JP2007152590A - 積層熱可塑性樹脂フィルムロール - Google Patents

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直樹 水野
Hidenori Sugihara
秀紀 杉原
Hiroshi Taki
博 多喜
Masashi Oki
政司 沖
Shigenori Iwade
茂則 岩出
Yasuhiro Nishino
泰弘 西野
Katsuhiko Nose
克彦 野瀬
Chikao Morishige
地加男 森重
Toshitake Suzuki
利武 鈴木
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Abstract

【課題】密着性と耐ブロッキング性が高度に優れ、光学欠点の少ない積層熱可塑性樹脂フィルムロールを提供することにある。さらには、前記の機能に加え、透明性が高度に優れる積層熱可塑性樹脂フィルムロールを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂とを含有する樹脂成分及び粒子を含有する被覆層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムを巻き取ってなる積層熱可塑性樹脂フィルムロールであって、前記被覆層は、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相Aとポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相Bとに特定のPEs表面分率でミクロ相分離又はナノ相分離した構造を有し、且つ、被覆層樹脂成分と粒子を主成分とする長径0.3mm以上の異物の含有量が30個/100m以下であることを特徴とする積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
【選択図】なし

Description

本発明は、ディスプレイ関連用途に主として用いられる、反射防止フィルム、光拡散シート、プリズムシート、赤外線吸収フィルム、透明導電性フィルム、防眩フィルムなどの各種機能層(ハードコート層、光拡散層、プリズム層、赤外線吸収層、透明導電層、防眩層など)との密着性に優れ、さらに、被覆層樹脂成分と粒子とを主成分とする異物による光学欠点が少なく、かつ耐ブロッキング性、透明性に優れる、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材となる積層熱可塑性樹脂フィルムロールに関するものである。
一般に、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等のディスプレイの部材に用いられる光学機能性フィルムの基材には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル系ポリマー、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン等からなる透明フィルムが用いられている。これらの基材フィルムを各種光学機能フィルムに用いる場合には、基材フィルムに、各種用途に応じた機能層が積層される。例えば、液晶ディスプレイ(LCD)では、表面の傷つきを防止する保護膜(ハードコート層)、外光の映り込みを防止する反射防止層(AR層)、光の集光や拡散に用いられるプリズム層、輝度を向上する光拡散層等の機能層が挙げられる。これらの基材の中でも、特に、二軸配向ポリエステルフィルムは、優れた透明性、寸法安定性、耐薬品性の点から、各種光学機能性フィルムの基材として広く使用されている。
一般に、二軸配向ポリエステルフィルムや二軸配向ポリアミドフィルムのような二軸配向熱可塑性フィルムの場合、フィルム表面は高度に結晶配向しているため、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性に乏しいという欠点がある。このため、従来から二軸配向熱可塑性樹脂フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
また、ポリオレフィンフィルムのような極性基を有しないフィルムでは、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性が非常に乏しいため、事前にコロナ放電処理、火焔処理などの物理的処理や化学処理を行った後、フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
例えば、基材の熱可塑性樹脂フィルムの表面に、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、アクリルグラフトポリエステルなどの各種樹脂を被覆層の主たる構成成分とし、塗布法によって基材フィルムに前記被覆層を設けることにより、基材フィルムに易接着性を付与する方法が一般的に知られている。この塗布法の中でも、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムに、直接又は必要に応じてコロナ放電処理を施してから、前記樹脂の溶液または樹脂を分散媒で分散させた分散体を含有する水性塗布液を基材フィルムに塗工し、乾燥後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させる方法(いわゆる、インラインコート法)や、熱可塑性樹脂フィルムの製造後、該フィルムに水系または溶剤系の塗布液を塗布後、乾燥する方法(いわゆる、オフラインコート法)が工業的に広く実施されている。
LCD、PDP等のディスプレイは、年々大型化と低コスト化が進み、その部材として用いられる光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの製造工程において、生産速度の高速化が実施されている。このような製造工程の高速化にともない、ハードコート層、拡散層、プリズム層のような機能層と基材フィルムとの界面に、硬化収縮にともなう応力がより生じやすくなっている。そのため、ディスプレイを製造するために、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートを特定のサイズにカッティングする際に、前記の界面における密着性が不十分であると、端部が特に剥がれやすくなるという問題がおこってきた。この傾向は、ロール状に巻き取ったフィルムの大型化や、製造工程における生産速度の高速化が進むほど、カッティング時の衝撃による界面の剥離の影響はより顕著になり、従来の密着性のレベルでは不十分となってきている。
さらに、前記のプリズム層や拡散層等の機能層を形成させるために使用する加工剤は、環境負荷の低減の点から、有機溶剤で希釈せずに直接、基材フィルムに加工剤を塗布する場合が多い。そのため、有機溶剤による被覆層の濡れ性向上効果が十分に得られない場合があるため、より高い密着性が要求される。一方、ハードコートのように平滑性を重視する用途では、加工剤の粘度を下げて良好なレベリング効果を得るために、加工剤を有機溶剤で希釈する場合が多い。この場合には、積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層には、適度な耐溶剤性が要求される。
機能層と基材フィルム間の密着性を向上させるためには、被覆層を構成する樹脂に、ガラス転移温度が低い樹脂を用いる方法が一般的である。しかしながら、ガラス転移温度の低い樹脂を用いた場合、フィルムをロール状に連続的に巻き取り、ロール状フィルムからフィルムを巻きだす際に、耐ブロッキング性が低下する傾向がある。
また、近年、低コスト化のために、ハードコート層や拡散層などの機能層を基材フィルムに積層するための加工機の大型化が進み、基材フィルムとして使用される易接着フィルムのロール径も大型化してきている。これにともなって、ロールの巻きズレ防止のために、高張力で巻き取る場合、特に、ロールの巻き芯部では高い圧力で圧着されるために、ブロッキングがより発生しやすくなる。
耐ブロッキング性を向上させるためには、フィルム表面に凹凸を付与し、接触面積を小さくする方法が一般的に採用される。フィルム表面に凹凸を付与するためには、被覆層又は基材フィルム中に含有させる、無機粒子あるいは有機粒子の含有量を増やす方法、あるいは粒径の大きな粒子を用いる方法が一般的である。しかしながら、一般的に市販で入手できる粒子の屈折率は被覆層に用いる樹脂の屈折率と相違しており、またフィルムの延伸処理にともない粒子の周囲にボイドが形成されるため、これらの方法では、フィルムの光線透過率の低下、ヘイズの上昇などが生じる。特に、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムに要求される、透明性が低下する。すなわち、従来の方法では、工程の高速化やフィルムのロール径の大型化にともなう新たな問題により、透明性を維持しながら、機能層との密着性や耐ブロッキング性を向上させることは極めて困難であった。
特に、二軸配向ポリエステルフィルムは、プリズムレンズやハードコート等に使用されるアクリル系樹脂を主成分とするコート剤との密着性が悪く、これを改善するためにポリエステルフィルムの表面にポリウレタン系樹脂等よりなる被覆層を形成したものが各種提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、前記ポリウレタン系樹脂よりなる被覆層を形成したものは、ハードコート層などの機能層との密着力は向上するものの、基材であるポリエステルフィルムとの密着力が十分でなく、結果的に被覆層と機能層との界面の密着性が不十分となるという問題があった。さらに、埃等の異物や易滑性付与を目的とした粒子の凝集物が、被覆層内や被覆層表面に混入または付着することがあり、光学欠点となることが多くあった。
また、インラインコート法によって、二軸配向ポリエチレンテレフタレートからなる基体フィルム上に、ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を主たる構成成分とする樹脂組成物層を設け、基材ポリエステルフィルムとインキ等の機能層との密着性の向上を図る方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。具体的には、縦方向に一軸延伸されたポリエステルフィルムに、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂(=20/80;質量%)を含む水分散性塗布液を塗布後、テンターに導き、乾燥・横延伸後、220℃で熱固定して易接着性二軸配向ポリエステルフィルムを得ている。しかしながら、特許文献2記載の方法では、密着性は改善されるものの、近年、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートに使用する基材フィルムとして要求される、基材フィルムとハードコート層や拡散層などの機能層との密着性、耐ブロッキング性、透明性を同時に満足できるものではなかった。また、埃等の異物や易滑性付与を目的とした粒子の凝集物が、被覆層内や被覆層表面に混入または付着することがあり、光学欠点となることが多くあった。
光学欠点は、積層フィルムの透明性が向上し、ヘイズが小さくなる程、顕著に目立つため、特許文献1及び特許文献2記載のフィルムを特に光学用基材フィルムとして用いた場合、著しく品位に劣り、実用特性を満足できるものではない。
さらに、近年、特に光学フィルムにおいては、軽量化、低コスト化のため一枚のシートの両面に別々の機能を付与した複合機能を有する高付加価値フィルムが要求されるようになってきている。例えば、片面に傷つき防止機能、防汚機能の他、光拡散機能、反対面に集光機能、近赤外線吸収機能、電磁波遮断機能等複数の機能を有するような複合機能フィルムである。このような複合機能フィルムは、加工度が高いものとなるため、大きさ0.3mm以上と比較的大きく、発生頻度の小さい、例えば100m当たり数十個程度の欠点であっても、その経済的損失は極めて大きなものとなるので、その改善が強く要求されている。また、ディスプレイ等の大型化に伴い、同様の欠点発生頻度であっても、製品不良率は大幅に大きくなり、その改善が強く要望されてきている。
本出願人等は、基材フィルム製膜時の溶融樹脂及び樹脂組成物積層のための塗布液について高精度な濾過処理を行い、二軸配向ポリエチレンテレフタレートからなる基材フィルム上に、ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂、および適度な粒径の無機粒子を添加した樹脂組成物層を設けた、光学用基材フィルムとして極めて重要な特性である透明性を維持しつつ、市場からの要求レベルの密着性を十分満足することができ、且つ、光学欠点の少ない積層ポリエステルフィルムを提案した(例えば、特許文献3、4を参照)。具体的には、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)15μmのステンレス製焼結濾材にて濾過処理されたポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて得られた縦方向に一軸延伸されたポリエステルフィルムに、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂(=20/80;質量%)及び平均粒径の異なる2種類のシリカ粒子を含む水分散性塗布液を、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)25μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で濾過した後、塗布し、テンターに導き、乾燥、横延伸後、240℃で熱固定して得た易接着性二軸配向ポリエステルフィルムを開示した。これらの特許文献3及び4で得られた易接着性二軸配向ポリエステルフィルムは、優れた密着性及び、透明性を有し、且つ異物、スクラッチキズ等の光学欠点も大幅に改善され、従来要求されていた特性を満足するものであった。しかしながら、前述のように、近年の低コスト化、ディスプレイの大画面化に伴い、光学機能性フィルムまたは光学機能性シート用の基材フィルムとして要求される、基材フィルムと、ハードコート層、拡散層、プリズム層などの機能層との密着性、及び耐ブロッキング性への要求レベルは年々厳しくなる傾向にあり、現在の市場の要求品質に十分に満足できるものではなくなっていた。さらに、発生頻度が小さくとも比較的大きい(0.3mm以上)光学欠点は許容できないという現在の市場の要求品質には、十分に対応できるものではなくなってきていた。
また、本出願人は、密着性の均一性を改善するために、被覆層の塗布量の変動を低減した易接着フィルムロールに関する発明を提案した(例えば、特許文献5を参照)。具体的には、縦方向に一軸延伸されたポリエステルフィルムに、ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂(=50/50;質量%)、平均粒径1.4μmのシリカ粒子、及びフッ素系界面活性剤を含む水分散性塗布液を、塗布後乾燥炉で120℃にて乾燥して横延伸した後、220℃で熱固定した、易接着性二軸配向ポリエステルフィルムを開示した。得られたフィルムロールは、優れた密着性をフィルムロール全体で均一に有するものであり、市場からの要求レベルを満足するものであった。しかしながら、前述のように、近年要求される耐ブロッキング性に対しては十分に満足できるものではなくなっていた。また、この方法によっても、前記の大きさ0.3mm以上と比較的大きく、発生頻度の小さい光学欠点に対する現在の市場の要求品質に、十分に対応できるものではなくなってきていた。
以上のように、従来技術では、高透明性を維持しつつ、近年要求される高速カッティングに耐えうる密着性、及びフィルムロール径の大型化に対応できる耐ブロッキング性に対しては十分満足できなくなってきていたのである。そして、上記の光学欠点の発生原因については不明であり、塗布液に対していかに高精度な濾過処理を行っても、濾過処理のみでは光学欠点を低減できるものではなかった。
特開平6−340049号公報 特公昭64−6025号公報 特開2000−323271号公報 特開2000−246855号公報 特開2004−10669号公報
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、密着性と耐ブロッキング性が高度に優れ、光学欠点の少ない積層熱可塑性樹脂フィルムロールを提供することにある。さらには、前記の機能に加え、透明性が高度に優れる積層熱可塑性樹脂フィルムロールを提供することにある。
前記の課題は、以下の解決手段により達成することができる。
〔1〕熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂とを含有する樹脂成分及び粒子を含有する被覆層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムを巻き取ってなる積層熱可塑性樹脂フィルムロールであって、
前記被覆層は、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相Aとポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相Bとにミクロ相分離又はナノ相分離した構造を有し、かつ、走査型プローブ顕微鏡を位相測定モードで観察した際に、下記(1)式で定義される、前記被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)が5μm×5μmの測定面積で35%以上90%未満であり、且つ被覆層樹脂成分と粒子を主成分とする長径0.3mm以上の異物の含有量が30個/100m以下であることを特徴とする積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
PEs表面分率(%)=(ポリエステル相Aの面積/測定面積)×100 ・・・(1)
〔2〕巻き長が1500m以上であり、幅が0.5m以上である上記〔1〕記載のフィルムロール。
〔3〕共重合ポリエステル系樹脂が、低分子量成分の含有量の少ない共重合ポリエステル系樹脂である上記〔1〕又は〔2〕に記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔4〕低分子量成分の含有量の少ない共重合ポリエステル系樹脂が、共重合ポリエステル系樹脂の溶液を、液温度15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過し、50℃以上、70℃未満に加温した後、さらに15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過して精製して得られたものである上記〔3〕記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔5〕前記被覆層の表面を走査型プローブ顕微鏡の位相測定モードで観察し、明色相と暗色相の界面の輪郭を強調した位相像において、ボックスカウンティング法を用いて、明色相と暗色相の境界線(界面の輪郭)から求められるフラクタル次元が、5μm×5μmの測定面積で1.60〜1.95である上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔6〕前記熱可塑性樹脂フィルム中には実質的に粒子を含有せず、被覆層にのみ粒子を含有している上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔7〕前記粒子がシリカ粒子である上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔8〕被覆層中の粒子が、ポリエステル相Aまたはポリウレタン相Bに偏在している上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔9〕前記熱可塑性樹脂フィルムが、二軸配向ポリエステルフィルムまたは二軸配向ポリアミドフィルムである上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔10〕下記に定義する被覆層の堅さ指数が、3.0〜15.0nmである上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
なお、被覆層堅さ指数とは、先端に半径75μmのサファイヤが付いている針で、加重5gfをかけて被覆層の表面にキズを付け、三次元非接触表面形状計測装置でキズの凹凸形状を測定した時の隣り合う凸部と凹部との高低差の50箇所の測定値の平均値を意味する。
〔11〕前記積層熱可塑性樹脂フィルムのヘイズが1.5%以下である上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔12〕巻き出されるフィルムが、光学機能性フィルムまたは光学機能性シート用基材フィルムとして使用される上記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔13〕光学機能性フィルムまたは光学機能性シートが、ハードコートフィルム、反射防止フィルム、光拡散シート、プリズムシート、透明導電性フィルム、近赤外線吸収フィルムまたは電磁波吸収フィルムである上記〔12〕に記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔14〕前記被覆層の少なくとも片面に、アクリル系樹脂を主たる構成成分とする機能層を積層してなる上記〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
〔15〕被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)を、フィルムの長手方向(MD)に100m間隔で測定したときのPEs表面分率の変動率(MD)が、20%以下である上記〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
なお、上記被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を行うに当たり、前記の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを巻き出し、該フィルムの長手方向について、フィルム物性が安定している定常領域の一端を第1端部、他端を第2端部としたとき、第1端部の内側2m以内で1番目の測定を、また、第2端部の内側2m以内で最終の測定を行うと共に、1番目の測定箇所から100m毎に被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を各測定箇所において行い、次いで、下記式で定義される、被覆層の表面におけるPEs表面分率の変動率(MD)を算出する。
変動率(MD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
〔16〕前記積層熱可塑性樹脂フィルムロールを巻き出し、フィルムを幅方向(TD)に4等分し、4等分されたフィルムそれぞれの中央部の被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を行ったときの、下記式で定義される、被覆層の表面におけるPEs表面分率の変動率変動率(TD)が、20%以下である上記〔15〕記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
変動率(TD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールから巻き出されるフィルムは、光学欠点が少なく、また、被覆層を構成する2種類の樹脂、すなわち共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂が、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相Aとポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相Bに、特異的なミクロ相分離構造またはナノ相分離構造を有しており、被覆層表面のポリエステル相Aの面積率(PEs表面分率)が特定の範囲にあるため、ハードコート層、拡散層、プリズム層などの機能層との密着性と耐ブロッキング性に優れている。
また、被覆層にのみ特定の粒径の粒子を特定量含有させたり、あるいは被覆層表面のポリエステル相Aまたはポリウレタン相Bのいずれかの相に粒子を偏在化させたりすることで、透明性を高度に維持しながら、耐ブロッキング性、ハンドリング性、耐スクラッチ性を改善することができる。特に、被覆層にシリカ粒子を含有させた場合、ポリウレタン相にシリカ粒子を偏在化させることができるので、耐ブロッキング性に劣るポリウレタンの欠点を補うことができる
