JP5287553B2 - 降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板とその製造方法 - Google Patents

降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板とその製造方法 Download PDF

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本発明は、降伏強度(ここでは、0.2%耐力を降伏強度とする)が885MPa以上である非調質高張力厚鋼板とその製造方法に関するものである。特に、本発明の厚鋼板は、建設機械、産業機械等の溶接構造用鋼材として好適である。
例えば、建設機械分野では、クレーンやコンクリートポンプ車などにおける大型化と排出ガス規制から、更なる軽量化の要請があり、これらのブーム等に使用される鋼材は、HT80(降伏強度685MPa以上)からHT100(降伏強度885MPa以上)へと高張力化する傾向にある。
鋼板の高張力化のためには、焼入れ性向上を目的とした合金元素添加量の増加の対策があるが、このような鋼板ではコストの上昇を抑制することが課題である。また、そのような鋼板では、引張強度だけでなく、降伏強度や低温靭性も確保する場合には、焼入れ後にオフラインでの焼戻し熱処理(調質処理)を行うので、製造工期が1週間程度長くなり生産性が損なわれるという問題もある。
HT100級で焼戻し処理を行う高張力厚鋼板に関する例としては、例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3がある。また、HT100級で熱間圧延後に加速冷却によりベイナイトとマルテンサンサイトの複合組織を得る技術の例としては、例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6がある。
しかしながら、特許文献1〜3の鋼板は、ともに高価なNi、Moを添加し、別工程で焼戻し処理を行うので、コストアップは避けられず、生産性も損なわれる。一方、特許文献4、特許文献5、特許文献6の鋼板は、焼戻し処理を省略しているため生産性には優れているが、特許文献4、6の鋼板はMoまたは更にNiを、特許文献5の鋼板は、NiとMoを必須元素として添加するため、いずれも合金コストが高い。
このように、Ni、Moを必須元素として添加しないようにして合金コストを低くし、かつオフラインでの焼戻し工程を省略した非調質型の鋼板であって、その降伏強度が885MPa以上である高張力厚鋼板およびその製造方法は、これまで見出されていなかった。
特開平8−209290号公報 特開平8−199292号公報 特開平10−265893号公報 特開平9−41074号公報 特開平9−31536号公報 特開2007−314828号公報
そこで、本発明が解決しようとする課題は、降伏強度885MPa以上の高張力厚鋼板を、Ni、Moを共に添加しない合金コストが低い成分系によって、かつ、オフラインでの焼き戻し熱処理(調質熱処理)を省略して、オンラインでの熱処理によるミクロ組織の調整のみで得られるようにして、安価かつ短工期でそのような鋼板を製造できるようにすることである。
上記課題を解決するためには、Ni、Moを添加せず通常の焼入れのままでは低い降伏強度を、オフラインでの焼き戻し熱処理を省略したオンラインの製造プロセスのみで、885MPa以上の降伏強度にまで高める手段が必要となる。
本発明者は、そのような観点から、鋼板の化学成分、製造方法、ミクロ組織について種々検討した。その結果、加速冷却による直接焼入れで、制御圧延による結晶粒微細化や転位強化を引き継いだ上で、常温まで冷却することなく、低温の一定範囲で加速冷却を停止することで、マルテンサイト+下部ベイナイトの混合組織の高い転位密度の組織を得るとともに、その後の低冷却速度の冷却中の自己焼戻し時効(以下、オートエイジングと記す)で、C、N等の侵入型元素の転位への固着を促し、降伏強度を向上させることができることを見出した。
さらに、鋼板の成分を低Si−高Mn化し、侵入型元素の拡散速度を向上させ、短時間での転位への固着を促進することにより、上記オートエイジングの効果を十分発揮させることができることを見出した。
