JP2010178697A - β遮断薬有効群の選別方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】心筋梗塞発症患者の予後改善に、β遮断薬の投与が有効な患者を選別する方法を提供する。また当該方法を簡便に実施するために有用な試薬および試薬キットを提供する。
【解決手段】被験者の生体試料を対象として、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を検出して、Aのホモ接合体である場合にβ遮断薬の投与が生命予後改善に有効であると判定する。
【選択図】なし

Description

本発明は、患者固有の遺伝情報に基づいて、降圧薬として知られるβ遮断薬について、心筋梗塞を発症した患者の予後リスク低減(予後改善)に対する有効性の有無を検査するための方法およびその実施に使用する材料に関する。
本発明の方法は、心筋梗塞を発症した患者の予後を改善する(予後リスクを低減する)ための有効且つ的確な治療指針を与えるものであり、個々の患者に応じて適切な治療方法が選択できる結果、治療が不要な患者に対して無効な治療をすることを避けると共に、必要な患者に対しては有効且つ的確な治療を施すことができる点で有用なものである。
心筋梗塞は欧米諸国において最も死亡率の高い疾患であり、また我が国でも心筋梗塞を含む循環器系の疾患患者にかかる医療費は、一般診療医療費の20%以上を占めている。心筋梗塞は、たとえ致死的にはならない場合でも、心不全や狭心症・難治性不整脈を合併するため、発症後の患者の生活の質を著しく低下させ、また再発や上記の合併症などの発症によって、1年後の生存率が低い(予後リスクが高い)という事情から、発症を予防することは勿論のこと、予後を改善するための方法を確立することが急務とされている。
心筋梗塞の予防や予後改善に、β遮断薬が有効であることが海外のいくつもの大規模臨床試験で明らかになっている(例えば、非特許文献1〜3など参照)。
β遮断薬は、心臓のβ受容体をブロックして心臓の収縮力を弱める作用と脈拍をゆっくりさせる作用により心拍出量を減らし、それに伴って末梢血管抵抗が低下して血圧を下げる効果のある薬剤である。このように、β遮断薬は、心拍出量を減らして心臓の酸素需要量を減らすことから、労作性狭心症や心筋症の治療に使用されたり、また心房細動や心室性期外収縮等不整脈の治療にも使用されている。
このように、β遮断薬などの降圧薬の投与が、心機能を保持し、心筋梗塞発症後の患者の生命予後を全体として改善することは知られているものの、具体的にどのような患者群に対して有効であるのか未だ明らかになっていない。特に、近年は、Evidence Based Medicine (EBM)という理念のもと、医師の専門知識、経験および技術に加えて、科学的方法で確かめられた最新、最良の医療技術に関するエビデンス(証拠)をもとに、個々の患者に対して最も効果的で且つ安全な医療を施すことが求められるようになっているため、これらの降圧薬の投与に対して有効な患者群を科学的根拠に基づいて明らかにすることは重要なことであると考えられる。また、そうすることが、医療費の効率的運用にもつながる。
ところで、心筋梗塞の発症には、生活習慣等の非遺伝的因子のみならずいくつかの遺伝的因子が関わっていることが報告されている(非特許文献4及び5)。心筋梗塞の発症率は一般に高血圧、糖尿病、高脂血症などの危険因子の数に比例して高くなるものの(非特許文献6)、これらの危険因子を全く持たなくても心筋梗塞を発症する例があることは、心筋梗塞が遺伝的因子と関連する疾患であることを強く示唆するものである。
心筋梗塞と関連する遺伝子(心筋梗塞関連遺伝子)として、従来、アンギオテンシン変換酵素(非特許文献7)、血小板糖タンパクIIIa(非特許文献8)、第7血液凝固因子、コレステロールエステル移送タンパク(非特許文献9)、リンホトキシンα遺伝子(LTA遺伝子)、NFKBIL1遺伝子およびBAT1遺伝子(以上、非特許文献10)、ヒトプロスタサイクリン合成酵素遺伝子(特許文献1)、コネキシン37遺伝子、腫瘍壊死因子α因子遺伝子、NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子、アポリポプロテインE遺伝子、アポリポプロテインC-III遺伝子、血小板活性因子アセチルヒドラーゼ遺伝子、トロンボスポンジン4遺伝子、及びインターロイキン10遺伝子(以上、特許文献2)が同定され、その遺伝子多型〔例えば、SNPs(single nucleotide polymorphisms;単一塩基多型)〕と心筋梗塞との関連が報告されている。
しかしながら、これらの心筋梗塞関連遺伝子の遺伝子多型が、β遮断薬の有効群または無効群の選別指標になることについては知られておらず、心筋梗塞発症者の生命予後を改善するという目的で、これらの遺伝子多型を指標としてβ遮断薬投与有効または非有効群を抽出し、個別医療を行うという発想はまだない。
特開2002-136291号公報 特開2004-24036号公報
Beta-Blocker Heart Attack Study Group. JAMA 1981;246:2073-4. Dargie HJ, Et al., Lancet 2001;357:1385-90. Chen J, et al., Arch Intern Med 2000;160:947-52. Marenberg ME, et al., N Engl J Med 1994, 330, 1041-1046 Nara JJ, et al., Circulation, 1980, 61,503-508 Cambien F, et al., Nature 1992, 359, 641-644 Weiss EJ, et al., N Engl J Med 1996, 334, 1090-1094 Kuiven hoven JA, et al., N Engl J Med 1998, 338, 86-93 Ozaki,K., et al: Nature Genet 32, 650-654 (2002)
前述するように、近年、ゲノム全領域からSNPを対象として、心筋梗塞患者と一般集団とのSNPのアレル頻度の違い(SNPタイピング)が検討され、有意差のある候補SNPが複数同定されている(例えば、非特許文献9等)。しかしながら、心筋梗塞を発症した患者の予後改善に対するβ遮断薬の有効性または非有効性を判定する因子としてアンジオテンシンII 1型受容体(Angiotensin II, Type 1 Receptor:以下「AT1R」ともいう)の遺伝子多型を用いるという方法は知られていない。
本発明の目的は、心筋梗塞発症患者に対するβ遮断薬の有効性または非有効性に関わる遺伝子(以下、「β遮断薬感受性遺伝子」という)、並びに心筋梗塞発症後の予後改善に対する有効性または非有効性の判定指標となる遺伝子多型を提供し、さらにこの情報をもとにして、心筋梗塞発症後の予後改善にβ遮断薬が有効に作用する心筋梗塞発症患者(β遮断薬有効群)を選別する方法を提供することを目的とする。さらに本発明の目的は、当該方法を簡便に実施するために有用な試薬および試薬キットを提供することである。
さらに本発明は、心筋梗塞発症患者の予後リスクを低減する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、アンジオテンシンII 1型受容体(AT1R)遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位にA(アデニン)をホモ接合体(A/A)として有する被験者(AAゲノタイプ保有者)(Cアレル非保有者)は、当該コード領域第1位の塩基から数えて第1166位にC(シトシン)をホモ接合体(C/C)またはヘテロ接合体(C/A)として有する被験者(Cアレル保有者)と比較してβ遮断薬投与による予後改善効果が顕著であり、β遮断薬投与によってその予後が著しく改善することを見いだした。
すなわち、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がAのホモ接合体(A/A型)(非Cアレル型)である被験者は、「β遮断薬有効群」として分類することができ、一方、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がCのホモ接合体(C/C型)またはヘテロ接合体(A/C型若しくはC/A型)(総じて「Cアレル型」ともいう)である被験者は、「β遮断薬非有効群」として分類することができる。
