JP2007149495A - 収差補正装置及び電子顕微鏡 - Google Patents

収差補正装置及び電子顕微鏡 Download PDF

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Abstract

【課題】 補正用多極子により、球面収差と、必要があれば軸上色収差の両方を補正することのできる収差補正装置を提供する。
【解決手段】 多極子構造の2π型ウィーンフィルタを少なくとも一つ用いたものであって、各ウィーンフィルタの光軸近傍における電場及び磁場の4極子、6極子及び8極子の成分の、双極子の成分に対する比率を別途定式で定められた範囲に規定した、収差補正装置。
【選択図】 図31

Description

本発明は、電子顕微鏡やイオン顕微鏡など荷電粒子(適宜、電子線という)を利用した装置において、多極子を用いてレンズの色収差、球面収差を補正する収差補正装置、及びかかる収差補正装置を備える電子顕微鏡に関する。
球面収差や軸上色収差などは、軸対称なレンズを用いた場合、必ず正の値を持つことが知られている。このため、電子顕微鏡のレンズなどが持つこれらの収差を補正するために、負の値の収差を生成できる多極子系が用いられている。
これまでに提案されている多極子系として、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)や走査透過電子顕微鏡(scanning transmission electron microscope:STEM)あるいは低エネルギー電子顕微鏡(low energy electron microscope:LEEM)などの低加速電圧で使用する電子顕微鏡の収差補正に関しては、4極子と8極子を組み合わせた4極子8極子(以下、4−8極子という)方式がすでに製品化され、実用になっている。
SEMの収差補正は、ドイツ、ダルムスタットのRoseの設計した4段の4−8極子場を用いた補正子でCEOS(Corrected Electron Optical Systems GmbH)のZachが実験的に成功した。STEMでは、Krivanekによる4−8極子があるが、球面収差Csのみの補正に用いられているほかは、基本的原理は同じである。また、TEM/STEMの収差補正は、シカゴ大のCrewの考えと、ドイツのRoseに発するものとがあるが、いずれも2段の6極子とラウンドレンズの組み合わせを用いている。これら周知の収差補正装置では、4極子は色収差Cc,6極子あるいは8極子は球面収差Csの補正に使うとしている。6極補正子の場合は、2段の補正子が2次の幾何収差をキャンセルするのに用いられているほかは、球面収差Cs,色収差Cc以外の2次あるいは3次収差のことは考慮されていない。つまり、いろいろな収差も作られるかもしれないが、軸上に限れば負の球面収差Cs,色収差Ccの成分が大きいということである。
色収差補正では、電場Eと磁場Bの4極子の組み合わせが利用される。4極子は一次軌道にも影響を与えるが、電場Eと磁場Bで一次軌道に対する影響と、色収差Ccに対する影響が異なることから、一次軌道を変えないように保ちながら電場Eと磁場Bの4極子の値を変えて収差を変化させる。色収差Ccの補正に当たっては、基本的に4極電場e、4極磁場bのみでよい。
球面収差補正では、球面収差Csを含む4つの開口収差(X’,X’Y’,X’Y’,Y’)が等しい値で対物レンズの球面収差と同じ大きさで符号が反対となる値になるように設定する。4つの8極子で3次の開口収差と、対物レンズの球面収差Csの符号を変えたものとの和に等しくなるように設定する。
一方、同様に負の収差を生成するために、ウィーン型フィルタを用いる方法も提案されている。ウィーン型フィルタは、荷電粒子ビーム(適宜、電子線という)の進行方向に直交する面内において互いに直交する電場と磁場を配置することで、所定エネルギーを有する荷電粒子ビームを特定方向に直進させるものであり、E×Bフィルタとも称される。多極子を用いたウィーン型フィルタは、導電性の磁性体を用いた多極子構造によって、電極と磁極の形が同一となり、したがって同一のフリンジ場を形成し、偏向を受けることなく直線の光軸が得られる。このようなウィーンフィルタにおいて、収差補正の目的で、入射窓面を基準として光軸沿いの2回目の収束位置を出射窓面とする2π型ウィーンフィルタが利用されている。
2π型ウィーンフィルタの収差補正については、2次収差までの収差補正方法について研究されている(特許文献1及び2参照)。これらの文献では、軸上色収差以外の2次収差をゼロにする条件が求められ、この条件下で収差補正装置として使用する方法が述べられている。2π型のウィーンフィルタにおいて、色収差以外の2次収差をゼロとする条件は広範囲に存在する(非特許文献1参照)。
軸上色収差の補正を行うような電子光学機器では、もちろん色収差のほかに球面収差の値も問題になる。その場合は、電場および磁場の6極子成分の値に工夫を凝らしている。
米国特許第5,838,011号 国際公開公報WO 98/12732. Microsc, Microanal 9(Supp1 2) 2003,pp944-945
ところで、前述したような、色収差、球面収差補正の方式では、4極子は色収差を作り、8極子は球面収差を作るとして、収差の大きさはそれぞれの極に加える電圧や電流で調整している。しかしながら、4極子や8極子の作る収差が単純な色収差Ccや球面収差Csだけであるはずがなく、種々のその他の収差がついて回るはずである。従来は、これらの収差を無視し、軸上だけでは目的とする収差が大部分を占めるとして補正を行ってきたわけである。そのため、軸合わせの重要性が著しく大きくなるわけである。
また、2個以上の補正子を用いた従来の多極補正子では、望ましくない収差を除去するため、補正子相互間の軸合わせの作業が重要であった。また、TEM用の6極子を除いて、補正の効果は光軸にごく近い狭い範囲にしか及ばず、光軸から少しでも離れると別の収差のため補正の効果が相殺される。このような理由で、補正子の作る望ましくない成分を避けて収差補正の効果を挙げるには、多大の労力が必要であった。もちろん、このような補正の作業を自動化してオペレーション上の負担を軽減する対策が取られているが、補正子の調整が重要であることは変わりない。
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、補正用多極子により、球面収差と、必要があれば軸上色収差の両方を補正することのできる収差補正装置の提供を目的とする。また、収差を補正できる範囲を光軸に近い狭い範囲に限らず、光軸外の広範囲にも適用することができる収差補正装置の提供を目的とする。
