以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
<全体構成>
図1はこの発明による電流制限回路の一実施形態である過電流保護回路を備えたD級増幅器の構成を示す回路図である。このD級増幅器を構成する各回路は、電界効果トランジスタ(以下、単にトランジスタという)等により構成されており、これら各回路には図示しない電源から電源電圧VDDが与えられる。
出力バッファ回路10は、D級増幅器の最終出力段をなしており、PチャネルトランジスタPPと、NチャネルトランジスタNPと、PチャネルトランジスタPMと、NチャネルトランジスタNMとにより構成されている。ここで、PチャネルトランジスタPPおよびPMの各ソースは電源線に、NチャネルトランジスタNPおよびNMの各ソースは接地線に接続されている。そして、PチャネルトランジスタPPおよびNチャネルトランジスタNPのドレイン同士が接続され、この接続点が負荷Lの一端に接続されており、同様に、PチャネルトランジスタPMおよびNチャネルトランジスタNMのドレイン同士が接続され、この接続点が負荷Lの他端に接続されている。
この負荷Lは、例えばスピーカである。このD級増幅器の稼動時、この負荷Lの一端に天絡または地絡が発生し、あるいは負荷Lの両端が短絡される事故が発生し、出力バッファ回路10を構成するトランジスタPP、NP、PMまたはNMのいずれかに許容範囲を越える電流値の過電流が流れる場合がある。本実施形態の特徴は、そのような過電流からトランジスタPP、NP、PMおよびNMを保護する過電流保護回路にある。なお、この過電流保護回路の詳細については後述する。
PWM(Pulse Width Modulation)変調部20は、外部から与えられる入力信号INのレベルに応じてパルス幅変調された4相のパルスPWMPP、PWMPM、PWMNPおよびPWMNMを出力する。トランジスタPP、NP、PMおよびNMのいずれにも過電流が流れておらず、D級増幅器が正常に動作している状況では、PWM変調部20から出力されるパルスPWMPP、PWMPM、PWMNPおよびPWMNMは、ANDゲート31、ANDゲート32、ORゲート33およびORゲート34を各々通過する。そして、ANDゲート31、ANDゲート32、ORゲート33およびORゲート34の出力信号CPP、CPM、CNPおよびCNM(この場合、パルスPWMPP、PWMPM、PWMNPおよびPWMNM)はプリドライバ51、52、53および54に各々与えられる。
ここで、プリドライバ51〜54は、各々出力バッファ回路10のトランジスタPP、PM、NPおよびNMを駆動するインバータ構成のドライバであり、プリドライバ51は、Pチャネルトランジスタ51PおよびNチャネルトランジスタ51Nにより、プリドライバ52は、Pチャネルトランジスタ52PおよびNチャネルトランジスタ52Nにより、プリドライバ53は、Pチャネルトランジスタ53PおよびNチャネルトランジスタ53Nにより、プリドライバ54は、Pチャネルトランジスタ54PおよびNチャネルトランジスタ54Nにより各々構成されている。これらのプリドライバ51、52、53および54は、信号CPP、CPM、CNPおよびCNMに基づいて、駆動のための制御信号GPP、GPM、GNPおよびGNMを各々発生し、トランジスタPP、PM、NPおよびNMの各ゲートに出力する。
図2は、正常な状態においてトランジスタPP、PM、NPおよびNMの各ゲートに与えられる制御信号GPP、GPM、GNPおよびGNMの波形を示すものである。図2において、期間TAでは、制御信号GPP、GPM、GNPおよびGNMが各々Lレベル、Hレベル、LレベルおよびHレベルとされ、トランジスタPPおよびNMの組がON状態、トランジスタPMおよびNPの組がOFF状態とされる。従って、期間TAでは、トランジスタPP、負荷LおよびトランジスタNMという経路を介して電源からの電流が流れる。また、期間TBでは、制御信号GPP、GPM、GNPおよびGNMが各々Hレベル、Lレベル、HレベルおよびLレベルとされ、トランジスタPMおよびNPの組がON状態、トランジスタPPおよびNMの組がOFF状態とされる。従って、期間TBでは、トランジスタPM、負荷LおよびトランジスタNPという経路を介して電源からの電流が流れる。
期間TAとその後の期間TBとの間および期間TBとその後の期間TAとの間にはデッドタイムTDが介在している。このデッドタイムTDにおいては、トランジスタPP、NP、PMおよびNMの全てがOFF状態とされる。正常動作時においては、図示のように期間TAおよびTBがデッドタイムTDを間に挟んで交互に繰り返され、出力バッファ回路10による負荷Lのプッシュプル駆動が行われる。なお、期間TAおよびTBの間にデッドタイムTDを設けるのは、貫通電流の発生を防止するためである。
