JP2007239028A - 鋼材の熱処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】塑性変形加工が施された鋼材に対して適切な熱処理を行い、生産効率を向上させる。
【解決手段】組成比が所定範囲内であるワークは、第1工程S1において、熱間鍛造によって金属組織中に析出物を形成するとともにリテーナの形状に塑性変形され、高温が保持された状態で熱処理炉に導入される。このリテーナは、次に、熱処理炉内でAc1〜Ac3点間の温度まで昇温されて保持される(第2工程S2)。昇温・保持は10分以内で十分であり、好ましくは3分程度である。リテーナは、次に、5〜45℃/分、好ましくは5〜20℃/分の冷却速度で除冷される(第3工程S3)。
【選択図】図1
【解決手段】組成比が所定範囲内であるワークは、第1工程S1において、熱間鍛造によって金属組織中に析出物を形成するとともにリテーナの形状に塑性変形され、高温が保持された状態で熱処理炉に導入される。このリテーナは、次に、熱処理炉内でAc1〜Ac3点間の温度まで昇温されて保持される(第2工程S2)。昇温・保持は10分以内で十分であり、好ましくは3分程度である。リテーナは、次に、5〜45℃/分、好ましくは5〜20℃/分の冷却速度で除冷される(第3工程S3)。
【選択図】図1
Description
本発明は、熱間温度域で塑性変形加工が施された鋼材の諸特性を向上するための鋼材の熱処理方法に関する。
自動車の走行機関を構成する等速ジョイントのリテーナは、一般的に、円柱体からなる炭素鋼製ワークを加熱して熱間温度域まで昇温し、圧潰、穿孔(ピアッシング)、再圧潰を順次行い、高さ方向略中腹部が若干膨出したリング体に鍛造加工(塑性変形加工)されることによって製造されている。
このようにして成形加工されたリテーナは、室温まで冷却された後、熱処理設備まで搬送される。そして、リテーナを軟化させて変形能を向上させたり、又は硬度の均質化を図るべく、この熱処理設備において、低温焼き鈍し、球状化焼き鈍し、又は焼きならし等の各種の熱処理が施される。
次に、前記熱処理の際に発生する酸化スケール等を除去するショットブラスト処理が行われ、さらに、必要に応じてリテーナの外表面にリン酸亜鉛等からなる潤滑用化成皮膜が形成される。その後、切削加工によって寸法調整がなされ、さらに、前記等速ジョイントの外輪部材に形成される溝と対となってボールを挟持するための窓が設けられる。
ところで、このような製造過程を経る場合、熱処理を施す前のリテーナを保管しておくための広大なスペースが必要であるが、保管の目的のみにスペースを確保することは経済的に不利である。
また、熱処理は、例えば、トランスファー上に載置されたリテーナを連続式加熱炉内で移動させながら行われるが、リテーナが連続式加熱炉内に搬入されてから搬出されるまでの時間、換言すれば、処理時間が長く、このためにリテーナの生産効率が低いという不具合が顕在化している。なお、バッチ式加熱炉に変更しても、処理時間を短縮することはできない。
さらに、低温焼き鈍し、球状化焼き鈍し、又は焼きならしを行うための熱処理設備は、いずれも大規模な設備が必要であり、従って、設備投資が高騰してしまう。
しかしながら、このような不具合を回避するべく熱処理を省略すると、リテーナが軟化することも硬度が均質になることもないので、窓を設けることや切削加工を施すことが容易でなくなる。
以上のような観点から、短時間で終了し、且つ簡素な設備で実施することが可能な熱処理方法を確立することが希求されており、例えば、特許文献1には、焼入れを省いて焼き戻しのみを行うようにすることが提案されている。また、特許文献2には、鋼製ワークをAc1〜Ac3点間の温度で加工度45〜65%の塑性変形加工を行い、その後、空冷(自然放冷)することが開示されている。
特許文献1に記載された熱処理方法では、鍛造加工後の成形品が放冷される。このため、成形品を保管するスペースを確保しなければならない。換言すれば、特許文献1記載の熱処理方法では、保管スペースを狭小化することができない。