また、本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、軸合わせに対する要求がほとんど不要となるような収差補正装置の提供を目的とする。さらに、かかる収差補正装置を備えた電子顕微鏡装置を提供することを目的とする。
前述の課題を解決するために、本発明に係る収差補正装置は、多極子構造の2π型ウィーンフィルタを少なくとも一つ用いた収差補正装置において、前記各ウィーンフィルタの光軸近傍における電場及び磁場の双極子、4極子、6極子及び8極子の成分をそれぞれE,B,E,B,E,B,E,Bとし、サイクロトロン半径をRとおき、e=ER/E,b=BR/B,e=E/E,b=B/B,e=E/E,b=B/Bとして、mを任意の数とするとき、各ウィーンフィルタにおいて、|e+m/8|<ε,|b+5m/144|<ε,|e−5m/144−m/16|<ε,|e−b−29m/1152|<εを満たし、前記ε,ε,ε,εはそれぞれ0.0001,0.0002,0.0005,0.001,0.002,0.005,0.01,0.02,0.05,0.1,0.2,0.5,1のいずれか一つである。
前記双極子電場e及び双極子磁場bは、ウィーン条件を満たすことが好ましい。
前記4極子電場e及び磁場bは、これらの差e−bが非点なし結像を維持する一定値に保持されることが好ましい。
前記ウィーンフィルタは、2回のフォーカスを行い、その電子軌道は中心面対称であって、このウィーンフィルタによるエネルギー差による分散をキャンセルするとともに、2次の幾何収差をキャンセルすることが好ましい。
前記4極子磁場bと、前記6極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように2次の色収差を制御することが好ましい。
前記6極子磁揚bと、8極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように3次の収差を制御することが好ましい。
3次までの範囲で色収差と開口収差のみを含む収差を用いて、対物レンズの色収差Cc及び球面収差Csを補正することが好ましい。
前記mは、0<m<50の範囲にあることが好ましい。
多極子構造の2π型のウィーンフィルタを2つ有し、ビームの進行方向に順に第1及び第2のウィーンフィルタを光軸に沿って直列に配置したことが好ましい。
前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、それぞれ、前記双極子電場e及び双極子磁場bは、ウィーン条件を満たすことが好ましい。
前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、それぞれ、前記4極子電場e及び磁場bは、これらの差e−bが非点なし結像を維持する一定値に保持されることが好ましい。
前記第1及び第2の各ウィーンフィルタは、それぞれ、2回のフォーカスを行い、その電子軌道は中心面対称であって、このウィーンフィルタによるエネルギー差による分散をキャンセルするとともに、2次の幾何収差をキャンセルすることが好ましい。
前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、それぞれ、前記4極子磁場bと、前記6極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように2次の色収差を制御することが好ましい。
前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、前記6極子磁揚bと、8極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように3次の収差を制御することが好ましい。
前記第1のウィーンフィルタにおいて、m=0であることが好ましい。
前記第1及び第2の各ウィーンフィルタに入射される電子線の光軸に直交する一軸方向へのそれぞれの角度に関する3次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和によって試料面における球面収差を相殺し、前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおけるそれぞれのエネルギーのずれに関するそれぞれの1次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和によって試料面における色収差を相殺することが好ましい。
前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、a=1/√2、Mを補正されるべき対物レンズの倍率として、前記3次の収差係数に基づく寄与はそれぞれ
−π(1−m/2)RM/a
によって与えられ、前記1次の収差係数に基づく寄与はそれぞれ
π(m/4−3m+3)RM/(6a)
によって与えられることが好ましい。
本願に係る電子顕微鏡は、前記収差補正装置及び対物レンズを有し、前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおける前記mをそれぞれm及びm、サイクロトロン半径をそれぞれR及びR、前記対物レンズの倍率をmagとし、前記3次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和は
−(π・mag/(6a))・{(m /4−3m+3)R+(m /4−3m+3)R
によって与えられ、前記1次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和は
(π・mag/a)・{(1−m/2)R+(1−m/2)R
によって与えられる。
本発明に係る収差補正装置及び電子顕微鏡によると、補正用多極子により、球面収差と、必要があれば軸上色収差の両方を補正することができる。また、収差を補正できる範囲を光軸に近い狭い範囲に限らず、光軸外の広範囲にも適用することができ、軸合わせに対する要求がほとんど不要となる。
また、本発明に係る電子顕微鏡によると、開き角を変えて収差補正量を変化させて収差補正を行える。また、色収差と球面収差以外の収差をあまり持たず、軸合わせが容易又は不要となる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
