JP2007129905A - 糖尿病性腎症感受性遺伝子、および糖尿病性腎症の予防または治療剤の有効成分のスクリーニング方法 - Google Patents

糖尿病性腎症感受性遺伝子、および糖尿病性腎症の予防または治療剤の有効成分のスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】糖尿病性腎症の発症や進行を予防しまたは治療するための有効成分となりえる物質を探索する方法を提供する。また糖尿病性腎症を発症する潜在的危険性の高い患者を選択する方法、ならびに当該方法に有効に利用することのできる試薬キットを提供する。
【解決手段】抗糖尿病性腎症剤の有効成分のスクリーニングに際して下記の工程を行う:
(1)被験物質とNCALD遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(2)被験物質を接触させた細胞のNCALD遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のNCALD遺伝子の発現量よりも大きい被験物質を選択する工程。
【選択図】なし

Description

本発明は、糖尿病性腎症の罹患およびその進行に関連する遺伝子に関する新たな知見を提供するものである。この新たな知見に基づいて、本発明は、具体的には糖尿病性腎症の発症やその進行を予防ないしは治療するために有用な成分をスクリーニングする方法に関する。さらに本発明は、被検者について、糖尿病性腎症を発症する蓋然性が高いか否かを判断し、糖尿病性腎症を発症する潜在的危険性の高い患者を選択する方法、ならびに当該方法に有効に利用することのできる試薬キットに関する。
糖尿病性腎症は、世界的に末期腎不全の主原因である。わが国でも1998年以降、糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて新規透析導入の原因疾患の第1位となり、2003年には透析導入患者の4割を超えるほどに増加している。The United Kingdom Prospective Diabetes Study(UKPDS)の結果によると、糖尿病性腎症患者では1年間に2〜3%の割合で次の病期へ進行し、また腎不全期以降の年間死亡率は約20%にも達し、その予後は極めて不良である。従って、早期からの適切な治療介入により腎症の進展と透析導入を抑制することは、患者の予後と医療経済の両面から非常に重要である(非特許文献1参照)。 近年の糖尿病性腎症に関する疫学的研究・家系調査の結果から、腎症の発症が一部の糖尿病患者に限定されていること、および腎症患者に家族内集積が認められることから、腎症の発症・進展に何らかの遺伝因子の存在が示唆され、これまでに多くの遺伝子が糖尿病性腎症感受性候補遺伝子として検討されてきた。こうした糖尿病性腎症の遺伝因子解明により個々の症例に対する治療法をあらかじめ予測、選択する事、いわゆるオーダーメイド医療の実現が可能となる。しかしながら、未だ明確に糖尿病性腎症感受性候補遺伝子としてのコンセンサスが得られる遺伝子の同定には至っていない。
候補遺伝子として最もよく解析されている遺伝子は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の第16イントロンに存在する287塩基対の挿入(I)/欠失(D)遺伝子多型である。通常のケース・コントロールスタディでは、D対立遺伝子と腎症との相関を示した成績が多く、また18のケース・コントロールスタディのメタアナリシスおよび1型糖尿病症例の前向き追跡研究から、D対立遺伝子は腎症のリスク遺伝子と考えられるものの、いわゆるmajor geneとは考えにくいとされている(非特許文献2参照)。
ところで、ヒト・ニューロカルシンデルタ遺伝子(human neurocalcin delta gene)(NCALD遺伝子)は2001年にWangらによってヒト胎児の脳からクローニングされた遺伝子である(非特許文献3参照)。このNCALD遺伝子の発現産物であるNCALDは神経カルシウムセンサー(NCS)ファミリーに属するタンパク質であり、主として網膜の光受容器や神経内に発現していることが知られている(非特許文献3〜6参照)。また、NCALDは、N末端領域に2対のEF−ハンド・カルシウム結合ループ配列とミリストイル化されたシグナル部位を有する構造をしていることが知られている(非特許文献3、7〜10)。しかしながら、その明確な機能は分かっていないのが現状である。
その後の研究で、NCALD遺伝子と乳がんとの関連性(特許文献1参照)、乾癬治療効果との関連性(特許文献2参照)、およびヒトβ―アミロイドの前駆体との関連性(特許文献3参照)などが報告されているが、糖尿病性腎症との関連については報告されていない。
「糖尿病合併症」最新医学別冊 新しい診断と治療のABC(30)、最新医学社発行、第101頁 「糖尿病合併症」最新医学別冊 新しい診断と治療のABC(30)、最新医学社発行、第93頁 Wang W, et al., Biochim Biophys Acta. 2001 Mar 19; 1518(1-2):162-7 Polans A, et al., Trends Neurosci 19:547-554, 1996 Hideka H, et al., Neurosci Res 16:73-77, 1993 Palczewski K, et al., Bioessays 22:337-350, 2000 Terasawa M, et al., J Biol Chem 267:29596-19599, 1992 Zozulya S, et al., Proc Natl Acad Sci USA 89:11569-11573, 1992 Zozulya S, et al., Method Enzymol 250:383-393, 1995 Vijay-Kumar S, et al., Nat Struct Biol 6:80-88, 1999 国際公開公報(WO03/004989) 国際公開公報(WO04/028479) 国際公開公報(WO05/023858)
前述するように、糖尿病性腎症の遺伝因子を解明し、糖尿病性腎症の発症やその進行との関連を明確にすることは、個々の症例に最も適した治療法の選択(オーダーメード医療の実現)に繋がると同時に、糖尿病性腎症発症やその進行に対する予防剤や治療剤の有効成分を探索する手段を提供し、さらには特異的かつ安全性の高い医薬品を開発することを可能にするものと考えられる。
本発明の目的は、糖尿病性腎症の発症やその進行に関連する遺伝子(以下、本明細書では「糖尿病性腎症感受性遺伝子」ともいう)を提供するとともに、当該遺伝子と糖尿病性腎症の発症やその進行との関係を明確にすることを目的とする。また本発明の目的は、糖尿病性腎症の発症や進行を予防しまたは治療するための有効成分となりえる物質を探索する方法(スクリーニング方法)を提供することである。
さらに本発明は、被検者について、糖尿病性腎症を発症する蓋然性が高いか否かを判断し、糖尿病性腎症を発症する潜在的危険性の高い患者を選択する方法、ならびに当該方法に有効に利用することのできる試薬キットを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、糖尿病性腎症とゲノムの大規模な相関解析を行ったところ、糖尿病性腎症と強い関連を認めるSNP(一塩基多型)が、ヒト・ニューロカルシンデルタ遺伝子(human neurocalcin delta gene)(以下、「NCALD遺伝子」という)のエクソン4領域内に3箇所〔+999位 A/T(SNP999), +1307位 T/C(SNP1307), +1340位 G/A(SNP1340)〕存在し、当該SNPs部位(SNP999, SNP1307, SNP1340)にそれぞれ チミン(T)、シトシン(C)およびアデニン(A)を有するNCALD遺伝子のハプロタイプによれば、NCALD mRNAの発現量が有意に低下することを見出した。このことは、これらのSNPsに起因するNCALD遺伝子の発現の低下が糖尿病性腎症の発症やその進行に関係していることを示唆するものである。
また、本発明者らは、siRNAの手法を用いて近位尿細管上皮細胞内におけるNCALD遺伝子の発現を抑制したところ、当該上皮細胞において細胞接着因子であるE−カドヘリンの発現が抑制され、また当該上皮細胞においてα平滑筋アクチン(a smooth muscle actin: α-SMA)の発現が誘導されていること、さらに細胞遊走能が亢進していることが認められた。これらの現象は、尿細管上皮細胞が間葉細胞に転換する過程〔尿細管上皮細胞・間葉系細胞転換(Tubular Epithelial-Mesencymal Transition, TEMT)〕で認められる現象であること(Liu Y, et al., J Am Soc Nephrol 15:1-12, 2004; Savagner P, et al., Bio Essays 23:912-923, 2001; Okada H, et al.,Am J Physiol 273:F563-F574, 1997; Kalluri R, et al., J Clin Invest 112:1776-1784, 2003; Li Y, et al., J Clin Invest 112:503-516, 2003)、また最近、閉塞性腎疾患のモデルマウスやヒトの慢性腎疾患において、TEMTが病態の進行に深く関わっているとの報告があることなどから(Iwano M, et al., J Clin Invest 110:341-350, 2002; Oldfield MD, et al., J Clin Invest 108:1853-1863, 2001; Li JH, et al., Am J pathol 164:1384-1397, 2004; Ina K, et al., J Med Election Microsc 35:87-95, 2002)、NCALD遺伝子の発現の低下によってTEMTが誘導され、これによって腎臓間質の線維化がもたらされ、糖尿病性腎症の進展にいたるものと考えられた。また、従来よりTEMTはTGF−βによって誘導されることも知られているが(Okada H, et al.,Am J Physiol 273:F563-F574, 1997; Bottinger EP, et al., J Am Soc Nephrol 13:2600-2610, 2002)、本発明者らの研究により、尿細管上皮細胞をTGF−βで処理することによって用量依存的にNCALDの発現が低下することが確認された。このことからNCALD遺伝子がTGF−βによるTEMTの誘導にも深く関わっていることが示唆された。
これらの知見から総合して、本発明者らは、NCALD遺伝子が糖尿病性腎症の発症やその進行に深く関わる糖尿病性腎症感受性遺伝子であり、糖尿病性腎症の発症や進行を予防しまたは治療するための方法を開発するための有用なターゲット遺伝子となることを確信した。さらに、本発明者らは、NCALD遺伝子内に位置する糖尿病性腎症と有意な関連性を有する3SNPs(SNP999, SNP1307, SNP1340)と糖尿病性腎症の潜在的発症リスクとの関係を見出し、これから被検者について当該3SNPsの塩基を測定することによって、当該被検者の糖尿病性腎症の潜在的発症リスクを評価することができることを確信した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の具体的態様を有するものである。