以上の知見から、本発明者らは、心筋梗塞を発症した患者についてAT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を検出することにより、当該患者について、心筋梗塞の再発やそれに関連する疾患を発症して死に至り得る潜在的な危険度を低減する治療法としてβ遮断薬の投与が有効な群(β遮断薬有効群)と、β遮断薬の投与がさほど有効でない群(β遮断薬非有効群)とに、高い精度をもって分類することができること、そして、選別されたβ遮断薬有効群に対して選択的にβ遮断薬を投与することによって、当該心筋梗塞発症患者に対して効率的に有効且つ的確な治療が可能になることを確信して、本発明を完成するにいたった。
すなわち、本発明は、下記の態様を有するものである。
(I)第一の態様において、本発明は心筋梗塞を発症した患者について、心筋梗塞発症後の予後の改善に対してβ遮断薬の投与が有効であるか(β遮断薬有効群であるか)またはさほど有効ではないか(β遮断薬非有効群であるか)を判定し、β遮断薬有効群とβ遮断薬非有効群とを選別するための方法に関する。
この方法は、心筋梗塞を発症した患者について、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を検出し同定することを含む。その結果、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型がA(アデニン)のホモ接合体(A/A型)である場合を、β遮断薬有効群として選別する。一方、上記1166位の遺伝子型がCのホモまたはヘテロ接合体(C/C型またはA/C若しくはC/A型)である場合は、β遮断薬非有効群として判定される。
当該本発明の方法は、具体的には、下記の工程(a)および(b)を行うことによって実施することができる:
(a)心筋梗塞患者の生体試料を対象として、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を検出する工程、
(b)AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型が、A(アデニン)のホモ接合体であるか否かを識別する工程。
当該方法は、上記工程(a)および(b)に加えて下記の工程(c)を含むことができ、これらの工程(a)〜(c)を行うことにより実施することができる:
(c)AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型が、Aのホモ接合体である場合に当該患者をβ遮断薬有効者として判定する工程。
(II)第二の態様において、本発明は心筋梗塞を発症した患者についてβ遮断薬有効者であるか否かを選別するための試薬または試薬キットに関する。当該試薬は、下記(1)に記載するプライマー、または下記(2)に記載するプローブのいずれかを含むものである。また試薬キットは、下記の(1)プライマーと(2)プローブとを別個に包装された形で含むものである:
(1) ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子を含む塩基配列において、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(2) ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子を含む塩基配列において、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその相補配列にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ。
(III)第三の態様において、本発明は心筋梗塞を発症した患者に対して、個別に治療方針を選択し決定して、心筋梗塞発症後の予後リスクを低減する方法に関する。当該方法は、具体的には、上記(1)に記載する方法(β遮断薬有効群の選別方法)により、心筋梗塞発症後の予後改善にβ遮断薬の投与が有効であると判定された心筋梗塞患者(β遮断薬有効者)に対して、予後改善のための治療指針としてβ遮断薬を選択することによって行われる。かかる本発明の方法で決定した治療方針(投与薬の選択)に従って、β遮断薬有効群にβ遮断薬が処方されることによって、心筋梗塞発症患者の心筋梗塞発症後の予後リスクを効率的かつ的確に低減することが可能となる。
本発明によれば、心筋梗塞を発症した患者について、β遮断薬感受性遺伝子であるAT1R遺伝子を対象として、そのコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置する遺伝子型を測定し、当該遺伝子型がAのホモ接合体であるか否かを判定することにより、当該患者の心筋梗塞発症後に投与されたβ遮断薬の有効性を判定することができる。具体的には、その有効性が高いと判断された患者(AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がAのホモ接合体である患者)に対しては、β遮断薬有効群であるとして、治療方針としてβ遮断薬を積極的に投与するという選択を行うことができる。
これは逆に、本発明を利用してAT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を測定し、Aのホモ接合体でないこと(すなわち、Cのホモまたはヘテロ接合体であること)、を指標とすることにより、β遮断薬の有効性が低い患者(β遮断薬非有効群)を選択することができる。当該患者は、心筋梗塞の予後改善にβ遮断薬の投与が有効ではないことから、β遮断薬を投与する治療を施さないか、β遮断薬投与以外の治療を施すという選択肢を与えることができる。このことは、不必要(無効)な治療を行うことによって生じる治療の費用(保健)の負担増を低減するとともに、β遮断薬の投与によって生じ得る副作用を低減するという両面において有効である。
被験者〔心筋梗塞既往者2487例(Aホモ接合体保持者(Cアレル非保持者)2103名、Cアレル型保持者384名)〕を対象として、β遮断薬を投与した場合(β遮断薬投与)と投与しない場合(β遮断薬非投与)とで、心筋梗塞発症後3000日生存率を比較し、心筋梗塞発症後の生命予後リスク改善効果を評価した結果を示す。縦軸は生存率を、横軸は心筋梗塞発症から数えた日数(発症後経過日数)を示す。
1.本発明で使用する用語の定義
本明細書における塩基配列(ヌクレオチド配列)や核酸またはアミノ酸などの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAc-IUB communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138; 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作製のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
本明細書中において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及び1本鎖DNA(センス鎖)、並びに当該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる、また、本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
なお、本明細書に記載するアンジオテンシンII1型受容体(Angiotensin II Type 1 Receptor:AT1R)やその遺伝子(AT1R遺伝子)の配列や位置情報は、いずれも米国のNCBI(the National Center for Biotechnology Information)のデータベースに基づくものである。
また、本明細書中において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
