JP2007277288A - 植物性の燃料組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】炭化水素系の燃料組成物により近い性能を有する植物性の燃料組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド(RBDパーム原油2)と、炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル(パームメチルエステル3)と、炭素数14以下の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル(ココナッツメチルエステル6)とを含有する植物性の燃料組成物である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、植物性の燃料組成物に関する。例えば、ディーゼルエンジンに用いられる植物性の燃料組成物に関する。
硫黄を含む軽油などの炭化水素系の燃料組成物を使用するエンジン(例えば、ディーゼルエンジン)は、その排気ガス中に上記燃料組成物由来のSOxを多く含む。このため低公害対策として、炭化水素系の燃料組成物に替わり得る燃料組成物が研究されている。
炭化水素系の燃料組成物の代替品として、菜種油、大豆油や亜麻仁油などの植物油にメチルアルコールを加え、グリセリドとエステル交換処理して得られる「メチルエステル成分(以下、単に植物由来のメチルエステルと呼ぶ)」が注目される。
硫黄を含まない植物由来のメチルエステルを使用することで、エンジンの排気ガスよりSOxをなくすことができる。また植物由来のメチルエステルは分子中に酸素を含む含酸素物質であるため、エンジン中における完全燃焼率が高く、大気汚染物質の1つである粒子状物質の排出が低減される。
しかしながら植物由来のメチルエステルの原料となる植物油は、その大部分が食用となるので、燃料組成物への安定した原料供給が困難である。植物由来のメチルエステルに関する廃油リサイクルも研究されているが、商業的な実用化はなされていない。
また、植物由来のメチルエステルは発熱量が若干劣るのでエンジンの燃費が悪くまた馬力もでない(エンジン特性が低下する)。更に、植物由来のメチルエステルを長期間使用すると、エンジンを構成するアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)製の部材が劣化する。例えば、ディーゼルエンジンの燃料供給系統のNBRゴム製ホースが劣化して微細な亀裂が生ずる。
このため植物由来のメチルエステルは、炭化水素系の燃料組成物と併用して用いるのが一般的であり、この場合、植物性のメチルエステルの比率は3〜20%程度である。
従来、上述欠点を補う可能性のある原料としてパーム椰子が注目されている。パーム椰子は世界的に生産量が多く、植物由来の燃料組成物への安定した原料供給が可能となる。
しかしながらパーム椰子由来のメチルエステル(以下、パームメチルエステルと呼ぶ)は炭素数16〜18の脂肪酸を多量に含むので粘性が高い。このため、軽油などの炭化水素系の燃料組成物と比較して低温時における流動性(低温流動性)に劣る。例えば、低温流動性の目安となる流動点(燃料組成物が固化してゴムホース中を流れなくなる温度)があるが、市販の一般軽油は、JIS規格などの公的規格により流動点5℃以下とされている。これに対し、パームメチルエステルの流動点は15〜18℃である。このため外気温が低下することによりパームメチルエステルがエンジン内で固化し、エンジンの燃料フィルターや噴射ポンプが目詰まりを起こす。このためパームメチルエステルは、外気温が上記流動以下となる寒帯地域では全く使用することができず、時期によっては外気温が流動点下となる温帯地域でも通年で使用することができないものであった。
パームメチルエステルの流動点を下げる試みとして、例えば特許文献1に記載の技術がある。これによれば、パームメチルエステルより炭素数18のステアリン酸メチルエステル及びリノール酸メチルエステルのみを結晶化して高純度で得る。この高純度な炭素数18の脂肪酸のメチルエステルを用いて低温流動性の向上を図る。
特開2004−359766号公報
しかしながら、特許文献1の高純度な炭素数18の脂肪酸のメチルエステルを使用しても、エンジン特性の低下やNBRゴムへの悪影響の問題が改善されたわけではなく、炭化水素系の燃料組成物の完全な代替品となり得るものではなかった。
