JP2007197823A - 低降伏比550MPa級高張力厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

低降伏比550MPa級高張力厚鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低降伏比550MPa級高張力厚鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.07〜0.15%、Si、Mn、P、Sを適正量含み、さらにNb、Tiのうちの1種または2種を含有し、Ceq:0.35〜0.42%である組成を有する鋼片に、熱間圧延を施したのち、Ar3変態点〜950℃の温度から冷却を開始し、Ceq、Nb含有量、冷却停止温度に関係するCRL〜CRH(℃/s)、かつ7℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、350〜620℃の範囲の温度で冷却を停止する。これにより、板厚、組成によらず、一定量のフェライトを含むフェライト+ベイナイト複合組織を安定して確保でき、溶接性に優れ、安定して80%以下の低降伏比と550MPa以上の引張強さを有する低降伏比高張力厚鋼板となる。
【選択図】なし

Description

本発明は、建築構造物に用いて好適な高張力厚鋼板に係り、とくに引張強さ550MPa以上、降伏比80%以下を満足する低降伏比高張力厚鋼板およびその製造方法に関する。なお、本発明でいう「厚鋼板」とは、板厚19mm以上の鋼板をいうものとする。
近年、建築物など鋼構造物の大型化に伴い、使用される鋼材重量削減の必要性の観点から、使用される鋼材には、高強度化が求められている。一方、構造物の安全性の観点から、降伏比の低いことが求められている。低降伏比を有する鋼板は、例えば降伏点以上の応力が負荷されても、破壊までに許容される応力が大きく、また、一様伸びも大きいので、降伏応力を超える応力が負荷される大地震に遭遇しても、地震エネルギ−を吸収し、破壊に至らないという利点がある。
一般に、降伏比は、高強度化とともに上昇する傾向にあり、例えば引張強さ550MPa以上の高強度と80%以下の低降伏比とを両立させることは容易ではないが、低降伏比高張力鋼板の製造方法については、多くの提案がある。例えば、特許文献1には、C、Si、Mn、Al含有量を適正範囲に調整し、さらにNbを含有する鋼スラブに、Nb炭窒化物が一部固溶するような温度に加熱したのち、950℃以下の温度域での累積圧下率を50%以上とし、Ar3変態点+50℃以上の温度で圧延を終了する制御圧延を施し、さらに圧延後直ちに加速冷却を施し400℃以下の温度まで冷却したのち、二相域温度に再加熱し、ついで焼入れ、焼戻を行う、低温靭性および溶接性に優れる低降伏比高張力鋼板の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術によれば、二相域温度への再加熱処理を施すことにより、鋼板組織をフェライトが一部混入した、フェライト+ベイナイトあるいはフェライト+マルテンサイト複合組織とすることができ、引張強さ570MPa級(58kgf/mm2級)の高強度と80%以下の低降伏比を両立させることができるとしている。
また、特許文献2には、低降伏比を有する建築構造用厚鋼板の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、Al、Ti含有量を低く抑えてREMを0.0010〜0.03%含有する組成の鋼素材に熱間圧延を施したのち、平均冷却速度が0.1〜0.7℃/sの緩冷却を二相域内の特定温度域まで施し、ついで平均冷却速度が1.0℃/s以上の加速冷却を600℃以下の温度域まで行うことにより、優れた超大入熱溶接熱影響部靭性を有する低降伏比高張力厚鋼板が得られるとしている。特許文献2に記載された技術によれば、再加熱処理を施すことなく、低降伏比の高張力厚鋼板を得ることができるとしている。
また、特許文献3には、C、Si、Mn、Al含有量を適正範囲に調整し、さらにTi、Nb、V、Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を含有する鋼片に、合金元素含有量に関係する特定温度以上の温度で終了する熱間圧延を施し、該特定温度以下の温度から、加速冷却を開始する、高張力鋼板の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術によれば、降伏比が低く、かつ降伏強度のばらつきが少ない、安価な建築用の490MPa級高張力鋼板が製造できるとしている。
また、特許文献4には、C、Si、Mn、P、S、Al、N含有量を適正範囲に調整し、さらにNbを含有し、さらにTiおよびREMの1種または2種を含有する鋼材に、950℃以上の温度で圧延を終了し、750〜600℃まで加速冷却し、その後空冷する低降伏比580MPa級高張力鋼板の製造方法が記載されている。
また、特許文献5には、C、Si、Mn、Al含有量を適正範囲に調整し、さらにCu、Cr、Nb、Tiを含有し、Nb+Tiを所定範囲内に限定して含む鋼に、Ar3変態点以上で終了する熱間圧延を施し、ついで、二相温度域まで放冷したのち、200〜500℃まで制御冷却を施し、その後放冷する低降伏比鋼材の製造方法が記載されている。
また、特許文献6には、C、Si、Mn、Al含有量を適正範囲に調整して含む鋼に、Ar3変態点以上で圧下率50%以上の熱間圧延と、Ar3変態点以上の温度から(Ar3変態点−200℃)以下の温度まで加速冷却し、一旦冷却を中断して鋼材温度を復熱させたのち、Ar3変態点〜(Ar3変態点−100℃)の温度域まで加速冷却し、その温度域で所定時間の待機を行い、さらに加速冷却する板厚方向材質差の小さい低降伏比490MPa級高張力鋼材の製造方法が記載されている。
