JP6988836B2 - 超低降伏比高張力厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
C :0.08%超、0.20%以下、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.5〜3.0%、
P :0.015%以下、
S :0.0050%以下、
Al:0.005〜0.10%、および
N :0.0015〜0.0065%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、
セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、
ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が70.0%以上、95.0%未満であり、
ベイナイトおよびマルテンサイトの平均円相当径が50μm未満であり、
島状マルテンサイトの面積分率が2〜10%であり、
島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、
セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下であり、かつ
セメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有する、超低降伏比高張力厚鋼板。
Ti:0.004〜0.03%、
Cu:1.0%以下、
Ni:3.0%以下、
Cr:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
B :0.0050%以下、
Nb:0.1%以下、および
V :0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
Ca:0.005%以下、
REM:0.02%以下、および
Mg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1または2に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
C :0.08%超、0.20%以下、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.5〜3.0%、
P :0.015%以下、
S :0.0050%以下、
Al:0.005〜0.10%、および
N :0.0015〜0.0065%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延後の前記厚鋼板を900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する第一再加熱工程と、
前記第一再加熱工程後の前記厚鋼板をAc1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持する第二再加熱工程と、
前記第二再加熱工程後の前記厚鋼板を、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sで、200℃以上、ベイナイト変態開始温度未満である加速冷却停止温度まで加速冷却し、次いで空冷する冷却工程とを有する、超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
Ti:0.004〜0.03%、
Cu:1.0%以下、
Ni:3.0%以下、
Cr:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
B :0.0050%以下、
Nb:0.1%以下、および
V :0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記5に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
Ca:0.005%以下、
REM:0.02%以下、および
Mg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記5または6に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板、および超低降伏比高張力厚鋼板の製造に用いる鋼素材は、上述した成分組成を有する必要がある。以下、前記成分組成に含まれる各成分について説明する。なお、特に断らない限り、各成分の含有量を表す「%」は、「質量%」を意味する。
Cは、鋼の強度を増加させ、構造用鋼材として必要な強度を確保する効果を有する元素である。前記効果を得るために、C含有量を0.08%超とする。C含有量は、0.10%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.20%を超えると、島状マルテンサイトやセメンタイトの生成が促進され、母材の靭性が低下する。そのため、C含有量を0.20%以下とする。C含有量は、0.15%以下とすることが好ましい。
Siは、脱酸剤として機能するとともに、母材強度を高める効果を有する元素である。前記効果を得るために、Si含有量を0.01%以上とする。一方、Si含有量が0.50%を超えると、島状マルテンサイトの生成が促進され、靭性や溶接性の低下が顕在化する。そのため、Si含有量を0.50%以下とする。Si含有量は0.35%以下とすることが好ましい。
Mnは、鋼の強度を増加させる効果を有する元素である。母材の引張強さを確保するためには、Mn含有量を0.5%以上とする必要がある。Mn含有量は0.8%以上とすることが好ましい。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、島状マルテンサイトが過剰に生成し、母材の靭性が著しく劣化する。そのため、Mn含有量は3.0%以下とする。Mn含有量は2.8%以下とすることが好ましい。
Pは、母材の低温靭性を劣化させる元素であり、できるだけ低減することが望ましい。そのため、母材靭性向上のためにはPを低減することが望ましい。よって、P含有量は0.015%以下とする。
Sは、母材の低温靭性を劣化させる元素であり、できるだけ低減することが望ましい。S含有量が0.0050%を超えて含有すると、前記低温靭性の劣化が顕著となるため、S含有量は0.0050%以下とする。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、高張力鋼の溶鋼脱酸プロセスにおいて、もっとも汎用的に使われる。また、Alは、鋼中のNをAlNとして固定し、母材の靭性向上に寄与する。前記効果を得るために、Al含有量を0.005%以上とする。Al含有量は、0.010%以上とすることが好ましい。一方、Al含有量が0.10%を超えると、母材の靭性が低下する。そのため、Al含有量は0.10%以下とする。Al含有量は0.07%以下とすることが好ましい。
