以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
以下の説明においては、車両左右の駆動輪間において、それぞれの車輪の駆動力を変化させる場合を説明するが、本発明は、車両前後の駆動輪間において駆動力を変化させる場合や、車両の前後左右における駆動輪間で駆動力を変化させる場合等にも適用できる。すなわち、本発明は、複数の駆動輪間における駆動力を変化させる場合に適用できる。また、次の説明においては、乗用車、トラック、バスその他の車両に本発明を適用した場合を例とするが、本発明の適用対象はこのような車両に限定されるものではない。
この実施形態は、次の点に特徴がある。すなわち、この実施形態に係る駆動力配分装置は、第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素で構成される遊星歯車装置を備える。そして、第1回転要素に第1の駆動力発生手段の出力軸が接続され、また、第2回転要素に第2の駆動力発生手段の出力軸が接続される。第1の駆動力発生手段は第1の駆動軸を駆動し、また第2の駆動力発生手段は第2の駆動軸を駆動する。また、第3回転要素と第1の駆動軸との間には第1の駆動力断続手段が設けられ、第3回転要素と第2の駆動軸との間には第2の駆動力断続手段が設けられる。以下の説明において、回転数というときには、単位時間あたりの回転数をいうものとする。次に、この実施形態に係る駆動力配分装置について説明する。
図1は、この実施形態に係る駆動力配分装置の構成を示す説明図である。図2は、この実施形態に係る駆動力配分装置を車両に搭載した例を示す概略図である。この実施形態に係る駆動力配分装置10は、遊星歯車列で構成される遊星歯車装置3と、第1の駆動力断続手段である第1クラッチ6Lと、第2の駆動力断続手段である第2クラッチ6Rと、第1の駆動軸(以下第1駆動軸)9Lと、第2の駆動軸(以下第2駆動軸)9Rとを含んで構成される。
図2に示すように、この実施形態に係る駆動力配分装置10は、車両100の進行方向(図2の矢印Y方向)前方に搭載される。そして、この実施形態においては、第1駆動軸9L及び第1駆動輪8Lは、この駆動力配分装置10が搭載される車両100の進行方向(図1、図2中の矢印Y方向)に対して左側に配置され、第2駆動軸9R及び第2駆動輪8Rは右側に配置されて、車両100を走行させる。このように、車両100の駆動方式は、いわゆるFF(Front engine Front drive)の車両である。なお、車両100の駆動方式はこれに限られず、いわゆるFR(Front engine Rear drive)や4WD(4 Wheel Drive)その他の駆動方式でもよい。
この実施形態に係る車両100は、駆動力配分装置10を搭載することで、車両100の左右の駆動輪(すなわち第1駆動輪8Lと第2駆動輪8R)の間で、それぞれの駆動力を変化させることができる。ここで、左右の駆動輪、前後の駆動輪又は前後左右の駆動輪において、車両の走行条件等に応じてそれぞれの駆動輪の駆動力を変化させる制御を駆動力配分制御という。この実施形態においては、駆動力配分装置10によって駆動力が制御される第1駆動輪8L(車両左前側の駆動輪に相当)と第2駆動輪8R(車両右前側の駆動輪に相当)との間で駆動力配分制御が実行される。
駆動力配分装置10の第1駆動軸9Lは、第1の駆動力発生手段である第1モータ1によって駆動される。また、駆動力配分装置10の第2駆動軸9Rは、第2の駆動力発生手段である第2モータ2によって駆動される。第1モータ1及び第2モータ2は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する、いわゆる電気モータであるが、油圧モータを用いてもよい。
第1モータ1は第1インバータ21により、第2モータ2は第2インバータ22によって制御される。第1インバータ21及び第2インバータ22には、例えばニッケル−水素電池やリチウムイオン電池等の車載電源20が接続されており、必要に応じて第1モータ1や第2モータ2へ電力を供給する。第1インバータ21及び第2インバータ22は、ECU(Electronic Control Unit)50の運転制御機能を用いて制御される。また、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの間で駆動力を変化させる駆動力配分制御を実行する際には、この実施形態に係る駆動力配分制御装置30によって第1インバータ21及び第2インバータ22が制御される。なお、この実施形態に係る駆動力配分制御装置30は、ECU50内に備えられる。
第1モータ1の出力軸1Sには、第1モータ1の回転数を検出する第1モータ回転数検出手段として、第1レゾルバ41Lが取り付けられる。また、第2モータ2の出力軸2Sには、第2モータ2の回転数を検出する第2モータ回転数検出手段として、第2レゾルバ41Rが取り付けられる。ECU50や駆動力配分制御装置30は、第1レゾルバ41L、第2レゾルバ41Rが検出する第1モータ1や第2モータ2の回転情報を取得して、第1モータ1や第2モータ2を制御する。また、第1駆動軸9L及び第2駆動軸9Rの回転数は、それぞれ第1回転数センサ42L、第2回転数センサ42Rによって検出され、駆動力配分制御を実行する際に用いられる。
第1モータ1の出力軸1Sには、第1モータ用出力ギヤ4Lが取り付けられている。第1モータ用出力ギヤ4Lは、第1駆動軸9Lに取り付けられる第1駆動軸用カウンターギヤ5Lと噛み合っており、第1モータ1から出力される駆動力F1は、第1駆動軸9Lに伝達されて駆動力P1で第1駆動輪8Lを駆動する。第2モータ2の出力軸2Sには、第2モータ用出力ギヤ4Rが取り付けられている。
第2モータ用出力ギヤ4Rは、第2駆動軸9Rに取り付けられる第2駆動軸用カウンターギヤ5Rと噛み合っており、第2モータ2から出力される駆動力F2は、第2駆動軸9Rに伝達されて、駆動力P2で第2駆動輪8Rを駆動する。なお、チェーンとスプロケットとによって、第1モータ1と第1駆動軸9Lとの間や第2モータ2と第2駆動軸9Rとの間で駆動力を伝達してもよい。なお、図1に示す駆動力配分装置10はP1=P2の状態を示している。
