従来、LTCC (Low Temperature Co-fired Ceramic:低温焼成セラミックス)基板を用いた高周波モジュールはフィルタ等の誘電体受動回路をLTCC基板内のみに形成することが一般的であった。例えば、図7に示した等価回路により形成される帯域通過型フィルタをLTCC基板内に形成した場合の高周波モジュールの構成例は図8に示すようになる。
図7に示す等価回路は帯域通過型フィルタであり、入力端子P1と出力端子P2との間に2つのLC共振回路が結合コンデンサC1〜C3によって接続されている。一方のLC共振回路はインダクタRL1とコンデンサRC1を直列接続させて形成され、インダクタRL1の一端が結合コンデンサC1,C2に接続され、コンデンサRC1の他端は接地されている。他方のLC共振回路はインダクタRL2とコンデンサRC2を直列接続させて形成され、インダクタRL2の一端が結合コンデンサC2,C3に接続され、コンデンサRC2の他端は接地されている。
また、図8に示す高周波モジュール30は、電子部品31,32が搭載されたLTCC基板33からなり、LTCC基板33の内部に帯域通過型フィルタ回路34が形成されている。
さらに、他の配線との干渉を防ぐ必要がある場合には、図9に示す高周波モジュール30Aのように、LTCC基板33の内部にGND(接地)電極44を形成し、このGND電極44によって内層に形成した受動回路を基板33に実装した電子部品31,32や電源ライン(図示せず)などに対して遮蔽して形成する場合もある。
図9においては、電極41によって入力端子P1が形成され、電極42によって出力端子P2が形成される。また、コンデンサ電極51に対して一端部が面対向して配置されたインダクタ電極52によってコンデンサC1が形成され、インダクタ電極52によってインダクタRL1が形成され、インダクタ電極52の他端部に対向して配置され且つビア導体43によりGND電極44に接続されたコンデンサ電極53によってコンデンサRC1が形成される。
また、インダクタ電極52の一端部に面対向して配置されたコンデンサ電極54によってコンデンサC2の一部が形成され、インダクタ電極56の一端部に面対向して配置され且つコンデンサ電極54にビア導体43で接続されたコンデンサ電極55によってコンデンサC2の一部が形成されている。さらに、インダクタ電極56によってインダクタRL2が形成され、インダクタ電極56の他端部に対向して配置され且つビア導体43によりGND電極44に接続されたコンデンサ電極57によってコンデンサRC2が形成される。また、インダクタ電極56の一端部に面対向して配置され且つビア導体43で電極42に接続されたコンデンサ電極58によってコンデンサC3が形成されている。
一方、上記のようなフィルタ等の受動回路をLTCC基板の内層に形成しない場合には、図10に示すように、フィルタ等の受動回路自体を単体の電子部品61として構成し、この電子部品61を他の電子部品62と共にLTCC基板63上に実装することでフィルタ等の受動回路機能を実現していた。
上記のような高周波モジュールとしては、例えば、特開2005−243785号公報(特許文献1)、特開2005−243787号公報(特許文献2)、特開2005−244814号公報(特許文献3)等に開示されている高周波モジュールが知られている。
特開2005−243785号公報
特開2005−243787号公報
特開2005−244814号公報
しかしながら、高周波モジュールに対しては、モジュールの小型化、特に薄型化に対する市場要求が強まってきており、従来のLTCC基板等の誘電体基板を用いた高周波モジュールはその構造上、基板上に実装部品を実装する構造であり、基板の厚みと実装部品の厚みのトータルが高周波モジュールの高さを決定している。
従って、高周波モジュールへの低背化要求に対応するため、LTCC基板等の誘電体基板及び、実装部品の双方を薄型化する必要があるが、その特性が誘電体厚みに依存するフィルタやバランスフィルタなどの誘電体受動回路デバイスでは、それに伴う特性確保が課題となっている。また、半導体のFC(Flip Chip:フリップチップ)実装の普及や実装用チップ部品の小型化により、実装部品も低背化が進み、基板上に実装するタイプの誘電体受動回路デバイスの特性確保も困難となってきている。
