JP2007164017A - セルロースエステル樹脂フィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】負の複屈折を有する無機粒子、特に、配向複屈折性を有し、針状乃至棒状であり、複屈折の制御ができる無機粒子を含み、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られるセルロースエステル樹脂フィルムの提供。
【解決手段】アセチル基の置換度(A)及び炭素原子数が3〜6のアシル基の置換度(B)が下記式で表されるセルロースエステル樹脂と、負の複屈折性を有する無機粒子とを含有し、450nmの波長における面内レターデーション(Re450)が、80〜125nmであり、590nmの波長における面内レターデーション(Re590)が、120〜160nmであり、かつ、Re450/Re590が、0.74以上0.80以下であるセルロースエステル樹脂フィルムである。
〔式〕
2.0≦A+B≦3.0
【選択図】なし

Description

本発明は、負の複屈折を有する無機粒子を含み、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られるセルロースエステル樹脂フィルムに関する。
近年、一般的な光学材料には、位相差板が、例えば、液晶表示装置の色補償や、視野角拡大等の問題解決のために偏光板と組み合わせて使用されている。
前記位相差板の一種である四分の一波長板は、光の波長を四分の一だけ変化させる性質を有し、円偏光と直線偏光とを相互に変換できる性質を有する。この性質を利用して、前記四分の一波長板は、液晶表示装置においては、偏光板との組み合わせによる反射防止フィルムや、左右のどちらかに回転している円偏光のみを選択的に反射する反射型偏光板等に用いられている。また、光ディスク等の光記録材料の情報を読み取るときに偏光ビームスプリッタにより、情報を有する光ディスクからの光のみを検出するために四分の一波長板が使用されている。しかし、四分の一波長板と称していても、ある特定の波長で四分の一波長を達成しているものが大部分であり、このように四分の一波長を実現できる波長領域が狭いと、表示画像のコントラストが低下するという問題が生じる。
この問題に対し、二枚の複屈折性フィルムにおけるレタ−デーションの差が可視域全般にわたり波長の四分の一となるように、レタデーションが大きい複屈折性フィルムと、レタ−デーションが小さい複屈折性フィルムとを、光軸が直交するように積層させる技術が提案されている(特許文献1及び2参照)。更に、特定の波長において四分の一波長が得られる四分の一波長板と、特定の波長において二分の一波長が得られ、前記四分の一波長板と同一の材料からなる二分の一波長板とを積層させて、広い波長領域で四分の一波長が得られる位相差板が提案されている(特許文献3参照)。特許文献4にも、2枚のポリマーフィルムを積層することで四分の一波長が達成できる位相差板が開示されている。
しかしながら、2枚のフィルムを積層することで膜厚が上がり透過率が下がるという問題がある。更に、2枚のフィルムを積層して四分の一波長板を実現しようとしたときには、2枚のフィルムの位置を厳密に調整しながら積層する必要があり、非常に高い精度が要求される。
したがって、一枚のポリマーフィルムを用いて広い波長範囲で良好な四分の一波長を実現する技術が望まれていた。また、セルロースエステル樹脂フィルムでは、レターデーションの環境依存性が知られており、特に湿度が変化することで変化するレタデーションの変化を小さくする技術が望まれていた。
一方、従来より、炭酸カルシウム等の無機粒子としては、例えば、ゴム、プラスチック、製紙などの分野で広く使用されている。しかし、近年、高機能性を付与した炭酸塩が次々と開発され、粒子形状や粒子径などに応じて、多用途、多目的に使用されるようになってきている。
前記無機粒子の結晶形としては、例えば、カルサイト、アラゴナイト、バテライトなどが挙げられるが、これらの中でも、通称「霰石型構造」と呼ばれるアラゴナイトは針状であり、強度や弾性率に優れる点で、様々な用途に有用である。
前記無機粒子を製造する方法としては、例えば、(1)炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液とを反応させて炭酸塩を製造する方法、(2)塩化物と炭酸ガスとの反応によって炭酸塩を製造する方法、などが一般的に知られている。また、アラゴナイト構造を有する針状の無機粒子の製造方法としては、例えば、前記(1)の方法において、炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液との反応を超音波照射下に行う方法が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、この無機粒子の製造方法では、得られる炭酸塩の長さが30〜60μmと大きいだけでなく、粒子サイズの分布幅が広く、所望の粒子サイズに制御した炭酸塩を得ることができない。
また、Ca(OH)水スラリーに二酸化炭素を導入する方法において、予め、Ca(OH)水スラリー中に、種晶となる針状アラゴナイト結晶を入れ、該種晶を一定方向にのみ成長させる方法が提案されている(特許文献6参照)。しかしながら、この無機粒子の製造方法を用いても、長さが20〜30μmの大きな粒子しか得ることができないという問題がある。
このため、これらの無機粒子の製造方法により得られた無機粒子をセルロースエステル樹脂に添加しても、光透過性を低減させてしまう。
更に、光学異方性微粒子を用いた光学部品や接着剤が提案されているが(特許文献7参照)、実質的に複屈折をなくす技術に関してであり、位相差を積極的に利用した用途については言及されていない。
したがって、負の複屈折を有する無機粒子、特に、配向複屈折性を有し、針状乃至棒状であり、複屈折の制御ができる無機粒子を含み、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られる技術の開発が強く望まれているのが現状である。
特開平5−27118号公報 特開平5−27119号公報 特開平10−68816号公報 特開平10−90521号公報 特開昭59−203728号公報 米国特許第5164172号明細書 国際公開第01/25364号パンフレット
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、負の複屈折を有する無機粒子、特に、配向複屈折性を有し、針状乃至棒状であり、複屈折の制御ができる無機粒子を含み、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られるセルロースエステル樹脂フィルムを提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。即ち、
<1> アセチル基の置換度(A)及び炭素原子数が3〜6のアシル基の置換度(B)が下記式で表されるセルロースエステル樹脂と、負の複屈折性を有する無機粒子とを含有し、450nmの波長における面内レターデーション(Re450)が、80〜125nmであり、590nmの波長における面内レターデーション(Re590)が、120〜160nmであり、かつ、Re450/Re590が、0.74以上0.80以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂フィルムである。
〔式〕
2.0≦A+B≦3.0
<2> 降伏応力が5kg/mm以上10kg/mm以下の未延伸フィルムを、フィルム長手方向及び該フィルム長手方向と直交する方向の少なくともいずれかの方向に延伸し、延伸した方向における距離を、延伸前の距離に対して1.1倍以上2.0倍以下とした前記<1>に記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
<3> 少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
<4> 芳香族化合物が、下記構造式(I)及び(II)の少なくともいずれかで表される前記<3>に記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
<5> 無機粒子が炭酸塩粒子である前記<1>から<4>のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
<6> 炭酸塩粒子が、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウムの少なくともいずれかである前記<5>に記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
<7> 無機粒子の比表面積が少なくとも4m/gである前記<1>から<6>のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
<8> 無機粒子のアスペクト比が1.5以上であり、長径の平均値が400nm以下であり、かつ下記式で表される長径の変動係数が0.40以下である前記<1>から<7>のいずれかに記載の樹脂フィルムである。
ただし、前記式中、rは、長径の平均値を表し、nは、長径を測定した粒子の数を表し、rは、i番目に測定した粒子の長径を表す。
<9> 無機粒子の形状が針状乃至棒状である前記<1>から<8>のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
<10> 液晶表示素子に用いられる前記<1>から<9>のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルムである。
本発明のセルロースエステル樹脂フィルムは、アセチル基の置換度(A)及び炭素原子数が3〜6のアシル基の置換度(B)が所定範囲にあるセルロースエステル樹脂と、負の複屈折性を有する無機粒子、特に、配向複屈折性を有し、針状乃至棒状であり、複屈折の制御ができる無機粒子とを含有し、450nmの波長における面内レターデーション(Re450)が、80〜125nmであり、590nmの波長における面内レターデーション(Re590)が、Re590が120〜160nmであり、かつ、Re450/Re590が、0.74以上0.80以下であることにより、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得ることができる。
本発明によると、従来における前記問題を解決することができ、負の複屈折を有する無機粒子、特に、配向複屈折性を有し、針状乃至棒状であり、複屈折の制御ができる無機粒子を含み、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られるセルロースエステル樹脂フィルムを提供することができる。
(セルロースエステル樹脂フィルム)
本発明のセルロースエステル樹脂フィルムは、アセチル基の置換度(A)及び炭素原子数が3〜6のアシル基の置換度(B)が下記式で表されるセルロースエステル樹脂と、負の複屈折性を有する無機粒子とを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
〔式〕
2.0≦A+B≦3.0
前記炭素原子数が3〜6のアシル基としては、具体的には、プロピオニル基(炭素原子数3)、ブチリル基(炭素原子数4)、ペンチル基(炭素原子数5)、ヘキシル基(炭素原子数6)が挙げられる。これらの基は1種単独であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
−面内レターデーション(Re)−
前記セルロースエステル樹脂における前記面内レターデーション(Re)は、四分の一波長分散特性を広い波長域で得るためには、400nmから700nmの波長において、長波長における程大きいことが好ましい。
したがって、前記セルロースエステル樹脂フィルムは、450nmの波長における面内レターデーション(Re450)が、80〜125nm、590nmの波長における面内レターデーション(Re590)が、Re590が120〜160nm、かつ、Re450/Re590が、0.74以上0.80以下であり、前記Re450/Re590が0.75以上0.79以下であることが好ましい。前記Re450、Re590、及びRe450/Re590が、それぞれ、80〜125nm、120〜160nm、0.74以上0.80以下の範囲外であると、四分の一波長分散特性を広い波長域で得られなくなる。
Re590−Re450の値は、前記Re590と同様の観点から、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
前記Re450、Re590、及び550nmの波長における面内レターデーション(Re550)の関係としては、Re450が100〜120nmであり、Re550が125〜142nmであり、Re590が130〜152nmであり、かつRe590−Re550の値が2nm以上であることが好ましく、前記Re590−Re550の値は、5nm以上であることがより好ましく、8nm以上であることが特に好ましい。
前記面内レターデーション(Re)は、下記式により算出する。
〔式〕
面内レターデーション(Re)=(nx−ny)×d
ただし、前記式中、nxは、セルロースエステル樹脂フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、セルロースエステル樹脂フィルムの面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、dはセルロースエステル樹脂フィルムの厚さ(nm)である。
前記面内レターデーション(Re)を測定することができる装置としては、例えば、エリプソメーター(M−150日本分光(株)製)などを挙げることができる。
前記セルロースエステル樹脂フィルムは、降伏応力が5kg/mm以上10kg/mm以下の未延伸フィルムを、フィルム長手方向及び該フィルム長手方向と直交する方向の少なくともいずれかの方向に延伸し、延伸した方向における距離を、延伸前の距離に対して1.1倍以上2.0倍以下とするのが好ましい。すなわち、延伸倍率は、10%以上100%以下が好ましい。なお、延伸方法の詳細は後述する。
ここで、「延伸倍率」とは、延伸により増加した距離の、延伸前の距離に対する割合を百分率(%)で表した値を意味する。
前記降伏応力は、6kg/mm以上9.5kg/mm以下がより好ましく、6.5kg/mm以上9kg/mm以下が特に好ましい。
前記延伸倍率は、15%以上100%以下がより好ましく、20%以上100%以下が特に好ましい。
前記降伏応力が5kg/mm以上10kg/mm以下の範囲外、又は延伸倍率が1.1倍以上2.0倍以下の範囲外であると、前記Re450又はRe450/Re590を本発明で規定した範囲とできなくなることがある。
一方、延伸は降伏応力より強い応力で実施されるが、前記降伏応力を5kg/mm以上10kg/mm以下とすることにより、分子鎖を配向させ、分子の運動性を規制し、湿度でレターデーションが変動するのを防止している。これによりレターデーションの湿度変化を1nm/%RH以下にすることができる。
前記湿度変化は、0.7nm/%RH以下が好ましく、0.5nm/%RH以下がより好ましい。
ここで、前記降伏応力は、例えば、25℃60%で3時間以上調湿した後、同じ温湿度でチャック間10cm、幅1cmのサンプルを10mm/分で引っ張り測定し、1〜3mm延伸した箇所の応力−歪み曲線の外挿線(弾性部)と、7〜10mm延伸した箇所の応力−歪み曲線の内挿線(平坦部)との交点の応力を、降伏応力として求めることができる。
−置換度−
前記アセチル基の置換度は、3以下であり、0.1以上2.97以下であることが好ましく、0.1以上2.95以下であることがより好ましい。
前記アシル基に置換度は、3以下であり、2.9以下であることが好ましく、2.85以下であることがより好ましく、0.1以上2.85以下であることが特に好ましい。
前記アセチル基とアシル基の置換度の合計(A+B)は、前述のように2.0以上3.0以下である。なお、セルロースにおいて、エステル化が可能な基は3箇所であるため、前記置換度が3を超えることはない。
ここで、前記置換度は、重合したセルロースエステル樹脂の平均置換度である。すなわち、アセチル基の置換度(A)は、単位あたりのセルロースにおいて、平均して何箇所がアセチル基により置換されているかを意味し、アシル基の置換度(B)は、平均して何箇所がアシル基により置換されているかを意味し、アセチル基とアシル基の置換度の合計(A+B)は、その合計を意味する。
また、前記置換度は、各セルロース分子の各置換度が全て上記好ましい範囲内にある必要はなく、平均置換度としてこの範囲にあればよい。
前記置換度は、アシル化剤の種類及び量を調節することにより、適宜調整することができる。
前記置換度は、フィルム製造後に、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)などを使用して測定することができる。なお、前記測定は、各セルロース分子毎に行う必要はなく、重合体全体として行えばよい。
−無機粒子−
前記無機粒子としては、負の複屈折性を有していれば特に制限はないが、結晶の軸方向で異なる屈折率の値(異方性)を有する観点から、炭酸塩粒子(以下、炭酸塩結晶若しくは炭酸塩結晶粒子ともいう。)であることが好ましく、前記炭酸塩粒子の中でも、霰石構造を有する負の二軸性結晶であることから、上記炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウムがより好ましい。なお、前記無機粒子は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記無機粒子は、比表面積、アスペクト比、長径の平均値、及び該長径の変動係数が所定範囲にあることが好ましく、前記セルロースエステル樹脂に添加して用いられ、全光線透過率が所定値以上であることがより好ましい。
前記無機粒子が炭酸塩粒子である場合には、例えば、金属イオン源と、炭酸源とを液中で反応させて得られる。
−−金属イオン−−
前記金属イオンとしては、金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンなどが挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、アルカリ土類金属イオンであるSr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオンが特に好ましい。前記炭酸源と反応して、カルサイト、アラゴナイト、バテライト、及びアモルファスのいずれかの形態を有する炭酸塩を形成するものが好ましく、アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩を形成するものが特に好ましい。