次に、本実施形態による過電流保護回路について説明する。本実施形態による過電流保護回路は、図1に示す電流遮断部30と、電流制限部60PP、60PM、60NPおよび60NMとを有している。
ここで、電流遮断部30は、出力バッファ回路10におけるトランジスタPP、PM、NPおよびNMに流れる電流を監視し、監視結果に基づいて、トランジスタPP、PM、NPおよびNMを強制的にOFF状態とするか否かの制御を行う回路である。
さらに詳述すると、トランジスタPP、PM、NPおよびNMのいずれにも基準値th1を越える過電流が流れていないと認められる場合、電流遮断部30は、非アクティブレベル(Hレベル)のエラー信号Err1をANDゲート31および32に、非アクティブレベル(Lレベル)のエラー信号Err2をORゲート33および34に与える。この結果、PWM変調部20から出力されるパルスPWMPP、PWMPM、PWMNPおよびPWMNMは、ANDゲート31および32、ORゲート33および34を各々通過した後、プリドライバ51、52、53および54により各々レベル反転され、制御信号GPP、GPM、GNP、GNMとしてトランジスタPP、PM、NPおよびNMの各ゲートに与えられる。
一方、出力バッファ回路10におけるトランジスタPP、PM、NPまたはNMのいずれかに基準値th1を越える過電流が所定時間以上継続して流れたことを検出した場合、電流遮断部30は、アクティブレベル(Lレベル)のエラー信号Err1をANDゲート31および32に、アクティブレベル(Hレベル)のエラー信号Err2をORゲート33および34に与える。これにより出力バッファ回路10のPチャネルトランジスタPPおよびPMに対する制御信号GPPおよびGPMは強制的にHレベルとされ、NチャネルトランジスタNPおよびNMに対する制御信号GNPおよびGNMは強制的にLレベルとされる。この結果、出力バッファ回路10のトランジスタPP、PM、NPおよびNMは、全てOFF状態とされ、過電流から保護される。
電流制限部60PP、60PM、60NPおよび60NMは、トランジスタPP、PM、NPまたはNMのいずれかに流れるドレイン電流の大きさが所定の許容値ULを越えたとき、そのドレイン電流を所定の電流制限目標値LMTに制限するための制御を行う回路である。好ましい態様において、この電流制限部60PP、60PM、60NPおよび60NMに用いられる許容値ULは、上述した電流遮断部30に用いられる基準値th1よりもやや大きな値とされる。
電流制限部60PPは、トランジスタPPに流れるドレイン電流を検出する電流検出部61PPと、電流検出部61PPにより検出されるドレイン電流の大きさが許容値ULを越えたときに、トランジスタPPのドレイン電流が許容値ULと同じ大きさまたはそれより小さな値の電流制限目標値LMTに制限されるようにトランジスタPPのゲートに与えられる制御信号GPPを制御する電流制御部62PPとにより構成されている。他の電流制限部60PM、60NPおよび60NMも同様であり、電流制限部60PMは、電流検出部61PMと電流制御部62PMにより、電流制限部60NPは、電流検出部61NPと電流制御部62NPにより、電流制限部60NMは、電流検出部61NMと電流制御部62NMにより各々構成されている。
本実施形態による過電流保護回路の特徴は、電流遮断部30と、電流制限部60PP、60PM、60NPおよび60NMとを併用した点にある。
既に述べたように、従来のD級増幅器では、本実施形態における電流遮断部30に相当するもののみにより出力バッファ回路10の各トランジスタPP、PM、NPおよびNMを過電流から保護していた。ここで、電流遮断部30においてトランジスタPP、PM、NPまたはNMをOFF状態にするための条件が緩やかなものであると、D級増幅器の通常の動作の際、トランジスタPP、PM、NPまたはNMに一時的な過大なスイッチング電流が流れた場合にも電流遮断部30がこれに反応し、トランジスタPP、PM、NPまたはNMを破壊に至らしめる可能性のあるエネルギーの大きな過電流が流れていないにも拘わらず、電流遮断部30によってトランジスタPP、PM、NPおよびNMがOFF状態とされるおそれがある。従来技術の下では、このような不安定な動作を招かないようにするために、本実施形態における電流遮断部30のように、トランジスタPP、PM、NPまたはNMのいずれかに所定時間以上に亙って基準値th1を越える過電流が流れたときにトランジスタPP、PM、NPまたはNMをOFF状態にする、という方法で対処していた。
しかし、このような対処法では、トランジスタPP、PM、NPまたはNMのいずれかに過電流が流れてからトランジスタPP、PM、NPおよびNMがOFF状態とされるまでの間、そのトランジスタに過電流を流してしまうため、そのトランジスタに過電流の通電によるダメージが与えられるという不都合が生じる。
