JP2007210965A - チロシナーゼ活性阻害剤、その製法及び用途 - Google Patents
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人皮膚細胞中の酵素チロシナーゼが、チロシンないしドーパを酸化して生成した黒色のメラニンによることが知られている(特許文献1)。さらに人皮膚の美白用皮膚外用剤としてハイドロキノン、コウジ酸、アルブチン或いはビタミンC等のチロシナーゼ活性阻害剤がよく知られている(特許文献2)。しかし、これらのチロシナーゼ活性阻害剤においては、それぞれ安定性、安全性、性能等において一長一短が指摘されており、依然改良の余地が残されている。
(1)レモングラス(Cymbopogon citratus)から極性溶媒(A)を用いて抽出される、チロシナーゼ活性阻害作用を有するレモングラス抽出物。
(2)次の抽出工程a−cまたはa−dにより得られる前記(1)に記載のレモングラス抽出物。
a.レモングラスを、極性溶媒(A)を用いて抽出し抽出物を得る工程
b.工程aで得られた抽出物を非極性有機溶媒(B)と極性溶媒(C)を用いて分画し極性溶媒抽出物を得る工程
c.工程bで得られた抽出物に対し有機溶媒(D)と水とを用いて分画し有機溶媒抽出物を得る工程
d.工程cの水分画に対し有機溶媒(E)と水とを用いてさらに分画し有機溶媒抽出物を得る工程
(3)前記(1)または(2)に記載のレモングラス抽出物を含有するチロシナーゼ活性阻害剤。
(4)前記(1)または(2)に記載のレモングラス抽出物を含有する美白化粧料。
(5)前記(1)または(2)に記載のレモングラス抽出物を含有する皮膚外用剤。
(6)前記(1)または(2)に記載のレモングラス抽出物を含有する食品褐変防止剤。
(7)次の抽出工程a−cまたはa−dにより得られる、チロシナーゼ活性阻害作用を持つレモングラス抽出物の製法。
a.レモングラスを、極性溶媒(A)を用いて抽出し抽出物を得る工程
b.工程aで得られた抽出物を非極性有機溶媒(B)と極性溶媒(C)を用いて分画し極性溶媒抽出物を得る工程
c.工程bで得られた抽出物に対し有機溶媒(D)と水を用いて分画し有機溶媒抽出物を得る工程
d.工程cの水分画に対し有機溶媒(E)と水とを用いてさらに分画し有機溶媒抽出物を得る工程
(8)前記化学式(I)で示されるトランスゲラニックアシド、前記化学式(II)で示されるシスゲラニックアシド、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有するチロシナーゼ活性阻害剤。
(9)前記化学式(I)及び(II)の化合物がレモングラス由来である前記(7)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(10)前記化学式(I)及び(II)の化合物が次の抽出工程e−hにより得られる前記(7)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
e.レモングラスを、極性溶媒(A)を用いて抽出し抽出物を得る工程
f.工程eで得られた抽出物を非極性有機溶媒(B)と極性溶媒(C)を用いて分画し極性溶媒抽出物を得る工程
g.工程fで得られた抽出物に対し有機溶媒(D)と水を用いて分画し有機溶媒抽出物を得る工程
h.工程gの有機溶媒分画に対しカラムクロマトグラフィーを用いて分画する工程
(11)前記化学式(I)で示されるトランスゲラニックアシド、前記化学式(II)で示されるシスゲラニックアシド、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する美白化粧料。
(12)前記化学式(I)で示されるトランスゲラニックアシド、前記化学式(II)で示されるシスゲラニックアシド、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する皮膚外用剤。
(13)前記化学式(I)で示されるトランスゲラニックアシド、前記化学式(II)で示されるシスゲラニックアシド、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する食品褐変防止剤。
a.レモングラスを、極性溶媒(A)を用いて抽出し抽出物を得る工程
b.工程aで得られた抽出物を非極性有機溶媒(B)と極性溶媒(C)を用いて分画し極性溶媒抽出物を得る工程
c.工程bで得られた抽出物に対し有機溶媒(D)と水を用いて分画し有機溶媒抽出物を得る工程
d.工程cの水分画に対し有機溶媒(E)と水を用いてさらに分画し有機溶媒抽出物を得る工程
a.レモングラス乾燥物を、室温下、10〜15倍(重量比)の極性溶媒(A)中、5〜10時間攪拌しながら浸積することにより、レモングラスの抽出液を得る。得られた抽出液から溶媒を減圧下で蒸発させ、レモングラスの抽出物を得る。
