本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明を適用した応力測定装置1の第1の実施形態の内部の構成を表している。なお、以下に用いる「垂直入射型横波超音波」、「レーリー波」、および「SH表面波」は、3つともに超音波の1つであり、それぞれ、被測定物に垂直に入射された横波の超音波、固体表面上を表面付近にエネルギーを集中した形で伝播する超音波、変位が伝播方向に垂直、かつ、伝播面に平行な超音波を意味している。
図1に示されるように、応力測定装置1は、制御部11、モータ駆動制御部12−1および12−2、モータ駆動部13−1および13−2、モータ14−1および14−2、記憶部15、入力部16、出力部17、超音波探触子21、レーリー波探触子22−1乃至22−3により構成されている。
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)などからなり、種々の制御信号を生成し、各部に供給することにより応力測定装置1の駆動を総括的に制御するとともに、ユーザが入力部16の図示キーボードなどを操作することにより、音響異方性測定処理(図4を参照して後述する)を開始するとの指示がなされると、垂直入射型横波超音波を超音波探触子21に送信させるための横波超音波送信制御信号を生成し、超音波探触子21に供給する。
また、制御部11は、超音波探触子21から供給された、測定対象である被測定物40(図2を参照して後述する)から反射された垂直入射型横波超音波のデータである横波超音波データを取得し、取得された横波超音波データを記憶部15に供給する。さらに、制御部11は、レーリー波をレーリー波探触子22−1に送信させるためのレーリー波送信制御信号を生成し、レーリー波探触子22−1に供給する。制御部11は、レーリー波探触子22−2から供給された、溶接部41(図2を参照して後述する)から反射されたレーリー波のデータであるレーリー波データを取得し、取得されたレーリー波データを記憶部15に供給する。
また、制御部11は、記憶部15に記憶されている横波超音波データを読み出し、読み出された横波超音波データに基づいて、音響異方性の方向(図4と図6を参照して後述する)を設定し、設定された音響異方性の方向を記憶部15に供給する。制御部11は、記憶15に記憶されているレーリー波データを読み出し、読み出されたレーリー波データに基づいて、音響異方性に対して所定の角度(例えば、0度や90度など)の方向の音速度(例えば、音響異方性方向音速度や音響異方性直角方向音速度など)を計算し、計算された音速度のデータである音速度データを記憶部15に供給する。
さらに、制御部11は、記憶部15に記憶されている音速度データを読み出し、読み出された音速度データに基づいて溶接部18に生じている主応力値を計算し、計算された主応力値のデータである主応力値データを記憶部15に供給する。制御部11は、記憶部15に記憶されている主応力値データを読み出し、読み出された主応力値データを出力部17に供給する。
モータ駆動制御部12−1は、制御部11から供給された、モータ14−1の駆動を開始するためのモータ駆動開始制御信号に基づいて、モータ14−1に電力の供給を開始するための電力供給開始制御信号を生成し、モータ駆動部13−1に供給する。また、モータ駆動制御部12−1は、モータ14−1に電力の供給を停止するための電力供給停止制御信号を生成し、モータ駆動部13−1に供給する。
モータ駆動制御部12−2は、制御部11から供給されたモータ14−2の駆動を開始するためのモータ駆動開始制御信号に基づいて、モータ14−2に電力の供給を開始するための電力供給開始制御信号を生成し、モータ駆動部13−2に供給する。また、モータ駆動制御部12−2は、モータ14−2に電力の供給を停止するための電力供給停止制御信号を生成し、モータ駆動部13−2に供給する。
モータ14−1は、モータ駆動部13−1から供給された電力を取得し、所定の角度(例えば、1度など)になるように超音波探触子21を回転させる。モータ14−2は、モータ駆動部13−2から供給された電力を取得し、所定の角度(例えば、10度や36度など)になるようにレーリー波探触子22−1乃至22−3を回転させる。
記憶部15は、制御部11を介して超音波探触子21およびレーリー波探触子22−1乃至22−3から供給された横波超音波データおよびレーリー波データを取得し、取得された横波超音波データおよびレーリー波データを記憶する。また、記憶部15は、制御部11からの指示に基づいて、記憶されている横波超音波データおよびレーリー波データを読み出し、制御部11に供給する。記憶部15は、制御部11から供給された音響異方性の方向を記憶し、また、制御部11から供給された音速度データを記憶する。記憶部15は、制御部11から供給された主応力値データを記憶する。
入力部16は、ユーザが各種の指示を出すための種々のキーボード(図示せず)やマウス(図示せず)を有しており、ユーザの操作により各種の指示が出された旨を制御部1に通知する。
出力部17は、図示せぬLCD(Liquid Crystal Display)や図示せぬCRT(Cathode Ray Tube)、あるいはデータを印刷する印刷部(図示せず)が設けられており、制御部11を介して記憶部15から供給された主応力値データを取得し、取得された主応力値データを図示せぬLCD(Liquid Crystal Display)や図示せぬCRT(Cathode Ray Tube)に表示し、あるいは図示せぬ印刷部に出力する。
超音波探触子21は、先端部分に超音波振動子(図示せず)を有しており、この超音波振動子は、送信時に電気パルスを超音波パルス(送信超音波)に変換し、受信時に被測定物40から反射された超音波反射信号(受信超音波)を電気信号に変換する。超音波探触子21は、制御部11から供給された横波超音波送信制御信号に基づいて、被測定物40の表面に対して垂直入射型横波超音波を送信するとともに、被測定物40から反射された垂直入射型横波超音波を受信し、受信された垂直入射型横波超音波に基づき、垂直入射型横波超音波のデータである横波超音波データを制御部11に供給する。
レーリー波探触子22−1は、先端部分にレーリー波振動子(図示せず)を有しており、このレーリー波振動子は、送信時に電気パルスをレーリー波パルス(送信レーリー波)に変換し、受信時に被測定物40から反射されたレーリー波反射信号(受信レーリー波)を電気信号に変換する。レーリー波探触子22−1は、制御部11から供給されたレーリー波超音波送信制御信号に基づいて、被測定物40の表面に対してレーリー波を送信する。
レーリー波探触子22−2は、先端部分にレーリー波振動子(図示せず)を有しており、このレーリー波振動子は、送信時に電気パルスをレーリー波パルス(送信レーリー波)に変換し、受信時に被測定物40から反射されたレーリー波反射信号(受信レーリー波)を電気信号に変換する。レーリー波探触子22−2は、被測定物40から反射されたレーリー波を受信し、受信されたレーリー波に基づき、レーリー波のデータであるレーリー波データを制御部11に供給する。
レーリー波探触子22−3は、先端部分にレーリー波振動子(図示せず)を有しており、このレーリー波振動子は、送信時に電気パルスをレーリー波パルス(送信レーリー波)に変換し、受信時に被測定物40から反射されたレーリー波反射信号(受信レーリー波)を電気信号に変換する。レーリー波探触子22−3は、被測定物40から反射されたレーリー波を受信し、受信されたレーリー波に基づき、レーリー波のデータであるレーリー波データを制御部11に供給する。
図2は、被測定物に配置した場合の図1の応力測定装置1の断面の構成を表している。
被測定物40に対して応力測定を行う場合、図2に示されるように、応力測定装置1は、溶接部41と熱影響部42からなる被測定物40の上に、ユーザにより、応力測定を所望する位置(例えば、図2の溶接部41など)に予め配置される。固定装置31の中には、先端に超音波探触子21が接続されているモータ14−1、および、先端にレーリー波探触子22−1乃至22−3を有するケース32が接続されているモータ14−2が、所定の位置に固定されている。
なお、レーリー波探触子22−1乃至22−3は、モータ14−2の中心を通る所定の直線状に配置されるように、予めケース32に接続されている。従って、モータ14−2を制御部11の指示に基づいて駆動(回転)させた場合、レーリー波探触子22−1乃至22−3は、所定の直線状に配置されるような関係が維持されつつ、所定の回転量で回転される。すなわち、レーリー波探触子22−1乃至22−3は、モータ14−2により所定の角度になるように回転させても、被測定物40の音響異方性の方向に対して同一の所定の角度を有する方向に、一直線上に配置される。
また、超音波探触子21も、レーリー波探触子22−1乃至22−3が被測定物40の音響異方性の方向に対して有する所定の角度と同一の角度の方向となるように、予め配置されている。つまり、超音波探触子21から送信される垂直入射型横波超音波の振動方向(図5を参照して後述する)と、レーリー波探触子22−1から送信されるレーリー波の伝播方向(図7[A]と図7[B]を参照して後述する)が、常に平行となる。
また、図2の矢印は、超音波探触子21から送信された垂直入射型横波超音波の伝播方向を示している。垂直入射型横波超音波は、超音波探触子21から送信されると、下方向に伝播し、被測定物40に反射され上方向に伝播し、その後、同様に反射を繰り返しながら上下方向に伝播する。
ここで、一般に、圧延材のような音響異方性がある被測定物40に垂直入射型横波超音波を入射させると、超音波の振動方向が音響異方性の方向に対してどのくらいの角度を有しているか否かにより、超音波の伝播する音速度が若干異なる。