また、特許文献2記載の加工方法は温間鍛造であり、そのために加工率が制限されてしまうという問題がある。
さらに、成分・組成比が規定された鋼材に対して各種の熱処理を行っても、例えば、切削性が向上しないことがある。
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、保管スペースを不要とし、短時間で、しかも、簡素な設備で実施することが可能で、しかも、特定の鋼種の切削性を向上させることも可能な鋼材の熱処理方法を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明は、0.1〜0.3質量%のC、0.35質量%以下のSi、1.5質量%以下のMn、0.03質量%以下のS、0.0003〜0.005質量%のB、0.01質量%以下のN、0.05質量%以下のTi、0.06質量%以下のAl、0.005〜0.2質量%のNbを少なくとも含み、且つ熱間温度域で塑性変形加工が施された後に少なくともNbを含む析出物が存在する鋼材の熱処理方法であって、
前記鋼材に対して熱間温度域で塑性変形加工を施す第1工程と、
塑性変形加工が施されることに伴って加工熱を帯びた前記鋼材を、加工熱が残留している時点で加熱してAc1〜Ac3点間の温度に保持する第2工程と、
加熱保持された前記鋼材を、パーライトの析出が終了する温度となるまで5〜45℃/分の冷却速度で冷却する第3工程と、
を有し、
前記第2工程での保持時間を10分以内とすることを特徴とする。
前記鋼材に対して熱間温度域で塑性変形加工を施す第1工程と、
塑性変形加工が施されることに伴って加工熱を帯びた前記鋼材を、加工熱が残留している時点で加熱してAc1〜Ac3点間の温度に保持する第2工程と、
加熱保持された前記鋼材を、パーライトの析出が終了する温度となるまで5〜45℃/分の冷却速度で冷却する第3工程と、
を有し、
前記第2工程での保持時間を10分以内とすることを特徴とする。
第2工程及び第3工程を経ることにより、鋼材が軟化するとともに、該鋼材の硬度が部位や表面からの距離によらず略同等となる。
しかも、本発明においては、加工熱が残留している時点で熱処理を行うので、塑性変形加工が施された鋼材を保管する必要がない。従って、保管のためのスペースを用意することも不要となるので、スペースを他の用途に有効活用することができる。
また、保持時間を10分以内とするので、熱処理設備の規模を球状化焼き鈍し設備等の従来の熱処理設備に比して小さくすることができる。このため、設備投資が高騰することが回避される。その上、熱処理効率が向上するので、熱処理に要するエネルギが低減されるとともに、生産効率が向上する。結局、コスト的に有利となる。
さらに、Nbを含有することで析出物が形成され、その結果、オーステナイト粒が粗大化することが抑制される。このため、最終製品の靱性及び疲労強度が向上する。
なお、熱間温度域で塑性変形加工が施された後の鋼材において、前記析出物の個数は、概ね5個/10μm2以上であることが好ましい。この場合、オーステナイト粒の粗大化を抑制する効果に優れるからである。
鋼材としては、質量%で1.5%以下のCr、1.5%以下のNi、1%以下のMoの少なくともいずれか1種をさらに含有するものであってもよい。
又は、質量%で0.2%以下のPb、0.2%以下のBi、0.0005〜0.05%のTe、0.0005〜0.003%のCa、0.003〜0.05%のSeの少なくともいずれか1種をさらに含有する鋼材を使用するようにしてもよい。この場合、Cr、Ni、Moは共存していてもよく、存在していなくともよい。
前記第2工程の冷却速度は、600℃となるまでを5〜20℃/分とし、600℃以降を15〜25℃/分とすることが好ましい。この場合、組織が一層微細化し、その結果、硬度のバラツキが一層抑制される。
