本発明は、特に、腫瘍を治療するために薬物を製造するための、アデノウイルス、それをコードする核酸及びその使用に関する。
現在、腫瘍の治療において多数の治療概念が使用されている。外科手術の使用はともかく、化学療法及び放射線療法が主流である。しかしながら、これらの技法はすべて相当な副作用を伴う。複製選択性の腫瘍退縮性ウイルスは、腫瘍の治療に新しい基盤を提供している。それに関連して、ウイルス剤の選択的な腫瘍内複製が開始され、それは、ウイルスの増殖、感染した腫瘍細胞の溶解及び隣接する腫瘍細胞へのウイルスの拡散を生じる。ウイルスの複製能力が腫瘍細胞に限定されているので、正常細胞は複製から免れ、ウイルスによる溶解から免れる。
今のところ、腫瘍の溶解を目標として、幾つかのウイルスシステムが臨床試験の対象となっている。そのようなアデノウイルスの一例は、dl1520(Onyx-015)であり、それは、臨床試験のフェーズI及びIIで上手く使用されている(Khuri, F. et al., Nature Medicine 6: 879-885, 2000)。Onyx−015は、E1B−55kDa遺伝子を完全に欠失したアデノウイルスである。アデノウイルスのE1B55kDaタンパク質の完全な欠失は、複製、従って細胞の溶解が、p53欠損(Kim, D. et al., Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 17: 391a, 1998)を有するアデノウイルスベクターにより可能であり、そのために正常細胞は悪影響を受けないという発見に基づく。さらに詳しくは、E1B−55kDaの遺伝子産物は、p53の阻害、ウイルスmRNAの輸送及び宿主細胞のタンパク質合成のスイッチオフに関与する。p53の阻害は、p53とアデノウイルスがコードするE1B−55kDaタンパク質とから成る複合体及び/又はE1B−55kDaとE4orf6とから成る複合体の形成を介して生じる。TP53にコードされるp53は、複合体が調節するメカニズム(Zambetti, G. P., et al., FASEB J., 7: 855-865, 1993)の出発点であり、それによって、とりわけ、アデノウイルスのようなウイルスの細胞性複製の効率的な阻害を生じる。遺伝子TP53は、ヒトの全腫瘍の約50%で欠失又は変異しており、それは、化学療法や放射線療法による所望の、アポトーシスの欠如を生じ、通常、腫瘍治療は不成功に終わる。
腫瘍退縮性性アデノウイルスのさらなる概念は、E1Aタンパク質が、Rb/E2F及び/又はp107/E2F及び又はp130/E2Fの結合に影響を与えない、特定の欠失形態で存在すれば、又は1又は数個の突然変異を含んでいれば、そのようなアデノウイルスは感染細胞のS期への進行を誘導せず、機能的Rbタンパク質を有さない腫瘍細胞で複製することが可能であるという発見に基づく。さらに、E1Aタンパク質は、N末端で欠失させることができ、E1Aのp300への結合を阻害するためにE1Aタンパク質のアミノ酸1位〜76位の領域で1又は数個の突然変異を含むことができるので、腫瘍細胞においてさらに選択的な複製を提供することができる。これらのアプローチは、欧州特許EP0931830号に例示的に記載されている。そのようなウイルスの例は、AdΔ24、dl922〜947、E1Ad/01/07及びCB016(Howe, J. A. et al., Molecular Therapy 2: 485-495, 2000; Fueyo, J. et al., Oncogene 19: 2-12, 2000; Heise, C. et al., Nature Medicine 6: 1134-1139, 2001; Balague, C. et al., J. Virol., 75: 7602-7611, 2001)である。従来技術で既知のこれらのアデノウイルスのシステムは、従って、E1Aタンパク質において識別可能な欠失を含み、それによって、それぞれ、機能的なRbタンパク質及び不活性のRbとE2Fから成る複合体が生体内での効率的な複製を阻止するという前提で、かつ、Rb−陰性/変異した細胞でのみアデノウイルスの生体内での複製を提供するために、そのような欠失を行っている。従来技術に係るこれらのアデノウイルスシステムは、早期E2プロモーター(E2早期プロモーター)及び遊離のE2F(Dyson N, Genes & Development 12: 2245-2262, 1998)によって生体内の複製を制御するためのE1Aに基づく。
腫瘍退縮性性アデノウイルスシステムのさらなる形態は、ウイルス腫瘍遺伝子E1Aを特異的に発現する選択的なプロモーターの使用に基づき、それは、腫瘍細胞における選択的複製を提供する(Rodriguez, R. et al., Cancer Res., 57: 2559-2563, 1997)。
上述のように、根底に作用機序がある各概念に適当である細胞のバックグラウンドを選択することはアデノウイルスの腫瘍退縮性ウイルスの種々の概念にとって重要である。言い換えれば、現在既知の種々のアデノウイルスシステムは、はっきりした分子生物学的必要条件が実現される場合においてのみ使用してもよい。このことは、そのようなシステムの使用を特定の患者群に限定する。
いったん患者が、細胞増殖抑制剤に対する腫瘍の耐性の特によく研究された形態を表す、いわゆる多剤耐性(複数の薬剤に対する耐性、MDR)を発生させると、腫瘍性疾患の治療には特別の問題が生じる(Gottesman and Oastan, Annu. Rev. Biochem., 62: 385-427, 1993)。それは、いわゆるABCトランスポータ(Stein, U. et al., JBC 276: 28562-69, 2001; J. Wijnholds, Novartis Found Symp., 243: 69-79, 2002)に属する膜結合型輸送タンパク質、P−糖タンパク質の過剰発現に基づく。Bargou, R. C.ら及びOda, Y.ら(Bargou, R. C. et al., Nature Medicine 3: 447-450, 1997; Clin. Cancer Res., 4: 2273-2277, 1998)は、ヒトの転写因子、YB−1はP−糖タンパク質の発現の活性化に直接関与することを示すことができた。さらなる研究によって、YB−1は、たとえば、UV照射、細胞増殖抑制剤の投与(Koike, K. et al., FEBS Lett., 17: 390-394, 1997)及び温熱(Stein, U. et al., JRC 276: 28562-69, 2001)のような種々のストレス条件によって核に輸送されることが確認された。さらなる研究によって、YB−1の核への局在化は、1つのさらなるABCトランスポータに影響を有することが確認された。このABCトランスポータは、MRP(多剤耐性関連タンパク質)と呼ばれ、いわゆる非定型の、非P−糖タンパク質依存性の多剤耐性の形成に関与する(Stein, U. et al., JRC 276: 28562-69, 2001)。
本発明の課題は、生物、特にヒト、及び患者群を特に腫瘍的に活性のある作用剤で治療することができる技術的教示及び手段を提供することである。細胞増殖抑制剤に耐性である腫瘍性疾患を有する患者、特に多剤耐性を有するものにおいて腫瘍溶解を生じるのに好適な手段を提供することは、本発明のさらなる課題である。最終的に、本発明の課題は、細胞溶解に好適であるアデノウイルスを提供することである。
第1の態様では、E1Aタンパク質を含む群から選択される第2のタンパク質に先立って、E1Bタンパク質及びE4タンパク質を含む群から選択される第1のタンパク質を発現するアデノウイルスによって、本発明の課題を解決する。
実施態様では、第1のタンパク質はE1Bタンパク質であり、好ましくはE1B55kDタンパク質である。
さらなる実施態様では、第1のタンパク質はE4タンパク質であり、好ましくはE4orf6タンパク質である。
好ましい実施態様では、第1のタンパク質は、E1Bタンパク質とE4タンパク質との組み合わせであり、好ましくは、E1B55kDタンパク質とE4orf6タンパク質との組み合わせである。
好ましい実施態様では、E1Aタンパク質は、E1A12Sタンパク質である。別の実施態様では、E1Aタンパク質は、野生型アデノウイルスの、好ましくはAd5の、E1Aタンパク質、又はアデノウイルスデルタ24のEA1である。
第2の態様では、アデノウイルスが、E1Bタンパク質、E4タンパク質及びE1Aタンパク質を含む群から選択されるタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含み、その際、少なくとも1つのタンパク質が野生型アデノウイルスにおけるタンパク質の発現を制御するプロモーターとは異なるプロモーターの制御下にある、アデノウイルスによって、本発明の課題を解決する。
第2の態様の実施態様では、アデノウイルスは、本発明の第1の態様に係るアデノウイルスである。
第2の態様の実施態様では、少なくとも1つのタンパク質は、E1Bタンパク質であり、好ましくはE1B55kDタンパク質である。
第2の態様の実施態様では、少なくとも1つのタンパク質は、E4タンパク質であり、好ましくはE4orf6タンパク質である。
第2の態様の実施態様では、少なくとも1つのタンパク質は、E1Aタンパク質であり、好ましくはE1A12Sタンパク質である。特に好ましい実施態様では、E1A12Sタンパク質は、Ad5の、好ましくは野生型Ad5のE1A12Sタンパク質、又はアデノウイルスデルタ24のE1A12Sタンパク質である。
第2の態様の好ましい実施態様では、少なくとも1つのタンパク質は、E1Bタンパク質とE4タンパク質との組み合わせであり、好ましくは、E1B55kDタンパク質とE4orf6タンパク質との組み合わせである。
第2の態様の実施態様では、少なくとも1つのタンパク質は、E1Bタンパク質とE1Aタンパク質との組み合わせであり、好ましくは、E1B55kDタンパク質とE1A12Sタンパク質との組み合わせである。
第2の態様の好ましい実施態様では、少なくとも1つのタンパク質は、E4タンパク質とE1Aタンパク質との組み合わせであり、好ましくは、E4orf6タンパク質とE1A12Sタンパク質との組み合わせであり、より好ましくはここに定義したとおりである。
第2の態様の実施態様では、少なくとも1つのタンパク質は、E1Bタンパク質とE4タンパク質とE1Aタンパク質との組み合わせであり、好ましくは、E1B55kDタンパク質とE4orf6タンパク質とE1A12Sタンパク質との組み合わせである。
第2の態様の実施態様では、E1Bタンパク質の発現はプロモーターにより制御され、その際、プロモーターは、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択され、その際、アデノウイルスプロモーターは、E1Bプロモーターとは異なる。
第2の態様の実施態様では、E4タンパク質の発現はプロモーターにより制御され、その際、プロモーターは、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択され、その際、アデノウイルスプロモーターは、E4プロモーターとは異なる。
第2の態様の好ましい実施態様では、アデノウイルスのプロモーターはE1Aプロモーターである。
第2の態様の実施態様では、E1Aタンパク質の発現がプロモーターによって制御され、その際、プロモーターは、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択され、その際、アデノウイルスプロモーターは、E1Aプロモーターとは異なる。
第2の態様の好ましい実施態様では、E1Aタンパク質の発現を制御するプロモーターはYB−1により制御されるか、又はYB−1によって調節されうる。
第2の態様の好ましい実施態様では、E1Aタンパク質の発現を制御するプロモーターは、アデノウイルスE2後期プロモーターである。
第1及び第2の態様の実施態様では、E4タンパク質、好ましくはE4orf6タンパク質及びE1Bタンパク質、好ましくはE1B55kDタンパク質は、同一の又は共通のプロモーターの制御下にある。
第3の態様では、アデノウイルスが少なくとも1つのアデノウイルスタンパク質を介して核にYB−1を提供する、又は核におけるYB−1の提供には、少なくとも1つのアデノウイルスタンパク質が介在し、その際、好ましくは、アデノウイルスタンパク質はE1Aとは異なる、アデノウイルスによって本発明の課題を解決する。
第3の態様の実施態様では、アデノウイルスは本発明の第1の態様及び/又は第2の態様に係るアデノウイルスである。
第4の態様では、アデノウイルスが、少なくとも1つのアデノウイルスタンパク質を介してアデノウイルスの複製にYB−1を提供する、又は少なくとも1つのアデノウイルスタンパク質がアデノウイルスの複製へのYB−1の提供に介在し、その際、好ましくは、アデノウイルスタンパク質はE1Aとは異なる、アデノウイルスによって本発明の課題を解決する。
第3の態様の実施態様では、アデノウイルスは本発明の第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様に係るアデノウイルスである。
第3及び第4の態様の実施態様では、アデノウイルスタンパク質は、E4orf6とE1B55kDとの複合体である。
第5の態様では、アデノウイルスの核酸が、少なくとも1つの機能的に不活性なアデノウイルスの領域を含み、その際、領域がE1領域、E3領域、E4領域及びこれらの組み合わせを含む群から選択される、アデノウイルスによって、本発明の課題を解決する。
第5の態様の実施態様では、アデノウイルスが、本発明の第1及び/又は第2及び/又は第3及び/又は第4の態様によるアデノウイルスであると考えられる。
第5の態様の実施態様では、該領域は、E1領域である。
第5の態様の実施態様では、該領域は、E3領域である。
第5の態様の実施態様では、該領域は、E4領域である。
第5の態様の実施態様では、該領域はE1領域、E3領域、及びE4領域を含む。
第6の態様では、アデノウイルスが少なくとも1つの発現カセットを含み、その際、発現カセットが少なくとも1つのプロモーター及びアデノウイルスタンパク質をコードする核酸を含み、アデノウイルスタンパク質がE1Bタンパク質であり、好ましくはE1B55kDタンパク質である、アデノウイルスによって、本発明の課題を解決する。
第6の態様の実施態様では、アデノウイルスは本発明の第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様に係るアデノウイルスである。
第6の態様の実施態様では、プロモーターはE1Bプロモーターとは異なる。
第6の態様の実施態様では、プロモーターは、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択され、その際、プロモーターは、E1Bプロモーターとは異なる。
第7の態様では、アデノウイルスが少なくとも1つの発現カセットを含み、その際、発現カセットが少なくとも1つのプロモーター及びアデノウイルスタンパク質をコードする核酸を含み、その際、アデノウイルスタンパク質がE4タンパク質であり、好ましくはE4orf6タンパク質である、アデノウイルスによって、本発明の課題を解決する。
第7の態様の実施態様では、アデノウイルスは、本発明の第1及び/又は第2及び/又は第3及び/又は第4及び/又は第5及び/又は第6の態様によるアデノウイルスである。
第7の態様の実施態様では、プロモーターは、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択され、その際、アデノウイルスプロモーターは、E4プロモーターとは異なる。
第7の態様の実施態様では、プロモーターはE1Aプロモーターである。
第8の態様では、アデノウイルスが少なくとも1つの発現カセットを含み、その際、発現カセットが少なくとも1つのプロモーター及びアデノウイルスタンパク質をコードする核酸を含み、その際、アデノウイルスタンパク質がE1Aタンパク質であり、好ましくはE1A12Sタンパク質である、アデノウイルスによって、本発明の課題を解決する。
第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは本発明の第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様に係るアデノウイルスである。
第8の態様の実施態様では、プロモーターはE1Aプロモーターとは異なる。
第8の態様の実施態様では、プロモーターは、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択される。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは核酸を含み、核酸はYB−1をコードする。
第8の態様の好ましい実施態様では、YB−1をコードする核酸はプロモーターの制御下にあり、その際、プロモーターは好ましくはE2後期プロモーターである。
第8の態様の実施態様では、YB−1をコードする核酸はプロモーターの制御下にあり、その際、プロモーターは、YB−1依存性及びYB−1に制御される。
第8の態様の実施態様では、YB−1をコードする核酸は、E1Aタンパク質をコードする核酸、好ましくはE1A12Sタンパク質をコードする核酸を含む発現カセットの一部である。
第8の態様の実施態様では、E1Aタンパク質をコードする核酸は、IRES配列を介してYB−1をコードする核酸から分離される。
第6及び/又は第7及び/又は第8の態様の実施態様では、E4タンパク質、好ましくはE4orf6タンパク質をコードする核酸及びE1Bタンパク質、好ましくはE1B55kDをコードする核酸は発現カセットに含有され、その際、好ましくは、2つのコーディング配列はIRES配列を介して分離される。
第8の態様の好ましい実施態様では、発現カセットのプロモーターは、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択され、その際、アデノウイルスプロモーターは、E4プロモーターとは異なり、かつE1Bプロモーターとは異なり、好ましくは、野生型E4プロモーターとは異なり、かつ野生型E1Bプロモーターとは異なる。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは、プロモーター及び核酸配列を含む発現カセットを含み、その際、核酸は、アプタマー、リボザイム、アプタザイム、アンチセンス分子及びsiRNAを含む群から選択される。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは、プロモーター及び核酸配列を含む発現カセットを含み、その際、核酸配列はコーディング核酸であり、その際、核酸は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、アンチカリン、抗体及び抗体断片を含む群から選択される分子をコードする。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは、プロモーター及び核酸配列を含む発現カセットを含み、その際、核酸配列は、アポトーシス誘導遺伝子、プロドラッグ遺伝子、プロテアーゼ阻害剤、腫瘍抑制遺伝子、サイトカイン及び血管形成阻害剤を含む群から選択される。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは、組換えアデノウイルスである。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは、アデノウイルス変異体である。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは、アデノウイルスは複製欠損性である。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスは、調節解除されたYB−1を含む又は核にYB−1を有する細胞内で複製が可能である。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、細胞は、細胞周期とは無関係に、核にYB−1を含有する。
第1の態様及び/又は第2の態様及び/又は第3の態様及び/又は第4の態様及び/又は第5の態様及び/又は第6の態様及び/又は第7の態様及び/又は第8の態様の実施態様では、アデノウイルスはいかなるE1A13Sタンパク質を含まない、及び/又はアデノウイルスはE1A13Sタンパク質をコードするいかなる核酸も含まない。
第9の態様では、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルスをコードする核酸によって本発明の課題を解決する。
第10の態様では、ヘルパーウイルスの核酸が、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルスの1以上の発現カセットを含む、第9に記載の核酸及びヘルパーウイルスの核酸を含む複製システムによって本発明の課題を解決する。
第10の態様の実施態様では、アデノウイルス又はそれをコードする核酸がヘルパーウイルスが含む発現カセットを欠いている。
第11の態様では、第9の態様に記載の核酸及び第10の態様に記載の複製システムを含むベクターによって本発明の課題を解決する。
第11の態様の実施態様では、ベクターは発現ベクターである。
第12の態様では、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス及び/又は第9の態様に記載の核酸及び/又は第10の態様に記載の複製システム及び/又は第11の態様に記載のベクターを含むアデノウイルス細胞によって本発明の課題を解決する。
第12の態様の実施態様では、細胞は真核細胞であり、好ましくは動物細胞であり、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。
第12の態様の好ましい実施態様では、哺乳動物細胞は、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ及びヒトを含む群から選択される。
第13の態様では、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞を含む生物、好ましくは哺乳動物生物によって本発明の課題を解決するが、その際、生物は好ましくは、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ及びヒトを含む群から選択される。
第14の態様では、アデノウイルスの複製、好ましくはアデノウイルスのインビトロの複製のための第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞の使用によって本発明の課題を解決する。
第15の態様では、アデノウイルスの製造、好ましくはアデノウイルスのインビトロの製造のための第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞の使用によって本発明の課題を解決する。
第16の態様では、遺伝子の発現、好ましくは細胞溶解を促進する、好ましくはアデノウイルスの複製中、細胞溶解を促進する、及び/又はアデノウイルスが介在する細胞溶解を促進する遺伝子の発現のための、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞の使用によって本発明の課題を解決する。
第16の態様の実施態様では、発現される遺伝子は、本明細書で開示される導入遺伝子である。
第17の態様では、薬物の製造のための、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞の使用によって本発明の課題を解決する。
第14〜第17の態様の実施態様では、その中でアデノウイルスが複製する細胞は、核にYB−1を有し、好ましくは細胞周期とは無関係に核にYB−1を有する。
第14〜第17の態様の実施態様では、その中でアデノウイルスが複製する細胞は、調節解除されたYB−1を含む。
第17の態様の実施態様では、薬物は腫瘍性疾患を治療するためのものである。
第17の態様の使用の実施態様では、腫瘍性疾患は、悪性腫瘍疾患、癌、癌性疾患及び腫瘍を含む群から選択される。