前記アラゴナイト型の結晶構造は、CO 2−ユニットで表され、該CO 2−ユニットが積層されて針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩結晶を形成する。従って、結晶構造の異方性が生じ、結晶軸方向で屈折率が異なり、2軸性の負の光学結晶となる。下記表1に、金属イオンが、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Pb2+の炭酸塩粒子の各結晶軸方向の屈折率を示す。このため、該炭酸塩が、後述する延伸処理により、任意の一方向に延伸されると、その延伸方向に粒子の長軸方向が一致した状態で結晶が並ぶことから、正の配向複屈折性を有する樹脂へ混合することで樹脂の配向複屈折を制御することができる。
前記金属イオン源としては、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Sr、Ca、Ba、Zn、及びPbから選択される少なくとも1種の硝酸塩、塩化物、水酸化物などが挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、水酸化物、塩化物が特に好ましい。
前記金属イオン源としては、NO 、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含むのが好ましく、このような具体例としては、Sr(NO、Ca(NO、Ba(NO、Zn(NO、Pb(NO、SrCl、CaCl、BaCl、ZnCl、PbCl、Sr(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、Zn(OH)、Pb(OH)、これらの水和物などが好適に挙げられる。
−−炭酸源−−
前記炭酸源としては、CO 2−イオンを生ずるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭酸ナトリウム[NaCO]、炭酸アンモニウム[(NHCO]、炭酸水素ナトリウム[NaHCO]、炭酸ガス、尿素[(NHCO]、炭酸カリウム[KCO]、炭酸水素カリウム[KHCO]、炭酸リチウム[LiCO]などが好適に挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ガスが特に好ましい。
−−比表面積、アスペクト比、長径の平均値、及び長径のバラツキ−−
セルロースエステル樹脂に添加する前段階における、無機粒子あるいは表面処理を行った無機粒子の比表面積としては、4m/g以上が好ましく、6m/g以上がより好ましく、8m/g以上が特に好ましい。前記比表面積が、4m/g未満であると、無機粒子を製造した時点ですでに凝集が生じていることが多く、前記セルロースエステル樹脂中に添加し分散させても、すでに凝集が生じていた無機粒子が更に凝集を重ねてより大きな凝集体が発生し、光透過率が低下することがある。
なお、前記比表面積は、市販の窒素吸着装置で行うことができ、例えば、日本ベル株式会社製の自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP-mini)を用いて測定することができる。
前記無機粒子のアスペクト比は、1.5以上であることが好ましく、3〜20がより好ましく、3〜8が特に好ましい。
前記アスペクト比が、1.5未満であると、無機粒子が粒状又は球状に近くなり、前記セルロースエステル樹脂中で樹脂の分子配向に伴って粒子配向が発現する確率が減少乃至ゼロとなり、本発明の効果が得られなくなることがあり、一方、20を超えると、本発明は、透明樹脂の分子配向に伴って粒子配向が発現することで分子配向に伴う配向複屈折を補償する技術に関するものであるが、セルロースエステル樹脂フィルムの製造工程において無機粒子が破壊され、結果的に無機粒子の長軸方向が向きを揃えて配向しないことがある。
前記無機粒子における、針状乃至棒状の長軸方向の径である、長径の平均値としては、透明光学樹脂の透過率減少を極力小さくする必要があり、可視光線の波長(約400〜780nm)より短いことが好ましい。このため、前記無機粒子の長径の平均値が、500nm以下であることが好ましく、300nm以下がより好ましく、200nm以下が特に好ましい。前記長径の平均値が、500nmを超えると、粒子によるMie散乱の割合が増加するため、セルロースエステル樹脂の光透過率が大幅に減少し、透明光学材料としての価値が低下することがある。
前記長径のバラツキは、光散乱による透過率減少を起こす粒子の含有率を下げ、実質的に散乱の少ない状態を実現する観点からは、該長径の変動係数が0.40以下であることが好ましい。前記長径の変動係数とは、長径の平均値に対する該長径の標準偏差の比で表され、以下の式で求められる。
前記式において、rは、長径の平均値を表し、nは、長径を測定した粒子の数を表し、rは、i番目に測定した粒子の長径を表す。
前記nの値は100以上と定義するが、nの値は大きいことが好ましく、200以上がより好ましい。前記nの値が、100未満となると、粒子の分散を正確に反映することができなくなることがある。変動係数を百分率で表示する場合には、上記数式(1)の値を100倍した値として表示することができる。例えば、前記変動係数の値が、0.40以下である場合には、百分率表示では、40%以下と表示することができる。
前記長径の変動係数は小さいことが好ましく、具体的には、0.30以下が好ましく、0.20以下がより好ましい。前記長径の変動係数が、0.40を超えると、長径の平均値より長い粒子の混合比が増加し、セルロースエステル樹脂の光透過率が低下する弊害が生じてしまうことがある。
前記無機粒子における、長径、アスペクト比、変動係数等の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、よく分散させた無機粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察し、撮影した粒子写真をスキャナーで取り込んで画像ファイルとして保存し、この保存した画像ファイル情報を、株式会社マウンテック製、画像解析式粒度分布測定ソフトウエア「Mac−View」Ver.3を用いて1粒子ごとに測定して、集計することで求めることができる。
−−分散径、及び含有量−−
混練などによるセルロースエステル樹脂と粒子の混合工程後の、無機粒子が実際にセルロースエステル樹脂中に存在している大きさの平均値を平均分散径とした場合、無機粒子をセルロースエステル樹脂に分散する際の平均分散径は、大きくとも500nmが好ましく、450nm以下がより好ましく、400nm以下が特に好ましい。前記平均分散径が、500nmを超えると、無機粒子を含むセルロースエステル樹脂の透明性を大きく低下させてしまうことがある。前記平均分散径は、セルロースエステル樹脂中に存在する無機粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、倍率5万倍で写真撮影を行い、この写真に写った粒子のサイズを計測することにより求めることができる。
炭酸塩結晶の含有量は、セルロースエステル樹脂に対し、0.10質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.15質量%以上8.00質量%以下がより好ましく、0.20質量%以上6.00質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、0.10質量%未満であると、粒子の添加による複屈折の調節効果が発現しないことがあり、10.0質量%を超えると、複屈折の調節効果はあってもセルロースエステル樹脂組成物が必要な透明性を維持できなくなることがある。
−−波長450nmの光透過率−−
前記波長450nmの光透過率としては、前記セルロースエステル樹脂フィルムにおいて、86%以上が好ましく、86.5%以上がより好ましく、87%以上が特に好ましい。前記光透過率が、86%未満であると、前記樹脂の透明度が低くなり、光学情報が低下してしまうことがある。
また、前記樹脂の膜の厚みを100μmとした場合において、前記炭酸塩結晶を添加する前の前記樹脂における、波長450nmの光透過率をx%とし、前記炭酸塩結晶を添加した後の前記樹脂における、波長450nmの光透過率をy%としたとき、y/xが、0.98以上であることが好ましく、0.99以上が特に好ましく、1が最も好ましい。前記y/xが、0.98未満であると、本発明の炭酸塩結晶が添加される樹脂の透明性が失われることがある。
−セルロースエステル樹脂の合成方法−
前記アセチル基及びアシル基により置換されたセルロースエステル樹脂の合成方法としては、特に制限はなく、通常知られている方法を、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の7〜12頁に記載されている方法などが挙げられる。
−−セルロース原料−−
前記セルロース原料としては、特に制限はないが、例えば、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好適に挙げられる。
また、前記セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%以上99.9質量%以下の高純度のものを用いることが好ましい。
セルロース原料がフィルム状や塊状である場合は、前処理として、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、該解砕はフラッフ状になるまで進行していることが好ましい。
−−セルロース原料の活性化−−
前記セルロース原料は、エステル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。
前記活性化剤としては、カルボン酸又は水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、エステル化の条件を調節したりすることが好ましい。前記活性化剤は、いかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては、噴霧、滴下、浸漬などの方法から適宜選択することができる。
前記活性化剤として用いられるカルボン酸としては、特に制限はないが、例えば、炭素数2以上7以下のカルボン酸が好ましい。
前記炭素数2以上7以下のカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また、これらの酸無水物を添加することとしてもよい。前記カルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、酪酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
活性化の際は、必要に応じて更に硫酸などのエステル化のための触媒を加えることもできる。
前記触媒の添加量は、セルロースに対して0.1〜10質量%であることが好ましい。前記添加量が10質量%を超えると、解重合が促進されることがある。
また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2以上7以下のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
前記活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。前記活性化剤の量が5質量%未満であると、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じることがある。
前記活性化剤の添加量の上限は、生産性を低下させない限り特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。前記活性化剤は、セルロースに対して大過剰に加えて活性化を行い、その後、濾過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
前記活性化の時間は、20分以上72時間以下が好ましく、20分以上24時間以下がより好ましく、20分以上12時間以下が特に好ましい。前記活性化の時間が20分未満であると、充分に活性化ができないことがあり、72時間を超えると、活性化の時間が長すぎて生産性に影響を及ぼすことがある。
前記活性化の温度は、0℃以上90℃以下が好ましく、15℃以上80℃以下がより好ましく、20℃以上60℃以下が特に好ましい。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
前記活性化は、常圧で行ってもよいし、加圧または減圧条件下で行ってもよい。
−−エステル化−−
前記セルロースエステル樹脂の合成方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸又はルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をエステル化することが好ましい。
前記エステル化の方法としては、エステル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合又は逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として、反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成して、セルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースエステル樹脂を一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基を更にエステル化する方法などが挙げられる。
前記カルボン酸の酸無水物としては、例えば、カルボン酸としての炭素数が2以上7以下のものが挙げられる。
このような、カルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物等の無水物が好ましく、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物が特に好ましい。
前記酸無水物は、混合エステルを調製する目的で、併用して使用することが好ましい。その混合比は、目的とする混合エステルの置換比に応じて決定することが好ましいが、通常は、酸無水物をセルロースに対して、過剰当量添加する。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
前記エステル化の触媒としては、ブレンステッド酸又はルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸及びルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。
好ましいブレンステッド酸の例としては、例えば、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。
好ましいルイス酸の例としては、例えば、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
これらの中でも、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。
前記触媒の添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、3〜12質量%が特に好ましい。
エステル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。これらの中でも、カルボン酸が好ましい。
前記カルボン酸としては、例えば、炭素数2以上7以下のカルボン酸が挙げられる。
前記炭素数2以上7以下のカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
エステル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよいし、これらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、酸無水物と触媒との混合物、又は、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をエステル化剤として調製してから、セルロースと反応させることが好ましい。
前記エステル化剤は、エステル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、予め冷却しておくことが好ましい。
前記エステル化剤の冷却温度は、−50〜20℃が好ましく、−35〜10℃がより好ましく、−25〜5℃が特に好ましい。エステル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、又はブロック状の固体として添加してもよい。
前記エステル化剤は、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、エステル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。
エステル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のエステル化剤を用いても、複数の組成の異なるエステル化剤を用いてもよい。好適な例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する方法、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する方法、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する方法、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する方法、などが挙げられる。
前記セルロースのエステル化は発熱反応であるが、エステル化の際の最高温度は、50℃以下であることが好ましく、45℃以下がより好ましく、40℃以下が特に好ましく、35℃以下が最も好ましい。前記最高温度が50℃を超えると、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースエステル樹脂を得難くなるなどの不都合が生じることがある。
反応温度は、温度調節装置を用いて制御してもよいし、エステル化剤の初期温度で制御してもよく、反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。