この実施形態に係る駆動力配分装置10が備える遊星歯車装置3は、サンギヤ(第1回転要素)3Sと、キャリア(第2回転要素)3Cと、リングギヤ(第3回転要素)3Rを回転要素として備える。この遊星歯車装置3は、いわゆるダブルピニオン式の遊星歯車装置であり、サンギヤ3Sとリングギヤ3Rとの間に、サンギヤ3Sの周りを公転する一対のピニオンギヤ3P1、3P2を備える。この実施形態に係る駆動力配分装置10のように、遊星歯車装置3にダブルピニオン式のものを用いると遊星歯車装置3の各回転要素に作用する応力の点で有利である。なお、この実施形態に係る駆動力配分装置10に適用できる遊星歯車装置は、ダブルピニオン式に限定されるものではない。
第1モータ1の出力軸1Sは、遊星歯車装置3のサンギヤ3Sに接続されている。また、第2モータ2の出力軸2Sは、遊星歯車装置3のキャリア3Cに接続されている。リングギヤ3Rは、中間軸7に取り付けられる中間軸用カウンターギヤ7Gと噛み合っている。なお、チェーンとスプロケットとによって、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rと中間軸7との間で駆動力を伝達してもよい。
第1クラッチ6Lは、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rと第1駆動軸9Lとの間に設けられ、また、第2クラッチ6Rは、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rと第2駆動軸9Rとの間に設けられる。より具体的には、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから駆動力が伝達される中間軸7と第1駆動軸9Lとの間に第1クラッチ6Lが設けられ、また、中間軸7と第2駆動軸9Rとの間に第2クラッチ6Rが設けられる。
第1の駆動力断続手段である第1クラッチ6L及び第2の駆動力断続手段である第2クラッチ6Rは、入力側と出力側との間の摩擦力を利用して駆動力を伝達する。そして、入力側と出力側との間の係合力を調整することで両者の間の摩擦力を調整し、伝達する駆動力の大きさを制御する。ここで、第1クラッチ6L、第2クラッチ6Rの入力側は中間軸7が接続されている側、すなわち遊星歯車装置3から駆動力が入力される側である。また、出力側とは、第1駆動軸9L、第2駆動軸9Rを介して第1駆動輪8L、第2駆動輪8Rが取り付けられる側である。
第1クラッチ6Lを係合させることで、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから中間軸7を介して第1駆動軸9Lへ駆動力が伝達され、また、第2クラッチ6Rを係合させることで、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから中間軸7を介して第2駆動軸9Rへ駆動力が伝達される。このように、第1クラッチ6L、第2クラッチ6Rを断続することで、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rと第1駆動軸9Lとの間や、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rと第2駆動軸9Rとの間における駆動力の流れを断続することができる。ここで、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rは、この実施形態に係る上記駆動力配分制御装置30によって制御される。
この実施形態に係る駆動力配分装置10は、駆動力配分制御時において、第1駆動軸9Lの回転数(第1駆動軸回転数)N1に対する遊星歯車装置3のリングギヤ3Rの回転数(リングギヤ回転数)Nrの回転数比Nr/N1が、第1駆動軸回転数N1に対する第1モータ1の回転数(第1モータ回転数)Nm1の回転数比Nm1/N1よりも小さくなるように構成される。また、駆動力配分装置10は、駆動力配分制御時において、第2駆動軸9Rの回転数(第2駆動軸回転数)N2に対するリングギヤ回転数Nrの回転数比Nr/N2が、第2駆動軸回転数N2に対する第2モータ2の回転数(第2モータ回転数)Nm2の回転数比Nm2/N2よりも小さくなるように構成される。このようにすることで、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから第1クラッチ6Lを介して第1駆動軸9Lへ駆動力を伝達する。また、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから第2クラッチ6Rを介して第2駆動軸9Rへ駆動力を伝達する。
この実施形態に係る駆動力配分装置10は、駆動力配分制御時に上記回転数比とすることを実現するため、中間軸用カウンターギヤ7Gに対するリングギヤ3Rの変速比ρrは、第1駆動軸用カウンターギヤ5Lに対する第1モータ用出力ギヤ4Lの変速比ρ1よりも小さく、かつ第2駆動軸用カウンターギヤ5Rに対する第2モータ用出力ギヤ4Rの変速比ρ2よりも小さく設定される。これによって、駆動力配分制御時には、中間軸7の回転数を第1駆動軸9Lの回転数よりも大きく、また、中間軸7の回転数を第2駆動軸9Rの回転数よりも大きくすることができる。その結果、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから第1クラッチ6Lを介して第1駆動軸9Lへ駆動力を伝達でき、また、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから第2クラッチ6Rを介して第2駆動軸9Rへ駆動力を伝達することができる。
ここで、中間軸用カウンターギヤ7Gに対するリングギヤ3Rの変速比ρrは、リングギヤ3Rの歯数/中間軸用カウンターギヤ7G歯数である。また、第1駆動軸用カウンターギヤ5Lに対する第1モータ用出力ギヤ4Lの変速比ρ1は、第1モータ用出力ギヤ4Lの歯数/第1駆動軸用カウンターギヤ5Lの歯数である。また、第2駆動軸用カウンターギヤ5Rに対する第2モータ用出力ギヤ4Rの変速比ρ2は、第2モータ用出力ギヤ4Rの歯数/第2駆動軸用カウンターギヤ5Rの歯数である。この実施形態に係る駆動力配分装置10では、ρ1=ρ2である。