また、塑性変形加工は、1000〜1300℃で行うことが好ましい。1000℃未満では加工率が低く塑性変形が困難であり、また、1300℃を超える温度ではコスト的に不利である。
本発明によれば、加工熱が残留している状態の鋼材に対し、所定の条件下で熱処理を施すようにしている。この熱処理によって鋼材が軟化するとともに、該鋼材の硬度が略一定となる。このため、切削加工や穿孔加工等の機械加工を行う際に各部位の寸法精度が良好となる。
また、加工熱が残留している時点で熱処理を行うので、保管のためのスペースを用意する必要もない。
さらに、保持時間を10分以内とするので、熱処理設備の構成が簡素になる。しかも、保持時間が短いので熱処理効率が向上し、その上、熱処理に要するエネルギが低減されるとともに、生産効率が向上する。
以下、本発明に係る鋼材の熱処理方法につき、ワークに対して熱間鍛造加工を施して等速ジョイントのリテーナを作製する場合を例として好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
本実施の形態に係る鋼材の熱処理方法をフローチャートにして図1に示す。この熱処理方法は、熱間鍛造加工を行う第1工程と、得られたリテーナをAc1〜Ac3点間の温度に保持する第2工程と、加熱保持が終了したリテーナを冷却する第3工程とを有する。
図2A〜図2Fは、第1工程S1において、鋼材からなる円柱体形状のワーク10から第1次成形品12、第2次成形品14、第3次成形品18を経てリテーナ20が形成されるまでの過程を示すフローチャートである。これら図2A〜図2Fから諒解されるように、リテーナ20は、ワーク10に対し、熱間鍛造による成形加工とピアッシングが実施されて設けられる。
先ず、ワーク10の材質である鋼材につき説明する。この鋼材は、少なくともC、Si、Mn、S、B、N、Al、Ti、Nbを含有する。
Cは、ワーク10、ひいてはリテーナ20の強度を確保するための成分であり、その組成比は0.1〜0.3%(数字は質量%、以下同じ)に設定される。0.1%未満であると硬度を確保することが困難となる。また、0.3%よりも多いと、熱間加工後の硬度が過度に大きくなるので、次なる加工として冷間加工を行う場合等には、球状化焼鈍し等の軟化処理を実施する必要がある。結局、工程数が多くなる。
Siは、リテーナ20中の酸素を低減させる脱酸剤として機能する元素であるが、フェライト強化型の元素であるため、その割合が過度に大きいと熱間加工後のリテーナ20の硬度が過度に上昇する一方、冷間加工時の加工率が低減する。従って、Siは、0.35%以下に設定される。
Mnは、リテーナ20の焼入れ性及び強度を向上させる。すなわち、リテーナ20は、Mnが存在するため、焼入れが施されると焼入れ前に比して硬度が顕著に上昇する。その一方で、1.5%を超えると、硬度が過度に上昇するので冷間加工を施すことが容易でなくなるとともに、切削性も低下する。これを回避するべく、Mnの組成比は1.5%以下に設定される。
Sは、ワーク10の金属組織中でMnとともにMnSを形成し、これによりワーク10の切削性を向上させる成分であるが、過度に多量であると冷間加工時の加工率が低減する。このため、Sの組成比は0.03%以下に設定される。
Bは、リテーナ20の冷間加工時の加工率を低下させることなく焼入れ性を向上させる機能を営む。この効果を得るべく、Bの組成比は、0.0003〜0.005%(3〜50ppm)に設定される。3ppm未満であると、焼入れ性を向上させる効果に乏しい。一方、50ppmを超えると焼入れ性は飽和するのでコスト的に不利であり、また、熱間加工時に割れが生じ易くなることがある。
ここで、遊離Nがリテーナ20中に過剰に存在すると、上記したBと結合してBNが生成し、その結果、焼入れ性等が低下する。また、冷間加工の際に割れの起点となる比較的大きな晶出物がワーク10に存在する原因ともなる。このような事態を回避するべく、Nの組成比は、0.01%以下に設定される。
