試料の何らかの化学的および生物学的分析が関与する大部分の科学分野では、研究者は水溶液中に見出される化合物または分析物を同定および測定できる必要がある(たとえば、血漿中のタンパク質の測定、または河川からの流出水中の農薬の測定)。ここでは、分析物とは一般的に、調査者が目的とする液体試料の成分をいう。典型的には、分析物を含む液体試料は、容器(たとえば、試験管、マルチウェルプレート、またはキュベット)または他の提示器具(たとえば、スライドまたはバイオチップ)によって分析測定装置へ提示される。多数の試料を迅速に測定することへの最優先の関心のために(試料のいわゆる「高処理量」測定)、自動化分析装置に関連して使用することができる標準化された容器および器具の開発に多大な注意が向けられている。たとえば、新薬発見の分野では、医薬候補のスクリーニングに注目する研究者は、さまざまな分析技術(たとえば、蛍光偏光検出)を用いて、何千または何百万もの可能な医薬候補を頻繁にスクリーニングし、その分析技術の多くは医薬候補を含む試料溶液を入れるために標準的な384ウェルプレートを用いる。そのため、試料提示器具は、ゲノミクスおよびプロテオミクス、医薬開発、臨床診断、および、環境毒素または物質または生物毒素または物質の分析(たとえば、環境汚染の評価およびバイオテロリズムに用いられる可能性のある物質のスクリーニング)を含む範囲にわたる幅広い科学分野において、研究者の分析機器の決定的に重要な要素を構成する。
たとえばゲノミクスおよびプロテオミクスでは、焦点はそれぞれ、DNA/RNAおよびタンパク質/ペプチドの同定および研究にある。これらの分野は集合的に、生体内の化学的および生物学的部分、その相互作用、およびそれらを識別するために必要な分析技術の全体的研究をいう。個別の細胞成分でなく複雑な生物系の理解は、現在の生物学および生物医学研究において両方の分野で主要な焦点である。具体的には、ゲノミクスの主な目的は、全生物の遺伝子内容を配列決定しおよびその大きなデータベースを作製することである。ゲノムは、細菌、酵母、線虫、ショウジョウバエ、および、ごく最近、ヒトについてまとめられている。同様に、プロテオミクスとは、細胞において特定の時点で発現されているすべてのタンパク質の研究であり、その主な目的は、あるタンパク質を完全に配列決定するのとは対照的に、完全なタンパク質を同定するためにデータベースマッチング法と共に用いることができる部分タンパク質アミノ酸配列を得ることである。タンパク質の同定は、タンパク質発現の研究(異なる条件下で発現に差があるタンパク質および疾患状態についてのバイオマーカーの同定に重要である)およびタンパク質相互作用のマッピング(細胞構造の様子を明らかにするのに役立つ)を可能にする。タンパク質は生物物質の主要な成分であり、および反応調節から酸素の運搬、細胞構造および細胞外構造の提供まで、事実上すべての重大な生物学的機能を果たすため、タンパク質の役割を理解することは、生物系の理解のために決定的に重要である。ゲノミクスについてと同様、急成長するプロテオミクスの分野は、ヒトおよびその他の生物のプロテオームについての情報の生成を結果として生じ、および、この情報はまだ不完全である一方、この情報の多くはデータベースに保存されておりおよび将来保存される。将来、生物系の理解の多くは、これらのゲノムおよびプロテオームのデータベースから抽出されることが予期される。
臨床診断の分野では、研究者は幅広い分析物の同定および測定に焦点を当てる。目的の分析物は、医薬候補が生物体全体に存在する程度を明らかにする臨床試験の過程で実施されるバイオアベイラビリティ試験の例でのように、実際の医薬候補でありうる。代替的に、目的の分析物は、キナーゼ酵素反応のリン酸化反応産物の存在または非存在の測定の場合のように、医薬候補に対する生理的反応を反映しうる。キナーゼ酵素は細胞の成長および増殖に重要であるため、成長が異常である疾患(たとえば、がん)の患者において高レベルのキナーゼ活性が観察される。キナーゼ活性の低下を結果として生じる医薬は、したがって、抗がん剤候補であり、およびそのような医薬候補の効力を検出する分析方法はしばしば、キナーゼ酵素反応産物の形の分析物の存在または非存在の測定に着目する。臨床診断および医薬開発に重要な分析物の、これらおよびその他の種類の直接および間接測定は、分析技術および測定を円滑にする試料提示器具の存在に依存する。
試料提示器具の重要性は、決して生物医学的背景に限定されない。たとえば、環境汚染(または汚染除去)の程度の測定に関心を持つ研究者は、水、大気、および土壌試料を含むすべての種類の環境試料をスクリーニングできる必要がある。そのような試料を分析するために用いられる分析技術の多くは、水質試験の場合、またはさまざまな成分を除去するために有機および/または無機溶媒中で希釈することによって抽出されている土壌試料の場合のように、液体試料の分析を含む。分析のために液体試料を提示することができる試料提示器具は、したがって、これらの種類の分析測定の達成において重要な手段である。
9・11テロ以後の世界では、軍事および非軍事の両方のシナリオにおいて化学物質および生物物質の検出を容易にするプラットフォームおよび分析技術の必要性に政府は直面している。生物戦検出のための課題は、試料回収および無害な生物と有害な生物との識別を含む。生物物質に関する現在の戦場技術は、生体化合物を質量分析(MS)によってより容易に検出することができる低分子へ変換する熱分解を利用する。しかし、タンパク質またはペプチドバイオマーカーに基づく技術の開発が期待されており、なぜならそれは現在知られる方法よりも特異性が高く、および呼気検査、尿検査、または採血技術と組み合わせて、兵器への曝露の可能性を測定するのに使用しうるためである。警報装置としての独立型バイオセンサーもまた、戦場および公共の場での使用について高い関心が持たれる。これらの方法のすべてが、試料回収、前処理、および検出器への試料の提示において課題を提出する。
幅広い分析技術が、血清中のDNA、RNA、タンパク質、およびペプチド、環境試料中の環境毒素および物質といった、液体試料中の目的化合物を同定および測定するために開発されている。これらの分析技術のそれぞれがそれ自体で有用である一方、それぞれが少なくとも部分的に、使用する試料提示器具の種類に依存する。したがって、そのような器具に固有の限界が、これらの分析技術を用いる目的化合物の測定に悪影響を与えうる。
さらに、液体試料中の分析物の同定、単離または測定に焦点を当てる多数の分析技術では、試料が別々の前処理段階(すなわち、目的分析物の存在および量を測定するための特定の分析技術に曝露する前の試料の処理)を受ける必要がある。たとえば、多数のタンパク質細胞抽出技術は、複雑なタンパク質混合物を与え、および、タンパク質の分析の前に除去しなければならない質量分析に干渉する界面活性剤および塩を含ませる。分画および精製の現在の方法は時間がかかる。タンパク質を精製するために用いられる液体クロマトグラフィーおよびゲル電気泳動といった他の精製方法は、10μLより大きい容量の試料回収を通常含み、さまざまなタンパク質検出技術(たとえば、MALDI-MS)による分析の前に追加の濃縮が必要になる。現在知られている分析技術(およびそれに関連して用いられる試料提示器具)の要望は、試料精製、試料調製、自動化データ取り込み、および自動化データ解析の重要性を強調する。
たとえば、プロテオミクスの分野で用いられる最も一般的でおよび好ましい種類の質量分析は、マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)である。MALDI-MSは、大過剰モルの酸性でUV吸収性の化学マトリクス(たとえば、ニコチン酸)の存在下で、相対的に高分子量のタンパク質が表面上に付着する、標準的なレーザー脱離飛行時間質量分析の変法である。この技術は、これらの高分子量の不安定な巨大分子の完全な状態での脱離を可能にする。質量分析は、質量精度、高感度検出、および抑えたコストでの微量の試料の迅速な分析を提供するため、プロテオーム研究において重要な分析手段となっている。
しかし、MALDI-MSは、さまざまな不利益、特に試料調製に伴う問題を有する。総合的に、今日のMALDI-MS試料担体は、2μLを超える試量容量に適しないという点で厳しい試料容量制限がある。最大2μLまでの容量が通常用いられ、および1mmないし2mmの直径を有する乾燥小滴を与える(カラス(Karas), M. およびヒレンカンプ(Hillenkamp), F. Anal. Chez. 1988, 60, 2299-2301、参照により本開示に含まれる)。シングルサイトデータ取り込み中に、レーザーは乾燥小滴の小さな一部だけを照射するため(0.015 mm2ないし0.030 mm2)、試料中のすべてのタンパク質が検出される保証は無い。加えて、試料容量(最大2μL)は、精製後に試料が通常回収される容量よりも顕著に小さく、MALDI-MSの前にさらに濃縮が必要になる;たとえば、液体クロマトグラフィーおよび電気泳動法によって精製されたペプチドおよびタンパク質試料は、10μLより大きい容量で通常回収される。結果として、そのような試料はMALDI-MSの前にさらに濃縮しなければならない。多くの試料はまた、質量分析に干渉する界面活性剤および塩を含み、MALDI-MSの前に除去が必要になる。
MALDI-MSに伴う別の不利益は、試料均一性の欠如である。2μLの小容量でさえ、試料適用に乾燥小滴法が用いられる場合には、試料不均一性のために問題となりうる。0.5〜2.0μLの範囲の試量容量が通常用いられおよび乾燥され、これは1mmないし2mmの直径を有する乾燥小滴を与える(カラス(Karas), M. および ヒレンカンプ(Hillenkamp), F. Anal. Chem. 1988, 60, 2299-2301, 参照により本開示に含まれる)。結果として、乾燥小滴のわずかな一部だけ(0.015 mm2ないし0.030 mm2)が、シングルサイトデータ取り込み中にレーザーによって照射される。残念ながら、0.5〜2.0μLの小容量でさえ試料不均一性(分析物の不均一な付着)を結果として生じることが知られており、これは、乾燥小滴の異なる領域にレーザーを当てた際に、ピークの存在、強度、分解能および質量精度に顕著な変動を生じる(ストルパット(Strupat), K. ; カラス(Karas), M.;ヒレンカンプ(Hillenkamp), F. Int'l. J. Mass Spectrom. Ion Processes 1991, 111, 89-102;コーエン(Cohen), S. L. およびチャイト(Chait), B. T. Anal. Chem. 1996,68, 31-37; およびアマド(Amado), F. M. L.;ドミンゲス(Domingues), P.;サンタナ−マルケス(Santana-Marques), M. G. ;フェラー−コレイア(Ferrer-Correia), A. J. ;トーマー(Tomer), K. B. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1997,11, 1347-1352, すべてが参照により本開示に含まれる)。これらの現象のため、質量分析データの批判的な検分および試料当たり多数のシングルサイトスペクトルの蓄積が必要になる。したがって、1日に機器1台当たり数百の試料しか分析できず、および自動化データ取り込みはしばしば不可能である。
試料不均一性の問題は、スポット直径がレーザー直径の桁まで低下すると最小化できることが実証されている。その場合、試料の大部分を同時に照射することができ、感度および再現性が改善される(リトル(Little), D. P.; コーニッシュ(Cornish), T. J.;オドンネル(Odonnell), M. J.;ブラウン(Braun), A.;コッター(Cotter), R. J.;コスター(Koster), H. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1997, 69, 4540-4546; およびゴボム(Gobom), J.;ノルドホフ(Nordhoff), E.;ミルゴロドスカヤ(Mirgorodskaya), E.;エックマン(Ekman), R.;レプストルフ(Roepstorff), P. J. Mass Spectrom. 1999, 34, 105-116, 参照により本開示に含まれる)。米国特許第6,287, 872号明細書に記載の試料担体がさらに説明され(シェーレンベルク(Schuerenberg), M.;ルバート(Lubbert), C.;アイクホフ(Eickhoff), H.;カルクム(Kalkum), M.;レーラッハ(Lehrach), H;ノルドホフ(Nordhoff), E. Anal. Chem. 2000,72, 3436-3442, 参照により本開示に含まれる)、分析物の付着を小さいスポット直径へ限定することは試料不均一性に伴う問題を低減するだけでなく検出感度の有意な増大もまた結果として生じることが示される。欠点は、この望ましいスポットの大きさを得るためには、試料容量を2μL未満に低減しなければならないことである。
これらの試料容量および不純物の問題を克服するために、研究者は、試料を前処理するために設計された試料担体または用いられるミニカラムを使用している。そのような試料担体の一例は、アンカーチップ(AnchorChip)(登録商標)としてブルカー・ダルトニクス社(Bruker Daltonics GmbH)より市販されている。アンカーチップ製品は、試料を正確に決められた位置で濃縮することによってMALDI-MS感度を改善し、および具体的には、濡れやすい親水性スポットのアレイを有する濡れない疎水性材料の薄層を含む。アンカーチップの使用に伴う主な制限は、各アンカーに加えられる液体試料の容量を0.50μLないし3.0μLに制限する必要性である(アンカーチップ標的上での試料調製のための一般規則1番、参照により本開示に含まれる『アンカーチップ技術(AnchorChip Technology)』1.6版、ブルカー・ダルトニクス社、2000年11月を参照);本製品の資料に含まれる製造元提供の例はさらに、液体試料滴容量を0.5μLまたは1.0μLに制限する。別の制限は、分析物および夾雑物(塩、界面活性剤)の両方がレーザー照射領域でしばしば濃縮されることである。したがって、試料をまず、上記の通りの質量分析試料担体上への添加前に、ジップチップ(ZipTip)(登録商標)または同様のミニカラム試料調製器具上で脱塩および/または濃縮しなければならない。(ジップチップは、ミリポア社(Millipore Corp.)製で、小さいピペットチップに逆相クロマトグラフィーメディアを充填して調製した、試料濃縮および脱塩用のマイクロカラムである(ルスコニ(Rusconi), F. ;シュミッター(Schmitter), J.-M.;ロッシャー(Rossier), J.;ル・メール(le Maire), M. Anal. Chem. 1998,70, 3046-3052, 参照により本開示に含まれる))。しかし、自家製マイクロカラムまたは市販のジップチップの使用は時間がかかり、相当なコストを加え、自動化が困難であることが明らかになっており、およびしばしば試料物質の中等度の回収しかできない。したがって、アンカーチップは他の今日のMALDI-MS試料担体に伴う同じ制限の多数を有する。
MALDI-MSに代わる技術が、血清試料のタンパク質プロファイリングについて開発されている。この技術は表面増強レーザー脱離イオン化質量分析(SELDI-MS)と呼ばれ、および、卵巣がんおよび前立腺がんと良性前立腺過形成の分化についてのバイオマーカーの発見に関して結果を出している。SELDI-MS中に、分析物はまず、アフィニティ捕捉器具として作用する機能化表面を有する試料担体上に選択的に保持される。保持された分析物は次いで捕捉点でレーザー脱離によってイオン化され、他の接続型液体クロマトグラフィー-質量分析法で必要であるような保持表面から分析物を回収する必要無しに分析物の検出を可能にする。SELDI-MSは、すべて参照により本開示に含まれる米国特許第5,719,060号;第5,894,063号;第6,020,208号;第6,027,942号;第6,124,137号;第6,225,047号;第および6,579,719号明細書に記載される。近年報告された結果にもかかわらず、SELDI-MS法は、生物学的分析物の保持に関して最適である表面がレーザー脱離イオン化中に分析物提示に関して最適に満たない性能を示しうるため、しばしば実際面で困難である。
