第1の発明の液滴噴射装置は、平面に沿って配列され且つ複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室とこれら複数の圧力室に連なる共通液室とを含む流路ユニットと、前記複数の圧力室内の液体に選択的に噴射圧力を付与する噴射圧付与手段を備え、前記複数のノズルから被噴射体に対して液滴を噴射する液滴噴射装置であって、前記複数の圧力室は、それぞれが所定の第1方向に関して所定間隔で配置された圧力室からなり、前記所定間隔よりも短い距離だけ前記第1方向に互いにずれた複数の圧力室群を構成し、さらに、前記複数の圧力室群の少なくとも一部は、前記第1方向と直交する第2方向の位置が互いに異なる2以上の複数列に分割されて、前記複数の圧力室群が、前記第1方向に延びて前記第2方向に並ぶ複数列の圧力室列で構成されており、前記共通液室は、液体が供給される主液室と、この主液室から分岐して、前記平面に直交する方向から見て前記複数の圧力室列の間において前記第1方向に延び、前記圧力室列に属する前記圧力室に連通する分岐液室とを有し、前記分岐液室の、前記圧力室列に連通している部分の前記第1方向長さが、1つの前記圧力室群全体の前記第1方向長さよりも短いことを特徴とするものである。
この液滴噴射装置においては、主液室に供給された液体は、分岐液室を介して各圧力室群に属する圧力室にそれぞれ供給される。さらに、噴射圧付与手段により複数の圧力室内の液体に対して選択的に噴射圧力が付与されて、その噴射圧力が付与された圧力室に連通するノズルから、被噴射体に対して液滴が噴射される。
ここで、複数の圧力室群の少なくとも一部が、圧力室の配列方向である第1方向と直交する第2方向の位置が互いに異なる複数の列に分割されている。そして、分岐液室の、圧力室列に連通している部分の第1方向長さが、分割される前の1つの圧力室群全体の長さよりも短くなっている。つまり、圧力室群が複数の列に分割されていない場合と比べて、1つの分岐液室と連通する圧力室の数(即ち、液体を供給すべき圧力室の数)が少なくなるため、圧力室列の間に位置する分岐液室の幅を狭くしても、各圧力室へ十分な量の液体を供給することが可能となる。従って、分岐液室の幅を可能な限り狭めて、圧力室列(ノズル列)の間隔を極力小さくすることができる。
第2の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記分岐液室は、その両側に位置する2列の圧力室列に属する前記圧力室に連通していることを特徴とするものである。この構成によれば、1つの分岐液室から、その両側に位置する2列の圧力室列に液体が供給されることから、分岐液室の数が少なくて済む。その分、液滴噴射装置の構造が簡単になり、液滴噴射装置の一層の小型化も可能となる。
第3の発明の液滴噴射装置は、前記第1又は第2の発明において、前記第1方向に関する少なくとも一部の領域において、前記複数の圧力室群に含まれる2つの圧力室群が、前記第1方向の一方側に位置する一方側圧力室列と、前記第1方向の他方側に位置する他方側圧力室列の、少なくとも2つの圧力室列にそれぞれ分割されており、前記2つの圧力室群にそれぞれ含まれる2つの前記一方側圧力室列の長さが互いに異なる一方で、前記2つの圧力室群にそれぞれ含まれる2つの前記他方側圧力室列の長さも互いに異なっており、前記2つの一方側圧力室列は、前記2つの他方側圧力室列よりも、前記第2方向一方に配置されており、前記2つの一方側圧力室列のうちの短い方の圧力室列が、長い方の圧力室列よりも前記第2方向一方に配置され、さらに、前記2つの他方側圧力室列のうちの短い方の圧力室列が、長い方の圧力室列よりも前記第2方向他方に配置されていることを特徴とするものである。
この第3の発明においては、第1方向に関する少なくとも一部の領域に着目したときに、その領域において、2つの圧力室群がそれぞれ2以上の圧力室列に分割されている場合が想定されている。そして、第1方向一方側に位置する2つの一方側圧力室列は、第1方向他方側に位置する2つの他方側圧力室列よりも、第2方向の一方に配置されている。また、2つの一方側圧力室列のうちの短い方の圧力室列が、長い方の圧力室列よりも第2方向一方の外側に位置している。さらに、2つの他方側圧力室列のうちの短い方の圧力室列も、長い方の圧力室列よりも第2方向他方の外側に位置している。