エステル化の際の発熱は、反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。エステル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察等の手段により決定することができる。
前記エステル化の際の最低温度は、−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。
前記エステル化の時間は、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましく、1.5時間以上6時間以下が特に好ましい。前記エステル化の時間が0.5時間以下であると、通常の反応条件では反応が十分に進行せず、24時間を越えると、工業的な製造のために好ましくない。
−−反応停止剤−−
前記セルロースエステル樹脂の合成方法においては、エステル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
前記反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであれば特に制限はなく、例えば、水、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、これらを含有する組成物などが好適に挙げられる。
また、前記反応停止剤には、後述の中和剤を含んでいても良い。
前記反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースエステル樹脂の重合度を低下させる原因となったり、セルロースエステル樹脂が望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。
カルボン酸と水の組成比は、任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5〜80質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましく、15〜50質量%であることが特に好ましい。
前記反応停止剤は、エステル化の反応容器に添加してもよいし、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。
前記反応停止剤の添加時間は、3分以上3時間以下がより好ましく、4分以上2時間以下がより好ましく、5分以上1時間以下が特に好ましく、10分以上45分以下が最も好ましい。前記反応停止剤の添加時間が3分未満であると、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースエステル樹脂の安定性を低下させたりするなどの不都合が生じることがある。また、前記反応停止剤の添加時間が3時間を超えると、工業的な生産性の低下などの問題を生じることがある。
前記反応停止剤を添加する際には、反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
−−中和剤−−
エステル化の反応を停止させる際に、あるいはエステル化の反応停止後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸及びエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤またはその溶液を添加してもよい。
前記中和剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛等の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物、酸化物などが挙げられる。
前記中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトン等)、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、これらの混合溶媒などが好適に挙げられる。
−−加水分解−−
このようにして得られたセルロースエステル樹脂は、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのエステル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことにより、エステル結合を部分的に加水分解し、セルロースエステル樹脂のエステル置換度を所望の程度まで減少させること、いわゆる熟成が一般的に行われる。前記エステル結合の加水分解の過程で、セルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
所望のセルロースエステル樹脂が得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
−−濾過−−
前記セルロースエステル樹脂中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去又は削減する目的として、反応混合物(ドープ)の濾過を行うことが好ましい。
前記濾過は、エステル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。濾過圧や取り扱い性の制御の目的から、濾過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
−−再沈殿−−
このようにして得られたセルロースエステル樹脂溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸等)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースエステル樹脂溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースエステル樹脂を再沈殿させ、洗浄及び安定化処理により目的のセルロースエステル樹脂を得ることができる。
前記再沈殿は、連続的に行ってもよいし、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースエステル樹脂溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースエステル樹脂の置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースエステル樹脂の形態や分子量分布を制御することも好ましい。
−−洗浄処理−−
生成したセルロースエステル樹脂は、洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒は、セルロースエステル樹脂の溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであれば、特に制限はないが、通常は、水又は温水が用いられる。
前記洗浄溶媒の温度は、25〜100℃が好ましく、30〜90℃がより好ましく、40〜80℃が特に好ましい。
前記洗浄処理は、濾過と洗浄液との交換を繰り返す、いわゆるバッチ式で行ってもよいし、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿及び洗浄処理で発生した廃液を、再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
前記洗浄の進行を確認する方法としては、特に制限はないが、例えば、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、高周波プラズマ発光分析(ICP)、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法が好適に挙げられる。
前記洗浄処理により、セルロースエステル樹脂中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛等)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、又は亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物もしくは酸化物等)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができるので、セルロースエステル樹脂の安定性を高めるために有効である。
温水による洗浄処理後のセルロースエステル樹脂は、安定性を更に向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリの水溶液などで処理することも好ましい。
前記弱アルカリの水溶液としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物などが挙げられる。
残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が0〜500ppmになるようにエステル化、部分加水分解および洗浄の条件を設定することが好ましい。
−−乾燥−−
前記セルロースエステル樹脂の含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースエステル樹脂を乾燥することが好ましい。
前記乾燥の方法としては、目的とする含水率が得られるのであれば特に制限はないが、加熱、送風、減圧、攪拌等の手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。
前記乾燥温度は、0〜200℃が好ましく、40〜180℃がより好ましく、50〜160℃が特に好ましい。
前記セルロースエステル樹脂の含水率は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることが特に好ましい。
−−形態−−
前記セルロースエステル樹脂は、粒子状、粉末状、繊維状、塊状等、種々の形状を取ることができるが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましいことから、乾燥後のセルロースエステル樹脂は、粒径の均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。
前記セルロースエステル樹脂が粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子径を有することが好ましい。
前記粒子の形状は、球形に近い形状であることが好ましい。
前記粒子の密度は、見かけ密度が、0.5〜1.3が好ましく、0.7〜1.2がより好ましく、0.8〜1.15が特に好ましい。前記見かけ密度の測定法に関しては、JIS K 7365に規定されている。
前記粒子の安息角は、10〜70°であることが好ましく、15〜60°であることがより好ましく、20〜50°であることが特に好ましい。
−−重合度−−
前記セルロースエステル樹脂の重合度は、平均重合度100〜300が好ましく、120〜250がより好ましい。
前記平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。更に、特開平9−95538に詳細に記載されている方法によっても測定できる。
前記セルロースエステル樹脂のGPCによる重量平均重合度/数平均重合度は、1.6〜3.6であることが好ましく、1.7〜3.3であることがより好ましく、1.8〜3.2であることが特に好ましい。
−−合成例−−
下記に、セルロースアセテートプロピオネートの合成例、セルロースアセテートブチレートの合成例を示す。なお、本発明のセルロースエステル樹脂は、これらに限定されるものではない。
<<合成例1(セルロースアセテートプロピオネートの合成)>>
セルロース(広葉樹パルプ)150g、酢酸75gを、反応容器である還流装置を付けた5Lセパラブルフラスコに取り、60℃に調節したオイルバスにて加熱しながら、2時間激しく攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは、膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。反応容器を2℃の氷水浴に30分間置き冷却した。
別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1,545g、硫酸10.5gの混合物を作製し、−30℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を徐々に上昇させ、アシル化剤の添加から2時間経過後に内温が25℃になるように調節した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120gを1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。
次いで、反応容器に、50質量%含水酢酸に酢酸マグネシウム4水和物を硫酸の2倍モル溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1L、33質量%含水酢酸500mL、50質量%含水酢酸1L、水1Lをこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートの沈殿は、温水にて洗浄を行った。このときの洗浄条件を変化させることで、残硫酸根量を変化させたセルロースアセテートプロピオネートを得た。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまで、さらに水で洗浄を行った後、70℃で真空乾燥させた。
1H−NMR及び、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.30、プロピオニル化度2.63、重合度320であった。硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96により測定した。
<<合成例2(セルロースアセテートブチレートの合成)>>
セルロース(広葉樹パルプ)100g、酢酸135gを、反応容器である還流装置を付けた5Lセパラブルフラスコに取り、60℃に調節したオイルバスにて加熱しながら、1時間放置した。その後、60℃に調節したオイルバスにて加熱しながら、1時間激しく攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは、膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。反応容器を5℃の氷水浴に1時間置き、セルロースを十分に冷却した。
別途、アシル化剤として酪酸無水物1,080g、硫酸10.0gの混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を20℃まで上昇させ、5時間反応させた。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2,400gを1時間かけて添加した。内温を30℃に上昇させ、1時間攪拌した。次いで反応容器に、酢酸マグネシウム4水和物の50質量%水溶液を100g添加し、30分間攪拌した。酢酸1,000g、50質量%含水酢酸2,500gを徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて洗浄を行った。このときの洗浄条件を変化させることで、残硫酸根量を変化させたセルロースアセテートブチレートを得た。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、更に、洗浄液のpHが7になるまで水で洗浄を行った後、70℃で乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル化度0.84、ブチリル化度2.12、重合度268であった。
−セルロースエステル樹脂フィルムの用途−
本発明のセルロースエステル樹脂フィルムは、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られることから、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される液晶表示素子を構成するフィルムとして好適に用いられる。
(セルロースエステル樹脂組成物の製造方法)
前記セルロースエステル樹脂組成物の製造方法は、無機粒子と、セルロースエステル樹脂とを混合する。
このように、前記無機粒子とセルロースエステル樹脂とを混合できれば、通常知られている、いかなる方法により混合してもよいが、例えば、前記無機粒子が炭酸塩結晶である場合には、無機粒子を製造する無機粒子製造工程と、製造された無機粒子をセルロースエステル樹脂に分散する無機粒子分散工程とを含み、必要に応じて適宜選択したその他の工程等を含むことが好ましい。
−無機粒子製造工程−
前記金属イオン源と、前記炭酸源とを液中で反応させて前記炭酸塩結晶を得る処理、及び、炭酸塩結晶の表面の吸着物を除去する処理(以下、単に吸着物除去処理という。)を含み、必要に応じて適宜選択したその他の処理等を含む。炭酸塩結晶を得る処理では、炭酸塩粒子数を増加させる処理(以下、単に炭酸塩粒子数増加処理という。)と、該炭酸塩粒子の体積のみを増加させる処理(以下、単に炭酸塩粒子体積増加処理という。)とを、分離して行うことがある。以下、無機粒子が炭酸塩粒子である場合を例として説明する。
−−反応方法−−
前記液中で反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、反応性の観点から、前記金属イオン源と前記炭酸源とを、液中に同時に添加して反応させる方法などが挙げられる。
前記金属イオン源と前記炭酸源とを、液中に同時に添加して反応させる方法としては、ダブルジェット法やシングルジェット法などが挙げられる。本発明の炭酸塩結晶を得るためには、両方法とも用いることができるが、金属イオン源として金属水酸化物を用いる場合は、シングルジェット法の使用が好ましい。更に詳しくは、反応時の溶媒として水を含む場合、金属水酸化物の水への溶解性が小さいために、濃度を上げていくと全てが溶解せずに、懸濁液となってしまい、この懸濁液を静置しておくと、金属水酸化物は沈降する。ダブルジェット法やシングルジェット法で用いられる原料タンクには攪拌設備がついていないことが多いので、懸濁液をこの原料タンクに入れることは好ましくない。つまり、はじめから攪拌翼を具備した反応溶液中にこの金属水酸化物懸濁液を入れておくことが最も望ましく、この懸濁液中に炭酸源をノズルを用いて添加する方式が望ましいために、シングルジェット法の使用が好ましい。
−−−ダブルジェット法−−−
前記ダブルジェット法は、前記金属イオン源と前記炭酸源とを、それぞれ反応用の液面上又は液中に噴射により添加し、反応させる方法であり、例えば、図1に示すように、前記金属イオン源を含むA液と、前記炭酸源を含むB液とを、同時にC液に噴射し、該C液の液中でこれらを反応させる方法である。
