JP2007235024A - 酸化物誘電体膜の形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 密着性の高い酸化物誘電体膜を金属箔上に形成する。
【解決手段】 不純物を含む金属箔12を雰囲気中に配置する。この雰囲気の温度を所定の加熱温度まで上昇させ、次いで、雰囲気の温度を所定の時間にわたって当該加熱温度に維持する。これにより、金属箔12を酸化することなく不純物を酸化する。この後、金属箔12上に酸化物誘電体膜14を直接形成する。
【選択図】 図2

Description

この発明は、金属箔上に誘電体膜、中でも酸化物誘電体膜を形成する方法に関する。
金属箔上に酸化物誘電体が設けられた構造を有する誘電体素子が一般に知られている。このような誘電体素子の典型的な例は、薄膜コンデンサである。下記の特許文献1および2は、金属箔上に誘電体膜を設けて薄膜コンデンサを製造する方法を開示している。
特開2000−164460号公報 特開2001−203455号公報
しかしながら、上記の方法では、金属箔と酸化物誘電体膜との密着性が脆弱になりがちである。そこで、本発明は、密着性の高い酸化物誘電体膜を金属箔上に形成することを課題とする。
本発明に係る酸化物誘電体膜の形成方法は、不純物を含む金属箔を雰囲気中に配置する第1工程と、この雰囲気の温度を所定の加熱温度まで上昇させ、次いで、雰囲気の温度を所定の時間にわたって当該加熱温度に維持することにより、金属箔を酸化することなく不純物を酸化する第2工程と、金属箔上に酸化物誘電体膜を直接形成する第3工程とを備えている。
上述した熱処理により、金属箔中の不純物が酸化し、結晶粒を形成する。この結晶粒は金属箔の中の結晶粒界に析出し、金属箔の表面近傍において酸化物を形成する。この表面上に酸化物誘電体膜を直接形成すると、酸化物間の密着性が良好であることにより、金属箔に対する誘電体膜の密着性が高まる。酸化物間において良好な密着性が得られる原因は明らかではないが、2種類の酸化物の間で酸素同士の結合が生じ、一部に化学結合が生じるためと考えられる。また、上述の熱処理は金属箔を酸化しないので、誘電体膜上に電極を設ければ、この電極と金属箔とを一対の対向電極として有する薄膜コンデンサを得ることができる。
第1工程は、不純物を10ppm〜5000ppmの濃度で含む金属箔を雰囲気中に配置することが好ましい。この場合、酸化物誘電体膜の密着強度が十分に高まるとともに、良好な電気特性が得られる。なお、この濃度は金属(元素)としての濃度をいい、例えばICP分光分析法(誘導結合高周波プラズマ分光分析法)を用いて定量的に求めることができる。
第2工程は、粒径が0.1μm以上の酸化された不純物の結晶粒を析出させることが好ましい。このような大きさの結晶粒を析出させることで、酸化物誘電体膜の密着性が十分に高まる。
第2工程は、酸化された不純物の結晶粒を、金属箔の結晶粒界に析出させてもよい。
第1工程は、金属箔としてNi箔またはCu箔を雰囲気中に配置してもよい。Ni箔またはCu箔には、不純物として少なくともSi、Al、Ti、Cr、FeまたはMgのいずれかが含まれていてもよい。これらの材料を使用することで、酸化物誘電体膜の密着性を十分に高めることができる。
第1工程において金属箔に含まれる不純物は、スクラッチ法によって計測される酸化物誘電体膜の臨界剥離荷重値を、金属箔に不純物が含まれていない場合に比べて1.2倍以上に高める濃度を有していてもよい。臨界剥離荷重値は、酸化物誘電体膜を金属箔から剥離させるために必要な荷重を表しており、これが高いほど、金属箔に対する酸化物誘電体膜の密着性が高いことになる。本発明者らの研究によれば、十分な濃度の不純物を含む金属箔に上述の熱処理を施すことで、不純物を有さない金属箔を使用する場合に比べて1.2倍以上も高い臨界剥離荷重値を酸化物誘電体膜に与えることができる。
本発明によれば、密着性の高い酸化物誘電体膜を金属箔上に形成することができる。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態は、金属箔上に酸化物誘電体膜を形成し、更にその酸化物誘電体膜の上に上部電極を形成して薄膜コンデンサを製造する。図1は、この薄膜コンデンサの構造を示す概略断面図である。薄膜コンデンサ10は、金属箔12と、金属箔12の上面に設けられた酸化物誘電体膜14と、誘電体膜14の上面に設けられた上部電極16を有している。薄膜コンデンサ10は、金属箔12と上部電極16を一対の対向電極として使用する。金属箔12は自立可能であり、したがって、誘電体膜14および上部電極16を支持するための基材として機能する。
以下では、図2を参照しながら、薄膜コンデンサ10の製造方法を説明する。ここで、図2は、この製造方法を示すフローチャートである。