Tiは、前記遊離Nを捕捉する役割を果たす。このように遊離Nが捕捉された場合、上記したBの添加効果が一層顕著となる。しかしながら、過剰量で存在すると、大粒径のTiNが生成するようになるので、切削性や冷間加工時の加工率が低下したり、リテーナ20の疲労強度が低下したりする。このため、Tiの組成比は、0.05%以下に設定される。
Alは、Siと同様に脱酸に寄与する成分である。しかしながら、過剰に存在するとAl2O3等の酸化物系不純物が増加し、その結果、疲労特性、塑性変形加工時の変形能が低下する。このため、Alの上限は0.06%に設定される。
また、Alは、後述するNbとともに析出物を形成する。
Nbは、ワーク10に含まれるN又はC、場合によってはこれらに加えて前記Alとも結合して微細析出物を生成し、これによりオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する役割を果たす。この効果を得るべく、Nbの割合は、0.005%以上とする。なお、0.2%を超えると、リテーナ20の熱間加工後の硬度が過度に上昇するとともに、冷間加工時の加工率や被削性が低下する。従って、Nbの組成比は、0.005〜0.2%に設定される。
ワーク10には、Cr、Ni、Moの少なくともいずれか1種がさらに含有されていてもよい。この場合、リテーナ20の浸炭処理が施されると、深さ方向中腹部及びその近傍の強度・靭性を向上させることができる。しかしながら、過剰量が存在すると、熱間加工後の硬度が過度に上昇して冷間加工時の加工率が低下する。これを回避するべく、Cr、Niは1.5%以下、Moは1.0%以下に設定される。
また、Pb、Bi、Te、Ca、Seの少なくともいずれか1種がさらに含有されていてもよい。この場合、リテーナ20の切削性を向上させることができるので好適である。しかしながら、過剰量が存在すると冷間加工時の加工率が低下するので、Pb、Biは0.2%以下、Teは0.0005〜0.05%、Caは0.0005〜0.003%、Seは0.003〜0.05%に設定される。
Cr、Ni、Moの少なくともいずれか1種の第1群と、Pb、Bi、Te、Ca、Seの少なくともいずれか1種の第2群は、同時に存在していてもよく、どちらか一方の群のみが存在していてもよい。
このように構成されたワーク10からリテーナ20を得るには、先ず、ワーク10を熱間鍛造の温度域に昇温する。具体的には、ワーク10の温度を1000〜1300℃とすることが好ましい。1000℃未満では塑性変形を生じさせることが容易ではなく、特に、800℃未満には鋼材の変態点が存在するため、ワーク10を所定の組織とすることが容易でなくなる。また、ワーク10の変形能は1300℃で略飽和するので、1300℃を超える温度としてもコスト的に不利となる。
この熱間鍛造加工時に、Nbを構成元素として含む析出物が析出する。すなわち、Nbは、ワーク10の金属組織中に存在するC又はNの少なくともいずれか一方と結合して炭化物、窒化物、炭窒化物を形成し、場合によっては、これらの少なくともいずれか一方とAlと結合して複合炭化物、複合窒化物、複合炭窒化物を形成する。
以上の析出物は比較的微細であり、このような微細な析出物が存在する金属組織では、オーステナイト粒の粗大化が著しく抑制される。その結果、第1次成形品12、ひいてはリテーナ20の疲労強度や靭性が低下することを回避できるようになる。
Nb、Alが上記した組成比である場合、析出物は、金属組織中に概ね5個/10μm2以上の個数で析出する。なお、オーステナイト粒の粗大化が抑制される温度は、前記析出物(炭化物、窒化物、炭窒化物、複合炭化物、複合窒化物、複合炭窒化物)の析出個数が多いほど高温となる。換言すれば、析出物の個数が多いほど、ワーク10に対する熱間鍛造をより高温で行うことができるので、加工率を大きくすることが可能となる。
