JP2007180374A - NdFeB系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

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【課題】モールドを損傷させずに多数回使用することができるNdFeB系焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】レーザー法で測定された粒径の中央値が3μm以下であるNdFeB系焼結磁石の合金粉末を用い、かつ、合金粉末中に含まれる酸素含有量を2000ppm以下にし、さらに合金粉末をモールドに充填して磁界配向した後焼結するときの焼結温度を900℃〜1000℃以下にする。これにより、従来よりも低い温度で合金粉末を焼結させることができ、モールドの損傷を防ぐことができる。

Description

この発明は、NdFeB系焼結磁石の製造方法に関し、特に、NdFeB系焼結磁石用合金粉末(以下これを合金粉末という)を、製品の形状と寸法に対応して設計された容器(以下これをモールドという)に充填し、この合金粉末に磁界を印加して粉末の結晶方向をそろえ、合金粉末を入れたまま容器ごと加熱、焼結して所望の形状のNdFeB系焼結磁石を得る方法に関するものである。以下、この方法をプレスなし工程と呼ぶ。
従来のプレスなし工程では、平均粒度2〜5μmの合金粉末を、充填密度が2.7g/cm3〜3.5g/cm3になるようにモールドに充填し、モールド上面にふたを載置して、粉末に磁界を印加して配向し、その後焼結して焼結体をモールドから取出して、時効処理するものであった。その内容は特許文献1に示されている。ここで、合金粉末の粒度の測定方法は特許文献1には記載されていないが、当該文献に係る特許出願当時(1993年)に一般的に用いられていたFisher法によるものと考えられる。
特開平7-153612号公報
本発明者はプレスなし工程の技術を実施する過程で、この技術の重大な問題に気づいた。それは、モールドを精密な加工がしやすいステンレスなどのありふれた金属材料で作ると、モールドが何回も繰返して使えないということである。焼結工程においてモールドが変形したり、合金粉末との溶着によりモールド内面に大きい凹凸ができて使用不能になってしまう。モリブデンやタングステンなどの耐熱金属でモールドを作ると高価で、しかも焼結中の温度上昇によって脆くなってしまうのでやはり多数回の使用はできない。プレスなし工程の技術はNdFeB焼結磁石の量産工程としてあまり使われていない。それはこのモールドの寿命が短いことが一因であった。一方、耐熱性の点ではセラミックを用いることも考えられるが、セラミックは精密な成形が困難であり、且つ機械的に脆いため、モールドの材料としては不適当である。
本発明の課題は、この技術において、ステンレスなど、加工しやすい金属で作製したモールドを多数回使用できる、NdFeB焼結磁石の製造方法を提供することである。
上述したモールドの変形やモールド内面の損傷は、焼結温度が高すぎることに起因する。特許文献1の実施例には焼結温度は1100℃と記載されている。ステンレスなどの鉄系合金で作られたモールドを1100℃もの高温に加熱すると変形したり、合金粉末と溶着したりするのは避けられない。NdFeB焼結磁石が生まれてから最近まで、焼結温度は一般に1100℃付近であった。最近、合金原料としてストリップキャスト合金が使われるようになってNdFeB焼結磁石の焼結温度は下がる傾向にあり、1050℃〜1070℃付近が一般的になりつつある。しかし、プレスなし工程の技術において金属系モールドを使用するとき、焼結温度は、1050℃でも、モールドの変形や損傷の程度はあまり改善されない。プレスなし工程において、金属製モールドの寿命を伸ばすためには、焼結温度は1000℃以下であることが必要である。
本発明者は合金粉末の粒径を十分小さくして、粉末中の酸素含有量を十分低くすることにより、焼結温度を大きく低下させることができることを見い出し、プレスなし工程に適用した。プレスなし工程により合金組成、粉末粒径、含有酸素量が異なる多種類の合金粉末について、焼結温度を変化させて、NdFeB焼結磁石を作製して、焼結磁石の密度、磁気特性およびモールドと焼結体の溶着の程度、モールドの変形度合を調べた。その結果、レーザー式粒度分布測定器で測定した粒度分布曲線の中央値(D50)で評価した合金粉末の粒度が3μm以下であって酸素含有量が2000ppm以下のとき、焼結温度を1000℃以下にできることを見出した。即ち、この粒度及び酸素含有量を満たせば、焼結温度が900〜1000℃という従来よりも低い温度であっても、焼結密度を7.45g/cm3以上、保磁力HcJを(希土類として主としてNdだけを含む合金組成においても)12kOe以上にすることができ、かつモールドの寿命を大幅に伸ばすことができることを見い出して、本発明を完成した。
ここで合金粉末の酸素含有量は、合金粉末を高温に加熱することにより放出されるガスを、赤外線分光により定量分析することにより測定することができる。この測定は、例えばLECO社の酸素量定量分析装置により行うことができる。
