JP2007517992A - 高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法 - Google Patents

高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、溶媒中の超高モル質量ポリエチレンの溶液を作製する工程と;延伸比DRfluidを適用しながら、複数の紡糸孔を含有する紡糸プレートを介して溶液をエアギャップ中に紡糸して、流体フィラメントを形成する工程と;流体フィラメントを冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と;フィラメントから溶媒を少なくとも部分的に除去する工程と;延伸比DRsolidを適用しながら、前記溶媒の除去前、除去中、および/または除去後、少なくとも1つの工程でフィラメントを延伸する工程と;を含む高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法に関する。ここで、少なくとも50の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRagを適用し、DRspは紡糸孔中の延伸比でありかつDRagはエアギャップ中の延伸比であり、DRspは1超でありかつDRagは少なくとも1である。本発明はさらに、特定形状の紡糸孔を有する紡糸プレートに関する。

Description

発明の詳細な説明
本発明は、
a)溶媒中の超高モル質量ポリエチレンの溶液を作製する工程と;
b)延伸比DRfluidを適用しながら、複数の紡糸孔(spinhole)を含有する紡糸プレートを介して溶液をエアギャップ中に紡糸して、流体フィラメントを形成する工程と;
c)流体フィラメントを冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と;
d)フィラメントから溶媒を少なくとも部分的に除去する工程と;
e)延伸比DRsolidを適用しながら、前記溶媒の除去前、除去中、および/または除去後、少なくとも1つの工程でフィラメントを延伸する工程と;
を含む高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法に関する。本発明はさらに、前記方法で使用される特定形状の紡糸孔を有する紡糸プレートに関する。
かかる方法は、たとえば、特許公報国際公開第01/73173A1号パンフレットから公知である。この公開の実験の部には、
a)鉱油中の18dl/gの固有粘度を有する超高モル質量ポリエチレンホモポリマーの12質量%の溶液を作製する工程と;
b)約34までの延伸比DRfluidを適用しながら、16個の紡糸孔を含有する紡糸プレートを介して溶液をエアギャップ中に紡糸して、流体フィラメントを形成する工程と;
c)急冷水浴中で流体フィラメントを冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と;
d)トリクロロトリフルオロエタンで抽出することによりフィラメントから溶媒を除去する工程と;
e)16〜66の延伸比DRsolidを適用しながら、溶媒の除去後、少なくとも2つの工程でフィラメントを延伸する工程と;
を含む高性能ポリエチレン(HPPE)マルチフィラメント糸の製造方法が記載されている。
高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸とは、本明細書中では、少なくとも約4dl/gの固有粘度(135℃のデカリン溶液で測定したときのIV)を有する超高モル質量すなわち超高分子量のポリエチレン(UHPE)から作製された少なくとも10本のフィラメントを含有する糸を意味するものと解釈される。ただし、糸は、少なくとも3.0GPaの引張り強度かつ少なくとも100GPaの引張りモジュラス(これ以降では単に強度またはモジュラスと記す)を有するものとする。かかるHPPE糸は、ロープおよびコード、係船索、漁網、スポーツ用具、医療用具、ならびに耐弾複合材のような種々の半完成製品および最終用途製品に使用するのに興味深い材料を与える特性プロファイルを有する。