そのため、第2方向一方から第2方向他方に順に並んだ複数列の圧力室列は、第1方向の他方へ順にずれながら配置されることになる。そのため、この領域内において、分岐液室の圧力室列に連通している部分の第1方向長さは、分割前の1つの圧力室群の第1方向長さよりも短くなる。従って、複数列の圧力室列が配置された領域全体においても、分岐液室の圧力室列に連通している部分の第1方向長さは、1つの圧力室群全体の第1方向長さよりも短くなる。
第4の発明の液滴噴射装置は、前記第3の発明において、前記第1方向に関する少なくとも一部の領域において、前記2つの圧力室群のうちの少なくとも一方が、前記一方側圧力室列及び前記他方側圧力室列と、これらの間に位置する中間圧力室列の、少なくとも3つの圧力室列に分割されており、前記中間圧力室列は、前記第2方向に関して、前記2つの一方側圧力室列と前記2つの他方側圧力室列の間に配置されていることを特徴とするものである。
この第4の発明においては、第1方向に関する少なくとも一部の領域において、2つの圧力室群のうちの少なくとも一方が3以上の圧力室列に分割されている場合が想定されている。そして、中間圧力室列が、第2方向に関して、2つの一方側圧力室列と2つの他方側圧力室列の間に配置されていることから、第2方向一方から第2方向他方に並ぶ複数の圧力室列は、第1方向の他方へ順にずれるように配置されることになる。従って、圧力室列の間に配置された分岐液室の、圧力室列に連通している部分の第1方向長さは、分割前の圧力室群の第1方向長さよりも短くなる。
第5の発明の液滴噴射装置は、前記第3又は第4の発明において、前記第1方向に関する少なくとも一部の領域において、複数列の圧力室列は、それぞれ前記第1方向に対して所定角度傾いた2本の直線の間に配置されており、前記主液室は、前記平面に直交する方向から見て前記複数の圧力室列に隣接する領域において、少なくとも一方の前記直線に沿って延在していることを特徴とするものである。
前記第3又は第4の発明において述べたように、第2方向一方から第2方向他方に並んだ複数の圧力室列は、第1方向の他方へ順にずれるように配置されるため、複数列の圧力室列の第1方向両端部は、それぞれ第1方向に対して所定角度傾いた2本の直線に沿うことになり、これら2本の直線の間に複数列の圧力室列が配置される。そして、これら複数列の圧力室列に隣接する領域において主液室が前記直線に沿って延在していることから、この主液室から分岐した分岐液室は複数列の圧力室列が配置された領域内へ延びて、複数列の圧力室列の間において延在する。
第6の発明の液滴噴射装置は、前記第5の発明において、前記主液室は、前記平面に直交する方向から見て前記複数列の圧力室列を挟むように、前記2本の直線に沿ってそれぞれ延在しており、これらの主液室が、前記複数列の圧力室列の間において前記第1方向に延在する前記分岐液室を介して互いに連通していることを特徴とするものである。この構成によれば、複数列の圧力室列の両側の領域に2つの主液室がそれぞれ配置され、これらの主液室の両方から1つの分岐液室に対して液体が供給されることから、分岐液室への液体の供給がより速やかに行われ、液体不足が生じにくくなる。
第7の発明の液滴噴射装置は、前記第3〜第6の何れかの発明において、前記第1方向に関する一部の領域と隣接する領域における、前記複数の圧力室の配置パターンは、前記第1方向に関する一部の領域における配置パターンと対称なパターンであることを特徴とするものである。この構成によれば、第1方向に関して互いに隣接する2つの領域において圧力室の配置パターンが互いに対称であることから、それぞれ、分岐液室の圧力室列に連通している部分の第1方向長さが、分割前の1つの圧力室群の第1方向長さよりも短くなる。そのため、2つの領域全体についても、分岐液室の圧力室列に連通している部分の第1方向長さは、1つの圧力室群全体の第1方向長さよりも短くなる。
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、液滴噴射装置として、記録用紙に対してインクの液滴を噴射するライン型のインクジェットヘッドに本発明を適用した一例である。
