以下、本発明の実施の形態について、さらに詳細に説明する。
本発明の無機粒子は、D50粒径が分級処理などにより10μm以下に制御されているため、ポリカーボネート系樹脂とこの無機粒子との相乗作用により、成形性の低下を抑制しつつ優れた難燃性を安定的に実現することが初めて可能になったものである。さらにこのD50粒径は、1μm以上であることが好ましい。
上記無機粒子のD50粒径が1μm以上であると、無機粒子をマスターバッチ化などすることなく樹脂組成物を製造しても、樹脂組成物中における無機粒子の分散性が向上するので、難燃性を安定的に向上することができる。また、無機粒子の取扱安定性が向上するため、難燃性樹脂組成物の製造工程における作業性または成形性が良好になる。
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、無機粒子内の成分の溶出を抑制する溶出抑制剤をさらに含んでもよい。この構成によれば、高度な難燃性を維持しつつ無機粒子内の成分の溶出を抑制できる。このため、環境への負荷および人体への影響を低減することができる。
上記溶出抑制剤は、無機粒子内の成分を吸着する吸着剤またはイオン交換樹脂であってもよい。この構成によれば、無機粒子内の成分を吸着する吸着剤またはイオン交換樹脂により、無機粒子内の成分を効率よく吸着できるため、環境への負荷および人体への影響を効率よく低減することができる。
上記溶出抑制剤は、硫酸第一鉄・一水和物またはシュベルトマナイトであってもよい。この構成によれば、硫酸第一鉄・一水和物またはシュベルトマナイトにより、無機粒子内の成分を安定して吸着できるため、環境への負荷および人体への影響を安定して低減することができる。
また、上記無機粒子は、粒径20μm以下の粒子を70%以上含むことが好ましい。
このような構成からなる無機粒子を用いることにより、難燃性に優れる難燃性樹脂組成物が安定的に得られる。また、樹脂組成物の成形性の低下を抑制することができる。
また、上記無機粒子の総量を100質量%とすると、上記二酸化珪素の含有量は、44質量%以上85質量%以下であることが好ましい。また、上記酸化アルミニウムの含有量は、15質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
このような構成からなる無機粒子を用いることにより、燃焼時にポリカーボネート系樹脂の炭化が促進され、その結果、難燃性に優れる樹脂組成物を提供することができる。
また、上記無機粒子に含まれる上記二酸化珪素および上記酸化アルミニウムの合計含有量は、上記無機粒子全体を基準として、60質量%以上であることが好ましい。
このような構成からなる無機粒子を用いることにより、燃焼時におけるポリカーボネート系樹脂の炭化の促進作用が安定して得られ、その結果、難燃性に優れる樹脂組成物をより一層安定的に提供することができる。
また、上記難燃性樹脂組成物は、繊維形成型の含フッ素ポリマーをさらに含むことが好ましい。また、上記繊維形成型の含フッ素ポリマーの含有量は、上記難燃性樹脂組成物全体を基準として、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
このように特定の含フッ素ポリマーをさらに含有することにより、燃焼物のドリップを抑制することができるため、ドリップ物による着火を考慮する必要性が低減され、結果として難燃性を向上した樹脂とすることができる。
また、本発明においては、上記いずれかの難燃性樹脂組成物を含有する難燃性成形材料を提供することもできる。このような構成により、難燃性に優れる難燃性成形材料が得られる。
なお、本明細書において、難燃性樹脂成形材料とは、高温酸化雰囲気においても、樹脂組成物の燃焼が抑制される性質を有する樹脂成形材料を意味する。たとえば、難燃性樹脂組成物からなる樹脂組成物ペレットなどが代表例である。
また、本発明においては、上記いずれかの難燃性樹脂組成物を含有する成形品を提供することもできる。このような構成により、難燃性に優れる成形品が得られる。また、成形品の成形性の低下を抑制することができる。
以下、本発明において用いる各成分について詳細に説明する。
<ポリカーボネート系樹脂>
本発明におけるポリカーボネート系樹脂とは、下記一般式で表されるポリカーボネート単位を含有する樹脂である。
[式中、R4及びR5は、それぞれ炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を示し、それぞれ同じであっても異なるものであってもよく、m及びnは、それぞれ0〜4の整数である。Zは、単結合、炭素数1〜6のアルキレン基又はアルキルデン基、炭素数5〜20のシクロアルキレン基、シクロアルキリデン基、フルオレニリデン基、又は−O−、−S−、−SO−、−SO2−もしくは−CO−結合を示す。]
ポリカーボネート系樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
これらは、単独または2種類以上混合して使用されるが、ハロゲン置換基を有していない方が、燃焼時に懸念される当該ハロゲンを含むガスの環境への排出防止の面から好ましい。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、ハイドロキノン等を混合して使用してもよい。
さらに、上記ジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。
3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量は、10,000以上100,000以下とすることが好ましい。
ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量が10,000以上であると、優れた機械的強度または難燃性を有する樹脂組成物が安定的に得られる。また、ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量が100,000以下であると、樹脂組成物の粘度が適当な範囲となり、成形性が良好となる。