I.糖尿病性腎症の予防または治療に有効な成分をスクリーニングする方法
項1.下記の工程を有する、NCALD遺伝子の発現を亢進する物質のスクリーニング方法:
(1)被験物質とNCALD遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(2)被験物質を接触させた細胞のNCALD遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のNCALD遺伝子の発現量よりも大きい被験物質を選択する工程。
項2.下記の工程を有する、NCALDの産生量を増加させる物質のスクリーニング方法:
(1’)被験物質とNCALDを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(2’)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のNCALDの産生量を測定する工程、及び
(3’)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞もしくはその細胞画分のNCALDの産生量よりも大きい被験物質を選択する工程。
項3.NCALDの機能を亢進する物質のスクリーニング方法:
(1”)被験物質とNCALDを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分を接触させる工程、
(2”)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のNCALDの機能を検出する工程、及び
(3”)上記の検出した機能が、被験物質を接触させない対照細胞またはその細胞画分のNCALDの機能よりも大きい被験物質を選択する工程。
項4.NCALDの機能が細胞の間葉化の阻害である項3記載のスクリーニング方法。
項5.NCALDの機能が接着分子の発現誘導である項3記載のスクリーニング方法。
項6.前記接着分子がE−カドヘリンである項5記載のスクリーニング方法。
項7.NCALDの機能がアクチンの発現抑制である項3記載のスクリーニング方法。
項8.前記アクチンがα−平滑筋アクチンである項7記載のスクリーニング方法。
項9.NCALDの機能が細胞外基質の産生抑制である項3記載のスクリーニング方法。
項10.NCALDの機能が細胞の遊走能もしくは浸潤の抑制である項3記載のスクリーニング方法。
項11.さらにNCALD遺伝子を発現可能な細胞またはNCALDを産生可能な細胞にTGF−βを接触させる工程を含む、項1〜10のいずれかに記載のスクリーニング方法。
項12.NCALD遺伝子を発現可能な細胞またはNCALDを産生可能な細胞が、近位尿細管上皮細胞である項1〜11のいずれかに記載のスクリーニング方法。
項13.糖尿病性腎症の予防または治療剤の有効成分を探索する方法である項1〜12のいずれかに記載のスクリーニング方法。
II.糖尿病性腎症の罹患リスクが高い被検者の選別方法
項14.被検者由来の被検試料におけるNCALD遺伝子のmRNA発現量を測定する工程を含み、ここで、被検試料における当該発現量が、正常人由来の対照試料におけるNCALD遺伝子のmRNA発現量よりも小さいことを、前記被検者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いとの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被検者の選別方法。
項15.被検者由来の被検試料におけるNCALDの産生量を測定する工程を含み、ここで、被検試料における当該産生量が、正常人由来の対照試料におけるNCALDの産生量よりも小さいことを、前記被検者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被検者の選別方法。
項16.被検者由来の被検試料におけるNCALD遺伝子の第4エクソンに存在する999番目における塩基、同1307番目における塩基、及び同1340番目における塩基の少なくともいずれか一つの塩基を検出する工程を含み、これらの塩基の少なくとも1つが下記の条件:
999番目における塩基:チミン
1307番目における塩基:シトシン
1340番目における塩基:アデニン
を満たすことを、前記被検者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被検者の選別方法。
III.糖尿病性腎症の罹患リスク診断キット
項17.NCALD遺伝子の第4エクソンに存在する999番目における塩基、同1307番目における塩基、及び同1340番目における塩基の少なくともいずれか一つの塩基を検出するための試薬を含む、糖尿病性腎症の罹患性診断キット。
本発明のスクリーニング方法によれば、糖尿病性腎症の発症や進行を予防または治療するのに有効な成分を取得することが可能になる。また当該方法は、糖尿病性腎症の予防または治療に有効な新規薬剤の開発に有効に利用することができる。
さらに本発明が提供した糖尿病性腎症感受性遺伝子ならびに糖尿病性腎症感受性SNPsによれば、被検者(特に糖尿病患者)について腎症を発症する相対的な危険度を簡便に検出することができる。本発明の検出方法は、in vitroでしかも医師等の専門的な知識を要することなく簡単に実施することができる方法である。本発明の方法によって腎症を発症する潜在的な危険度が相対的に高いことが判明した被検者(糖尿病患者)に対しては、その旨を告知し、予め腎症の発症を防ぐか、または少しでも遅延させるための的確な対策を講じることができる。従って、本発明は、糖尿病性腎症の発症を予防するための、または糖尿病性腎症の発症を遅延させるための検査方法として極めて有用である。さらに本発明は上記方法において使用される試薬を提供するものであり、これにより上記方法を簡便に実施することが可能となる。
1.本発明で使用する用語の定義
本明細書における塩基配列(ヌクレオチド配列)、核酸などの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAc-IUB communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138; 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作製のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
本明細書中において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及び1本鎖DNA(センス鎖)、並びに当該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる、また、本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
また、本明細書中において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
本明細書において「遺伝子多型」とは、2つ以上の遺伝的に決定された対立遺伝子がある場合にそれらの対立遺伝子を指す。具体的には、ヒトの集団において、ある一個体のゲノム配列を基準として、他の1または複数の個体ゲノム中の特定部位に、1又は複数のヌクレオチドの置換、欠失、挿入、転移、逆位などの変異が存在するとき、その変異が当該1または複数の個体に生じた突然変異でないことが統計学的に確実か、または当該個体内特異変異でなく、1%以上の頻度で集団内に存在することが家系的に証明される場合、その変異を「遺伝子多型」とする。本明細書で用いる「遺伝子多型」の意味には、単一のヌクレオチドの変化によって引き起こされる多型であるいわゆる1塩基多型〔Single Nucleotide Polymorphism:SNP(又はSNPs)〕と連続した複数ヌクレオチドにわたる多型の両方が含まれる。「一塩基多型」とは、単一の核酸の変化によって引き起こされる多型である。多型は選択された集団の1%より大きな頻度、好ましくは10%以上の頻度で存在する。また「ハプロタイプ」とは、一つのアレル(ハプロイド)に存在する遺伝子変異の組み合わせをいう。
本明細書において「糖尿病性腎症感受性遺伝子」とは、糖尿病患者のうち腎症を発症しやすい体質または腎症に進行しやすい体質を決める遺伝子のことをいう。
本明細書において「糖尿病性腎症」とは、糖尿病が進行して腎臓にも影響が及び、タンパク尿を伴う腎障害が起こる状態を言う。糖尿病性腎症の患者は高血糖による腎機能の障害から、原尿を作る能力が損なわれ、最終的には腎不全となる。統計によれば、糖尿病性腎症による末期腎不全で透析治療を始める患者数はどんどん年々増加しており、現在、透析導入患者の原因疾患として糖尿病性腎症は第1位になっている。より具体的には、本発明が対象とする「糖尿病性腎症」には、糖尿病網膜症を発症し、かつ尿中アルブミン排泄率が200μg/分を超えるかまたは尿中アルブミン/クレアチニン比が300mg/gCrを超える症例、ならびに糖尿病網膜症を発症し、且つ人工透析療法を受けている症例が含まれる。
本明細書に記載する各塩基番号は、The National Center for Biotechnology Information data baseの位置情報に基づくものである。また、本明細書において各SNPの位置番号である999位、1307位および1340位は、NCALD遺伝子の第4エクソンの1番目の塩基を1としたときの位置情報を意味する。
2.糖尿病性腎症感受性遺伝子および糖尿病性腎症感受性SNP
本発明者らは、糖尿病性腎症感受性遺伝子を探索するために、多くの日本人2型糖尿病患者を対象として、gene-based SNPsを用いたケースコントロール関連解析ならびに連鎖不平衡(LD)マッピングを行うことにより、第8番染色体q22-23(8q22-23)領域に存在するヒト・ニューロカルシンデルタ遺伝子(human neurocalcin delta gene)(NCALD遺伝子)の第4エクソンの塩基配列上に連鎖不平衡状態で存在する3つのSNPs(SNP999、SNP1307、SNP1340)を見出し、これらのSNPsが糖尿病性腎症の発症やその進行に有意に関係していることを見出した(糖尿病性腎症感受性SNPs)。さらに本発明者らは、当該SNPsの特定のハプロタイプを有するNCALD遺伝子に由来するmRNAはその安定性が有意に減少していること、ニューロカルシンデルタがE−カドヘリンやα-SMAの発現量、および細胞の遊走能に影響を与えていることを見出し、NCALD遺伝子が糖尿病性腎症の発症やその進行に深く関わる糖尿病性腎症感受性遺伝子であるとの結論に至った。
当該ヒトNCALD遺伝子は、ヒト第8染色体のゲノム配列(Genbank Sequence Accession IDs: NC 000008)中、塩基番号102767947番〜103205665番に位置する43772bpの遺伝子である(Gene Name: human neurocalcin delta gene)。
NCALD遺伝子と疾患との関連性については、従来より、乳がんとの関連性(特許文献1参照)、乾癬治療効果との関連性(特許文献2参照)、およびヒトβ―アミロイドの前駆体との関連性(特許文献3参照)などが報告されているが、糖尿病性腎症との関連については報告されていない。