このため上記各問題を改善し、炭化水素系の燃料組成物により近い性能を有する植物性の燃料組成物が切望されていた。
本発明は上述した点に鑑みて創案されたものである。すなわち本発明では、炭化水素系の燃料組成物により近い性能を有する植物性の燃料組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、実験を繰り返した結果、特定炭素数の脂肪酸のグリセリドと、2種類のエステルを組み合わせることで、植物性の燃料組成物の低温流動性が向上し、且つエンジン性能が改善されることを見出した。
つまり第1の発明の植物性の燃料組成物は、炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドと、炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステルと、炭素数14以下の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステルとを含有する。
「炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド」を加えることで、植物性の燃料組成物のエンジン特性(燃費及び馬力)が向上する。また、「植物由来の炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル」と「植物由来の炭素数14以下の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル」とを加えることで、植物性の燃料組成物中における炭素数16〜18の脂肪酸(特にグリセリドは、低温流動性悪化の一因と推定される)の相対含有量が低下し、植物性の燃料組成物の低温流動性を改善することができる。これにより、本発明にかかる植物性の燃料組成物は、炭化水素系の燃料組成物により近い性能を有することとなる。
「炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド」と「植物由来の炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル」は、炭素数16〜18の脂肪酸を含む植物より得られる。当該植物として、例えば、アブラギ,亜麻,ベニバナ,ヒマワリ,大豆,トウモロコシ,落花生,綿実,ゴマ,コメ,ナタネ,オリーブ及びパーム椰子がある。
また「植物由来の炭素数14以下の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル」は、炭素数14以下の脂肪酸を含む植物より得られる。当該植物としては、例えば、ココナッツ椰子やパーム椰子(種子)がある。
更に、−10℃以下の凝固点を有し、且つ炭素数3以上のアルコールを含有することが好ましい。当該アルコールを含有することで、炭素数16〜18の脂肪酸に由来する低温流動性の悪化を改善することができる。
−10℃以下の凝固点を有し、且つ炭素数3以上のアルコールとは、例えば、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンタノール,ヘキサノール,ヘプタノールである。好ましくは、−80℃以下の凝固点を有するアルコールであり、例えば、n−プロピルアルコール,イソプロピルアルコール,n−ブチルアルコール,イソブチルアルコール,sec−ブチルアルコール,イソペンチルアルコールである。
本発明にかかる第2の発明の植物性の燃料組成物は、炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドを含むパーム椰子油と、パーム椰子油と1価アルコールとをエステル交換してなる第1成分と、炭素数14以下の脂肪酸を含むココナッツ椰子油と1価アルコールとをエステル交換してなる第2成分と、−100℃以下の凝固点を有し且つ炭素数3以上のアルコールを含有する植物性の燃料組成物である。
(パーム椰子油)
パーム椰子油は、「炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド」を含む油成分であり、そのヨウ素値が40〜66の範囲であればよい。例えば、パーム椰子の果肉及び表皮を搾圧して得られるパーム原油、パーム原油を精製(油成分の分取及び脱ガム),脱色,脱酸及び脱臭して得られるパーム精製油(RBDパーム油)、パーム原油又はRBDパーム油を冷却して固体成分を除いた40℃で清澄なパームオレイン油や60℃で清澄なパームステアリン油又はこれらの混合物である。パーム椰子油として、そのヨウ素値が56以上のRBDパーム油を用いることが好ましい。
