以下、本発明の最良な実施の形態について、図面に示す実施例を基に詳細に説明する。なお、液滴吐出装置としてはインクジェット記録装置10を例に採って説明する。したがって、液体はインク110とし、液滴吐出ヘッドはインクジェット記録ヘッド32として説明をする。また、記録媒体は記録用紙Pとして説明をする。
インクジェット記録装置10は、図1で示すように、記録用紙Pを送り出す用紙供給部12と、記録用紙Pの姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴を吐出して記録用紙Pに画像形成する記録ヘッド部16及び記録ヘッド部16のメンテナンスを行うメンテナンス部18を備える記録部20と、記録部20で画像形成された記録用紙Pを排出する排出部22とから基本的に構成されている。
用紙供給部12は、記録用紙Pが積層されてストックされているストッカー24と、ストッカー24から1枚ずつ取り出してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。レジ調整部14は、ループ形成部28と、記録用紙Pの姿勢を制御するガイド部材29とを有しており、記録用紙Pは、この部分を通過することによって、そのコシを利用してスキューが矯正されるとともに、搬送タイミングが制御されて記録部20に供給される。そして、排出部22は、記録部20で画像が形成された記録用紙Pを、排紙ベルト23を介してトレイ25に収納する。
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録用紙Pが搬送される用紙搬送路27が構成されている(用紙搬送方向を矢印PFで示す)。用紙搬送路27は、スターホイール17と搬送ロール19とを有し、このスターホイール17と搬送ロール19とで記録用紙Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この記録用紙Pに対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され、記録用紙Pに画像が形成される。
メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30に対して対向配置されるメンテナンス装置21を有しており、インクジェット記録ヘッド32に対するキャッピングや、ワイピング、更には、ダミージェットやバキューム等の処理を行う。
図2で示すように、各インクジェット記録ユニット30は、矢印PFで示す用紙搬送方向と直交する方向に配置された支持部材34を備えており、この支持部材34に複数のインクジェット記録ヘッド32が取り付けられている。インクジェット記録ヘッド32には、マトリックス状に複数のノズル56が形成されており、記録用紙Pの幅方向には、インクジェット記録ユニット30全体として一定のピッチでノズル56が並設されている。
そして、用紙搬送路27を連続的に搬送される記録用紙Pに対し、ノズル56からインク滴を吐出することで、記録用紙P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
図3で示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30のノズル56による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される記録用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく、記録用紙Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている。つまり、このインクジェット記録ユニット30は、シングルパス印字が可能なFull Width Array(FWA)となっている。
ここで、印字領域幅とは、記録用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、記録用紙Pが搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあるためと、縁無し印字の要望が高いためである。
以上のような構成のインクジェット記録装置10において、次にインクジェット記録ヘッド32について詳細に説明する。図4はインクジェット記録ヘッド32の構成を示す概略平面図である。すなわち、図4(A)はインクジェット記録ヘッド32の全体構成を示すものであり、図4(B)は1つの素子の構成を示すものである。
また、図5(A)乃至図5(C)は、それぞれ図4(B)の各部をA−A’線、B−B’線、C−C’線の断面にて示すものである。ただし、後述するシリコン基板72及びプール室部材39は省略している。更に、図6はインクジェット記録ヘッド32を部分的に取り出して主要部分が明確になるように示した概略縦断面図である。