まず、金属箔12を熱処理用の雰囲気中に配置する(ステップS202)。より具体的に述べると、金属箔12を加熱炉に搬入し、加熱炉内の雰囲気にさらす。金属箔12は、その主成分である金属のほかに不純物を含んでいる。主成分の金属としては、NiやCuが好適である。また、不純物は、Si、Al、Ti、Cr、FeまたはMgの少なくとも一つ以上の元素を含んでいることが好ましい。金属箔12は、複数の金属の合金、例えばNiと他の金属との合金、Cuと他の金属との合金、あるいはNiとCuとの合金であってもよい。この場合、不純物は、合金を構成する金属とは別の元素を指す。
次に、雰囲気の温度を所定の加熱温度(例えば、1100℃)まで上昇させ(ステップS204)、続いて、その加熱温度を所定の加熱時間(例えば、1時間)にわたって維持する(ステップS206)。以下では、ステップS204およびS206の熱処理を「焼鈍」と呼ぶことにする。焼鈍が終わったら、雰囲気の温度を所定の温度(通常は室温)まで下降させる(ステップS208)。
次に、金属箔12の上面を研磨および洗浄し(ステップS210)、その上面に酸化物誘電体膜14を直接形成する(ステップS212)。酸化物誘電体膜14は、化学溶液法やスパッタ法など、任意の公知方法で形成することができる。化学溶液法の一例は、MOD(Metal Organic Decomposition:有機金属分解)法である。
続いて、金属箔12および酸化物誘電体膜14からなる積層構造を800℃の減圧雰囲気下でアニールし、誘電体素子15を得る(ステップS214)。このアニールは、誘電体膜14の結晶性を改善して誘電体素子15の電気特性を高めるために行われる。減圧雰囲気は、真空ポンプを使って大気を減圧することにより得ることができる。
この後、酸化物誘電体膜14上に上部電極16を形成し、薄膜コンデンサ10を得る(ステップS216)。上部電極16は、スパッタ法など、任意の公知方法で形成することができる。上部電極16の好適な材料は、例えばCuである。上部電極16の形成は、誘電体膜14上に電極材料を堆積させた後、その電極材料をアニールする工程を含んでいてもよい。
上記の熱処理(焼鈍)は、金属箔12を酸化することなく、金属箔12中の不純物を酸化し、なおかつ酸化された不純物が粒径0.1μm以上の結晶粒を成すように実施される。これは焼鈍に使用する雰囲気を適切に定めることにより実現することができる。適切な雰囲気の例は後述する。
焼鈍によって金属箔12中の不純物から生じた結晶粒は、金属箔12の結晶粒界に析出する。研磨、洗浄後の金属箔12の上面に酸化物誘電体膜14を直接形成すると、その上面に析出した結晶粒が、金属箔12に対する酸化物誘電体膜14の密着性を高めるように作用する。これは、酸化物同士の密着性が高いために、不純物の酸化物と酸化物誘電体との間で高い密着性が得られるためである。また、結晶粒が金属箔12の上面に凹凸を形成し、その凹凸を覆うように酸化物誘電体膜14が設けられる結果、酸化物誘電体膜14がその凹凸と噛み合うことによっても、密着性が高まると考えられる。
本発明者らの検討によれば、酸化物誘電体膜14の密着性を十分に高めるためには、金属箔12の内部に析出する酸化不純物の粒径が0.1μm以上であることが好ましい。本発明者らは、粒径0.1μm以上の酸化不純物結晶粒を得るのに適した焼鈍の条件を調べるため、二つの異なる条件の下で金属箔12にステップS202〜S208の熱処理を施した。金属箔12としてはNi箔を使用した。このNi箔には、Si、Al、TiおよびMgを含む様々な不純物が含有されている。
第1の焼鈍は、HとNの混合ガスにより水をバブリングして得られた気体を雰囲気として使用する。この雰囲気の酸素分圧は10−7Paである。加熱温度は1100℃であり、加熱時間は1時間である。また、雰囲気温度の昇降速度は5℃/分である。具体的には、加熱炉内にNi箔を搬入し、炉内の雰囲気の温度を室温から5℃/分の速度で1100℃まで上昇させた後、1100℃を1時間にわたって保持する。この後、雰囲気の温度を1100℃から5℃/分の速度で室温まで下降させる。なお、一定の速度で昇温および降温を行うのは、不純物の酸化物をより大きく成長させるためである。
一方、第2の焼鈍は、酸素分圧が10−2Paの減圧大気を雰囲気として使用する。加熱温度は1000℃であり、加熱時間は30分である。また、雰囲気温度の昇降速度は100℃/分である。
これらの焼鈍条件の下で製造された各誘電体素子15を、塩酸および硝酸の混合溶液中に浸漬して溶解した。その結果、第1の焼鈍を施した誘電体素子15の溶液からは沈殿物が析出したが、第2の焼鈍を施した誘電体素子15の溶液からは沈殿物は析出しなかった。
この後、沈殿物が析出した前者の溶液を開口径0.1μmのフィルターで濾過し、集めた残渣に含まれる物質を蛍光X線で分析した。この結果、主にSi,Tiが残渣から検出された。更にX線回折で分析したところ、それらは酸化物(例えば、SiO、TiO)であることが分かった。下記の表1は、これらの分析の結果をもとに各物質の残渣量を酸化物換算値で示している。
Figure 2007235024