上記ならびに実施例で詳細に説明するように、siRNAの手法を用いて近位尿細管上皮細胞内におけるNCALD遺伝子の発現を抑制したところ、当該上皮細胞において、細胞接着因子であるE−カドヘリンの発現抑制、α-SMAの発現誘導、ならびに細胞遊走能の亢進が認められた。ここでE−カドヘリンは、上皮細胞に多く含まれているタンパク質であり、細胞を相互に接着させ、また細胞を組織膜上に固定する役割を担っている。なお、間葉系細胞はE−カドヘリンを発現しないため、細胞は自由に動けることになる。一方、α-SMAは間葉系細胞に特異的に認められるタンパク質である(間葉系細胞蛋白)。一般に、尿細管上皮細胞・間質系細胞転換(TEMT)が生じると、E−カドヘリンの発現が抑制されて、間葉系細胞蛋白の発現が始まり、その結果、細胞間結合が崩壊し(基底膜の破綻)、細胞形態が変化し、細胞は高い運動能を獲得することが知られている(細胞の遊走、浸潤)。その結果、細胞外マトリックスが産生されて、腎臓の間質の線維化が生じ、腎症の進展に繋がる(Liu Y, et al., J Am Soc Nephrol 15:1-12, 2004; Savagner P, et al., Bio Essays 23:912-923, 2001; Okada H, et al.,Am J Physiol 273:F563-F574, 1997; Kalluri R, et al., J Clin Invest 112:1776-1784, 2003; Li Y, et al., J Clin Invest 112:503-516, 2003; Iwano M, et al., J Clin Invest 110:341-350, 2002; Oldfield MD, et al., J Clin Invest 108:1853-1863, 2001; Li JH, et al., Am J pathol 164:1384-1397, 2004; Ina K, et al., J Med Election Microsc 35:87-95, 2002)。
以上より、NCALD遺伝子の発現を抑制することから認められた上記の現象は、糖尿病患者について、NCALD遺伝子の発現が低下することによって近位尿細管上皮細胞の間葉化メカニズムが進行し、腎臓の間質が線維化していくこと、すなわち腎症が発症ないしは進行することを示すものである。
ところで、NCALD遺伝子の発現低下に関連する因子として、上記3つの糖尿病性腎症感受性SNPsを挙げることができる。これらのSNPsは、いずれもNCALD遺伝子の第4エクソンに存在する。一つは、NCALD遺伝子の第4エクソンの999位(A/T)(SNP999)に、もう一つはNCALD遺伝子の第4エクソンの1307位(T/C)(SNP1307)に、残りの一つはNCALD遺伝子の第4エクソンの1340位(G/A)(SN1340)に位置する。
実施例で示すように、SNP999がチミン(T)、SNP1307がシトシン(C)およびSNP1340がアデニン(A)のハプロタイプを有する2型糖尿病患者は、NCALD遺伝子の発現が低下しており、腎症を発症しやすい傾向にあった。従って、これらの糖尿病性腎症感受性SNPsは、糖尿病性腎症の発症または進行のしやすさを規定する糖尿病性腎症の遺伝的素因マーカーであり、ヒト被検者について糖尿病性腎症の易発症性・易進行性を判断する指標となる。
すなわち、これらの糖尿病性腎症感受性SNPsの塩基のいずれか少なくとも一つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てが下記の条件:
SNP999の塩基 :チミン(T)
SNP1307の塩基:シトシン(C)
SNP1340の塩基:アデニン(A)
に当てはまる場合、当該SNPsを有する被検者は、遺伝的に糖尿病性腎症を発症しやすいか、または糖尿病から腎症に発展進行しやすい体質を備えている(糖尿病性腎症に感受性)と判断することができる。
これらのSNPsが、糖尿病性腎症の感受性に関わるメカニズムとしては、拘束はされないが、実施例1の結果からNCALD の発現したmRNAを不安定化することによって、NCALDの産生を低下させているものと考えられる。
3.糖尿病性腎症の予防または治療に有効な成分をスクリーニングする方法
前述するように、本発明者らは、NCALD遺伝子の発現の低下が、糖尿病性腎症の発症やその進行に深く関わっていることを見出した。このことから、NCALDが糖尿病性腎症の発症抑制またはその進行抑制に関わっており、NCALD遺伝子の発現(mRNA発現)を亢進させて、NCALDの産生量を増大する作用を有する物質、またはNCALDの機能を亢進する作用を有する物質は、糖尿病性腎症の予防または治療に有効な成分として有用であると考えられる。
下記に説明する本発明のスクリーニング方法は、被験物質の中から、(3-1)NCALD遺伝子の発現(mRNA発現)を亢進する作用を有する物質、(3-2)NCALDの産生量を増大する作用を有する物質、または(3-3)NCALDの機能を亢進する作用を有する物質、を探索することによって、糖尿病性腎症の予防剤または治療剤(以下、これらを総称して「抗糖尿病性腎症剤」ともいう)の有効成分を取得しようとするものである。
なお、抗糖尿病性腎症剤の有効成分となりえる候補物質としては、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物(低分子化合物、高分子化合物を含む)、無機化合物などを挙げることができる。本発明のスクリーニング方法は、これらの候補物質を含む試料を対象として実施することができる(これらを総称して「被験物質」という)。ここで、候補物質を含む試料には、細胞抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物、微生物培養上清、および菌体成分などが含まれる。
(3-1)NCALD遺伝子の発現を亢進する作用を有する物質のスクリーニング方法
当該スクリーニングは、被験物質の中から、NCALD遺伝子の発現を亢進する作用を有する物質を、NCALD mRNAの発現量を指標として探索し、抗糖尿病性腎症剤の有効成分として取得する方法である。
当該方法は、具体的には下記の工程(1)〜(3)を行うことによって実施することができる。
(1)被験物質とNCALD遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(2)被験物質を接触させた細胞のNCALD遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のNCALD遺伝子の発現量よりも大きい被験物質を選択する工程。
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、天然または組み換え体の別を問わず、NCALD遺伝子を発現し得る細胞であればよい。なおNCALD遺伝子の由来も特に制限されず、ヒト由来であっても、またヒト以外のマウスなどの哺乳類やその他の生物種に由来するものであってもよいが、好ましくはヒト由来のNCALD遺伝子である。かかる細胞として、具体的には、NCALD遺伝子を有する近位尿細管上皮細胞(ヒトおよびその他の生物種由来のものを含む)、および単離調製された近位尿細管上皮細胞の初代培養細胞を挙げることができる。
また、定法に従って、NCALD遺伝子のcDNAを有する発現ベクターを導入してNCALD mRNAを発現可能な状態に調製された形質転換細胞を使用することもできる。なお、スクリーニングに用いられる細胞の範疇には、細胞の集合体である組織も含まれる。
本発明のスクリーニング方法(3-1)の工程(1)において、被験物質とNCALD遺伝子発現可能細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、当該細胞が死滅せず、且つNCALD遺伝子が発現し得る培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択することが好ましい。
候補物質の選別は、例えば上記条件で被験物質とNCALD遺伝子発現可能細胞とを接触させて、NCALD遺伝子の発現を亢進させてそのmRNAの発現量を増大させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でNCALD遺伝子発現可能細胞を培養した場合のNCALD mRNAの発現量が、被験物質非存在下で上記に対応するNCALD遺伝子発現可能細胞を培養した場合に得られるNCALD mRNAの発現量(対照発現量)よりも大きいことを指標として、細胞と接触させた当該被験物質を候補物質として選別することができる。
NCALD mRNAの発現量の測定(検出、定量)は、NCALD遺伝子発現可能細胞のNCALD mRNAの発現量を、当該NCALD mRNAの塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどを利用したノーザンブロット法やRT−PCR法、リアルタイム定量PCR法などの公知の方法、またはDNAアレイを利用した測定方法を実施することなどにより行うことができる。
なお、TGF−βは、組織線維化に中心的な役割を果たすサイトカインとして知られており、生体内で上皮−間葉転換(EMT)を誘導することが知られている。よって、かかる物質を上記のスクリーニング系に共存させておくことにより(例えば培地中に添加)、生体内環境を反映したスクリーニングが可能になる。従って、上記のスクリーニング方法の工程(1)またはその前段階において、NCALD遺伝子発現可能細胞を、TGF−βと接触させてもよい。また、こうすることで、腎症において生体内で誘導されてくるような因子群を、in vitroで同様に誘導することによって、NCALDの変動をより捉えやすくなる可能性がある。
(3-2)NCALDの産生を増加させる作用を有する物質のスクリーニング方法
当該スクリーニングは、被験物質の中から、NCALDの産生を増加させる作用を有する物質を、NCALDの産生量を指標として探索し、抗糖尿病性腎症剤の有効成分として取得する方法である。
当該方法は、具体的には下記の工程(1’)〜(3’)を行うことによって実施することができる。
(1’)被験物質とNCALDを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(2’)被験物質を接触させた細胞または細胞画分のNCALDの産生量を測定する工程、及び
(3’)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞(NCALDを産生可能な細胞)または被験物質を接触させない細胞画分(NCALDを産生可能な細胞から調製)のNCALDの産生量よりも大きい被験物質を選択する工程。
かかるスクリーニングに用いられる細胞(対照細胞を含む)としては、天然または組み換え体の別を問わず、NCALD遺伝子が発現してNCALDを産生し得る細胞であればよい。なおNCALD遺伝子の由来も特に制限されず、ヒト由来であっても、またヒト以外のマウスなどの哺乳類やその他の生物種に由来するものであってもよいが、好ましくはヒト由来のNCALD遺伝子である。かかる細胞として、具体的には、NCALD遺伝子を有する近位尿細管上皮細胞(ヒトおよびその他の生物種由来のものを含む)、および単離調製された近位尿細管上皮細胞の初代培養細胞を挙げることができる。
また、定法に従って、NCALD遺伝子のcDNAを有する発現ベクターを導入してNCALDを産生可能な状態に調製された形質転換細胞を使用することもできる。なお、スクリーニングに用いられる細胞の範疇には、細胞の集合体である組織も含まれる。