即ち、前述したように、フィルタ等の誘電体受動回路デバイスをモジュール基板のみ、もしくは実装部品のみで構成しているため、低背化及び小型化の両立が必要となる高周波モジュールにおいては、他の線路との干渉を抑制するための遮蔽シールドとのストレイ影響が生じると共に、誘電体の厚みが特性に影響する分布定数型の回路等では良好な特性を得るための誘電体厚みの確保が困難になるなどの問題を生じていた。
例えば図9に示したような従来構造では、LTCC基板等の誘電体モジュール基板内のみでフィルタ等の受動回路を形成しているが、高周波モジュールを低背化する場合には実装部品及び基板の厚みを極力薄型化する必要があり、それに伴う電源配線やバス配線等との干渉を遮蔽するためのGNDシールドとの間隔が近接することにより内層インダクタで生じる磁束の阻害やストレイキャパシタンスの増大が生じる。
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インダクタで生じる磁束の阻害やストレイキャパシタンスの増大を低減すると共に、低背化及び小型化の両立が可能な高周波モジュールを提供することにある。
本発明は前記目的を達成するために、インダクタ及びコンデンサ有する受動回路を備え、基板上に電子部品を搭載してなる高周波モジュールにおいて、前記受動回路の一部の構成部分が電子部品として前記基板上に搭載され、前記受動回路の前記一部の構成部分を除く他の構成部分が前記基板内部に形成されていると共に、前記受動回路の前記一部の構成部分である電子部品と前記他の構成部分との間に接地電極が設けられている高周波モジュールを提案する。
本発明の高周波モジュールによれば、従来の基板の内層のみまたは基板への実装電子部品のみに形成されていた受動回路が、基板内層の受動回路と実装電子部品の受動回路とに分割して形成される。
本発明の高周波モジュールによれば、受動回路を基板の内部と外部に分割して形成することによりモジュールの厚み全体を活用して受動回路を形成でき、基板内層のみ、もしくは基板への実装電子部品のみで受動回路を形成する従来手法に比べて、ストリップライン共振器などの特に厚みへの依存性が高い回路構成素子に対してモジュール全体の厚みを活用することによる特性改善の効果を得られる。
また、受動回路を構成する部品の特性上、ストリップライン共振器などのインダクタを実装電子部品として構成することでストレイキャパシタンス等の構造影響を低減することができると共に、その回路デバイスの回路構成により内層形成と基板外部への実装を自由に設定でき、設計の自由度を高めることができる。
さらに、インダクタ部分を電子部品として基板上に実装することにより、インダクタで生じる磁界が阻害されることはない。また、シールドケース等で封止する場合にも、インダクタを基板に内層形成する場合に比べてシールド部分とのクリアランスが確保されやすく、磁界への干渉が大幅に軽減される。
さらにまた、受動回路を基板内部及び外部実装電子部品に分割して形成することにより、回路デバイスの体積を高さ方向に展開することとなり、回路形成面積を低減することができ、LTCC等の誘電体モジュール基板の集合形成における取り数増加によるコスト低減を図ることができる。
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
本発明は、従来手法においては基板の内層のみに形成されていたフィルタ等の誘電体受動回路または基板上に搭載される実装電子部品のみで形成されていた誘電体内層回路を、図1に示すように、基板13の内層に形成された受動回路12と基板13上に搭載した実装電子部品11で形成された受動回路とに分割し、これらをランド13aやビア導体13bによって接続すると共に、これらの間に遮蔽用のGND(接地)電極14を形成して、高周波モジュール10を構成することにより、インダクタで生じる磁束の阻害やストレイキャパシタンスの増大を低減すると共に、低背化及び小型化の両立が可能な高周波モジュールを構成している。