ρr>ρ1及びρr>ρ2であれば、変速比ρr、変速比ρ1及び変速比ρ2は1より大きくても1以下であってもよい。ここで、変速比ρrを1より大きくすると、リングギヤ3Rの回転数(単位時間あたりの回転数)は増速されて中間軸7に伝達される。すなわち、リングギヤ3Rの回転数よりも中間軸7の回転数の方が大きくなる。このようにすることで、中間軸7の回転数を、第1駆動軸9Lの回転数及び第2駆動軸9Rの回転数よりも大きくする機構を比較的容易に構成することができる。変速比ρrを1より大きくするにあたり、この実施形態では、リングギヤ3Rと中間軸用カウンターギヤ7Gとで増速機構を構成する。この場合には、リングギヤ3Rの歯数を中間軸用カウンターギヤ7Gの歯数よりも多くする。
変速比ρ1及び変速比ρ2を1より小さくすると、第1モータ用出力ギヤ4L及び第2モータ用出力ギヤ4Rの回転数は減速されて、第1駆動軸9L及び第2駆動軸9Rに伝達される。すなわち、第1モータ用出力ギヤ4L及び第2モータ用出力ギヤ4Rの回転数よりも第1駆動軸9L及び第2駆動軸9Rの回転数の方が小さくなる。このようにすることで、第1駆動軸9Lの回転数及び第2駆動軸9Rの回転数を、中間軸7の回転数よりも小さくする機構を比較的容易に構成することができる。
変速比ρ1及びρ2を1より小さくするにあたり、この実施形態では、第1モータ用出力ギヤ4Lと第1駆動軸用カウンターギヤ5Lとで第1の減速機構を構成し、また、第2モータ用出力ギヤ4Rと第2駆動軸用カウンターギヤ5Rとで第2の減速機構を構成する。この場合には、第1モータ用出力ギヤ4Lの歯数を第1駆動軸用カウンターギヤ5Lの歯数よりも少なくし、また、第2モータ用出力ギヤ4Rの歯数を第2駆動軸用カウンターギヤ5Rの歯数よりも少なくする。
図3は、この実施形態に係る駆動力配分装置で駆動輪間の駆動力を異ならせた状態を示す説明図である。図4は、この実施形態に係る駆動力配分装置が備える遊星歯車装置の共線図である。図3、図4を用いて、この実施形態に係る駆動力配分装置10で第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの間で駆動力を異ならせる手法を説明する。次においては、第2モータ2が発生する駆動力の一部を第1駆動輪8Lへ伝達することにより、第1駆動輪8Lの駆動力P1を第2駆動輪8Rの駆動力P2よりも大きくする場合を説明する。ここで、上記図1に示す駆動力配分装置10はP1=P2の状態、すなわち、駆動力配分装置10が搭載された車両100(図2参照)が直進状態を示している。
駆動力配分装置10が搭載される車両100(図2参照)が直進している場合、駆動力配分装置10が備える遊星歯車装置3のサンギヤ3S、リングギヤ3R、キャリア3Cの回転数の関係は、それぞれ図4の実線Aで示すようになる。このとき、サンギヤ3Sの回転数、リングギヤ3Rの回転数及びキャリア3Cの回転数はすべてN1となる。
この状態で、例えば、駆動力配分装置10を搭載した車両100が左カーブで左旋回すると、第2駆動輪8Rはカーブに対して外側になるため、第2駆動輪8Rの回転数はカーブの内側となる第1駆動輪8Lの回転数よりも大きくなる。この状態では、遊星歯車装置3のサンギヤ3S、リングギヤ3R、キャリア3Cの回転数の関係は、それぞれ図4の一点鎖線Bで示すようになる。このとき、サンギヤ3Sの回転数はNs1、リングギヤ3Rの回転数はN1、キャリア3Cの回転数はNc1となるとする。ここで、Ns1<N1<Nc1である。
車両100が旋回している場合にオーバーステア傾向が強くなると、車両100はスピンするおそれが強くなる。したがって、車両100のオーバーステア傾向が許容できる範囲を超えた場合には、カーブ外側の駆動輪の駆動力を弱めるとともに、カーブ内側の駆動輪の駆動力を高めるように、第1駆動輪8Lの駆動力P1と第2駆動輪8Rの駆動力とを調整する。この実施形態に係る駆動力配分装置10では、第1クラッチ6Lを半係合状態とすることで、遊星歯車装置3を介して第2モータ2の駆動力(具体的にはトルク)の一部を第1駆動輪8Lに伝達することができる。なお、伝達する駆動力の大きさは、第1クラッチ6Lの係合力で調整する。
第1モータ1の駆動力をF1とし、また第2モータ2の駆動力をF2とし、F1=F2とする。第1クラッチ6Lを半係合状態とすると、リングギヤ3Rには反力Lが入力される。これによって、第2モータ2の駆動力F2は、遊星歯車装置3のキャリア3C及び第2駆動軸9Rに対して出力される。ここで、キャリア3Cに対してはF2aが出力され、第2駆動軸9Rに対してはF2bが出力される(F2=F2a+F2b)。また、第1クラッチ6Lを半係合状態とすると、第1モータ1の駆動力F1は、遊星歯車装置3のサンギヤ3S及び第1駆動軸9Lに対して出力される。ここで、サンギヤ3Sに対してはF1aが出力され、第1駆動軸9Lに対してはF1bが出力される(F1=F1a+F1b)。
第2駆動軸9Rの駆動力をFz2とすると、上述したように、第2駆動軸9Rに対しては駆動力F2bが出力されるので、Fz2=F2bとなる。第2駆動軸9Rは第2駆動輪8Rを駆動し、そのときの第2駆動輪8Rの駆動力はP2(=Fz2)となる。遊星歯車装置3のサンギヤ3Sに出力された駆動力F1a及びキャリア3Cに出力された駆動力F2aは遊星歯車装置3で合成されて、リングギヤ3Rから中間軸7に対して出力される。ここで、中間軸7に対して出力された駆動力はFjである。
第1駆動軸9Lの駆動力をFz1とすると、上述したように、第1駆動軸9Lに対しては駆動力F1bが出力される。また、第1駆動軸9Lには、第1クラッチ6Lを介して駆動力Fjが出力される。ここで、クラッチ6Lは半係合状態なので、第1クラッチ6Lを介して中間軸7から第1駆動軸9Lへ伝達される駆動力は、Fjよりも小さいFj'となる(Fj'<Fj)。これによって、第1クラッチ6Lを半係合した場合には、第1駆動軸9Lの駆動力Fz1は、F1b+Fj'となる。第1駆動軸9Lは第1駆動輪8Lを駆動し、そのときの第1駆動輪8Lの駆動力はP1(=Fz1)となる。
このように、第1クラッチ6Lを半係合すると、第2モータ2の駆動力F2の一部が遊星歯車装置3及び第1クラッチ6Lを介して第1駆動輪8Lへ伝達される。これによって、第1駆動輪8Lの駆動力P1と第2駆動輪8Rの駆動力P2とを異ならせる(この実施形態ではP1>P2)ことができる。その結果、車両100の左旋回においてオーバーステア傾向が強くなった場合には、第1駆動輪8Lの駆動力P1を第2駆動輪8Rの駆動力P2よりも大きくすることができるので、オーバーステア傾向を弱めて車両100のスピンを回避する。