ポリカーボネート系樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。ポリカーボネート系樹脂の含水率は、特に制限はないが、たとえば1000ppm以下とする。含水率がかかる範囲であれば、樹脂組成物の製造安定性が向上する。
本発明に係る難燃性樹脂組成物の総量を100質量%とすると、ポリカーボネート系樹脂の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。また、この含有量は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。このような含有量とすることにより、無機粒子の作用と相俟って、優れた難燃性が得られる。
<無機粒子>
本発明において、無機粒子とは、主として無機成分からなる粒子を意味する。なお、微量の有機成分を含有する無機粒子を排除する趣旨ではない。
無機粒子は、二酸化珪素および酸化アルミニウムの複合体を含有する粒子である。これは、二酸化珪素の相および酸化アルミニウムの相を含む粒子を意味する。その具体的態様としては、たとえば、二酸化珪素とアルミニウムとの複合酸化物を含む粒子、二酸化珪素粒子と酸化アルミニウム粒子とが融着した粒子などが挙げられる。また、フライアッシュは、こうした複合体を含有する粒子の好適な例である。
本発明者の検討によれば、このような構成の無機粒子を用いることにより、二酸化珪素粒子単体、酸化アルミニウム粒子単体、あるいはこれらの混合物では得られない、優れた難燃性を実現することができる。
無機粒子は、上記複合体を含む粒子にくわえて、酸化アルミニウム粒子および二酸化珪素粒子をさらに含むことが好ましい。このような複数の異なる種類の粒子を含む無機粒子を用いることにより、難燃性に優れる難燃性樹脂組成物を安定的に得ることができる。
このような構成の無機粒子として、たとえば、珪素およびアルミニウムの複合酸化物を含む粒子と、シリカ粒子と、アルミナ粒子と、の混合物からなる無機粒子などが挙げられる。後述するフライアッシュも、このような複数の種類の粒子を含む無機粒子の例として挙げることができる。
このような無機粒子であって、入手コストが安価なものとしては、特に限定するものではないが、たとえばフライアッシュなどが挙げられる。ゴミ焼却炉などから得られる焼却灰が種々雑多なものを燃焼させ得られた燃焼灰であるのに対して、フライアッシュは、火力発電所の石炭燃焼灰であるので、原材料の素性が明確であり、珪素およびアルミニウム以外の重金属等の含有量が燃焼灰に比べて低い。また、重金属等の含有量を制御することもフライアッシュでは比較的容易である。したがって、材料組成物に充填材等として添加したとき、フライアッシュは環境に悪影響を与えにくいという利点もある。
また、このような無機粒子を用いると、リン系難燃剤やハロゲン系難燃剤などの配合量を低減しても、充分な難燃性を有するポリカーボネート系樹脂組成物を得ることができる。リン系難燃剤やハロゲン系難燃剤の配合量は0とすることが環境保護の観点からは好ましい。
以下、無機粒子の粒径について説明する。
本発明における無機粒子のD50(50%径)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上である。また、このD50は、好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下である。
D50が1μm以上である場合には、樹脂組成物の難燃性が向上する。また、樹脂組成物の成形性の低下を抑制することもできる。また、無機粒子の飛散が抑制され、樹脂組成物の製造工程における作業性や取扱安定性が向上する。
D50が3μm以上であると、樹脂組成物の難燃性が一層良好となる。また、無機粒子の飛散がさらに抑制され、樹脂組成物の製造工程における作業性や取扱安定性がさらに向上する。
D50が10μm以下である場合には、樹脂組成物の難燃性が向上する。また、樹脂組成物の成形性の低下を抑制することもできる。D50が7μm以下であると、燃焼時にポリカーボネート系樹脂の炭化がより促進され、その結果、樹脂組成物の難燃性が一層良好となる。
ここで、市販のフライアッシュは、通常、D50粒径が10μmを超える。このため、本発明においては、このような大粒径のフライアッシュをそのまま用いず、分級処理等により粒径制御したものを用いることが好ましい。これにより、上記ポリカーボネート系樹脂と無機粒子との相乗作用が顕著に得られ、優れた難燃性を安定的に実現することができる。また、樹脂組成物の成形性も良好に維持される。
なお、無機粒子の粒径制御の方法としては、特定の目開きのふるいを用いた分級処理や、気流分級装置を用いた分級処理等が挙げられる。
本発明における無機粒子は、D50により規定される上記粒径条件を満たすことにくわえ、体積平均粒径により規定される下記の粒径条件を満たすことが好ましい。
無機粒子の体積平均粒径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下である。
無機粒子の体積平均粒径が1μm以上である場合には、樹脂組成物の難燃性が向上する。また、樹脂組成物の成形性が良好になる。また、無機粒子の飛散が抑制され、樹脂組成物の製造工程における作業性や取扱安定性が向上する。
無機粒子の体積平均粒径が3μm以上であると、樹脂組成物の難燃性が一層良好となる。また、無機粒子の飛散がさらに抑制され、樹脂組成物の製造工程における作業性や取扱安定性がさらに向上する。
無機粒子の体積平均粒径が10μm以下である場合には、樹脂組成物の難燃性が向上する。また、樹脂組成物の成形性が良好になる。無機粒子の体積平均粒径が7μm以下であると、樹脂組成物の難燃性が一層良好となる。
また、本発明における無機粒子は、D50または体積平均粒径により規定される上記粒径条件を満たすことにくわえ、以下のように規定される粒径条件を満たすことが望ましい。すなわち、無機粒子は、粒径20μm以下の粒子を、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上含むものとすることが望ましい。
粒径20μm以下の粒子の割合が、無機粒子全体を基準として、70累積%(数累積)以上の場合には、難燃性が向上する。また、樹脂組成物の成形性の低下が抑制される。また、粒径20μm以下の粒子の割合が90累積%(数累積)以上の場合には、樹脂組成物の難燃性がより一層良好になる。また、樹脂組成物の成形性の低下がさらに抑制される。
