、高沸点成分の温度)は、155〜220℃で運転するのが好ましく、より好ましくは160〜200℃である。このとき、強制循環型熱交換器の熱源の温度は、分解温度(塔底温度)と当該熱源の温度との差が15〜80℃となるように調整するのが好ましく、より好ましくはその差を20〜60℃とすることが推奨される。分解温度(塔底温度)と加熱温度の差を上記範囲にすることで、熱交換器の汚れの付着や、廃油粘度の上昇などの性状の悪化を抑制できるので、長期間安定運転する上では、分解温度(塔底温度)と加熱温度の差を上記範囲とするのがより好ましい。また、強制循環型熱交換器における塔底液の循環量は100〜300m3/hrとするのが好ましく、より好ましくは140〜250m3/hrとすることが推奨される。循環量を上記範囲とすることで、十分な熱効率が得られると共に、熱交換器への汚れの付着が抑制できるため、長期間安定運転する上では好ましい。
また、反応装置内における汚れや性状悪化トラブルを低減するため、当該装置内に液飛沫衝突板等を設けてもよい。これにより、蒸留塔内に反応装置内に供給液を供給する際、液面からの液飛沫がカットされるので、衝突板より上方における重合物の生成や析出物に由来するトラブルを低減することができる。
分解反応時の圧力は、分解反応で生成するアクリル酸や、分解反応の原料である供給液中に含まれるアクリル酸などの有用成分の大半を蒸発させることができ、かつ、平衡反応であるミカエル付加物の分解をより速やかに進行させられる圧力を採用するのが好ましい。例えば、反応装置の塔頂圧力(ゲージ圧)は6.7〜64kPa(50〜480torr)とするのが好ましく、より好ましくは13.3〜40kPa(100〜300torr)、さらに好ましくは20〜33.3kPa(150〜250torr)とすることが推奨される(操作圧)。塔頂温度は60〜150℃とするのが好ましく、より好ましくは80〜130℃、さらに好ましくは90〜120℃とすることが推奨される。塔頂圧力および塔頂温度を上記範囲とすることで、副生成物中の高沸成分であるプロトアネモニンや、アクリル酸と沸点の近いフルフラール、ベンズアルデヒドなどが、アクリル酸と共に留出するのを抑制できるので、分解工程の留出液をアクリル酸ガスの捕集塔(捕集工程)や、高沸分離塔(蒸留工程)に供給しても、製品品質を良好に保つことができる。また、塔頂圧力や塔頂温度が高すぎる場合のように、ミカエル付加物の分解反応に高温を要さないため、反応液の性状悪化や、分解率の低下も起こし難い。
当該分解工程では、ミカエル付加物の分解を促進させるために、触媒として、ルイス酸、ルイス塩基、硫酸、燐酸などの無機酸、アルカリ金属、アルカリ土類金属、メタンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸などの有機酸、N‐オキシル化合物やアミン類などから選択される1種以上を使用してもよい。上記分解触媒の中でもN‐オキシル化合物を採用するのが好ましい。N‐オキシル化合物が、分解工程、すなわち反応蒸留塔から留出する留出液を他の工程、例えば、アクリル酸ガスの捕集工程や、蒸留工程(高沸分離塔1)へ循環させる循環液中に含まれていれば、アクリル酸の重合防止剤としても働き得るからである。
上記触媒の添加量は、反応装置の塔底液に対して0.05〜3質量%の濃度となるようにするのが好ましく、より好ましくは0.1〜1質量%である。なお、上記触媒は、分解する際に存在していればよく、触媒の添加のタイミングは分解工程のみに限定されず、例えば、アクリル酸捕集工程の捕集塔や各種蒸留塔、さらには分解工程で使用する反応装置に、高沸点成分含有液を供給する際に添加しても良い。
[回収工程]