なお、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの間の駆動力を変更する際には第1クラッチ6Lは半係合とするので、遊星歯車装置3のリングギヤ3Rから第1駆動軸9Lへ伝達される駆動力Fjの大きさは、第1クラッチ6Lを通過する際に低下する。このため、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの間の駆動力を変更する前後において、総駆動力を一定とするためには、前記第1クラッチ6Lで駆動力Fjが低下する分を考慮して、第2モータ2の駆動力を増加させる。次に、カーブの外側における駆動輪の駆動力を増加させる場合について説明する。
例えば、駆動力配分装置10を搭載した車両100が右カーブで右旋回すると、第1駆動輪8Lはカーブに対して外側になるため、第1駆動輪8Lの回転数はカーブの内側となる第2駆動輪8Rの回転数よりも大きくなる。この状態では、遊星歯車装置3のサンギヤ3S、リングギヤ3R、キャリア3Cの回転数の関係は、それぞれ図4の点線Cで示すようになる。このとき、サンギヤ3Sの回転数はNs2、リングギヤ3Rの回転数はN1、キャリア3Cの回転数はNc2となるとする。ここで、Ns2>N1>Nc2である。
車両100が旋回している場合にアンダーステア傾向が強くなると、車両100はカーブを曲がり切れないおそれがある。したがって、車両100のアンダーステア傾向が許容できる範囲を超えた場合には、カーブ外側の駆動輪の駆動力を高めるとともに、カーブ内側の駆動輪の駆動力を弱めるように、第1駆動輪8Lの駆動力P1と第2駆動輪8Rの駆動力とを調整する。この実施形態に係る駆動力配分装置10では、上記したオーバーステアを弱める場合と同様に、第1クラッチ6Lを半係合状態とすることで、遊星歯車装置3を介して第2モータ2の駆動力(具体的にはトルク)の一部を第1駆動輪8Lに伝達することができる。なお、伝達する駆動力の大きさは、第1クラッチ6Lの係合力で調整する。
第1クラッチ6Lを半係合させると、リングギヤ3Rには反力Lが入力される。その結果、第2モータ2の駆動力F2の一部が遊星歯車装置3及び第1クラッチ6Lを介して第1駆動輪8Lへ伝達される。これによって、車両100の右旋回においてアンダーステア傾向が強くなった場合には、第1駆動輪8Lの駆動力P1を第2駆動輪8Rの駆動力P2よりも大きくすることができるので、アンダーステア傾向を弱めて車両100の旋回性能を向上させることができる。
次に、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rを同時に半係合状態とした場合を説明する。このようにすると、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの差動が制限される。例えば、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうちいずれか一方が路上の砂や氷に乗ってスリップした場合に、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rを同時に半係合状態とすれば、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの差動が制限される。その結果、スリップを抑制して、第1モータ1及び第2モータ2の駆動力を、有効に車両100を進行させる力に用いることができる。また、第1モータ1又は第2モータ2のうちいずれか一方に出力低下や故障等が発生した場合、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rを同時に半係合状態とすれば、正常に動作するモータによって第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとを駆動することができる。
次に、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rを同時に完全係合状態とした場合を説明する。このようにすると、駆動力配分装置10はロック(内部ロック)されてしまい、第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rに第1モータ1及び第2モータ2の駆動力を伝達することはできない。これを利用して、例えば、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rを同時に完全係合状態とすることによって、車両100のパーキングブレーキとして機能させたり、車両100が坂道で停止しているときのヒルホールド機能として利用したりすることができる。次に、この実施形態に係る駆動力配分装置10の動作を制御する駆動力配分制御装置30について説明する。
図5は、この実施形態に係る駆動力配分制御装置の構成を示す概念図である。図5に示すように、駆動力配分制御装置30は、ECU50に組み込まれて構成されている。ECU50は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)50pと、記憶部50mと、入力及び出力ポート55、56と、入力及び出力インターフェース57、58とから構成される。
なお、ECU50とは別個に、この実施形態に係る駆動力配分制御装置30を用意し、これをECU50に接続してもよい。そして、この実施形態に係る内燃機関の始動制御を実現するにあたっては、車両100を走行させるにあたって、ECU50が備えている第1モータ1や第2モータ2に対する制御機能を、前記駆動力配分制御装置30が利用できるように構成してもよい。
駆動力配分制御装置30は、運転条件判定部31と、駆動力演算部32と、駆動力制御部33とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る内燃機関の始動制御を実行する部分となる。この実施形態において、駆動力配分制御装置30は、ECU50を構成するCPU50pの一部として構成される。CPU50pと、記憶部50mとは、バス541〜543を介して、入力ポート55及び出力ポート56を介して接続される。
これにより、駆動力配分制御装置30を構成する運転条件判定部31と駆動力演算部32と駆動力制御部33とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、駆動力配分制御装置30は、ECU50が有する第1モータ1及び第2モータ2の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、駆動力配分制御装置30は、この実施形態に係る駆動力配分制御を、ECU50が予め備えている運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