本発明のスクリーニング方法(3-2)の工程(1’)において、被験物質とNCALD産生可能細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、当該細胞が死滅せず、且つNCALD遺伝子が発現し且つNCALDが産生し得る培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択することが好ましい。
候補物質の選別は、例えば上記条件で被験物質とNCALD産生可能細胞またはその細胞画分とを接触させて、NCALDの産生量を増大させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でNCALD産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合のNCALD産生量が、被験物質非存在下で上記に対応するNCALD産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合に得られるNCALDの産生量(対照産生量)よりも大きいことを指標として、細胞または細胞画分と接触させた当該被験物質を候補物質として選別することができる。
NCALD産生量の測定(検出、定量)は、NCALD産生可能細胞またはその細胞画分から得られるNCALDの量を、当該NCALDに対する抗体(抗NCALD抗体)を利用してウエスタンブロット法や免疫沈降法、ELISA等の公知の方法を行うことによって実施することができる。
なお、前述と同様の理由から、当該スクリーニング方法の工程(1’)中またはその前段階に、NCALDを産生可能な細胞またはその細胞画分を、TGF−βと接触させてもよい。
(3-3)NCALDの機能を亢進する作用を有する物質のスクリーニング方法
当該スクリーニングは、被験物質の中から、NCALDの機能を亢進する作用を有する物質を、NCALDの機能を指標として探索し、抗糖尿病性腎症剤の有効成分として取得する方法である。
当該方法は、具体的には下記の工程(1”)〜(3”)を行うことによって実施することができる。
(1”)被験物質とNCALDを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分を接触させる工程、
(2”)被験物質を接触させた細胞または細胞画分のNCALDの機能を検出する工程、及び
(3”)上記の検出した機能が、被験物質を接触させない対照細胞(NCALDを産生可能な細胞)または細胞画分(NCALDを産生可能な細胞から調製)のNCALDの機能よりも大きい被験物質を選択する工程。
当該スクリーニングで用いられる細胞、並びに工程(2”)において被験物質と接触させる方法や条件は、前述する(3-2)のスクリーニング方法にて記載したものを同様に使用することができる。
候補物質の選別は、上記条件で被験物質とNCALD産生可能細胞またはその細胞画分とを接触させて、NCALDの機能を増大させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でNCALD産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合に生じるNCALDの機能が、被験物質非存在下で上記に対応するNCALD産生可能細胞または細胞画分を培養した場合に得られるNCALDの機能(対照機能)よりも大きいことを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。
ここで、NCALDの機能として、上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害する機能(細胞間葉化の阻害機能)を挙げることができる。具体的には、(i)接着分子の発現を誘導する機能(接着分子発現誘導機能)、(ii)間葉細胞特定的蛋白の発現を抑制する機能(間葉細胞特定的蛋白の発現抑制機能)、(iii)細胞外基質の産生を抑制する機能(細胞外基質の産生抑制機能)、および(iv)細胞の遊走能または浸潤を抑制する機能(細胞遊走能・浸潤の抑制機能)を挙げることができる。
後述する実施例に示すように、近位尿細管上皮細胞においてNCALD遺伝子の発現を低下させることによって (i)接着分子であるE−カドヘリンの発現が抑制され、また(ii)アクチン(α-smooth muscle actin; α-SMA)の発現が誘導された。また、近位尿細管上皮細胞においてNCALD遺伝子の発現を低下させることによって、(iv)細胞の遊走能が亢進することも認められた。これらのことから、NCALDは、近位尿細管上皮細胞における、間葉細胞への転換(間葉化)に関与しているものと考えられる。つまり、NCALD遺伝子の発現の低下によって、近位尿細管上皮細胞において、接着分子の損失→間葉細胞特定的蛋白の発現→基底膜の破綻→細胞遊走・湿潤→細胞外マトリックス産生→組織線維化→腎症といった、細胞間葉化による腎症への進展が生じているものと考えられる。従って、NCALDは、直接的または間接的に、細胞間葉化の阻害機能、具体的には(i)接着分子発現誘導機能、(ii)間葉細胞特定的蛋白の発現抑制機能、(iii)細胞外基質の産生抑制機能、および(iv)細胞遊走能・浸潤の抑制機能を発揮するものと考えられる。なお、ここで接着分子としては具体的にはE−カドヘリンを、間葉細胞特定的蛋白としては具体的にアクチン、好ましくはα−平滑筋アクチン(α−SMA)を、細胞外基質として具体的にはフィブロネクチン、I型コラーゲン、III型コラーゲン、ラミニンなどを、それぞれ挙げることができる。
なお、これらのNCALDの機能は、例えば接着分子(例えば、E−カドヘリン)、間葉細胞特定的蛋白(例えば、α−SMA)、または細胞外基質(例えば、フィブロネクチン、I型コラーゲン、III型コラーゲン、ラミニン)の発現量を、RT−PCRやELISA法など公知の方法で測定・比較することにより測定することができる。また、NCALDの機能は、電子顕微鏡を用いた観察により、上皮細胞の繊維芽細胞様変化や組織湿潤能を測定・比較することによっても測定することができる。
また、前記と同じ理由により、上記スクリーニング方法の工程(1”)またはその前段階において、NCALDを産生可能な細胞またはその細胞画分を、TGF−βと接触させてもよい。
上記(3-1)〜(3-3)のスクリーニング方法で選別された物質は、近位尿細管上皮細胞においてNCALD遺伝子の発現を亢進させてNCALDの産生を増大させるか、またはNCALDの機能を亢進する作用を有するものであり、糖尿病性腎症の発症やその進行を予防する組成物または糖尿病性腎症を改善する組成物の有効成分として使用することが可能である
上記のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに糖尿病性腎症を有する病態非ヒト動物を用いてスクリーニングにかけることもできる。かくして選別される候補物質は、さらに糖尿病性腎症を有する病態非ヒト動物を用いた薬効試験、安全性試験、さらに糖尿病性腎症を有する患者(ヒト)もしくはその前状態にある患者(ヒト)への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な糖尿病性腎症の予防または治療用組成物の有効成分を選別取得することができる。
このようにして選別された物質は、必要に応じて構造解析を行った後、その物質の種類に応じて、化学的合成、生物学的合成(発酵を含む)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができ、糖尿病性腎症予防・治療用組成物の調製に使用することができる。
4.糖尿病性腎症の罹患リスクが高い被検者(糖尿病性腎症易罹患者)の選別方法
本発明は、また被検者の中から糖尿病性腎症の罹患・進行リスク(糖尿病性腎症を発症し易くまた進行易いか/発症し難くまた進行し難いかの別)を測定し、当該リスクの高い被検者を選別する方法を提供する。なお、本発明では、これらのリスクが高い被検者を「糖尿病性腎症易罹患者」と称する。
その選別方法としては、被検者の被検試料について、(4-1)NCALD遺伝子の発現量(mRNA発現量)を指標とする方法、(4-2)NCALDの産生量を指標とする方法、および(4-3) NCALD遺伝子の糖尿病性腎症感受性SNPsを指標とする方法、を挙げることができる。
(4-1) NCALD遺伝子の発現量(mRNA発現量)を指標とする糖尿病性腎症易罹患者の選別方法
当該方法は、被検者由来の被検試料におけるNCALD遺伝子の発現量、すなわちNCALD mRNA発現量を測定することによって行うことができる。ここで被検試料としては、NCALD遺伝子を発現し得る細胞を含む生体試料であればよいが、具体的には、血液を挙げることができる。
NCALD mRNA発現量の測定方法は、上記(3-1)の方法で説明するように、定法に従って行うことができる。
かかる測定の結果、被検者の被検試料におけるNCALD mRNAの発現量が、正常人由来の対照試料におけるNCALD mRNAの発現量(対照発現量)よりも小さい場合に、前記被検者は糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い(糖尿病性腎症易罹患性)と判断することができる。なお、ここで「NCALD mRNAの発現量が小さい」とは、対照発現量と対比するまでもなく、NCALD mRNAが全く発現しない場合、すなわちNCALD mRNAの発現量が実質的にゼロである場合も含まれる。
ここで「正常」とは、少なくとも腎症を発症していないか、または腎症を発症する前段階でもないという意味で用いられる。具体的には尿中アルブミン排泄率が20μg/分未満または尿中アルブミン/クレアチニン比が30mg/gCr未満である場合に、腎症に関して「正常」と判断することができる。
(4-2) NCALDの産生量を指標とする糖尿病性腎症易罹患者の選別方法
当該方法は、被検者由来の被検試料におけるNCALDの産生量を測定することによって行うことができる。ここで被検試料としては、NCALD遺伝子を発現し、NCALDを産生し得る細胞を含む生体試料であればよいが、具体的には血液を挙げることができる。
NCALD産生量の測定方法は、上記(3-2)の方法で説明するように、定法に従って行うことができる。
かかる測定の結果、被検者の被検試料におけるNCALDの産生量が、正常人由来の対照試料におけるNCALDの産生量(対照産生量)よりも小さい場合に、前記被検者は糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い(糖尿病性腎症易罹患性)と判断することができる。なお、ここで「NCALDの産生量が小さい」とは、対照産生量と対比するまでもなく、NCALDを全く産生しない場合、すなわちNCALDの産生量が実質的にゼロである場合も含まれる。
(4-3) NCALD遺伝子の糖尿病性腎症感受性SNPsを指標とする糖尿病性腎症易罹患者の選別方法
当該方法は、被検者から得られるゲノムDNAを対象として、下記3つSNPsの中の少なくとも1つのSNPsについて塩基を検出し同定する工程を有するものである:
(1) ヒトNCALD遺伝子の第4エクソンの999位(SNP999)の塩基
(2) ヒトNCALD遺伝子の第4エクソンの1307位(SNP1307)の塩基
(3) ヒトNCALD遺伝子の第4エクソンの1340位(SNP1340)の塩基。
好ましくは、これらSNPs中の2以上のSNPsについて塩基を検出し同定する工程を有する方法であり、より好ましくはこれらSNPs中の3つ全てのSNPsについて塩基を検出し同定する工程を有する方法である。