そして、このような手段によって、高価なNi、Moを添加しない、非調質型で降伏強度885MPa以上の高張力厚鋼板が得られることを知見した。
本発明は、以上のような検討に基づいてなされたもので、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1) 質量%で、C:0.08〜0.11%、Si:0.03〜0.20%、Mn:1.85〜2.5%、P:0.012%以下、S:0.005%以下、Nb:0.003〜0.05%、Ti:0.003〜0.030%、B:0.0003〜0.0030%、Al:0.01〜0.1%、N:0.0050%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼からなり、そのミクロ組織がマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織であり、両組織の合計面積率が95%以上であることを特徴とする降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板。
(2) 上記(1)記載の鋼が、更に、質量%で、Cu:0.09〜0.5% 、Cr:0.09〜0.8%、V:0.011〜0.1%、Ca:0.0005〜0.0030%の1種または2種以上を含有することを特徴とする降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板。
(3) 上記(1)または(2)に記載の化学組成からなる鋼片または鋳片を1100〜1250℃で加熱し、950℃以上の温度範囲で累積圧下率を40〜80%とする再結晶圧延の後、累積圧下率を50〜70%とする未再結晶圧延をAr3(℃)〜950℃の範囲で行い、引き続きAr3以上の温度から、700〜400℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となる加速冷却を行い、該加速冷却を200〜400℃で停止し、その後冷却速度20℃/min以下で冷却することを特徴とする(1)または(2)に記載の降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、NiとMoを両方添加しない合金コストの低い成分系で、オフライン焼戻し熱処理工程を省略して生産性を損なうことのない、降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板とその製造方法を提供することが可能であり、大きな産業上の利用可能性を有する発明である。
Si含有量と鋼板の降伏強度の関係を示す図である。 Mn含有量と鋼板の降伏強度の関係を示す図である。
発明者らは、上記課題を解決するための鋼板の化学成分、製造方法、ミクロ組織について種々の検討を重ねた結果、Ni、Moを共に添加しない成分系でも、成分とミクロ組織を特定することにより、非調質型の降伏強度885MPa以上の高張力厚鋼板が得られることを見出した。また、その鋼板の製造方法として、成分と熱間圧延条件や圧延後の冷却条件を特定することにより、非調質型の降伏強度885MPa以上の高張力厚鋼板を好適に製造可能な方法を見出した。
Ni、Moを添加しない成分系の鋼材では、加速冷却による直接焼入れままでは、引張強度は高いものの、高い降伏強度は得られない。
しかし、直接焼入れによる場合でも、制御圧延による結晶粒微細化や転位強化を引き継いだ上で、マルテンサイトと下部ベイナイト混合組織とし、かつ、この混合組織の合計面積率を95%以上にすれば、転位密度が高くなるため、885MPa程度の高い降伏強度を得ることが可能である。
また、水冷などの加速冷却を利用した直接焼入れプロセスによって得られるマルテンサイトと下部ベイナイトが混合した低温変態組織は、焼き入れままの状態では、転位密度は高いが可動転位が多く、そのため高い降伏強度を得ることができない。
しかし、加速冷却によって常温近くまで冷却し続けることなく、加速冷却を低温変態領域で停止し、その後を徐冷すれば、その過程で、C、N等の侵入型元素の転位への固着が促され、オートエイジング(自己焼戻し時効)効果により、降伏強度をさらに向上させて、885MPa以上とすることが可能となる。