従って、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムから巻き出されるフィルムは、ハードコートフィルム、反射防止(AR)フィルム、光拡散シート、プリズムレンズシート、透明導電性フィルム、赤外線吸収フィルム、電磁波吸収フィルム、などの光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして好適である。また、アクリル樹脂を樹脂成分とするUVインクを用いて印刷される、印刷用フィルムとしても使用することができる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂とを含有する樹脂成分及び粒子を含有する被覆層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムを巻き取ってなる積層熱可塑性樹脂フィルムロールであって、前記被覆層は、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相Aとポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相Bとにミクロ相分離又はナノ相分離した構造を有し、かつ、走査型プローブ顕微鏡を位相測定モードで観察した際に、下記(1)式で定義される、前記被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)が5μm×5μmの測定面積で35%以上90%未満であり、且つ被覆層樹脂成分と粒子を主成分とする長径0.3mm以上の異物の含有量が30個/100m以下であることを特徴とする積層熱可塑性樹脂フィルムロールである。
PEs表面分率(%)=(ポリエステル相Aの面積/測定面積)×100 ・・・(1)
(熱可塑性樹脂フィルム;基材フィルム)
本発明において、基材となる熱可塑性樹脂フィルムとは、熱可塑性樹脂を溶融押出し又は溶液押出しして得た未配向シートを、必要に応じ、長手方向又は幅方向の一軸方向に延伸し、あるいは二軸方向に逐次二軸延伸又は同時二軸延伸し、熱固定処理を施したフィルムである。
当該熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理などの表面活性化処理が施されてもよい。
基材として用いる熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、30〜300μmの範囲で、使用する用途の規格に応じて任意に決めることができる。熱可塑性樹脂フィルムの厚みの上限は、250μmが好ましく、特に好ましくは200μmである。一方、フィルム厚みの下限は、50μmが好ましく、特に好ましくは75μmである。フィルム厚みが30μm未満では、剛性や機械的強度が不十分となりやすい。一方、フィルム厚みが300μmを超えると、フィルム中に存在する異物の絶対量が増加するため、光学欠点となる頻度が高くなる。また、フィルムを所定の幅に切断する際のスリット性も悪化し、製造コストが高くなる。さらに、剛性が強くなるため、長尺のフィルムをロール状に巻き取ることが困難になりやすい。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリプロピレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン(PS)、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、共重合成分を少量含む共重合体であってもよい。また、これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用する以外に、他の熱可塑性樹脂を1種以上ブレンドして使用してもよい。
これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレートなどが好適である。また、ポリエステルやポリアミドのような極性官能基を有する樹脂は、被覆層との密着性の観点から好ましい。特に基材には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート又はこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体が好適に用いられるが、ポリエチレンテレフタレートから形成された二軸配向フィルムが最も好適である。
熱可塑性樹脂フィルムを形成する樹脂としてポリエステル共重合体を用いる場合、例えば、そのカルボン酸成分としてはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸及びピロメリット酸等の多官能カルボン酸等が用いられる。また、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール及びネオペンチルグリコール等の脂肪酸グリコール;p−キシレングリコール等の芳香族グリコール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;平均分子量が150〜20000のポリエチレングリコール等が用いられる。共重合体組成比の一例としては、ポリエチレンテレフタレートを構成するモノマー成分に、他のコモノマー成分を20モル%未満(コモノマー成分がカルボン酸成分である場合には、全カルボン酸成分中。コモノマー成分がグリコール成分である場合も同様)添加するのが好ましい。20モル%以上ではフィルム強度、透明性、耐熱性が劣る場合がある。上記のカルボン酸成分とグリコール成分とを所定量調合して、触媒に、例えば、アルカリ土類金属化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、チタン/ケイ素複合酸化物、ゲルマニウム化合物などを使用して、ポリエステル共重合体が製造される。
また、基材を製造するにあたり、前記熱可塑性樹脂に本発明の効果を妨げない範囲で、触媒やそれ以外にも各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、無機粒子、耐熱性高分子粒子、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、帯電防止剤、UV吸収剤、耐光剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、ゲル化防止剤、界面活性剤等が挙げられる。
前記の無機粒子、耐熱性高分子粒子は、熱可塑性樹脂フィルムの製造時やロール状に巻取る際・巻出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻取り時の随伴空気の空気抜け性など)の点から、フィルム表面に適度な表面凹凸を付与するために用いられる。
無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどが挙げられる。また、耐熱性高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などが挙げられる。
基材フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合、前記の粒子の中でも、シリカ粒子が、ポリエステル系樹脂と屈折率が比較的近く高い透明性を得やすいため、透明性が強く要求される用途では最も好適である。また、熱可塑性樹脂フィルム中に含有させる粒子は1種類を使用しても複数種を併用してもよい。
前記の粒子の種類、平均粒径、添加量は、透明性とハンドリング性とのバランスの点から用途に応じて決めればよく、特に、平均粒径は0.01〜2μm、フィルム中の粒子含有量は0.01〜5.0質量%の範囲で決めればよい。また、本発明において積層熱可塑性樹脂フィルムを、透明性が高度に要求される用途に使用する場合、基材の熱可塑性樹脂フィルム中には、透明性を低下させる原因となる粒子を実質的に含有させず(すなわち、基材に粒子を配合しない)、被覆層に粒子を含有させる構成とすることが好ましい。「基材の熱可塑性樹脂フィルム中には、粒子が実質的に含有されていない」とは、例えば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子を基材フィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分などが混入する場合があるためである。
また、本発明で基材として使用する熱可塑性樹脂フィルムの層構成は単層でもよいし、単層では得られない機能を付与するために積層構造とすることもできる。積層構造とする場合には、共押出法が好適である。
基材の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。粒子を含有した又は実質的に含有していない熱可塑性樹脂のペレットを十分に真空乾燥した後、押出し機に供給し、溶融温度以上でシート状に溶融押出しし、冷却固化せしめて未配向熱可塑性樹脂シートを製膜する。この際、溶融樹脂が任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行う。得られた未配向シートを、ガラス転移点以上に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して、一軸配向熱可塑性樹脂フィルムを得る。
さらに、熱可塑性樹脂フィルムの原料としてポリエステルを用いた場合を代表例として、基材フィルムを得るための製造方法について、以下で詳しく説明する。
基材フィルム原料として用いるポリエステルペレットの固有粘度は、0.45〜0.7dl/gの範囲が好ましい。より好ましくは、機械的強度、製膜安定性の点から、固有粘度が0.50dl/g〜0.7dl/g、さらに好ましくは0.55〜0.7dl/g、最も好ましくは0.60〜0.7dl/gである。固有粘度が0.45dl/g未満であると、フィルム製造時に破断が発生しやすくなり生産性が低下する他、熱収縮特性が低下する傾向がある。一方、固有粘度が0.7dl/gを超えると、濾圧上昇が大きく高精度濾過が困難となり、生産性が低下する。
また、光学機能性フィルムまたはシートに用いる場合には、光学欠点の原因となる、原料のポリエステル中に含まれている異物を除去することが好ましい。ポリエステル中の異物を除去するために、溶融押出しの際に溶融樹脂が約280℃に保たれた任意の場所で高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合のSi、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物、及び高融点有機物が除去性能に優れ好適である。
溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)は、15μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが15μmを超えると、20μm以上の異物の除去が不十分となりやすい。濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が15μm以下の濾材を使用して溶融樹脂の高精度濾過を行うことにより生産性が低下する場合があるが、光学欠点の少ないフィルムを得るには極めて重要である。
溶融樹脂の押出し工程において、濾材を通過する微細な異物であっても、シート状溶融物の冷却工程において異物の周囲で結晶化が進み、これが配向工程において配向の不均一性を引き起こし、微小な厚みの差異を生じせしめレンズ状態となる箇所が生じる。ここでは、レンズがあるかの様に光が屈折又は散乱し、肉眼で観察した時には実際の異物より大きく見えるようになる。この微小な厚みの差は、凸部の高さと凹部の深さの差として観測することができ、凸部の高さが1μm以上で、凸部に隣接する凹部の深さが0.5μm以上であると、レンズ効果により、大きさが20μmの形状の物でも肉眼的には50μm以上の大きさとして認識され、さらには100μm以上の大きさの光学欠点として認識される場合もある。
高透明なフィルム(特にヘイズ1.5%以下のフィルム)を得るためには、基材フィルム中に粒子を含有させないことが好ましいが、粒子含有量が少なく透明性が高いほど、微小な凹凸による光学欠点はより鮮明となる傾向にある。
また、厚手のフィルムの表面は薄手のフィルムより急冷となりにくく、結晶化が進む傾向にあるため、未配向シート製造時にフィルム全体を急冷することが必要となる。未配向シートを冷却する方法としては、溶融樹脂を回転冷却ドラム上にファウンテンダイのスリット部からシート状に押し出し、シート状溶融物を回転冷却ドラムに密着させながら、急冷してシートとする方法が好適である。この未配向シートのエア面(冷却ドラムと接触する面との反対面)を冷却する方法としては、高速気流を吹きつけて冷却する方法が有効である。
得られた未配向シートを、ガラス転移点以上に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して、一軸配向熱可塑性樹脂フィルム(本例ではポリエステルフィルム)を得る。
(共重合ポリエステル系樹脂)
本発明の被覆層に用いる共重合ポリエステル系樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分と、グリコール成分としてエチレングリコール及び分岐したグリコールとを構成成分とすることが好ましい。前記の分岐したグリコール成分とは、例えば、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、及び2,2−ジ−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
前記の分岐したグリコール成分のモル比は、全グリコール成分に対し、下限が10モル%であることが好ましく、特に好ましくは20モル%である。一方、上限は80モル%であることが好ましく、さらに好ましくは70モル%、特に好ましくは60モル%である。また、必要に応じて、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを併用してもよい。
芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が最も好ましい。全ジカルボン酸成分に対し、10モル%以下の範囲で、他の芳香族ジカルボン酸、特に、ジフェニルカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸を加えて共重合させてもよい。
共重合ポリエステルを製造するに際し、アンチモン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物等の重合触媒を用いることができる。
本発明で被覆層の樹脂成分として使用する共重合ポリエステル系樹脂は、水溶性または水分散が可能な樹脂を使用することが好ましい。そのために、前記ジカルボン酸成分の他に、ポリエステルに水分散性を付与させるため、5−スルホイソフタル酸類又はそのアルカリ金属塩を、全ジカルボン酸成分に対し1〜10モル%の範囲で使用するのが好ましく、その例としては、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸および5−(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸又はそれらのアルカリ金属塩などを挙げることができる。
一般に、共重合ポリエステル系樹脂には、芳香族ジカルボン酸成分(例えば、テレフタル酸)とエチレングリコールの3量体、同5量体、同6量体、芳香族ジカルボン酸成分(例えば、テレフタル酸)と分岐したグリコール(例えば、ネオペンチルグリコール)の4量体等の低分子量成分が多く含まれるが、後述するように、この低分子量成分と粒子凝集物、その他場合により共重合ポリエステルの重合触媒から生成される金属酸化物、金属水酸化物等が混合物としてアプリケーターロールあるいはメタリングロール上で乾燥、固化してドクターブレード表面に析出し、さらにこれがドクターブレードから脱落し、コーターロールを介してあるいは直接基材フィルムに付着して前記の重大な光学欠点が発生するものと推察される。よって、塗布液中の共重合ポリエステル系樹脂の低分子量成分(6量体以下の成分)の含有量を低減させ、それにより、ドクターブレードへの固形物の析出を低減させることが本発明が規定する光学欠点の少ない熱可塑性樹脂フィルムロールを得る上で重要である。
そこで、本発明においては、共重合ポリエステル系樹脂として、低分子量成分の含有量を低減させたものを用いる。共重合ポリエステル系樹脂の低分子量成分の含有量を低減させる方法には特に制限はないが、共重合ポリエステル系樹脂を溶媒に溶解させて溶液化し、当該溶液を液温度15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過し、次いで50℃以上、70℃未満に加温した後、さらに15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過する方法が好ましい。
共重合ポリエステル系樹脂を溶媒に溶解させて溶液化する際の溶媒としては、共重合ポリエステル系樹脂が溶解する限り特に制限はなく、例えば、水溶性または水分散性のポリエステル系樹脂については、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類が好適に使用でき、水、イソプロピルアルコールが最も好ましい。
溶液化は、例えば、共重合ポリエステル系樹脂に溶媒を加えて攪拌し、固形分濃度20〜40質量%、好ましくは25〜35質量%の共重合ポリエステル系樹脂溶液とする。この溶液は、このまま静置し、粗大なオリゴマー凝集物を沈降させる。静置時間としては、5〜20日間が好ましく、静置時の温度は35℃未満が好ましい。35℃以上では低分子量樹脂成分の沈降が十分に行われない場合がある。この静置したものより、その上澄み液の好ましくは約10分の9を取り出し、濾過に用いる。上澄み液は、濾過の前に、水又は水と有機溶剤(例、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール)との混合溶媒で、5cps以上、15cps未満の溶液粘度になるまで希釈される。15cps以上では後述する濾過工程でのフィルター及びポンプへ負荷が大きくなり、処理効率に劣るため好ましくない。また5cps未満では希釈倍率が大きくなり、濾過処理量が不必要に大きくなるため好ましくない。ここでいう溶液粘度とは、東京計器社製B型粘度計(BL式)No.1アダプター使用時の25℃における値である。
この希釈した液について、精密濾過処理する。精密濾過処理により、静置期間中に生成したオリゴマー凝集物及び、添加されている場合には共重合ポリエステルの重合触媒である金属分(金属酸化物、金属水酸化物の結晶物等)が除去される。当該精密濾過に使用される濾材は、濾過性能として濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が10μm以下、0.5μm以上であり、好ましくは5μm以下、1μm以上である。当該範囲内で濾過性能が異なる2種以上のフィルターを組み合わせて用いることがさらに好ましい。濾過粒子サイズが10μmを超えると、粗大オリゴマー凝集物の除去が不十分となりやすい。濾過性能が0.5μm未満の場合、必要な粒子凝集体までもが除去され、本来要求されている易滑性、耐ブロッキング性が低下する場合があるため好ましくない。濾過性能が異なるフィルターを組み合わせて用いる場合、濾過粒子サイズの大きいフィルターから順次細かいフィルターとするのが効果的である。塗布液を精密濾過するための濾材のタイプは、上記性能を有していれば特に限定はなく、例えば、フィラメント型、フェルト型、メッシュ型が挙げられる。塗布液を精密濾過するための濾材の材質は、上記性能を有しかつ塗布液に悪影響を及ばさない限り特に限定はなく、例えば、ステンレス鋼、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等が挙げられる。濾過時の共重合ポリエステル溶液の液温度は15℃以上、35℃未満、好ましくは20℃以上、35℃未満である。35℃以上ではオリゴマーが溶解してその除去が不十分となり、15℃より低いと、液粘度が高くなり、濾過効率が低下するため好ましくない。フィルターを通過する濾過回数は2回以上、好ましくは5回以上、さらに好ましくは20回以上である。濾過回数に上限はないが、効率を考慮すると最大でも、50回程度でよい。
ついで、この共重合ポリエステル溶液の濾液を50℃以上、70℃未満、好ましくは55℃以上、65℃未満まで加温し、濾過処理では除去困難な小さい低分子量樹脂成分及び触媒金属化合物を溶解させる。50℃未満では、低分子量物及び触媒金属化合物を十分に溶解させることができない。70℃以上では、共重合ポリエステル成分の変質が起こりやすく好ましくない。この時、溶液の温度を均一に保つために、必要に応じて攪拌することが好ましい。加温時間は1時間以上、3時間未満が好ましい。1時間未満では十分な効果が得られない。また3時間以上では共重合ポリエステル系樹脂が変質する可能性があるため好ましくない。
その後、温度を下げ、静置して微細な低分子量成分を沈降させて再び精密濾過処理を行う。この再濾過処理により、再度生成した低分子量成分の凝集物、及び触媒金属化合物結晶物が除去されるのである。静置時間としては、2〜10時間が好ましく、静置時の温度は30℃未満が好ましい。再濾過処理に用いるフィルターの濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)の上限は10μm、好ましくは3μmであり、下限は0.5μm、好ましくは1μmである。濾過温度は、塗布時に好ましい液温度に近い温度、具体的には15℃以上、35℃未満であり、20℃以上、35℃未満が好ましい。また、フィルターを通過する濾過回数は2回以上、好ましくは5回以上、さらに好ましくは20回以上である。濾過回数に上限はないが、効率を考慮すると最大でも、50回程度でよい。
共重合ポリエステル系樹脂の低分子量成分の含有量が低減されていることの確認は、上記加熱濾過処理した共重合ポリエステル系樹脂溶液のヘイズを測定することにより、行うことができる。具体的には、10mm(石英セルの光路長)のセルを用いてヘイズメーター(日本電色社製モデルTNDH2000)により上記共重合ポリエステル系樹脂溶液のヘイズを測定し、ヘイズが5%以下であれば低分子量成分の含有量が低減されていると判断できる。
その他、共重合ポリエステル系樹脂の低分子量成分を低減させる手段としては、液体クロマトグラフィーによる分取等が挙げられる。
以上に例示されたような精製処理等により得られる、低分子量成分の含有量が少ない共重合ポリエステル系樹脂を塗布工程に用いることにより、効果的に、本発明が規定する光学欠点の少ない熱可塑性樹脂フィルムロールが得られる。
(ポリウレタン樹脂)
本発明において積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層に用いるポリウレタン系樹脂は、特に限定されないが、水溶性または水分散が可能な樹脂を使用することが好ましく、例としては、ブロック型イソシアネート基を含有する樹脂であって、末端イソシアネート基を親水性基で封鎖(以下ブロックともいう)した、熱反応型の水溶性ウレタンなどが挙げられる。上記イソシアネート基を親水性基で封鎖するためのブロック化剤としては、重亜硫酸塩類及びスルホン酸基を含有したフェノール類、アルコール類、ラクタム類、オキシム類及び活性メチレン化合物類等が挙げられる。ブロック化されたイソシアネート基はウレタンプレポリマーを親水化あるいは水溶化する。フィルム製造時の乾燥あるいは熱セット過程で、上記ポリウレタン樹脂に熱エネルギーが与えられると、ブロック化剤がイソシアネート基からはずれるため、上記ポリウレタン樹脂は自己架橋した編み目に、混合した水分散性共重合ポリエステル系樹脂を固定化するとともに、上記共重合ポリエステル系樹脂の末端基等とも反応する。塗布液調整中の樹脂は、親水性であるために耐水性が悪いが、塗布、乾燥、熱セットして熱反応が完了すると、ウレタン樹脂の親水基すなわちブロック化剤がはずれるため、耐水性が良好な塗膜が得られる。上記ブロック化剤の内、フィルム製造工程における熱処理温度、熱処理時間でブロック化剤がイソシアネート基からはずれる点、及び工業的に入手可能な点から、重亜硫酸塩類が最も好ましい。
上記樹脂において使用される、ウレタンプレポリマーの化学組成としては、(1)分子内に2個以上の活性水素原子を有する有機ポリイソシアネート、又は分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する分子量が200〜20,000の化合物、(2)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネート、あるいは、(3)分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する鎖伸長剤を反応せしめて得られる、末端イソシアネート基を有する化合物である。
上記(1)の化合物として一般に知られているのは、末端又は分子中に2個以上のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基又はメルカプト基を含むものであり、特に好ましい化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシド類、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン等を重合した化合物、又はそれら2種以上をランダム共重合若しくはブロック共重合した化合物、あるいはそれらと多価アルコールとの付加重合を行って得られた化合物がある。
ポリエステルポリオール及びポリエーテルエステルポリオールとしては、主として直鎖状又は分岐状の化合物が挙げられる。コハク酸、アジピン酸、フタル酸、無水マレイン酸等の多価の飽和若しくは不飽和カルボン酸、又はこれらカルボン酸の無水物等と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン等の多価の飽和若しくは不飽和のアルコール類、比較的低分子量のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール類、又はそれらアルコール類の混合物とを縮合することにより得ることができる。