無機粒子の粒径は、樹脂組成物を用いて得られた成形品の電子顕微鏡による断面観察等の方法により測定することができる。
具体的には、透過型電子顕微鏡を用いて樹脂組成物の超薄切片を観察するか、あるいは走査型電子顕微鏡を用いて樹脂組成物の切出面を観察し、写真撮影を行い、観察写真から樹脂組成物中における100個以上の粒子に対して個々の粒子径を計測する。さらに、各粒子の粒子径は、粒子の面積Sを求め、Sを用いて、(4S/π)0.5を各粒子の粒子径とする。あるいは、この無機粒子の粒子径は、後述する光散乱法によって測定することもできる。
本発明において、無機粒子の含有量は、特に制限はないが、樹脂組成物全体に対し、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。また、無機粒子の含有量は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
無機粒子の含有量が1質量%以上であると、樹脂組成物の難燃性の向上効果が安定して得られる。また、樹脂組成物の成形性の低下を安定して抑制することができる。無機粒子の含有量が5質量%以上であると、樹脂組成物の難燃性の改善効果がより安定して得られる。そして、無機粒子の含有量が10質量%以上の場合には、樹脂組成物の難燃性がさらに良好となる。
無機粒子の含有量が99質量%以下であると、樹脂組成物の難燃性が良好となる。また、樹脂組成物の成形性の低下を安定して抑制することができる。無機粒子の含有量が50質量%以下であると、樹脂組成物中の樹脂成分または無機粒子の割合が適度となるため、難燃性が向上する。また、樹脂組成物の成形がより一層容易になる。無機粒子の含有量が40質量%以下の場合には、樹脂組成物の難燃性がさらに良好となる。また、樹脂組成物の成形性がさらに良好になる。
<フライアッシュ>
本発明における無機粒子として、フライアッシュが好適に用いられる。フライアッシュ(以下、適宜「FA」と称する)とは、石炭を微粉炭燃焼方式で燃焼させる火力発電所などで生成される微粉末の石炭灰のことである。
フライアッシュは、以下の成分を含む。ここで、成分量は例示である。
(a)二酸化珪素:44質量%以上80質量%以下
(b)酸化アルミニウム:15質量%以上40質量%以下
(c)その他の成分:少量の酸化第二鉄(Fe2O3)や酸化チタン(TiO2)や酸化マグネシウム(MgO)や酸化カルシウム(CaO)等。
二酸化珪素(シリカ:SiO2)の含有量は、好ましくは44質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上である。また、好ましくは85質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下である。二酸化珪素の含有量がこの範囲内にあると、無機粒子とポリカーボネート系樹脂組成物との相乗作用により、樹脂組成物の難燃性向上効果が安定して得られる。
酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)の含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上である。また、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。酸化アルミニウムの含有量がこの範囲内にあると、無機粒子とポリカーボネート系樹脂組成物との相乗作用により、樹脂組成物の難燃性向上効果が安定して得られる。
これらの成分のうち、二酸化珪素と酸化アルミニウムとの合計含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。また、二酸化珪素と酸化アルミニウムとの合計含有量は、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは95質量%以下である。二酸化珪素と酸化アルミニウムとの合計含有量がこの範囲内にあると、無機粒子とポリカーボネート系樹脂組成物との相乗作用により、樹脂組成物の難燃性向上効果が安定して得られる。
上記二酸化珪素および酸化アルミニウムの一部は複合酸化物を形成していることもある。また、上記二酸化珪素および酸化アルミニウムの一部は粒子中で二酸化珪素の相と酸化アルミニウムの相を形成し、多相構造を有する粒子を形成している場合もある。
なお、上記酸化第二鉄(Fe2O3)や酸化チタン(TiO2)や酸化マグネシウム(MgO)や酸化カルシウム(CaO)等の成分は、少量であれば、樹脂組成物の難燃性や成形性などを特に低下させることはない。これらの酸化物以外にも微量の重金属等をフライアッシュは含有するが、ゴミ焼却炉などから得られる焼却灰に比べると微量重金属等の濃度は低い。これは、前記焼却灰が種々雑多なものを燃焼させ得られた燃焼灰であるのに対して、フライアッシュが火力発電所の石炭燃焼灰であることに因る。
また、原材料の素性が明確であるので、重金属等の含有量を制御することもフライアッシュでは比較的容易である。後述するように、微量の重金属等の溶出対策を施すことで、樹脂組成物およびその成形品の環境影響リスクをさらに低減することができる。
また、フライアッシュは微細粒子であり、これを電子顕微鏡で見ると大部分の粒子が球形をしている。このため、フライアッシュを用いると、樹脂組成物の成形加工時における成形性の低下を抑制しつつ難燃性の向上を図ることができる。
フライアッシュは火力発電所などで大量に発生し、大部分が産業廃棄物となっているのが現状であるため、調達コストが安いという利点がある。そのため、難燃性を有する樹脂組成物の製造コストも低減することができる。また、フライアッシュは粒径や組成などの品質が比較的安定しているため、難燃性を有する樹脂組成物を安定して得ることができる。
図3は、本発明において用いる無機粒子の代表例であるフライアッシュの1種の粒度分布の測定結果を表すグラフ図である。このフライアッシュは、後述する表1のフライアッシュA4に相当する。
このフライアッシュは、D50が3.9μmであり、大部分(97累積%以上)のフライアッシュの粒径が20μm以下である。また、大部分(96累積%以上)のフライアッシュの粒径が0.5μm以上である。