第17の態様の使用の実施態様では、腫瘍は、固形腫瘍、非固形腫瘍、悪性腫瘍及び良性腫瘍を含む群から選択される。
第17の態様の使用の実施態様では、腫瘍を形成する細胞の少なくとも一部は核にYB−1を有し、好ましくは細胞周期とは無関係に核にYB−1を有する。
第17の態様の使用の実施態様では、腫瘍を形成する細胞の少なくとも一部は調節解除されたYB−1を含む。
第17の態様の使用の実施態様では、腫瘍を形成する細胞の少なくとも一部はRb陽性又はRb陰性である。
第17の態様の使用の実施態様では、腫瘍を形成する細胞の少なくとも一部は、薬学上活性のある作用剤に耐性、好ましくは、複数の耐性を有する。
第17の態様の使用の好ましい実施態様では、耐性は、複合耐性である。
第17の態様の使用の実施態様では、耐性は、抗腫瘍剤、好ましくは細胞増殖抑制剤に対するものであり、及び/又は耐性は照射によって誘発される。
第17の態様の使用の実施態様では、薬物が意図される患者は、複数の細胞を含み、その際、細胞は、本発明の第17の態様に記載の種々の実施態様に記載されるような細胞である。
第17の態様の使用の実施態様では、薬物は少なくとも1つのさらなる薬学上活性のある作用剤を含む。
第17の態様の使用の実施態様では、薬物はさらなる薬学上活性のある作用剤と一緒に投与される、又はそのために意図される。
第17の態様の使用の実施態様では、さらなる薬学上活性のある作用剤は、サイトカイン、メタロプロテイナーゼ阻害剤、血管形成阻害剤、結腸直腸癌に対するイリノテカン及びCPT−11並びに白血病に対するダウノルビシンなどの細胞増殖抑止剤、CDK2/サイクリンEキナーゼ活性を抑制し結腸直腸腫瘍に対して用いることができるCYC202 (McClue S J, Int. J. Cancer 2002, 102, 463-468)及びRaf−1を阻害し例えば乳癌に対して有効なBAY 43−9006 (Wilhelm SM et al., Cancer Res. 2004, 64, 7099-7109)のような細胞周期阻害剤、26Sプロテアソーム活性を抑制し、扁平上皮癌に対して用いられるPS−341(Fribley A et al., Mol Cell Biol 2004 Nov; 24(22): 9695- 704)のようなプロテオソーム阻害剤、EGFレセプターなどに対する組換え抗体 (乳癌及び前立腺腫瘍に対するハーセプチン; H.G. van der Poel, European Urology 2004, 1-17; 頭部及び頚部腫瘍に対するエルビタックス; Bauman M et al., Radiother. Oncol., 2004, 72, 257-266)、及び特にc−kitを抑制し、胃腸の腫瘍に対して用いることができる、STI571、のような信号伝達カスケードの阻害剤 (H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、特に前立腺腫瘍に対して用いることのできるエンドセリン阻害剤であるABT−627(H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、VEGFチロシン・キナーゼ・レセプターのリン酸化を阻害し、特に膠芽腫及び前立腺癌に対して用いることができるSU5416(Bischof M et al Int. J. Radiat, Oncol. Biol. Phys. 2004; 60 (4): 1220-32)、EGFRチロシン活性を阻害し、特に前立腺腫瘍に対して用いることができるZD1839(H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、mTORを阻害し、前立腺腫瘍に対して用いることができるCCI−779及びRAD001のようなラパマイシン誘導体;を含む群より選択される。本明細書に記述した様々なアデノウイルス及び本発明に従って用いられるアデノウイルスを、それぞれ原則として、いずれの前述の化合物とも共に、本明細書において関連して上述したいずれの適応に対しても用いることができることは本発明の範囲内である。特に好ましい実施態様では、この適応は任意の以前に言及した薬学上活性のある化合物に対して記述される適応である。
第17の態様の使用の実施態様では、薬物は、照射に先立って、照射中に又は照射後に投与される。
第17の態様の使用の好ましい実施態様では、腫瘍を治療する目的で放射線が投与される。
第17の態様の使用の実施態様では、治療されるべき細胞又は生物は、手段の対象とされ、その際、手段が、照射、細胞増殖抑制剤の投与及び温熱療法を含む群から選択される。
第17の態様の使用の実施態様では、手段は、局所的に又は全身性で適用される。
第17の態様の使用の実施態様では、照射は高エネルギーの放射線を使用し、好ましくは、腫瘍性疾患の治療で使用されるいかなる照射も使用する。
第18の態様では、腫瘍性疾患を治療するために薬物を製造するための、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞の使用によって、本発明の課題を解決するが、その際、腫瘍性疾患は、乳癌、骨腫瘍、胃癌、腸癌、胆嚢癌、膵臓癌、肝癌、腎臓癌、脳腫瘍、卵巣癌、皮膚腫瘍、皮膚付属器の腫瘍、頭頚部癌、子宮癌、滑膜腫瘍、咽頭癌、食道癌、舌癌、前立腺癌を含む群から選択されることを特徴とする。
第19の態様では、腫瘍性疾患を治療するために薬物を製造するための、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞の使用によって、本発明の課題を解決するが、その際、腫瘍特異的プロモーターは薬物が使用される腫瘍に特異的なプロモーターである。
第20の態様では、第1〜第8の態様のいずれか1項に記載のアデノウイルス、第9の態様に記載の核酸、第10の態様に記載の複製システム、第11の態様に記載のベクター又は第12の態様に記載の細胞及び場合により薬学上許容可能なキャリアを含む医薬組成物によって、本発明の課題を解決する。
第21の態様では、本発明の課題は、医薬の製造のための、ウイルス、好ましくはアデノウイルスの使用により解決され、その際、ウイルスは、核内にYB−1を含まない正常細胞、細胞周期とは無関係に核内にYB−1を含まない細胞、調節解除されたYB−1を含まない細胞のそれぞれにおいて複製欠損であり、そのウイルスは、癌遺伝子又は癌遺伝子産物、特に癌遺伝子タンパク質(YB−1核陽性細胞内で1つのウイルス遺伝子、好ましくはアデノウイルス遺伝子を少なくともトランス活性化する)をコードし、その際、その遺伝子は、E1B55kDa、E4orf6、E4orf3及びE3ADPを含む群から選択される。好ましくは、ウイルスは、ウイルスタンパク質であるE1B55kD(本明細書ではE1B55kDaとも記載する)及びE4orf6を発現する。
第22の態様では、本発明の課題は、YB−1を核内に含む細胞における複製のための、ウイルス、好ましくはアデノウイルスの使用により解決され、その際、ウイルスは、核内にYB−1を含まない正常細胞、細胞周期とは無関係に核内にYB−1を含まない細胞、調節解除されたYB−1を含まない細胞のそれぞれにおいて複製欠損であり、そのウイルスは、癌遺伝子又は癌遺伝子産物、特に癌遺伝子タンパク質(少なくとも1つのウイルス性遺伝子、好ましくはアデノウイルス遺伝子をトランス活性化する)をコードし、その際、その遺伝子は、E1B55kDa、E4orf6、E4orf3及びE3ADPを含む群から選択される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、ウイルス、特にアデノウイルスが、核内にYB−1を有する細胞又は細胞周期とは無関係に核内にYB−1を含まない細胞、又は調節解除されたYB−1を含まない細胞内で複製すると考えられる。
本発明の第21及び第22の態様による使用の実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質がE1Aであるか/又は癌遺伝子がE1Aをコードする遺伝子であるか、及び/又は癌遺伝子タンパク質がE1Aであると考えられる。
好ましい実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質E1Aは、機能的Rb腫瘍抑制遺伝子産物に結合することができると考えられる。
代替的な実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質E1Aは、機能的Rb腫瘍抑制遺伝子産物に結合することができないと考えられる。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質E1Aは、YB−1の核局在化を誘導しないと考えられる。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる態様では、医薬が、その細胞がRb陽性又はRb陰性のいずれかである患者のためのものであることが企図される。
好ましい実施態様では、細胞は、その医薬に影響されることになる条件の形成に関与する細胞であることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、細胞は、核内がRb陰性でYB−1陽性であり、特に、細胞周期とは無関係に核内がYB−1陽性であることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、医薬は腫瘍の処置用であることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、細胞、特に腫瘍又はその一部を形成する細胞が、薬物、好ましくは抗腫瘍薬及びより好ましくは細胞分裂停止薬に対して耐性、特に多剤耐性であることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の好ましい実施態様では、細胞が、膜結合輸送タンパク質であるP−糖タンパク質及び/又はMRPを発現し、好ましくは過剰発現していることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、細胞は、p53陽性又はp53陰性のいずれかであることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の実施態様では、癌遺伝子タンパク質は、野生型癌遺伝子タンパク質E1Aと比較して、1つ又は複数の突然変異又は欠失を含むと考えられ、その際、欠失は、好ましくは、CR3領域の欠失及びN末端の欠失、及びC末端の欠失を含む群から選択される。E1A癌遺伝子タンパク質は、Rbに結合することができると考えられる。
本発明の第21及び第22の態様による使用の実施態様では、癌遺伝子タンパク質は、野生型癌遺伝子タンパク質と比較して、1つ又は複数の突然変異または欠失を含み、その際、欠失は、好ましくは、CR1領域及び/又はCR2領域内のものである。癌遺伝子タンパク質E1Aは、Rbに結合することができないと考えられる。
本発明の第21及び第22の態様による使用の実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質、特にE1Aは、組織特異的及び/又は腫瘍特異的プロモーターの制御下にあると考えられる。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、ウイルス、特にアデノウイルスはYB−1をコードしていることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、YB−1は、組織特異的及び/又は腫瘍特異的プロモーターの制御下にあることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の好ましい実施態様では、ウイルス、特にアデノウイルスは、E4orf6、E4orf3、E1B55k及びアデノウイルスE3ADPタンパク質を含む群から選択される、少なくとも1種のタンパク質をコードすることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の代替的実施態様では、細胞は、核内にYB−1を含み、特に腫瘍又はその一部を形成する細胞は、核内にYB−1を含むことが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の更なる実施態様では、腫瘍は、YB−1の核内への輸送の誘導後、核内にYB−1を含むことが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の好ましい実施態様では、YB−1の核内への輸送が、少なくとも1つの手段により惹起され、その際、その手段は、照射、細胞分裂停止剤の投与、及び温熱療法を含む群から選択されることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の好ましい実施態様では、手段は、細胞、器官又は生体に適用されることが企図される。
本発明の第21及び第22の態様による使用の好ましい実施態様では、ウイルス、特にアデノウイルスが、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、dl1119/1131、CB016、dl520および、機能的Rb腫瘍抑制遺伝子産物に結合できるウイルス性E1A癌遺伝子の発現を欠いているウイルスを含む群から選択されることが企図される。
第23の態様では、課題は、医薬の製造のためのウイルス、好ましくはアデノウイルスの使用により解決され、この際、複製がE2後期プロモーターのYB−1介在活性化を介して又はYB−1により制御されるように、好ましくは大部分がE2後期プロモーターの活性化により制御されるように、ウイルス、特にアデノウイルスが適合されている。1つの実施態様では、YB−1は、導入遺伝子したYB−1又は細胞性YB−1、特に細胞性の調節解除されたYB−1、又は調節解除されたYB−1である。導入遺伝子したYB−1は好ましくは、細胞内でベクター、特にある種の又は特定のアデノウイルスにより発現されているYB−1である。E2後期プロモーターは、好ましくは、野生型アデノウイルス内に含まれるようなアデノウイルスE2後期プロモーターであるか、又は本明細書に記載するような導入遺伝子の発現に関連して使用されるE2後期プロモーターである。
第24の態様では、課題は、核内にYB−1を含む細胞における複製のための、ウイルス、特にアデノウイルスの使用により解決され、その際、複製がE2後期プロモーターの活性化を通じてYB−1により制御されるように、好ましくは大部分がE2後期プロモーターの活性化により制御されるように、ウイルス、特にアデノウイルスが適合されている。実施態様では、YB−1は、遺伝子導入したYB−1又は細胞性YB−1、特に細胞性の調節解除されたYB−1、又は調節解除されたYB−1である。遺伝子移入したYB−1は、好ましくは細胞内でベクター、特にある種の又は特定のアデノウイルスにより発現されているYB−1である。E2後期プロモーターは、野生型アデノウイルス内に存在するようなアデノウイルスE2後期プロモーターであるか、又は本明細書に記載するような導入遺伝子の発現に関連して使用されるE2後期プロモーターである。
本発明の第23及び/又は第24の態様の好ましい実施態様では、アデノウイルスは、本明細書に開示されているように適合されており、特に、本発明に従って使用され得るように適合されている。
第25の態様では、課題は、ウイルス性癌遺伝子タンパク質、特に単離されたウイルス性癌遺伝子タンパク質により解決され、その際に、ウイルス性癌遺伝子タンパク質は、下記特徴を有する:
a)E1B55k、E3ADPならびにE4orf6及びE4orf4を含む群から選択される、YB−1核陽性細胞内の少なくとも1つのウイルス性遺伝子がトランス活性化される;そして
b)細胞核内、特にウイルス性癌遺伝子タンパク質が存在する細胞の細胞核内で、YB−1が誘導されない。
実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質はE1Aである。
更なる実施態様では、ウイルス性癌遺伝子たんぱく質は、野生型癌遺伝子タンパク質と比較して、1つ又は複数の突然変異又は欠失を含み、その際、欠失は、CR3領域の欠失、N末端の欠失及びC末端の欠失を含む群から好ましくは選択されることが企図される。
実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質を通じたYB−1の誘導は、E4orf6及び/又はE1B55kDがその核を含む細胞内に存在しない条件では起こらない。
ウイルス性癌遺伝子タンパク質がRbに結合することができることが企図される。
代替的な実施態様では、ウイルス性癌遺伝子タンパク質は、1つ又は複数の突然変異又は欠失を含み、その際、欠失は、好ましくはE1Aまたは癌遺伝子タンパク質のCR1領域及び/又はCR2領域内のものである。ウイルス性癌遺伝子タンパク質は、Rbに結合しない。
第26の態様では、本発明は、ウイルス複製系、特に本発明に従って使用されるようなウイルス、特にアデノウイルスをコードする核酸を含み、ヘルペスウイルスの核酸を含むアデノウイルス複製系に関し、その際、ヘルペスウイルスの核酸は、YB−1をコードする核酸配列を含む。
実施態様では、ウイルスの核酸、特にアデノウイルスの核酸、及び/又はヘルペスウイルスの核酸は、複製可能なベクターとして存在することを企図する。
第27の態様では、本発明は、医薬の製造、特に腫瘍の処置のための医薬の製造のための、本発明に従って使用されるようなウイルス、特にアデノウイルスをコードする核酸の使用に関する。
好ましい実施態様では、細胞、特に腫瘍又はその一部を形成する細胞が、薬物、特に抗腫瘍剤及びより特に細胞分裂停止薬に対して耐性、特に多剤耐性であることを企図する。
第28の態様では、本発明は、核内にYB−1を含む細胞における複製のための、本発明に従って使用されるような、ウイルス、特にアデノウイルスの核酸の使用に関し、その際、ウイルスは、核内にYB−1を含まない細胞内、細胞周期とは無関係に核内にYB−1を含まない細胞内、又は調節解除された調節YB−1を含まない細胞内では複製欠損であり、ウイルス遺伝子、好ましくはYB−1核陽性細胞内のアデノウイルス遺伝子の1つを少なくともトランス活性化する癌遺伝子又は癌遺伝子タンパク質をウイルスがコードしており、遺伝子は、E1B55kDa、E4orf6、E4orf3及びE3ADPを含む群から選択される。
第29の態様では、課題は、医薬の製造のための、本発明に従って使用されるような、ウイルス、特にアデノウイルスをコードする核酸の使用により解決され、その際、ウイルスは、複製がE2後期プロモーターの活性化を通じてYB−1により、好ましくは大部分がE2後期プロモーターの活性化を通じて制御されるように、適合されている。1つの実施態様においては、YB-1は、遺伝子移入したYB−1又は細胞性YB−1、特に細胞性の調節解除されたYB−1又は調節解除されたYB−1のいずれかである。遺伝子移入されたYB−1は、好ましくは、ベクター、特にある種の又は特定のアデノウイルスにより発現されるYB−1である。E2後期プロモーターは、野生型アデノウイルスに含まれるようなアデノウイルスE2後期プロモーターであり、又は本明細書に記載の導入遺伝子の発現との関係において使用されているようなE2後期プロモーターであることが好ましい。
第30の態様では、課題は、細胞内での複製のために、本願発明に従って使用されるような、ウイルス、特にアデノウイルスをコードする核酸の使用により解決され、その際、ウイルスは、複製が、E2後期プロモーターの活性化を通じたYB−1により、好ましくは大部分がE2後期プロモーターの活性化を通じて制御されるように適合されている。1つの実施態様において、YB−1は、遺伝子移入したYB−1であるか、又は細胞性、特に細胞性の調節解除されたYB−1のいずれかである。遺伝子移入したYB−1は、ベクター、好ましくはある種の又は特定のアデノウイルスにより細胞中で発現されるものであることが好ましい。E2後期プロモーターは、好ましくは野生型アデノウイルス中に存在するようなアデノウイルスE2後期プロモーターであるか、本明細書に記載の移入遺伝子の発現との関係において使用されるようなE2後期プロモーターであることが好ましい。
第31の態様では、上述の核酸のうちひとつを含むベクターの、本発明の第21又は第22の態様に従った使用のための使用により解決される。
第32の態様では、発明は、患者が、本発明に従って使用されるような、ウイルス、特にアデノウイルスと接触したか及び/又は処置されたかを決定することを目的とした細胞、腫瘍組織の細胞、又は患者の特徴付けのためのYB−1と相互作用する作用剤の使用に関する。
実施態様において、作用剤は、抗体、アンチカリン、アプタマー、アプタザイム及びスピーゲルマーを含む群から選択されることを企図する。
第32の態様において、課題は、本発明によるウイルス性癌遺伝子タンパク質、又はそれをコードする核酸の、本発明の第21及び第22の態様による使用との関係において使用されるような、ウイルス、特にアデノウイルスの製造のための使用により解決される。
実施態様において、ウイルスは、移入遺伝子をコードする核酸を含むことを企図する。
更なる実施態様において、ウイルスは、移入遺伝子の翻訳産物及び/又は転写産物を含むことを企図する。
好ましい実施態様において、アデノウイルス複製系の核酸及び/又はヘルパーウイルスの核酸は、移入遺伝子又は移入遺伝子をコードする核酸を含むことを企図する。
更なる実施態様において、核酸は、移入遺伝子又は移入遺伝子をコードする核酸を含むことを企図する。
代替的実施態様において、移入遺伝子は、プロドラッグ、サイトカイン、アポトーシス誘導遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、メタロプロテイナーゼ阻害剤の遺伝子、血管新生阻害剤の遺伝子、チロシンキナーゼ阻害剤の遺伝子を含む群から選択されることを企図する。
実施態様において、移入遺伝子は、siRNA、アプタマー、アンチセンス分子及びリボザイムの核酸を含む群から選択され、この際siRNA、アプタマー、アンチセンス分子及び/又はリボザイムが、標的分子に対するものであることを特徴とすることを企図する。
更なる実施態様において、標的分子は、耐性関連因子、抗アポトーシス因子、癌遺伝子、血管新生因子、DNA合成酵素、DNA複製酵素、増殖因子及びそのレセプター、転写因子、メタロプロテイナーゼ、特にマトリクスのメタロプロテイナーゼ、ならびにウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーターを含む群から選択される。実施態様において、耐性関連因子は、好ましくはP−糖タンパク質、MRP及びGSTを含む群から選択され、これらをコードする核酸をも含む。実施態様において、抗アポトーシス因子は、BCL2を含む群から選択され、それをコードする核酸をも含む。1つの実施態様において、癌遺伝子は、Ras、特に突然変異しているRas、Rb及びMYCを含む群から選択され、それらをコードする遺伝子をも含む。実施態様において、血管新生因子は、VEGF及びHMGタンパク質を含む群から選択され、これらをコードする核酸をも含む。1つの実施態様において、DNA合成酵素は、テロメラーゼを含む群から選択され、それをコードする核酸をも含む。実施態様において、DNA修復酵素は、Ku−80を含む群から選択され、それをコードする核酸をも含む。1つの実施態様において、増殖因子は、PDGF、EGF及びM−CSFを含む群から選択され、それらをコードする核酸をも含む。更なる実施態様において、レセプターは、好ましくは増殖因子のものであり、その際、増殖因子は、好ましくはPDGF、EGF、及びM−CSFから選択され、それをコードする核酸をも含む。1つの実施態様において、転写因子は、YB−1を含む群から選択され、それをコードする核酸をも含む。1つの実施態様において、メタロプロテイナーゼは、特にマトリックスのメタロプロテイナーゼである。好ましい実施態様において、マトリックスのメタロプロテイナーゼは、MMP−1及びMMP−2を含む群から選択され、それをコードする核酸をも含む。1つの実施態様において、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーターは、uPa−Rを含む群から選択され、それをコードする核酸をも含む。