まず、本実施形態のインクジェットヘッド1を備えたインクジェットプリンタ100の概略構成について説明する。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、ライン型のインクジェットヘッド1と、記録用紙6(被噴射体)を図1の前方へ搬送する搬送ローラ2を備えている。インクジェットヘッド1は、その下面に図1の左右方向(走査方向)に配列された複数のノズル20(図2〜図5参照)を有する。尚、インクジェットヘッド1は、水平面上において記録用紙6の幅方向(走査方向)に対してある角度θだけ傾いた方向に延びている(図2参照)。そして、このインクジェットヘッド1は、インクタンク3からチューブ4を介して供給されたインクを、複数のノズル20から記録用紙6に対して噴射して、所望の文字や画像等を記録用紙6に記録するように構成されている。また、インクジェットヘッド1により画像等が記録された記録用紙6は、搬送ローラ2により前方(紙送り方向)へ排出される。
次に、インクジェットヘッド1について説明する。図2〜図5に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズル20、圧力室14、及び、マニホールド17等のインク流路が形成された流路ユニット7と、この流路ユニット7の上面に配置されて、複数の圧力室14内のインクに選択的に噴射圧力を付与する圧電アクチュエータ8(噴射圧付与手段)とを備えている。
まず、流路ユニット7について説明する。図4、図5に示すように、流路ユニット7はキャビティプレート10、ベースプレート11、マニホールドプレート12、及びノズルプレート13を備えており、これら4枚のプレート10〜13が積層状態で接合されている。このうち、キャビティプレート10、ベースプレート11及びマニホールドプレート12はステンレス鋼製の板であり、これら3枚のプレート10〜12に、後述する圧力室14やマニホールド17等のインク流路をエッチングにより容易に形成することができるようになっている。また、ノズルプレート13は、例えば、ポリイミド等の高分子合成樹脂材料により形成され、マニホールドプレート12の下面に接着される。あるいは、このノズルプレート13も、3枚のプレート10〜12と同様にステンレス鋼等の金属材料で形成されていてもよい。
図2〜図5に示すように、4枚のプレート10〜13のうち、最も上方に位置するキャビティプレート10には、複数の圧力室14が平面に沿って配列されており、これら複数の圧力室14は上下両側から後述の振動板30及びベースプレート11により覆われている。各圧力室14は、平面視で紙送り方向(図2の上下方向)に長い、略楕円形状に形成されている。
ここで、複数の圧力室14の配置パターンについて、さらに詳しく説明する。図2に示すように、走査方向(図2の上下方向:第1方向)に配列された複数の圧力室14は、走査方向と直交する紙送り方向(図2の左右方向:第2方向)に並ぶ複数列の圧力室列21を構成している。
図2は、インクジェットヘッド1の走査方向に関する一部の領域の平面図であり、この図2には、複数列の圧力室列21のうちの12列の圧力室列21a〜21lが示されている。ここで、図2の12列の圧力室列21a〜21lは、元々は、図6(a)に示すような、それぞれが走査方向に所定間隔P1で配置された同数(例えば、32個)の圧力室14からなり、インクジェットヘッド1の長手方向(記録用紙6の幅方向)全域に亙って1列に延びる6つの圧力室群22a〜22fである。また、図7は、図6(a)に示す一部の領域Aを拡大した平面図であり、図7に示すように、6つの圧力室群22a〜22fは、走査方向に関してP1よりも短い間隔P2(=P1/6)だけずれて配置されている。そして、6つの圧力室群22a〜22fにそれぞれ対応する6列のノズル列24(24a〜24f)により、記録用紙6上において、その幅方向に間隔P2でドットが形成されるようになっている。
そして、図6(b)に示すように、これら6つの圧力室群22a〜22fがそれぞれ2つに分割されて、紙送り方向に関して異なる位置にそれぞれ配置されたものが12列の圧力室列21a〜21lとなっている。例えば、図6(a)の左から1番目の圧力室群22aは、図6(b)の左から1列目の圧力室列21aと左から7列目の圧力室列21gとに分割されている。
尚、図6(a)に示されている元々の6つの圧力室群22a〜22fは、それらを構成する圧力室14の数が同数である必要は必ずしもない。即ち、これらの圧力室群22a〜22fに属する全ての圧力室14が、走査方向に関して間隔P2だけずれて配置されるものであればよい(従って、例えば、図6(a)において、圧力室群22aの図中下方に圧力室14が1つ追加されて、圧力室群22aが33個の圧力室14で構成されていてもよい)。また、図6(b)に示す12列の圧力室列21a〜21lについてもこれらが同数であることには限られない。
