JP2007271596A - 光導波モードセンサー - Google Patents

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真 藤巻
Nobuko Fukuda
伸子 福田
Tomohito Arai
智史 荒井
Koichi Awazu
浩一 粟津
Carsten Rockstuhl
ロックスチュール カーステン
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Abstract

【課題】従来の表面プラズモン共鳴を利用する技術や従来の光導波モードセンサーよりも、反射膜の選択範囲を広げ、安定性が良く、長期信頼性を得られる光導波モードセンサーを提供する。
【解決手段】ガラス上に反射膜を被覆し、さらにその上に誘電体材料又は半導体材料により形成された光導波路層を形成して、前記ガラスの、前記反射膜層が形成されている面とは逆側の面から、前記ガラスに光を入射し、前記反射膜層によって反射される前記光の反射光を検出する手法において、前記光の入射角と当該光の反射光強度との関係において、反射光強度が強くなる上向きの凸形状となる角度領域を用いて、検体の検出を行う。
【選択図】 図5

Description

本発明は、安定で信頼性の高い光導波モードセンサーに関する。
DNAやたんぱく質、糖鎖などを検出するバイオセンサー及び金属イオン、有機分子などを検出する化学物質センサーとして、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いる技術が知られている。この技術は、ガラス上に貴金属(金・銀など)を蒸着し、そのガラスの金属を蒸着した面と反対側の面を、屈折率調節オイルを介して光学プリズムと密着させた構造からなり、レーザー光あるいは白色光を、プリズムを通してガラスに照射し、その反射光の強度を検出するものである。
入射光はガラスに対して全反射となる条件で入射される。このとき、光が入射された側と逆側の金属表面側に染み出すエバネセント波によって、ある入射角でSPRが発現する。SPRが起こると、エバネセント波は表面プラズモンによって吸収されるので、その入射角付近では反射光の強度が著しく減少する。SPRが発現する入射角や、SPRが発現している入射角付近における反射光強度は、金属の表面上の付着物の厚さ、誘電率によって変化する。このことを利用し、金属の表面上に被検出試料と結合あるいは吸着する物質を修飾し、被検出試料が金属表面付近に結合あるいは吸着した際に生じる入射角や反射率の変化を検出し、被検出試料の結合量(膜厚あるいは質量)を得るのが、従来のSPRセンサーである。
このようなSPRを用いた技術に関連する例としては、「光センサー、光センサーを用いた検出方法、及び光センサーに用いる分子認識機能膜の形成方法」(特許文献1参照)、「全反射減衰を利用したセンサー」(特許文献2参照)、「光導波路型SPR現象計測チップ、その製造方法およびSPR現象計測方法」(特許文献3参照)、「導波路構造及びその製造方法、並びにそれを用いた表面プラズモン共鳴センサーと屈折率変化測定方法」(特許文献4参照)、「光導波路型表面プラズモン共鳴センサーおよび光導波路型表面プラズモン共鳴装置」(特許文献5参照)などが挙げられる。
しかし、上記の表面プラズモン共鳴を用いる従来の技術では、サイズの小さい被検出試料を検出する場合、感度が不十分であるという問題がある。この欠点を補う為に、SPRセンサーと同様の光学系を用いて、SPRセンサーの貴金属面の上に光導波路を形成し、この光導波路中に励起される光導波モードを利用することにより、高感度にセンサー表面での分子吸着を測定できることが報告されている(非特許文献1参照)
光導波モードは、誘電体内の多重反射に基づくモードである。図1に光導波モードを発現するチップの基板構造を示す。ガラス側からある角度をもって入射された光はガラスを透過し、反射膜層に照射され、光導波路側にエバネセント波を生じる。このエバネセント波が前記の光導波路における光導波モードと結合すると、入射された光は、その一部又は全部が、光導波路内を伝搬する光となり、その結果、反射されなくなる、と言う現象が良く知られている。つまり、光導波路の光導波モードと入射された光の結合が生じると、反射光強度の減少が生じる。この反射光強度の減少は、ある波長の光に対して、ある特定の入射角付近でのみ生じる。