さらに、鋼材組成を低Si−高Mn化することによって、これらの侵入型元素の拡散速度を向上させ、短時間での転位への固着を促進し、オートエイジング効果を確実に得ることができるようにする。
図1、2は、SiあるいはMnの含有量(質量%)と降伏強度(0.2%耐力)との関係を表すもので、図1においてはSi以外は、図2においてはMn以外は、それぞれ本発明の規定を満たす鋼を用い、SiあるいはMn量を変化させたものである。
図1、2によれば、Si量が減少するにつれて、また、Mn量が増加するにつれて、降伏強度が増大していることが示されている。
以下に、本発明の各要件の意義及び限定理由について詳細に説明する。
〔A〕鋼板の化学組成(単位:質量%)
まず、鋼板における元素の含有とその含有範囲を規定した理由について説明する。
Cは0.08%未満ではNi、Moを無添加の成分では、非調質型(非調質タイプ)で所望の降伏強度が満足できない。また、0.11%超では、厚鋼板において、歪時効特性、溶接性や母材・溶接部の靭性が低下しやすく、上限を0.11%とした。
Siは脱酸元素であり、添加することにより、酸化物の生成を抑制し、靭性低下を防ぐ作用をする。この作用を十分に発現させるためには、0.03%以上含有させるのが好ましい。しかし、Siは、後述のMnとは逆に、C、N等の侵入型元素の拡散を遅らせるため、0.20%超の含有では、NiとMo無添加の非調質プロセスでは、降伏強度を確保することが困難になる。また、Siが多いと、組織中に島状マルテンサイト(以下MAと記す)が生成し、マルテンサイト、下部ベイナイト以外のミクロ組織が5%超生成して靭性が低下する場合があるので、高靭性も合せて必要な場合には、Siは0.10%以下が更に好ましい。
Mnは、MoとNiをいずれも添加しない本発明鋼板では、焼入れ性を向上し、加速冷却において低温変態組織(マルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織)の生成促進のために重要な元素である。またC、N等の侵入型元素の拡散を早め、オートエイジングにて、これら侵入型元素の転位への固着を促進させ、従来の非調質プロセス厚鋼板では得られなかった885MPa以上の高い降伏強度の確保が可能となる。1.85%未満では、所定のミクロ組織が得ることが困難であり、加速冷却+オートエイジングの組合せでも充分な降伏強度が得られない。2.5%超では、中心偏析が顕著になり、また、母材・溶接部の靭性や溶接性を阻害することがある。
Pは、粒界や下部ベイナイト、マルテンサイトの混合組織のラス境界に濃化し、粒界強度や前記混合組織のラス境界強度を低下させ、NiとMoを添加していない厚鋼板の母材において、溶接性や母材靭性や溶接部靭性を低下させたり、耐遅れ割れ性に悪影響を与えたりしやすい。0.012%超の含有では、前記の悪影響等が顕著に現れるので、Pは0.012%以下が望ましい。
SはMnS等の硫化物を形成し、靭性を低下させたり、耐遅れ割れ性に悪影響したりしやすい。0.005%超の含有では、靭性が低下することがあるので、0.005%以下が望ましい。
Nbは、未再結晶域を高温側に拡大させ、制御圧延による直接焼入れ前の旧オーステナイト粒(γ粒)の細粒化ならびに転位の増殖に効果がある。また、鋼中のNを窒化物として固定し、冷間加工時に導入される転位にNが固着させるのを防ぎ、歪時効による脆化を抑制する。添加量が0.003%未満では、これらの効果が得られない。一方0.05%を超えて添加されると、粗大な炭化物や炭窒化物の形成によって母材靭性や溶接性が低下することがある。
Tiは、圧延前のスラブ加熱段階でNをTiNとして固定し、BNの生成を防止することで焼入れ時にフリーBを粒界偏析させることができる。粒界偏析したBは、粒界からのフェライト変態を抑制し、著しい焼入れ性向上効果を発揮する。また、鋼中のNを窒化物又は炭窒化物として固定し、加工時に導入される転位にNが固着させるのを防ぎ、歪時効による脆化を抑制する。0.003%未満の添加量ではこれらの効果が得がたい。一方、粗大なTiCの生成による靭性劣化抑制や、冷間曲げでの表面割れ防止の観点から、Tiの上限を0.030%とした。