また、粒径1.5μm付近と粒径6.0μm付近とに、2つの粒度分布のピークがある特徴的な分布(バイモーダルな分布)を示している。
このように、粒度分布のピークが2つあるフライアッシュを含む場合には、樹脂組成物の難燃性が安定して良好になる。また、樹脂組成物の成形性の低下が安定して抑制される。
なお、通常、市販されているフライアッシュは、体積平均粒径が17μm以上であり、D50粒径が10μm以上である。
本発明においては、20μm直径の目開きのふるいにより市販のフライアッシュを分級することにより、図3に示すように、このフライアッシュのD50粒径が10μm以下に制御されている。そのため、上記ポリカーボネート系樹脂とこの無機粒子との相乗作用により、難燃性を安定的に実現することができる。また、樹脂組成物の成形性の低下を安定的に抑制することができる。
フライアッシュ含有樹脂組成物の使用環境または使用方法によっては、微量の重金属等が溶出する可能性もある。本願発明の難燃性樹脂組成物においては、無機粒子としてフライアッシュを用いる場合に、当該樹脂組成物の各種物性・外観等を低下させない範囲で、微量の重金属等の溶出対策を施してもよい。溶出対策としては、当該樹脂組成物に所定の溶出防止剤を添加する方法、または当該樹脂組成物の成形品の表面に溶出防止機能を有する膜を形成する(例えば、所定の溶出防止剤を含有した塗料により塗装する。)方法等を取り得る。溶出対策を行うことにより、フライアッシュの原材料である石炭の種類やフライアッシュ製造時の燃焼条件などに因って重金属等の含有量が多少ばらついた場合でも、重金属等の溶出を確実に抑制することができる。また、重金属等の含有量に因らずにフライアッシュを使用できるので、火力発電所の副生成物であるフライアッシュを資源としてより有効に利用できる。
重金属等の溶出対策としては、溶出防止剤を樹脂組成物に添加する方法が簡便でかつ長期使用においても効果的である。溶出防止剤の必要量は、フライアッシュに対する相対質量比が1/1000以上、特に好ましくは、1/100以上であるときに重金属等の溶出防止の効果がある。この重金属等の溶出防止剤としては、無機化合物の吸着剤や還元剤、またイオン交換樹脂などが挙げられる。無機化合物の吸着剤や還元剤としては、例えば硫酸第一鉄や硫酸第二鉄、シュベルトマナイト、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロタルサイト、ハイドロキシアパタイトなどが挙げられ、特に好ましくは、硫酸第一鉄が挙げられる。またイオン交換樹脂としては、キレート樹脂、アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂などが挙げられる。これらの溶出防止剤の効果としては、吸着剤が、鉄等の金属の含水酸化物などの吸着体を樹脂内で形成して重金属等を吸着すること、あるいは、還元剤が、重金属等を還元し、不溶化することなどが挙げられる。さらに、還元剤と吸着剤の併用によって、重金属等が還元され、より吸着されやすくなる場合がある。このため、吸着剤と還元剤を複数混合して用いてもよい。
しかし、溶出防止剤は、水和物等、水分を含有する薬剤であることが多いため、過剰に添加すると、樹脂組成物を射出成形する時に水分が蒸発し、成形体外観に銀色の筋(以下、シルバーという。)の発生や、溶出防止剤に起因する変色が発生するなど成形品の意匠性の低下を引き起こす場合がある。このため、溶出防止剤の添加量は、質量比で多くても2.0質量%未満とすることが好ましく、より好適には1.0質量%以下とすることが望ましい。
例えば樹脂組成物に対しフライアッシュを質量比で10質量%添加する場合には、溶出防止剤を0.01質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上、2.0質量%未満において配合することにより、成形時にシルバー等の外観不良を抑制でき、重金属等の溶出も防止できる。
当該樹脂組成物の成形品の表面に溶出防止機能を有する膜を形成する場合、撥水性または水分透過防止性の膜で当該成形品表面をコートする方法が取り得る。撥水性の膜としては特に限定しないが、例えばフッ素樹脂系のものが利用できる。前記溶出防止剤と併用すると、重金属等の溶出防止により効果的である
<含フッ素ポリマー>
本発明においては、ポリカーボネート系樹脂と、上記無機粒子と、を含有する樹脂組成物に、さらにポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成する繊維形成型の含フッ素ポリマーを配合することが好ましい。繊維形成型の含フッ素ポリマーを配合することにより、燃焼時のドリップ現象を防止することが可能である。
繊維形成型の含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(たとえば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。
また、繊維形成型の含フッ素ポリマーとしては、ファインパウダー状のフルオロポリマー、フルオロポリマーの水性ディスパー、粉体状のフルオロポリマー/アクリロニトリル/スチレン共重合混合物、同じく粉体状のフルオロポリマー/ポリメチルメタクリレート混合物、などの様々な形態のフルオロポリマーを用いることができる。
繊維形成型の含フッ素ポリマーの配合量は、難燃性樹脂組成物全体を基準として、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下である。
含フッ素ポリマーの配合量が0.05質量%以上であると、燃焼時のドリッピング防止効果が安定して得られる。また、含フッ素ポリマーの配合量が0.1質量%以上であると、樹脂組成物の難燃性が一層良好となる。
また、含フッ素ポリマーの配合量が5質量%以下であると、樹脂中に分散しやすいため、ポリカーボネート系樹脂と均一に混合することが容易となり、難燃性を有する樹脂組成物の安定生産が可能となる。また、含フッ素ポリマーの配合量が1質量%以下であると、難燃性が一層良好となる。含フッ素ポリマーの配合量が0.8質量%以下であると、樹脂組成物の難燃性がより一層良好となる。