前記ダブルジェット法による前記金属イオン源及び前記炭酸源の添加速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、モル添加速度として、最終生成物の化学量論比となるように決定するのが好ましく、本発明では等モル速度であるのが最も好ましい。最終生成物の形成までの過程を、炭酸塩粒子数増加処理と炭酸塩粒子体積増加処理を分離して行う場合には、それぞれの添加速度及び反応温度を変更させることがある。
前記ダブルジェット法は、例えば、特開平5−107668号公報に開示されているダブルジェット反応晶析装置を用いて行うことができる。該装置は、反応容器中に攪拌翼を有し、攪拌翼の近傍に原料溶液を供給するノズルが具備されている。該ノズルの数は2本以上の複数本である。そして、ノズルから供給された前記金属イオン源(前記A液)と前記炭酸源(前記B液)とが攪拌翼による混合作用により高速に均一状態になり、前記C液中で瞬時に均一反応させることが可能である。
なお、ダブルジェット法における撹拌速度としては、連続的に変化する系内の濃度分布を均一にするとの観点から、500〜1,500rpmが好ましい。
−−−シングルジェット法−−−
前記シングルジェット法は、前記金属イオン源及び前記炭酸源のいずれか一方を他方の液面上又は液中に噴射により添加し、反応させる方法である。
前記シングルジェット法も、例えば、上述したダブルジェット反応晶析装置を用いて行うことができる。但し、前記シングルジェット法では、ノズルは1本でよく、例えば、図2に示すように、ノズルから噴射された炭酸源(B液)をタンク内の金属イオン源(A液)に添加することにより、ダブルジェット法と同様にして反応させることができる。
前記シングルジェット法による前記金属イオン源及び前記炭酸源の添加速度、及び前記シングルジェット法における攪拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ダブルジェット法による添加速度、及び前記ダブルジェット法における攪拌速度と同様の速度範囲が好ましい。ここでも、最終生成物の形成までの過程を、炭酸塩粒子数増加処理と炭酸塩粒子体積増加処理を分離して行う場合には、それぞれの添加速度及び反応温度を変更させてもよい。
−−炭酸塩粒子数増加処理−−
前記炭酸塩粒子数増加処理としては、炭酸塩を形成した後、その粒子数を増加させることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属イオン源と炭酸源の少なくとも一方を、所定の反応温度の液中に添加及び混合する方法が挙げられる。
前記添加及び混合する方法としては、シングルジェット法により反応させる場合として、例えば、金属イオン源を含む水溶液及び懸濁液のいずれかを、所定の反応温度に保ちながら、炭酸源を含む水溶液を、所定の添加速度により添加後、混合する添加混合方法が挙げられる。
前記反応温度は、−10℃〜40℃であることが好ましく、1℃〜25℃がより好ましい。該炭酸塩粒子増加処理の温度が、−10℃未満であると、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩が得られず、球状又は楕円状の炭酸塩が生成されることがあり、40℃を超えると、一次粒子のサイズが大きくなってしまい、ナノサイズ領域でアスペクト比が2より大きい形状を有する炭酸塩が得られないことがある。
前記添加速度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、具体的な速度としては、例えば、0.01〜500ml/minが好ましく、0.01〜100ml/minがより好ましい。
−−炭酸塩粒子体積増加処理−−
前記炭酸塩粒子体積増加処理としては、前記炭酸塩粒子数を増加させることなく体積のみを増加させることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属イオン源と炭酸源の少なくとも一方を、該炭酸塩粒子数増加処理の反応温度以上の温度条件下で、かつ前記炭酸塩粒子数増加処理より速い速度で添加及び混合する方法が挙げられる。なお、前記炭酸塩粒子体積増加処理において、炭酸塩粒子数を増加させないとは、炭酸塩粒子数増加処理終了後の炭酸塩粒子数に比して、炭酸塩体積増加処理後の炭酸塩粒子数が40%を超えて増加していないことを表し、30%を超えて増加していないことが好ましく、20%を超えて増加していないことがより好ましい。
前記添加及び混合する方法としては、例えば、前記炭酸源を含む水溶液及びガスのいずれかを、前記炭酸塩粒子数増加処理の反応温度以上の温度条件下で、かつ前記炭酸塩粒子数増加処理より速い速度で添加後、混合する添加混合方法が挙げられる。
前記反応温度は、1℃〜60℃であることが好ましく、1℃〜55℃がより好ましい。前記反応温度が、1℃未満であると、使用する溶媒に制約を受けるため、粒子形成後の取扱いが面倒になることがあり、60℃を超えると、水以外の溶媒を用いている際に、これらの溶媒が蒸発してしまうことがある。
前記添加速度は、前記炭酸塩粒子数増加処理より速い速度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.1〜100ml/minが好ましく、0.1〜50ml/minがより好ましい。前記添加速度が、前記炭酸塩粒子数増加処理より遅いと、得られるアスペクトの形状を制御できないことがある。
−−pH−−
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液中のpHは、針状や棒状の炭酸塩結晶を得やすい点で、アルカリ雰囲気下であることが好ましく、具体的には、9以上が好ましく、9.5以上がより好ましい。前記液中のpHが、9未満であると、本発明の炭酸塩結晶が添加されるセルロースエステル樹脂の透明性が失われることがある。
また、前記金属イオン源が、OH基を含む場合には、反応の開始から終了までの間、上記pHを保つことが好ましく、前記金属イオン源が、OH基を含まない場合には、例えば、NaOH等のアルカリ雰囲気を形成する薬品を添加して、上記pHとなるように調整して反応を行うのが好ましい。
−−反応に供する金属イオン源及び炭酸源の濃度−−
反応に供する前記金属イオン源中の金属イオン濃度及び前記炭酸源中の炭酸イオン濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記金属イオン源中の金属イオン濃度としては、反応性の点で、0.05mol/L以上が好ましく、0.10mol/L以上がより好ましい。
−−その他の工程等−−
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる際には、有機溶剤存在下で反応させることが好ましい。
前記有機溶剤の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、2−アミノエタノール、2−メトキシエタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、ジメチルスルホキシドなどが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、これらの中でも、アルコール類が好ましく、反応性の観点、及び材料の入手の容易さという点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及び2−アミノエタノールがより好ましい。
前記溶剤の添加量は、炭酸塩製造後の溶媒量の1〜80体積%が好ましく、20〜80体積%がより好ましい。
−−吸着物除去処理−−
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させて得られた炭酸塩結晶を、次の乾燥処理で乾燥させる前に、炭酸塩結晶粒子表面の吸着物を除去する吸着物除去処理を行うことが好ましい。前記炭酸塩結晶製造工程において、液中に存在する段階の炭酸塩結晶粒子の表面には、粒子合成の出発原料に起因するイオンや反応の副生成物などが吸着しており、これらの影響で静電的な反発力など、粒子間の相互作用に変化が生じて、液中段階で粒子の凝集を促進させてしまうことが多い。このため、このような状態で乾燥を行ったのでは、凝集粒子しか得ることができず、結果として、このような凝集粒子を前記セルロースエステル樹脂中に添加しても、分散させることができず、凝集状態で前記セルロースエステル樹脂中に含ませることとなる。
前記吸着物除去処理の方法としては、特に制限はなく、本来必要でない成分を分離して除去できる方法を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水を添加して充分に攪拌して静置した後、少なくとも1回のデカンテーションにより炭酸塩結晶粒子を洗浄する方法、及び、炭酸塩結晶粒子を含む液を、分離機能高分子膜を使用して、少なくとも1回の限外濾過する方法、の少なくともいずれかを行うことが好ましい。吸着物を除去できた程度は、デカンテーション後の上澄み液又は限外濾過後の濾液の伝導度を測定することにより、把握することができる。前記伝導度としては、100μS/cm以下であることが好ましく、50μS/cm以下であることがより好ましい。前記伝導度が、100μS/cmを超えると、炭酸塩粒子を用いてセルロースエステル樹脂組成物の製造方法を行うと、混練などの段階で発泡が観察されることがある。
前記分離機能高分子膜の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換樹脂としては、強塩基性又は弱塩基性の陰イオン交換樹脂、強酸性又は弱酸性の陽イオン交換樹脂、巨大編み目構造を持つ多孔性イオン交換樹脂、キレート樹脂等が好適に挙げられる。また、分離機能膜としては、逆浸透膜(セルロースアセテート系、セルローストリアセテート系、ポリピペラジンアミド系、全芳香族ポリアミド系、ポリベンズイミダゾロン系、架橋ポリエーテル系、アルキルアリルポリアミド−ポリユレア系、ポリアクリロニトリル系、スルホンポリサルホン系等)、精密濾過膜(酢酸セルロース系、ポリプロピレン系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系等)、限外濾過膜(セルロース系、セルロース/再生セルロース系、ポリイミド系、ポリサルホン系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリプロピレン系、ポリ塩化ビニリデン系等。平膜型、管状、中空糸型、スパイラル型、ブリーツ型でもよい。)、透析膜(セルロース系、アクリロニトリル系中空糸膜、エチレン/ビニルアルコール共重合体系中空糸膜、ポリメチルメタクリレート系、中空糸膜、ポリサルホン系中空糸膜、ポリプロピレン系中空糸膜、再生セルロース系等)、電気透析で用いるイオン交換膜(無機イオン交換膜、スチレン/ジビニルベンゼン架橋重合体スルホン化物膜、クロロメチルスチレン/ジビニルベンゼン架橋重合体アミノ化物膜、ビニルピリジン/ジビニルベンゼン架橋重合体N−メチル化物膜、パーフルオロカーボン系カルボン酸膜、スチレン/ブタジエン系膜等)等が好適に挙げられる。これらの中でも、分離機能膜のうち限外濾過膜又は透析膜がより好ましくい。本発明において好ましく用いられる限外濾過膜又は透析膜の分画分子量としては、本発明の効果が発現される限りにおいて特に制限はないが、通常、3,000〜50,000程度である。
これらの素材については、「機能性高分子材料、製品と市場1994年版」(東京テクノブレイン発行)の第16章および第17章に詳しく記載されている。例えば、イオン交換樹脂としては、ローム&ハース(アンバーライト、デュオライト)、ダウケミカル(ダウエックス)等、イオン交換膜としては、旭化成工業(アシプレックス)、旭硝子(セレミオン)、徳山送達(ネオセプタ)、デュポン(ナフィオン)、精密濾過膜としては、富士写真フィルム(ミクロフィルタ)等、限外濾過膜としては、旭化成工業(マイクローザUFラボモジュール)、クラレ(MU)、ダイセル化学(モルセップ)等、逆浸透膜としては、東レ(PEC-1000)、日東電工(NTR7250)、デュポン(B9,B10)等、透析膜としては、三光純薬(透析膜、セルロースチューブ;VISKASE社製)等から販売されている。
−−乾燥処理−−
前記吸着物除去処理を行った炭酸塩結晶を、乾燥させる乾燥処理を行うことが好ましい。
前記炭酸塩結晶を乾燥させる方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、濾過、などが挙げられる。
前記炭酸塩結晶製造工程によれば、所定の比表面積を有し、表面の吸着物が除去されて凝集のない、配向複屈折性を有するアスペクト比が大きい炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができる。
−無機粒子分散工程−
前記無機粒子分散工程は、無機粒子を本発明のセルロースエステル樹脂に分散させる処理を含み、必要に応じて適宜選択したその他の処理等を含む。
前記無機粒子を前記セルロースエステル樹脂に分散させる方法は、本発明の目的を達成できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記無機粒子を前記セルロースエステル樹脂に混練することにより分散させることもできるし、重縮合反応させて前記セルロースエステル樹脂を合成する際に、少なくとも重縮合反応が終了する前に前記炭酸塩結晶を添加して、分散させることもできる。
前記無機粒子を分散されたセルロースエステル樹脂フィルムの成型方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、製膜によりフィルム状とするのが好ましく、その方法として、溶液製膜方法、溶融製膜方法が好適に挙げられる。
−−溶液製膜方法−−
前記溶液製膜方法は、本発明のセルロースエステル樹脂フィルムを有機溶媒に溶解して流延製膜する方法である。
(1)有機溶媒
セルロースエステル樹脂溶液の調製に用いられる有機溶媒は、50質量%以上がハロゲン系有機溶媒であることが好ましい。前記ハロゲン系有機溶媒は、60〜100質量%含有することがより好ましく、70〜95質量%含有することが特に好ましい。
前記ハロゲン系有機溶媒としては、炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素を含む有機溶媒が好ましく、塩素系有機溶媒がより好ましく、ジクロロメタン、クロロホルムが更に好ましく、ジクロロメタンが特に好ましい。また、前記ハロゲン系有機溶媒として、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合してもよい。
併用される非塩素系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンなどが挙げられる。
前記ハロゲン系有機溶媒として塩素系有機溶媒を用いる場合は、アルコールを溶媒として併用するのが好ましい。
前記アルコールとしては、直鎖であっても分枝を有していてもよいし、環状のアルコールであってもよいが、飽和脂肪族炭化水素系アルコールが好ましい。
前記アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールなどが挙げられる。
また、前記アルコールとしては、フッ素系アルコールを用いてもよい。
前記フッ素系アルコールとしては、例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。
前記フッ素系アルコールが含む炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよく、芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれをも用いることができる。
前記脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。
前記炭化水素としては、例えば、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンが挙げられる。また、酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサン、炭素原子数が4〜7のケトン類、アセト酢酸エステルも好ましい。
塩素系有機溶媒を主溶媒とする好ましい溶剤組成として、以下の具体例を挙げることができるが、本発明で用いることができる溶剤組成はこれらに限定されるものではない(下記のかっこ内の数値は質量部を示す)。
・ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/メタノール/ブタノール(83/13/4)
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/5/5/5)
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/酢酸メチル/ブタノール(80/10/10)
・ジクロロメタン/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5)
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5)
・ジクロロメタン/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール(70/20/5/5)
・ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール (60/20/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン(65/10/10/5/5/5)
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (70/10/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン (65/10/10/5/5/5)
・ジクロロメタン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール(65/20/10/5)
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5)
前記有機溶媒は、塩素系有機溶媒を含んでいなくてもよい。この場合に用いられる非塩素系有機溶媒としては、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、及びエーテルから選択される溶媒が好ましい。