また、電流遮断部30のみにより過電流保護を行うと、過電流が検知され始めてからトランジスタPP、PM、NPおよびNMをOFF状態とするまでの間に時間遅れが生じるため、トランジスタPP、PM、NPおよびNMに流れる過電流の電流値が大きな値になったときに、トランジスタPP、PM、NPおよびNMがOFF状態とされる。このため、負荷Lの両端に過大な電圧が誘発され、この電圧が印加されることによりトランジスタPP、PM、NPまたはNMにダメージが与えられるという不都合が生じる。
本実施形態による過電流保護回路には、電流遮断部30に加えて、電流制限部60PP、60PM、60NPおよび60NMが設けられているため、以上のような不都合が是正される。以下、具体例を挙げ、本実施形態において行われる過電流保護の動作を説明する。
図3は、図1におけるトランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡があり、トランジスタNPに過電流が流れた場合における過電流保護の動作例を示すタイムチャートである。
図3に示すように、パルスPWMNPがLレベルとなると、トランジスタNPのゲートに対する制御信号GNPがHレベルとなり、トランジスタNPがON状態となる。このとき、天絡により、トランジスタNPのドレイン電流INPが増加を始める。そして、ドレイン電流INPが基準値th1を越え、さらに基準値th1よりも高い許容値ULを越えたことが電流検出部61NPにより検出されると、電流制御部62NPは、ドレイン電流INPが許容値ULと同じ大きさまたはそれより低い電流制限目標値LMTに制限されるようにトランジスタNPのゲートに対する制御信号GNPを制御する。このため、以後、トランジスタNPのドレイン電流INPは電流制限目標値LMTを維持する。
なお、図3には、ドレイン電流INPが許容値ULを越えたとき、トランジスタNPのゲートに対する制御信号GNPのレベルを低下させ、ドレイン電流INPが許容値ULよりも小さく、かつ、基準値th1よりも高い電流制限目標値LMTに制限される例が示されている。
そして、トランジスタNPのドレイン電流INPが基準値th1を越えてからの経過時間が所定時間Tに達すると、電流遮断部30により制御信号GNPが強制的にLレベルとされ、トランジスタNPがOFF状態とされる。
以上のように、本実施形態によれば、トランジスタNPの過電流が許容値ULを越えると、電流制限部60NPによりトランジスタNPのドレイン電流INPを電流制限目標値LMTに制限する制御が直ちに行われる。従って、過電流の検出に応じてトランジスタPP、PM、NPおよびNMをOFF状態に切り換える電流遮断部30の動作が遅れる場合でも、トランジスタNPに流れる過電流を低く制限し、トランジスタNPに与えられるダメージを少なくすることができる。また、仮に電流制限部60NPによる電流制限が行われないとすると、トランジスタNPに流れるドレイン電流INPは図3に破線で例示するように増加し、トランジスタNPがOFF状態に切り換えられるときには、ドレイン電流INPの電流値は非常に大きな値(図示の例ではINPmax)となる。このため、トランジスタNPがOFF状態となるときに負荷Lの両端に過大な電圧が誘発され、この電圧により出力バッファ回路10におけるいずれかのトランジスタに大きなダメージが与えられる可能性がある。しかし、本実施形態では、トランジスタNPのドレイン電流INPは電流制限部60NPにより電流制限目標値LMTに制限される。このため、電流遮断部30の働きにより、トランジスタNPがOFF状態とされるとき、負荷Lの両端に誘発される電圧を低くし、出力バッファ回路10の各トランジスタに与えられるダメージを少なくすることができる。
以上、トランジスタNPに過電流が流れた場合の過電流保護の動作を説明したが、他のトランジスタNM、PPおよびPMに過電流が流れる場合も、上記と同様な過電流保護の動作が行われる。
次に電流遮断部30、電流制限部60PP、60PM、60NPおよび60NMの具体例を順に説明する。
<電流遮断部の具体例>
図4は電流遮断部30の構成例を示す回路図である。この電流遮断部30には、基準レベルREFPおよびREFNが与えられるとともに、出力バッファ回路10におけるトランジスタPPおよびNPの各ドレインの接続点の信号OUTPと、トランジスタPMおよびNMの各ドレインの接続点の信号OUTMと、PWM変調器20から出力されるパルスPWMPP、PWMPM、PWMNPおよびPWMNMとが与えられる。
電流遮断部30は、図示のように、コンパレータ301〜304、インバータ311〜314、ローアクティブANDゲート321および322、ANDゲート323および324、タイマ331〜334、ORゲート341、セットリセットフリップフロップ342を接続してなるものである。ここで、コンパレータ301および302に与えられる基準レベルREFPは、トランジスタPPまたはPMに上記基準値th1に相当するドレイン電流が流れた場合における同トランジスタのドレイン電圧に合わせて設定されている。また、コンパレータ303および304に与えられる基準レベルREFNは、トランジスタNPまたはNMに上記基準値th1に相当するドレイン電流が流れた場合の同トランジスタのドレイン電圧に合わせて設定されている。