分解工程でミカエル付加物の分解により生成したアクリル酸は、反応装置2(分解工程の蒸留塔)の塔頂部から回収され、ラインL‐4を経て前記アクリル酸捕集工程(図示せず)や蒸留塔1へと送られる。このとき、反応装置2の塔頂から抜き出される留出物中のマレイン酸濃度は低いほど好ましいが、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、さらに一層好ましくは0.6質量%以下である。これにより、マレイン酸の濃縮トラブルを低減し、前工程の高沸点成分分離塔からの供給液の有水マレイン酸量を低減することが可能である、上記留出液中のマレイン酸濃度を低減させるには、例えば、反応装置として使用する反応器の理論段数や、還流比などの運転条件を上記範囲とすればよい。
また、反応装置2から留去させる留出物には、当該留出物に含まれるアクリル酸の重合を防止するため、酸素や酸素を含むガスを添加しても良い。かかる酸素含有ガスは、反応蒸留装置塔底の気相部、あるいは液相部に導入すればよい。上記酸素含有ガスとしては、純酸素、酸素を不活性ガス(窒素など)で希釈した混合ガス、空気などが挙げられる。添加量は、反応装置2の塔頂部から留出するガスの容量に対して、酸素濃度が0.01〜5容量%となるようにするのが好ましく、より好ましくは0.02〜3容量%であり、さらに好ましくは0.05〜1容量%である。留出ガス中の酸素濃度が上記範囲であれば、重合防止効果が十分に得られる。また、酸素、または酸素含有ガスに同伴されて系外に排出される有効成分量を低レベルに抑えられ、分解工程の圧力制御も容易となる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
[マレイン酸の割合]
本実施例では、高沸点成分の分離工程から分解工程に供給される高沸点成分中のマレイン酸の割合は、高沸分離塔の塔底液に含まれるマレイン酸および無水マレイン酸の質量を測定し、得られた値を下記数式に代入してマレイン酸量の割合を算出した。
なお、マレイン酸の質量は、塔底液に含まれるマレイン酸をメタノールと反応させて生成したモノメチルマレイン酸の質量をガスクロマトグラフィーにより測定し、得られた値をマレイン酸の質量に換算した。なお、この時、無水マレイン酸はメタノールとは反応しない。
一方、無水マレイン酸の質量は、塔底液中に含まれるマレイン酸および無水マレイン酸の合計質量を液体クロマトグラフィーにより測定した後、この値からマレイン酸の質量を差し引いた値を無水マレイン酸の質量とした。
[マレイン酸量の割合(%)]
[転化率]
分解工程に供給した高沸点成分含有液、および、分解工程後の留出液中に含まれるミカエル付加物の質量をガスクロマトグラフィーにより測定し、下記式よりミカエル付加物の転化率を算出した。
[選択率]
分解工程に供給した高沸点成分含有液中のミカエル付加物の質量、アクリル酸の質量、および、分解工程後の留出液中に含まれるアクリル酸の質量をガスクロマトグラフィーにより測定し、下記式より分解反応の選択率を算出した。
[アクリル酸の合成]
プロピレン接触気層酸化法により得られたアクリル酸含有ガスを、捕集溶剤と接触させてアクリル酸含有溶液として捕集し(捕集工程)、次いで設けた共沸分離工程で、得られたアクリル酸含有溶液から低沸点成分を除去して、高沸点成分を含む粗製アクリル酸溶液を得た。得られた粗製アクリル酸溶液の組成は、アクリル酸:96.05質量%、マレイン酸:0.49質量%、無水マレイン酸:0.33質量%、アクリル酸二量体(ミカエル付加物):3質量%、フルフラール:0.03質量%、ベンズアルデヒド:0.03質量%、プロトアネモニン:0.02質量%、水:0.05質量%であった。
[実験例1‐1]