さらにポリエステルポリオールとしては、ラクトン類及びヒドロキシ酸類から得られるポリエステル類を、また、ポリエーテルエステルポリオールとしては、あらかじめ製造されたポリエステル類にエチレンオキシド又はプロピレンオキシド等を付加せしめたポリエーテルエステル類を使用することもできる。
上記(2)の有機ポリイソシアネートとしては、トルイレンジイソシアネートの異性体類、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネート等の芳香族脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート及び4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、又はこれらの化合物を単一若しくは複数でトリメチロールプロパン等とあらかじめ付加させたポリイソシアネート類等が挙げられる。
上記(3)の少なくとも2個の活性水素を有する鎖伸長剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオール等のグリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトール等の多価アルコール類;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びピペラジン等のジアミン類;モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等のアミノアルコール類;チオジエチレングルコール等のチオジグリコール類;又は水等が挙げられる。
ウレタンプレポリマーを合成するには通常、上記鎖伸長剤を用いた一段式又は多段式イソシアネート重付加方法により、150℃以下、好ましくは70〜120℃の温度において、5分ないし数時間反応させる。活性水素原子に対するイソシアネート基のモル比は、1以上であれば自由に選べるが、得られるウレタンプレポリマー中に遊離のイソシアネート基が残存することが必要である。さらに、遊離のイソシアネート基の含有量は10質量%以下であればよいが、ブロック化された後のウレタンポリマー水溶液の安定性を考慮すると、7質量%以下であることが好ましい。
得られた上記ウレタンプレポリマーは、上記ブロック化剤(好ましくは重亜硫酸塩)を用いてブロック化を行う。ブロック化剤水溶液と混合し、約5分〜1時間、よく攪拌しながら反応を進行させる。反応温度は60℃以下とするのが好ましい。その後、水で希釈して適当な濃度にして、熱反応型水溶性ウレタン組成物とする。該組成物は使用する際、適当な濃度および粘度に調製するが、通常80〜200℃前後に加熱すると、ブロック化剤が解離し、活性なイソシアネート基が再生するために、プレポリマーの分子内又は分子間で起こる重付加反応によってポリウレタン重合体が生成し、また他の官能基への付加を起こす性質を有するようになる。
上記に説明した熱反応型の水溶性ウレタンの1例としては、第一工業製薬(株)製の「エラストロン(登録商標)」が代表的に例示される。エラストロンは、重亜硫酸ソーダによってイソシアネート基をブロックしたものであり、分子末端に強力な親水性を有するカルバモイルスルホネート基が存在するため、水溶性となっている。
本発明において積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層に用いる樹脂成分は、拡散層やプリズムレンズ、ハードコート層形成に用いられるアクリル系樹脂や各種インキとの密着性等の観点から、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を併用する。その配合比は適宜選定すればよい。例えば、本発明で使用される共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン樹脂を混合して塗布液を調製する場合、共重合ポリエステル系樹脂((A)とする)とポリウレタン樹脂((B)とする)の固形分質量比は(A):(B)=70:30〜30:70が好ましく、更に好ましくは60:40〜40:60の範囲である。
共重合ポリエステル系樹脂の固形分質量比が上記範囲より大きいと、被覆層が脆くなりアクリレート系のハードコート層や拡散層形成後の加工工程においては、高速カッティングに耐える密着性が得られない場合がある。共重合ポリエステル系樹脂の固形分質量比が上記範囲より小さいと、基材である熱可塑性樹脂フィルムへの塗布性及び密着性、耐ブロッキング性が低下するおそれがあり、好ましくない。なお、塗布液の好ましい実施態様は、製造方法のところで説明する。
(粒子)
被覆層に粒子を含有させ、被覆層表面に適切な凹凸を形成させることで、滑り性、巻き取り性、耐スクラッチ性が付与される。このため、基材中に粒子を含有させる必要がなく、高透明性を保持することができる。
粒子としては、共重合ポリエステル系樹脂又はポリウレタン系樹脂との親和性が高い粒子が好ましく、その両者に対する親和性に、どちらかの相に偏在する程度の差があることが好ましい。相分離した樹脂の一方に粒子を偏在させることによって、粒子が適度に集まり、比較的少ない粒子の添加で、すなわちヘイズを大幅に上昇させることなく、優れた耐ブロッキング性を得ることができるのである。
被覆層に含有させる粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどの無機粒子;架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などの耐熱性高分子粒子が挙げられる。
これらの粒子の中でも、酸化珪素からなる粒子(特に、シリカ粒子)が次の点から好適である。第1の利点は、被覆層の樹脂成分と屈折率が比較的近いため、高透明のフィルムを得やすいという点である。第2の利点は、当該粒子は相分離したポリウレタン系樹脂相に偏在しやすいという特徴があり、被覆層表面に存在するポリウレタン系樹脂相の耐ブロッキング性に劣るという、ポリウレタン系樹脂固有の性質を補完することができる点である。これは、当該粒子とポリウレタン系樹脂との表面エネルギーが共重合ポリエステル系樹脂よりも近く、親和性が高いためと考えられる。
また、粒子の形状は特に限定されないが、易滑性を付与する点からは、球状に近い粒子が好ましい。
被覆層中の粒子の含有量は、被覆層に対して20質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下にする。被覆層中の粒子の含有量が20質量%を超えると、透明性が悪化し、フィルムの密着性も不十分となりやすい。一方、粒子の含有量の下限は、被覆層に対して好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは1質量%、特に好ましくは3質量%とする。
また、被覆層中には平均粒径の異なる粒子を2種類以上含有させてもよい。また、同種の粒子で平均粒径の異なるものを含有させてもよい。いずれにしても、粒子の平均粒径、および総含有量を前記の範囲内にすればよい。
また、粒子の平均粒径は、通常、20〜150nmが好ましく、さらに好ましくは40〜60nmである。平均粒径が20nm未満であると、十分な耐ブロッキング性を得ることが困難な他、耐スクラッチ性が悪化する傾向がある。一方、粒子の平均粒径が150nmを超えると、ヘイズが上昇し且つ、粒子が脱落しやすくなるため好ましくない。
しかし、本発明では、平均粒径が20〜150nmの粒子P1のみでは、十分な耐ブロッキング性及び耐スクラッチ性が得られない場合がある。そのために、さらに耐ブロッキング性及び耐スクラッチ性を向上させるために、さらに平均粒径の大きな粒子P2を少量併用することが好ましい。平均粒径の大きな粒子P2の平均粒径は160〜1000nmが好ましく、特に好ましくは200〜800nmである。粒子P2の平均粒径が160nm未満の場合、耐スクラッチ性、滑り性、巻き性が悪化する場合がある。一方、粒子P2の平均粒径が1000nmを超える場合、ヘイズが高くなる傾向がある。また、粒子P2は一次粒子が凝集した凝集体粒子であることが好ましく、この場合、平均粒径は、凝集体粒子の平均粒径で考える。さらにこの場合、凝集体粒子の平均粒径と一次粒子の平均粒径の比が、4以上であることが、耐スクラッチ性の点から好ましい。
2種類の粒子を用いる場合、例えば被覆層中の粒子P1(平均粒径:20〜150nm)と粒子P2(平均粒径:160〜1000nm)の含有量比(P1/P2)を5〜30とし、かつ粒子P2の含有量を被覆層の固形分に対し0.1〜1質量%とする。2種類の特定粒径の粒子の含有量を前記範囲に制御することは、被覆層表面の三次元中心面平均表面粗さを適正化し、透明性と、ハンドリング性や耐ブロッキング性を両立させる上で好適である。被覆層に対し、粒子P2の含有量が1質量%を超えると、ヘイズの上昇が著しくなる傾向がある。
前記粒子の平均粒径の測定は次の方法により行う。電子顕微鏡で粒子の写真を撮り、最も小さい粒子1個の大きさが2〜5mmとなるような倍率で、300〜500個の粒子の最大径を測定し、その平均値を平均粒径とする。また、積層フィルムの被覆層中の粒子の平均粒径を求める場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、倍率12万倍で積層フィルムの断面を撮影し、被覆層の断面に存在する粒子の最大径を測定することができる。粒子P2が凝集体粒子であった場合の平均粒径は、積層フィルムの被覆層の断面を、光学顕微鏡を用いて倍率200倍で300〜500個撮影し、それらの凝集体粒子の最大径を測定する。
(被覆層)
本発明において、積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層は、主な樹脂成分として、共重合ポリエステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含有している。共重合ポリエステル系樹脂単独では、ポリエステル系基材フィルムとの密着性は十分であるが、プリズムレンズやハードコートに用いられるアクリル系樹脂との密着性に劣る。また、比較的脆い樹脂であるため、カッティング時の衝撃に対し凝集破壊を発生しやすい。一方、ポリウレタン系樹脂単独では、ハードコート層や拡散層、アクリル系樹脂との密着性には比較的優れるがポリエステル系基材フィルムとの密着性に劣り、また耐ブロッキング性に劣る。そのため、多量のあるいは粒径の大きな粒子を含有させるか、あるいは粒子の含有量を増加させる必要がある。その結果、フィルムのヘイズが上昇するため、特に透明性の要求が強い光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして好ましくない。
そして、被覆層は、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相A(以下、PEs相と略記することもある。)と、ポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相B(以下、PU相と略記することもある。)にミクロ相分離又はナノ相分離した構造を有する。そして、走査型プローブ顕微鏡を位相測定モードで観察した際に、下記(1)式で定義される、前記被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)が5μm×5μmの測定面積で35%以上90%未満であることに特徴を有する。
PEs表面分率(%)=(ポリエステル相Aの面積/測定面積)×100 ・・・(1)
この被覆層表面におけるPEs表面分率は、下記のような技術的意義がある。
PEs表面分率が35%未満では、被覆層の表面におけるポリウレタン系樹脂を主成分とする相の表面分率が相対的に大きくなり、耐ブロッキング性が低下する頻度が増える。一方、PEs表面分率が90%以上では密着性が低下する頻度が増え、特に、無溶剤型のハードコート剤に対する密着性の低下が著しくなる。
被覆層表面のPEs表面分率の下限は、耐ブロッキング性の点から、PEs表面分率が40%であることが好ましく、さらに好ましくは45%、特に好ましくは50%である。一方、PEs表面分率の上限は、アクリル系樹脂からなる機能層との密着性の点から、85%であることが好ましく、さらに好ましくは80%、特に好ましくは75%である。
なお、本発明において、被覆層表面の相分離構造の評価は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)による位相測定モード(フェーズモード)を使用した。フェーズモードは、通常ダイナミックフォースモード(DFMモード;エスアイアイ・ナノテクノロジー社製SPMを用いた場合)による表面形態観察と同時に行う位相遅れ測定モードのことである。
走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相測定モード(フェーズモード)による被覆層の相分離構造の評価に関する測定原理を、簡単に説明する。
フェーズモードでは、DFM動作をさせたときのカンチレバー振動の位相遅れを検出する。DFM動作では、共振させたカンチレバーの振動振幅が一定となるように探針・試料間の距離を制御して形状を測定する。ここで、カンチレバーを振動させるためのバイモルフ(圧電素子)を振動させる信号を,「入力信号」と呼んだ場合、位相測定モードでは、この「入力信号」に対する実効的なカンチレバーの振動信号の位相遅れを振動振幅と同時に検出する。位相遅れは、表面物性の影響に敏感に応答し、軟らかい試料表面ほど遅れが大きくなる。この位相遅れの大きさを画像化することにより、表面物性の分布(位相像又はフェーズ像等と呼ばれる)を観察することが可能となる。よって、複数の物性の異なる樹脂相が表面に存在した場合、本測定法により、相分離構造の評価が可能となる。
ただし、被覆層の相分離構造の評価は、走査型プローブ顕微鏡による表面物性分布評価モードであれば、位相測定モード以外にも、摩擦力測定モードや粘弾性測定モード等の他モードでも良く、最も感度良く相分離構造を評価できる観察モードを選択することが重要である。なお、位相測定モードにおいては、被覆層の粘弾性の差異による位相遅れを検出できるだけでなく、吸着力の大小のような表面物性の差異による位相遅れも検出が可能である。
本発明における被覆層の相分離構造は、大きさの点からは、ミクロ相分離構造またはナノ相分離構造に相当するものである。PEs相を長軸と短軸を有する連続構造とみなした場合、短軸方向の幅が最大でも1μmで、長軸方向の長さが1μmを超える連続構造を主体とするものである。すなわち、PEs相の全体の面積に対し、前記の連続構造を有する部分の面積が80%以上であり、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。また、前記の定義に記載の連続構造に該当しない、島状に分散しているPEs相であっても、被覆層の内部では連続構造を有しているものの末端が表面に現れているものもある。
このPEs相の連続構造の大きさは、短軸方向の幅が最大でも1μmであることが好ましく、より好ましくは0.8μmであり、さらに好ましくは0.6μmであり、特に好ましくは0.4μmである。短軸方向の幅は下限には特に限定はないが、連続構造を維持するためには最も狭い部分で0.01μmであることが好ましく、特に好ましくは0.05μmである。一方、このPEs相の連続構造の大きさは、長軸方向の長さが1μmを超えることが好ましく、より好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは2.0μm以上、特に好ましくは2.5μm以上である。
本発明における被覆層の相分離構造は、図1に示す代表例からも分かるように、自然界では見られない複雑な構造を示しており、相分離の形態を一義的に定義することは難しい。前記の相分離構造は、以下のように多面的に表現することもできる。
例えば、前記の相分離構造の形態を模様として表現すると、文献に記載された中では、「樹枝状構造」(「化学語大辞典」、第226頁、昭和54年6月15日、三共出版(株)発行)、「波紋状構造」(「文様」、第168〜169頁、2002.10.1(株)野ばら社発行)、「迷彩調」に近いものがある。
また、本発明における被覆層の表面の相分離構造は、ポリマーブレンド系におけるモルフォロジーの分野では、共連続構造と表現されているものに類似している。さらに、共重合ポリエステル系樹脂と自己架橋型ポリウレタン系樹脂が相互にからみあうことによって形成された相互網目侵入構造とも表現することもできる。
また、形態的には、PEs相の自己相似性を、フラクタル次元を用いて定量的に表現することもできる。例えば、図3に示すように、被覆層の表面を走査型プローブ顕微鏡の位相測定モードで観察し、明色相(ポリエステル相A)と暗色相(ポリウレタン相B)の界面の輪郭を強調した位相像において、明色相と暗色相の境界線(界面の輪郭)の複雑さを示す指数として、ボックスカウンティング法を用いて、前記の界面の輪郭から求められるフラクタル次元を用いて定量的に表現することができる。
単位面積におけるフラクタル次元が1の場合は直線(一次元)を意味し、2はベタ面(二次元)を意味する。すなわち、フラクタル次元が2に近いほど、構造が緻密であることを意味する。一方、フラクタル次元が1に近いほど疎な構造であることを意味する。
具体的には、前記の明色相(ポリエステル相A)と暗色相(ポリウレタン相B)の界面の輪郭を強調した位相像において、明色相と暗色相の境界線(界面の輪郭)のフラクタル次元は、5μm×5μmの測定面積で1.60〜1.95であることが好ましい。前記のフラクタル次元の上限は、1.93であることがさらに好ましく、特に好ましくは1.90である。一方、前記のフラクタル次元の下限は、1.65であることがさらに好ましく、特に好ましくは1.70である。
例えば、図4に示す被覆層の表面における、明色相(ポリエステル相A)と暗色相(ポリウレタン相B)の境界線(界面の輪郭)のフラクタル次元は1.89である。なお、図4は、本発明における被覆層の表面の代表的な相分離構造を示す図1の位相像に、明色相と暗色相の界面の輪郭を強調し、明色相と暗色相の境界線を示した図である。
本発明において、被覆層の原料となる共重合ポリエステル系樹脂およびポリウレタン系樹脂が有する機能を最大限に発現するためには、被覆層がミクロ相分離構造またはナノ相分離構造していることが重要である。なぜなら、両樹脂が完全に相溶すると、両樹脂の性質が相殺して、全体的には共重合ポリエステル系樹脂またはポリウレタン系樹脂の優れた特性が期待できないためである。本発明の被覆層において、PEs相およびPU相が採りうる他の相分離構造としては、PEs相内にPU相が分散したもの、およびPU相内にPEs相が分散した、いわゆる複合形態として、代表的な海島構造を採ることも考えられる。勿論この海島構造は、樹脂の非相溶状態で、一方の樹脂相を多くすれば、他方が必然的に少なくなり、いわゆる島を形成することになる。本発明においても製造条件を制御すれば、このような海島構造を採る分離相からなる被覆層とすることも可能である。この海島構造により本発明の作用効果を期待する場合には、その構造をさらに吟味する必要がある。
しかし、島構造を形成する樹脂相の大きさの不均一や、分布状態の不均一を考えると、島相の形状、数、および分布状態が影響することを無視することができないから、海構造を構成する樹脂の性質が大きく影響することも懸念される。そうすると、本発明のPEs相とPU相との相分離構造である、お互いに隅々まで絡み合ったような相分離構造を採るほうが材料の均一性を保つためには有利と考えられる。一応PEs相とPU相の海島構造を採る相分離構造も本発明の代表的な態様の一つとして挙げることができる。
また、本発明における被覆層のさらに他の相分離構造として、コア・シェル構造を採ることもできる。例えば、PEs相の周りを、PU相が囲み、さらにそれをPEs相が囲むという構造である。しかしながら、このようなコア・シェル構造を形成させるためには、非常に高度な制御を要する。また、そのコア・シェル構造を採るがゆえに、優れた材料挙動を示すということは期待できないように思える。さらに、相分離構造の態様として、PEs相とPU相が交互に規則的に並ぶ積層構造も採りうる。しかし、各相が平行に略等間隔に配置することは理想であるが、相の幅が大きくなれば、被覆層の界面にPEs相とPU相を均一に分布させることが難しくなり、しいては、積層熱可塑性樹脂フィルムの品質にも影響する恐れが生じる。製造条件の微妙な遠いにより、海島構造、コア・シェル構造および積層構造の形態をとりながら、それらが混在型になることもある。しかし、被覆層には、PEs相とPU相が、一定の大きさを有し、それらが均一に万遍に混在することが、品質を保つためには重要なことである。
共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相Aとポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相Bが、それぞれ不規則な形態をしたものである。そして、それらの樹脂相が不規則にしかも緻密に万遍に、熱可塑性樹脂フィルムからなる基材上に配置された、複雑な配列構造を形成するものである。また、一つの樹脂相の表面に、他方の樹脂相が非相溶性の状態で食い込んだ構造であってもよい。なお、図3において、黒色部分がポリエステル相Aを、白色部分がポリウレタン相Bを示す。
単位面積(例えば5×5μm)に対して、二種類の樹脂相を分離した状態で均一に配列する場合、一方の樹脂相の寸法が大きくなれば、他方の樹脂相の寸法が制約される。そのため、樹脂相の存在に大きな偏りが生じることになる。その結果、両樹脂相が分離して均一に分散配列した状態を維持することが難しくなり、被覆層の材質にむらが発生するために、品質管理上好ましくない。
両樹脂相を相分離させ、かつ均一に混在した状態で被覆層に存在させるためには、PEs相の形態を短軸方向の幅が最大で1μm、長軸方向の長さが1μm以上とすることが好ましい。勿論、品質に高度な要求が無い場合には、短軸方向の幅が最大で6μm程度の相対的に大きくした構造も可能である。この連続相(PEs相)の相分離構造は、被覆層形成のために用いる塗布液の樹脂組成、界面活性剤の種類と濃度、塗布量、塗布層の乾燥条件、及び熱固定条件などを、選択的に採用し、それらを制御することにより、被覆層に特異的なミクロ相分離構造またはナノ相分離構造として発現させることができる。いずれにせよ、図1に示す、被覆層の表面のポリエステル相Aおよびポリウレタン相Bの相分離構造の態様が、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの効果を発現するための代表的なモデルである。
さらに、相分離構造の重要性について、詳細に説明する。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムにおける被覆層は、共重合ポリエステル成分とポリウレタン成分を樹脂成分とし、かつ共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするPEs相とポリウレタン系樹脂を主成分とするPU相に相分離しており、少なくともPEs相が連続構造を有していることが重要である。前記の2種類の樹脂を均一に混じり合わせることなく相分離させることによって、熱可塑性樹脂フィルムからなる基材フィルムに対して優れた密着性を有し、かつ比較的良好な耐溶剤性を有する共重合ポリエステル系樹脂と、耐溶剤性は劣るがハードコート層や拡散層、アクリレート系樹脂等多くの樹脂に対して優れた密着性を有するポリウレタン系樹脂がそれぞれの特性を相殺することなく、各々の樹脂の特長を十分に生かせるのである。
被覆層を構成する、ポリエステル相Aとは、共重合ポリエステル系樹脂が単独で構成されていることが好ましいが、ポリウレタン系樹脂を0.01〜40質量%含んでいてもよい。さらに、ポリエステル相Aの中に粒子を0.001〜20質量%含有させてもよい。また、ポリエステル相Aにおいて、界面活性剤が前記樹脂に付着または含有される場合もある。同様に、ポリウレタン相Bは、ポリウレタン系樹脂が単独で構成されていることが好ましく、粒子、界面活性剤などを前記の共重合ポリエステル系樹脂に記載した程度の量で含有させることができる。特に、ポリウレタン系樹脂と親和性が高い粒子の場合には、被覆層の形成過程で、ポリエステル相Aよりもポリウレタン相Bに選択的に多く偏在させることができる。
一般には、共重合ポリエステル系樹脂およびポリウレタン系樹脂の混合物からなる組成物においては、通常は両者が化学的に均一な材料となり、お互いの有する性質または機能を補足しあうという化学的な補足機能の発現の場合が多い。一方、本発明のポリエステル相およびポリウレタン相からなる被覆層とは、前記のようにポリエステル相およびポリウレタン相とが、物理的にそれぞれ相分離をして樹脂相の存在に大きな偏りが生じることになり、両樹脂相が分離して均一に分散配列した状態の構造を維持する。各樹脂がそれぞれ有する性質を、各樹脂相の表面を介して、例えば、共重合ポリエステル系樹脂は耐ブロッキング性を、ポリウレタン系樹脂は密着性というように、それぞれが相分離した状態で、機能を分担している。いわば、物理的な補足機能の発現であって、まさにこの機能または原理は、先行技術では全く認識されていない新規な技術事項であるといえる。
本発明における被覆層の相分離構造の詳細な発生メカニズムは明確ではない。しかしながら、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂の組成比、水とアルコールの分散媒の比率、界面活性剤の種類、界面活性剤中の不純物、水性塗布液のpH、塗布量などの塗布液の材料構成や特性に、乾燥および熱固定処理の時間、温度、風速の微妙な条件のバランスにより、被覆層に特異的なミクロ相分離構造またはナノ相分離構造が発現していることが、各実施例と比較例の対比から容易に理解することができる。