また、上述のパーム原油の脱色においては、活性白土(アルミナとシリカが主成分)や活性炭などの色素成分を吸着する脱臭材が使用される。この色素成分を吸着させた後の脱臭材より抽出した油成分も前記パーム椰子油とすることができる。
なおパーム椰子油は、「炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド」の割合が全脂肪酸のエステル(遊離の脂肪酸を含む)に対して70%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。換言すると、「炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド」を主成分とするパーム椰子油が好ましい。
(第1成分)
第1成分は、パーム椰子油と1価アルコールとをエステル交換することで得られる。「1価アルコール」とは、ヒドロキシ基を1つ有する炭素数1〜4のヒドロキシ化合物であり、好ましくは炭素数1のメチルアルコール又は炭素数2のエチルアルコールである。
そして第1成分は、パーム椰子油由来の「炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル」の割合が全脂肪酸のエステル(グリセリドを含む)に対して90%以上であればよく、95%以上であればより好ましい。
また第1成分の動粘度は、40℃において5mm/s以下であると好ましい。
(第2成分)
第2成分は、炭素数14以下の脂肪酸を含むココナッツ椰子油と上述の1価アルコールとをエステル交換することで得られる。
「炭素数14以下の脂肪酸を含むココナッツ椰子油」とは、例えば、ココナッツ椰子の果肉及び表皮を搾圧して得られるココナッツ原油、ココナッツ原油を精製(油成分の分取及び脱ガム),脱色,脱酸及び脱臭して得られるココナッツ精製油(RBDココナッツ油)又はこれらの混合油であり、炭素数14以下の脂肪酸を主成分とすることが望ましい。
そして第2成分は、ココナッツ椰子油由来の「炭素数14以下の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル」の割合が全脂肪酸のエステル(グリセリドを含む)に対して60%以上であればよく、65%以上であればより好ましい。
そして第2成分中の「植物由来の炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル」の割合が全脂肪酸(遊離の脂肪酸を含む)に対して25%以下であることが好ましく、20%以下であるとより好ましい。
なお「炭素数14以下の脂肪酸を含むココナッツ椰子油」は、「炭素数14以下の脂肪酸を含むパーム椰子核油」と置き換えることもできる。パーム椰子核油とは、例えば、パーム核(パーム椰子の種子)を搾圧して得られるパーム核原油、パーム核原油を精製(油成分の分取及び脱ガム),脱色,脱酸及び脱臭して得られるパーム核精製油(RBDパーム核油)又はこれらの混合油である。
(アルコール)
アルコールは、−100℃以下の凝固点を有し且つ炭素数3以上のものである。例えば、n−プロピルアルコール,イソブチルアルコール,sec−ブチルアルコール,イソペンチルアルコールである。炭素数3以上のアルコールは、NBRゴムに対する腐食性がないので好ましい。
第2の発明によれば、パーム椰子油と第1成分と第2成分とが含まれることで、植物性の燃料組成物の低温流動性を改善し且つエンジン特性(燃費及び馬力)が向上する。更に、−100℃以下の凝固点を有するアルコールを加えることで、NBRゴムに悪影響を与えることなく、原料となるパーム椰子に起因する植物性の燃料組成物の低温流動性を更に改善することができる。よって、第2の発明にかかる植物性の燃料組成物は、炭化水素系の燃料組成物により近い性能を有することとなる。
本発明にかかる第3の発明の植物性の燃料組成物は、炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドを含むパーム椰子油と、炭素数14以下の脂肪酸を含むココナッツ椰子油と1価アルコールとをエステル交換してなる第2成分と、パーム椰子油と1価アルコールとをエステル交換し、且つ不飽和脂肪酸の二重結合部分を分断してなる第3成分を含有する植物性の燃料組成物である。