Nは、AlやTiと結合して炭窒化物を析出形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制して母材靱性を向上させる。その効果を得るために、N含有量は0.0015%以上とする。N含有量は、0.0030%以上とすることが好ましい。一方、N含有量が0.0065%を超えると、固溶N量の増加により、母材および溶接部靭性が著しく低下する。そのため、N含有量は0.0065%以下とする。N含有量は0.0060%以下とすることが好ましい。
Tiは、Nとの親和力が強く、凝固時にTiNとして析出する。高温でも安定なTiNのピンニング効果により、溶接熱影響部でのオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することで、溶接熱影響部の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.004%以上とする。Ti含有量は0.006%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、TiN粒子が粗大化し、オーステナイト粒の粗大化抑制効果が飽和する。そのため、Ti含有量は0.030%以下とする。Ti含有量は0.025%以下とすることが好ましい。
Cuは、高靭性を保ちつつ強度を増加させることが可能な元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Cu含有量が1.0%を超えると熱間脆性を生じて鋼板の表面性状が劣化する。そのため、Cuを含有する場合、Cu含有量は1.0%以下とする。Cu含有量は0.7%以下とすることが好ましい。一方、Cu含有量の下限は特に限定されないが、前記効果を十分に得るためには、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることがより好ましく、0.20%以上とすることがさらに好ましい。
Niは、Cuと同様、高靭性を保ちつつ強度を増加させることが可能な元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Ni含有量が3.0%を超えると、添加効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利になる。そのため、Niを含有する場合、Ni含有量を3.0%以下とする。Ni含有量は1.7%以下とすることが好ましい。一方、Ni含有量の下限は特に限定されないが、前記効果を十分に得るためには、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることがより好ましく、0.20%以上とすることがさらに好ましい。
Crは、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Cr含有量が2.0%を超えると靭性が劣化するため、Crを含有する場合、Cr含有量を2.0%以下とする。一方、Cr含有量の下限は特に限定されないが、Crによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、Cr含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Moは、Crと同様、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Mo含有量が1.0%を超えると靭性が劣化するため、Moを含有する場合、Mo含有量を1.0%以下とする。一方、Mo含有量の下限は特に限定されないが、Moによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Bは、焼入れ性を向上させることにより、鋼の強度を向上させる作用を有する元素である。しかしB含有量が0.0050%を超えると、焼入れ性が過度に高くなり、母材の靭性および延性が低下する。そのため、Bを含有する場合、B含有量を0.0050%以下とする。B含有量は0.0020%以下とすることが好ましい。一方、B含有量の下限は特に限定されないが、Bの添加効果を十分に得るという観点からは、B含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
Nbは、Cr、Moと同様、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Nb含有量が0.1%を超えると母材靭性が劣化するため、Nbを含有する場合、Nb含有量を0.1%以下とする。一方、Nb含有量の下限は特に限定されないが、Nbによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、Nb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Vは、Cr、Mo、Nbと同様、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、V含有量が0.2%を超えると靭性が劣化するため、Vを含有する場合、V含有量を0.2%以下とする。一方、V含有量の下限は特に限定されないが、Vによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、V含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Caは、結晶粒を微細化することによって靭性を向上させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に含有できる。しかし、Ca含有量が0.005%を超えると、添加効果が飽和するため、Caを含有する場合、Ca含有量を0.005%以下とする。一方、Ca含有量の下限は特に限定されないが、Caによる靭性向上効果を十分に得るという観点からは、Ca含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
REM(希土類金属)は、Caと同様に靭性向上効果を有しており、所望する特性に応じて任意に含有できる。しかし、REM含有量が0.02%を超えると、添加効果が飽和するため、REMを含有する場合、REM含有量を0.02%以下とする。一方、REM含有量の下限は特に限定されないが、REMによる靭性向上効果を十分に得るという観点からは、REM含有量を0.002%以上とすることが好ましい。