更なる実施態様において、医薬は、少なくとも1つの医薬的に活性な化合物をさらに含むことを企図する。
好ましい実施態様では、薬学上活性のある作用剤は、 サイトカイン、メタロプロテイナーゼ阻害剤、 血管形成阻害剤、結腸直腸癌に対するイリノテカン及びCPT−11並びに白血病に対するダウノルビシンなどの細胞増殖抑止剤、CDK2/サイクリンEキナーゼ活性を抑制し結腸直腸腫瘍に対して用いることができるCYC202(McClue S J, Int. J. Cancer 2002, 102, 463-468)及びRaf−1を阻害し例えば乳癌に対して有効なBAY 43−9006(Wilhelm S M et al., Cancer Res. 2004, 64, 7099-7109)のような細胞周期阻害剤、26Sプロテアソーム活性を抑制し、脳腫瘍に対して用いられるPS−341のようなプロテオソーム阻害剤、EGFレセプターなどに対する組換え抗体 (乳癌及び前立腺腫瘍に対するハーセプチン; H.G. van der Poel, European Urology 2004, 1-17; 頭部及び頚部腫瘍に対するエルビタックス; Bauman M et al., Radiother. Oncol., 2004, 72, 257-266)、及び特にc−kitを抑制し、胃腸の腫瘍に対して用いることができる、STI571のような信号伝達カスケードの阻害剤 (H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、特に前立腺腫瘍に対して用いることのできるエンドセリン阻害剤であるABT−627 (H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、VEGFチロシン・キナーゼ・レセプターのリン酸化を阻害し、特に首及び頭の腫瘍に対して用いることができるSU5416 (Yin D. et al., Oncogene 2004)、EGFRチロシン活性を阻害し、特に前立腺腫瘍に対して用いることができるZD1839( H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、mTORを阻害し、前立腺腫瘍に対して用いることができるCCI−779及びRAD001のようなラパマイシン誘導体;を含む群より選択される。本明細書に記述した様々なアデノウイルス及び本発明に従って用いられるアデノウイルスを、それぞれ原則として、いずれの前述の化合物とも共に、本明細書においてそれに関連して上述したいずれの適応に対しても用いることができることは、本発明内である。特に好ましい実施態様では、この適応は任意の以前に言及した薬学上活性のある化合物に対して記述されている適応である。
実施態様では、薬物は少なくとも2つの作用剤の組合せを含む。その場合、任意の作用剤が、個々に及び独立して細胞増殖抑止剤を含む群より選択される。
好ましい実施態様では、少なくとも2つの作用剤が異なる標的分子に作用する。
別の実施態様では、少なくとも2つの作用剤が異なる作用機序によって活性を有する。
実施態様では、少なくとも1つの作用剤が、ウイルスがその中で複製する細胞の感染される受容能力を増加させる。
実施態様では、少なくとも1つの作用剤が、細胞内の成分の有効性に影響を及ぼし、好ましくは成分の有効性を増大させ、それによって成分はウイルスの取込みを媒介する。
実施態様では、少なくとも1つの作用剤が、核の中へのYB−Iの輸送を媒介し、好ましくは前記輸送を増加させる。
実施態様では、少なくとも1つの作用剤がヒストンデアシラーゼ阻害剤である。
好ましい実施態様では、ヒストンデアシラーゼ阻害剤が、トリコスタチン A、FR 901228、MS−27−275、NVP−LAQ824、及びPXD101を含む群より選択される。
実施態様では、少なくとも1つの作用剤が、トリコスタチン A、FR 901228(膵臓腫瘍に対して、Sato N et al., Int. J. Oncol. 2004, 24, 679-685;MS−27−275(前立腺腫瘍に対して、 Camphausen K et al., Clinical Canver Research 2004, 10, 6066- 6071)、NVP−LAQ824(白血病に対して、Nimmanapalli R et al., Cancer Res. 2003, 63, 5126- 5135;PXD101(卵巣腫瘍に対して、Plumb JA et al, Mol. Cancer Ther. 2003, 2, 721-728)、スクリプタイド(乳癌に対して、 Keen JC et al., Breast Cancer Res. Treat. 2003, 81, 177- 186)、アピシジン(メラノーマに対して、Kim SH et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2004, 315, 964-970)及びCI−994(様々な腫瘍に対して、Nemunaitis JJ et al., Cancer J. 2003, 9, 58- 66)を含む群より選択される。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の作用機序については、特に Lindemann RK et al., Cell Cycle 2004, 3, 77-86 に記述されている。本明細書に記述される様々なアデノウイルス及び本発明に従って用いられるアデノウイルスを、それぞれ原則として前述の化合物と共に、本明細書でそれに関連して上述したいずれの適応に対しても用いることができることは、本発明の範囲内である。特に好ましい実施態様では、この適応は以前に言及した薬学上活性のあるそれぞれの化合物に対して記述された適応である。
実施態様では、少なくとも1つの作用剤はトポイソメラーゼ阻害剤である。
好ましい実施態様では、トポイソメラーゼ阻害剤は、カンプトテシン、 イリノテカン、トポテカン、 DX−8951f、SN−38、9−アミノカンプトテシン、 9−ニトロカンプトテシン、 エトポシド及びダウノルビシンを含む群より選択される。これらを様々な腫瘍、例えば結腸直腸腫瘍、膵臓腫瘍、卵巣癌、前立腺癌に対して用いることができる。利用される分野については特に、Recchia F et al., British J. Cancer 2004, 91, 1442-1446; Cantore M et al., Oncology 2004, 67, 93-97; Maurel J. et al., Gynecol. Oncol 2004, 95, 114-119; Amin A. et al., Urol. Oncol. 2004, 22, 398-403; Kindler HL et al., Invest. New Drugs 2004, 22, 323-327, Ahmad T. et al., Expert Opin. Pharmacother. 2004, 5, 2333-2340; Azzariti A. et al., Biochem Pharmacol. 2004, 68, 135-144; Le QT et al., Clinical Cancer Res. 2004, 10, 5418-5424 に記述されている。ここに記述した様々なアデノウイルス及び本発明に従って用いられるアデノウイルスは、それぞれ、原則として、前述の化合物と共に、本明細書でそれに関連して上述したいずれの適応に対しても用いることができることは、本発明の範囲内である。特に好ましい実施態様では、この適応は、以前に言及した医薬的に活性を有する各々の化合物に対して記述された適応である。
好ましい実施態様では、作用剤がトリコスタチンA及びイリノテカンを含む。
実施態様では、ウイルス、特に本発明の態様の1つによるウイルス、が少なくとも2つの作用剤から分離されている。
好ましい実施態様では、ウイルスの少なくとも1単位の投与量が、少なくとも2つの作用剤のうちの1つの少なくとも1単位の投与量から分離されている。
第34の態様では、本発明は、ウイルス、特に本発明の任意の態様によるウイルス、及び少なくとも2つの作用剤を含むキットに関する。その場合、任意の作用剤が、個々に及び独立して細胞増殖抑止剤を含む群より選択される。
本発明に従って上で開示されたアデノウイルス、特に、本発明の第1〜第8の態様に関連して開示されたものはまた本明細書ではグループIのアデノウイルスと呼び、たとえばE1Aのようなトランス活性化する癌遺伝子を有するアデノウイルス及び/又は本明細書でいうもの、特に上で本発明に従って使用されるべきものはまた、本明細書ではグループIIのアデノウイルスと呼ぶ。グループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスはまた、まとめて本明細書では、アデノウイルス、又は本発明に係るアデノウイルス又は本発明に係るウイルスと呼ぶ。
本発明は、アデノウイルス遺伝子の発現配列の反転が効率的な複製を生じ、場合により、アデノウイルスに感染した細胞の溶解を生じるという驚くべき知見に基づく。アデノウイルス遺伝子の経時的に変化する発現に関して、本明細書では個々に又はまとめて、第2のタンパク質に先立って発現される第1のタンパク質と呼ばれるE1Bタンパク質及びE4タンパク質が特に強調されるべきである。第2のタンパク質は、E1Aタンパク質を含む群から選択される。先ずE1Aタンパク質が発現し、順にE1Bタンパク質及びE4タンパク質が発現する野生型アデノウイルスに比べて、反転しているこの発現順は、転写因子が活性化され、たとえば感染した細胞の核に輸送され、そこでのさらなる複製活性に影響を与え、複製活性を制御することを保証している。野生型アデノウイルスにおけるアデノウイルス転写物の動態は、たとえば、Glenn G. M and Ricciardi R. P., Virus Research 9: 73-91, 1988に記載されており、彼らは、野生型のE1A転写物では、すなわち、E4orf6及びE1B55kの転写物及び翻訳産物に先立って、普通、E1A12S及びE1A13Sの転写物が検出可能であると報告している。本件の場合、E1Bタンパク質は、本明細書では一般に、他の表示がない限り、好ましくはE1B55kDタンパク質である。本件の場合、E4タンパク質は、本明細書では一般に、他の表示がない限り、好ましくはE4orf6タンパク質である。本件の場合、E1Aタンパク質は、本明細書では一般に、他の表示がない限り、好ましくはE1A12Sタンパク質又はE1A改変アデノウイルスに関連して本明細書で記載されるようなE1Aタンパク質である。
E1Aタンパク質、特にまたE1A12Sタンパク質が原則として置換されてもよいことは本発明の範囲内である。そのような置換されたE1Aタンパク質及びE1A12Sタンパク質は、本明細書ではまた、E1Aタンパク質及びE1A12Sタンパク質と呼び、又は他の表示がない限り、この用語によって含まれるように判断されるべきである。E1A12タンパク質の代わりに、たとえば、Dickopp A., Esche H., Swart G., Seeber S., Kirch H. C., Opalka B., Cancer Gene Ther., Jul;7(7): 1043-50, 2000によって記載されるように、腫瘍抑制機能を有するE1Aタンパク質を使用してもよい。さらに、E1Aタンパク質の誘導体、特にE1A12Sの誘導体は、本明細書で使用する及び/又は呼ばれるとき、一般に、Rb/E2F複合体から因子E2Fを放出することが可能であるタンパク質である。Chellappan S. et al., Proc. Natl. acad. Sci. USA 89: 4549-4533, 1992に記載されるように、とりわけ、シミアンウイルス40腫瘍抗原(SV40ラージT抗原)、パピローマウイルスE7タンパク質(HPVE7)がある。
E4orf6及びE1B55kの誘導体を使用してもよいことは本発明の範囲内であり、本明細書で使用されるとき、用語E4orf6及びE1B55kはそのような誘導体を含む。誘導体は、たとえば、Shen Y. et al., J. of Virology 75: 4297-4307, 2001; Querido E. et al., J. of Virology 75: 699-709, 2001に記載されている。
E1Bタンパク質が、E1Aタンパク質に先立って発現されること、又はE4タンパク質がE1Aタンパク質に先立って発現されること、又はE1Bタンパク質及びE4タンパク質が、それぞれ上述のようにE1Aタンパク質に先立って発現されることは本発明の範囲内である。
そのような方法で設計されたアデノウイルスは、核にYB−1を発現する、好ましくは細胞周期とは無関係に核にYB−1を発現するか、又は調節解除されたYB−1を好ましくは細胞質に含む細胞の感染の際、特に高いレベルで複製することが可能である。以下においてそれらに束縛されることを望まないで、本発明者は、E1Bタンパク質及び/又はE4から成る複合体及びこれら2つのタンパク質の個々が調節解除されたYB−1を細胞核に輸送でき、又は、E1Aタンパク質に先立って発現しているE1Bタンパク質及び/又はE4タンパク質の影響下、そこでアデノウイルスの複製を開始できることを想定している。いったん、細胞核において、又は活性化形態でそこに存在すると、本明細書で記載するようにYB−1は、特にE2後期プロモーターを用いて効率的に複製してもよい。従って、E1Bタンパク質及び/又はE4タンパク質の時間的に早い発現は、E1Aタンパク質の最初の発現と共に進む、野生型で認められるカスケードを回避する。好ましい実施態様では、E1Aタンパク質は、E1Bタンパク質及び/又はE4タンパク質をもはやトランス活性化しない、又は極めて限定された程度にしかそれをトランス活性化しないE1Aタンパク質である。好ましくは、このトランス活性化は、核にYB−1を有さない細胞における効率的な複製を確保するにも十分でなければ、複製を確保するにも十分ではない。トランス活性化は、細胞周期とは無関係に核にYB−1を有さない細胞又は調節解除されたYB−1を有さない細胞で生じないことが好ましい。
さらに、本発明は、アデノウイルスは、少なくともタンパク質をコードする核酸を含めば特に効率的に複製することができ、その際、タンパク質は、E1Bタンパク質、E4タンパク質およびE1Aタンパク質を含む群から選択され、そのタンパク質の少なくとも1つが野生型アデノウイルスにおける各タンパク質の発現を制御するプロモーターとは異なるプロモーターの制御下にあるという驚くべき知見に基づく。そのような複製は、特に効率的であり、普通、細胞が核にYB−1を有する、特に細胞周期とは無関係にYB−1を有する場合、又は細胞が調節解除されたYB−1を有する、特に調節解除されたYB−1を細胞質に有する場合、結果として腫瘍溶解を生じる。E1Bタンパク質、E4タンパク質及びE1Aタンパク質について上で言ったことはここでも適用される。野生型アデノウイルスでは、E1Bタンパク質はE1Bプロモーターにより制御され、E4タンパク質はE4プロモーターにより制御され、E1Aタンパク質はE1Aプロモーターにより制御される。野生型アデノウイルスにおいて前述のタンパク質の発現を制御するものとは異なるプロモーターを選択することにより、前述のタンパク質の発現並びにアデノウイルスの核酸及びタンパク質の調節性相互作用が変化する。プロモーターを選択することによって、時間的に異なる発現パターンが創製され、以下においてそれに束縛されることを望まないで、それは、細胞で観察される複製を生じ、そのメカニズムは、アデノウイルスのタンパク質、E1B、E4及びE1Aの時間的に異なる発現に関して前に記載されたようなものであってもよい。野生型アデノウイルスにおける各タンパク質の発現を制御するものとは異なるプロモーターを介した前記タンパク質の制御のための具体的設計の例は、従属クレーム及び実施例部分から選べばよく、特に、XVirPSJL1及びXVirPSJL2と呼ばれるウイルスはその代表例である。好ましくは、E1Bタンパク質はE1B55kDタンパク質であり、E4タンパク質はE4orf6タンパク質であり、E1Aタンパク質はE1A12Sタンパク質である。
E4タンパク質同様にE1Bタンパク質を好ましく制御するプロモーターは、アデノウイルスプロモーターが使用されるとき、E1Bタンパク質の発現制御の場合、それらはE1Bプロモーターとは異なり、E4タンパク質の発現制御の場合、それらはE4プロモーターとは異なるという条件付きで、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択される。E1Bタンパク質及び/又はE4タンパク質の発現制御にはE1Aプロモーターの使用が特に好ましい。E1Aプロモーターは、たとえば、Boulanger P. A and Blair G. E, Biochemical J., 275: 281-299,1991に記載されている。さらに、各異種プロモーター及びそのほかのいかなる異種プロモーターの使用も可能であり、すなわち、野生型アデノウイルスにおける各タンパク質の発現を制御するものとは異なるプロモーター。代表的な例はCMVプロモーターであり、そのほかのプロモーターも当業者には明らかであろう。
E1Aの制御のために使用されるプロモーターは、アデノウイルスのプロモーターがE1Aプロモーターとは異なるという条件付きで、腫瘍特異的プロモーター、器官特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、異種プロモーター、及びアデノウイルスプロモーターを含む群から選択されてもよい。前述のタンパク質、すなわち、E1Bタンパク質、E4タンパク質又はE1Aタンパク質の1つ又は幾つかが同一プロモーターの制御下にあり、にもかかわらず、E1Bタンパク質及びE4タンパク質が同一プロモーターの制御下にあることが特に好ましいということは本発明の範囲内である。E1Aタンパク質の発現は、YB−1が制御するプロモーター又はYB−1が調節できるプロモーターにより制御されることが特に好ましい。そのようなプロモーターは、本発明の他の態様と併せて本明細書で開示される。アデノウイルスE2後期プロモーターの使用は、E1Aプロモーターの発現の制御には特に好ましく、第1にYB−1により調節することができ、第2に、事実上無視できるほど、YB−1の非存在下では転写をほとんど示さないので、E2後期プロモーターの制御下にある核酸の発現制御が確保される。このことは、特に医学分野に適用される場合、生物学的安全性を相当に高める。
さらに、本発明は、YB−1が特に細胞核において直接的に又は間接的にのいずれかで複製に提供されれば、或いはYB−1の提供に直接的に又は間接的にアデノウイルスのタンパク質が介在しており、その際、そのようなアデノウイルスがE1Aと異なっていれば、アデノウイルスは、核にYB−1を有する細胞、特に細胞周期とは無関係に核にYB−1を有する細胞及び/又は調節解除されたYB−1を有する細胞、好ましくは、細胞質に調節解除されたYB−1を有する細胞で特に複製することを見い出した。本発明の本態様は、本明細書でも開示される態様とは異なる、すなわち、トランス活性化するE1A改変のアデノウイルス、好ましくは、グループIIのアデノウイルスの使用が、YB−1核陽性の腫瘍細胞、特に細胞周期とは無関係にYB−1陽性であるYB−1核陽性の細胞及び調節解除されたYB−1を有する、特に細胞質にYB−1を含む細胞で複製ができ、その程度において、E1Aタンパク質、特にE1A13Sタンパク質のトランス活性化の特性がここでは使用されず、すなわち、グループIのアデノウイルスとの関連で、しかし、むしろ、好ましい実施態様において、E1A13Sは機能的に不活性であるので、もはやE4orf6及びE1B55kをトランス活性化することができず、それは、直接的に又は間接的にYB−1の輸送及び提供にそれぞれ関与する。したがって、本発明の本態様に従うと、アデノウイルスの効率的な複製は可能ではない。核におけるYB−1の提供及びアデノウイルスの複製に対するYB−1の提供の場合は、もはやE1Aタンパク質の直接的な又は間接的な関与の制御下ではないが、E1Aによって制御されないE1Bタンパク質、好ましくはE1B55kDタンパク質及び/又はE4タンパク質、好ましくはE4orf6タンパク質の発現を介して生じる。
アデノウイルスの本実施態様は、前述の手段の1つ、たとえば、E1Aタンパク質の発現に比べて、E1Bタンパク質及び/又はE4タンパク質の時間的発現を前に進めることによって、或いは、1又は数個のE1Bタンパク質、E4タンパク質及びE1Aタンパク質を野生型アデノウイルスにおける各タンパク質の発現を制御するプロモーターとは異なるプロモーターの制御下に置くことによって提供されてもよい。
最終的に、本発明者は、効果的なアデノウイルスの複製は、特に核にYB−1を有する、さらに特に細胞周期とは無関係に核にYB−1を有する細胞、又は調節解除されたYB−1を好ましくは細胞質に有する細胞で生じてもよく、E1Bタンパク質、E4タンパク質及びE1Aタンパク質の少なくとも1つの場合、特にその好ましい形態はプロモーターの制御下の発現カセットにおいて発現されるという驚くべき知見から出発する。本発明の実施態様の1つでは、前記タンパク質の単一の1つをそれぞれ含む3種の発現カセットが基本的に提供される。別の実施態様では、2以上のタンパク質、E1B、E4及びE1A及び特にE1A12Sの場合、その誘導体及び可能な置換基を含んでもよい。アデノウイルスがタンパク質、E1B、E4及びE1Aに関する核酸を含むという態様に関連して前に述べたことは、種々のタンパク質及びそれぞれ使用するプロモーターの設計にも適用可能である。そのような発現カセットを使用する場合、タンパク質及び発現カセットの各タンパク質に相当する野生型アデノウイルスのゲノムにそれをコードする核酸は、完全に又は部分的にのいずれかで欠失されて、確実にウイルスを安定にし、少なくともさらに大きな程度への組換えを回避することが好ましい。
原則として、発現カセットはアデノウイルスの各領域及び各部位にクローニングされ、好ましくは、1又は数個のカセットを個々に又は互いに組み合わせてウイルスのE1領域、E3領域及び/又はE4領域に挿入する。E1領域、E3領域及びE4領域が完全に欠失される、部分的に欠失される、又は全く欠失されないことが可能であり、本発明に係るアデノウイルスに関してはE1A13S遺伝子をコードする核酸は、ウイルスによってトランス活性化するいかなるE1Aタンパク質も提供しないように不活化される又は欠失されることが好ましい。E1領域、E3領域及びE4領域の1又は数個におけるそのような欠失の程度は、使用される発現カセット、及び場合により、さらに導入されるが外来遺伝子又は導入遺伝子又はそれら、すなわち、アデノウイルス遺伝子とは異なる、少なくとも、野生型アデノウイルスで優勢であるアデノウイルス核酸の調節性の程度で提供されないセンスにおいて異なる、或いはそのような部位で野生型アデノウイルスのアデノウイルス核酸の配列で提供されない遺伝子を含むさらなる発現カセットにより決定される。E1Bタンパク質、E4タンパク質及び/又はE1Aタンパク質をコードする1又は数個の発現カセットに含有される核酸がアデノウイルスのゲノムにおいて完全に又は部分的に欠失されることは本発明の範囲内である。本発明XvirPSJL1又は2に係るアデノウイルスのような実施態様では、E4orf6をコードするアデノウイルス核酸は部分的に欠失又は完全に欠失されるが、それをコードする完全な核酸が発現カセットに含有される。好ましくは、これは、E1B55k(E155Kdともいう)タンパク質及び/又はE1A12Sタンパク質についても実現される。欠失の程度は、野生型アデノウイルスの最大パッケージサイズの約103%の最大パッケージサイズに達するように好ましい実施態様で選択されるべきであるが、この限定は単に好ましい限定に過ぎない。アデノウイルスゲノムで行われる可能性のある欠失は、たとえば、さらなる感染性の濃縮粒子が確実に製造されうるような好ましい実施態様における限定の単なる対象である。欠失の正確な程度は、標準試験と共に本明細書で提供される開示に基づいて当業者によって決定されてもよい。
本明細書で記載されるアデノウイルスの構築のための出発点として、いかなる野生型アデノウイルスを使用してもよいが、本発明の技術的教示に従ってそれらが構築されるという条件で、そのほかのアデノウイルスを使用してもよい。サブグループCそして次にこのグループ内のアデノウイルス2及びアデノウイルス5に頼ることが特に好ましい。
