JP2007512221A - 疎水性キレート化合物を含有するリポソームを含む造影剤 - Google Patents
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Abstract
疎水性キレート化合物を膜構成成分として含むリポソーム、及び該リポソームを含み、好ましくは血管疾患の造影に用いるためのMRI造影剤。動脈硬化などの血管平滑筋細胞の異常増殖に起因する血管疾患部位に集積するMRI造影剤を提供する。
Description
本発明は動脈硬化巣のMRI造影剤に関する。
現代社会、特に先進国社会においては、高カロリー・高脂肪の食事を取る機会が増大している。そのために、動脈硬化症が原因となる虚血性疾患(心筋梗塞・狭心症等の心疾患、脳梗塞・脳出血等の脳血管疾患)の死亡者数が増加しており、この症状を初期の段階で診断し適切な治療を行うことが求められている。しかし、上記疾患が発症する以前に動脈硬化の進行を初期の段階で診断する満足できる方法は存在しない。
動脈硬化症の診断方法としては、非侵襲的な方法と、動脈にカテーテル等を挿入する侵襲的な方法に大別される。このうち非侵襲的方法の主なものはX線血管造影と超音波であるが、初期の動脈硬化、特に心筋梗塞や狭心症の原因となる冠状動脈の狭窄を初期の段階で発症前に検出することはほとんど不可能である。
侵襲的な方法としては、血管内エコー、血管内視鏡等が用いられている。これらの方法によると動脈硬化の病巣を0.1mmの厚さまで測定することが可能と言われている。しかし、これらの方法は、カテーテルの先に装着した超音波発振器、内視鏡を動脈内に挿入する必要がある。これは患者に大きな肉体的精神的な負担を強いると共に、危険も伴う。従って、心筋梗塞等の発作をおこした患者の治療や二次予防のために実施されてはいるものの、発症以前の人に動脈硬化の有無もしくは進行を診断する目的には使用できない。
非侵襲的方法のうち、動脈の狭窄部位の特定に最も広く用いられているのはX線血管造影である。これは、水溶性のヨード造影剤を投与することにより血液の流れを造影し、その流れが滞っている箇所をみつける方法である。しかしこの方法では、通常狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することは困難である。
これとは別に、疎水性ヨード造影剤もしくは親水性造影剤を製剤化し、目的とする疾患部位に選択的に集積させる試みが報告されている。(特開2003-55196号、国際公開WO95/19186、同WO95/21631、同WO89/00812、英国特許第867650号、国際公開WO96/00089、同WO94/19025、同WO96/40615、同WO95/2295、同 WO98/41239、同WO98/23297、同WO99/02193、同WO97/06132、米国特許第4192859号明細書、同4567034号明細書、同4925649号明細書、 Pharm. Res., 16(3), 420 (1999), J. Pharm. Sci.,72(8),898 (1983), Invest. Radiol., 18(3), 275 (1983))。例えば特開2003-55196号には、疎水性ヨード化合物をリポソームに封入することにより、該ヨード化合物が実験動物の動脈硬化部位に集積することが開示されている。しかし、これらの方法では血管疾患を選択的に造影する目的のために多量の造影剤を投与する必要があり、毒性の発現が問題となる。
最近、種々の病変部を画像として捉えるNMRイメージング法(MRI)が、非侵襲的・非破壊的な臨床診断法の一つとして注目されている。通常のMRI測定では、病変部と正常部組織との間のコントラストを高める目的でMRI試薬(造影剤)の使用を必要とする場合が多い。
造影剤によって操作することができるMRIの主たる造影パラメーターは、スピン-格子緩和時間(T1 )とスピン−スピン緩和時間(T2)である。例えば、マンガン(2+)、ガドリニウム(3+)および鉄(3+)を基剤とした常磁性キレートはスピン-格子緩和時間(T1 )を減少させ、それによってシグナル強度を増加させる。磁性/超常磁性粒子を基剤としたMRI造影剤はスピン-スピン緩和時間(T2)を減少させ、シグナル強度の減少を引き起こす。
ジスプロシウムを基材とした常磁性キレートや常磁性化合物の大量投与もまたMRシグナル強度を減少させる。MRI造影剤(その幾つかは開発中であるかまたは市販されている)の詳細は、例えばD.D. Stark およびW.G. Bradley: Magnetic Resonance Imaging, Mosby 1992, Chapter 14に記載の総説に記載されている。
MRI造影剤として現在報告例が多いのはGdDTPA, GdDOTA, GdHPDO3AおよびGdDTPA-BMAといった親水性キレート化合物である。これらの親水性キレート化合物は細胞外に分布され腎で排出される。そのような化合物は、例えば、中枢神経系の病変を視覚化するのに有用である。臓器または組織にさらに特異的な薬剤としては、MnDPDP, GdBOPA, GdEOB-DTPA、常磁性ポルフィリン、高分子化合物、粒状物およびリポソームが挙げられる。