また、図2、図6(b)に示すように、左から奇数番目に位置する圧力室列21と偶数番目に位置する圧力室列21(例えば、1列目の圧力室列21aと2列目の圧力室列21b)の2列からなる圧力室列組25(25a〜25f)が計6組構成されており、同じ圧力室列組25に属する2列の圧力室列21の長さ(列を構成する圧力室14の数)は互いに等しくなっている。具体的には、各圧力室列組25に属する圧力室列21を構成する圧力室14の数は、図2の左から、圧力室列組25aでは8、圧力室列組25bでは16、圧力室列組25cでは24、圧力室列組25dでは24、圧力室列組25eでは16、そして、圧力室列組25fでは8となっている。
さらに、12列の圧力室列21a〜21lのうち、走査方向の一方側(図2の下側)に位置する6列の圧力室列21a〜21f(一方側圧力室列)は、走査方向の他方側(図2の上側)に位置する6列の圧力室列21g〜21l(他方側圧力室列)よりも、紙送り方向前方(図2の左方)に配置されている。また、前方に配置された6列の圧力室列21a〜21fは、長さが短いものほど外側(前側)に配置され、一方、後方に配置された6列の圧力室列21g〜21lは、長さが短いものほど外側(後側)に配置されている。つまり、図2に示すように、前方から後方に並ぶ12列の圧力室列21a〜21lは、2列ごとに(1組の圧力室列組25ごとに)、隣接する圧力室列組25に属する圧力室列21に対して走査方向に関して一部(図2では、圧力室8個分、又は、圧力室16個分の長さ)重なりながら、走査方向の一方(図2の上方)へ順にずれて配置されている。
尚、複数列の圧力室列21は、走査方向の一方(図2の上方)へ順にずれて配置されていることから、複数列の圧力室列21は、これらの圧力室列21の図2における上下両端部をそれぞれ結び、インクジェットヘッド1の長手方向(走査方向)に対して所定角度θだけ傾いた2本の直線L1,L2の間の領域に配置される。このような構成であるが故に、インクジェットヘッド1は、前述したように、走査方向に対して所定角度θだけ傾いた方向に延在する構造となっている。
図3、図4に示すように、ベースプレート11の、平面視で圧力室14の両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔15,16が形成されている。また、マニホールドプレート12には、複数の圧力室14と連通孔15を介して連通するマニホールド17(共通液室)が形成されている。
マニホールド17は、マニホールドプレート12の図2における下端部から右側の縁部に亙って形成された主マニホールド17a(主液室)と、この主マニホールド17aから分岐して図2の上方に延びる複数の分岐マニホールド17b(分岐液室)とからなる。
主マニホールド17aは、後述の振動板30に形成されたインク供給口18に連なっており、このインク供給口18から、複数列の圧力室列21に隣接する領域において、圧力室列21の下端部を結ぶ直線L1に沿って延在している。また、この主マニホールド17aには、インクタンク3(図1参照)からインク供給口18を介してインクが供給される。
複数の分岐マニホールド17bのうち、外側の2つの分岐マニホールド17bは、12列の圧力室列21a〜21fよりも紙送り方向に関して外側の2つの領域にそれぞれ配置されている。また、残りの分岐マニホールド17bは、異なる圧力室列組25にそれぞれ属し、且つ、互いに隣接する2列の圧力室列21の間の領域に配置されている。そして、各分岐マニホールド17bは、平面視で、対応する圧力室列21(各分岐マニホールド17bの幅方向一方側又は幅方向両側に近接配置された圧力室列21)の先端よりも少し長く図2の上方へ延びている。さらに、各分岐マニホールド17bは、平面視で、対応する圧力室列21に属する複数の圧力室14と部分的に重なっており、これらの圧力室14と連通孔15を介して連通している。
