しかしながら、特許文献1の構成では、エンジンが暖機されるのを待ってからエンジンの廃熱を利用して自動変速機が暖機されるので、即効性が低い問題があった。特許文献2及び特許文献3の構成では、バイパス配管に蓄熱タンクが配設されるため、複数の切替弁を要する等、構造が複雑である。また、特許文献2の構成では、蓄熱した潜熱蓄熱材が低温環境で放置されると放熱してしまい、暖機促進に寄与しない場合がある。一方、特許文献3記載の構成では、ヒータの作動に外部エネルギを用いるため、暖機促進効果が相殺されて燃費向上に寄与しない場合がある。
本発明は、上記事実を考慮して、簡単な構造で、作動する作動流体の温度変動幅を小さくすることができる変速装置を得ることが目的である。
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る変速装置は、作動流体が循環する循環経路における前記作動流体が常に流動する部分に、前記作動流体との熱交換によって相転移を生じ得る潜熱蓄熱材を含んで構成された蓄熱体が設けられている。
請求項1記載の変速装置では、その作動状態においては、循環経路を常に循環する(所定の機能を果たすように作動する)作動流体は、該循環経路に設けられた蓄熱体と常に熱交換を行う。これにより、作動流体温度が蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の相転移温度よりも高い場合には、該蓄熱体の潜熱蓄熱材は、作動流体から相転移に伴う潜熱を吸熱することで作動流体の温度を低下させる。また、作動流体温度が蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の相転移温度よりも低い場合には、上記の如く吸熱した潜熱蓄熱材からの相転移に伴う潜熱の放熱によって作動流体の温度を上昇させることができる。
このように、請求項1記載の変速装置では、簡単な構造で、作動する作動流体の温度変動幅を小さくすることができる。なお、蓄熱体は、潜熱蓄熱材のみで構成されても良く、潜熱蓄熱材を封入する容器等を含んで構成されても良い。
請求項2記載の発明に係る変速装置は、請求項1記載の変速装置において、前記蓄熱体は、前記蓄熱体は、融点が−30℃以上で200℃以下の範囲に存在する潜熱蓄熱材を含んで構成されている。
請求項2記載の変速装置では、作動流体の動作環境として想定される温度範囲(−30℃〜200℃)内に融点が存在する潜熱蓄熱材を含んで蓄熱体が構成されているため、潜熱蓄熱材の吸放熱により作動流体の温度変動幅を小さくする効果を確実に得ることができる。
請求項3記載の発明に係る変速装置は、請求項1又は請求項2記載の変速装置において、前記蓄熱体は、運転状態における前記作動流体の最低温度よりも融点が高い潜熱蓄熱材を含んで構成されている。
請求項3記載の変速装置では、始動後に、作動流体が運転状態における最低温度(例えば、70℃〜80℃の間の設定値)以上の温度まで昇温して、通常運転状態となる。蓄熱体の構成材料のうち、融点が上記最低温度を超える潜熱蓄熱材は、通常運転状態において、その温度が融点を挟んで上下し得る。このため、この潜熱蓄熱材は、その温度がその融点を越えて上昇すると、融解(液化)して作動流体から融解熱を吸熱(蓄熱)し、その温度が融点を下回ると凝固(固化)して凝固熱を発熱(放熱)する。
これにより、本変速装置では、蓄熱体の構成材料のうち融点が運転状態における最低温度を超える潜熱蓄熱材液相−固相間の相転移によって、通常運転状態における作動流体の温度変動幅を小さくすることができる。
請求項4記載の発明に係る変速装置は、請求項3記載の変速装置において、前記蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の過冷却を抑制するための過冷却抑制手段を備えた。
請求項4記載の変速装置では、過冷却抑制手段によって蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の過冷却が抑制されるため、液相から固相への相転移が確実に成され、通常運転状態における作動流体の温度変動幅を確実に小さくすることができる。なお、過冷却抑制手段としては、例えば、過冷却防止剤の添加、容器や隔壁等の表面へのバリや突起の設置等を採用することができる。
請求項5記載の発明に係る変速装置は、請求項1又は請求項2記載の変速装置において、前記蓄熱体は、運転状態における前記作動流体の最低温度よりも融点が低く過冷却を生じ易い構成とされた潜熱蓄熱材を含んで構成され、前記潜熱蓄熱材の過冷却状態を解除するための過冷却解除手段をさらに備えた。
請求項5記載の変速装置では、始動後に、作動流体が運転状態における最低温度(例えば、70℃〜80℃の間の設定値)以上の温度まで昇温して、通常運転状態となる。この状態で蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材は、常に融解(液化)して吸熱(蓄熱)状態となる。変速装置の動作終了後、作動流体温度が低下した場合、上記潜熱蓄熱材は、凝固(固化)せず、過冷却状態で降温する。すなわち、この材料は、過冷却状態で潜熱を蓄熱した状態に保持される。そして、変速装置の再始動時に過冷却解除手段を作動すると、上記潜熱蓄熱材は、凝固して凝固熱を放熱し、この熱によって作動流体が加熱される。
これにより、本変速装置では、蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の過冷却状態(液相)から固相への相転移によって、始動後の作動流体を昇温することができる。したがって、変速装置作動時の作動流体の温度変動幅の下限を高くし、また、始動直後に過冷却解除手段を作動することで暖機促進を図ることができる。