用語、E1Bタンパク質(単数)及びE1Bタンパク質(複数)、E4タンパク質(単数)及びE4タンパク質(複数)、並びにE1Aタンパク質(単数)及びE1Aタンパク質(複数)は、他の表示がない限り、同義的に本明細書で使用される。
本明細書で使用するとき、用語「調節解除された」YB−1は、正常に存在する細胞、好ましくは非腫瘍細胞のYB−1とは量的に及び/又は質的に異なる形態で存在する本明細書で記載されるYB−1分子又はYB−1タンパク質をいう。特定のウイルスがそのような調節解除されたYB−1を含む細胞のバックグラウンドで調節解除されたYB−1の存在下で複製できることによって、調節解除されたYB−1を特徴づけ、同定することができる。それに関連した特定のウイルスは、そのE1Aタンパク質に突然変異があり、トランス活性化する機能を呈するものである。特定のウイルスの例は、ADデルタ24、dl922−947、ElAd/01/07及びCB106及び/又はHowe J. A. et al., Molecular Therapy 2: 485-495, 2000; Fueyo J. et al., Oncogene 19: 2-12, 2000; Heise C. et al., Nature Medicine 6: 1134-1139, 2001; Balague C., et al., J. Virol., 75: 7602-7611, 2001; Bautista D. S. et al., Virology 182: 578-596, 1991; Jelsma T. N. et al., Virology 163: 494-502, 1988; Wong H. K. and Ziff E. B. J. of Virology 68: 4910-4920, 1994に記載されるものである。そのような細胞及びそのようなバックグラウンドを有するそのような細胞は、グループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスの複製に使用することができる。さらに、そのような細胞を含む腫瘍を本発明に係るアデノウイルスによって溶解してもよい。
さらに、本発明は、YB−1核陽性の腫瘍細胞におけるE1A修飾のアデノウイルスのDNA複製がE2後期プロモーターの活性化に基づくという驚くべき知見に基づく。E1A改変のアデノウイルスは、(a)YB−1核陰性の細胞では、野生型に比べて複製が少ない又は全く複製しない、(b)少なくとも1つのウイルス遺伝子に対してトランス活性化活性を有し、その際、遺伝子は特にE1B−55kDa、E4orf6、E4orf3及びE3ADPを含む群から選択され、及び/又は(c)アデノウイルスによって細胞のYB−1を核に転移しないものとして理解されるべきである。場合により、本発明に係るアデノウイルスは、アデノウイルスにコードされるE1Aタンパク質の結合がE2FのRBへの結合を妨害し、E2FとRbから成る各複合体を溶解することが可能であるというさらなる特性を有する。前述の特徴(a)〜(C)の1又は数個、好ましくは特徴(a)〜(C)のすべてを有するアデノウイルスは、YB−1を核に有さない細胞では複製欠損性である。
実施態様では、ここで強く低下した複製は特に、野生型に比較して2の因子、好ましくは5の因子、さらに好ましくは10の因子及び最も好ましくは100の因子減少する複製を意味する。好ましい実施態様では、同一の又は類似の細胞株、同一の又は類似の、感染に対するウイルス力価(感染の複合性、MOI又はプラーク形成単位、pfu)及び/又は同一の又は類似の一般的実験条件を用いて、複製の比較を行う。複製は特に粒子の形成を意味する。更なる実施態様では、複製の手段がウイルス核酸の合成程度であってもよい。ウイルス核酸の合成程度の決定方法及び粒子形成の測定方法は、双方共に当業者に既知である。
知見、方法、使用又は核酸、タンパク質、複製システムなどは、必ずしもアデノウイルスに限定されない。基本的に、そのようなシステムは、本明細書にも含まれるそのほかのウイルスにも存在する。
本発明に係るウイルスを使用すること又は本発明に従って本明細書に記載されるウイルスの使用が従来技術に従った10〜100pfu/細胞に比べて、1〜10pfu/細胞を用いた場合、野生型に匹敵する複製を生じてもよい。
細胞性YB−1はコードされた任意のYB−1でなければならず、好ましくは、細胞によって発現され、YB−1は、特に、アデノウイルスによって、好ましくは本明細書で記載されるようにアデノウイルス及び/又はヘルパーウイルスによって各細胞に感染される前に特に細胞に存在する。しかしながら、細胞性YB−1が、ウイルス、好ましくはアデノウイルスによる感染のような外因性の手段が適用される場合にのみ、細胞に導入される又は細胞によって産生されるYB−1であることも本発明の範囲内である。
それに束縛されることを望まないで、本発明者は、E2早期プロモーター、すなわち、早期E2プロモーターは、本発明に従って使用されるウイルスの複製と関連した、かつ本発明のアデノウイルスの本発明に従った使用と関連したヒト細胞性E2F転写因子によってスイッチオンされないことを想定する。そのような状況下で、複製の開始は、細胞のRbの状態と無関係であり、すなわち、本明細書で開示されたウイルスを用いて感染させられ、かつ、好ましくは続いて溶解される腫瘍細胞は、機能的なRbタンパク質及び不活性のRbタンパク質のいずれかを含有してもよい。さらに、本明細書で開示されるアデノウイルスを用いた、又は本明細書で開示される条件を用いたアデノウイルスの複製は、いかなる機能的なp53タンパク質も要求しないが、その存在によって否定的な影響を受けることもない。その程度において、無傷のRbタンパク質は生体内での効率的な複製を妨害するので、Rb陰性及びRb変異の細胞でのみ生体内のアデノウイルスの複製が提供されるという前提でE1Aタンパク質における1又は数個の欠失の対象とされてきた、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016又はたとえば、欧州特許EP0931830に記載されるようなアデノウイルスの癌溶解又は腫瘍溶解のアデノウイルスの使用の原理から、技術的教示は離れる。従来技術のアデノウイルスのシステムは、早期E2プロモーター(E2早期プロモーター)及び「遊離のE2F」によるアデノウイルスの生体内複製を制御するためにE1Aに基づく。それにもかかわらず、従来技術のこれら既知のウイルスを、本発明に従って、細胞周期とは無関係に核にYB−1を含有する細胞又は調節解除されたYB−1を含む細胞における複製に使用してもよい。
前記欧州特許EP0931830号で記載されたウイルス、特にアデノウイルスは、本発明に従って使用してもよい。さらに具体的には、前記特許に記載されたウイルスは、複製欠損性であり、機能的なRb腫瘍抑制遺伝子産物を結合することが可能であるウイルス性の癌タンパク質の発現を欠くウイルスである。アデノウイルスは、機能的な腫瘍抑制遺伝子産物、さらに詳しくはRbを結合することが可能であるウイルス性のE1A癌タンパク質の発現を欠くいかなるアデノウイルスであることもできる。ウイルス性のE1A癌タンパク質は、たとえば、p105Rbタンパク質、p130及びp107タンパク質の結合に関与する、本明細書ではAd5、ヌクレオチド679〜790位と呼ばれるアデノウイルスAd5におけるアミノ酸30位〜85位でのCR1ドメイン及び/又はAd5におけるアミノ酸120位〜130位、ヌクレオチド920〜967位でのCR2ドメインにて不活性化突然変異を示すことができる。しかしながら、アデノウイルスが2dl312型又は5Ntdl1010型であることは本発明の範囲内である。
薬物の製造、特に本明細書で開示される腫瘍性疾患及びそのほかの疾患を治療するための薬物の製造のための本発明に従ったアデノウイルスの使用に関連して、かつ、核にYB−1を有する、好ましくは、細胞周期とは無関係に核にYB−1を有する細胞又は調節解除されたYB−1を好ましくは細胞質に有する細胞での複製への本発明に従ったアデノウイルスの使用と同様に本発明のアデノウイルスの使用に関連して、複製は最終的には、核に、好ましくは細胞周期とは無関係にYB−1を有する、言い換えればYB−1の核陽性の細胞、又は調節解除されたYB−1を含む細胞で生じる。核にYB−1を有さないが細胞質にのみYB−1を含有する細胞又はいかなる調節解除されたYB−1も含有しない細胞ではアデノウイルスはそのままでは複製しないか、又は極めて低レベルでしか複製しないことを特に認識すべきである。その程度において、これらウイルスの成功的複製には、YB−1が核に好ましくは細胞周期とは無関係に存在すること、又は調節解除されたYB−1が存在することが必要である。以下でも説明するように、たとえば、好ましくは細胞周期とは無関係にYB−1の発現又は存在を生じる、又は核に調節解除されたYB−1を生じる又は調節解除されたYB−1の発現を生じる条件を細胞に適用することによってこれを達成することができる。各手段は、たとえば、本発明に従って使用される又は本発明の対象とされる、アデノウイルス遺伝子に加えてYB−1をコードする、特にその発現をコードする遺伝情報を運んでいるアデノウイルスによるYB−1のコーディング及び発現である。細胞の核へのYB−1の輸送、核でのその誘導及び発現を生じるそのほかの手段は、細胞及びそのような細胞を含有する生物への細胞増殖抑制剤、照射、温熱などのような投与のようなストレスの適用である。好ましい実施態様では、照射は、たとえば、腫瘍性疾患の治療で使用されている任意の放射線である。
本発明に従って特に腫瘍溶解に使用されるアデノウイルス並びに本発明に係るアデノウイルスは、好ましい実施態様では、細胞周期とは無関係で核にYB−1を有さないのでYB−核陰性である細胞、又は調節解除されたYB−1を含まない細胞では複製しないという事実を特徴とする。
本発明のアデノウイルスとは異なる本発明に従って使用されるべきアデノウイルスの一部のさらなる特徴は、それらが、本明細書では癌遺伝子タンパク質と呼ぶウイルス性癌遺伝子をコードしており、癌遺伝子タンパク質は好ましくはE1Aであり、癌遺伝子タンパク質はウイルスの複製及び/又は前記ウイルスが感染した細胞の細胞溶解に影響を有する少なくとも1つのウイルス性遺伝子である。好ましくは、複製への影響は、ウイルスの癌遺伝子タンパク質が存在しない場合に比べて癌遺伝子タンパク質が存在する場合においてウイルスの複製がさらに良好であるようにする。この過程は本明細書では、トランス活性化、特にトランス活性化にE1Aが介在している場合はE1Aトランス活性化と呼ぶ。用語「トランス活性化の」又は「トランス活性化」は、好ましくは、ウイルスの癌遺伝子タンパク質自体をコードする遺伝子とは異なる1又は数個のそのほかの遺伝子の発現及び/又は転写に、ウイルスの癌遺伝子タンパク質が影響を有すること、すなわち、その発現及び/又は翻訳を制御する、及びそれを活性化する過程を記載する。そのようなウイルス遺伝子は、E1B55kDa、E4orf6、E4orf3及びE3ADP並びに前述の遺伝子及び遺伝子産物の組み合わせである。
本発明に従って使用されるアデノウイルスの、並びに本発明のアデノウイルスの、さらなる、が任意にすぎない特徴は、その結合特性であり、それにコードされるタンパク質の特定のものの腫瘍サプレッサーRbへの結合特性である。基本的に、本発明に従って使用されるアデノウイルスがRbに結合してもよく又はしなくてもよいことは本発明の範囲内である。アデノウイルスの2つの別の実施態様のいずれかの使用は、処理された細胞又は処理されるべき細胞のRbの状況に無関係である。
Rbに結合しない能力をE1Aに付与するために、以下の欠失をE1A癌タンパク質に行うことができる:CR1領域(Ad5におけるアミノ酸30〜85位)における欠失及びCR2領域(Ad5におけるアミノ酸120〜139位)の欠失。そのように行うには、CR3領域が保存され、そのほかの早期ウイルス遺伝子に対してトランス活性化機能を用いることができる。
Rbに結合する能力をE1Aに付与するために、E1A癌タンパク質への以下の欠失が基本的には可能である:CR3領域(アミノ酸140〜185位)の欠失;N末端(アミノ酸1〜29位)の欠失;アミノ酸85〜119位の欠失;C末端(アミノ酸186〜289位)の欠失。上に列記した領域は、E2FのRbへの結合を妨害しない。トランス活性化機能もそのまま残るが、野生型Ad5に比べると低下する。
E1Aタンパク質、特にE1A12Sタンパク質を、ある実施態様ではRbに結合できるように設計し、別の実施態様ではRbに結合できないように設計して、そのようなE1A12Sが、従来技術では改変E1A12Sと呼ばれることもあるにもかかわらず、本発明の意味では、E1Aタンパク質、特にE1A12Sタンパク質であることは、特に本発明のアデノウイルスに関して、本発明の範囲内である。E1A12Sタンパク質の各設計は、特に本明細書では単純にE1Aとも呼ぶE1Aタンパク質の前述の欠失に関して、当業者の範囲内である。
従来技術で基本的にすでに既知であり、いかなるトランス活性化も示さないそのようなアデノウイルスは一般に複製欠損性とみなす。しかしながら、にもかかわらず、それらが好適なバックグラウンド、特に細胞のバックグラウンドで複製可能であることを認識するのは本発明のメリットである。そのような好適な細胞のバックグラウンドは、核におけるYB−1の存在、好ましくは細胞周期とは無関係の核におけるYB−1の存在、又は調節解除されたYB−1によって誘発されるか又は提供される。用語、細胞又は細胞系は、本明細書で本発明のそのほかの態様と関連して使用されるとき、インビトロ、生体内又は生体外に存在する細胞と同様に細胞抽出物の断片又は区画を含む。その程度において、用語、細胞系又は細胞は、細胞培養、組織培養、器官培養或いは生体内及び生体外の組織又は生物に存在する細胞も含むが、それは好ましくは生体にそのまま存在してもよい。生物は好ましくは脊椎動物であり、さらに好ましくは哺乳動物である。さらに好ましくは、生物はヒトである。そのほかの好ましい生物は、本発明の種々の態様に関連して開示されるものである。
さらに、本明細書で提供される技術的教示に基づいて、本明細書及び従来技術で記載されたアデノウイルスの複製挙動をYB−1核陽性の、好ましくは細胞周期とは無関係でのYB−1核陽性の細胞又は調節解除されたYB−1を含む細胞で示す新しいウイルスを生成することは本発明の範囲内である。言い換えれば、特に、好ましくはすでに既知のアデノウイルスから出発して、本発明に従った使用に関連する、本明細書で定義される特徴を呈するさらなるウイルスを構築することができる。
本発明に関連して、本発明に従って使用されるべき種々のアデノウイルスの改変されたE1A癌タンパク質は、本発明のウイルスとは対照的に、YB−1核陽性の細胞又は調節解除されたYB−1を含む細胞におけるE1B55K、E4orf3、E4orf6、E3ADPのような早期ウイルス遺伝子をトランス活性化することができる。好ましくは、ウイルスゲノムに行われるそのほかの変更はなく、アデノウイルスは、その程度においてさもなければ、野生型アデノウイルス又はその誘導体に相当してもよい。
本発明の意味でトランス活性化する癌遺伝子タンパク質をコードする又は含む、本明細書で開示されるウイルスは、それぞれ、E1B、E2、E3及び/又はE4のような早期遺伝子をトランス活性化することができ、かつ、野生型のアデノウイルス、特に野生型Ad5に匹敵する、たとえば、アデノウイルス、AdΔ24、dl922−847、E1Ad/01/07、CB106及び/又は欧州特許EP0931830に記載されるアデノウイルスを含む。これらの場合、E1Aタンパク質の識別可能な領域がトランス活性化に関与する。種々のアデノウイルスの血清型の中で、E1Aタンパク質のなかに3つの高度に保存された領域がある。アミノ酸41〜80位の領域CR1、アミノ酸120〜139位の領域CR2,及びアミノ酸140〜188位の領域CR3。トランス活性化の機能は、E1Aタンパク質の中のCR3領域の存在に主として基づく。CR3のアミノ酸配列は上記アデノウイルスにおいて不変な様態で存在する。これによって、YB−1が核に存在するか細胞質に存在するかとは無関係に、早期遺伝子、E1B、E2、E3及びE4のトランス活性化を生じる。
それとは対照的に、組換えアデノウイルスdl520ではCR3領域が欠失している。従って、dl520は、CR3領域のアミノ酸配列を含まないいわゆるE1A12Sタンパク質を発現する。その結果、dl520は、特にE2領域に対して非常に弱いトランス活性化機能しか行使できないので、YB−1核陰性細胞では複製しない。YB−1核陽性の細胞では、YB−1がE2領域のトランス活性化に関与するので、dl520の十分な複製が得られる。dl520のようなシステムの使用又は本明細書で開示される目的でのそれを起源とするシステムの使用は、それに基づく。たとえば、デルタ24(本明細書ではAdΔ24とも呼ぶ)及びたとえばdl520のようなアデノウイルスの2つの上述の群の間のさらに重要な差異は、早期遺伝子、E1B、E3及びE4が、YB−1核陰性の細胞又は調節解除されたYB−1を含まない細胞に比べて、細胞周期とは無関係でYB−1核陽性の細胞又は調節解除されたYB−1を含有する細胞でさらに包括的にトランス活性化されるという事実に存在する。これとは対照的に、デルタ24には差異はないか、わずかな差異があるにすぎない。しかしながら、dl520のさらに具体的にはE1A12Sのトランス活性化は野生型アデノウイルスに比べて有意に低下している。しかしながら、このトランス活性化は、実施例10にも示すようにYB−1核陽性細胞において十分な複製を提供するのに十分である。特に、好ましくは、dl520又はAdΔ24、dl922〜947、E1Ad/01/07、CB106及び/又は欧州特許EP0931830に記載されたアデノウイルスと関連したEIAタンパク質の設計を含む、本明細書で記載するような、特にこの関連で記載するようなE1Aタンパク質の設計並びに、野生型癌遺伝子タンパク質E1Aに比べて、E1Aタンパク質が1又は数個の欠失及び/又は突然変異を有するような、それをコードする核酸の設計は、ウイルス、特にアデノウイルス、制御された、好ましくはE2後期プロモーターに優先的に制御された複製の実施態様である。好ましくは、欠失は、CR3領域の欠失及びN末端の欠失及びC末端の欠失を含む群から選択されるようにする。アデノウイルスのこの種の複製ができるE1Aタンパク質のさらなる実施態様は、本明細書で提供される開示に基づいて当業者が生成することができる。前に記載したE1Aタンパク質の実施態様は、本明細書で本発明のアデノウイルス又はグループIのアデノウイルスとも呼ばれる本発明のアデノウイルスに関連しても使用されてもよい実施態様である。
本明細書では誘導体とも呼ばれ、本発明に従って使用してもよい、本発明のアデノウイルス、特にグループIのアデノウイルスは通常、E1欠失、E1/E3欠失及び/又はE4欠失を含む、すなわち、相当するアデノウイルスは、機能的に活性のあるE1及び/又はE3及び/又はE4の発現産物及びそれぞれ相当する産物を生成することができない。又は、言い換えれば、これらのアデノウイルスは機能的に不活性のE1、E3及び/又はE4の発現産物を生成することができ、機能的に不活性のE1、E3及び/又はE4の発現産物は、転写レベル及び/又は翻訳レベルでは発現産物として全く存在しない、或いは、野生型アデノウイルスにおいてそれに起因する機能の1つを少なくとも有さない形態で存在する発現産物である。野生型アデノウイルスにおける発現産物に固有のこの/これらの機能は、当業者に既知であり、Russell W. C. Journal of Virology 81: 2573-2604, 2000に記載されている。Russell(上記)はまた、参考として本明細書に組み入れるアデノウイルス及びアデノウイルスベクターの設計原理を記載している。改変されたE1A癌遺伝子タンパク質、すなわち、もはやトランス活性化しないE1Aタンパク質及びE1A12S、E1B55K、E4orf6及び/又はE3ADP(アデノウイルス死亡タンパク質)(Tollefson A. et al., J. Virology 70: 2296-2306, 1996)のようなそのほかのタンパク質がそのようなベクターにおいて単独で又は組み合わせで発現されていることも本発明の範囲内である。本明細書で開示される導入遺伝子と同様に、個々に言及される遺伝子も互いに独立して、E1及び/又はE3及び/又はE4の領域にクローニングされてもよく、好適なプロモーターを用いて、又は好適なプロモーターの制御のもとで発現させてもよい。基本的に、E1、E3及びE4の各領域は、アデノウイルスの核酸の中で好適なクローニング部位であり、クローニングに用いられない領域は、個々に又は全体として、部分的に及び/又は完全に欠失して存在することができる。これらの領域が存在する場合は、特にそれらの全体が存在する場合は、それらが完全で、好ましくは翻訳生成物及び/又は転写生成物を提供する、及び/又は完全ではなく、好ましくは翻訳生成物及び/転写生成物を提供しない、のいずれかであるのは本発明の範囲内である。幾つかの実施態様では、好適なプロモーターは、E1A、好ましくは改変されたE1Aの制御及び発現との関連で本明細書で開示されるものである。
最後に、実施態様では、本発明に従って使用されるグループIIのアデノウイルスは、E1B欠損性であり、好ましくはE1B19kDa欠損性である。本明細書で一般的に使用されるとき、用語、欠損性は、E1Bが野生型E1Bの特性をすべて示すわけではなく、これら特性の少なくとも1つを欠く状態をいう。
アデノウイルスBCL2のホモログE1B19kが、前アポプトーシスタンパク質Bak及びBaxとの相互作用により、E1Aが誘導するアポトーシスを回避する。これにより、最大限の複製及び/又は粒子形成が感染細胞において可能である (Ramya Sundararajan and Eileen White, Journal of Virology 2001, 75, 7506-7516)。E1B19kが欠失すると(もし存在する場合はそれがアデノウイルスの細胞死タンパク質の機能を、最小限にすることになるので)、ウイルスがより良好に放出される結果となる。そのような欠失によって、ウイルスが誘導する細胞変性効果が増大し (Ta-Chiang Liu et al., Molecular Therapy, 2004 )、したがって感染腫瘍細胞がより著しく溶解する結果となる。さらに、E1Bl9kの欠失は、腫瘍細胞中においてはTNFαがそのような組換えアデノウイルスの複製に影響を及ぼさなくなる原因となり、一方で正常細胞では、治療によって伝染性ウイルスの複製及び放出が減少する結果になる。その限りにおいて、選択性と特異性が増加する (Ta-Chiang Liu et al., Molecular Therapy 2004, 9, 786-803)。
本明細書で開示される本発明に従って使用されるとき、グループIIのアデノウイルスの少なくとも幾つかの実施態様は、当該技術でそれ自体既知である。本発明に従って使用されるアデノウイルスは、特に、野生型に比べて、本明細書で提供される技術的教示という意味で変更が行われていれば、好ましくは組換えアデノウイルスである。本発明に関係のないアデノウイルスの核酸配列を欠失させること及び突然変異させることは当業者の範囲内である。そのような欠失は、たとえば、本明細書でも開示されるようなE3及びE4をコードする核酸の一部に関係してもよい。E4の欠失は、そのような欠失がタンパク質E4orf6まで及ばない、言い換えれば、本発明に従って使用されるべきアデノウイルスはE4orf6をコードするという条件で、特に好ましい。好ましい実施態様では、これらのアデノウイルスの核酸は、未だにウイルスのカプシドに詰められてもよいので、感染性の粒子を形成する。このことも、本発明に従った核酸の使用について真実である。一般に、単一又は幾つかの発現産物に関してアデノウイルスシステムが欠損してもよいことも認識される。それに関連して、このことは、グループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスの双方に関連して、発現産物をコードする核酸の突然変異又は欠失によって生じてもよく、そのような突然変異及び欠失が、完全なものであるか、又は発現産物がもはや形成されない程度に行われ、又はプロモーターや転写因子のような調節要素又は発現を制御する要素が失われるか又は野生型とは異なる方法で活性化されることにより行われ、核酸のレベル(プロモーター又はシス作用要素を欠く)又は翻訳及び転写系(トランス作用要素)のレベルで行われることを考慮に入れるべきである。特に、後者の態様は、それぞれの細胞のバックグラウンドに依存してもよい。