この構成において、ローアクティブANDゲート321は、パルスPWMPPがHレベルであり、かつ、コンパレータ301の出力信号がLレベルである(信号OUTPのレベルが基準レベルREFPより低い)場合に、トランジスタPPに基準値th1を越える過電流が流れていることを示す過電流検出信号IN−PCHPをアクティブレベル(Hレベル)とする。また、ローアクティブANDゲート322は、パルスPWMPMがHレベルであり、かつ、コンパレータ302の出力信号がLレベルである(信号OUTMのレベルが基準レベルREFPより低い)場合に、トランジスタPMに基準値th1を越える過電流が流れていることを示す過電流検出信号IN−PCHMをアクティブレベル(Hレベル)とする。また、ANDゲート323は、パルスPWMNPがLレベルであり、かつ、コンパレータ303の出力信号がHレベルである(信号OUTPのレベルが基準レベルREFNより高い)場合に、トランジスタNPに基準値th1を越える過電流が流れていることを示す過電流検出信号IN−NCHPをアクティブレベル(Hレベル)とする。また、ANDゲート324は、パルスPWMNMがLレベルであり、かつ、コンパレータ304の出力信号がHレベルである(信号OUTMのレベルが基準レベルREFNより高い)場合に、トランジスタNMに基準値th1を越える過電流が流れていることを示す過電流検出信号IN−NCHMをアクティブレベル(Hレベル)とする。
タイマ331は、過電流検出信号IN−PCHPが所定時間T以上に亙ってアクティブレベルを継続したときパルスを出力する。同様に、タイマ332は過電流検出信号IN−PCHMが所定時間T以上に亙ってアクティブレベルを継続したとき、タイマ333は過電流検出信号IN−NCHPが所定時間T以上に亙ってアクティブレベルを継続したとき、タイマ334は過電流検出信号IN−NCHMが所定時間T以上に亙ってアクティブレベルを継続したときに、パルスを各々出力する。ORゲート341は、タイマ331〜334のいずれかからパルスが出力されたとき、そのパルスをセットリセットフリップフロップ342のセット端子に与える。そして、セットリセットフリップフロップ342のハイアクティブ出力端子の出力信号は上述したエラー信号Err2としてORゲート33および34に与えられ、ローアクティブ出力端子の出力信号は上述したエラー信号Err1としてANDゲート31および32に与えられる(図1参照)。なお、セットリセットフリップフロップ342は、D級増幅器の電源投入時にリセットされるようになっている。
以上が電流遮断部30の構成例である。
<電流制限部の第1具体例>
図5は本実施形態における電流制限部60NPの第1具体例を示す回路図である。なお、電流制限部60NMもこの図5に示すものと同様な構成である。
本具体例では、プリドライバ53におけるトランジスタ53Pおよび53Nの各ドレイン間には抵抗607が介挿されている。そして、抵抗607とトランジスタ53Nのドレインとの接続点が信号線600を介してトランジスタNPのゲートに接続されており、この信号線600を介してプリドライバ53の出力信号である制御信号GNPがトランジスタNPのゲートに与えられる。Pチャネルトランジスタ608は、ソースおよびドレインが抵抗607の両端に接続されている。
また、信号線600と接地線との間には、Nチャネルトランジスタ601〜603が直列に介挿されている。ここで、トランジスタ601のドレインは信号線600に接続されており、トランジスタ601のゲートはトランジスタPPおよびNPの各ドレインの接続点に接続され、トランジスタ601のソースはトランジスタ602のドレインおよびゲートに接続されている。そして、トランジスタ602のソースには、トランジスタ603のドレインおよびゲートが接続されており、トランジスタ603のソースは接地されている。Nチャネルトランジスタ609は、ゲートが電源に接続され、ドレインがトランジスタ603のゲートおよびドレインに接続され、ソースが接地されている。このトランジスタ609は、トランジスタ601〜603がOFF状態であるときに、トランジスタ603のゲートおよびドレインのレベルを接地レベルに保つために設けられている。
以上説明したトランジスタ601〜603と抵抗607とトランジスタ608および609とにより図1における電流制御部62NPが構成されている。
