JP2007238973A - 焼戻し効率性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに焼戻し前において、前記Cの70%以上が炭化物として、ならびに前記Nの70%以上が窒化物として析出していることを特徴とする、焼戻し効率、靭性および溶接性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼。
【選択図】なし
Description
(1)本発明に係る焼戻し効率、靭性および溶接性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに焼戻し前において、前記Cの70%以上が炭化物として、ならびに前記Nの70%以上が窒化物として析出していることを特徴とする。
(2)本発明に係る焼戻し効率、靭性および溶接性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに焼戻し前において、前記Cの70%以上がTi系炭化物として、ならびに前記Nの70%以上がAlNおよび/またはTiNとして析出していることを特徴とする。
(3)本発明に係る焼戻し効率、靭性および溶接性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、Mo:0.3%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに焼戻し前において、前記Cの70%以上がTi−Mo系複合炭化物として、ならびに前記Nの70%以上がAlNおよび/またはTiNとして析出していることを特徴とする。
(4)本発明に係る焼戻し効率、靭性および溶接性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜16%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに前記Cの70%以上がTi系炭化物で、添加窒素の70%がAlNおよびTiNとして析出していることを特徴とする。
(5)本発明に係る焼戻し効率、靭性および溶接性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、Mo:0.3%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに前記Cの70%以上がTi−Mo系複合炭化物として、ならびに前記Nの70%以上がAlNおよび/またはTiNとして析出していることを特徴とする。
(1)成分
発明鋼の成分とその限定範囲について説明する。以下の説明において、%は質量%を示す。
Cの過剰な含有は溶接熱影響部の硬さを上昇させ、加工性や靭性を低下させる。このため、0.025%以下とする。焼入れ後の固溶量を調整のためにはさらに少ない方が望ましく、製造上制御が容易であれば、0.01%以下が望ましい。また、下限は特に設けないが、鋼の製造工程全体の技術的およびコスト的な見地より、0.001%以上であることが好ましい。
Siは、鋼の強化元素であると同時に、耐酸化性ならびに耐食性を高めるのに有効に作用する元素である。こうした効果を得るには、その量を0.1%以上とする必要がある。一方、その量が0.3%を超えると、デルタフェライトが晶出し、相バランスを保つためNi量が増加する。このため、Si量は0.1%以上、3.0%以下とする。
Mnは、高温でオーステナイト相を安定化させ、その後の冷却中にマルテンサイト相を生成させる作用がある。したがって、鋼の強度上昇と熱間加工性に有効である。このような効果は、その量が0.1%以上とする必要がある。一方、その量が1.2%を超えると、炭酸ガス、硫化水素環境下での耐食性を劣化させるばかりでなく、靭性を低下させる。このため、Mn量は0.1%以上、1.2%以下とする。
Crは、湿潤炭酸ガスを含む環境下での耐食性の向上、ならびに耐酸化性の向上に不可欠な元素である。このような効果は、その量が11%以上で顕著になる。一方、その量が15%超えると、本発明で重要なマルテンサイト相の形成を阻害するばかりでなく、靭性の低下を招く。このため、Cr量は11%以上、15%以下とする。
Niは、溶接部の靭性ならびに耐食性の向上に寄与し、かつ高温でオーステナイト相を形成する。オーステナイト相は冷却中にマルテンサイト相に変態し高強度化に有効に寄与する。この効果を得るには、その量を1%以上とすることが望ましい。一方、Niは高価であり、多量の含有は製造コストの高騰を招く上、含有量が5%を越えると添加効果が飽和する。このため、本発明では、Ni量は1%以上、5%以下とする。
Tiは、焼戻し前熱処理時に、安定な炭化物および/または窒化物を形成させるのに必要な元素である。また、溶接時に結晶粒を微細化効果により、強度と靭性を向上させる元素でもある。その効果を得るには、その含有量が0.02%以上であることが必要である。しかし、0.15%を超えると効果が飽和してしまい、製造コストの高騰を招くだけなので、本発明では、Ti量は0.02%以上、0.15%以下とする。