前記エステル、ケトン、及びエーテルは、環状構造を有していてもよい。前記エステル、ケトン、及びエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−、及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
炭素原子数が3〜12のエステル類としては、例えば、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートが挙げられる。
炭素原子数が3〜12のケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。
炭素原子数が3〜12のエーテル類としては、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
また、前記非塩素系有機溶媒としては、異なる3種類以上の混合溶媒であって、第1の溶媒が酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサンから選ばれる少なくとも一種あるいはそれらの混合液であり、第2の溶媒が炭素原子数4〜7のケトン類又はアセト酢酸エステルであり、第3の溶媒が炭素原子数1〜10のアルコール又は炭化水素であることも好ましい。なお、前記第3の溶媒は、炭素原子数1〜8のアルコールがより好ましい。また、第1の溶媒が、2種以上の溶媒の混合液である場合は、第2の溶媒がなくてもよい。
前記第1の溶媒としては、酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチルあるいはこれらの混合物がより好ましく、第2の溶媒としては、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルがより好ましい。前記第1の溶媒及び第2の溶媒は、これらの混合液であってもよい。
前記第3の溶媒であるアルコールは、直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。
前記アルコールは、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールのいずれであってもよい。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノールが挙げられる。
なお、前記アルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。
前記フッ素系アルコールとしては、例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよく、芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。
前記脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。
前記炭化水素としては、例えば、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが挙げられる。
前記第3の溶媒としてのアルコールは、1種単独であってもよいし、2種以上を混合していてもよい。
前記第3の溶媒の好ましい具体的化合物としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンなどが挙げられ、これらの中でも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールが好ましい。
前記3種類の混合溶媒は、第1の溶媒が20〜95質量%、第2の溶媒が2〜60質量%、第3の溶媒が2〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、第1の溶媒が30〜90質量%、第2の溶媒が3〜50質量%、第3の溶媒としてアルコールが3〜25質量%含まれることがより好ましい。また、第1の溶媒が30〜90質量%、第2の溶媒が3〜30質量%、第3の溶媒としてアルコールが3〜15質量%含まれることが特に好ましい。なお、第1の溶媒が混合液で第2の溶媒を用いない場合は、第1の溶媒が20〜90質量%、第3の溶媒が5〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、第1の溶媒が30〜86質量%、第3の溶媒が7〜25質量%含まれることがより好ましい。
前記非塩素系有機溶媒については、さらに詳細には、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて12頁〜16頁に詳細に記載されている。
本発明の好ましい非塩素系有機溶媒の組み合わせとしては、以下に挙げることができるが、これらに限定されるものではない(下記のかっこ内の数値は質量部を示す)。
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/プロパノール(75/10/5/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/8/7/4)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(82/10/4/4)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(80/10/4/6)
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/5/5/5)
・酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/ブタノール(85/10/5)
・酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/ブタノール(60/15/15/5/5)
・酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5)
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (50/20/20/5/5)
・酢酸メチル/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール (70/20/5/5)
・酢酸メチル/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール (60/20/10/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン (65/10/10/5/5/5)
・ギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (50/20/20/5/5)
・ギ酸メチル/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン (65/10/10/5/5/5)、
・アセトン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール (65/20/10/5)
・アセトン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール (65/20/10/5)
・アセトン/1,3ジオキソラン/エタノール/ブタノール (65/20/10/5)
・1、3ジオキソラン/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール (60/20/10/5/5)
更に、下記のように、溶解後、一部の溶媒をさらに追加添加し、多段で溶解することも好ましい(下記のかっこ内の数値は質量部を示す)。
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/8/7/4)でセルロースエステル樹脂組成物溶液を作製し、濾過・濃縮後に2質量部のブタノールを追加添加
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(84/10/4/2)でセルロースエステル樹脂組成物溶液を作製し、濾過・濃縮後に4質量部のブタノールを追加添加
・酢酸メチル/アセトン/エタノール(84/10/6)でセルロースエステル樹脂組成物溶液を作製し、濾過・濃縮後に5質量部のブタノールを追加添加
前記有機溶媒には、塩素系有機溶媒、非塩素系有機溶媒いずれの場合でも、溶媒にセルロースエステル樹脂を10〜35質量%溶解していることが好ましく、13〜33質量%溶解していることがより好ましく、15〜30質量%溶解していることが特に好ましい。
前記セルロースエステル樹脂の溶解に先立ち、未製膜乃至製膜後のセルロースエステル樹脂を乾燥し、含水率を2質量%以下にしておくことが好ましく、1質量%以下にしておくことがより好ましい。
また、前記セルロースエステル樹脂は、溶媒と混合した後、0℃〜50℃で0.1時間〜100時間膨潤させることが好ましい。
前記セルロースエステル樹脂の溶解は、常温で行ってもよいし、冷却乃至昇温法により行ってもよい。冷却乃至昇温法は、例えば、特開平11−323017号公報、同10−67860号公報、同10−95854号公報、同10−324774号公報、同11−302388号公報に記載の方法を用いることができる。すなわち、溶媒とセルロースエステル樹脂を混合し膨潤させたものを、冷却ジャケットを付与したスクリュー型混練機を用い溶解する。
更に、ドープ(セルロースエステル樹脂溶液)では、濃縮,濾過を実施することが好ましく、これらは発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に25頁に詳細に記載されているものを使用できる。
(2)流延
前記セルロースエステル樹脂の溶液製膜を行う方法及び設備としては、通常、セルローストリアセテフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。
溶解機(釜)から調製されたドープを貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡する工程などで最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば、回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の支持体の上に均一に流延し、支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせは、目的に応じて適宜選択することができる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引き層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等の支持体への表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。以下に各製造工程について簡単に述べるが、これらに限定されるものではない。
まず、調製したセルロースエステル樹脂溶液(ドープ)は、ソルベントキャスト法によりセルロースエステル樹脂フィルムを作製する際に、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%となるように濃度を調整することが好ましい。前記ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。前記ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
前記ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号、同2,739,070号、英国特許第640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
得られたセルロースエステル樹脂溶液は、支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースエステル液を流延してもよい。複数のセルロースエステル樹脂溶液を流延する場合、支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口から、セルロースエステル樹脂を含む溶液を、それぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号各公報などに記載の方法を用いることができる。
また、2つ以上の流延口からセルロースエステル樹脂溶液を流延することによってフィルム化することでもよく、例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号各公報に記載の方法を用いることができる。
また、特開昭56−162617号公報に記載の、高粘度セルロースエステル樹脂溶液の流れを低粘度のセルロースエステル樹脂溶液で包み込み、その高粘度乃至低粘度のセルロースエステル樹脂溶液を同時に押し出す流延方法を用いることもできる。
あるいはまた、2個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成型したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことによりフィルムを作製してもよく、例えば、特公昭44−20235号公報に記載されている方法を用いることができる。流延するセルロースエステル樹脂溶液は、同一の溶液でもよいし、異なるセルロースエステル樹脂溶液でもよい。
更に、前記セルロースエステル樹脂溶液には、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光膜など)を同時に流延することもできる。
更に、その他の好適に用いられる流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから支持体上に均一に押し出す方法、一旦支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等あるが、いずれも好適に用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも、従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法(例えば、特開昭61−94724号、同61−148013号、特開平4−85011号、同4−286611号、同5−185443号、同5−185445号、同6−278149号、同8−207210号各公報などに記載の方法)を好適に用いることができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することによりそれぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。
前記流延を終えたセルロースエステル樹脂フィルムは、既に述べた通り、5kg/mm以上10kg/mm以下が好ましく、6kg/mm以上9.5kg/mm以下がより好ましく、6.5kg/mm以上9kg/mm以下が特に好ましい。前記降伏応力は、フィルム中に形成される結晶量により制御される、特に溶液流延では、溶媒存在下で溶液結晶化が進むため、残留溶剤量とその時の温度により制御される。前記降伏応力を上記範囲内とするには、バンドあるいはドラムから剥取った時の残留溶媒を10質量%以上50質量%以下とするのが好ましく、10%質量以上45質量%以下とするのがより好ましく、10質量%以上40%質量以下とするのが特に好ましい。
前記有機溶媒の含有量を前記範囲にした後には、100℃以上150℃以下で10分以上200分以下で熱処理するのが好ましく、20分以上120分以下熱処理するのがより好ましい。このとき、残留溶媒の蒸発潜熱によりフィルムの温度が低下し易いため、大量の送風を行うことが好ましく、フィルム面上で1〜10m/秒の風速で送風することが好ましい。
更に、前記フィルムの破断伸度は、20%以上100%以下が好ましく、25%以上80%以下がより好ましく、30%以上70%以下が特に好ましい。前記破断伸度は、上記熱処理中の搬送張力により制御でき、前記搬送張力は、2kg/m以上20kg/m以下が好ましく、3kg/m以上18kg/m以下がより好ましく、4kg/m以上16kg/m以下が特に好ましい。
更に、前記熱処理後に水蒸気に曝すのも好ましい。前記水蒸気の温度は、100℃以上160℃以下が好ましく、110℃以上150℃以下がより好ましく、115℃以上145℃以下が特に好ましい。前記水蒸気に曝す時間は、0.2秒以上30秒以下が好ましく、0.5秒以上20秒以下がより好ましく、0.7秒以上15秒以下が特に好ましい。
流延速度は、3m/分以上100m/分以下が好ましく、5m/分以上80m/分以下がより好ましく、10m/分以上70m/分以下が特に好ましい。
前記支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。
前記加圧ダイは、前記支持体の上方であれば何基設定してもよく、特に制限はないが、1基又は2基設定するのが好ましい。前記加圧ダイを2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合に分けてもよく、複数の精密定量ギヤアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液するのが好ましい。
前記ドープの乾燥方法としては、一般的には支持体(ドラムあるいはベルト)の表面側、つまり支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラムあるいはベルトの裏面から熱風をあてる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側の裏面から接触させて、伝熱によりドラムあるいはベルトを加熱し表面温度をコントロールする裏面液体伝熱方法などが挙げられるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。
流延される前の支持体の表面温度は、ドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば特に制限はないが、乾燥を促進するため、及び支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。
セルロースエステル樹脂フィルムの乾燥温度は、40〜250℃が好ましく、70〜180℃がより好ましい。更に、残留溶媒を除去するために、50〜160℃で乾燥されるのが好ましく、その場合、逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることが好ましい。