さらに、ポリウレタン系樹脂が有するイソシアネート基の反応開始温度も微妙に影響しているものと思われる。ここでいう、相分離構造とは、いわゆるPEs相とPU相の両相が物理的な境界を持って距離的に離れているということではなく、境界が距離をとることなく接しており、PEs相には共重合ポリエステルが多く集まり偏り、PU相に専らポリウレタン系樹脂が多く集まり偏り、両層の境界があたかも明瞭に区別が付くほどに外見上分離しているかのような境界ができていると見るべきである。そして、本発明の場合には、その境界でポリウレタン系樹脂のイソシアネート基が反応しているという可能性もあり、複雑な分離構造を示している。
本発明において、積層熱可塑性樹脂フィルムが、PEs相およびPU相からなる被覆層を有しているということは、例えば熱可塑性樹脂フィルムからなる基材と、ハードコート層や拡散層などの機能層との間に介在するという、いわゆる基材面と機能層面の両面に等しく作用する界面機能の役割を果たしている。そうすると、PEs相およびPU相のいずれも、両者が分離した構造をとり、PEs相は本来有する共重合ポリエステル系樹脂の優れた性質を、被覆層の両面(基材と被覆層の界面、被覆層と機能層との界面)に対して、最大限に発揮する状態にある。すなわち、PU相は、本来有するポリウレタン系樹脂の優れた性質を両面に対して最大限に発揮する状態にあるということである。
これは、被覆層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムにおいて、被覆層の表面は、PEs相およびPU相からなるミクロ相分離構造またはナノ相分離構造を有しているため、PEs相の共重合ポリエステル系樹脂が露出して、その共重合ポリエステル系樹脂の性質または機能を最大限に果たし、同様に、PU相のポリウレタン系樹脂が露出して、そのポリウレタン系樹脂が本来有する性質または機能を最大限に果たしているためである。したがって、被覆層の表面におけるPEs相およびPU相のそれぞれが特定の範囲で分布すれば、両者の樹脂の性質または機能が最大限に発揮することができる。これは、積層体という特有の構造であるために、基材と被覆層の界面、被覆層と機能層との界面において、合理的に作用するためである。
さらに、本発明は、PEs相およびPU相を構成する樹脂組成物に粒子を含有させる場合、例えば、シリカ粒子ではPU相に偏在させることができる。これは、表面エネルギーがPEs相よりもPU相の方がシリカ粒子に近いためであると推定している。シリカ粒子をPU相に偏在化させることで、ポリウレタン系樹脂の短所である耐ブロッキング性を向上させることができ、かつ被覆層全体の粒子含有量を減らすことができるので、透明性を維持するという機能を果たすのに有益な構造である。
同様に、表面エネルギーが共重合ポリエステルにより近い粒子を選択すれば、PEs相に粒子を選択的に偏在させることができることを示唆している。PEs相またはPU相からなる相分離構造のいずれかに粒子を偏在化させるという、先行技術からは予期できない手法で、透明性を維持しながら滑り性やブロッキング性を高度に改良することができる。そのため、ミクロ相分離構造またはナノ相分離構造の材料設計の応用範囲を広げることができるという点でも本発明は有意義である。
なお、レンズフィルムや拡散板等の光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして用いる場合、フィルム厚さが100μm以上の比較的厚手のフィルムであっても、通常、フィルム長さは少なくとも1000m以上、時には2000m以上のロール状に巻き取った形態で、プリズム層や拡散層を積層する加工工程に供される。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールは、被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)を、フィルムの長手方向(MD)に100m間隔で測定した際に、被覆層表面のPEs表面分率の変動率が20%以下であることが好ましく、さらに好ましくは15%以下である。この長手方向の被覆層表面のPEs表面分率の変動率を20%以下とすることで、安定した密着性と耐ブロッキング性を有する積層熱可塑性樹脂フィルムロールが得られるのである。
なお、上記被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を行うに当たり、前記の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを巻きだし、該フィルムの長手方向について、フィルム物性が安定している定常領域の一端を第1端部、他端を第2端部としたとき、第1端部の内側2m以内で1番目の測定を、また、第2端部の内側2m以内で最終の測定を行うと共に、1番目の測定箇所から100m毎に被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を各測定箇所において行い、次いで、下記式で定義される、被覆層の表面におけるPEs表面分率の変動率(MD)を算出する。
変動率(MD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
また、積層熱可塑性樹脂フィルムロールを巻きだし、フィルムを幅方向(TD)に4等分し、4等分されたフィルムそれぞれの中央部の被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を行ったときの、下記式で定義される、被覆層の表面におけるPEs表面分率の変動率(TD)は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
変動率(TD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
この測定は、フィルムの幅方向を小幅サイズにスリットする前のジャンボロールで行ってもよい。
(異物)
従来の積層熱可塑性樹脂フィルムには、当該フィルム製造のための塗布液の濾過処理のみでは決して除けない、発生頻度は小さいが長径0.3mm以上の異物による光学欠点が存在し、この光学欠点の発生原因は不明であった。そして、異物の成分もまた不明であった。
一般に、基材フィルムの片面若しくは両面に被覆層を積層するコート方式としては、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、ドクターブレード法、含浸・コート法およびカーテン・コート法などが挙げられ、中でも均一な被覆層厚みで平滑な塗布面が得られやすく、機能性コーティングに適した、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ドクター法が、特に光学用基材フィルム等の高度な品位を要求される用途に多用されている。これらのコート方式ではロール上あるいは基材フィルム上の余分な塗布液を掻きおとすために、例えば図7に示すようにドクターブレード17が設置される。本発明者らは、このような装置において、前記のような長径0.3mm以上の大きさを有し、発生頻度の小さい光学欠点の発生原因が、当該フィルム製造のための塗工装置のドクターブレードに、塗布液中に含まれる樹脂成分(特に、共重合ポリエステル系樹脂の低分子量成分)や粒子を主に含み、さらに場合によっては金属成分を含む固形物が堆積し、これら固形物が一定以上の堆積量になった時、ドクターブレードから脱落し、これがコーターロールを介してあるいは直接基材フィルムに付着することにあることに想到し、同時に、異物の成分にも想到した。そして、本発明は、従来、濾過処理のみでは避けられなかった樹脂成分のドクターブレードへの析出を、共重合ポリエステル系樹脂について高度な精製処理を施すことによって低減し、その結果、発生頻度は小さいが重大な光学欠点と成りうる光学欠点の低減を達成したものである。
よって、塗布液に対しては実用的な範囲においていかに高精度な濾過処理を行っても、濾過処理のみでは、コーターのドクターブレード17に塗布液の樹脂成分及び粒子を主成分とする固形物の析出を、低減することはできなかったのである。また、特に、塗布液中に含まれる樹脂成分に低分子量成分が多く含まれる時に、発生頻度が増加することが判明した。
従って、本発明でいう異物は、被覆層樹脂成分及び粒子を主成分とするものであることを必須とする。これにより、埃等の濾過処理により除かれる不純物や、主に粒子の凝集物のみからなる異物とは区別される。
異物の主成分である被覆層樹脂成分とは、上記の被覆層に用いられる共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂のことをいうが、特に、共重合ポリエステル系樹脂の低分子量成分のことをいう。粒子とは、上記の被覆層に用いられる粒子のことをいう。また、本発明でいう異物は、被覆層樹脂成分及び粒子からなるが、場合により、その他の成分として、共重合ポリエステルの重合触媒から生成される金属酸化物、金属水酸化物等の金属成分等を含有する。
異物の長径は0.3mm以上であるが、ここで長径とは、異物の断面をとり、異物の断面の外周の任意の2点間の距離を測定した場合に、最大となるその2点間の距離をいう。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールは、長径0.3mm以上の、被覆層樹脂成分及び粒子を主成分とする異物を30個/100m以下含有するものであり、好ましくは当該異物を20個/100m以下、より好ましくは10個/100m以下含有するものである。当該異物がフィルムロール中に全く存在しないことが最も好ましい。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールが、レンズフィルムや拡散板等の光学用基材フィルム用途であった場合、通常、フィルム厚さが100μm以上の比較的厚手のフィルムにおいても少なくとも1000m以上、時には2000m以上のフィルム長さのロールとしてプリズム層や拡散層の積層工程に供される。従って、本発明においては、フィルムロールが長尺であることを考慮し、フィルムロールの巻き長が1500mを超える場合には、「被覆層樹脂成分及び粒子を主成分とする異物を30個/100m以下含有する」については、最後に被覆層が形成された部分(被覆層形成のための塗布液が最後に塗られた部分)から、フィルムロール長手方向100m分のフィルムを取り除き、それ以後100m毎に7点測定した場合において、7点のうちの被覆層樹脂成分と粒子を主成分とする長径0.3mm以上の異物の最大個数が30個/100m以下であればよい。被覆層形成のための塗布工程において、時間が経過するほどドクターブレードに塗布液中に含まれる樹脂成分や粒子を主として含む固形物が堆積するために、遅い時間に塗布された部分ほど、異物が発生しやすいためである。
(ヘイズ)
本発明においてヘイズとは、ヘイズメーターを用い、フィルムの異なる箇所3カ所について測定して得られた値の平均値をいう。
本発明において、積層熱可塑性樹脂フィルムのヘイズは1.5%以下であることが、透明性が高度に要求される光学機能性フィルムまたはシートの基材フィルムとして使用する際に、重要である。前記のヘイズは1%以下であることがさらに好ましい。ヘイズが1.5%を超えると、フィルムをLCD用のレンズフィルムや、バックライト用基材フィルム等に用いた場合、画面の鮮明度が低下するので好ましくない。
本発明において、積層熱可塑性樹脂フィルムのヘイズを1.5%以下にするためには、基材フィルム中に粒子を含有させないことが好ましい。基材フィルム中に粒子を含有させない場合、被覆層に耐スクラッチ性やロール状に巻取る際や巻出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻取り時の随伴空気の空気抜け性など)を改善するために、被覆層中に適切な大きさの粒子を特定量含有させて、被覆層表面に適度な凹凸を形成させることが好ましい。
本発明において被覆層には、本発明の効果を妨げない限りにおいて、触媒(無機物質、塩類、有機物質、アルカリ性物質、酸性物質および含金属有機化合物等)、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、有機フィラーおよび潤粒子等の種々の添加剤が含有されていても良い。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを、光学機能性フィルムまたは光学機能性シート用の基材用途に使用する場合、フィルムの被覆層表面の三次元中心面平均表面粗さ(SRa)は、0.002〜0.01μmと平滑であることが好ましい。SRaの上限は、透明性の点から、0.008μmがより好ましく、特に好ましくは0.006μmである。一方、SRaの下限は、滑り性や巻き性などのハンドリング性、耐スクラッチ性の点から、0.0025μmがより好ましく、特に好ましくは0.0030μmである。被覆層のSRaが0.002μm未満の平滑な表面では、耐ブロッキング性、滑り性や巻き性などのハンドリング性、耐スクラッチ性が低下し、好ましくない。一方、被覆層のSRaが0.01μmを超えると、ヘイズが上昇して透明性が悪化するため、光学機能性フィルムまたはシート用の基材フィルムとしては好ましくない。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムのフィルム厚みは、用途によって適宜決定されるが、30.2〜300.2μmが好ましく、より好ましくは50.2〜250.2μmである。フィルム厚みが30.2μm未満では、剛性が不十分となり好ましくない。一方、フィルム厚みが300.2μmを超えると、フィルム中に存在する光学欠点となる異物が増加する可能性が高くなり、また、コスト高となるため好ましくない。
被覆層の厚みとしては0.005〜0.2μmが好ましく、より好ましくは0.008〜0.15μmである。被覆層の厚みは、被覆層の断面をミクロトームで切断し、電子顕微鏡で観察することにより測定できるが、被覆層が柔らかい場合、切断時に変形する場合がある。簡便的には、塗布量が既知であれば、被覆層の密度から厚み換算することができる。例えば、被覆層の密度が1g/cmの場合、塗布量が1g/mであれば、厚みは1μmに相当する。被覆層の密度は、被覆層を構成する樹脂、粒子の種類からそれぞれの材料の密度を求め、各材料の密度に材料の質量比を乗じ、その和を求めることで被覆層の厚みを推定することができる。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールの巻き長及び幅は、当該フィルムロールの用途により適宜決定される。フィルムロールの巻き長は1500m以上が好ましく、より好ましくは1800m以上である。また、巻き長の上限としては5000mが好ましい。また、フィルムロールの幅は0.5m以上であることが好ましく、より好ましくは0.8mである。なお、フィルムロールの幅の上限としては2.0mが好ましい。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールは、通常、巻き取りコアに巻き取られるが、巻き取りコアの径、素材には特に制限がなく、通常、一般に使用される3インチ、6インチ、8インチなど紙管やプラスチックや金属からなるコアを使用できる。
本発明の積層熱可塑製樹脂フィルムロールから巻き出されるフィルムは、優れた密着性および耐ブロッキング性を有し、かつ被覆層樹脂成分及び粒子を主成分とする異物による欠点の少ないという特徴を有しており、公知方法に準じて、ハードコートフィルム、反射防止(AR)フィルム、光拡散シート、プリズムレンズシート、透明導電性フィルム、赤外線吸収フィルム、電磁波吸収フィルム、などの光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして使用することができる。特に、当該積層熱可塑製樹脂フィルムの片面に、公知方法に準じてアクリル系樹脂を主たる構成成分とする機能層を積層したフィルムは有用である。
また、本発明の積層熱可塑製樹脂フィルムロールから巻き出されるフィルムは、アクリル樹脂を樹脂成分とするUVインクを用いて印刷される、印刷用フィルムとしても使用することができる。この場合、基材として用いる熱可塑性樹脂フィルムは、透明フィルム以外に、不透明フィルムも使用することができる。
なお、本発明において、密着性とは、溶剤希釈型の光硬化型アクリル系ハードコート層を積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層面に形成させ、それぞれについて粘着テープによる碁盤目剥離試験(100個の升目)を10回繰り返した後の、前記のアクリル系ハードコート層と前記の積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層との界面の密着性を意味する。本発明においては、下記式で定義される密着性が80%以上のものを合格とする。好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。
密着性(%)=(1−升目の剥がれた個数/100個)×100
また、耐ブロッキング性とは、2枚のフィルム試料の被覆層面同士を重ね合わせ、これに1kgf/cmの圧力を50℃、60%RHの雰囲気下で24時間密着させた後、剥離し、その剥離状態が「被覆層の転移がなく軽く剥離できるもの」を合格とする。
(製造方法)
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールの製造方法は、特に限定はないが、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールは、例えば、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、粒子及び界面活性剤を含む塗布液を、走行する熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に塗布する塗布工程、塗布層を乾燥する乾燥工程、次いで少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、さらに延伸された塗布フィルムを熱固定処理する熱固定処理工程を含み、且つ、下記(1)〜(7)の条件を満足する積層熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によって製造される。
(1)ノニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤を、塗布液に対し0.01〜0.18質量%配合させる。
(2)共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂との配合比が、質量比で30:
70〜70:30である。
(3)共重合ポリエステル系樹脂が、共重合ポリエステル系樹脂の溶液を、液温度15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過し、50℃以上、70℃未満に加温した後、さらに15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過して処理して得られたものである。
(4)被覆層の最終塗布量が0.005〜0.2g/mである。
(5)塗布液の塗布直後から乾燥工程の入口までのフィルムの通過時間が2秒未満である。
(6)乾燥工程において、乾燥温度が120〜150℃であり、乾燥時間が0.1〜5秒間であり、乾燥風の風速が30m/秒以上である。
(7)熱固定処理工程が、複数の熱固定ゾーンに連続して区分され、かつ各ゾーンは独立して温度制御が可能なように仕切られており、フィルムが通過する第1の熱固定ゾーンの温度が190〜200℃であり、最高温度に設定された熱固定ゾーンの温度が210〜240℃であり、第1熱固定ゾーンの出口から、最高温度に設定された熱固定ゾーンの出口(なお、複数ある場合は、最も入口側に近い熱固定ゾーンの出口)までのフィルムの通過時間が10秒以内である。
本発明において、被覆層は次の3つの形態的、構造的特徴を有している。
(a)ポリエステル相とポリウレタン相にミクロ相分離またはナノ相分離し、ポリエステル相が特定の面積比(PEs表面分率)を有している。
(b)被覆層の樹脂成分の組成比を表面と内部で変えることが可能である。
(c)粒子がポリエステル相またはポリウレタン相に偏在し得る。
このような被覆層を形成するためには、上記製造方法においては、上記条件(1)〜(2)および条件(4)〜(7)が重要である。
本発明における水分散型共重合ポリエステル成分と親水性ポリウレタン成分の相分離構造の形成過程は以下のように推定される。共通の溶媒で混合された両樹脂成分は、塗布液内では均一に分散又は溶解した状態である。PETフィルム上に塗布後、乾燥工程を経た塗布面は、明確な相分離構造を有しない均一状態である。その後、延伸工程及び熱固定処理工程における加熱処理により、相分離構造を発現する。つまり、共重合ポリエステルを主成分とする相とポリウレタンを主成分とする相に分離する。また相分離の進行にともない、より低い表面エネルギーを有する共重合ポリエステル成分の表面存在比率が高くなるものと考えられる。
特に本発明において、被覆層中の共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相は、幅が最大で1μmで長さが1μmを超える連続構造を有することが好ましく、さらに好ましくは共重合ポリエステル相とポリウレタン相が共連続構造を有する構造である。本発明で規定するPEs表面分率の範囲内で、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相が、幅が最大で1μmで長さが1μmを超える微細な連続構造を有することによって、微視的に均一な密着性が得られる。
共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相において、幅が最大で1μmを越える箇所が点在する相分離構造では、局所的にハードコート層、拡散層、プリズム層のような機能層に対し、密着性に劣る箇所が生じる。被覆層表面に密着性に劣る箇所が存在すると、その部分を起点として巨視的な剥離に繋がる場合がある。前記ポリエステル相の幅を最大で1μmの微細な連続構造にするためには、横延伸ゾーンから熱固定ゾーンでの最高温度に到達するまでに要する時間、熱固定条件を適宜選定することが重要である。特に、横延伸ゾーンから、熱固定ゾーンで最高温度に到達するゾーンまでに要する時間が長すぎる場合、被覆層の相分離が進行し過ぎ、結果として共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相の幅が最も狭い箇所で1μmを超える箇所が点在するようになるのである。本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを製造する際の具体的な熱固定条件は後述する。
最終的な被覆層表面の相分離構造制御のためには、後述の乾燥工程における溶媒蒸発速度及び、その後の加熱処理が極めて重要である。乾燥工程における溶媒蒸発速度を制御することで、被覆層の表面におけるポリエステル成分とポリウレタン成分の組成比を変化させることができる。
例えば、水/イソプロピルアルコールの混合溶媒を使用した場合、弱い乾燥条件では、乾燥後期過程で表面に残存する溶媒は、水の比率が多くなる。そのため、比較的親水性が高いポリウレタン系樹脂が被覆層表面に存在する比率が、強い条件で被覆層を乾燥させたときと比べて高くなる。また、塗布量を変化させることも溶媒蒸発速度の制御に等しい効果をもたらす。つまり、塗布量を増やした場合、乾燥に時間がかかり、乾燥直前に塗布面に存在する残溶媒は、水の比率が多くなる。つまり、表面におけるポリウレタン成分比率を、塗布量が少ない時と比べ、高くすることができる。
延伸工程及び熱固定処理工程では、ポリエステル成分とポリウレタン成分の相分離が進行するが、どちらか一方の熱架橋が始まると各相の運動性が大幅に低下し、相分離の進行が抑制される。つまり、延伸工程及び熱固定処理工程における加熱条件を制御することで相分離構造の制御が可能である。
以上のように、乾燥工程における、ポリエステル/ポリウレタンの表面存在比率の制御と延伸工程、熱固定処理工程における相分離の進行の制御により、表面相分離構造及び、各相の存在比率の厳密な制御が可能となる。また、被覆層に含有させる粒子の表面エネルギーの制御により、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相又はポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相のどちらか一方に選択的に粒子を分散させることができる。
そして、優れた密着性を有し、本発明が規定する光学欠点の少ない積層熱可塑性樹脂フィルムの製造は、通常の、被覆層形成のために調合された塗布液を単に濾過処理を行い、塗布液中の凝集物、異物の低減を行うのみでは達成できず、塗布液を調合する際に原材料である共重合ポリエステル系樹脂を、予め高精度な精製処理することにより、初めて達成される。
以下、当該製造方法を具体的に説明する。
(塗布工程)
塗布工程は、該フィルムの製造工程中に塗布するインラインコート法により実施することが好ましく、例えば、走行する基材熱可塑性樹脂フィルムの片面、若しくは両面に、上記共重合ポリエステル又は上記共重合ポリエステル系樹脂と上記ポリウレタン系樹脂を含む樹脂成分、及び上記粒子を含む塗布液を連続的に塗布する。結晶配向が完了する前の基材フィルムに塗布することがより好ましい。塗布方法は例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、オフセットコート法などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。これらの塗布方法はロール上の余分な塗布液をドクターブレードで掻き落とす機構を有しており、塗布斑の少ない均質な塗布面を得るには好適である。本発明においては、面質の観点からリバースキスロール・コート法を用いるのが好ましい。