一方、様々な常磁性金属イオンやキレートを封入したリポソームが報告されている。例えば、多様な脂質組成、表面電荷および大きさを有する小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)および多重層リポソーム(MLV)がMRI造影剤として提案されている〔例えば、S.E. Seltzer,Radiology,171, p.19, 1989; S.E. Seltzer ら、Invest. Radiol., 23, p.131, 1988; C. Tilcockら、Radiology, 171, p.77, 1989; C. Tilcock ら、Biochim. Biophys. Acta, 10222, p.181, 1990; E.C. Ungerら、Invest. Radiol., 25, p.638, 1990; E.C. Ungerら、Invest. Radiol., 23, p.928, 1988; E.C. Ungerら、Radiology, 171, p.81, 1989; E.C. Unger ら、Magn. Reson. Imaging, 7, p.417, 1989およびJ. Vion-Dury ら、J. Pharmacol. Exp. Ther., 250, p.1113, 1989〕。しかしながら、リポソームMRI造影剤に関する豊富な報告にもかかわらず、今日までにリポソーム造影剤の製品は1つも市販されておらず、また後期臨床開発段階までに至ったリポソームMRI造影剤もない。
動脈硬化症、特にその早期病変部のMRI画像を測定するための造影剤としてはマンガン(III)-α,β,γ,δ-テトラキス(4-スルホフェニル)ポルフィンキレート(以下、Mn-TSPP と略す場合がある)が提案されている〔金尚元,大阪大学医学雑誌,42, 1, 1990〕。また、特開平7−316079号公報では、中性リン脂質と荷電リン脂質からなるリポソームに水溶性造影剤を含有するリポソーム製剤が開示されている。しかし、Mn-TSPP、特開平7−316079号公報に記載のリポソームは動脈硬化症の主原因であるコレステロール相への集積率が低く、そのために実用上満足できる画像が得られなかった。
本発明の課題は、動脈硬化やPTCA後の再狭窄等の血管平滑筋の異常増殖に起因する血管疾患部位に対して選択的にMRI造影剤を集積させるための手段を提供することにある。その手段を用いることにより、血管疾患などの生体内環境を画像化することも本発明の別の課題である。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、疎水性置換基を有するキレート化合物を膜構成成分の一つとして含むリポソームが、動脈硬化巣の主構成成分である血管平滑筋及び泡沫化マクロファージに集積することを見出した。本発明は上記の知見を基に完成されたものである。
すなわち、本発明は、疎水性キレート化合物を膜構成成分として含むリポソームを提供するものである。
本発明の好ましい態様によれば、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質、好ましくはホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンのモル比が3:1から1:2である組み合わせを膜構成成分として含む上記のリポソーム;炭素数10以上の置換基を少なくとも一つ有するキレート化合物を膜構成成分として含む上記のリポソームが提供される。
また、別の観点からは、上記のリポソームを含むMRI造影剤が本発明により提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いるための上記MRI造影剤;及び泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞、例えば動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄の造影に用いる上記のMRI造影剤が提供される。
本発明の好ましい態様によれば、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質、好ましくはホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンのモル比が3:1から1:2である組み合わせを膜構成成分として含む上記のリポソーム;炭素数10以上の置換基を少なくとも一つ有するキレート化合物を膜構成成分として含む上記のリポソームが提供される。
また、別の観点からは、上記のリポソームを含むMRI造影剤が本発明により提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いるための上記MRI造影剤;及び泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞、例えば動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄の造影に用いる上記のMRI造影剤が提供される。
本発明のリポソームの膜構成成分は特に限定されないが、好ましい態様では、リポソームの膜構成成分として、ホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルセリン(PS)からなる群から選ばれるリン脂質を組み合わせて用いることができる。ホスファチジルコリン類の好ましい例としては、eggPC、ジミリストリルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ホスファチジルセリンとしてはホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有する化合物が挙げられる。リポソームを動脈硬化巣に集積させるためのPCとPSの好ましい使用モル比は例えばPC:PS=3:1から1:2の間であり、さらに好ましくは、1:1である。