b.工程aで得られた抽出物を極性溶媒(C)に懸濁し、これに非極性有機溶媒(B)を加えて分配する。次いでそれぞれに分画して濃縮することにより、非極性有機溶媒分画(以下「分画1」という。)と残余の極性溶媒可溶部を得る。
c.工程bの残渣の極性溶媒可溶部を水に懸濁し、これに有機溶媒(D)を加えて分配し、濃縮により有機溶媒分画(以下「分画2」という。)を得る。
d.工程cの残余の水懸濁液は、有機溶媒(E)と分配し、それぞれ濃縮することにより、有機溶媒分画(以下「分画3」という。)及び残余の水分画(以下「分画4」という。)を得る。
チロシナーゼ阻害活性は、ドーパの酸化物であり、黒色メラニン生成の中間たるドーパクロームの生成度を、475nmにおける吸光度の変化を測定することにより測定する。具体的には、抽出物のリン酸緩衝液(pH6.8)をマイクロプレートに入れ、そこにドーパ(シグマ社製 D9628)を加え、次にチロシナーゼを加えて、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用い475nmの吸光度の増加度(a)を読み取る。一方、抽出物を加えないもの(コントロール実験と呼ぶ)で、同様な操作を行い、得られた吸光度の増加度(b)を用い、式[(b−a)/b]×100を用いてチロシナーゼ活性阻害率(%inhibition±SD)を得る。
この方法を用いて、上記工程aで得られたレモングラスの抽出物についてチロシナーゼ阻害活性を測定した所、高いチロシナーゼ阻害活性を見いだすことができた。また、前記各工程で得られた分画1〜4についてもチロシナーゼ阻害活性を測定した所、チロシナーゼ阻害活性は分画2及び分画3において特に高いことを見いだすことができた。
前記各工程で得られた分画1〜4のうち、最強の阻害率を示した分画2について、有効成分をシリカゲルやセファデックスLH−20を用いたクロマトグラフィーにより単離し、核磁気共鳴吸収スペクトル(NMRスペクトル)、質量分析スペクトル(MSスペクトル)による測定解析すること、また市販のゲラニックアシド(アルドリッチ社製 16333-3)とシリカゲルTLCおよびNMRで比較することにより、本発明の下記化学式(I)および(II)で示されるゲラニックアシド化合物を確認した。
(植物の成分抽出とチロシナーゼ阻害活性)
沖縄地方において栽培される伝統的薬草や食用植物36種53部位の植物乾燥体をサンプルとし、エタノールで抽出した。抽出は、室温下で、サンプル約30gをエタノール350mgに浸漬し、6時間攪拌しながら行った。続いてエタノールを減圧下で蒸発させ、抽出物を得た。次に得られた抽出物のチロシナーゼ阻害活性率を測定し、比較的高い阻害率を示すサンプルを選別した。選別されたサンプルの抽出植物名(部位)と測定結果を表1に示す。
表1から明らかなとおり、ゲットウ(根茎部)、サキシマスオウノキ(枝部)、レモングラス(地上部)、ナンテン(葉部)及びツルグミ(枝部)の5サンプルに阻害活性が認められた。なお、レモングラスはナンテンの葉部に続く強度の阻害活性を示すことが判明した。
前項でナンテンに注ぐ阻害活性が認められたレモングラスについて、再度溶剤抽出を行った。なお、用いた植物体は、レモングラス地上部のほとんどを占める葉部を用い、抽出溶剤としては、前記で用いたエタノールと比較的同じ成分を抽出できると考えられる安価なメタノールを用いた。この方法により、レモングラス葉部4kgから得られた抽出物を、さらに有機溶剤を用いて分画した。これを図1に示す。レモングラスについては、抽出物の分画原料200gを含水メタノール1Lに懸濁し、ヘキサン1Lと分配して、それぞれ濃縮し、ヘキサン分画31g(分画1)と残りのメタノール可溶部を得た。メタノール可溶部は濃縮後、再度1Lの水に懸濁し、酢酸エチル1Lで分配した。酢酸エチル分画(分画2)を濃縮により54gを得た。一方、水懸濁液は、再度ブタノール1lと分配し、それぞれ濃縮することにより、ブタノール分画34g(分画3)、水分画(総収量不明)(分画4)を得た。結果を以下の表2に示す。
上記分画法で得られた分画1ないし4について、前記活性測定法にてチロシナーゼ阻害活性を測定した。その結果を図2に示す。図2から明らかなとおり、レモングラスの葉の抽出物の可溶画分の中でも、特に酢酸エチル分画(分画2)が最も阻害率が高く、次にブタノール分画(分画3)という結果を得た。なお、H2O分画の活性は−41%でむしろ活性促進効果を示した。