本発明の枠内では、マルチフィラメント糸とは、長さよりもはるかに小さい断面寸法を有する複数の個別フィラメントを含む細長体であると解釈される。フィラメントとは、連続フィラメントすなわち実質的に不定長のフィラメントであると解釈される。フィラメントは、種々の幾何形状または不規則形状の断面を有しうる。糸内のフィラメントは、互いに平行であっても絡み合っていてもよく、糸は、線状であっても、加撚されていても、それ以外の形で線状形態から外れたものであってもよい。
商業的に採算の合う操作では、高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法は、紡糸されたままの糸中に多数のフィラメントを有して中断することなく連続的にかつ高スループット率で実施しうることが重要である。一定した品質でHPPE糸を連続的に製造する場合、その方法は、好ましくは、比較的広い加工ウィンドウを有する。すなわち、糸の品質は、好ましくは、条件の変化をかなり許容しうるものでなければならない。
国際公開第01/73173A1号パンフレットにおいて、高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法では、エアギャップ中の延伸比およびエアギャップの寸法がフィラメントおよび糸の性質を決定するきわめて重要なパラメーターであることが示されている。均一な糸を得るために、エアギャップは、好ましくは、約3mmでなければならず、エアギャップを一定に保持することが不可欠であり、急冷浴の表面の摂動が存在してはならないことが強調されている。この公知の方法の欠点は、エアギャップの延伸比および寸法の小さい変動がプロセスの不安定を引き起こす点である。より特定的には、かかる変動により、さまざまな強度のフィラメントが得られるであろう。このため、後続の加工工程で、より弱いフィラメントに過大応力負荷がかかってフィラメントが破損するおそれがある。最大許容延伸比が固体状態のフィラメントに適用されると、指示強度レベルに達するので、この可能性はさらに増大する。製造中にいくつかのフィラメントが破壊されると、糸の品質および均一性が減少し、たとえば、糸に毛羽が発生したり、糸の引張り特性が低下したりする。あまりにも多くのフィラメントが破壊された場合、プロセスを中断して再スタートしなければならない可能性があり、さらには、糸切れの場合、プロセスは停止する。
したがって、高い加工安定性を示しかつ均一な高い引張り特性のマルチフィラメント糸を生じる高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法が必要とされている。
本発明によれば、工程b)で少なくとも50の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRagが適用される方法が提供される。式中、DRspは紡糸孔中の延伸比でありかつDRagはエアギャップ中の延伸比であり、DRspは少なくとも1でありかつDRagは1超である。
本発明に係る方法によれば、先行技術の方法よりも改良された加工安定性が提供され、フィラメントの破損が少なくなるので、より均一な改良された品質のHPPEマルチフィラメント糸が得られる。本方法によれば、固体状態の最大延伸比を適用することなく非常に高い強度のHPPE糸を作製しうるので、操作ウィンドウは著しく増大される。
本発明に係る方法の他の利点は、エアギャップ中で延伸するよりもはるかに良好な制御が可能である紡糸孔の形状を選択することにより延伸比DRspを設定しうる点である。さらなる利点は、紡糸孔中の延伸時の温度がエアギャップ中よりも良好な制御が可能である点である。ポリエチレン溶液のわずかな温度差でさえもそのレオロジー特性つまりその延伸挙動に強い影響を及ぼすことが知られている。このほかのさらなる利点は、より大きいエアギャップを適用しうるので、たとえば急冷浴の表面の動きから生じるような小変動の影響をあまり受けない点である。これらの利点は、紡糸されるフィラメントの数を増加させたときにさらに明瞭になる。したがって、好ましくは、紡糸プレート中の紡糸孔の数つまり紡糸されたままの糸中のフィラメントの数は、少なくとも50、100、150、200、またはさらに300である。