フライアッシュ(FA)をはじめとする二酸化珪素および酸化アルミニウムを含む粒子を含む無機粒子の配合により、ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物が難燃性を発現する要因としては、以下を推察する。
ポリカーボネー系ト樹脂は化学構造中にカーボネート結合を有し、カーボネート結合中の酸素と、フライアッシュの表面水酸基とが水素結合を形成することにより、耐熱安定化する。特定の粒径範囲にあるフライアッシュでは、ポリカーボネート系樹脂との水素結合を形成する割合が増大し、燃焼時にフライアッシュとポリカーボネート系樹脂の複合化物を形成し易くなり、チャー化が促進するため、難燃性が著しく向上する。
さらにフライアッシュでは、フライアッシュに含まれる二酸化珪素、酸化アルミニウムの複合化物がポリカーボネート系樹脂に対し、難燃触媒として特異的に働くと考える。また、ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物にフライアッシュを配合することにより、初期燃焼中に成形品表面の有機成分が揮発し、表面が高濃度のフライアッシュまたはポリカーボネートとフライアッシュとの複合化物となることも、難燃化に寄与していると考える。
<溶出抑制剤>
本発明においては、ポリカーボネート系樹脂と、上記無機粒子と、を含有する樹脂組成物に、さらに無機粒子内の成分の溶出を抑制する溶出抑制剤を含んでもよい。このように無機粒子内の成分の溶出を抑制する溶出抑制剤を含むことにより、高度な難燃性を維持しつつ無機粒子内からの六価クロム、鉛、水銀などの重金属やセレンやヒ素などの溶出を抑制できる。このため、環境への負荷および人体への影響を低減することができる。
上記溶出抑制剤は、無機粒子内の成分を吸着する吸着剤またはイオン交換樹脂であってもよい。このように無機粒子内の成分を吸着する吸着剤またはイオン交換樹脂を含むことにより、無機粒子内の六価クロム、鉛、水銀などの重金属やセレンやヒ素などの成分を効率よく吸着できるため、環境への負荷および人体への影響を効率よく低減することができる。
上記溶出抑制剤は、硫酸第一鉄・一水和物またはシュベルトマナイトであってもよい。このように硫酸第一鉄・一水和物またはシュベルトマナイトを含むことにより、無機粒子内の六価クロム、鉛、水銀などの重金属やセレンやヒ素などの成分を安定して吸着できるため、環境への負荷および人体への影響を安定して低減することができる。
上記無機粒子に対する溶出抑制剤の相対質量比は、例えば1/1000以上であり、好ましくは1/100以上である。溶出抑制剤の相対質量比がこれらの値以上であれば、高度な難燃性を維持しつつ無機粒子からの六価クロム、鉛、水銀などの重金属やセレンやヒ素などの成分の溶出を抑制する効果が向上する。また、上記難燃性樹脂組成物中における溶出抑制剤の質量比は、例えば2.0質量%未満である。溶出抑制剤の質量比がこの値未満であれば、成形時におけるシルバーの発生が抑制されるため、樹脂組成物からなる成形品の外観特性が向上する。
<その他の成分>
さらに、本発明において、難燃性樹脂組成物の効果を損なわない範囲で、ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物に各種の熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光増白剤、充填材、離型剤、軟化材、帯電防止剤、可塑剤等の添加剤、衝撃性改良材、他のポリマーなどを配合しても良い。
熱安定剤としては、たとえば硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素リチウム等の硫酸水素金属塩および硫酸アルミニウム等の硫酸金属塩等が挙げられる。これらは、通常0質量%以上0.5質量%以下の範囲で用いられる。
充填材としては、たとえばガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク粉、クレー粉、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、ワラストナイト粉等が挙げられる。
衝撃性改良材としては、たとえばガラス繊維、有機繊維、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、コアシェル型のメチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・スチレン共重合体、エチレン・プロピレン系ゴム、エチレン・プロピレン・ジエン系ゴム、等が挙げられる。特にガラス繊維は衝撃改良材としての機能に優れる。
可塑剤としては、たとえばトリメリット酸系エステル、ピロメリット酸系エステル、ポリカーボネートジオール、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ジペンタエリスリトール、ポリカプロラクトン、p−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル等が挙げられる。
必要に応じて他の難燃剤が添加でき、リン系難燃剤、金属水酸化物やホウ酸塩などの吸熱剤、メラミン類などの窒素化合物、シリコーン系難燃剤、各種金属塩などの炭化促進剤、さらにハロゲン系難燃剤等が挙げられる。
<難燃性成形材料>
本発明における難燃性樹脂組成物は、難燃性を向上させる組成物として有用である。この難燃性樹脂組成物を、適宜、熱可塑性樹脂等に配合し、難燃性成形材料を得ることができる。
上記難燃性成形材料は、上記ポリカーボネート系樹脂を含む難燃性樹脂組成物のみからなる材料であってよいが、他にも、溶融流動性等の成形性、あるいは耐衝撃性等の機械的特性をさらに改良する目的で、ポリカーボネート系樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。