本明細書において「遺伝子多型」とは、2つ以上の遺伝的に決定された対立遺伝子がある場合にそれらの対立遺伝子を指す。具体的には、ヒトの集団において、ある一個体のゲノム配列を基準として、他の1または複数の個体ゲノム中の特定部位に、1又は複数のヌクレオチドの置換、欠失、挿入、転移、逆位などの変異が存在するとき、その変異が当該1または複数の個体に生じた突然変異でないことが統計学的に確実か、または当該個体内特異変異でなく、1%以上の頻度で集団内に存在することが家系的に証明される場合、その変異を「遺伝子多型」とする。本明細書で用いる「遺伝子多型」の意味には、単一のヌクレオチドの変化によって引き起こされる多型であるいわゆる1塩基多型〔Single Nucleotide Polymorphism:SNP(又はSNPs)〕が含まれる。「一塩基多型」とは、単一の核酸の変化によって引き起こされる多型である。多型は選択された集団の1%より大きな頻度、好ましくは10%以上の頻度で存在する。
本発明において「遺伝子型を検出する」または「遺伝子型を判定する」とは、解析対象の被験者のAT1R遺伝子が、そのコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(AT1R遺伝子の44331位)においてどのような遺伝子型を有するかを調べることを意味する。具体的には、被験者の生体試料から得られるAT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型が、A/A型(1166位の塩基が両アレルともにAであるホモ接合体)〔本発明において「Aのホモ接合体」という〕、C/AまたはA/C(1166位の塩基がCのアレルとAのアレルとのヘテロ接合体)、C/C(1166位の塩基が両アレルともにCのホモ接合体)〔本発明においてこれらの場合をまとめて「Cアレル型」という〕のいずれであるかを調べることを意味する。
本明細書において「β遮断薬感受性遺伝子」とは、心筋梗塞発症患者について、心筋梗塞の予後改善に対するβ遮断薬の有効性に関わる遺伝子のことをいう。
本発明において「心筋梗塞患者」または「心筋梗塞発症患者」とは、1)30分以上持続する胸痛、2)心電図におけるST部分の変化、3)心筋逸脱酵素の上昇のうち少なくとも2つを満たし、心筋梗塞と診断された患者を意味する(WHOの診断基準、1979年)。本発明において「予後リスク」とは、心筋梗塞を発症した患者が、生存退院した後、心筋梗塞を再発するか、または心筋梗塞に関連する疾患(例えば狭心症、鬱血性心不全、致死性不整脈などの心血管疾患、脳卒中などの脳血管疾患、その他の臓器不全など)を発症することに基づいて、死に至る確率を意味する。本発明において「予後が不良」または「予後リスクが高い」とは、心筋梗塞生存退院から1年以内に、上記原因によって死亡する確率が2%以上であることを意味し、逆に「予後が良好」または「予後リスクが低い」とは、心筋梗塞生存退院から1年以内に、上記原因によって死亡する確率が2%未満であることを意味する。
本発明において「予後改善」とは、心筋梗塞を発症した患者が、生存退院した後に、心筋梗塞を再発するか、または心筋梗塞に関連する疾患を発症する確率(危険度)が低減することを意味する。
2.β遮断薬感受性遺伝子
本発明者らは、アンジオテンシンII1型受容体(AT1R)遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がAのホモ接合体である患者は、降圧薬であるβ遮断薬による生命予後改善または心血管イベント抑制効果が大きく、心筋梗塞発症後、β遮断薬を投与することによって予後が良好に改善すること(予後リスクが低減すること)、それに対して、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がCのホモまたはヘテロ接合体の患者はβ遮断薬による生命予後改善または心血管イベント抑制効果が小さく、心筋梗塞発症後、β遮断薬を投与しても予後に影響しない(現状以上の改善効果が認められない)ことを確認し、上記AT1R遺伝子およびそのコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型がβ遮断薬投与の有効性と有意に関係していることを確信した。
このことから、本発明者らは、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を指標とすることによって、心筋梗塞を発症した患者の心筋梗塞発症後の予後改善(予後リスク低減)にβ遮断薬の投与が有効であるか否かを判断することができることを確信した。
斯くして得られた知見に基づいて、本発明はβ遮断薬の感受性遺伝子(β遮断薬感受性遺伝子)として、AT1R遺伝子(45133bp;GenBank ACCESSION No: NG_008468 REGION: 5001..50133,VERSION: NG_008468.1,GI:198041751) を提供する。なお、AT1R遺伝子(gene)の塩基配列を配列番号1に示す。当該AT1R遺伝子は、前述するようにヒト第3染色体上の3q21-q25遺伝子座に位置する(Chromosome 3, NC_000003.10 (149898348..149943480))。なお、当該AT1R遺伝子のコード領域は上記遺伝子45133bp 中43166bp〜44245bp位に位置する。
3.β遮断薬有効群選別マーカー
本発明は、心筋梗塞発症患者の中から、心筋梗塞発症後の予後改善にβ遮断薬の投与が有効な患者(β遮断薬有効群)を選別するためのマーカー(β遮断薬有効群選別マーカー)として、心筋梗塞発症患者の予後改善に対するβ遮断薬投与の有効性を決定する遺伝子(またはオリゴもしくはポリヌクレオチド)を提供する。
心筋梗塞発症患者を対象として、当該β遮断薬有効群選別マーカーを検出することにより、当該患者についてβ遮断薬投与による治療が心筋梗塞発症後の予後(再発や心筋梗塞に関連する疾患の発症によって死にいたる潜在的可能性)の改善に有効どうかを評価することができる。
かかるβ遮断薬有効群選別マーカーとして、具体的には、ヒト第3染色体上の3q21-q25遺伝子座(Chromosome 3, NC_000003.10 (149898348..149943480))に位置するAT1R遺伝子(GenBank ACCESSION No: NG_008468 REGION: 5001..50133)の塩基配列(配列番号1)において、ハプロタイプブロックに存在する遺伝子多型(AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位、以下、これを「SNP1166」ともいう)(塩基CまたはA)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、当該コード領域第1位の塩基から数えて第1166位は、AT1R遺伝子の全領域(45133bp)の44331位に相当する。これらのオリゴまたはポリヌクレオチドの長さ(塩基長)は、ヒトゲノム上で特異的に認識される長さであればよく、その限りにおいて特に制限されない。通常10塩基長以上、好ましくは20塩基長以上である。
具体的には、ヒト第3染色体(3q21-q25)の塩基配列において、AT1R遺伝子(全長45133bp)の遺伝子多型部位「SNP1166」(AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位)(β遮断薬感受性SNP)を中心として塩基長51〜601のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる〔例えば、51塩基(SNP1166 の5’側及び3’側に各25塩基を有する:配列番号2(ATIR遺伝子の44306-44356領域))、201塩基(SNP1166の5’側及び3’側に各100塩基を有する:配列番号3(ATIR遺伝子の44231-44431領域))、または601塩基(SNP1166の5’側及び3’側に各300塩基を有する:配列番号4(ATIR遺伝子の44031-44631領域))。
4.β遮断薬有効群の選別方法
本発明は、心筋梗塞を発症した患者に対して、β遮断薬の投与が、心筋梗塞の再発や関連疾患の発症によって死にいたる予後リスクの低減に対する有効性を判定し、β遮断薬有効群を選別する方法を提供する。