なお、過冷却を生じ易い構成として、例えば、蓄熱体の構成材料自体の選択の他、容器や隔壁等の表面粗度を低くした構成や滑らかな内面形状を有する構成等を採用することができる。また、過冷却解除手段としては、例えば、圧力や変形の付加、通電等の蓄熱材に対する刺激付与手段を採用することができる。
請求項6記載の発明に係る変速装置は、請求項1又は請求項2記載の変速装置において、前記蓄熱体は、運転状態における前記作動流体の最低温度よりも融点が高い第1の潜熱蓄熱材と、運転状態における前記作動流体の最低温度よりも融点が低く過冷却を生じ易い構成とされた第2の潜熱蓄熱材とを含み、前記第1の潜熱蓄熱材の過冷却を抑制するための過冷却抑制手段と、前記第2の潜熱蓄熱材の過冷却を解除するための過冷却解除手段と、をさらに備えた。
請求項6記載の変速装置では、始動後に、作動流体が運転状態における最低温度(例えば、70℃〜80℃の間の設定値)以上の温度まで昇温して、通常運転状態となる。蓄熱体の構成材料のうち、融点が上記最低温度を超える第1の潜熱蓄熱材は、通常運転状態において、その温度が融点を挟んで上下し得る。このため、第1の潜熱蓄熱材は、その温度がその融点を越えて上昇すると、融解(液化)して作動流体から融解熱を吸熱(蓄熱)し、その温度が融点を下回ると凝固(固化)して凝固熱を発熱(放熱)する。
これにより、本変速装置では、蓄熱体が含む第1の潜熱蓄熱材の液相−固相間の相転移によって、通常運転状態における作動流体の温度変動幅を小さくすることができる。
一方、蓄熱体の構成材料のうち融点が上記最低温度よりも低い第2の潜熱蓄熱材は、通常運転状態においては、常に融解(液化)して吸熱(蓄熱)状態となる。変速装置の動作終了後、作動流体温度が低下した場合、第2の潜熱蓄熱材は、凝固(固化)せず、過冷却状態で降温する。すなわち、第2の潜熱蓄熱材は、過冷却状態で潜熱を蓄熱した状態に保持される。そして、変速装置の再始動時に過冷却解除手段を作動すると、第2の潜熱蓄熱材は、凝固して凝固熱を放熱し、この熱によって作動流体が加熱される。
これにより、本変速装置では、第2の潜熱蓄熱材の過冷却状態(液相)から固相への相転移によって、始動後の作動流体を昇温することができる。したがって、変速装置作動時の作動流体の温度変動幅の下限を高くし、また、始動直後に過冷却解除手段を作動することで暖機促進を図ることができる。
なお、過冷却を生じ易い構成として、例えば、蓄熱体の構成材料自体の選択の他、容器や隔壁等の表面粗度を低くした構成や滑らかな内面形状を有する構成等を採用することができる。また、過冷却解除手段としては、例えば、圧力や変形の付加、通電等の蓄熱材に対する刺激付与手段を採用することができる。さらに、過冷却抑制手段としては、例えば、過冷却防止剤の添加、容器や隔壁等の表面へのバリや突起の設置等を採用することができる。
請求項7記載の発明に係る変速装置は、請求項5又は請求項6記載の変速装置において、車両の始動時に前記過冷却解除手段を作動する制御手段をさらに備えた。
請求項7記載の変速装置では、制御手段は、例えばエンジンの始動信号等を受けて、車両の始動時に過冷却解除手段を作動する。このため、車両の始動時には自動的に、蓄熱体が過冷却状態で蓄えていた凝固熱を放熱して作動流体を加熱することができる。
請求項8記載の発明に係る変速装置は、請求項1又は請求項2記載の変速装置において、前記蓄熱体は、少なくとも一部の潜熱蓄熱材が過冷却を生じ易い構成とされており、前記蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の過冷却状態を解除するための過冷却解除手段をさらに備えた。
請求項8記載の変速装置では、始動後に、作動流体が運転状態における最低温度(例えば、70℃〜80℃の間の設定値)以上の温度まで昇温して、通常運転状態となる。そして、変速装置の動作終了後、作動流体温度が低下した場合、蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材は、凝固(固化)せず、過冷却状態で降温する。すなわち、この材料は、過冷却状態で潜熱を蓄熱した状態に保持される。そして、変速装置の再始動時に過冷却解除手段を作動すると、上記潜熱蓄熱材は、凝固して凝固熱を放熱し、この熱によって作動流体が加熱される。
これにより、本変速装置では、蓄熱体の構成材料のうち融点が運転状態における最低温度を超える潜熱蓄熱材の過冷却状態(液相)から固相への相転移によって、始動後の作動流体を昇温することができる。したがって、変速装置作動時の作動流体の温度変動幅の下限を高くし、また、始動直後に過冷却解除手段を作動することで暖機促進を図ることができる。
なお、過冷却を生じ易い構成として、例えば、蓄熱体の構成材料自体の選択の他、容器や隔壁等の表面粗度を低くした構成や滑らかな内面形状を有する構成等を採用することができる。また、過冷却解除手段としては、例えば、圧力や変形の付加、通電等の蓄熱材に対する刺激付与手段を採用することができる。
請求項9記載の発明に係る変速装置は、請求項8記載の変速装置において、前記蓄熱体は、運転状態における前記作動流体の最低温度よりも融点が高く過冷却を生じ易い潜熱蓄熱材を含んで構成されており、運転停止推定手段からの信号に基づいて車両の運転が継続されると判断した場合には前記過冷却解除手段を作動し、前記運転停止推定手段からの信号に基づいて車両の運転が停止されると判断した場合には前記過冷却解除手段の作動を禁止し、車両の運転停止後の始動時に前記過冷却解除手段を作動する制御手段をさらに備えた。
請求項9記載の変速装置では、始動後に、作動流体が運転状態における最低温度(例えば、70℃〜80℃の間の設定値)以上の温度まで昇温して、通常運転状態となる。蓄熱体の構成材料のうち、融点が上記最低温度を超える潜熱蓄熱材は、通常運転状態において、その温度が融点を挟んで上下し得る。このため、この潜熱蓄熱材は、その温度がその融点を越えて上昇すると、融解(液化)して作動流体から融解熱を吸熱(蓄熱)する。そして、制御手段が運転停止推定手段からの信号に基づいて車両の運転が継続されると判断した(している)場合には、少なくとも上記蓄熱体の構成材料の温度が融点を下回ると過冷却解除手段を作動するので、融点を下回った蓄熱体の構成材料は、過冷却状態に至ることなく凝固(固化)して凝固熱を発熱(放熱)する。