この結果から明らかなように、第1の焼鈍は0.1μm以上の粒径を有する酸化物不純物の結晶粒を生成することができる。したがって、第1の焼鈍条件は、誘電体膜14の密着性を高めるのに適している。
本発明者らは、第1および第2の焼鈍を施したNi箔を2枚ずつ用意した。そして、図2に示される手順に従って、各Ni箔の上面を研磨および洗浄した後、その上面に酸化物誘電体膜14としてBST、すなわちチタン酸バリウムストロンチウム(BaSr)TiOの膜をスパッタ法により形成した。更に、温度800℃、圧力10−2Paの雰囲気内で30分間、BST膜をアニールし、誘電体素子15を製造した。
本発明者らは、こうして製造された各誘電体素子15について、BST膜(すなわち、誘電体膜14)の密着性を計測した。この計測は、RHESCA社の超薄膜スクラッチ試験機CSR−02を用いてスクラッチ法により行った。公知のように、スクラッチ法は、一定の曲率半径を有する硬い圧子を、計測すべき膜の表面に押し付け、圧子に加える荷重を増加させつつ膜の表面をひっかき、膜の破壊(例えば、下地材からの膜の剥離)が発生する荷重値を測定する。この荷重値は「臨界剥離荷重値」と呼ばれる。
なお、膜の密着強度は、この臨界剥離荷重値を用いて算出することができる。すなわち、膜の密着強度Fは、圧子によって形成された圧痕の周縁部に作用する最大応力として、次の式
Figure 2007235024

のように表される。ここで、Rは圧子の曲率半径であり、Hは下地材のブリネル硬度である。
図3は、BST膜の密着性の計測結果を示している。黒い三角は第1の焼鈍によって製造した1枚目の誘電体素子、白い三角は第1の焼鈍によって製造した2枚目の誘電体素子、黒い丸は第2の焼鈍によって製造した1枚目の誘電体素子、白い丸は第2の焼鈍によって製造した2枚目の誘電体素子に関する計測結果をそれぞれ示している。なお、同じ素子に関して複数の丸や三角があるのは、同じ素子に対して計測を複数回行ったことを意味する。
図3に示されるように、第1の焼鈍によって製造された誘電体素子15は、第2の焼鈍によって製造された誘電体素子15に比べて高い臨界剥離荷重値を有していた。このことから、粒径が0.1μm以上の酸化不純物結晶粒を金属箔12の上面に析出させることで、酸化物誘電体膜14の密着性を十分に高められることが分かる。
以下では、図4および図5を参照しながら、金属箔12を酸化させることなく不純物を酸化させるのに適した雰囲気の酸素分圧の決め方を説明する。ここで、図4および図5は、様々な酸化物に関するエリンガム図である。エリンガム図は、様々な元素の酸化還元反応における生成エネルギーの挙動を示す図である。エリンガム図を用いることにより、任意の温度での酸素解離圧を求めることができる。
金属(M)とその酸化物との平衡反応
Figure 2007235024