このインクジェット記録ヘッド32には、天板部材40が配置されている。本実施形態では、天板部材40を構成するガラス製の天板41は板状で、かつ配線を有しており、インクジェット記録ヘッド32全体の天板となっている。天板部材40には、駆動IC60と、駆動IC60に通電するための金属配線90が設けられている。金属配線90は、樹脂保護膜92で被覆保護されており、インク110による浸食が防止されるようになっている。
また、この駆動IC60の下面には、図7で示すように、複数のバンプ60Bがマトリックス状に所定高さ突設されており、天板41上で、かつプール室部材39よりも外側の金属配線90にフリップチップ実装されるようになっている。したがって、圧電素子46に対する高密度配線と低抵抗化が容易に実現可能であり、これによって、インクジェット記録ヘッド32の小型化が実現可能となっている。なお、駆動IC60の周囲は樹脂材58で封止されている。
天板部材40には、耐インク性を有する材料で構成されたプール室部材39が貼着されており、天板41との間に、所定の形状及び容積を有するインクプール室38が形成されている。プール室部材39には、インクタンク(図示省略)と連通するインク供給ポート36が所定箇所に穿設されており、インク供給ポート36から注入されたインク110は、インクプール室38に貯留される。
天板41には、後述する圧力室115と1対1で対応するインク供給用貫通口112が形成されており、その内部が第1インク供給路114Aとなっている。また、天板41には、後述する上部電極54に対応する位置に、電気接続用貫通口42が形成されている。天板41の金属配線90は電気接続用貫通口42内にまで延長されて、その電気接続用貫通口42の内面を覆い、更に上部電極54に接触している。
これにより、金属配線90と上部電極54とが電気的に接続され、後述する圧電素子基板70の個別配線が不要になっている。なお、電気接続用貫通口42の下部は金属配線90によって閉塞された底部42B(図11−1(B)参照)となっており、電気接続用貫通口42は、上方にのみ開放された以外は閉じた空間となっている。
流路基板としてのシリコン基板72には、インクプール室38から供給されたインク110が充填される圧力室115が形成され、圧力室115と連通するノズル56からインク滴が吐出されるようになっている。そして、インクプール室38と圧力室115とが同一水平面上に存在しないように構成されている。したがって、圧力室115を互いに接近させた状態に配置することが可能であり、ノズル56をマトリックス状に高密度に配設することが可能となっている。
シリコン基板72の下面には、ノズル56が形成されたノズルプレート74が貼着され、シリコン基板72の上面には、圧電素子基板70が形成(作製)される。圧電素子基板70は振動板48を有しており、振動板48の振動によって圧力室115の容積を増減させて圧力波を発生させることで、ノズル56からのインク滴の吐出が可能になっている。したがって、振動板48が圧力室115の1つの面を構成している。
圧電素子46は、圧力室115毎に振動板48の上面に接着されている。振動板48は、Chemical Vapor Deposition(CVD)法で形成されたSiOx膜であり、少なくとも上下方向に弾性を有し、圧電素子46に通電されると(電圧が印加されると)、上下方向に撓み変形する(変位する)構成になっている。なお、振動板48は、Cr等の金属材料であっても差し支えはない。
また、圧電素子46の下面には一方の極性となる下部電極52が配置され、圧電素子46の上面には他方の極性となる上部電極54が配置されている。そして、圧電素子46は、低透水性絶縁膜(SiOx膜)80で被覆保護されている。圧電素子46を被覆保護している低透水性絶縁膜(SiOx膜)80は、水分透過性が低くなる条件で着膜するため、水分が圧電素子46の内部に侵入して信頼性不良となること(PZT膜内の酸素を還元することにより生ずる圧電特性の劣化)を防止できる。
更に、低透水性絶縁膜(SiOx膜)80上には、隔壁樹脂層119が積層されている。図4(B)で示すように、隔壁樹脂層119は、圧電素子基板70と天板部材40との間の空間を区画している。隔壁樹脂層119には、天板41のインク供給用貫通口112と連通するインク供給用貫通口44が形成されており、その内部が第2インク供給路114Bとなっている。
第2インク供給路114Bは、第1インク供給路114Aの断面積よりも小さい断面積を有しており、インク供給路114全体での流路抵抗が所定の値になるように調整されている。つまり、第1インク供給路114Aの断面積は、第2インク供給路114Bの断面積よりも充分に大きくされており、第2インク供給路114Bでの流路抵抗と比べて実質的に無視できる程度とされている。したがって、インクプール室38から圧力室115へのインク供給路114の流路抵抗は、第2インク供給路114Bのみで規定される。
また、このように、隔壁樹脂層119に形成したインク供給用貫通口44によってインク110を供給するようにしたことで、供給途中における圧電素子46領域へのインク漏れが防止されている。なお、隔壁樹脂層119には大気連通孔116が形成されており、インクジェット記録ヘッド32の製造時や画像記録時における天板41と圧電素子基板70の空間の圧力変動を低減している。