(第3成分)
第3成分は、パーム椰子油と1価アルコールとをエステル交換し、且つ不飽和脂肪酸の二重結合部分を分断処理(クラッキング処理)をして得られる。つまり、炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドを含むパーム椰子油と1価アルコールとをエステル交換することで第1成分を得る。この第1成分をクラッキング処理することで第3成分を得る。
第3成分の動粘度は、40℃において30mm/s以下であると好ましい。
第3成分は、「炭素数16〜18の不飽和脂肪酸」がクラッキング処理によりなくなっているか又はその含有量が低下している。このため第3成分を加えることで、植物性の燃料組成物中における炭素数16〜18の脂肪酸の相対含有量が低下し、植物性の燃料組成物の低温流動性を改善できる。
更に、本発明に係る植物性の燃料組成物は、上記手段以外に次の各手段をとることができる。
すなわち、第2成分と、第3成分と、炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドを主成分とするパーム椰子油の不飽和脂肪酸の二重結合部分を分断してなる第4成分とを含有する植物性の燃料組成物である。
第4成分は、パーム椰子油中の主成分「炭素数18の不飽和脂肪酸」がクラッキング処理によりなくなっているか又はその含有量が低下している。このため、第4成分を加えることで、植物性の燃料組成物中における炭素数18の脂肪酸の相対含有量が低下し、植物性の燃料組成物の低温流動性を改善できる。
なお上述の構成において第3成分を第1成分に置換することもできる。
また第1成分と第2成分とを予め混合した後にクラッキング処理してなる第5成分と、パーム椰子油とを含有する植物性の燃料組成物とすることができる。
また第1成分と第2成分とパーム椰子油を予め混合した後にクラッキング処理してなる第6成分を含有してなる植物性の燃料組成物とすることもできる。
なお上述の構成においてパーム椰子油を第4成分に置換することもできる。
第1の発明によれば、炭化水素系の燃料組成物の性能により近い性能を有する植物性の燃料組成物を提供することができる。また第2の発明によれば、炭化水素系の燃料組成物の性能により近い性能を有するパーム椰子を原料とする植物性の燃料組成物を得ることができる。また第3の発明によれば、植物性の燃料組成物の低温流動性をより改善することができる。
以下に本発明を実施するための最良の形態を図を参照して説明する。図1は、植物性の燃料組成物の概略工程図である。
[実施の形態1]
本実施の形態1にかかる植物性の燃料組成物4は、RBDパーム油2、パーム椰子油由来の炭素数16〜18の脂肪酸とメチルアルコールとが結合してなるエステル(以下、パームメチルエステル3と呼ぶ)、ココナッツ椰子油由来の炭素数14以下の脂肪酸とメチルアルコールとが結合してなるエステル(以下、ココナッツメチルエステル6と呼ぶ)及びイソブチルアルコール5からなる。
RBDパーム油2は、パーム椰子の果肉及び表皮を搾圧して得られるパーム原油1を精製(油成分の分取及び脱ガム),脱色,脱酸及び脱臭して得られる(図1を参照)。
RBDパーム油2は、炭素数16のパルミチン酸グリセリド・パルミトレイン酸グリセリド及び炭素数18のステアリン酸グリセリド・オレイン酸グリセリド・リノール酸グリセリド・リノレン酸グリセリド(炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド)の割合が全脂肪酸のエステル(遊離の脂肪酸を含む)に対して95%以上含有する(試験例の[表2]を参照)。
パームメチルエステル3は、RBDパーム油2にメチルアルコールを反応させてアルコキシル基を交換(エステル交換)して得られる。つまりエステル交換により、メチルエステルとグリセロールからなる反応生成物を製造し、この反応生成物の中からメチルエステルを分離して回収したものをパームメチルエステル3とする(図1を参照)。
パームメチルエステル3は、全脂肪酸のエステルに対して、炭素数16のパルミチン酸メチルエステル・パルミトレイン酸メチルエステル及び炭素数18のステアリン酸メチルエステル・オレイン酸メチルエステル・リノール酸メチルエステル・リノレン酸メチルエステル(炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル)の割合が95%以上である(試験例の[表3]を参照)。