紡糸プレートは、当技術分野で紡糸口金とも呼ばれ、オリフィス、ダイ、アパーチャー、キャピラリー、またはチャネルとも呼ばれる複数の紡糸孔を含有する。紡糸孔は、長手方向および横方向に特定形状を有し、好ましくは円形断面であるが、得られるフィラメントの所望の形態に依存して、他の形状も可能である。本出願では、直径とは、有効直径を意味する。すなわち、非円形または不規則形状の紡糸孔の場合、外側境界を結ぶ想像線のうちの最大距離である。
本発明の枠内では、溶液中のポリエチレン鎖が紡糸孔中の細長い流動領域の結果として配向される場合、紡糸孔中で1超の延伸比が適用され、そうして得られた配向は、その後、分子緩和過程の結果として実質的に失われることはない。絞りゾーンを含む形状を有する紡糸孔を溶液が貫流した場合、かかる分子配向つまり1超の延伸比が得られる。ただし、絞りゾーンとは、8〜75°の範囲内の円錐角で直径が直径DからDまで漸進的に減少するゾーンであり、紡糸孔は、絞りゾーンの下流に0から25以下の長さ/直径比L/Dで一定直径を有するゾーンを含む。Lは、一定直径Dを有するゾーンの長さである。
円錐角とは、絞りゾーン内の対向壁表面の接線間の最大角を意味する。たとえば、円錐状またはテーパー状の絞りの場合、接線間の角度すなわち円錐角は一定であり、いわゆるトランペットタイプの絞りゾーンの場合、接線間の角度は、直径の減少に伴って減少するであろう。一方、ワイングラスタイプの絞りゾーンの場合、接線間の角度は、最大値を通るであろう。
75°超の円錐角では、乱流のような不安定性を生じるおそれがあり、分子の所望の細長配向は得られないであろう。好ましくは、円錐角は、60°以下、50°以下、より好ましくは45°以下である。円錐角が小さすぎると、ポリマー分子を配向させる効力が低下し、非常に長い紡糸孔になるであろう。好ましくは、円錐角は、少なくとも10°、より好ましくは少なくとも12°、またはさらに少なくとも15°である。
紡糸孔中の延伸比は、紡糸孔の開始の直径または断面および最終の直径における溶液の流速の比により表され、それぞれの断面積の比と等価であり、円筒状の孔の場合、開始および最終の直径の二乗の比すなわちDRsp=(D/Dと等価である。
紡糸孔中では、延伸の度合および条件を良好に制御しうるので、好ましくは、紡糸孔中の延伸比は、少なくとも2、5、10、15、25、40、またはさらに少なくとも50である。このほか、エアギャップ中の延伸比を一定にして紡糸孔中の延伸比を高くすると、得られる糸の引張り強度が高くなることが判明した。同一の理由で、特定の実施形態では、DRspはDRagよりも大きい。
紡糸孔はさらに、絞りゾーンの下流に一定直径Dのゾーンを含みうる。このゾーンは、25以下、好ましくは20以下、15、10以下、またはさらに5以下の長さ/直径比L/Dを有する。また、このゾーンの長さは、0でありうる。かかるゾーンは、紡糸孔中に存在する必要がある。この一定直径ゾーンの利点は、紡糸プロセスの安定性がさらに改良される点であるが、絞りゾーン内で導入された分子配向が実質的に失われないように、その長さを制限しなければならない。
注目される点として、国際公開第01/73173A1号パンフレットでは、図2から推定されるような約90°の円錐角のテーパー状の流入ゾーンと、10超、好ましくは25超または40超(実施例では40および100)の長さ/直径比L/Dで一定直径を有する下流ゾーンと、を有する紡糸孔を備えた紡糸プレートを適用する方法が開示されている。したがって、以上の規定によれば、この公知の紡糸孔中の延伸比は1.0である。
紡糸孔の最終直径は、全延伸比および所望のフィラメント厚さに依存して異なりうる。好適な範囲は0.2〜5のmmであり、好ましくは、最終直径は0.3〜2mmである。
紡糸孔はまた、2つ以上の絞りゾーンを含有することも可能であり、場合によりそれぞれに一定直径のゾーンが続く。そのような場合、類似の特性が、以上に述べたような各ゾーンに関連付けられる。