このような成分としては、たとえば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ゴム変性重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体とこれのアクリルゴム変成物、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPCM)・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー等から選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの重合体の中で、好ましくは、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、ポリアクリル酸ブチル等が挙げられる。
本発明において、難燃性成形材料中の上記難燃性樹脂組成物の割合は、特に制限はないが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。また、上記難燃性樹脂組成物の割合は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
上記難燃性樹脂組成物の割合が10質量%以上の場合には、難燃性成形材料の成形性の低下を抑制しつつ難燃性向上効果が安定して認められる。また、上記難燃性樹脂組成物の割合が30質量%以上の場合には、難燃性と成形性とのバランスが良好なものとなる。さらに、上記難燃性樹脂組成物の割合が60質量%以上の場合には、難燃性と成形性とのバランスがさらに良好となる。
また、上記難燃性樹脂組成物の割合が99質量%以下の場合には、難燃性成形材料の機械的強度または成形性の面で優れる傾向がある。また、上記難燃性樹脂組成物の割合が85質量%以下の場合には、難燃性と機械的強度とのバランスが良好となる。さらに、この割合が70質量%以下の場合には、難燃性と機械的強度と成形性とのバランスがさらに良好となる。
<製造方法および成形方法>
本発明において、樹脂組成物中の各種配合成分の混合方法には、特に制限はなく、タンブラー、リボンブレンダー、バンバリーミキサー、ニーダー等の公知の混合機による混合や、単軸押出機、二軸押出機などの公知の押出機による溶融混練が挙げられる。
別の製造例としては、原材料をペレット状の原材料成分と粉体状の原材料成分とに分けることもできる。たとえば、樹脂成分などのペレット状成分からなる原材料混合物と、フライアッシュなどを含む無機粒子などのパウダー状成分からなる原材料混合物と、をそれぞれ別途に予備混合したものを調整し、それぞれの原料混合物を独立して押出機に供給し、溶融混練を行う方法がある。さらに別の製造例としては、それぞれの原料成分を独立して押出機に供給し溶融混練を行う方法がある。
さらに別の製造例としては、フライアッシュなどを含む無機粒子を有機溶媒や溶融させた樹脂などに分散させたマスターバッチを予めミキサーなどの混合機を用いて製造し、このマスターバッチを樹脂組成物の成形加工時に配合して樹脂組成物を得る方法もある。
特に、フライアッシュなどを含む無機粒子の粒径が小さい場合には、マスターバッチを製造することで、無機粒子の飛散を抑制し、作業性または取扱安定性を向上させることができるため、有効な製造方法である。
溶融混練では、押出機は押出機のシリンダー設定値を200〜400℃、好ましくは220〜350℃、さらに好ましくは230〜300℃としてもよい。また、押出機スクリュー回転数を30〜700rpm、好ましくは80〜500rpmとし、さらに好ましくは100〜300rpmとすることができる。
さらに、押出機内の平均滞留時間を10〜150秒、好ましくは20〜100秒、さらに好ましくは30〜60秒として溶融混練を行うことができる。溶融樹脂組成物の温度は好ましくは250〜300℃の範囲とし、混練中に樹脂組成物に過剰の加熱を与えないように配慮しながら溶融混練を行うことができる。溶融混練した樹脂組成物は、押出機先端に取り付けられたダイよりストランドとして押し出され、ペレタイズされて樹脂組成物のペレットが得られる。
そして、本発明において、難燃性樹脂組成物の製造において、溶融混練と同時に脱揮を行うこともできる。脱揮とは、押出機に取り付けられたベント口を通じて、溶融混練工程で生じる揮発成分を、大気圧開放あるいは減圧により除去することを意味する。
こうして得られた難燃性樹脂組成物のペレットは、優れた難燃性を有するため、電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途、玩具、娯楽用品などの成形品を成形するための難燃性成形材料として用いることができる。
上記難燃性樹脂組成物あるいは難燃性成形材料を成形する方法としては、特に制限はなく、公知の射出成形法、ガスアシスト成形法、押出成形法、ブロー成形法、射出・圧縮成形法等を用いることができる。このような方法により得られた成形品は、優れた難燃性を有するため、電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途、玩具、娯楽用品などに用いることができる。特に、優れた難燃性が要求される電気・電子機器の筐体に好適に用いられる。
以上、本発明の構成について説明したが、これらの構成を任意に組み合わせたものも本発明の態様として有効である。また、本発明の表現をたとえば、難燃性を有する電子筐体などの他のカテゴリーに変換したものもまた本発明の態様として有効である。
<実施例1>
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)粒度分布の測定方法
なお、以下の実験において、粒度分布は、光散乱法で以下の条件で測定を行った。
装置 :MICRO TRAC社製 D.H.S 9200PRO FRAタイプ
分散媒 :2wt% ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液 (屈折率1.33)
前処理 :超音波 (20kHz 300kW) 3分
測定時間:20秒 3回
なお、測定前に次のような前処理を行った。
2wt% ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液 30mlをビーカーにとり、サンプルをスパチュラ1杯ほど入れた。その後、超音波分散(20kHz 300kW 3分)処理を施し、サンプルを装置へ投入し、純水を加えて濃度調整、測定を行った。
(2)使用原料
以下において使用された各原料の詳細は、それぞれ次のとおりである。
(2−1)熱可塑性樹脂
(2−1−1)ポリカーボネート系樹脂(PC)