本発明の検出方法として好ましくは、ヒト被験者から得られるゲノムDNAを対象として、上記SNPsから選択される1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つの塩基を検出し同定する工程を有し、さらに、検出し同定した少なくとも塩基が、下記の条件:
(1) ヒトNCALD遺伝子の第4エクソンの999位(SNP999)の塩基:チミン
(2) ヒトNCALD遺伝子の第4エクソンの1307位(SNP1307)の塩基:シトシン
(3) ヒトNCALD遺伝子の第4エクソンの1340位(SNP1340)の塩基:アデニン
を満たしている場合に、当該被検者を、糖尿病性腎症に罹りやすい者(糖尿病性腎症易罹患者)として判定し、選択する工程を有することができる。
当該方法によれば、糖尿病性腎症易罹患性及び糖尿病性腎症難罹患性の別、すなわち糖尿病性腎症罹患リスクを判定し診断することができる。当該糖尿病性腎症罹患リスクの判定(診断)は、上記SNPsの塩基の別を判断基準(判断指標)として医師等の専門知識を有する者の判断を要することなく、機械的に行なうことができる。このため、本発明の方法は、糖尿病性腎症の罹患危険度の検出方法と言うことができる。
なお、上記ゲノムDNAの抽出および目的塩基の検出は、公知の方法〔例えば、Bruce, et al., Geneme Analysis/A laboratory Manual (vol.4), Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1999)〕を用いて行うことができる。
ゲノムDNAの抽出を行う検体は、被検者および臨床検体等から単離されたあらゆる細胞(培養細胞を含む。但し生殖細胞は除く)、組織(培養組織を含む)、臓器、または体液(例えば、唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿等)などを材料とすることができる。該材料としては末梢血から分離した白血球または単核球が好ましく、特に白血球が最も好適である。これらの材料は、臨床検査において通常用いられる方法に従って単離することができる。
例えば白血球を材料とする場合、まず被験者より単離した末梢血から常法に従って白血球を分離する。次いで、得られた白血球にプロティナーゼKとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えてタンパク質を分解、変性させた後、フェノール/クロロホルム抽出を行うことによりゲノムDNA(RNAを含む)を得る。RNAは、必要に応じてRNaseにより除去することができる。なお、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook J. et. al., “Molecular Cloning: A Laboratry Manual (2nd Ed.)”Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のDNA抽出キット等を利用して行なうことができる。さらに必要に応じて、ヒト第8染色体(8q22-23)上のNCALD遺伝子またはその第4エクソンを含むDNAを単離してもよい。当該DNAの単離は、NCALD遺伝子またはその第4エクソンにハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
目的塩基を検出する工程において、上記のようにして得られたヒトゲノムDNAを含む抽出物から、糖尿病性腎症に極めて関連性の深い糖尿病性腎症感受性SNPsを検出する。なお、当該塩基の検出は、ヒトゲノムDNAを含む試料からさらに単離したヒト第8染色体上のNCALD遺伝子、好ましくはその第4エクソンを含むLDブロック中の塩基配列を直接決定し、各ブロック内に位置する各種SNPの塩基の変異を調べる方法によってもよい。
例えば目的の塩基を検出する方法としては、上記のように該当領域の遺伝子配列を直接決定する方法の他に、多型配列が制限酵素認識部位である場合は、制限酵素切断パターンの相違を利用して、遺伝子型を決定する方法(以下、RFLPという)、多型特異的なプローブを用いハイブリダイゼーションを基本とする方法(例えば、チップやガラススライド、ナイロン膜上に特定なプローブを張り付け、それらのプローブに対するハイブリダイゼーション強度の差を検出することによって、多型の種類を決定する、または、特異的なプローブのハイブリダイゼーションの効率を、鋳型2本鎖増幅時にポリメレースが分解するプローブの量を検出することにより遺伝子型を特定する方法、ある種の2本鎖特異的な蛍光色素が発する蛍光を温度変化を追うことにより2本鎖融解の温度差を検出し、これにより多型を特定する方法、多型部位特異的なオリゴプローブの両端に相補的な配列を付け、温度によって該当プローブが自己分子内で2次構造をつくるか、ターゲット領域にハイブリダイズするかの差を利用して遺伝子型を特定する方法など)がある。また、さらに鋳型特異的なプライマーからポリメレースによって塩基伸長反応を行わせ、その際に多型部位に取り込まれる塩基を特定する方法(ダイデオキシヌクレオタイドを用い、それぞれを蛍光標識し、それぞれの蛍光を検出する方法、取り込まれたダイデオキシヌクレオタイドをマススペクトロメトリーにより検出する方法)、さらに鋳型特異的なプライマーに続いて変異部位に相補的な塩基対または非相補的な塩基対の有無を酵素によって認識させる方法などがある。
以下、従来公知の代表的な遺伝子多型の検出方法を列記するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(a)RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、(b)PCR−SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析)〔Biotechniques, 16, 296-297 (1994)、及びBiotechniques, 21, 510-514 (1996)〕、(c)ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕、(d)ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕、(e)ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991);Nuc. Acids. Res., 20, 4831-4837 (1992)〕、(f)変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE)法〔Biotechniques, 27, 1016-1018 (1999)〕、(g)RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕、(h)化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕、(i)DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕、(j)TaqMan−PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999);J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕、(k)インベーダー法〔Science, 5109, 778-783 (1993);J.Biol.Chem., 30,21387-21394 (1999);Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕、(l)MALDI−TOF/MS法(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997);Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem., 35, 545-548 (1997)〕、(m)TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕、(n)モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol., 1, p49-53 (1998);遺伝子医学、4, p46-48 (2000)〕、(o)ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele-Specific Hybridization;DASH)法〔Nat.Biotechnol.,1.p.87-88 (1999);遺伝子医学,4, 47-48 (2000)〕、(p)パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet.,3,p225-232 (1998) ;遺伝子医学,4, p50-51 (2000)〕、(q)UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームぺージ(http://www.takara.co.jp )参照〕、(r)DNAチップまたはDNAマイクロアレイ(「SNP遺伝子多型の戦略」松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135)、(s)ECA法〔Anal. Chem., 72, 1334-1341, (2000)〕。
以上は代表的な遺伝子多型検出方法であるが、本発明の糖尿病性腎症罹患リスクの判定には、これらに限定されず、他の公知または将来開発される遺伝子多型検出方法を広く用いることができる。また、本発明の遺伝子多型検出に際して、これらの遺伝子多型検出方法を単独で使用してもよいし、また2以上を組み合わせて使用することもできる。
以上、本発明の方法((4-1)〜(4-3))によって、糖尿病性腎症を発症するかまたはそれが進行する潜在的な危険度が相対的に高いことが判明した被検者に対しては、その旨を告知し、予め糖尿病性腎症の発症または進行を防ぐための的確な対策を講じることができる。従って、本発明は、糖尿病性腎症の発症や進行を予防するための検査方法として、さらには糖尿病性腎症に伴って生じる他の疾患や症状発生の予防のための検査方法として極めて有用である。
5.糖尿病性腎症の罹患リスク診断キット
本発明はまた、糖尿病性腎症の罹患リスクを診断するための試薬キット(診断キット)を提供する。特に、上記(4-3)で説明する糖尿病性腎症易罹患者の選別方法に使用される診断キットを提供する。
(5-1)プローブ
上記(4-3)にて説明する糖尿病性腎症感受性SNPs並びに当該塩基を含むヌクレオチドの検出には、ヒト第8染色体(8q22-23)のNCALD遺伝子上の糖尿病性腎症感受性SNPsを含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該SNPsを検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドが用いられる。かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、上記NCALD遺伝子上において個々のSNPs(SNP999、SNP1307、SNP1340)を各々含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、上記塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。
ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら、Molecular Cloning, Cold Spring Harbour Laboratory Press, New York, USA, 第2版、1989に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。好適には当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、上記検出するSNPを含む遺伝子領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有することが望ましいが、かかる特異的なハイブリダイゼーションが可能であれば、完全に相補的である必要はない。
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとしては、下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一つのオリゴまたはポリヌクレオチド(但し、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
(a) ヒトNCALD遺伝子の塩基配列において、第4エクソンの999位(SNP999)に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド、
(b) ヒトNCALD遺伝子の塩基配列において、第4エクソンの1307位(SNP1307)に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド、
(c) ヒトNCALD遺伝子の塩基配列において、第4エクソンの1340位(SNP1340)に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド。
当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、被検者について糖尿病性腎症に対する罹患性やその進行性を判定するために、ヒト第8染色体上のNCALD遺伝子上に位置する糖尿病性腎症感受性SNPs(SNP999、SNP1307、またはSNP1340)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするオリゴまたはポリヌクレオチド「プローブ」として設計される。なお、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、NCALD遺伝子の塩基配列に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作成することができる。
さらに好ましくは、当該プローブは、上記各SNPsを含むオリゴヌクレオチドが検出できるように、放射性物質、蛍光物質、化学発光物質、または酵素等で標識される(後述)。
上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)は任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明はまた、上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)を固定化プローブ(例えばプローブを固定化した遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等)として提供するものである。当該プローブは、好適には糖尿病性腎症感受性遺伝子検出用のDNAチップとして利用することができる。
固定化に使用される固相は、オリゴまたはポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相へのオリゴまたはポリヌクレオチドの固定は、予め合成したオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上に載せる方法であっても、また目的とするオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
例えば、ASO法の一例であるTaqMan PCR法〔Livak KJ. Gene Anal 14, 143 (1999), Morris T et al., J Clin Microbiol 34, 2933 (1996)〕の場合、各種の糖尿病性腎症感受性SNPsを含む領域に相補的な20塩基長程度のオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。当該プローブは、5’末端を蛍光色素、3’末端を消光物質により標識され、検体DNAと特異的にハイブリダイズするが、そのままでは発光せず、別に加えられたPCRプライマーの上流からの伸長反応により5’側の蛍光色素結合が切断され、遊離した蛍光色素により検出される。
ASO法の別の1例であるInvade法〔Lyamichev V. et al., Nat Biotechnol 17, 292 (1999)〕では、多型部位に隣接する配列(3’側と5’側の2種)に相補的なオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。検出は、これら2種のプローブと検体とは無関係な第3のプローブによって達成される。
(5-2)プライマー
本発明は、またヒト第8染色体のNCALD遺伝子上の糖尿病性腎症感受性SNPsを含む配列領域を特異的に増幅するためのプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドを提供する。
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとしては、下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一つのオリゴまたはポリヌクレオチド(但し、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする15〜30塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
(a) ヒトNCALD遺伝子の塩基配列において、第4エクソンの999位(SNP999)に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド、
(b) ヒトNCALD遺伝子の塩基配列において、第4エクソンの1307位(SNP1307)に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド、
(c) ヒトNCALD遺伝子の塩基配列において、第4エクソンの1340位(SNP1340)に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド。
このようなオリゴヌクレオチドは、NCALD遺伝子において、糖尿病性腎症感受性SNPsの塩基(ヌクレオチド)を含む連続したオリゴまたはポリヌクレオチドの1部に特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜30塩基長、好ましくは18〜25塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。増幅するオリゴまたはポリヌクレオチドの長さは、用いられる検出方法に応じて適宜設定されるが、一般的には15〜1000塩基長、好ましくは20〜500塩基長、より好ましくは20〜200塩基長である。
ヒト第8染色体のNCALD遺伝子上の、各種糖尿病性腎症感受性SNPs(SNP999、SNP1307、SNP1340)近傍の15塩基以上連続した塩基配列に特異的にハイブリダイズする塩基配列を有する上記の各種オリゴヌクレオチドは、本発明においてプライマーとして利用することができる。なお、これらのオリゴヌクレオチドは、ヒトNCALD遺伝子の塩基配列に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作成することができる。
Mass Array法にMALDI-TOF/MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization Time-Of-Flight Mass Spectrometry)を応用した方法〔Haff LA et al. Genome Res 7, 378 (1997), Little DP et al., Nature Medicine vol.3, No.12, 1413-1416, (1997)〕を例にとって、プライマーの具体的な利用方法を説明する。この場合、シリコンチップ上に固定した検体DNAに前記プライマーをハイブリダイズさせ、ddNTPを添加して一塩基だけを伸長させる。次いで、一塩基伸長産物を分離し、質量分析法により多型を検出する。この方法では、プライマーは通常15塩基長以上で可能な限り短く設計することが望ましい。
(5-3)標識物
上記本発明のプローブまたはプライマーには、遺伝子多型検出のための適当な標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものが含まれる。
なお、本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6−FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’−オリゴラベリングシステム等)。
また、本発明のプライマーには、その末端に多型検出のためのリンカー配列が付加されたものも含まれる。このようなリンカー配列としては、例えば、前述したインベーダー法で用いられるオリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
以上の、プローブまたはプライマー(標識されていてもよい)は、糖尿病性腎症罹患リスクの診断用試薬として利用することができる。
(5-4)糖尿病性腎症罹患リスク診断用試薬キット(診断キット)
本発明の診断キットは、糖尿病性腎症罹患リスクの診断に使用する試薬として、上記プローブまたはプライマーとして用いられるオリゴまたはポリヌクレオチド(なお、これらは標識されていても、また固相に固定化されていてもよい)を少なくとも1つ含むものである。本発明の診断キットは上記プローブまたはプライマーの他、必要に応じてハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液など、本発明の方法の実施に必要な他の試薬、器具などを適宜含んでいてもよい。
本発明を、下記実施例等により説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例において、遺伝子操作、細胞培養等には、特に断りのない限り、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Current Protocols in Molecular Biology (Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)等に記載された方法を用いた。
実施例1
インフォームドコンセントの下、滋賀医科大学、東京女子医科大学、順天堂大学、川崎医科大学、岩手医科大学、取手協同病院、川井クリニック、大阪市立総合医療センター、千葉徳洲会病院、または大阪労災病院に定期的に来診する2型糖尿病患者を対象として実験を行なった。