この実施の形態は、例えば12極子のような多極子ウィーンフィルタを用いて、電子顕微鏡等に用いられるレンズの収差を補正する収差補正装置に関する。
図1は、収差補正装置14を内蔵した走査型電子顕微鏡(SEM)の構成を示す図である。走査型電子顕微鏡にあって、内部が真空雰囲気にされた筐体10内には、電子ビームを発生し、加速電圧vによって電子にエネルギーを与える電子銃11、電子銃11で発生した電子ビームを収束し、かつ電子ビーム電流を適当な値に制限するためのコンデンサレンズ12と対物絞り13、レンズ系に発生する収差を補正するための収差補正装置14、試料18上で電子ビームを二次元的に偏向して走査するための偏向器15、電子ビームをフォーカスして試料18に照射する対物レンズ16、試料18を保持しかつ少なくともX−Y平面内で試料18を自在に駆動するステージ17、電子ビームの照射・走査に伴って試料18から発生する二次電子などの信号を検出する検出器19が備えられている。
収差補正装置14に用いるウィーンフィルタは、荷電粒子ビーム(適宜、電子線という)の進行方向に直交する面内において互いに直交する電場と磁場を配置することで、荷電粒子ビームを特定方向に直進させるものである。特に、多極子ウィーンフィルタは、導電性の磁性体を用いた多極子構造によって、電極と磁極の形が同一となり、したがって同一のフリンジ場を形成し、偏向を受けることなく直線の光軸が得られる。
なお、以下では説明の便宜のため、電子線の光軸方向にZ軸、これに直交するX,Y軸によりXYZ座標系を導入する。
図2は、本実施の形態である収差補正装置14として用いる12極ウィーンフィルタのX−Y平面に沿う断面図である。このウィーンフィルタは、光軸Oに沿ってほぼ平行に伸びる12個の極P1〜P12を有し、かつ、当該12個の極P1〜P12は、光軸Oに面する各先端部が、X−Y面内において、光軸Oを中心として12回の回転対称性を有する。前記12個の極P1〜P12は、例えば、鉄、ニッケル、パーマロイ等のような磁性材料から成る。このウィーンフィルタにおいては、X軸方向と逆向きに双極子電場E、Y軸方向と逆向きに双極子磁場Bが生成されるものとする。
図3は、12極ウィーンフィルタの光軸Oに沿ってY軸方向に切断した断面図である。図2及び図3に示すように、12極ウィーンフィルタは、電子線が通過する円筒状空間21(その中心軸は光軸Oとなる)の内部に、所望の分布の電場、磁場を生成するために、光軸Oに平行に伸びる12個の極P1〜P12を有する。前記12個の極P1〜P12の光軸Oに面する各先端部は、X−Y面内において、前述したように、光軸Oを中心として12回の回転対称性を有する。
図4は、図2に示した12極ウィーンフィルタのポールピースの構造を示す図である。この図4は、図3における2−2の断面図である。前記各極P1〜P12の各先端部P1’〜P12’は、全て同じ形状及び寸法を有する。また各先端部P1’〜P12’は、相互に等間隔に配置される。また、各先端部P1’〜P12’は、隣接する対の間に、同一形状及び寸法の各ギャップを有する。
また、前記各先端部P1’〜P12’間の円周方向の中心位置(或いは、各先端部P1’〜P12’の円周方向の中心位置)の間の角度θ0は30°である。また、前記各先端部間のギャップの円周方向の中心位置から各先端部P1’〜P12’の円周方向の中心位置の間の角度は、15°である。上記構成を有する各極P1〜P12にアンペアターンを付与するため、各極にコイルを巻回する。
図5は、前記光軸Oを中心軸とする円筒状空間21内に双極子電場Eを生成するために付与される電位を示す。同図に示すように、光軸Oに直交するX−Y面内において、X軸方向と逆向きの双極子電場Eを生成するために、X軸に対して±15°の角度方向へ伸びる極P1,P12及び、±45°の角度方向へ伸びる極P2,P11に正の電位Vが付与され、前記X軸に対して±165°の角度方向へ伸びる極P6,P7及び、±135°の角度方向へ伸びる極P5,P8に対して負の電位−Vが付与される。
図6は、図5による双極子電場による円筒状空間21内での電位の分布の例を示す図である。
図7は、前記円筒状空間21に双極子磁場Bを生成するために付与されるアンペアターンを示す。同図に示すように、前記空間21に双極子磁場Bを生成するために、X軸に対して45°,75°,105°,135度の角度方向へ伸びる極P2,P3,P4,P5に正のアンペアターンNIが付与され、前記X軸に対して225°,255°,285°,315度の角度方向へ伸びる極P8,P9,P10,P11に負のアンペアターン−NIが付与される。
図8は、図7による双極子磁場による円筒状空間21内での磁気ポテンシャルの分布の例を示す図である。
図9は、前記双極子電場Eに対して4極子電場Eを重畳するために付与される電位を示す。X軸に対して±15°の角度方向へ伸びる極P1,P12及び、180°±15°の角度方向へ伸びる極P6,P7に正の電位Vが付与され、X軸に対して90°±15°の角度方向へ伸びる極P3,P4及び、270°±15°の角度方向へ伸びる極P9,P10に対して負の電位−Vが付与される。
図10は、図9による4極子電場による円筒状空間21内での電位の分布の例を示す図である。
図11は、前記双極子磁場Bに対して前記4極子磁場Bを重畳するために付与されるアンペアターンを示す。X軸に対して45°,225°の角度方向へ伸びる極P2,P8に正のアンペアターンNIが付与され、X軸に対して135°,215°の角度方向へ伸びる極P5,P11に負のアンペアターン−NIが付与される。
図12は、図11による4極子磁場による円筒状空間21内での磁気ポテンシャルの分布の例を示す図である。
6極子成分E,Bは、双極子成分E,Bの高次成分であり、各極のうち、P2,P5,P8,P11の各極の長さをほかの極に比べて短くする、あるいは、双極子電場Eを生成するために与える電位の絶対値よりこれらの極に与える電位を変化させる、あるいは、アンペアターンのこれらの極に対する値だけを別のコイルを設けることによって変化させるなどの方法によって生成することができる。
図13は6極子電場による円筒状空間21内での電位の分布の例を示す図である。図14は6極子磁場による円筒状空間21内での磁気ポテンシャルの分布の例を示す図である。
8極子成分E,Bは、4極子成分E,Bの高次項であり、4極子電場Eを生成するために与える電位の絶対値より各極間のバランスを崩すことによって生成することができる。また、8極子磁場Bについては、4極子磁場Bを生成するために与えるアンペアターンの絶対値より各極間のバランスを崩すことによって生成することができる。