ココナッツメチルエステル6は、ココナッツ椰子の果肉及び表皮を搾圧して得られるココナッツ原油8を精製(油成分の分取及び脱ガム),脱色,脱酸及び脱臭して得られるRBDココナッツ油7を原料とする。このRBDココナッツ油7にメチルアルコールを反応させてアルコキシル基を交換(エステル交換)して得られる。エステル交換により、メチルエステルとグリセロールからなる反応生成物を製造し、この反応生成物の中からメチルエステルを分離して回収したものをココナッツメチルエステル6とする(図1を参照)。
ココナッツメチルエステル6は、炭素数12のラウリン酸メチルエステルと炭素数14のミリスチン酸メチルエステル(炭素数14以下の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル)の割合が全脂肪酸のエステルに対して65%以上である(試験例の[表3]を参照)。そして、炭素数16のパルミチン酸メチルエステル及び炭素数18のステアリン酸メチルエステル(炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステル)の割合が全脂肪酸のアルコールエステルに対して20%以下である。
このココナッツメチルエステル6を、パームメチルエステル3が100重量部に対して50〜200重量部投入する。炭素数16〜18の脂肪酸(特にグリセリド)の相対含有量が低下することで、パーム椰子に由来する植物性の燃料組成物4の低温流動性の悪化を改善できる。
なお、ココナッツメチルエステル6が50重量部未満の場合には、ココナッツメチルエステル6を加えることにより得られるべき所定の低流動性改善効果が得られない。また200重量部より多くココナッツメチルエステル6を加えると、植物性の燃料組成物4中の炭素数18及び16の脂肪酸の相対含有量が必要以上に低下する。このため、植物性の燃料組成物4の発熱量が低くなりエンジン特性が低下する。
好ましくは、パームメチルエステル3が100重量部に対して、ココナッツメチルエステル6を60〜180重量部であり、最も好ましくは、130〜150重量部である。
そしてパームメチルエステル3及びココナッツメチルエステル6の合計量100重量部に対して、上記RBDパーム油2を15〜70重量部投入する。RBDパーム油2は、パームメチルエステル3に含まれる「炭素数16〜18の脂肪酸とメチルアルコールとが結合してなるエステル」と比較して発熱量の高い「炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリド」を主成分とする。このため、植物性の燃焼組成物の発熱量が高くなり、馬力や燃費などのエンジン特性が改善する。
RBDパーム油2が15重量部未満の場合には、実用的なエンジン特性の向上効果が得られない。そしてRBDパーム油2が70重量部よりも多いと、そのだけガム成分などの不純物を多く含むことともなるので植物性の燃料組成物4の粘性が高くなる。このためエンジン内での植物性の燃料組成物4の燃焼効率が低下する。つまり、エンジンの燃料プランジャよりシリンダ内に噴射される植物性の燃料組成物4が霧状になりにくくなる。霧状化しなかった植物性の燃料組成物4は燃焼されずにシリンダ内に煤としてこびり付く。またガム成分などの不純物が次第に分離するため安定に貯蔵することができない。
好ましくは、パームメチルエステル3及びココナッツメチルエステル6の合計量100重量部に対して、上記RBDパーム油2を17〜65重量部投入し、更に好ましくは、20〜60重量部投入する。
そしてイソブチルアルコール5を、パームメチルエステル3とココナッツメチルエステル6とRBDパーム油2との合計量100重量部に対して10〜25重量部投入する。−109℃の凝固点を有するイソブチルアルコール5を加えることで植物性の燃料組成物4の流動点を下げ、これにより低温流動性を改善する。更に、NBRゴムを腐食する腐食性がないので、エンジンのNBRゴム製部材に対する悪影響が少ない。
イソブチルアルコール5が10重量部未満の場合には、イソブチルアルコール5を加えることにより得られるべき所定の低流動性改善効果が得られない。また25重量部より多くのイソブチルアルコール5を加えると、植物性の燃料組成物4中の脂肪酸の相対含有量が低下して発熱量が低くなり、エンジン特性が低下する。
