JP2007186742A - 被覆部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基材表面に硼素、窒素、酸素からなる化合物皮膜を被覆した部材であり、該化合物皮膜は、非晶質窒化硼素内に結晶質窒化硼素が分散した組織構造を有し、硼素と酸素との結合を有し、且つ、該化合物皮膜の断面における結晶質窒化硼素の粒子の面積を、円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合、10nm未満であり、を特徴とする被覆部材である。
【選択図】図2
Description
本願発明の被覆部材は、硼素、窒素、酸素からなる化合物皮膜を被覆した部材である。従って、例えば、残部が不可避的に混入した炭素、ナトリウム、カルシウム、タングステン等を含む場合もある。更に、化合物皮膜は非晶質窒化硼素内に結晶質窒化硼素が分散した組織構造を有する。言い換えると、マトリックス相としての非晶質窒化硼素が分散相の結晶質窒化硼素を取り囲む組織構造で構成することが本願発明の重要な改善点である。これらの組織構造から構成される場合、高硬度を有しながら、残留圧縮応力を低減させる効果を有する。これは非晶質窒化硼素が転移の進展を抑制し、その結果として残留圧縮応力を緩和するためである。また、硼素と酸素との結合を有することにより残留圧縮応力を緩和して耐剥離性を改善させる。この構成により、摩耗環境下において、窒化硼素の特性を十分に発揮しながら、同時に耐剥離性を改善することができる。ここで、化合物皮膜が非晶質窒化硼素内に結晶質窒化硼素が分散した組織構造を有する状態とは、化合物皮膜の断面組織において、結晶質窒化硼素が占有する領域の総面積をP、非晶質窒化硼素が占有する領域の総面積をQとしたとき、P<Q、を満足する状態であると言うことが出来る。この組織構造を確認するためには、皮膜断面を透過電子顕微鏡によって観察することが有効である。
本願発明の被覆部材は、結晶質窒化硼素の粒子の等価円直径が10nm未満を満足する場合、特に被覆部材の耐摩耗性改善に有効である。非晶質窒化硼素内に分散した結晶質窒化硼素の粒子の等価円直径が10nmを超える場合、結晶質窒化硼素内の残留圧縮応力が十分緩和されない場合がある。そのため耐剥離性が低下する傾向にあり不都合である。
本願発明の化合物皮膜における結晶質窒化硼素の結晶構造が、六方晶(以下、hcpと言う。)及び/又は面心立方晶(以下、fccと言う。)である場合、特に耐摩耗性の改善に有効である。結晶質窒化硼素の結晶構造がhcpの場合、潤滑性改善に有効である。また、fccの場合、耐摩耗に有効であり被覆部材の寿命が向上する。hcpとfccとが共存する場合は、これらの中間的特性を示す。特に結晶質窒化硼素の結晶構造のうち、fccよりもhcpの占める割合が高い場合、被覆部材の潤滑性改善、耐摩耗性改善に有効である。より具体的な窒化硼素内の結晶質窒化硼素の比率は、hcpが60%以上、97%以下、残部がfccから構成される場合が最適な比率である。
本願発明の化合物皮膜の窒化硼素内に硼素が酸化物として、質量%で、0.3%以上、10%未満存在する場合、特に残留圧縮応力の緩和に有効であり耐剥離性を改善することができるため、好ましい。一方、硼素の酸化物が0.3%未満の場合、酸素が残留圧縮応力低減に有効な作用がない。また、10%以上存在する場合には、化合物皮膜の強度が低下する傾向にあり好ましくない。硼素の結合状態を確認する方法は、X線光電子分光分析が有効である。
本願発明の化合物皮膜の窒化硼素内に硼素が単体として、質量%で、1%以上、25%未満存在することも窒化硼素層の残留圧縮応力の低減に有効である。一方、硼素の単体が1%未満の場合、残留圧縮応力低減に有効に作用しない場合が確認される。また、25%以上存在する場合には、皮膜の強度が低下する傾向にあり好ましくない。