図15は8極子電場による円筒状空間21内での電位の分布の例を示す図である。図16は8極子磁場による円筒状空間21内での磁気ポテンシャルの分布の例を示す図である。
次に、前述のような構成を有する12極ウィーンフィルタの動作について説明する。前述のような方法によって、12極子を用いて、E,B,E,B,E,B,E,Bの各成分を作ることができる。これらの成分を用いて、各成分に適切な値を入れたときにどのような収差を作り出すことができるかを以下に説明する。
図17は、12極ウィーンフィルタ内の電子線の軌道を示す。本実施の形態では、入射窓から入射された電子線が光軸に沿って2回目に収束する位置を出射窓とする2πフィルタを用いる。1回目の収束位置ではエネルギー分散が生じるが、2回目の収束位置ではエネルギー分散は消滅している。このような2πフィルタは、収差がない場合、倍率1倍のレンズと同様である。なお、1回目の収束位置を出射窓とするエネルギーフィルタをπフィルタと称する。本実施形態の2πフィルタはこのπフィルタを2個組み合わせてなり、それぞれのπフィルタを独立に制御することができる。
また、本実施の形態の2πフィルタは、1回目の収束位置、すなわちπフィルタの出射窓にスリットを設けてもよい。
次に、この2πフィルタによって生成される収差を説明する。2πフィルタにおいて、電子の運動方程式、電磁場ポテンシャルの式に基づいて、電子軌道を表す微分方程式を求め、この電子軌道の式の1次近似の解を、電子軌道の式の2次近似の微分方程式に代入する。さらに、スティグマティック合焦条件で、2次収差がキャンセルするように電磁場の係数を選択すると、次の(1)式が得られる。
12(e−b)+4b+2e+1/2=0 ・・・(1)
ここで、2πフィルタの光軸近傍における電場と磁場の双極子、4極子、6極子、8極子成分をそれぞれE,B,E,B,E,B,E,B、サイクロトロン半径をRとしたとき、これらの場の各係数を次のように定義する。
=ER/E,b=BR/B,e=E/E,b=B/B,e=E/E,b=B/B
前記(1)式を満たすように、e,b,e−bを選択すると、2次の幾何収差がゼロとなる条件として次の(2)式が得られる。nは任意の数である。
=−n/4,b=(1−n)/4,e−b=(n−1)/8 ・・・(2)
ここに、新たにm=2(n−1)を導入すると、式(2)は次の式(3)のように書き換えられる。
=−(m+2)/8,b=−m/8,e−b=m/16 ・・・(3)
この(2)又は(3)式によるe,b,e−bに対する条件が満たされる場合、2次の幾何収差がゼロとなり、したがって2次の色収差と3次の収差が残る。ここで、2次の色収差とは軸上色収差のことである。2次とは、この収差が電子線の開き角とエネルギーのずれ△に比例することを意味する。この収差を一次の色収差と表現するときは、このうち△の分をカウントしていないからである。
ここで、nを0,1,2,3,4(mを−2,0,2,4,6)とした場合について、4極子および6極子場の成分がどのような値を取るか、またその場合のウィーンフィルタの特徴はどのように表現されるかを次に表にまとめた。
Figure 2007149495
m=2(n=2)のときに2次の収差が全てゼロになる。色収差については、色収差はm<2(n<2)において負、m=2(n=2)においてゼロ、m>2(n>2)において正の値を取る。従って、色収差補正のためには、色収差が負の値をとるm(n<2)のみが対象となる。なお、m=6(n=4)においては、前記πフィルタにおいて2次の幾何収差がゼロとなる。
2次収差まで考慮した前述の条件(2)又は(3)において、m=0(n=1)の場合、磁場4極子成分bがゼロとなり、しかも電場及び磁場の6極子成分の差e−bもゼロとなる。したがって、電場および磁場の6極子成分e,bをゼロに設定することができる。
以下では、前記式(2)又は(3)が成立する、すなわち2次の幾何収差がゼロであるという条件の下で、さらに収差を小さくする条件を導出する。
2πフィルタにおける幾何収差は、X軸方向及びY軸方向について、次のように記述することができる。ここで、2次までの幾何収差はゼロであるので、収差は3次から展開される。α及びβは入射窓から入射する電子線の光軸に対するX軸方向及びY軸方向への角である。
u=x/R=A2αααα+A2ααβαβ+A2αβααβ+・・・+A2ββββ・・・(4)
v=y/R=A2ββββ+A2ββααβ+B2βαβαβ+・・・+B2αααα・・・(5)
ここで、A2ααβ=A2αβα=A2βαα,A2αββ=A2βαβ=A2ββαである。添字の2は2回目の収束であることを示す。
ただし、エネルギー変化による項をゼロとし、エネルギー損失又はエネルギーのずれのない電子線のみを考慮した。ここで、エネルギー損失があるとは、2πフィルタにおける1回目の収束位置(πフィルタ)において直進せずに、エネルギー分散があるようなエネルギーをいうものとする。
前記式(4)及び(5)における収差の係数は、次の式(6)〜(9)で与えられる。ただし、k=√2であり、t=e−bである。
2ααα=6π/k・(b+t)+π/k・(−9m/64+m−1)・・・(6)
2ααβ=−9π/k・(b+2t)+π/k・(−43×m/192+m−1)・・・(7)
2αββ=−9π/k・(b+2t)+π/k・(−43×m/192+m−1)・・・(8)
2βββ=6π/k・t+π/k・(13×m/192+m−1)・・・(9)
以下では、2πフィルタから出射される電子線の断面形状が丸くなるための条件を求める。すなわち、光軸に対して収差が等方的になるような条件を求める。
まず、断面形状のX軸上の長さとY軸上の長さが等しくなるための条件を求める。このため、前記収差係数の内でA2ααα=A2βββと置くと、次の(10)式が得られる。これによって、前記収差係数(6)〜(9)の内のbはmの関数として決まったが、tは未定である。
=(5/144)m ・・・(10)
なお、前記(3)式では、eとbは独立ではないので、前記式(10)を用いるとeをmのみの関数として表すことができる。
=m/16+b=m/16+(5/144)m ・・・(11)
これによって、電子線の断面形状のX軸方向及びY軸方向への長さが等しくなるために必要なe,b,e,bがすべて与えられた。すなわち、e,bは式(3)、eは式(11)、bは式(10)によってそれぞれ与えられる。