これにより、本変速装置では、蓄熱体の構成材料のうち融点が運転状態における最低温度を超える潜熱蓄熱材の液相−固相間の相転移によって、通常運転状態における作動流体の温度変動幅を小さくすることができる。
一方、制御手段は、運転停止推定手段からの信号に基づいて車両の運転が停止される (している)と判断(推定)した場合には、過冷却解除手段の作動を禁止するので、上記した潜熱蓄熱材は、変速装置(車両)の動作終了後、作動流体温度の低下に伴って降温しても凝固(固化)せず、過冷却状態となる。すなわち、この潜熱蓄熱材は、過冷却状態で潜熱を蓄熱した状態に保持される。そして、変速装置の再始動時に制御手段が過冷却解除手段を作動すると、この材料は、凝固して凝固熱を放熱し、この熱によって作動流体が加熱される。
これにより、本変速装置では、蓄熱体の構成材料の過冷却状態(液相)から固相への相転移によって、始動後の作動流体を昇温することができる。したがって、変速装置作動時の作動流体の温度変動幅の下限を高くし、また、始動直後に過冷却解除手段を作動することで暖機促進を図ることができる。
以上説明したように本発明に係る変速装置は、簡単な構造で、作動する作動流体の温度変動幅を小さくすることができるという優れた効果を有する。
本発明の第1の実施形態に係る変速装置としての自動変速装置10について、図1乃至図8に基づいて説明する。
図1には、エンジン12に連結された自動変速装置10が模式的な側面図にて示されている。自動変速装置10は、エンジン12の出力を変速して、エンジン12と共に適用された自動車の車輪側に伝える装置とされている。図1に示される如く、自動変速装置10は、トランスミッションケース14と、トランスミッションケース14の下部に設けられたオイルパン16とを含んで構成されている。トランスミッションケース14内には、図示しないトルクコンバータや変速機構(遊星歯車列等)が配設されている。
また、トランスミッションケース14内には、上記したトルクコンバータや変速機構において作動油、潤滑油、冷媒、又は熱媒として機能する作動流体としてのオートマチックトランスミッションフルード(以下、ATFという)の圧力調整を行うための制御機構18が配設されている。図2に示される如く、制御機構18は、ATFが所定機能を果たすための作動流路を形成するバルブボディ20と、バルブボディ20に形成された作動流路の各部の開度を調整するための複数のコントロールバルブ22とを含んで構成でされている。複数のコントロールバルブ22の少なくとも一部は、その作動流路を開放した場合にATFをオイルパン16に流出させるようになっている。
さらに、図1に示される如く、自動変速装置10は、オイルパン16内のATFを制御機構18に圧送するために取油口24によりATFを吸引する図示しない油圧ポンプを備えている。これにより、自動変速装置10では、油圧ポンプの作動によって、オイルパン16内のATFが制御機構18(バルブボディ20)を経由して各部に供給され、これらATFは、所定経路の通過後にオイルパン16に戻されるようになっている。したがって、オイルパン16は、自動変速装置10における循環経路としてのATF循環経路の一部を構成している。なお、図1に示す上向きの矢印Fは、油圧ポンプによって制御機構18に供給されるATFの流れを示しており、下向きの矢印Rは、制御機構18を構成する複数のコントロールバルブ22からオイルパン16に戻されるATFの流れを示している。
図1及び図2に示される如く、自動変速装置10は、蓄熱体としての蓄熱材熱交換器26を備えている。この実施形態では、蓄熱材熱交換器26は、オイルパン16内にATFとの直接的な熱交換(接触)可能に配設されている。蓄熱材熱交換器26は、例えば、液状の潜熱蓄熱材が充填された1つ若しくは複数の容器、又は潜熱蓄熱材を封入した多数のマイクロカプセル(を内蔵したもの)として構成されている。
蓄熱材熱交換器26は、自動車用として想定されるATFの温度範囲(略−30℃〜200℃)内に融点Tmを有する1種類の潜熱蓄熱材が、ATFと混合しないように上記した容器等に充填乃至封入されて構成されている。すなわち、蓄熱材熱交換器26は、その潜熱蓄熱材の液層−固相間の相転移に伴って蓄熱、放熱を行う構成とされている。具体的には、図5に黒塗りの線図にて示される如く、蓄熱材熱交換器26を構成する潜熱蓄熱材は、固相において加熱されると融点Tmまで昇温され、さらに加熱されると昇温されることなく潜熱(融解熱)を吸熱し、完全に液相に相転移して後さらに加熱されると昇温して顕熱を蓄える。一方、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材は、図5に白抜きの矢印にて示される如く、液相において冷却されると融点Tmまで降温され(顕熱を放熱し)、さらに冷却されると降温されることなく潜熱(凝固熱)を発熱(放熱)し、完全に固相に相転移して後さらに冷却されると降温して顕熱を放熱する。
このような蓄熱材熱交換器26を構成する潜熱蓄熱材としては、例えば、酢酸ナトリウム3水和塩、チオ硫酸ナトリウム5水和塩、水酸化バリウム8水和物、エリストール等の無機材料、有機材料等をベースに、融点調整剤、相分離防止剤、過冷却抑制手段としての過冷却防止剤等を混合(添加)したものが用いられる。