Mgは、Caと同様に結晶粒を微細化することによって靭性を向上させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に含有できる。しかし、Mg含有量が0.005%を超えると、添加効果が飽和するため、Mgを含有する場合、Mg含有量を0.005%以下とする。一方、Mg含有量の下限は特に限定されないが、Mgによる靭性向上効果を十分に得るという観点からは、Mg含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板は、下記(1)〜(7)の条件をすべて満たすミクロ組織を有する。
(1)島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含む。
(2)セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれている。
(3)ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が70.0%以上、95.0%未満である。
(4)ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径が50μm未満である。
(5)島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満である。
(6)島状マルテンサイトの面積分率が2〜10%である。
(7)セメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満である。
(8)セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下である。
ベイナイト(B)とマルテンサイト(M)の合計面積分率が70.0%に満たないと、十分な強度を得ることができない。そのため、強度確保の観点から、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率を70.0%以上とする。一方、前記合計面積分率が95.0%以上ではフェライトなどの軟質相の割合が少なくなり、かつ島状マルテンサイトの面積分率も低下するため、超低降伏比の達成が困難となる。そのため、前記合計面積分率を95.0%未満とする。なお、本明細書においては、ミクロ組織の50.0%以上を占めるベイナイトおよびマルテンサイトを合わせて「母相」という場合がある。
所望の強度と靭性を得るためには、上記ミクロ組織におけるベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径を50μm未満とする必要がある。そのため、ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径を50μm未満、好ましくは30μm以下とする。一方、前記平均円相当径は、小さければ小さいほどよいため、下限はとくに限定されない。しかし、前記平均円相当径を過度に小さくしようとすると、熱処理に要する時間が増加し、生産性が低下する。そのため、生産性という観点からは、前記平均円相当径を、例えば、20μm以上とすることが好ましい。
MAの面積分率:2〜10%
島状マルテンサイト(MA)の面積分率が2%未満では、前記のような高強度化と超低降伏比化の効果が得られない。そのため、MAの面積分率を2%以上とする。MAの面積分率は4%以上とすることが好ましい。一方、MAの面積分率が10%を超えると、母材の延性および靭性が劣化する。そのため、MAの面積分率は10%以下とする。MAの面積分率は8%以下とすることが好ましい。
MAの平均円相当径が5.0μm以上であると溶接部の靭性が劣化する。そのため、MAの平均円相当径を5.0μm未満とする。一方、MAの平均円相当径の下限は特に限定されないが、0.5μm以上とすることが好ましい。
セメンタイトの面積分率:0.5%超、5%以下
本発明では、靭性を確保するために、後述する自己焼戻し処理により母相としてのベイナイトおよびマルテンサイトの少なくとも一方の組織中にセメンタイトを析出させる。セメンタイトの面積分率が0.5%以下である場合、組織が自己焼戻しを受けていないか不十分であることを意味し、靭性を確保できない。そのため、セメンタイトの面積分率を0.5%超とする。一方、セメンタイトの面積分率が5%超である場合、組織が過度の焼戻しを受けたことを意味する。そのような場合、過度の焼戻しによってMAが分解し、稼働転位が減少しているため、所望の超低降伏比が得られない。そのため、セメンタイトの面積分率を5%以下とする。セメンタイトの面積分率は、3%以下とすることが好ましい。
セメンタイトの平均円相当径が0.5μm以上であると、脆性破壊の起点となりやすく、母材靭性が低下する。そのため、セメンタイトの平均円相当径は0.5μm未満とする。
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の板厚は特に限定されず、任意の厚さとすることができるが、6mm以上とすることが好ましく、12mm以上とすることが好ましい。一方、上限については、100mm以下とすることが好ましい。
(降伏強さ)
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の降伏強さ(YP)は、特に限定されず任意の値とすることができるが、500MPa以上とすることが好ましい。
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の引張強さ(TS)は、特に限定されず任意の値とすることができるが、980MPa超とすることが好ましい。
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の降伏比(YR)は、特に限定されず任意の値とすることができるが、80%未満とすることが好ましい。なお、ここで降伏比とは、引張強さ(TS)に対する降伏強さ(YP)の比をパーセンテージで表した値、すなわち、YP/TS×100(%)を指すものとする。
次に、本発明の一実施形態における超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法について説明する。なお、以下の説明においては、特に断らない限り、温度は板厚中央の温度を指すものとする。板厚中央の温度は、放射温度計で測定した鋼板表面温度から、伝熱計算により求めることができる。また、熱間圧延後の冷却条件における温度条件は、板厚1/4位置における温度とし、冷却速度も板厚1/4位置における温度に基づいて算出された平均冷却速度を意味する。
(1)上述した成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする(熱間圧延工程)。
(2)前記熱間圧延後の前記厚鋼板を900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する(第一再加熱工程)。