また、電気接続用貫通口42に対応する位置にも隔壁樹脂層118が積層されている。図4(B)で示すように、隔壁樹脂層118には、金属配線90が貫通する貫通孔120が形成されており、金属配線90の下端を上部電極54に接触可能としている。なお、図4(B)では、隔壁樹脂層118と隔壁樹脂層119が分離された位置での断面としているが、これらは、実際には部分的に繋がっている。
また、隔壁樹脂層118、119によって、天板部材40と圧電素子46(厳密には、圧電素子46上の低透水性絶縁膜(SiOx膜)80)との間に間隙が構成され、空気層となっている。この空気層により、圧電素子46の駆動や振動板48の振動に影響を与えないようになっている。
そして、電気接続用貫通口42の内部には、金属配線90に接触するようにして、半田86が充填されている。これにより、実質的に金属配線90が補強されて、上部電極54に対する接触状態(電気的な接続状態)が向上されており、例えば、熱ストレスや機械的ストレスなどによって接触状態が低下しそうになった場合でも、半田86によって、その接触状態が良好に維持される。
したがって、駆動IC60からの信号が、天板部材40の金属配線90に通電され、更に金属配線90から上部電極54に通電される。そして、所定のタイミングで圧電素子46に電圧が印加され、振動板48が上下方向に撓み変形することにより、圧力室115内に充填されたインク110が加圧されて、ノズル56からインク滴が吐出する。
なお、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118は、その上面の高さが一定、即ち面一になるように構成されている。したがって、天板41から測った隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118の対向面の高さ(距離)も同一になっている。これにより、天板41が接触する際の接触性が高くなり、シール性も高くなっている。
以上のような構成のインクジェット記録ヘッド32において、次に、その製造工程について、図8乃至図12を基に詳細に説明する。図8で示すように、このインクジェット記録ヘッド32は、流路基板としてのシリコン基板72の上面に圧電素子基板70を作製し、その後、シリコン基板72の下面にノズルプレート74(ノズルフィルム68)を接合(貼着)することによって製造される。
図9−1(A)で示すように、まず、シリコン基板72を用意する。そして、図9−1(B)で示すように、Reactive Ion Etching(RIE)法により、そのシリコン基板72の連通路50となる領域に開口部72Aを形成する。具体的には、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング、RIE法によるエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。
次いで、図9−1(C)で示すように、RIE法により、そのシリコン基板72の圧力室115となる領域に溝部72Bを形成する。具体的には、上記と同様に、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング、RIE法によるエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。これにより、圧力室115と連通路50とからなる多段構造が形成される。
その後、図9−1(D)で示すように、連通路50を構成する開口部72Aと、圧力室115を構成する溝部72Bに、スクリーン印刷法により、ガラスペースト76を充填する(埋め込む)。このガラスペースト76は、熱膨張係数が、1×10−6/℃〜6×10−6/℃であり、軟化点は、550℃〜900℃である。この範囲のガラスペースト76を使用することで、ガラスペースト76にクラックや剥離が発生するのを防止でき、更には、圧電素子46や振動板48となる薄膜に形状歪みが発生するのを防止できる。
そして、ガラスペースト76を充填後、シリコン基板72を、例えば800℃で10分間、加熱処理する。このガラスペースト76の硬化熱処理に使用する温度は、後述する圧電素子46や振動板48の成膜温度(例えば350℃)よりも高い温度である。これにより、振動板48及び圧電素子46の成膜工程において、ガラスペースト76に高温耐性ができる。つまり、少なくともガラスペースト76を硬化熱処理した温度までは、後工程で使用可能となるので、後工程での使用温度の許容範囲が広がる。その後、シリコン基板72の上面(表面)を研磨して余剰ガラスペースト76を除去し、その上面(表面)を平坦化する。これにより、圧力室115及び連通路50となる領域上にも薄膜等を精度よく形成することが可能となる。
次に、図9−2(E)で示すように、シリコン基板72の上面(表面)に、スパッタ法により、ゲルマニウム(Ge)膜78(膜厚1μm)を着膜する。このGe膜78は、後工程でガラスペースト76をフッ化水素(HF)溶液でエッチング除去するときに、後述するSiOx膜82(振動板48)が一緒にエッチングされないように保護するエッチングストッパー層として機能する。なお、このGe膜78は、蒸着やCVD法でも成膜できる。また、エッチングストッパー層としては、シリコン(Si)膜も使用できる。