また、特許文献7には、C、Si、Mn、Al含有量を適正範囲に調整して含む鋼に、Ar3変態点以上で圧下率50%以上の熱間圧延と、Ar3変態点以上の温度から(Ar3変態点−100℃)以下の温度まで加速冷却し、一旦冷却を中断して所定時間の待機を行い、さらに加速冷却する低降伏比490MPa級高張力鋼材の製造方法が記載されている。
また、特許文献8には、熱間圧延された鋼に、Ar3変態点〜(Ar3変態点−150℃)の温度域までの第一の制御冷却を行い、引続きAr3変態点〜(Ar3変態点−100℃)の温度域までの第二の制御冷却を行ったのち、冷却を中断し所定時間の待機を行い、ついで第三の制御冷却を行う低降伏比490MPa級高張力鋼材の製造方法が記載されている。
特開昭64−52023号公報 特開2004−10951号公報 特開平9−157742号公報 特開平6−340924号公報 特開平10−265844号公報 特開平11−279638号公報 特開2000−87138号公報 特開2000−178644号公報
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、再加熱処理を必要とし、工程数が増加するため、生産能率が低下し、製造コストが高騰するという問題があった。また、特許文献2に記載された技術では、熱間圧延終了後、緩冷却を行う必要があり、特許文献3に記載された技術では、加速冷却開始までの待ち時間を必要とし、生産能率が著しく低下するという問題があった。
さらに、特許文献4に記載された技術では、冷却停止温度のばらつきで降伏強さ等特性ばらつきが大きくなるという問題があり、特許文献5に記載された技術でも、制御冷却開始温度、制御冷却停止温度のばらつきで降伏強さ等の特性ばらつきが大きくなるという問題に加えて、二相温度域までの放冷により、生産能率が著しく低下するという問題もあった。
そして、特許文献6、特許文献7、特許文献8に記載された技術でも、加速冷却や制御冷却の待機時間を必要とし、生産能率が著しく低下するという問題があった。
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、オンラインでしかも高い生産能率で製造できる、溶接性に優れかつ低降伏比の550MPa級高張力厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、二相温度域への再加熱処理を行うことなく、また生産能率を低下させることなくオンラインで、特性ばらつきの少ない低降伏比高張力厚鋼板を製造する手段について鋭意研究を行った。その結果、低降伏比を有し550MPa以上の引張強さを確保するためには、組織をフェライトが適正量存在し、ベイナイトを主相とするフェライト+ベイナイト複合組織を安定して確保することが肝要であることに想到した。そのような組織を得るためには、炭素当量Ceqを適正範囲に調整した鋼素材を用いたうえ、熱間圧延後の冷却速度を、Nb含有量、炭素当量Ceq、冷却停止温度に関係した適正冷却速度範囲内の、冷却速度に制御する必要があることを初めて見出した。この適正な冷却速度範囲内の冷却速度を選択して鋼板を冷却すれば、同一組成範囲で板厚によらず、一定量のフェライトを含むフェライト+ベイナイト複合組織を安定して確保できることを知見した。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.030%以下、S:0.005%以下を含み、さらにNb:0.02%以下、Ti:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、次(1)式
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ……(1)
(ここで、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される炭素当量Ceqが、0.35〜0.42%である組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱し、熱間圧延を施したのち、冷却を施すに当り、次(2)式
Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo ……(2)
(ここで、C、Mn、Cu,Ni、Cr、Mo:各元素の含有量(質量%))
で定義される、Ar3変態点以上、950℃以下の範囲の温度から冷却を開始し、平均冷却速度にして次(3)式
CRL(℃/s)=0.035×(冷却停止温度)−50×Ceq−300Nb+14.5 ……(3)
(ここで、Ceq:(1)式で定義される炭素当量、Nb:Nbの含有量(質量%))
で定義されるCRL(℃/s)以上、次(4)式
CRH(℃/s)=0.03×(冷却停止温度)−50×Ceq−300Nb+23.5 ……(4)
(ここで、Ceq:(1)式で定義される炭素当量、Nb:Nbの含有量(質量%))
で定義されるCRH(℃/s)以下で、かつ7℃/s以上の冷却速度で、冷却停止温度:350〜620℃の範囲の温度で冷却を停止することを特徴とする溶接性に優れた低降伏比550MPa級高張力厚鋼板の製造方法。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.08%以下を含有する組成であることを特徴とする低降伏比550MPa級高張力厚鋼板の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする低降伏比550MPa級高張力厚鋼板の製造方法。