実施の形態1の植物性の燃料組成物4によれば、パームメチルエステル3とココナッツメチルエステル6とRBDパーム油2とイソブチルアルコール5とが含まれることで、植物性の燃料組成物4の低温流動性を改善し且つエンジン特性(燃費及び馬力)が向上する。更に、NBRゴムに悪影響を与えることなく、原料となるパーム椰子に起因する植物性の燃料組成物4の低温流動性を更に改善することができる。よって、実施の形態1の植物性の燃料組成物4は、炭化水素系の燃料組成物により近い性能を有することとなる。
[実施の形態2]
本実施の形態2にかかる植物性の燃料組成物は、ココナッツメチルエステル6と、RBDパーム油2と、パームメチルエステル3をクラッキング処理してなる第3成分とを含有する。
第3成分は、例えば、次の方法により得られる。
上述のパームメチルエステル3に対してオゾン(O)を接触させて、炭素数16のパルミトレイン酸メチルエステル及び炭素数18のオレイン酸メチルエステル・リノール酸メチルエステル・リノレン酸メチルエステル(不飽和脂肪酸)の二重結合部分にオゾンを付加し可燃性のオゾニドを生成する。そしてオゾニドを還元処理して、不飽和脂肪酸の二重結合部分を分断し、低分子化された物質であるケトンやアルデヒドを含む第3成分を分離して回収する。
第3成分は、炭素数16のパルミトレイン酸メチルエステル及び炭素数18のオレイン酸メチルエステル・リノール酸メチルエステル・リノレン酸メチルエステルが分解して低分子化されている。つまり、「炭素数18の(不飽和)脂肪酸」がクラッキング処理により取り除かれているか又はその含有量が低下している。このためパーム低分子成分の粘度は、パームメチルエステル3と比較して低いものとなる。このため実施の形態2の植物性の燃料組成物は、パーム椰子に由来する低温流動性の悪化が改善されたものとなる。
[試験例]
以下、本発明を試験例に基づいて説明する。なお本発明はこの試験例に限定されない。
試験例では、植物性の燃料組成物として、以下の表1に示す実施例1〜3を用いた。
また比較例1として、表1に示すパームメチルエステル100%の試料を使用した。
Figure 2007277288
実施例1〜3及び試験例1では、以下の表2及び表3に示すRBDパーム油、パームメチルエステル及びココナッツメチルエステルを用いた。また、イソブチルアルコールは純度99%のものを用いた。
表2は、ガスクロマトグラフィー(GC)により検出したRBDパーム油の脂肪酸組成を示す。表3は、ガスクロマトグラフィー(GC)により検出したパームメチルエステル及びココナッツメチルエステルの脂肪酸組成を示す。
Figure 2007277288


Figure 2007277288

[試験方法]
1.燃料比較測定試験
排気量2500ccのディーゼルターボエンジンを搭載した車輌(車種:H3−三菱デリカ(登録商標)ワゴン AT・AC フル装備 4WD 型式P25W−0513527)を試験車輌とした。
試験車輌より燃料を全て抜き取り、実施例1の植物性の燃料組成物を20L(初期燃料量)投入した。走行距離は120kmに設定し、走行区間は、愛知県内の一般道(県道)60kmと愛知県知多市の高速道路60kmとした。
試験車輌にて、時速50〜60kmで一般道を走行し、続けて、高速道路を平均時速90kmで走行した。走行後の試験車輌より残存する実施例1の植物性の燃料組成物(燃料残量)を全て抜き取り、その総量を測定した。
次に、試験車輌に市販の一般軽油(コスモ石油株式会社製)20L(初期燃料量)を投入し、上記条件と同様の走行試験を行った後、残存する植物性の燃料組成物(燃料残量)を全て抜き取り、その総量を測定した。
そして燃料消費量を、下記計算式より導き出した。
(燃料消費量)=(初期燃料量)−(燃料残量)
また、燃費(燃料組成物1リットルあたりの走行距離)を下記計算式より導き出した。
(燃費)=(走行距離)÷(燃料消費量)
2.馬力測定試験
上述と同一の車輌を試験車輌とした。
試験車輌に実施例1の植物性燃料組成物20Lを投入した。そして試験車輌の最大時速まで加速し、最高速度時における馬力を馬力測定装置(シャーシーダイナモメータ BOSC社製)にて測定した。
次に、試験車輌に市販の一般軽油(コスモ石油株式会社製)20Lを投入し、上記条件と同一条件にて馬力を測定した。
3.低温時における流動性の測定試験