上述の光導波モードと入射された光の結合が生じる入射角度や、この入射角度における反射光強度は、光導波路の表面の誘電率変化に大きく依存する為、光導波路表面に物質の吸着、付着等が生じると、この角度や反射光強度に変化が生じる。この変化を読み取ることによって、特定物質の有無及び、その物質の量などを検出するのが、従来の光導波モードセンサーである。
従来のSPRセンサーや光導波モードセンサーに用いられるチップでは、貴金属薄膜をガラス基板上に形成する場合が多いが、このような場合、ガラス基板と貴金属薄膜との密着性が悪く、剥がれやすいという欠点があった。その為、センサーとして長期安定性と信頼性が低いと言う欠点があった。また、安定性の向上の為に、貴金属膜とガラスとの間に接着層を導入しているが、その為、作製行程が煩雑になり、また、接着層の成分が貴金属内に拡散し、時間が経つにつれてセンサーの特性が劣化すると言う欠点もあった。
但し、従来のSPRセンサーにおいては、特定の入射角度においてSPRが発現し、反射光強度の減少が起こる金属であれば、どのような金属でも使用可能であることが知られている。また、従来の光導波モードセンサーにおいては、光導波路の光導波モードと入射された光の結合が生じ、特定の入射角度において、反射光強度の減少が起こる反射膜であれば、どのような反射膜でも使用可能である。
しかしながら、実際にはこのような条件を満たす金属や反射膜となりうる材料は少ない。その為、センサーの使用環境に合わせた材料の選択を行うことが困難であった。
特開平6-58873号公報 特開2002-195942号公報 特開2000-339895号公報 特開2004-170095号公報 特開2004-184381号公報 Journal of Physical Chemistry B Vol. 108, pp. 10812〜10181, 2004年
本発明は、上記の問題点を解決することを目的とし、従来の表面プラズモン共鳴を利用する技術や、従来の光導波モードセンサーより高安定で信頼性が高く、様々な環境に適応可能な光導波モードセンサーを提供することを目的としている。
本発明の光導波モードセンサーは、透明な誘電体材料又は透明な伝導体材料の基板とその上に被覆した反射膜と、さらに該反射膜上に形成した誘電体層又は半導体層とからなるチップを用い、該チップの前記基板側から、前記反射膜に光を入射する光入射機構と、前記反射膜によって反射される前記光の反射光を検出する光検出機構と、を備え、入射光の一部又は全部が前記誘電体層又は前記半導体層からなる光導波路内を伝搬する光導波モードと結合することによって、前記光の入射角と当該光の反射光強度との関係において、反射光強度が強くなる上向きの凸形状となる角度領域を用いて、前記誘電体層又は前記半導体層の表面に検出対象となる検体が吸着又は付着した際に生じる入射角度或いは反射光強度の変化を読み取り、検体の検出を行う。
前記上向きの凸形状において、反射率の最も低い値と最も高い値の差が0.4以上ある。凸形状の高さが高いことによって、より高感度なセンサーを提供することができる。前記反射膜は、元素の周期表の4〜14族の金属又はこれらの金属を基とする合金から選択した一成分以上の金属薄膜である。前記反射膜を基板上に被覆する手段としては、蒸着、スパッタリング、無電解めっき、電気めっき法などが利用でき、基板に被覆できる手段であれば、特に制限はない。
前記反射膜は、半導体材料の薄膜である。半導体材料は、SiやGeのような単一の元素によって構成される半導体の他に、化合物半導体でも良く、その伝導特性はn型でもp型でも真性半導体でも良い。前記誘電体層又は前記半導体層は光導波モードが発現する程度の膜厚を有している。
前記光導波路を形成する誘電体材料又は半導体材料は、酸化シリコン、金属酸化物、金属窒化物、半導体材料の酸化物、半導体材料の窒化物又は高分子化合物を主成分として形成されている。
前記光導波路の表面に分子認識基を化学修飾する。前記分子認識基として、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルデヒド基、イソチオシアネート基、スクシンイミド基、ビオチニル基、メチル基、フルオロメチル基のいずれかを化学修飾する。上記分子認識基の使用は、いずれも好ましいものであり、特に制限なく使用することができる。
前記入射される光は、p偏光又はs偏光の光であり、これらの光の反射光を検出する。前記基板は板状の平板ガラスである。