(4)質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.030%以下、S:0.005%以下を含み、さらにNb:0.02%以下、Ti:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、次(1)式
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ……(1)
(ここで、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される炭素当量Ceqが、0.35〜0.42%である組成と、表面から見て、板厚の1/4〜1/2の範囲が、ベイナイト相からなる主相と、20体積%以下のフェライト相を含む第二相とからなる組織を有することを特徴とする低降伏比550MPa級高張力厚鋼板。
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.08%以下を含有する組成であることを特徴とする低降伏比550MPa級高張力厚鋼板。
(6)(4)または(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする低降伏比550MPa級高張力厚鋼板。
本発明によれば、再加熱処理を施すこともなく、また生産能率を阻害することもなく、溶接性に優れたしかも降伏比が80%以下の、低降伏比550MPa級高張力厚鋼板を、容易にしかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、表層と中央部とで強度、硬さ等の特性偏差が少ない、板厚方向の特性偏差が小さい低降伏比高張力厚鋼板が得られるという効果もある。
本発明の低降伏比高張力厚鋼板の製造方法について説明する。まず、本発明で使用する鋼片の組成限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は、単に%で記す。
C:0.07〜0.15%
Cは、鋼の強度を向上する元素であり、所望の高強度を確保するためには、0.07%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超える含有は溶接性を阻害する。このため、Cは0.07〜0.15%の範囲に規定した。
Si:0.05〜0.5%
Siは、脱酸剤として有効に作用するとともに、鋼の強度を向上する元素であり、所望の高強度を確保するために、0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.5%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。このため、Siは0.05〜0.5%に規定した。なお、好ましくは、0.20〜0.40%である。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、鋼の焼入れ性および強度を高めるとともに、靭性の向上にも寄与する元素である。このような効果を得るためには0.5%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Mnは0.5〜2.0%の範囲に規定した。なお、好ましくは1.10〜1.50%である。
P:0.030%以下
Pは、鋼の靭性を低下させるため、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、0.030%までは許容できる。このため、Pは0.030%を上限とした。なお、好ましくは0.020%以下である。
S:0.005%以下
Sは、多量に含有すると、鋼の靭性を低下させるため、本発明では極力低減することが望ましいが、0.005%までは許容できる。このため、Sは0.005%以下に規定した。
Nb:0.02%以下、Ti:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種
Nb、Tiは、いずれも固溶強化および析出強化により鋼の強度を顕著に向上する元素であり、選択して含有してもよい。
Nbは、微量の含有でも、固溶強化および析出強化により、鋼の強度を顕著に向上する元素であり、所望の高強度を確保するために本発明では0.01%以上含有することが望ましい。一方、0.02%を超える含有は、大入熱溶接熱影響部の靭性を低下させる。このため、含有する場合、Nbは0.02%以下に限定した。
Tiは、鋼の強度を向上するとともに、溶接熱影響部の靭性を改善する作用を有する元素であり、単独あるいはNbと複合して含有してもよい。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましい。一方、0.02%を超える含有は、材料コストの高騰を招く。このため、Tiは含有する場合には、0.02%以下に規定した。
上記した成分が基本成分であるが、必要に応じて、さらにAl:0.08%以下、および/または、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を選択して含有できる。
Al:0.08%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合して結晶粒微細化に寄与する元素であり、必要に応じ含有できる。このような効果は、0.01%以上の含有で認められるが、0.08%を超える多量の含有は、鋼の清浄度を低下させる。このため、Alは含有する場合には、0.08%以下に限定することが好ましい。
Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bは、いずれも鋼の強度を向上する元素であり必要に応じて選択して1種または2種以上含有できる。
Cuは、固溶して鋼の強度を向上するとともに、耐候性を向上させる。このような効果を得るためには0.1%以上含有することが望ましい。一方、1.0%を超える含有は、溶接性を損なうとともに鋼材製造時に疵が発生しやすくなる。このため、Cuは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、好ましくは0.5%以下である。
Niは、鋼の強度を向上するとともに、低温靭性の向上に寄与する。また、Niは、Cuとともに含有させることにより、Cuによる熱間脆性を防止することができる。このような効果を得るためには0.2%以上含有することが望ましい。一方、2.0%を超える多量の含有は、製造コストの高騰に繋がる。このため、Niは2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは1.0%以下である。さらに好ましくは0.3%以下である。
Crは、鋼の強度を向上する元素であり、このような効果を確保するためには0.2%以上含有することが望ましいが、1.0%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。このため、Crは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、好ましくは0.5%以下である。
Moは、鋼の強度を向上する元素であり、このような効果を確保するためには0.1%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。このため、Moは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、好ましくは0.3%以下である。
Vは、鋼の強度を向上する元素であり、このような効果を確保するためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.1%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。このため、Vは0.1%以下に限定することが好ましい。
Bは、焼入れ性の向上を介して鋼の強度向上に寄与する。このような効果を得るためには0.0005%以上含有することが望ましいが、0.005%を超えて含有すると、溶接性を低下させる。このため、Bは0.005%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.002%以下である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、N:0.0060%以下が許容できる。なお、本発明の作用効果を損なわない限り、上記した以外の他の微量元素を含有しても何ら問題はない。
本発明で使用する鋼片は、上記した成分範囲でかつ、次(1)式
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ……(1)
(ここで、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される炭素当量Ceqが0.35〜0.42%となる組成を有する。炭素当量Ceqは、所望の母材強度および溶接継手部強度を確保する観点から、本発明では0.35%以上とする。一方、0.42%を超えると、大入熱溶接熱影響部の靭性が低下する。このため、Ceqは0.35〜0.42%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.38〜0.40%である。
上記した組成を有する鋼片に、まず、熱間圧延を施し、厚鋼板とする。
鋼片の加熱温度は、1000〜1200℃とする。加熱温度が1000℃未満では、変形抵抗が増大し、鋼板形状の確保が困難になるとともに、Nb等の析出強化に寄与する元素の固溶が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えて高温となると、結晶粒が粗大化して鋼板の靭性が低下する。このため、鋼片の加熱温度は1000〜1200℃とした。
熱間圧延の条件は、とくに限定する必要はないが、Ar3変態点以上、950℃以下の範囲の温度から厚鋼板の冷却を開始できるように、熱間圧延の仕上圧延を終了することが好ましい。
熱間圧延終了後、厚鋼板を冷却する。この際、本発明では、冷却の開始を、Ar3変態点以上、950℃以下の範囲の温度とする。なお、この温度は、厚鋼板表面から板厚中央部にかけての平均温度とする。この温度は、差分法などのシミュレ−ションにより求められる。
なお、Ar3変態点は、次(2)式
Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo ……(2)
(ここで、C、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo:各元素の含有量(質量%))
で定義される値とする。また、(2)式の計算に際しては、含有しない元素は零として計算するものとする。
冷却の開始が、Ar3変態点未満では、冷却開始時にすでにフェライトが生成し、所望の強度を確保することが難しくなる。本発明では冷却開始時点までにフェライトの生成が生じないように、冷却の開始温度をAr3変態点以上とした。一方、950℃を超えると、結晶粒が粗大化して靭性が低下する。このため、冷却の開始を、Ar3変態点〜950℃の範囲の温度に規定した。