ところで、前述したように、異なる圧力室列組25にそれぞれ属し、且つ、隣接する2列の圧力室列21の、走査方向に関して重なっている部分の長さは圧力室8個又は圧力室16個程度の長さである。これは、32個の圧力室14からなる、分割前の1つの圧力室群22全体の長さよりも短い(図6参照)。つまり、インクジェットヘッド1の長手方向全域に亙って延びる各圧力室群22が分割されていない場合に比べて、2列の圧力室列21の間に配置される分岐マニホールド17bの、それら2列の圧力室列21に連通する部分の長さが短くなっている(言い換えれば、1つの分岐マニホールド17に連通する圧力室14の数が少なくなっている)。従って、1つの分岐マニホールド17bからインクを供給すべき圧力室14の数が少なくなるため、分岐マニホールド17bから各圧力室14に対して十分なインクを供給することが可能となる。
さらに、図3〜図5に示すように、マニホールドプレート12の、平面視で複数の圧力室14の分岐マニホールド17bと反対側の端部と重なる位置には、それぞれ、複数の連通孔16に連なる複数の連通孔19が形成されている。
また、ノズルプレート13の、平面視で複数の連通孔19にそれぞれ重なる位置には、複数のノズル20が形成されている。図2に示すように、複数のノズル20は、平面視で分岐マニホールド17bと重ならない領域において、走査方向(図2の上下方向)に配列されており、12列の圧力室列21a〜21lにそれぞれ対応する12列のノズル列26a〜26lを構成している。尚、12列のノズル列26a〜26lは、12列の圧力室列21a〜21lと同様に、それらの配列方向(図2、図3の上下方向)に関してピッチP2だけずれている。
そして、図4に示すように、分岐マニホールド17bは連通孔15を介して圧力室14に連通し、さらに、圧力室14は、連通孔16,19を介してノズル20に連通している。このように、流路ユニット7内には、分岐マニホールド17bから圧力室14を経てノズル20に至る個別インク流路27が複数形成されている。
次に、圧電アクチュエータ8について説明する。図2〜図5に示すように、圧電アクチュエータ8は、流路ユニット7の上面に配置された振動板30と、この振動板30の上面に複数の圧力室14に跨って連続的に形成された圧電層31と、この圧電層31の上面に複数の圧力室14にそれぞれ対応して形成された複数の個別電極32とを有する。
振動板30は、平面視で略矩形状の金属材料からなる導電性を有する板であり、例えば、ステンレス鋼等の鉄系合金、銅系合金、ニッケル系合金、あるいは、チタン系合金などからなる。この振動板30は、キャビティプレート10の上面に複数の圧力室14を覆うように配設されて、キャビティプレート10に接合されている。また、この振動板30は常にグランド電位に保持されており、複数の個別電極32に対向して個別電極32と振動板30との間の圧電層31に厚み方向の電界を作用させる共通電極を兼ねている。
振動板30の上面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電層31が形成されている。この圧電層31は、複数の圧力室14に跨って連続的に形成されている。また、圧電層31は、例えば、超微粒子材料を高速で衝突させて堆積させるエアロゾルデポジション法(AD法)を用いて形成できる。その他、ゾルゲル法、スパッタ法、水熱合成法、あるいは、CVD(化学蒸着)法を用いることもできる。さらに、PZTのグリーンシートを焼成することにより得られた圧電シートを振動板30の表面に貼り付けて圧電層31を形成することもできる。
圧電層31の上面には、圧力室14よりも一回り小さい略楕円形の平面形状を有する複数の個別電極32が形成されている。これら個別電極32は、平面視で対応する圧力室14の中央部に重なる位置にそれぞれ形成されている。また、個別電極32は金、銅、銀、パラジウム、白金、あるいは、チタンなどの導電性材料からなる。さらに、複数の個別電極32の一端部(分岐マニホールド17b側の端部)からは、それぞれ個別電極32の楕円長軸方向に複数の接点部35が引き出されている。そして、これら複数の接点部35には、フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)等の可撓性を有する配線部材(図示省略)の接点が接合され、この配線部材を介して、複数の個別電極32に対して選択的に駆動電圧を供給するドライバIC37と電気的に接続されている。尚、複数の個別電極32及び複数の接点部35は、例えば、スクリーン印刷、スパッタ法、あるいは、蒸着法等により形成することができる。