住友ダウ(株)製 カリバー301−22 (質量平均分子量47000、数平均分子量27000)を用いた。
(2−1−2)ポリエチレンテレフタレート(PET)
東洋紡績(株)製 PETMAX RE554を用いた。
(2−1−3)ポリブチレンテレフタレート(PBT)
三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製 ノバデュラン 5010R5を用いた。
(2−2)無機化合物
(2−2−1)フライアッシュ
フライアッシュ(FA)として、表1に示す製品を用いた。
ここで、上記フライアッシュ(FA)の一部について、その粒度分布の測定結果を図3〜図8として示す。
なお、難燃性の実現に特に好適なフライアッシュはI種品(フライアッシュA4〜A7)となる傾向があり、II種品は粒径が比較的大きいフライアッシュ(標準品:フライアッシュA8〜A12)となる傾向がある。
フライアッシュのII種品(フライアッシュA8〜A12)の粒度分布を図5〜8に示す。なお、図5に示すフライアッシュA8は、フライアッシュII種品であるが、D50が9.9μmと低めであるため、難燃性の向上効果が比較的優れている。
また、本発明者は、元素分析などの実験手法を用いて、実際に上記フライアッシュは、二酸化珪素および酸化アルミニウムを含む粒子と、主として二酸化珪素からなる粒子と、主として酸化アルミニウムからなる粒子と、を含むことを確認している。
(2−2−2)球状二酸化珪素または破砕二酸化珪素
球状二酸化珪素(S)または破砕二酸化珪素(HS)として、表2に示す製品を用いた。
(2−2−3)球状酸化アルミニウム
球状酸化アルミニウム(Al)として、表3に示す製品を用いた。
(2−3)繊維形成型の含フッ素ポリマー
繊維形成型の含フッ素ポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン社製 ポリフロンFA−500)(本明細書において、PTFEとも略記)を用いた。
(3)樹脂組成物または樹脂成形品の作製
ポリカーボネート系樹脂(住友ダウ(株)製 カリバー 301−22)と、フライアッシュ(FA)とを、シリンダー温度が280℃に設定された連続混練押出機((株)KCK製 KCK80X2−35VVEX(7))に表5〜表11に記載の配合により供給し、溶融剪断下において混練せしめた後、水中で冷却せしめた後、ペレット状に切断した。
得られた樹脂組成物を120℃で4時間、乾燥した後、20tの射出成形機(東芝機械(株)製 EC20P−0.4A)を用いて、シリンダー温度:280℃、金型設定温度:80℃の条件で成形することにより、上記樹脂組成物の難燃性評価、酸素指数試験片および曲げ試験用の試験片(125mm×13mm×1.6mmおよび125mm×13mm×3.2mmおよび150mm×6.5mm×3.0mm)を得た。
ただし、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)および6−ナイロンを含む樹脂組成物に関しては、同様の操作を混練温度は260℃、射出温度は260℃、金型設定温度は80℃で行った。
(4)各種評価
(4−1)難燃性評価
難燃性評価の評価指数の一種である酸素指数は、射出成形により得られた難燃性評価用の試験片(125mm×6mm×3.0mm)について、JIS−K−7201に準じて測定した。酸素指数の評価結果を表4に示す。
難燃性評価のうちUL94試験については、射出成形により得られた難燃性評価用の試験片(125mm×13mm×1.6mm)を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価にて行った。
UL94試験とは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、以下の表5に示すクラスに分けられる。
なお、上記分類以外の燃焼形態をとる場合は、notV−2と分類した。ちなみに、難燃性が良好な順から悪い順に並べると、V−0、V−1、(V−2またはnotV−2)となる。
上に示す残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
UL94試験および平均残炎時間の結果を、表6〜表11に示す。また、フライアッシュの50%径(D50)と平均残炎時間との結果を図1に示す。また、フライアッシュの配合量と平均残炎時間との結果を図2に示す。
(4−2)機械的強度の評価
機械的強度については、射出成形により得られた曲げ試験評価用の試験片(125mm×12.7mm×3.2mm)について、ASTM C−256に準じて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。曲げ強度および曲げ弾性率の測定結果を表8に示す。
(4−3)成形性の評価
成形性の評価指標として、得られた樹脂組成物の溶融流動特性を測定した。溶融流動性の測定は、120℃で4時間乾燥してから、20tの射出成形機(東芝機械製EC20P−0.4A)を用いて、シリンダー温度:280℃、金型設定温度:80℃、射出圧力:1600kgf/cm2、厚み1mmの条件でスパイラルフローを測定して評価した。
成形性の評価指標を以下に示す。
○:溶融流動特性に優れている。
△:溶融流動特性が不十分である。
×:溶融流動特性が悪い。
表11において、
PP=住友化学(株)社製、AH561
6−ナイロン=東レ(株)製、アラミンCM1017を意味する。
表5〜表11、図1および図2の結果から明らかなように、得られた樹脂組成物の内、50%径(D50)が1μm以上であり、10μm以下であるフライアッシュ(FA)をポリカーボネート系樹脂に配合した樹脂組成物の成形品は、優れた難燃性および成形性を示すことがわかる。
50%径(D50)が1μm以上10μm以下のフライアッシュ(FA)を配合した場合には、フライアッシュの分散性が良好となり樹脂組成物の難燃性が向上すると考えられる。
また、得られた樹脂組成物の内、50%径(D50)が3μm以上であり、7μm以下であるフライアッシュ(FA)をポリカーボネート系樹脂に配合した樹脂組成物の成形品は、それ以外の樹脂組成物に対し、難燃性がさらに著しく向上していることが分かる。