Alは非常に強力な酸化物形成元素であるとともに、組織微細化に有効である。その量が0.08%を超えて存在するとAl2O3系酸化物が粗大化し靭性が低下する。また、0.02%未満では、強度支配因子であるAlNの形成が抑制される。このため、本発明では、Al量は0.02%以上、0.08%以下とする。
Nは、マルテンサイト組織形成のために不可欠な元素である。また、本発明のステンレス鋼においては、焼戻し前にはAlNおよびTiN等の窒化物として存在することで、焼戻し効率の向上に寄与する。しかし、過剰な含有は、固溶窒素の増加によって焼戻し後の強度のばらつきが大きくなると共に、溶接熱影響部の硬化を招く。また、上記窒化物の粗大化が生じるため、本発明ではN量は0.03%以下とする。
上述のAlとNが規定範囲内であっても、この値が4×10−8未満だと、AlNの析出量が抑制され、降伏強度が高くなり降伏比が上昇する。このため、本発明では、AlとNのそれぞれの組成の積[Al]×[N]は、4×10−8以上とする。なお、本発明において元素記号を“[]”で囲った場合は、その元素の濃度(あるいは組成比)を示す。
Moは、焼戻し前熱処理時にTiと複合して同一温度での後述するMC型炭化物(例えば、(Ti,Mo)C)の形成速度を上昇させるために有利な元素である。しかし、Tiの量と調整して行う必要があり、少なくともTi量の1〜2倍の量を含有していることが望ましい。このため、本発明では、Mo量は0.3%以下とする。
VとNbは、焼戻し前熱処理時に安定な炭化物および窒化物を形成させるために有効な元素である。また、溶接時には結晶粒を微細化させる効果により、強度と靭性を向上させる元素でもある。このような効果は、その量が0.01%以上で顕著になるが、その量が0.1%超えると効果が飽和する。このため、V量は0.01%以上、0.1%以下、Nb量は0.01%以上、0.1%以下、とする。
CuとWは、耐食性を向上させる元素であり、より高い耐食性を志向する場合に必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、その量を0.1%以上とすることが望ましい。一方、その量が1%を超えると熱間加工性の低下による表面品質の劣化、ならびに溶接部の靭性の劣化を招く。このため、Cu量は0.1%以上、1%以下、W量は0.1%以上、1%以下、とする。
上述の成分規定に加えて、本発明においては、焼戻し前にCとNを効果的な析出状態にする必要がある。特に、CはMC型炭化物(Mは金属元素を示す)、NはAlNおよび/またはTiNとするのが望ましい。
焼戻し前においてCが炭化物として析出していることは、焼戻しを効率的に行い材質を安定化させるために重要である。特に、MC型炭化物として析出させることが、本発明鋼において最も望ましい形態となる。
上述の理由により、焼戻し前において、Nが窒化物としての析出していることは、焼戻しを効率的に行い材質を安定化させるために重要で、特に、AlNおよび/またはTiNで析出していることが最も望ましい形態となる。70%以上、より好ましくは80%以上の含有Nが、AlNおよび/またはTiNとしで析出していない場合は、焼戻し時のCr2N等の窒化物および固溶窒素の影響で、軟化処理の効率(特に、時間の短縮化)が落ち、さらに材質安定上問題がある。この窒化物の析出は、焼戻し処理前の熱処理の昇温速度により調整可能である。
本発明は焼戻し前の析出物状態を規定しているが、製品の品質保証および発明の実現の観点から焼戻し後の形態調査も重要となる。この確認によって、発明が適切に実現されていることが確認される。
炭化物が、焼戻し時に焼戻し軟化抵抗として働かないためには、その炭化物が、焼戻し前に析出し、かつ、焼戻し時に粗大化しないことが条件となる。そのためには、MC型炭化物であることが必須となる。特に、MがTiおよびMoであるTi−Mo複合型(即ち、(Ti,Mo)C)であることが望ましい。Ti−Mo複合型MC型炭化物を析出させるためには、1)焼入れ等を行う場合は、その温度を850℃から980℃とする、あるいは、2)熱間圧延を行う場合は、800℃以上の巻取りを行う。また、炭化物量の調整は、焼入れ前の保持時間や冷却条件(例えば、急冷、空冷または炉冷等)で行う。MC型炭化物の場合、V、NbおよびCの一部にNが置換固溶し、(Ti,Mo)(C,N)、(Ti,Mo)(V,C,N)、(Ti,Mo)(Nb,C,N)、(Ti,Mo)(V,Nb,C,N)となるが、Ti,Moを主体とするM(C,X)型析出物(Xは任意の1種類以上の元素)であれば、発明の効果を奏することができる。
上記(1)で示した成分組成を有する鋼を、転炉、電気炉などの通常の方法により溶製し、溶製後、造塊−分塊圧延法あるいは連続鋳造法でビレットやスラブ等の素材とする。