次に、ノズル20からインクの液滴を噴射させる際の圧電アクチュエータ8の作用について説明する。複数の個別電極32に対してドライバIC37から選択的に駆動電圧が印加されると、駆動電圧が印加された圧電層31上側の個別電極32とグランド電位に保持されている圧電層31下側の共通電極としての振動板30の電位が異なる状態となり、個別電極32と振動板30の間に挟まれた圧電層31に厚み方向の電界が生じる。ここで、圧電層31の分極方向と電界の方向とが同じ場合には、圧電層31はその分極方向である厚み方向に伸びて水平方向に収縮する。そして、この圧電層31の収縮変形に伴って振動板30が圧力室14側に凸となるように変形するため、圧力室14内の容積が減少して圧力室14内のインクに噴射圧力が付与され、圧力室14に連通するノズル20からインクの液滴が噴射される。
ところで、先に述べたように、隣接するノズル列の間隔が大きいと、各ノズル20から噴射されたインクの液滴により形成されるドット(線)の間隔がばらついて、印字のムラ(バンディング)や白すじが大きくなり、印字品質が大きく低下する(図14参照)。そこで、隣接する2列のノズル列の間隔を小さくするために、これら2列のノズル列に対応する2列の圧力室列21の間に配置される分岐マニホールド17bの幅はできるだけ狭くなっていることが好ましい。しかし、その一方で、内側に位置する分岐マニホールド17bはその両側の2列の圧力室列21にそれぞれ属する圧力室14と連通しており、インクを供給すべき圧力室14の数が多くなっている。そのため、分岐マニホールド17bの幅を狭くすると、多数のノズル20から一度にインクを噴射する場合や圧電アクチュエータ8の駆動周波数が高い(噴射間隔が短い)場合など、分岐マニホールド17bから供給すべきインク量が急激に増大したときに、この分岐マニホールド17bから各圧力室14へ十分な量のインクを供給できなくなる虞がある。
しかし、本実施形態でのインクジェットヘッド1においては、図6に示すように、インクジェットヘッド1の長手方向全域に亙って延びる各圧力室群22が2つの圧力室列21に分割されて、これらの圧力室列21が紙送り方向の異なる位置にそれぞれ配置されている。そして、図2に示すように、隣接する2列の圧力室列21の、走査方向に関して重なっている部分の長さ、即ち、1つの分岐マニホールド17bの、対応する2列の圧力室列21と連通している部分の長さは、分割前の1つの圧力室群22全体の長さよりも短く、1つの分岐マニホールド17bからインクが供給される圧力室14の数が少なくなっている。そのため、隣接する2列の圧力室列21の間に位置する分岐マニホールド17bの幅を狭くしつつも、各圧力室14へ十分な量のインクを供給することが可能となる。従って、分岐マニホールド17bの幅を可能な限り狭めて、圧力室列21に対応するノズル列26の間隔を極力小さくすることができる。
また、本実施形態では、2列の圧力室列21の間に配置された分岐マニホールド17bは、これら2列の圧力室列21に属する圧力室14に連通している。そのため、1つの分岐マニホールド17bからその両側に位置する2列の圧力室列21に対してそれぞれインクが供給されることから、分岐マニホールド17bの数が少なくて済み、その分、インクジェットヘッド1の構造が簡単になり、また、インクジェットヘッド1の一層の小型化も可能となる。
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
1]図8に示すように、インクジェットヘッド1Aにおいて、主マニホールド47aが、複数列の圧力室列21を挟むように、これら複数列の圧力室列21の上下両端部をそれぞれ結ぶ2本の直線L1,L2に沿って延在しており、これら2つの主マニホールド47aが、圧力室列21の間において走査方向に延在する複数の分岐マニホールド47bを介して連通していてもよい(変更形態1)。この構成によれば、複数列の圧力室列21の両側に配置された2つの主マニホールド47aから、1つの分岐マニホールド47bに対してそれぞれインクが供給されることから、分岐マニホールド47bへのインクの供給がより速やかに行われ、分岐マニホールド47bにインク不足が生じにくくなる。