融点調整剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、尿素などを用いることができ、相分離防止剤としては、メチルセルロース、デンプン、アンルギン酸塩、ポリアクリル酸ソーダ、アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、アタパルガイド型粘土、二酸化ケイ素などを用いることができる。さらに、過冷却防止剤としては、蟻酸ナトリウム、酢酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレングリコール、食塩、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、酢酸リチウム、コハク酸、しゅう酸、マレイン酸、クエン酸ナトリウム塩、りん酸水素2ナトリウム、ナフタリンなどを用いることができる。
そして、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材は、過冷却防止剤の混合によって過冷却が生じ難い構成とされている。なお、過冷却抑制手段として、過冷却防止剤の混合に代えて、又は過冷却防止剤の混合に加えて、機械的な過冷却抑制構造を用いることができる。この機械的な過冷却抑制構造として、例えば、潜熱蓄熱材を充填又は封入する容器等の内表面に傷やバリを設けて粗度を粗くしたり、内表面から鋭利な突起を突出させたり、挟路を設定したりする構造を採ることができる(何れも図示省略)。
また、この実施形態では、蓄熱材熱交換器26を構成する潜熱蓄熱材は、融点Tmが、自動変速装置10の通常運転状態におけるATFの最低(下限)温度Toよりも高い構成とされている。この実施形態においては、通常運転状態におけるATFの最低温度Toは、70℃〜80℃の範囲内の所定温度として設定されており、蓄熱材熱交換器26の融点Tmは、90℃〜100℃に設定されている。この融点Tmの設定温度は、通常運転におけるATFの想定最低温度Toと想定最高温度(例えば120℃)との間の温度とされ、上下限に近づきすぎないように略中間温度として設定されている。このような融点Tmを有する潜熱蓄熱材は、例えば、潜熱蓄熱材のベースとしてのエリストールに融点調整剤として尿素を混合して得ることができる。
なお、ATFの通常運転状態における最低温度Toは、ATFの粘度が所定粘度以下になる温度として設定されている。ATFの温度−粘度特性を示す図8を参照して補足すると、ATFは、高温側では粘度の温度依存性は低く、低温側では粘度の温度依存性が高い。したがって、自動変速装置10は、ATFの運転状態における最低温度Toを該ATFの温度依存性が小さくなる(単位温度変化当たりの粘度変化が所定値以下になる)温度として設定することで、自動変速装置10の通常運転中におけるATFの粘度が低くかつ略一定の値に安定する構成とされている。
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
上記構成の自動変速装置10では、適用された自動車の走行に先立ってエンジン12が始動されると、ATFが制御機構18、オイルパン16を含む作動流路を循環する。そして、通常運転状態になると、ATFは、その温度が最低温度Toよりも高い範囲で温度変化を生じる。
この自動変速装置10では、図4に黒塗りの矢印にて示される如く、ATFの温度上昇に伴って蓄熱材熱交換器26を構成する固相の潜熱蓄熱材が昇温される。そして、蓄熱材熱交換器26の温度が融点Tmに達すると、蓄熱材熱交換器26を構成する潜熱蓄熱材が融解される。このとき、図3(A)に示される如く、蓄熱材熱交換器26は、オイルパン16内のATFとの熱交換によって、融解に要する潜熱(融解熱)をATFから吸熱する(矢印A参照)。
これにより、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材が完全に液化するまでは、温度Tmで略一定である蓄熱材熱交換器26によってATFは冷却され(熱が奪われ)、熱負荷が増している状況下でATFの温度を蓄熱材熱交換器26の融点Tm付近の温度に保つことができる。なお、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材が完全に液化した状態では、蓄熱材熱交換器26の融解熱相当の熱が該蓄熱材熱交換器26に蓄えられている。
一方、図4に白抜きの矢印にて示される如く、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材が液相の状態から自動変速装置10の負荷が低下してATFが温度が低下すると、このATFの降温に伴って蓄熱材熱交換器26を構成する液相の潜熱蓄熱材が降温される(蓄熱材熱交換器26の顕熱が消費される)。そして、蓄熱材熱交換器26の温度が融点Tmに達すると、蓄熱材熱交換器26を構成する潜熱蓄熱材が凝固される。このとき、図3(B)に示される如く、蓄熱材熱交換器26は、オイルパン16内のATFとの熱交換によって、凝固に伴い生じる潜熱(凝固熱)をATFに放熱する(矢印B参照)。
そして、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材が完全に固化するまでは、蓄熱材熱交換器26の温度はTmで略一定であるのに対しATFは加熱され(熱が付与され)、熱負荷が低下する状況下でATFの温度を蓄熱材熱交換器26の融点Tm付近の温度に保つことができる。なお、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材が完全に固化すると、蓄熱材熱交換器26の潜熱としての蓄熱量は全て消費される。
自動変速装置10では、通常運転時には、負荷変動に応じて以上の動作を繰り返す。これにより、自動変速装置10では、通常運転状態におけるATFの温度変動幅が小さい。図6には、ATFの温度の時間変化を表す線図が示されており、図7には、自動変速装置10すなわちATFの熱負荷(運転負荷)に対するATFの温度変動を表す線図が示されている。これらの図に示される如く、自動変速装置10におけるATFの温度変動(実線参照)は、蓄熱材熱交換器26を備えない比較例におけるATFの温度変動(破線参照)と比較して、変動範囲が上下限ともに狭まることが確かめられた。