本発明のリポソームの別の好ましい態様によると、膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとを含み、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームが挙げられる。リン酸のジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は6以上であり、10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルキル基の炭素数の上限は特に限定されないが、一般的には24個以下である。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
本発明のリポソームの構成成分は上記に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴミエリン、FEBS Lett. 223, 42, 1987; Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 85, 6949, 1988等に記載のモノシアルガングリオシドGM1誘導体、Chem. Lett., 2145, 1989; Biochim. Biophys. Acta, 1148, 77, 1992等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta, 1029, 91, 1990; FEBS Lett., 268, 235, 1990等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
本発明の造影剤に含まれるリポソームは、当該分野で公知のいかなる方法で作成してもよい。作成法の例としては、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9, 467, 1980; "Liopsomes"(M.J. Ostro編, MARCELL DEKKER, INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。リポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであっても構わないが、通常は平均が400 nm以下であり、200 nm以下が好ましい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラ構造のいずれでもよい。また、リポソームの内部に適宜の薬物や他の造影剤の1種又は2種以上を配合することも可能である。
本発明で使用される疎水性キレート化合物の構造は特に限定されないが、典型的には下記一般式(1)で表される疎水性キレート化合物を用いることができる。
A−L−B (1)
一般式(1)中、Aは生理学的に許容される常磁性金属塩もしくはキレートであることができ、または遊離基、好ましくはニトロキシド型の遊離基を含むことができる。常磁性剤が遊離金属イオンである場合、マンガン(2+)塩が好ましい。キレートは好ましくはマンガン(2+)、ガドリニウム(3+)、ジスプロシウム(3+)または鉄(3+)を基礎にしており、国際公開WO91/10645号に記載されたようなキレート化剤、例えばNTA,EDTA,HEDTA,DTPA,DTPA-BMA,BOPTA,TTHA,NOTA,DOTA,DO3A,HP-DO3A,EOB-DTPA,TETA,HAM,DPDP、ポルフィリンおよびそれらの誘導体を含むことができる。Aとして好ましくはGdDTPA, GdDOTA, GdHPDO3A、又はGdDTPA-BMAであり、最も好ましくはGdDTPAである。
A−L−B (1)
一般式(1)中、Aは生理学的に許容される常磁性金属塩もしくはキレートであることができ、または遊離基、好ましくはニトロキシド型の遊離基を含むことができる。常磁性剤が遊離金属イオンである場合、マンガン(2+)塩が好ましい。キレートは好ましくはマンガン(2+)、ガドリニウム(3+)、ジスプロシウム(3+)または鉄(3+)を基礎にしており、国際公開WO91/10645号に記載されたようなキレート化剤、例えばNTA,EDTA,HEDTA,DTPA,DTPA-BMA,BOPTA,TTHA,NOTA,DOTA,DO3A,HP-DO3A,EOB-DTPA,TETA,HAM,DPDP、ポルフィリンおよびそれらの誘導体を含むことができる。Aとして好ましくはGdDTPA, GdDOTA, GdHPDO3A、又はGdDTPA-BMAであり、最も好ましくはGdDTPAである。
一般式(1)中、Bは炭素数10以上の置換基を表す。置換基はキレート化合物を脂質二重層に安定に存在させるために、疎水性であることが好ましく、例えば炭素数が18〜40の範囲のアルキル基が好ましい(本明細書において「〜」で示される数値範囲は上限及び下限の数値を含む)。また、該置換基は酸素原子、窒素原子、又はイオウ原子などのヘテロ原子を1個以上含んでいてもよい。一般的には、該置換基に含まれる酸素原子数と窒素原子数の合計が10以下であるものが好ましい。上記ヘテロ原子は置換基の主鎖を構成していてもよく、及び/又は側鎖に含まれていてもよい。
該置換基は生体膜脂質構成成分と類似構造であることがさらに好ましい。こうした条件を満たす置換基の好ましい例としては、例えば、J. Med. Chem., 25(6), 618, 1982; J. Med. Chem., 24(1), 5, 1981; Appl. Radial. Isot., 37(8), 907, 1986; Steroids, 44(1), 85, 1984; Steroids, 14(5), 575, 1969等に開示されているコレステロール誘導体が挙げられる。コレステロール誘導体としては、上記の刊行物に開示されたものが好ましいが、特に好ましいのはコレステロールである。