前記チップの光導波路が形成されている面と反対側の基板表面を、屈折率調節オイルを介して光学プリズムに密着させた構造を備えている。前記基板はプリズムである。
p偏光又はs偏光の光が光学プリズムの中心軸に対してある角度で入射したときに、前記反射光強度の変化が起こる入射角度付近に前記光の入射角度を固定し、反射光の強度を検出する。前記光導波路に化学修飾された分子認識基に、気体中又は液体中において、選択的に吸着あるいは化学結合する分子、イオン又は分子集合体の膜厚、質量、サイズ又は誘電率を測定する。
本発明によれば、前記光の入射角と当該光の反射光強度との関係において、反射光強度が強くなる上向きの凸形状となる角度領域を用いて、検体の検出を行う光導波モードセンサーを提供することができる。
このような構成の光導波モードセンサーとすることにより、反射膜材料として使用可能な材料が増える為、従来の表面プラズモン共鳴を利用する技術や、従来の光導波モードを利用する技術に比べ、反射膜材料の選択の幅が広がり、安定且つ信頼性の高いセンサーを提供することができるという著しい効果を有する。
以下、本発明の特徴を、図等を用いて具体的に説明する。なお、以下の説明は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に含まれるものである。
本発明は、上記の通り、検体の検出の為に、光導波モードを利用する。まず、光導波モードについて説明する。本発明では、図1に示すようなチップを用いる。このチップは、ガラス基板とその上に被覆した反射膜と、さらに該反射膜上に形成した誘電体層又は半導体層とから構成される。この誘電体層や半導体層が光導波路となって、特定の条件の下で入射された光の一部又は全部がこの光導波路内を伝搬する。このような構造を持つチップに対して、ガラス側から光を入射すると、ある入射角において反射光強度が急激に変化する現象が生じる。このような例を図2に示す。なお、ガラス基板を用いた場合を例として以下説明するが、基板材質としては、ガラス以外にも、プラスチック(樹脂)、セラミックス、絶縁物等の透明な誘電体材料、或いは、ITO等の透明な伝導体材料を用いることができる。
図2は、図1のチップのガラス側、つまり光導波路が形成されていない側にプリズムを配して、光を入射した際の、光の入射角度と反射光強度の関係を示す。図2中には、4カ所、反射光強度における減少、つまりディップが見られる。このような反射光強度の減少の原因は主に2つある。1つは、前述のような表面プラズモン共鳴であり、図2中のθ0の入射角度で生じる反射光強度のディップがこの表面プラズモン共鳴に起因するものである。表面プラズモン共鳴は、負の誘電率を持つ金属、特に貴金属などを反射膜として用いた場合に生じる現象であり、光導波路部分が無くても生じる現象である。また、この表面プラズモン共鳴に起因する反射光の減少は入射光がp偏光の場合には生じるがs偏光の場合は生じない。
図2に見られる、別の反射光強度の減少は、光導波モードに起因するものであり、図2中のθm=1、2、3の入射角での反射光強度のディップに対応する。この反射光強度のディップは図1に示す誘電体層や半導体層による光導波路が無い場合や、これらの層が薄い場合は生じない。光導波モードが発生する誘電体層や半導体層の最低の厚さは、使用する光の偏光状態によっても異なるが、一般にこれらの層の屈折率が高ければ薄くても良く、光の波長が短い場合も薄くて良い。一方、これらの層の屈折率が低い場合や使用する光の波長が長い場合は、厚い層が要求される。例えば、層の屈折率が1.457で波長633nmの光を用いた時、光がs偏光の場合は誘電体層の厚さは最低100nm程度が必要であり、p偏光の場合は200nm程度以上の厚さが必要である。
光導波モードとは、ある有限の空間内に光が閉じこめられて伝搬していく状態のことである。最も良く知られている光導波モードとしては光ファイバ内の光の伝搬状態が挙げられる。光ファイバは、屈折率が低いファイバ状(通常非常に細長い円筒型)の材料の中心に屈折率の高い部位(通常、コアと呼ばれる)を形成し、この屈折率差によって生じる光の反射によって、光をコア中に閉じこめて伝搬させる。
屈折率の低い物質(空気や真空状態も含む)に挟まれた板状の材料中を光が伝搬するスラブ型光導波路も良く知られている。