Bは、圧延後の加速冷却でマルテンサイト+下部ベイナイトの混合組織を得るために0.0003%以上必要である。また、0.0030%超の添加は、BN、B炭化物やB炭窒化物を形成し易く、これらがフェライト変態核となり、却って焼入れ性を落としマルテンサイト+下部ベイナイトの混合組織の生成を阻害すため0.0030%以下とした。
Alは溶綱脱酸のために0.01%以上含有させるが、0.1%超含有すると靭性を阻害する粗大なAlNや酸化物(アルミナ等)が生成しやすい。よってAlは、0.01〜0.1%とする。
NはAlNやTiNを形成し、ピンニング効果によりγ粒成長を抑制するため、母材や溶接部の靭性確保に効果があるが、0.0050%超の過剰の含有は逆にBNを形成促進し、焼入れ時のフリーBの粒界偏析を抑制し、焼入れ性を低下させるため、マルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織の生成を妨げる。Nは0.0050%以下とする。
本発明では、前記の基本成分以外に、下記のCu、Cr、V、Caの1種または2種類以上を選択的に含有せしめることができる。
Cuは、靭性を余り損なうことなく強度を向上させるために有効である。0.09%未満では、その効果が小さい。一方、Cuが0.50%超では、本発明厚鋼板のようにNi無添加鋼では、厚鋼板の製造時に熱間脆性による鋼板割れが発生し易い。よってCuの選択的添加は、0.09〜0.50%とする。
Crは焼入れ性を高める元素であり、マルテンサイト+下部ベイナイトの混合組織の生成に寄与するには0.09%以上の添加が好ましい。上限は、溶接性の観点から0.80%以下に制限した。
Vは、焼入れ性向上効果やNb同様に旧γの細粒化効果がある。また、炭化物を形成し、拡散性水素をトラップすることにより耐遅れ割れ性を向上させる。0.011%未満の含有では、その効果が小さく、上限は溶接性の観点から0.1%以下に規制した。
CaはMnS等の介在物の形態制御により、靭性改善効果がある。0.0005%未満では、その効果が小さい。一方、Caは0.0030%超では、厚鋼板の清浄度を悪化させ、靭性低下を招く。Caは、0.0005〜0.0030%とする。
NiとMoは、合金コストアップを避けるために、本発明では積極的に添加しないが、鋼の溶製段階で、他の合金元素原料や耐火物等から混入することがある。Niは0.08%以下、Moは0.04%以下であれば、本発明の無添加と考えて良い。
〔B〕ミクロ組織
マルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織が必要であり、両組織の合計面積率が95%未満の場合には、例えば、フェライトや上部ベイナイト組織やMAや残留γが過度に生成すると、非調質厚鋼板では降伏強度と母材靭性の両立が困難になる。そこで両組織の合計面積率は95%以上とした。
〔C〕鋼板の製造方法
〔C−1〕加熱温度
上記の化学組成を有する鋼片または鋳片を1100〜1250℃で加熱する。加熱温度が1100℃未満では、溶体化が不十分となり焼入れ性が低下し、降伏強度及び母材靭性の確保が困難となる。また、1250℃超では、旧オーステナイト粒が粗大化し、母材靭性を阻害する。
〔C−2〕熱間圧延条件
鋼片または鋳片を上記温度範囲に加熱した後、950℃以上の温度範囲での累積圧下率を40〜80%とする再結晶圧延を行い、引き続いて、Ar3(℃)〜950℃の範囲で累積圧下率を50〜70%とする未再結晶圧延を行う。
再結晶圧延において950℃未満の圧延では、未再結晶域となり、再結晶圧延での再結晶による旧オーステナイトの細粒化効果が得られず、降伏強度と靭性確保に不利となる。また、未再結晶圧延において、950℃超の圧延では、再結晶温度域に入る可能性があり、未再結晶域圧延で得られる高い転移密度や、細粒化したマルテンサイト+下部ベイナイト混合組織が十分には得られず、降伏強度と靭性確保に不利となる場合がある。圧延温度がAr3(℃)未満になると、圧延中に既にフェライトが生成しやすくなり、鋼板でマルテンサイト+下部ベイナイト組織分率95%以上が得られない場合があるためである。