本発明に係る方法の特定の実施形態では、紡糸プレート中の紡糸孔はさらに、少なくとも5の比L/Dで少なくともDの一定直径かつ長さLを有する流入ゾーンを含む。かかるゾーンの利点は、上流の流動領域に由来する予配向が減少または消失しうるように溶液中のポリマー分子が少なくとも部分的に緩和しうる点である。これは、紡糸孔ごとにかなり異なる流動履歴および予配向度を生じる可能性のある複合供給チャネルを必要とする多数の紡糸孔の場合、とくに有利である。この流入ゾーンが長くなるほど、より多くの緩和が起こりうるので、流入ゾーンは、好ましくは、少なくとも10、15、20、またはさらに25のL/Dを有する。このゾーン内の流速は絞りゾーンを通過した後よりも著しく低く、緩和を起こすのに比較的小さいL/Dで十分であることが注目すべき点である。特定の長さを超えると、さらに増加させてもほとんどなんの影響も生じないが、そのような長い流入ゾーンでは、紡糸プレートが非常に厚くなるので、作製や取扱いがより困難になるであろう。したがって、流入ゾーンは、好ましくは、100以下または75以下もしくは50のL/Dを有する。最適な長さは、ポリエチレンのモル質量、濃度、および流速のような因子に依存する。
本発明に係る方法の好ましい実施形態では、少なくとも10個の紡糸孔を含む紡糸プレートが適用され、それぞれの円筒状紡糸孔は、少なくとも10のL/Dで一定直径Dを有する流入ゾーンと、10〜60°の範囲内の円錐角の絞りゾーンと、15以下のL/Dで一定直径Dを有する下流ゾーンと、を備えるが、指定の好ましい実施形態の任意の他の組合せも可能である。
本発明に係る方法では、紡糸孔を離れるときの流量よりもフィラメント冷却後の引取り速度を速くすることにより、紡糸孔を離れるときに流体フィラメントをさらに延伸することが可能である。冷却して固化させる前に適用されるこの延伸は、エアギャップ中の延伸比DRagと呼ばれ、先行技術ではドローダウンとも呼ばれる。引取り速度が流量に等しい場合、DRagは1.0でありうるが、一般的には、延伸比は、特定の最小DRfluidに達するように、適用されるDRspと組み合わせて最適化される。好ましくは、エアギャップ中の延伸比は、少なくとも2、5、または少なくとも10である。エアギャップの寸法はそれほど重要ではないと思われるが、好ましくは、すべてのフィラメントに対して一定かつ同一に保持され、数mm〜数cmでありうる。エアギャップが長すぎる場合、得られた配向の一部が分子緩和過程により解消される可能性がある。好ましくは、エアギャップは、約5〜50mmの長さである。
流体フィラメントに適用される流体延伸比DRfluid(DRsp×DRag)は、少なくとも50、好ましくは少なくとも100、200、またはさらに少なくとも250である。流体フィラメントにそのような高い延伸比を適用すると、ゲルおよび乾燥フィラメントの延伸度(DRsolid)が改良されかつ/または得られる糸の引張り強度が改良されたことが判明している。固体状態のフィラメントに適用しうる延伸比の最大値未満で、すでに引張り強度の所望のレベルまたはさらには最適レベルが得られることが判明している。適用しうる延伸比のそのような柔軟性は、プロセスの改良された加工安定性と同義である。なぜなら、適用される延伸比で、(より弱い)フィラメントに過大応力負荷がかかる可能性が減少し、フィラメント破損の頻度が低減されるからである。この効果は、おそらく、本方法において流体フィラメントの延伸の改良から得られるより高いフィラメント間の均一性に関連付けられるであろう。
本発明に係る方法で適用される超高モル質量ポリエチレンは、少なくとも4dl/g、好ましくは5〜40、8〜35、または10〜30、より好ましくは15〜25dl/gの固有粘度(135℃のデカリン溶液で測定したときのIV)を有する。固有粘度は、MやMのような実際のモル質量パラメーターよりも容易に決定しうるモル質量(分子量とも呼ばれる)の尺度である。IVとMとの間には、いくつかの経験的関係が存在するが、そのような関係は、モル質量分布に大きく依存する。式M=5.37×10[IV]1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書参照)によれば、4または8dl/gのIVは、それぞれ、約360または930kg/molのMと等価であろう。好ましくは、UHPEは、炭素原子100個あたり1個未満の側鎖、好ましくは炭素原子300個あたり1個未満の側鎖を有し、側鎖または分枝が通常少なくとも10個の炭素原子を有する線状ポリエチレンである。線状ポリエチレンはさらに、5モル%までの1種以上のコモノマー、たとえば、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、またはオクテンのようなアルケンを含有しうる。