心筋梗塞を発症した患者のうち、先天的に(遺伝的に)AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて1166位がAのホモ接合体である患者は、前述するようにβ遮断薬に対する感受性が高く、β遮断薬の投与が、予後改善(予後リスクの低減)に有効に作用する。一方、心筋梗塞を発症した患者のうち、先天的に(遺伝的に)AT1R遺伝子の1166位がCのホモまたはヘテロ接合体である患者は、前述するようにβ遮断薬に対する感受性が低く、β遮断薬の投与が、現状以上の予後改善(予後リスクの現状以上の低減)にさほど有効に作用しない。
心筋梗塞患者が、β遮断薬有効者であるか(β遮断薬有効群に属するか)、それともβ遮断薬非有効者であるか(β遮断薬非有効群に属するか)を検出する方法としては、心筋梗塞患者の生体試料を対象として、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を検出する方法を挙げることができる。
当該検出方法は、具体的には、心筋梗塞患者のAT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(SNP1166)の遺伝子型がAのホモ接合体(A/A型)であるか、Cのホモ接合体(C/C型)またはヘテロ接合体(A/C若しくはC/A型)であるかを同定する方法である。
AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(SNP1166)の遺伝子型がAのホモ接合体である場合は、当該患者はβ遮断薬に対して感受性が高く、これら薬物の投与は心筋梗塞予後改善に有効である(β遮断薬有効者)と判定することができる。一方、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(SNP1166)の遺伝子型がCのホモまたはヘテロ接合体である場合は、当該患者はβ遮断薬に対して感受性が低く、これらの薬物の投与は心筋梗塞予後改善に有効でない(β遮断薬非有効者)と判定することができる。
かかる遺伝子型の検出は、具体的には、(1)被験者のゲノムDNAを対象として、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(SNP1166)を含む領域でPCRを行い、SSCP法で検出する方法、(2) 被験者のゲノムDNAを対象として、AT1R遺伝子のSNP1166を含む領域でPCRを行い、PCR産物に対する制限酵素の切断様式から検出する方法、(3)同PCR産物を直接シーケンシングして、配列を決定する方法、(4) 被験者のゲノムDNAを対象として、AT1R遺伝子のSNP1166を有する領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用し、個体のDNAとハイブリダイズさせるASO(allele specific oligonucleotide)法、(5) 被験者のゲノムDNAを対象として、AT1R遺伝子のSNP1166を有する領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用して、質量分析装置等で検出する方法など、公知の方法を用いることにより行うことができる。
より具体的な検出方法として、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(SNP1166)の遺伝子型(A/A、C/AまたはC/C)を識別する方法を例示することができる。当該検出方法は、以下の工程(a)及び(b)を行うことによって実施することができる:
(a)心筋梗塞患者の生体試料を対象として、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を検出する工程、
(b)上記AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型が、Aのホモ接合体であるか否かを識別する工程。
なお、(a)の工程は、具体的には心筋梗塞患者の生体試料から抽出したゲノムDNAを対象として行うことができる。ここでコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型の検出は、実際は抽出したゲノムDNA上においてAT1R遺伝子を特定して対象とする必要はなく、抽出したゲノムDNAそのものを対象として、その塩基配列に存在する、例えば配列番号5記載の塩基配列と配列番号6記載の塩基配列により挟まれた塩基を識別することによって行うことができる。
ここで、配列番号5で示される塩基配列は、ヒト第3染色体(3q21-q25)の塩基配列において、前述するβ遮断薬感受性遺伝子(AT1R遺伝子)のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の塩基(SNP1166)(GenBank ACCESSION No: NG_008468 REGION: 5001..50133, VERSION: NG_008468.1,GI:198041751(全長45133bp)に位置する44331番目の塩基)(β遮断薬感受性SNP)の5’側(上流側)に位置する300塩基長の塩基配列に該当し(ATIR遺伝子の44031-44330領域)、配列番号6で示される塩基配列は、ヒト第3染色体(3q21-q25)の塩基配列において、上記β遮断薬感受性遺伝子(AT1R遺伝子)の44331番目の塩基(SNP1166)の3’側(下流側)に位置する300塩基長の塩基配列に該当する(ATIR遺伝子の44332-44631領域)。ここで検出する対象の塩基は、配列番号5及び配列番号6で示される各塩基配列に挟まれた、β遮断薬SNPに相当するSNP1166(GenBank ACCESSION No: NG_008468 REGION: 5001..50133, VERSION: NG_008468.1,GI:198041751(全長45133bp)に位置する44331番目の塩基)である。
当該検出によって、SNP1166の塩基がA(アデニン)のホモ接合体(A/A)である場合、当該ゲノムDNA試料を提供した心筋梗塞患者は、心筋梗塞を発症して生存退院した後、β遮断薬に対する感受性が相対的に高く、これらの投薬が予後改善に有効である(β遮断薬有効者)と判断することができる。逆に、SNP1166の塩基がC(シトシン)とA(アデニン)のヘテロ接合体(C/A型またはA/C型)であるか、またはC(シトシン)のホモ接合体(C/C型)である場合(すなわち、Cアレル型である場合)、当該ゲノムDNA試料を提供した心筋梗塞患者は心筋梗塞を発症して生存退院した後、β遮断薬に対する感受性が相対的に低く、これらの投薬は予後改善にさほど有効ではない(β遮断薬非有効者)と判断することができる。
上記本発明の方法は、さらに下記の工程(c)を有することが好ましい:
(c)上記(b)の結果に基づいて、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型(すなわち、配列番号5記載の塩基配列と配列番号6記載の塩基配列により挟まれた塩基の遺伝子型)が、Aのホモ接合体(A/A型)である場合に、当該被験者をβ遮断薬有効者として判定する工程。
なお、上記工程(a)と工程(b)は、公知の方法〔例えば、Bruce, et al., Geneme Analysis/A laboratory Manual (vol.4), Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1999)〕を用いて行うことができる。
工程(a)で対象とする生体試料としては、前述するように具体的にはゲノムDNAを挙げることができる。かかるゲノムDNAは、心筋梗塞患者および臨床検体等から単離されたあらゆる細胞(培養細胞を含む。但し生殖細胞は除く)、組織(例えば、肝臓等。培養組織を含む)、または体液(例えば、血液、唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿等)などの生体試料を材料として調製することができる。該材料としては末梢血から分離した白血球または単核球が好ましく、特に白血球が最も好適である。これらの材料は、臨床検査において通常用いられる方法に従って単離することができる。