本発明で用いるチップの構造は図1に示すように、基体となるガラスの上に反射膜を形成し、さらにその上に、誘電体又は半導体の層を形成する。この層の上側(表面側)が、この層よりも屈折率の低い物質、例えば空気や水、に触れている場合、この層はスラブ導波路と似た構造となり、この層中に光を閉じこめて伝搬させることが可能となる。このように、この層中に光が閉じこめられて伝搬する状態が、この場合の光導波モードである。
図1におけるガラス側から光を入射した際、反射膜がある程度薄い場合、全反射条件を満たす入射角で光を照射した場合でも、その光の一部又は全部がエバネッセント波として、光導波路側に染み出す。光の入射角がある特定の値となったとき、このエバネセント波は光導波路中を伝搬することとなる。このことを、入射光が光導波モードと結合する、又は、入射光が光導波モードとなる、と表現する。その結果、入射された光は、その一部又は全部が、光導波路内を伝搬する光となり、その結果、反射されなくなる。よって、前述のような反射光強度の減少が起こる。この反射光強度の減少は、ある波長の光に対して、ある特定の入射角付近でのみ生じ、図2に示すようなディップ形状となる。
以上に示したものは、反射光強度に減少が生じ、ディップが観測される場合の例であるが、これとは反対に、入射光が光導波モードと結合すると、反射光強度が強められる場合がある。この場合、光導波モードと結合を生じない入射角で入射された光の反射光強度は弱く、導波モードと結合する角度で入射された反射光強度は強くなる。本発明は、特定の入射角において、反射光強度が強められる現象を用いて、検体の検出を行う。この反射光強度が強められる具体例に関しては後述する。
光導波モードは伝搬する光の波長、偏光面、光導波路の厚さ及び屈折率に依存し、個数が増減する。
上述のように、光導波路の厚さが非常に薄いと、光導波モードは発生しない。この厚さが厚くなると光導波モードが発生するのだが、まず初めに発生する光導波モードを1次の光導波モード、さらに膜厚を厚くしていくと、次に発生する光導波モードを2次の光導波モード、と言うように呼ぶ。さらに膜厚を厚くしていくと、3次、4次と光導波モードが増えていく。
よって、光導波路の厚さを厚くしていくと、まず、1次の光導波モードと入射光との結合による反射光強度の変化が観測され、さらに厚さを増していくと、2次の光導波モードと入射光との結合による反射光強度の変化が観測され、さらに厚さが厚くなると、さらに高次の光導波モードとの結合による反射光強度の変化が見られるようになる。
前述のような反射光強度の著しい変化や、この変化が生じる光の入射角度は、光導波路の表面の誘電率変化に大きく依存する為、光導波路表面に物質の吸着、付着等が生じると、この角度や反射光強度に変化が生じる。この変化を読み取ることによって、特定物質の有無及び、その物質の量などを検出するのが、光導波モードセンサーである。
また、本センサーは、光導波路表面に薄い膜を形成した際、その膜の厚さや屈折率、誘電率を測定することも可能であることから、薄膜の物性評価用センサーとしても使用可能である。
図2に示すKretschmann配置(プリズムとガラスおよび反射膜が密着した状態の構造)と呼ばれる配置は、既存の表面プラズモン共鳴の光学系で利用されている。但し、本発明の光導波モードセンサーには、反射膜表面に光導波路が付加されている。光が、偏光板及びプリズムを介して、ガラス側から反射膜に光を照射すると、特定の条件の下でこの光導波路の光導波モードと入射光との結合が生じ、上述のように反射光強度の変化が生じる。反射膜によって反射される光の強度は、検出器によって検出される。偏光板は図3に示すように2枚用いられることが多く、2枚の偏光板のうち、プリズムに近い方の偏光板は、反射面に対して振動方向が平行なp偏光あるいは垂直なs偏光の選択を行う為に設置されている。また、レーザー光源に近い方の偏光板は、光導波路に入射される光強度を調節するために設置されている。
このように、光導波モードによる反射光強度の変化も、従来のKretschmann配置と同様の光学系にて観測することが可能である。よって、本発明ではこの光学系を利用する。光学プリズムは図中に示した三角プリズム以外に、シリンドリカルプリズムや半球プリズムなど、あらゆるプリズムが使用可能である。また、光学プリズムは用いなくても検出は可能である。光学プリズムは、光導波モードと入射光との結合が生じる光の入射角度を変化させる働きをする。