再結晶圧延が950℃以上の温度範囲で行われる場合でも、再結晶圧延の累積圧下率が40〜80%であることが好ましい。再結晶圧延の累積圧下率が40%未満では、再結晶圧延の累積圧下率が少な過ぎて、再結晶を利用した結晶粒の細粒化効果が得られない上にBの粒界偏析によるフェライト生成抑制効果も充分得られ難く、マルテンサイト+下部ベイナイト組織分率が95%未満となり易く、降伏強度と母材靭性が低下することがある。また、再結晶圧延の累積圧下率が80%超では、再結晶圧延の累積圧下率が高すぎるため、未再結晶圧延での累積圧下率が50%未満になり易く、未再結晶圧延による細粒化効果が得られない上にBの粒界偏析によるフェライト生成抑制効果も充分得られず、マルテンサイト+下部ベイナイト組織分率が95%未満となり易く、降伏強度と母材靭性が低下することがある。
更に、未再結晶圧延の累積圧下率は50〜70%であることが好ましい。未再結晶圧延の累積圧下率が50%未満では、粒界にBが偏析し難く、Bによるフェライト生成抑制効果が充分得ら難いので、マルテンサイト+下部ベイナイト組織分率が95%未満となり易く、降伏強度と母材靭性が低下することがある。未再結晶圧延の累積圧下率が70%超では、フェライト変態核を鋼板に過度に導入することになり、B添加鋼であっても、Bの粒界偏析によるフェライト生成抑制効果の利用が困難で、マルテンサイト+下部ベイナイト組織分率が95%未満となり易く、マルテンサイト+下部ベイナイト組織分率が40%未満になることもあり、降伏強度が著しく低下する。
尚、Ar3(℃)は、例えば、次式、
Ar3=868−396×C+24.6 x×Si−68.1×Mn−36.1×Ni−20.7×Cu−24.8×Cr
−29.6×Mo
で求めることが出来る。
但し、式中のC、Si、Mn、Ni、Cu、Cr、Moは、鋼中における各元素の含有量であり、単位は質量%である。
〔C−3〕圧延後の冷却条件
熱間圧延終了後、引き続き、Ar3以上の温度から、700〜400℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となる加速冷却を行い、この加速冷却を200〜400℃で停止し、その後、冷却速度20℃/min以下で冷却する。
未再結晶圧延後の加速冷却の開始温度がAr3点未満の場合には、フェライトが過度に生成するので、加速冷却を行っても、本発明で重要なマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織(両組織の合計面積率が95%以上)とならず、高い降伏強度が得られない。
加速冷却における700〜400℃の冷却速度が10℃/s未満の場合には、上部ベイナイトやフェライト等、マルテンサイトと下部ベイナイトとは異なる組織が多量に生成して、非調質プロセスでは高い降伏強度が得られない。また、加速冷却の停止温度が400℃超でも、上部ベイナイトやフェライト等、マルテンサイトと下部ベイナイトとは異なる組織が多量に生成して、非調質プロセスでは高い降伏強度が得られない。
加速冷却の停止温度が200℃未満、又は、加速冷却停止後の冷却速度が20℃/min超の場合には、前記のオートエイジング効果が十分に得られないので、非調質プロセスでは高い降伏強度が得られない。
加速冷却の冷却速度は、例えば冷却水の水量密度を調整すればよい。また、加速冷却後に前記の冷却速度を得るには、厚鋼板を保温炉に入れたり、厚鋼板を積み重ねて保温カバー内に保持したりすれば良い。
加速冷却停止後の緩い冷却速度は、必ずしも室温まで維持しなくても良い。厚鋼板温度が100〜150℃であれば、鋼板の手入れを行うために、20℃/min超の冷却速度で強制冷却を行っても、本発明から逸脱するものではなく、非調質プロセスにて高い降伏強度が得られる。
以上説明したような本発明により、高価なNi、Moを添加せず、かつオフラインの焼戻し工程を省略したオンラインのみの製造プロセスで、降伏強度885MPa以上の非調質型高張力厚鋼板の製造が可能となる。
なお、一般に、冷間加工後の鋼板では、ひずみ時効によって、鋼板の靭性が低下する現象(歪時効脆化)が生じる。歪時効脆化量の抑制には、脆化の原因となる歪時効による降伏強度の増加を低減する必要がある。そのためには、加工によって新たに導入された転位への進入型元素の固着量の減少が必要であり、低C、低N化が有効であることが知られている。