タンパク質といった分析物を単離および精製するために用いられるさらに別の技術が使用されている。たとえば、2Dゲル電気泳動および多次元液体クロマトグラフィーの時間がかかる技術による生物学的試料のための分画および精製手法はよく知られており、クロマトグラフィーベッドを含む消耗品のカラムまたはピペットチップといったより迅速で低感度の技術もまたよく知られている。タンパク質混合物を分離する役割を果たすゲル電気泳動は、一次元または二次元でありうる。1Dゲル電気泳動、別名SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)では、タンパク質混合物は分子量のみによって分離される。2Dゲル電気泳動、別名2D-PAGEでは、混合物は等電点によって分離され、次いで分子量によって分離される。本技術の一つの欠点は、本方法の分解能が低いこと、すなわち、分離された各スポットは一つより多いタンパク質を含みうることである。別の欠点は、分離を見るために用いられる色素がすべてのタンパク質を染色しないことである。液体クロマトグラフィー(LC)は、「高速液体クロマトグラフィー」(HPLC)、または、一つより多いクロマトグラフィーカラムが用いられるならば「多次元液体クロマトグラフィー」として知られる。一般的にLCの長所は、多様なカラム化学を利用できることである。低分子ペプチドを効率的に分離することができないゲル電気泳動とは対照的に、LCは酵素消化物に由来するペプチド混合物を分離するのに用いることができる。固相抽出(SPE)は精製の迅速な方法を提供し、および有機合成から環境試料回収まで多数の分野で用いられる。固相抽出は液−液抽出またはHPLCよりも迅速であり、溶媒消費がより少なく、および気体または液体試料から分析物を抽出するのに用いることができる。SPEの技術は、いくつかを挙げればピペットチップ、カラム、膜、および384ウェルプレートといったさまざまな器具で提供される。
新薬発見においては、さらに別の試料提示器具が、公知の分析方法での使用のために開発されている。たとえば、膜に埋め込まれたC18RP(逆相)吸着剤であるエムポア(Empore)カード(http://www.3m.com/empore)を用いるADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性学)試験は、試料精製において段階数を減らすことができ、および、付加された試料は乾燥して保たれるため、保存および濃縮の可能性が宣伝されている。試料精製は、カード上への試料の負荷、溶出器へのカードの移送、および試料の100%を質量分析へ直接溶出することの三段階を要する。エムポアカードは、溶出容量が可能な限り小さく保たれるかまたは低濃縮ペプチドが検出限界未満であるならば、ペプチド消化試料をMSへ負荷するのに用いることができる。
したがって、高感度で生物学的および化学的部分を検出するためにさまざまな分析方法と関連して用いることができる試料提示器具の必要性が存在する。さらに、試料不均一性に伴う問題を最小化するために、分析物を含む液体試料を限られた範囲に導き、結果として検出の感度の増大を生じる、液体クロマトグラフィーおよび電気泳動分離および他の種類の分離/精製技術から通常回収される試量容量に適合する試料提示器具の必要性が存在する。そのような試料提示器具を利用できることは、たとえば、生命科学業界の標準的なマルチウェルプレート処理機および液体取扱ロボットでのような自動化試料処理を可能にする。より重要なことに、それらはまた、クロマトグラフィー溶出液の直接回収および続いてのMALDI-MS分析を可能にする。さらに、これらの能力は集合的に、当業者に公知であるさまざまな分析技術を用いる生物学的および化学的部分の検出および測定の処理量を増大する。本発明のこれらおよび他の利益を下記により詳細に記載する。
定義
別に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解される意味を有する。ここでは、下記の用語は、別に規定されない限り、与えられた意味を有する。
「分析物」とは、試料の望ましくは検出される成分をいう。その語は、試料中の単一の成分または複数の成分をいうことができる。
「試料」とは、試料提示器具の表面上に提示された、生物学的または非生物学的起源に由来する任意の物質をいう。試料は、元の未処理の形で、および/または、修飾、分画、抽出、および濃縮を含むがそれらに限定されない処理後に、試料提示器具に加えることができる。本発明の試料は液体または非液体試料であることができる。
「基材」とは、表面を提示または支持することができる材料をいう。
「表面」とは、物体または基材の外側または上側の境界をいう。
「実質的に非結合性」または「結合抵抗性」または「分析物結合抵抗性」とは、分析物の明らかなアフィニティまたは結合を示さない、本発明の試料提示器具に関連して用いられるある表面の特性をいう。いくらかの結合が起こりうる一方、これらの表面は、使用する分析法の検出限界を下回るレベルへ結合を最小化するように特に設計される。
「表面張力」とは、表面付近の不均等な分子凝集力のため、表面上に付けられた液滴が可能な最小の接触面積へ収縮する傾向がある液体の特性をいう。
「湿潤性」とは、固体表面が液体試料によって濡れる程度をいう。特記されない限り、液体試料は本質的に水性である。
「接触角」とは、固体表面の平面と、三相接触(固体/液体/気体)の点に始まる液滴境界との接線との間の角度をいう。
「マトリクス」とは、MALDI-MSまたはSELDI-MSといった質量分析技術に用いられる、レーザーのエネルギーを吸収およびそのエネルギーを分析物分子へ移動し、不安定な高分子のイオン化を可能にするための材料をいう。SELDI-MSでは、マトリクスは「EAM」または「エネルギー吸収分子」と呼ばれる。生物学的分析物の検出のためのマトリクスとしてよく用いられる試薬は、トランス-3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸(シナピン酸、SA)、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(HCCA)および2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)を含むがそれらに限定されない。他の適当なマトリクスは当業者に公知である。
「SAM」とは自己組織化単分子膜をいう。SAMは界面活性剤の有機溶媒溶液への適当な基材の浸漬によって自然に形成される分子集合体である。
本発明の試料提示器具の説明
本発明の試料提示器具の下記の説明は、発明の開示で上に示したよりも詳細な理解を提供する。しかし、本発明の試料提示器具は、それぞれ下記に詳細に記載される、図面、本発明の試料提示器具を作製する方法、および、本発明の試料提示器具の使用および用途を参照してさらに説明される。
上記の通り、本発明の試料提示器具は、化学的および生物学的部分の同定に用いられるさまざまな分析方法に用いられる公知の試料提示器具に対する魅力的な代替品を提供する。加えて、本発明は、試料提示器具を作製する方法および液体試料に含まれる分析物の幅広い分析測定を実施するためにそれらを用いる方法を提供する。本発明の試料提示器具の独自の特性は、公知の分析技術およびそれらに関連して用いられる試料提示器具または容器に伴う短所(上の背景技術の項に記載)の多数に対処する。
より具体的には、本発明の試料提示器具は、幅広い分析方法に用いられる公知の試料提示器具に対する魅力的な代替品を提供する。それらは、たとえば、液体試料中の分析物が最大100μLの容量でバイオチップの表面上で選択的に保持および濃縮されることを可能にするといった追加の長所を有する。加えて、分析物は実質的に非結合性または結合抵抗性となるように設計された試料提示器具の一部分から検出されるため、バイオチップを基礎とするアフィニティ捕捉器具、または器具表面が分析物に対して相当なアフィニティを有する他の試料提示器具の表面上での直接検出と比較して、分析物は高感度で検出される。
本試料提示器具は好ましい一実施形態では単一回の液体操作しか要しないため、本発明はさらに、ある表面から別の表面への分析物の移送に伴う損失の可能性を最小化する。これは、試料提示器具表面の分析物抵抗性の特性と組み合わせて、目的の分析物の損失の低減を結果として生じる。
加えて、分析物は、たとえばSELDI-MSバイオチップの場合のようにアフィニティ捕捉器具に結合していないため、液体試料を本発明の試料提示器具の表面上で、調節された方法で操作および移動することができる。これは、試料提示器具の表面への分析物の実質的な結合が無い分析ゾーンへ試料が濃縮されることを可能にする。さらに、これは、分析物を含む試料が表面上の別のゾーンへ移動することを可能にし、各ゾーンは分析物に関して異なる特性を有し、このことは検出前に分析物の精製、単離および/または修飾を可能にする。
本発明は、分析物に関する表面の特性を試料取り扱い中に操作しうるように、表面のさまざまな部分の特性がさまざまな化学的または物理的刺激(たとえば、熱、紫外線)に応じて変化しうる試料提示器具を含む。表面特性におけるそのような変化は、可逆的または不可逆的であるように設計しうる。
本発明はこのように、分析測定の実施において有用である試料提示器具に関する。一実施形態では、本発明は、分析すべきさまざまな試料に関して異なる湿潤性の一つ以上のゾーンを有する表面を持つ試料提示器具を含む。異なる湿潤性のこれらのゾーンは、液体試料中の分析物を保持、濃縮、および移動する能力が異なるゾーンを結果として生じる。これらのゾーンは、さまざまな形状および大きさであることができ、および互いに関して連続的または不連続的であることができる。本発明の試料提示器具は、二次元または三次元表面を含むことができ、そのそれぞれが、異なる湿潤性の二つ以上のゾーンを有する。
本発明の試料提示器具は、たとえば、ガラス、ケイ酸塩、半導体、金属、ポリマー(たとえば、プラスチック)、および他の水酸化材料、たとえば、ケイ素上のSiO2、アルミニウム上のAl2O3、などを含むがそれらに限定されないさまざまな材料で作られうる基材を含む。好ましくは、基材は、金のような金属、またはケイ素のような半導体である。本発明の試料提示器具はさらに、基材の表面上に湿潤性に関して異なる特性を有するさまざまなゾーンを作製するために当業者に公知である方法によって表面修飾された基材を含む。そのような表面修飾は、自己組織化単分子膜(SAM)、ポリマー(直鎖および分枝鎖)、およびラングミュア-ブロジェット膜の基材への付加を含むがそれらに限定されない。SAMを例に取ると、基材へ付加された際、SAMは液体試料が曝露されうる試料提示器具の表面を形成する。使用される特定のSAMの組成に応じて、本発明の試料提示器具の表面は、湿潤性に関して、および液体試料中の分析物に対するアフィニティ(またはその欠如)に関して、異なる特性を有しうる。特定のゾーンに用いられるSAMを反映する特性を持つ別個のゾーンを生じるような方法で、SAMを本発明の試料提示器具に付加することができる。当業者に公知である他の表面修飾技術もまた本発明に含まれる。
本発明の試料提示器具は別個のゾーンから成り、そのうちの一つは液体試料の保持に関して最適である。本発明の試料提示器具はさらに、湿潤性の異なるゾーンを含むことができ、そのうちの一つは分析物の高感度検出に関して最適である。
試料提示器具の表面が含みうるゾーンの種類に関しては、分析すべき試料についての異なる湿潤性によって主に特徴づけられ、それが今度は液体試料中の分析物を保持または結合する異なる能力を有するゾーンを結果として生じる。これらのゾーンは大まかに「境界ゾーン」、「液体保持ゾーン」、および「分析ゾーン」と呼ばれる。本発明は二種類のゾーンの存在だけを必要とするが、二つ以上の種類のゾーンを含むこともまた考慮される。本発明はまた、各種類の一つ以上のゾーンも含みうる-たとえば、試料提示器具は複数の液体保持ゾーンを含むことができ、そのそれぞれが液体試料および/またはそれに含まれる分析物に関して異なる特性を有しうる。たとえば質量分析機器といったさまざまな分析機器での高処理量自動化を促進するかまたはそれに適合するために、さまざまなゾーンを正確に位置決めすることができる。
「境界ゾーン」は、分析すべき試料に関して実質的に非湿潤性であるゾーンを含む。境界ゾーンは、それ以外のゾーンと比較して、試料に関して最高の接触角を有するゾーンである。
「液体保持ゾーン」は、分析すべき試料に関して境界ゾーンと比較して相対的により湿潤性である(および下記の分析ゾーンよりも相対的に湿潤性が低い)。液体保持ゾーンは境界ゾーンの接触角よりも相対的に低い接触角(および下記の分析ゾーンよりも相対的に高い接触角)を有する。液体保持ゾーンはまた、最初は分析ゾーンと等しいかまたはより低い接触角を有しうるが、しかし化学的または物理的刺激のために、液体保持ゾーンは化学的または物理的刺激の前の分析ゾーンよりも高い接触角を取ることができ、この結果として液体試料が他のゾーンよりも優先的に一つのゾーンへ導かれる。さらに、液体保持ゾーンは二種類の亜型でありうる。一つの亜型では、液体保持ゾーンは液体試料保持目的のために作用するように設計され、その一方で実質的に分析物結合抵抗性である。別の亜型では、液体保持ゾーンは液体試料を保持するように、しかしまた実質的に液体試料中で分析物を結合するように設計され、およびしたがってそれが分析物を捕捉する点で「捕捉ゾーン」と呼ぶことができる。この第二の亜型はまた、実質的に分析物結合性であるがたとえば、紫外線、電気、または熱といった化学的または物理的刺激に供される際に実質的に非結合性になる表面も含みうる。
「分析ゾーン」は、他のゾーンと比較して試料に関して最も湿潤性である(および最小の接触角を有する)ゾーンである。分析ゾーンは分析物結合抵抗性であるように設計される。分析ゾーンは、目的の分析物の分析の感度を高めるために、大きさ、形状、および表面特性に関して最適化されうる。
長所の中でも、本発明の試料提示器具は、ゾーン間の湿潤性の差のために、試料取り扱いに用いられる他のバイオチップよりも大きい液体試量容量を保持および取り扱うことができる。一方で、本発明の試料提示器具の液体容量はゾーンの大きさに依存する;直径3mmの円形ゾーンについては、液体容量は最大約100μL、および少なくとも最大約70μLでありうる。試料提示器具は、物理的境界、リザーバー、またはウェルの必要無しにこの量の液体試料を含みうる。
本発明の試料提示器具の別の一実施形態では、試料提示器具は「標的チップ」と呼ぶことができ、およびTnと略され、ここで「n」は試料提示器具の表面上の別個のゾーンの数を表す数表示であり、「n」は2ないし無限の任意の数でありうる。したがって、たとえば、T2標的チップは二個のゾーンを有し、T3標的チップは三個のゾーンを有するなどである。本発明は、2または3ゾーンよりずっと多数を含む試料提示器具を考慮し、および決して特定数のゾーンに限定されない。ゾーンの数が増加するにつれ、全体の効果は勾配に近づく。標的チップは、分析物結合に対して抵抗性であるように設計された一つ以上のゾーンから成る試料提示器具である。たとえばT2標的チップに関して、試料提示器具は二つのゾーン、すなわち境界ゾーンおよび分析ゾーンを含む。液体試料と接触するゾーンの表面は分析物結合抵抗性となるように設計される、すなわち、分析ゾーンは分析物結合抵抗性である。液体試料と接触するゾーンの表面は、分析の前の乾燥段階中に分析物を効果的に閉じ込めるT3標的チップに関して、試料提示器具は三つのゾーン、すなわち、境界ゾーン、液体保持ゾーン、および分析ゾーンを含む。液体試料と接触するゾーンの表面は分析物結合抵抗性となるように設計される、すなわち、液体保持ゾーンおよび分析ゾーンは分析物結合抵抗性である。液体試料と接触するゾーンの表面は、乾燥段階中に分析物を分析ゾーンに効果的に濃縮する。本発明の試料提示器具は、このように別個のゾーンを含むことができ、そのそれぞれが分析物に関して最小限の吸着を示す。
本発明の試料提示器具の別の一実施形態では、試料提示器具を「捕捉チップ」または「捕捉/濃縮チップ」と呼ぶことができ、およびXnと略しここで「n」は試料提示器具の表面上のゾーンの数を表す数表示であり、「n」は2ないし無限の任意の数でありうる。したがって、たとえば、X2捕捉チップは二個のゾーンを有し、X3捕捉チップは三個のゾーンを有するなどである。本発明は、2または3ゾーンよりずっと多数を含む試料提示器具を考慮し、および決して特定数のゾーンに限定されない。ゾーンの数が増加するにつれ、全体の効果は勾配に近づく。捕捉チップおよび捕捉/濃縮チップは、分析物を結合するように設計された一つ以上のゾーンから成る試料提示器具である。分析物の捕捉を担う部分は典型的には、捕捉ゾーンの特徴的な性質として設計される特定の表面修飾を含む。これらの表面修飾は、分析物を特異的に(たとえばモノクローナル抗体)または非特異的に(たとえば静電気引力に基づいて結合する荷電基)結合する生物学的および化学的部分、またはそのような引力の任意の組み合わせを含みうる。目的の分析物を捕捉する能力に加えて、これらの表面修飾はまた、以降の修飾を可能にするように液体試料中の分析物を保持しうる。そこで、たとえば、表面修飾がモノクローナル抗体である捕捉ゾーンを含む本発明の試料提示器具は、液体試料から相補的抗原を結合し、および液体試料の残りが器具の表面の別の部分へ物理的移動または湿潤性の差によって移動する間にその抗原を保持しうる。保持された抗原は、試料提示器具の捕捉ゾーンへの他の化合物の添加(たとえば、抗原の一部を切断する酵素の添加)によって修飾されうる。修飾された抗原は次いで、以降の取り扱いのために試料提示器具の別の部分へ移動、または公知技術による分析のために器具から除去されうる。