図1に示す工程図に従ってアクリル酸の回収を行った。なお、実験例1では、高沸点成分分離工程の蒸留塔1として高沸分離塔(段数:50段、無堰多孔板蒸留塔)を用い、分解工程の反応装置2として段塔付き反応蒸留塔(段数:20段、無堰多孔板蒸留塔2)を使用した。また、分解工程の熱交換器としては、強制循環型熱交換器(図1中「E‐3」)を使用し、高沸分離塔および反応蒸留塔へ各供給液を供給する際にはストレーナー(Z‐1〜Z‐6)を通して、液中の不溶物を除去してから供給した。このときの分解工程の分解温度(反応蒸留塔の塔底温度)は170℃、反応蒸留塔の総理論段数80%の部位(理論段20段の16段目)の温度は120℃で、還流比は4であった。なお、強制循環型熱交換器の熱源の温度は220℃で、分解温度と強制循環型熱交換器の熱源との温度差(ΔT)は50℃であった。
まず、上記アクリル酸の合成により得られた粗製アクリル酸溶液を、後述する分解工程からの留出液と併せて、蒸留塔1(高沸分離塔)に導入した。蒸留塔1は、操作圧:46.7hPa(mmhg)、塔底温度98℃に制御し、還流比:0.9、塔底液の滞留時間:5時間で運転して、塔頂からアクリル酸およびその他の低沸点成分を留出させ、塔底からミカエル付加物を含む高沸含有液(高沸点成分)を得た。なお、このとき得られた高沸含有液に含まれるマレイン酸量の割合(上記数式により算出される値)は38%であった。また、ミカエル付加物は42質量%含まれていた。
次いで、得られた高沸含有液を、反応装置2(段塔付き反応蒸留塔)に10kg/hrで導入し、ミカエル付加物を分解、回収した。このときの反応装置2(分解工程)の運転条件、および、結果を表1に示す。
ミカエル付加物の分解操作を2週間継続したが、反応装置内には汚れの発生や、装置内の圧力上昇などのトラブルは発生せず、廃油(反応装置2の塔底液)粘度も低く、ミカエル付加物の分解を安定に行うことができた。なお、廃油粘度の値は、振動型粘度計を用いて、一定温度(100℃)で測定した。
このときのミカエル付加物の転化率は85%であり、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は83.3%であった。
[実験例1‐2]
蒸留塔1(高沸分離塔)に供給する高沸含有液として、上記アクリル酸の合成において、捕集工程に次いで晶析精製を行い得られた晶析工程の残留母液を粗製アクリル酸溶液として使用したこと以外は、上記実験例1と同様にしてアクリル酸の回収を行った。なお、このとき得られた粗製アクリル酸溶液の組成は、アクリル酸:87.1質量%、マレイン酸:0.72質量%、無水マレイン酸:0.1質量%、アクリル酸二量体(ミカエル付加物):3.1質量%、フルフラール:0.03質量%、ベンズアルデヒド:0.03質量%、プロトアネモニン:0.02質量%、水:8.9質量%であった。
上記、粗製アクリル酸溶液を蒸留塔1に供給し、表1に示す条件で蒸留塔1を運転して、蒸留塔1の塔底からミカエル付加物を含む高沸含有液を得た。このとき得られた高沸含有液は、マレイン酸および無水マレイン酸の合計量に対してマレイン酸を62%含むものであった(上記数式により算出されるマレイン酸の量の割合、以下の実験例でも同様)。ミカエル付加物は42質量%であった。
得られた高沸含有液を反応装置2に供給し、実験例1‐1と同じ条件で反応装置を運転して、ミカエル付加物の分解、回収を行った。結果を表1に示す。
ミカエル付加物の分解操作を2週間継続したが、反応装置やその他の付帯設備には汚れや、反応装置内の圧力上昇などのトラブルは発生せず、廃油の粘度も低く安定に稼動していた。
なお、このときのミカエル付加物の転化率は82%であり、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は80%であった。
[実験例1‐3]
蒸留塔1(高沸点成分分離塔)の運転条件を表1に示す条件に変更したこと以外は、実験例1‐2と同様にしてアクリル酸を回収した。このとき反応装置2へ供給した高沸含有液は、マレイン酸および無水マレイン酸の合計量に対してマレイン酸を80%含むものであった。