そして、図9−2(F)で示すように、そのGe膜78の上面に振動板48となる薄膜、例えば、温度350℃、RFpower300W、周波数450KHz、圧力1.5torr、ガスSiH4/N2O=150/4000sccmのプラズマCVD法により、SiOx膜82(膜厚4μm)を成膜する。なお、この場合の振動板48の材料としては、SiNx膜、SiC膜、金属(Cr)膜等であってもよい。
その後、図9−2(G)で示すように、スパッタ法により、例えば厚み0.5μm程度のAu膜62、即ち下部電極52を成膜する。そして、図9−3(H)で示すように、振動板48の上面に積層された下部電極52をパターニングする。具体的には、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング、RIE法によるエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。この下部電極52が接地電位となる。
次に、図9−3(I)で示すように、下部電極52の上面に、圧電素子46の材料であるPZT膜64と、上部電極54となるAu膜66を順にスパッタ法で積層し、図9−3(J)で示すように、圧電素子46(PZT膜64)及び上部電極54(Au膜66)をパターニングする。具体的には、PZT膜スパッタ(膜厚5μm)、Au膜スパッタ(膜厚0.5μm)、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(エッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。下部及び上部の電極材料としては、圧電素子46であるPZT材料との親和性が高く、耐熱性がある、例えばAu、Ir、Ru、Pt等が挙げられる。
その後、図9−4(K)で示すように、振動板48(SiOx膜82)にインク供給路114形成用の孔部48Aをパターニングする。具体的には、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(HFエッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。
次に、図9−4(L)で示すように、上面に露出している下部電極52と上部電極54の上面に低透水性絶縁膜(SiOx膜)80を積層する。そして、パターニングにより、上部電極54と金属配線90を接続するための開口84(コンタクト孔)を形成する。具体的には、CVD法にてダングリングボンド密度が高い低透水性絶縁膜(SiOx膜)80を着膜する、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(HFエッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。なお、ここでは低透水性絶縁膜としてSiOx膜を用いたが、SiNx膜、SiOxNy膜等であってもよい。
次いで、図9−4(M)で示すように、隔壁樹脂層119及び隔壁樹脂層118をパターニングする。具体的には、隔壁樹脂層119、隔壁樹脂層118を構成する感光性樹脂を塗布し、露光・現像することでパターンを形成し、最後にキュアする。このとき、隔壁樹脂層119にインク供給用貫通口44を形成しておく。なお、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118とは、同一膜であるが、設計パターンが異なっている。また、隔壁樹脂層119、隔壁樹脂層118を構成する感光性樹脂は、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系等、耐インク性を有していればよい。
こうして、シリコン基板72(流路基板)の上面に圧電素子基板70が作製され、この圧電素子基板70の上面に、例えばガラス板を支持体とする天板部材40が結合(接合)される。天板部材40の製造においては、図10(A)で示すように、天板部材40自体が支持体となる程度の強度を確保できる厚み(0.3mm〜1.5mm)の天板41を含んでいるので、別途支持体を設ける必要がない。この天板41に、図10(B)で示すように、インク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42を形成する。
具体的には、ホトリソグラフィー法で感光性ドライフィルムのレジストをパターニングし、このレジストをマスクとしてサンドブラスト処理を行って開口を形成した後、そのレジストを酸素プラズマにて剥離する。なお、インク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42は、断面視で内面が下方に向かって次第に接近するようなテーパー状(漏斗状)に形成されている。