たとえばX2捕捉チップに関して、試料提示器具は二つのゾーン、すなわち境界ゾーンおよび捕捉ゾーンを含む。液体試料と接触するゾーンの表面は、捕捉ゾーンの表面の化学的または生物学的特性に基づいて、分析物を捕捉するように設計される、すなわち、捕捉ゾーンは分析物を結合する。液体試料と接触するゾーンの表面は、分析の前の乾燥段階中に分析物を効果的に閉じ込める。X3捕捉/濃縮チップに関して、試料提示器具は三つのゾーン、すなわち、境界ゾーン、捕捉ゾーン、および分析ゾーンを含む。境界ゾーンは実質的に非湿潤性となるように設計される。捕捉ゾーンは分析物を捕捉および結合するように設計される。分析ゾーンは分析物結合抵抗性となるように設計される。分析物は捕捉ゾーンと分析ゾーンとの間を移動し、これはさまざまな公知の分析検出法の一つによる分析の前に行われる。液体試料を含む分析ゾーンの表面は、分析の前の乾燥段階中に分析物を効果的に閉じ込める。捕捉ゾーンから分析ゾーンへの液体試料の移動は、捕捉ゾーンの表面の特性によって達成されうる、すなわち、捕捉ゾーンが分析ゾーンよりも低い程度の湿潤性を有するならば、液体試料は捕捉ゾーンから分析ゾーンへ物理的介入無しに移動する。代替的に、捕捉ゾーンは、化学的または物理的刺激(たとえば、熱、紫外線)に応じて特性が変化し、捕捉ゾーンに分析ゾーンよりも低い程度の湿潤性を持たせ、およびそのようにして液体試料を捕捉ゾーンから分析ゾーンへ移動させるように設計することができる。
本発明の試料提示器具の別の一実施形態では,試料提示器具は、上述の標的および捕捉チップの組み合わせでありうる。この実施形態では、試料提示器具は、異なる機能を有する表面から成る。これらの種類の試料提示器具は、機械的手段(たとえばピペッティングによって)またはその他(たとえばゾーン間の湿潤性の差によって)による、一つのゾーンから別のゾーンへの液体試料の移動を含みうる。一例として、「捕捉-移動-濃縮チップ」、略してX2-移動-T3は、二つのゾーン(すなわち、境界ゾーンおよび捕捉ゾーン)から成るX2チップ、および三つのゾーン(すなわち、境界ゾーン、液体保持ゾーン、および分析ゾーン)から成るT3チップの両方から成る試料提示器具である。分析物の移動(機械的またはその他)は、X2チップの捕捉ゾーンとT3チップの液体保持ゾーンとの間で起こる。
これらの試料提示器具は、表面が一つ以上の分析物に対する結合アフィニティを示しうるように、一つ以上の「捕捉ゾーン」を含みうる。液体試料が試料提示器具の表面上で一つのゾーンから別のゾーンへ移動する際に分析物を逐次結合する能力は、液体試料の多数の異なる画分の分析を、機械的介入を用いてそれらを分離する必要無しに、円滑にする本発明の性質である。代わりに、本発明の試料提示器具の異なる湿潤性特性は、異なる捕捉ゾーンと結合する分析物を後に残す過程で液体試料を器具の別のゾーンへ導き、およびそれによって連続的に液体試料を処理しうる。
より具体的には、捕捉ゾーンおよび液体保持ゾーンの組み合わせを含む試料提示器具の実施形態は、検出前に液体試料中の分析物を単離、濃縮、精製、および修飾するために組み合わせた方法で用いることができる。そのため、たとえば、試料中の分析物が分析ゾーンに閉じ込められるように液体試料をT2チップ上に置くことができる。その試料を次いで、境界ゾーン、捕捉ゾーン、および分析ゾーンを含むX3チップへ移動させることができる。この例では、試料がX3チップに用いられる際に境界ゾーンから捕捉ゾーン(より高い程度の湿潤性を有する)へ移動し、試料中の脂質部分が捕捉ゾーンの表面に結合し、および残りの試料が分析ゾーンへ移動する(分析ゾーンが最高度の湿潤性を有するため)ように、捕捉ゾーンを、液体試料から脂質部分を結合(およびそのようにして除去)するように設計しうる。この例では、分析ゾーンから分析される最終試料が濃縮されおよび脂質を除去精製されるように、液体試料はT2チップ上に閉じ込められ、および次いで脂質がX3チップ上で移動する。捕捉ゾーンは多数の異なる分析物を結合するように設計することができるため、およびこれらのゾーンのうち任意のもののさまざまな組み合わせを用いることができるため、広汎な範囲の精製、濃縮、単離、および修飾能力(一つ以上の分析物に対する)を有する試料提示器具を作製することができる。
一つの試料提示器具から別の試料提示器具への液体試料の移動の機構はさまざまでありうる。上記の例を用いると、T2からの濃縮された試料は、機械的に(たとえばピペッティングによって)採取しおよび別々のX3試料提示器具に置くことができる。代替的に、T2およびX3試料提示器具は、化学的または物理的刺激(たとえば、紫外線)に応じて湿潤性が変化しうるゾーンによってT2試料提示器具の分析ゾーン中の濃縮された試料がX3器具の捕捉ゾーンへ移動するよう、それらの間のゾーンの紫外線への曝露が結果としてT2器具の分析ゾーンよりも高いがX3器具の捕捉ゾーンよりも低い湿潤性を生じて試料がT2からX3へ移動するように接続されうる。ここでも、莫大な数の表面(異なる湿潤性および分析物結合特性を有する)およびその配置を用いて、広汎な範囲の精製、濃縮、単離、および修飾能力(一つ以上の分析物に対する)を有する試料提示器具を作製することができる。
(上記の各実施形態での)本発明の試料提示器具はさらに、異なる形状またはパターンを有する異なる湿潤性のゾーンを提供しうる(その数例が図面に表される)。たとえば一実施形態では、試料提示器具は、中心ゾーンが分析ゾーンであって、境界ゾーンによって囲まれた液体保持ゾーンに囲まれた、同心円の形のゾーンを有しうる。ゾーンはさまざまな光パターン化技術を用いて作製することができるため、および公知の光パターン化技術は結果として得られるパターンの途方もない変化を提供するため、当業者によって設計されうるさまざまなゾーンの可能な形状、パターン、および構成の範囲は広汎である。さらに湿潤性の異なるゾーンのさまざまな特性は、分析物を表面上の単一のまたは複数の指定のまたは規定の位置(たとえば、設定可能な部位、レーン、または領域)へ導くことができる試料提示器具の作製を可能にする。この場合、設定可能なとは、指定された位置に保持された液体試料または分析物を分析器具によって処理して目的の分析物を測定できるように、本発明の試料提示器具と連動する自動化処理器具によって、規定の部位、レーンまたは領域が指定されうることを単に意味する。加えて、これらの規定の位置に存在する液体試料または分析物は、別の試料提示器具による以降の取り扱いまたは操作(たとえば、修飾、精製、濃縮、など)のために試料提示器具から採取することができる。
本発明の試料提示器具は、生物学的および非生物学的液体試料の両方の取り扱いに適している。それらはまた、たとえば、質量分析、さまざまなクロマトグラフィー法、免疫蛍光スペクトル法、および、液体試料中の分析物を検出および測定する他の公知の分析方法を含むがそれらに限られない、幅広い分析物検出法における用途に適している。
上述の変形のそれぞれは、検出および分析用に分析物を提示するための、公知の方法より高い能力を有する試料提示器具の設計および使用における最大の柔軟性を可能にするように設計される。このように、本発明の試料提示器具は、分析物の高感度検出を促進するように設計された分析ゾーンへ分析物を導く能力を有する。本発明の試料提示器具はこのように、分析物の付着の改善を提供する。
本発明の試料提示器具はさらに、最大約100μL、および少なくとも最大約70μLの容量の液体試料を受容および保持することができる器具を含みうる。本発明の試料提示器具はまた、約2平方ミリメートル(2mm2)未満および好ましくは約1mm2未満の大きさの表面積へ分析物の付着を導く試料位置決め器具として利用しうる。約1mm2未満の大きさの表面積へ分析物の付着を導くことは、自動化データ取り込みの簡易化および検出感度の両方について同時の向上を伴う、分析物の付着の改善を促進しうる。結果として、本発明の試料提示器具は、液体保持能力および分析物の付着の調節の両方について相当な有用性を示す表面を提供する。好ましい実施形態では、この特性の組み合わせは、公知の試料担体と比較して、約4倍から約100倍を超える検出感度の向上を与える。
一実施形態では、本発明の試料提示器具は、基材の表面がさらに同心配置に組織された三つの連続するゾーンから成り、中心の分析ゾーンは液体保持ゾーンに囲まれており、および液体保持ゾーンは境界ゾーンに囲まれている基材から成る。代替的に、本発明の試料提示器具は、さらに表面が隣接する配置に組織された三つの連続するゾーンから成り、分析ゾーンの一部と液体保持ゾーンの一部が互いについて連続しており、および分析および液体保持ゾーンの互いについて連続していない部分は共通の境界ゾーンによって囲まれている基材から成ることができる。
本発明の試料提示器具の一実施形態では、分析ゾーンの表面は、好ましくは約40°未満、より好ましくは約30°未満、および非常に好ましくは約20°未満の接触角を有する。分析ゾーンの表面は、好ましくは分析物について最小のアフィニティまたは結合を示す。
液体保持ゾーンの表面は、好ましくは約40°から約95°の範囲、より好ましくは約60°から約95°、非常に好ましくは約80°から約95°の範囲の接触角を有し、およびさらに好ましくは分析物について最小のアフィニティまたは結合を示す。境界ゾーンの表面は、好ましくは約95°より大、より好ましくは約105°、非常に好ましくは約115°より大の接触角を有し、およびさらに好ましくは液体試料について最小の湿潤性を示す。
本発明の試料提示器具の別の一実施形態では、分析ゾーンの接触角は液体保持ゾーンの接触角よりも、少なくとも約10°、好ましくは少なくとも約20°、より好ましくは少なくとも約30°、および非常に好ましくは少なくとも約40°小さく、液体保持ゾーンの接触角は境界ゾーンの接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約15°、および非常に好ましくは少なくとも約20°小さい。本発明の試料提示器具の一実施形態では、液体保持ゾーンの表面積は分析ゾーンの表面積よりも、好ましくは少なくとも約4倍大きく、より好ましくは少なくとも約10倍大きく、および非常に好ましくは少なくとも約50倍大きく、および分析ゾーンの表面積は、好ましくは約1mm2未満であり、より好ましくは約0.2mm2から約0.8mm2の範囲にあり、および非常に好ましくは約0.4mm2から約0.6mm2の範囲にある。
本発明の試料提示器具はさらに、基材から成ることができ、基材の表面はさらに1ないし1536対の分析ゾーンおよび液体保持ゾーンから成ることができ、対の分析ゾーンおよび液体保持ゾーンは同心または隣接する対のどちらかとして配置され、および対の分析および液体保持ゾーンは共通の境界ゾーンによって囲まれている。複数の対の分析ゾーンおよび液体保持ゾーンから成る試料提示器具は、規格化されたマルチウェルプレート処理機および実験用液体取扱ロボットに適合するように、好ましくは規格の96ウェル、384ウェルおよび1536ウェルプレートと類似の形に構成される。
図面の説明
下記の説明は単に例示的な、別に示す本発明の開示の補足であり、および本発明の範囲を限定しない。
図1aおよび1bに関して、本発明の試料提示器具が図解され、基材1を示し、基材の表面はさらに同心配置に組織された三つの連続するゾーンから成り、中心の分析ゾーン2は液体保持ゾーン3に囲まれており、および液体保持ゾーン3は境界ゾーン4に囲まれている。分析ゾーン2の表面は、好ましくは約40°未満、より好ましくは約30°未満、および非常に好ましくは約20°未満の接触角を示し、およびさらに好ましくは分析物について極小の結合を示す。液体保持ゾーン3の表面は、好ましくは約40°から約95°の範囲の、より好ましくは約60°から約95°の範囲の、非常に好ましくは約80°から約95°の範囲の接触角を示し、およびさらに好ましくは分析物について極小の結合を示す。境界ゾーン4の表面は、好ましくは約95°より大、より好ましくは約105°より大、非常に好ましくは約115°より大の接触角を示し、およびさらに好ましくは液体試料について最小限の湿潤性を示す。
さらに図1aおよび1bに関して、本発明の好ましい一実施形態の試料提示器具は、分析ゾーン2の接触角が液体保持ゾーン3の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約20°、より好ましくは少なくとも約30°、および非常に好ましくは少なくとも約40°小さく、液体保持ゾーン3の接触角が境界ゾーン4の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約15°、および非常に好ましくは少なくとも約20°小さく、液体保持ゾーン3の表面積が分析ゾーン2の表面積よりも好ましくは少なくとも約4倍大きく、より好ましくは少なくとも約10倍大きく、および非常に好ましくは少なくとも約50倍大きく、および分析ゾーン2の表面積が好ましくは約2mm2未満であり、より好ましくは約0.2mm2ないし約1.8mm2の範囲にあり、および非常に好ましくは約0.4mm2ないし約1.6mm2の範囲にあるものである。
図2に関して、本発明の試料提示器具は基材5から成り、その表面はさらに、すべてが共通の境界ゾーン8によって囲まれている16対の同心の分析ゾーン6および液体保持ゾーン7から成る。この場合、対の標的および液体保持ゾーンは中心から9mmに配列され、そのためこれらの器具6個を組み合わせて標準的な96ウェルプレートに対応する形にすることが可能である。
さらに図2に関して、本発明の好ましい一実施形態の試料提示器具は、分析ゾーン6の接触角が液体保持ゾーン7の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約20°、より好ましくは少なくとも約30°、および非常に好ましくは少なくとも約40°小さく、液体保持ゾーン7の接触角が境界ゾーン8の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約15°、および非常に好ましくは少なくとも約20°小さく、液体保持ゾーン7の表面積が分析ゾーン6の表面積よりも好ましくは少なくとも約4倍大きく、より好ましくは少なくとも約10倍大きく、および非常に好ましくは少なくとも約50倍大きく、および分析ゾーン6の表面積が好ましくは約2mm2未満であり、より好ましくは約0.2mm2ないし約1.8mm2の範囲にあり、および非常に好ましくは約0.4mm2ないし約1.6mm2の範囲にあるものである。
分析ゾーンも液体保持ゾーンも図1aに図解される通りの円形である必要はないことに注意することが重要である。分析ゾーンおよび液体保持ゾーンの両方が、特定の用途について試料提示器具の性能を最適化するのに必要となりうるさまざまな形状を取りうる。加えて、分析ゾーンも液体保持ゾーンも図1aおよび2に図解される通りに互いに同心である必要はないことに注意することが重要である。分析ゾーンおよび液体保持ゾーンの両方が、特定の用途について試料提示器具の性能を最適化するために必要に応じて配置されうる。
図3に関して、本発明の試料提示器具は、隣接する配置に組織された三つの連続するゾーンからさらに成る表面を有する基材9から成り、分析ゾーン10の一部および液体保持ゾーン11の一部は互いについて連続しており、分析ゾーンおよび液体保持ゾーンの互いについて連続していない部分は共通の境界ゾーン12によって囲まれている。分析ゾーン10の表面は、好ましくは約40°未満、より好ましくは約30°未満、および非常に好ましくは約20°未満の接触角を示し、およびさらに好ましくは分析物について極小の結合を示す。液体保持ゾーン11の表面は、好ましくは約40°から約95°の範囲の、より好ましくは約60°から約95°の範囲の、非常に好ましくは約80°から約95°の範囲の接触角を示し、およびさらに好ましくは分析物について極小の結合を示す。境界ゾーン12の表面は、好ましくは約95°より大、より好ましくは約105°より大、非常に好ましくは約115°より大の接触角を示し、およびさらに好ましくは液体試料について最小限の湿潤性を示す。
さらに図3に関して、本発明の好ましい一実施形態の試料提示器具は、分析ゾーン10の接触角が液体保持ゾーン11の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約20°、より好ましくは少なくとも約30°、および非常に好ましくは少なくとも約40°小さく、液体保持ゾーン11の接触角が境界ゾーン12の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約15°、および非常に好ましくは少なくとも約20°小さく、液体保持ゾーン11の表面積が分析ゾーン10の表面積よりも好ましくは少なくとも約4倍大きく、より好ましくは少なくとも約10倍大きく、および非常に好ましくは少なくとも約50倍大きく、および分析ゾーン10の表面積が好ましくは約1mm2未満であり、より好ましくは約0.2mm2ないし約0.8mm2の範囲にあり、および非常に好ましくは約0.4mm2ないし約0.6mm2の範囲にあるものである。
分析ゾーンも液体保持ゾーンも図1a、2および3に図解される通りの円形である必要はないことに注意することが重要である。分析ゾーンおよび液体保持ゾーンの両方が、特定の用途について試料提示器具の性能を最適化するのに必要となりうるさまざまな形状を取りうる。
図4aに関して、本発明の試料提示器具は、さらに同心配置に組織された三つの連続するゾーンから成る表面を有する基材13から成り、中心の分析ゾーン14は液体保持ゾーン15に囲まれており、および液体保持ゾーン15は境界ゾーン16に囲まれている。図4bに関して、分析ゾーン14の形状(正方形)は、36個の領域のラスタに大きさが対応する点で、質量分析データの自動化取り込みを円滑にする。