次に、温度が上昇したワーク10に対し、予備成形を施す。すなわち、ワーク10の一端面を支持した状態で該ワーク10を他端面側から押圧する。これに伴って円柱体形状のワーク10が圧潰され、図2Bに示すように、両端面から中腹部にかけて膨出した樽型円柱体形状の第1次成形品12となる。その後、さらなる圧潰が行われ、図2Cに示すように、ディスク形状の第2次成形品14が作製される。
次に、第2次成形品14に対し、側周壁方向からの圧潰が行われる。これにより第2次成形品14の側周壁が縮径されるとともに鉛直方向に延伸され、図2Dに示すように、略中腹部に仕切壁16(図2E参照)が残留した断面略H字形状の第3次成形品18が作製される。
そして、図2Eに示すように、ピアッシング加工が施されて第3次成形品18から仕切壁16が打ち抜かれる。さらに、図2Fに示すように、第3次成形品18に再度の圧潰が施され、該第3次成形品18の略中腹部が直径方向に沿って膨出する。これにより、リテーナ20が得られるに至る。
なお、各熱間鍛造は別個の熱間鍛造成形装置で行われ、ワーク10、第1次成形品12、第2次成形品14、第3次成形品18は、各熱間鍛造成形装置間をトランスファー等の搬送装置によって移送される。
以上の熱間鍛造が施されたリテーナ20は、図3に示すように、鍛造加工ステーション30から熱処理炉32に移送され、この熱処理炉32において、本実施の形態に係る熱処理方法の第2工程S2及び第3工程S3が実施される。
鍛造加工ステーション30から熱処理炉32までの距離は、鍛造加工が施されたリテーナ20を速やかに熱処理炉32内に導入するべく、可及的に短く設定されている(図3参照)。また、トランスファー36による搬送速度は、リテーナ20の単位時間当たりの生産数に合わせて設定される。
このように、本実施の形態によれば、塑性変形された直後で熱を帯びたリテーナ20を熱処理炉32に可及的に速やかに導入するようにしている。このため、リテーナ20を保管するスペースが不要となり、従って、スペースを他の用途に有効利用することができるようになる。
リテーナ20は、熱処理炉32に至るまでの間に大気に露呈され、このために温度が若干降下するが、図4に示すように、本実施の形態においては、リテーナ20は、熱間鍛造が施されて塑性変形を起こすことに伴って帯びた加工熱が残留している時点で熱処理炉32内に導入される。
熱処理炉32に導入される直前のリテーナ20の温度は、500℃以上とすることが好ましい。500℃を下回るまで温度が降下したリテーナ20を熱処理炉32に導入すると、Ac1〜Ac3点まで短時間で昇温するために昇温速度を大きく設定する必要があるが、この場合、結晶粒が粗大化することに起因して金属組織に欠陥が生じたりすることがあり、リテーナ20としては強度が十分でないものとなることがある。
また、これを回避するべく、500℃を下回る温度まで降下したリテーナ20を緩慢な昇温速度で昇温するには、熱処理炉32を大規模なものとして設ける必要があり、設備投資の高騰を招く。
熱処理炉32に導入される直前のリテーナ20の好適な温度範囲は、600〜720℃程度であるが、図4に示すように、冷却時におけるオーステナイトからフェライトとセメンタイトへの共析変態の開始温度であるAr1点を下回る温度、例えば、Ar1点の数値から50℃を差し引いた程度の温度まで、さらには500℃まで降下した時点で、リテーナ20が熱処理炉32に導入されるようにしてもよい。この場合、リテーナ20の金属組織からオーステナイトが消失するので、フェライトとパーライトが共存する略均一な金属組織が形成されたリテーナ20を容易に得られるからである。
Ar1点の数値は温度降下速度の相違に応じて変化し、一定ではないが、温度降下速度が20〜40℃である場合、概ね710〜720℃である。
この場合、熱処理炉32は、昇温炉38、均熱炉40、除冷炉42の3炉を有する。このうち、昇温炉38と均熱炉40は同一温度に保持されている。なお、3炉の内部にN2ガスを導入してN2雰囲気で加熱・保持・除冷が行われるようにしてもよい。
リテーナ20は、トランスファー36上に載置された状態で昇温炉38に導入され、該昇温炉38から、図1に示す第2工程S2が開始される。