また、熱間圧延終了後の冷却は、平均冷却速度にしてCRL(℃/s)以上、CRH(℃/s)以下、かつ7℃/s以上の冷却速度で行う。平均冷却速度で7℃/s以上かつCRL〜CRHの範囲内の平均冷却速度となるように冷却することにより、冷却中に一定量のフェライトが析出し、残りがベイナイトとなる変態領域で冷却することにより、得られる組織がベイナイト相を主相し、第二相として20体積%以下のフェライト相を含む、フェライト+ベイナイト複合組織とすることができる。表層部を除き、このような組織とすることにより、80%以下の低降伏比と、引張強さ550MPa以上の高強度が安定して確保できるようになる。
CRL、CRHについては、実験により種々の組成(炭素当量、Nb量)におけるCCT図を作成し、一定量のフェライトが生成する平均冷却速度の上下限および化学成分の影響を調査した後、実鋼板において組織、強度、降伏比を検証し、重回帰等の手法を用い導き出した。
平均冷却速度が、CRL(℃/s)未満では、組成(炭素当量)を調整しても、組織がフェライト主体の組織となり、低降伏比は確保できるが、所望の高強度を確保できなくなる。一方、平均冷却速度が、CRH(℃/s)を超えると、フェライト相の析出がなく、ベイナイトまたはベイナイト+マルテンサイト組織となり、所望の高強度は確保できるが、降伏比が高くなり、所望の低降伏比を確保することができない。なお、平均冷却速度が、7℃/s未満では、本発明範囲内で組成を調整しても、所望の高強度を確保できない。
なお、CRL(℃/s)は、次(3)式
CRL(℃/s)=0.035×(冷却停止温度)−50×Ceq−300Nb+14.5 ……(3)
(ここで、Ceq:(1)式で定義される炭素当量、Nb:Nbの含有量(質量%))
で定義される値とする。また、CRH(℃/s)は、次(4)式
CRH(℃/s)=0.03×(冷却停止温度)−50×Ceq−300Nb+23.5 ……(4)
(ここで、Ceq:(1)式で定義される炭素当量、Nb:Nbの含有量(質量%))
で定義される値とする。この平均冷却速度は、厚鋼板表面から板厚中央部にかけての平均温度におけるAr3変態点から冷却停止までの平均の冷却速度とする。これは差分法などのシミュレ−ションにより求められる。
(3)式で定義されるCRL、(4)式で定義されるCRHは、いずれも組成(Ceq)、冷却停止温度、Nb含有量に関係する値であり、鋼片組成、冷却停止温度に応じて、平均冷却速度がCRL〜CRHの範囲内となるように冷却速度を調整すると、適正な組織、すなわち一定量のフェライトが析出し、残りがベイナイトとなるフェライト+ベイナイト複合組織が得られることになる。
なお、本発明で利用する冷却装置は、水量密度が適宜調整可能な従来公知の装置がいずれも適用できるが、注水ヘッダー数を変更することで冷却ゾーンの長さが変えられるラミナーフロータイプの冷却水ヘッダー列で構成するのが特に好ましい。
また、本発明では、上記した冷却速度で、冷却停止温度:350〜620℃の範囲の温度で冷却を停止する。なお、冷却停止後は空冷する。冷却停止温度が、350℃未満では、上記した鋼片の組成、平均冷却速度を満足していても、組織が焼入れ組織となり、所望の低降伏比を確保できなくなる。一方、冷却停止温度が620℃を超えると、組織がフェライト主体の組織となり、所望の高強度を確保できなくなる。
上記した組成を有する鋼片を用いて、上記した製造方法で得られる高張力厚鋼板は、上記した組成を有し、かつ、表層部を除く、中心部組織が、ベイナイト相からなる主相と、20体積%以下のフェライト相を含む第二相とからなる組織を有する厚鋼板であり、80%以下の低降伏比と、引張強さ550MPa以上の高強度を有する、溶接性に優れた厚鋼板である。なお、中心部とは、表面から見て、板厚の1/4〜1/2の範囲をいうものとする。中心部を除いた表層部の組織は、ベイナイト相あるいは焼戻ベイナイト相からなる組織である。
本発明では中心部の組織の主相は、ベイナイト相である。ここでいう「主相」とは、50体積%以上の相をいうものとする。なお、ベイナイト相にはベイニッティクフェライト相をも含むものとする。また、第二相となるフェライト相が、20体積%を超えて多くなると、降伏比は低くなるが、所望の高強度を確保できなくなる。
転炉溶製−連続鋳造法で、表1に示す組成を有する鋼片を製造した。これら鋼片に、表2に示す条件(加熱温度、圧延仕上温度)で熱間圧延を施し厚鋼板とし、ついで該厚鋼板に、表2に示す条件(冷却開始温度、冷却速度、冷却停止温度)で冷却を施した。冷却は、水冷とし、冷却ゾーンにおける注水ヘッダー数を変更するようにして調節した。なお、冷却における温度はいずれも、差分法により求めた板厚方向の平均温度とし、冷却速度は変態点から冷却停止温度までの平均値とした。
なお、熱間圧延後の厚鋼板に、二相域温度の780℃に再加熱し、水冷する熱処理を施したのち、500℃に再加熱焼戻して従来例とした。
得られた厚鋼板について、組織観察、引張試験を実施し、鋼板特性を求めた。試験方法は次の通りである。
(1)組織観察
得られた厚鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行する断面で、板厚の1/4位置周辺を研磨し、ナイタ−ル腐食して、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて組織を観察した。各試験片について、各3視野(倍率:100倍)以上観察し、画像解析装置を用いて、主相および第二相の組織分率(体積%)を求めた。