それ自体既知のアデノウイルスの使用から離れて、本発明に従って、本明細書で記載されるそのほかのアデノウイルスについてすでに開示された目的に、グループIIのアデノウイルスのような新規のアデノウイルスも使用してもよい。本発明の新規のアデノウイルスは、本明細書で提供される技術的教示から生じる。特に好ましい代表例は、たとえば、図16及び17で描かれるウイルスXvir03及びXvir03/01であり、実施例11及び12でさらに説明される設計原理である。
ベクターXvir03の場合、IRES配列で分離されるE1B55k及びE4orf6に対する核酸を制御するE1領域にCMVプロモーターをクローニングした。これに関連して、E3及びE4領域は、欠失していても及び/又はインタクトな形で存在していてもよい。これら2つの遺伝子のウイルスへのクローニングにより、かつそれから生じる遺伝子産物のために、それぞれ、高い複製効率が生じ、それにより、複製が特にYB−1核陽性細胞に、より特別には本発明の開示の意味において調節解除されたYB−1を含む細胞に生じる限り、細胞における、好ましくは腫瘍細胞における選択的複製が維持される。調節解除されたTB−1が存在する細胞は、実施態様では、YB−1の発現上昇を示す、好ましくは、正常細胞又は非腫瘍細胞に比べて、区画非依存性のYB−1の発現を示す細胞である。E1B55k及びE4orf6もまた、E4領域へクローニングすることができ、その場合E3領域はインタクトなままであるか、又は/及び、部分的に又は完全に欠失する。
ウイルスXvir03のさらなる開発は、好ましい実施態様では、特異的プロモーター、特に腫瘍特異的プロモーター又は組織特異的プロモーターの制御下で治療用遺伝子又は導入遺伝子がクローニングされているウイルスXvir03/01である。これに関連して、E3領域及びE4領域は欠失する、及び/又はインタクトなままであり得る。そのようなウイルスにも関連して、E4領域は機能的に不活性である。本明細書で記載される導入遺伝子もE4領域にクローニングされ、これは、もう1つの方法として行われるか、又は導入遺伝子のE3領域へのクローニングに加えて行われる。
本明細書で記載される及び特に以下で記載される導入遺伝子は、本発明のアデノウイルス、すなわち、グループIのアデノウイルス及びその核酸、又は本発明の複製システムに関連して、或いはそれによって発現されてもよく、従って、プロモーター及び核酸配列を含む発現カセットに含まれ、そのような核酸配列は、1又は数個の前記導入遺伝子をコードする。E1、E3及びE4の領域は、アデノウイルスのゲノムにおける特に好適なクローニング部位であるが、クローニング部位はこれに限定されない。本明細書で用いられる導入遺伝子は、ウイルス遺伝子、好ましくはアデノウイルス遺伝子、(それらは、好ましくはゲノム中に存在せず、またそれぞれ、それらが現在特定のウイルス中に存在している野生型ゲノムの部位には存在しない)、又は治療用遺伝子でよい。
治療用遺伝子は、プロドラッグ遺伝子、サイトカインの遺伝子、アポトーシスを誘導する遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、メタロプロテイナーゼ阻害剤及び/又は血管形成阻害剤の遺伝子及びチロシンキナーゼ阻害剤の遺伝子であってもよい。さらに、好ましくは、癌関連の標的を指向するsiRNA、アプタマー、アンチセンス分子及びリボザイムが発現されてもよい。好ましくは、個々の又は数個の標的分子は、耐性関連の因子、抗アポトーシス因子、癌遺伝子、血管形成因子、DNA合成酵素、DNA修復酵素、成長因子及びその受容体、転写因子、メタロプロテイナーゼ、特にマトリクスのメタロプロテイナーゼ及びウロキナーゼ型のプラスミノーゲン活性化剤を含む群から選択される。その好ましい実施態様は、本発明のそのほかの態様と関連して本明細書ですでに開示されているものである。
好ましい実施態様で使用されてもよいような可能性のあるプロドラッグは、たとえば、シトシンデアミナーゼ、チミジンキナーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ、又はプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である[Kim et al., Trends in Molecular Medicine, 8(4)(suppl.), 2002; Wybranietz W. A. et al., Gene Therapy 8: 1654-1664, 2001; Niculescu-Duvaz et al., Curr. Opin. Mol. Therapy 1: 480-486, 1999; Koyama et al., Cancer Gene Therapy 7: 1015-1022, 2000; Rogers et al., Human Gene Therapy 7: 2235-2245, 1996; Lockett et al., Clinical Cancer Res., 3: 2075-2080, 1997; Vijayakrishna et al., J. Pharmacol. and Exp. Therapeutics 304: 1280-1284, 2003]。
好ましい実施態様で使用されてもよいような可能性のあるサイトカインは、たとえば、GM−CSF、TNF−α、IL−12、IL−2、IL−6、CSF又はインターフェロンγである[Gene Therapy, Advance in Pharmacology Vol.40, editor: J. Thomas August, Academic Press; Zhang and Degroot, Endocrinology 144: 1393-1398, 2003; Descamps et al., J. Mol. Med., 74: 183-189, 1996; Majumdar et al., Cancer Gene Therapy 7: 1086-1099, 2000]。
好ましい実施態様で使用されてもよいような可能性のあるアポトーシスを誘導する遺伝子は、たとえば、デコリン[Tralhao et al., FASEB J., 17: 464-466, 2003]、網膜芽腫94[Zhang et al., Cancer Res., 63: 760-765, 2003]、Bax及びBad[Zhang et al., Hum. Gene Ther., 20: 2051-2064, 2002]、アポプチン[Noreborn and Pietersen, Adv. Exp. Med. Biol., 465: 153-161, 2000]、ADP[Toth et al., Cancer Gene Therapy 10: 193-200, 2003]、bcl−xs[Sumantran et al., Cancer Res., 55: 2507-2512, 1995]、E4orf4[Braithwaite and Russell, Apoptosis 6: 359-370, 2001]、FasL、Apo−1及びTrail[Boehringer Manheim, Guide to Apoptosis Pathways, Arai et al., PNAC 94: 13862-13867, 1997]、Brims[Yamaguchi et al., Gene Therapy 10: 375-385, 2003; GNR 163: Oncology News 17 June, 2000]である。
好ましい実施態様で使用されてもよいような可能性のある腫瘍抑制遺伝子は、たとえば、E1A、p53、p16、p21、p27又はMDA−7である[Opalka et al., Cell Tissues organs 172: 126-132, 2002; Ji et al., Cancer Res., 59: 3333-3339, 1999; Su et al., Oncogene 22: 1164-1180, 2003]。
好ましい実施態様で使用されてもよいような可能性のある血管形成阻害剤は、たとえば、エンドスタチン又はアンギオスタチン[Hajitou et al., FASEB J., 16: 1802-1804, 2002]、及びVEGFに対する抗体である[Ferrara N., Semin Oncol., Dec. 29 (6 suppl. 16): 10-4, 2002]。
好ましい実施態様で使用されてもよいような可能性のあるメタロプロテイナーゼ阻害剤は、たとえば、Timp−3[Ahonen et al., Mol. Therapy 5: 705-715, 2002]、PAI−1[Soff et al., J. Clin. Invest., 96: 2593-2600, 1995]、Timp−1[Brand K., Gene therapy 2: 255-271, 2002]である。
グループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスの双方で発現されてもよい、本発明の意味でのさらなる導入遺伝子は、チロシンキナーゼ阻害剤である。チロシンキナーゼの例はEGFR(上皮成長因子受容体)[Onkologie, Entstehung und Progression maligner Tumoren; Author: Christoph Wagner, George Thieme Verlag, Struttgart, 1999]である。好ましいチロシンキナーゼ阻害剤は、ハーセプチン[Zhang H. et al., Cancer Biol. Ther., Jul-Aug;2 (4 suppl 11): S122-6, 2003]である。
本発明について使用することができるSiRNA(短い干渉RNA)は、2つの、好ましくは、本質的には塩基対で存在することを意味する塩基相補性のために互いにハイブリッド形成する、50ヌクレオチドまでの好ましくは18〜30ヌクレオチドの間の、さらに好ましくは25ヌクレオチド未満の、最も好ましくは、21、22又は23ヌクレオチドの長さを有する別個のRNA鎖から成り、これらの形状は、siRNAの一本鎖を言い、特に、第2の一本鎖とハイブリッド形成する、又は塩基対を作る一本鎖の伸びの長さをいう。siRNAはmRNAの分解を誘導する、又はそれに介在する。従って、必要とされる特異性には、siRNAの配列、すなわち結合部位が介在する。分解されるべき標的配列は、第1又は第2のsiRNAが形成する鎖に本質的に相補的である。正確な作用機序は未だはっきりとはしないが、siRNAは、細胞が発生の間識別可能な対立遺伝子を抑制し、ウイルスからそれらを保護するための生物学的戦略であると想定されている。siRNAが介在するRNAの干渉は、二本鎖RNAに特異的な遺伝子の導入によるタンパク質の発現を特異的に抑制する又は完全に除去する方法として用いられる。高等生物にとって、19〜23のヌクレオチドを含むsiRNAは、その程度において、インターロイキン反応のような非特異的防御反応の活性化を生じない場合、特に好適である。対称の2−nt3’のオーバーハングを有する21ヌクレオチドの二本鎖RNAの直接的な形質移入は、哺乳動物細胞におけるRNA干渉に介在するのに好適であったし、リボザイムやアンチセンス分子のようなそのほかの技法に比べて効率が高い(Elbashir S., Harborth J., Lendeckel W., Yalvcin A., Weber K., Tuschl T: 21ヌクレオチドの二本鎖RNAは培養哺乳動物細胞においてRNA干渉に介在する。Nature 411: 494-498, 2001)。標的遺伝子を抑制するにはわずかなsiRNA分子で十分である。干渉現象の一過性の性質に特に存在する外因性に添加されたsiRNA及びsiRNA分子の特異的送達の限界を回避するために、内因性のsiRNAを発現させるベクターが従来技術では使用される。そのような目的で、たとえば、センス及びアンチセンスの双方の方向で19ヌクレオチドの長さの標的配列を含むベクターに、64ヌクレオチドの長さを有するオリゴヌクレオチドを、たとえば9ヌクレオチドのスペーサー配列により分離して導入する。得られた転写物をたとえば19塩基対の茎構造によりヘアピン構造に折り畳む。機能的siRNAが生成されるようにループは急速に分解される(Brummekamp et al., Science 296: 550-553, 2002)。
本発明に従って使用されるべきアデノウイルス、特にグループIIのアデノウイルス、しかしまた、本発明に係るアデノウイルス、すなわち、グループIのアデノウイルスの実施態様におけるアデノウイルスの一部であるYB−1をコードする核酸は、YB−1の核への輸送に介在する核酸配列を含んでもよい。本発明に係る核酸、アデノウイルス及びアデノウイルスシステム並びにたとえば、Onyx−15、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016、dl520のような従来技術で既知のアデノウイルス並びに特許EP0931830に記載されたアデノウイルスを、アデノウイルス及びアデノウイルスシステム及び相当する核酸として、本発明に従った核酸との組み合わせで使用してもよい。核への輸送に介在する好適な核酸配列は当業者に既知であり、たとえば、Whittaker G. R., et al., Virology 246: 1-23, 1998; Friedberg E. C., TIBS 17: 347, 1992; Jans D. A., et al., Bioassays Jun: 22(6): 532-44, 2000; Yoneda Y., J. Biochem., 3(3): 193-227, 1993; Lyons R. H., Mol. Cell Biol., 7: 2451-2456, 1987に記載されている。核への輸送に介在する核酸配列は異なった原理を実現してもよい。そのような原理の1つは、YB−1がシグナルペプチドと共に融合タンパク質を形成する、又はシグナルペプチドを提供され、本発明に従ったアデノウイルスの複製が起きる際のシグナルペプチドのために細胞核に移動されるということである。
本発明に従って使用されるべきアデノウイルス、特にグループIIのアデノウイルス、しかしまた、本発明に係るアデノウイルス、すなわち、グループIのアデノウイルスの設計において使用されてもよいさらなる原理は、好ましくは細胞質での合成から始まって、YB−1の細胞核への転移又は転座を生じ、そこでのウイルスの複製を促すYB−1に転移配列を提供することである。核への輸送に介在する特に有効な核酸配列の例は、たとえば、Efthymiadis A., Briggs L. J., Jans D. A., JBC 273: 1623-1628, 1998にその種のそのほかの好適な核酸配列と共に記載されるHIVのTAT配列である。本発明に従って使用されるべきアデノウイルス、特にグループIIのアデノウイルス、しかしまた、本発明に係るアデノウイルス、すなわち、グループIのアデノウイルスが核への輸送に介在するペプチドをコードする核酸配列を含むことは本発明の範囲内である。
YB−1が完全長で存在する、特に野生型YB−1に相当する形態で存在することは本発明の範囲内である。さらに、YB−1が、たとえば、縮めた形態又は切り詰めた形態で誘導体として使用される又は存在することは本発明の範囲内である。本発明と関連して使用されてもよい又は存在してもよいとき、YB−1誘導体は、好ましくはE2後期プロモーターへの結合が可能であり、従ってアデノウイルスのE2領域の遺伝子発現を活性化するYB−1である。そのような誘導体は本明細書で開示されるYB−1誘導体を特に含む。N末端で、C末端で又はアミノ酸配列の中で単一の又は数個のアミノ酸を欠失することによりさらなる誘導体を生成することができる。本発明の意味においてYB−1タンパク質としてYB−1断片を使用することは本発明の範囲内である。Jurchott K. et al., (JBC 278: 27988-27996, 2003)の論文では、C末端及びN末端での欠失を特徴とする種々のYB−1断片が開示されている。種々のYB−1断片の分布は、C末端と同様に冷却ショックドメイン(CSD)もYB−1の細胞核への細胞周期に調節された輸送に関係することを示している。従って、E1B55k及びE4orf6の本発明の発現と関連した縮めたYB−1(本明細書ではYB−1タンパク質とも呼ぶ)がさらに良好に核に移動するので、天然のYB−1に比べて、さらに良好なE2後期プロモーターとの結合を必要としないでさらに強いCPEを誘導し、縮めたYB−1がさらに良好に核に移動し、両方の効果、すなわち、CPEの誘導及びE2後期プロモーターへの結合を生じることも除外できないことは本発明の範囲内である。最後に、そのような縮めたYB−1断片は、さらに良好に核に移動し、さらに良好なCPEを誘導しないでE2後期プロモーターにさらに効率的に結合する可能性がある。縮めたYB−1のタンパク質及び断片が完全長のYB−1、特に細胞局在化シグナル配列(NLS)と関連して本明細書で開示されるようなさらなる配列を含むことも本発明の範囲内である。
アデノウイルスによりコードされ、発現される前述の種々のさらなる遺伝子及び遺伝子産物に関して、これらが組み合わせてコードされ、発現されることは原則として可能である。
用語、アデノウイルス及びアデノウイルスシステムは本質的に同一の意味を有するとして理解されるべきであることは本発明の範囲内である。用語、アデノウイルスは、カプシド及び核酸を含む完全なウイルス粒子に関係するものとして特に理解されなければならない。用語、アデノウイルスシステムは特に、野生型と比べて核酸が変化しているという事実に焦点を置く。好ましくは、そのような変化は、プロモーター、調節配列、及び/又は読み取りフレームのようなコーディング配列を欠失させた及び又は付加させた及び/又は突然変異させた結果生じてもよいようなアデノウイルスのゲノムの設定における変化を含む。用語、アデノウイルスシステムは、加えてさらに好ましくは、それが、たとえば、遺伝子治療で使用されるベクターであるように使用される。
アデノウイルス及びアデノウイルスシステムの使用及び設計を含む上のコメントはまた、それらのコードする核酸にも適用可能であり、逆も可能である。
本発明と関連して、本発明に従って使用されるべきアデノウイルス、特にグループIIのアデノウイルス、しかしまた、グループIのアデノウイルス及びそれらのコードする核酸は、そのままで又はさらなる核酸配列と組み合わせて複製事象を生じるアデノウイルス核酸であることが可能である。本明細書で説明するように、複製に必要な配列及び/又は遺伝子産物はヘルパーウイルスにより提供されることが可能である。それをコーディング核酸配列と言い、前記核酸配列が既知の核酸配列であるという範囲で、同一の配列だけでなく、それに由来する配列も使用するということは本発明の範囲内である。本明細書では、由来する配列は、特に、遺伝子産物、非由来の配列の機能に相当する機能を有する核酸又はポリペプチドを結果として生じるいかなる配列も意味しなければならない。当業者に既知の日常の試験によってこのことを調べることができる。そのような由来する配列の例は、同一遺伝子産物をコードする、特に同一のアミノ酸配列をコードするが、遺伝コードの変質によって異なった塩基配列を有する核酸配列である。
グループIIの本発明に係るアデノウイルス及び/又は本発明に係る相当するアデノウイルスシステム及び本発明に係るその使用に関して、実施態様では、アデノウイルスの核酸は、癌遺伝子タンパク質の発現についての欠損性、特にE1Aタンパク質欠損性であり、すなわち、12SE1Aタンパク質(本明細書ではE1A12Sタンパク質とも呼ぶ)又は13SE1A(本明細書ではE1A13Sタンパク質とも呼ぶ)のいずれかをコードしない、或いは12SE1Aタンパク質及び13SE1Aタンパク質の双方をコードしない、或いは、本明細書で記載されるように、他の表示がない限り修飾され、アデノウイルス複製システムはヘルパーウイルスの核酸をさらに含み、ヘルパーウイルスの核酸は癌遺伝子タンパク質、特にE1Aタンパク質をコードする核酸配列を含み、それは以下の特徴を有しアデノウイルスに以下の特徴を付与する:それは、YB−1核陰性細胞では好ましくは非複製であるが、YB−1核陽性で細胞周期に無関係である細胞又は調節解除されたTB−1を示す細胞では複製し、YB−1核陽性の細胞で少なくとも1つのウイルス遺伝子、特に、E1B55kDa、E4orf6、E4orf3及び/又はE3ADPをトランス活性化し、及び/又は細胞のYB−1を核に転移しない。本明細書で記載される導入遺伝子がヘルパーウイルスに個々に又はまとめてコードされ、及び/又は発現されることは本発明の範囲内である。このことは、グループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスの双方のためのヘルパーウイルスに適用される。
さらに、本発明に従ったそのようなアデノウイルス複製システムの実施態様では、アデノウイルスの核酸及び/又はヘルパーウイルスの核酸は、複製可能なベクターとして存在する。
グループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスをコードする核酸が好ましくは発現ベクターに存在し、この発現ベクターが本発明に従って使用されるということは、さらに本発明の範囲内である。
さらなる態様では、本発明は、少なくとも2つのベクターを含むベクター群に関するものであり、ベクター群は、全体で、本明細書に記載されるようなグループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスのためのアデノウイルス複製システムを含み、ベクター群は本発明に従って使用される。実施態様では、アデノウイルス複製システムの各成分は個々のベクター、好ましくは発現ベクターに配置される。
最後に、さらなる態様において、本発明は、本発明に従って好ましくは使用され、かつ、本発明に従って使用されるべきであるグループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスをコードする1又は数個の核酸を含有する細胞、及び/又は本発明に係る相当するアデノウイルス複製システム及び/又は相当するベクター及び/又はベクター群の、種々のアデノウイルスについて本明細書で記載されるような同一目的についての使用に関する。
上述のアデノウイルスのコンストラクト及び特にその核酸及びそれをコードする核酸は、多くの部分に分かれた形態で細胞、好ましくは腫瘍細胞に導入されてもよく、種々の個々の成分の存在によって、それらは、まるで個々の成分が単一の核酸及び単一又は数個のアデノウイルスに由来するかのように一緒に作用する。
本発明に従って使用され、グループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスをコードする核酸、相当するアデノウイルスシステム又はその一部はベクターとして存在してもよい。好ましくは、これらのベクターはウイルスベクターである。核酸がアデノウイルス核酸を含む場合、好ましくはウイルス粒子はベクターである。しかしながら、前記核酸がプラスミドベクターに存在することも本発明の範囲内である。各場合、ベクターは、挿入された核酸の増殖、すなわち、挿入された核酸の複製及び任意の発現を斟酌する及び制御する要素を含む。好適なベクターは好ましくは発現ベクターであり、各要素は当業者に既知であり、たとえば、Grunhaus A., Horwitz M. S., クローニングベクターとしてのアデノウイルス、In Rice C., editor, Seminars in Virology London: Saunders Scientific Publicationsに記載されている。
ベクター群に関する態様は、前記核酸の種々の要素が必ずしも単一のベクターのみに含有されるわけではない前述の実施態様を考慮に入れる。従って、ベクター群は少なくとも2つのベクターから成る。それから離れてベクターに関連して行われるいかなる記述もベクター及びベクター群にそれぞれ適用可能である。
グループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスは、それぞれ、本明細書で開示される種々の核酸及び遺伝子産物を特徴とし、かつさもなければ、当業者に既知であり、野生型アデノウイルスに固有であるあらゆる要素を含んでもよい(Shenk T., Adenoviridae: ウイルスとその複製、Fields Virology Vol. 3, editors: Fields B. N., Knipe D. M., Howley P. M., et al., Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996, chapter 7)。
本発明の説明のための目的であって、本発明を限定するのではない目的で、アデノウイルスの複製を以下で手短に議論するものとする。
アデノウイルスの複製は非常に複雑な過程であり、通常、ヒトの転写因子E2Fに基づく。ウイルス感染の間、先ず、「早期遺伝子」E1、E2、E3及びE4が発現される。「後期遺伝子」の群はウイルスの構造タンパク質の合成に関与する。2つの転写単位、E1A及びE1Bから成り、異なったE1Aタンパク質及びE1Bタンパク質をコードするE1領域は、それらが、E2、E3及びE4の遺伝子を誘導するので、早期遺伝子及び後期遺伝子の双方の活性化に決定的な役割を担っている(Nevins J. R., Cell 26: 213-220, 1981)。さらに、E1Aタンパク質は休止細胞のDNA合成を開始させてもよいので、S期への進入を誘発してもよい(Boulanger and Blair, 1991を参照のこと)。さらに、それらはRbクラスの腫瘍サプレッサーと相互作用する(Whyte T. et al., Nature 334: 124-127, 1988)。そうすることで、細胞の転写因子E2Fが放出される。E2F因子はそれに続いて細胞の遺伝子及びウイルスの遺伝子(特に、アデノウイルスのE2早期プロモーター)の相当するプロモーター領域に結合し、転写と複製を開始する(Nevins J. R., Science 258: 424-429, 1992)。リン酸化によりRb及びE2Fの活性が調節される。リン酸化の足りない形態のpRbは特にG1期及びM期に存在する。それと対照的に、過剰にリン酸化された形態のpRbはS期及びG2期に存在する。pRbのリン酸化によって、E2Fは、E2Fと少なめにリン酸化されたpRbから成る複合体から放出される。E2Fと少なめにリン酸化されたpRbの複合体からのE2Fの放出は、E2F依存性の遺伝子の転写を生じる。E1Aタンパク質は少なめにリン酸化されたpRbにのみ結合し、それによって、E1AのpRbへの結合がE1A領域のCR2領域を介して優先的に生じる。さらに、それはCR1領域にも結合するが、親和性は低い(Ben-Israel and Kleiberger, Frontiers in Bioscience 7: 1369-1395, 2002; Helt and Galloway, Carcinogenesis 24: 159-169,2003)。
E2領域の遺伝子産物は、それらが3つの本質的なタンパク質をコードしているので、複製の開始及び完了に特に必要とされる。E2タンパク質の転写は、2つのプロモーター、本明細書ではE2早期プロモーター又は早期E2プロモーターとも呼ばれる「E2早期E2F依存性」プロモーター及び「E2後期」プロモーターによって制御される(Swaminathan and Thimmapaya, アデノウイルスの分子レパートリーIII、Current Topics in Microbiology and Immunology, Vol. 119: 177-194, Springer Verlag, 1995)。さらに、E4の産物は、E1A及びE1B55kDaのタンパク質と一緒に、E2Fの活性及びp53の安定性に決定的な役割を担っている。たとえば、E2FとDP1とから成るヘテロ二量体とE4にコードされるE4orf6タンパク質との直接的な相互作用によってE2プロモーターは一層さらにトランス活性化される(Swaminathan and Thimmapaya, JBC 258: 736-746, 1996)。さらに、溶解感染サイクルを上手く完了するために、p53によって(Steegennga W. T. et al., Oncogene 16: 349-357, 1998)E1B55kDaとE4orf6とから成る複合体が不活性化される。さらに、E1B55kDaは、E4orf6と相互作用する場合、それが核からのウイルスRNAの運び出しを促進する一方で細胞のRNAは核に保持される範囲において、重要な機能を有する(Bridge and Ketner, Virology 174: 345-353, 1990)。さらに重要な観察は、E1B55kDa/E4orf6から成るタンパク質複合体が、いわゆる「ウイルス封入体」に局在することである。これらの構造が複製及び転写の部位であると想定される(Ornelles and Shenk J., Virology 65: 424-429, 1991)。
E3領域は複製にとって、特にアデノウイルスの放出にとって重要なもう1つの領域である。E3領域は、さらに正確には、インビトロ、すなわち、細胞培養でアデノウイルスの感染サイクルに本質的でない、相対的に小型の種々のタンパク質の遺伝情報を含有する。しかしながら、それらは、とりわけ、免疫調節機能及びアポトーシス機能を有するので急性感染及び/又は潜在感染の間でのウイルスの生き残りに決定的な役割を担っている(Marshall S., Horwitz, Virology 279: 1-8, 2001; Russell, 上記)。約11.6kDaのサイズを有するタンパク質は細胞死を誘導することが示されている。このタンパク質はその機能から、アデノウイルス死タンパク質、ADPと呼ばれている(Tollefson J., Virology 70: 2296-2306, 1996)。該タンパク質は、感染サイクルの後期段階で優勢に形成される。さらに、該タンパク質の過剰発現は、感染細胞のさらに良好な溶解を生じる(Doronin et al., Virology 74: 6147-6155, 2000)。
さらに、E1A欠失ウイルス、すなわち、特に、12SE1Aタンパク質も13SE1Aタンパク質も発現していないウイルスは、高いMOIで非常に効率的に複製してもよいが(Nevins J. R., Cell 26: 213-220, 1981)、臨床応用では実現できないことは、本発明者に既知である。この現象は、文献では「E1A様活性」と呼ばれる。さらに、E1Aにコードされる5つのタンパク質のうち、2つのタンパク質、すなわち、12S及び13Sタンパク質がそれぞれ、そのほかのアデノウイルス遺伝子の発現を制御し、誘導することが知られていた(Nevins J. R., Cell 26: 213-220, 1981; Boulanger P and Blair E., Biochem. J., 275: 281-299, 1991)。特に13Sタンパク質のCR3領域がトランス活性化機能を呈することが明らかになった(Wong H. K., and Ziff F. B., J. Virol., 68: 4910-20, 1994)。13Sタンパク質のCR1及び/又はCR2領域及び/又はCR3領域に明瞭な欠失を有するアデノウイルスは、品質的に複製欠損性であるが、他の細胞株、ウイルス遺伝子及びプロモーター、並びに特にE2領域においてもなお、トランス活性化する(Wong H. K., and Ziff F. B., J. Virol., 68: 4910-20, 1994; Mymryk J. S. and Bayley S. T., Virus Research 33: 89-97, 1994)。
細胞、通常、腫瘍細胞に野生型アデノウイルスを感染させた後、E1A、E1B55K及びE4orf6によって核にYB−1が誘導され、核の中でのウイルス封入体内でE1B55Kと同時局在し、それによってインビトロ及び生体内の双方での細胞核におけるウイルスの有効な複製を可能にする。E4orf6もE1B55Kと結合するので(Weigel S. and Dobbelstein M. J., Virology 74: 764-772, 2000; Keith N. Leppard, Seminars in Virology 8: 301-307, 1998)、最適なウイルス産生及びアデノウイルスの複製を保証するE1B55Kの核内への輸送及び分布に介在することが早くからすでに見い出されていた。核内で、いわゆるウイルス封入体の中でのE1A、E1B55K及びYB−1の共同作用によって、E1B55K/E4orf6とYB−1から成る複合体及びYB−1とE1B55Kの同時局在によって、本発明に従ったウイルスの効率的な複製が可能なので、YB−1の核陽性である細胞、好ましくは細胞周期とは無関係に核にYB−1を含有する細胞及び/又は調節解除されたYB−1を含む又は呈する細胞における複製のために、及び/又はYB−1の核陽性である細胞、好ましくは細胞周期とは無関係に核にYB−1を含有する細胞及び/又は調節解除されたYB−1を含む又は呈する細胞における疾患の治療のための薬剤製造のためにウイルスを使用することが含まれる。従って、この細胞のバックグラウンドで可能である複製は、腫瘍細胞及び腫瘍の感染の場合、最終的に腫瘍の溶解、すなわち腫瘍退縮性が起きるように細胞の溶解、ウイルスの放出並びに隣接細胞の感染及び溶解を生じる。
YB−1は、Y−ボックスと呼ばれる反転したCAAT配列に結合する高度に保存された因子の群に属する。それらは、転写及び翻訳のレベルで調節的様式で作用してもよい(Wolffe A. P., Trends in Cell Biology 8: 318-323, 1998)。増殖やアポトーシスに関連した遺伝子の活性化だけでなく阻害においてもますます多くのYボックス依存性の調節経路が見い出されている(Swamynathan S. K. et al., FASEB J., 12: 515-522, 1998)。たとえば、YB−1はp53と直接相互作用し(Okamoto T. et al., Oncogene 19: 6194-6202, 2000)、Fas遺伝子の発現(Lasham A. et al., Gene 252: 1-13, 2000)、MDR及びMRPの遺伝子発現(Stein U. et al., JBC 276: 28562-69, 2001; Bargou R. C. et al., Nature Medicine 3: 447-450, 1997)並びにトポイソメラーゼ及びメタロプロテイナーゼの活性化(Mertens P. R. et al., JBC 272: 22905-22912, 1997; Shibao K. et al., Int. J. Cancer 83: 732-737, 1999)に本質的な役割を担っている。また、YB−1は、mRNAの安定性の調節(Chen C. Y. et al., Gene & Development 14: 1236-1248, 2000)及び修復過程(Ohga T. et al., Cancer Res., 56: 4224-4228, 1996; Izumi H. et al., Nucleic Acid Research 29: 1200-1207, 2001; Ise T. et al., Cancer Res., 59: 342-346, 1999)に関与している。
細胞周期とは無関係に核に存在するYB−1による、又は細胞質に存在し、グループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスによって核に転座させられる調節解除されたYB−1による腫瘍細胞におけるYB−1の核局在は、特に12SE1Aタンパク質も13SE1Aタンパク質も発現されず、使用されない間、E1Aに非依存性のウイルス複製を生じ(Holm P. S. et al., JBC 277: 10427-10434, 2002)、タンパク質YB−1が過剰発現した場合、多剤耐性を生じる。さらに、たとえば、E4orf6及びE1B55Kのようなアデノウイルスのタンパク質はウイルス複製に陽性の効果を有し(Goodrum F. D. and Ornelles D. A., J. Virology 73: 7474-7488, 1999)、機能的なE1Aタンパク質はそのほかの遺伝子産物(たとえば、E4orf6、E3ADP及びE1B55K)の活性化に関与する(Nevins J. R., Cell 26: 213-220, 1981)ことが知られている。しかしながら、このことは、13SE1Aタンパク質が存在しない当該技術で既知のE1Aマイナスのアデノウイルスでは起きない。YB−1を核に有する多剤耐性細胞におけるYB−1の核への局在は、そのようなE1Aマイナスのウイルスの複製及び粒子形成を促す。しかしながら、これに関連して、ウイルス複製及び粒子形成の効率は、倍数による野生型Ad5に比べて低下する。これに比べて、YB−1の組み合わせは、YB−1が介在する非常に効率的なウイルス複製及び粒子形成を許容するので、YB−1が腫瘍細胞の核にすでに含有されている、YB−1が細胞周期とは無関係な様式で核に局在するYB−1から生じてもよい、又は細胞質に存在する調節解除されたYB−1がグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスによって核に転座されている又は外因性の因子(たとえば、細胞増殖抑制剤又は放射線照射又は温熱の適用)により細胞核に誘導される、腫瘍溶解は、すなわち、好ましくは細胞周期とは無関係に核に存在するように誘導され、又はYB−1は、システム、好ましくはアデノウイルスシステムと共にベクターによって、アデノウイルス遺伝子のスイッチを入れるがウイルス複製は示さない導入遺伝子として導入される。これはまた、その特異的設計のために及びE1Bタンパク質、好ましくはE1B55Kタンパク質及び/又はE4タンパク質、好ましくはE4orf6タンパク質がYB−1の好ましくは核への効果的な動員を提供するという効果を用いて、効率的に複製することが可能である、本発明に基づいたアデノウイルス、すなわち、グループIのアデノウイルスにも適用される。本発明の種々の態様と関連して本明細書で開示されるアデノウイルスと共に使用されてもよい好適な細胞増殖抑制剤は、たとえば、以下の群:たとえば、ダウノマイシン及びアドリアマイシンのようなアントラサイクリン類;たとえば、シクロホスファミドのようなアルキル化剤;エトポシドのようなアルカロイド類、ビンクリスチン及びビンブラスチンのようなビンアルカロイド類;たとえば、5−フルオロウラシル及びメトロソレキサットのような抗代謝物;たとえば、シスプラチンのようなプラチン誘導体;たとえば、カンホテシン、CPT11のようなトポイソメラーゼ阻害剤;たとえば、タキソール、パクリタクセルのようなタキサン類;たとえば、FR901228、MS−27−275、トリクロスタチンのようなヒストンデアセチラーゼ阻害剤;たとえば、MS−209、VX710のようなMDR調節剤並びにたとえば、17−AAGのようなゲルダナマイシン誘導体に属するものである。YB−1核陽性の細胞及び好ましくは細胞質に調節されたYB−1を含有する細胞で複製することだけが可能である本明細書で開示されるアデノウイルス、特に組換えアデノウイルスは、野生型アデノウイルス、特に野生型Ad5のトランス活性化能に比べて、ウイルス遺伝子、E1B55K、E4orf6、E4orf3及びE3ADPをトランス活性化する能力で限定される。本発明者は驚くべきことに、この限定された能力は、YB−1の核局在と組み合わせて、相当する遺伝子、特にE1B55K及びE4orf6を発現させることにより克服できることを見い出した。本明細書における実施例で示すように、ウイルス複製及び粒子形成は、そのような条件下で、野生型アデノウイルスの複製活性及び粒子形成に匹敵するレベルまで増加する。
本発明に従って使用される本明細書で開示されるアデノウイルスの、その製造に関連した又はその製造のための薬物は、局所的に適用する又は送達することも本発明の範囲内であるが、普通、全身性に適用されることが意図される。適用はアデノウイルスを特に細胞に感染させることが意図され、アデノウイルスの複製が、特に、関与する、好ましくは、因果関係を持って、条件、通常、疾患の形成において、本発明の薬物が使用される診断及び/又は予防及び/又は治療のために、その中で生じることが意図される。
そのような薬物は好ましくは、悪性腫瘍疾患、腫瘍性疾患、癌性疾患、癌及び腫瘍の治療のためであり、これらの用語は、反対に指示されない限り、本質的に同義的に本明細書では使用される。腫瘍性疾患は好ましくは、YB−1が、腫瘍性疾患のメカニズムのために、特に病理メカニズムのために、すでに、好ましくは細胞周期とは無関係に核に局在する、或いは細胞核におけるYB−1の存在が外因性の手段によって誘発されるものであり、その際、そのような外因性の手段はYB−1を細胞核に転移させる、又はそれをそこで誘導する又は発現するのに好適である。用語、腫瘍又は腫瘍性疾患は、本明細書では、悪性腫瘍及び良性腫瘍の双方、固形腫瘍及びびまん性腫瘍の双方のそれぞれ及びそれぞれの疾患を含むべきである。実施態様では、薬物は少なくとも1つのさらなる薬学上有効な化合物を含む。そのようなさらなる薬学上有効な化合物の性質及び量は、薬物が使用される適応の種類に依存する。薬物が腫瘍性疾患の治療及び/又は予防に使用される場合、通常、たとえば、シスプラチン及びタキソール、ダウノブラスチン、ダウノルビシン、アドリアマイシン及び/又はミトキサントロンのような細胞増殖抑制剤又はそのほかの細胞増殖抑制剤又は本明細書に記載される細胞増殖抑制剤の群が使用され、好ましくは、記載されるようなものは、細胞増殖抑制剤が介在するYB−1の核への局在化と関連して使用される。
本発明に基づいた薬物は、種々の剤形、好ましくは液体形態で存在することができる。さらに、薬物は、剤形の当業者に既知の安定剤、緩衝液、防腐剤などのような補助剤を含有するであろう。
本発明者は、さらに驚くべきことに、本明細書に記載するウイルス、特に本発明に従って用いられるウイルスの有効性を、少なくとも2つの作用剤と組み合わせて用いることにより増大させることができることを見出した。その場合、少なくとも2つの作用剤のそれぞれは、細胞増殖抑止剤を含む群より、個々に及び独立して選択される。
本明細書の好ましい実施態様で用いられるように、細胞増殖抑止剤は特に化学的又は生物学的化合物であって、それは細胞又はそのような細胞を含む生物への投与中に又は投与後に、もはや成長していない及び/又はもはや分裂していない及び/又は細胞分裂及び/又は細胞増殖が遅くなった細胞をもたらす。細胞増殖抑止剤は、前述のような細胞中のみで又はそのような細胞を含む生物体中のみで細胞増殖抑止剤へ変化する化合物も含む。その限りにおいて、用語、細胞増殖抑止剤は、前・細胞増殖抑止剤も含む。
細胞増殖抑止剤は作用機序により群に分けられる。原則としてすべて本発明において用いることができる次の群が区別される:
− アルキル化剤、すなわち核酸及びタンパク質のリン酸、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシ及び水酸基のアルキル化により、細胞傷害作用を引き起こす化合物。そのような化合物はしばしばそれ自身が発癌性である。細胞増殖抑止剤のこの群の代表例は、シス−プラチン及びプラチン誘導体、シクロホスファミド、ダカルバジン、マイトマイシン、プロカルバジンである。
− 代謝拮抗剤、すなわち、その構造類似性又は結合能力により、代謝過程を妨害するか、代謝過程に影響する化合物。代謝拮抗剤の群の中で、構造上類似の代謝拮抗剤、構造を変化させる代謝拮抗剤、及び間接的に作用する代謝拮抗剤が区別される。構造上類似の代謝拮抗剤は、化学的な類似性により代謝物質と競合するが、代謝物質の機能は発揮しない。構造を変化させる代謝拮抗剤は代謝物質と結合してその機能又は再吸収を妨害するか、又は代謝物質を化学的に修飾する。間接的に作用する代謝拮抗剤は、例えばイオンの結合によって代謝物質の機能を妨害する。この群の代表例は、メトトレキサートなどの葉酸拮抗薬、フルオロウラシルなどのピリミジン類似物質、アザチオプリン及びメルカプトプリンなどのプリン類似物である。
− 有糸分裂阻害剤、すなわち細胞分裂を阻害する化合物。有糸分裂阻害剤の群の中で、細胞分裂毒素と紡錘体毒素及び染色体毒素が区別される。この群の代表例は、タキサン及びビンカアルカロイドである。タキサンを次に、タキソール及びタキソテールの2つの主な群に分けることができる。特に好ましいタキソールはパクリタキセルであり、特に好ましいタキソテールはドセタキセルである。
− DNA依存性RNAポリメラーゼに阻害作用を有する抗生物質。代表例は、例えばブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン及びマイトマイシンなどの、アントラサイクリンである。
− トポイソメラーゼ阻害剤、特にトポイソメラーゼI阻害剤。トポイソメラーゼ阻害剤は、3段階の過程によりDNAの撚り回数の変化を触媒することにより、DNAの三次構造を決定する化合物である。基本的に、トポイソメラーゼの2つの形が区別される。I型のトポイソメラーゼは1つのDNA鎖のみを切断し、ATPに依存しない、しかし、II型のトポイソメラーゼはDNAの両方の鎖を切断し、その場合ATPに依存する。トポイソメラーゼI阻害剤の代表例は、イリノテカン及びトポテカンであり、そしてトポイソメラーゼ II 阻害剤の代表例はエトポシド及びダウノルビシンである。
本発明の範囲内で、前述の群から少なくとも1つの、また好ましくは2つの作用剤が選択される。しかし、特に、3つ、4つ、又は5つの種々の作用剤が選択されるのもまた、本発明の範囲内である。ウイルスと共に2つの作用剤だけを用いる本発明の実施態様について次の意見を述べる。これらの考察は、2つを越える薬剤を用いる場合の実施態様にもまた、基本的に適用可能である。
作用剤は、異なる標的分子を対象にする又は標的とする、あるいは異なる分子を標的とすると文献に記載されている、というように、互いに異なっていることが好ましい。作用剤が、同じ標的分子に結合する2つ以上の異なる作用剤を含むのもまた、本発明の範囲内である。さらに、1つの作用剤が標的分子の第1の部位へ結合し、第2の作用剤が標的分子の第2の部位へ結合するのも本発明の範囲内である。
少なくとも作用剤の2つが異なる作用機序を用いて活性を及ぼすのもまた本発明の範囲内である。好ましい実施態様において、活性を及ぼすとは、化合物の細胞増殖及び/又は細胞分裂を阻害又は遅延する作用が異なる作用機構によって仲介されることを意味する。特に好ましい実施態様において、用語活性を及ぼすとは、ウイルス、特に、本発明に従うウイルス、本明細書に記述されているウイルス、及び本発明に従って用いられるウイルス、の複製効率が、作用剤の1つ及び/又は両方が使用されない場合と比較して増加していることを意味する。ウイルスの複製の効率の尺度として、好ましくは細胞溶解に必要なウイルスの数が用いられ、好ましくはpfu/細胞として表現される。
特に好ましい実施態様では、少なくとも2つの作用剤の少なくとも1つが、ウイルスの複製が起きる細胞の、好ましくは選択的な方式で起きる細胞の、好ましくは本明細書に記述したウイルスによる及び/又は本発明に従って用いられるウイルスによる感染力を増加させる作用剤である。これは、例えば細胞によるウイルスの取り込みを増加させることにより行うことができる。ウイルスの取り込みは、特にアデノウイルスは、例えばコクサッキーウイルス・アデノウイルスレセプター(CAR)によって媒介される (Mizuguchi and Hayakawa, GENE 285, 69-77, 2002)。CARの増加した発現が、例えばトリコスタチンAにより引き起こされる (Vigushin et al., Clinical Cancer Research, 7, 971-976, 2001)。
さらなる実施態様では、少なくとも2つの作用剤の1つは、細胞内の成分の利用可能性を増すものであり、その場合、成分はウイルス、好ましくは本明細書に記述したウイルス、及び/又は本発明に従って用いられるウイルス、の複製を増加させる成分である。