例えば白血球を材料とする場合、まず心筋梗塞患者より単離した末梢血から常法に従って白血球を分離する。次いで、得られた白血球にプロティナーゼKとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えてタンパク質を分解、変性させた後、フェノール/クロロホルム抽出を行うことによりゲノムDNA(RNAを含む)を得る。RNAは、必要に応じてRNaseにより除去することができる。なお、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook J. et. al., “Molecular Cloning: A Laboratry Manual (2nd Ed.)”Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のDNA抽出キット等を利用して行なうことができる。さらに必要に応じて、ヒト第3染色体上のAT1R遺伝子またはそのイントロン1を含むDNAを単離してもよい。当該DNAの単離は、AT1R遺伝子にハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
工程(b)において、上記のようにして得られたヒトゲノムDNAを含む抽出物から、β遮断薬SNP(SNP1166)、すなわちAT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するSNP1166の塩基を識別する。なお、当該塩基の識別は、ヒトゲノムDNAを含む試料からさらに単離したヒト第3染色体上のAT1R遺伝子、好ましくはその塩基配列を直接決定し、当該AT1R遺伝子(GenBank ACCESSION No: NG_008468 REGION: 5001..50133, VERSION: NG_008468.1,GI:198041751(全長45133bp)のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置する塩基の種類(CまたはA)を調べる方法によってもよい。
例えば目的の塩基を識別する方法としては、上記のように該当領域の遺伝子配列を直接決定する方法の他に、多型配列が制限酵素認識部位である場合は、制限酵素切断パターンの相違を利用して遺伝子型を決定する方法(以下、RFLPという)、多型特異的なプローブを用いハイブリダイゼーションを基本とする方法(TaqMan)(例えば、チップやガラススライド、ナイロン膜上に特定なプローブを張り付け、それらのプローブに対するハイブリダイゼーション強度の差を検出することによって、多型の種類を決定する、または、特異的なプローブのハイブリダイゼーションの効率を、鋳型2本鎖増幅時にポリメレースが分解するプローブの量を検出することにより遺伝子型を特定する方法、ある種の2本鎖特異的な蛍光色素が発する蛍光を、温度変化を追うことにより2本鎖融解の温度差を検出し、これにより多型を特定する方法、多型部位特異的なオリゴプローブの両端に相補的な配列を付け、温度によって該当プローブが自己分子内で2次構造をつくるか、ターゲット領域にハイブリダイズするかの差を利用して遺伝子型を特定する方法など)がある。また、さらに鋳型特異的なプライマーからポリメレースによって塩基伸長反応を行わせ、その際に多型部位に取り込まれる塩基を特定する方法(ダイデオキシヌクレオタイドを用い、それぞれを蛍光標識し、それぞれの蛍光を検出する方法、取り込まれたダイデオキシヌクレオタイドをマススペクトロメトリーにより検出する方法)、さらに鋳型特異的なプライマーに続いて変異部位に相補的な塩基対または非相補的な塩基対の有無を酵素によって認識させる方法などがある。
以下、従来公知の代表的な遺伝子多型の検出方法を列記するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(a)RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、(b)PCR−SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析)〔Biotechniques, 16, 296-297 (1994)、及びBiotechniques, 21, 510-514 (1996)〕、(c)ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕、(d)ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕、(e)ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991);Nuc. Acids. Res., 20, 4831-4837 (1992)〕、(f)変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE)法〔Biotechniques, 27, 1016-1018 (1999)〕、(g)RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕、(h)化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕、(i)DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕、(j)TaqMan−PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999);J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕、(k)インベーダー法〔Science, 5109, 778-783 (1993);J.Biol.Chem., 30,21387-21394 (1999);Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕、(l)MALDI−TOF/MS法(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997);Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem., 35, 545-548 (1997)〕、(m)TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕、(n)モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol., 1, p49-53 (1998);遺伝子医学、4, p46-48 (2000)〕、(o)ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele-Specific Hybridization;DASH)法〔Nat.Biotechnol.,1.p.87-88 (1999);遺伝子医学,4, 47-48 (2000)〕、(p)パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet.,3,p225-232 (1998) ;遺伝子医学,4, p50-51 (2000)〕、(q)UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームぺージ(1162201896890_0)参照〕、(r)DNAチップまたはDNAマイクロアレイ(「SNP遺伝子多型の戦略
」松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135)、(s)ECA法〔Anal. Chem., 72, 1334-1341, (2000)〕。
以上は代表的な遺伝子多型検出方法であるが、本発明のβ遮断薬有効群の選別には、これらに限定されず、他の公知または将来開発される遺伝子多型検出方法を広く用いることができる。また、本発明の遺伝子多型検出に際して、これらの遺伝子多型検出方法を単独で使用してもよいし、また2以上を組み合わせて使用することもできる。