上述した製造条件において、粉末中の酸素量が2000ppm以下でも、粉末の粒径D50を3μm以上にすると、焼結温度を1000℃以下に下げることはできない。焼結温度を1000℃以下に下げると焼結体の密度を7.45g/cm3以上に上げることができず、磁気特性も高くすることができない。また、粉末のD50が3μm以下でも粉末中の酸素量が2000ppm以上では、やはり焼結後の焼結体密度を7.45g/cm3以上にできず、磁気特性を高くすることもできない。
ところで特許文献1には粉末粒度として2μmから5μmの範囲が記載され、実施例の中では粒度3μmの粉末の使用が記載されている。特許文献1に係る出願の当時には信頼できるレーザー式粒度分布測定器が存在しなかったので、Fisher法と呼ばれる空気透過式粒度測定器によって粉末の粒径を評価していた。NdFeB焼結磁石用合金粉末の場合、Fisher法で測定した粒度が2μmの粉末は、レーザー式粒度分布計で測定したときのD50が3μm程度である粉末であると推定される。特許文献1において、粒度3μmの粉末をプレスなし工程によって焼結する実施例が示されているが、このときの焼結温度は1100℃とされている。これは、この実施例における粉末の粒度測定がFisher法で測定されたものであることを示している。なぜなら、Fisher法で粒度3μmと評価された粉末の最適焼結温度は1100℃程度であるからである。それに対して、レーザー式粒度分布計で測定したときの粒度D50が3μmの粉末を1100℃で焼結すると極端な過焼結状態になってしまうことは実験的に容易に証明することができる。過焼結状態とは、焼結体中に平均粒径の50倍から100倍にも達する巨大結晶粒が出現する(異常粒成長という)状態をいう。このような組織を持つNdFeB焼結磁石は、保磁力も磁化曲線の角型性も極端に低く、工業材料としての価値は全くないといってもよい。特許文献1の実施例において、粒度3μmの粉末を1100℃で焼結して作製した焼結磁石が高い磁気特性を示していることからも、特許文献1に記載の3μmという値はFisher法によって評価されたものであることは明らかである。
なお、モールド材料としてステンレスやパーマロイなどFe-Ni合金の他に、耐熱性を改良した各種鉄系、ニッケル系あるいはコバルト系合金がある。これらの耐熱合金によってモールドを作ると、1000℃以上の焼結において、熱変形はステンレスの場合よりも改善される。しかし、実験によると、合金粉末との溶着については全く改善が見られなかった。そのため、モールドの寿命の観点からは、これらの耐熱合金によってモールドを作っても、焼結温度を1000℃以下にすることがプレスなし工程の工業化のための必須の条件である。
本発明により、NdFeB焼結磁石のプレスなし工程において焼結温度を1000℃以下にすることができるようになり、従来のプレスなし工程におけるモールドの寿命が短いという問題、および焼結時にモールドと合金粉末が溶着してモールドが破損するという問題が解決された。これにより、プレスなし工程が工業的に利用できるものになった。
重量比で31.5%Nd、1%B、0.2%Al、0.1%Cu残部Feの合金をストリップキャスト法で作製し、水素解砕とジェットミルにより、レーザー式粒度分布測定器(SYMPATECH社製)で測定した粒径の中央値D50が2.0μm、2.9μm、5μmの3種類の合金粉末を作製した。これらの粉末に回転羽根の付いた混合撹拌機で、羽根の回転速度を500rpmとして、潤滑剤カプロン酸メチルを0.5%添加して混合した。合金粉末の酸素量を測定したところ、D50=2.0μmの粉末では1600ppm、D50=2.9μmの粉末では1300ppm、D50=5μmの粉末では980ppmであった。
合金粉末を充填するモールドとして、深絞りで作製したステンレス容器を使用した。このステンレス容器は、携帯電話の電池ケースとして作製されたもので、およそ、深さ47.7mm、縦7mm、横33mmの直方体キャビティーをもち、厚さ0.3mmの非磁性ステンレス製である。この容器内面に次のようにしてコーティングを施した。まず融点が50℃のロウと平均粒径5μmのBN粉末を重量比で60:40に混合し、この混合物2.5gを直径0.5mmのジルコニアボール1kgに添加した。このジルコニアボールをインパクトメディアと呼ぶ。インパクトメディアにロウとBNを添加した混合体を500ccのビーカに入れて80℃に加熱し、ビーカを揺動させて混合体を撹拌した。その後、この混合体を上記ステンレスモールドに入れて、このモールドを3分間揺動させた後、モールドから混合体を出してモールド内面に粉体とロウの混合物の膜を形成した。このようにしてコーティングされたモールドに前記合金粉末を充填密度が3.7g/cm3になるように充填し、モールドの縦方向(直方体の一番短い辺に平行な方向)に磁界を印加して合金粉末を配向した後、モールドごと加熱することにより、合金粉末の焼結体を作製した。なお、本実施例では、合金粉末を取扱う工程を全て高純度のAr中で行うと共に、焼結を高真空中で行うことにより、合金粉末の酸化を極力防止した。