好ましい実施形態では、UHPEは、側鎖として、少量の比較的小さい基、好ましくはC1〜C4アルキル基を含有する。特定量のかかる基によりクリープ挙動の改良された糸が得られることが判明している。しかしながら、あまりにも大きい側鎖またはあまりにも多量の側鎖は、加工とくにフィラメントの延伸挙動に悪影響を及ぼす。このため、UHPEは、好ましくはメチル側鎖またはエチル側鎖、より好ましくはメチル側鎖を含有する。かかる側鎖の量は、炭素原子1000個あたり、好ましくは20個以下、より好ましくは10個以下である。
本発明に係る方法で適用されるUHPEはさらに、少量、一般的には5質量%未満の慣用的添加剤、たとえば、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤などを含有しうる。UHPEは、単一のポリマーグレードでありうるが、2つ以上の異なるグレードの混合物、たとえば、IVもしくはモル質量分布および/または側鎖の数の異なる混合物でもありうる。
本発明に係る方法では、UHPEのゲル紡糸に好適な任意の公知の溶媒、たとえば、パラフィンワックス、パラフィン油もしくは鉱油、灯油、またはデカリンを使用することが可能である。本方法はデカリンやいくつかの灯油グレードのような比較的揮発性の溶媒の場合にとくに有利であることが判明している。
溶媒中のUHPEの溶液は、公知の方法を用いて作製可能である。好ましくは、二軸スクリュー押出機を適用してUHPE/溶媒スラリーから均一溶液を作製する。溶液は、好ましくは、計量ポンプにより一定流量で紡糸プレートに供給される。UHPE溶液の濃度は、広い範囲内で変化させることが可能であり、好適な範囲は、3〜25質量%であり、ポリエチレンのモル質量が大きいほど、低い濃度が好ましい。好ましくは、濃度は、15〜25dl/gの範囲内のIVを有するUHPEの場合、3〜15質量%である。
UHPE溶液は、好ましくは、長期間にわたり実質的に一定した組成である。なぜなら、これにより、さらに加工安定性が改良され、長期間にわたりより一定した品質の糸が得られるからである。実質的に一定した組成とは、UHPEの化学組成およびモル質量、溶液中のUHPEの濃度、ならびに溶媒の化学組成のようなパラメーターが、選択された値の近傍の特定の範囲内で変化することを意味する。
溶媒含有ゲルフィラメントの形態に流体フィラメントを冷却する処理は、エアギャップを通過した後、ガスフローを用いることによりまたは冷却液浴(好ましくは、UHPE溶液に対する非溶媒を含有する浴)中でフィラメントを急冷することにより行いうる。ガス冷却を適用する場合、エアギャップは、フィラメントが固化される前の空気中の長さである。好ましくは、急冷液浴は、エアギャップと組み合わせて適用される。この利点は、延伸条件がガス冷却よりも良好に規定され制御される点である。エアギャップと呼ばれるが、雰囲気は、空気と異なるものでありうる。たとえば、窒素のような不活性ガスの流動の結果としてまたはフィラメントから蒸発される溶媒の結果として存在するものでありうる。強制ガスフローが存在しないかまたは低流量のガスフローのみが存在することが好ましい。
好ましい実施形態では、フィラメントは、冷却液を含有する浴中で急冷される。この液体は、溶媒と混和せず、少なくとも流体フィラメントが急冷浴に入る位置で、フィラメントに沿って流動する。このようにして、フィラメントから滲出する溶媒を除去することが可能であり、これにより後続の工程でフィラメントの固着一体化を引き起こしうる。
ゲルフィラメントからの溶媒除去は、公知の方法により、たとえば、比較的揮発性の溶媒を蒸発させることにより、抽出液体を用いることにより、または両方法の組合せにより、行いうる。