(2)引張試験
得られた厚鋼板について、板厚40mm以下のものはJIS 5号試験片を採取し、板厚40mm超のものは、板厚の1/4位置がちょうど厚みの中心となるように、JIS 4号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さまたは0.2%耐力YS、引張強さTS)を求め、降伏比を算出した。
得られた結果を、表2に示す。
Figure 2007197823
Figure 2007197823
本発明例はいずれも、ベイナイトを主相とし、適正量のフェライトを含む組織を有し、80%以下の低降伏比と550MPa以上の引張強さを有する低降伏比高張力厚鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、降伏比が高いか、あるいは引張強さが550MPa未満となっている。
鋼板No.16、No.17は、平均冷却速度がCRHを超えた比較例であり、組織がベイナイト主体の組織となり、降伏比が80%を超えている。また、鋼板No.18は、平均冷却速度がCRL未満であり、第二相となるフェライトの分率が大きくなり、強度が550MPa未満となっている。鋼板No.19は、平均冷却速度がCRH〜CRLの範囲内であるが、冷却停止温度が620℃を超えており、第二相となるフェライトの分率が大きくなり、引張強さが550MPa未満となっている。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.07〜0.15%、 Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.5〜2.0%、 P:0.030%以下、
    S:0.005%以下
    を含み、さらにNb:0.02%以下、Ti:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが、0.35〜0.42%である組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱し、熱間圧延を施したのち冷却を施すに当り、下記(2)式で定義される、Ar3変態点以上、950℃以下の範囲の温度から冷却を開始し、平均冷却速度にして、下記(3)式で定義されるCRL(℃/s)以上、下記(4)式で定義されるCRH(℃/s)以下、かつ7℃/s以上の冷却速度で、冷却停止温度:350〜620℃の範囲の温度で冷却を停止することを特徴とする溶接性に優れた低降伏比550MPa級高張力厚鋼板の製造方法。

    Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ……(1)
    ここで、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%)
    Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo ……(2)
    ここで、C、Mn、Cu,Ni、Cr、Mo:各元素の含有量(質量%)
    CRL(℃/s)=0.035×(冷却停止温度)−50×Ceq−300Nb+14.5 ……(3)
    ここで、Ceq:(1)式で定義される炭素当量、Nb:Nbの含有量(質量%)
    CRH(℃/s)=0.03×(冷却停止温度)−50×Ceq−300Nb+23.5 ……(4)
    ここで、Ceq:(1)式で定義される炭素当量、Nb:Nbの含有量(質量%)
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.08%以下を含有する組成であることを特徴とする請求項1に記載の低降伏比550MPa級高張力厚鋼板の製造方法。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする請求項1または2に記載の低降伏比550MPa級高張力厚鋼板の製造方法。
  4. 質量%で、
    C:0.07〜0.15%、 Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.5〜2.0%、 P:0.030%以下、
    S:0.005%以下を含み、さらにNb:0.02%以下、Ti:0.02%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが、0.35〜0.42%である組成と、表面から見て、板厚の1/4〜1/2の範囲がベイナイト相からなる主相と、20体積%以下のフェライト相を含む第二相とからなる組織を有することを特徴とする低降伏比550MPa級高張力厚鋼板。

    Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ……(1)
    ここで、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%)
  5. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.08%以下を含有する組成であることを特徴とする請求項4に記載の低降伏比550MPa級高張力厚鋼板。
  6. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成であることを特徴とする請求項4または5に記載の低降伏比550MPa級高張力厚鋼板。
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