このように、本発明の第1の実施形態に係る自動変速装置10では、通常運転時におけるATFの温度変動幅を小さくすることができた。
ここで、ATFの温度変動幅の縮小例を示す。例えば、エンジン12の出力が100kWの自動車では、自動変速装置10の効率を95%とすれば、残りの5%が損失となり、自動変速装置10には、100kWの5%である5kWの熱損失に対応する5kWの冷却能力が要求される。一方、上記の通りエリストールに尿素を混合して融点Tmを100℃とした潜熱蓄熱材より成る蓄熱材熱交換器26は、融解(凝固)熱量が330[kJ/kg]となる。1kgの蓄熱材熱交換器26をオイルパン16内に配設した構成の場合、蓄熱材熱交換器26は、融点Tmよりも高温(高負荷)のATFから330kJの熱を吸熱することができる。自動変速装置10の最大負荷時の最大負荷の継続時間を10分(min)と仮定すると、蓄熱材熱交換器26は、最大負荷運転時に、0.55kW(=330kJ/(10min×60))だけATFから吸熱する。したがって、蓄熱材熱交換器26は、自動変速装置10に要求される冷却能力5kWのうちの0.55kWすなわち11%(=0.55kW/5kW×100)分の冷却能力を負担する。ここで、最大負荷(100kW)時のATF温度を120℃、最低負荷時のATF温度を80℃とし、最大負荷時と最低負荷時との温度差(40℃)が要求冷却能力(5kW)に相当する(最低負荷時の損失が0kWである)と仮定すると、最大負荷時の蓄熱材熱交換器26の吸熱によるATF温度低減効果は、略5℃(≒40℃×11%/100)となる。一方、この吸熱分を最低負荷時の温度上昇に利用することができるので、蓄熱材熱交換器26の放熱による最低負荷時のATF温度上昇効果は略5℃となり、計略10℃の温度平準化効果が得られる。
そして、所謂ATである自動変速装置10では、変速は、ATFの油圧力を利用した複数のクラッチ、ブレーキ群によって複数の遊星歯車列を自動的に繋ぎ替え、減速比を替えることで行われる。クラッチ、ブレーキ群による繋ぎ替えは、複数の油圧コントロールバルブ22群の開度を制御して圧力調整を行うことで行われる。一方、ATFは、その粘度が高い温度依存性を有することから、温度変動に応じて粘度が異なる場合、同じ開度でもコントロールバルブを流動する流量が異なり、このようなATFの温度変動に伴う粘度の変動を許容し得るコントロールバルブ22群の調整、適合には莫大な労力を要するが、自動変速装置10では、上記の如く通常運転時のATFの温度変動の変動幅を著しく小さく抑えることができるので、換言すれば、設計に考慮が必要なATFの粘度変化の許容範囲を小さくすることができるので、複数のコントロールバルブ22の設計、開発(調整や適合等)を容易に行うことが可能となる。
また、自動変速装置10では、高負荷時の熱を蓄熱材熱交換器26に吸収させるため、冷却系(油圧ポンプ、ファン、接続されている場合はラジエータ等)の運転負荷を低減することができ、適用された自動車の燃費向上に寄与する。
さらに、自動変速装置10では、ATFが常時流通するオイルパン16に蓄熱材熱交換器26を配設しているため、例えばバイパス流路等にATFの流路を切り替えることなく該ATFの温度変動幅を小さくすることができる。
次に、本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部分等については、上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付して説明を省略し、また図示を省略する場合がある。
(第2の実施形態)
図9には、本発明の第2の実施形態に係る変速装置としての自動変速装置30が図1に対応する模式図にて示されている。この図に示される如く、自動変速装置30は、過冷却防止剤が混合された潜熱蓄熱材を用いた蓄熱材熱交換器26に代えて、蓄熱材熱交換器32を備える点で、第1の実施形態に係る自動変速装置10とは異なる。
蓄熱材熱交換器32は、その蓄熱材のベース材料として過冷却を生じ易い構成のもの(例えば、酢酸ナトリウム3水和塩、チオ硫酸ナトリウム5水和塩)が選択されており、かつ過冷却防止剤は混合されていない。これにより、蓄熱材熱交換器32を構成する潜熱蓄熱材は、過冷却(融点を下回る温度において液相を維持する状態)を生じ易い(凝固し難い)構成とされている。
さらに、この実施形態では、上記構成の潜熱蓄熱材を、ポリプロピレン等の薄い樹脂製容器又はラミネートフィルム容器中に封入することで、より過冷却を生じ易い(過冷却状態が維持されやすい)構成とされている。なお、上記した過冷却抑制手段とは逆に、容器等の内面を滑らかにしたり突起等のない構成としたりすることで、樹脂製容器又はラミネートフィルム容器を用いることなく、過冷却を生じ易い構成を実現することができる。
また、蓄熱材熱交換器32を構成する潜熱蓄熱材の融点Tmは、通常運転状態におけるATFの最低温度Toよりも低い値として設定されている。この実施形態では、融点Tmは、58℃に設定されている。このような構成の潜熱蓄熱材は、例えば、酢酸ナトリウム3水和塩をベースに融点調整剤を混合して構成することができる。
さらに、自動変速装置30は、作動することで蓄熱材熱交換器32を構成する潜熱蓄熱材の過冷却状態を解除するための、過冷却解除手段(凝固開始手段)としての破過冷却装置34を備えている。破過冷却装置34は、例えば、蓄熱材熱交換器32に対して圧力、変形、振動等の外力や変位糠を加える機械的手段や、蓄熱材熱交換器32に対して電流等を加える電気的手段にて構成することができる。