本発明に係るポリエチレン糸の製造方法はさらに、溶液フィラメントの延伸に加えて、冷却後かつ溶媒を少なくとも部分的に除去した後、半固体もしくはゲルのフィラメントおよび/または固体のフィラメントに対して行われる少なくとも1つの延伸工程で、フィラメントを延伸することを含む。典型的には、少なくとも4の延伸比が適用される。好ましくは、延伸は、3つ以上の工程で、好ましくは、約120〜155℃の増加プロファイルを用いて異なる温度で行われる。(半)固体のフィラメントに適用される3工程の延伸比は、DRsolid=DRsolid1×DRsolid2×DRsolid3として表される。すなわち、それは、各延伸工程で適用される延伸比で構成される。
適用されるDRfluidに依存して約35までの延伸比DRsolidを適用することにより高い引張り特性を有する糸を取得しうることが判明している。本発明に係る方法におけるフィラメントの改良された延伸度の結果として、最大延伸比未満の延伸比、好ましくは10〜30の範囲内の延伸比を適用することにより、フィラメント破損を生じる危険性をごくわずかに抑えて、最大引張り強度を示すマルチフィラメントHPPE糸が得られる。公知の方法では、最大引張り特性は、一般的には、最大延伸比を適用することにより得られる。したがって、本方法の加工ウィンドウは、最新の方法よりも有意に広い。
本発明に係る特定の実施形態では、IVが15〜25dl/gの線状UHPEの3〜15質量%の溶液が、少なくとも10個の紡糸孔(ただし、紡糸孔は、10〜60°の範囲内の円錐角の少なくとも1つの絞りゾーンを含み、かつ絞りゾーンの下流に10未満の長さ/直径比L/Dで一定直径Dを有するゾーンを含む)を含有する紡糸プレートを介して、少なくとも100の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRagおよび10〜30の延伸比DRsolidを適用しながら、エアギャップ中に紡糸されるが、前記パラメーター設定値の他の組合せもまた、良好な結果を提供する。
本発明はさらに、高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造に好適な紡糸プレートに関する。この紡糸プレートは、以上に規定され記載されるような形状および好ましい特性を有する少なくとも10個の紡糸孔を含む。本発明に係る紡糸プレート中の紡糸孔の最小直径は、所望の全延伸比および所望の糸特性(フィラメント厚など)のような加工条件に依存して異なりうる。好適な範囲は0.2〜5mmであり、好ましくは、最小直径は0.3〜2mmである。前記紡糸プレートの利点は、高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法で適用されたときに、流体フィラメントの高い延伸度およびより広い加工ウィンドウの安定な紡糸プロセス(流体フィラメントの紡糸時にも(半)固体フィラメントの延伸時にも)が可能になり、高強度および個別フィラメント間の高い性質整合性を有する糸が得られる点である。
本発明に係る方法を用いて得られるHPPE糸は、種々のロープおよびコード、漁網、スポーツ用具、医療用具、および耐弾複合材のようなさまざまな用途の種々の半完成物品および最終用途物品の製造に非常に有用である。ロープとしては、とくに、錨操作、地震探査、掘削リグおよび生産プラットフォームの係留、ならびに曳航のような海洋および沖合の操作に適用される高耐荷重性ロープが挙げられる。耐弾複合材は、HPPE糸から作製された織布または不織布をベースとしうる。不織布の例は、一方向配向フィラメント層を含有するシート材料である。
以下の実施例および比較実験により、本発明についてさらに明確に説明する。
方法
・ IV: 方法PTC−179(ハーキュリース・インコーポレーテッド(Hercules Inc.)、1982年4月29日改定)に準拠して、135℃で、デカリン中で、16時間の溶解時間で、酸化防止剤として所定量の2g/l溶液のDBPCを用いて、さまざまな濃度で測定された粘度を濃度ゼロに外挿することにより、固有粘度を決定する;
・ 側鎖: FTIRにより、厚さ2mmの圧縮成形フィルムで、NMR測定に基づく検量線を用いて1375cm−1で吸収を定量することにより、UHMWPEサンプル中の側鎖の数を決定する(たとえば、EP0269151号明細書参照);