このようにしてインク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42が形成された天板41(天板部材40)を、図11−1(A)で示すように、圧電素子基板70に被せて、両者を熱圧着(例えば、350℃、2kg/cm2で20分間)により結合(接合)する。このとき、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118とは面一(同一高さ)になるように構成されているので、天板41が接触する際の接触性が高くなり、高いシール性で接合することができる。
そして、図11−1(B)で示すように、天板41の上面に金属配線90を成膜してパターニングする。具体的には、スパッタ法によるAl膜(厚さ1μm)の着膜、ホトリソグラフィー法によるレジストの形成、H3PO4薬液を用いたAl膜のウェットエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。
なお、電気接続用貫通口42の段差は非常に大きいので、ホトリソグラフィー工程ではレジストのスプレー塗布法と長焦点深度露光法を用いている。このとき、金属配線90の一部が、電気接続用貫通口42の内面から、上部電極54へと達するようにパターニングしておく。これにより、電気接続用貫通口42の底部42Bが金属配線90で閉塞され、電気接続用貫通口42は、上方にのみ開放された以外は閉じた空間となる。
また、金属配線90を電気接続用貫通口42の深部まで厚く成膜したい場合には、スパッタ法よりも段差被覆性の良好なCVD法を採用すればよい。何れにしても、電気接続用貫通口42をテーパー状(漏斗状)に形成することで、開口部が広くなり、薄膜形成時の段差被覆性が改善するので、電気接続用貫通口42内の金属配線90(金属薄膜)を深部まで厚く形成することができる。
そして、このように金属配線90がパターニングされた電気接続用貫通口42内(上記空間内)に、図11−1(C)で示すように、半田86を搭載する。この方法としては、半田ボール86Bを電気接続用貫通口42内に直接搭載する半田ボール法を用いることができる。
なお、半田ボール法以外に、インクジェットの原理を応用した加熱溶融半田吐出供給法を用いてもよい。この方法では、天板41と非接触で、かつ、マスクを用いることなく、半田86を所定の位置に供給することができる。更に、スクリーン印刷法を用いて半田86を供給してもよい。何れの供給方法であっても、電気接続用貫通口42は、断面視で内面が下方に向かって次第に接近するようなテーパー状(漏斗状)に形成されているので、半田86が電気接続用貫通口42の内面に付着しやすい。
次に、図11−2(D)で示すように、半田86をリフロー(例えば、280℃で10分間)し、電気接続用貫通口42の底部42Bにまで行き渡らせる。このとき、電気接続用貫通口42の底部42Bには、溶融した半田86が流れ出る経路がないので、高温の環境下で半田86を充分に溶融させて、電気接続用貫通口42の底部42Bまで確実に充填することができる。
つまり、この段階で、半田86の最下部は、天板41の下面(金属配線90が形成されていない面)よりも下側の電気接続用貫通口42内に位置しており、電気接続用貫通口42内の金属配線90に確実に接触するようになっている。また、この段階で、溶融した半田86が、天板41の上面(厳密には、金属配線90の上面)よりも上方に位置しないように、充填する半田86の量は予め所定量に決められている。
ここで、金属配線90の底部、即ち上部電極54と接触している部位は、金属配線90を構成しているAl膜が薄くなることがあり、隔壁樹脂層119の熱膨張等で機械的ストレスを受けて、金属配線90が断線しているおそれがある。しかし、このような場合でも、底部42Bに充填された半田86が、底部42Bと電気接続用貫通口42内の金属配線90を接続しているので、半田86による導通確保が可能となる。また、溶融した半田86が流れ出ないので、電気接続用貫通口42の近傍部分を半田86が不用意に短絡させてしまうおそれもない。
つまり、半田86が電気接続用貫通口42の上方部まで充填されていなくても、下層部の金属配線90(金属薄膜)が半田86と接触しているため、良好な電気接続を実現できる。なお、電気接続用貫通口42に充填されるものは半田86に限定されるものではなく、溶融金属、金属ペースト、導電性接着剤等でも構わない。これらの材料に求められる抵抗率は、素子に要求される特性に応じて異なって来るため、コストや工程マッチング(耐熱温度等)を考慮して適宜選択すればよい。
次に、図11−2(E)で示すように、金属配線90が形成された面に樹脂保護膜92(例えば、富士フイルムアーチ社製の感光性ポリイミド Durimide7320)を積層してパターニングする。なお、このとき、第1インク供給路114Aを樹脂保護膜92が覆わないようにする。また、この樹脂保護膜92としては、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系等、耐インク性を有していればよい。