実施例1の植物性の燃料組成物を容量50mlのガラス瓶に30ml投入して野外に設置した。そして、午後8時15分から翌日の午後3時(合計18時間45分)までの各時点における外気温を測定するとともに、実施例1の植物性の燃料組成物の流動性の有無を観察した。また比較例1のパームメチルエステルを上記と同一の条件で配置し、その流動性の有無を観察した。
また流動点測定試験1と同様に、実施例2及び3の植物性の燃料組成物を容量50mlのガラス瓶にそれぞれ30ml投入して野外に設置した。
そして実施例2の植物性の燃料組成物については、午後15時00分〜午後23時00分(合計8時間)までの各時点における外気温を測定するとともに、実施例2の植物性の燃料組成物の流動性の有無を観察した。また比較例1のパームメチルエステルを上記と同一の条件で配置し、その流動性の有無を観察した。
実施例3の植物性の燃料組成物については、午後17時00分〜午後20時00分(合計3時間)までの各時点における外気温を測定するとともに、実施例3の植物性の燃料組成物の流動性の有無を観察した。
4.流動点及び目詰まり点の測定
実施例1の植物性の燃料組成物の流動点及び目詰まり点を測定した。
流動点は、JISK2269.3に規定する試験方法で行った。また目詰まり点は、JISK2288に規定する試験方法で行った。
5.NBRゴムの浸せき試験及び物理試験
実施例1の植物性の燃料組成物を使用して浸せき試験を行った。浸せき試験は、JISK6258(2003)に規定する試験方法で行った。各試験の試験片として、NBRゴム(日本タクト株式会社製)をダンベル状3号形としたものを使用した。また比較例としてフッ素ゴム(日本タクト株式会社製)をダンベル状3号形としたものを使用した。
また浸せき試験後の試験片の物理試験として、デュロメータ硬さ試験、引張強さ試験及び伸び試験を行った。デュロメータ硬さ試験は、JISK6253(1997)に規定する試験方法で行った。引張強さ試験及び伸び試験は、JISK6251(2004)に規定する試験方法で行った。
6.金属の浸せき試験
実施例1の植物性の燃料組成物を使用して下記の試験を行った。
試験対象として、銅、はんだ、黄銅、鋼、鋳鉄及びアルミニウム鋳物を使用し、実施例1の植物性の燃料組成物に浸せきした後の外観と質量の変化を測定した。
つまり上記各金属片を、実施例1の植物性の燃料組成物に浸せきした(室温23℃にて24時間、試験機 ロードセル式500N)。その後、各金属片を取り出して自然乾燥(23±2℃で336時間)した後、各金属片の外観及び質量の変化を測定した。
[試験結果]
Figure 2007277288

表4は、燃料比較測定試験の結果である。
実施例1の植物性の燃料組成物を使用した試験車両の燃費は、市販の軽油を使用した試験車輌の燃費とほぼ同じであった。これにより、実施例1の植物性の燃料組成物は、市販の一般軽油とほぼ同じエンジン特性(燃費)を有することが分かった。
また実施例1の植物性の燃料組成物を使用した試験車両は、走行試験開始時から時速90kmまでの加速時において、ノッキングなどの問題が発生しなかった。更に実施例1の植物性の燃料組成物を使用した試験車両は、時速50〜60kmで走行した際にもノッキングなどの問題が発生しなかった。これにより、実施例1の植物性の燃料組成物は、その着火性の悪化や噴射効率の低下など問題が発生せず、試験車輌の良好な走行を実現したことがわかった。
Figure 2007277288

表5は、馬力測定試験の結果を示す。
実施例1の植物性の燃料組成物を使用した試験車両は、市販の軽油を使用した試験車両場合と同一の馬力を有することが分かった。これにより、実施例1の植物性の燃料組成物は、市販の一般軽油とほぼ同じエンジン特性(馬力)を有することが分かった。
Figure 2007277288

Figure 2007277288

表6は、実施例1に関する低温時における流動性の測定試験の結果を示し、表7は、流動点及び目詰まり点を示す。
実施例1の植物性の燃料組成物は、8.0℃〜−3.5℃の間で流動性を維持した。一方、比較例1の植物性の燃料組成物は、8.0℃〜−3.5℃の間で流動性がなかった。
また実施例1の植物性の燃料組成物の流動点は−2.5℃〜−4.99℃であり、目詰まり点は、±0.0℃〜−2.49℃であった。
これにより、実施例1の植物性の燃料組成物は、パームメチルエステル(比較例1)と比較して、低温流動性が向上したことが分かった。
Figure 2007277288