具体的には、超音波の振動方向が音響異方性の方向に対して45度の角度を有する場合、2つの超音波(入射された垂直入射型横波超音波と、被測定物により反射された垂直入射型横波超音波)の位相が干渉し合い、その結果、うなりが生じる。そして、超音波の振動方向が音響異方性の方向に対して45度の角度を有しない場合に比べて、超音波のエコーレベルが大きくなったり、小さくなったりする。このような現象を音響複屈折現象という。
従って、この音響複屈折現象を利用すると、被測定物40に垂直入射型横波超音波を入射させ、受信された垂直入射型横波超音波を解析することで、被測定物40の音響異方性の方向を測定することが可能となる。
そこで、被測定物40に対して応力測定を行う場合、まず、被測定物40の特性の1つである音響異方性を測定するための処理である音響異方性測定処理(図4を参照して後述する)が行われる。その際、図3に示されるように、応力測定装置1は、ユーザにより、応力測定を所望する位置(例えば、図2の溶接部41など)の近傍に配置される。
図4のフローチャートを参照して、図1の応力測定装置1の音響異方性測定処理について説明する。
ステップS1において、制御部11は、ユーザが入力部16のキーボード(図示せず)やマウス(図示せず)を操作することにより、音響異方性測定処理を開始するとの指示がなされたか否かを判定し、音響異方性測定処理を開始するとの指示がなされたと判定するまで待機する。
ステップS1において音響異方性測定処理を開始するとの指示がなされたと判定された場合、制御部11はステップS2において、音響異方性測定処理を開始するための初期値を設定する。すなわち、制御部11は、被測定物40の音響異方性の方向を測定するための基準となる方向(例えば、図2のように応力測定装置1が配置されたときの、直線状に配置されたレーリー波探触子22−1乃至22−3の方向。以下、「基準方向」という。)を設定し、モータ14−1により超音波探触子21が回転された(図4のステップS13の処理で後述する)回転角度nθの回転角度変数nを0に設定する。
なお、モータ14−1の1回の回転量(回転角度θ)は、予め所定の角度に設定されており、例えば、モータ14−1を合計で360度回転させると設定された場合、360度をn個、例えば10回に分けた(すなわち、n=10)とすると、モータの1回の回転量(回転角度θ)は36度に設定される。勿論、回転角度変数nをいくつに設定してもよい。
ステップS3において、制御部11は、垂直入射型横波超音波を超音波探触子21に送信させるための横波超音波送信制御信号を生成し、超音波探触子21に供給する。ステップS4において、超音波探触子21は、制御部11から供給された横波超音波送信制御信号に基づいて、被測定物40に対して垂直入射型横波超音波を送信する。
図5は、応力測定装置1の上から見た場合の、被測定物40に入射された垂直入射型横波超音波の振動方向を模式的に表している。
図5に示されるように、垂直入射型横波超音波が超音波探触子21から送信されると、垂直入射型横波超音波は、矢印の方向(左右方向)に振動しながら、紙面に対して垂直下向き方向に被測定物40内で伝播し始め、その後、紙面に対して垂直上下方向に反射を繰り返して伝播する。
ステップS5において、超音波探触子21は、被測定物40により反射された垂直入射型横波超音波を受信し、ステップS6において超音波探触子21は、受信された垂直入射型横波超音波のデータである横波超音波データを制御部11に供給する。制御部11は、超音波探触子21から供給された横波超音波データを取得し、取得された横波超音波データを記憶部15に供給する。
ステップS7において、記憶部15は、制御部11を介して超音波探触子21から供給された横波超音波データを取得し、取得された横波超音波データを記憶する。
ステップS8において、制御部11は、回転角度変数nが予め設定されたnの最大値(例えば、360度を10回に分割した場合、nの最大値は10となる)より小さいか否かを判定する。ステップS8において回転角度変数nが予め設定されたnの最大値より小さいと判定された場合、制御部11はステップS9において、現時点での回転角度変数nの値を1だけインクリメントする。
これにより、予め設定されたモータ14−1の1回の所定の回転量(例えば、36度など)に基づいて、基準方向に対する各角度において横波超音波データを受信し、記憶することができるとともに、予め設定されたモータ14−1の合計の回転量(例えば、360度など)のうちの各角度における横波超音波データをすべて受信し、記憶することができる。
ステップS10において、制御部11は、モータ14−1の駆動を開始するためのモータ駆動開始制御信号を生成し、モータ駆動制御部12−1に供給する。ステップS11において、モータ駆動制御部12−1は、制御部11から供給されたモータ14−1の駆動を開始するためのモータ駆動開始制御信号に基づいて、モータ14−1に電力の供給を開始するための電力供給開始制御信号を生成し、モータ駆動部13−1に供給する。
ステップS12において、モータ駆動部13−1は、モータ駆動制御部12−1から供給された電力供給開始制御信号に基づいて、モータ14−1に電力を供給する。これにより、モータ14−1は、モータ駆動部13−1から供給された電力により、所定の角度になるように回転を開始することができるようになる。
ステップS13において、モータ14−1は、モータ駆動部13−1から供給された電力により、予め設定された1回の回転角度θの角度量で超音波探触子21を回転させる。ステップS14において、モータ駆動制御部12−1は、所定の時間(例えば、数秒など)経過後、モータ駆動部13−1に電力の供給を停止するための電力供給停止制御信号を生成し、モータ駆動部13−1に供給する。ステップS15において、モータ駆動部13−1は、モータ駆動制御部12−1から供給された電力供給停止制御信号に基づいて、モータ14−1への電力の供給を停止する。その後、処理はステップS3に戻り、ステップS3以降の処理が繰り返される。
ステップS8において回転角度変数nが予め設定されたnの最大値より小さくないと判定された場合(すなわち、現時点での回転角度変数nが予め設定されたnの最大値であると判定された場合)、制御部11はステップS16において、記憶部15に記憶されている横波超音波データを読み出す。
ステップS17において、制御部11は、記憶部15から供給された横波超音波データを取得し、取得された横波超音波データに基づいて超音波のエコーレベルが所定の値より小さい部分があるか否かを判定する。すなわち、図4のステップS7の処理により記憶部15に記憶されている各横波超音波データに基づいて、順次、各データにおいて超音波のエコーレベルが所定の値より小さい部分があるか否かを判定する。
ここで、図6を参照して、音響異方性の方向と垂直入射型横波超音波のエコーレベルとの関係について説明する。
図6[D]、図6[E]、および図6[F]は、応力測定装置1を上から見た場合の、音響異方性の方向に対する垂直入射型横波超音波の振動方向を示しており、図6[A]、図6[B]、および図6[C]は、図6[D]、図6[E]、および図6[F]の場合に対応する垂直入射型横波超音波の波形を示している。図6[G]は、応力測定装置1の正面図を示す簡略図で、被測定物40上に超音波探触子21を設置した状態を示す。
図6Dに示されるように、横軸(左から右に向かう方向)は被測定物40の音響異方性の方向であり、垂直入射型横波超音波はこの音響異方性の方向に対して0度(すなわち、音響異方性の方向そのもの)の角度で振動している。そして、図6[A]に示されるように、被測定物40の音響異方性の方向に対して0度の振動方向を有する垂直入射型横波超音波の波形では、垂直入射型横波超音波のエコーレベルが絶対値で0.5乃至1.0(V)である。すなわち、垂直入射型横波超音波の振動方向が被測定物40の音響異方性の方向に対して0度の角度を有する場合、超音波探触子21から被測定物40に入射された垂直入射型横波超音波が干渉することなく、うなりが生じないことを示している。
また、図6[E]に示されるように、横軸(左から右に向かう方向)は被測定物40の音響異方性の方向であり、垂直入射型横波超音波はこの音響異方性の方向に対して45度(すなわち、音響異方性の方向そのもの)の角度で振動している。そして、図6[B]に示されるように、被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の振動方向を有する垂直入射型横波超音波の波形では、垂直入射型横波超音波のエコーレベルが一部では絶対値で0.2(V)よりも小さい部分がある。すなわち、垂直入射型横波超音波の振動方向が被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の角度を有する場合、超音波探触子21から被測定物40に入射された垂直入射型横波超音波が干渉し、うなりが生じていることを示している。
勿論、垂直入射型横波超音波の振動方向が被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の角度を有する場合、超音波探触子21から被測定物40に入射された垂直入射型横波超音波が干渉し、うなりが生じていることにより、図6[B]の場合とは反対に、例えば、垂直入射型横波超音波のエコーレベルが一部では絶対値で1.0(V)よりもはるかに大きくなるときもある。
さらに、図6[F]に示されるように、横軸(左から右に向かう方向)は被測定物40の音響異方性の方向であり、垂直入射型横波超音波はこの音響異方性の方向に対して90度(すなわち、音響異方性の方向そのもの)の角度で振動している。そして、図6[C]に示されるように、被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の振動方向を有する垂直入射型横波超音波の波形では、垂直入射型横波超音波のエコーレベルが絶対値で0.5乃至1.0(V)である。すなわち、垂直入射型横波超音波の振動方向が被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の角度を有する場合、超音波探触子21から被測定物40に入射された垂直入射型横波超音波が干渉することなく、うなりが生じないことを示している。