本発明において、被覆層形成のための塗布液は、公知方法に準じて調製できるが、水性塗布液とするのが環境上及び安全上の観点から好ましい。よって、本発明に用いる共重合ポリエステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂は、水溶性又は水分散性であることが好ましい。
塗布液は、溶媒中に、撹拌下、樹脂を分散化または溶解させ、次いで、粒子、必要に応じて界面活性剤、各種添加剤を添加し、所望する固形分濃度にまで希釈して調製する。
共重合ポリエステル系樹脂(A)とポリウレタン系樹脂(B)を含む塗布液を調製する場合、樹脂(A)と樹脂(B)の固形分基準の質量比は、(A)/(B)=70/30〜30/70が好ましく、特に好ましくは60/40〜40/60の範囲である。(条件(2))本発明において、被覆層を構成する樹脂は前記の共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂以外の第3の樹脂を併用することもできる。また、架橋剤を併用してもかまわない。
なお、本発明において、被覆層表面のPEs表面分率と、被覆層の樹脂成分におけるPEs質量比は、図6で示すように、対応していない。図6は、被覆層の樹脂成分におけるPEs質量比が50%であっても、被覆層表面のPEs表面分率は30〜91%まで変化することを明確に示している。このことは、被覆層の表面と内部で共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂の構成比が異なっていることを示唆している。すなわち、本発明では、被覆層の厚み方向で、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂の構成比を任意に制御できることを意味する。
また、被覆層における共重合ポリエステル系樹脂(A)とポリウレタン系樹脂(B)の比率を前記の範囲内とすることにより、被覆層表面の堅さ指数を3.0〜15.0nmとすることができる。被覆層表面の堅さ指数が3.0nm未満の場合、被覆層が脆くなる。そのため、アクリル系樹脂を構成成分とするハードコート層、拡散層、プリズム層、などの機能層を形成後、所定のサイズに高速カッティングする加工工程において、高速カッティング時の剪断力に対し、十分な密着性が得られにくくなる。また。被覆層表面の堅さ指数が15.0nmを超える場合、耐ブロッキング性が低下しやすくなる。さらに、基材フィルムへの塗布性、密着性、耐溶剤性が不十分となる傾向がある。
本発明において、塗布液に用いる溶媒は、樹脂を溶解する液だけではなく、樹脂を粒子状に分散させるために用いる分散媒も広義的に含むものであり、有機溶媒、水性溶媒等の各種溶媒を用いることができ、上記の観点から水性溶媒が好ましい。
塗布液に用いる溶剤は、水に、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類を、全塗布液に占める割合が30〜50質量%の範囲で混合した溶媒が好ましい。また、アルコール類の混合量が10質量%未満である場合には、アルコール類以外の有機溶剤を溶解可能な範囲で混合してもよい。ただし、塗布液中、アルコール類とその他の有機溶剤との合計量は、50質量%未満とする。アルコール類の混合量(その他の有機溶剤を用いる場合には、アルコール類と当該有機溶剤の合計量)が50質量%未満であれば、塗布乾燥時に乾燥性が向上するとともに、水単独の場合と比較して塗布層の外観が向上するという利点がある。有機溶媒の添加量が、全溶媒に対し50質量%以上の場合には、前記ドクターブレードへの固形物の析出が多くなる傾向にある。また、溶媒の蒸発速度が速くなり、塗工中に塗布液の濃度変化が起こりやすくなる。その結果、塗布液の粘度が上昇して、塗工性が低下するために、塗布膜の外観不良を起こす場合がある。さらに、有機溶媒の揮発により、火災などの危険性も高くなる。また、有機溶媒の添加量が全溶媒に対し30質量%未満では、相対的に水の比率が増加し、親水性の高いポリウレタン成分が塗布層表面に偏析し、最終的に得られた積層熱可塑性樹脂フィルムにおいて被覆層表面のPEs表面分率を本発明で規定した範囲内とすることが難しくなるとともに、塗布液中に気泡が混入しやすくなる傾向にあり、結果として塗布面に筋状の欠点が発生しやすくなるため好ましくない。本発明では塗布工程において前記混合溶媒濃度のバランスが大きくくずれないようにすることが好ましい。
塗布液を調合するに際し、共重合ポリエステル系樹脂は、低分子量成分の含有量が少ないものを用いるが、共重合ポリエステル系樹脂の低分子量成分の含有量を低減させるためには、前記の方法、すなわち、共重合ポリエステル系樹脂を溶媒に溶解させて溶液化し、当該溶液を液温度15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過し、次いで50℃以上、70℃未満に加温した後、さらに15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過して処理する方法を用い(条件(3))、得られる濾液は、そのまま塗布液調製に供してよい。
また塗布液のpHを調節するために、pH調整剤としてアルカリ性物質あるいは酸性物質を添加してもよい。pH調整剤としては密着性、耐ブロッキング性、塗布性に悪影響を及ぼさないもの又は影響が無視できる程度であるものであれば特に限定されないが、例示すればpHを上昇させる場合は重曹、炭酸ナトリウム、下げる場合は酢酸等が挙げられる。本発明の塗布液の好ましいpHは5以上、8未満である。pH5未満では被覆層表面に共重合ポリエステル成分が偏析しやすくなる傾向にあり、PEs表面分率が本発明の規定する範囲より大きくなりやすく、ハードコートフィルムにおけるハードコート層や拡散板における拡散層、プリズムシートにおけるプリズム層に対して十分な密着性が得られない場合がある。pHが8以上では粒子の種類によっては凝集が起こりやすくなり、ヘイズが上昇するため好ましくない。
粒子を調合中の液に添加する際には、予め粒子を水、または有機溶媒に2質量%以上、25質量%未満の濃度の分散液として添加する方法が好ましい。調合中の液に直接粒子を添加した場合、均一な分散が困難となり、結果として、粒子凝集体が核となり、ドクターブレードへの固形物の析出が多くなるのである。粒子の分散液を作製する際、攪拌機を用いて十分分散させることが好ましい。攪拌機としては例えば粉体溶解機(T.K.ホモジェッターM型)が挙げられ、分散条件は分散液10kgに対し回転数5000rpm以上、好ましくは10000rpm以上、攪拌時間30分以上、好ましくは60分以上である。
塗布液のフィルムへの濡れ性を上げ、塗布液を均一に塗布するために、ノニオン系界面活性剤又はカチオン系界面活性剤を用いる(条件(1))。界面活性剤の使用は、被覆層表面で特定のPEs表面分率を制御するための手段の1つとなる。これらの種類の界面活性剤は良好な塗布性が得られ、且つ、本発明で規定するPEs表面分率が得られるものであれば特に種類は限定されない。界面活性剤の中でも、微量の添加で良好な塗布性を得るにはフッ素系界面活性剤が好適である。ノニオン系界面活性剤又はカチオン系界面活性剤の添加量は、塗布液に対し0.01〜0.18質量%、好ましくは0.02〜0.1質量%である。添加量を当該範囲内とすることにより、本発明で規定するPEs表面分率を得られる。また、添加量が0.01質量%未満であると、良好な塗布性が得られず、0.18質量%を超えると、塗布液中に含まれる粒子が凝集しやすくなるため、異物の発生頻度が上昇するおそれがある。また、得られた積層フィルムのヘイズ上昇に繋がる(特に光学用基材フィルムとして問題である)。さらに界面活性剤成分がブリードアウトし、密着性に悪影響を及ぼす場合もある。
なお、アニオン性界面活性剤を使用した場合、前記に示した共重合ポリエステル、及びポリウレタンとの相溶性を高める場合があり、本発明で規定する相分離構造が得られにくい。界面活性剤の添加量は、ハードコート層や拡散層などの機能層との密着性を阻害せず、良好な塗布性を得られる範囲であれば適宜選択することができる。例えば、フッ素系界面活性剤の場合、純水に対する臨界ミセル濃度からその30倍以下が好適である。臨界ミセル濃度の30倍を超えると塗布液中に含まれる粒子が凝集しやすくなるため、得られた積層フィルムのヘイズが上昇し、特に光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして好ましくない。また、界面活性剤成分が被覆層表面にブリードアウトして、密着性に悪影響を及ぼす場合もある。一方、臨界ミセル濃度以下では、良好な塗布性が得られない。また、本発明で規定するPEs表面分率の範囲に制御することが難しくなる。
また、本発明に用いる界面活性剤は、精製したものを用いることが好ましい。上市されている界面活性剤は、一般に、微量な不純物を含有している場合が多い。特に、不純物であるポリエチレングリコールは、その含有量によっては良好な相分離構造を得るのを阻害する場合がある。これを防止するために、不純物を界面活性剤から除去する前処理を行い、精製した界面活性剤を使用することが好ましい。
不純物を除去する前処理工程としては、界面活性剤を変質させず、不純物を除去できれば方法は特に限定されない。例えば、次のような方法が挙げられる。
少なくとも界面活性剤とポリエチレングリコールを溶解可能な有機溶媒に溶解し、低温で静置し、主成分である界面活性剤を飽和沈降させ、次いで濾過し、純度を向上させた界面活性剤を取り出す方法が挙げられる。パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物系界面活性剤の場合、イソプロピルアルコールに30℃の温浴上で加熱溶解して0℃で24時間程度静置後、沈殿物を濾過し取り出すことによって純度を向上させた界面活性剤を得ることができる。
塗布液には、熱架橋反応を促進させるため、触媒を添加しても良く、例えば、無機物質、塩類、有機物質、アルカリ性物質、酸性物質および含金属有機化合物等、種々の化学物質が触媒に用いられる。
さらに塗布液には、必要に応じて、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、抗菌剤、光酸化触媒、顔料、有機フィラーおよび潤滑剤等の種々の添加剤を混合してもよい。
塗布液中の固形分濃度は、30質量%以下であることが好ましく、特に好ましくは10質量%以下である。固形分濃度の下限は1質量%が好ましく、さらに好ましくは3質量%、特に好ましくは5質量%である。
塗布液は、塗布液の樹脂成分及び粒子を均一に分散させるため、また、粗大な粒子凝集物及び工程内埃等の異物を除去するために、精密濾過することが好ましい。塗布液を精密濾過するための濾材は、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が25μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは濾過性能5μm以下、さらに好ましくは濾過性能1μm以下、さらに好ましくはこれらのフィルターを組み合わせて用いる方法である。濾過粒子サイズが25μmを超えると、粗大凝集物の除去が不十分となりやすい。そのため、濾過で除去できなかった粗大凝集物は、塗布乾燥後の一軸延伸又は二軸延伸工程での延伸応力により広がって、100μm以上の凝集物として認識され、光学欠点の原因となる。ただし、濾過性能が0.5μm以下の場合、必要な粒子凝集体までも除去され、本来要求されている易滑性、耐ブロッキング性が低下する場合があるため好ましくない。実用的には、塗布液のフィルター濾過粒子サイズの下限は0.8μmとするのが、フィルター目詰まりを発生させる頻度も少なく、易滑性、耐ブロッキング性を保持しやすく、さらに塗布液に不必要に剪断力をかけないためにも好適である。塗布液を精密濾過するための濾材のタイプは、上記性能を有していれば特に限定はなく、例えば、フィラメント型、フェルト型、メッシュ型が挙げられる。塗布液を精密濾過するための濾材の材質は、上記性能を有しかつ塗布液に悪影響を及ばさない限り特に限定はなく、例えば、ステンレス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等が挙げられる。
本発明における被覆層の塗工方法は前述の方法であれば特に限定されないが、アプリケーターロールに基材フィルムを水平または垂直など種々な配置により接触させて、塗布液が形成するメニスカスにより、アプリケーターロール上の塗布液を基材フィルムに転写させる方法が好ましい。特に光学用途用の積層フィルムの製造においては、走行する基材フィルムとアプリケーターロールの接線の下流側に生じる僅かに液溜まりに含まれる気泡を素早く取り除くために、図7に見るように基材フィルムを垂直に走行させる方法が好ましい。さらに基材フィルムを垂直方向に走行させる方式では両面同時に塗工することが容易となり好適である。
当該製造方法を詳細に説明するために、リバースキスコート法を例に挙げ説明する。リバースコート法とは図7に示すようにフィルム走行方向と逆回転するアプリケーターロール13とメタリングロール14を用い、走行するフィルム12にアプリケーターロール13を接触させ、塗布液をフィルムに転写させることによって塗布する方法である。
リバースコート法において、ロールの直径はアプリケーターロールおよびメタリングロールともに10cm〜50cmであることが好ましく、アプリケーターロール/メタリングロールの直径比は0.5〜2の範囲であることが好ましい。
積層熱可塑性樹脂フィルムロールのPEs表面分率の変動率(MD、TD共に)を20%以下に制御するための手段は、塗布液の組成、塗布条件、乾燥条件等、及び熱固定条件等の製膜条件を、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを製造する際において一定に保つことが重要である。しかしながら、特に、塗布液に用いる混合溶媒の比率は変動しやすく、この混合溶媒の比率を一定に保つ工夫がフィルムロールの長手方向のPEs表面分率の変動を小さくする上で重要である。
なお、混合溶媒の比率を一定に保つ手段は、下記の方法に限定されるものではない。
塗布液をコーターに供給する塗布液タンクは、図8に見るように調合用タンク23と調合用タンク23より容量の小さい循環用タンク22とに分けて配置し、循環用タンク22とコーターとの間でのみ塗布液を循環させるのが好ましい。循環用タンクを設けない場合は、塗布液の消費によりタンク内の液量が減少した場合に、コーター間での塗布液の循環回数が増加して溶媒のバランスが変動しやすくなる他、粒子の粗大な凝集物が発生しやすくなるので好ましくない。一方、受け皿18の容量に対して循環用タンク22の容量を大きくすることが混合溶媒濃度バランスを安定化させる上で効果的であり、具体的には塗布液の受け皿18の容量を1とした時、循環用タンク22の容量の比は1:10以上、好ましくは1:50以上にするのがよい。1:10より循環用タンク22の容量が小さいと混合溶媒濃度バランスの変動が大きくなりやすく、好ましくない。さらに好ましくは循環用タンク22の容量と調合用タンク23の容量の比を1:10以上、好ましくは1:20以上にする。この時、循環用タンク22の容量が稼働時常に一定になるように調合用タンク23から循環用タンク22に塗布液を供給するのが好ましい。
塗布液中の気泡による塗布筋の発生を防止するために、脱泡を行うことが好ましい。脱泡は例えば、塗布液に極力空気を巻き込まないようにする手段と、微量に存在する塗布液中の空気を除去する手段により行う。
塗布液に極力空気を巻き込まないようにする手段とは、ファウンテンダイ15及びメタリングロール14からドクターブレード17によって掻き取られた塗布液が、直接受け皿18に落下し、この衝撃で空気が混入することを防止するために、図7に見るように、ファウンテンダイ15とドクターブレード17の下にガイド板16を設置し、塗布液がこのガイド板16に沿って滑らかに受け皿18に流れ込むようにした手段である。また、微量に存在する塗布液中の空気を除去する手段とは、塗布液を循環用タンク22からファウンテンダイ15に供給する配管の途中に、図8に見るように、上方に伸びる冷却装置(図示しない)を有する分岐配管21を設け、この配管21から塗布液中に含まれる空気を除去する手段である。この分岐配管21の出口の温度を、冷却装置によって20℃以下、好ましくは10℃以下にすることにより、揮発性の高い溶媒の揮散を抑制でき、塗布液の混合溶媒のバランスの変化を小さくできる。尚、この分岐配管21の出口の高さは、塗布液流出を防止するため、及び十分な冷却効果を得るべく塗布液循環用タンク22の液面より少なくとも10cm以上とすることが好ましく、さらに好ましくは20cm以上とする。液体の脱気方法として、減圧脱気による空気の除去が行われる場合があるが、本発明では、混合溶媒のバランスがくずれやすくなるため好ましくない。
特に、混合溶媒として、水とイソプロピルアルコールを用いた場合は、水に比べイソプロピルアルコールの方が蒸発速度が大きく、混合溶媒のバランスがくずれるおそれがあるため、さらに塗布液中の混合溶媒濃度バランスの安定化策を講じることが好ましい。塗工中における混合溶媒濃度バランス策を具体的に例示すると、アプリケーターロール13、メタリングロール14、塗布液受け皿18を含む装置に、図7に示すように溶媒揮散防止カバー19を設け、溶媒揮散防止カバー19の内部をイソプロピルアルコールの飽和蒸気圧に近づける工夫を施すことが効果的である。フィルムロール長が1000mを超えてくると、異物による光学欠点が増加する傾向にあるが、溶媒揮散防止カバー19を設けることによって、ロール長が1000mを超えても、異物による光学欠点の増加傾向を抑えることもできる。構造上完全に密閉することは困難であるが、開放部を小さくすることによって、特にアプリケーターロール13上の塗布液の溶媒濃度バランスの安定性は大幅に向上する。なお、混合溶媒濃度バランス策は上記に限られない。
ファウンテンダイ15に供給される塗布液の温度、アプリケーターロール13、メタリングロール14の表面温度は10℃以上、30℃未満とするのが好ましい。塗布液の温度が30℃以上になると、塗布液が変質しやすくなるため、好ましくない。10℃未満では塗布液の粘度が高くなりウネスジが発生しやすい。また、それぞれの温度の差は10℃より大きくならないことが均一な品質を得る上で好ましい。また、アプリケーターロール13及びメタリングロール14の表面温度、特にメタリングロール14の表面温度が30℃以上では、ロール表面が乾燥しやすくなり、結果としてドクターブレード17への固形物の析出が多くなってしまう。
走行するフィルム12にアプリケーターロール13を接触させて、塗布液がフィルム12に転写されるが、フィルム走行速度としては、特に制限はされないが、10m/分〜100m/分が好ましく、20m/分〜80m/分がより好ましい。10m/分未満では生産性が低下し、製造コストが高くなる。100m/分を超えると塗布液に気泡が混入しやすくなるだけでなく、塗布斑が発生しやすくなる。
リバースコート法において、アプリケーターロール13はフィルム走行方向に対して逆回転するが、アプリケーターロールの周速としては、フィルム走行速度(F)とアプリケーターロールの周速(A)の比(以下A/F比と記す)として1.00〜1.30が好ましく、1.02〜1.20がより好ましい。前記のA/F比が1.00未満では塗布液の転写不良が発生しやすくなり、1.30を超えると塗布斑が発生しやすくなる。
塗布時においては、前述のようにロールが乾くと固形物がドクターブレード17に析出するため、ロールが乾かないようにすることが重要であるが、さらにドクターブレードカスの発生を抑制するために、使用するロールは硬質クロムメッキ処理がなされ、且つ、表面粗度0.3S以下の鏡面加工されたロールを用いることが好ましい。この表面粗度は、より好ましくは0.2S以下、より好ましくは0.1S以下である。0.3Sを超えると、ドクターブレードカスが発生しやすい。
また、ドクターブレード17のメタリングロール14への接圧の下限は、通常20gf/cm(0.20N/cm)、好ましくは30gf/cm(0.29N/cm)、上限は、通常100gf/cm(0.98N/cm)、好ましくは80gf/cm(0.78N/cm)である。20gf/cm(0.20N/cm)未満ではメタリングロール14上の塗布液の掻き取り効果が不足し、結果として塗布斑が発生しやすくなる。また100gf/cm(0.98N/cm)を超えると固形物がドクターブレード17に析出しやすくなるため、好ましくない。
ドクターブレード17の材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリアセタール等の樹脂製でも良く、ステンレス鋼、スエーデン鋼等の金属製やセラミック製でも良いが、スリット後に研磨処理がなされ、真直性の高いものが好ましい。
また、塗布装置のロールの精度(真円度と円筒度)を向上させることによってもドクターブレード17とこれに接するメタリングロール14の接圧を安定させることができ、ドクターブレード17への固形物析出を低減する上で有効である。また、フィルムロールの長手方向におけるPEs表面分率の変動を小さくする上で有効である。
前記のアプリケーターロールの真円度とは、JIS B 0621で示されているように、記録式真円度測定器を用いて決定された最小領域法による二つの同心円の各半径の差で表される指標である。なお、ロールの真円度の単位はmmである。また、アプリケーターロールの円筒度は、該ロールを定盤上に置いた測微器付きスタンドを軸線方向に移動して、円筒上面に測定子を当てた状態で、全長にわたって種々の測定平面中で測定を実施し、そのときの読みの最大差の1/2で表される指標である。なお、円筒度の単位はmmである。
本発明においては、ロール精度(真円度と円筒度)を向上させることにより、長さ方向の塗布層の厚みのバラツキを低減することができる。具体的には、ロール精度(真円度と円筒度)を5/1000mm未満にすることが好ましい。
また、塗布液の塗工に際し、リバースコーターの各ロールの表面仕上げを0.3S以下にし、かつ、アプリケーターロール13およびメタリングロール14の精度(真円度と円筒度)を5/1000mm未満、2/1000mm以上にすることにより、ウェット塗工量の変動を押さえ、かつ、塗膜のバラツキも押さえることができる。好ましくは、アプリケーターロール13およびメタリングロール14の精度(真円度と円筒度)が3/1000mmである塗工ロールを用いるのがよい。
被覆層の最終塗布量(乾燥後、延伸前のフィルム単位面積当りの固形分質量)は、0.005〜0.2g/mであり(条件(4))、好ましくは0.008〜0.15g/mである。従来技術では、塗布量が0.05g/m未満では十分な密着性が得られにくい。しかしながら、被覆層が特定の相分離構造を有することで、塗布量が0.05g/m未満であっても、機能層と基材に対し優れた密着性を有する積層フィルムが得られるのである。ただし、塗布量が0.005g/m未満では十分な密着性が得られない。なお、塗布量が0.05g/m未満の場合、使用する粒子は平均粒径が60nm以下の粒子を用いることが好ましい。粒子の平均粒径が60nmを超えると、粒子が被覆層から脱落しやすくなる。粒子がポリウレタン相に偏在している場合は、塗布量が0.005g/m以上であれば粒子が脱落しにくい。一方、0.2g/mを超えると、被覆層表面に偏析するポリウレタン系樹脂成分が多くなり耐ブロッキング性が低下してしまう。また、未乾燥時の塗布量(以下、ウェット塗布量と略す)は2g/m以上、10g/m未満が好ましい。2g/m未満で必要な被覆層の最終塗布量(乾燥後、延伸前のフィルム単位面積当りの固形分質量)を得ようとすると、塗布液の固形分濃度を高くする必要があり、この時、塗布液粘度が高くなるため、筋状の塗布斑が発生しやすい。10g/m以上では乾燥炉内の乾燥風の影響を受けやすく、塗布斑が発生しやすい。当該塗布量の塗布液が塗布されたフィルムは、配向および熱固定のためにテンターに導かれ、そこで加熱されて、熱架橋反応により安定な被膜を形成し、積層熱可塑性樹脂フィルムとなる。
なお、埃の付着による欠点を防止するために、クリーン度がクラス5000以下のクリーンな環境下で塗布液を塗布することが好ましい。
また、塗工時のフィルムテンションを4000〜10000N/原反幅(原反幅は1〜2m)にするのがよく、フィルムテンションが当該範囲内にあると、工業的規模でフィルムの平面性が保持され(テンションはフィルムの厚さにより異なり、比較的薄いフィルムはより低いテンションを掛けることで平面性が保持される)、アプリケーターロールと基材フィルムの局所的接触が防止でき、さらに塗布液の転写量がフィルムの長さ方向で均一となる効果が得られる。10000N/原反幅を超えると、フィルム原反が変形し、アプリケーターロールと基材フィルムに局所的に接圧の高い部分ができ、キズが発生しやすくなり、破断する場合もあるため好ましくない。4000N/原反幅未満においても、塗工時のフィルムの平面性が不十分となり、アプリケーターロールと基材フィルムの局所的接触によるキズが発生しやすくなる他、フィルムの蛇行も発生することがあり、さらに塗布液の転写量がフィルムの長さ方向で不均一となる。また、フィルムのウェット塗布量が大きく変動することにより、塗膜厚さのバラツキもより大きくなるため好ましくない。