図5に関して、本発明の試料提示器具は、96対の分析ゾーン18および液体保持ゾーン19から成る基材17から成り、その全部が共通の境界ゾーン20に囲まれている。この場合、対の同心ゾーンは標準的な96ウェルプレートに対応する中心から9mmに配置されている。液体保持ゾーン19は、液体保持能力を最大化しおよび隣接するゾーン間の距離を最小化するように延長される。蛇行パターンが試料提示器具の最初の二行に重ねられ、自動化画分回収中のクロマトグラフィー溶出液の液流の付着によって描かれる経路を示す。
さらに図5に関して、本発明の好ましい一実施形態の試料提示器具は、分析ゾーン18の接触角が液体保持ゾーン19の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約20°、より好ましくは少なくとも約30°、および非常に好ましくは少なくとも約40°小さく、液体保持ゾーン19の接触角が境界ゾーン20の接触角よりも好ましくは少なくとも約10°、より好ましくは少なくとも約15°、および非常に好ましくは少なくとも約20°小さく、液体保持ゾーン7の表面積が分析ゾーン6の表面積よりも好ましくは少なくとも約4倍大きく、より好ましくは少なくとも約10倍大きく、および非常に好ましくは少なくとも約50倍大きく、および分析ゾーン18の表面積が好ましくは約2mm2未満であり、より好ましくは約0.2mm2ないし約1.8mm2の範囲にあり、および非常に好ましくは約0.4mm2ないし約1.6mm2の範囲にあるものである。
試料提示器具の製造
本発明のさらに別の実施形態は、上述の試料提示器具を作製または製造するための方法を含む。たとえば、表面が一つ以上の 自己組織化単分子膜(SAM)から成り、使用されたSAMの間の差異に応じて別個のゾーンを形成する一実施形態では、本発明の試料提示器具は、公知の光パターン化技術によって作製されるさまざまなSAMゾーンを含みうる。したがって、本発明はさらに、一つの好ましい方法として光パターン化技術を用いる、SAMから成る試料提示器具を作製する方法を含む。
より一般的に、本発明の試料提示器具の基材の表面は、典型的には、当業者に公知である方法によって修飾またはパターン化されている。一例として、基材の表面は、試料提示器具の基材の表面を修飾しおよびその露出した表面が特定の化学を基材に与えうる自己組織化単分子膜(SAM)を適用することによって修飾またはパターン化されうる。特定の基材のための1°、2°、3°、または4°組成を含む選択されたさまざまなSAMは、基材の表面に独自の表面特性および性質を提供する。特に、複数のSAMの適用は、複数のゾーンを含み各ゾーンが異なる表面特性および性質を有するような、基材のパターン化を結果として生じる。SAMをパターン化する方法は本分野で公知であり、および、紫外光パターン化、フォトリソグラフィーによるパターン化、マイクロスタンピング、電子ビームパターン化、および反応性イオンエッチングを含む。
基材の表面上に作製されるゾーンは任意の形状でよく、円形が好ましい。加えて、ゾーンは他のゾーンに関して連続的または不連続であることができる、すなわち、ゾーンはすべてが互いに接触していてよく、または一つ以上のゾーンが一つ以上の他のゾーンと離れていてよい。試料提示器具の基材の表面上に作製されるゾーンは好ましくは、分析すべき試料に関して異なる湿潤性の複数のゾーンを有する。
本発明の別の一実施形態として、自動化データ取り込みを円滑にするように分析物を正確に位置決めすることができる試料提示器具を製造する方法が提供される。
より具体的には、表面をパターン化するための手法、適当な基材の選択、自己組織化単分子膜の調製、および表面修飾のための他の手法が下記に説明される。これらの説明は単に例示的でありおよび本発明の範囲を限定しない。
本発明の試料提示器具の表面は、好ましくは下記を含むがそれらに限定されないいくつかの手法によってパターン化される:(1)作製金属表面上でアルキルチオールから調製される自己組織化単分子膜(SAM)の紫外光パターン化;(2)作製金属表面でアルキルチオールから調製されるSAMのフォトリソグラフィーによるパターン化;(3)作製金属表面でアルキルチオールから調製されるSAMのマイクロスタンピング;および(4)ケイ素またはガラス表面でアルキルシランから調製されるSAMのフォトリソグラフィーによるパターン化;(5)電子ビームパターン化、および(6)反応性イオンエッチング。好ましくは、試料提示器具表面のパターン化は、両方とも参照により本開示に含まれる、米国特許第5,514,501号明細書に記載の紫外光パターン化処理の適用によって、または米国特許第5,512,131号明細書に記載のマイクロスタンピング処理によって達成される。代替的に、試料提示器具表面のパターン化は、文献に記載されおよび当業者に理解されるフォトリソグラフィーによるパターン化処理によって達成されうる。
図6aから6hに関して、金表面上のアルキルチオールから成るSAMの紫外光パターン化のための段階的処理が表される。最初に、シリコンウエハー(750μm)といった適当な基材21が、湿式法およびアルゴンプラズマエッチングの組み合わせによって適当に洗浄される。クロムまたはチタンおよびタングステン(9:1)の接着層(25〜50nm)がまずウエハーの表面に付けられ、次いで金22の薄膜(100〜1000nm)が付けられる。金属付着は単位時間当たり金属付着(厚み)について較正されたスパッタリング(蒸着)処理によって達成される。スパッタリング処理は完全なウエハーについてまたはウエハーから切り出された各切片について実施しうる。
図6bに関して、第一の単分子膜23は、0.05ないし5mMアルキルチオールを含むエタノール溶液中での1ないし24時間の期間の基材のインキュベートによって金表面上に集合する。表面修飾された基材を次いでエタノールで洗浄して過剰のアルキルチオールを除去しおよび窒素気流下で乾燥する。第一の単分子膜23は、約100°より大の接触角を示しおよびさらに液体試料について最小限の湿潤性を示す表面を与えるアルキルチオールから調製される。
図6cに関して、表面修飾された基材は、曝露ゾーン内に存在するモノマーを酸化しそれによって金表面について低いアフィニティを示すモノマースルホナートを生じるように酸素の存在下で、第一のマスク24を通した紫外光源への曝露によって光パターン化される。マスクの開口部25は、液体保持ゾーンに対応する大きさおよび形状の性質の生成を結果として生じる。
図6dおよび6eについて、続いての金表面の洗浄は、モノマースルホナートを除去し、および金の未修飾の領域26を与える。第二の単分子膜27は、0.05ないし5mMアルキルチオールを含むエタノール溶液中での1ないし24時間の期間の基材のインキュベートによって金表面上に集合する。表面修飾された基材を次いでエタノールで洗浄して過剰のアルキルチオールを除去しおよび窒素気流下で乾燥する。第二の単分子膜27は、約40°から約95°の範囲の接触角を示しおよびさらに分析物について極小の結合を示す表面を与えるアルキルチオールから調製される。
図6fについて、パターン化された基材は、曝露ゾーン内に存在するモノマーを酸化しそれによって金表面について低いアフィニティを示すモノマースルホナートを生じるように酸素の存在下で、第二のマスク28を通した紫外光源への曝露によってさらに光パターン化される。マスクの開口部29は、分析ゾーンに対応する大きさおよび形状の性質の生成を結果として生じる。
図6gおよび6hについて、続いての金表面の洗浄は、モノマースルホナートを除去し、および金の未修飾の領域30を与える。第三の単分子膜31は、0.05ないし5mMアルキルチオールを含むエタノール溶液中での1ないし24時間の期間の基材のインキュベートによって金表面上に集合する。表面修飾された基材を次いでエタノールで洗浄して過剰のアルキルチオールを除去しおよび窒素気流下で乾燥する。第三の単分子膜31は、約40°未満の接触角を示しおよびさらに分析物について極小の結合を示す表面を与えるアルキルチオールから調製される。
このように、金表面上でアルキルチオールから調製される自己組織化単分子膜の紫外光パターン化のための段階的処理が、本発明の試料提示器具を調製するために利用される。上述の金表面上でアルキルチオールから調製される自己組織化単分子膜の紫外光パターン化の処理は例でありおよび本発明は記載された処理だけに限定されない。
図7aから7hに関して、金表面上でのアルキルチオールから成るSAMのフォトリソグラフィーによるパターン化のための段階的処理が表される。シリコンウエハーといった適当な基材32が適当に洗浄され、および接着層および金の薄膜33(100〜1000nm)がその上にスパッタリングされる。
図7bに関して、第一の単分子膜34は、0.05ないし5mMアルキルチオールを含むエタノール溶液中での1ないし24時間の期間の基材のインキュベートによって金表面上に集合する。表面修飾された基材を次いでエタノールで洗浄して過剰のアルキルチオールを除去しおよび窒素気流下で乾燥する。第一の単分子膜34は、40°未満の接触角を示しおよびさらに分析物について極小の結合を示す表面を与えるアルキルチオールから調製される。
図7cに関して、表面修飾された基材はリソグラフィーの前にフォトレジスト35で被覆される。レジストはネガティブトーンでもまたはポジティブトーンでもよい。ネガティブレジストは曝露された領域でレジストの溶解度の低下を結果として生じ、それによってマスクに対してネガティブの像を与える。ポジティブレジストは曝露された領域でレジストの溶解度の上昇を結果として生じ、それによってマスクに対してポジティブの像を与える。ポジティブレジストの使用を示す。レジストは浸漬型の処理によって付けることができるが、しかし好ましくはスピンコーターを用いて付けられる。レジスト厚さおよび養生時間については取扱説明書がガイドラインとして用いられる。
図7dに関して、表面修飾された基材は、使用する特定のレジストと併用した使用に必要な紫外光源への曝露によって光パターン化される。フォトマスク36は、クロムオンクォーツ、マイラー(Mylar)、アセテート、および金属ステンシルを含むがそれらに限定されない、一般に用いられるいくつかの材料から調製することができる。マスクの開口部37は、分析ゾーンに対応する大きさおよび形状の性質の生成を結果として生じる。
図7eについて、基材は、使用したレジストに特異的な、レジストの曝露された部分を溶解する一方で紫外光源に曝露されない領域38は相対的に不溶性のままである市販の溶液を用いて最初に処理される。曝露されたレジストの除去後、曝露されたゾーン内のアルキルチオールモノマーを酸化しそれによって金表面について低いアフィニティを示すモノマースルホナートを生じるように、酸素プラズマまたはUV/オゾン処理を用いることができる。続いての金表面の洗浄は、モノマースルホナートを除去し、および金の未修飾の領域39を与える。
図7fに関して、第二の単分子膜40は、0.05ないし5mMアルキルチオールを含むエタノール溶液中での1ないし24時間の期間の基材のインキュベートによって金表面上に集合する。基材を次いでエタノールで洗浄して過剰のアルキルチオールを除去しおよび窒素気流下で乾燥する。第二の単分子膜40は、約40°から約95°の範囲の接触角を示しおよびさらに分析物について極小の結合を示す表面を与えるアルキルチオールから調製される。
図7gおよび7hについて、残りのフォトレジスト38は、未曝露のレジストを溶解することが知られているいくつかの有機溶媒の一つ(たとえばアセトン、1-メチル-2-ピロリジノン、など)を用いての基材のさらなる洗浄によって除去され、およびここで二つの特徴的なゾーンから成るパターン化された基材は、上記の通りのリソグラフィーの前にフォトレジスト41で被覆される。
図7iおよび7jについて、パターン化された基材は、上記の通り第二のフォトマスク42を通した紫外光源への曝露によって光パターン化される。マスクの開口部43は、液体保持ゾーンに対応する大きさおよび形状の性質の生成を結果として生じる。基材は、使用したレジストに特異的な、レジストの曝露された部分を溶解する一方で紫外光源に曝露されない領域44は相対的に不溶性のままである市販の溶液を用いて最初に処理される。曝露されたレジストの除去後、曝露されたゾーン内のアルキルチオールモノマーを酸化しそれによって金表面について低いアフィニティを示すモノマースルホナートを生じるように、酸素プラズマまたはUV/オゾン処理を用いる。続いての金表面の洗浄は、モノマースルホナートを除去し、および金の未修飾の領域45を与える。
図7kおよび7lに関して、第三の単分子膜46は、0.05ないし5mMアルキルチオールを含むエタノール溶液中での1ないし24時間の期間の基材のインキュベートによって金表面上に集合する。表面修飾された基材を次いでエタノールで洗浄して過剰のアルキルチオールを除去しおよび窒素気流下で乾燥する。第三の単分子膜46は、約100°より大の接触角を示しおよびさらに液体試料について最小限の湿潤性を示す表面を与えるアルキルチオールから調製される。最後に、残りのフォトレジスト44は、曝露されていないレジストを溶解することが知られているいくつかの有機溶媒の一つを用いて基材をさらに洗浄することによって除去され、三つの特徴的なゾーンから成るパターン化された表面を与える。
このように、金表面上でのアルキルチオールから成るSAMのフォトリソグラフィーによるパターン化のための段階的処理が、本発明の試料提示器具を調製するために利用される。描写されたパターン化の順序(分析ゾーン、続いて液体保持ゾーン、続いて境界ゾーン)は任意に選択されたこと、および逆の順序(境界ゾーン、続いて液体保持ゾーン、続いて分析ゾーン)もまた、説明された順序と同じように適当であることがわかることに注意すべきである。上述の金表面上でアルキルチオールから調製される自己組織化単分子膜のフォトリソグラフィーによるパターン化の処理は例でありおよび本発明は記載された処理だけに限定されない。
多数のアルキルチオールモノマーが、本発明の試料提示器具の調製に適している。アルキルチオールモノマーの合成、それらの単分子膜への集合、および集合した表面の表面張力についてのそれらの分類が記載されている(レイビニス(Laibinis), P. E.;パルマー(Palmer), B. J.;リー(Lee), S.-W. ;ジェニングズ(Jennings), G. K. (1998)『有機チオールの合成および金表面上での単分子膜への集合』("The Synthesis of Organothiols and Their Assembly into Monolayers on Gold")Thin Films, Vol. 24 (ウルマン(Ulman), A.編) pp.1-41, アカデミックプレス社(Academic Press)、カリフォルニア州サンディエゴ)、参照により本開示に含まれる。
前述の総説は、アルキルチオールSAMに随伴する末端部分を、集合した表面の表面エネルギーについて分類している。高度に湿潤性である表面を与えおよびしたがって分析ゾーンモノマーの調製に適する部分は:CO2H、B(OH)2、PO3H2、CONH2およびOHを含むがそれらに限定されない。前述の部分のそれぞれは、約40°未満の接触角を示す表面を与えることが報告されている。一般的に言って、高度に湿潤性である表面を与える部分は、水素結合受容体、水素結合供与体、およびその組み合わせから成る。中等度の湿潤性の表面を与えおよびしたがって液体保持ゾーンモノマーの調製に適する末端部分は:CN(60°、10)、O2CCCH3(63°、11)、CO2CH3(67°、10)、NHCOCH3(68°、11)、SCOCH3(70°、11)、OCH3(74°、11)、CONHCH3(76°、11)、NHCOCF3(77°、11)およびCO2CH2CH3(89°、10)を含むがそれらに限定されない。集合した表面に伴う接触角および対応するアルキル鎖長を括弧内に示す。一般的に言って、中等度に湿潤性である表面を与える部分は、双極子-双極子相互作用に関与する官能基から成る傾向がある。極小に湿潤性である表面を与えおよびしたがって境界ゾーンモノマーの調製に適する末端部分は:O(CH2)2CH3(104°、11)、O(CH2)3CH3(113°、16)、NHCO(CF2)7CF3(114.5°、2)、O(CH2)4CH3(115°、16)、O(CH2)5CH3(115°、16)、OCH2CF2CF3(118°、11)、および(CF2)5CF3(118°、2)を含むがそれらに限定されない。集合した表面に伴う接触角および対応するアルキル鎖長を括弧内に示す。一般的に言って、極小に湿潤性である表面を与える部分は、疎水性および疎油性の官能基から成る傾向がある。