このように、音響複屈折現象により、超音波の振動方向が音響異方性の方向に対して45度の角度を有する場合、その他の場合に比べて、超音波のエコーレベルが大きくなったり、小さくなったりする。従って、この音響複屈折現象を利用すると、被測定物に垂直入射型横波超音波を入射させ、受信された垂直入射型横波超音波のエコーレベル(例えば、図6[A]乃至[C]に示される波形のエコーレベルなど)を解析することで、被測定物の音響異方性の方向を測定することができる。
ステップS17において超音波のエコーレベルが所定の値より小さい部分があると判定された場合、制御部11はステップS18において、現在判定をしている横波超音波データにおける、被測定物40の音響異方性の方向に対する垂直入射型横波超音波の振動方向を45度の方向と設定する。ステップS19において、制御部11は、ステップS18の処理により設定された、被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の角度を有する垂直入射型横波超音波の振動方向に基づいて、被測定物40の音響異方性の方向を設定する。すなわち、例えば、被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の角度を有する垂直入射型横波超音波の振動方向が基準方向に対して108度の角度を有している場合、被測定物40の音響異方性の方向は、基準方向に対して63度の角度を有する方向である。
一方、ステップS17において超音波のエコーレベルが所定の値より小さい部分がないと判定された場合、制御部11はステップS20において、超音波のエコーレベルが他の所定のレベル(例えば、図6でのエコーレベルが1.5(V)など)より大きい部分があるか否かを判定する。
ステップS20において超音波のエコーレベルが他の所定のレベルより大きい部分があると判定された場合、処理はステップS18に進む。ステップS20において超音波のエコーレベルが他の所定のレベルより大きくないと判定された場合、制御部11はステップS21において、現在判定をしている横波超音波データにおける、被測定物40の音響異方性の方向に対する垂直入射型横波超音波の振動方向を被測定物40の音響異方性の方向ではないと設定する。
ステップS22において、制御部11は、ステップS7の処理により予め記憶部15に記憶されている各横波超音波データのすべてのデータについて被測定物40の音響異方性の方向であるかを設定したか否かを判定する。ステップS22において各横波超音波データのすべてのデータについて被測定物40の音響異方性の方向であるかを設定していないと判定された場合、処理はステップS17に戻り、その後ステップS17以降の処理が繰り返される。
ステップS22において各横波超音波データのすべてのデータについて被測定物40の音響異方性の方向であるかを設定したと判定された場合、制御部11はステップS23において、図4のステップS19の処理により設定された被測定物40の音響異方性の方向のデータ(すなわち、被測定物40の音響異方性の方向の基準方向に対する所定の角度を有する方向のデータ)を記憶部15に供給する。記憶部15は、制御部11から供給された被測定物40の音響異方性の方向のデータを記憶する。
本発明の第1の実施形態に示された応力測定装置1においては、被測定物40の音響複屈折現象を利用し、被測定物に垂直入射型横波超音波を入射させ、受信された垂直入射型横波超音波のエコーレベル(例えば、図6[A]乃至[C]に示される波形のエコーレベルなど)を解析するようにしたので、被測定物の音響異方性の方向を測定することができる。
次に、図7[A]に示されるように、被測定物40(特に、溶接部41)に生じている主応力値を計算するため、ユーザにより溶接部41に対して所定の位置になるように応力測定装置1は移動される。その後、応力測定装置1において主応力値計算処理(図8を参照して後述する)が開始される。レーリー波探触子22−1からレーリー波が送信されると、図7[A]に示されるように、レーリー波は被測定物40を矢印の方向(左から右への方向)に伝播し、レーリー波探触子22−2および22−3にそれぞれ受信される。また、図7[B]に示されるように、応力測定装置1の上から見た場合、レーリー波探触子22−1からレーリー波が送信されると、レーリー波は被測定物40を矢印の方向(左から右への方向)に伝播し、レーリー波探触子22−2および22−3にそれぞれ受信される。
なお、溶接部41と熱影響部42からなる被測定物40の配管の軸方向は、図7[B]に示されるように、上下方向となっている。
図8のフローチャートを参照して、図1の応力測定装置1の主応力値計算処理について説明する。
ステップS31において、制御部11は、ユーザが入力部16のキーボード(図示せず)やマウス(図示せず)を操作することにより、主応力測定処理を開始するとの指示がなされたか否かを判定し、主応力測定処理を開始するとの指示がなされたと判定するまで待機する。
ステップS31において主応力測定処理を開始するとの指示がなされたと判定された場合、応力測定装置1は、音響異方性方向音速度測定処理を実行する。この音響異方性方向音速度測定処理の詳細は、図9のフローチャートに示されている。
図9のフローチャートを参照して、図1の応力測定装置1の音響異方性方向音速度測定処理について説明する。なお、この「音響異方性方向音速度測定処理」に用いられている「音響異方性方向音速度」とは、被測定物40の音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が0度の角度を有する場合の、レーリー波の伝播速度(音速度)を意味している。
一方、図10のフローチャートを参照して後述する「音響異方性直角方向音速度測定処理」に用いられる「音響異方性直角方向」とは、被測定物40の音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が90度の角度を有する場合の、レーリー波の伝播速度(音速度)を意味している。
ステップS41において、制御部11は、モータ14−2の駆動を開始するためのモータ駆動開始制御信号を生成し、モータ駆動制御部12−2に供給する。ステップS42において、モータ駆動制御部12−2は、制御部11から供給されたモータ14−2の駆動を開始するためのモータ駆動開始制御信号に基づいて、モータ14−2に電力の供給を開始するための電力供給開始制御信号を生成し、モータ駆動部13−2に供給する。
ステップS43において、モータ駆動部13−2は、モータ駆動制御部12−2から供給された電力供給開始制御信号に基づいて、モータ14−2に電力を供給する。これにより、モータ14−2は、モータ駆動部13−2から供給された電力により、所定の角度になるように回転を開始することができるようになる。
ステップS44において、モータ14−2は、モータ駆動部13−2から供給された電力を取得し、所定の角度になるようにレーリー波探触子22−1乃至22−3を回転する。ここで、「所定の角度」とは、送信されたレーリー波にうなりが生じないような、音響異方性の方向に対するレーリー波の伝播方向が有する0度であるときの角度であり、この「所定の角度」は予め設定されている。これにより、被測定物40の音響異方性の方向でレーリー波探触子22−1からレーリー波を送信することができる。
ステップS45において、制御部11は、レーリー波をレーリー波探触子22−1に送信させるためのレーリー波送信制御信号を生成し、レーリー波探触子22−1に供給する。ステップS46において、図7[B]に示されるように、レーリー波探触子22−1は、制御部11から供給されたレーリー波送信制御信号に基づいて、所定の方向(左から右への方向)に被測定物40の表面に対してレーリー波を送信する。これにより、レーリー波探触子22−1から送信されたレーリー波は、被測定物40の表面への伝播を開始する。
ステップS47において、レーリー波探触子22−2および22−3は、それぞれ、レーリー波探触子22−1から被測定物40を介して送信されたレーリー波を受信する。
ステップS48において、レーリー波探触子22−2および22−3は、それぞれ、受信されたレーリー波のデータであるレーリー波データを制御部11に供給する。制御部11は、レーリー波探触子22−2および22−3から供給されたレーリー波データを記憶部15に供給する。
ステップS49において、記憶部15は、制御部11を介してレーリー波探触子22−2および22−3から供給されたレーリー波データを記憶する。
ここで、図7[A]と[B]に示されるように、レーリー波探触子22−1から送信されたレーリー波を受信するためのレーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3は、所定の間隔で予め設定されている。その結果、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3がレーリー波探触子22−1から送信されたレーリー波をそれぞれ受信した場合、多少の時間差(時間の遅れ)が生じる。
ステップS50において、制御部11は、記憶部15に記憶されているレーリー波のデータを読み出し、読み出されたレーリー波データに基づいて、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3にそれぞれ受信されたレーリー波の時間差(時間の遅れ)を計算する。なお、この時間差は、例えば、応力測定装置1内のクロックパルスを用いて計算される。
ステップS51において、制御部11は、記憶部15に予め記憶されている、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3の所定の間隔(距離)を読み出し、読み出されたレーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3の所定の間隔(距離)と、図9のステップS50の処理により計算された時間差とに基づいて、音響異方性方向音速度を[数1]に従って計算し、計算された音響異方性方向音速度のデータである音響異方性方向音速度データを記憶部15に供給する。