本発明では、加速冷却+オートエイジング効果によって、高い降伏強度を得ることができるので、低いC量で降伏応力885MPa以上を得ることができ、さらにN量の限定により、歪時効脆化量を低く抑えることが可能である。
本発明は、厚鋼板の板厚が12〜40mmで特に有効である。12mm以下では、加速冷却の開始温度の確保が困難であることや、開始温度が確保できた場合でも、加速冷却停止後の冷却速度が速く、オートエイジング効果を十分に得るために、冷却速度の調整(保温炉等の活用)が必要である。また、40mm超では、直接焼入れ時(前記の加速冷却時)の冷却速度が不足する場合があり、マルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織の合計面積率が95%未満になる可能性があり、高い降伏強度が得られないことがある。
種々の化学成分、製造条件で板厚16mmの鋼板を製造した。表1及び表2(表1のつづき)に、板厚と化学成分を示し、表3及び表4(表3のつづき)に、各鋼板の製造条件、ミクロ組織、降伏強度、母材靭性を示す。尚、NiとMoは無添加であるので表1と表2には記載していないが、鋼板1〜78のNi含有量は0.005〜0.06%、鋼板1〜78のMo含有量は0.005〜0.03%であった。
降伏強度は、JIS Z 2241に記載の引張試験により測定した。引張試験の試験片はJIS Z 2201(試験片の長手方向を圧延と垂直方向にして採取した)に基づき、JIS 5号(全厚試験片)を用いた。降伏強度は、0.2%耐力である。
鋼板の母材靭性は、JIS Z 2242に記載のシャルピー試験により測定した。試験片の長手方向を圧延方向として板厚中心から採取した。試験片は10×10mmのフルサイズ、試験温度は−20℃である。
鋼板のミクロ組織は、ナイタール腐食液で組織を現出し、板厚1/4付近で光学顕微鏡で3視野を観察し、その平均値を表3及び表4に記載した。
Figure 0005287553
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Figure 0005287553
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表1〜4の鋼板1〜47は、本発明の化学成分、ミクロ組織と製造方法に即した発明例であり、非調質鋼板であるが、降伏強度、母材靭性ともに良好な材質特性を満足している。
これに対し、表2、表4の鋼板48〜61は、化学成分は本発明範囲内であるが、製造条件が本発明から逸脱した比較例であり、発明例のように全ての材質特性を満足することは出来ない。
鋼板48は、加熱温度が低く、焼入れ性元素の固溶が不足したため、目的の鋼板組織が得られず降伏強度が低くなっており、鋼板49は、加熱温度が高すぎ、結晶粒が粗大化し、降伏強度と靭性が低下している。
鋼板50は、再結晶圧延終了温度が低く、再結晶を利用した結晶粒の細粒化効果が得られず、降伏強度と靭性が低下している。
鋼板51は、再結晶圧延での累積圧下率が低く、再結晶を利用した結晶粒の細粒化効果が充分得られず、降伏強度と靭性が低下している。
鋼板52は、再結晶圧延での累積圧下率が高すぎるため、未再結晶圧延での累積圧下率が減少し、未再結晶圧延による細粒化効果が得られず、降伏強度と靭性が低下している。
鋼板53は、未再結晶圧延での開始温度が高すぎるため、再結晶域での圧延となっているため、未再結晶圧延を利用した結晶粒の細粒化効果得られず、降伏強度と靭性が低下している。
鋼板54は、未再結晶圧延での終了温度が低すぎるため、変形帯等のフェライト変態核が数多く導入され、水冷開始前にフェライトが生成し、降伏強度が低下している。
鋼板55は、未再結晶圧延での累積圧下率が低く、未再結晶圧延を利用した結晶粒の細粒化効果が充分得られず、降伏強度と靭性が低下している。
鋼板56は、未再結晶圧延での累積圧下率が高すぎるため、過剰なフェライト変態核の導入により、フェライトが生成し、降伏強度が低下している。
鋼板57は、水冷開始温度が低く(Ar3=681℃)、水冷開始前に既にフェライトが生成し、降伏強度が低下している。
鋼板58は、冷却速度が遅く、目標のマルテンサイト+下部ベイナイト(M+Bl)組織が得られず、降伏強度が大幅に低下している。
鋼板59は、冷却速度が遅く、水冷停止温度が低く、降伏強度と靭性が低下しており、鋼板60は、水冷停止温度が高く、目標の組織が得られず、降伏強度が低下している。