好ましくは、本発明の試料提示器具の標的および液体保持ゾーンの両方が、集合した表面にタンパク質抵抗性を与えるモノマーから調製される。金表面上でアルキルチオールから調製されるいくつかのSAMが、タンパク質の吸着について具体的に特徴づけられている。これまでに報告されている、表面のうち最もタンパク質抵抗性であるのは、オリゴ(エチレンオキサイド)(OCH2CH2)単位を示すモノマーに由来するものである。これらの表面の有用性は、プライム(Prime)およびホワイトサイズ(Whitesides)によって最初に記載された(Prime, K. L. および Whitesides, G. M. J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 10714-21、参照により本開示に含まれる)。タンパク質吸着に抵抗する表面の構造-特性関係の研究が現れている(オスツニ(Ostuni), E.;チャップマン(Chapman), R. G.;ホルムリン(Holmlin), R. E.;タカヤマ(Takayama), S.;ホワイトサイズ(Whitesides), G. M. Langmuir, 2001, 17, 5605-5620, 参照により本開示に含まれる)。近年、いくつかの両性イオン性SAMがタンパク質吸着に対する良好な抵抗性を示すことが示されており(ホルムリン(Holmlin), R. E.; Chen, X.;チャップマン(Chapman), R. G.;タカヤマ(Takayama), S. ;ホワイトサイズ(Whitesides), G. M. Langmuir, 2001, 17, 2841-50,参照により本開示に含まれる)、およびしたがって、高度に湿潤性である表面およびタンパク質吸着に対する良好な抵抗性の組み合わせのために、分析ゾーンとして有用である可能性がある。
好ましい実施形態では、本発明の試料提示器具の分析ゾーンは、一般式I:HS(CH2)11-(OCH2CH2)mOHのモノマーから調製され、ここでmは3ないし7である。この一般式のモノマーは約30°から約38°の範囲の接触角を示す表面を与える。これらの表面は可能な最小の接触角を示さないが、それらは、タンパク質の結合を最小化することについて優れた性能のために好ましくは利用される。さらに、一般式Iの分析ゾーンモノマーは、好ましくは、約60°より大の接触角を示す表面を与える液体保持ゾーンモノマーと併せて用いられる。
同様におよび好ましくは、本発明の試料提示器具の液体保持ゾーンは、一般式II:HS(CH2)11-(OCH2CH2)mRのモノマーから調製され、ここでm=3から7、およびR基は表面張力および湿潤性に影響する末端部分である。好ましくはしかしそれに限定されず、R基はOCH3、OCH2CN、CO2CH3、CONHCH3、およびCO2CH2CH3部分の一つから選択される。前述の末端部分のそれぞれが、約62°から約89°の範囲にある接触角を示す表面を与える。
代替的におよび好ましくは、本発明の試料提示器具の液体保持ゾーンは、式HS(CH2)nOCH2C6H5のモノマーから調製されうる。末端ベンジル部分(CH2C6H5)は有機溶媒に溶解された試料について特に有用性を示し、および約90°の接触角を示す表面を与える。
好ましい実施形態では、本発明の試料提示器具の境界ゾーンは、分析物が水系緩衝液、有機溶媒、およびその混合物に溶解されている液体試料について最小限の湿潤性を与えるモノマーから調製される。末端にペルフルオロ化した部分を示すモノマーは、この点で特に有用性があることが示されている(ノード(Naud), C.;カラス(Calas), P.;ブランコー(Blancou), H.;コメーラス(Commeyras), A. J. Fluorine Chem., 2000, 104, 173-183, 参照により本開示に含まれる)。
本発明の好ましい一実施形態は、分析ゾーンが式HS(CH2)11(OCH2CH2)3OHのモノマーから調製され、液体保持ゾーンが式HS(CH2)11(OCH2CH2)3OCH3モノマーから調製され、および境界ゾーンが式HS(CH2)11OCH2CH2(CF2)5CF3のモノマーから調製されるものである。モノマーのこの組み合わせは、分析ゾーン、液体保持ゾーン、および境界ゾーンの接触角がそれぞれ約38°、62°および117°である表面を与える。
本発明の別の好ましい一実施形態は、分析ゾーンが式HS(CH2)11(OCH2CH2)30Hのモノマーから調製され、液体保持ゾーンが式HS(CH2)11OCH2C6H5のモノマーから調製され、および境界ゾーンが式HS(CH2)11OCH2CH2(CF2)5CF3のモノマーから調製されるものである。モノマーのこの組み合わせは、分析ゾーン、液体保持ゾーン、および境界ゾーンの接触角がそれぞれ約38°、91°および117°である表面を与える。
二種類のアルキルチオールモノマーから調製される混合(二成分)自己組織化単分子膜が、表面接触角および湿潤性を正確に調節するために利用されている(セマル(Semal), S.;バウシアー(Bauthier), C.;ブエ(Voue), M.;バンデン・エインデ(Vanden Eynde), J. J.; グッテバロン(Gouttebaron), R.;デ・コニンク(De Coninck), J. J Phys. Chem. B, 2000, 104, 6225-6232, 参照により本開示に含まれる)。接触角は、高度に湿潤性であるおよび中等度に湿潤性である表面を調製するために用いられるモノマーを混合することによって、40°より大の範囲にわたって調節されている。好ましくは,二成分SAMは、分析ゾーンまたは液体保持ゾーンのどちらかを調製するために利用される。代替的に,三重および四重自己組織化単分子膜を、分析ゾーンまたは液体保持ゾーンのどちらかを調製するために利用しうる。三重および四重SAMは、それぞれ、置換アルキルチオールおよびヘテロ置換非対称アルキルジスルフィド(すなわち,HS(CH2)11R1およびR2(CH2)11S-S(CH2)11R3)または二種類のヘテロ置換非対称アルキルジスルフィド(すなわち、R1(CH2)11S-S(CH2)11R2およびR3(CH2)11S-S(CH2)11R4の二世分混合物から調製される。
図8aから8lに関して、ケイ素表面上のアルキルシランから成るSAMのフォトリソグラフィーによるパターン化のための段階的処理が表される。アルキルジメチルクロロシラン、アルキルジメチルアルコキシシラン、アルキルトリハロシラン、またはアルキルトリアルコキシシランを用いた反応によるケイ素およびガラスの修飾は文献に記載されておりおよび当業者に理解される。
図8aに関して、シリコンウエハー、ガラスウエハー、または二酸化ケイ素を蒸着した金属基材といった適当な基材47を、アルキルシランの共有結合のために、表面夾雑物の除去および続いて表面の酸化によってシラノール(Si-OH)部分を生じることを含む処理によって、適当に活性化する。好ましくは、基材を酸素プラズマで短時間処理し、酸化溶液(ピラニア溶液)で洗浄し、および次いで再び酸素プラズマで処理し、4.9Si-OH/nm2付近の平均シラノール密度を示す活性化表面48を与える。
図8bに関して、表面活性化に続いて、第一のアルキルシラン単分子膜49がケイ素表面上に集合する。シラン化は、溶液の付着、または蒸着によってそのまま実施しうる。第一のアルキルシラン単分子膜49は好ましくは、100°より大の接触角を示しおよびさらに液体試料について最小限の湿潤性を示す表面を与えるアルキルシランから調製される。
図8cに関して、シラン化された基材はリソグラフィーの前にフォトレジスト50で被覆される。レジストはネガティブトーンでもまたはポジティブトーンでもよい。ネガティブレジストは曝露された領域でレジストの溶解度の低下を結果として生じ、それによってマスクに対してネガティブの像を与える。ポジティブレジストは曝露された領域でレジストの溶解度の上昇を結果として生じ、それによってマスクに対してポジティブの像を与える。図6を通じてポジティブレジストの使用を示す。レジストは浸漬型の処理によって付けることができるが、しかし好ましくはスピンコーターを用いて付けられる。レジスト厚さおよび養生時間については取扱説明書がガイドラインとして用いられる。
図8dに関して、光パターン化された基材は、使用する特定のレジストと併用した使用に必要な紫外光源への曝露によって光パターン化される。フォトマスク51は、クロムオンクォーツ、マイラー(Mylar)、アセテート、および金属ステンシルを含むがそれらに限定されない、一般に用いられるいくつかの材料から調製することができる。マスクの開口部52は、液体保持ゾーンに対応する大きさおよび形状の性質の生成を結果として生じる。
図8eおよび8fについて、基材は、使用したレジストに特異的な、レジストの曝露された部分を溶解する一方で紫外光源に曝露されない領域53は相対的に不溶性のままである市販の溶液を用いて最初に処理される。曝露されたレジストの除去後、さらなるシラン化の準備のために、酸素プラズマ処理を用いて表面54を活性化する。第二のアルキルシラン単分子膜55が活性化されたケイ素表面上に集合する。シラン化は、溶液の付着、または蒸着によってそのまま実施しうる。第二のアルキルシラン単分子膜55は、約40°から約95°の範囲の接触角を示しおよびさらに分析物について極小の結合を示す表面を与えるアルキルシランから調製される。
図8gおよび8hについて、残りのフォトレジスト53は、未曝露のレジストを溶解することが知られているいくつかの有機溶媒の一つ(たとえばアセトン、1-メチル-2-ピロリジノン、など)を用いた基材のさらなる洗浄によって除去される。二つの特徴的なゾーンから成るパターン化された基材は、上記の通りのリソグラフィーの前にフォトレジスト56で被覆される。
図8iおよび8jについて、パターン化された基材は、上記の通りフォトマスク57を通した紫外光源への曝露によって光パターン化される。マスクの開口部58分析ゾーンに対応する大きさおよび形状の性質の生成を結果として生じる。基材は次いで、使用したレジストに特異的な、レジストの曝露された部分を溶解する一方で紫外光源に曝露されない領域59は相対的に不溶性のままである市販の溶液を用いて処理される。曝露されたレジストの除去後、さらなるシラン化の準備のために、酸素プラズマ処理を用いて表面60を活性化する。
図8kおよび8lに関して、第三の単分子膜61が活性化されたケイ素表面上に集合する。シラン化は、溶液の付着、または蒸着によってそのまま実施しうる。第三のアルキルシラン単分子膜61は、約40°未満の接触角を示す表面を与えおよびさらに分析物について極小の結合を示す表面を与えるアルキルシランから調製される。最後に、残りのフォトレジスト59は、曝露されていないレジストを溶解することが知られているいくつかの有機溶媒の一つを用いて基材をさらに洗浄することによって除去され、三つの特徴的なゾーンから成るパターン化された表面を与える。
このように、ケイ素表面上でのアルキルシランから調製されるSAMのフォトリソグラフィーによるパターン化のための段階的処理が、本発明の試料提示器具を調製するために利用される。描写されたパターン化の順序(分析ゾーン、続いて液体保持ゾーン、続いて境界ゾーン)は任意に選択されたこと、および逆の順序(境界ゾーン、続いて液体保持ゾーン、続いて分析ゾーン)もまた、説明された順序と同じように適当であることがわかることに注意すべきである。上述のケイ素表面上でのアルキルシランから調製される自己組織化単分子膜のフォトリソグラフィーによるパターン化の処理は例でありおよび本発明は記載された処理だけに限定されない。
多数のアルキルシランが、本発明の試料提示器具の調製に適している。アルキルシランは大部分が市販されており、およびその合成および表面修飾における使用が理解されている。(シュライバー−レイク(Shriver-Lake), L. C. (1998)生体材料固定化のためのシラン修飾表面("Silane-modified surfaces for biomaterial immobilization")『分析における固定化生体分子:実践的手法』(Immobilized Biomolecules in Analysis : A Practical Approach (カス(Cass), T. およびリグラー(Ligler), F. S. 編)第1章、オックスフォード大学出版会(Oxford University Press)英国オックスフォード、参照により本開示に含まれる)。
上記に概説されたものとはいくらか異なる手法を用いて、活性化されたケイ素表面を、必要な湿潤性を与える末端部分を付加することによってさらに官能基化される求核部分を有する適当なアルキルシランを用いて最初に誘導体化しうる。代替的に、適当な末端部分を有するアルキルシランを利用可能な場合、表面は一段階で修飾しうる。本発明の試料提示器具の調製における使用に適した末端部分は、上に記載のものを含むがそれらに限定されない。
好ましい実施形態では、本発明の試料提示器具の分析ゾーンは最初に3-アミノプロピルトリメトキシシランから調製され、および次いでさらに官能基化されて一般式III:(XO)3Si-CH2CH2CH2NHCOCH2(OCH2CH2)nOHの固定化シランを与え、ここでXはケイ素表面または隣接する固定化シランのどちらかへの結合であり、およびnは4ないし8である。一般式IIIのモノマーは、約30°ないし約40°の範囲にある接触角を示す表面を与える。これらの表面は可能な最小の接触角を示さないが、それらは、タンパク質の結合を最小化することについて優れた性能のために好ましくは利用される。さらに、一般式IIIの分析ゾーンモノマーは、好ましくは、約60°より大の接触角を示す表面を与える液体保持ゾーンモノマーと併せて用いられる。
同様におよび好ましくは、本発明の試料提示器具の液体保持ゾーンは最初に3-アミノプロピルトリメトキシシランから調製され、および次いでさらに官能基化されて一般式IV:(XO)3SiCH2CH2CH2NHCOCH2(OCH2CH2)nR'の固定化シランを与え、ここでXはケイ素表面または隣接するモノマーのどちらかへの結合であり、およびnは4ないし8であり、およびR'基は表面張力および湿潤性に影響する末端部分である。好ましくはしかしそれに限定されず、R'基はisselectedfromoneofCH3、CH2CN、CH2CO2CH3、CH2CONHCH3、およびCH2CO2CH2CH3部分の一つから選択される。前述の末端部分のそれぞれが、約60°から約90°の範囲にある接触角を示す表面を与える。
好ましい実施形態では、本発明の試料提示器具の境界ゾーンは、一般式V:(CH3)2(X')SiCH2CH2-(CF2)7CF3の水性試料について最小限の湿潤性を与えるアルキルシランから一段階で調製され、式でX'は表面反応性部分である。
さまざまな代替的な表面修飾化学および表面パターン化手法を、本発明の試料提示器具を調製するために利用しうる。タンパク質抵抗性表面のパターン化について、物質のポリマー組成物が近年注目を集めている。アルキルチオールまたはアルキルシランSAMのどちらかから最初に調製されたパターン化された表面は、ポリマー組成物を表面へ移植することによって、またはポリマー組成物を表面から成長させることによってさらに官能基化されている(たとえば、フセマン(Husemann), M.;メセレイエス(Mecerreyes), D.;ホーカー(Hawker), J. L.;ヘドリック(Hedrick), R. S.;アボット(Abbott), N. L. Angew. Chem. Int. Ed. 1999, 3S, 647-649;シャー(Shah), R. R.; メセレイエス(Mecerreyes), D.; フセマン(Husemann), M.;リーズ(Rees), I.; アボット(Abbott), N. L.; ホーカー(Hawker), C. J.; ヘドリック(Hedrick), J. L. Macromolecules 2000,33, 597-605; およびヒュン(Hyun), J. およびチルコチ(Chilkoti), A. Macromolecules 2001, 34, 5644-5652,すべて参照により本開示に含まれる)。近年、ブロック共重合体の吸着による表面パターン化の第一報が出現した(デング(Deng), T.;ハー(Ha), Y. -H. ;チェン(Cheng), J, Y.;ロス(Ross), C. A.;トーマス(Thomas), E. L. Langmuir, 2002, 18, 6719-6722, 参照により本開示に含まれる)。SAMへ移植されたポリマー薄膜は、トリ(エチレングリコール)基を示すSAMと同等かまたはより良好な程度に、タンパク質の吸着に抵抗することが示されている(チャップマン(Chapman), R. G.;オスツニ(Ostuni), E.;リャン(Liang), M. N.;メルレニ(Meluleni), G.;キム(Kim), E.;ヤン(Yan), L.;ピア(Pier), G.;ウォーレン(Warren), H. S.;ホワイトサイズ(Whitesides), G. M. Langmuir 2001, 17, 1225-1233, 参照により本開示に含まれる)。
最も湿潤性が低い表面さえ、それにもかかわらず、非特異的な形であっても液体試料から一定の部分を保持しうることが理解される。そのような表面は実際、たとえば、以降の分析のための標的でない部分の除去によって分析物を濃縮する能力を高めることによって、本発明の試料提示器具の長所に寄与しうる。このことは、分析物の分析に干渉しうる非生物学的部分の保持に関連して特に有用でありうる。しかし、試料提示器具の表面はこの例だけに限られず、むしろ分析物を含む試料とは別々に取り扱いまたは処理されうる分析ゾーン以外の領域で部分を結合する表面を含みうる。実際、生化学分析法によって分析されうる任意の部分が、本発明の試料提示器具を用いて保持、保存、輸送および続いて分析されうる。本発明はしたがって、最も高い程度の湿潤性を有するゾーン以外のゾーンでのいくらかの保持を可能にし、およびそれらの部分の以降の分析が望ましい可能性がある。相当な量の目的の分析物は、しかし、典型的には最も高い程度の湿潤性を有するゾーン以外のゾーンに保持される。したがって、レーザー脱離スペクトル法による分析物分析の例の関連においては、最も高い湿潤性のゾーンに保持された標的分析物は、結合状態から試料提示器具の表面へ脱離しない。