[数1]
VR(0)=d/ΔT(0)
ここで、記号VR(0)、d、およびΔT(0)は、音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が0度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3との所定の間隔(距離)、および音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が0度の角度を有する場合の2つのレーリー波探触子(レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3)における受信の時間差を示している。
ステップS52において、記憶部15は、制御部11から供給された音響異方性方向音速度データを記憶する。
以上のように、被測定物40の音響異方性の方向にレーリー波の伝播方向がなるように、例えば、モータ(図1のモータ14−2など)によりレーリー波探触子(例えば、図1のレーリー波探触子22−1など)を回転させるようにしたので、被測定物40の音響異方性の方向にレーリー波の伝播方向がなる場合のレーリー波の音速度を計算することができる。
図8に戻り、ステップS33において、応力測定装置1は、音響異方性直角方向音速度測定処理を実行する。なお、この音響異方性直角方向音速度測定処理の詳細は、図10のフローチャートに示されている。
図10のフローチャートを参照して、図1の応力測定装置1の音響異方性直角方向音速度測定処理について説明する。なお、図1のステップS61乃至S63、ステップS65乃至S70、およびステップS72の処理は、図9のステップS41乃至43、ステップS45乃至50、およびステップS52の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
ステップS64において、モータ14−2は、モータ駆動部13−2から供給された電力に基づいて、所定の角度になるようにレーリー波探触子22−1乃至22−3を回転する。ここで、「所定の角度」とは、送信されたレーリー波にうなりが生じないような、音響異方性の方向に対するレーリー波の伝播方向が有する90度であるときの角度であり、この「所定の角度」は予め設定されている。これにより、被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の角度を有する方向で、レーリー波探触子22−1からレーリー波を送信することができる。
なお、図11に示されるように、図10のステップS64の処理により、音響異方性の方向に対して90度の角度を有する方向になるように、レーリー波探触子22−1乃至22−3がモータ14−2により回転され、配置される。その後、レーリー波探触子22−1は、制御部11から供給されたレーリー波送信制御信号に基づいて、所定の方向(下から上への方向)に被測定物40の表面に対してレーリー波を送信する。これにより、レーリー波探触子22−1から送信されたレーリー波は、被測定物40の表面への伝播を開始する。
ステップS71において、制御部11は、記憶部15に予め記憶されている、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3の所定の間隔(距離)を読み出し、読み出されたレーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3の所定の間隔(距離)と、図10のステップS70の処理により計算された時間差とに基づいて、音響異方性直角方向音速度を[数2]に従って計算し、計算された音響異方性直角方向音速度のデータである音響異方性直角方向音速度データを記憶部15に供給する。
[数2]
VR(90)=d/ΔT(90)
ここで、記号VR(90)、d、およびΔT(90)は、音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が90度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3との所定の間隔(距離)、および音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が0度の角度を有する場合の2つのレーリー波探触子(レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3)における受信の時間差を示している。
以上のように、被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の角度を有する方向にレーリー波の伝播方向がなるように、例えば、モータ(図1のモータ14−2など)によりレーリー波探触子(例えば、図1のレーリー波探触子22−1など)を回転させるようにしたので、被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の方向にレーリー波の伝播方向がなる場合のレーリー波の音速度を計算することができる。
図8に戻り、ステップS34において、制御部11は、記憶部15に記憶されている音響異方性方向音速度データと音響異方性直角方向音速度データを読み出す。ステップS35において、制御部11は、記憶部15から読み出された音響異方性方向音速度データと音響異方性直角方向音速度データに基づいて、被測定物40に生じている主応力値を[数3]乃至[数6]に従って計算し、計算された主応力値のデータを記憶部15に供給する。
一般に、被測定物40の音響異方性の方向に対して0度と90度の角度を有する方向にレーリー波を伝播させた場合、レーリー波の音弾性法則から[数3]と[数4]の式が成り立つ。
ここで、記号VR(0)、VR(90)、VR0、αR(0)、αR(90)、CR,、CAR、σX、およびσYは、それぞれ、音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が0度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が90度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、被測定物40のレーリー波の音速度(伝播速度)の平均値、音響異方性の方向に対して0度の方向に伝播するレーリー波の音速度(伝播速度)に影響する部材の音響異方性定数、音響異方性の方向に対して90度の方向に伝播するレーリー波の音速度(伝播速度)に影響する部材の音響異方性定数、音響異方性の方向に対して0度の方向に伝播するレーリー波の音速度(伝播速度)に影響する部材の音弾性定数、音響異方性の方向に対して90度の方向に伝播するレーリー波の音速度(伝播速度)に影響する部材の音弾性定数、基準方向(X軸)の主応力値、および基準方向と直角(90度)の方向(Y軸)の主応力値を示している。
なお、αR(0)、αR(90)、CR,、およびCARの定数は、被測定物40に用いられる部材の種類(例えば、炭素鋼やステンレス鋼など)により異なるので、予め引っ張り試験機などを用いて測定しておく。また、VR0についても、予め測定し、計算しておく。
このレーリー波の音弾性法則を利用し、[数3]と[数4]を用いれば、被測定物40に生じている主応力値(σ
Xとσ
Y)を求めることができる。主応力値(σ
Xとσ
Y)は、それぞれ、[数5]と[数6]に従って計算することが可能となる。
以上のように、本発明の第1の実施形態に示された応力測定装置1においては、被測定物40の音響異方性を測定し、その音響異方性の方向のデータに基づいて、音響異方性の方向に対して所定の角度(例えば、0度と90度など)の方向で超音波(例えば、レーリー波など)を送信するようにしたので、音響異方性による音速度の変化量を予め考慮(分離)することができる。これにより、被測定物40の表面に伝播するときの音速度を高精度に測定することができる。また、披検査材(例えば、図2の被測定物40など)に生じている主応力値(σXとσY)自体を分離して計算することができる。従って、計算された主応力値に基づき、被測定物40の劣化を正確に判定することができる。
[第2の実施形態]
次に、図12は、本発明を適用した応力測定装置1の第2の実施形態の内部の構成を表している。なお、図1の構成と対応するものについては、同一の符号を付してあり、その説明は繰り返しになるので省略する。
SH表面波51−1は、先端部分にSH表面波振動子(図示せず)を有しており、このSH表面波振動子は、送信時に電気パルスをSH表面波パルス(送信SH表面波)に変換し、受信時に被測定物40から反射されたSH表面波反射信号(受信SH表面波)を電気信号に変換する。SH表面波探触子51−1は、制御部11から供給されたSH表面波超音波送信制御信号に基づいて、被測定物40の表面に対してSH表面波を送信する。
SH表面波51−2は、先端部分にSH表面波振動子(図示せず)を有しており、このSH表面波振動子は、送信時に電気パルスをSH表面波パルス(送信SH表面波)に変換し、受信時に被測定物40から反射されたSH表面波反射信号(受信SH表面波)を電気信号に変換する。SH表面波探触子51−2は、被測定物40から反射されたSH表面波を受信し、受信されたSH表面波に基づき、SH表面波のデータであるSH表面波データを制御部11に供給する。
SH表面波51−3は、先端部分にSH表面波振動子(図示せず)を有しており、このSH表面波振動子は、送信時に電気パルスをSH表面波パルス(送信SH表面波)に変換し、受信時に被測定物40から反射されたSH表面波反射信号(受信SH表面波)を電気信号に変換する。SH表面波探触子51−3は、被測定物40から反射されたSH表面波を受信し、受信されたSH表面波に基づき、SH表面波のデータであるSH表面波データを制御部11に供給する。