50%径(D50)が3μm以上7μm以下であるフライアッシュ(FA)をポリカーボネート系樹脂に配合した場合には、フライアッシュの分散性がさらに良好となり、樹脂組成物の難燃性がさらに向上すると考えられる。
また、得られた樹脂組成物の内、フライアッシュ(FA)を5質量%以上50質量%以下の割合でポリカーボネート系樹脂に配合した樹脂組成物の成形品は、それ以外の樹脂組成物に対し、難燃性が著しく向上していることが分かる。
フライアッシュ(FA)を5質量%以上50質量%以下の割合でポリカーボネート系樹脂に配合した場合には、樹脂組成物中の樹脂成分またはフライアッシュの割合が適度となるため、難燃性が向上すると考えられる。
また、表6および図1に示す結果より、ポリカーボネート系樹脂に対し、50%径(D50)が1μm未満のフライアッシュ(FA)を配合しているポリカーボネート系樹脂組成物にあっては、50%径(D50)が1μm以上10μm以下のフライアッシュ(FA)を配合した場合に比べて難燃性が低下している。
さらに、表7および図1に示す結果より、ポリカーボネート系樹脂に対し、50%径(D50)が10μmより大きいフライアッシュ(FA)を配合しているポリカーボネート系樹脂組成物にあっては、50%径(D50)が1μm以上10μm以下のフライアッシュ(FA)を配合した場合に比べて難燃性が低下している。
表9の結果から明らかなように、フライアッシュ(FA)を用いた場合においては、二酸化珪素(S、HS)や酸化アルミニウム(Al)を用いた場合に比べ、難燃性の改善効果が著しいことが分かる。
なぜなら、フライアッシュ(FA)は、二酸化珪素のみからなる粒子(S、HS)や、酸化アルミニウムのみからなる粒子(Al)には含まれない、二酸化珪素および酸化アルミニウムを含む粒子を含む無機粒子だからである。
表10または表11の結果から明らかなように、他のポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリプロピレン(PP)や6−ナイロンなどを用いた場合の樹脂組成物にあっては、フライアッシュ(FA)による難燃性の改善効果が見られない。
そのため、難燃性の改善効果は、ポリカーボネート系樹脂と、特定の粒径のフライアッシュ(FA)をはじめとする二酸化珪素および酸化アルミニウムを含む粒子を含む無機粒子と、の組合せによる相乗作用により得られる特有な効果であることが分かる。この結果も上記考察を示唆するものである。
このように、ポリカーボネート系樹脂と、特定の粒径のフライアッシュ(FA)をはじめとする二酸化珪素および酸化アルミニウムを含む粒子を含む無機粒子とを含む樹脂組成物によれば、高度な難燃性を有し、さらに溶融流動性または環境調和性に優れるポリカーボネート系の難燃性樹脂組成物、それを用いる難燃性成形材料または成形品を低コストで提供できるのである。
すなわち、上記実施例においては、成形性の低下を抑制しつつ難燃性を向上させた難燃性樹脂組成物が提供されている。特に無機粒子の50%径(D50)が3μm以上7μm以下である場合には、難燃性、成形性、機械的特性などのバランスに優れた難燃性樹脂組成物が提供されている。
(4−4)フライアッシュを無機粒子として用いたときの重金属等の溶出量評価
重金属等の溶出試験に用いるサンプルは、所定の配合において、石臼式の押出機(KCK製、吐出量:8kg/h)を用い混練温度280℃で混練物を作成し、さらにこれを凍結粉砕した後、非金属製のふるい(2mm)を通過させて得た。
重金属等の溶出試験方法は、土壌環境基準に係る溶出試験(環境庁告示46号)に準拠した。試料の作成は、フライアッシュ添加PC樹脂の粒径が2mm以下のものは有姿のまま採取し、粒径が2mmより大きいものは粉砕し、2mmの篩いにかけた。試料液の調製は、試料(単位g)と溶媒(純水に塩酸を加え、水素イオン濃度指数が5.8以上6.3以下となるようにしたもの)(単位ml)とを重量体積比10%の割合で混合し、かつ、その混合液が500ml以上となるようにした。溶出方法としては、調製した試料液を常温常圧で振とう機(あらかじめ振とう回数を毎分約200回に、振とう幅を4cm以上5cm以下に調整したもの)を用いて、6時間連続して振とうした。
検液は上記の操作を行って得られた試料液を10分から30分程度静置後、毎分約3,000回転で20分間遠心分離した後の上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過してろ液を取り、定量に必要な量を正確に計り取った。得られた検液に含有される六価クロム、ヒ素、セレン、鉛および水銀は環境庁告示第46号に示されるようにICP発光分析や原子吸光により溶出量を測定した。
表12の結果から明らかなように、ポリカーボネート系樹脂と、特定の粒径のフライアッシュ(FA)を含む無機粒子とを含む樹脂組成物によれば、溶出試験にて重金属等である六価クロムやヒ素、セレンを微量に溶出するが、溶出防止剤として硫酸第一鉄・一水和物やシュベルトマナイトをフライアッシュに対する相対質量比が1/1000以上、特に好ましくは、1/100以上となるよう配合することにより、高度な難燃性を維持しつつ重金属等の溶出を抑制することができる。また、樹脂組成物中における溶出防止剤の添加量は、2.0質量%未満となるように配合することにより、成形時におけるシルバーの発生が抑制されるため、樹脂組成物からなる成形品の外観特性が向上する。
表12において、
FeSO4・H2O=富士チタン製、FD−1(硫酸第一鉄・一水和物)を意味する。
表13において、
シュベルトマナイト=ソフィア製、Asre−S(Fe8O8(OH)8-2X(SO4)X・nH2O(1≦x≦1.75))を意味する。
表12および表13において、外観特性評価結果の記号は、それぞれ下記の評価に相当する。
○:シルバーの発生がほとんどなく、外観が良好である。
△:シルバーの発生がわずかに観察され、外観があまり良好ではない。
×:シルバーの発生が観察され、外観が良好ではない。
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、上記実施例では、二酸化珪素および酸化アルミニウムを含む粒子を含む無機粒子として、フライアッシュを含む無機粒子を用いたが、たとえば、木炭を燃焼させて得られる灰やシリカ・アルミナ複合粒子なども、特定の組成または粒径を備えれば用いることができる。