JP2007284745A - 防食剤及び防食剤の製造方法 - Google Patents

防食剤及び防食剤の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、クロム等の重金属化合物や、有機溶媒を含まず、作業環境を悪化させることがなく、密着性および耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能で、製造コストの低廉な防食剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】溶媒としての水にテトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランと酢酸とを含有しており、前記テトラアルコキシシランと前記メチルトリアルコキシシランと前記酢酸とのモル数の割合が、0.3〜0.6:0.1〜0.25:0.25〜0.55であることを特徴とする防食剤及び防食剤製造方法を提供する。
【選択図】 図1

Description

本発明は亜鉛めっきの防食等に好適に用いることができる防食剤及び防食剤の製造方法に関する。
6価のクロム酸塩溶液を用いて金属表面上に皮膜を作製するクロメート処理は優れた耐食性を安価で容易に付与できることより、亜鉛めっき鋼板をはじめとする各種金属製品の防錆処理として幅広く用いられて来た。しかし、近年、廃棄されたクロメート処理製品中に含まれる6価クロムが酸性雨により溶出して土壌河川を汚染するという問題やクロメート処理過程における処理液に含まれる6価クロムの有害性が問題となっている。さらに、2007年、欧州において施行される自動車における6価クロムの環境規制を目前とし、クロムフリー処理法の開発が緊急課題となっており、亜鉛めっき用クロメートの代替となりうる、安価で毒性が低く、しかも高い耐食性を有する皮膜を作製できる、ノンクロムの水系処理剤の開発が急務となっている。
6価クロムフリーの化成処理技術へのアプローチとしては、形成される皮膜の組成により、無機系皮膜、有機系皮膜、有機・無機複合皮膜の3つに大別される。無機系皮膜ではMo系やリン酸皮膜系化成処理が開発されるが、クロメート処理に匹敵する耐食性は得られていない。また、有機系皮膜では、樹脂皮膜やシランカップリング剤を用いたものが、また、有機・無機複合皮膜では、官能基を有する有機系樹脂とリン酸塩、シリカ、金属塩化合物等の無機物を混合したものなどが開発されているが、十分な耐食性を得られるものはない。
樹脂系コート剤を用いた場合の問題点は、樹脂の膨潤のために、高い耐食性を得るためには、数μmあるいはそれ以上の膜厚が必要となり、薄塗りが困難であることである。また、コート剤自身が懸濁状態の場合もあり、溶液の安定性に加えて、平滑性や均一性の優れた皮膜の作製が難しいことも多い。
シランカップリング剤は有機、無機、金属材料等、様々な材料の表面改質剤として広く用いられており、また、種々の官能基を有するシランカップリング剤が安価で市販されている。これまでのシランカップリング剤の主な利用形態としては、樹脂に直接配合する場合や、有機溶媒に溶解させて他の材料に配合する等、有機溶剤系での利用が多かった。シランカップリング剤を含む水溶液の利用法が限定されている理由の一つとしては、塗布性の問題がある。例えば金属材料にこのような水溶液を塗布すると、はじいてしまって被覆できない場合や、被覆できても、得られる皮膜の均一性や密着性が著しく低下することが多い。
一方、無機皮膜のシリカ膜は、毒性が低く、原料も安価であることから、代替クロメートとして有力な候補であるが、無機成分のシリカだけでは十分な耐食性を得ることは難しく、耐食性を向上させるには有機成分を含む有機・無機複合皮膜とすることが有効である。
各種有機シランを有機溶媒に溶解した溶液を用いて有機・無機複合皮膜とする研究は多くなされており、耐食性皮膜の形成法として有望な手段である。有機・無機ハイブリッドを合成する方法については、これまでに、多数報告(Glaserら, J. Non-Cryst. Solids, 113, 73-87 (1989), 作花ら, J. Non-Cryst. Solids, 82, 24-30 (1986), 村上ら, セラミックス論文誌, 97,91−94(1989), 牧田ら, J. Ceram. Soc. Japan, 105, 1012-1017 (1997)等)されているが、いずれも有機溶媒を用いた例である。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、クロム等の重金属化合物や、有機溶媒を含まず、作業環境を悪化させることがなく、密着性および耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能で、製造コストの低廉な防食剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
発明者らは、水を溶媒とし、酢酸及び有機シラン化合物の中でも特に安価であるテトラアルコキシシランを選んで調製した溶液の組成や濃度等を変化させて、亜鉛めっき上における高耐食性皮膜の形成について鋭意研究をおこなった。その結果、テトラアルコキシシランと酢酸のみから調製した溶液では高耐食性皮膜の形成は困難であるが、そこへ、メチルトリアルコキシシランを組み合わせ、これら3成分を所定の割合で混合した液が、亜鉛めっきの防食剤として好適に用いることができることを発見し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明の防食剤は、溶媒としての水にテトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランと酢酸とを含有しており、前記テトラアルコキシシランと前記メチルトリアルコキシシランと前記酢酸とのモル数の割合が、0.3〜0.6:0.1〜0.25:0.25〜0.55であることを特徴とする。この3成分の組成が重要である。まず、所定量のテトラアルコキシシランとアルキルシランを酢酸水へ加えて所定温度で加熱することにより、完全に溶解させて反応させ複合シラン水溶液とすることが肝要である。
発明者らの試験結果によれば、上記の限られた組成領域において密着性及び耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能となる。防食剤の組成において、アルキルシランの配合量はテトラアルコキシシランに対して、多過ぎると安定な溶液は調製できず、少な過ぎると皮膜の製膜性が低下し、耐食性も低下する。酢酸の配合量では、多過ぎると作製皮膜の耐食性が低下し、少な過ぎると溶液の安定性や製膜性が低下する。また、酢酸は加えるテトラアルコキシシランに対して等モル量程度加えることが望ましく、これにより溶液のpHは約2〜4で、室温下において1ヶ月程度安定な防食剤を調製することができる。
また、本発明の防食剤には、クロム等の重金属や有機溶媒を含まないため、毒性が少なく、作業環境を悪化させることもない。密着性及び耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能である。さらには、原料としての有機シラン化合物は、安価であるため、製造コストも低廉となる。
溶媒としての水が87質量%〜99.5質量%含まれていることが好ましい。こうであれば、亜鉛めっき等の金属からなる基材に付着させる付着工程において、耐食性の高い均一な皮膜の形成に好適である。
本発明の金属の防食方法は、溶媒としての水にテトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランと酢酸とを含有しており、該テトラアルコキシシランと該メチルトリアルコキシシランと該酢酸とのモル数の割合が、0.3〜0.6:0.1〜0.25:0.25〜0.55である防食剤を金属からなる基材に付着させる付着工程と、防食剤を付着させた前記基材を乾燥させる乾燥工程とを備えることを特徴とする。