表8は、実施例2及び3に関する低温時における流動性の測定試験の結果を示す。
実施例2の植物性の燃料組成物は、5.0℃〜±0.0℃の間で流動性を維持した。実施例3の植物性の燃料組成物は、5.0℃〜±0.0℃の間で流動性を維持した。一方、比較例1の植物性の燃料組成物は、5.0℃〜±0.0の間で流動性がなかった。
これにより、実施例2及び3の植物性の燃料組成物は、パームメチルエステル(比較例1)と比較して、低温流動性が向上したことが分かった。
Figure 2007277288

表9は、NBRゴムの浸せき試験及び物理試験の結果を示す。
浸せき試験後のNBRゴムの物理的変化は、浸せき試験後のフッ素ゴムの物理変化とほぼ同程度であった。またNBRゴムのデュロメータ堅さ、引っ張り強さ及び伸びについても極端な変化(悪影響)はなかった。これにより、実施例1の植物性の燃料組成物ではNBRゴムに対する悪影響が低減されたことが分かった。
Figure 2007277288

表10は、金属の浸せき試験を示す。
実施例1の植物性の燃料組成物は、上記金属に対する腐食性がほとんどない(上記金属をほとんど酸化しない)ことが分かった。
実施例1の植物性の燃料組成物は、上記各金属の物理的性質に対する悪影響がほとんどないことが分かった。
[考察]
実施例1の植物性の燃料組成物では、その低温流動性が向上し、且つエンジン性能が改善されることが分かった。また実施例1〜3の植物性の燃料組成物では、原料となるパーム椰子に起因する植物性の燃料組成物の低温流動性の悪化を改善したことが分かった。
これにより実施例1〜3の植物性の燃料組成物は、炭化水素系の燃料組成物により近い性能を有することがわかった。
本実施例の植物性の燃料組成物は、本実施の形態で説明した外観、構成、処理、表示例等に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
本実施の形態においては、パームメチルエステル3を、RBDパーム油2にメチルアルコールを反応させてアルコキシル基を交換(エステル交換)して得た例を説明した。このとき、上述のパーム原油の脱色において色素成分を吸着させた後の脱臭材より抽出した油成分にメチルアルコールを反応させてアルコキシル基を交換(エステル交換)してパームメチルエステル3を得てもよい。
また本実施の形態では、オゾンを利用して不飽和脂肪酸の二重結合を分断する例を説明した。当該二重結合を分断可能な他の酸化剤を、安全性が確保される限り本実施例において使用可能である。例えば、酸性条件の下で過マンガンカリウム(KMnO4)をパームメチルエステル3に添加する。この場合は、低分子化された物質であるケトンやカルボン酸を含む第3成分を分離して回収することとなる。
植物性の燃料組成物の概略工程図である。
符号の説明
1 パーム原油
2 RBDパーム油
3 パームメチルエステル
4 植物性の燃料組成物
5 イソブチルアルコール
6 ココナッツメチルエステル
7 RBDココナッツ油
8 ココナッツ原油

Claims (3)

  1. 炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドと、
    炭素数16〜18の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステルと、
    炭素数14以下の脂肪酸と1価アルコールとが結合してなるエステルとを含有する植 物性の燃料組成物。
  2. 炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドを含むパーム椰子油と、
    前記パーム椰子油と1価アルコールとをエステル交換してなる第1成分と、
    炭素数14以下の脂肪酸を含むココナッツ椰子油と1価アルコールとをエステル交換 してなる第2成分と、
    −100℃以下の凝固点を有し且つ炭素数3以上のアルコールとを含有する植物性の 燃料組成物。
  3. 炭素数16〜18の脂肪酸のグリセリドを含むパーム椰子油と、
    炭素数14以下の脂肪酸を含むココナッツ椰子油と1価アルコールとをエステル交換 してなる第2成分と、
    前記パーム椰子油と1価アルコールとをエステル交換し、且つ不飽和脂肪酸の二重結 合部分を分断してなる第3成分とを含有する植物性の燃料組成物。

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