図13は、被測定物に配置した場合の図12の応力測定装置1の断面の構成を表している。
被測定物40に対して応力測定を行う場合、図13に示されるように、応力測定装置1は、溶接部41と熱影響部42からなる被測定物40の上に、ユーザにより応力測定を所望する位置(例えば、図13の溶接部41など)に予め配置される。固定装置31の中には、先端に超音波探触子21が接続されているモータ14−1、および、先端にレーリー波探触子22−1乃至22−3とSH表面波探触子51−1乃至51−3を有するケース32が接続されているモータ14−2が、所定の位置に固定されている。
なお、レーリー波探触子22−1乃至22−3およびSH表面波探触子51−1乃至51−3は、モータ14−2の中心を通る所定の直線状に配置されるように、予めケース32に接続されている。従って、モータ14−2を制御部11の指示に基づいて駆動(回転)させた場合、レーリー波探触子22−1乃至22−3およびSH表面波探触子51−1乃至51−3は、所定の直線状に配置されるような関係が維持されつつ、所定の回転量で回転される。レーリー波探触子22−1乃至22−3は、モータ14−2により所定の角度になるように回転させても、被測定物40の音響異方性の方向に対して同一の所定の角度を有する方向に、一直線上に配置される。
また、超音波探触子21も、レーリー波探触子22−1乃至22−3およびSH表面波探触子51−1乃至51−3が被測定物40の音響異方性の方向に対して有する所定の角度と同一の角度の方向となるように、予め配置されている。つまり、超音波探触子21から送信される垂直入射型横波超音波の振動方向(図5)と、レーリー波探触子22−1から送信されるレーリー波の伝播方向(図16と図18を参照して後述する)が、常に平行となる。
また、図13の矢印は、SH表面波探触子51−1から送信されたSH表面波の伝播方向を示している。SH表面波は、SH表面波探触子51−1から送信されると、左から右方向に被測定物40の表面を伝播する。
なお、本発明を適用した応力測定装置1の第2の実施形態における音響異方性測定処理は、本発明を適用した応力測定装置1の第1の実施形態における音響異方性測定処理(例えば、図4のステップS1乃至S23の処理など)と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
図14を参照して、図12の応力測定装置1の主応力値計算処理を説明する。なお、図14のステップS81およびステップS87乃至S89の処理は、図8のステップS31およびステップS37乃至39の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
ステップS81において主応力測定処理を開始するとの指示がなされたと判定された場合、応力測定装置1は、音響異方性方向音速度測定処理を実行する。この音響異方性方向音速度測定処理の詳細は、図15のフローチャートに示されている。
図15のフローチャートを参照して、図12の応力測定装置1の音響異方性方向音速度測定処理について説明する。なお、図15のステップS91乃至S94、およびステップS100乃至S102の処理は、図9のステップS41乃至S44、およびステップS50乃至S52の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
ステップS95において、制御部11は、SH表面波をSH表面波探触子51−1に送信させるためのSH表面波送信制御信号を生成し、SH表面波探触子51−1に供給する。ステップS96において、図16に示されるように、SH表面波探触子51−1は、制御部11から供給されたSH表面波送信制御信号に基づいて、所定の方向(左から右への方向)に被測定物40の表面に対してSH表面波を送信する。これにより、SH表面波探触子51−1から送信されたSH表面波は、被測定物40の表面への伝播を開始する。
ステップS97において、SH表面波探触子51−2および51−3は、それぞれ、SH表面波探触子51−1から被測定物40を介して送信されたSH表面波を受信する。
ステップS98において、SH表面波探触子51−2および51−3は、それぞれ、受信されたSH表面波のデータであるSH表面波データを制御部11に供給する。制御部11は、SH表面波探触子51−2および51−3から供給されたSH表面波データを記憶部15に供給する。
ステップS99において、記憶部15は、制御部11を介してSH表面波探触子51−2および51−3から供給されたSH表面波データを記憶する。
なお、図15のステップS101における音響異方性方向音速度計算処理においては、図9のステップS51における音響異方性方向音速度計算処理と同様に行われる。すなわち、制御部11は、記憶部15に予め記憶されている、SH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3の所定の間隔(距離)を読み出し、読み出されたSH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3の所定の間隔(距離)と、図15のステップS100の処理により計算された時間差とに基づいて、音響異方性方向音速度を[数7]に従って計算し、計算された音響異方性方向音速度のデータである音響異方性方向音速度データを記憶部15に供給する。
[数7]
Vxy=d/ΔTxy
ここで、記号Vxy、d、およびΔTxyは、音響異方性の方向に対してSH表面波の伝播方向が0度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、SH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3との所定の間隔(距離)、および音響異方性の方向に対してSH表面波の伝播方向が0度の角度を有する場合の2つのSH表面波探触子(SH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3)における受信の時間差を示している。
以上のように、被測定物40の音響異方性の方向にSH表面波の伝播方向がなるように、例えば、モータ(図12のモータ14−2など)によりSH表面波探触子(例えば、図12のSH表面波探触子22−1など)を回転させるようにしたので、被測定物40の音響異方性の方向にSH表面波の伝播方向がなる場合のSH表面波の音速度(音響異方性方向音速度)を計算することができる。
図14に戻り、ステップS83において、図12の応力測定装置1は、音響異方性直角方向音速度測定処理を実行する。なお、この音響異方性直角方向音速度測定処理の詳細は、図17のフローチャートに示されている。
図17のフローチャートを参照して、図12の応力測定装置1の音響異方性直角方向音速度測定処理について説明する。なお、図17のステップS111乃至S113、およびステップS120乃至S122の処理は、図10のステップS61乃至S63、およびステップS70乃至S72の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
ステップS114において、モータ14−2は、モータ駆動部13−2から供給された電力に基づいて、所定の角度になるようにSH表面波探触子51−1乃至51−3を回転する。ここで、「所定の角度」とは、送信されたSH表面波にうなりが生じないような、音響異方性の方向に対するSH表面波の伝播方向が有する90度であるときの角度であり、この「所定の角度」は予め設定されている。これにより、被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の角度を有する方向で、SH表面波探触子51−1からSH表面波を送信することができる。
ステップS115において、制御部11は、SH表面波をSH表面波探触子51−1に送信させるためのSH表面波送信制御信号を生成し、SH表面波探触子51−1に供給する。ステップS116において、図18に示されるように、SH表面波探触子51−1は、制御部11から供給されたSH表面波送信制御信号に基づいて、所定の方向(下から上への方向)に被測定物40の表面に対してSH表面波を送信する。これにより、SH表面波探触子51−1から送信されたSH表面波は、被測定物40の表面への伝播を開始する。
ステップS117において、SH表面波探触子51−2および51−3は、それぞれ、SH表面波探触子51−1から被測定物40を介して送信されたSH表面波を受信する。
ステップS118において、SH表面波探触子51−2および51−3は、それぞれ、受信されたSH表面波のデータであるSH表面波データを制御部11に供給する。制御部11は、SH表面波探触子51−2および51−3から供給されたSH表面波データを記憶部15に供給する。
ステップS119において、記憶部15は、制御部11を介してSH表面波探触子51−2および51−3から供給されたSH表面波データを記憶する。
なお、図17のステップS121における音響異方性直角方向音速度計算処理においては、図10のステップS71における音響異方性直角方向音速度計算処理と同様に行われる。すなわち、制御部11は、記憶部15に予め記憶されている、SH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3の所定の間隔(距離)を読み出し、読み出されたSH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3の所定の間隔(距離)と、図17のステップS120の処理により計算された時間差とに基づいて、音響異方性方向音速度を[数8]に従って計算し、計算された音響異方性直角方向音速度のデータである音響異方性直角方向音速度データを記憶部15に供給する。
[数8]
Vyx=d/ΔTyx