発明者らによれば、上記の防食剤を金属からなる基材に付着させ、乾燥させれば、耐食性の優れた皮膜を形成させることができる。付着方法については特に限定はないが、浸漬法や、スプレーによる噴霧、ロールコーティング法等の方法を用いることができる。塗布後は常温乾燥することが望ましい。コーティングは1回で十分であるが、複数回コーティングすることも可能である。
本発明の防食方法は様々な金属の耐食性を向上させることが可能であるが、特に亜鉛めっきや亜鉛合金めっき、亜鉛ダイキャスト等、亜鉛や亜鉛合金の耐食性を向上させるために特に好適に用いることができる。
また、本発明の防食剤の製造方法は、テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランと酢酸とを用意する準備工程と、前記テトラアルコキシシランと前記メチルトリアルコキシシランと前記酢酸とを0.3〜0.6:0.1〜0.25:0.25〜0.55でモル数の割合となるように混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合液を加熱してアルコールを留去させるアルコール除去工程とを備えることを特徴とする。
上記で述べたように、有害なクロム等の重金属化合物を含まず、また、アルコール除去工程においてアルコールを除去するため、有機溶媒を含有しないため、作業環境を悪化させることもなく、溶液の保存性も良い。
混合工程における混合液の加熱温度は60℃〜90℃であることが好ましい。
加熱温度が90℃以上であれば溶液中の有機シラン化合物の加水分解反応および重合反応を促進し過ぎるため、溶液中に沈殿が生じて溶液の白濁化が起きる。また、加熱温度が60℃以下であれば溶液中のアルコールの留去に十分な温度でないために、アルコール除去が困難となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
テトラアルコキシシランとしては、信越化学工業、東京化成工業、アヅマックス等から販売されているテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等を挙げることができる。
メチルトリアルコキシシランは、信越化学工業、東京化成工業、アヅマックス等から販売されているメチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく述べる。実施例において述べるテトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン及び酢酸の配合量はmol%で示した。また、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン及び酢酸の表記として、TEOS、MTES、AcOHの略号を用いた。
(密着性評価)JIS H 8504規格の中の引きはがし試験法の1つであるテープ試験方法に準じて、亜鉛めっき上に作製した皮膜表面にテープを接着し、その後勢い良くテープを剥離して、皮膜の表面状態を目視で評価した。
(皮膜の表面状態および膜厚測定)得られた皮膜の表面状態を走査型電子顕微鏡で観察した。膜厚に関しては、得られる皮膜が薄膜のため、膜厚測定のための試料の破断面を亜鉛めっき基板において作製することが困難であった。そこで、参考値として、亜鉛めっき上をコーティングする場合と同条件下でシリコン基板をコーティングし、得られた試料を切断して破断面を作製した。これを走査型電子顕微鏡により観察し、皮膜の断面像から測定した。
(皮膜の組成)得られた皮膜表面の組成をX線光電子分光装置により分析した。
(耐食性評価)JIS Z 2371規格の塩水噴霧試験機を用いて、35℃で5質量%NaCl水溶液の噴霧を行い、72時間後の皮膜における白錆び発生の有無を目視で評価した。
(溶液調製)様々な組成で、テトラエトキシシラン(信越化学工業)、メチルトリエトキシシラン(信越化学工業)及び酢酸(試薬、特級)を、有機シランの加水分解により発生するエタノールの体積として2倍量以上を足した量の水の中に添加した。混合溶液は70〜80℃で30分程度加熱攪拌し完全に溶解させた後、発生したエタノールを蒸発させるために所定濃度まで濃縮して均一で透明な水系コート剤を作製した。
(コーティング)上記コート剤を用いて、8μmの厚さで亜鉛めっきを施した鋼板を、室温において溶液へ1分間浸漬した後、引き上げ速度6.0mm/sでディップコーティングした。コーティング後、大気中室温下で約24時間乾燥した。
(結果)メチルトリエトキシシランの量がテトラエトキシシランに対して、モル比で1:1以上の組成のコート剤では、溶液作製時に白濁が起こり、均一な透明溶液は作製できなかった。表1に均一な透明溶液として作製できたコート剤の組成を示した。コート剤のpHは2.4〜2.8の範囲内であった。No.22のコート剤は均一な透明溶液が作製できたが、すぐに白濁が起きた。また、No.23のコート剤も2週間以内に白濁が起き、溶液の安定性は低かった。その他のコート剤は均一な透明溶液で、室温下において白濁することなく2週間以上の安定性を示した。
表1において、No.1〜No.16及びNo.20のコート剤を用いて亜鉛めっき上に作製した皮膜は光沢性を有しており、密着性評価において皮膜の剥離は全く観察されなかった。
表1に塩水噴霧試験後の白錆び発生の有無についての結果を示した。表中、○:白錆び発生無し、△:少量の白錆び発生、×:多量の白錆び発生として耐食性を判定した。その結果をもとに図1に示したような三角座標上にプロットしたところ、白錆び発生の無い組成領域は以下のようになることがわかった。
・10 (mol%) < MTES ≦ 20 (mol%),
30 (mol%) < TEOS < 60 (mol%), 25 (mol%) ≦ AcOH < 55 (mol%)
・20 (mol%) < MTES ≦ 25 (mol%),
35 (mol%) < TEOS < 50 (mol%), 30 (mol%) ≦ AcOH < 45 (mol%)
例えば、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、酢酸がそれぞれ、40 mol%、20 mol%、40 mol%の組成のコート剤(表1、No.9)を用いて作製した皮膜の表面状態は均一で光沢性を有していた(図2)。膜厚は1回コーティングで約0.1 μmであった。また、この組成から作製した皮膜は塩水噴霧試験後に白錆びの発生が無く、また皮膜の光沢性も保持しており、高い耐食性を示した(図3)。皮膜表面の組成分析でケイ素、亜鉛、酸素、炭素が検出されたことより、本皮膜ではコート剤中の酢酸により溶解した亜鉛がコート剤と反応することで不溶性の亜鉛シリケートを生成していることが推測される。よって、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランが反応することにより生成する、有機・無機複合シリカが亜鉛シリケートを巻き込んだ形で緻密な皮膜を形成することが、高い耐食性を示す要因であると考えられる。
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本発明の水系シリカ防食剤は、クロム等の重金属化合物を含まず、密着性および耐食性に優れた皮膜を亜鉛めっき上に作製することができるため、亜鉛めっき用クロメートの代替として広く利用することができる。クロメート処理をした亜鉛めっき製品を使用する自動車産業、電子産業等、様々な産業分野において利用可能である。