またさらに、自動変速装置30は、破過冷却装置34の作動を制御するための制御手段としての蓄熱ECU36を備えている。蓄熱ECU36は、自動変速装置30(が適用された自動車)の運転中には破過冷却装置34を作動せず、自動変速装置30(エンジン12)の始動時に破過冷却装置34を作動するようになっている。この蓄熱ECU36は、例えばエンジン12のスターター信号やIGスイッチのON信号などに基づいて、自動変速装置30の始動を検知(判断)するようになっている。
上記構成の自動変速装置30では、蓄熱材熱交換器32の融点Tmが通常運転時におけるATFの最低温度Toよりも低いため、図10に示される如く、通常運転状態では、蓄熱材熱交換器32は常に液相すなわち融解熱の蓄熱状態を維持している。そして、蓄熱材熱交換器32の潜熱蓄熱材は、自動変速装置30の運転が終了するとATFと共に降温するが、過冷却を生じやすいので、自らの温度が融点Tmを下回っても(図10の白抜き矢印参照)、液相すなわち融解熱の蓄熱状態を維持する。
蓄熱ECU36は、自動車の始動を検知すると、破過冷却装置34を作動する(図10の「破過冷却」点参照)。すると、図10に白抜き矢印にて示される如く、蓄熱材熱交換器32の潜熱蓄熱材は、直ちに凝固してATFに対し凝固熱(通常運転時にATFとの熱交換によって蓄熱した熱量)を放熱する。これにより、ATFが加熱されて昇温され、自動変速装置30の暖機が促進される。
このように、蓄熱材熱交換器32を過冷却を生じ易い構成とすることで、自動変速装置30(が適用された自動車)の長期停止状態でも凝固熱を蓄熱材熱交換器32に蓄えておくことができ、この凝固熱を始動時の暖機促進に用いることができる。換言すれば、自動変速装置30では、蓄熱材熱交換器32の凝固熱の放出によってATFが短時間で昇温されるので、図11に示される如く、蓄熱材熱交換器32を備えない比較例と比較して、ATFの作動温度範囲の下限を引き上げることができる。
そして、始動後の短時間での暖機は、ATFの粘度に依存する摩擦損失、攪拌損失の低減等によって燃費の向上に寄与することが知られており、自動変速装置30を備えた自動車は燃費が向上する。また、自動変速装置30の暖機にエンジン12の廃熱を用いないため、自動変速装置30をエンジン12とは独立して短時間で暖機できるのみならず、エンジン12の暖機促進にも寄与する。
ここで、上記した融点Tmが58℃の蓄熱材熱交換器32では、その凝固熱(融解熱)が略260[kJ/kg]であり、この蓄熱材熱交換器32を1kg用いた場合、蓄熱材熱交換器32からATFに260kJの熱が付与される。自動変速装置30の質量を90kg、自動変速装置30を構成する鉄(鋼)の比熱を0.5[kJ/kg・K]とすると、該自動変速装置30を1℃昇温させるのに必要なエネルギは、45[kJ/K]であるので、上記した260[kJ]の受熱によって自動変速装置30を略6℃昇温させることができる。例えば、エンジン12、自動変速装置30の双方の温度を1℃上昇させた場合に略1%の燃費向上効果があることが知られており、自動変速装置30単体とはいえ6℃の昇温は、自動変速装置30が適用された自動車の燃費を大幅に改善することが判る。
また、自動変速装置30においても、高負荷時の熱を蓄熱材熱交換器32に吸収させるため、冷却系(油圧ポンプ、ファン、接続されている場合はラジエータ等)の運転負荷を低減することができ、適用された自動車の燃費向上に寄与する。
さらに、自動変速装置30では、ATFが常時流通するオイルパン16に蓄熱材熱交換器32を配設しているため、例えばバイパス流路等にATFの流路を切り替えることなく該ATFの始動直後の昇温を果たすことができる。
(第3の実施形態)
図12には、本発明の第3の実施形態に係る変速装置としての自動変速装置40が図1に対応する模式図にて示されている。この図に示される如く、自動変速装置40は、単一の潜熱蓄熱材にて構成された蓄熱材熱交換器26に代えて、蓄熱材熱交換器42を備える点で、第1の実施形態に係る自動変速装置10とは異なる。
蓄熱材熱交換器42は、2種類の潜熱蓄熱材で構成されている。第1の潜熱蓄熱材は、融点Tm1が通常運転状態におけるATFの最低温度Toよりも高い設定とされており、第2の潜熱蓄熱材は、その融点Tm2が上記最低温度Toよりも低い設定とされている。これら2種類の潜熱蓄熱材は、混合されても良いが、この実施形態では、樹脂製容器内で隔壁等によって仕切られるか、マイクロカプセルやラミネートフィルム容器などに独立して封入されて構成されている。
そして、融点がTm1である第1の潜熱蓄熱材は、過冷却防止剤が混合されて過冷却が生じ難い構成とされており、さらに蓄熱材熱交換器26と同様に上記隔壁や容器(カプセル)内面に傷や突起を設けて構造的にも過冷却が生じ難い構成とされている。一方、融点がTm2である第2の潜熱蓄熱材は、過冷却が生じ易いベース材料を選択すると共に過冷却防止剤を混合しないことで過冷却が生じ易い構成とされており、かつ蓄熱材熱交換器32と同様にポリプロピレン等の薄い樹脂製容器又はラミネートフィルム容器中に封入することで、より過冷却を生じ易い(過冷却状態が維持されやすい)構成とされている。
この実施形態では、融点がTm1である第1の潜熱蓄熱材として、蓄熱材熱交換器26を構成する潜熱蓄熱材(例えば、エリストールに尿素、過冷却防止剤を混合したもの)を用いると共に過冷却防止構造を採用し、融点がTm2である第2の潜熱蓄熱材として、蓄熱材熱交換器32を構成する潜熱蓄熱材(例えば、酢酸ナトリウム3水和塩に融点調整剤を混合したもの)を用いると共に過冷却促進構造を採用している。
自動変速装置40の他の構成は、自動変速装置30の対応する構成と同じである。
上記構成の自動変速装置40では、適用された自動車の走行に先立ってエンジン12が始動されると、ATFが制御機構18、オイルパン16を含む作動流路を循環する。そして、通常運転状態になると、ATFは、その温度が最低温度Toよりも高い範囲で温度変化を生じる。