鋼板61は、水冷停止後の冷却速度が速く、時効効果が充分得られないため、降伏降伏強度と靭性が低下している。
鋼板62〜78は、化学成分が本発明の成分範囲外であるため、いずれも材質特性を満足しない。
鋼板62は、C量が過少のため、降伏強度が低下しており、鋼板63は、C量が過多のため、靭性が低下している。
鋼板64、65は、Si量が過多のため、降伏強度が不足している。
鋼板66、67は、Mn量が過少のため、降伏強度が不足しており、鋼板68は、Mn量が過多のため、靭性が大幅に低下している。
鋼板69は、Nb量が少な過ぎるため、未再結晶圧延の効果が充分得られず、結晶粒の微細化効果が十分得られず、降伏強度と靭性が低下しており、鋼板70は、Nb量が多いため、靭性が低下している。
鋼板71は、Ti量が少ないため、Nを固定することができず、焼入れ時のフリーBを確保できないため、焼入れ性が低下し、フェライトが多量に生成しM+Bl組織分率が極めて少なく、降伏強度が大幅に低下し、靭性も低下しており、鋼板72は、Ti量が多いため、粗大なTiCが多量に生成し、靭性が著しく低下している。
鋼板73は、B量が少な過ぎ、焼入れ時のフリーBの必要量を確保できないため、焼入れ性が著しく低下し、フェライトが多量に生成しM+Bl組織分率が極めて少なく、降伏強度と靭性が大幅に低下しており、鋼板74は、B量が多いため、Bの炭化物、窒化物や炭化物が生成し、フェライトが生成しM+Bl組織分率が少なく、降伏強度と靭性が低下している。
鋼板75は、Al量が多いため、鋼の清浄度が低下し、靭性が低下している。
鋼板76は、N量が多いため、BNの析出物が生成し、フリーBの必要量を確保できないため、またBNが加速冷却の際にフェライトの生成核となるので焼入れ性が著しく低下し、フェライトが多量に生成しM+Bl組織分率が極めて少なく、降伏強度と靭性が大幅に低下している。
鋼板77はP量が多過ぎるため、鋼板78はS量が多過ぎるため、いずれも靭性が低下している。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.08〜0.11%、
    Si:0.03〜0.20%、
    Mn:1.85〜2.5%、
    P:0.012%以下、
    S:0.005%以下、
    Nb:0.003〜0.05%、
    Ti:0.003〜0.030%、
    B:0.0003〜0.0030%、
    Al:0.01〜0.1%、
    N:0.0050%以下
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼からなり、そのミクロ組織がマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織であり、両組織の合計面積率が95%以上であることを特徴とする降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板。
  2. 請求項1記載の鋼が、更に、質量%で、
    Cu:0.09〜0.5%、
    Cr:0.09〜0.8%、
    V:0.011〜0.1%、
    Ca:0.0005〜0.0030%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の組成からなる鋼片または鋳片を1100〜1250℃で加熱し、950℃以上の温度範囲で累積圧下率を40〜80%とする再結晶圧延の後、累積圧下率を50〜70%とする未再結晶圧延をAr3(℃)〜950℃の範囲で行い、引き続きAr3以上の温度から、700〜400℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となる加速冷却を行い、前記の加速冷却を200〜400℃で停止し、その後冷却速度20℃/min以下で冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の降伏強度885MPa以上の非調質高張力厚鋼板の製造方法。
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