Lは主鎖中に少なくとも1個のヘテロ原子(本明細書において「ヘテロ原子」という場合には、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などの炭素原子以外の任意の原子を意味する)を有する二価の連結基を表す。該連結基は飽和の基であってもよいが、1個以上の不飽和結合を含んでいてもよい。主鎖中のヘテロ原子の個数については特に規定されないが5個以下であることが好ましく、より好ましくは3個以下であり、1個であるときが最も好ましい。該連結基は、ヘテロ原子と隣接する炭素原子を含む官能基を部分構造として含んでいてもよい。連結基中に含まれる不飽和部分及び/又はヘテロ原子を含む官能基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、エステル基(カルボン酸エステル、炭酸エステル、スルホン酸エステル、スルフィン酸エステルを含む)、アミド基(カルボン酸アミド、ウレタン、スルホン酸アミド、スルフィン酸アミドを含む)、エーテル基、チオエーテル基、ジスルフィド基、アミノ基、イミド基などが挙げられる。上記の官能基はさらに1個又は2個以上の任意の置換基を有していてもよい。置換基が複数個存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
Lで表される二価の連結基の部分構造として、好ましくはアルケニル基、エステル基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジスルフィド基、又はアミノ基を挙げることができ、さらに好ましくはアルケニル基、エステル基、エーテル基を挙げることができる。主鎖中に含まれるへテロ原子は酸素原子又は硫黄原子が好ましく、酸素原子がもっとも好ましい。Lの炭素数は7〜30が好ましく、10〜25がより好ましく、最も好ましくは10〜20である。Lは1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、ハロゲン原子又はアルキル基が好ましい。また、Lが無置換の場合も好ましい。
Lの好ましい態様を以下に具体的に例示するが、本発明の化合物における連結基はこれらに限定されることはない。−(CH2)n−O−、−(CH2)m−S−CH2−、−(CH2)m−(C=O)O−、−(CH2)m−(C=O)NH−、−(CH2)m−O(C=O)−、−(CH2)m−NH(C=O)−、−(CH2)S−NH(C=O)−(CH2)2−O−、−CH2−CH=CH−(CH2)t−O−、−(CH2)m−CH(CH3)−O−[nは10から20の任意の整数を表し;mは9から19の任意の整数を表し;sは8から18の任意の整数を表し;tは7から17の任意の整数を表す]
一般式(1)で表される疎水性キレート化合物は公知の方法で合成することができる。以下に一般式(1)で表される疎水性キレート化合物の好ましい例を示すが、本発明で用いられる疎水性キレート化合物はこれらに限定されることはない。
本発明のリポソームにおいて、疎水性キレート化合物の含有量は、リポソームの膜構成成分の全質量に対して10から90質量%程度、好ましくは10から80質量%、さらに好ましくは20から80質量%である。膜構成成分として1種類の疎水性キレート化合物を用いてもよいが、2種類以上の疎水性キレート化合物を組み合わせて用いてもよい。
本発明の好ましい態様に従い、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リン酸ジアルキルエステル、及び疎水性キレート化合物を膜構成成分として含むリポソームにおいて、上記成分の好ましい質量比はPC:PS:リン酸ジアルキルエステル:疎水性キレート化合物が5〜40質量%:5〜40質量%:1〜10質量%:15〜80質量%の間で選択することができる。
本発明のMRI造影剤は、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ糖輸液、緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。リポソーム中のキレート化合物の濃度は、例えば、1mM〜0.5 Mの範囲内である。典型的な用量は、例えば、体重1kgあたり疎水性キレート化合物として0.02 mM程度であるが、最適な濃度と用量は疎水性キレート化合物の性質、投与経路、造影の対象疾患や部位などの臨床上の条件により適宜選択できる。
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化、もしくはPTCA後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖をおこすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)をおこすことが報告されている。
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞に対して疎水性キレート化合物を選択的に取りこませることができる。この結果、病巣と非疾患部位の血管平滑筋細胞との間でコントラストの高いMRI造影が可能になる。従って、本発明の造影剤は、特に血管疾患の造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
また、例えばJ. Biol. Chem., 265, 5226, 1990に記載されているように、リン脂質を含むリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームがスカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って本発明のリポソームを使用することにより、本発明のキレート化合物をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができる。