亜鉛めっき上に高耐食性皮膜を形成する溶液の組成領域○:白錆び発生無し、△:少量の白錆び発生、×:多量の白錆び発生 塩水噴霧試験前の試料写真 塩水噴霧試験後の試料写真

Claims (6)

  1. 溶媒としての水にテトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランと酢酸とを含有しており、
    前記テトラアルコキシシランと前記メチルトリアルコキシシランと前記酢酸とのモル数の割合が、0.3〜0.6:0.1〜0.25:0.25〜0.55であることを特徴とする防食剤。
  2. 溶媒としての水が87質量%〜99.5質量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の防食剤。
  3. 溶媒としての水にテトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランと酢酸とを含有しており、該テトラアルコキシシランと該メチルトリアルコキシシランと該酢酸とのモル数の割合が、0.3〜0.6:0.1〜0.25:0.25〜0.55である防食剤を金属からなる基材に付着させる付着工程と、
    防食剤を付着させた前記基材を乾燥させる乾燥工程と、
    を備えることを特徴とする金属の防食方法。
  4. 前記金属は亜鉛又は亜鉛合金であることを特徴とする請求項3記載の金属の防食方法。
  5. テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランと酢酸とを用意する準備工程と、
    前記テトラアルコキシシランと前記メチルトリアルコキシシランと前記酢酸とを0.3〜0.6:0.1〜0.25:0.25〜0.55でモル数の割合となるように混合する混合工程と、
    前記混合工程で得られた混合液を加熱してアルコールを留去させるアルコール除去工程と、を備えることを特徴とする防食剤の製造方法。
  6. 混合工程における混合液の加熱温度は60℃〜90℃
    であることを特徴とする請求項5記載の防食剤の製造方法。
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