なお、対象とした2型糖尿病患者は、下記診断基準に従って2つのグループに分類した:
1)糖尿病性腎症症例:糖尿病網膜症と、明らかな糖尿病性腎症(200μg/分を超える尿中アルブミン排泄率若しくは300mg/gCrを超える尿中アルブミン/クレアチニン比)とを伴う患者、又は慢性透析療法を受けている患者、
2)対照群:腎機能障害の兆候を示していないが糖尿病網膜症を伴う患者〔20μg/分未満の尿中アルブミン排泄率若しくは30mg/gCr未満の尿中アルブミン/クレアチニン比〕。
前記2型糖尿病患者の末梢血液を採血し、得られた末梢血液7mlを3000回転で10分間遠心分離して、血漿を除去した。ついで、得られた産物に、赤血球溶解液を添加して、室温で20分間インキュベートした。その後、インキュベーション後の混合物を、3000回転で5分間遠心分離して、上清を除去した。得られた沈殿に、プロティナーゼKを添加し、37℃で4時間以上インキュベートした。得られた産物を、フェノール−クロロホルムで処理し、得られた上層(水層)に、イソプロパノールを添加して、DNAの沈殿を生じさせた。ついで、遠心分離(12000回転、10分)を行ない、DNAを回収し、1ml 70% エタノールを添加し、得られたDNAのペレットをTE緩衝液〔組成:10mM Tris−HCl、1mM EDTA(pH8.0)〕に溶解し、DNA試料を得た。
前記DNA試料を用いて、インベーダー法により遺伝子型の判定を行った。解析するSNPは、Japanese SNPデータベース(IMS−JST SNPs データベース:http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp)から無作為に選択した。各SNP遺伝子座の遺伝子型を、Multiplex PCRと組み合わせたインベーダー法〔例えば、オオニシ(OhnishiY.)ら,J.Human.Genet.,46,471−477,2001等を参照のこと〕により解析した。
より詳細に遺伝子多型の検索をダイレクトシーケンス法にて行った。NCALDを含むゲノム配列に関連するジーンバンク(GenBank)の情報〔アクセッション番号:NM_032041〕を基にデザインしたPCRプライマーを用いて、標的部位を増幅した。また、PCRプライマーのデザインに際して、ベッデル(Bedell)ら、〔Bioinformatics、16、1040−1041、2000〕に記載されたように、商品名:REPEAT MASKERプログラム〔ワシントン大学より供給、ウェブページアドレス:http://repeatmasker.genome.washington.eduにて利用可能〕により、検索対象から反復エレメントを排除した。
Multiplex PCRにおける反応条件は、反応溶液〔組成:16.6mM (NH42SO4、67mM Tris(pH8.8)、6.7mM MgCl2、10mM 2−メルカプトエタノール、6.7μM EDTA、1.5mM dNTP、10xTaqミックス(2.5U/μl Taq DNAポリメラーゼ、31.25U/μl Taq Antibody)、0又は10% DMSO、各0.25μM プライマー〕、95℃、5分の反応後、95℃で15秒と60℃で45秒と72℃で3分とを1サイクルとする40サイクルの反応を行なった。
増幅された産物をdH2Oで、1:11に希釈し、384プレートの各ウェルに分注した。ついで、プレートを風乾させ、プレート上の各ウェルに、3μl インベーダー反応液(組成:10×緩衝液、10×FRETプローブ、10×clevase、アレルプローブ)を添加した。その後、63℃で20分間インキュベートし、ついで、プレートの各ウェルについて、蛍光(520nm、546nm)を測定した。
糖尿病性腎症症例の94患者及び対照群の94個体のそれぞれに対し、81315個のSNP座について遺伝子タイピングを行なった。ついで、2×3又は2×2分割表を用いた統計学的データを評価することにより、糖尿病性腎症症例の患者と対照群個体との間の遺伝子型又は対立遺伝子頻度に有意な差異を示したSNPを選択した。
なお、相関解析、ハプロタイプ頻度及びHardy−Weinberg平衡の統計解析並びに連鎖不均衡係数(D’)の算出は、デブリン(Devlin B.)ら〔Genomics,29,311−322,1995〕及びニールセン(Nielsen DM.)ら〔Am.J.Hum.Genet.,63,1531−1540,1998〕のように行なった。
以上のスクリーニングにおいて、腎症症例の患者と対照群の個体との間で0.01未満のp値を示したSNP座を、さらに多数の患者について、解析した。
その結果、表1に示すように、NCALD遺伝子の第4エクソンにおける1つのSNP座(1340 G/A、以下「SNP1340」ともいう)の遺伝子型の分布が、糖尿病性腎症との強い関連性を示した〔A対G,χ2=16.9、p=0.00004、オッズ率1.59、95%CI 1.27〜1.98〕。なお、表中「HWE Test」は、Hardy-Weinberg equilibrium testを意味する。
Figure 2007129905
また、NCALD遺伝子におけるランドマークSNP(SNP1340)周辺の領域を連鎖不均衡マッピングすることにより、図1に示すように、ランドマーク部位(SNP1340)(図中、*で示す)の約30kb上流及び20kb下流に、この領域における連鎖不均衡が広がっていることが示された。
このことから、糖尿病性腎症の罹病性に重要な領域は、恐らく、この50kbの高連鎖不均衡ブロック内に存在すると考えられた。この連鎖不均衡ブロック内には、NCALD遺伝子とTFCP2L3遺伝子の2つの遺伝子が存在する。しかしながら、定量PCR法、およびインサイチュハイブリダイゼーション法の双方においてTFCP2L3遺伝子は腎臓にその発現が認められなかったことから、NCALD遺伝子が糖尿病性腎症の罹病性に関する候補であると考えられた。
そこで、次いでNCALD遺伝子における他の多型を調べた。
その結果、NCALD遺伝子上にSNP1340とは別に115多型、具体的には108SNPs、7挿入/欠失多型が同定された。このうち、機能的変異を伴うと推測される16SNPsの多型(図2参照)について連鎖不均衡マッピング(LDマッピング)を行ったところ、エクソン4の2つのSNPs(+999 A/T(以下、「SNP999」ともいう)、+1307 T/C(以下、「SNP1307」ともいう))で連鎖不平衡が認められた。なお、図中に示すSNPの位置番号は、それぞれが位置するエクソンまたはイントロンの最初の塩基を1とした場合の番号である。
実施例2
実施例1で同定された3つのSNPs(SNP999、SNP1307、SNP1340)によるNCALD遺伝子の影響を調べるため、それぞれのSNPsを導入したNCALD遺伝子の発現産物mRNAの安定性を調べた。
まず、NCALD遺伝子の全長cDNAをPCRクローニングし、pCRII−TOPOベクター(インビトロジェン社製)に挿入した。その後、ミュータジェネシスキット(ストラタジーン社製)により、エクソン4の3つのSNPs部位(SNP999、SNP1307、SNP1340)に、各々チミン(T)、シトシン(C)、およびアデニン(A)を導入した。得られたベクターより、リボマックスラージスケールRNAプロダクションシステム-T7(プロメガ社製)を用い、RNAを合成、および精製した。
一方、正常ヒト近位尿細管上皮細胞(三光純薬社製)をPBSで洗浄後、溶出バッファー(0.5% Nonidet P-40; 20mM HEPES buffer, pH8.0; 20% glycerol (v/v); 400mM NaCl, 0.5mM dithiothreitol; 0.2mM EDTA, 0.1% protease inhibitor cocktail (ナカライ社製))で懸濁し、氷上に30分間放置した。その後、15,000Gで30分間遠心し、上清を回収して、これを細胞抽出液とした。
上述のRNA 25μgと1000倍に希釈した上記細胞抽出液とを混合し、室温で0〜15分間放置した。この反応液を65℃で15分間インキュベートし、ホルムアミドアガロースゲルで電気泳動した(Susceptible)。対照として、NCALD遺伝子のエクソン4の3つのSNPs(SNP999、SNP1307、SNP1340)が、それぞれアデニン(A)、チミン(T)、およびグアニン(G)となるように調製したベクターから作成したRNAを用いて、同様に上記細胞抽出液と反応させて、電気泳動にかけた(Non−susceptible)。
泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、LAS-3000(富士フィルム社製)でスキャンし、NCALDのmRNAに相当する各バンドの蛍光強度を測定し定量化した。
図3に、エクソン4の3つのSNPs(SNP999、SNP1307、SNP1340)が、それぞれアデニン(A)、チミン(T)、およびグアニン(G)であるハプロタイプ(Non−susceptible)のNCALD mRNAの蛍光強度、およびSNP999、SNP1307およびSNP1340が、それぞれチミン(T)、シトシン(C)、およびアデニン(A)であるハプロタイプ(Susceptible)のNCALD mRNAの蛍光強度の経時的変化を示す。
この結果からわかるように、エクソン4の3つのSNPs(SNP999、SNP1307、SNP1340)がA、T、およびGであるメジャーなハプロタイプ(Non-susceptible)のNCALD mRNAの蛍光強度半減期は10分であったのに対し、これらのSNPs位にそれぞれT、C、およびAが導入されたハプロタイプ(susceptible)のNCALD mRNAの蛍光強度半減期は6.7分と短く、明らかに安定性が低下していることが認められた。
実施例3
siRNAを用いてNCALDの遺伝子発現を抑制し、糖尿病性腎症関連因子への影響を検討した。
NCALD遺伝子に特異的なsiRNA配列として、NCALD遺伝子の塩基配列373-391位に特異的な配列を有するsiRNA(siRNA #1)および597-615位に特異的な配列を有するsiRNA(siRNA #2)を選択した:
siRNA #1 (nt373-391):5’-TTC ATC ATC GCC TTG AGT GdTdT-3’(配列番号:1)
siRNA#2 (nt597-615):5’-TAG AGA CGG AAA ACT CTC CdTdT-3’ (配列番号:2)。
これらのsiRNA(siRNA #1、siRNA #2)の2本鎖を調製し、正常ヒト近位尿細管上皮細胞へ、コントロールsiRNA(5’-AATTCTCCGAACGTGTCACGT-3(配列番号:3)、キアゲン社製)とともにトランスフェクトした。なお、トランスフェクション試薬には、ジーンサイレンサーsiRNAトランスフェクションリージェント(ジーンセラピーシステム社製)を使用した。48時間経過後、細胞を溶解し定量PCRとウェスタンブロッティングを行った。
得られた細胞より、ヌクレオスピンカラム(マケレイナジェル社製)によりRNAを採取し、スーパースクリプトIIIファーストストランドシステム(インビトロジェン社)によりcDNAを合成した。このcDNAを用いてE−カドヘリン遺伝子とα―SMA遺伝子の発現量(mRNA量)を定量PCR法により測定した。