また、本具体例において、電源線および接地線間には、定電流源605およびNチャネルトランジスタ604が直列に介挿されている。ここで、トランジスタ604には、トランジスタ603と共通のゲート電圧が与えられる。そして、インバータ606は、このトランジスタ604のドレインと定電流源605との接続点のレベルを反転し、電流制限指令信号CURLMTとしてトランジスタ608のゲートに供給する。これらのトランジスタ604、定電流源605およびインバータ606と、上述したトランジスタ601〜603および609とにより、図1における電流検出部61NPが構成されている。
そして、本具体例では、Nチャネルトランジスタ601〜603のゲート閾値がVTである場合に、ゲート電圧2VTおよびドレイン電圧3VTがトランジスタNPに与えられるときにトランジスタNPに流れうるドレイン電流INPが許容値ULとされている。また、ゲート電圧が2VTであるときのトランジスタNPのドレイン電流の飽和電流値が電流制限目標値LMTとなっている。
図6は、本具体例において、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡がなく、正常な動作が行われている場合における各部の波形を示す波形図である。また、図7は、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡があった場合における各部の波形を示す波形図である。以下、これらの図を参照し、本具体例の動作を説明する。
図6および図7に示すように、プリドライバ53に対する入力信号CNPが立ち下がると、制御信号GNPは0VからVDDに向けて立ち上がる。そして、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡がない場合には、図6に示すように、制御信号GNPのレベルが2VTに到達したとき、信号OUTPは3VTよりも低くなる。このため、トランジスタ601〜603はOFF状態を維持し、インバータ606から出力される電流制限指令信号CURLMTは非アクティブレベル(Lレベル)を維持し、制御信号GNPは電源電圧VDDのレベルまで立ち上がる。
これに対し、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡があると、制御信号GNPが上昇するに従ってトランジスタNPに流れるドレイン電流が増加し、信号OUTPのレベルが浮く。そして、制御信号GNPのレベルが2VTに達したとき、許容値ULを越えるドレイン電流INPがトランジスタNPに流れると、図7に示すように、信号OUTPのレベルは3VTより高くなり、トランジスタ601〜603がON状態となり、インバータ606から出力される電流制限指令信号CURLMTがアクティブレベル(Hレベル)となる。この結果、トランジスタ608がOFF状態となり、トランジスタ53P、抵抗607、トランジスタ601〜603という経路を電流が流れ、抵抗607による電圧降下が生じるため、制御信号GNPのレベルは2VTとなる。この結果、トランジスタNPに流れるドレイン電流INPは電流制限目標値LMTに制限される。
図8は本実施形態における電流制限部60PPの第1具体例を示す回路図である。なお、電流制限部60PMもこの図8に示すものと同様な構成である。
図8に示す電流制限部60PPにおいて、Pチャネルトランジスタ621〜624、定電流源625、インバータ626、抵抗627、Nチャネルトランジスタ628およびPチャネルトランジスタ629は、前掲図5の電流制限部60NPにおけるNチャネルトランジスタ601〜604、定電流源605、インバータ606、抵抗607、Pチャネルトランジスタ608およびNチャネルトランジスタ609に各々相当する役割を果たすものである。
この電流制限部60PPでは、Pチャネルトランジスタ621〜623のゲート閾値がVTである場合に、ゲート電圧2VTおよびドレイン電圧3VTがトランジスタPPに与えられた場合にトランジスタPPに流れうるドレイン電流が許容値ULとなっている。また、ゲート電圧2VTがトランジスタPPに与えられた場合におけるトランジスタPPのドレイン電流の飽和電流値が電流制限目標値LMTとなっている。そして、電流制限部60PPにおいても、前掲図5の電流制限部60NPと同様、許容値ULを越えるドレイン電流がトランジスタPPに流れたときに、トランジスタPPに与えられるゲート電圧が2VTとなるように制御信号GPPのレベルが固定され、トランジスタPPのドレイン電流が電流制限目標値LMTに制限される。
<電流制限部の第2具体例>
図9は本実施形態における電流制限部60NPの第2具体例を示す回路図である。なお、電流制限部60NMもこの図9に示すものと同様な構成である。