ここで、記号Vyx、d、およびΔTyxは、音響異方性の方向に対してSH表面波の伝播方向が90度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、SH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3との所定の間隔(距離)、および音響異方性の方向に対してSH表面波の伝播方向が90度の角度を有する場合の2つのSH表面波探触子(SH表面波探触子51−2とSH表面波探触子51−3)における受信の時間差を示している。
以上のように、被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の角度を有する方向にSH表面波の伝播方向がなるように、例えば、モータ(図12のモータ14−2など)によりSH表面波探触子(例えば、図12のSH表面波探触子51−1など)を回転させるようにしたので、被測定物40の音響異方性の方向に対して90度の角度を有する方向にSH表面波の伝播方向がなる場合のSH表面波の音速度(音響異方性直角方向音速度)を計算することができる。
図14に戻り、ステップS84において、応力測定装置1は、音響異方性45度方向音速度測定処理を実行する。なお、この音響異方性45度方向音速度測定処理の詳細は、図19のフローチャートに示されている。
図19を参照して、図12の応力測定装置1の音響異方性45度方向音速度測定処理を説明する。なお、図19のステップS131乃至S133、およびステップS135乃至S139の処理は、基本的には、図9のステップS41乃至S43、およびステップS45乃至S49の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
また、この「音響異方性45度方向音速度測定処理」に用いられている「音響異方性5度方向音速度」とは、被測定物40の音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が45度の角度を有する場合の、レーリー波の伝播速度(音速度)を意味している。
ステップS134において、モータ14−2は、モータ駆動部13−2から供給された電力に基づいて、所定の角度になるようにレーリー波探触子22−1乃至22−3を回転する。ここで、「所定の角度」とは、送信されたレーリー波にうなりが生じる音響異方性の方向に対するレーリー波の伝播方向が有する45度であるときの角度であり、この「所定の角度」は予め設定されている。これにより、被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の角度を有する方向でレーリー波探触子22−1からレーリー波を送信することができる。
ステップS141において、制御部11は、記憶部15に予め記憶されている、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3の所定の間隔(距離)を読み出し、読み出されたレーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3の所定の間隔(距離)と、図19のステップS140の処理により計算された時間差とに基づいて、音響異方性45度方向音速度を[数9]に従って計算し、計算された音響異方性45度方向音速度のデータである音響異方性45度方向音速度データを記憶部15に供給する。
[数9]
VR(45)=d/ΔT(45)
ここで、記号VR(45)、d、およびΔT(45)は、音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が45度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3との所定の間隔(距離)、および音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が45度の角度を有する場合の2つのレーリー波探触子(レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3)における受信の時間差を示している。
ステップS142において、記憶部15は、制御部11から供給された音響異方性45度方向音速度のデータを記憶する。
以上のように、被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の角度を有する方向にレーリー波の伝播方向がなるように、例えば、モータ(図12のモータ14−2など)によりレーリー波探触子(例えば、図12のレーリー波探触子22−1など)を回転させるようにしたので、被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の方向にレーリー波の伝播方向がなる場合のレーリー波の音速度を計算することができる。
図14に戻り、ステップS85において、制御部11は、記憶部15に記憶されている音響異方性方向音速度データ、音響異方性直角方向音速度データ、および音響異方性45度方向音速度データを読み出す。ステップS86において、制御部11は、読み出された音響異方性方向音速度データ、音響異方性直角方向音速度データ、および音響異方性45度方向音速度データに基づいて、被測定物40に生じている主応力値を計算し、計算された主応力値のデータである主応力値データを記憶部15に供給する。
一般に、被測定物40の音響異方性の方向に対して0度と90度の角度を有する方向にSH表面波を伝播させた場合、[数10]に従って被測定物40に生じている主応力値の差Aを計算することができる。
ここで、記号Vxy、Vyx、CA、σX、およびσYは、それぞれ、音響異方性の方向に対してSH表面波の伝播方向が0度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、音響異方性の方向に対してSH表面波の伝播方向が90度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、音響異方性の方向に対して90度の方向に伝播するSH表面波の音速度(伝播速度)に影響する部材の音弾性定数、基準方向(X軸)の主応力値、および基準方向と直角(90度)の方向(Y軸)の主応力値を示している。
なお、C
Aの定数は、[数11]に従って予め求めることができる。
ここで、記号ρおよびVSは、被測定物40を構成する部材の密度、および被測定物40を超音波が伝播する平均の音速度を示している。
また、一般に、被測定物40の音響異方性の方向に対して45度の角度を有する方向にレーリー波を伝播させた場合、レーリー波の音弾性法則から[数12]の式が成り立つ。
ここで、記号VR(45)、VR0、αR(45)、CR,、σX、およびσYは、それぞれ、音響異方性の方向に対してレーリー波の伝播方向が45度の角度を有する場合の音速度(伝播速度)、被測定物40のレーリー波の音速度(伝播速度)の平均値、音響異方性の方向に対して45度の方向に伝播するレーリー波の音速度(伝播速度)に影響する部材の音響異方性定数、音響異方性の方向に対して0度の方向に伝播するレーリー波の音速度(伝播速度)に影響する部材の音弾性定数、基準方向(X軸)の主応力値、および基準方向と直角(90度)の方向(Y軸)の主応力値を示している。
なお、αR(45)およびCR,の定数は、被測定物40に用いられる部材の種類(例えば、炭素鋼やステンレス鋼など)により異なるので、予め引っ張り試験機などを用いて測定しておく。また、VR0についても、予め測定し、計算しておく。
このレーリー波の音弾性法則を利用し、[数10]と[数12]を用いれば、被測定物40に生じている主応力値(σ
Xとσ
Y)を求めることができる。この主応力値(σ
Xとσ
Y)は、それぞれ、[数13]と[数14]に従って計算することが可能となる。
本発明の第2の実施形態に示された応力測定装置1においては、被測定物40の音響異方性を測定し、その音響異方性の方向のデータに基づいて、音響異方性の方向に対して所定の角度(例えば、0度、45度、および90度など)の方向で超音波(例えば、レーリー波やSH表面波など)を送信するようにしたので、音響異方性による音速度の変化量を予め考慮(分離)することができる。これにより、被測定物40の表面に伝播するときの音速度を高精度に測定することができる。また、披検査材(例えば、図13の被測定物40など)に生じている主応力値(σXとσY)自体を分離して計算することができる。従って、計算された主応力値に基づき、被測定物40の劣化を正確に判定することができる。
なお、本発明の第1および第2の実施形態に示された応力測定装置1においては、図2を参照して説明した音響複屈折現象を利用し、被測定物40に垂直入射型横波超音波を入射させ、受信された垂直入射型横波超音波を解析することで、被測定物40の音響異方性の方向を測定するようにしているが、例えば、レーリー波やSH表面波を用いても、被測定物40の音響異方性を測定することができる。
具体的には、レーリー波やSH表面波の音速度は、被測定物40に残留応力が生じていない場合であっても、被測定物40の音響異方性に対するレーリー波やSH表面波の伝播方向によって微小に変化することが知られている。例えば、引っ張り試験機などにより被測定物40に応力を加えた場合と加えない場合の、SH表面波の伝播方向と音速度との関係を示す実験結果が、図20と図21に示されている。
図20を参照して、SH表面波の伝播方向と音速度との関係を示す実験結果を説明する。
図20の実線55は、引っ張り機などにより被測定物40に48メガパスカルの応力をかけた(すなわち、48メガパスカルで引っ張った)場合の、SH表面波の伝播方向に対応する音速度を示しており、図20の実線56は、引っ張り機などにより被測定物40に何ら応力をかけない場合の、SH表面波の伝播方向に対応する音速度を示している。図20に示されるように、被測定物40に48メガパスカルの応力をかけた場合と、引っ張り機などにより被測定物40に何ら応力をかけない場合とを比較すると、応力をかけた場合に音速度が大きくなっている。