に関して、
Figure 2007235024

が成り立つ。ここで、ΔG°は反応の前後における自由エネルギーの変化量、Rは気体定数、Tは温度を表し、PMxO2、P、PO2は、それぞれM、M、Oの圧力を表している。なお、MおよびMは固体なので、それらの圧力を1として扱っている。
上記の式におけるPO2をこの酸化物Mの酸素解離圧という。この反応が生じている系(環境)の酸素分圧が、酸素解離圧より高い場合は、金属Mの酸化が進行し、酸素解離圧以下の場合は、酸化物Mの還元が進行する。
エリンガム図を用いて、ある酸化物の酸素解離圧を調べる場合、まず、その酸化物に対応する線をエリンガム図において探す。ここでは、不純物としてSiを想定し、SiOに関する線50を参照する。次に、焼鈍時の加熱温度を決める。この温度が例えば1000℃のときは、温度=1000℃の直線と線50との交点52を求める。
次に、この交点52と点Oとを直線54で結ぶ。ΔG°=RTlnPO2の関係式から、Tが一定の場合、直線54の傾きがlnPO2となる。この直線54は、−logPO2を表す軸と交差する。この交点における−logPO2の値を読み取る。この例では、この交点の値は約28である。この値がSiの酸素解離圧を示す。すなわち、Siの酸素解離圧は約10−28atm(≒10−29MPa)と求まる。
続いて、金属箔12としてNiを想定し、Siの場合と同じ手順を実行すれば、温度1000℃の下でのNiOの酸素解離圧が約10−11atm(≒10−12MPa)と求まる。したがって、焼鈍に使用する雰囲気の酸素分圧を10−28atm〜10−11atmとすれば、焼鈍によってNi箔を酸化させることなく不純物Siを酸化させることができる。このように、図4および図5に示されるエリンガム図を使用すれば、金属箔12を酸化させずに不純物を酸化させるような雰囲気の酸素分圧を容易に求めることができる。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
上述した例では、酸化物誘電体膜14がBSTから構成されているが、酸化物誘電体膜14は他の材料から構成されていてもよい。酸化物誘電体膜14の材料の好ましい例は、一般式ABOで表される組成を有するペロブスカイト型の酸化物である。ペロブスカイト型酸化物の例としては、BSTの他に、BT、すなわちチタン酸バリウムBaTiOや、チタン酸ストロンチウムSrTiO、(BaSr)(TiZr)O、BaTiZrOを挙げることができる。酸化物誘電体膜14は、これらの酸化物のうち一つ以上を含んでいてもよい。
薄膜コンデンサの構造を示す概略断面図である。 薄膜コンデンサの製造方法を示すフローチャートである。 酸化物誘電体膜の密着性の計測結果を示す図である。 様々な酸化物に関するエリンガム図である。 様々な酸化物に関するエリンガム図である。
符号の説明
10…薄膜コンデンサ、12…金属箔、14…酸化物誘電体膜、15…誘電体素子、16…上部電極

Claims (7)

  1. 不純物を含む金属箔を雰囲気中に配置する第1工程と、
    前記雰囲気の温度を所定の加熱温度まで上昇させ、次いで、前記雰囲気の温度を所定の時間にわたって前記加熱温度に維持することにより、前記金属箔を酸化することなく前記不純物を酸化する第2工程と、
    前記金属箔上に酸化物誘電体膜を直接形成する第3工程と、
    を備える酸化物誘電体膜の形成方法。
  2. 前記第1工程は、前記不純物を10ppm〜5000ppmの濃度で含む前記金属箔を前記雰囲気中に配置する、請求項1に記載の酸化物誘電体膜の形成方法。
  3. 前記第2工程は、粒径が0.1μm以上の酸化された前記不純物の結晶粒を析出させる、請求項1または2に記載の酸化物誘電体膜の形成方法。
  4. 前記第2工程は、酸化された前記不純物の結晶粒を、前記金属箔の結晶粒界に析出させる、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物誘電体膜の形成方法。
  5. 前記第1工程は、前記金属箔としてNi箔を前記雰囲気中に配置し、前記Ni箔には、前記不純物として少なくともSi、Al、Ti、Cr、FeまたはMgのいずれかが含まれている、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物誘電体膜の形成方法。
  6. 前記第1工程は、前記金属箔としてCu箔を前記雰囲気中に配置し、前記Cu箔には、前記不純物として少なくともSi、Al、Ti、Cr、FeまたはMgのいずれかが含まれている、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物誘電体膜の形成方法。
  7. 前記第1工程において前記金属箔に含まれる前記不純物は、スクラッチ法によって計測される前記酸化物誘電体膜の臨界剥離荷重値を、前記金属箔に前記不純物が含まれていない場合に比べて1.2倍以上に高める濃度を有している、請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物誘電体膜の形成方法。
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