図3は光導波モードセンサーシステムの構成例であり、通常、レーザー光源、偏光子、ゴニオメーター、光検出器、解析用ソフトウエアを備える。液セルとチップ及びプリズムを組み合わせたものを、入射角制御用ゴニオメーター上に設置し、偏光板を通してp又はs偏光されたレーザー光をプリズム側から入射する。これに対する反射光を光検出器で取り込む。液セルは、チップの分子検出面、つまり光導波路の表面に検体となる溶液を保持するために用いる。チョッパーとロックインアンプはレーザー光以外の外光(室内光など)からのノイズを抑えるために用いることがある。
光導波モードと入射光との結合による様々な反射光特性の具体例を以下に示す。
従来から用いられている最も一般的に知られている挙動としては、図2にも示したように、特定の入射角度において、反射光強度が著しく低下する現象である。このような現象の実例を図4に示す。図4は、入射光として633nmの光のp偏光を用いる場合で、屈折率1.8のガラスを用い、反射膜として厚さ47nmの金を、光導波路として厚さ600nmのシリカガラスを用いた場合の光の入射角と反射光強度の関係である。シリカガラスは、最も安定な酸化シリコンの一種である。ここで、光導波路層の表面は水に浸っているとする。
図4に見られるように、特定の入射角53.8°付近で急激な反射光強度の減少が見られ、反射光強度は下向きの凸形状となる。従来の光導波モードセンサーでは、この反射光強度の下向きの凸形状が生じる入射角付近を用いて検体の検出を行う。
このような従来の光導波モードにみられるような挙動とは別の挙動として、上述のように、特定の入射角度において反射光が著しく増加する現象がある。このような現象の例を図5に示す。図5は、入射光として633nmの光のs偏光を用いる場合で、屈折率1.8のガラスを用い、反射膜として厚さ10nmのタングステンを、光導波路として厚さ600nmのシリカガラスを用いた場合の光の入射角と反射光強度の関係である。ここでも光導波路層の表面は水に浸っているとする。図5に見られるように、特定の入射角56.1°付近で急激な反射光強度の増加が見られ、反射光強度は上向きの凸形状となる。
本発明では、この反射光強度が強くなる上向きの凸形状となる入射角付近を用いて検体の検出を行う。つまり、光導波路表面に物質の吸着や付着等が生じた際に、この反射光強度が強くなる上向きの凸形状となる入射角付近における、反射光強度の変化や、凸形状が生じる入射角度の変化、例えば凸形状において最も高い反射率を示す入射角の変化を読み取ることによって、特定物質の有無及び、その物質の量などを検出する。
図5に見られるような、反射光強度の強くなる上向きの凸形状は入射光がs偏光の場合に顕著に表れる。ここで、s偏光とは、図2において電界の振動方向がy方向に水平な光である。ちなみにp偏光は、図2において、電界の振動方向がy方向に垂直な光である。また、反射光強度の強くなる上向きの凸形状が見られる反射膜としては、屈折率nが1程度以上で、減衰係数kが0.5以上の材料が挙げられる。屈折率nが大きく、減衰係数kも大きい材料では、特に反射光強度の強くなる上向きの凸形状が顕著に表れる。また、kが0.5より小さい場合でも、屈折率nが1〜2程度であれば、反射光強度の強くなる上向きの凸形状が生じる。
では、実際、上述のような反射光強度における上向きの凸形状が顕著に見られる材料にはどのようなものがあるか例を挙げると、波長632.8nmでは、ニッケル、コバルト、マンガン、白金、タンタル、チタン、タングステン、ニオブ、モリブデン、バナジウム、クロム、鉄、などが当てはまる。また、紫外から赤外光領域の光を入射光として用いた場合、ほぼすべての金属、及び半導体材料において、これらの材料を反射膜として用いた場合、反射光強度において上向きの凸形状が見られる波長の光が存在する。よって、反射膜には、化学的且つ物理的に安定な、元素の周期表の4〜14族から選択した金属、またはこれらの金属を主成分とした合金などの化合物が使用可能であり、また、半導体材料などの使用も好ましい。半導体材料の場合、SiやGeのような一元素からなる半導体でも良いし、化合物半導体でも良い。またその伝導特性もp型でもn型でも絶縁性(真性半導体)でもよい。
つまり、従来の光導波モードセンサーと異なり、反射光強度の強くなる上向きの凸形状領域を用いることによって、反射膜の材料を選択する際の自由度が格段に向上し、よって、例えば、熱特性の良い、チタンやタングステン、ガラスとの密着性の良い、ニッケルやクロムと言った材料を選択することによって、より安定した信頼性の高いセンサーを得ることができる。