図18は、式(10)で与えられる条件の下、任意にt=0と設定した場合の収差図形である。上から順にm=−4,−2,0,2,4に対応している。どの収差図形もX軸方向とY軸方向の電子線の長さは等しくなっているが、そのほかの方向では別の長さを持っているため、さまざまな形の収差図形を成している。例外は、m=0の場合である。この場合に収差図形は円形をしている。図中では、破線で示す収差図形は、実線で示した収差図形に対して1/100ずれたエネルギー(△=0.01)を有する場合を示す。すなわち、実線による収差図形は幾何収差を表し、破線による収差図形はこれに対して色収差によるずれ示している。m=0の場合は、角度収差に関しては少なくとも色収差と球面収差のみを有しているということができる。また、m=2では、実線と破線が重なっているため色収差が消滅していることがわかる。
次に、対角線方向の収差もX軸,Y軸方向と同一となるような条件を導出する。この条件は、A2ααα=A2αββと設定することによって求められ、次の(12)式になる。これによって、前記収差係数(6)〜(9)の内のb及びtのいずれもmの関数として決められた。
t=e−b=−29m/1152 ・・・(12)
図19は、式(10)及び(12)の下での収差図形である。図中、上から順にm=−2,0,2,4,6に対応している。この図でも、破線で示す収差図形は、実線で示す収差図形に対し1/100ずれたエネルギー(△=0.01)を有する場合である。式(13)による条件により、対角線方向の収差の長さもX軸,Y軸方向と同じくなるので、電子線の断面形状は丸くなった。m=2では色収差が消えるという性質に変わりはない。
次に、式(6)〜(9)で与えられた収差係数A2ααα,A2ααβ,A2αββ,A2βββをゼロに設定する。前述の式(10)及び(12)によって前記4つの収差は全部等しい値となっているので、いずれか一つの収差係数をゼロと置けばよい。ここでは、最も簡単な式(9)によって与えられるA2βββをゼロに設定すると、次の式(13)が得られる。
−12m+12=0 ・・・(13)
この二次方程式の解は、以下の(14)となる。
m=2(3±√6)≒1.10101,10.89897 ・・・(14)
前記解(14)より、m=11とm=1.1付近において開口収差ゼロの条件があることがわかる。
図20は、図19と同様に式(10)及び(12)の条件の下、式(14)の2つの解の間での収差を調べるため、1.0から11までステップ2.5で変えて収差図形を示した具体例である。
図21は、図19及び20と同様に式(10)及び(12)の条件の下、解(14)の1.1010の付近での収差を調べるため、mの値を1.1000から1.1020まで0.0005ステップで変えた場合の収差図形を示す図である。m=1.1010において、実線で示すエネルギーずれのない場合の収差図形が点状になり、球面収差が最小になることが見られる。
図22は、図20に基づいてエネルギーにずれのない場合(実線)とエネルギーが1/100ずれた場合(破線の)のそれぞれの球面収差のmに対する依存性を模式的に示す図である。
この図22は、図20及び図21を参照して想定したものであって、実線で示したエネルギーのずれがない場合、球面収差は、m=1.1010と11で最小値を取り、その間で大きな値を示している。また、破線で示した1/100ずれたエネルギー(Δ=0.01)については、m=8.5付近で収差図形が小さくなっているが前後のm=6,11.0で大きくなっているので、この球面収差はm=8.5の前後で符号を変えているように思われる。一方、前記図11、12等からも見られるように、m=2において色収差がゼロ、すなわちエネルギーのずれがない場合とエネルギーのずれがある場合に球面収差が一致する。
図に示すように、m=2の前後で色収差が符号を反転することが予想される。また、m=1,11の前後で球面収差の符号が反転することが予想される。そこで、図23において、m<1.1の領域において、実際に色収差及び球面収差が負になることを確認する。
図23は、式(10)及び(12)の条件でm=0の場合、2πフィルタで電子線が2回目に収束する出射窓面の位置付近における電子軌道を示している。下側に示すエネルギーの小さい電子線は、上側に示すエネルギーの大きい電子線より後段で収束している。普通の正の色収差の場合、エネルギーの小さい電子線が手前で収束する。このため、色収差は負の値を示していると判断することができる。また、各電子線は、物面で出射ビームの角度を10mradから50mradまで変えて示してあるが、大きな角度を持った電子線ほど後段でフォーカスしている。普通の正の球面収差の場合、角度の大きい電子線が先にフォーカスし、角度の小さい電子線が後でフォーカスする。このため、球面収差は負の値を示していると判断することができる。
次に、前記式(10)及び(12)の条件の下での軸外収差について説明する。
図24は、m=1.101としたときの軸外収差図形である。x,y=±0.1mmの範囲である。m=1.101の場合には、球面収差がゼロで、色収差のみが示されている。色収差は、ここに示した±0.1mmの範囲で場所による変化を示していない。色収差の補正には使えるが、球面収差が0であるので球面収差の補正には使えない。
図25は、m=2としたときの軸外収差図形である。x,y=±0.01mmの範囲である。m=2では、色収差がゼロになるので、図には球面収差の軸外依存性が示されている。収差は、軸外に行くにつれて若干大きくなっているが、円形は崩れていないので、ほかの収差の混入は避けられている。この場合、球面収差の補正には使えるが、色収差の補正には使えない。
図26は、m=0としたときの軸外収差図形である。x,y=±0.02mmの範囲である。m=0の場合には、軸外に行くにつれ両方の円がともに増大しているが、2つの円の直径の差は常に一定を保っている。従って、やはり色収差は軸外に行っても増大せず、球面収差のみが増大していることがわかる。この軸外収差図形によれば、球面収差及び色収差の両方の補正に使える。このようなm=0付近は、軸内及び軸外の球面収差及び色収差補正に用いることができるとともに、軸外でも収差の増加が抑えられているので、収差補正装置には適するということができる。
なお、このm=0のときは、式(3)からe=−1/4,b=0,e−b=0であり、式(11)からt=e−b=0となる(表1参照)。したがって、bを生成するための磁場の4極子は不要であって、eを生成するための電場の4極子だけ作成することができ、この収差補正装置の構成を簡単化することができる。