入力ポート55には、入力インターフェース57が接続されている。入力インターフェース57には、第1レゾルバ41L、第2レゾルバ41R、第1駆動輪回転数センサ42L、第2駆動輪回転数センサ42R、操舵角度センサ43、ヨーセンサ44、車速センサ45その他の、駆動力配分装置10の制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェース57内のA/Dコンバータ57aやディジタルバッファ57dにより、CPU50pが利用できる信号に変換されて入力ポート55へ送られる。これにより、CPU50pは、第1モータ1及び第2モータ2の運転制御や、この実施形態に係る駆動力配分制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート56には、出力インターフェース58が接続されている。出力インターフェース58には、第1クラッチ6L、第2クラッチ6R、第1モータ1、第2モータ2その他の、駆動力配分制御における制御対象が接続されている。出力インターフェース58は、制御回路581、582等を備えており、CPU50pで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、前記センサ類からの出力信号に基づき、ECU50のCPU50pは、第1駆動輪8Lの駆動力及び第2駆動輪8Rの駆動力を制御することができる。
記憶部50mには、この実施形態に係る駆動力配分制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいはこの実施形態に係る駆動力配分制御に用いる、制御データマップ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、CPU50pへ既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、この実施形態に係る駆動力配分制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この駆動力配分制御装置30は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、運転条件判定部31、駆動力演算部32及び駆動力制御部33との機能を実現するものであってもよい。次に、この実施形態に係る駆動力配分制御を説明する。次の説明では、適宜図1〜図5を参照されたい。
図6は、この実施形態に係る駆動力配分装置を用いた場合の駆動力配分制御手順の一例を示すフローチャートである。図7は、駆動力の配分例を示す説明図である。次の説明では、車両100の第1駆動輪8L(車両左前側の駆動輪に相当)と第2駆動輪8R(車両右前側の駆動輪に相当)との間で駆動力配分制御を実行する。
この実施形態に係る駆動力配分制御を実行するにあたり、駆動力配分制御装置30(図5参照)の運転条件判定部31は、駆動力配分制御を実行する条件にあるか否かを判定する(ステップS101)。なお、この判定時において、車両100は、直進状態、すなわち、第1駆動輪8Lの駆動力と第2駆動輪8Rの駆動力とは同じ大きさで運転されている。このとき、第1モータ1の駆動力F1及び第2モータ2の駆動力F2は等しい。
例えば、車両100がコーナーリング中である場合にアンダーステアを抑制する場合は、カーブの外側における駆動輪の駆動力を増加させるとともに、カーブの内側における駆動輪の駆動力を減少させる。また、車両100がコーナーリング中である場合にオーバーステアを抑制する場合は、カーブの外側における駆動輪の駆動力を減少させるとともに、カーブの内側における駆動輪の駆動力を増加させる。これによって、車両100のアンダーステアを抑制したり、車両100のスピンを未然に防止したりする。
また、例えば、一方の駆動輪が雪や氷によってスリップした場合、スリップが発生した駆動輪の駆動力を減少させるとともに、スリップの発生していない駆動輪の駆動力を増加させる。これによって、スリップが発生した駆動輪に逃げる駆動力を抑制できるので、確実に車両100を進行させることができる。このように、車両100の旋回性能を制御したり、駆動輪のスリップを抑制したりする際に駆動力配分制御を実行する。
例えば、車両100のコーナーリング中におけるアンダーステアを抑制する場合、運転条件判定部31は、ヨーセンサ44及び操舵角度センサ43(図5参照)から取得した旋回加速度の大きさと操舵角度の大きさとから、車両100が旋回中であって、カーブ外側における駆動輪の駆動力を増加させる条件であるか否かを判定する。そして、運転条件判定部31は、カーブ外側における駆動輪の駆動力を増加させる条件である場合に、駆動力配分制御を実行する条件にあると判定する。
また、駆動輪のスリップが発生した場合に駆動力配分制御を実行する場合、例えば、第1駆動輪回転数センサ42L及び第2駆動輪回転数センサ42R(図5参照)から取得した第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの回転数差が所定の制限値を超えている場合に、運転条件判定部31は、回転数の大きい駆動輪に許容できない滑りが発生していると判定する。そして、この場合、運転条件判定部31は、駆動力配分制御を実行する条件にあると判定する。
運転条件判定部31が、駆動力配分制御を実行する条件にないと判定した場合(ステップS101:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は車両100の運転状態の監視を継続する。運転条件判定部31が、駆動力配分制御を実行する条件にあると判定した場合(ステップS101:Yes)、駆動力演算部32は、第1駆動輪8Lに必要な駆動力(必要駆動力)P1_d及び第2駆動輪8Rに必要な駆動力(必要駆動力)P2_dを算出する(ステップS102)。
第1駆動輪8Lの必要駆動力P1_dと第2駆動輪8Rの必要駆動力P2_dとを算出するにあたって、駆動力配分制御装置30が備える駆動力演算部32は、車両100の操舵輪の操舵量を検出する操舵角度センサ43及び車速センサ45からの出力を取得する。そして、駆動力演算部32は、車両100が旋回する際の目標ヨーモーメントを算出し、その算出された目標ヨーモーメントと、ヨーセンサ44から出力されたヨーモーメントとの偏差を、車両100の旋回に必要なヨーモーメント(以下要求ヨーモーメントという)として算出する。