次いで、図11−3(F)で示すように、樹脂保護膜92の上面及びインク供給路114内に、耐HF保護用レジスト88を塗布する。そして、図11−3(G)で示すように、シリコン基板72に充填した(埋め込んだ)ガラスペースト76を、HFを含む溶解液によって選択的にエッチング除去する。このとき、SiOx膜82からなる振動板48は、Ge膜78によりHF溶液から保護されるため、エッチングされることはない。つまり、このGe膜78は、上記したように、ガラスペースト76をHF溶液でエッチング除去する際に、SiOx膜82からなる振動板48が一緒にエッチング除去されてしまうのを防止するエッチングストッパー層として機能する。
なお、ここではガラスペースト76の除去に、HFを含んだ液体を用いたが、ガラスペースト76の除去には、HFを含んだガスや蒸気を使用してもよい。エッチング液を狭い入口から供給する場合には、被エッチング材(この場合はガラスペースト76)をエッチングした際に発生する気泡が抜けなかったり、新しいエッチング液との置換ができなかったりするため、エッチングの進行が阻害されることがある。ガスや蒸気を用いると、このような不具合は起きないため、上記のような場合には、ガスや蒸気とした方が好ましい。
その後、図11−4(H)で示すように、Ge膜78の溶解液、例えば60℃に加熱した過酸化水素(H2O2)を圧力室115側から供給して、Ge膜78の一部をエッチングして除去する。この段階で圧力室115及び連通路50が完成する。こうして、Ge膜78をエッチング除去したら、図11−4(I)で示すように、耐HF保護用レジスト88をアセトンによって除去する。なお、圧力室115及び連通路50を形成した部位以外では、Ge膜78が残ったままとなるが、特に問題はない。
そして次に、シリコン基板72の下面にノズルプレート74を貼着する。すなわち、図12−1(A)で示すように、ノズル56となる開口68Aが形成されたノズルフィルム68をシリコン基板72の下面に貼り付ける。その後、図12−1(B)で示すように、金属配線90に駆動IC60をフリップチップ実装する。このとき、駆動IC60は、予め半導体ウエハプロセスの終りに実施されるグラインド工程にて、所定の厚さ(70μm〜300μm)に加工されている。
そして、駆動IC60の周囲を樹脂材58で封止し、駆動IC60を水分等の外部環境から保護できるようにする。これにより、後工程でのダメージ、例えば、できあがった圧電素子基板70をダイシングによってインクジェット記録ヘッド32に分割する際の水や研削片によるダメージを回避することができる。そして、図12−2(C)で示すように、駆動IC60にフレキシブルプリント基板(FPC)100を接続する。なお、駆動IC60に対するFPC100の接続態様については後述する。
そして更に、図12−2(D)で示すように、駆動IC60よりも内側の天板部材40(天板41)の上面にプール室部材39を装着して、これらの間にインクプール室38を構成する。これにより、インクジェット記録ヘッド32が完成し、図12−3(E)で示すように、インクプール室38や圧力室115内にインク110が充填可能とされる。
さて、次に駆動IC60とFPC100との電気接続手段の第1実施例について説明する。図13、図14で示すように、ヘッド本体である圧電素子基板70に形成された金属配線90に、駆動IC60が、出力端子である電気接続パッド102によって、個別に接続されている。そして、その対向側(外方側)では、入力端子である電気接続パッド104(接続部)によって、駆動IC60とFPC100の一端部とが接続されている。FPC100の他端部は、電気接続パッド106により、PWB108と接続されている。
ここで、電気接続パッド104、106の数は、圧電素子基板70に接続する電気接続パッド102の数に比べて少ないため、電気接続パッド104、106や個別配線96のピッチを大きく採ることができる。したがって、FPC100は低密度で安価なものが使用可能となり、インクジェット記録ヘッド32における製造コストの低コスト化が図れる。また、このFPC100よりも更に安価なFFC(フレキシブルフラットケーブル)が使用可能となる場合もある。また、駆動IC60と圧電素子基板70の基材の熱膨張係数が同一とされているため、その基材の経時的な変動に駆動IC60が追従できる。したがって、駆動IC60が破損するような不具合の発生を防止することができる。
また、図14(A)で示すように、FPC100の電気接続パッド104(接続部)は、駆動IC60と圧電素子基板70の間に配置されている(上下から挟まれた状態になるように配置されている)。そして、駆動IC60の端部は、平面視で圧電素子基板70から外方側へ突出しない構成とされている。したがって、FPC100の電気接続パッド104(接続部)を含む取付代Dの分だけ、インクジェット記録ヘッド32の横方向の大きさを縮小でき、インクジェット記録ヘッド32の小型化を実現することができる。
なお、このとき、図14(B)で示すように、圧電素子基板70の端部(電気接続パッド104側)に、少なくともFPC100の厚さ分とされた段差部70Aを形成すれば、FPC100の厚さが、駆動IC60と圧電素子基板70の電気接続パッド104の高さよりも厚い場合でも、このFPC100を駆動IC60と圧電素子基板70の間に挟み込むことができる。また、このように、駆動IC60と圧電素子基板70の間に電気接続パッド104(接続部)を配置する構成にすると、電気接続パッド104(接続部)が駆動IC60と圧電素子基板70とによって保護されるので好ましい。