また、フィルムロール幅方向のPEs表面分率の変動率(TD)を20%以下とするには、フィルムロールの幅方向に対する塗布層の厚みのバラツキを小さくすることが重要である。そのためには、塗工時の幅方向の平面性を向上させることが効果的である。具体的には、塗工時のフィルムの平面性を向上させる手段としては、コーターと乾燥炉の間で、フィルムの幅方向の両端にそれぞれ一対のピンチロール24で両面を挟む方法も有効である。ピンチロールにフィルムの両端部を把持させることにより、工業的規模で、フィルムの幅方向の平面性を向上させて、フィルムの幅方向のウェット塗工量を安定化させる。それにより、フィルムロールの幅方向の塗布層のバラツキを低減することができる。フィルムの両端部をピンチロールで把持させない場合は、フィルムの幅方向および長さ方向のウェット塗工量が大きく変動し、塗布層の厚さのバラツキもより大きくなる。
(乾燥工程)
前記塗布液を塗布後、乾燥させる際、テンターの予熱ゾーンを利用して乾燥させる場合が多いが、この場合、製膜設備の大きさ、走行速度にも依存するが、一般に塗布から乾燥開始までの時間(塗布液の塗布直後から乾燥工程の入口までのフィルムの通過時間)は、フィルム厚さが30μm以上の比較的厚手のフィルムを製造する場合、少なくとも5秒程度かかり、この間に塗布液の溶媒である水とアルコールのバランスがくずれ、これによって親水性の高いポリウレタン樹脂成分とポリウレタン樹脂成分と親和性の高い粒子が塗布層表面に偏析しやすくなる。そのため、最終的に得られる積層熱可塑性樹脂フィルムにおいて、被覆層表面のPEs表面分率を特定の範囲に制御することが困難となる。そこで、本発明では、塗布後直ちに乾燥させることが重要であり、塗布液の塗布直後から乾燥工程の入口までのフィルムの通過時間は2秒未満であることが必須である(条件(5))。当該通過時間は、好ましくは1.5秒未満である。この塗布から乾燥炉に入るまでの時間を2秒未満に維持するためには、適宜フィルムの走行速度を選択する必要があるが、塗膜の乾燥を専用とする乾燥炉(プレドライヤー)を塗布装置のフィルム進行方向出口の極力近くに配置することが好ましい。
乾燥炉内において、塗布面にあたる乾燥風の温度は、120℃以上150℃未満、風速は30m/秒以上であることが必須である(条件(6))。好ましい乾燥温度は、130℃以上、150℃未満であり、好ましい風速は、30〜40m/秒である。該乾燥温度が120℃未満または風速30m/秒未満であると乾燥速度が遅くなり、塗布液の溶媒である水とアルコールのバランスがくずれ、相対的に水の比率が増加しやすくなる。そのため、親水性の高いポリウレタン成分が被覆層表面に偏析し、最終的に得られる積層熱可塑性樹脂フィルムにおいて、本発明で規定するPEs表面分率を得ることが困難になる。150℃以上では基材フィルムの結晶化が起こり、横延伸時に破断が発生しやすい。乾燥時間は0.5秒から5秒であることが必須であり(条件(6))、好ましくは1秒から3秒である。0.5秒未満では塗布層の乾燥が不十分となり、乾燥工程から横延伸工程までの間に配置されたロールを通過する際、該ロールを乾燥不十分な塗布面で汚染する可能性がある。また、5秒を超えると基材フィルムの結晶化が起こり横延伸時に破断が発生しやすい。
120℃から150℃未満の温度で乾燥した後は、フィルムを直ちに室温近くまで冷却するのが好ましい。温度が100℃以上の高温のまま乾燥炉を出て室温近くのロールに接した場合、フィルムの収縮によってキズが発生しやすくなる。
乾燥炉内の風速を通常30m/秒以上にすると、乾燥炉内で未乾燥状態の塗布面に強い乾燥風があたるため乾燥ムラが生じやすくなるが、本発明では吹き付ける風量と同量若しくはそれ以上の風量を乾燥炉外に排気することによって、30m/秒以上の風速を可能とすることができる。また、該排気風はコーターと反対側へ流れるようにし、コーターでの排気風による塗布面へのムラ発生を防止することも重要である。尚、乾燥風は埃混入防止のため、HEPAフィルターを用いて清浄化された空気を用いることが好ましい。この際に用いるHEPAフィルターは、公称濾過精度0.5μm以上の埃を95%以上カットする性能を有するフィルターを用いるのが好ましい。
乾燥工程は、乾燥温度および乾燥時間の条件を順次変えた、いわゆる2〜8のゾーンに分割された乾燥ゾーンから構成されることが好ましい。特に好ましくは、3〜6のゾーンに分割された多段乾燥装置を採用する。例えば、塗布液を、一軸配向熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に塗布液を塗布し、コーター真上に配置した多段の乾燥炉で乾燥する場合、下記の方法が好適である。
例えば、4段階で乾燥する場合には、4つの乾燥ゾーンに分かれた乾燥炉にて乾燥を行う。第1乾燥ゾーンでは、温度125〜140℃で0.1〜4秒間、第2乾燥ゾーンでは、温度55〜100℃で0.1〜4秒間、第3乾燥ゾーンでは、温度35〜55℃で0.1〜4秒間、第4乾燥ゾーンでは、温度25〜35℃で0.1〜4秒間、乾燥させる方法が挙げられる。
前記の乾燥条件の数値範囲は、塗布液の固形分濃度により多少の変動があり、上記の代表的な条件に限定されるものではない。さらに、熱風乾燥を行う場合、風量も各段階で変化をもたせることが重要である。
例えば、以下のような方法が好適である。
第1乾燥ゾーンでは、乾燥風の風速を30〜40m/秒、乾燥風の給気風量を100〜150m/秒、排気風量を150〜200m/秒に設定する。第2乾燥ゾーンから第4乾燥ゾーンまでは、給気風量を60〜140m/秒、排気風量を100〜180m/秒に設定する。いずれの乾燥ゾーンにおいても、コーター側に乾燥風が流れないように設定する。
また、温度を120℃から150℃に維持しながら、0.1〜5秒間、好ましくは0.5秒から3秒未満の時間で、乾燥温度および総乾燥時間を適宜調整すればよい。この乾燥工程における各段(ゾーン)の決定は、分散液の濃度、塗布量、塗布された走行フィルムの走行速度、熱風の温度、風速、風量などの諸条件を考慮して、製造現場で適宜、適正値を決めることができる。
(延伸工程)
乾燥後、フィルムの端部をクリップで把持して、通常、80〜180℃(好ましくは100〜140℃)に加熱され、風速が10〜20m/秒である熱風ゾーンに導き、幅方向に2〜6倍(好ましくは2.5〜5.0倍)に延伸する。さらに別方向に延伸を行ってもよい。
(熱固定処理工程)
当該製造方法において、横延伸工程、熱固定処理工程、冷却工程は、10〜30ゾーンに連続して区分され、かつ各ゾーンは独立して温度制御が可能なように仕切られ、かつ各ゾーン間で急激な温度変化が起きないように設計している。特に、横延伸ゾーン後半から熱固定最高温度設定ゾーンにおいて、段階的に昇温させることで、隣接するゾーン間の急激な温度変化を抑えることができる。本発明において、被覆層表面に特異な相分離構造を有する積層熱可塑性樹脂フィルムを製造する際、特に、乾燥工程や熱固定処理工程では温度制御が非常に重要である。以下、その実施態様を詳細に説明する。
前述のように、本発明の熱固定処理工程において、熱処理条件が被覆層の相分離状態を左右する。すなわち、熱固定処理工程における最高温度、前記の最高温度に達するのに要する時間、及び被覆層の相分離が顕著に進行し始める温度から熱固定処理工程における最高温度に達するのに要する時間、を適宜設定することが重要である。
熱固定処理工程における各熱固定ゾーンにおける温度は、基材の熱可塑性樹脂フィルムの構成樹脂の種類により若干の違いはあるが、100〜260℃の温度範囲内で適宜相分離構造が形成されるように設定すればよい。以下、代表的な熱可塑性樹脂である、ポリエチレンテレフタレートを基材フィルムとした場合を例に挙げて説明する。
熱固定処理工程におけるフィルムが通過する第1の熱固定ゾーンの温度は、190〜200℃とする。熱固定処理工程における最高温度は、210〜240℃に制御し、好ましくは下限が225℃、上限が235℃である(条件(7))。一般には、熱固定処理の初期の段階では210〜240℃と比較的高い温度で熱固定をして、後段になるにつれて、100〜200℃と、順次温度を下げていく場合が多い。
熱固定処理工程における最高温度が210℃未満では、被覆層においてミクロ相分離構造またはナノ相分離構造を形成させることが困難である。したがって、近年要求されている、高速カッティング時の衝撃による界面の剥離に耐えられる、基材と機能層との密着性が十分に得られにくくなる。さらに、得られた積層フィルムの熱収縮率が大きくなり、好ましくない。
また、熱固定処理工程における最高温度が240℃を超える場合には、被覆層表面のPEs表面分率が大きくなり、ハードコート層、拡散層、プリズム層、紫外線硬化型インクで印刷された印刷層などの機能層に対する密着性が低下しやすくなる。さらに、被覆層の相分離が顕著に進行し始める温度から熱固定処理の最高温度に達するのに要する時間が長くなるため、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相の最も細い箇所の幅が1μmを超える箇所が点在する状態となる。その結果、局所的にハードコート層、拡散層、プリズム層、紫外線硬化型インクで印刷された印刷層などの機能層に対し、密着性が劣る箇所が生じ、その部分を起点として巨視的な剥離に繋がる場合がある。
本発明では、第1熱固定ゾーンの出口から、最高温度に設定された熱固定ゾーンの出口(なお、複数ある場合は、最も入口側に近い熱固定ゾーンの出口)までのフィルムの通過時間が10秒以内である。当該フィルムの通過時間として好ましくは、3秒以上9秒以下である(条件(7))。当該通過時間が10秒間を超えると、相分離が過剰に進行し、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とする相の最も細い箇所の幅が1μmを越える箇所が点在する状態となりやすい。その結果、局所的にハードコート層、拡散層、プリズム層、UVインクで印刷された印刷層などの機能層に対する密着性が劣る箇所が生じ、その部分を起点として巨視的な剥離に繋がる場合がある。
本発明で、被覆層の相分離が顕著に進行を開始する温度とは、本発明の実施例に示す塗布液組成の範囲においては、約200℃と推定している。しかしながら、該温度は当然のことながら、被覆層の樹脂成分によって異なるため、この温度に限定されるものではない。
熱固定処理工程についてさらに具体的に説明する。
一般に、横延伸工程、熱固定処理工程、冷却工程は、隣接する各ゾーンの急激な温度変化を抑制するために、テンター内で10〜30ゾーンに分割され、各ゾーンで独立して温度制御がなされている。特に、横延伸ゾーンの後半から熱固定処理工程の最高温度に設定されたゾーンにおいては、各ゾーンの温度をフィルム進行方向に対して段階的に昇温させて、各熱固定ゾーン間での急激な温度変化がおきないようにすることが好ましい。
本発明においては、相分離が顕著に進行を開始する温度設定ゾーンから熱固定処理工程の最高温度設定ゾーン入口までのフィルムの通過時間を、速やかに、且つ均一に昇温させることが重要である。速やかに温度を上昇させるためには、各熱固定ゾーンにおいて熱伝達効率を上げる方法、例えば、フィルムへ吹き付ける熱風の風速を高くする方法が有効である。しかしながら、この方法では、一般的に温度斑が発生しやすいため、被覆層の相分離状態に斑が発生する場合や、熱固定ゾーン内で装置内に僅かに付着するオリゴマー等の異物が舞い上がり、舞い上がった異物がフィルムに付着して光学的欠点に繋がる場合がある。
一方、風速が低すぎると、十分な昇温速度が得られない。よって、本発明では風速を10m/秒以上20m/秒未満とするのが好ましい。速やかに且つ均一に積層フィルムを昇温させるためには、熱風を吹き付けるためのノズルの間隔を500mm以下の比較的短い間隔で配置する手段が有効である。熱風を吹き付けるためのノズルの間隔を500mm以下に配置する場合、例えばノズル間隔は、300mm、350mm、400mmと配置する場合、設備メンテナンス上は不利となるが、本発明を完成させるには重要である。一段に相当する1ゾーン当たりのノズル本数は6〜12本程度と、その本数はノズル間隔、通風量、通風時間の状態を考慮して決める。なお、本発明で記載する風速とは、熱風吹き出しノズル出口に面したフィルム表面における風速を意味し、熱式風速計(日本カノマックス製、アネモマスター モデル6161)を用いて測定したものである。
本発明の熱固定処理工程の好ましい一実施態様を示す。
前記熱固定処理工程は、複数の熱固定ゾーンに連続して区分され、かつ各ゾーンは独立して温度制御が可能なように仕切られている。熱固定ゾーンは、2〜10段の熱固定ゾーンが連続して配列された工程、好ましくは4〜8段の工程に分割し、この多段に分割された熱固定ゾーンで積層フィルムの温度制御管理をすることが好ましい。
例えば、被覆層を有するポリエステルフィルムの場合、下記のように6段に分割された熱固定ゾーンを順次連続して通過させ、各段階に微妙な温度差を持たせて熱固定処理を行い、フィルム両端部のコートされていない部分をトリミングする方法が挙げられる。前記の熱固定処理温度は、第1熱固定ゾーンで200℃、第2熱固定ゾーンで225℃、第3熱固定ゾーンで230℃、第4熱固定ゾーンで230℃、第5熱固定ゾーンで210℃、第6熱固定ゾーンで170℃、第7熱固定ゾーンで120℃とする。また、第6熱固定ゾーンにて幅方向に3%の緩和処理を行う。
前記の段とは、1つの熱固定ゾーンに相当するものである。このように各段の熱固定ゾーンの温度には、微妙な温度差を持たせること、即ち5〜40℃程度の温度差を持たせることが好適である。この温度差の設定は、被覆層を有する熱可塑性樹脂フィルムの走行速度、風量、および被覆層の厚さなどの諸要因を考慮して任意に決める。
かくして得られる積層フィルムが、巻き取り機等によって常法によりロール化されることによって、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールが製造される。当該フィルムロールは、スリッター等により適当な幅に裁断されてもよい。
次に、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールの製造方法について、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)を例にして説明するが、当然これに限定されるものではない。また、実施例における、各フィルムの物性や評価は下記の方法を用いた。
(1)PEs表面分率
(1-1) 相分離構造の評価
被覆層の相分離構造の評価は、走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー製、SPI3800Nシステム/SPA300)を使用し、位相測定モード(フェーズモード)にて行った。位相像では、位相遅れが大きいほど明るく、逆に位相遅れが小さいほど暗く表現される。位相遅れが小さいということは、他の相に比べ硬いあるいは比較的吸着力が小さいことを意味する。積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層において、暗色相がポリエステル相Aであり、明色相がポリウレタン相Bである。
走査型プローブ顕微鏡における位相測定モードの測定原理は、エスアイエス・ナノテクノロジー株式会社のウェブサイト(http://www.siint.com/technology/probe_applications.html)の「1−2.アップリケーション(モード別)」におけるPhase欄の「1.SPMによる位相測定」のPDFファイルに記載されている。
測定に使用したカンチレバーは主にDF3(バネ定数:約1.6N/m)を用い、探針汚染による感度及び分解能の低下を防ぐため、常に新品を使用した。スキャナーはFS−20Aを使用した。また、観察は分解能512×512ピクセル以上とし、観察視野は5μm×5μmとした。測定時のカンチレバーの振幅減衰率や走査速度、走査周波数等の測定パラメータはラインスキャンを実施し、最も感度・分解能良く観察できる条件に設定した。
前記によって得られたフェーズモード画像(ビットマップ形式512×512ピクセル)を画像処理ソフトウェア(Adobe製、Photoshop ver7.0)に読み込ませ、画像の大きさが205mm×205mmになるようにディスプレイ上に表示させた(図1参照)。次いで、同ソフトウェアの鉛筆ツール(線の太さ:3ピクセル)により、明色相と暗色相の境界に、黒色の線を描き両相の境界を明確にした(図2参照)。さらに、同ソフトウェアの塗りつぶしツールを用い、暗色相を黒色に明色相を白色に塗り分け2値化した(図3参照)。この時、画面上の大きさで明色相内にある径2mm以下の暗色部は、明色相に偏在する粒子であると判断し、白色に塗りつぶした。例えば、シリカ粒子を用いた場合には、このように明色相に偏在することが確認できている。
(1-2) PEs表面分率の測定
(1-2-1) 画像解析法
この2値化した画像を同ソフトウェアにて、輝度(黒、白)を横軸とし、度数を縦軸としたヒストグラムを表示させ、黒色部の面積比率を求め、PEs表面分率とした。
(1-2-2) ペーパーウェイト法
前記のPEs表面分率の測定は、画像解析法以外に、ペーパーウェイト法を用いて行うこともできる。測手順は下記の通りである。
前記によって得られたフェーズモード画像をビットマップ形式のデジタル画像として保存した。次いで、この画像をプリンター(Xerox製、DocuPrintC830)にて、A4版上質紙に印刷出力した。出力した画像(200mm×200mm)について、500ルクスの照明下の明るい室内で、目視確認にて画像内の明色相と暗色相の境界を、4B鉛筆で明確にした。この際、明色相内に存在する径0.1μm以下の暗色相は、明色相に偏在する被覆層中に含有させた粒子であることが確認されているため、境界線を引くことは行わず、明色相に含むものとした。その後、明色相と暗色相を明確にした境界線上をカッターナイフで切り分けることで分割し、明色相(ポリウレタン相B)と暗色相(ポリエステル相A)の紙の質量を測定し、明色相と暗色相の紙の総質量に対する暗色相(ポリエステル相A)の質量の比率を%の単位で求め、それをPEs表面分率とした。
(1-2-3) PEs表面分率の変動率
(a)フィルムロールの長手方向
本発明の実施例および比較例で得たフィルム幅1m、フィルム長さ1000mのフィルムロールを巻き出し、該フィルムの長手方向(MD)について、前記被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)を下記の箇所で測定し、長手方向の被覆層表面のPEs表面分率の変動率を下記式により求めた。
変動率(MD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
被覆層表面のPEs表面分率の測定は、フィルム物性が安定している定常領域の一端を第1端部、他端を第2端部としたとき、第1端部の内側2m以下で1番目の測定を、また、第2端部の内側2m以下で最終の測定を行うと共に、1番目の測定箇所から100m毎に行う。
(b)フィルムロールの幅方向
本発明の実施例および比較例で得たフィルム幅1m、フィルム長さ1000mのフィルムロールを巻き出し、該フィルムの幅方向(TD)について、フィルムを幅方向に4等分し、それぞれの中央部において、被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)を測定し、幅方向の被覆層表面のPEs表面分率の変動率を下記式により求めた。
変動率(TD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
(2)ポリエステル相Aの幅が最小で1μmを超える箇所の有無
前記によって得られた印刷された異なる測定箇所10ヶ所のフェーズモード画像において、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相Aの短軸方向の幅が最も細い箇所で1μmを越えるものの有無を調べた。
(3)フラクタル次元
前記の走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー製、SPI3800Nシステム/SPA300)を使用し、位相測定モード(フェーズモード)によって得られたフェーズモード画像(ビットマップ形式512×512ピクセル)を画像処理ソフトウェア(Adobe製、Photoshop ver7.0)に読み込ませ、画像の大きさが205mm×205mmになるようにディスプレイ上に表示させた(図1参照)。次いで、同ソフトウェアの鉛筆ツール(線の太さ:3ピクセル)により、明色相と暗色相の境界に、黒色の線を描き両相の境界を明確にした(図2参照)。この時、画面上の大きさで明色相内にある径2mm以下の暗色部は、明色相に偏在する粒子であると判断し、境界線を引く操作はこの部分に対しては行わなかった。例えば、シリカ粒子を用いた場合には、このように明色相に偏在することが確認できている。
境界線を明確にした画像をビットマップ形式画像として保存した上で、ボックスカウンティング法によりフラクタル次元解析を行い、得られたフラクタル次元数値を相分離の境界線の複雑さを示す指数とした。ボックスカウンティング法による解析には、ソフトウェアAT−Image ver3.2を用いた。具体的には、保存したビットマップ画像を画像解析ソフトウェアAT−Image ver3.2上で開き、メニュー上の画像抽出から輝度ヒストグラムによる二値化処理を行った(図4参照)。なお、二値化の際の閾値は8とした。二値化処理された画像に対し、メニュー上の画像計測からフラクタル次元を選択し、フラクタル次元を求めた。この際、最小二乗法によるフラクタル次元の計算には一辺の長さ6ピクセルから63ピクセルのボックスの計数結果を用いた。
なお、ボックスカウンティング法によるフラクタル次元の解析は公知の方法であり、次元解析に他の画像解析ソフトウェアあるいはプログラムを用いることは、解析結果の再現性が十分に得られる限り良く、他の同機能を有するソフトウェアを用いても良い。他のソフトウェアとは、例えば、「独立行政法人農業技術研究機構 畜産草地研究所製 フラクタル解析システム バージョン 3.33」、「デジタル・ビーイング・キッズ社製 PopImaging Ver.3.40」、等の画像解析ソフトウェアが挙げられる。
(4)ヘイズの測定
フィルム試料を、ヘイズメーター(日本電色製、NDH2000)を用いて異なる箇所3ヶ所について測定し、その平均値をヘイズとした。
(5)光硬化型アクリル系コート層との密着性
(5-1) 溶剤希釈型光硬化型アクリル系コート層との密着性
フィルム試料の被覆層面に、ハードコート剤(大日精化製、セイカビームEXF01(B))50質量部、トルエン25質量部、メチルエチルケトン25質量部を混合し、良く攪拌した塗布剤をワイヤバーにて塗布し、70℃で1分間乾燥し溶剤を除去した後、高圧水銀灯で200mJ/cm、照射距離15cm、走行速度5m/分の条件下で、紫外線を照射して、厚み3μmのハードコート層を有するハードコートフィルムを得た。
両面テープを貼り付けた厚さ5mmのガラス板に、得られたハードコートフィルムのハードコート層とは反対面を貼り付けた。次いで、ハードコート層と被覆層を貫通して基材フィルムに達する100個の升目状の切り傷を、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて付けた。次いで、粘着テープ(ニチバン社製、405番;24mm幅)を升目状の切り傷面に貼り付けた。貼り付け時に界面に残った空気を消しゴムで押して、完全に密着させた後、粘着テープを勢いよく垂直に引き剥がした。さらに新しい粘着テープを同様にして貼りかえ、同様に勢いよく垂直に引き剥がした。この粘着テープの引き剥がし操作を合計10回繰り返して、下記の式から密着性を目視により求めた。なお、1個の升目内で部分的に剥がれているものも、剥がれた個数に含める。
密着性(%)=(1−升目の剥がれた個数/100個)×100
(5-2) 無溶剤光硬化型アクリル系コート層との密着性
清浄に保った厚さ5mmのガラス板上に、ハードコート剤(大日精化製、セイカビームEXF01(B))約5gをのせ、フィルム試料の被覆層面とハードコート剤が接するように重ね合わせ、フィルム試料の上から幅10cm、直径4cmの手動式荷重ゴムローラーでハードコート剤を引き延ばすように圧着した。次いで、フィルム面側から、高圧水銀灯で500mJ/cm、照射距離15cm、走行速度5m/分の条件下で、紫外線を照射して、ハードコート層を硬化させた。
次いで、ハードコート層を有するフィルム試料をガラス板から剥がし、ハードコートフィルムを得た。両面テープを貼り付けた厚さ5mmのガラス板に、前記のハードコートフィルムのハードコート層とは反対面を貼り付けた。次いで、ハードコート層と被覆層を貫通して基材フィルムに達する100個の升目状の切り傷を、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて付けた。次いで、粘着テープ(ニチバン社製、405番;24mm幅)を升目状の切り傷面に貼り付けた。貼り付け時に界面に残った空気を消しゴムで押して、完全に密着させた後、粘着テープを勢いよく垂直に引き剥がした。さらに新しい粘着テープを同様にして貼りかえ、同様に勢いよく垂直に引き剥がした。この粘着テープの引き剥がし操作を合計10回繰り返して、下記の式から密着性を目視により求めた。なお、1個の升目でも部分的に剥がれているものは、剥がれた個数とした。
密着性(%)=(1−升目の剥がれた個数/100個)×100
(6)耐ブロッキング性
2枚のフィルム試料の被覆層面同士を重ね合わせ、これに1kgf/cmの圧力を50℃、60%RHの雰囲気下で24時間密着させた後、剥離し、その剥離状態を下記の基準で判定した。
○:被覆層の転移がなく軽く剥離できるもの
△:剥離音は発生し、部分的に被覆層が相手面に転移しているもの
×:2枚のフィルムが固着し剥離できないもの、あるいは剥離できても基材ポリエステ
ルフィルムが劈開しているもの
(7)被覆層の堅さ指数