D50が異なる前記3種類の合金粉末について、焼結温度を変化させて、焼結後の密度を測定した。その結果、それぞれの合金粉末について、密度が7.45g/cm3を越える温度は次の通りであった。
D50=2.0μmの合金粉末:焼結温度800℃
D50=2.9μmの合金粉末:焼結温度950℃
D50=5.0μmの合金粉末:焼結温度1040℃
密度が7.45g/cm3以上であることは、工業製品としてのNdFeB焼結磁石の必須用件の1つである。密度がこの値より低いと、そのような磁石は磁気特性が低く、腐食されやすい。密度が7.45g/cm3以上が必須要件であるということは、上述の3種類の合金粉末でプレスなし工程により焼結磁石を作るとき、焼結温度の下限は上述のそれぞれの温度800℃、950℃、および1040℃であるということである。
焼結温度の最適値は焼結体の密度が7.45g/cm3以上であるということに加えて、磁気特性が最高になる温度の観点からも決定される。磁気特性、特に保磁力HcJが最高になる温度は、焼結体の密度が上限に達してそれ以上上がらなくなる温度よりも少し高温側にあることを確認した。
以上の結果から、上述の3種類の合金粉末について最適な焼結温度は次の通りであった。
D50=2.0μmの合金粉末:焼結温度940℃
D50=2.9μmの合金粉末:焼結温度975℃
D50=5.0μmの合金粉末:焼結温度1050℃
これらの焼結温度でモールドに充填したそれぞれの合金粉末をモールドに入れたまま焼結し、冷却後、モールドから焼結体を取出して熱処理を施し、焼結磁石を作製した。
3種類の焼結磁石の磁気特性を測定した結果、残留磁束密度、最大エネルギー積はどの磁石も同程度であったが、保磁力HcJの大きさに差があった。D50=5.0μmの粉末から作った磁石の保磁力は13.2kOeであったが、D50=2.9μmの粉末から作ったものは16.5kOeもあり、D50=2.0μmの粉末からの磁石も17.3kOeの保磁力を有していた。
このように、粒径が小さい粉末ほど低温度で焼結でき、保磁力が高くなる。しかし、焼結温度が低すぎると、焼結密度は十分に高くとも、保磁力は十分に大きい値とされる12kOeに達しない場合がある。例えば、上述のD50=2.0μmの合金粉末の場合、焼結温度が800℃という低い温度であっても焼結密度は7.45g/cm3以上という高密度に達するが、保磁力は12kOeには達しない。保磁力が12kOe以上に達するのは、焼結温度が900℃以上のときである。この900℃という下限値は、合金粉末のD50が3.0μm以下であって酸素含有量が2000ppmの範囲内にある場合にはほとんど変化しない。従って、本発明での焼結温度は900℃以上であって、且つ前述のように1000℃以下とすることが望ましい。
上述の3種類の粉末により、同じモールドに毎回コーティングを施して上述のそれぞれの焼結温度で焼結する実験を繰返した。その結果、D50=2.0μmとD50=2.9μmの合金粉については、焼結温度を1000℃以下にすることができるため、30回以上のサイクルを繰返してもモールドの変形や損傷はなく、さらに多数回の使用に耐えられる状態であった。しかし、D50=5.0μmの合金粉末の焼結に使用したモールドは焼結温度を1000℃以上にしなければならないため、1回の焼結でモールド内面に焼結体が溶着したり、モールドが変形してしまい、モールドの再使用ができなくなる場合もあり、1個のモールドで5回以上のサイクルに耐えることはなかった。D50=5.0μmの粉末における1050℃という焼結温度は、ステンレスなどのFe系あるいはNi系などの工業的によく使われる合金に対して苛酷であり、合金粉末との溶着だけではなく、熱応力やクリープによりモールドの変形が進んでモールドが使用不能になってしまうになってしまうことが実証された。
比較のために、上述したD50=2.9μm(酸素含有量1300ppm)の合金粉末を、0.1%の酸素を含むArに晒すことにより、酸素含有量が2500ppm、3100ppm及び3500ppmである3種類の試料を作製した。これらの試料粉末により、上述の方法と同じ方法で焼結磁石を作製した結果、いずれの場合も1000℃以下の焼結温度で焼結密度を7.45g/cm3以上に上げることはできなかった。

Claims (2)

  1. 製品の形状と寸法に対応して設計された容器(以下これをモールドという)にNdFeB系磁石用合金粉末(以下これを合金粉末という)を充填し、この合金粉末に磁界を印加して配向し、その後この合金粉末をモールドごと加熱して、所望の形状と寸法を持つ焼結体を得るNdFeB系焼結磁石の製法において、レーザー法で測定された合金粉末の粒径の中央値が3μm以下であり、かつ、合金粉末中に含まれる酸素含有量が2000ppm以下であることを特徴とするNdFeB系焼結磁石の製造方法。
  2. 前記加熱時の温度が900℃〜1000℃であることを特徴とする請求項1に記載のNdFeB系焼結磁石の製造方法。
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