一例として、PCR−RFLP法を用いる場合のsenseプライマー、antisenseプライマーおよび制限酵素の組み合わせの例示と、各ケースにおけるAT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の相違に基づく制限酵素切断パターン(切断片の長さまたは切断の有無)の違いを表1に示す。
Figure 2010178697
また他の例として、TaqManPCR法を用いる場合のsenseプライマー、antisenseプライマーおよびプローブの組み合わせの例示を表2に示す。
Figure 2010178697
本発明の方法により、β遮断薬有効群と判断された心筋梗塞発症患者に対しては、心筋梗塞発症後に早期からβ遮断薬を投与することによって、心筋梗塞の再発や関連疾患の発症による予後の悪化を改善し、生存率を高めることができる。
β遮断薬は、心臓のβ受容体をブロックして心臓の収縮力を弱める作用と脈拍をゆっくりさせる作用により心拍出量を減らすことにより心臓の酸素需要量を減らしたり、それに伴って末梢血管抵抗が低下して血圧を下げる作用を有する薬物である。β遮断薬の例として、制限されないが、具体的にはアテノロールやカルベジロール(いずれも成分名)などを例示することができる。
5.β遮断薬有効群を選別するための試薬、これを含むキット
(1)プローブ
目的とする遺伝子多型(β遮断薬SNP、SNP1166)並びに当該塩基を含むオリゴまたはポリヌクレオチドの検出には、ヒト第3染色体(3q21-q25)の塩基配列において、β遮断薬感受性遺伝子(AT1R遺伝子)のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するβ遮断薬SNP(SNP1166)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドまたはその相補配列に特異的にハイブリダイズし、当該SNP(SNP1166)を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドが用いられる。かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子を含む塩基配列において、上記SNP1166を含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、上記塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。
ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら、Molecular Cloning, Cold Spring Harbour Laboratory Press, New York, USA, 第2版、1989に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。好適には当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、上記検出するSNP(SNP1166)を含む遺伝子領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有することが望ましいが、かかる特異的なハイブリダイゼーションが可能であれば、完全に相補的である必要はない。
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとして、ヒト第3染色体(3q21-q25)のβ遮断薬感受性遺伝子(AT1R遺伝子)を含む塩基配列において、当該AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するβ遮断薬SNP(SNP1166)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該SNPを検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。具体的には、ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子を含む塩基配列において、当該AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、心筋梗塞を発症して生存退院した患者について、心筋梗塞の再発や関連疾患の発症によって死に至り得る潜在的危険性(予後リスク)を改善するためにβ遮断薬の投与が有効であるか否かを選別する(β遮断薬有効群の選別)ための「プローブ」として設計される。なお、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子を含む塩基配列に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作成することができる。
さらに好ましくは、当該プローブは、SNP1166を含むオリゴヌクレオチドが検出できるように、放射性物質、蛍光物質、化学発光物質、または酵素等で標識される(後述)。
上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)は任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明はまた、上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)を固定化プローブ(例えばプローブを固定化した遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等)として提供するものである。当該プローブは、好適にはβ遮断薬有効群選別用のDNAチップとして利用することができる。
固定化に使用される固相は、オリゴまたはポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相へのオリゴまたはポリヌクレオチドの固定は、予め合成したオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上に載せる方法であっても、また目的とするオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
例えば、ASO法の一例であるTaqMan PCR法〔Livak KJ. Gene Anal 14, 143 (1999), Morris T et al., J Clin Microbiol 34, 2933 (1996)〕の場合、β遮断薬SNP(SNP1166)を含む領域に相補的な20塩基長程度のオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。当該プローブは、5’末端を蛍光色素、3’末端を消光物質により標識され、検体DNAと特異的にハイブリダイズするが、そのままでは発光せず、別に加えられたPCRプライマーの上流からの伸長反応により5’側の蛍光色素結合が切断され、遊離した蛍光色素により検出される。
ASO法の別の1例であるInvade法〔Lyamichev V. et al., Nat Biotechnol 17, 292 (1999)〕では、多型部位に隣接する配列(3’側と5’側の2種)に相補的なオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。検出は、これら2種のプローブと検体とは無関係な第3のプローブによって達成される。
(2)プライマー
本発明は、またヒト第3染色体(3q21-q25)にあるβ遮断薬感受性遺伝子(AT1R遺伝子)を含む塩基配列において、当該AT1R遺伝子のβ遮断薬SNP(AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するSNP1166)を含む配列領域を特異的に増幅するためのプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドを提供する。このようなプライマー(オリゴヌクレオチド)は、β遮断薬遺伝子において、β遮断薬SNP(SNP1166)部位のヌクレオチドを含む連続したオリゴまたはポリヌクレオチドの1部に特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。増幅するオリゴまたはポリヌクレオチドの長さは、用いられる検出方法に応じて適宜設定されるが、一般的には15〜1000塩基長、好ましくは20〜500塩基長、より好ましくは20〜200塩基長である。