但し、高感度なセンサーを得るには、凸形状の高さ、つまり反射率の低いところと高いところの差が大きいことが望ましい。よって、凸形状の裾部分、つまり図5中の(1)の反射率が、0.5以下であり、凸形状の高さ、つまり(1)から(2)までの高さが0.4以上であることが望ましい。また、高感度なセンサーを得るには、凸形状が鋭く尖っている方が良い。よって、凸形状の半値幅が5°以下であることが望ましい。凸形状の裾部分の反射率及び凸形状の高さは、反射膜の厚さに大きく依存する為、最適な厚さを選択することも重要である。
基板に用いるガラスは、通常、検出時に用いる光に対しての屈折率が1.4〜2.2程度が望ましく、さらには1.6〜2.0程度が望ましい。
光導波路に酸化シリコンを利用する場合には、反射膜上への堆積が容易であり、光学的に平滑な表面を得ることができ、また生体関連物質に対して不活性であり、さらに表面の化学修飾が容易であるという特徴があるので、好ましい材料と言える。酸化シリコンの堆積方法としては、ゾルゲル法、熱酸化法、スパッタリング法などを使用することができる。また、酸化シリコン以外にも、窒化シリコンのような半導体材料の窒化物、酸化チタンのような金属酸化物、チタンナイトライドのような金属窒化物又はポリメチルメタクリレートのような高分子化合物など、透明度の高い誘電体材料や半導体材料などは好ましい材料である。
検出に用いる光は、基本的には電磁波であれば特に制限はないが、取り扱いが容易という点で、赤外〜紫外領域の光を使うことが望ましい。
反射膜としてタングステンを用いた光導波モードセンサーの例を示す。本実施例では、屈折率1.846の板状のガラスを用い、その上に、膜厚が17nmとなるようにタングステン薄膜を形成する。照射光波長は633nmとした。光導波路は酸化シリコンで形成し、その膜厚は800nmとした。図2に示す通り、チップの光導波路が形成れていない面には、屈折率調節オイルを介して光学プリズムを密着させた。一方、光導波路側はリン酸緩衝液に浸した。
まず、上記条件で、どのような反射光強度特性が得られるか、フレネルの式を用いて計算した結果を図6に示す。s偏光およびp偏光のどちらにおいても、光導波モードが発現し、入射角の変化に対する反射光強度の変化が生じることが分かる。但し、p偏光を用いた場合では、非常になだらかな強度変化となっており、センサーとして、高感度は期待できない。一方、s偏光を用いた場合では、良好な鋭い上向きと凸形状が予測される。また、s偏光を用いた場合には、2つの凸形状が観測される。これは、この光導波路に2つの光導波モードがあること示している。
上述のようなタングステン薄膜を使用した光導波モードセンサーを作製し、s偏光を使用して分子検出試験を行った。25mm四方、厚さ1mm、屈折率1.846の板ガラス上に、タングステン17nmをスパッタリング法にて堆積した。その後、タングステン薄膜の上にシリカガラスをターゲットとしたスパッタリング法にて酸化シリコンを800nm形成し、光導波路とした。このチップの光導波路が形成されていない側の面に、屈折率1.846の三角プリズムを屈折率調節オイルを介して密着させ、633nmの光を照射し、反射光強度と入射角の関係を測定した結果を図7に示す。このとき、上述のように、光導波路側はリン酸緩衝液に浸した。シミレージョン結果に非常に近い、2つの上向きの凸形状を持った反射光強度特性が得られた。
その後、このチップの光導波路側を弱アルカリ水溶液に一時間浸漬後乾燥し、0.2wt.%3-アミノプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液に2時間浸漬し、光導波路表面に反応活性なアミノ基を修飾した。エタノールでリンスし乾燥後、0.1mMスルホスクシンイミジル-N-(D-ビオチニル)-6-アミノヘキサネートを含む1/15M リン酸緩衝液に浸した。そのまま1時間放置し、アミノ基とスクシンイミド基を反応させ、ビオチニル基を導入した。図8は、光導波路表面へのビチオン化学修飾の説明図である。光導波路である酸化シリコン(図中ではSiOと表記)の表面には水酸基(−OH)が出ており、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤に浸漬することによって、容易に酸化シリコン表面に活性な基であるアミノ基(−NH2)を修飾することができる。さらに、リン酸緩衝液(pH7.4)にスクシンイミド基を有するビオチン化合物を溶解した溶液中へアミノ基が修飾された基板を浸漬することにより、容易にたんぱく質(ストレプトアビジン)を特異的に認識するビオチンを修飾することができ、バイオセンサーとしての利用価値が生まれる。