昇温炉38に導入されたリテーナ20は、Ac1〜Ac3点の間の温度となるまで加熱される。
ここで、昇温速度を過度に大きく設定すると、リテーナ20の金属組織において結晶粒が粗大化し、欠陥が発生することがある。このことを回避するべく、昇温炉38の温度は、50℃/分以下の昇温速度が得られるように設定することが好ましい。なお、昇温速度が15℃/分未満であると、リテーナ20の熱処理効率が低下する。また、15℃/分未満の昇温速度でも熱処理効率を低下させないようにするには、熱処理炉32を大規模化する必要があるので設備投資が高騰してしまう。結局、好適な昇温速度は15〜50℃/分であり、17〜46℃/分とすることが一層好ましい。
この昇温速度を得るためには、昇温炉38の温度を、例えば、800〜850℃に設定すればよい。昇温炉38の導入前に500〜720℃であったリテーナ20は、昇温炉38を通過する前までに720〜780℃に達する。
そして、昇温炉38を通過したリテーナ20は、次に、均熱炉40に導入される。この均熱炉40では、昇温炉38で720〜780℃程度に昇温されたリテーナ20が、その温度に保持される。
以上の昇温・保持は、合わせて10分以内とすれば十分である。加熱処理をこれ以上行うようにした場合、熱処理炉32やトランスファー36が長くなるので熱処理設備が大規模となる。すなわち、設備投資が高騰する。また、10分を超える加熱保持を行っても、軟化や硬度の均質化の度合いは10分以内の場合とほとんど同等であるので、コスト的に不利である。昇温・保持時間は、合わせて5分以内であっても十分であり、例えば、3分とすることができる。
Ac1〜Ac3点の間の温度に保持されたリテーナ20では、オーステナイトとフェライトが共存する金属組織となる。
なお、リテーナ20の最終的な温度がAc1点未満である場合、該リテーナ20を軟化することや硬度の均質化を図ることが困難となる。また、Ac3点を超える温度まで昇温・保持した場合、オーステナイトの粗大化(異常粒成長)が起こる。このため、表面の各部位や、深さ方向で硬度にバラツキが認められる。
Ac1〜Ac3点の間の温度に所定時間保持されたリテーナ20は、次に、除冷炉42に導入され、これにより第3工程S3が開始される。
除冷炉42では、リテーナ20の冷却速度が所定の範囲内、具体的には、5〜45℃/分となるように設定される。冷却速度をこのような範囲に設定することにより、表面から内部に至るまで略均一な組織が得られ、硬度のバラツキがほとんど認められなくなる。
冷却速度は、5〜20℃/分であることがより好ましい。この場合、球状化組織が形成され、表面から内部に至る硬度が一層均一になるとともに、リテーナ20の伸びや絞りが向上する。
除冷は、パーライトの析出が終了する温度まで行えばよい。この析出終了温度は、降温速度や鋼材の種類に応じて相違するが、概ね680〜600℃の間である。従って、除冷は、温度が680〜600℃の間となるまで続行することが好ましく、例えば、650℃に低下するまで行えばよい。この温度降下に伴い、リテーナ20には、フェライトとパーライトが共存する金属組織が形成される。
このように、本実施の形態においては、リテーナ20が昇温炉38、均熱炉40、除冷炉42を短時間で通過するようにしている。このため、昇温炉38から除冷炉42に至る熱処理設備を簡素な構成とすることができる。
第3工程S3が終了したリテーナ20は、トランスファー36で除冷炉42から搬出され、室温まで冷却された後、ショットブラスト処理、必要に応じては潤滑用化成皮膜形成処理が行われ、切削加工、窓開け加工が行われる加工ステーションに移送される。
これら切削加工、窓開け加工を行うに際しては、リテーナ20の伸びや絞りが向上しているため、該リテーナ20の変形が容易に進行する。すなわち、後加工が極めて容易である。