フィルム試料の被覆層に、表面性測定器(新東亜化学製、HEIDON14)を用いてキズを付けた。この時キズを付ける針として、先端に半径75μmのサファイヤが付いている純正の針を用いた。針の走行速度は150mm/分、加重は5gfとした。
被覆層につけられたキズの表面形状を、三次元非接触表面形状計測装置(マイクロマップ製、Micromap550)を用いて、下記の条件で測定し、プロファイルモードデータを表示させた。代表例を図5に示す。得られたキズ形状データから、隣り合う凸と凹の高低差30ヶ所の平均値を求め、被覆層の堅さ指数とした。この際、高さが30nm以上の突起は、被覆層または熱可塑性樹脂フィルムに含有させた粒子に起因する突起と判断し、除外した。また、高さが1nm以下の突起は、ノイズの影響があるため除外した。
(測定条件)
・プロファイルモード:ウェーブモード
・対物レンズ:10倍
・解像度:160×160ピクセル
・測定長:207.1nm
(8)欠点検出方法
実施例及び比較例で得られた製品フィルムロールから取り出した幅1m、長さ100mのサンプルフィルムロールを、暗室内で垂直方向に垂らした。この時、製品フィルムロールの表層100mは取り除き、続く100mをサンプルとした。次いでフィルム背面の全面に光沢の無い黒色の布を配置し、前面(被覆層面)からブロムライト(VIDEO LIGHT VLG301 100V 300W LPL社製)を用い、積層フィルムを巻き出しながらフィルム面に対し約10°から45°の範囲で該ブロムライトの角度を変えながらフィルム正面から観察し、評価面積100mについて長径0.3mm以上の光学欠点を、拡大率10倍のスケール付きルーペ(PEAK社製SCALE LUPE ×10)を用いて検出し、マーキングを行った(製品フィルムロールの幅が1m未満であっても評価面積が100mであればよい)。さらにハケ(コクヨ社製TZ−4021N)を用いて欠点部を軽く払い、埃付着ではないこと確認した上でメチルエチルケトンを含浸させたキムワイプ(WIPRS S200:クレシア社製)を用いて欠点部を擦り、消失した欠点の数を求め、100m当たりの欠点数とした(この場合の溶剤は、被覆層を溶解し得るものであれば特に限定されない)。また、フィルム長さ方向に長さ100mずつ7点測定する場合は、巻き長さ1500m以上のフィルムロールからの巻き出し後、100mの部分を取り除き、100mの試料を採取し、同様にして連続した100mの長さのフィルム試料を7点採取し、各試料について長径0.3mm以上の光学欠点数を数え、その最大欠点数を巻き長さ1500mのフィルムロールにおける100m当たりの最大欠点数とした。(製品フィルムロールの幅が1m未満であっても各試料の評価面積が100mであればよい)
(実施例1)
(1)塗布液の調合
本発明に用いる塗布液を以下の方法に従って調製した。ジメチルテレフタレート95質量部、ジメチルイソフタレート95質量部、エチレングリコール35質量部、ネオペンチルグリコール145質量部、酢酸亜鉛0.1質量部および三酸化アンチモン0.1質量部を反応容器に仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6.0質量部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下(10〜0.2mmHg)、2時間かけて重縮合反応を行い、数平均分子量19,500、軟化点60℃の共重合ポリエステル系樹脂(A)を得た。
得られた共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を10日間静置し、その上澄み液の約10分の9を取り出し、塗布液調合に供した。この共重合ポリエステル系樹脂(A)の水分散液を、液温度25℃の条件下で濾過粒子サイズ5μmのフェルト型フィルターで循環回数5回になるまで濾過(濾過工程1−1と記す)し、さらに濾過粒子サイズ1μmのフェルト型フィルターで循環回数30回になるまで濾過(濾過工程1−2と記す)した。次いで60℃に加温して2時間保持した後、さらに25℃の条件下で濾過粒子サイズ1μmのフェルト型フィルターで循環回数5回になるまで濾過(濾過工程2と記す)した。
以上の処理をして得られた共重合ポリエステル系樹脂(A)の水分散液を7.5質量部と重亜硫酸ソーダでブロックしたイソシアネート基を含有する自己架橋型ポリウレタン系樹脂(B)の20質量%水溶液(第一工業製薬製、エラストロン(登録商標)H−3)を11.3質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を39.8質量部およびイソプロピルアルコールを37.4質量部、それぞれ混合した。さらに、フッ素系ノニオン型界面活性剤(大日本インキ化学工業製、メガファック(登録商標)F142D)の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子P1としてコロイダルシリカ(日産化学工業製、スノーテックス(登録商標)OL;平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子P2として乾式法シリカ(日本アエロジル製、アエロジル(登録商標)OX50;平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加した。前記粒子P2の3.5質量%水分散液を調合する際は、分散液10kgに対し、粉体溶解機(T.K.ホモジェッターM型)を用いて回転数10000rpmで、攪拌時間60分間攪拌した。次いで、5質量%の重曹水溶液で塗布液のpHを6.2に調整し塗布液Aとした。なお、前記の界面活性剤は下記の方法で前処理したものを用いた。
前記の界面活性剤にイソプロピルアルコール(IPA)を加え、30℃の温浴上で加熱溶解して15質量%の界面活性剤のIPA溶液を作製した。この溶液を定量濾紙(アドバンテック東洋製、No.5C)で濾過し、溶液中の不溶分およびゴミを除去した。前記の溶液を濾過した後、この溶液を密閉したガラス容器に入れ、0℃の冷凍庫内で24時間静置した。24時間経過後、析出した固体を含む溶液を、前記の定量濾紙を使用して吸引濾過した。濾紙上の固体を真空乾燥して固体を得、水で10質量%水溶液に希釈して、前処理した界面活性剤として用いた。
なお、前記の前処理で得た界面活性剤を、メタノールを展開液として、TLC塗布済プラスチックシート(メルク製、シリカゲル60)で分析した。試料スポットはヨウ素蒸気により着色を行った結果、ポリエチレングリコール相当のスポットが検出されないことを確認した。
(2)積層ポリエステルフィルムの製造
原料ポリマーとして、粒子を含有していない、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂ペレットを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr:133.5Pa)した。次いで、乾燥後のPET樹脂ペレットを押し出し機に供給し、約285℃でシート状に溶融押し出して、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。この際、溶融樹脂中の異物を除去する濾材として、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が15μmのステンレス製焼結濾材を用いた。
得られたキャストフィルムを、加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで95℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。次いで、前記塗布液Aを濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)10μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、リバースロール法で一軸配向PETフィルムの片面に塗布した。尚、この際、コーターのアプリケーションロール及びメタリングロールはウルトラハードクロムメッキ仕上げによる表面が0.1Sに製作された真円度と円筒度が3/1000のロールを用いた。その後、コーター真上に配置した4ゾーンに分かれた乾燥炉にて、第1ゾーン温度135℃、1.0秒間、第2ゾーン温度65℃、2.2秒間、第3ゾーン温度40℃、1.8秒間、第4ゾーン温度30℃、1.8秒間にて塗布面を乾燥した。また、塗布量は最終的な固形分量として0.08g/mになるようにした。フィルムへの塗布から乾燥炉入口までのフィルムの通過時間は0.8秒間であった。また、この時、第1ゾーンの乾燥風の風速は30m/秒、乾燥風の給気風量は130m/秒、排気風量は170m/秒、第2ゾーンから第4ゾーンまでの給気風量は100m/秒、排気風量は150m/秒に設定しコーター側に乾燥風が流れないようにした。尚、フィルムテンションは7000N/原反とし、塗布から乾燥炉入口までの間はピンチロールにてフィルム両端部を把持させた。
尚、この時の塗工条件は以下のようにした。
(a)アプリケーターロール、メタリングロールの温度共に22℃
(b)ファウンテンダイに供給される塗布液の温度:23℃
(c)メタリングロールに対するドクターブレードの接圧:30gf/cm(0.29N/cm)
さらに、この時の塗工においては以下のような特徴を有する塗工装置を用いた。
(A)アプリケーターロール、メタリングロール及び塗布液受け皿を含む塗布装置に溶媒揮散防止カバー設けた塗布装置を使用
(B)アプリケーターロール径φ250mm、メタリングロール径φ220mm
(C)アプリケーターロール及びメタリングロールの真円度:3/1000mm
(D)アプリケーターロール及びメタリングロールの表面粗度:0.1S
(E)ドクターブレード:材質SUS402 厚さ0.075mm、幅50mm(ミラーグラフィックス社製、商品名エコーブレード)
(F)塗布液の受け皿の容量と循環用タンクの容量比=1:50
(G)循環用タンクの容量と調合用タンクの容量比=1:40
引き続き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度120℃、風速15m/秒の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.3倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、第1熱固定ゾーン(温度:200℃)、第2熱固定ゾーン(温度:225℃)、第3熱固定ゾーン(温度:230℃)、第4熱固定ゾーン(温度:230℃)、第5熱固定ゾーン(温度:210℃)、第6熱固定ゾーン(温度:170℃、幅方向に3%の緩和処理)、第7熱固定ゾーン(温度:120℃)を順次連続して通過させ、フィルム両端部のコートされていない部分をトリミングし、巻き取り装置にて巻き取り、さらにこれを幅方向に4等分してスリットし、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。なお、熱固定ゾーンにおける熱風の風速はすべて15m/秒、通過時間は各ゾーンとも4.5秒間、熱風を吹き出すノズル間隔は350mm、1ゾーン当たりのノズル本数は8本とした。得られた積層ポリエステルフィルムロールの長手方向のPEs表面分率の変動率は15%であり、幅方向の変動率は13%であり、また、平均PEs表面分率は68%であった。他のフィルム物性及び特性を表4に示す。
(実施例2)
実施例1において、塗布液に用いる界面活性剤として、実施例1と同様の方法で前処理したフッ素系カチオン型界面活性剤(株式会社ネオス製、フタージェント310)の10質量%水溶液を用いた、塗布液Bに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例3)
実施例1の熱固定処理工程において、各熱固定ゾーンの温度を、第1熱固定ゾーンで190℃、第2熱固定ゾーンで205℃、第3熱固定ゾーンで220℃、第4熱固定ゾーンで220℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例4)
実施例1において、塗布液中の共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂との質量比を60/40に変更した下記の塗布液Cに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(塗布液Cの調合)
実施例1で用いた共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を9.0質量部、実施例1で用いたポリウレタン系樹脂(B)の20質量%水溶液を9.0質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を40.6質量部、およびイソプロピルアルコールを37.3質量部、それぞれ混合した。さらに、実施例1で使用した界面活性剤水溶液を0.6質量部、粒子Aとしてコロイダルシリカ(日産化学工業製、スノーテックスOL;平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子Bとして乾式法シリカ(日本アエロジル製、アエロジルOX50;平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加し、5質量%重曹水溶液にてpH調整して、濾過性能5μmと1μmのフィルターを順に通過させて塗布液Cとした。
(実施例5)
実施例1において、塗布液中の共重合ポリエステル系樹脂(A)とポリウレタン系樹脂(B)との質量比を40/60に変更した下記の塗布液Dに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(塗布液Dの調合)
実施例1で用いた共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を6.0質量部、実施例1で用いたポリウレタン系樹脂(B)の20質量%水溶液を13.5質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を38.9質量部、およびイソプロピルアルコールを37.5質量部、それぞれ混合した。さらに、実施例1で用いた界面活性剤の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子Aとしてコロイダルシリカ(日産化学工業製、スノーテックスOL;平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子Bとして乾式法シリカ(日本アエロジル製、アエロジルOX50;平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加し、5質量%重曹水溶液にてpHを6.2に調整して、濾過性能5μmと1μmのフィルターを順に通過させて塗布液Dとした。
(実施例6)
実施例1において、塗布量を最終的な固形分量として0.12g/mとなるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例7)
実施例1において、塗布液中の界面活性剤の配合量を0.03質量%に変更した、下記の塗布液Eを用いること以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(塗布液Eの調合)
実施例1の塗布液の調合において、フッ素系ノニオン型界面活性剤(大日本インキ化学工業製、メガファックF142D)の10質量%水溶液を0.3質量部、水を38.2質量部、およびイソプロピルアルコールを39.3質量部に変更した。
(実施例8)
実施例1において、塗布液中の界面活性剤の配合量を0.10質量%に変更した、下記の塗布液Fを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(塗布液Fの調合)
実施例1の塗布液の調合において、フッ素系ノニオン型界面活性剤(大日本インキ化学工業製、メガファックF142D)の10質量%水溶液を1.0質量部、水を37.5質量部、およびイソプロピルアルコールを39.3質量部に変更した。
(実施例9)
実施例1において、塗布から乾燥炉入口までのフィルムの通過時間を0.7秒間、乾燥時間を0.8秒間、さらに熱固定処理工程における各ゾーンの通過時間を3.5秒間、フィルム厚さを100μmに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500mの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例10)
実施例1において、塗布から乾燥炉入口までのフィルムの通過時間を1.0秒間、乾燥時間を1.9秒間、さらに熱固定処理工程における各ゾーンの通過時間を6.6秒間、フィルム厚さを188μmに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500mの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例11)
アプリケーターロール及びメタリングロールの表面粗度が0.3Sである塗布装置を用いた以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例12)
アプリケーターロール及びメタリングロールの真円度が6/1000mmである塗布装置を用いた以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例13)
実施例1において、塗布量を最終的な固形分量として0.02g/mとなるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例14)
実施例1において、塗布液の分散媒(水/IPA)の質量比を50/50に変更した下記の塗布液Iを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(塗布液Iの調合)
実施例1の塗布液の調合において、実施例1で用いたポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を7.5質量部、実施例1で用いたポリウレタン系樹脂(B)の20質量%水溶液を11.3質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を30.4質量部、およびイソプロピルアルコールを46.8質量部、それぞれ混合した。さらに、実施例1で用いた界面活性剤の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子Aとしてコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックスOL;平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子Bとして乾式法シリカ(日本アエロジル社製、アエロジルOX50;平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加し、5質量%重曹水溶液にてpHを6.2に調整し、濾過性能5μmと1μmのフィルターを順に通過させて塗布液Iとした。
(実施例15)
実施例1において、ポリウレタン系樹脂(B)を下記のポリウレタン系樹脂に変更した、塗布液Jを用いたこと以外は実施例1と同様にして、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。ポリウレタン系樹脂は、下記の方法で得た。
(ポリウレタン系樹脂の調製)
アジピン酸//1,6ーヘキサンジオール/ネオペンチルグリコール(モル比:4//3/2)の組成からなるポリエステルジオール(OHV:111.8eq/ton、AV:1.1eq/ton)を93質量部、キシリレンジイソシアネートを22質量部混合し、窒素気流下、95〜100℃で1時間反応させて、ウレタンプレポリマー(NCO/OH比:1.50、遊離イソシアネート基:理論値3.29質量%、実測値3.16質量%)を得た。
次いで、得られたウレタンプレポリマーを60℃まで冷却し、メチルエチルケトオキシム4.5質量部を加えて60℃で50分間反応させて、遊離イソシアネート1.3質量%を含有し、かつ部分的にブロック化されたウレタンプレポリマーを得た。引き続き、前記のウレタンプレポリマーを55℃まで冷却し、イソプロピルアルコール9質量部およびメタノール140質量部からなる混合溶媒を加え、均一混合した。次いで、50質量%の重亜硫酸ナトリウム水溶液を9.3質量部と、N−メチルタウリンの30質量%水溶液を5.4質量部加えて激しく撹拌を行った。約30分後に水溶性が出始め、2時間後には遊離の重亜硫酸ナトリウムがほぼゼロとなり、反応が終結した。これに水を加え、白濁し、かつ粘ちょうな20質量%の水溶液を得た。
(実施例16)
実施例1において塗布装置の塗布液の受け皿の容量と循環用タンクの容量及び調合用タンクの容量の比が以下関係を有する塗工装置を用いた以外は実施例1と同様の方法でフィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(C’)アプリケーションロール及びメタリングロールの真円度と円筒度が6/1000mm
(F’)塗布液の受け皿の容量と循環用タンクの容量比=1:5
(G)循環用タンクの容量と調合用タンクの容量比=1:50
(H)コーターから乾燥炉の間にピンチロールの設置なし
フィルムロールの長手方向のPEs表面分率の変動率は25%であり、幅方向の変動率は21%であり、また、平均PEs表面分率は68%であった。
(実施例17)
実施例1の調合において、共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液の静置期間を10日間から5日間に変更し、塗布液Kとした。塗布液Kを用いた以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例18)
実施例1の調合において、共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液の加温処理前の濾過処理(濾過工程1−2)を行わず塗布液Lとした。塗布液Lを用いた以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例19)
実施例1の調合において、共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液の加温処理後の濾過処理(濾過工程2)の濾過精度を1μmから5μmに変更し、塗布液Mとした。塗布液Mを用いた以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(実施例20)
実施例1の調合において、共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液の加温温度を60℃から55℃に変更し、塗布液Nとした。塗布液Nを用いた以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(比較例1)
(1)塗布液Oの調合
ジメチルテレフタレート33.7質量部、ジメチルイソフタレート20.0質量部、5−Naスルホジメチルイソフタレート9.1質量部、エチレングリコール40.0質量部ジエチレングリコール10.0質量部、酢酸カルシウム・1水塩0.049質量部を混合し、200〜230℃で理論量のメタノールが留出するまでエステル交換を行った。次に、正燐酸0.09質量部を加え、減圧下、280℃で重合し、共重合ポリエステル系樹脂を得た。
アリルアルコールから出発したエチレンオキシドのポリエーテルをメタ重亜硫酸ナトリウムでスルホン化したスルホネート基を含むポリエーテル(SO含有量:8.3質量%、ポリエチレンオキシド含有量:83質量%)192質量部、ポリテトラメチレンアジベート(数平均分子量:2,250)1013質量部、ビスフェノールAで開始されたポリプロピレンオキシドポリエーテル(数平均分子量:550)248質量部を混合し、真空下100℃で脱水した。
この混合物を70℃とし、これにイソホロンジイソシアネート178質量部とヘキサメチレン−1、6−ジイソシアネート244部との混合物を加え、次いで生成混合物をイソシアネート含有量が5.6質量%になるまで80℃から90℃の範囲で攪拌した。このプレポリマーを60℃に冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート3モルと水1モルから得られるビウレットポリイソシアネート56質量部とイソホロジアミンとアセトンから得られるビスケミチン175質量部とを順次加えポリウレタン水分散液を得た。
前記の共重合ポリエステル系樹脂及びポリウレタン水分散液を、それぞれ固形分で20質量部、80質量部となるように配合し、固形分濃度10%の水分散液を調整し、塗布液Oとした。なお、塗布液中には界面活性剤を配合しなかった。
(2)積層ポリエステルフィルムの製造
原料ポリマーとして、粒子を含有していない、固有粘度が0.66dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押し出し機に供給し、約285℃でシート状に溶融押し出して、表面温度60℃に保った金属ロール上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。この際、実施例1と同様に溶融樹脂の異物を除去する濾材として、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が15μmのステンレス製焼結濾材を用いた。