2]前記実施形態では、隣接する2列の圧力室列21の間に配置された分岐マニホールド17bは、その両側に位置する2列の圧力室列21と連通しているが(図2参照)、図9に示すように、インクジェットヘッド1Bにおいて、主マニホールド57aから分岐する分岐マニホールド57bが、隣接する2列の圧力室列21の間の領域の全てにおいてそれぞれ走査方向に延びており、各分岐マニホールド57bがその両側に位置する2列の圧力室列のうちの一方側(図9では左側)の圧力室列21のみと連通していてもよい(変更形態2)。この構成では、前記実施形態の構成に比べると、全ての圧力室列間領域に分岐マニホールドを設ける必要があるために、分岐マニホールドの数が多くなってしまうが、逆に、1つの分岐マニホールドに連通する圧力室14の数は少なくなることから、分岐マニホールドの幅を狭くすることが可能である。
3]複数の圧力室14の配置パターンは、前記実施形態のパターンに限られるものではない。例えば、図10(a),(b)に示すように、元々の圧力室群52が4つである場合に、これら4つの圧力室群52a〜52dのうちの一部(圧力室群52a,52b)がそれぞれ3列の圧力室列51に分割されて、4つの圧力室群52a〜52dから10列の圧力室列51a〜51jが形成されてもよい(変更形態3)。尚、圧力室群52a,52bが3分割されることにより形成された圧力室列51のうち、走査方向の一方側(図10(b)の下側)に位置する圧力室列51a,51b(一方側圧力室列)と、走査方向の他方側(図10(b)の上側)に位置する圧力室列51i,51j(他方側圧力室列)の間の、中央部の圧力室列51e,51f(中間圧力室列)は、紙送り方向に関して、走査方向一方側に位置する圧力室列51a〜51dと走査方向他方側に位置する圧力室列51g〜51jの間に配置されている。
あるいは、図11(a),(b)に示すように、6つの圧力室群62a〜62fのうちの一部(圧力室群62c,62d)が分割されておらず、その他の圧力室群62a,62b,62e,62fのみがそれぞれ2つの圧力室列61に分割されて、計10列の圧力室列61a〜61jが形成されていてもよい(変更形態4)。
以上の変更形態3及び変更形態4の構成においても、圧力室列が、1組の圧力室列組ごとに、走査方向の一方側へ順にずれて配置されていることから、前記実施形態と同様に、隣接する2列の圧力室列の、走査方向に関して重なっている部分の長さ(即ち、2列の圧力室列の間に配置された分岐マニホールドの、これら圧力室列と連通する部分の長さ)は、分割前の圧力室群よりも短くなる。
4]インクジェットヘッド全体における圧力室14の配置パターンが、前記実施形態で採用されているような、複数列の圧力室列が走査方向一方にずれて配置された配置パターンとこれに対称なパターンとが組み合わせられることによって形成されたパターンであってもよい。以下にその一例を示す。
図12に示す変更形態5のインクジェットヘッド1Eにおいては、その長手方向の全域に亙って延びる6つの圧力室群が分割されることにより形成された、10列の圧力室列71a〜71jが配置されている。但し、6つの圧力室群のうちの2つの圧力室群は分割されず、紙送り方向中央部において隣接して配置された2列の圧力室列71e,71fとなっている。一方、残りの4つの圧力室群はそれぞれ3つに分割されて、紙送り方向に関する位置が互いに異なり、それらの圧力室群の配列方向(走査方向)両端部からなる圧力室列71,71b,71c,71dと配列方向中央部からなる圧力室列71g,71h,71i,71jがそれぞれ形成されており、これら8列の圧力室列71a〜71d、71g〜71jは、2列の圧力室列71e,71fの紙送り方向に関して両側にそれぞれ配置されている。また、前記実施形態と同様に、左から奇数番目の圧力室列71と偶数番目の圧力室列71とにより、5組の圧力室列組75a〜75eが構成されている。
また、10列の圧力室列71a〜71jよりも紙送り方向に関して外側の領域には、2つの主マニホールド77aがそれぞれ配置されている。また、異なる圧力室列組75にそれぞれ属し、且つ、互いに隣接する2列の圧力室列71の間の領域には、2つの主マニホールド77aからそれぞれ分岐した複数の分岐マニホールド77bが走査方向に延在している。尚、紙送り方向前方の主マニホールド77aは、振動板に形成されたインク供給口78に連なっており、また、前後2つの主マニホールド77aは、複数の分岐マニホールド77bを介して互いに連通している。