そして、駆動力演算部32は、算出した必要ヨーモーメントから、第1駆動輪8Lの必要駆動力P1_dと、第2駆動輪8Rの必要駆動力P2_dとを算出する。ここで、必要駆動力P1_d及び必要駆動力P2_dは、駆動力配分制御を実行する前後(この例では直進時と旋回時)で、第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rの総駆動力が同等となり、かつ、前記要求ヨーモーメントが発生できるように決定される。なお、P1_d=P2_dとなる場合は駆動力配分制御を実行していない場合なので、この実施形態に係る駆動力の配分方法では考慮する必要はない。
第1駆動輪8Lの必要駆動力P1_dと第2駆動輪8Rの必要駆動力P2_dとを算出したら(ステップS102)、駆動力演算部32は、算出した必要駆動力P1_d、P2_dを発生するために必要な第1モータ1に必要な駆動力(必要駆動力)F1_d及び第2モータ2に必要な駆動力(必要駆動力)F2_dを算出する(ステップS103)。
次に、運転条件判定部31は、ステップS103で算出した第1モータ1の必要駆動力F1_d又は第2モータ2の必要駆動力F2_dが、所定値F_max以上であるか否かを判定する(ステップS104)。ここで、前記所定値F_maxは、第1モータ1及び第2モータ2の発生可能な最大の駆動力F1_max、F2_maxとする。なお、この実施形態では、第1モータ1及び第2モータ2は同じ仕様であるため、F1_max=F2_max=F_max(所定値)である。
第1モータ1の必要駆動力F1_d及び第2モータ2の必要駆動力F2_dが所定値F_maxよりも小さい場合、すなわちF1_d<F_maxかつF2_d<F_maxである場合は(ステップS104:No)、第1モータ1又は第2モータ2の発生する駆動力を調整することによって、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの間に所定の駆動力差を与えることができる。この場合、駆動力制御部33は、第1インバータ21及び第2インバータ22を制御することにより、ステップS103で決定した必要駆動力F1_d、F2_dで第1モータ1及び第2モータ2を駆動する(ステップS105)。
第1モータ1の必要駆動力F1_d又は第2モータ2の必要駆動力F2_dが所定値F_max以上である場合、すなわちF1_d≧F_max又はF2_d≧F_maxである場合は(ステップS104:Yes)、第1モータ1又は第2モータ2の発生する駆動力を調整することによっては、第1駆動輪8Lの駆動力と第2駆動輪8Rの駆動力とに所定の駆動力差を与えることはできない。この場合には、この実施形態に係る駆動力配分装置10の第1クラッチ6L又は第2クラッチ6Rのいずれか一方を半係合状態として、一方のモータから駆動力を増加させる駆動輪に対して駆動力を伝達する。
この場合、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち、駆動力を増加させる駆動輪側のクラッチの係合力を制御する。例えば、第1駆動輪8Lの駆動力を増加させる場合は第1クラッチ6Lの係合力を制御し、第2駆動輪8Rの駆動力を増加させる場合は第2クラッチ6Rの係合力を制御する。駆動力演算部32は、ステップS102で算出した第1駆動輪8Lの必要駆動力P1_d、第2駆動輪8Rの必要駆動力P2_dから、係合力を制御するクラッチを決定する(ステップS106)。
また、駆動力演算部32は、駆動力を増加させる駆動輪へ伝達する駆動力Fuを算出する(ステップS107)。駆動力演算部32は、ステップS103で決定した第1モータの必要駆動力F1_d、第2モータの必要駆動力F2_dから、駆動力を増加させる駆動輪へ伝達する駆動力Fuを算出する。例えば、第1駆動輪8Lの駆動力P1を増加させる場合において、第1モータ1の必要駆動力F1_dが第1モータ1の発生できる最大の駆動力F_max以上である場合には、前記駆動力FuはF1_d−F_maxとなる。
駆動力演算部32は、算出した前記駆動力Fuに基づいて、第1クラッチ6L又は第2クラッチ6Rの係合力を算出する(ステップS108)。そして、駆動力演算部32は、第1モータ1の駆動力F1及び第2モータ2の駆動力F2を決定する(ステップS109)。
ここで、駆動力を増加させる駆動輪へ伝達する駆動力Fuは、駆動力を増加させない駆動輪を駆動するモータ(第1モータ1あるいは第2モータ2)から得る。したがって、駆動力を増加させる駆動輪へ駆動力を伝達する際に、駆動力を増加させない駆動輪を駆動するモータの駆動力を増加させる必要がある。なお、第1クラッチ6L又は第2クラッチ6Rを半係合状態とすると、第1クラッチ6L又は第2クラッチ6Rには滑り損失F_lが発生する。したがって、駆動力を増加させない駆動輪を駆動するモータの駆動力の増加分ΔFは、駆動力を増加させる駆動輪へ伝達する駆動力Fuに、前記滑り損失F_lを加算した値(Fu+F_l)となる。
例えば、第1駆動輪8Lの駆動力P1を増加させる場合、第1モータ1の必要駆動力F1_dが第1モータ1の発生できる最大の駆動力F_max以上である場合には、第1モータ1の駆動力F1はF_maxとなる。このとき、第2モータ2の駆動力F2は、ΔF(=Fu+F_l)+F2_dとなる。
第1クラッチ6L又は第2クラッチ6Rの係合力、第1モータ1の駆動力F1及び第2モータ2の駆動力F2が決定されたら、駆動力制御部33は、決定された値となるように第1クラッチ6L又は第2クラッチ6Rの係合力、第1モータ1の駆動力F1及び第2モータ2の駆動力F2を制御する(ステップS110)。これによって、駆動力を増加させる駆動輪を駆動するモータの発生できる駆動力が限界であっても、発生できる駆動力に余裕のあるモータの駆動力を用いて、第1駆動輪8Lの駆動力P1と第2駆動輪8Rの駆動力P2とを異ならせることができる。
次に、車両100が右旋回する場合に車両100の外側となる駆動輪(第1駆動輪8L)の駆動力P1を車両100の内側となる駆動輪(第2駆動輪8R)の駆動力P2よりも大きくして、車両100の旋回性能を向上させる場合を説明する。なお、車両100が左旋回する場合にP1<P2として車両100の旋回性能を向上させる場合も、次に説明する手順と同様の手順で、第1モータ1の駆動力F1及び第2モータ2の駆動力F2を決定することができる。