(3)前記第一再加熱工程後の前記厚鋼板をAc1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持する(第二再加熱工程)。
(4)前記第二再加熱工程後の厚鋼板を、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sで、200℃以上、ベイナイト変態開始温度未満である加速冷却停止温度まで加速冷却し、次いで空冷する(冷却工程)。
上述した成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする。前記鋼素材の製造方法は、とくに限定されないが、例えば、上記した組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造して製造することができる。前記溶製は、転炉、電気炉、誘導炉等、任意の方法により行うことができる。また、前記鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊−分解圧延法により行うこともできる。前記鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。
前記熱間圧延工程で得られた前記厚鋼板を、900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、次いで、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する。前記第一再加熱工程を行うことにより、オーステナイト粒径が小さくなり、最終的に得られる超低降伏比高張力厚鋼板におけるベイナイトとマルテンサイトの平均粒径を所望のサイズにすることができる。そしてその結果、超低降伏比高張力厚鋼板の強度と靭性を向上させることができる。
焼入れ性を確保し、粗大な上部ベイナイトおよびフェライトの生成を防止するために、上記第一再加熱工程における再加熱温度を900℃以上とする。また、最終的に得られる超低降伏比高張力厚鋼板におけるベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径を50μm未満とするために、前記再加熱温度を1000℃以下とする。前記再加熱温度が1000℃超の場合、オーステナイト粒径が粗大化するため、ベイナイトとマルテンサイトの平均粒径も粗大化し、所望のサイズとすることができない。
厚鋼板を前記再加熱温度まで加熱した後、該再加熱温度に保持する。前記保持における保持時間は、オーステナイト粒径のバラツキを小さくするために、10分以上とする。一方、前記保持時間の上限はとくに限定されないが、過度に長くしても効果が飽和するため、生産性を考慮すると、100分以下とすることが好ましく、60分以下とすることがより好ましい。
上記第一再加熱工程においては、前記保持の後、前記厚鋼板を冷却する。前記冷却における冷却停止温度は、400℃以下とする。上述した再加熱温度への加熱によって生成したオーステナイトを、400℃以下まで冷却することによって低温変態相とし、高強度、低降伏比を実現することができる。前記冷却停止温度は、300℃以下とすることが好ましく、室温とすることがより好ましい。
再加熱温度:Ac1点+80℃以上、Ac3点未満
前記第一再加熱後の厚鋼板を、Ac1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度に加熱することで、熱延鋼板の組織の大部分をベイナイト、およびマルテンサイトから逆変態したオーステナイトの混合組織とする。前記再加熱温度がAc1点+80℃未満では、逆変態オーステナイトの量が少なくなり、最終的に得られる厚鋼板において所望のマルテンサイトとベイナイト量が得られない。また、前記再加熱温度がAc3点以上では、ベイナイトおよびマルテンサイトがすべて逆変態してオーステナイトになるため、やはり最終的に得られる厚鋼板において所望のマルテンサイトとベイナイト量が得られない。
Ac1(℃)=750.8 - 26.6C + 17.6Si - 11.6Mn - 22.9Cu - 23Ni + 24.1Cr + 22.5Mo- 39.7V - 5.7Ti + 232.4Nb - 169.4Al - 894.7B …(1)
Ac3(℃)=937.2 - 436.5C + 56Si - 19.7Mn - 16.3Cu - 26.6Ni - 4.9Cr + 38.1Mo+ 124.8V + 136.3Ti - 19.1Nb + 198.4Al + 3315B …(2)
ただし、上記(1)、(2)式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、当該元素が含有されていない場合は0とする。
前記再加熱温度に保持する保持時間は10分以上とする。保持時間が10分未満では、オーステナイト粒径のバラツキが大きくなるからである。一方、前記保持時間の上限は特に限定されないが、過度に長い時間保持を行うと生産性が低下するため、180分以下とすることが好ましい。
平均冷却速度:1〜200℃/s
前記再加熱工程の後、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sにて加速冷却する。上記加速冷却工程における平均冷却速度が1℃/s未満であると、所望の焼入組織、すなわちベイナイトおよびマルテンサイトが得られず強度が低下する。そのため、前記平均冷却速度は1℃/s以上とする。一方、平均冷却速度が200℃/sより高いと、鋼板内の各位置における温度制御が困難となり、板幅方向や圧延方向に材質のばらつきが出やすくなり、その結果、引張特性などの材質上のばらつきが生じる。そのため、平均冷却速度を200℃/s以下とする。
200℃以上、Bs点未満の温度で加速冷却を停止して空冷することで、未変態のオーステナイトを島状マルテンサイトに変態させ、ベイナイトおよびマルテンサイトを自己焼き戻しさせる。加速冷却停止温度がBs点以上では、粗大な上部ベイナイトが主体の組織となる。また、焼戻し過剰によりセメンタイトが過剰に生成したり、島状マルテンサイトが生成しても大部分が分解したりしてしまうため、所望の強度・靱性・超低降伏比が得られない。一方、加速冷却停止温度が200℃未満では、ベイナイトおよびマルテンサイトに自己焼戻しが生じず、所望の靭性が得られない。なお、Bs点は下記(3)式により求めることができる。
Bs(℃)=830-270C-90Mn-37Ni-70Cr-83Mo …(3)
ただし、上記(3)式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表し、当該元素が含有されていない場合は0とする。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によって鋼素材としての鋼スラブ(厚さ:250mm)とした。なお、上述した(1)式よって求めたAc1変態点(℃)、(2)式によって求めたAc3変態点(℃)、および(3)式によって求めたBs点を表1に併記する。