ミカエル付加物の分解操作を実施したところ、熱交換器E−3に汚れの付着が確認された。また、廃油粘度が上昇し、反応装置2の塔内圧力が上昇したため、1週間で運転を停止した。このときのミカエル付加物の転化率は72%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は58%であった。結果を表1に示す。
なお、実験例1−3で使用した高沸含有液は、実験例1−2と同様の晶析精製後に製品から分離された残留母液である。したがって、当該残留母液の水の含有量は、共沸分離工程を経て得られた実験例1−1の粗製アクリル酸溶液に比べて若干多く、実験例1−3で採用した高沸点成分分離工程の条件(実験例1−1,1−2に比べて塔底温度がやや低く、F/Bが小さい)では、蒸留塔1の塔底(塔底液中)において無水マレイン酸が有水マレイン酸になり易い環境であったと考えられる。実験例1−1,1−2に比べて、実験例1−3のマレイン酸量の割合がやや大きかったのは上記理由によるものと考えられる。
実験例1−1〜実験例1−3の結果より、分解工程に供給する高沸含有液に含まれるマレイン酸量を予め低減しておけば、溶液粘度の上昇や重合物の発生が抑制され、ミカエル付加物の分解、回収が効率よく行えることが分かる。
[実験例2‐1]
蒸留塔1(高沸点成分分離塔)の運転条件を表1のように変更したこと以外は、実験例1−1と同様にして、高沸含有液を得た。得られた高沸含有液は、マレイン酸および無水マレイン酸の合計量に対してマレイン酸を62%含むものであった。また、高沸含有液中には、アクリル酸二量体(ミカエル付加物)が20質量%含まれていた。
上記高沸含有液を反応装置2(反応蒸留塔)に供給し、ミカエル付加物の分解操作を2週間継続したが、反応装置やその付帯設備に汚れの付着は見られなかった。また、装置内の圧力上昇などのトラブルも発生せず、廃油の粘度も低く安定に稼動した。このときのミカエル付加物の転化率は70%で、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は63%であった。結果を表1に示す。
[実験例2‐2]
蒸留塔1(高沸点成分分離塔)の運転条件を表1のように変更したこと以外は、実験例1−1と同様にして、高沸含有液を得た。得られた高沸含有液は、アクリル酸二量体(ミカエル付加物)63質量%含んでおり、マレイン酸および無水マレイン酸の合計量に対して、マレイン酸を62%含むものであった。
上記高沸含有液を反応装置2に供給し、ミカエル付加物の分解操作を実施した。なお、このとき供給した高沸含有液は、実験例2−1に比べてミカエル付加物量が少し多いものであった。分解操作を開始してから2週間が経過した時点で分離塔および付帯設備を確認したところ、少量ではあったが、熱交換器に汚れが付着し、廃油粘度の上昇が確認された。なお、汚れの付着、廃油粘度上昇の程度は、一応、分解操作の継続が可能なものであった。このときのミカエル付加物の転化率は82%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は72%であった。結果を表1に示す。
実験例2−1および実験例2−2の結果より、分解工程に供給する高沸含有液のマレイン酸量に加えて、ミカエル付加物の濃度を本発明の好ましい範囲(高沸点成分含有液100質量%に対して20〜60質量%)とすることにより、溶液粘度の上昇や重合物の発生が抑制され、分解工程を一層安定に行えることが分かる。
[実験例3‐1]
反応装置として用いた段塔付き反応蒸留塔の塔頂側を基点とした総理論段の80%の部位(理論段20段の16段目、以下「下段」と言う)の温度を140℃としたこと以外は実験例1‐1と同様にして、高沸点成分分離工程及び分解工程を行い、アクリル酸の回収を行った。なお、このとき反応装置に供給した高沸含有液は、ミカエル付加物を42質量%含み、さらにマレイン酸および無水マレイン酸の合計量に対してマレイン酸を78%含むものであった。このときの運転条件等を表1に示す。