この自動変速装置40では、図13に黒塗りの矢印にて示される如く、ATFの温度上昇に伴って蓄熱材熱交換器42を構成する2種類の潜熱蓄熱材が昇温される。そして、蓄熱材熱交換器42の温度が融点Tm1に達すると、蓄熱材熱交換器42を構成する第1の潜熱蓄熱材が融解される。このとき蓄熱材熱交換器42は、オイルパン16内のATFとの熱交換によって、第1の潜熱蓄熱材の融解に要する潜熱(融解熱)をATFから吸熱する。
これにより、蓄熱材熱交換器42の第1の潜熱蓄熱材が完全に液化するまでは、温度Tm1で略一定である蓄熱材熱交換器42によってATFは冷却され(熱が奪われ)、熱負荷が増している状況下でATFの温度を蓄熱材熱交換器42の第1の融点Tm1付近の温度に保つことができる。なお、蓄熱材熱交換器42の潜熱蓄熱材が完全に液化した状態では、蓄熱材熱交換器42の融解熱相当の熱が該蓄熱材熱交換器26に蓄えられている。
一方、図13に白抜きの矢印にて示される如く、蓄熱材熱交換器42の潜熱蓄熱材が液相の状態からATFの温度が低下すると、このATFの降温に伴って蓄熱材熱交換器42を構成する液相の潜熱蓄熱材が降温される。そして、蓄熱材熱交換器42の温度が融点Tm1に達すると、蓄熱材熱交換器42を構成する第1の潜熱蓄熱材が凝固される。このとき、蓄熱材熱交換器42は、オイルパン16内のATFとの熱交換によって、凝固に伴い生じる潜熱(凝固熱)をATFに放熱する。
そして、蓄熱材熱交換器42の潜熱蓄熱材が完全に固化するまでは、蓄熱材熱交換器42の温度はTm1で略一定であるのに対しATFは加熱され(熱が付与され)、熱負荷が低下する状況下でATFの温度を蓄熱材熱交換器42の第1の融点Tm1付近の温度に保つことができる。なお、蓄熱材熱交換器42の潜熱蓄熱材が完全に固化すると、蓄熱材熱交換器42の潜熱としての蓄熱量は全て消費される。自動変速装置40では、通常運転時には、負荷変動に応じて以上の動作を繰り返す。
また、自動変速装置40では、融点がTm2である第2の潜熱蓄熱材は、図13に示される如く、通常運転状態では常に液相すなわち融解熱の蓄熱状態を維持している。この第2の潜熱蓄熱材は、自動変速装置40の運転が終了するとATFと共に降温するが、過冷却を生じやすいので、自らの温度がTm2を下回っても(図13の白抜き矢印参照)、液相すなわち融解熱の蓄熱状態を維持する。
蓄熱ECU36は、自動車の始動を検知すると、破過冷却装置34を作動する(図13の「破過冷却」点参照)。すると、図13に白抜き矢印にて示される如く、蓄熱材熱交換器32の潜熱蓄熱材は、直ちに凝固してATFに対し凝固熱(通常運転時にATFとの熱交換によって蓄熱した熱量)を放熱する。これにより、ATFが加熱されて昇温され、自動変速装置10の暖機が促進される。
以上説明したように、自動変速装置40では、自動変速装置10と同様に通常運転時のATFの温度変動幅が小さく、設計に考慮が必要なATFの粘度変化の許容範囲を小さくすることができるので、複数のコントロールバルブ22の設計、開発(調整や適合等)を容易に行うことが可能となる。また、自動変速装置10では、高負荷運転時の熱を蓄熱材熱交換器42に吸収させるため、冷却系(油圧ポンプ、ファン、接続されている場合はラジエータ等)の運転負荷を低減することができ、適用された自動車の燃費向上に寄与する。
またここで、自動変速装置40では、蓄熱材熱交換器42に過冷却を生じ易い潜熱蓄熱材を含ませることで、自動変速装置40(が適用された自動車)の長期停止状態でも凝固熱を蓄熱材熱交換器42に蓄えておくことができ、この凝固熱を始動時の暖機促進に用いることができる。これにより、自動変速装置30と同様に、自動変速装置40を備えた自動車は燃費が向上する。
さらに、自動変速装置40では、ATFが常時流通するオイルパン16に蓄熱材熱交換器42を配設しているため、例えばバイパス流路等にATFの流路を切り替えることなく該ATFの温度変動幅を小さくすることができる。
(第4の実施形態)
図14には、本発明の第4の実施形態に係る変速装置としての自動変速装置50が図1に対応する模式図にて示されている。この図に示される如く、自動変速装置50は、融点TmがATFの通常運転状態での最低温度Toよりも高い設定とされると共に過冷却防止剤が混合された潜熱蓄熱材を用いた蓄熱材熱交換器26に代えて、蓄熱材熱交換器52を備える点で、第1の実施形態に係る自動変速装置10とは異なる。
蓄熱材熱交換器52は、過冷却を生じ易い1種類の潜熱蓄熱材にて構成されている。そして、蓄熱材熱交換器52は、その潜熱蓄熱材の融点TmがATFの通常運転状態での最低温度Toよりも高い点で、第2の実施形態に係る自動変速装置30の蓄熱材熱交換器32とは異なる。蓄熱材熱交換器52は、過冷却防止剤が混合されない点で蓄熱材熱交換器26を構成する潜熱蓄熱材とは異なり、この潜熱蓄熱材を過冷却が生じやすいように例えばポリプロピレン等の薄い樹脂製容器又はラミネートフィルム容器中に封入することで、より過冷却を生じ易い(過冷却状態が維持されやすい)構成とされている。
また、自動変速装置50は、破過冷却装置34の作動を制御する蓄熱ECU54を備えている。蓄熱ECU54は、運転停止推定手段としてのカーナビゲーション装置56からの信号に基づいて、自動変速装置50が適用された自動車の運転状態が継続されるか、該自動車の運転が停止されるかを推定(判断)するようになっている。例えば、蓄熱ECU54は、カーナビゲーション装置56から、目的地までの距離が所定距離以上であることに対応する信号が入力された場合には、自動車の運転が継続されると推定し、カーナビゲーション装置56から、目的地までの距離が所定距離未満であること又は目的までの所要時間が所定時間未満であることに対応する信号が入力された場合には、自動車の運転が停止されると推定するようになっている。