次に、入射角を48.46°に固定し、ビオチニル基に特異的に吸着するストレプトアビジンを0.5μM含有する1/15Mリン酸緩衝液を、光導波路表面側に用意した溶液セル中に注入し、光導波路表面をこのリン酸緩衝液に浸しながら反射光強度を測定した。
図9に示すように、ストレプトアビジンの注入直後から反射光強度の増加が観察され、20分から30分の間にほぼ一定になった。また、反射率の増加量は、0.05〜0.06という値を得た。
従来のSPRセンサーにおいて、金薄膜上にビオチニル基を修飾し、平均膜厚4nmでストレプトアビジンが吸着すると仮定し、表面プラズモン共鳴が起こる入射角付近での反射率変化量をフレネルの式に基づいて計算すると、理論的には最大で0.14程度の反射率変化が期待できる。一方、本発明における上記の実施例においては、理論上、最大でも0.068程度の反射率変化しか期待できない。つまり、本発明の光導波モードセンサーは、その検出感度は従来のSPRセンサーの感度より良くない。しかしながら、タングステンは、金と比較して格段にガラスとの密着性が良いという効果がある。また、高温でも安定であり、よって、過酷な使用環境下でも劣化が少なく、また、長期の使用にも耐えると言う利点がある。このように、本発明によって、反射膜の選択範囲が増えることによって、安定性が良く信頼性の高いセンサーを提供することが可能となる。
次に、反射膜としてチタンを用いた場合の例を示す。25mm四方、厚さ1mm、屈折率1.846の板ガラス上に、チタン19nmをスパッタリング法にて堆積した。その後、タングステン薄膜の上にシリカガラスをターゲットとしたスパッタリング法にて酸化シリコンを800nm形成し、光導波路とした。このチップの光導波路が形成されていない側の面に、屈折率1.846の三角プリズムを屈折率調節オイルを介して密着させ、633nmの光を照射し、反射光強度と入射角の関係を測定した結果を図10に示す。この場合も、上向きの凸形状を持った反射光強度特性が得られている。その後、この光導波路表面を実施例1と同様の方法でビチオン化学修飾した。
次に、入射角を47.87°に固定し、ビオチニル基に特異的に吸着するストレプトアビジンを0.5μM含有する1/15Mリン酸緩衝液を、光導波路表面側に用意した溶液セル中に注入し、光導波路表面をこのリン酸緩衝液に浸しながら反射光強度を測定した。図11に示すように、ストレプトアビジンの注入直後から反射光強度の増加が観察され、20分から30分の間にほぼ一定になった。また、反射率の増加量は、約0.07という値を得た。
本実施例においては、理論上、最大0.083程度の反射率変化が期待される。実施例では、ほぼ理論値通りの値を得ることができた。チタンも非常に安定な金属であり、ガラスとの密着性も良い為、安定で信頼性の高いセンサーを提供できる。
本発明は光の入射角と光の反射光強度との関係において、反射光強度が強くなる上向きの凸形状となる角度領域を用いて、検体の検出を行う光導波モードセンサーを提供する。このような構成の光導波モードセンサーとすることにより、DNA、抗原−抗体などのたんぱく質、糖鎖などのバイオセンサーおよび金属イオン、有機分子などの化学物質センサーに適用可能であり、医療、創薬、食品、環境等の分野において活用できる。また、光導波路の表面に薄膜を形成すれば、この薄膜の屈折率や誘電率や厚さなどを測定できることから、薄膜材料に対するセンサー、薄膜材料の特性を測定する測定器としても使用が可能である。
光導波モードを発現するチップを示す図である。 光導波モードを誘起するための光学配置の例を示す説明図である。 光導波モードセンサーの構成例を示す図である。 従来の光導波モードセンサーにおける、光の入射角と反射光強度の関係を示す図である。 本発明の光導波モードセンサーにおける、光の入射角と反射光強度の関係を示す図である。 本発明の実施例において、反射膜にタングステンを用いた光導波モードセンサーにおける、光の入射角と反射光強度の関係のシミュレーション結果を示す図である。 本発明の実施例において、反射膜にタングステンを用いた光導波モードセンサーにおける、光の入射角と反射光強度の関係を示す図である。 酸化シリコン表面へのビチオン化学修飾の説明図である。 本実施例において、ストレプトアビジンの特異吸着による反射光強度変化を示す図である。 本発明の実施例において、反射膜にチタンを用いた光導波モードセンサーにおける、光の入射角と反射光強度の関係を示す図である。 本実施例において、ストレプトアビジンの特異吸着による反射光強度変化を示す図である。