まず、電流制限部60NPを構成する回路のうち電流制御部62NPについて説明する。プリドライバ53におけるトランジスタ53Pおよび53Nの各ドレイン間には抵抗711が介挿されている。この抵抗711の両端には、Pチャネルトランジスタ712のソースおよびドレインが各々接続されている。そして、抵抗711とトランジスタ53Nのドレインとの接続点は信号線700を介してトランジスタNPのゲートに接続されており、この信号線700を介してプリドライバ53の出力信号である制御信号GNPがトランジスタNPのゲートに与えられる。また、信号線700と接地線との間には、Nチャネルトランジスタ713および714が直列に介挿されている。ここで、トランジスタ713は、ドレインおよびゲートが信号線700に接続されている。トランジスタ713のソースは、トランジスタ714のドレインに接続されており、トランジスタ714のソースは接地されている。トランジスタ712および714の各ゲートには、電流検出部61NPから出力される電流制限指令信号CURLMTが与えられる。
抵抗711の抵抗値は、次のようにして決定される。
a.トランジスタNPの飽和電流値が電流制限目標値LMTとなるときのゲート電圧値を電流制限用ゲート電圧値と定める。
b.プリドライバ53に対する入力信号CNPがLレベル、電流制限指令信号CURLMTがHレベル(アクティブレベル)であり、トランジスタ53P、抵抗711、トランジスタ713、トランジスタ714という経路を電流が流れる場合に制御信号GNPのレベルが上記電流制限用ゲート電圧値となるように抵抗711の抵抗値を決定する。
次に電流検出部61NPについて説明する。この電流検出部61NPは、トランジスタNPのドレイン電流INPを許容値ULと比較し、ドレイン電流INPが許容値ULよりも大きくなったとき、過電流検出信号OVERCURNをLレベル(アクティブレベル)として、電流制限指令信号CURLMTをHレベル(アクティブレベル)とする回路である。この電流検出部61NPの詳細な構成は次の通りである。
Nチャネルトランジスタ701は、トランジスタNPの1/Nのチャネル幅を有しており、ソースが接地され、ゲートが信号線700に接続されている。このトランジスタ701のドレインと電源線との間には電流値I1の定電流源702が介挿されている。また、トランジスタ701のドレインと電源線との間には、電流値I2の定電流源703とPチャネルトランジスタ704が介挿されている。これらの定電流源702および703とトランジスタ704は、トランジスタ701に定電流を供給する定電流発生回路としての役割を果たす。
トランジスタ701は、トランジスタNPと共通のゲート電圧(=GNP)が与えられるため、トランジスタ701およびNPの各ドレイン電圧が同じであれば、トランジスタNPに流れるドレイン電流INPは、トランジスタ701に流れるドレイン電流のN倍になるはずである。そこで、本具体例では、トランジスタ701をトランジスタNPとの比較用スイッチング素子とし、この比較用スイッチング素子たるトランジスタ701のドレインに発生する比較用信号OUTPrefとトランジスタNPのドレインに発生する信号OUTPをコンパレータ705により比較し、トランジスタNPに流れているドレイン電流INPがトランジスタ701に流れるドレイン電流のN倍より大きいか否かを判定するようにしている。
このコンパレータ705は、定電流源731および732とNチャネルトランジスタ733および734により構成されている。定電流源732とトランジスタ734のドレインとの接続点は、コンパレータ705の出力端子となっており、この出力端子にはインバータ706の入力端子が接続されている。そして、コンパレータ705による信号OUTPおよびOUTPrefのレベル比較の結果、OUTP<OUTPrefの場合、インバータ706は、トランジスタNPのドレイン電流INPがトランジスタ701のドレイン電流のN倍よりも小さいことを示すHレベル(非アクティブレベル)の過電流検出信号OVERCURNを出力し、OUTP>OUTPrefの場合、トランジスタNPのドレイン電流INPがトランジスタ701のドレイン電流のN倍よりも大きいことを示すLレベル(アクティブレベル)の過電流検出信号OVERCURNを出力する。
ローアクティブANDゲート707には、比較用信号OUTPrefおよび過電流検出信号OVERCURNが入力される。そして、ローアクティブANDゲート707の出力信号は、電流制限指令信号CURLMTとしてトランジスタ712および714の各ゲートに与えられるとともに、トランジスタ704のゲートに与えられる。
上述したトランジスタ704は、トランジスタ701に供給する定電流をI1+I2とするか、I1とするかを切り換えるためのスイッチング手段として用いられる。ここで、定電流源702および703の電流値I1およびI2は次式を満たすような値とされる。
N・(I1+I2)>LMT ……(1)
N・I1<LMT ……(2)