例えば、図7に示すように、車両100の総駆動力が100で、かつ車両100の右旋回時に要求される要求ヨーモーメント(駆動力に変換)を20とする。この場合、図7に示すように、右旋回時に車両100の外側となる駆動輪に駆動力を付与する第1モータ1の必要駆動力F1_dが60で、右旋回時に車両100の内側となる駆動輪に駆動力を付与する第2モータ2の必要駆動力がF2_dとなる。
ここで、第1モータ1及び第2モータ2の発生可能な最大の駆動力F_max(所定値)は、ともに55であるとする。なお、第1モータ1の必要駆動力F1_dは60なので、F1_d>F_maxとなる。一方、第2モータ2の必要駆動力F2_d<F_maxなので、駆動力配分装置10の第1クラッチ6Lを介して、第2モータ2の駆動力の一部を第1駆動輪8Lに伝達する。これによって、車両100の総駆動力を一定としつつ、必要ヨーモーメントを発生させる。
図7に示すように、第1モータ1の駆動力F1を、発生可能な最大の駆動力F_max=55とする。上述したように、必要駆動力F1_dと発生可能な最大の駆動力F_maxとの差が、駆動力を増加させる第1駆動輪8Lへ伝達する駆動力Fuとなる(Fu=F1_d−F_max=5)。また、第1クラッチ6Lの滑り損失F_lは3なので、第2モータ2が発生する駆動力の増加分ΔFは、Fu+F_l=8となる。したがって、第2モータ2の駆動力F2は、ΔF+F2_d=48となる。
駆動力配分制御においては、このように決定した駆動力F1、F2で第1モータ1及び第2モータの駆動力F2を駆動するとともに、駆動力配分装置10の第1クラッチ6Lを半係合状態とする。これによって、駆動力配分制御の前後において車両100の総駆動力を一定に保ちつつ、第1駆動輪8Lの駆動力P1と第2駆動輪8Rの駆動力P2とを異ならせて(P1>P2)、車両100に必要ヨーモーメントを発生させることができる。
その結果、車両100の旋回性能を制御できるとともに、駆動力配分制御を実行する前後で、第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rの総駆動力を一定とするので、車両100の挙動変化を極めて小さく抑えることができる。その結果、運転者の違和感を低減することができる。また、駆動力を増加させる駆動輪を駆動する駆動力発生手段の発生する駆動力が限界に達している場合でも、駆動力に余裕のある駆動力発生手段(駆動力を増加させない駆動輪に駆動力を付与する駆動力発生手段)を用いて、駆動力を増加させることができる。
なお、駆動力配分制御を実行する前後における第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rの総駆動力が一定であることには、駆動力配分制御を実行する前後における第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rの総駆動力が完全に等しいことの他、車両100の挙動変化等が許容できる範囲内で、駆動力配分制御を実行する前後における第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rの総駆動力が異なることも含まれる。
図8は、この実施形態に係る駆動力配分装置の制御例の手順を示すフローチャートである。この駆動力配分装置の制御は、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方がスリップした場合に実行される。駆動力配分制御装置30の運転条件判定部31は、制御の前提条件が成立するか否かを判定する(ステップS201)。
この駆動力配分装置の制御は、駆動力配分装置10の第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rを同時に半係合状態とすることで、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとの間で、いわゆるデフロック(直結)の機能を実現するものである。制御の前提条件は、デフロックが必要になる前提条件であり、例えば、乾燥した路面を車両100が走行している場合に、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rの一方にスリップが発生したような場合や、泥濘路を走行するような場合である。
制御の前提条件が成立しない場合(ステップS201:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は、車両100の走行状態を監視する。制御の前提条件が成立する場合(ステップS201:Yes)、運転条件判定部31は、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rにスリップが発生したか否かを判定する(ステップS202)。1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rにスリップが発生しない場合(ステップS202:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は、車両100の走行状態を監視する。
駆動輪のスリップは、例えば、次のようにして判定することができる。車速センサ45から検出される車両100の推定車速(駆動輪の回転数に換算)と、第1駆動輪8Lの回転数及び第2駆動輪8Rの回転数とを比較する。そして、前記推定車速に対して所定の回転数を超えた駆動輪にスリップが発生していると判定する。また、ヨーセンサ44の検出信号に基づいて求められる車両100のヨーモーメントが所定の値以上になった場合に、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方にスリップが発生していると判定してもよい。これは、スリップが発生した場合、スリップした駆動輪が内輪となって車両100が旋回しようとするため、駆動力が低下する前と比較して車両100のヨーモーメントが増加するからである。