以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。
使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
乾燥後のフィルムの残留溶媒量は、2質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上でより好ましい。
支持体上に形成されたセルロースエステルフィルムは、支持体から剥離する。
剥離荷重の最大値(最大剥離荷重)は、1〜30g/cmであることが好ましく、1〜25g/cmであることがより好ましく、3〜20g/cmであることが特に好ましい。
また、支持体上にドープを流延した時点から剥離が開始するまでの時間は、30〜300秒であることが好ましく、30〜270秒がより好ましく、30〜240秒が特に好ましい。
支持体から剥離後の乾燥では、溶媒の蒸発によってフィルムは幅方向に収縮しようとすし、高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は、可能な限り抑制しながら乾燥することが、フィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に記載されているような、乾燥全工程あるいは一部の工程をクリップでウェブの幅両端を保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。
更には、積極的に流延方向あるいは幅方向に延伸する方法もあり、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号各公報などに記載されている。これは、セルロースエステル樹脂フィルムの面内レターデーション(Re)値を高い値とするためには、製造したフィルムを延伸する。フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で行う。
加熱温度は、特に制限はないが、フィルムのガラス転移温度前後であることが好ましく、一般には80〜160℃であり、100〜140℃が好ましい。特に、Tg(ガラス転移点)よりも更に10〜20℃高い温度が好ましい。
セルロースエステル樹脂フィルムの延伸は、一軸延伸でもよいし、二軸延伸でもよい。フィルムは、乾燥中の処理で延伸することができ、特に溶媒が残存する場合は有効である。例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。フィルムの幅をテンターで保持しながら搬送して、テンターの幅を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。
更に、テンター乾燥のウェブの発泡を防止し、離脱性を向上させ、発塵を防止するために、乾燥装置において乾燥器の熱風がウェブ両縁部に当たらないように、乾燥器の幅がウェブの幅よりも短く形成することも好ましい。また、テンターの保持部に乾燥風が当たらないようウェブ両側端部内側に遮風板をしてもよい。
フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸を行う。前記延伸機としては、ロング延伸機を用いる一軸延伸が好ましい。
前記フィルムの延伸倍率は、既に述べた通り、10%倍以上100%以下とするのが好ましく、15%以上100%以下がより好ましく、20%以上100%以下が特に好ましい。この時、延伸方向は、流延方向(フィルム長手方向)でもよいし、流延方向と直角な方向でもよく、両方向に延伸してもよい。また、延伸は同時に行ってもよく、一方向に延伸してその後他方向に延伸してもよい。これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。
延伸速度は、フィルムの延伸前の延伸方向距離に対して、5〜1,000%/分で行うことが好ましく、10〜500%/分で行うことがより好ましい。
延伸温度は、30〜160℃が好ましく、70〜150℃がより好ましく、85〜150℃が特に好ましい。
延伸は、ヒートロール、放射熱源(IRヒーター等)、及び温風の少なくともいずれかにより行なうことが好ましい。また、温度の均一性を高めるために恒温槽を設けてもよい。ロール延伸で一軸延伸を行なう場合、ロール間距離(L)と該位相差板のフィルム幅(W)の比であるL/Wが、2.0〜5.0であることが好ましい。
セルロースエステル樹脂フィルムの製造に用いられる巻取り機としては、特に制限はなく、通常使用されている巻取り機を適宜選択することができ、巻取り方法としては、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などが挙げられる。
乾燥後の完成品のセルロースエステル樹脂フィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常20〜500μmの範囲であり、30〜250μmの範囲が好ましく、30〜150μmの範囲がより好ましい。フィルム厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、支持体速度等を調節すればよい。
−−溶融製膜方法−−
前記溶融製膜は、(1)ペレット化工程、(2)乾燥工程、(3)溶融押出工程、(4)濾過工程、(5)ギアポンプによる樹脂供給工程、(6)ダイ送給工程、(7)キャスト工程、(8)巻取り工程、(9)後乾燥及び延伸工程などを含むことが好ましい。
(1)ペレット化工程
前記セルロースエステル樹脂は、溶融製膜に先立ち混合しペレット化するのが好ましい。
ペレット化を行うにあたりセルロースエステル樹脂は、事前に乾燥を行うことが好ましいが、ベント式押出機を用いることで、これを代用することもできる。
乾燥を行う場合の乾燥方法としては、特に制限はないが、例えば、加熱炉内にて90℃で8時間以上加熱する方法等を用いることができる。
ペレット化は、前記セルロースエステル樹脂フィルムを、2軸混練押出機を用いて150℃以上250℃以下で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作成することができる。また、押出機による溶融後水中に口金より直接押し出しながらカットする、アンダーウオーターカット法等によりペレット化を行ってもよい。
押出機は、十分な溶融混練が得られる限り特に制限はなく、公知の単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。
ペレットの大きさは、断面積が1mm以上300mm以下、長さが1mm以上30mm以下が好ましく、断面積が2mm以上100mm以下、長さが1.5mm以上10mm以下がより好ましい。
押出機の回転数は、10rpm以上1,000rpm以下が好ましく、20rpm以上700rpm以下がより好ましく、30rpm以上500rpm以下が特に好ましい。前記押出機の回転数が、10rpmより遅くなると、滞留時間が長くなり、熱劣化により分子量が低下したり、黄色味が悪化し易くなる。また、前記回転数が、1,000rpmより速いと、剪断により分子の切断が生じ易くなり、分子量低下を招いたり、架橋ゲルの発生が増加するなどの問題が生じ易くなる。
前記ペレット化工程における押出滞留時間は、10秒以上30分以内が好ましく、15秒以上10分以内がより好ましく、30秒以上3分以内が特に好ましい。十分に溶融が出来れば、滞留時間は短い方が、樹脂劣化、黄色み発生を抑えることができる点で好ましい。
(2)乾燥工程
前記セルロースエステル樹脂の含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースエステル樹脂を乾燥する乾燥工程を経ることが好ましい。
前記乾燥工程では、前記ペレット化工程を経た樹脂を用いるのが好ましく、溶融押出工程に先立ちペレット中の水分を減少させることが好ましい。
前記乾燥の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を、単独又は組み合わせて用いることが、効率的で好ましく、除湿風乾燥機を用いて乾燥したり、乾燥ホッパ−を断熱構造にすることがより好ましい。
乾燥温度は、0〜200℃が好ましく、40〜180℃がより好ましく、60〜150℃が特に好ましい。前記乾燥温度が0℃未満であると、乾燥に時間がかかるだけでなく、含有水分率が目標値以下にならないことがある。一方、前記乾燥温度が200℃を超えると、樹脂が粘着してブロッキングすることがある。
乾燥風量は、20〜400m/時間が好ましく、50〜300m3/時間がより好ましく、100〜250m3/時間が特に好ましい。前記乾燥風量が20m/時間より少ないと、乾燥効率が悪くなることがある。一方、400m/時間より風量を多くしても一定量以上あれば乾燥効果の更なる向上は小さく経済的でない。
エアーの露点は、0〜−60℃が好ましく、−10〜−50℃がより好ましく、−20〜−40℃が特に好ましい。
乾燥時間は、15分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上が特に好ましい。一方、50時間を超えて乾燥させても更なる水分率の低減効果は少なく、樹脂の熱劣化の懸念が発生するため、乾燥時間を不必要に長くすることは好ましくない。
前記乾燥工程を経たセルロースエステル樹脂の含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
(3)溶融押出工程
前記セルロースエステル樹脂は、押出機の供給口を介してシリンダー内に供給される。
シリンダー内は、供給口側から順に、供給口から供給したセルロースエステル樹脂を定量輸送する供給部(領域A)とセルロースエステル樹脂を溶融混練・圧縮する圧縮部(領域B)と溶融混練・圧縮されたセルロースエステル樹脂を計量する計量部(領域C)とで構成される。
前記セルロースエステル樹脂は、水分量を低減させるために、押出機内でも乾燥させることが好ましいが、残存する酸素による溶融樹脂の酸化を防止するために、該乾燥は、前記押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。前記押出機のスクリュー圧縮比は、2.5〜4.5に設定され、L/Dは、20〜70に設定されていることが好ましい。
ここで、「スクリュー圧縮比」とは、供給部Aと計量部Cとの容積比、すなわち、(供給部Aの単位長さ当たりの容積)÷(計量部Cの単位長さあたりの容積)で表され、供給部Aのスクリュー軸の外径d1、計量部Cのスクリュー軸の外径d2、供給部Aの溝部径a1、及び計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。
また、「L/D」とは、シリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。
押出温度は、190〜240℃に設定されることが好ましい。押出機内での温度が230℃を超える場合には、押出機とダイとの間に冷却機を設けるようにすることが好ましい。
前記スクリュー圧縮比が2.5を下回って小さ過ぎると、十分に溶融混練されず、未溶解部分が発生したり、せん断発熱が小さ過ぎて結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースエステル樹脂フィルムに微細な結晶が残存し易くなることがあり、更に、気泡が混入し易くなることがある。これにより、セルロースエステル樹脂フィルムの強度が低下したり、あるいはフィルムを延伸する場合に、残存した結晶が延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなることがある。逆に、前記スクリュー圧縮比が4.5を上回って大き過ぎると、せん断応力がかかり過ぎて発熱により樹脂が劣化し易くなるので、製造後のセルロースエステル樹脂フィルムに黄色味が出易くなることがある。また、せん断応力がかかり過ぎると、分子の切断が生じ、分子量が低下してフィルムの機械的強度が弱くなることがある。したがって、製造後のセルロースエステル樹脂フィルムに黄色味が出にくく、かつフィルム強度が強く、更に延伸破断しにくくするためには、前記スクリュー圧縮比は、2.5〜4.5の範囲が好ましく、2.8〜4.2の範囲がより好ましく、3.0〜4.0の範囲が特に好ましい。
また、前記L/Dが20を下回って小さ過ぎると、溶融不足や混練不足となり、圧縮比が小さい場合と同様に、製造後のセルロースエステル樹脂フィルムに微細な結晶が残存し易くなることがある。逆に、前記L/Dが70を上回って大き過ぎると、押出機内でのセルロースエステル樹脂の滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を引き起こし易くなることがある。また、滞留時間が長くなると分子の切断が生じたり、分子量が低下してセルロースエステル樹脂フィルムの機械的強度が弱くなることがある。したがって、製造後のセルロースエステル樹脂フィルムに黄色味が出にくく、かつ、フィルム強度が強く更に延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜70の範囲が好ましく、22〜65の範囲がより好ましく、24〜50の範囲が特に好ましい。
また、押出温度は、上述の温度範囲にすることが好ましい。
このようにして得られたセルロースエステル樹脂フィルムは、ヘイズ値が2.0%以下、イエローインデックス(YI値)が10以下であることが好ましい。
ここで、前記ヘイズ値は、押出温度が低過ぎないかの指標、すなわち製造後のセルロースエステル樹脂フィルムに残存する結晶の多少を知る指標になり、前記ヘイズ値が2.0%を超えると、製造後のセルロースエステル樹脂フィルムの強度低下と延伸時の破断が発生し易くなることがある。
また、前記イエローインデックス(YI値)は、押出温度が高過ぎないかを知る指標となり、イエローインデックス(YI値)が10以下であれば、黄色味の点で問題無い。
押出機の種類としては、一般的には、設備コストの比較的安い単軸押し出し機が用いられることが多く、例えば、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプが挙げられるが、熱安定性の比較的悪いセルロースエステル樹脂には、フルフライトタイプが好ましい。
また、設備コストは高価であるが、スクリューセグメントを変更することにより、途中でベント口を設けて不要な揮発成分を脱揮させながら押出ができる二軸押出機を用いることも可能である。
前記二軸押出機には、大きく分類して同方向と異方向のタイプがありどちらも用いることが可能であるが、滞留部分が発生し難くセルフクリーニング性能の高い同方向回転のタイプが好ましい。
前記二軸押出機は、設備が高価であるが、混練性が高く、樹脂の供給性能に優れ、低温での押出が可能となるため、セルロースエステル樹脂の製膜に適している。また、ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態でのセルロールエステル樹脂ペレットやパウダーをそのまま使用することもできる。更に、製膜途中で出たフィルムのミミ等も乾燥させることなしにそのまま再利用することもできる。
なお、押出機の好ましいスクリューの直径は、目標とする単位時間あたりの押出量によって異なるが、10mm以上300mm以下が好ましく、20mm以上250mm以下がより好ましく、30mm以上150mm以下が特に好ましい。
(4)濾過工程
前記濾過工程は、樹脂中の異物濾過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるために、押出機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式の濾過により行うことが好ましい。また、より高精度で異物濾過をするために、ギアポンプ通過後、いわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。
濾過は、濾過部を1カ所設けて行ってもよいし、複数箇所設けて行う多段濾過でもよい。
フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、15〜3μmが好ましく、10〜3μmがより好ましい。特に、最終的に異物濾過を行うリーフ型ディスクフィルター装置を使用する場合には、品質の上で濾過精度の高い濾材を使用することが好ましく、耐圧、フィルターライフの適性を確保するために、装填枚数にて調整することができる。
濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも、ステンレス鋼、スチールなどを用いることがより好ましく、腐食の点からステンレス鋼を用いることが特に好ましい。
前記濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば、金属長繊維あるいは金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
(5)ギアポンプによる樹脂供給工程
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機とダイスの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量のセルロースエステル樹脂を供給する、ギアポンプによる樹脂供給工程を経ることが好ましい。
ここで、「ギアポンプ」とは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するポンプである。押出機先端部分の樹脂圧力に若干の変動があっても、前記ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。前記ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の樹脂圧力の変動幅を±1%以内にすることができる。
前記ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。また、ギアポンプのギアの変動を解消した3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも好適に用いることができる。
前記ギアポンプを用いるその他の利点としては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減、樹脂温上昇の防止、輸送効率の向上、押出機内での滞留時間の短縮、押出機のL/Dの短縮、などが挙げられる。また、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギアポンプが無いと、炉圧の上昇と共に、スクリューから供給される樹脂量が変動したりすることがあるが、ギアポンプを組み合わせて用いることにより解消することができる。