反応装置2の運転中に、反応装置2の塔頂からの留出液および反応装置中段における滞留液を分析したところ、留出液にはマレイン酸および無水マレイン酸が合計で8質量%、反応蒸留塔中段における滞留液には、マレイン酸および無水マレイン酸が合計で70質量%含まれていた。
反応装置2の運転を継続していたが、装置内圧力が上昇したため、1週間で運転を停止した。このときのミカエル付加物の転化率は85%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は78%であった。結果を表1に示す。
この実験例3−1では、分解工程における反応蒸留塔の下段付近(理論段20段中の16段目で総理論段の80%の部位)の温度を実施例1−1(120℃)に比べてやや高い140℃とした。その結果、反応蒸留塔内の下段付近でマレイン酸が濃縮し、有水マレイン酸の析出や、アクリル酸との共重合物が生成し易くなったものと考えられる。また、高沸含有液中に含まれるマレイン酸量も多かったため、加熱により反応蒸留塔の塔頂部から留出するマレイン酸量が増加したものと考えられる。すなわち、当該実験例3−1では、実験例1−1と同様のアクリル酸含有液を使用したものの、回収されたアクリル酸(分解工程の留出液)に含まれるマレイン酸量が多かったため、分解工程に供給される高沸含有液中のマレイン酸量が高くなったものと考えられる。
[実験例3‐2]
実験例1‐1と同様の操作、工程に従って、アクリル酸を回収した。ただし、反応装置(段塔付き反応蒸留塔)は、下段(理論段20段の16段目)の温度を110℃とし、反応蒸留塔内の還流比を3として運転した。このとき反応蒸留塔の留出液には、マレイン酸および無水マレイン酸が合計で2質量%、反応蒸留塔下段の滞留液には、マレイン酸及び無水マレイン酸が合計で35質量%含まれていた。反応装置の運転条件等を表1に示す。
反応蒸留塔の運転を2週間継続したが、反応装置2やその付帯設備に汚れは確認されなかった。また、装置内の圧力上昇などのトラブルも発生せず、反応装置2(反応蒸留塔)の廃油粘度も低く安定に稼動した。このときのミカエル付加物の転化率は86%であり、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は84%であった。結果を表1に示す。
当該実験例3−2では、反応蒸留搭の下段付近の温度を実験例3−1に比べてやや低い温度で(110℃)運転し、還流比を上げたため、マレイン酸の析出や、重合物の生成、反応蒸留塔塔頂からのマレイン酸の留出などの問題が抑制されたものと考えられる。
[実験例3‐3]
実験例1‐1と同様の操作、工程に従って、アクリル酸を回収した。ただし、反応装置(段塔付き反応蒸留塔)は、下段(理論段20段の16段目)の温度を120℃に制御し、反応蒸留塔内の還流比を0.3として運転した。尚、このとき反応装置に供給した高沸含有液は、ミカエル付加物を42質量%含み、マレイン酸および無水マレイン酸の合計量に対してマレイン酸を72%含むものであった。また、反応蒸留塔の留出液には、マレイン酸及び無水マレイン酸が合計で6質量%、反応蒸留塔下段の滞留液には、マレイン酸及び無水マレイン酸が合計で65質量%含まれていた。反応装置の運転条件等を表1に示す。
反応装置2の運転を継続していたが、反応装置2内の圧力が上昇したため、1週間で運転を停止した。このときのミカエル付加物の転化率は75%であり、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は62%であった。結果を表1に示す。