次に、このキャストフィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで95℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して、一軸配向PETフィルムを得た。次いで、前記塗布液Oを濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)10μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、リバースロール法で一軸配向PETフィルムの片面に塗布した。引き続いて、フィルムの端部をクリップで把持して110℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後、幅方向に3.5倍に延伸した。この時のテンター内の風速は15m/秒、乾燥時間は20秒間であった。フィルムへの塗布からテンター入口までの時間は10.0秒間であった。また、塗布量は最終的な固形分量として0.15g/mになるようにした。
尚、塗工には下記の点で実施例1と異なる塗布装置を用いた。
塗工装置
(A’)アプリケーターロール、メタリングロール及び塗布液受け皿を含む塗布装置に溶媒揮散防止カバー不使用
(C’)アプリケーターロール及びメタリングロールの真円度が6/1000mm
(D’)アプリケーターロール及びメタリングロールの表面粗度:0.3S
(I)循環用タンクとは別に調合用タンクを用いることはせず、塗布液は循環用タンクで調合し、塗布液が無くなった時点で再調合した。
次に、幅方向に延伸されたフィルムの幅を保ったまま、第1熱固定ゾーン(温度200℃風速)、第2熱固定ゾーン(温度205℃)、第3熱固定ゾーン(温度210℃)、第4熱固定ゾーン(温度213℃)、第5熱固定ゾーン(温度215℃)、第6熱固定ゾーン(温度220℃)、第7熱固定ゾーン(温度170℃)を順次連続して通過させ、第7熱固定ゾーンにおいて幅方向に3%の緩和処理後、フィルム両端部のコートされていない部分をトリミングし、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。なお、熱固定ゾーンにおける熱風の風速はすべて15m/秒、通過時間は各ゾーンとも4.5秒間、熱風を吹き出すノズル間隔は700mm間隔であり、1ゾーン当たりのノズル本数は4本とした。
得られた積層ポリエステルフィルムロールの長手方向のPEs表面分率の変動率(MD)は15%であり、幅方向の変動率(TD)は30%であり、また、平均PEs表面分率は8%であった。
(比較例2)
(1)塗布液Pの調合
実施例1で用いた共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を3.0質量部、実施例1で用いたポリウレタン系樹脂(B)の20質量%水溶液を18.0質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を70.7質量部、およびイソプロピルアルコールを4.7質量部、それぞれ混合した。さらに、界面活性剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子Aとしてコロイダルシリカ(日産化学工業製、スノーテックスOL;平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子Bとして乾式法シリカ(日本アエロジル製、アエロジルOX50;平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加し、塗布液Pとした。塗布液PのpHは、pH調整を行わなかったため、4.8であった。
(2)積層ポリエステルフィルムの製造
原料ポリマーとして、実施例1で用いた粒子を含有しない、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押し出し機に供給し、約285℃でシート状に溶融押し出して、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。この際、溶融樹脂の異物を除去する濾材として、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が15μmのステンレス製焼結濾材を用いた。
得られたキャストフィルムを、加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで95℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して、一軸配向PETフィルムを得た。次いで、前記塗布液Pを濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)10μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、リバースロール法で一軸配向PETフィルムの片面に塗布した。尚、塗工には比較例1と同様の塗布装置を用いた。
引き続き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、80℃に加熱された熱風ゾーンに導き、塗布面を乾燥後、幅方向に4.0倍に延伸した。この時のテンター内の風速は15m/秒、乾燥時間は20秒間であった。塗布からテンター入口までの時間は10.0秒間であった。また、塗布量は最終的な固形分量として0.10g/mになるようにした。さらに、各熱固定処理工程における温度を、第1熱固定ゾーンで200℃、第2熱固定ゾーンで210℃、第3熱固定ゾーンで220℃、第4熱固定ゾーンで225℃、第5熱固定ゾーンで230℃、第6熱固定ゾーンで235℃、第7熱固定ゾーンで240℃とし、さらに幅方向の緩和処理は行わなかったこと以外は、比較例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの被覆層表面における、走査型プローブ顕微鏡(SPM)による共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂との相分離構造は、観察できなかった。
(比較例3)
塗布液の調合において、静置期間1日間、濾過処理1−1、濾過処理1−2、加温処理、及び濾過処理2を行っていない共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を7.5質量部、実施例1と同様のポリウレタン樹脂(B)の20%水溶液を11.3質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製:商品名 Cat64)を0.3質量部、水を40.5質量部およびイソプロピルアルコールを39.5質量部、それぞれ混合し、フッ素系ノニオン界面活性剤(メガファックF142D)の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子C(富士シリシア化学社製:サイリシア310、平均粒径1.4μm)の3.5%水分散液を0.03質量部添加し、塗布液Qとした。尚、pH調整は行わず、pHは4.6であった。次いで、実施例1と同様に乾燥したポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを押し出し機に供給し、約285℃でシート状に溶融押出しして、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。この際、溶融樹脂の異物除去用濾材として、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が15μmのステンレス製焼結濾材を用いた。次に、実施例1と同様に、このキャストフィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで95℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。次いで、前記塗布液を濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)25μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し(濾過工程3)、リバースロール法で一軸配向PETフィルムの片面に塗布後、乾燥炉に導き温度120℃で、3.2秒間乾燥した。また、塗布量は固形分量として0.08g/mになるようにした。この時の乾燥炉の第一ゾーンの風速は15m/s、第二ゾーンから第四ゾーンの風速は実施例1と同様で、乾燥風の給気風量は第一ゾーンから第四ゾーンとも70m/sとした。
塗布条件及び塗布装置は以下の点以外は実施例1と同様とした。
(A’)アプリケーターロール、メタリングロール及び塗布液受け皿を含む塗布装置に溶媒揮散防止カバーは設けなかった。
(C’)アプリケーターロール及びメタリングロールの表面粗度:0.3S
(I)循環用タンクとは別に調合用タンクを用いることはせず、塗布液は循環用タンクで調合し、塗布液が無くなった時点で再調合した。
(I’)濾過工程3において、濾過粒子サイズ25μmのフェルト型フィルターを用いた。
次に、実施例1と同様に幅方向4.0倍に横延伸した後、フィルムの幅を保ったまま、第1熱固定ゾーン(温度200℃風速)、第2熱固定ゾーン(温度205℃)、第3熱固定ゾーン(温度210℃)、第4熱固定ゾーン(温度213℃)、第5熱固定ゾーン(温度215℃)、第6熱固定ゾーン(温度220℃)、第7熱固定ゾーン(温度170℃)を順次連続して通過させ、第7熱固定ゾーンにおいて幅方向に3%の緩和処理後、フィルム両端部のコートされていない部分をトリミングし、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。なお、熱固定ゾーンにおける熱風の風速はすべて15m/秒、通過時間は各ゾーンとも4.5秒間、熱風を吹き出すノズル間隔は700mm間隔であり、1ゾーン当たりのノズル本数は4本とした。
(比較例4)
実施例1において、塗布液Aをフィルムに塗布してから乾燥炉入口までのフィルムの通過時間を3.2秒間とした以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムを得た。
(比較例5)
塗布液の調合において実施例1と同様の方法で静置、濾過処理1−1、濾過処理1−2、加温処理、及び濾過処理2を行った共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を3.0質量部、実施例1で用いたポリウレタン系樹脂(B)の20質量%水溶液を18.0質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を37.3質量部、およびイソプロピルアルコールを37.8質量部、それぞれ混合した。さらに、実施例1で用いた界面活性剤の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子Aとしてコロイダルシリカ(日産化学工業製、スノーテックスOL;平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子Bとして乾式法シリカ(日本アエロジル製、アエロジルOX50;平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加し、5質量%重曹水溶液にてpHを6.2に調整し、塗布液Rとした。塗布液として、前記の塗布液Rを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(比較例6)
塗布液の調合において実施例1と同様の方法で静置、濾過処理1−1、濾過処理1−2、加温処理、及び濾過処理2を行った共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液を12.0質量部、実施例1で用いたポリウレタン系樹脂(B)の20質量%水溶液を4.5質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を42.3質量部およびイソプロピルアルコールを37.2質量部、それぞれ混合し、さらに実施例1で用いた界面活性剤の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子Aとしてコロイダルシリカ(日産化学工業社製:スノーテックスOL、平均粒径40nm)の20%水分散液を2.3質量部、粒子Bとして乾式法シリカ(日本アエロジル社製;アエロジルOX50、平均一次粒径40nm)の3.5%水分散液を0.5質量部添加し、5%重曹水溶液にてpHを6.2に調整し、塗布液Sとした。塗布液として、前記の塗布液Sを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(比較例7)
実施例1において、各熱固定処理工程における温度を、第1熱固定ゾーンで190℃、第2熱固定ゾーンで195℃、第3熱固定ゾーンから第5熱固定ゾーンで200℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの被覆層表面における、走査型プローブ顕微鏡(SPM)による共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂との相分離構造は、観察できなかった。
(比較例8)
実施例1において、乾燥炉内の風速を15m/秒とした以外は実施例1と同様の方法で、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(比較例9)
実施例1において、塗布量を最終的な固形分量として0.22g/mとなるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(比較例10)
実施例1において、塗布液中に界面活性剤を配合せずに調整した塗布液Tを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(比較例11)
実施例1において、塗布液中の界面活性剤の量のみを固形分で0.60質量%となるように調合した塗布液Uを用いた以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
(比較例12)
実施例1において、共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液の静置期間を1日にし、また、濾過工程1及び2並びに加熱工程を行わず、さらに下記の点で異なる塗布装置及び方法を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、フィルム厚みが125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
塗工装置
(A’)アプリケーターロール、メタリングロール及び塗布液受け皿を含む塗布装置に溶媒揮散防止カバー不使用
(I)循環用タンクとは別に調合用タンクを用いることはせず、塗布液は循環用タンクで
調合し、塗布液が無くなった時点で再調合した。
(J)濾過工程3において、濾過粒子サイズ3μmのフェルト型フィルターを用いた。
(比較例13)
比較例12において、濾過工程3のフェルト型フィルターの濾過粒子サイズを1μmに変更した以外は実施例1と同様の方法で、幅1m、フィルム長さ1500m、厚さ125μmの積層ポリエステルフィルムロールを得た。
実施例1〜20、比較例1〜13において、塗布液の組成や特性を表1に、塗布・乾燥条件を表2に、熱固定条件を表3に、フィルム物性及び特性を表4に示す。

本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールから巻き出されるフィルムは、ハードコート層、拡散層、反射防止層、などの機能層との密着性に優れ、かつ耐ブロッキング性や透明性にも優れ、さらに覆層樹脂成分及び粒子を主成分とする異物による欠点をはじめとする光学欠点も少ないため、ハードコートフィルム、反射防止(AR)フィルム、光拡散シート、プリズムレンズシート、透明導電性フィルム、赤外線吸収フィルム、電磁波吸収フィルム、などの光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして好適である。また、アクリル樹脂を樹脂成分とするUVインクを用いて印刷される、印刷用フィルムとしても使用することができる。
本発明における、積層熱可塑性樹脂フィルムの被覆層の表面を、走査型プローブ顕微鏡の位相測定モードで観察した位相像の説明図である。 図1の位相像において、明色相と暗色相の界面の輪郭を画像処理ソフトで強調した位相像の説明図である。 図2の明色相と暗色相の界面の輪郭を強調した位相像において、暗色相を画像処理ソフトで塗りつぶした位相像の説明図である。 図2の明色相と暗色相の界面の輪郭を強調した位相像において、明色相と暗色相の境界線を示す説明図である。 被覆層の表面につけたキズの表面形状を、三次元非接触表面形状計測装置を用いて、ウェ−ブモードで計測した際のキズの高低差を示す説明図である。 実施例と比較例において、被覆層表面のPEs表面分率と、被覆層の樹脂成分におけるPEs質量比が対応しないことを示す説明図である。 本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを製造するための塗布工程を行う部分の略図である。 本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを製造するための生産ラインの概略図である。
符号の説明
1 暗色相(共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相A)
2 明色相(ポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相B)
3 粒子
4 明色相と暗色相の界面の輪郭を強調した線
5 暗色相1を輝度ヒストグラムによる二値化処理したもの
6 明色相2を輝度ヒストグラムによる二値化処理したもの
7 被覆層表面の凹凸のプロファイル曲線
8 キズの谷部
9 キズの頂部
10 実施例
11 比較例
12 基材フィルム
13 アプリケーターロール
14 メタリングロール
15 ファウンテンダイ
16 塗布液ガイド板
17 ドクターブレード
18 塗布液受け皿
19 溶媒揮散防止カバー
20 フィルター
21 脱泡用分岐配管
22 循環用タンク
23 調合用タンク
24 ピンチロール

Claims (16)

  1. 熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に、共重合ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂とを含有する樹脂成分及び粒子を含有する被覆層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムを巻き取ってなる積層熱可塑性樹脂フィルムロールであって、
    前記被覆層は、共重合ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル相Aとポリウレタン系樹脂を主成分とするポリウレタン相Bとにミクロ相分離又はナノ相分離した構造を有し、かつ、走査型プローブ顕微鏡を位相測定モードで観察した際に、下記(1)式で定義される、前記被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)が5μm×5μmの測定面積で35%以上90%未満であり、且つ被覆層樹脂成分と粒子を主成分とする長径0.3mm以上の異物の含有量が30個/100m以下であることを特徴とする積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
    PEs表面分率(%)=(ポリエステル相Aの面積/測定面積)×100 ・・・(1)
  2. 巻き長が1500m以上であり、幅が0.5m以上である請求項1記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  3. 共重合ポリエステル系樹脂が、低分子量成分の含有量の少ない共重合ポリエステル系樹脂である請求項1又は2記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  4. 低分子量成分の含有量の少ない共重合ポリエステル系樹脂が、共重合ポリエステル系樹脂の溶液を、液温度15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過し、50℃以上、70℃未満に加温した後、さらに15℃以上、35℃未満の条件下で濾過粒子サイズ0.5μm以上、10μm以下のフィルターで濾過して精製して得られたものである請求項3記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  5. 前記被覆層の表面を走査型プローブ顕微鏡の位相測定モードで観察し、明色相と暗色相の界面の輪郭を強調した位相像において、ボックスカウンティング法を用いて、明色相と暗色相の境界線(界面の輪郭)から求められるフラクタル次元が、5μm×5μmの測定面積で1.60〜1.95である請求項1〜4のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  6. 前記熱可塑性樹脂フィルム中には実質的に粒子を含有せず、被覆層にのみ粒子を含有している請求項1〜5のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  7. 前記粒子がシリカ粒子である請求項1〜6のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  8. 被覆層中の粒子が、ポリエステル相Aまたはポリウレタン相Bに偏在している請求項1〜7のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  9. 前記熱可塑性樹脂フィルムが、二軸配向ポリエステルフィルムまたは二軸配向ポリアミドフィルムである請求項1〜8のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  10. 下記に定義する被覆層の堅さ指数が、3.0〜15.0nmである請求項1〜9のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
    なお、被覆層堅さ指数とは、先端に半径75μmのサファイヤが付いている針で、加重5gfをかけて被覆層の表面にキズを付け、三次元非接触表面形状計測装置でキズの凹凸形状を測定した時の隣り合う凸部と凹部との高低差の50箇所の測定値の平均値を意味する。
  11. 前記積層熱可塑性樹脂フィルムのヘイズが1.5%以下である請求項1〜10のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  12. 巻き出されるフィルムが、光学機能性フィルムまたは光学機能性シート用基材フィルムとして使用される請求項1〜11のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  13. 光学機能性フィルムまたは光学機能性シートが、ハードコートフィルム、反射防止フィルム、光拡散シート、プリズムシート、透明導電性フィルム、近赤外線吸収フィルムまたは電磁波吸収フィルムである請求項12に記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  14. 前記被覆層の少なくとも片面に、アクリル系樹脂を主たる構成成分とする機能層を積層してなる請求項1〜13のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
  15. 被覆層表面のポリエステル相A(位相像で暗色相を示す)の面積比率(PEs表面分率)を、フィルムの長手方向(MD)に100m間隔で測定したときのPEs表面分率の変動率(MD)が、20%以下である請求項1〜14のいずれかに記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
    なお、上記被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を行うに当たり、前記の積層熱可塑性樹脂フィルムロールを巻き出し、該フィルムの長手方向について、フィルム物性が安定している定常領域の一端を第1端部、他端を第2端部としたとき、第1端部の内側2m以内で1番目の測定を、また、第2端部の内側2m以内で最終の測定を行うと共に、1番目の測定箇所から100m毎に被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を各測定箇所において行い、次いで、下記式で定義される、被覆層の表面におけるPEs表面分率の変動率(MD)を算出する。
    変動率(MD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
  16. 前記積層熱可塑性樹脂フィルムロールを巻き出し、フィルムを幅方向(TD)に4等分し、4等分されたフィルムそれぞれの中央部の被覆層の表面におけるPEs表面分率の測定を行ったときの、下記式で定義される、被覆層の表面におけるPEs表面分率の変動率変動率(TD)が、20%以下である請求項15記載の積層熱可塑性樹脂フィルムロール。
    変動率(TD)=((PEs表面分率の最大値−PEs表面分率の最小値)/PEs表面分率の平均値)×100
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