第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rにスリップが発生した場合(ステップS202:Yes)、駆動力制御部33は、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rの両方を半係合状態とする(ステップS203)。これによって、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとがデフロック(直結)状態となるので、スリップが発生した駆動輪のグリップを早期に回復させることができる。なお、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rの係合力は、モータの駆動力やスリップ量等に基づいて、駆動力演算部32が算出する。
図9は、この実施形態に係る駆動力配分装置の制御例の手順を示すフローチャートである。この駆動力配分装置の制御は、第1モータ1又は第2モータ2の故障等により、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力が低下あるいは0になった場合に実行される。例えば、第1モータ1又は第2モータ2の断線等による故障や動作不良の他、第1インバータ21あるいは第2インバータ22の動作不良や故障により、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力が低下あるいは0になる。
駆動力配分制御装置30の運転条件判定部31は、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力が低下あるいは0になったか否かを判定する(ステップS301)。第1駆動輪8Lの回転数や第2駆動輪8Rの回転数、第1インバータ21や第2インバータ22の出力、あるいは第1モータ1や第2モータ2の回転数等に基づいて、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力低下を判定することができる。
例えば、第1駆動輪8L(あるいは第1駆動軸9L)の回転数と第2駆動輪8R(あるいは第2駆動軸9R)の回転数との差が所定の値以上になった場合に、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力が低下あるいは0になったと判定することができる。また、ヨーセンサ44の検出信号に基づいて求められる車両100のヨーモーメントが所定の値以上になった場合に、第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力が低下あるいは0になったと判定してもよい。これは、駆動力が低下した場合、駆動力が低下した駆動輪が内輪となって車両100が旋回しようとするため、駆動力が低下する前と比較して車両100のヨーモーメントが増加するからである。
第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力に低下が見られない場合(ステップS301:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は、車両100の走行状態を監視する。第1駆動輪8L又は第2駆動輪8Rのうち一方の駆動力が低下あるいは0になった場合(ステップS301:Yes)、駆動力制御部33は、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rの両方を半係合状態とする(ステップS302)。これによって、第1駆動輪8Lと第2駆動輪8Rとがデフロック(直結)状態となるので、正常に動作しているモータによって、駆動力が低下した駆動輪を駆動することができる。その結果、第1モータ1や第2モータ2等に故障や動作不良等が発生した場合でも、ある程度の速度で車両100を走行させることができる。
図10は、この実施形態に係る駆動力配分装置の制御例の手順を示すフローチャートである。この駆動力配分装置の制御は、駆動力配分装置10を搭載する車両100が停止している場合に実行される。例えば、前記車両100が駐車する場合や、坂道(特に坂道の登り)で停止するような場合に実行される。
駆動力配分制御装置30の運転条件判定部31は、車両100が停止しているか否かを判定する(ステップS401)。車両100が走行中である場合(ステップS401:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は、車両100の走行状態を監視する。車両100が停止している場合(ステップS401:Yes)、駆動力制御部33は、第1クラッチ6L及び第2クラッチ6Rの両方を完全に係合させる(ステップS402)。
これによって、駆動力配分装置10は内部ロックされるので、第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rに第1モータ1及び第2モータ2の駆動力を伝達することはできない。その結果、車両100の第1駆動輪8L及び第2駆動輪8Rはロックされるので、車両100を確実に停止させることができ、安全性が向上する。
以上、この実施形態では、異なる駆動輪間で駆動力を異ならせる場合に、第1の駆動力発生手段又は第2の駆動力発生手段のうち一方が発生する駆動力の一部を一旦遊星歯車装置へ入力してから、駆動力断続手段を介して他方の駆動力発生手段によって駆動される駆動輪へ伝達する。このとき、駆動軸の回転数に対する遊星歯車装置の第3回転要素の回転数の回転数比を、駆動軸の回転数に対する駆動力発生手段の回転数の回転数比よりも小さくする。
これによって、駆動力断続手段の入力側(遊星歯車側)と出力側(駆動輪側)とに回転数差を与えて、駆動力発生手段から駆動輪へ駆動力を伝達する。また、伝達する駆動力の大きさは駆動力断続手段の係合力によって制御する。このような構成によって、異なる駆動力発生手段で駆動される複数の駆動輪間に駆動力差を与えるにあたり、駆動力に余裕のある駆動力発生手段から、駆動力に余裕のない駆動力発生手段によって駆動される駆動輪へ駆動力を伝達できるので、総駆動力を略維持しつつ、必要な駆動力差を与えることができる。
また、上記構成によって、複数の駆動輪間に駆動力差を与える場合には、駆動力差を与えることができる運転条件の範囲が広がるとともに、発生させる駆動力差を大きくすることができる。また、遊星歯車装置を用いることにより駆動軸を少なくすることができるので、駆動力配分装置をコンパクトにすることができる。なお、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。