さらなる実施態様では、少なくとも2つの薬剤のうちの1つは核の中へのYB−Iの輸送を媒介するものである。そのような作用剤を、トポイソメラーゼ阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、及び有糸分裂阻害剤を含む群より選択することができる。好ましいトポイソメラーゼ阻害剤は、カンプトテシン、イリノテカン、エトポシド、及びそれぞれの類似物質である。好ましい有糸分裂阻害剤は、ダウノルビシン、ドキソルビシン、パクリタキセル及びドセタセルである。好ましいアルキル化剤はシスプラチン及びそれらの類似物質である。好ましい代謝拮抗剤は、フルオロウラシル及びメトトレキサートである。
特に好ましい実施態様では、少なくとも2つの作用剤の1つは細胞の感染力、特にCARの発現、を増加させるものであり、また少なくとも2つの作用剤の2番目は、核の中へのYB−1の輸送を増加させるものであり、その場合好ましくは化合物として、好ましくは上述のようなそれぞれの必要な特性を示す化合物を用いる。
さらなる実施態様では、少なくとも2つの作用剤の1つはヒストンデアシラーゼ阻害剤である。好ましいヒストンデアシラーゼ阻害剤は、トリコスタチンA、FR901228、MS−27−275、NVP−LAQ824及びPXD101を含む群より選択されるものである。トリコスタチンAは、例えば Vigushin et al., Clinical Cancer Research, 7, 971-976, 2001 に記載されている;FR901228は、例えば Kitazono et al., Cancer Res., 61, 6328-6330, 2001 に記載されている;MS−27−275は、Jaboin et al., Cancer Res., 62, 6108-6115, 2002 に記載されている;PXD101は、Plumb et al., Mol. Cancer Ther., 8, 721-728, 2003 に記載されている;NVP−LAQ824は、Atadja et al., Cancer Res., 64, 689-695, 2004 に記載されている。
なお更なる実施態様では、少なくとも2つの作用剤の1つがトポイソメラーゼ阻害剤、好ましくはトポイソメラーゼI阻害剤である。好ましいトポイソメラーゼ阻害剤は、カンプトテシン、イリノテカン、トポテカン、SN−38、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、DX−895If、及びダウノルビシンを含む群より選択されるものである。イリノテカン及びSN−38は、例えば Gilbert et al., Clinical Cancer Res., 9, 2940-2949, 2003 に記載されている;DX−8951fは、van Hattum et al., British Journal of Cancer, 87, 665-672, 2002 に記載されている;カンプトテシンは、Avemann et al., Mol. Cell. Biol., 8, 3026-3034, 1988 に記載されている;9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシンは、Rajendra et al., Cancer Res., 63, 3228-3233, 2003 に記載されている;ダウノルビシンは、M. Binaschi et al., Mol. Pharmacol., 51, 1053- 1059 に記載されている。
特に好ましい実施態様では、少なくとも2つの作用剤の1つはヒストンデアシラーゼ阻害剤であり、少なくとも2つの作用剤の他の1つはトポイソメラーゼ阻害剤である。
ある実施態様では、本発明による手段及び/又は本発明によって準備される手段は、本発明に従ってウイルスと組み合わせた少なくとも2つの作用剤のうちの1つ又はいくつかから離れているウイルスを含む。ウイルスは、ウイルスと組み合わせたいずれの作用剤からも離れていることが好ましい。好ましくは、その分離は空間的分離である。空間的分離は、ウイルスが作用剤とは異なる包装中に存在するような状態であってよい。好ましくは、包装は1回投与単位である、すなわち、ウイルス及び作用剤を単一の用量又は1回量として包装する。単回投与単位は、次に包装を作るために組み合わせてもよい。しかし1つ又はいくつかの、ウイルスの単一用量が、1つ又はいくつか作用剤の1つ又はいくつかの単一容量と組み合わせられるか、それと一緒に包装されることは、本発明の範囲内である。
包装の種類は、当業者に知られている投与の方法に依存する。好ましくは、ウイルスは、凍結乾燥された形で、又は適当な液相中に存在することになる。好ましくは、作用剤は、例えば錠剤又はカプセルとして固体の形で存在することになる。しかしそれに制限されない。あるいは、作用剤は液体の形でも存在することができる。
全身的に又は局所的にウイルスを投与することは本発明の範囲内である。さらに、ウイルスと組み合わせた作用剤を全身に又は局所的に、個々に及び互いに独立して、又は一緒に投与することも本発明の範囲内である。投与の他の様式は当業者に公知である。
ウイルス及びそれと組み合わせた作用剤を時間を隔てる方式で、又は同時に投与することもまた、本発明の範囲内である。時間を隔てる方式に関連して、作用剤はウイルスの投与に先立って投与することが好ましい。ウイルスにどれくらいの時間先立って作用剤を投与するかは、用いる作用剤の種類に依存し、当業者には使用する作用剤の作用機序から明白である。さらに少なくとも2つの作用剤の投与を、同時に又は異なる時に行うことができる。時間的に異なる投与に関しては、その時点は、再び作用剤の根底にある作用機序に起因するものであり、それに基づいて当業者によって決定される。
上記の考察は、医薬組成物としても本明細書に開示され参照されている本発明による薬物に関連して示したが、ウイルスの複製に使用される、好ましくは本発明によるウイルスのインビトロの複製に使用される組成物を含む任意の組成物に、概して適用可能である。上記の考察はまた、本発明によるキット及び本発明に従って用いられるキットにそれぞれ適用可能であり、それは本明細書に記述したウイルス及び本発明に従って用いられるウイルスとは別に、本明細書に記述される1つの作用剤又は作用剤の組合せもさらに含む。そのようなキットは、ウイルス及び/又はすぐに使用できる形の1つ又はいくつかの作用剤及び好ましくは使用指示書を含む。更に、上記の実施態様は、さらに本明細書に開示される核酸及び本発明に従って用いられる核酸、ならびに本発明による複製システム及びそれをコードする核酸、ならびに、それぞれ本発明に従って用いられる複製システム及び本発明に従って用いられるそれをコードする核酸に当てはまる。
本発明者は驚くべきことに、本明細書に記載されるウイルスの発明使用、好ましくは、グループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスの使用がそのような腫瘍と関連して極めて高い成功率で実施されうること、及び細胞周期とは無関係にYB−1を細胞核に有するそのような腫瘍の治療のための薬物の製造のためにそれらを使用できることを見い出した。普通、YB−1は細胞質、特に核周辺の細胞質に局在する。細胞周期のG1/S期に、正常細胞及び腫瘍細胞の双方でYB−1を核内で見い出すことができ、その際、YB−1の一部は細胞質に残る(Jurchott K. et al., JBC 278: 27988-27996, 2003)。しかしながら、そのような改変アデノウイルスを用いてウイルスの腫瘍溶解を提供するためには、これは十分ではない。従来技術で記載されるようなそのような減弱アデノウイルスの比較的低い有効性は、結局のところ、その誤った適用に基づく。言い換えれば、ウイルスの腫瘍溶解に対する分子生物学的必要条件が本明細書で記載されるようなこれら減弱した又は改変したアデノウイルス、好ましくはグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスを用いて提供される場合、高い効率と共に、そのようなアデノウイルスシステムを使用してもよい。本発明に従って使用されるべき本明細書に記載されるアデノウイルス、たとえば、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016、dl520及び欧州特許EP0931830号に記載された組換えアデノウイルスの場合、必要条件は、そのような腫瘍細胞で細胞周期とは無関係にYB−1の核局在を示す細胞に与えられる。この種の核への局在化は、腫瘍自体の性質によって或いは本明細書に記載される本発明に係る手段又は発明剤によって誘発されてもよい。従って、本発明は、本発明に係るウイルス、好ましくはグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスを用いて、しかしまた従来技術ですでに記載された減弱した又は改変したアデノウイルスを用いてさらに効率的に治療されてもよい、腫瘍及び腫瘍性疾患の並びに患者の新しい群を定義する。
グループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルス又はそのままで従来技術ですでに既知の本発明に従って使用されるべきアデノウイルスを用いて、或いは初めて本明細書で記載されるアデノウイルスを用いて、並びに好ましくはRb/E2fの結合を妨害しない又はYB−1核陰性の細胞では複製しない又は本明細書で定義するように強く低下した複製を示すE1Aタンパク質で突然変異又は欠損を有する、及び/又は、特にE1A、たとえばウイルスAdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016及び欧州特許EP0931830号に記載されたアデノウイルスの場合、欠損癌タンパク質を有する、又は示すアデノウイルスを用いて本発明に従って治療されてもよい患者のさらなる群は、YB−1が核に移動する又はそこで誘導される又はそこに輸送される或いは調節解除されたYB−1が存在するという特定の条件を適用する又は実現することによってそれが保証されるような患者である。この患者群と関連したグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスの使用は、ウイルス複製の誘導が、YB−1の核への局在化とそれに続くYB−1のE2後期プロモーターへの結合に基づくという知見に基づく。本明細書で開示されたこの知見のために、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016及び/又は欧州特許EP0931830号に記載されたアデノウイルスのようなアデノウイルスも、本明細書の意味においてYB−1が核陽性である細胞及び/又はYB−1が調節解除された状態で存在する細胞で複製してもよい。その程度において、これらの特徴を有する細胞を含む、特に治療されるべき疾患の生成にこれらの細胞が関与していれば、本発明に従って疾患及び患者を治療するためにこれらのアデノウイルスを使用することができる。このことは、細胞周期とは無関係に核にYB−1を含有する又は本発明の意味において調節解除されたYB−1を含有する腫瘍細胞を本発明に従って治療することにおいて、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016、欧州特許EP0931830号に記載されたアデノウイルス並びにグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスの成功の基礎である。本発明に従って使用されるべき本明細書に記載されたウイルスを用いて、及び初めて本明細書で記載されたウイルス、特にグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスを用いて、本発明に従って治療されてもよい患者のさらなる群は、YB−1核陽性のもの、及び/又は以下の任意の治療の結果YB−1核陽性であるもの、及び/又は、好ましくは治療の意味で、アデノウイルスの投与に先立って、ウイルスの適用に付随して、アデノウイルスの投与後に、以下の手段の1つを受ける患者である。YB−1核陽性の患者が、細胞周期とは無関係に多数の腫瘍形成細胞の中で特に核にYB−1を有する、及び/又はそのような細胞で調節解除されたYB−1を有する患者であるということは本発明の範囲内である。これらの手段の1つは、全体として及び/又は腫瘍治療に関連して使用される、本明細書で記載されるような細胞増殖抑制剤の投与である。さらに照射、特に腫瘍治療に適用される照射はこの群の手段に属する。照射は、特に高エネルギーの放射線による照射、好ましくは、腫瘍治療に使用される好ましくは放射線照射を意味する。さらなる手段は温熱及び温熱の適用、好ましくは腫瘍治療に使用される温熱である。特に好ましい実施態様では、温熱は局所に適用される。最終的に、さらなる手段は、ホルモン治療、特に腫瘍治療に適用されるホルモン治療である。そのようなホルモン治療の過程では、抗エストロゲン及び/又は抗アンドロゲンが使用される。それに関連して、たとえば、タモキシフェンのような抗エストロゲンは特に乳癌の治療に使用され、フルタミド又はシプロテロンアセテートのような抗アンドロゲンは特に前立腺癌の治療に使用される。
本明細書で開示されるアデノウイルスは腫瘍の治療に使用されてもよく、その際、腫瘍は、原発腫瘍、二次腫瘍、三次腫瘍及び転移腫瘍を含む群から選択される。これに関連して、腫瘍は以下の特徴、すなわち、理由の如何にかかわらず、細胞周期とは無関係に核にYB−1を有すること及び/又は調節解除されたYB−1を含有することの1つを示すことが好ましい。
本発明に基づいたアデノウイルスがその中で複製する又は複製することが可能である細胞及び腫瘍は、本明細書で記載される1又は数個の特徴有する、好ましくは、理由にかかわりなく細胞周期とは無関係に核にYB−1を有する及び/又は調節解除されたYB−1を有するという特徴を有するものであり、かつ、本発明に基づいたグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスを用いてこれらの細胞及び腫瘍を治療してもよく、かつ、それらの治療のための薬物を製造するためにアデノウイルスを使用してもよく、その際、アデノウイルスはYB−1をコードする核酸を発現することは本発明の範囲内である。従って、好ましくは、本発明に基づいたグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスが複製してもよい、かつ、これらのアデノウイルスを用いて治療してもよい、好ましくは溶解してもよい細胞、従って腫瘍には3つのカテゴリーがある:
A群:細胞周期とは無関係に核にYB−1を有する細胞;
B群:核にYB−1を有さず、特に細胞周期とは無関係ではないが、調節解除されたYB−1を含む細胞;及び
C群:核にYB−1を有さず、特に細胞周期とは無関係ではなく、調節解除されたYB−1を含まない細胞
A群については、本発明に基づいたアデノウイルス、特に、追加のYB−1を発現しないグループIのアデノウイルスを複製及び溶解に使用してもよい。しかしながら、本発明に基づいたアデノウイルス、特に、追加のYB−1を発現するグループIのアデノウイルスを複製及び溶解に用いることも可能である。これはB群にも適用される。それに束縛されることを望まないで、理由は、E1Bタンパク質、特にE1B55Kタンパク質及び/又はE4タンパク質、特にE4orf6タンパク質の効果のために、核におけるYB−1の局在化及び核へのその転移によって効率的な複製が保証されることであると思われる。アデノウイルスにより追加的に発現されるYB−1はこの過程を抑制する。
C群の場合、本発明に基づいたアデノウイルス、特に、追加のYB−1を発現するグループIのアデノウイルスを複製及び溶解に使用されるであろう。これの理由は、再び、それに束縛されることを望まないで、ウイルス複製の上記過程は、効率的な複製が起きてもよいように、特定の細胞のバックグラウンドでは活発ではないことであると思われる。YB−1を提供し、YB−1を発現させることだけで、効率的な複製が起きてもよく、その際、メカニズムは、Bargou(Bargout R. C. et al., Nature Medicine 3: 447-450, 1997)及びJurchott(Jurchott K. et al., JBC 278: 27988-27966, 2003)により記載されたように、YB−1の過剰発現がYB−1の核への局在化を招くようである。
固有に核にYB−1を含有する、又はそのようにする又は核への誘導及び積極的な核への導入ののち核にYB−1を含有する、或いは本発明の意味で調節解除されたYB−1を含む腫瘍を形成する細胞の一部も本発明の範囲内である。好ましくは、腫瘍形成細胞の約5%又はすなわち、6%、7%、8%などよりも高い比率がそのようなYB−1核陽性細胞又は調節解除されたYB−1が存在する細胞である。たとえば、乳癌、骨肉種、卵巣癌、滑膜癌又は肺癌のようなそのほかの腫瘍については、調節解除されたYB−1を含む又は細胞周期とは無関係にYB−1の核への局在化を示す腫瘍細胞の比率は、約30〜50%であってもよい(Kohno K. et al., BioEssays 25: 691-698, 2003)。本発明に基づくアデノウイルスを用いてそのような腫瘍を好ましく治療してもよい。YB−1の核への局在化は、外からのストレス及び局所に適用されたストレスによって誘導されてもよい。この誘導は、照射、特にUV照射、とりわけ、本明細書で開示される細胞増殖抑制剤の適用及び温熱を介して生じてもよい。温熱に関連して、YB−1の核への特定の核輸送が誘発されてもよく、このために、アデノウイルスの複製並びに細胞及び腫瘍の溶解のための必要条件が与えられ、好ましくは局所的に限定されることが、特定の様式で、特に局所的に、実現されてもよいことが重要である(Stein U., Jurchott K., Walther W., Bergmann S., Schlag P. M., Royer H. D., J. Biol. Chem., 276(30): 28562-9, 2001; Hu Z., Jin S., Scotto K. W., J. Biol. Chem., 275(4): 2979-85, 2000; Ohga T., Uchiumi T., Makino Y., Koike, K., Wada M., Kuwano M., Kohno K., J. Biol. Chem., 273(11): 5997-6000, 1998)。
従って、適当な前処理又は後処理又は付随した処理によって、YB−1の輸送が特に腫瘍細胞で誘発され、調節解除されたYB−1が細胞で生成される患者及び患者群に本発明の薬物が投与され、彼らのために設計されるであろう。
本明細書で提供される技術的教示に基づいて、本発明に基づいた使用に適用されてもよいアデノウイルスの異なった実施態様を生成するために、たとえば、欠失又は点突然変異を含んでもよい特にE1Aを好適に改変することは当該技術の1つの技量の範囲内である。
すでに言及したように、グループI及び/又はグループIIのアデノウイルスは、YB−1を核に有するそのような細胞及び細胞系で複製することが可能である。これらのアデノウイルスが本発明に従って複製することができ、従って腫瘍を溶解することができるかどうかという疑問については、Rb、すなわち、網膜芽腫腫瘍抑制産物の存在又は非存在に関する細胞の状況は、無関係である。さらに、本発明に従った前記アデノウイルスの使用について、YB−1核陽性細胞、すなわち、細胞の状況に無関係にYB−1を有する細胞と関連して本明細書で開示されるアデノウイルスを使用する場合、感染細胞の、感染されるべき細胞の、又は治療されるべき細胞のp53の状況を考慮に入れる必要はなく、Rbの状況と同様にp53の状況も本明細書で開示される技術的教示を実践するためのアデノウイルスの複製に何ら影響を有さない。
好ましくは、グループIIのアデノウイルスのトランス活性化する癌遺伝子及び癌遺伝子タンパク質、特にE1Aは、独自の天然のアデノウイルスのプロモーターの制御下にあることができ、及び/又は腫瘍特異的プロモーター又は組織特異的プロモーターを介して制御されることもできる。好適な非アデノウイルスプロモーターは、サイトメガロウイルスプロモーター、RSV(ラウス肉種ウイルス)プロモーター、アデノウイルスに基づいたプロモーターVaI及び非ウイルスYB−1プロモーターを含む群から選択される(Makino Y. et al., Nucleic Acids Res., 15: 1873-1878, 1996)。本明細書で開示される本発明の任意の態様と関連して使用してもよいさらなるプロモーターは、テロメラーゼプロモーター、α−フェトタンパク質(AFP)プロモーター、癌胎児性抗原プロモーター(CEA)(Cao G., Kuriyama S., Gao J., Mitoro A., Cui L., Nakatani T., Zhang X., Kikukawa M., Pan X., Fukui H., Qi Z., Int. J. Cancer 78: 242-247, 1998)、L−プラチンプロモーター(Chung I., Schwartz P. E., Crystal R. C., Pizzorno G., Leavitt J., Deisseroth A. B., Cancer Gene therapy 6: 99-106, 1999)、アルギニンバゾプレシンプロモーター(Coulson J. M., Staley J., Woll P. J., British J. Cancer 80: 1935-1944, 1999)、E2fプロモーター(Tsukada et al., Cancer Res., 62: 3428-3477, 2002)、ウロプラキンIIプロモーター(Zhang et al., Cancer Res., 62: 3743-3750, 2002)、及びPSAプロモーター(Hallenbeck P. L., Chang Y. N., Hay C., Golightly D., Srewart D., Lin J., Phipps S., Chiang Y. L., Human Gene Therapy 10: 1721-1733, 1999)、チロシナーゼプロモーター(Nettelbeck D. M., Anti-Cancer Drugs 14: 577-584, 2003)、シクロオキシゲナーゼ2プロモーター(Nettelbeck D. M. et al., Melanoma Res., 13: 287-292, 2003)、並びにテトラサイクリンのような誘導系(Xu, X. L., Mizuguchi H., Mayumi T., Hayakawa T., Gene 309: 145-151, 2003)である。さらに、ドイツ特許出願DE10150984.7号に記載されるようなアデノウイルスのYB−1に依存したE2後期プロモーターは、本発明に関連して使用してもよいプロモーターである。
テロメラーゼプロモーターについて、ヒト細胞ではそれは決定的に重要であることが知られている。従って、テロメラーゼ活性は、酵素の触媒サブユニットであるテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子(hTERT)の転写制御を介して調節されている。テロメラーゼの発現は、ヒト腫瘍細胞の85%で陽性である。これとは対照的に、ほとんどの正常細胞ではそれは不活性である。その例外は、生殖細胞及び胎児の組織である(Braunstain I. et al., Cancer Res., 61: 5529-5536, 2001; Majundar A. S. et al., Gene Therapy 8: 568-578, 2001)。hTERTの詳細な研究によって、開始コドンそれぞれ283bp及び82bpから分離したプロモーターの断片は腫瘍細胞での特異的な発現に十分であることが示されている(Braunstain I. et al., Majundar A. S. et al.,上記)。従って、本プロモーター及び特異的断片はそれぞれ、遺伝子の、特に導入遺伝子の、好ましくは本明細書で開示される導入遺伝子の1つの腫瘍細胞における特異的な発現に好適である。プロモーターは、腫瘍細胞においてのみ、改変された癌遺伝子、好ましくはE1A癌遺伝子タンパク質の発現を認めるべきである。また、実施態様では、これらのプロモーターの制御下でのアデノウイルスベクターにおける導入遺伝子の発現、好ましくはE4orf6、E1B55kD、ADP及びYB−1を含む群から選択される導入遺伝子の発現が企図される。トランス活性化する癌遺伝子タンパク質、特にE1Aタンパク質の読み取りフレームが、アデノウイルスシステムの1又は数個の遺伝子産物と共にインフレームであることも本発明の範囲内である。しかしながら、トランス活性化するE1Aタンパク質の読み取りフレームはそれらとは独立していてもよい。