しかも、リテーナ20の硬度は、表面では部位に関わらず略同等で、且つ表面から内部に至るまでも略一定である。このため、変形能はすべての部位にわたって略同等となり、従って、変形する度合いも略同等である。このため、寸法精度に優れたリテーナ20を作製することができる。
すなわち、本実施の形態に係る熱処理方法によれば、組成比が上記の範囲内であるリテーナ20の硬度が、部位や深さに関わらず均質化される。このため、変形能が均質化し、寸法精度に優れるリテーナ20を得ることができる。
リテーナ20には、さらに、その側周壁を貫通する保持窓が設けられる。この際には、例えば、打ち抜きパンチ等が使用される。なお、保持窓は、一般的には6個形成され、各々に、等速ジョイントを構成するアウタ部材及びインナ部材の各ボール溝に挿入される転動ボールが収容される。
さらに、浸炭処理、ペーパー加工、研削加工等が施され、等速ジョイントを構成する最終製品としてのリテーナ20が得られるに至る。
なお、上記した実施の形態は、ワーク10を熱間鍛造によって等速ジョイントのリテーナ20に塑性変形させる場合を例示して説明したが、リテーナ20以外のものを最終製品として作製するようにしてもよいことはいうまでもない。例えば、インナ部材やローラであってもよい。
さらに、塑性変形加工は鍛造加工に特に限定されるものではなく、ワークに圧力を付与して該ワークを変形させる加工であればよい。例えば、圧延加工が含まれる。
成分・組成比が図5に示される鋼材製のワーク10(図2A参照)を用い、図2B〜図2Fに示すような過程を経る熱間鍛造によって、同一のリテーナ20(図2F参照)を3個ずつ作製した。熱間鍛造時の温度は1250℃とした。
なお、図5中、実施例1〜10のワーク10は各成分を上記した組成比で含むものであり、一方、比較例1〜6のワークは、それぞれ、SCR420相当材、SCM420相当材、SNCM420相当材、SCR420相当材、SCM420相当材、SNCM420相当材である。すなわち、比較例1〜6のワークは、上記した成分を含まないか、含んでいても上記の組成比の範囲外である。また、「s−Al」は、Alが固溶体として存在していることを意味する。
この中、各リテーナ20のうちの1個は、鍛造加工後、500℃を下回らない時点で熱処理炉32に導入し、昇温及びAc1〜Ac3点間の温度保持を合計3分間行った後、600℃となるまで5〜45℃/分の冷却速度で冷却し、さらに大気中で自然冷却した。これをこれをA処理とする。
また、別の1個は、鍛造加工後に室温まで降下した後、740〜900℃に加熱し1時間保持して空冷した。これをB処理とする。
さらに残余の1個に対しては、鍛造加工後に圧縮エアを当てて強制的に冷却した。これをC処理とする。
各々の処理後、各リテーナ20に対して内周壁及び外周壁の研削加工を行い、切削性の評価を行った。結果を併せて図5に示す。この図5から諒解されるように、比較例1〜6の成分・組成比ではB処理又はC処理を施しても十分な切削性が得られたのに対し、実施例1〜10の成分・組成比では、A処理、すなわち、上記した実施の形態に準拠する熱処理方法を実施しなければ十分な切削性が発現しなかった。
このことから、上記した実施の形態に係る熱処理方法によれば、通常の熱処理方法では切削性を向上させることが困難な鋼材であっても、切削性を容易に向上させることが明らかである。
以上とは別に、実施例1と同等の成分・組成比である直径25mm×高さ37.5mmの円柱体形状のテストピースを複数個設け、加工率70%で加工を施した後に30分加熱保持した。この際の保持温度は、例えば、あるテストピースでは900℃、別のテストピースでは950℃、さらに別のテストピースでは1000℃等と、900℃〜1050℃の範囲内でテストピースによって変更した。
その後、結晶粒度を求め、結晶粒度番号4番以下の粗粒の面積率が5%以下を維持していた最高温度(以下、粗大化温度と表記する)と、析出物の個数を求めた。実施例2〜10、比較例1〜6についても同様の操作を行った。