鋼に含有されるTiは、炭化物、窒化物および酸化物を形成する。まず、酸溶解法を用いて、酸化物を構成しているTi量[Ti]oを測定する。次に、臭素−メタノール溶解液による抽出残さの分析により、窒化物および酸化物を構成しているTi量[Ti]noを求める。さらに、この窒化物および酸化物を構成しているTi量[Ti]noから前述の酸化物を形成しているTi量[Ti]oを引く([Ti]no−[Ti]o)ことで、窒化物を形成しているTi量[Ti]nを決定する。次にアセチル−アセトン等による電解抽出方法によって炭化物、窒化物および酸化物を形成するTi量[Ti]cnoを測定し、前述の窒化物および酸化物を形成しているTi量[Ti]noを引く([Ti]cno−[Ti]no)ことで、MC炭化物を形成するTi量[Ti]cを求める。
鋼中のMoは、MC型炭化物、M2C型炭化物および金属間化合物を形成している可能性があるので、MC炭化物を形成するMo量[Mo]cは抽出残さからは決定できない。従って、材料からTEM用試料を作製し、TEMに設けられているEDXにて、MC型炭化物の組成分析を直接行って決定する。EDXの分析により、少なくとも20個以上のMC型炭化物についてTiとMoの組成比[Mo]/[Ti]を求める。この組成比[Mo]/[Ti]に、上記[Ti]cを乗じてMC型炭化物を形成するMo量[Mo]cを求める。
AlNを形成するN量[N]alについては、例えば、臭素−メタノールによる抽出残さを測定することによって、直接AlNを形成するN量[N]alとして求めることが可能である。先ず、上記臭素−メタノールによる抽出残さ法によって、すべての窒化物を抽出する。その後、水酸化ナトリウム水溶液によって窒化物のうちAlNのみを溶解し、発生したNを回収し、ビスビラゾロン吸光光度法で分析を行う。
上記で求めた、MC炭化物を形成するTi量[Ti]cおよびMC型炭化物を形成するMo量[Mo]cを用いて、下の(1)式より求める。
上記で求めた、窒化物を形成するTi量[Ti]nおよびAlNを形成するN量[N]alを用いて、下の(2)式より求める。
引張試験:JIS Z 2201に準拠した13号B試験片を圧延方向に対し垂直な方向から採取し、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行った。それぞれの試料より5個切り出し、その結果を単純算術平均し、その試料の平均強度とした。
焼戻し時間の短縮化の評価:焼戻し時間が短くなっても、十分に軟化が生じているかを判断するために、比較例の強度との差を求めた。鋼種と焼戻し前熱処理条件が同じ比較例の強度と比較して、その差が30MPa以内の試料を、短時間で軟化したと判断し合格(○)、30MPa越えの試料は不合格(×)とした。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに焼戻し前において、前記Cの70%以上が炭化物として、ならびに前記Nの70%以上が窒化物として析出していることを特徴とする、焼戻し効率、靭性および溶接性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに焼戻し前において、前記Cの70%以上がTi系炭化物として、ならびに前記Nの70%以上がAlNおよび/またはTiNとして析出していることを特徴とする、焼戻し効率、靭性および溶接性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、Mo:0.3%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに焼戻し前において、前記Cの70%以上がTi−Mo系複合炭化物として、ならびに前記Nの70%以上がAlNおよび/またはTiNとして析出していることを特徴とする、焼戻し効率、靭性および溶接性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜16%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに前記Cの70%以上がTi系炭化物で、添加窒素の70%がAlNおよびTiNとして析出していることを特徴とする、焼戻し効率、靭性および溶接性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼。
- 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:11〜15%、Ni:1〜5%、Al:0.02〜0.08%、N:0.03%以下、Ti:0.02〜0.15%、Mo:0.3%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつAlとNの組成の積[Al]×[N]が4×10−8以上であり、さらに前記Cの70%以上がTi−Mo系複合炭化物として、ならびに前記Nの70%以上がAlNおよび/またはTiNとして析出していることを特徴とする、焼戻し効率、靭性および溶接性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼。
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