以上のように、本実施の形態による2πフィルタの球面収差又は色収差が負の値を持つ範囲を用いて、収差補正装置を実現することができる。すなわち、電子顕微鏡などのレンズ等は一般に正の収差を有するが、本実施の形態の2πフィルタにより適切な負値の収差を生成することにより、前記レンズ等の収差を相殺して補正することができる。
また、本実施の形態の2πフィルタにおいては、光軸よりかなり離れても軸外収差の増加が抑えられている。したがって、本実施の形態の2πフィルタを利用することにより、軸合わせの精度を確保する必要が小さくなり、軸合わせの作業の負担を軽減することができる。
さらに、本実施の形態の2πフィルタは、1個の12極子からなるので、複数の他極子を用いた場合のように軸合わせの負担がない。
なお、本実施の形態の2πフィルタは、電子顕微鏡のレンズ系の前段又は後段に設けて、レンズ系によって生じた正の収差を相殺することにより補正するために利用することができる。
ここで、2πフィルタの作る開口収差係数Cscと色収差係数Cccを導出する。まず、Cscについては、収差係数A2βββを表す式(4)に式(12)を適用すると、次の式(15)が得られる。
2βββ=−(π/3k)(m/4−3m+3) ・・・(15)
この式(15)において、左辺をCscとおき、右辺にa=1/√2としてサイクロトロン半径R=2a/kを導入すると、次の式(16)が得られる。
Csc=−π(m/4−3m+3)R/(6a) ・・・(16)
一方、色収差係数については、2πフィルタを2分するπフィルタにおけるエネルギー収差を考慮する。前記式(4)及び(5)と同様に、πフィルタにおける収差はX軸方向については次の式(17)のように記述することができる。
u=・・・+Aααα+AadαΔ+AΔΔΔ+・・・ ・・・(17)
この式(17)における係数Aadは、次の式(18)で与えられる。
ad=πk(m−2)/2 ・・・(18)
この式(18)において、左辺をCccとおき、右辺に前記サイクロトロン半径を導入すると、次の式(19)が得られる。
Ccc=π(1−m/2)R/a ・・・(19)
この収差補正系では、開口収差のうち、球面収差と、角度の一乗と距離の二乗に比例する項、ならびに角度、距離とエネルギー差の3つに比例する項を区別することが出来ない。最後の項は通常無視できるほど小さいが、2番目の項は、光軸から離れるにしたがって若干大きくなることが観測できる。しかしながら、以下では、これらの開口収差もあわせて球面収差と表現することにする。
本実施の形態では、前述の式(3),(10),(11),(12)の条件を採用するので、多極電場・磁場の各係数を指定するパラメータmは、それぞれの多極子成分と次の式(20)〜(24)の関係で結ばれている。
=−(m+2)/8 ・・・・(20)
=−m/8 ・・・(21)
=(5/144)m ・・・(22)
=(5/144)m+m/16 ・・・(23)
−b=29m/1152 ・・・(24)
ところで、補正されるべき対物レンズの収差係数Cs,Ccは、通常、試料面上で表現されている。そこで、この補正装置の収差係数を試料面上の値に換算する必要がある。試料面上に換算すると補正すべき収差係数CsとCcは、次の式(25)及び(26)で表される。
CscM=−Cs ・・・(25)
CccM=−Cc ・・・(26)
ここでMは対物レンズの倍率で、補正装置を通過した後のビームの開き角αoと試料上の開き角αsを用いて次の式(27)の関係にある(後述する図31を参照)。
M=αo/αs ・・・(27)
これらの式から、次の式(28)及び(29)が得られる。
−Cs=−π(m /4−3m+3)RsM/(6a) ・・・(28)
−Cc=π(1−m/2)RcM/a ・・・(29)
ここで、Rはサイクロトロン半径で、フィルタ長Lに対して、L=(2√2)πRの関係にある。ここで2倍されているのはLのフィルタ長の間に2回のフォーカスが行われるからである。
上に述べたような条件の下で収差補正装置の作るCsc,Cccを求めてみると、図27のようになる
この図で縦軸は、Csc,Cccであり、横軸は多極子のパラメータmで、各多極子成分は、上に示したmとの関係式によってその値が指定される。mの値を変えてやれば、大きな範囲で収差の値を変えることができる。しかしながら、これらの値はあくまでも、収差補正装置の出口での値であって、ビームが対物レンズに入射し、試料面に投影されたときには、対物レンズの倍率および、ビーム傾斜角度の変更によって、試料面上に換算された収差係数は変化する。
この様子を対物レンズの倍率、Mag=0.25の場合について図28に示す。
この図に示すCs,Ccの値が、補正されるべき対物レンズのCs,Ccと反対符号の収差となるわけである。しかしながら、Csは倍率の4乗に比例し、色収差は二乗に比例するという角度依存性の違いから、mに対するCsの変化はゆるく、Ccの変化は急になってしまっている。
このため、CsとCcの同時補正は困難で、Cs補正装置と、Cc補正装置を別に持つとともに、補正装置へのビーム入射角度も変更しなければならないものと考えられた。フィルタ長Lを調整することも有効ではあるが、両収差ともにLに比例して増大するのみであるので、4乗あるいは自乗で変化する量の調整には不十分であった。以下では、このような課題に対処する実施の形態を示す。
まず、一個の補正装置で、Cs,Ccのいずれもを補正する方法について述べる。補正装置が作る収差係数が、試料面上で対物レンズの作る収差の符合を逆にした値を取るべきであるから、次の式(30)及び(31)のようにおくことが出来る。
−Cc=π(1−m/2)RM/a ・・・(30)
−Cs=−π(m/4−3m+3)RM/(6a) ・・・(31)
これらの2本の式からπRM/aを消去すると、次の式(32)になる。
Cs/Cc=−π(m/4−3m+3)M/{6(1−m/2)} ・・・(32)
この式(32)を変形すると、次の式(33)が得られる。
12(m−2)/(m−12m+12)=MCc/Cs ・・・(33)
この式(33)をmと(Cc/Cs)Mの関係としてグラフに表すと図29のようになる。図29(A)はmと(Cc/Cs)Mの関係を示すグラフであり、図29(B)はmと(Cs/Cc)/Mの関係を示すグラフである。
m=1.1でCs=0となるため、図29(A)ではこの点で発散するグラフとなっている。また、Cc=0は、m=2に生ずるので、グラフはここでゼロを切っている。これらの2つの特異点よりmの負の側で両収差が負の値を示すので、利用できる領域は、m<1.1である。このm<2の領域について|m|のもっと大きい範囲を調べると図30のようになる。