試料提示器具の使用および用途
下記の本発明の試料提示器具のさまざまな使用および用途の説明は単に例示でありおよび本発明の範囲を限定しない。
本発明の試料提示器具はさまざまな分析技術および手順と組み合わせて多数の用途がある。したがって、本発明は前述の試料提示器具を使用するための方法を含む。より具体的には、本発明は、試料中の分析物の存在を同定するため、および、一つの試料提示器具上または複数の試料提示器具上のどちらかで複数の試料を分析するために、本発明の試料提示器具を使用する方法を含む。
液体試料中の分析物の検出、同定、または測定を可能にする事実上任意の分析方法を、本発明の試料提示器具と組み合わせて用いることができる。そのような分析方法の例は、MALDI-MSまたはエレクトロスプレーイオン化MSを含むがそれらに限定されない。試料提示器具は、試料提示器具分析ゾーンが高処理量データ取り込みを促進するような方法で構成されるMALDI-MSにおける使用のためといった、高処理量分析測定技術との組み合わせに特に適している。
本発明の試料提示器具はまた、液体試料、およびそれに含まれる分析物を操作するために用いることができる。試料提示器具の表面が有するように設計しうる異なる湿潤性特性および捕捉特性に基づいて、試料提示器具は、液体試料またはそれに含まれる分析物を、操作、濃縮、配置、保存、移動(機械的介入ありまたは無しで)、回収(機械的介入ありまたは無しで)、分析、修飾または処理(試料提示器具上で分析物修飾試薬の使用によって)、または分画するように設計することができる。さらに、本発明の試料提示器具を化学的または物理的刺激(たとえば、熱、紫外線、圧力、電磁放射線)に応じてこれらの機能のいずれかを達成するように設計することができるため、本発明の試料提示器具はこれらの機能を可逆的にまたは不可逆的に達成することができ、およびさらに、これらの機能のさまざまな組み合わせを外力に応じて実施することができる。
事実上任意の液体試料(および分析物)を、本発明の試料提示器具と関連して用いることができる。たとえば、本発明は、液体クロマトグラフィーから回収された画分を分析するのに用いることができる。本発明は、2Dゲル電気泳動から切り出されたタンパク質スポットから、またはアフィニティクロマトグラフィー(すなわちICAT)から回収された画分から調製された酵素消化物を分析するのに用いることができる。本発明はまた、表面プラズモン共鳴バイオセンサーから回収された試料を分析するのに用いることができる。本発明はまた、規格のマルチウェル形式ロボットおよび検定法を用いた1:1試料移動に用いることができる。実際、本発明の試料提示器具は、事実上任意の起源から得られた液体試料を、そのような試料が実験の結果であるか(たとえば上記の酵素消化物および表面プラズモン共鳴バイオセンサー試料例)、環境から得られたか(たとえば河川からの水質試料)、または生体から直接得られたか(たとえばヒト尿試料)であっても、取り扱いおよび操作するのに用いることができる。
本発明はまた、保存目的のためまたは以降の分析のために、試料の保存に用いることができる。すなわち、液体試料に含まれる分析物の検出および分析は、分析ゾーンへの液体試料の移動の直後に行う必要は無い。
このように、本発明のさまざまな実施形態は、試料/分析物取り扱い、および液体付着、保持、移動、配置および再配置、および保存を含むがそれらに限定されない、さまざまな液体取り扱い機能を果たす試料提示器具を提供する。本発明の試料提示器具のこれらのさまざまな使用の一部の例を提供する。
図9aから9fに関して、試料乾燥の処理におけるさまざまな段階が図解される。本発明の試料提示器具の断面図は、三つの特徴的なゾーンから成る基材62上に付加された表面を示し、中心の分析ゾーン63は液体保持ゾーン64に囲まれており、および液体保持ゾーン64はさらに境界ゾーン65に囲まれている。
図9bに関して、液体試料滴66を試料提示器具の表面に付けることは、まず結果として分析ゾーン63および液体保持ゾーン64の表面への試料滴容量の自発的な閉じ込めを生じる。試料滴閉じ込めは、境界領域65の限られた湿潤性に伴う表面張力の結果として生じる。付着に際して、試料滴の接触角は、液体保持ゾーン上に限定されて存在される滴のものとほぼ等しい。
図9cから9e,に関して、試料滴が蒸発のために乾燥する際、滴の半径および接触角の両方が、滴の半径が分析ゾーンの半径に一致するまで小さくなる。
図9fに関して、試料滴67の半径および分析ゾーン63の半径が一致する際、試料滴の接触角は分析ゾーン上に存在する滴の接触角とほぼ等しいことが見出される。試料滴が蒸発のために乾燥し続ける際、分析部卯が薄膜として分析ゾーンの表面に付着するため、試料滴の半径はそれ以上小さくならず、一定に留まる。このように、試料提示器具の表面に付着した最大約100μLの可変容量の水性試料は、乾燥に際して、分析ゾーンに相当する範囲内に閉じ込められた分析物の薄膜を与える。
たとえば、3.0mmの直径(約7.069mm2の表面積)を有する液体保持ゾーンおよび0.5mmの直径(約0.196mm2の表面積)を有する分析ゾーンを持つ本発明の試料提示器具は、液体保持ゾーンの表面積よりも約36倍小さい分析ゾーン表面積へ分析物の付着を閉じ込め、平均表面分析物濃縮の約36倍の上昇が付随する。結果として、原則的に上述の試料滴乾燥処理は、感度の約36倍の上昇を潜在的に与える。
図10aから10dに関して、分析ゾーンの非存在下で(液体保持ゾーン68および境界ゾーン69だけが存在する)、試料滴70は、半径の顕著な減少無しに乾燥し、液体保持ゾーン71の表面の大部分にわたる分析物の付着を結果として生じる。図10eから10hに関して、液体保持ゾーンの非存在下で(分析ゾーン72および境界ゾーン73だけが存在する)、試料滴74の容量は分析ゾーン72の液体保持能力によって制限される。試料滴74は、半径の顕著な減少無しに乾燥し、分析ゾーン75の表面の大部分にわたる分析物の付着を結果として生じる。
検出感度の顕著な上昇が、図9bから9fに説明する処理の結果として生じる。この現象は、図9aから9dおよび図10aから10dに関して非常に良く理解される。分析ゾーンの非存在下で(図10a参照)、図10a、68に表される液体保持ゾーンの単位面積当たり分析物表面濃縮は、合計の分析物濃縮を表面積で割ったものに等しい。図9aに表される分析ゾーンの存在下では、しかし、分析物の付着は分析ゾーンに閉じ込められ、単位面積当たり分析物表面濃縮は合計の分析物濃縮を分析ゾーンの表面積で割ったものに等しい。したがって、図9aに表される分析ゾーン63の存在は、図9aに表される分析ゾーン63の表面積に対する、図10aに表される液体保持ゾーン68の表面積の比に等しい、分析物の平均表面濃縮の増大を与える。分析ゾーンの表面積は液体保持ゾーンの表面積より顕著に小さいため、分析物付着を分析ゾーンの表面積に閉じ込めることは、質量分析に提示される分析物の平均表面濃縮の顕著な増加を結果として生じ、付随する検出感度の上昇を伴う。
たとえば、3.0mmの直径(約7.069mm2の表面積)を有する液体保持ゾーンおよび0.5mmの直径(約0.196mm2の表面積)を有する分析ゾーンを持つ本発明の試料提示器具は、液体保持ゾーンの表面積よりも約36倍小さい分析ゾーン表面積へ分析物の付着を閉じ込め、平均表面分析物濃縮の約36倍の上昇が付随する。結果として、原則的に上述の試料滴乾燥処理は、感度の約36倍の上昇を潜在的に与える。
検出感度の上昇を与える、分析ゾーンの分析物を閉じ込める特性が、図11aから11hに示される接触角分析像に実証される。図11aに関して、本発明の試料提示器具が約1.6mmODの値の液体保持ゾーンおよび約0.7mmODの値の分析ゾーンを伴って調製された。集束作用の観察を円滑にするため、分析ゾーンは中心から外れて配置された。水滴がバイオチップの表面に加えられ、および液体保持ゾーンおよび分析ゾーンに相当する表面積へ速やかに閉じ込められるのが観察された。最初の左側および右側接触角を記録し、および両方が57.1°であったことが見出され、液体保持ゾーンモノマーだけから調製された表面によって示されるのと一致する値であった。滴が蒸発のために乾燥する際(図11bから11hを参照)、観察された半径および接触角の両方が、滴の半径が分析ゾーンの半径に一致するまで小さくなった。さらに、滴が乾燥する際、滴が分析ゾーンの中心に来るように、滴の中心が右へ移動するのが観察された。図11hで記録された左側および右側接触角は両方とも35.4°であったことが見出され、分析ゾーンモノマーだけから調製された表面によって示されるのと一致する値であった。図11aから11hに表される画像の取り込みに伴って記録された滴の高さ、幅および接触角データを図12に図式的に要約する。
液体保持ゾーンの並外れた液体保持能力が図13に実証される。本発明の16部位試料提示器具の写真が、5μLから70μLの範囲にある試料滴容量の保持を示す。試料滴容量を有意に制限するように見える唯一の因子は、隣接する対の分析および液体保持ゾーンの相対的な近さである。
分析ゾーンの分析物を閉じ込める特性がさらに図14aおよび14bに実証される。第一の写真(図14a)は、16部位のうち8個の表面に付けた5μLから40μLの範囲にある試料滴容量を伴う本発明の16部位試料提示器具の写真である。試料滴のそれぞれは等量の可溶性色素を含んだ。第二の写真(図12b)は資料的を乾燥させた後の同じ試料提示器具である。色素は今、分析ゾーンの近くのバイオチップの表面上にある。比較のため、分析ゾーンおよび液体保持ゾーンの相対サイズがバイオチップに重ねられている。この場合、密に集束した分析物スポットの非存在下で生じる目に見える物質を与えるためには、過剰量の色素が必要であった。
本発明の試料提示器具は、下記から選択されるがそれに限定されない化学的および生物学的分析物の高感度質量分析検出を円滑にするため得に利用しうる:ペプチド、タンパク質、酵素、酵素基質、酵素基質アナログ、酵素阻害剤、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、糖質、オリゴ糖、多糖、アビジン、ストレプトアビジン、レクチン、ペプスタチン、プロテアーゼ阻害剤、プロテインA、アグルチニン、ヘパリン、プロテインG、コンカナバリンといった生体高分子;上記の生体高分子の断片、たとえば核酸断片、ペプチド断片、およびタンパク質断片;上記の生体高分子の複合体、たとえば核酸複合体、タンパク質-DNA複合体、遺伝子転写複合体、遺伝子翻訳複合体、膜、リポソーム、膜受容体、受容体リガンド複合体、シグナル伝達経路複合体、酵素-基質、酵素阻害因子、ペプチド複合体、タンパク質複合体、糖質複合体、および多糖複合体;および生体低分子、たとえばアミノ酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、糖、ステロイド、脂質、金属イオン、薬物、ホルモン、アミド、アミン、カルボン酸、ビタミンおよび補酵素、アルコール、アルデヒド、ケトン、脂肪酸、ポルフィリン、カロテノイド、植物生長調節因子、リン酸エステルおよびヌクレオシド二リン酸糖、合成低分子、たとえば医薬としてまたは治療上有効な物質、モノマー、ペプチドアナログ、ステロイドアナログ、阻害剤、突然変異誘発物質、発がん物質、細胞分裂抑制薬、抗生物質、イオノフォア、体謝拮抗剤、アミノ酸アナログ、抗菌剤、輸送阻害剤、表面活性剤(界面活性剤)、アミンを含む組み合わせライブラリ、色素、毒素、ビオチン、ビオチニル化合物、DNA、RNA、リシン、アセチルグルコサミン、プロシオンレッド、グルタチオン、アデノシン一リン酸、ミトコンドリアおよび葉緑体機能阻害剤、電子供与体、キャリヤーおよび受容体、プロテアーゼの合成基質およびアナログ、ホスファターゼの基質およびアナログ、エステラーゼおよびリパーゼの基質およびアナログ、およびタンパク質修飾試薬。さらに、本発明の試料提示器具によって取り扱うことのできる分析物は、非生物学的でもよく、および合成ポリマー、たとえばオリゴマー、および共重合体、たとえばポリアルキレン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリカーボネート、ポリビニルハロゲン化物、ポリシロキサン、および上記のうち任意の二つ以上の共重合体、およびたとえば農薬のような他の非生物学的分析物を含むがそれらに限定されない。
分析物は水系緩衝液、有機溶媒またはその混合物に溶解されうる。緩衝液は好ましくは、下記を含むがそれらに限定されない、揮発性成分から調製されるものから選択される:酢酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酢酸トリエチルアンモニウムおよび炭酸トリエチルアンモニウム、ギ酸トリエチルアンモニウム、酢酸トリメチルアンモニウム、炭酸トリメチルアンモニウム、およびギ酸トリメチルアンモニウム。高濃度の非揮発性界面活性剤(>0.1%)を含む水系試料は、界面活性剤の存在が分析ゾーンの分析物を閉じ込める特性を妨げうるため、分析前に脱塩すべきである。有機溶媒は好ましくは、下記を含むがそれらに限定されない、水系緩衝液と混和可能でありおよび生物学的分析物の溶解度を高めることが知られているものから選択される:酢酸、アセトン、アセトニトリル、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)、ギ酸、ヘプタフルオロ酪酸、メタノール、N-メチルピロリドン(NMP)、2,2,2-トリフルオロエタノールおよびトリフルオロ酢酸。
試料提示器具は、高沸点有機溶媒の蒸発を促進するため、または単に試料乾燥に必要な時間を減らすため、試料乾燥処理(ヒートブロックの表面上、赤外灯下または熱気流下)中に加熱されうる。
本発明の試料提示器具を用いて分析物を測定するための好ましい分析方法である、レーザー脱離飛行時間質量分析は、エネルギーを吸収しおよびそれによって分析物のイオン化を助ける材料(マトリクス)を、試料提示器具の表面に付けることを必要とする。生物学的分析物の検出のためのマトリクスとしてよく用いられる試薬は、トランス-3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸(シナピン酸、SA)、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(HCCA)および2、5-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)を含む。前述のマトリクスの水への限られた溶解度のため、これらの試薬のストック溶液はしばしば50%から100%の有機溶媒を含む。本発明の試料提示器具と併せて用いられる際、マトリクスを含むストック溶液は、試料を試料提示器具の表面へ加える前に水系試料に加えられる。代替的に,マトリクスを含むストック溶液は、試料付着および乾燥の後に試料提示器具の表面へ加えることができる。この場合、高い割合の有機溶媒を含むストック溶液が、好ましくは、分析ゾーンの表面に付着した分析物のストック溶液への溶解を最小にするために利用される。
本発明の試料提示器具の使用には多数の用途がある。本発明に用いることができる試料の種類の例は、分析前に全く処理を行わずに直接分析される試料、および、何らかの種類の処理を行った後に試料が分析される点で間接的に分析される試料を含むがそれらに限定されない。
分析前に全く処理を行わずに直接分析される試料の範疇に入る、本発明に用いることができる試料の種類の例は、体液;組織および細胞抽出物および画分;細胞、細菌、ウイルス;培地;環境由来の液体;環境空気標本;環境溶媒抽出物(土壌抽出物、固体廃棄物抽出物、拭き取り物からの溶出物、エアフィルターからの溶出物);法廷試料;およびライブラリ(組み合わせ化学、オリゴヌクレオチド、ペプチド、糖、脂質、細胞および成分;染色体、およびウイルスおよび他の大型タンパク質および核タンパク質集合物)を含むがそれらに限定されない。
間接的に、すなわち何らかの種類の処理を試料に行った後に分析される試料の範疇に入る、本発明に用いることができる試料の種類の例は、液体クロマトグラフィー(LC)結果;ガスクロマトグラフィー(GC)結果;ゲルからの溶出物;LC結果またはゲル溶出物に由来する消化試料;質量分析結果;表面プラズモン共鳴(SPR)または他のバイオセンサーからの溶出物;脱塩カラム結果;固相抽出結果;液相分画した環境試料;上記のいずれかについて誘導体化された試料;および他の化学的または物理的処理およびその任意の組み合わせを含むがそれらに限定されない。
本発明の試料提示器具はさらに、カラム液体クロマトグラフィーまたは電気泳動のどちらかを利用する分画系から回収された生物学的分析物の質量分析を円滑にする。特に、本器具の液体保持能力(クロマトグラフィー画分、電気泳動によって精製された試料、試料提示器具から回収された試料およびバイオセンサーから回収された試料の、予めの試料容量減少無しの直接回収を可能にする)ならびに試料の正確な位置決めおよび検出感度の上昇(自動化データ取り込みを可能にする)の組み合わせの結果として有用性が得られる。