様々な導入遺伝子、したがってE1B55kD、E4orf6、ADPその他もまた、特にそれらがウイルス遺伝子である場合は、原則として任意のそれぞれのウイルス、好ましくはアデノウイルスからクローニングすることができる。さらに先行技術において多数のプラスミドが記述されており、それらはそれぞれの遺伝子を含んでおり、続いてそれらから遺伝子を得て本発明のアデノウイルスへならびに本発明に従って用いられるウイルスへ導入することができる。E1B55kDを発現するそのようなプラスミドの例については、例えば Dobbelstein, M. et al., EMBO Journal, 16, 4276-4284, 1997 に記載されている。E1B55KD遺伝子のコーディング領域を例えば3’非翻訳領域と一緒にこの遺伝子から、プラスミドpDCRE1BからBam HIにより切り取ることができる。E1B55kD遺伝子ならびに3’非コード領域を含む対応する断片が、アデノウイルス5型のヌクレオチド2019−4107に対応する。しかし、E1B55kD遺伝子が制限酵素Bam HI及びBfrIによって前記プラスミドから切り取られ、続いてアデノウイルスへクローンニングされることもまた本発明の範囲内である。
もし逆の言及がなければ、本発明のウイルスについて言及される場合は、それをコードする核酸ならびにアデノウイルス粒子(これは好ましくはそれぞれの核酸を含む)の両方について言及される、ということは本発明の範囲内である。それぞれの核酸はまた、異なるベクターに組み入られて存在してもよい。
本発明に基づいたアデノウイルス、好ましくはグループIのアデノウイルスの種々の実施態様と関連して、特に、野生型アデノウイルスにおけるタンパク質又は発現産物を制御するものとは異なるプロモーターが使用される場合、上述の種々のプロモーターも使用されることは本発明の範囲内である。従って、前述のプロモーターは本発明の意味では、異種プロモーターである。本発明に基づいたアデノウイルス、特にグループIのアデノウイルスの好ましい実施態様では、上記で定義したA群及びB群の細胞にアデノウイルスを適用する場合、E1Bタンパク質及び/又はE4タンパク質の発現がそのような異種プロモーターから開始し、その際、好ましくは、しかし排他的ではなくE1Aタンパク質がYB−1に制御されるように、これが生じることが企図される。この実施態様及びそのほかの実施態様では、E1Aタンパク質の発現は、たとえば、E2後期プロモーターのようなYB−1が制御可能なプロモーターの制御下にある。このことは、E1Bタンパク質及び/又はE4タンパク質が発現カセットで発現されている場合も真実である。
本発明に基づいたアデノウイルス、特にグループIのアデノウイルスの好ましい実施態様では、C群の細胞に関連してアデノウイルスを適用する場合、プロモーターはそれぞれ独立して、腫瘍特異的、器官特異的又は組織特異的なプロモーターであることが企図される。それに関連して、E1Bタンパク質、E4タンパク質及び/又はE1Aタンパク質の発現を制御する少なくとも1つのプロモーターがそのような特異的なプロモーターである場合、それは十分である。この腫瘍、器官及び組織の特異性によって、本発明に基づいたアデノウイルスの複製は該当する腫瘍、器官又は組織の細胞にのみ生じ、それから離れて、さらなる組織がアデノウイルスの複製によってたとえば、溶解されるように損傷されることはないことが保証される。好ましくは、第2のタンパク質、及びさらに好ましくは3つすべてのタンパク質がそのような腫瘍特異的、器官特異的又は組織特異的なプロモーターによって制御される。そのようなアデノウイルスを用いて、腫瘍を形成しない又はそのような腫瘍を発生させることができないが、そのほかの理由、たとえば医学的理由で、たとえばそれらが望ましくない因子を産生する又は高すぎるレベルでそのような因子を産生するので、生物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトから破壊されるべきである又は除去されるべきであるものも溶解することが可能である。
実施態様では、本発明に基づいたアデノウイルスの溶解のための細胞が使用され、細胞は耐性であり、好ましくは多剤耐性を示すことが企図される。
本明細書でいう、かつ治療されるべき腫瘍及び患者の特徴である耐性は、以下の遺伝子:MDR、MRP、トポイソメラーゼ、BCL2、グルタチオン−2−トランスフェラーゼ(GST)、タンパク質キナーゼC(PKC)が介在するものであるが、これらに限定されない。細胞増殖抑制剤の効果がとりわけ、アポトーシスの誘導に基づいているので、アポトーシス関連遺伝子の発現は、以下の因子、すなわち、Fas、BCL2ファミリー、HSP70及びEGFRがそれに関連して関係するようにいかなる耐性の生成においても決定的な役割を担う(Kim et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 50: 343-352, 2002)。
YB−1の発現は、非耐性腫瘍細胞に比べて、耐性腫瘍細胞において強く増加することがLevenson et al(Levenson V. V. et al., Cancer Res., 60: 5027-5030, 2000)によって記載されている。
本明細書で使用されるとき、耐性は、本明細書で記載される細胞増殖抑制剤に対する耐性をいう。この複合耐性は、マーカーを呈する腫瘍及び患者群の細胞を決定するためのマーカーとして使用してもよい膜結合型トランスポータタンパク質、P糖タンパク質の発現、好ましくは過剰発現に付随する。本明細書で使用されるとき、用語、耐性は、P糖タンパク質が介在する古典的な耐性をいう耐性、及びMRPが介在する又はそのほかの非P糖タンパク質が介在する異型の耐性をいう耐性の双方も含む。YB−1の発現に相関するさらなるマーカーはトポイソメラーゼIIαである。その程度において、成功の期待を持ってアデノウイルスを用いて本発明に従って患者を治療してもよいかどうかを決定するために、核におけるYB−1を決定する代わりに又はそれに加えて、スクリーニング法でトポイソメラーゼIIαを用いてもよい。原則としてP糖タンパク質と同様に使用してもよいマーカーはMRPである。少なくとも、結腸直腸癌又は結腸直腸癌を有する患者が関係する範囲でのさらなるマーカーは、たとえばShibao K. et al(Shibao K. et al., Int. Cancer 83: 732-737, 1999)により記載されるようなPCNA(増殖細胞核抗原)(Hasan S. et al., Nature 15: 387-391, 2001)である。最終的に、乳癌及び骨肉種の分野では、MDR(多剤耐性)の発現が前述の意味でのマーカーである(Oda Y. et al., Clin. Cancer Res., 4: 2273-2277, 1998)。本発明に従って使用してもよいさらに可能性のあるマーカーは、p73である(Kamiya M., Nakazatp Y., Neurooncology 59: 143-149, 2002; Stiewe et al., J. Biol. Chem., 278: 14230-14236, 2003)。
最後に、それは、本発明で使用してもよい乳癌における予後マーカーとしてYB−1が言われるべきである。原発腫瘍においてYB−1の発現が増加している患者においてのみ、手術及び化学療法の後で再発が起きる(Janz M. et al., Int. J. Cancer 97: 278-282, 2002)。
さもなければ医学的臨床的な意味でもはや治療することができない、及び従来技術の方法を用いた腫瘍性疾患の治療が成功の期待を持ってはもはや可能ではない、特に、細胞増殖抑制剤及び照射の使用がもはや合理的に可能ではなく、腫瘍に影響を与える又は腫瘍を小さくするという意味でもはや上手く行うことができない患者を本発明に従って、本明細書で記載されるアデノウイルスを用いた治療の対象としてもよいということは本発明の特別の利点である。本明細書では、用語、腫瘍は、一般に、好ましくは細胞周期とは無関係に細胞核にYB−1を固有に含有する、又は外因性の手段を適用してそのようにする、及び/又は調節解除されたYB−1を含有するいかなる腫瘍又は癌性疾患をいう。
さらに、本明細書に記述されたウイルスを、原則として腫瘍の治療に用いることができる。
特に本明細書に記述されるウイルスによって治療することができる腫瘍は、神経系の腫瘍、目の腫瘍、皮膚の腫瘍、軟組織の腫瘍、胃腸の腫瘍、呼吸器の腫瘍、骨格の腫瘍、内分泌系の腫瘍、女性生殖システムの腫瘍、乳腺の腫瘍、男性生殖システムの腫瘍、尿の排出系の腫瘍、造血系の腫瘍を含み、混合腫瘍及び胚の腫瘍を含む群より選択される腫瘍が好適である。これらの腫瘍が特にここに定義されたような特に耐性のある腫瘍であることは本発明の範囲内である。
神経系の腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. 頭蓋並びに脳(頭蓋内)の腫瘍、好ましくは星状細胞腫、オリゴデンドログリオーマ、髄膜腫、神経芽細胞腫、神経細胞腫、上衣細胞腫、神経鞘膠腫、神経繊維腫、血管芽細胞腫、脂肪腫、クラニオファリンジオーマ、奇形腫、及び脊索腫;
2. 脊髄、及び脊柱管の腫瘍、好ましくは膠芽腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、神経繊維腫、骨肉腫、軟骨肉腫、血管肉腫、繊維肉腫及び多発性骨髄腫;及び
3. 末梢神経の腫瘍、好ましくは神経鞘膠腫、神経繊維腫、神経繊維肉腫、及び神経周囲の線維芽細胞腫。
目の腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. 眼瞼及び眼瞼腺の腫瘍、好ましくは腺腫、腺癌、乳頭腫、組織球腫、肥満細胞 腫、基底細胞腫瘍、メラノーマ、扁平上皮癌、繊維腫及び繊維肉腫;
2. 結膜、及び瞬膜の腫瘍、好ましくは扁平上皮細胞癌、血管腫、血管肉腫、腺腫、 腺癌、繊維肉腫、メラノーマ及び乳頭腫;及び
3. 眼窩、視神経、及び眼球の腫瘍、好ましくは網膜芽細胞腫、骨肉腫、肥満細胞 腫、髄膜腫、細網細胞腫瘍、神経膠腫、神経鞘膠腫、軟骨腫、腺癌、扁平上皮癌、形質細胞腫瘍、リンパ腫、横紋筋肉腫、及びメラノーマ。
皮膚の腫瘍の群は好ましくは:
組織球腫、脂肪腫、繊維肉腫、繊維腫、肥満細胞腫、悪性メラノーマ、乳頭腫、基底細 胞腫瘍、角化棘細胞腫、血管周囲細胞腫、毛嚢腫瘍、汗腺腫瘍、皮脂腺の腫瘍、血管種、 血管肉腫、脂肪腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、プラスマ細胞腫及びリンパ管腫、などの腫瘍を含む。
軟組織の腫瘍の群は好ましくは、
歯槽の軟部組織肉腫、類上皮細胞肉腫、軟組織の軟骨肉腫、軟組織の骨肉腫、軟組織の ユーイング肉腫、未分化神経外胚葉性腫瘍(PNET)、繊維肉腫、繊維腫、平滑筋肉腫、平滑筋腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、悪性血管周囲細胞腫、血管種、血管肉腫、悪性間葉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、悪性神経鞘膠腫、悪性メラノサイト性神経鞘膠腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫、リンパ管腫、及びリンパ管肉腫、などの腫瘍を含む。
胃腸の腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. 口腔及び舌の腫瘍、好ましくは扁平上皮癌、繊維肉腫、マーケル細胞腫瘍、誘導性繊維エナメル芽細胞腫、繊維腫、繊維肉腫、ウイルス性乳頭腫症、特発性乳頭腫症、鼻咽頭ポリープ、平滑筋肉腫、筋芽細胞腫、及び肥満細胞腫;
2. 唾液腺の腫瘍、好ましくは腺癌;
3. 食道の腫瘍、好ましくは扁平上皮癌、平滑筋肉腫、繊維肉腫、骨肉腫、バレットの癌、及び食道周囲腫瘍;
4. 膵臓外分泌腺の腫瘍、好ましくは腺癌;及び
5. 胃の腫瘍、好ましくは腺癌、平滑筋腫、平滑筋肉腫及び繊維肉腫。
呼吸器の腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. 鼻及び鼻腔、喉頭及び気管の腫瘍、好ましくは扁平上皮癌、繊維肉腫、繊維腫、リンパ肉腫、リンパ腫、血管種、血管肉腫、メラノーマ、肥満細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、好酸性顆粒細胞腫(横紋筋腫)、腺癌及び筋芽細胞腫;及び
2. 肺の腫瘍、好ましくは扁平上皮癌、繊維肉腫、繊維腫、リンパ肉腫、リンパ腫、血管種、血管肉腫、メラノーマ、肥満細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、好酸性顆粒細胞腫(横紋筋腫)、腺癌、筋芽細胞腫、小細胞癌、非小細胞癌、気管支の腺癌、気管支肺胞腺癌、及び肺胞性腺癌。
骨格の腫瘍の群は好ましくは:
骨肉腫、軟骨肉腫、傍骨性骨肉腫、血管肉腫、滑膜細胞肉腫、血管肉腫、繊維肉腫、悪性間葉腫、巨細胞腫、骨腫及び多小葉骨腫、を含む。
内分泌系の腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. 甲状腺/副甲状腺の腫瘍、好ましくは腺腫及び腺癌;
2. 腎上体の腫瘍、好ましくは腺腫、腺癌及びクロム親和性細胞腫(髄質副腎腫);
3. 視床下部/下垂体の腫瘍、好ましくは腺腫及び腺癌;
4. 膵臓内分泌腺の腫瘍、好ましくはインスリノーマ(β細胞腫瘍、APUDom)及びゾリンジャー−エリソン症候群(膵臓デルタ細胞のガストリン分泌器官腫瘍);ならびに、
5. 多発性内分泌腫瘍症(MEN)及び非クロム親和性傍神経節腫。
女性の生殖システムの腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 卵巣の腫瘍、好ましくは腺腫、腺癌、嚢腺腫及び未分化癌;
2. 子宮の腫瘍、好ましくは平滑筋腫、平滑筋肉腫、腺腫、腺癌、繊維腫、繊維肉腫及び脂肪腫;
3. 頚部の腫瘍、好ましくは腺癌、腺腫、平滑筋肉腫及び平滑筋腫;
4. 膣及び陰門の腫瘍、好ましくは平滑筋腫、平滑筋肉腫、線維平滑筋腫、繊維腫、繊維肉腫、ポリープ、及び扁平上皮癌。
乳腺の腫瘍の群は好ましくは、
線維腺腫、腺腫、腺癌、間充織腫瘍、癌、癌肉腫を含む。
男性の生殖システムの腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. 睾丸の腫瘍、好ましくは精上皮腫、間細胞腫及びセルトリ細胞腫;
2. 前立腺の腫瘍、好ましくは腺癌、未分化癌、扁平上皮癌、平滑筋肉腫及び移行細胞癌;及び
3. 陰茎及び外部生殖器の腫瘍、好ましくは肥満細胞腫及び扁平上皮癌。
尿の排出システムの腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. 腎臓の腫瘍、好ましくは腺癌、移行細胞癌(上皮性腫瘍)、繊維肉腫、軟骨肉腫(間充織の腫瘍)、ウィルムス腫瘍、腎芽腫及び胚性腎腫(胚の多分化能芽細胞腫);
2. 尿管の腫瘍、好ましくは平滑筋腫、平滑筋肉腫、線維乳頭腫、移行細胞癌;
3. 膀胱の腫瘍、好ましくは移行細胞癌、扁平上皮癌、腺癌、ブドウ房形(胚の横紋筋肉腫)、繊維腫、繊維肉腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、乳頭腫、及び血管肉腫;及び
4. 尿道の腫瘍、好ましくは移行細胞癌、扁平上皮癌、及び平滑筋肉腫。
造血システムの腫瘍の群は好ましくは次のものを含む:
1. リンパ腫、リンパ性白血病、非リンパ性白血病、骨髄増殖性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫。
混合腫瘍及び胚性腫瘍の群は好ましくは、血管肉腫、胸腺腫及び中皮腫を含む。
特に好ましい実施態様ではこれらの腫瘍が、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、骨肉腫、膠芽腫、メラノーマ、小細胞肺癌、及び結腸直腸癌を含む群より選ばれる。さらなる腫瘍は、本明細書に記述された耐性の腫瘍、好ましくは複合耐性の腫瘍、さらに特に上述した群の腫瘍である。特に好ましい腫瘍は、さらに乳房腫瘍、骨腫瘍、胃腫瘍、腸腫瘍、胆嚢腫瘍、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、腎臓腫瘍、脳腫瘍、卵巣腫瘍、皮膚及び皮膚付属器の腫瘍、頭/首腫瘍、子宮腫瘍、滑膜腫瘍、喉頭腫瘍、食道の腫瘍、舌腫瘍、及び前立腺腫瘍を含む群より選ばれる腫瘍である。これらの腫瘍は、それらの症状発現に関して、本明細書にすべて開示されているものであることが好ましい。
本発明のアデノウイルス、好ましくは、グループIのアデノウイルス及び本発明に従って使用されるべきアデノウイルス、好ましくはグループIIのアデノウイルス。
薬物としての、及び特に全身性投与に関連した、本明細書で開示されるアデノウイルス、特にグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスの使用は、アデノウイルスの好適なターゲティングによって改善することができる。アデノウイルスによる腫瘍細胞の感染は、とりわけ、ある程度まで、コクサッキーウイルス−アデノウイルスの受容体及び別個のインテグリンの存在に依存する。それらが細胞内、好ましくは腫瘍細胞内で強く発現するとまもなく、きわめて低い力価(pfu/細胞)で感染がすでに可能である。組換えアデノウイルスのいわゆるリターゲティングに到達するために、たとえば、ファイバーノブ領域に異種配列を挿入したり、二特異的抗体を用いたり、アデノウイルスをポリマーで被覆したり、Adファイバーにリガンドを導入したり、血清型5のノブ及び血清型5のファイバーシャフトとノブを血清型3のノブ及びAd35のファイバーシャフトとノブで置き換えたり、ペントン塩基を修飾したりすることによって今日まで、種々の戦略が試みられてきた(Nicklin S. et al., Molecular Therapy 4: 534-542, 2001; Magnusson M. K. et al., J. of Virology 75: 7280-7289, 2001; Barnett B. G., et al., Biochemica et Biophysica Acta 1575: 1-14, 2002)。本発明に基づいたアデノウイルス及び本発明に従って使用されるアデノウイルス、特にグループIのアデノウイルス及びグループIIのアデノウイルスにおいて、そのようなさらなる実施態様及び特徴の本発明の種々の態様に関連した実現は、本発明の範囲内である。
本発明は、さらなる態様において、改変されたアデノウイルス、すなわち、本発明に従って使用されるアデノウイルス、たとえば、AdΔ24、dl922−847、E1Ad/01/07、CB106又は欧州特許EP0931830に記載されるアデノウイルス及び/又はグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスを用いて治療されてもよい患者をスクリーニングする方法に関するものであり、その際、該方法は以下の工程を含む。
−腫瘍組織の試料を分析すること、及び
−YB−1が細胞周期とは無関係に核に局在するかどうか又は細胞が調節解除されたYB−1を含有するかどうかを決定すること。
YB−1の代わりに、又はYB−1に加えて、前述のマーカーの存在も評価される。
腫瘍組織又はその一部が、好ましくは細胞周期とは無関係に核にYB−1を含む又は調節解除されたYB−1を含む場合、本明細書で開示されたアデノウイルス、特にグループIのアデノウイルス及び/又はグループIIのアデノウイルスを、本発明に従って使用してもよい。
本発明に係る方法の実施態様において、腫瘍組織の分析が、YB−1に対する抗体、YB−1に対するアプタマー、YB−1に対するスピーゲルマー、YB−1に対するアンチカリンを含む群から選択される作用剤によって行われることが企図される。原則として、各マーカーには、同一種類の作用剤を作成し使用することができる。抗体、特に、モノクローナル抗体の製造は当業者に既知である。YB−1の特異的な検出のためのさらなる作用剤又はマーカーは、本件YB−1又は前記マーカーにおける標的構造に高親和性で結合するペプチドである。従来技術では、そのようなペプチドを生成するために、たとえば、ファージディスプレイのような方法が知られている。そのような目的で、それはペプチドライブラリから出発するが、その際、個々のペプチドは約8〜20のアミノ酸の長さを有し、ライブラリのサイズは、約102〜1018、好ましくは108〜1015の異なったペプチドである。標的分子を結合するポリペプチドの特定の形態はいわゆるアンチカリンであり、それは、たとえば、ドイツ特許出願DE19742706号に記載されている。
YB−1又は本明細書で開示される相当するマーカーに特異的に結合するための、従って、細胞周期とは無関係なYB−1の核への局在化を検出するための、さらなる作用剤は、いわゆるアプタマー、すなわち、D−核酸であり、それは、RNA又はDNAを基にして一本鎖又は二本鎖として存在し、標的分子に特異的に結合する。アプタマーの生成は欧州特許EP0533838号に記載されている。アプタマーの特定の実施態様はいわゆるアプタザイムであり、たとえば、Piganeau N. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 39(29): 4369-4374, 2000に記載されている。それらが、アプタマー部分と離れてリボザイム部分を含み、アプタマー部分に結合する標的分子の結合及び放出に際して、リボザイム部分が触媒的に活性化されて核酸基質を切断し、それがシグナル生成を伴うという範囲で、それらはアプタマーの特定の実施態様である。
アプタマーのさらなる形態は、いわゆるスピーゲルマー、すなわち、L−核酸から成る、標的分子を結合する核酸である。そのようなスピーゲルマーの生成方法は、たとえば、WO98/08856に記載されている。
腫瘍組織の試料は穿刺又は手術によって得ることができる。YB−1が細胞周期とは無関係に核に局在するかどうかの評価は、顕微鏡技法及び/又は抗体若しくは通常、上述のさらなる作用剤のいずれかを用いた免疫組織分析によって行われることが多い。核におけるYB−1及び細胞周期とは無関係なその局在を検出する方法は当業者に既知である。たとえば、YB−1に対して染色した組織切片を走査すればYB−1の局在化は容易に検出される。核に存在するYB−1の頻度はすでに、核における局在化が細胞周期とは無関係であるという指標である。核における細胞周期とは無関係なYB−1の検出のさらなる可能性は、YB−1に対して染色し、YB−1の核における局在を評価し、細胞周期を決定することである。しかしながら、このこと及びYB−1の検出は、YB−1に向けられた前述の作用剤を用いて行うことができる。作用剤の検出は当業者に既知の手順で行われる。前記作用剤は特異的にYB−1に向けられているので、その程度において、分析されるべき試料内の他の構造、特に細胞の他の構造に結合することはなく、作用剤の好適な標識による前記作用剤の局在化及びYB−1に対する特異的な結合によるYB−1の局在化の双方を、相応に検出でき、評価することができる。作用剤を標識する方法は当業者に既知である。試料の細胞が調節解除されたYB−1を含有しているかどうか、含有していれば、どれくらいの細胞がそれを含有しているのかを確定するために、同じ技法を使用してもよい。調節解除されていないYB−1に比べて、調節解除されたYB−1も過剰発現を示すので、分析された細胞でYB−1が調節解除されているかどうかを決定するために、参照試料と比べたYB−1の相対発現を使用してもよい。
本明細書に記述されているウイルスが、それらが本発明のウイルスであっても、又はそれらが本発明に従って用いられるウイルスであっても、疾病、好ましくは腫瘍疾病、より好ましくは腫瘍細胞の少なくとも一部が複合耐性を示す、特にYB1が調節解除されている多剤耐性を示す腫瘍疾病に関連しても用いられることは、本発明の範囲内である。これは、YB1が好ましくは細胞周期と無関係に核の中に存在する細胞及び疾病を参照する範囲で、細胞及び腫瘍に関連して本明細書に記述されるいずれの他の態様にも当てはまる。