以上のようにして製造されるインクジェット記録ヘッド32を備えたインクジェット記録装置10において、次に、その作用を説明する。まず、インクジェット記録装置10に印刷を指令する電気信号が送られると、ストッカー24から記録用紙Pが1枚ピックアップされ、搬送装置26により搬送される。
一方、インクジェット記録ユニット30では、すでにインクタンクからインク供給ポートを介してインクジェット記録ヘッド32のインクプール室38にインク110が注入(充填)され、インクプール室38に充填されたインク110は、インク供給路114を経て圧力室115へ供給(充填)されている。そして、このとき、ノズル56の先端(吐出口)では、インク110の表面が圧力室115側に僅かに凹んだメニスカスが形成されている。
そして、記録用紙Pを搬送しながら、複数のノズル56から選択的にインク滴を吐出することにより、記録用紙Pに、画像データに基づく画像の一部を記録する。すなわち、駆動IC60により、所定のタイミングで、所定の圧電素子46に電圧を印加し、振動板48を上下方向に撓み変形させて(面外振動させて)、圧力室115内のインク110を加圧し、所定のノズル56からインク滴として吐出させる。こうして、記録用紙Pに、画像データに基づく画像が完全に記録されたら、排紙ベルト23により記録用紙Pをトレイ25に排出する。これにより、記録用紙Pへの印刷処理(画像記録)が完了する。
ここで、このインクジェット記録ヘッド32は、インクプール室38と圧力室115の間に振動板48(圧電素子46)が配置され、インクプール室38と圧力室115が同一水平面上に存在しないように構成されている。したがって、圧力室115が互いに近接配置され、ノズル56が高密度に配設されている。
また、圧電素子46に電圧を印加する駆動IC60は、圧電素子基板70よりも外方側へ突出しない構成とされている(インクジェット記録ヘッド32内に内蔵されている)。したがって、インクジェット記録ヘッド32の外部に駆動IC60を実装する場合に比べて、圧電素子46と駆動IC60の間を接続する金属配線90の長さが短くて済み、これによって、駆動IC60から圧電素子46までの低抵抗化が実現されている。
つまり、実用的な配線抵抗値で、ノズル56の高密度化、即ちノズル56の高密度なマトリックス状配設が実現されており、これによって、高解像度化が実現可能になっている。しかも、その駆動IC60は、天板41上にフリップチップ実装されているので、高密度の配線接続が容易にでき、更には駆動IC60の高さの低減も図れる(薄くできる)。したがって、インクジェット記録ヘッド32の小型化も実現される。
特に、圧電素子基板70の端部(電気接続パッド104側)に、少なくともFPC100の厚さ分とされた段差部70Aを形成すれば、FPC100の厚さが、駆動IC60と圧電素子基板70の電気接続パッド104の高さよりも厚い場合でも、このFPC100を駆動ICと圧電素子基板70の間に挟み込むことができる。また、FPC100の電気接続パッド104(接続部)が、駆動IC60と圧電素子基板70の間に配置されているため、その電気接続パッド104(接続部)を含む取付代Dの分だけ、インクジェット記録ヘッド32の横方向の大きさを縮小することができる。また、このような構成にすると、電気接続パッド104(接続部)が駆動IC60と圧電素子基板70とによって保護される効果もある。
更に、天板41の金属配線90が、樹脂保護膜92によって被覆されているので、インク110による金属配線90の腐食を防止することができる。また、駆動IC60と上部電極54とは、天板41に形成された電気接続用貫通口42内の金属配線90で接続されるが、更に電気接続用貫通口42内には半田86が充填されており、底部42B(図11−2(B)参照)が補強されている。
このため、底部42Bへ熱ストレスや機械的ストレスが作用した場合でも金属配線90と上部電極54との接触状態を確実に維持できる。また、万が一、金属配線90が断線した場合であっても、半田86によって導通状態を確保できる。また、天板41の裏面(下面)に、配線やバンプを形成することなく、天板部材40を圧電素子基板70と電気的に接続できる。すなわち、天板41に対して片面(上面)のみに加工を施せばよいので、製造が容易になる。
しかも、例えばバンプ等によって金属配線90と上部電極54とを電気的に接続する場合には、バンプの高さに大きなばらつきがあると接合が困難になることがあるが、本実施形態では、半田86の量にばらつきがあっても、過分の半田86は電気接続用貫通口42内に収容されているので、天板部材40と圧電素子基板70とを好適に接合できる。つまり、半田86の量のばらつきに対して、マージンを大きくとれるので、この点においても製造が容易になっている。