一方、前記ギアポンプの弊害としては、設備の選定方法によっては、設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなったり、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがある。
樹脂が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の滞留時間は、2分以上60分以下が好ましく、3分以上40分以下がより好ましく、4分以上30分以下が特に好ましい。
前記ギアポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量及び送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生するため、セルロースエステル樹脂の溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)を行うことが好ましい。
また、場合によっては、ギアポンプの滞留部分がセルロースエステル樹脂の劣化の原因となるため、可能な限り滞留の少ない構造が好ましい。
押出機とギアポンプあるいはギアポンプとダイ等をつなぐポリマー管やアダプタについても、可能な限り滞留の少ない設計とすることが好ましく、溶融粘度の温度依存性の高いセルロースエステル樹脂の押出圧力安定化のためには、温度の変動を可能な限り小さくすることが好ましい。
一般的には、ポリマー管の加熱には、設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。
(6)ダイ送給工程
上述のように構成された押出機によって、セルロースエステル樹脂が溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂がダイに連続的に送られるダイ送給工程を経る。
前記ダイは、ダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、及びハンガーコートダイのいずれのタイプでも特に制限はない。また、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れてもよい。
Tダイ出口部分のリップクリアランスは、フィルム厚みの1.0〜5.0倍が好ましく、1.2〜3倍がより好ましく、1.3〜2倍が特に好ましい。前記リップクリアランスがフィルム厚みの1.0倍より小さい場合には、製膜により面状の良好なシートを得ることが困難なことがある。また、前記リップクリアランスがフィルム厚みの5.0倍を超えて大きい場合にはシートの厚み精度が低下することがある。
前記ダイは、フィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み調整が厳密にコントロールできるものが好ましい。
フィルムの厚み調整は、40〜50mm間隔で調整可能なタイプが好ましく、35mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプがより好ましく、25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが特に好ましい。
また、セルロールエステル樹脂は、溶融粘度の温度依存性、せん断速度依存性が高いことから、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラが可能な限り少ない設計とすることが好ましい。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも、長期連続生産の厚み変動の低減に有効である。
フィルムの製造は、設備コストの安い単層製膜装置が一般的に用いられるが、機能層を外層に設けために多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には、機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
(7)キャスト工程
前記ダイ送給工程を経て、前記ダイよりシート上に押し出された溶融樹脂は、キャスティングドラム上で固化するキャスト工程を経て、フイルムとされる。
前記キャスト工程では、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよいし、一部に実施してもよく、特に制限はないが、一般的には、エッジピニングと呼ばれる、フィルムの両端部にのみ密着させる方法が取られることが多い。
前記キャスティングドラムは、複数本用い、徐冷することがより好ましい、一般的には、3本の冷却ロールを用いることが比較的よく行われているが、特に制限はない。
ロールの直径は、50mm以上5,000mm以下が好ましく、100mm以上2,000mm以下がより好ましく、150mm以上1,000mm以下が特に好ましい。
複数本あるロールの間隔は、面間で0.3mm以上300mm以下が好ましく、1mm以上100mm以下がより好ましく、3mm以上30mm以下が特に好ましい。
前記キャスティングドラムは、60℃以上160℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がより好ましく、80℃以上140℃以下が特に好ましい。
得られたフィルムは、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。
巻き取り速度は、10m/分以上100m/分以下が好ましく、15m/分以上80m/分以下がより好ましく、20m/分以上70m/分以下が特に好ましい。
フィルムの製膜幅は、0.7m以上5m以下が好ましく、1m以上4m以下がより好ましく、1.3m以上3m以下が特に好ましい。
このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは、30μm以上400μm以下が好ましく、40μm以上300μm以下がより好ましく、50μm以上200μm以下が特に好ましい。
また、いわゆるタッチロール法を用いる場合、タッチロール表面は、ゴム、テフロン(登録商標)等の樹脂でもよく、金属ロールでもよい。更に、金属ロールの厚みを薄くすることでタッチしたときの圧力によりロール表面が若干くぼみ、圧着面積が広くなりフレキシブルロールと呼ばれる様なロールを用いることもできる。
前記タッチロール温度は、60℃以上160℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がより好ましく、80℃以上140℃以下が特に好ましい。
(8)巻取り工程
このようにして得たシートは、両端をトリミングし、巻き取る巻取り工程を経ることが好ましい。前記トリミングされた部分は、粉砕処理された後、あるいは必要に応じて、造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料として、又は異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。
トリミングカッターとしては、ロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等のいずれのタイプの物を用いてもよい。材質についても、炭素鋼及びステンレス鋼のいずれを用いてもよい。一般的には、超硬刃、セラミック刃を用いると、刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられるので好ましい。
また、巻取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
巻取り張力は、1kg/m幅以上50kg/m幅以下が好ましく、2kg/m幅以上40kg/m幅以下がより好ましく、3kg/m幅以上20kg/m幅以下が特に好ましい。前記巻取り張力が1kg/m幅より小さい場合には、フィルムを均一に巻き取るのが困難なことがある。逆に、巻取り張力が50kg/m幅を超える場合には、フィルムが堅巻きになってしまい、巻き外観が悪化するのみでなく、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びて、フィルムの波うちの原因になったり、フィルムの伸びによる残留複屈折が生じることがある。
前記巻取り張力は、ラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。製膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には、熱膨張によりフィルムの長さが僅かに異なる場合があるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからないようにすることが好ましい。
前記巻取り張力は、テンションコントロールの制御により、一定張力で巻き取ることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻取り張力にすることがより好ましい。一般的には、巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、巻き径が大きくなるにつれて張力を大きくする方が好ましい場合もある。
<<未延伸セルロースエステル樹脂フィルムの物性>>
得られた未延伸セルロースエステル樹脂フィルムは、面内レターデーション(Re)が0〜20nm,膜厚方向のレターデーション(Rth)が0〜80nmであることが好ましく、Reが0〜15nm,Rthが0〜70nmであることがより好ましく、Reが0〜10nm,Rthが0〜60nmであることが特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムのヘイズ値は、0〜1%が好ましく、0〜0.8%がより好ましく、0〜0.6%が特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムの厚みむらは、長手方向、幅方向いずれも0%以上4%以下が好ましく、0%以上3%以下がより好ましく、0%以上2%以下が特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムの引張り弾性率は、1.5kN/mm以上3.5kN/mm以下が好ましく、1.7kN/mm以上2.8kN/mm以下がより好ましく、1.8kN/mm以上2.6kN/mm以下が特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムの破断伸度は、3%以上100%以下が好ましく、5%以上80%以下がより好ましく、8%以上50%以下が特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムのTgは、95℃以上145℃以下が好ましく、100℃以上140℃以下がより好ましく、105℃以上135℃以下が特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムの80℃1日での熱寸法変化は、縦、横両方向とも0%以上±1%以下が好ましく、0%以上±0.5%以下がより好ましく、0%以上±0.3%以下が特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムの40℃90%RHでの透水率は、300g/m・日以上1,000g/m・日以下が好ましく、400g/m・日以上900g/m・日以下がより好ましく、500g/m・日以上800g/m・日以下が特に好ましい。
前記未延伸セルロースエステル樹脂フィルムの25℃80%rhでの平衡含水率は、1質量%以上4質量%以下が好ましく、1.2質量%以上3質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下が特に好ましい。
(9)後乾燥及び延伸工程
延伸は、出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(MD延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に延伸してもよい(TD延伸)。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時二軸延伸法を用いても良い。
Re/Rthの比を自由に制御するには、MD延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することでも達成できる。すなわち、縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。また、MD延伸とTD延伸とを組み合わせてRe及びRthを制御することもできる。すなわち、MD延伸倍率とTD延伸倍率との差を小さくすることでReは小さくでき、この差を大きくすることでReは大きくできる。
なお、その他の内容については、溶液製膜における、支持体から剥離後の乾燥、及び延伸と同様であるので、説明を省略する。
−−添加剤−−
前記セルロースエステル樹脂には、各調製段階において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、劣化防止剤及び紫外線防止剤、レターデーション上昇剤、など)を加えることができる。
また、その添加する時期は、ドープ作製時であれば特に制限はないが、ドープ調製の最後に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
(1)可塑剤
前記可塑剤としては、リン酸エステル又はカルボン酸エステルが用いられる。
前記リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートなどが挙げられる。
前記カルボン酸エステルとしては、例えば、フタル酸エステル及びクエン酸エステルが挙げられる。
前記フタル酸エステルとしては、例えば、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が挙げられる。
前記クエン酸エステルとしては、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチルが挙げられる。
その他のカルボン酸エステルとしては、例えば、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが挙げられる。
前記グリコール酸エステルとしては、例えば、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどが挙げられる。更に、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ジトリメチロールプロパンテトラプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート、イノシトールペンタアセテート、ソルビタンテトラブチレート等も好適に用いることができる。
前記可塑剤の中でも、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート等が好ましい。特に、トリフェニルホスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネートが好ましい。これらの可塑剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記可塑剤の添加量は、セルロースエステルに対して1〜30質量%が好ましく、3〜16質量%がより好ましい。
前記可塑剤として、特開平11−124445号公報記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号公報記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号公報記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号公報記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号公報記載の置換フェニルリン酸エステル類なども挙げられる。
また、アミド類も好ましく、例えば、ベンゾイルアニリン、ベンゾイル N−メチル-アニリン、N−フェニル−ベンゼンスルフォンアミド、N,N-ジフェニル−ベンゼンスルフォンアミドなどが挙げられる。
(2)劣化防止剤及び紫外線防止剤
前記セルロースエステル樹脂には、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)や紫外線防止剤を添加してもよい。これらの劣化防止剤や紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。
好ましい紫外線防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。これらの中でも、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が、特に好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。
前記劣化防止剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を、特に好適な例として挙げることができる。
これらの添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがより好ましい。前記添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められないことがある。前記添加量が1質量%を超えると、樹脂表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。
前記劣化防止剤乃至紫外線防止剤には、1種又は2種以上の紫外線吸収剤を含有させることが特に好ましい。
前記紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
具体的には、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール系化合物及びベンゾフェノン系化合物が好ましく、セルロースエステルに対する不要な着色が少ないことから、ベンゾトリアゾール系化合物が特に好ましい。
(3)レターデーション上昇剤