また、本発明では、インダクタ部分を実装電子部品11として基板13上に実装することにより、インダクタで生じる磁界が阻害されないようにした。これにより、シールドケース等で封止する場合にも、基板13に内層形成する場合に比べてシールド部分とのクリアランスが確保されやすく、磁界への干渉が大幅に軽減されるようにした。
以下に、本発明の一具体例として第1実施形態を説明する。
図2乃至図4は本発明の第1実施形態を示すもので、図2は第1実施形態における高周波モジュールの要部概略側面図、図3は第1実施形態における高周波モジュールの受動回路部分を示す要部概略正面図、図4は第1実施形態における高周波モジュールの受動回路部分の等価回路図である。
本実施形態では、受動回路として図4に示す帯域通過型フィルタ回路(以下、単にフィルタ回路と称する)を備えた高周波モジュール100を構成した。さらに、第1実施形態の高周波モジュールにおいては、図2及び図3に示すように、図4で示した結合コンデンサC1,C2,C3、共振用コンデンサRC1,RC2をLTCC等の誘電体モジュール基板(以下、単に基板と称する)120の内部に内層形成すると共に、共振用インダクタRL1,RL2を実装電子部品110として構成し、内層形成したコンデンサC1,C2,C3,RC1,RC2と半田付け接続し、実装電子部品110と基板120の内部に形成したコンデンサC1,C2,C3,RC1,RC2との間を遮蔽するGND(接地)電極124を基板120の内部に形成した。
即ち、実装電子部品110は誘電体セラミックスからなる素子本体111の内部に共振用インダクタRL1を形成するストリップライン電極112と、共振用インダクタRL2を形成するストリップライン電極115を有し、これらのストリップライン電極112,115のそれぞれの両端がビア導体113を介して素子本体110の外表面に形成された外部端子電極114に接続されている。
また、誘電体モジュール基板120の内部には、結合コンデンサC1,C2,C3及び共振用コンデンサRC1,RC2を形成するコンデンサ電極131〜137及びGND(接地)電極124が形成され、必要に応じて誘電体モジュール基板120の表面に形成されているランド電極121〜123,126,127にビア導体125を介して接続されている。また、GND(接地)電極124はコンデンサ電極131〜137を挟むようにして形成され、図において上層側のGND(接地)電極124によって実装電子部品110とコンデンサ電極131〜137との間が遮蔽されている。
上記構成では、コンデンサ電極131,132によって結合コンデンサC1が形成され、コンデンサ電極132,135によって結合コンデンサC2の一部が形成され、コンデンサ電極135,137によって結合コンデンサC2の一部が形成され、コンデンサ電極137,136によって結合コンデンサC3が形成されている。また、コンデンサ電極133,134によって共振用コンデンサRC1が形成され、これと同様に図示せぬコンデンサ電極によって共振用コンデンサRC2が形成されている。
上記構成からなる本実施形態の高周波モジュールは、受動回路としてのフィルタ回路を基板120の内部と基板120に搭載した実装電子部品110に分割して形成しているので、モジュールの厚み全体を活用した受動回路を形成でき、基板内層のみ、もしくは実装電子部品のみで受動回路を形成する従来手法に比べて、ストリップライン共振器など、特に誘電体厚みへの依存性が高い回路構成部分に対してモジュール全体の厚みを活用することによる特性改善効果がある。
また、本実施形態で示したように受動回路としてのフィルタ回路を構成する部品の特性上、共振用インダクタRL1,RL2を実装電子部品110として構成したので、ストレイキャパシタンス等の構造影響を低減することができる。
尚、本考案によれば、図4の回路構成を実現する構成素子は、モジュール基板内部と実装電子部品のいずれかで自由に配置することができるため、設計の自由度を高めることができる。
尚、上記第1実施形態では受動回路としてフィルタ回路を基板120の内部と実装電子部品110に分割して形成したが、これに限定されることはなくフィルタ回路以外の受動回路の場合も同様の効果を得ることができることは言うまでもない。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