実験例1‐1、実験例3‐1〜実験例3‐3の結果より、分解工程の反応蒸留塔の中段の温度を制御し、還流比を調整することにより、反応蒸留塔留出液に含まれるマレイン酸および無水マレイン酸量を効果的に低減できることが分かる。また、これは、分解工程へ供給する高沸成分含有液中のマレイン酸量を特定量以下に低減することにも寄与するため、分解工程において上述のような条件を採用することで、アクリル酸をより効率良く回収できることが分かる。
[実験例4‐1]
反応蒸留塔の操作圧を46hPa(35torr)、分解温度(塔底温度)を140℃とし、還流比1.2としたこと以外は、実験例1‐1と同様にしてアクリル酸を回収した。蒸留塔1および反応装置2(反応蒸留塔)の運転条件を表2に示す。
なお、このとき反応蒸留塔2に供給した高沸含有液は、マレイン酸と無水マレイン酸の合計量に対してマレイン酸を74%含むものであった(ミカエル付加物42質量%)。また、反応蒸留塔2の運転中に留出液の組成を分析したところ、留出液にはマレイン酸及び無水マレイン酸が10質量%含まれていた。
反応装置2の運転を継続していたが、装置内の圧力が上昇したため、1週間で運転を停止した。塔内、熱交換器などの付帯設備に徐々に汚れが認められた。このときのミカエル付加物の転化率は68%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は64%であった。結果を表2に示す。
[実験例4‐2]
反応蒸留塔の操作圧を467hPa(350torr)、分解温度(塔底温度)を210℃に制御し、還流比1.2で運転したこと以外は、実験例4‐1と同様にして、アクリル酸を回収した。蒸留塔1および反応装置2(反応蒸留塔)の運転条件を表2に示す。
なお、このとき反応蒸留塔2に供給した高沸含有液は、マレイン酸と無水マレイン酸の合計量に対してマレイン酸を50%含むものであった(ミカエル付加物42質量%)。また、反応蒸留塔2の運転中に留出液の組成を分析したところ、留出液にはマレイン酸及び無水マレイン酸が合計で8質量%含まれていた。
ミカエル付加物の分解操作を2週間継続したが、反応蒸留塔やその付帯設備には目立った汚れは確認されなかった。また、塔内の圧力上昇も発生せず、廃油粘度も低く安定に稼動した。このときのミカエル付加物の転化率は80%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は61%であった。結果を表2に示す。
実験例1−1、実験例4−1,4−2の結果から、反応蒸留塔の操作圧、反応温度を適切な条件に変更することで、分解工程へ供給する高沸成分含有液中のマレイン酸量を特定量以下に低減し、反応蒸留塔留出液に含まれるマレイン酸及び無水マレイン酸量を効果的に低減でき、且つ、塔内におけるマレイン酸の析出を防止しつつ、アクリル酸をより効率よく回収できることが分かる。
[実験例5]
分解工程の反応装置2として単蒸留器(蒸留缶と凝縮器を組み合わせた装置)を使用したこと以外は実験例1−1と同様にして、蒸留工程、分解工程を行った。各工程への供給液の組成および運転条件を表2に示す。
このとき反応装置2からの留出液の組成を分析したところ、留出液にはマレイン酸および無水マレイン酸が合計で18質量%含まれていた。
ミカエル付加物の分解操作を1週間継続したところ、反応装置および熱交換器などの付帯設備に汚れが確認された。また、反応装置内の溶液粘度も非常に高かった。なお、このときのミカエル付加物の転化率は83%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は71%であった。結果を表2に示す。
[実験例6]
図2に示す工程に従って、アクリル酸を回収した。なお、実験例6では、蒸留塔1(高沸分離塔)として、段数50段の無堰多孔板蒸留塔、分解工程の反応装置2として、段塔付き反応蒸留塔(段数20段、無堰多孔板蒸留塔)を使用し、反応装置2の熱源として、分解槽V−1を備えた薄膜蒸発型熱交換器E−4を使用した。