なお、前記定量PCR(サーマルプロファイル)は、50℃2分間と95℃10分間のインキュベーションの後、95℃30秒と63℃30秒と72℃30秒とを1サイクルとする反応を40サイクル行うことによって実施した。また、定量PCRには、1×TaKaRa Ex TaqTM緩衝液(タカラバイオ社製)、200nM dNTP混合物、1/20000 SYBR Green、各800nMのプライマー、0.05U Ex TaqTM DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)、2.75ng TaqStart Antibody(商品名)(クローンテック社製)及び5ng 鋳型を有する反応溶液を用いた。
また定量PCRは、下記プライマーを用いて行った:
NCALD遺伝子(cDNA)について、
センスプライマー:5’-AGC ATG TAC GAC CTG GAC GG-3’(配列番号:4)、
アンチセンスプライマー:5-TTT GGC TCC TCG GAT GAA CT-3’(配列番号:5)、
E−カドヘリン遺伝子(cDNA)について、
センスプライマー:5’-GCC CAT TTC CTA AAA ACC TGG-3’(配列番号:6)、
アンチセンスプライマー:5’-TTG GAT GAC ACA GCG TGA GAG-3’(配列番号:7)、
GAPDH遺伝子(cDNA)について、
センスプライマー:5’-AGG TGA AGG TCG GAG TCA ACG-3’(配列番号:8)、
アンチセンスプライマー:5’-GCT CCT GGA AGA TGG TGA TGG-3’(配列番号:9)、
36B4遺伝子(cDNA)について、
センスプライマー:5’-AAG AAC ACC ATG ATG CGC AAG-3’(配列番号:10)、
アンチセンスプライマー:5’-CCT TAT TGG CCA GCA ACA TGT C-3’(配列番号:11)。
なお、GAPDH遺伝子及び36B4遺伝子はコントロール(内部標準遺伝子)として用いた。
結果を図4のパネルa)及びc)に示す。パネルa)はE−カドヘリン遺伝子の発現量(mRNA量)を定量PCRにより測定した結果、およびパネルc)はα−SMA遺伝子の発現量(mRNA量)を定量PCRにより測定した結果を示す。なお、いずれも内部標準遺伝子である36E4遺伝子の発現量に対する割合で示している。
図4に示すように、NCALD遺伝子に対するsiRNA(siRNA #1またはsiRNA #2)により、E−カドヘリン遺伝子の発現量(mRNA量)は減少し、一方、α―SMA遺伝子の発現量(mRNA)は増加した。
siRNA(siRNA #1またはsiRNA #2)をトランスフェクトした正常ヒト近位尿細管上皮細胞を1%NP40、1%トライトンX−100、0.35mg/ml PMSF、9.5μg/mlロイペプチン、13.75μg/mlペプスタチンAを含むPBS溶液で溶解した。次いで14,000Gで遠心して上清を回収し、これを細胞抽出液とした。なお、細胞抽出液のタンパク質量は、ブラッドフォードプロテインアッセイ試薬(バイオラッド社製)により定量した。
かくして得られた細胞抽出液をSDS−PAGEにより電気泳動し、ニトロセルロースメンブランに転写した。メンブランはブロッキング後、抗E−カドヘリン抗体と終夜で反応させた。洗浄後、HRP標識抗マウス抗体と反応させ、ECLプラスウェスタンブロッティングディテクションシステム(アマシャム社製)で検出した。その結果を図4のパネルb)に示す。
これからわかるように、NCALD遺伝子に対するsiRNA(siRNA #1またはsiRNA #2)により、E−カドヘリンのタンパク量が減少した。
実施例4
改良型ボイデンチャンバーを使用し、NCALD遺伝子の細胞遊走能に対する影響を調べた。
24ウェルのボイデンチャンバー(コースター社製)の上方に、上述のsiRNA(siRNA #1またはsiRNA #2)をトランスフェクトした正常ヒト近位尿細管上皮細胞を播種し、24時間培養した。その後フィルターを取り出し、エタノールで固定後、ボイデンチャンバーの上方に残った細胞を綿で取り除いた。フィルターの下側に移動した細胞のみを0.2%クリスタルバイオレットで染色し、同一の面積に存在する細胞数を測定した。この結果を図5に示す。パネルa)は顕微鏡画像、b)は測定した細胞数を示す。
図5に示すように、NCALD遺伝子に対するsiRNA(siRNA #1またはsiRNA #2)をトランスフェクトした正常ヒト近位尿細管上皮細胞では、コントロールと比較して遊走能が増大した。
以上のことから、NCALD遺伝子に、糖尿病性腎症感受性の3つのSNPsを導入することによりNCALD mRNAの安定性が低下した。またNCALD遺伝子の発現が抑制されてNCALDの産生量が減少することにより接着因子であるE−カドヘリン発現量の低下、α−SMA発現量の増加、および細胞遊走能の増大が生じた。これらのことから、NCALD遺伝子の発現抑制並びにNCALDの産生抑制が、おそらく、糖尿病性腎症の発症やその進行に関与しているものと考えられる。
NCALD遺伝子周辺における連鎖不均衡マッピングを示す図である。図中、NCALD遺伝子上に印した*は、ランドマークSNP(SNP1340)の位置を示す。 NCALD遺伝子における多型のうち、機能的変異を伴うと推測される16SNPsを示す。そのうち*を付した+1340位のSNP(SNP1340)はランドマークSNPである。なお、各SNPsの位置番号は、各SNPsが存在するイントロンまたはエクソンの1番目の塩基を+1とした場合の番号を示す。 SNPs(SNP1340、SNP1307、SNP999)の、NCALD遺伝子の発現産物(mRNA)の安定性に対する影響を示す図である。Non-susceptible(Haplotype)は、糖尿病性腎症非感受性のハプロタイプを、Susceptible(Haplotype)は、糖尿病性腎症感受性のハプロタイプを示す。 正常ヒト近位尿細管上皮細胞でのNCALD遺伝子の発現に対するsiRNAの影響を示す図である。パネルa)は、E−カドヘリン遺伝子の発現量を定量PCRにより測定した結果、b)はウェスタンブロットの結果、c)はα−SMA遺伝子の発現量を定量PCRにより測定した結果をそれぞれ示す。パネルa)とc)の結果はいずれも、内部標準遺伝子である36E4遺伝子の発現量に対する割合として示す。 正常ヒト近位尿細管上皮細胞でのNCALD遺伝子の発現に対するsiRNAの、細胞遊走能への影響を示す。パネルa)は顕微鏡画像、b)は測定した細胞数を示す。

Claims (17)

  1. 下記の工程を有する、NCALD遺伝子の発現を亢進する物質のスクリーニング方法:
    (1)被験物質とNCALD遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
    (2)被験物質を接触させた細胞のNCALD遺伝子の発現量を測定する工程、及び
    (3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のNCALD遺伝子の発現量よりも大きい被験物質を選択する工程。
  2. 下記の工程を有する、NCALDの産生量を増加させる物質のスクリーニング方法:
    (1’)被験物質とNCALDを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
    (2’)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のNCALDの産生量を測定する工程、及び
    (3’)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞もしくはその細胞画分のNCALDの産生量よりも大きい被験物質を選択する工程。
  3. NCALDの機能を亢進する物質のスクリーニング方法:
    (1”)被験物質とNCALDを産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分を接触させる工程、
    (2”)被験物質を接触させた細胞またはその細胞画分のNCALDの機能を検出する工程、及び
    (3”)上記の検出した機能が、被験物質を接触させない対照細胞またはその細胞画分のNCALDの機能よりも大きい被験物質を選択する工程。
  4. NCALDの機能が細胞の間葉化の阻害である請求項3記載のスクリーニング方法。
  5. NCALDの機能が接着分子の発現誘導である請求項3記載のスクリーニング方法。
  6. 前記接着分子がE−カドヘリンである請求項5記載のスクリーニング方法。
  7. NCALDの機能がアクチンの発現抑制である請求項3記載のスクリーニング方法。
  8. 前記アクチンがα−平滑筋アクチンである請求項7記載のスクリーニング方法。
  9. NCALDの機能が細胞外基質の産生抑制である請求項3記載のスクリーニング方法。
  10. NCALDの機能が細胞の遊走能もしくは浸潤の抑制である請求項3記載のスクリーニング方法。
  11. さらにNCALD遺伝子を発現可能な細胞またはNCALDを産生可能な細胞にTGF−βを接触させる工程を含む、請求項1から10のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  12. NCALD遺伝子を発現可能な細胞またはNCALDを産生可能な細胞が、近位尿細管上皮細胞である請求項1から11のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  13. 糖尿病性腎症の予防または治療剤の有効成分を探索する方法である請求項1から12のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  14. 被検者由来の被検試料におけるNCALD遺伝子のmRNA発現量を測定する工程を含み、ここで、被検試料における当該発現量が、正常人由来の対照試料におけるNCALD遺伝子のmRNA発現量よりも小さいことを、前記被検者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いとの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被検者の選別方法。
  15. 被検者由来の被検試料におけるNCALDの産生量を測定する工程を含み、ここで、被検試料における当該産生量が、正常人由来の対照試料におけるNCALDの産生量よりも小さいことを、前記被検者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被検者の選別方法。
  16. 被検者由来の被検試料におけるNCALD遺伝子の第4エクソンに存在する999番目における塩基、同1307番目における塩基、及び同1340番目における塩基の少なくともいずれか一つの塩基を検出する工程を含み、これらの塩基の少なくとも1つが下記の条件:
    999番目における塩基:チミン
    1307番目における塩基:シトシン
    1340番目における塩基:アデニン
    を満たすことを、前記被検者が糖尿病性腎症に罹患する可能性が高いことの指標とする、糖尿病性腎症に罹患する可能性が高い被検者の選別方法。
  17. NCALD遺伝子の第4エクソンに存在する999番目における塩基、同1307番目における塩基、及び同1340番目における塩基の少なくともいずれか一つの塩基を検出するための試薬を含む、糖尿病性腎症の罹患性診断キット。
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