電流制限指令信号CURLMTが非アクティブレベル(Lレベル)となっている初期状態では、トランジスタ704がON状態になるため、トランジスタ704に供給される定電流の電流値はI1+I2とされる。このため、許容値ULはN・(I1+I2)となり、この許容値ULを越えるドレイン電流INPがトランジスタNPに流れると、電流検出部61NPでは、インバータ706からアクティブレベル(Lレベル)の過電流検出信号OVERCURNが出力され、ローアクティブANDゲート707からアクティブレベル(Hレベル)の電流制限指令信号CURLMTが出力される。
そして、電流制限指令信号CURLMTがアクティブレベル(Hレベル)になると、トランジスタ704がOFF状態になるため、トランジスタ704に供給される定電流の電流値はI1となり、許容値ULは電流制限目標値LMTよりも低い値N・I1とされる。これは、電流検出部61NPにおいて、ドレイン電流INPの変化に対する過電流検出信号OVERCURNおよび電流制限指令信号CURLMTの応答特性にヒステリシス特性を持たせ、過電流検出信号OVERCURNおよび電流制限指令信号CURLMTを振動させず、安定した動作を得るためである。
図10は、本具体例において、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡がなく、正常な動作が行われている場合における各部の波形を示す波形図である。また、図11は、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡があった場合における各部の波形を示す波形図である。以下、これらの図を参照し、本具体例の動作を説明する。
プリドライバ53に対する入力信号CNPがHレベルである期間は、トランジスタ53PがOFF状態、トランジスタ53NがON状態となるため、制御信号GNPはLレベル(=0V)となり、トランジスタNPはOFF状態、信号OUTPはHレベル(=VDD)となる。そして、制御信号GNPのレベルが0Vであることから、トランジスタ701はOFF状態となり、トランジスタ701のドレインに現れる比較用信号OUTPrefのレベルはVDDとなる。このため、ローアクティブANDゲート707から出力される電流制限指令信号CURLMTはLレベル(非アクティブレベル)となり、トランジスタ712がON状態、トランジスタ714がOFF状態となる。また、信号OUTPがHレベル(=VDD)であることからコンパレータ705の出力信号はHレベルとなり、インバータ706から出力される過電流検知信号OVERCURNはLレベルとなる。
次に、図10および図11に示すように、プリドライバ53に対する入力信号CNPが立ち下がると、トランジスタ53PがON状態、トランジスタ53NがOFF状態となり、信号線700に現れる制御信号GNPのレベルが上昇し始める。そして、制御信号GNPのレベルがNチャネルトランジスタのゲート閾値VTを越えると、トランジスタNPおよび701に電流が流れ始める。
制御信号GNPのレベルがさらに上昇し、トランジスタ701の飽和電流が定電流源702および703の電流値の和I1+I2を越えると、トランジスタ701の動作点が飽和領域から非飽和領域に移動し、比較用信号OUTPrefはローアクティブANDゲート707の論理閾値(Lレベルと判定される入力レベルの範囲とHレベルと判定される入力レベルの範囲の境界値であり、VDD/2程度のレベル)を下回る。
ここで、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡がない場合には、トランジスタNPのドレイン電流INPが許容値UL=N(I1+I2)よりも小さくなり、図10に示すように、信号OUTPのレベルは比較用信号OUTPrefよりも低くなるため、過電流検知信号OVERCURNはHレベル(非アクティブレベル)となる。この場合、電流制限指令信号CURLMTはLレベル(非アクティブレベル)を維持し、制御信号GNPは電源電圧VDDのレベルまで上昇する。
一方、トランジスタPPおよびNPのドレイン同士の接続点に天絡があり、トランジスタNPのドレイン電流INPが許容値UL=N(I1+I2)よりも大きくなると、図11に示すように、信号OUTPのレベルは比較用信号OUTPrefよりも高くなるため、過電流検知信号OVERCURNはLレベル(アクティブレベル)となり、電流制限指令信号CURLMTがHレベル(アクティブレベル)となる。この結果、トランジスタ712がOFF状態、トランジスタ714がON状態となり、制御信号GNPのレベルは電流制限用ゲート電圧値まで低下し、トランジスタNPのドレイン電流INPが電流制限目標値LMTに制限される。
また、電流制限指令信号CURLMTがHレベルになると、トランジスタ704がOFF状態となり、電流制限指令信号CURLMTをHレベルからLレベルに変化させる閾値である許容値ULがN・(I1+I2)からN・I1に低下する。従って、電流制限指令信号CURLMTがHレベル(アクティブレベル)となることによって制御信号GNPのレベルが低下し、ドレイン電流INPがN・(I1+I2)より低い電流制限目標値LMTに低下したとしても、このときのドレイン電流INP(=LMT)は許容値UL(=N・I1)よりも高いので、電流制限指令信号CURLMTはHレベル(アクティブレベル)を維持する。