かかるプライマーとして、ヒト第3染色体(3q21-q25)のβ遮断薬感受性遺伝子(AT1R遺伝子)を含む塩基配列において、当該AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(SNP1166)のヌクレオチドを含む連続したオリゴまたはポリヌクレオチドの1部に特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドを例示することができる。具体的には、ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子を含む塩基配列において、当該AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドを例示することができる。
なお、これらのオリゴヌクレオチドは、ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子を含む塩基配列に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作成することができる。
Mass Array法にMALDI-TOF/MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization Time-Of-Flight Mass Spectrometry)を応用した方法〔Haff LA et al. Genome Res 7, 378 (1997), Little DP et al., Nature Medicine vol.3, No.12, 1413-1416, (1997)〕を例にとって、プライマーの具体的な利用方法を説明する。この場合、シリコンチップ上に固定した検体DNAに前記プライマーをハイブリダイズさせ、ddNTPを添加して一塩基だけを伸長させる。次いで、一塩基伸長産物を分離し、質量分析法により多型を検出する。この方法では、プライマーは通常15塩基長以上で可能な限り短く設計することが望ましい。
(3)標識物
上記本発明のプローブまたはプライマーには、遺伝子多型(SNP1166)検出のための適当な標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものが含まれる。
なお、本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6−FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’−オリゴラベリングシステム等)。
また、本発明のプライマーには、その末端に多型検出のためのリンカー配列が付加されたものも含まれる。このようなリンカー配列としては、例えば、前述したインベーダー法で用いられるオリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
本発明の1つの実施形態である、遺伝子多型検出法としてTaqMan−PCR法を用いる場合、ヒト第3染色体(3q21-q25)のAT1R遺伝子上の、β遮断薬SNP(SNP1166)を含む塩基配列を検出するためのフォワードプライマー(順方向のプライマー)としては、好適には配列番号7に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの他、配列番号4に示す塩基配列において1〜300番の領域に位置する塩基配列にハイブリダイズする15塩基長以上(好ましくは15〜35塩基長)の連続した塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを例示することができる。また、リバースプライマー(逆方向のプライマー)としては、好適には配列番号8に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの他、配列番号4に示す塩基配列において302〜601番の領域に位置する塩基配列にハイブリダイズする15塩基長以上(好ましくは15〜35塩基長)の連続した塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを例示することができる。
以上の、プローブ(標識されていてもよい)またはプライマー(標識されていてもよい)は、心筋梗塞を発症した患者を対象として、予後の改善または生存率のアップ(予後リスクの低減)にβ遮断薬が有効であるか否かを判定するための試薬、言い換えると、心筋梗塞患者をβ遮断薬投与の有効群と非有効群とに選別するための試薬として利用することができる。すなわち、上記のプローブ(標識されていてもよい)またはプライマー(標識されていてもよい)は、別の角度から、心筋梗塞患者について、β遮断薬有効者であるか、または非有効者であるかを選別するための試薬として規定することができる。
(4)β遮断薬有効群選別用の試薬キット
本発明はまた、上記のβ遮断薬有効群を選別するための試薬を、キットとして提供するものである。当該キットは、上記プローブまたはプライマーとして用いられるオリゴまたはポリヌクレオチド(なお、これらは標識されていても、また固相に固定化されていてもよい)を少なくとも1つ含むものである。本発明のキットは上記プローブまたはプライマーの他、必要に応じてハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液など、本発明の方法の実施に必要な他の試薬、器具などを適宜含んでいてもよい。さらに本発明の試薬キットには、プライマーやプローブなどの試薬の使用方法や、それを用いたβ遮断薬有効群の選別方法(判定基準)を説明する書面が含まれていても良い。
6.心筋梗塞発症患者について予後リスクを低減する方法
上記に説明するように、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型(Aのホモ接合体か、Cのホモまたはヘテロ接合体か)が、β遮断薬による治療の有効性に深く関わっており、当該遺伝子型(SNP1166)がAのホモ接合体である患者は、β遮断薬に感受性であり、β遮断薬による治療が有効に作用し、一方、当該遺伝子型(SNP1166)がCのホモまたはヘテロ接合体(Cアレル型)である患者は、β遮断薬に非感受性(抵抗性)でありβ遮断薬による治療の有効性が認められない(現状以上に改善しない)ことが判明した。
このことから、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型(SNP1166)がAのホモ接合体であると判定された患者に対しては、治療指針として早期からβ遮断薬の投薬を選択することによって、心筋梗塞の再発や関連疾患の発症を抑制し、これらの疾患発症によって死に至る危険度(予後リスク)を低減することができる。
こうした考えのもとで、本発明は心筋梗塞を発症した患者のうち、上記の遺伝的素因を有すると判定された患者に対して心筋梗塞発症後の予後リスクを低減する方法、並びに当該心筋梗塞発症後の予後リスクの低減に有効な材料を提供するものでもある。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1 心筋梗塞発症患者に対するβ遮断薬投与による生命予後リスク改善効果
(1)被験者
急性心筋梗塞を発症し、大阪地区の心臓救急病院25施設に入院し、遺伝子を含む調査研究に対する同意および予後に関する情報が得られた生存退院2487例を対象とした。平均年齢は64±11歳、男性77.6%、糖尿病33.6%、高血圧53.0%、高脂血症47.1%、喫煙歴65.9%、心筋梗塞の既往は11.7%であった。また、梗塞重症度の指標であるKillip分類でII型以上に分類される中等度以上の重症度は12.7%であり、前壁梗塞の割合は48.4%であった。さらに、24時間以内に再灌流治療を施行された割合は88.5%であった。
(2)被験試料およびDNAの調整