この図30から、式(33)を次の式(34)に置き換えてみると、mが大きい領域では、(Cs/Cc)/Mはmに比例する直線、mの小さい領域では反比例の関係にあることがわかる。
(Cs/Cc)/M=m/12−5/6−8/{3(m−2)} ・・・(34)
そこで、Cs,Cc,Mの3つの量は、すべて対物レンズの特性であるから、たとえばCs=Ccとおけるレンズの場合、1/Mの値に応じてmを選べば、Cs,Ccの同時補正を一個の2πフィルタで行うことができる。
次に、2段の2πフィルタを用いて、Cs,Ccを組合わせて補正する方法について説明する。
図31は、2段の2πフィルタを用いた収差補正装置を備える電子顕微鏡の要部を示す図である。光軸Oに沿って電子ビームの進行方向に順に、絞り51、第1の2πフィルタ52、第2の2πフィルタ53、対物レンズ54及び試料55が配置されている。これらのうち、第1及び第2の2πフィルタ53,54が収差補正装置50を構成している。
このように2πフィルタを2段連結した収差補正装置50では、それぞれのフィルタ53,54においてパラメータmおよびフィルタ長Lを自由に選択することができる。すなわち、第1の2πフィルタ52のパラメータm及びフィルタ長L、第2の2πフィルタ53のパラメータm及びフィルタ長Lを独立に選択することができる。
このような収差補正装置50では、Cs,Ccの試料面換算値Cscor,Cccorは、次の式(35)及び(36)のように与えられる。なお、magは対物レンズ54の倍率、a=1/√2である。また、R,Rは、それぞれ第1及び第2の2πフィルタ52,53のサイクロトロン半径である。
Cscor=−(π・mag/(6a))・{(m /4−3m+3)R+(m /4−3m+3)R} ・・・(35)
Cccor=(π・mag/a)・{(1−m/2)R+(1−m/2)R} ・・・(36)
第1及び第2のいずれの2πフィルタ52,53もCsとCcの両収差を作るので、このような2段連結系の作る収差は複雑となるが、対物レンズ54のCs,Ccがいかなる値を取った場合でも対応することが出来る。
図32は、対物レンズ54の倍率mag=0.1,第1の2πフィルタ52のフィルタ長L=200mm,第2の2πフィルタ53のフィルタ長L=200mmの場合に収差補正装置50が作るCs,Ccの試面上換算値Cscor,Cccorである。図中の上に凸な曲線がCscorを示し、略直線がCcorを示している。この収差補正装置50のように2段の2πフィルタ52,53を連結した場合には、広範囲のCs,Ccに対応できることがわかる。
上の式において、たとえばm=0とした場合でも、0<Cs<5mm程度に対応することができる。もちろん、Lを別の値に設定すれば、さらに広範囲のCsをカバーすることも出来る。なお、この収差補正装置50において、第1及び第2の2πフィルタ52,53におけるパラメータm,m=を0とした場合には、e,e,b,b,bのすべてを零にすることができるので、構造を簡単にすることができる。
以上のように、2πフィルタを用いた収差補正装置において、1個の2πフィルタによってCs,Ccの同時補正を行うことが可能な場合がある。また、2πフィルタを直列に接続し、そのフィルタ長と多極子パラメータmを2つの2πフィルタにおいて異ならせることにより、広範囲のCs,Ccに対応させることができる。
実施の形態の収差補正装置を内蔵した走査型電子顕微鏡の構成図である。 本実施の形態である収差補正装置として用いる12極ウィーンフィルタのX−Y平面に沿う断面図である。 12極ウィーンフィルタのX−Z平面に沿う断面図である。 12極ウィーンフィルタを簡略化した図である。 12極ウィーンフィルタにあって光軸Oを中心軸とする円筒状空間内に双極子電場を生成するために各極に対して付与される電位を示す図である。 双極子電場の分布図である。 12極ウィーンフィルタの円筒状空間に双極子磁場Bを生成するために各極に対して付与される磁位或いは起磁力を示す図である。 双極子磁場の分布図である。 双極子電場Eに対して4極子電場Eを重畳するために、極P1,P12,P6,P7に対して極P3,P4,P9,P10に対して第2電位としての電位Vを付与する様子を示す図である。 双極子電場Eに対して前記4極子電場Eを重畳するために、極P1,P12,P6,P7及び極P3,P4,P9,P10に対して付与する電位Vの具体例を示す図である。 双極子磁場Bに対して4極子磁場Bを重畳するために、極P2,P5,P8,P11に対して第2アンペアターンNI2を付与する様子を示す図である。 4極子磁場Bの分布図である。 6極子電場Eの分布図である。 6極子磁場Bの分布図である。 8極子電場Eの分布図である。 8極子磁場Bの分布図である。 12極ウィーンフィルタ内の電子線の軌道を示す図である。 =(5/144)m,t=0の条件の下、mが−4〜4の範囲における収差図形を示した図である。 =(5/144)m,t=29m/1152の条件の下、mが−2〜6の範囲における収差図形を示した図である。 =(5/144)m,t=29m/1152の条件の下、mが1〜11の範囲における収差図形を示した図である。 =(5/144)m,t=29m/1152の条件の下、mが1.1000〜1.1020の範囲における収差図形を示した図である。 mが1〜11の付近における球面収差及び色収差の振る舞いを示す模式図である。 =(5/144)m,t=29m/1152の条件の下、2πフィルタの出射窓付近の電子軌道を示す図である。 m=1.101としたときの軸外収差図形を示す図である。 m=2としたときの軸外収差図形を示す図である。 m=0としたときの軸外収差図形を示す図である。 収差補正装置の作るCsc,Cccを示すグラフである。 収差補正装置の作るCsc,Cccの一具体例を示すグラフである。 図29(A)はmと(Cc/Cs)Mの関係を示す図であり、図29(B)はmと(Cs/Cc)/Mの関係を示すグラフである。 mと(Cs/Cc)/Mの関係をm<2の領域について|m|の大きい範囲を調べたグラフである。 2段の2πフィルタを用いた収差補正装置を備える電子顕微鏡の要部を示す図である。 2段の2πフィルタを用いた収差補正装置におけるCscor,Cccorのmに対する依存性を示すグラフである。
符号の説明
10 走査型電子顕微鏡の筐体
11 電子銃
14,30 収差補正装置
16 対物レンズ
18 試料、
P1〜P12 極
O 光軸