Claims (14)

  1. 透明な誘電体材料又は透明な伝導体材料の基板とその上に被覆した反射膜と、さらに該反射膜上に形成した誘電体層又は半導体層とからなるチップを用い、
    該チップの前記基板側から、前記反射膜に光を入射する光入射機構と、前記反射膜によって反射される前記光の反射光を検出する光検出機構とを備え、
    入射光の一部又は全部が前記誘電体層又は前記半導体層からなる光導波路内を伝搬する光導波モードと結合することによって、前記光の入射角と当該光の反射光強度との関係において、反射光強度が強くなる上向きの凸形状となる角度領域を用いて、前記誘電体層又は前記半導体層の表面に検出対象となる検体が吸着又は付着した際に生じる入射角度或いは反射光強度の変化を読み取り、
    検体の検出を行うことを特徴する光導波モードセンサー。
  2. 前記上向きの凸形状において、反射率の最も低い値と最も高い値の差が0.4以上あることを特徴とする請求項1記載の光導波モードセンサー。
  3. 前記反射膜は、元素の周期表の4〜14族の金属又はこれらの金属を基とする合金から選択した一成分以上の金属薄膜であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の光導波モードセンサー。
  4. 前記反射膜は、半導体材料の薄膜であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の光導波モードセンサー。
  5. 前記誘電体層又は前記半導体層は光導波モードが発現する程度の膜厚を有していることを特徴とする請求項1から4記載の光導波モードセンサー。
  6. 前記光導波路を形成する誘電体材料又は半導体材料は、酸化シリコン、金属酸化物、金属窒化物、半導体材料の酸化物、半導体材料の窒化物又は高分子化合物を主成分として形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光導波モードセンサー。
  7. 前記光導波路の表面に分子認識基を化学修飾したことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光導波モードセンサー。
  8. 前記分子認識基として、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルデヒド基、イソチオシアネート基、スクシンイミド基、ビオチニル基、メチル基、フルオロメチル基のいずれかを化学修飾したことを特徴とする請求項7に記載の光導波モードセンサー。
  9. 前記入射される光は、p偏光又はs偏光の光であり、これらの光の反射光を検出することを特徴とする請求項1から8に記載の光導波モードセンサー。
  10. 前記基板は板状の平板ガラスであることを特徴とする請求項1から9に記載の光導波モードセンサー。
  11. 前記チップの光導波路が形成されている面と反対側の基板表面を、屈折率調節オイルを介して光学プリズムに密着させた構造を備えていることを特徴とする請求項1から10に記載の光導波モードセンサー。
  12. 前記基板はプリズムであることを特徴とする請求項1から9に記載の光導波モードセンサー。
  13. p偏光又はs偏光の光が光学プリズムの中心軸に対してある角度で入射したときに、前記反射光強度の変化が起こる入射角度付近に前記光の入射角度を固定し、反射光の強度を検出することを特徴とする請求項11または12のいずれかに記載の光導波モードセンサー。
  14. 前記光導波路に化学修飾された分子認識基に、気体中又は液体中において、選択的に吸着あるいは化学結合する分子、イオン又は分子集合体の膜厚、質量、サイズ又は誘電率を測定することを特徴とする請求項7〜13のいずれかに記載の光導波モードセンサー。
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