・ 引張り特性: マルチフィラメント糸で、ASTM D885Mに明記されるように、500mmの公称ゲージ長の繊維、50%/分のクロスヘッド速度、およびインストロン2714(Instron 2714)クランプを用いて、引張り強度(または強度)、引張りモジュラス(またはモジュラス)、および破断点伸びを規定し、決定する。測定された応力−歪曲線に基づいて、0.3〜1%歪みにおける傾きとしてモジュラスを決定する。モジュラスおよび強度を計算するために、測定された引張り力を、10メートルの繊維を秤量することにより決定されるタイターで割り算し;0.97g/cmの密度を仮定してGPa単位の値を算出する。
実施例1
38/62〜42/58の比のシス/トランス異性体を含有するデカリン中の、炭素原子1000個あたり0.3個未満の側基および19.8dl/gのIVを有するUHPEポリマーの9質量%の溶液を作製し、そしてギヤーポンプを備えた40mm二軸スクリュー押出機を用いて180℃の温度設定値で390個の紡糸孔を有する紡糸プレートに孔1個あたり2.2g/分の速度で通してエアギャップ中に押し出した。紡糸孔は、直径が1.0mmかつL/Dが10の円筒状チャネルに60°の円錐角で円錐状に絞り込まれて接続された直径が3.0mmかつL/Dが18の開始円筒状チャネルを有していた。約40℃に保持されかつ浴に入るフィラメントに垂直に約5cm/sの水流量を有する水浴中で、溶液フィラメントを冷却し、そして20mmのエアギャップ中の紡糸されたままのフィラメントに12の延伸比が適用されるような速度で引き出した。適用延伸比DRfluid=DRsp×DRag=9×12=108。
その後、(半)固体状態延伸により、2工程で、最初に、約110〜140℃の温度勾配で、次いで、約151℃で、フィラメントを延伸した。その処理の間、デカリンは、フィラメントから蒸発した。2時間かけて糸切れによる中断を起こすことなく行われる安定性がプロセスに欠如するまで、いくつかの逐次実験で、延伸比DRsolidを段階的に増加させた。得られた糸の延伸比および引張り特性に関するデータを表1に示す。結果は、図1にも示されている。
比較実験A
この一連の実験では、15mmのエアギャップ中の延伸比を4.4まで低下させてDRfluidを40にした以外は、実施例1と同様であった。実施例1と同じように対応するDRsolidについて測定された引張り強度は、有意に低く、値の水平化もプラトー値も示さなかった。表1のデータおよび図1からわかるように、最も高い引張り特性は、最臨界の加工条件で得られた。
実施例2
これらの実験は、次の変更を加えて、以上のときと同じように行われた。紡糸プレートは、直径3.5mmかつL/D=18の流入チャネルと、円錐角60°の絞りゾーンと、直径1.0mmかつL/Dが10の後続チャネルと、を備えた390個の孔を有していた。この結果、DRspは、12.25であり、40mmのエアギャップ中の延伸比は、22.6であった。溶液紡糸速度は、孔1個あたり1.7g/分であった。安定な工程で約23〜27の範囲内の固体状態延伸比を用いて、約4GPaの引張り強度を有する糸を作製することが可能であった。
実施例3
以上の実験と同じように、ギヤーポンプを備えた130mm二軸スクリュー押出機を用いて、直径3.5mmかつL/Dが18の流入ゾーンと、円錐角60°の円錐状絞りゾーンと、直径0.8mmかつL/Dが10の後続キャピラリーと、を有する588個の紡糸孔を含有する紡糸プレートを介して、IVが19.8dl/gのUHPE8質量%を含有するデカリン溶液から、紡糸孔1個あたり2.2g/分の紡糸速度で、マルチフィラメント糸を紡糸した。したがって、紡糸孔中の延伸比は19.1であり、エアギャップ中の延伸比は、16.2であった。冷却浴中の水流量は、約6cm/sであった。固体フィラメントに適用された延伸比の関数として糸の引張り特性を表1および図1に示す。20〜39の範囲内のDRsolidを用いて、約4.1GPaの強度の糸を非常に安定に製造することが可能であった。
比較のために、国際公開第01/73173号パンフレットからの2つのデータ点を図1に含めた。この比較実験Kおよび実施例1は、DRfluid=DRag=6かつそれぞれ16および27のDRsolidを用いて他の条件を一定にして作製されたものである。
Figure 2007517992
得られた糸の延伸比および引張り特性に関するグラフである。

Claims (15)