実験例1‐1と同様の方法で、アクリル酸含有溶液を得、これを蒸留塔1に導入した。蒸留塔1の操作圧46.7hPa(35mmHg)、塔底温度98℃に制御し、還流比0.9とし、塔底液の滞留時間5時間として運転し、塔底からミカエル付加物を含む高沸含有液を得た。また、塔頂からは粗製アクリル酸を得た。
次いで、得られた高沸含有液を段塔付きの反応装置2(分解工程)に10kg/hrで導入し、薄膜蒸発器E−4でアクリル酸やその他の低沸点成分を蒸発させて反応装置2に循環させ、一方、薄膜蒸発器E−4の塔底液は分解槽V−1に導入した。分解槽V‐1は、150℃(分解温度)、常圧で、滞留時間を30時間として運転した。分解槽V‐1で加熱分解された分解液をポンプで薄膜蒸発器E−4に循環させて、ミカエル付加物の分解反応および生成したアクリル酸の回収を行った。
ミカエル付加物の分解操作を3週間継続したところ、連続運転可能なレベルであったが、反応装置2内で溶液粘度上昇や、反応装置2、熱交換器などの付帯設備に若干の汚れが確認された。なお、このときのミカエル付加物の転化率は70%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は60%であった。このときの分解条件および結果を表2に示す。
[実験例7]
ミカエル付加物の分解触媒として、4H‐TEMPO(4‐ヒドロキシ‐2,2,6,6‐テトラメチルピペリジノオキシル)を含む水溶液(50質量%水溶液)を、蒸留塔1の塔頂より0.06kg/hrで導入したこと以外は実験例1‐1と同様にしてアクリル酸の回収を行った。
ミカエル付加物の分解操作を2週間継続したが、蒸留塔2およびその他の付帯設備に汚れは見られず、塔内の圧力上昇も生じなかった。また、廃油粘度も低く、反応蒸留塔は安定に稼動していた。特に他の実験例に比べて系内での重合生成物の付着も少なく、廃油粘度も低いものであった。このときのミカエル付加物の転化率は88%、分解工程に供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は86%であった。このときの分解条件および結果を表2に示す。
[実験例8]
分解温度(塔底温度)を170℃、強制循環型熱交換器の熱源の温度220℃とし、分解温度と強制循環型熱交換器の熱源との温度差(ΔT)100℃の条件で反応蒸留塔(反応装置2)を運転したこと以外は、実験例1−1と同様にしてアクリル酸の回収を行った。
分解操作を2週間継続したところ、熱交換器の伝熱面に汚れが確認された。このときのミカエル付加物の添加率は82%、供給したミカエル付加物に対するアクリル酸の収率は78%であった。結果を表2に示す。
尚、表1,2中、「F/B(※1)」は、蒸留工程への供給液流量(kg/hr)/抜き出し液(塔底液)流量(kg/hr)を意味し、「有水マレイン酸の割合(※2)」とは、上記数式により算出されるマレイン酸量の割合、「総マレイン酸量(※3)」とは、有水マレイン酸と無水マレイン酸の合計量、「滞留時間(※4)」は、[保持液質量(kg)/反応装置から排出される抜き出し液流量(kg/hr)]により算出される値、「下段(※5)」とは、理論段20段の棚段付き反応蒸留塔の16段目(塔頂側を起点とする総理論段の80%の位置)をそれぞれ意味する。
本発明の製造方法によれば、ミカエル付加物の分解工程において、マレイン酸の析出や、これに由来する分解装置内の圧力上昇などのトラブルが起こり難いため、ミカエル付加物の分解を効率よく進められ、アクリル酸を安定に効率よく製造することができる。
本発明に係るアクリル酸製造の工程の一例を示す工程図である。
本発明に係るアクリル酸製造の工程の他の例を示す工程図である。
符号の説明
1 蒸留塔(高沸点分離塔)
2 反応装置
E−1 凝縮器
E−2 リボイラー
E−3 強制循環型熱交換器
E−3 薄膜蒸発器
L−1〜L−6、L−5’,L−5’’ ライン(配管)
V−1 分解槽
Z−1〜Z−6 ストレーナー