本発明の試料提示器具が与える液体保持能力は、下記に限定されないがそれらを含む技術によって回収された画分の直接回収を可能にする:アフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィー、および列挙されたクロマトグラフィー手法のうち二つ以上の連続使用を含む直交分離から回収された画分。さらに、規格の96ウェル、384ウェルおよび1536ウェル形式で試料提示器具を利用できることは、マルチウェルプレート処理器具および実験用液体取扱ロボットでのバイオチップを基礎とする試料回収および処理を可能にする。結果として、試料提示器具は、プロテオミクスならびに化学およびバイオテクノロジーの分野の他の重要な領域の出現を支えるために必要な、高処理量質量分析プラットフォームを可能にするために利用することができる。
現在のタンパク質同定はしばしば、カラム液体クロマトグラフィーによってまたは2次元電気泳動ゲルから切り出されて精製されたタンパク質の酵素消化を含む。タンパク質消化物は一般的に、質量分析の前に、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)または固相抽出(SPE)での脱塩を必要とする。本発明の試料提示器具は、高速RPLCまたはSPEによって脱塩されたタンパク質消化物の、直接回収および以降の分析に適する。
具体例として、表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーは、タンパク質-タンパク質相互作用および他の生物学的相互作用を試験するために固定化タンパク質を利用する。残念ながら、分析物をバイオセンサーから回収するためには大容量の溶離液が必要であり、および試料中の分析物の濃度は低すぎて最適な質量分析はできない。本発明の試料提示器具は、バイオセンサー系から回収された分析物の直接回収に適する;バイオセンサー系にすでに組み込まれた試料回収器具に適合するように規格の96ウェル形式に構成することができ、および質量分析のための自動化試料回収を可能にするのに利用することができ、および大容量の液体試料を濃縮することができる。
公知の質量分析試料提示器具に伴う液体保持限界は、微量のクロマトグラフィー媒体を充填した小型ピペットチップ(たとえば、ジップチップ(ZipTips)(登録商標))の使用を含むさまざまなマイクロカラム液体クロマトグラフィー手法の開発を促進している。タンパク質消化物の脱塩を可能にし付随する試料容量の減少を伴うマイクロカラム手法は、試料を保持するための先行技術の質量分析器具へ試料を直接加えることを可能にするのに十分であることが報告された。本発明の試料提示器具は、マイクロカラムRPLCによって脱塩されたタンパク質消化物の直接回収および以降の分析に適する。
一般的に、本発明の試料提示器具は、上述の試料について下記を達成するために用いることができる:濃縮;希釈;位置決め;輸送;保存;分析のための提示;分画;洗浄;および使用後処理(消化、誘導体化、および溶出を含む)。この一覧は網羅的でなくおよび本発明の試料提示器具を用いることができるさまざまな用途に関して単に一般論として例を提供することが理解される。
試料が一旦本発明の試料提示器具に加えられ、および試料がそこで液体試料の動きについて上記で示した操作のいずれかを受ければ、下記の用途を試料提示器具自体についてまたは器具からの採取後に行うことができる:MALDI-MS;他の質量分析技術;表面プラズモン共鳴(SPR);蛍光;原子間力顕微鏡法(AFM);光学分光法;生物発光および化学発光;X線光電子分光法;偏光解析法;電気化学的検出;燐光;および紫外、可視および赤外分光法。これはそのような用途の一部のリストに過ぎないことが理解される。また、上記の分析のいずれも組み合わせおよび/または連続化しうること、および、適当な場合には、これらの分析を分析物について直接にまたは間接に実施しうることも理解される。
多数の使用領域が本発明の試料提示器具に適用可能であると考えられ、および、ゲノミクス、プロテオミクス、医薬ゲノミクス、生理機能学、トキシオミクス、メタボノミクス、新薬発見/医薬品開発/臨床試験モニタリング、毒性学、診断、環境、バイオセンサー、ならびに生物および化学兵器/バイオテロリズムといった領域を含むがそれらに限定されない。
試料提示器具の用途のいくつかの具体例を下記に説明する。下記の説明は単に例示でありおよび本発明の範囲を限定しない。
ゲノミクス:遺伝子型および表現型の問題への質量分析の応用は、イオン化の前に核酸分析物を脱塩するという不可欠な必須条件を有する。従来はこの脱塩は試料がMALDI源に配置される前に実施される。一実施形態では、X3形式の試料提示器具は、核酸分析物を濃縮することと同時に脱塩を達成することができる。この実施形態は、逆相捕捉ゾーンおよび分析物結合抵抗性分析ゾーンから成る。別の一実施形態はX4から成ることができ、二つの捕捉ゾーンおよび一つの分析ゾーンが用いられる。同心配置では、外側の捕捉ゾーンがポリヌクレオチド分析物を固定化捕捉プローブとの相補的ハイブリダイゼーションによって特異的に結合する;内側の捕捉ゾーンは上記の通り脱塩機能を行い、および分析ゾーンは検出のために分析物を提示する。これらの実施形態の両方で、同一チップ上での脱塩および分析のための提示の実行は、処理量を増大させ、試料損失を最小化し、およびコストを低下させる。
新薬発見/開発/臨床試験モニタリング:多数の医薬は人口の一部に対してのみ有効である。この現象の一例はハーセプチンという薬であり、これは乳がん患者の約30%だけに有用である。ハーセプチンの場合、感受性の遺伝的およびタンパク質基礎は医薬の設計に不可欠であったが、大部分の場合には、費用がかかりおよび時間がかかる臨床試験の前には可能な応答者と非応答者に人口を分けることができない。そのような臨床試験結果の解釈の主な課題の一つは、応答および非応答の生物学的および/または化学的根拠を理解することである。その知識を次いで、人口の標的化および医薬自体のさらなる改良の両方に用いることができる。
この問題に対する一つの手法は、治療の前、間、後の患者からプロファイル(たとえば、タンパク質、糖質、脂質)を入手し、およびこれらのプロファイルを治療結果と相関させることである。本器具のいくつかの実施形態を、そのような試験に用いることができる。患者から得られた試料(たとえば、血液、尿、組織)を、多次元液体クロマトグラフィーといった、上記の項で列挙した前処理法の一つ以上に供し、およびその方法によって生じた分画された材料を質量分析のための濃縮および提示用の器具に加えることができる。代替的に、最小限の処理に供した試料を、既知の特異性の捕捉ゾーンを持つ一つ以上の本器具に加えることができる。分析物を次いで、分析ゾーンへの移動前に相補的特異性の捕捉ゾーンへ、または直接に分析ゾーンへ移動させる。このように、異なる特異性を有する表面を、連続しておよび並行しての両方で、自動化した方法で、分画された分析物を質量分析のための同一の分析ゾーンに提示して、用いることができる。
質量分析は、プロファイル(完全な質量スペクトル)および目的の特定の分子を明瞭に同定する機会の両方を提供する。質量スペクトルを次いでデータベースに蓄積し、および多因子分析手法を適用してプロファイルを患者の応答と相関させることができる。この方法で、治療への応答の予測;治療への応答の監視;および治療への応答に影響する分子の同定:を可能にする、プロファイル中のパターンおよび/または特定の分子を発見することができ、それによってますます高度な医薬設計が可能になる。
科学研究のこの分野は、本明細書に記載のそれ以外と同様に、液体溶液中の分析物を測定する能力に大部分依存する。本発明の試料提示器具、およびここに記載のその使用は、さらなる研究を実施するために用いることができる重要な手法を表す。
環境:汚染物質の存在について環境試料を分析することは世界的な試みである。そのような研究が直面する具体的な問題の中でも、汚染物質は気体、液体、および固体物質中に存在しうるため、分析物の低い濃度、および試験しなければならない試料の多様性がある。一般的に、そのような分析は、回収、抽出、誘導体化、分画、および検出段階を含む。
本器具は環境試料の分析にいくつかの方法で用いることができる。これらの例は代表的であるが決して完全ではない。捕捉ゾーンを有する器具は、気体または液体媒体からの分析物の直接回収に用いることができる。たとえば、疎水性表面による水溶液からの残留疎水性農薬の捕捉は、時間がかかりおよび危険な廃棄物を生じる液/液抽出の代替になりうる。回収された物質を次いで直接に分析ゾーンへ移動させるか、分析ゾーンへの移動前に相補的特異性の捕捉ゾーンへの連続的または並行的移動によって分画するか、または上記の項で列挙した技術の一つ以上によって分析を可能にするために器具から移動させることができる。質量分析は一般的に残留農薬の同定に用いられるが、イムノアッセイといった他の技術を用いることができる。本器具はまた、上述の通り上に列記した環境分析のいずれかの段階の結果として生じる物質を提示および/または分画するために用いることができる。本器具は、分析物を誘導体化し、および変化した形でそれらを分析のために提示するためのプラットフォームとして用いることができる。たとえば、分子構造の明確な同定を可能にするために、器具上に固定化された農薬へシリルおよび/またはアセチル部分を加えることができる。
生物兵器および化学兵器/バイオテロリズム:米国政府は、軍事および非軍事の両方のシナリオにおいて化学物質および生物物質の検出を容易にするプラットフォームおよび分析技術の必要性に直面している。生物戦検出のための課題は、試料回収および無害な生物と有害な生物との識別を含む。生物物質に関する現在の戦場技術は、生体化合物をMSによって容易に検出することができる低分子へ変換する熱分解を利用する。ペプチドバイオマーカーに基づく技術の開発が大いに期待されており、なぜならそれは現行の方法よりも特異性が高くなるためである。兵器物質への個人の潜在的曝露を測定するための検査は、呼気検査または採血技術を含むべきである。警報装置としての独立型バイオセンサーもまた、公共の場または戦場での使用について高い関心が持たれる。これらの方法のすべてが、ロボットまたは他の遠隔手段による試料回収、前処理、および検出器への試料の提示において課題を提出する。試料を保存、操作、濃縮または精製できる技術、または現在用いられているエアロゾルインパクターに組み合わせることができる技術は、防衛機関の関心を引く可能性がある。本器具は、環境試料について説明されたのと同様の方法で、生物戦/バイオテロ検出に適用することができる。加えて、環境または体液試料から目的の微生物を回収し、重要なマーカーを放出するために細胞(またはウイルス)の処理を可能にし、およびそれらのマーカーを検出用に提示するために、特製の捕捉ゾーンを有する器具を設計することができる。
下記の実施例は、本発明の試料提示器具の組成、製造、および使用について追加の詳細を提供するが、単なる例示でありおよび決して本発明の範囲を限定しない。
実施例I
11-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルオキシ)ウンデカ-1-エン(1)の調製
褐色バイアル(40mL)に3.0mLの1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクタノール(13.7mmol)を入れ、およびこれに1.4mLの50%水酸化カリウム水溶液(13.7mmol)を加えた。溶液を80℃へ加温し、30分間かくはんし、および3.3mLの11-ブロモウンデカ-1-エン(1.5mmol)を加えた。TLC分析(ヘキサン)が開始物質が消費されたことを示すまで、反応を80℃にて52時間維持した。産物を室温まで冷却し、100mLの酢酸エチルへ加え、および水(2x50mL)および食塩水(1x50mL)で抽出した。酢酸エチル抽出物を硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過しおよび溶媒を減圧して蒸発し、油状の残渣を与えた。残渣をシリカゲルフラッシュカラム(50x300mm、0%酢酸エチル/ヘキサン、続いて10%酢酸エチル/ヘキサン)で精製した。目的の産物を含む画分を合わせ、および溶媒を蒸発させて、4.52g(64%)の1を無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 5.80 (m, 1H)、 4.95 (m, 2H)、 3.69 (t, J = 6.8 Hz, 2H)、 3.43 (t, J = 6.8 Hz, 2H)、 2.39 (m, 2H)、 2.03 (m, 2H)、 1.55 (m, 2H)、 1.36 (m, 2H)、 1.27 (broad m, 1 OH)。
実施例II
チオ酢酸S-[11-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルオキシ)ウンデシル]エステル(2)の調製
乾燥した丸底フラスコ(100mL)に1.0gの1(1.9mmol)をアルゴン下で入れ、および10mLの乾燥メタノールを加えた。結果として生じた溶液に、426μLのチオール酢酸(6.0mmol)、続いて52mgの2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(0.2mmol)を加えた。反応はホイルテントで覆い、および低圧水銀灯からの光に曝露した。4時間後、TLC分析(5%酢酸エチル/ヘキサン)が、開始物質が消費されてしまったことを示した。溶媒を減圧して蒸発し、油状の残渣を与えた。残渣をシリカゲルフラッシュカラム(40x300mm、0%酢酸エチル/ヘキサン、続いて5%酢酸エチル/ヘキサン)で精製した。目的の産物を含む画分を合わせ、および溶媒を蒸発させて、856mg(76%)の2を無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 3.69 (t, J= 6.8 Hz, 2H)、 3.43 (t, J= 6.8 Hz, 2H)、 2.39 (m, 2H)、 2. 31 (s, 3H)、 1.55 (m, 2H)、 1.33 (m, 2H)、 1.25 (broad m, 10H)。
実施例III
11-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルオキシ)ウンデカン-1-チオール(3)の調製
褐色バイアル(20mL)にテフロン被覆シリコンセプタムを付け、850mgの2(1.1mmol)を入れ、および5mLの3Nメタノール塩酸(15mmol)を加えた。結果として生じた溶液を40℃に4時間加温した。溶媒を除去し、782mg(98%)の3を無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 3.69 (t, J= 6.8 Hz, 2H)、 3. 43 (t, J= 6.6 Hz, 2H)、 2.51 (dd, J= 7.3, 7.6 Hz, 2H)、 2. 39 (m, 2H)、 1. 58 (m, 4H)、 1.32 (t, J= 8.0 Hz, 1H)、 1.25 (broad m, 12H)。
実施例IV
11-[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ウンデカ-1-エン(4)の調製
丸底フラスコ(200mL)に27.4mLのトリエチレングリコールモノメチルエーテル(171mmol)を入れ、および9.1mLの50%水酸化ナトリウム水溶液(114mmol)を加えた。淡黄色の溶液を80℃へ加温し、30分間かくはんし、および26.6mLの11-ブロモウンデカ-1-エン(114mmol)を滴下して加えた。TLC分析(100%酢酸エチル)が開始物質が消費されるのを示すまで、反応を80℃にて7.5時間維持した。産物を室温まで冷却し、50mLの水で希釈し、およびヘキサン(3x50mL)で抽出した。ヘキサン抽出物を合わせ、硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過しおよび溶媒を減圧して蒸発し、20g(56%)の4を透明な無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 5.81 (m, 1H)、 4.96 (m, 2H)、 3.68- 3.56 (m, 12H)、 3.44 (t, J= 6.8 Hz, 2H)、 3.38 (s, 3H)、 2.04 (m, 2H)、 1.57 (m, 2H)、 1. 36 (m, 2H)、 1.27 (broad s, 10H)。
実施例V
チオ酢酸S(11-[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ウンデシル)エステル(5)の調製