マクロファージの局在化が認められ、本発明の方法で好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており(Am. J. Pathol., 103, 181(1981)、Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983))、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させてMRI造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
試験例1:血管平滑筋細胞におけるキレート化合物の取り込み量
下記に示した割合でジ・パルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)及びジ・パルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)をJ. Med. Chem., 25(12), 1500, 1982記載の方法で、疎水性キレート化合物(好ましい化合物として上記に具体的に示された化合物1)とナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9% 生理食塩水(光製薬社製、No.512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を5分実施することにより、均一なリポソーム分散液を得た。得られた分散液中のリポソームの粒径をWBCアナライザー(日本光電社製、A-1042)で測定した結果、粒子径は40から65nmであった。この方法により調製した下記リポソーム製剤を国際公開WO 01/82977号に記載の血管平滑筋細胞とマクロファージとの混合培養系に添加し、細胞を37℃、5% CO2で24時間培養した後、血管平滑筋細胞に取り込まれたキレート化合物を定量した。結果を以下に示す。本発明の疎水性化合物は効率よく血管平滑筋細胞に取り込まれ、MRI造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
PC:50nmol + PS:50nmol + 化合物1:75nmol
平滑筋細胞取り込み量 20nmols/mg protein
試験例1:血管平滑筋細胞におけるキレート化合物の取り込み量
下記に示した割合でジ・パルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)及びジ・パルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)をJ. Med. Chem., 25(12), 1500, 1982記載の方法で、疎水性キレート化合物(好ましい化合物として上記に具体的に示された化合物1)とナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9% 生理食塩水(光製薬社製、No.512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を5分実施することにより、均一なリポソーム分散液を得た。得られた分散液中のリポソームの粒径をWBCアナライザー(日本光電社製、A-1042)で測定した結果、粒子径は40から65nmであった。この方法により調製した下記リポソーム製剤を国際公開WO 01/82977号に記載の血管平滑筋細胞とマクロファージとの混合培養系に添加し、細胞を37℃、5% CO2で24時間培養した後、血管平滑筋細胞に取り込まれたキレート化合物を定量した。結果を以下に示す。本発明の疎水性化合物は効率よく血管平滑筋細胞に取り込まれ、MRI造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
PC:50nmol + PS:50nmol + 化合物1:75nmol
平滑筋細胞取り込み量 20nmols/mg protein
本発明のリポソームは、泡沫化マクロファージの影響により異常増殖する血管平滑筋細胞に対して一般式(1)で表される疎水性キレート化合物を集積させることができ、血管平滑筋の異常増殖に起因する血管疾患の病巣を選択的に造影するためのMRI造影剤として有用である。
Claims (8)
- 疎水性キレート化合物を膜構成成分として含むリポソーム。
- 疎水性キレート化合物が炭素数10以上の置換基を少なくとも1個含有する請求の範囲第1項に記載のリポソーム。
- ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む請求の範囲第2項に記載のリポソーム。
- ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンのモル比が3:1から1:2である請求の範囲第3項に記載のリポソーム。
- 請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項に記載のリポソームを含むMRI造影剤。
- マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のために用いる請求の範囲第5項に記載のMRI造影剤。
- マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求の範囲第6項に記載のMRI造影剤。
- マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求の範囲第6項に記載のMRI造影剤。
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