また、金属配線90と上部電極54との接続部分では、実質的に、金属配線90と、上部電極54と、半田86のみが存在しており、これらは高温耐性がある。このため、加工方法や材料選択の自由度が高くなる。また、圧電素子基板70が、シリコン基板72(流路基板)上で製造される。つまり、シリコン基板72が圧電素子基板70の支持体となって形成される(圧電素子基板70をシリコン基板72で支持した状態で作製できる)ので、インクジェット記録ヘッド32を製造しやすい。また、製造された(完成した)インクジェット記録ヘッド32は、天板41によっても支持されるので(天板41が支持体になるので)、その剛性は充分に確保される。
次に、駆動IC60とFPC100との電気接続手段の第2実施例について説明する。なお、上記第1実施例と同等のものには、同じ符号を付して詳細な説明(作用も含む)を省略する。図15、図16に本発明に係るインクジェット記録ヘッド32の第2実施例が示されている。この第2実施例のインクジェット記録ヘッド32は、第1実施例のインクジェット記録ヘッド32の電気接続パッド104(接続部)側において、駆動IC60と圧電素子基板70とを支持部材としてのダミーバンプ98で接続している。そのため、FPC100の電気接続パッド104の間には、複数個(図示のものは3個)のダミーバンプ98を挿通させるための複数個(図示のものは3個)の貫通孔100Aが穿設されている。
これによれば、上記第1実施例と同等の作用効果を奏するとともに、駆動IC60の圧電素子基板70に対する接合強度を向上させることができ、駆動IC60におけるバンプ配置の偏りを防止することができる。なお、このときも、図16(B)で示すように、圧電素子基板70の端部(電気接続パッド104側)に、少なくともFPC100の厚さ分とされた段差部70Aを形成すれば、インクジェット記録ヘッド32の高さ方向の大きさを縮小できるため、インクジェット記録ヘッド32の更なる小型化を実現することができる。また、駆動IC60と圧電素子基板70の間に電気接続パッド104(接続部)が配置されるので、電気接続パッド104(接続部)が駆動IC60と圧電素子基板70とによって保護される効果もある。
最後に、駆動IC60とFPC100との電気接続手段の第3実施例について説明する。なお、上記第1実施例と同等のものには、同じ符号を付して詳細な説明(作用も含む)を省略する。図17、図18には本発明に係るインクジェット記録ヘッド32の第3実施例が示されている。この第3実施例のインクジェット記録ヘッド32は、ヘッド本体である圧電素子基板70の横方向のサイズを小さくして、駆動IC60の端部(電気接続パッド104側)を、平面視で圧電素子基板70から外方側へ突出させる構成にしている。
この場合、駆動IC60のFPC100との接続部である電気接続パッド104が圧電素子基板70から外方側へはみ出ることになるが、圧電素子基板70に対する実装面積を、図13乃至図16で示すインクジェット記録ヘッド32の場合に比べて低減できるので、製造コストの削減効果が、それらよりも大きくなる。また、駆動IC60とFPC100との接続部である電気接続パッド104と、駆動IC60と圧電素子基板70との接続部である電気接続パッド102とが、同一平面上に配置されている(図18参照)ので、製造が容易となる。
以上、何れにしても、本発明によれば、圧電素子基板70(ヘッド本体)上の駆動IC60の実装面積を小さくできるとともに、高密度FPCを使用しなくてもよくなる。したがって、付加部品や工程を最小限に抑えることができ、従来よりも製造コストの低コスト化を図ることができるとともに、インクジェット記録ヘッド32の小型化を図ることができる。また、駆動IC60と圧電素子基板70における基材の熱膨張係数が同一であるため、圧電素子基板70の基材が経時的に変動しても、駆動IC60がそれに追従することができる。したがって、駆動IC60が破損するような不具合の発生を防止することができる。
なお、本発明に係る液滴吐出ヘッドとして、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッド32を挙げ、液滴吐出装置としても、インクジェット記録ヘッド32を備えたインクジェット記録装置10を挙げたが、本発明に係る液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置は、記録用紙P上への画像(文字を含む)の記録に限定されるものではない。
すなわち、上記実施形態のインクジェット記録装置10では各色のインクジェット記録ユニット30のインクジェット記録ヘッド32から画像データに基づいて選択的にインク滴が吐出されてフルカラーの画像が記録用紙Pに記録されるようになっているが、記録媒体は記録用紙Pに限定されるものでなく、また、吐出する液体もインク110に限定されるものではない。
例えば、高分子フィルムやガラス上にインク110を吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴噴射装置全般に対して、本発明に係るインクジェット記録ヘッド32を適用することができる。更に、上記実施形態のインクジェット記録装置10では、FWAを例に挙げたが、主走査機構と副走査機構を有するPartial Width Array(PWA)に本発明を適用してもよい。