乾燥した丸底フラスコ(200mL)に5.0gの4(15.8mmol)をアルゴン下で入れ、および10mLの乾燥メタノールを加えた。これに、3.6mLのチオール酢酸(50mmol)、続いて434mgの2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(1.6mmol)を加えた。反応はホイルテントで覆い、および低圧水銀灯からの光に曝露した。15.5時間後、TLC分析(酢酸エチル/ヘキサン、1:3)が、開始物質が消費されてしまったことを示した。溶媒を減圧して蒸発し、強い硫黄様臭気を有する残渣を与えた。残渣をシリカゲルフラッシュカラム(40x300mm、30%酢酸エチル/ヘキサン、および50%酢酸エチル/ヘキサン)で精製した。目的の産物を含む画分を合わせ、および溶媒を蒸発させて、5.83g(94%)の5を無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 3.67-3. 54 (m, 12H)、 3.44 (t, J= 7.2 Hz, 2H)、 3.38 (s, 3H)、 2.86 (t, J= 7.2 Hz, 2H)、 2.32 (s, 3H)、 1.57 (m, 4H)、 1.36-1. 26 (broad m, 14H)。
実施例VI
11-[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ウンデカン-1-チオール(6)の調製
褐色バイアル(20mL)にテフロン被覆シリコンセプタムを付け、5.0gの5(12.7mmol)を入れ、および7mLの3Nメタノール塩酸(21mmol)を加えた。溶液を40℃に6時間加温した。溶媒を次いで減圧して蒸発し、4.40g(98%)の6を無色のワックス状ゲルとして与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13): δ 3.67-3. 54 (m, 12H)、 3.44 (t, J= 6.8 Hz, 2H)、 3.37 (s, 3H)、 2.51 (dd, J= 7.3, 8.0 Hz, 2H)、 1.57 (m, 4H)、 1.32 (t, J= 7.6 Hz, 1H)、 1.26 (broad m, 14H)。
実施例VII
2-[2-(2-ウンデカ-10-エニルオキシエトキシ)エトキシ]エタノール(7)の調製
丸底フラスコ(250mL)に67.0mLのトリエチレングリコール(0.5mol)を入れ、および8.0mLの50%水酸化ナトリウム水溶液(8mL,0.1mol)を加えた。溶液を100℃へ加温し、30分間かくはんし、および22.0mLの11-ブロモウンデカ-1-エン(0.1mol)を滴下して加え、臭化ナトリウムの沈澱を生じる暗黄色の溶液を与えた。TLC分析(メタノール/酢酸エチル/ヘキサン、1:1:8)が、開始物質が消費されるのを示すまで、反応を100℃にて2.5時間維持した。産物を室温まで冷却し、300mLの水の水で希釈し、およびヘキサン(3x100mL)で抽出した。有機抽出物を合わせ、食塩水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥し、およびろ過した。溶媒を減圧して蒸発し、油状の残渣を与えた。残渣をシリカゲルフラッシュカラム(50x400mm、メタノール/酢酸エチル/ヘキサン5:5:90)で精製した。目的の産物を含む画分を合わせ、および溶媒を蒸発させて、20.8g(69%)の7を透明な油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 5.78 (m, 1H)、 4.93 (m, 2H)、 3. 72-3.55 (m, 12H)、 3.42 (t, J= 7.2 Hz, 2H)、 2.64 (t, J= 5.6 Hz, 1H)、 2.01 (m, 2H)、 1.54 (m, 2H)、 1.34 (m, 2H)、 1.25 (broad s, 10H)。
実施例VIII
チオ酢酸S-(11-[2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エトキシウンデシル)エステル(8)の調製
乾燥した丸底フラスコ(100mL)に2.0gの7(6.6mmol)をアルゴン下で入れ、および10mLの乾燥メタノールを加えた。これに、2.85mLのチオール酢酸(40mmol)、続いて271mgの2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(1.0mmol)を加えた。反応はホイルテントで覆い、および低圧水銀灯からの光に曝露した。6時間後、TLC分析(メタノール/酢酸エチル/ヘキサン、1:1:8)が、開始物質が消費されてしまったことを示した。溶媒を減圧して蒸発し、黄色の油を与えた。油をシリカゲルフラッシュカラム(50x300mm、メタノール/酢酸エチル/ヘキサン、1:1:8)で精製した。目的の産物を含む画分を合わせ、および溶媒を蒸発させて、2.44g(98%)の8を淡黄色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 3.71-3. 54 (m, 12H)、 3.42 (t, J= 6.6 Hz, 2H)、 2. 83 (t, J= 7.2 Hz, 2H)、 2.66 (broad s, 1H)、 2.29 (s, 3H)、 1.52 (m, 4H)、1.36-1.23 (broad m, 14H)。
実施例IX
2-[2-[2-(11-メルカプトウンデシルオキシ)エトキシ]エトキシ]エタノール(9)の調製
褐色バイアル(20mL)にテフロン被覆シリコンセプタムを付け、2.40gの8(6.4mmol)を入れ、および5.0mLの3Nメタノール塩酸(15mmol)を加えた。結果として生じた溶液を40℃に4時間加温した。溶媒を次いで減圧して蒸発し、2.05g(95%)の9を無色のワックス状のゲルとして与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 3.72-3. 55 (m, 12H)、 3.43 (t, J= 6.8 Hz, 2H)、 2.71 (broad s, 1H)、 2.50 (dd, J= 7.6, 7.4 Hz, 2H)、 1.62-1. 52 (m, 4H)、 1.31 (t, J= 7.6 Hz, 1H)、 1.26 (broad m, 14H)。
実施例X
ウンデカ-10-エニル-オキシメチルベンゼン(10)の調製
乾燥した丸底フラスコ(100mL)に5.0gのウンデカ-10-エン-1-オール(29.4mmol)をアルゴン下で入れ、および25mLの乾燥N,N-ジメチルホルムアミドを加えた。結果として生じた溶液を0℃に冷却し、および2.16gの60%水素化ナトリウムを含む鉱油(45mmol)を一度に加えた。泡立つ混合物をアルゴン下で0℃にて30分間かくはんした。冷却しかくはんした溶液へ、7.7gのブロモメチルベンゼン(45mmol)を含む5mLの乾燥N,N-ジメチルホルムアミドを滴下して加え、および反応を室温まで温まらせる一方、3時間かくはんした。反応を100mLの酢酸エチルの緩やかな添加によって停止し、1N塩酸(2x50mL)および食塩水(1x50ml)で抽出した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過しおよび溶媒を蒸発し、油状の残渣を与えた(9.5g)。残渣をシリカゲルフラッシュカラム(50x300mm、94:5:1ヘキサン/トルエン/酢酸エチル)で精製し、および目的の産物を含む画分を合わせた。最後に、溶媒を減圧して蒸発し、7.1g(93%)の10を無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 7.32 (d, 4H)、 7.28 (m, 1H)、 5.81 (m, 1H)、 4.95 (m, 2H)、 4.49 (s, 2H)、 3.46 (t, 2H)、 2.03 (m, 2H)、 1.61 (m, 2H)、 1.35 (broad m, 4H)、 1.24 (broad s, 10H)。
実施例XI
チオ酢酸S-(11-ベンジルオキシウンデシル)エステル(11)の調製
ジャケット付き光反応容器(250mL)にまず5.0gの10(19.2mmol)および0.520gの2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(1.92mmol)を入れた。容器を密封し、脱気し、およびアルゴンで逆流置換した(数サイクル)。アルゴン下での一方、60mLの無水メタノールおよび0.520gのチオ酢酸(92mmol)を反応容器に注入し、および容器の内容をかくはんした。容器を再び脱気し、およびアルゴンで逆流置換した(数サイクル)。紫外灯を点灯し、および混合物をアルゴン下で一定にかくはんして3時間照射した。反応を連続的に冷却し(水ジャケット)および光反応処理中の温度は38℃未満を維持した。反応容器を室温まで冷却させ、および溶媒を蒸発させて淡黄色の油を与えた(10.8g)。油をシリカゲルフラッシュカラム(50x300mm、98:2ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、および目的の産物を含む画分を合わせた。最後に、溶媒を減圧して除去し、5.0g(77%)の11を無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 7.32 (d, 4H)、 7.28 (m, 1H)、 4.49 (s, 2H)、 3.46 (t, 2H)、 2.86 (t, 2H)、 2.31 (s, 3H)、 1.50-1. 66 (m, 4H)、 1.20-1. 40 (broad m, 14H)。
実施例XII
11-ベンジルオキシウンデカン-1-チオール(12)の調製
褐色バイアル(40mL)にテフロン被覆シリコンセプタムを付け、3.04gの11(9.03mmol)、続いて2mLのジクロロメタン、1mLのヘキサン、および12mLの4.9Nエタノール塩酸を入れた。結果として生じた溶液を40℃に4.5時間加温した。溶媒を次いで減圧して蒸発し、無色の油状の残渣(2.8g)を与えた。残渣をシリカゲルフラッシュカラム(25x450mm、9:1ヘキサン/クロロホルム)で精製し、および目的の産物を含む画分を合わせた。溶媒を減圧して蒸発し、2.5g(94%)の12を無色の油として与えた。1H NMR (400 MHz, CDC13) : δ 7.32 (d, 4H)、 7.28 (m, 1H)、 4.49 (s, 2H)、 3.46 (t, 2H)、 2.51 (q, 2H)、 1.55-1. 65 (m, 4H)、 1.20-1. 40 (broad m, broad t, 15H)。
実施例XIII
金被覆ケイ素基材上での自己組織化単分子膜の調製
シリコンウエハー(200mm、P型、プライムグレード(PrimeGrade)シリコン100)を角切りして個別の基材とし、および洗浄して基材当たり10個未満の粒子(0.16μmから3000μm)しかない表面を与えた。金属付着はCPA9900スパッタリング系にて基本圧力5x10-7mmで実施した。スパッタリング室内で、基材を洗浄し、およびアルゴンプラズマによってエッチングし、および、チタンおよびタングステン(1:9)の接着層を5Å/秒の速度で250Åの厚みまでスパッタリングした。金を次いで20Å/秒の速度で最大1000Åの厚みまでスパッタリングした。基材を取り出し前にアルゴン流下で冷却した。
単分子膜集合の前に、金被覆した基材を、アルゴンプラズマを用いた処理によって200Wにて300秒間洗浄した。基材をエタノールで洗浄し、および次いで、0.1mMの3(11-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-オクチルオキシ)ウンデカン-1-チオール)を含むエタノール溶液へ移し、および室温にて1ないし24時間の範囲の期間インキュベートした。最後に、表面修飾された基材を集合バスから取り出し、1000rpmにてエタノールでスピン洗浄し、および窒素気流下で乾燥した。表面修飾された基材に付けられた水滴(0.5μL)の前進接触角は114°から120°の範囲にあった。表面修飾された基材は、透明褐色の紫外線耐性蓋付きの、適合するプラスチック容器に保存した。
実施例XIV
パターン化された試料提示器具の調製
24個の表面修飾基材を上記の通りに調製し、特別製の配列治具に入れ、および液体保持ゾーンと大きさおよび形状が対応する性質を有する、ピンレジスターエッチングしたステンレス鋼シャドーマスク(0.002インチ)で覆った。治具を120W/cm2定格の低圧水銀光源を付けた空冷紫外養生系の動くベルトに付け、および1時間の期間にわたって45から75回、光源の下を通した。UV曝露後、基材を治具から取り出し、1000rpmにてエタノールでスピン洗浄し、および窒素気流下で乾燥した。曝露された基材を、0.1mMの6(11-[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ウンデカン-1-チオール)のエタノール溶液に入れ、および室温にて1ないし24時間の範囲の期間インキュベートした。パターン化された表面修飾基材を集合バスから取り出し、2400rpmにてエタノールでスピン洗浄し、および窒素気流下で乾燥した。液体保持ゾーンに付けられた水滴の前進接触角は60°から65°の範囲にあり、および境界ゾーンに付けられた場合は110°から119°の範囲にあった。
パターン化された表面修飾基材を特別製の配列治具に入れ、および分析ゾーンと大きさおよび形状が対応する性質を有する、第二のピンレジスターエッチングしたステンレス鋼シャドーマスクで覆った。治具を紫外養生系の動くベルトに付け、および1時間の期間にわたって45から75回、光源の下を通した。UV曝露後、基材を治具から取り出し、1000rpmにてエタノールでスピン洗浄し、および窒素気流下で乾燥した。曝露された基材を、0.1mMの9(2-[2-[2-(11-メルカプトウンデシルオキシ)エトキシ]エトキシ]エタノール)を含むエタノール溶液に入れ、および室温にて1〜24時間インキュベートした。最後に、二回パターン化された表面修飾基材を集合バスから取り出し、1000rpmにてエタノールでスピン洗浄し、および窒素気流下で乾燥した。分析ゾーンに付けられた水滴の前進接触角は47°未満であった。二回パターン化された表面修飾基材は、透明褐色の紫外線耐性蓋付きの、適合するプラスチック容器に保存した。
本発明のさまざまな実施形態が上記に説明されている一方、それらは単に例として示されおよび限定ではないことが理解される。特に、分析ゾーン、液体保持ゾーン、および境界ゾーンの物理的配列は上記の例によって限定されない。したがって、本発明の幅および範囲は、上述の典型的な実施形態のいずれによっても限定されない。
実施例XV
試料封じ込めおよび位置決め
検出感度の上昇を与える、分析ゾーンの分析物を閉じ込める特性が、図11aから11hに示される接触角分析像に実証される。図11aに関して、本発明の試料提示器具が、約1.6mmODの値の液体保持ゾーンおよび約0.7mmODの値の分析ゾーンを伴って調製された。集束作用の観察を円滑にするため、分析ゾーンは中心から外れて配置された。水滴がバイオチップの表面に加えられ、および液体保持ゾーンおよび分析ゾーンに相当する表面積へ速やかに閉じ込められるのが観察された。最初の左側および右側接触角を記録し、および両方が57.1°であったことが見出され、液体保持ゾーンモノマーだけから調製された表面によって示されるのと一致する値であった。滴が蒸発のために乾燥する際(図11bから11hを参照)、観察された半径および接触角の両方が、滴の半径が分析ゾーンの半径に一致するまで小さくなった。さらに、滴が乾燥する際、滴が分析ゾーンの中心に来るように、滴の中心が右へ移動するのが観察された。図11hで記録された左側および右側接触角は両方とも35.4°であったことが見出され、分析ゾーンモノマーだけから調製された表面によって示されるのと一致する値であった。図11aから11hに表される画像の取り込みに伴って記録された滴の高さ、幅および接触角データを図12に図式的に要約する。
実施例XVI
パターン化された試料提示器具の液体保持能力
液体保持ゾーンの並外れた液体保持能力が図13に実証される。本発明の16部位試料提示器具の写真が、5μLから70μLの範囲にある試料滴容量の保持を示す。試料滴容量を有意に制限するように見える唯一の因子は、隣接する対の分析および液体保持ゾーンの相対的な近さである。
実施例XVII
分析物誘導および濃縮
分析ゾーンの分析物を閉じ込める特性がさらに図14aおよび14bに実証される。第一の写真(図14a)は、16部位のうち8個の表面に付けた5μLから40μLの範囲にある試料滴容量を伴う本発明の16部位試料提示器具の写真である。試料滴のそれぞれは等量のHCCAを含んだ。図14bは、図14aに表された試料提示器具上の試料乾燥のために濃縮しおよび分析ゾーンへ導かれているHCCAの写真である。分析ゾーンおよび液体保持ゾーンの相対サイズが、比較のためにHCCAの上に重ねられている。
本発明のさまざまな実施形態が上記に説明されている一方、それらは単に例として示されておりおよび限定ではないことが理解される。特に、分析ゾーン、液体保持ゾーン、および境界ゾーンの物理的配列は上記の例によって限定されない。したがって、本発明の幅および範囲は、上述の典型的な実施形態のいずれによっても限定されない。