本具体例は、上記第1具体例に比べて次の利点を有する。
a.上記第1具体例では、許容値ULがトランジスタのVTに依存するため、D級増幅器の製造状態によりばらつくが、本具体例において許容値ULは、トランジスタ701に流す定電流の値により定まるので、製造ばらつきの影響が少ない。
b.本具体例では、ドレイン電流INPの変化に対する過電流検出信号OVERCURNおよび電流制限指令信号CURLMTの応答特性にヒステリシス特性を持たせているので、過電流検出信号OVERCURNおよび電流制限指令信号CURLMTが振動せず、安定した動作が得られる。
図12は本実施形態における電流制限部60PPの第2具体例を示す回路図である。なお、電流制限部60PMもこの図12に示すものと同様な構成である。
図12に示す電流制限部60PPにおいて、Pチャネルトランジスタ741、定電流源742および743、Nチャネルトランジスタ744、コンパレータ745、インバータ746、NANDゲート747、抵抗751、Nチャネルトランジスタ752、Pチャネルトランジスタ753および754は、前掲図9の電流制限部60NPにおけるNチャネルトランジスタ701、定電流源702および703、Pチャネルトランジスタ704、コンパレータ705、インバータ706、ローアクティブANDゲート707、抵抗711、Pチャネルトランジスタ712、Nチャネルトランジスタ713および714に各々相当する役割を果たすものである。
電流制限部60PPの動作は、基本的に前掲図9の電流制限部60NPのものと同様である。すなわち、電流検出部61PPにより、トランジスタPPのドレイン電流IPPが許容値UL=N・(I1+I2)と比較される。そして、ドレイン電流IPPが許容値ULよりも大きくなったとき、インバータ746から出力される過電流検出信号OVERCURNがHレベル(アクティブレベル)とされ、NANDゲート747から出力される電流制限指令信号CURLMTがLレベル(アクティブレベル)とされる。この結果、電流制御部62PPにより、トランジスタPPのドレイン電流IPPが電流制限目標値LMTに制限される。
<他の実施形態>
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明にはこれ以外にも他の実施形態があり得る。例えば次の通りである。
(1)上記実施形態では、2個のPチャネルトランジスタおよび2個のNチャネルトランジスタからなるブリッジ形の出力バッファ回路を有するD級増幅器に本発明を適用したが、本発明は、各1個のPチャネルトランジスタおよびNチャネルトランジスタからなるインバータ構成の出力バッファ回路を有するD級増幅器に適用してもよい。
(2)上記実施形態では、出力バッファ回路を構成する全てのトランジスタに対応させて電流制限部を設けたが、各トランジスタに流れうる過電流の大きさに差がある等の場合には、保護が必要な一部のトランジスタのみに電流制限部を設けてもよい。
(3)上記実施形態では、電流制限部の他に、電流遮断部を過電流保護回路に設けたが、電流制限部のみにより出力バッファ回路のトランジスタを過電流から保護することが可能である場合には電流遮断部を省略してもよい。
(4)電流遮断部を設ける代わりに、出力バッファ回路のトランジスタについて電流制限部によるドレイン電流の制限が行われた場合にその旨を知らせる警告信号をD級増幅器の外部に出力するように構成してもよい。この場合、例えば警告信号を受け取った外部の装置がD級増幅器に対する電源の供給を遮断するといった対処を行ってもよい。
(5)上記各実施形態では、出力バッファ回路の各スイッチング素子を電界効果トランジスタにより構成したが、各スイッチング素子をバイポーラトランジスタにより構成してもよい。
(6)上記各実施形態では、本発明による電流制限回路をD級増幅器の過電流保護回路として用いたが、本発明による電流制限回路は、例えばスイッチングレギュレータなど、比較的大きな電流を取り扱うスイッチング素子を有する回路において、スイッチング素子を過電流から保護するための回路として用いてもよい。
(7)上記各実施形態では、本発明による電流制限回路を過電流保護回路として用いたが、本発明による電流制限回路は、このような過電流からの保護に限らず、過電流の流れない正常動作時において、スイッチング素子に流れる電流を電流制限目標値以内に制限するのに用いてもよい。
10……出力バッファ回路、PP,PM……Pチャネルトランジスタ、NP,NM……Nチャネルトランジスタ、L……負荷、20……PWM変調部、30……電流遮断部、60PP,60PM,60NP,60NM……電流制限部、61PP,61PM,61NP,61NM……電流検出部、62PP,62PM,62NP,62NM……電流制御部。