従来、例えば無線機器に用いられ、部品点数削減のために複合化されているチップタイプのバランスフィルタなどは、コンデンサ、水晶振動子、半導体等、他の実装電子部品と同等の高さを要求されてきており、バラン部及びフィルタ部を複合形成する構造上、薄型化による特性確保が困難となってきている。特性確保のために平面に展開した場合には回路面積が増大するので、コスト高を招くと共に無線機器の面積増加を招くこととなる。
第2実施形態では、従来、図5に示すようにフィルタ部310とバラン部320とを有するチップ型の実装電子部品300として形成されていたバランスフィルタ300を、図6に示すようにバラン部410とフィルタ部420に分割し、フィルタ部420を実装電子部品421として構成し、バラン部410を誘電体モジュール基板(以下、単に基板と称する)411の内部に形成した高周波モジュール400を構成した。
図5に示す従来例のバランスフィルタ素子300は、セラミックス素体301の外表面に外部端子電極302〜304が形成され、素体内部にはフィルタ部310とバラン部320とを有している。フィルタ部310は複数の電極311,313〜317及びビア導体312からなり、バラン部320は複数の電極331〜333からなりフィルタ部310の電極317とバラン部320の電極331がビア導体318によって接続されている。また、フィルタ部310とバラン部320との間にはGND(接地)電極321,322が配置されて、これによりフィルタ部310とバラン部320との間が遮蔽されている。
図6に示す高周波モジュール400においては、実装電子部品421はセラミックス素体からなり、素体内部にはフィルタを形成する複数の電極423〜427とビア導体432が設けられており、素体表面には外部端子電極441,442が形成されている。さらに、外部端子電極441はビア導体432によって電極423に接続され、電極427はビア導体432によって外部端子電極442に接続されている。
また、基板411の表面には外部端子電極452とランド電極416,416が形成され、基板411の内部には、バラン部410を構成する複数の電極412〜414及びこれらの電極を挟むように上層部と下層部の双方に配置されたGND(接地)電極431が設けられている。さらに、外部端子電極452はビア導体415によってランド電極416に接続され、電極414はビア導体418によってランド電極416に接続されている。
実装電子部品421の2つの外部端子電極441,442のそれぞれは基板411の表面に設けられたランド電極416,416に接続されている。
上記のように、モジュール基板411の内部と実装電子部品421に分散させてバランスフィルタを構成することにより、基板411の内層のみもしくは実装電子部品のみで受動回路としてのバランスフィルタを形成する従来手法に比べ、回路デバイスの厚みを増やすことができ、インピーダンスマッチング等を考慮して設計することができると共に、部品点数を削減する複合型のバランスフィルタの利点を損なうこともない。
尚、上記実施形態では受動回路としてLC共振回路、バランスフィルタ回路を示したが、本発明はこれに限定するものではなく、LC共振回路の変わりにLCR複合共振回路としてもよい。
10…高周波モジュール、11…実装電子部品、12…受動回路,13a…ランド、13b…ビア導体、14…GND(接地)電極、100…高周波モジュール、110…実装電子部品、111…素子本体、112,115…ストリップライン電極、113…ビア導体、114…外部端子電極、120…誘電体モジュール基板、121〜123,126,127…ランド電極、124…GND(接地)電極、125…ビア導体、131〜137…コンデンサ電極、C1,C2,C3…結合コンデンサ、RL1,RL2…共振用インダクタ、RC1,RC2…共振用コンデンサ、400…高周波モジュール、410…バラン部、 411…誘電体モジュール基板、452…外部端子電極、412〜414…電極、431…GND(接地)電極、415,418…ビア導体、416,416…ランド電極、420…フィルタ部、421…実装電子部品、423〜427…電極、432…ビア導体、441,442…外部端子電極、447…シールド電極。