また、図20に示されるように、被測定物40の音響異方性の方向に対するSH表面波の伝播方向により、SH表面波の音速度が多少なりとも異なっている。
図21を参照して、レーリー波の伝播方向と音速度との関係を示す実験結果を説明する。
図21の実線57は、引っ張り機などにより被測定物40に−46メガパスカルの応力をかけた(すなわち、46メガパスカルで押した)場合の、レーリー波の伝播方向に対応する音速度を示しており、図21の実線58は、引っ張り機などにより被測定物40に何ら応力をかけない場合の、レーリー波の伝播方向に対応する音速度を示しており、図21の実線59は、被測定物40に46メガパスカルの応力をかけた(すなわち、46メガパスカルで引っ張った)場合の、レーリー波の伝播方向に対応する音速度を示している。図21に示されるように、3つの場合を比較すると、応力をかけた場合において音速度が大きくなったり、小さくなったりしている。
また、図21に示されるように、被測定物40の音響異方性の方向に対するレーリー波の伝播方向により、レーリー波の音速度が多少なりとも異なっている。
従って、この現象を利用すれば、レーリー波またはSH表面波の音速度を測定し、解析することにより、被測定物40の音響異方性を測定することができる。
図22を参照して、本発明の第1の実施形態に示された応力測定装置1(図1)における、この現象を利用した他の音響異方性測定処理を説明する。なお、図22のステップS151、ステップS152、およびステップS161乃至S168の処理は、図4のステップS1、ステップS2、およびステップS8乃至S15の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。また、図22のステップS153乃至S160の処理は、図9のステップS45乃至S52の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
ステップS161において回転角度変数nが予め設定されたnの最大値より小さくないと判定された場合(すなわち、現時点での回転角度変数nが予め設定されたnの最大値であると判定された場合)、制御部11はステップS169において、記憶部15に記憶されている音速度データ(基準方向に対して予め設定された各角度におけるレーリー波の音速度のデータ)を読み出す。
ステップS170において、制御部11は、記憶部15から読み出された音速度データに基づいて、読み出された音速度が最小値であるか否かを判定する。すなわち、図22のステップS160の処理により記憶部15に記憶されている各音速度データに基づいて、順次、すでに読み出された各音速度の中で最小値であるか否かを判定する。
ステップS170において読み出された音速度が最小値であると判定された場合、制御部11はステップS171において、被測定物40の音響異方性の方向を設定する。すなわち、現時点において判定している音速度の、基準方向に対して有する角度の方向を被測定物40の音響異方性の方向であると設定する。また、すでに判定した音速度データのうち、基準方向に対して有する所定の角度の方向が被測定物40の音響異方性の方向であると設定されている場合、現時点において判定している音速度の、基準方向に対して有する角度の方向を被測定物40の音響異方性の方向であると更新する。
一方、ステップS170において読み出された音速度が最小値ではないと判定された場合、制御部11はステップS172において、現時点において判定している音速度の、基準方向に対して有する角度の方向を、被測定物40の音響異方性の方向ではないと設定する。
ステップS173において、制御部11は、ステップS160の処理により予め記憶部15に記憶されている各音速度データのすべてのデータについて被測定物40の音響異方性の方向であるかを設定したか否かを判定する。ステップS173において各音速度データのすべてのデータについて被測定物40の音響異方性の方向であるかを設定していないと判定された場合、処理はステップS170に戻り、その後ステップS170以降の処理が繰り返される。
ステップS173において音速度データのすべてのデータについて被測定物40の音響異方性の方向であるかを設定したと判定された場合、制御部11はステップS174において、図22のステップS171の処理により設定された被測定物40の音響異方性の方向のデータ(すなわち、被測定物40の音響異方性の方向の基準方向に対する角度)を記憶部15に供給する。記憶部15は、制御部11から供給された被測定物40の音響異方性の方向のデータを記憶する。
なお、以上においては、レーリー波を用いるようにしたが、SH表面波を用いて音速度を測定し、計算することにより、その音速度に基づいて被測定物40の音響異方性を測定するようにしてもよい。また、読み出された音速度が最大値であると判定された場合、被測定物40の音響異方性の方向を設定するようにしてもよい。
以上のように、本発明の第1の実施形態に示された応力測定装置1においては、被測定物に超音波(例えば、レーリー波やSH表面波など)を伝播させ、その音速度を測定し、解析するようにしたので、被測定物の音響異方性の方向を測定することができる。
ところで、本発明の第1の実施形態と第2の実施形態に示された応力測定装置1においては、制御部11が2つの探触子(例えば、図7[A]のレーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3など)における受信の時間差を計算するようにしているが、この時間差をより精度よく測定(計算)するため、例えば、シングアラウンド法やエコーオーバーラップ法などをさらに用いて計算するようにしてもよい。
[第3の実施形態]
以下に、シングアラウンド法を用いた本発明の第3の実施形態について説明する。
図23は、本発明を適用した応力測定装置1の第3の実施形態の内部の構成を表している。なお、図1の構成と対応するものについては、同一の符号を付してあり、その説明は繰り返しになるので省略する。
タイマ61−1は、レーリー波探触子22−2から供給されたレーリー波のデータを取得し、取得されたレーリー波のデータに基づいてエコーを切り出し、切り出されたエコーを矩形パルスに変換する。またタイマ61−1は、変換された矩形パルスに基づいて、遅延パルスを発生させ、発生された遅延パルスと送信パルスとの時間間隔を測定し、測定された時間間隔を制御部11に供給する。
タイマ61−2は、レーリー波探触子22−3から供給されたレーリー波のデータを取得し、取得されたレーリー波のデータに基づいてエコーを切り出し、切り出されたエコーを矩形パルスに変換する。またタイマ61−2は、変換された矩形パルスに基づいて、遅延パルスを発生させ、発生された遅延パルスと送信パルスとの時間間隔を測定し、測定された時間間隔を制御部11に供給する。
図24は、図23のタイマ61−1の詳細な構成を表している。
タイマ61−1は、ゲート回路部71−1、波形整形回路部72−1、遅延回路部73−1、およびカウンタ74−1により構成されている。
ゲート回路部71−1は、レーリー波探触子22−2から供給されたレーリー波のデータに基づいて、レーリー波のエコーを切り出し、切り出されたレーリー波のエコーを波形回路部72−1に供給する。波形回路部72−1は、ゲート回路部71−1から供給された、切り出されたレーリー波のエコーを矩形パルスに変換し、変換された矩形パルスを遅延回路部73−1に供給する。遅延回路部73−1は、波形整形回路部72−1から供給された矩形パルスに基づいて、遅延パルスを発生させ、発生された遅延パルスをカウンタ74−1と制御部11に供給する。カウンタ74−1は、遅延回路部73−1から供給された遅延パルスと、レーリー波探触子22−2から送信された送信パルスとの時間間隔を測定し、測定された時間間隔のデータを制御部11に供給する。制御部11は、遅延回路部73−1から供給された遅延パルスに基づいて、予め設定された所定の回数(例えば、10000回など)を繰り返したか否かを判定する。
図25は、図23のタイマ61−2の詳細な構成を表している。
タイマ61−2は、ゲート回路部71−2、波形整形回路部72−2、遅延回路部73−2、およびカウンタ74−2により構成されている。
ゲート回路部71−2は、レーリー波探触子22−3から供給されたレーリー波のデータに基づいて、レーリー波のエコーを切り出し、切り出されたレーリー波のエコーを波形回路部72−2に供給する。波形回路部72−2は、ゲート回路部71−2から供給された、切り出されたレーリー波のエコーを矩形パルスに変換し、変換された矩形パルスを遅延回路部73−2に供給する。遅延回路部73−2は、波形整形回路部72−2から供給された矩形パルスに基づいて、遅延パルスを発生させ、発生された遅延パルスをカウンタ74−2と制御部11に供給する。カウンタ74−2は、遅延回路部73−2から供給された遅延パルスと、レーリー波探触子22−3から送信された送信パルスとの時間間隔を測定し、測定された時間間隔のデータを制御部11に供給する。制御部11は、遅延回路部73−2から供給された遅延パルスに基づいて、予め設定された所定の回数(例えば、10000回など)を繰り返したか否かを判定する。
図26のフローチャートを参照して、図23の応力測定装置1の主応力計算処理について説明する。なお、図26のステップS181、およびステップS184乃至S188の処理は、図8のステップS31、およびステップS34乃至S38の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
ステップS182において、応力測定装置1は、音響異方性方向音速度測定処理を実行する。なお、この音響異方性方向音速度測定処理の詳細は、図27のフローチャートに示されている。
図27のフローチャートを参照して、図23の応力測定装置1の音響異方性方向音速度測定処理について説明する。なお、図27のステップS191乃至S194、ステップS196乃至S200、ステップS210、およびステップS211の処理は、図9のステップS41乃至S49、ステップS51、およびステップS52の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