ところで、図12に示すインクジェットヘッドの下側の領域A1においては、図12の左方から右方へ並ぶ10列の圧力室列71a〜71jが、圧力室列組75ごとに、隣接する圧力室列組75に属する圧力室列71に対して走査方向に関して一部重なりながら、走査方向の一方(図12の上方)へ順にずれて配置されている。そして、隣接する2列の圧力室列71の、走査方向に関して重なっている部分の長さは、インクジェットヘッド1の長手方向に亙って延びる、分割前の1つの圧力室群の長さよりも短くなっている。
一方、図12に示すインクジェットヘッド1Eの上側の領域A2における圧力室14の配置パターンは、下側の領域A1における圧力室14と配置パターンを走査方向に延びる直線に関して折り返した、線対称なパターンとなっている。即ち、図12の左方から右方へ並ぶ10列の圧力室列71a〜71jが、圧力室列組75ごとに、隣接する圧力室列組75に属する圧力室列71に対して走査方向に関して一部重なりながら、走査方向の他方(図12の下方)へ順にずれて配置されている。そのため、この上側の領域A2においても、隣接する2列の圧力室列71の、走査方向に関して重なっている部分の長さは、インクジェットヘッド1Eの長手方向に亙って延びる、分割前の1つの圧力室群の長さよりも短くなっている。
従って、走査方向に並ぶ2つの領域A1,A2を合わせた領域全体においても、隣接する2列の圧力室列71の間に配置された分岐マニホールド77bの、圧力室列71と連通する部分の長さは、必然的に分割前の圧力室群よりも短いことになる。
あるいは、ある圧力室14の配置パターンとこれに対称なパターンが、走査方向に交互に並べられていてもよい。例えば、図13に示す変更形態7のインクジェットヘッド1Fにおいては、その長手方向の全域に亙って延びる6つの圧力室群が分割されることにより形成された、10列の圧力室列81a〜81jが配置されている。
10列の圧力室列81a〜81jよりも紙送り方向に関して外側の領域には、それぞれ主マニホールド87aが配置されている。また、異なる圧力室列組にそれぞれ属し、且つ、互いに隣接する2列の圧力室列81の間の領域には、2つの主マニホールド87aからそれぞれ分岐した複数の分岐マニホールド87bが、配置されている。図13の左方に位置する主マニホールド87aはインク供給口88に連通しており、紙送り方向両側に配置された主マニホールド87aは複数の分岐マニホールド87bを介して互いに連通している。
ところで、このインクジェットヘッド1Fの中央部の領域B1においては、10列の圧力室列81a〜81jが、圧力室列組ごとに、隣接する圧力室列組に属する圧力室列81に対して走査方向に関して一部重なりながら、図13の上方へ順にずれて配置されている。
一方、インクジェットヘッド1Fの図13における上側の領域B2における圧力室14の配置パターンは、中央部の領域B1における圧力室14の配置パターンを走査方向に延びる直線に関して折り返した、線対称なパターンとなっている。さらに、インクジェットヘッド1Fの図13における下側の領域B3における圧力室14の配置パターンも、中央部の領域B1における圧力室14の配置パターンを走査方向に延びる直線に関して折り返した、線対称なパターンとなっている。即ち、上側の領域B2における圧力室14の配置パターンと下側の領域B3における圧力室14の配置パターンは全く同じであり、これらの領域B2,B3においては、10列の圧力室列81a〜81jが、圧力室列組ごとに、隣接する圧力室列組に属する圧力室列81に対して走査方向に関して一部重なりながら、図13の下方へ順にずれて配置されている。
そして、3つの領域B1,B2,B3において、それぞれ、隣接する2列の圧力室列81の、走査方向に関して重なっている部分の長さは分割前の圧力室群よりも短くなっている。そのため、3つの領域B1,B2,B3において、分岐マニホールド87bの、圧力室列81に連通している部分の長さは、必然的に、1つの圧力室群全体の長さよりも短くなる。
以上説明した実施形態及びその変更形態は、ライン型のインクジェットヘッドに本発明を適用した一例であるが、シリアル型のインクジェットヘッドに本発明を適用してもよく、さらに、インクジェットヘッド以外の液滴噴射装置に本発明を適用することもできる。例えば、導電ペーストを噴射して基板上に微細な配線パターンを形成したり、あるいは、有機発光体を基板に噴射して高精細ディスプレイを形成したり、さらには、光学樹脂を基板に噴射して光導波路等の微小光学デバイスを形成する際などに用いられる、種々の液滴噴射装置に本発明を適用できる。