50 収差補正装置
51 絞り
52 第1の2πフィルタ
53 第2の2πフィルタ
54 対物レンズ
55 試料

Claims (18)

  1. 多極子構造の2π型ウィーンフィルタを少なくとも一つ用いた収差補正装置において、
    前記各ウィーンフィルタの光軸近傍における電場及び磁場の双極子、4極子、6極子及び8極子の成分をそれぞれE,B,E,B,E,B,E,Bとし、サイクロトロン半径をRとおき、e=ER/E,b=BR/B,e=E/E,b=B/B,e=E/E,b=B/Bとして、mを任意の数とするとき、各ウィーンフィルタにおいて、
    |e+m/8|<ε
    |b+5m/144|<ε
    |e−5m/144−m/16|<ε
    |e−b−29m/1152|<ε
    を満たし、前記ε,ε,ε,εはそれぞれ0.0001,0.0002,0.0005,0.001,0.002,0.005,0.01,0.02,0.05,0.1,0.2,0.5,1のいずれか一つである収差補正装置。
  2. 前記双極子電場e及び双極子磁場bは、ウィーン条件を満たすことを特徴とする請求項1記載の収差補正装置。
  3. 前記4極子電場e及び磁場bは、これらの差e−bが非点なし結像を維持する一定値に保持されることを特徴とする請求項1記載の収差補正装置。
  4. 前記ウィーンフィルタは、2回のフォーカスを行い、その電子軌道は中心面対称であって、このウィーンフィルタによるエネルギー差による分散をキャンセルするとともに、2次の幾何収差をキャンセルすることを特徴とする請求項1記載の収差補正装置。
  5. 前記4極子磁場bと、前記6極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように2次の色収差を制御することを特徴とする請求項1記載の収差補正装置。
  6. 前記6極子磁揚bと、8極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように3次の収差を制御することを特徴とする請求項1記載の収差補正装置。
  7. 3次までの範囲で色収差と開口収差のみを含む収差を用いて、対物レンズの色収差Cc及び球面収差Csを補正することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  8. 前記mは、0<m<50の範囲にあることを特徴とする請求項7記載の収差補正装置。
  9. 多極子構造の2π型ウィーンフィルタを2つ有し、ビームの進行方向に順に第1及び第2のウィーンフィルタを光軸に沿って直列に配置したことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  10. 前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、それぞれ、前記双極子電場e及び双極子磁場bは、ウィーン条件を満たすことを特徴とする請求項9記載の収差補正装置。
  11. 前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、それぞれ、前記4極子電場e及び磁場bは、これらの差e−bが非点なし結像を維持する一定値に保持されることを特徴とする請求項9記載の収差補正装置。
  12. 前記第1及び第2の各ウィーンフィルタは、それぞれ、2回のフォーカスを行い、その電子軌道は中心面対称であって、このウィーンフィルタによるエネルギー差による分散をキャンセルするとともに、2次の幾何収差をキャンセルすることを特徴とする請求項9記載の収差補正装置。
  13. 前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、それぞれ、前記4極子磁場bと、前記6極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように2次の色収差を制御することを特徴とする請求項9記載の収差補正装置。
  14. 前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、前記6極子磁揚bと、8極子電場e及び磁場bの差e−bとは、ビーム形状が丸くなるように3次の収差を制御することを特徴とする請求項9記載の収差補正装置。
  15. 前記第1のウィーンフィルタにおいて、m=0であることを特徴とする請求項9記載の収差補正装置。
  16. 前記第1及び第2の各ウィーンフィルタに入射される電子線の光軸に直交する一軸方向へのそれぞれの角度に関する3次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和によって試料面における球面収差を相殺し、前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおけるそれぞれのエネルギーのずれに関するそれぞれの1次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和によって試料面における色収差を相殺することを特徴とする請求項9記載の収差補正装置。
  17. 前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおいて、a=1/√2、Mを補正されるべき対物レンズの倍率として、前記3次の収差係数に基づく寄与はそれぞれ
    −π(1−m/2)RM/a
    によって与えられ、前記1次の収差係数に基づく寄与はそれぞれ
    π(m/4−3m+3)RM/(6a)
    によって与えられることを特徴とする請求項16記載の収差補正装置。
  18. 請求項17記載の収差補正装置及び対物レンズを有し、前記第1及び第2の各ウィーンフィルタにおける前記mをそれぞれm及びm、サイクロトロン半径をそれぞれR及びR、前記対物レンズの倍率をmagとし、前記3次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和は
    −(π・mag/(6a))・{(m /4−3m+3)R+(m /4−3m+3)R
    によって与えられ、前記1次の収差係数に基づくそれぞれの寄与の和は
    (π・mag/a)・{(1−m/2)R+(1−m/2)R
    によって与えられることを特徴とする請求項17記載の電子顕微鏡。

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