また、光学異方性をコントロールするためのレターデーション上昇剤が、必要に応じて添加される。前記レターデーション上昇剤は、セルロースエステル樹脂フィルムのレターデーションを調整するため、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。なお、前記芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含んでいてもよい。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は、一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがより好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、1,3,5−トリアジン環が挙げられる。
なお、前記芳香族化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記芳香族化合物は、セルロースエステル樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用することが好ましく、0.05〜15質量部の範囲で使用することがより好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することが特に好ましい。
前記レターデーション上昇剤を適宜使用することにより、面内レターデーション(Re)及び膜厚方向のレターデーション(Rth)を調整することができる。前記各レターデーションの算出方向については前述した通りである。
(4)その他の添加剤
また、セルロースエステル樹脂には、必要に応じて更に種々の添加剤を溶液の調製前から調製後のいずれの段階で添加してもよい。その他の添加剤としては、安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などが挙げられる。
前記安定剤としては、ホスファイト系化合物及び亜リン酸エステル系化合物の少なくともいずれかを用いることが好ましい。これにより、経時劣化を抑制できる上、ダイラインも改善できる。これは、これらの化合物がレベリング剤として働き、ダイの凹凸により形成されたダイラインを解消するためである。
前記安定剤の配合量は、0.005〜0.5質量%であるのが好ましく、0.01〜0.4質量%であるのがより好ましく、0.02〜0.3質量%であるのが特に好ましい。
前記ホスファイト系化合物としては、特に制限はないが、下記構造式(1)〜(3)で示されるホスファイト系化合物が好ましい。
前記構造式(1)〜(3)中、R、R,R、R、R、R、R’、R’、R’・・・R’p、R’p+1は、水素又は炭素数4〜23のアルキル、アリール、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、アルコキシアリール、アリールアルキル、アルキルアリール、ポリアリールオキシアルキル、ポリアルコキシアルキル、及びポリアルコキシアリール基から成る群から選択された基を示す。但し、構造式(1)〜(3)の各同一式中で全てが水素になることはない。構造式(2)中で示されるホスファイト系着色防止剤中のXは、脂肪族鎖、芳香核を側鎖に有する脂肪族鎖、芳香核を鎖中に有する脂肪族鎖、及び上記鎖中に2個以上連続しない酸素原子を包含する鎖から成る群から選択された基を示す。また、k、qは1以上の整数、pは3以上の整数を示す。
これらのホスファイト系化合物のk、qの数は、1〜10が好ましい。k、qの数を1以上にすることで、加熱時の揮発性が小さくなり、10以下にすることで、セルロースアセテートプロピオネートとの相溶性が向上するため好ましい。また、pの値は3〜10が好ましい。pの値を3以上とすることで、加熱時の揮発性が小さくなり、10以下にすることでセルロースアセテートプロピオネートとの相溶性が向上するため好ましい。
前記構造式(1)で表されるホスファイト系化合物の具体例としては、下記構造式(4)〜(7)で表されるものが好ましい。
前記構造式(2)で表されるホスファイト系化合物の具体例としては、下記構造式(8)〜(10)で表されるものが好ましい。
前記亜リン酸エステル系化合物としては、例えば、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
その他、弱有機酸、チオエーテル系化合物、エポキシ化合物等を安定剤として配合してもよい。
「弱有機酸」とは、pKaが1以上のものであり、本発明の作用を妨害せず、着色防止性、物性劣化防止性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記チオエーテル系化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、パルミチルステアリルチオジプロピオネートが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記エポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールAより誘導されるものが挙げられ、エピクロルヒドリンとグリセリンからの誘導体、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート等の環状のものも用いることができる。また、エポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油や長鎖−α−オレフィンオキサイド類なども用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
1.炭酸塩の製造
金属イオン源としての0.23molの水酸化ストロンチウム水溶液500mlと、エタノール490mlとを混合して8℃に冷却した溶液に、炭酸源としての0.12molの炭酸アンモニウム水溶液480mLを攪拌混合して反応させた。反応液中のpHは13.0であった。
次いで、反応液を攪拌しながら、炭酸源としての炭酸ガスを、金属イオン源より過剰に供給し、メタノールに溶解したステアリン酸(和光純薬工業(株)社製)を炭酸ストロンチウムに対して2.5質量%となるように加え、十分に攪拌して表面処理を行い、結晶成長を終了した。
最後に、水洗を行って濾過後乾燥させ、炭酸ストロンチウム結晶T−1を得た。この結晶を透過型電子顕微鏡で観察し、株式会社マウンテック製、画像解析式粒度分布測定ソフトウエア「Mac−View」Ver.3を用いて155個の粒子の長径を測定したところ、アスペクト比が4.6、長径の平均値が330nm、該長径の下記式で求められる変動係数が0.31であった。さらに、粒子の比表面積測定については、日本ベル株式会社製の自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP−mini)にて測定を行い、13m/gであった。
但し、前記式において、rは長径の平均値、nは長径を測定した粒子の数、rはi番目に測定した粒子の長径を表す。
2.セルロースエステル樹脂の製膜
(1)セルロースエステル樹脂の調製
表2に示す置換度でアセチル基及びアシル基により置換されたセルロースエステル樹脂を、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、かつ、アシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から、1種単独または2種以上を組み合わせて選択される)を添加して、40℃でエステル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することで、置換度を調整した。エステル化後、40℃で熟成を行った。このようにして得たセルロースエステル樹脂の重合度(DP)は下記の方法で求め、表2に記載した。また、置換度は、H−NMRを使用して、その波長を分析することにより測定した。
<<重合度測定法>>
絶乾したセルロースエステル樹脂約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
〔式〕
ηrel=T/T0
[η]=(1nηrel)/C
DP=[η]/Km
前記式中、Tは測定試料の落下秒数、T0は、溶媒単独の落下秒数、Cは濃度(g/l)、Kmは6×10−4を表す。
(2)セルロースエステル樹脂の溶解
下記に示す溶媒に、後述するセルロースエステル樹脂及び添加剤を攪拌しながら投入した。投入後、25℃で3時間膨潤させてスラリーを作成した。これを、再度攪拌し、完全にセルロースエステル樹脂を溶解した。
溶解後、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。
i)溶媒
下記溶媒を使用した。なお、数字は質量部を表す。
・非塩素系1:酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(80/5/7/4/4)
ii)セルロースエステル樹脂
乾燥して含水率を0.5質量%以下とした後、表2に記載のセルロースエステル樹脂を前記溶媒に対し25質量%となるように調製した。
iii)添加剤
・可塑剤A:トリフェニルフォスフェート(2.7質量%)
・可塑剤B:ビフェニルジフェニルフォスフェート(1.3質量%)
・紫外線吸収剤a:2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(0.7質量%)
・紫外線吸収剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール(0.1質量%)
・紫外線吸収剤c:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール(0.4質量%)
・炭酸塩結晶T−1(セルロースエステル樹脂の固形分質量に対して0.5質量%)
・微粒子:二酸化ケイ素(粒径20nm)、モース硬度 約7(0.23質量%)
・クエン酸エチルエステル(モノエステルとジエステルが1:1混合、0.15質量%)
・下記構造式(I)で表される棒状化合物(3質量%)
・下記構造式(II)で表される板状化合物(2質量%)
*前記添加剤の添加量(質量%)は、炭酸塩結晶を除き、全てセルロースエステル樹脂に対する割合である。
(3)未延伸フィルムの製膜
前記セルロースエステル樹脂を、以下に説明するバンド法により流延した。
<<バンド法>>
ギーサーを通して、15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。使用したギーサーは、特開平11−314233号に記載の形態のものを用いた。なお、流延スピードは60m/分でその流延幅は250cmとした。
残留溶媒を100質量%剥ぎ取った後、40℃から120℃の間を30℃/分で昇温(除昇温)した後、120℃で5分、更に145℃で20分乾燥した後、30℃/分で徐冷し、セルロースエステル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムは幅方向両端を3cmトリミングした後、両端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを付与し、3,000mロール状に巻き取った。
(4)剥取り・乾燥
流延後、流延膜を支持体から剥取った。この剥取り直後に、搬送しながら乾燥風を吹き付けて乾燥し、140℃で30分熱処理した後、水蒸気に曝した。次いで、フィルムの幅方向両端を15cmずつトリミングし、両端に高さ50μm幅1cmのナーリング(厚み出し加工)を行い、長さ3,000mの未延伸フイルムを得た。
得られた未延伸フィルムの降伏応力を、以下のようにして測定した。
−−降伏応力測定−−
25℃60%で3時間調湿した後、同じ温湿度でチャック間10cm、幅1cmのサンプルを10mm/分で引っ張り測定した。なお、チャック把持される部分には、セロテープ(登録商標)を1重に巻き付け、チャック部の凹凸で引っ張り試験中に破断するのを防いた。
前記引っ張り試験により、1〜3mm延伸した箇所の応力−歪み曲線の外挿線(弾性部)と、7〜10mm延伸した箇所の応力−歪み曲線の内挿線(平坦部)との交点の応力を、降伏応力として求めた。結果を表3に示す。
(5)延伸
得られた未延伸フィルムを、セルロースエステル樹脂フィルムのTgより10℃高い温度でドライ延伸した。延伸速度は、MD方向(フィルム長手方向)に行う際には、前記未延伸フィルムに対して100%/秒、TD方向(フィルム長手方向と直交する方向)に行う際には、前記未延伸フィルムに対して10%/秒とした。
これにより、膜厚300μmのセルロースエステル樹脂フィルムを得た。なお、Tgは下記の方法で測定した。
<<Tg測定>>
示差走査熱量計(DSC)(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)の測定パンにサンプルを20mg入れて、これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後(1st−run)、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃から250℃まで昇温した(2nd−run)。2nd−runで求めたTg(ベースラインが低温側から偏奇し始める温度)を用いた。
−レターデーションの評価−
得られたセルロースエステル樹脂フィルムについて、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、450nm、550nm、及び590nmの波長における面内レターデーション(Re)を測定した。測定は、相対湿度30%における雰囲気で行った。更に、雰囲気を相対湿度70%(高湿)に変更して、450nmの波長における面内レターデーション(Re)を測定した。結果を表3に示す。
−波長450nmの光透過率の測定−
前記セルロースエステル樹脂フィルムについて、自動複屈折計(KOBRA−21ADH/PR:王子計測器(株)製)を用いて波長450nmの光透過率(%)を測定した。なお、測定は、低湿(相対湿度30%下)で行い、各フィルムの光透過率の値は、比較例1の光透過率に対する相対値を百分率(%)で表した。結果を表3に示す。
(実施例2〜5及び比較例1〜4)
実施例1において、炭酸塩結晶T−1の添加量、セルロースエステル樹脂の有するアセチル基及びアシル基の置換度、乃至延伸倍率を表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、セルロースエステル樹脂フィルムを製造した。得られたセルロースエステル樹脂フィルムについて、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
注1)Aはアセチル基、Prはプロピオニル基、Buはブチリル基、Peはペンチル基、Heはヘキシリル基の置換度を示す。
注2)BはPr、Bu、Pe、He基の総和を示す。
表3の結果から、実施例1〜5のセルロースエステル樹脂フィルムでは、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ、Re450が80〜125nm、Re450/590が0.74以上0.80以下の範囲内にあるため、1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られることが判った。
また、実施例1〜5のセルロースエステル樹脂フィルムを、液晶表示装置に用いることにより、良好なコントラストを実現できた。
本発明のセルロースエステル樹脂フィルムは、セルロースエステル樹脂の光透過率を低減せずに、湿度変動による環境変化を受けにくく、かつ1枚のフィルムで四分の一の波長分散特性を広い波長域で得られるため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される液晶表示素子を構成するフィルムとして好適に使用することができる。
図1は、ダブルジェット法による本発明のセルロースエステル樹脂フィルムの製造方法における炭酸塩結晶製造工程の一例を説明する工程図である。 図2は、シングルジェット法による本発明のセルロースエステル樹脂フィルムの製造方法における炭酸塩結晶製造工程の一例を説明する工程図である。

Claims (9)

  1. アセチル基の置換度(A)及び炭素原子数が3〜6のアシル基の置換度(B)が下記式で表されるセルロースエステル樹脂と、負の複屈折性を有する無機粒子とを含有し、450nmの波長における面内レターデーション(Re450)が、80〜125nmであり、590nmの波長における面内レターデーション(Re590)が、120〜160nmであり、かつ、Re450/Re590が、0.74以上0.80以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂フィルム。
    〔式〕
    2.0≦A+B≦3.0
  2. 降伏応力が5kg/mm以上10kg/mm以下の未延伸フィルムを、フィルム長手方向及び該フィルム長手方向と直交する方向の少なくともいずれかの方向に延伸し、延伸した方向における距離を、延伸前の距離に対して1.1倍以上2.0倍以下とした請求項1に記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
  3. 少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を含む請求項1から2のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
  4. 無機粒子が炭酸塩粒子である請求項1から3のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
  5. 炭酸塩粒子が、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウムの少なくともいずれかである請求項4に記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
  6. 無機粒子の比表面積が少なくとも4m/gである請求項1から5のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
  7. 無機粒子のアスペクト比が1.5以上であり、長径の平均値が500nm以下であり、かつ下記式で表される長径の変動係数が0.40以下である請求項1から6のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
    ただし、前記式中、rは、長径の平均値を表し、nは、長径を測定した粒子の数を表し、rは、i番目に測定した粒子の長径を表す。
  8. 無機粒子の形状が針状乃至棒状である請求項1から7のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
  9. 液晶表示素子に用いられる請求項1から8のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂フィルム。
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