上記構成の自動変速装置50では、適用された自動車の走行に先立ってエンジン12が始動されると、ATFが制御機構18、オイルパン16を含む作動流路を循環する。そして、通常運転状態になると、ATFは、その温度が最低温度Toよりも高い範囲で温度変化を生じる。先ず、蓄熱ECU54がカーナビゲーション装置56からの信号に基づいて、自動変速装置50が適用された自動車の運転が継続されると推定している場合について説明する。
この場合、自動変速装置50では、図15に黒塗りの矢印にて示される如く、ATFの温度上昇に伴って蓄熱材熱交換器52を構成する固相の潜熱蓄熱材が昇温される。そして、蓄熱材熱交換器52の温度が融点Tmに達すると、蓄熱材熱交換器52を構成する潜熱蓄熱材が融解される。このとき蓄熱材熱交換器52は、オイルパン16内のATFとの熱交換によって、潜熱蓄熱材の融解に要する潜熱(融解熱)をATFから吸熱する。
これにより、蓄熱材熱交換器52の第1の潜熱蓄熱材が完全に液化するまでは、温度Tmで略一定である蓄熱材熱交換器52によってATFは冷却され(熱が奪われ)、熱負荷が増している状況下でATFの温度を蓄熱材熱交換器52の融点Tm付近の温度に保つことができる。なお、蓄熱材熱交換器26の潜熱蓄熱材が完全に液化した状態では、蓄熱材熱交換器26の融解熱相当の熱が該蓄熱材熱交換器26に蓄えられている。
一方、図15に白抜きの矢印にて示される如く、蓄熱材熱交換器52の潜熱蓄熱材が液相の状態からATFの温度が低下すると、このATFの降温に伴って蓄熱材熱交換器52を構成する液相の潜熱蓄熱材が降温される。そして、蓄熱材熱交換器52の温度が融点Tmに達すると、蓄熱ECU54が破過冷却装置34を作動し、蓄熱材熱交換器52を構成する潜熱蓄熱材は過冷却状態に至ることなく(又は過冷却が解除されて)凝固される。このとき、蓄熱材熱交換器52は、オイルパン16内のATFとの熱交換によって、凝固に伴い生じる潜熱(凝固熱)をATFに放熱する。
そして、蓄熱材熱交換器52の潜熱蓄熱材が完全に固化するまでは、蓄熱材熱交換器52の温度はTmで略一定であるのに対しATFは加熱され(熱が付与され)、熱負荷が低下する状況下でATFの温度を蓄熱材熱交換器52の融点Tm付近の温度に保つことができる。なお、蓄熱材熱交換器52の潜熱蓄熱材が完全に固化すると、蓄熱材熱交換器52の潜熱としての蓄熱量は全て消費される。自動変速装置50では、通常運転時には、負荷変動に応じて以上の動作を繰り返す。
次いで、蓄熱ECU54がカーナビゲーション装置56からの信号に基づいて自動車の運転が停止されると推定した場合を説明する。この場合、自動変速装置50では、蓄熱ECU54が破過冷却装置34の作動を禁止しているため、蓄熱材熱交換器52の過冷却を生じやすい潜熱蓄熱材は、自動変速装置50の運転終了後にATFと共に降温して自らの温度がTm2を下回ると(図13の白抜き矢印参照)、凝固することなく液相すなわち融解熱の蓄熱状態を維持する。
そして、蓄熱ECU54は、自動車の始動を検知すると、破過冷却装置34を作動する(図15の「破過冷却」点参照)。すると、図15に白抜き矢印にて示される如く、蓄熱材熱交換器52の潜熱蓄熱材は、直ちに凝固してATFに対し凝固熱(通常運転時にATFとの熱交換によって蓄熱した熱量)を放熱する。これにより、ATFが加熱されて昇温され、自動変速装置10の暖機が促進される。
以上説明したように、自動変速装置50では、自動変速装置10と同様に通常運転時のATFの温度変動幅が小さく、設計に考慮が必要なATFの粘度変化の許容範囲を小さくすることができるので、複数のコントロールバルブ22の設計、開発(調整や適合等)を容易に行うことが可能となる。また、自動変速装置10では、高負荷運転時の熱を蓄熱材熱交換器52に吸収させるため、冷却系(油圧ポンプ、ファン、接続されている場合はラジエータ等)の運転負荷を低減することができ、適用された自動車の燃費向上に寄与する。
またここで、自動変速装置50では、蓄熱材熱交換器52に過冷却を生じ易い潜熱蓄熱材を含ませることで、自動変速装置50(が適用された自動車)の長期停止状態でも凝固熱を蓄熱材熱交換器52に蓄えておくことができ、この凝固熱を始動時の暖機促進に用いることができる。これにより、自動変速装置30、40と同様に、自動変速装置50を備えた自動車は燃費が向上する。特に、蓄熱材熱交換器52では、過冷却状態で凝固熱を蓄える潜熱蓄熱材の融点が高いため、換言すれば、凝固時の潜熱蓄熱材の温度が高いので、低温のATFの温度差が大きく蓄熱材熱交換器52からATFへの熱移動が促進される。これにより、自動変速装置50では、より短時間で暖機される。
また、自動変速装置50では、1種類の潜熱蓄熱材が、通常運転時と始動時とで異なる機能を果たすため、機能が異なる2種類の潜熱蓄熱材を備える構成と比較して、機能当たりの潜熱蓄熱材の質量が大きくなる。したがって、第3の実施形態に係る自動変速装置40と比較して、蓄熱材熱交換器42と蓄熱材熱交換器52とで質量が同じあれば、通常運転時の温度変動の抑制効果、始動時の暖機促進効果とも向上する。
さらに、自動変速装置50では、ATFが常時流通するオイルパン16に蓄熱材熱交換器52を配設しているため、例えばバイパス流路等にATFの流路を切り替えることなく該ATFの温度変動幅を小さくすることができる。
なお、上記各実施形態では、オイルパン16内に蓄熱材熱交換器26、32、42、52を配設した例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ATFの循環経路を構成する配管(に設けた大径部)等に蓄熱材熱交換器26等を配設する構造としても良い。
また、上記各実施形態では、自動変速装置10、30、40、50が所謂ATである例を示したが、本発明はこれに限定されず、作動流体を用いる変速装置あれば良く、例えば、ベルト式やトロイダル式の無段変速機等に本発明を適用することができる。