その結果、実施例1〜10では粗大化温度が950〜1025℃、析出物の個数が15〜60個/10μm2であったのに対し、比較例1〜6では、粗大化温度は900℃を下回った。また、比較例1〜6はNbを含有しないため、析出物は認められなかった。なお、実施例1〜10での析出物は、Nbの炭化物、窒化物、炭窒化物と、Nb及びAlの複合炭化物、複合窒化物、複合炭窒化物の双方が析出していた。
このことから、Nbを含有させることによって金属組織中に析出物を形成することができ、粗大化温度が上昇することが明らかである。これは、オーステナイト粒が粗大化することを抑制可能であり、最終製品の靱性及び疲労強度が向上することを意味する。
10…ワーク 12、14、18…成形品
20…リテーナ 30…鍛造加工ステーション
32…熱処理炉 38…昇温炉
40…均熱炉 42…除冷炉
20…リテーナ 30…鍛造加工ステーション
32…熱処理炉 38…昇温炉
40…均熱炉 42…除冷炉
Claims (6)
- 0.1〜0.3質量%のC、0.35質量%以下のSi、1.5質量%以下のMn、0.03質量%以下のS、0.0003〜0.005質量%のB、0.01質量%以下のN、0.05質量%以下のTi、0.06質量%以下のAl、0.005〜0.2質量%のNbを少なくとも含み、且つ熱間温度域で塑性変形加工が施された後に少なくともNbを含む析出物が存在する鋼材の熱処理方法であって、
前記鋼材に対して熱間温度域で塑性変形加工を施す第1工程と、
塑性変形加工が施されることに伴って加工熱を帯びた前記鋼材を、加工熱が残留している時点で加熱してAc1〜Ac3点間の温度に保持する第2工程と、
加熱保持された前記鋼材を、パーライトの析出が終了する温度となるまで5〜45℃/分の冷却速度で冷却する第3工程と、
を有し、
前記第2工程での保持時間を10分以内とすることを特徴とする鋼材の熱処理方法。 - 請求項1記載の熱処理方法において、熱間温度域で塑性変形加工が施された後の前記鋼材に前記析出物が5個/10μm2以上で存在することを特徴とする鋼材の熱処理方法。
- 請求項1又は2記載の熱処理方法において、前記鋼材として、質量%で1.5%以下のCr、1.5%以下のNi、1%以下のMoの少なくともいずれか1種をさらに含有する鋼材を使用することを特徴とする鋼材の熱処理方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱処理方法において、前記鋼材として、質量%で0.2%以下のPb、0.2%以下のBi、0.0005〜0.05%のTe、0.0005〜0.003%のCa、0.003〜0.05%のSeの少なくともいずれか1種をさらに含有する鋼材を使用することを特徴とする鋼材の熱処理方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱処理方法において、前記第2工程の冷却速度を、600℃となるまでを5〜20℃/分、以降を15〜25℃/分とすることを特徴とする鋼材の熱処理方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱処理方法において、前記第1工程で、1000〜1300℃で塑性変形加工を行うことを特徴とする鋼材の熱処理方法。
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JP2014019904A (ja) * | 2012-07-18 | 2014-02-03 | Nippon Steel & Sumitomo Metal | 焼入れ鋼材およびその製造方法ならびに焼入れ用鋼材 |
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- 2006-03-08 JP JP2006063311A patent/JP2007239028A/ja active Pending
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