前記厚鋼板から、板厚1/4位置が観察位置となるように、組織観察用の試験片を採取した。前記試験片を、圧延方向と垂直な断面が観察面となるよう樹脂に埋め、鏡面研磨した。次いで、レペラ腐食を実施した後、倍率1000倍の走査電子顕微鏡で観察して組織の画像を撮影し、島状マルテンサイト組織を同定した。撮影された5視野分の画像を画像解析装置によって解析し、島状マルテンサイト組織の面積分率、平均円相当径を求めた。
前記厚鋼板の板厚中央(板厚1/2位置)から、JIS4号引張試験片を採取した。前記引張試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施して、厚鋼板の降伏強さ(YP)、引張強さ(TS)、降伏比(YR)を評価した。
Claims (6)
- 質量%で、
C :0.08%超、0.20%以下、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.5〜3.0%、
P :0.015%以下、
S :0.0050%以下、
Al:0.005〜0.10%、および
N :0.0015〜0.0065%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、
セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、
ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が70.0%以上、95.0%未満であり、
ベイナイトおよびマルテンサイトの平均円相当径が50μm未満であり、
島状マルテンサイトの面積分率が2〜10%であり、
島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、
セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下であり、かつ
セメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有し、
降伏比が80%未満、引張強さが980MPa超、板厚が6mm以上である超低降伏比高張力厚鋼板。 - 前記成分組成が、質量%で、
Ti:0.004〜0.03%、
Cu:1.0%以下、
Ni:3.0%以下、
Cr:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
B :0.0050%以下、
Nb:0.1%以下、および
V :0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。 - 前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.005%以下、
REM:0.02%以下、および
Mg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1または2に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。 - 超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法であって、
質量%で、
C :0.08%超、0.20%以下、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.5〜3.0%、
P :0.015%以下、
S :0.0050%以下、
Al:0.005〜0.10%、および
N :0.0015〜0.0065%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延後の前記厚鋼板を900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する第一再加熱工程と、
前記第一再加熱工程後の前記厚鋼板をAc1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持する第二再加熱工程と、
前記第二再加熱工程後の前記厚鋼板を、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sで、200℃以上、ベイナイト変態開始温度未満である加速冷却停止温度まで加速冷却し、次いで空冷する冷却工程とを有し、
前記超低降伏比高張力厚鋼板が、
島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、
セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、
ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が70.0%以上、95.0%未満であり、
ベイナイトおよびマルテンサイトの平均円相当径が50μm未満であり、
島状マルテンサイトの面積分率が2〜10%であり、
島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、
セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下であり、かつ
セメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有し、
降伏比が80%未満、引張強さが980MPa超、板厚が6mm以上である、超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。 - 前記成分組成が、質量%で、
Ti:0.004〜0.03%、
Cu:1.0%以下、
Ni:3.0%以下、
Cr:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
B :0.0050%以下、
Nb:0.1%以下、および
V :0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項4に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。 - 前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.005%以下、
REM:0.02%以下、および
Mg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項4または5に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
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