続いて最強の阻害活性を示したナンテンの葉部の抽出物酢酸エチル可溶画分(分画4)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、チロシナーゼ阻害活性を測定した。分画によって得た各フラクションの収量とそのチロシナーゼ阻害活性データを図3に示す。図3から明らかなように、フラクション5が活性、収量ともに最も高いデータを示した。このフラクション5をさらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、セファデックスLH−20カラムクロマトグラフィー、シリカゲルTLCによる精製を繰り返し、化合物(I)および化合物(II)を得た。これらの核磁気共鳴吸収スペクトル(1H NMRおよび13C NMRスペクトル)、質量分析スペクトル(MSスペクトル)よる測定解析および市販のゲラニックアシド(アルドリッチ社製 16333-3)とシリカゲルTLCおよびNMRを用いた比較実験の結果、化学構造を決定した。すなわち各化合物は前記化学式(I)で表されるトランスゲラニックアシドおよび前記化学式(II)で表されるシスゲラニックアシドであることが確認された。化合物(I)および(II)の前記機器分析データは表3および4に示す通りであった。
精製単離した化合物(I)および(II)と従来からチロシナーゼ活性阻害剤として多用されているコウジ酸およびアルブチンのチロシナーゼ活性阻害率を測定し、比較した。その結果を図4に示す。図4から明らかなとおり、本発明の化合物(I)(IC50=2.4×10-2 mM)がコウジ酸(IC50=1.1×10-2 mM)に匹敵し、また化合物(I)(II)(IC50=1.4×10-1 mM)ともにアルブチン(本実験では、活性が弱くIC50値が得られなかった)に比べて極めて高いチロシナーゼ活性阻害率を示し、新しいチロシナーゼ活性阻害剤として好適な物質であることが明らかとなった。また同時に、これらを含有する前記レモングラスの葉部がその原料として極めて有用であることが明らかとなった。
Claims (13)
- レモングラス(Cymbopogon citratus)から極性溶媒(A)を用いて抽出される、チロシナーゼ活性阻害作用を有するレモングラス抽出物。
- 次の抽出工程a−cまたはa−dにより得られる請求項1に記載のレモングラス抽出物。
a.レモングラスを、極性溶媒(A)を用いて抽出し抽出物を得る工程
b.工程aで得られた抽出物を非極性有機溶媒(B)と極性溶媒(C)を用いて分画し極性溶媒抽出物を得る工程
c.工程bで得られた抽出物に対し有機溶媒(D)と水とを用いて分画し有機溶媒抽出物を得る工程
d.工程cの水分画に対し有機溶媒(E)と水とを用いてさらに分画し有機溶媒抽出物を得る工程 - 請求項1または2に記載のレモングラス抽出物を含有するチロシナーゼ活性阻害剤。
- 請求項1または2に記載のレモングラス抽出物を含有する美白化粧料。
- 請求項1または2に記載のレモングラス抽出物を含有する皮膚外用剤。
- 請求項1または2に記載のレモングラス抽出物を含有する食品褐変防止剤。
- 次の抽出工程a−cまたはa−dにより得られる、チロシナーゼ活性阻害作用を持つレモングラス抽出物の製法。
a.レモングラスを、極性溶媒(A)を用いて抽出し抽出物を得る工程
b.工程aで得られた抽出物を非極性有機溶媒(B)と極性溶媒(C)を用いて分画し極性溶媒抽出物を得る工程
c.工程bで得られた抽出物に対し有機溶媒(D)と水を用いて分画し有機溶媒抽出物を得る工程
d.工程cの水分画に対し有機溶媒(E)と水とを用いてさらに分画し有機溶媒抽出物を得る工程 - 前記化学式(I)及び(II)の化合物がレモングラス由来である請求項7に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
- 前記化学式(I)及び(II)の化合物が次の抽出工程e−hにより得られる請求項7に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
e.レモングラスを、極性溶媒(A)を用いて抽出し抽出物を得る工程
f.工程eで得られた抽出物を非極性有機溶媒(B)と極性溶媒(C)を用いて分画し極性溶媒抽出物を得る工程
g.工程fで得られた抽出物に対し有機溶媒(D)と水を用いて分画し有機溶媒抽出物を得る工程
h.工程gの有機溶媒分画に対しカラムクロマトグラフィーを用いて分画する工程 - 化学式(I)で示されるトランスゲラニックアシド、化学式(II)で示されるシスゲラニックアシド、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する美白化粧料。
- 化学式(I)で示されるトランスゲラニックアシド、化学式(II)で示されるシスゲラニックアシド、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する皮膚外用剤。
- 化学式(I)で示されるトランスゲラニックアシド、化学式(II)で示されるシスゲラニックアシド、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する食品褐変防止剤。
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