本願発明の被覆部材は、基材と化合物皮膜との中間にA層を有し、該A層は周期律表4a、5a、6a族元素、Al、Siから選ばれる1種以上の元素の窒化物、酸化物、硼化物、硫化物、炭化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物からなる場合、好ましい。A層は基材と化合物皮膜との密着性を改善すること、化合物皮膜の特性を補完することができる。例えば、耐熱性に優れた層をA層に採用することにより、耐熱性と本発明の化合物皮膜の両特性を満足する皮膜特性が得られる。またA層は必ずしも上記元素から選択される1層である必要も無く、組成が異なる複数の層を積層することも可能であり耐摩耗性を改善することが可能であり好ましい。特に好ましいA層は、例えば(AlTi)N、(AlTiSi)N、(TiSi)N、(AlCr)N、(AlCrSi)N等が挙げられる。更に、化合物皮膜とA層とを交互に2層以上、5000層未満の範囲で積層することも耐摩耗性、耐剥離性改善の観点から好ましい。各層の層厚としては、2nm以上、2μm未満の範囲において積層効果が確認される。5000層を超えると耐剥離性が低下する傾向にあるため、不都合である。
本発明例1の窒化硼素を主体とした化合物皮膜の組織構造を明確にするため、PHI社製Quantum2000型の走査型X線光電子分光装置により、構成元素の定性及び硼素の結合状態について解析を実施した。測定条件は、X線源をAl−Kα(モノクロ)を用い、分析領域を直径100μm、電子中和銃を使用した。これらの条件で測定したワイドスペクトルを図3に示す。図3より、本発明例1の窒化硼素を主体とした化合物皮膜内には、硼素、窒素、酸素を含んでいることがわかる。その他、不可避的に混入した元素を含んでいる。図4にB元素の1s軌道に帰属したスペクトルを示す。図5にこのスペクトルを分離したものを示す。図5より、本発明例1の窒化硼素を主体とした化合物皮膜内の硼素は、窒素、酸素との結合、メタリックな硼素同士の結合が存在し、それぞれの面積比は、窒素が約69%、酸素が約3%、メタリックな硼素が約28%存在していることがわかる。
(切削条件)
切削方法:高速仕上げ加工
被削材:SUS304
切り込み:軸方向、1.0mm、径方向、0.5mm
主軸回転数:18kmin−1
テーブル送り:4m/min
切削油:無し、ドライ切削
比較例18は、非晶質窒化硼素をマトリックス相とし、hcp窒化硼素が分散した組織構造であり、分散したhcp窒化硼素の粒子の等価円直径が10nm以上の場合を示す。これより、10nm未満の構造が必要であることがわかった。比較例19は、非晶質相を含まない組織構造とした。比較例19は、窒化硼素皮膜が剥離することにより、窒化硼素そのものの耐摩耗効果が殆ど確認できなかった。
Claims (5)
- 基材表面に硼素、窒素、酸素からなる化合物皮膜を被覆した部材であり、該化合物皮膜は、非晶質窒化硼素内に結晶質窒化硼素が分散した組織構造を有し、硼素と酸素との結合を有し、且つ、該化合物皮膜の断面における結晶質窒化硼素の粒子の面積を、円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合、10nm未満であり、を特徴とする被覆部材。
- 請求項1記載の被覆部材において、該化合物皮膜の硼素が酸化物として存在し、質量%で0.3%以上、10%未満であることを特徴とする被覆部材。
- 請求項1又は2記載の被覆部材において、該化合物皮膜の硼素が単体として存在し、質量%で1%以上、25%未満であることを特徴とする被覆部材。
- 請求項1乃至3何れかに記載の被覆部材において、該基材と該化合物皮膜との中間にA層を有し、該A層は周期律表4a、5a、6a族元素、Al、Siから選ばれる1種以上の元素の窒化物、酸化物、硼化物、硫化物、炭化物の何れか、又はそれらの固溶体又は混合物からなることを特徴とする被覆部材。
- 請求項4記載の被覆部材において、該化合物皮膜と該A層とを2層以上、5000層未満の範囲で交互に積層したことを特徴とする被覆部材。
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