被験者の末梢静脈より凝固剤(EDTA50nmol/L)入りの採血管に採血し、市販のDNA精製キットを用いて、定法に従ってゲノムDNAを調整した。調整したゲノムDNAを鋳型としてIFP(Intercalater mediated FRET Probe)法を用いて、アンジオテンシンII1型受容体(Angiotensin II Type 1 Receptor:以下「AT1R」ともいう)の遺伝子(AT1R遺伝子)のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位(SNP1166)の塩基を同定した。
具体的には、まずDNA (20ng)、各プライマー(5pmol)、XTP(0.2nmol/L)、塩化マグネシウム(1-4mmol/L)、DNAポリメラーゼ(1U)を含む反応液25μlを調整し、PCR法(annealing temperature 55℃、denaturation temperature 95℃)を用いて遺伝子を増幅した。順方向プライマーおよび逆方向プライマーとして以下の塩基配列を用いた:
順方向プライマー:5’-GGAGCAAGAGAACATTCCTCTG-3’(配列番号7) 、
逆方向プライマー:5’-TCGGTTCAGTCCACATAATGC-3’(配列番号8)。
次いで、下記のプローブを用いて、IFP(Intercalater mediated FRET Probe)法により増幅された遺伝子の遺伝子型を同定した:
プローブ:5’-ACTACCAAATGAGCCTTAGCT-3’(配列番号9)。
具体的には、一方のSNPタイプに完全にマッチし、他方のSNPタイプとは1箇所のミスマッチを生じるように蛍光標識されたプローブを用い、温度を上昇させ二本鎖DNAを一本鎖DNAに融解する課程で、SNPによって当該プローブと鋳型の解離温度に差が生じることを利用して多型を検出した。
(3)統計学的解析
各遺伝子群の累積生存曲線をKapran-Meier法により作成し、その差異をLog-rank testにより検討した。各群間の背景因子(年齢, 性別 , Body Mass Index, 糖尿病, 高血圧, 高脂血症, 喫煙, 心筋梗塞の既往, 前壁梗塞, Killip II型以上, 再潅流治療)の差異を補正するため、Cox比例ハザードモデルを用いてCアレル保持者のA/Aゲノタイプに対するハザード比および95%信頼区間を算出した。
被験者(全2487例)について調べたAT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を表3に示す。
Figure 2010178697
(4)上記で遺伝子型を判定した被験者〔心筋梗塞既往者2487例(Aホモ接合体保持者(以下、「Cアレル非保持者」ともいう)2103名、Cアレル型(A/C、C/C)保持者384名)を対象として、心筋梗塞慢性期のβ遮断薬投与による心筋梗塞発症後の生命予後リスク改善効果を調べた。
具体的にはCアレル非保持者(2103名)とCアレル型保持者(384名)を、それぞれβ遮断薬投与群(+)とβ遮断薬非投与群(−)の2群に分け、累積生存曲線をKapran-Meier法により作成し、その差異をLog-rank testにより検討して、1166位遺伝子多型の違いによる予後リスクに対するβ遮断薬の投与の影響について検討した。
β遮断薬投与群(+)のCアレル非保持者とCアレル型保持者について、心筋梗塞発症後1800日間の累積生存率を経時的に評価した結果を図1に示す。AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がAのホモ接合体である群(Cアレル非保持者)は、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がCのホモまたはヘテロ接合体である群(Cアレル型保持者)に比して、β遮断薬を投与することにより生命予後が良好に改善されることが判明した(図1)。これに対して、β遮断薬非投与群(−)では、生命予後に関して、Cアレル非保持者とCアレル型保持者との間に有意な差異は認められなかった(結果省略)。
この結果は、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がAのホモ接合体である心筋梗塞発症患者(Cアレル非保持者)に対してβ遮断薬の投与が有効であり、β遮断薬投与により予後を改善することができることを示している。一方、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位がCのホモまたはヘテロ接合体である群(Cアレル型保有者)は、β遮断薬の投与を行っても有意な改善(生存率の増加)が認められないことが示された。
配列番号2は、AT1R遺伝子の44306-44356領域に相当する塩基配列、配列番号3はAT1R遺伝子の44231-44431領域に相当する塩基配列、配列番号4はAT1R遺伝子の44031-44631領域に相当する塩基配列、配列番号5は、AT1R遺伝子の44031-44330領域に相当する塩基配列、配列番号6はAT1R遺伝子の44332-44631領域に相当する塩基配列をそれぞれ示す。
配列番号7はβ遮断薬SNP(SNP1166)を含む塩基配列を検出するためのフォワードプライマー(順方向のプライマー)を、配列番号8はリバースプライマー(逆方向のプライマー)を意味する。配列番号9はプローブを意味する。配列番号10および11は表1に記載するそれぞれsenseプライマーおよびanti senseプライマーの塩基配列を意味する。配列番号12,13,14および15は、表2の「組み合わせ1」の欄に記載するsenseプライマー、anti senseプライマー、1166Aアレルに対するプローブ、および1166Cアレルに対するプローブの塩基配列;配列番号16、17、18および19は表2の「組み合わせ2」の欄に記載するそれぞれsenseプライマー、anti senseプライマーおよび1166Aアレルに対するプローブ、および1166Cアレルに対するプローブの塩基配列をそれぞれ意味する。

Claims (4)

  1. 下記の工程を有する、β遮断薬有効群の選別方法:
    (a)心筋梗塞患者の生体試料を対象として、アンジオテンシンII 1型受容体(AT1R)遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型を検出する工程、
    (b)上記AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型が、シトシン(C)のホモまたはヘテロ接合体(Cアレル型)であるか、またはアデニン(A)のホモ接合体(非Cアレル型)であるか、を識別する工程。
  2. さらに下記の工程(c)を有する、請求項1に記載するβ遮断薬有効群の選別方法:
    (c)AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位の遺伝子型が、非Cアレル型である場合に当該患者をβ遮断薬有効者として判定する工程。
  3. 下記(1)に記載するプライマーまたは(2)に記載するプローブのいずれかを含む、心筋梗塞患者についてβ遮断薬有効者を選別するための試薬:
    (1) ヒト第3染色体(3q21-q25)のアンジオテンシンII 1型受容体(AT1R)遺伝子を含む塩基配列において、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
    (2) ヒト第3染色体(3q21-q25)のアンジオテンシンII 1型受容体(AT1R)遺伝子を含む塩基配列において、AT1R遺伝子のコード領域第1位の塩基から数えて第1166位に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその相補配列にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはボリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ。
  4. 少なくとも請求項5に記載する(1)プライマーと(2)プローブとを、別個の包装形態で含む、心筋梗塞患者についてβ遮断薬有効者または非有効者を選別するための試薬キット。
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