ステップS195において、制御部11は、音響異方性方向音速度測定処理を開始するための初期値を設定する。すなわち、後述するステップS196乃至S205における遅延パルスと送信パルスとの時間間隔の処理を、予め設定された所定の回数(例えば、10000回など)繰り返すために、回数変数mの初期値を0に設定する。
ステップS201において、ゲート回路部71−1は、図28に示されるように、レーリー波探触子22−2から供給されたレーリー波のデータに基づいて、レーリー波のエコーを切り出し、切り出されたレーリー波のエコーを波形回路部72−1に供給する。また、ゲート回路部71−2は、図28に示されるように、レーリー波探触子22−3から供給されたレーリー波のデータに基づいて、レーリー波のエコーを切り出し、切り出されたレーリー波のエコーを波形回路部72−2に供給する。
ここで、レーリー波探触子22−2を使用して測定する時間間隔は、レーリー波探触子22−1からレーリー波探触子22−2の間の伝播時間TP1(秒)であり、一方、レーリー波探触子22−3を使用して測定する時間間隔は、レーリー波探触子22−1からレーリー波探触子22−3の間の伝播時間TP2(秒)である。
ステップS202において、波形回路部72−1は、図28に示されるように、ゲート回路部71−1から供給された、切り出されたレーリー波のエコーを矩形パルスに変換し、変換された矩形パルスを遅延回路部73−1に供給する。波形回路部72−2は、図28に示されるように、ゲート回路部71−2から供給された、切り出されたレーリー波のエコーを矩形パルスに変換し、変換された矩形パルスを遅延回路部73−2に供給する。
ステップS203において、遅延回路部73−1は、波形整形回路部72−1から供給された矩形パルスに基づいて、TP1+TD(秒)という時間遅延の遅延パルスを発生させ、発生された遅延パルスをカウンタ74−1と制御部11に供給する。遅延回路部73−2は、波形整形回路部72−2から供給された矩形パルスに基づいて、TP2+TD(秒)という時間遅延の遅延パルスを発生させ、発生された遅延パルスをカウンタ74−2と制御部11に供給する。
ステップS204において、カウンタ74−1は、遅延回路部73−1から供給された遅延パルスと、レーリー波探触子22−2から送信された送信パルスとの時間間隔(例えば、TP1+TD(秒)など)を測定し、測定された時間間隔のデータを制御部11に供給する。制御部11は、遅延回路部73−1から供給された時間間隔のデータを取得し、取得された時間間隔(例えば、TP1+TD(秒)など)のデータである時間間隔データを記憶部15に供給する。また、カウンタ74−2は、遅延回路部73−2から供給された遅延パルスと、レーリー波探触子22−3から送信された送信パルスとの時間間隔(例えば、TP2+TD(秒)など)を測定し、測定された時間間隔のデータを制御部11に供給する。制御部11は、遅延回路部73−2から供給された時間間隔のデータを取得し、取得された時間間隔(例えば、TP2+TD(秒)など)のデータである時間間隔データを記憶部15に供給する。
ステップS205において、記憶部15は、制御部11を介して遅延回路部73−1と遅延回路部73−2から供給された時間間隔データを取得し、取得された時間間隔データを記憶する。
ステップS206において、制御部11は、遅延回路部73−1と遅延回路部73−2から供給された遅延パルスに基づいて、予め設定された所定の回数(例えば、10000回など)を繰り返したか否かを判定する。
ステップS206において予め設定された所定の回数(例えば、10000回など)を繰り返していないと判定された場合、制御部11はステップS207において、回数変数mを1だけインクリメントする。その後、処理はステップS196に戻り、ステップS196以降の処理が繰り返される。これにより、ステップS196乃至ステップS205の処理を所定の回数(例えば、10000回など)繰り返すことができる。すなわち、例えば、所定の回数が10000回である場合、記憶部15には、10000×(TP1+TD)(秒)と10000×(TP2+TD)(秒)のパルスが記憶される。
ステップS206において予め設定された所定の回数(例えば、10000回など)を繰り返したと判定された場合、制御部11はステップS208において、記憶部15に記憶されているカウンタ74−1とカウンタ74−2で測定された時間間隔(例えば、10000×(TP1+TD)(秒)と10000×(TP2+TD)(秒)など)をそれぞれ読み出す。
ステップS209において、制御部11は、読み出された2つの時間間隔(例えば、10000×(TP1+TD)(秒)と10000×(TP2+TD)(秒)の時間間隔)の差を計算する。すなわち、制御部11は、読み出された2つの時間間隔(例えば、10000×(TP1+TD)(秒)と10000×(TP2+TD)(秒)の時間間隔)の差を計算することで、[数15]で与えられる値を計算することができる。
[数15]
10000×(TP1−TP2)
従って、読み出された2つの時間間隔の差を計算し、[数15]で与えられる値を10000で除することで、レーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3の時間差(TP1−TP2)を計算することができる。
ここで、上述したタイマ(例えば、図23のタイマ61−1とタイマ61−2など)を用いない場合、TP=5μsec、クロックパルスの周期を10nsecとすると、測定精度は、2×10−3(0.01/5から求められる)となる。一方、上述したタイマ(例えば、図23のタイマ61−1とタイマ61−2など)を用いた場合、10000回の測定結果を周期10nsecのクロックパルスで測定すると、測定精度は、2×10−7(0.01/50000から求められる)となる。従って、2つの測定精度を比較すると、2×10−3と2×10−7であり、上述したタイマ(例えば、図23のタイマ61−1とタイマ61−2など)を用いた場合、1万倍測定精度が向上する。これにより、被測定物に伝播させた超音波(例えば、レーリー波やSH表面波など)の音速度(例えば、音響異方性方向音速度と音響異方性直角方向音速度など)を測定する場合、その音速度を高精度に測定し、計算することができる。
なお、本発明の第3の実施形態に示された応力測定装置1においては、2つの探触子(例えば、図7[A]のレーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3など)における受信の時間差を、シングアラウンド法をさらに用いることにより計算するようにしているが、例えば、エコーオーバーラップ法や時間波高変換器(TAC、Time to Amplitude Converter)などを用いて計算するようにしてもよい。
このエコーオーバーラップ法をさらに用いて時間差を計算する場合、2つの探触子(例えば、図7[A]のレーリー波探触子22−2とレーリー波探触子22−3など)において受信されたレーリー波を、例えば、オシロスコープの遅延掃引機能を利用して、一方の受信波形の時間を少しずらしながら重ね合わせ、2つのレーリー波が重なった時にずらした時間を読み取るようにすることで時間差を測定し、計算する
また、時間波高変換器(TAC、Time to Amplitude Converter)をさらに用いて時間差を計算する場合、1nsec以下の精度で時間差を測定し、計算することができる。
図26に戻り、ステップS183において、応力測定装置1は、音響異方性直角方向音速度測定処理を実行する。なお、この音響異方性直角方向音速度測定処理の詳細は、図29のフローチャートに示されている。
図29のフローチャートを参照して、図23の応力測定装置1の音響異方性直角方向音速度測定処理について説明する。なお、図29のステップS221乃至S241の処理は、図27のステップS191乃至S211の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
なお、本発明の第1乃至第3の実施形態に示された応力測定装置1においては、超音波の音速度を測定する場合、送信用超音波探触子(例えば、図1、図12、および図23のSH表面波探触子22−1や、図12のSH表面探触子51−1など)により超音波(SH表面波やSH表面波など)を送信し、受信用超音波探触子(例えば、図1、図12、および図23のSH表面波探触子22−2とSH表面波探触子22−3や、図12のSH表面探触子51−2とSH表面波探触子51−3など)により受信するようにしているが、例えば、レーザ光源を用いて送受信するようにしてもよい。
また、本発明の第1乃至第3の実施形態に示された応力測定装置1では、超音波探触子(例えば、図1、図12、および図23の超音波探触子21など)やレーリー波探触子(例えば、図1、図12、図23のレーリー波探触子22−1乃至22−3など)などを回転させるためのモータとして、それぞれ、モータ14−1とモータ14−2を設けるようにしたが、勿論、1つのモータで回転させるようにしてもよい。
さらに、本発明の第1乃至第3の実施形態に示された応力測定装置1では、音響異方性測定処理において、予め所定の角度で回転させ、合計で1回転(360度)させるようにしているが、例えば、2回転や3回転させるようにしてもよい。
なお、本発明は、いかなる超音波についても適用することができる。
本発明は、原子力発電所の炉内構造物や配管などの部材の残留応力を測定するための応力測定装置などに適用することができる。
なお、本発明の実施形態では、フローチャートのステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理の例を示したが、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。