  1. a)溶媒中の超高モル質量ポリエチレンの溶液を作製する工程と;
    b)延伸比DRfluidを適用しながら、複数の紡糸孔を含有する紡糸プレートを介して前記溶液をエアギャップ中に紡糸して、流体フィラメントを形成する工程と;
    c)前記流体フィラメントを冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と;
    d)前記フィラメントから前記溶媒を少なくとも部分的に除去する工程と;
    e)延伸比DRsolidを適用しながら、前記溶媒の除去前、除去中、および/または除去後、少なくとも1つの工程で前記フィラメントを延伸する工程と;
    を含む高性能ポリエチレンマルチフィラメント糸の製造方法であって、
    工程b)で少なくとも50の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRagを適用し、式中、DRspが前記紡糸孔中の延伸比であり、かつDRagがエアギャップ中の延伸比であり、DRspが1超であり、かつDRagが少なくとも1であることを特徴とする、方法。
  2. 前記紡糸プレートが少なくとも100個の紡糸孔を含有する、請求項1に記載の方法。
  3. 前記紡糸孔が、8〜75°の範囲内の円錐角で直径が直径DからDまで漸進的に減少する絞りゾーンを含む形状を有し、かつ前記紡糸孔が、絞りゾーンの下流に0から25以下の長さ/直径比L/Dで一定直径Dを有するゾーンを含む、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記円錐角が10〜60°である、請求項1または2に記載の方法。
  5. 前記紡糸孔中の延伸比が少なくとも5である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記紡糸孔中の延伸比が少なくとも10である、請求項5に記載の方法。
  7. 前記紡糸孔がさらに、絞りゾーンの下流に一定直径Dのゾーンを含み、このゾーンが、20以下の長さ/直径比L/Dを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記比L/Dが15以下である、請求項6に記載の方法。
  9. 前記紡糸孔がさらに、少なくとも5の比L/Dで少なくともDの一定直径を有する流入ゾーンを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記比L/Dが少なくとも10である、請求項8に記載の方法。
  11. 少なくとも10個の紡糸孔を含む紡糸プレートが適用され、それぞれの円筒状紡糸孔が、少なくとも10のL/Dで一定直径Dを有する流入ゾーンと、10〜60°の範囲内の円錐角の絞りゾーンと、15以下のL/Dで一定直径Dを有する下流ゾーンと、を備える、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 流体フィラメントに適用される前記流体延伸比DRfluidが少なくとも100である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
  13. IVが15〜25dl/gの線状UHPEの3〜15質量%の溶液が、少なくとも10個の紡糸孔(ただし、前記紡糸孔は、10〜60°の範囲内の円錐角の絞りゾーンを含み、かつ絞りゾーンの下流に10未満の長さ/直径比L/Dで一定直径Dを有するゾーンを含む)を含有する紡糸プレートを介して、少なくとも100の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRagおよび10〜30の延伸比DRsolidを適用しながら、エアギャップ中に紡糸される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
  14. 請求項3〜13のいずれか一項に記載の形状の少なくとも10個の紡糸孔を含む紡糸プレート。
  15. 少なくとも100個の紡糸孔を含有する、請求項14に記載の紡糸プレート。
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