JP2007119303A - 低放射率積層体 - Google Patents

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保則 谷中
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Abstract

【目的】 汎用の直流電源を備えたスパッタ装置による一貫した成膜積層が可能で、かつ、優れた耐擦傷性を有する低放射率積層体を提供する。
【解決手段】 低放射率積層体として、透明基板上に、基板側から順に第1の透明誘電体層、Ag層、保護金属層および第2の透明誘電体層を形成し、この上に、さらに酸窒化チタン膜を形成する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、耐擦傷性に優れた低放射率(Low Emission)積層体に関する。
近年、日射遮蔽性、高断熱性の機能を有する低放射率積層体を用いた複層ガラスが住宅やビル等の建築に使用されるようになってきている。低放射率積層体とは、可視光線は透過するが赤外線は反射するよう可視光透過性の金属薄膜をガラス等の透明基材上に形成したものである。
低放射率積層体は、耐擦傷性、耐湿性などの耐久性を確保するため、最上層に保護膜を設ける場合が多い。耐擦傷性については、特に、低放射率積層体の製造工程におけるハンドリングを容易にし、生産歩留まりを向上させるために必要な性能である。
例えば特許文献1では窒化ケイ素の保護膜を形成することで耐久性を向上させている。
特開平07−16978号公報
特許文献1に開示される方法にあっては、窒化ケイ素保護膜は製造方法が難しい。すなわち、汎用の直流スパッタ法によって成膜しようとすると、電気抵抗率が高いため異常放電(アーキング)を起こす問題があり長時間安定した成膜操作を行うことができない。また、上記アーキングの発生により、成膜速度が不安定になったり膜質が均一でなくなったりするという問題もある。したがって、これらの問題を回避するため、直流電流に代えて高周波電源を使用するか、または、シリンドリカルマグネトロン等特殊なカソードを使用しなければならないという難しさがある。
上記課題を解決するため請求項1に係る低放射率積層体は、透明基板上に、基板側から順に第1の透明誘電体層、Ag層、保護金属層および第2の透明誘電体層が形成されてなる低放射率積層体において、第2の透明誘電体層の上に、さらに酸窒化チタン膜が形成された構成とした。
また請求項2に係る低放射率積層体は、透明基板上に、基板側から順に第1の透明誘電体層、第1のAg層、第1の保護金属層、第2の透明誘電体層、第2のAg層、第2の保護金属層および第3の透明誘電体層が形成されてなる低放射率積層体において、第3の誘電体層の上に、さらに酸窒化チタン膜が形成された構成とした。
前記酸窒化チタン膜の組成をTiNxOyと表記したとき、原子比x/(x+y)が0.1以上0.9以下とすることが好ましい。また、前記酸窒化チタン膜の膜厚については3nm以上50nm以下が好ましい。更に、前記酸窒化チタン膜の波長550nmにおける光エネルギー吸収係数は0.1以下が好ましい。
前記Ag層については、AgにPd、Au、In、Zn、Sn、Al、Cuからなる群より選ばれる1種類以上の金属をドープしたものとしてもよい。また、前記透明誘電体層は、例えばZn、Sn、Ti、In、Bi、Ta、Al、Zrからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物とする。また透明誘電体層は単層に限らず複数の異なる酸化物層を積層した多層であってもよい。
本発明の酸窒化チタン膜を保護層として用いた低放射率積層体は、汎用の直流電源を備えたスパッタ装置を使用して全ての層の成膜を行うことができ、また、従来の保護膜よりも優れた耐擦傷性を示す。
以下に本発明についてさらに詳細に説明する。図1は、本発明の低放射率積層体の一例を示す断面図、図2は、本発明の低放射率積層体の他の例を示す断面図である。
図1において、低放射率積層体1は、透明基板2上に第1の透明誘電体層3、Ag層4、保護金属層5、第2の透明誘電体層6をこの順に形成している。そして、第2の透明誘電体層6の上に、さらに酸窒化チタン膜7を形成している。
また、図2において、低放射率積層体10は、透明基板11上に第1の透明誘電体層12、第1のAg層13、第1の保護金属層14、第2の透明誘電体層15、第2のAg層16、第2の保護金属層17、第3の透明誘電体層18を形成し、第3の誘電体層18の上にさらに酸窒化チタン膜19を形成している。
低放射率積層体1、10の耐擦傷性を向上するには、表面に形成する膜の応力が小さく、かつ、その面が平滑である必要がある。このような保護膜として酸窒化チタンが適している。また、酸窒化チタンは汎用の直流スパッタで安定して成膜することができるという利点もある。さらに、酸窒化チタン膜7、19を直流スパッタで成膜することができれば、他の膜である透明誘電体層3、6、12、15、18、Ag層4、13、16、保護金属層5、14、17も、同様に直流スパッタで成膜することができるため、製造工程を簡略化することができる。
酸窒化チタン膜7、19を形成する酸窒化チタン組成をTiNxOyと表記したとき、原子比x/(x+y)は0.1以上0.9以下であることが好ましい。この値が0.1より小さいと低放射率積層体1、10の表面の耐擦傷性が不十分となり、0.9より大きいと酸窒化チタン膜の光学的吸収が大きくなり低放射率積層体1、10の透明度が低下することがある。
酸窒化チタン膜7、19の膜厚は3nm以上50nm以下に設定することが好ましい。その理由は、耐久性を得るには3nm以上の膜厚が必要であり、また、酸窒化チタン膜7、19の光学的吸収を抑えるためには50nm以下が望ましいからである。
上記原子比および膜厚を適宜調整することによって、酸窒化チタン膜7、19の、波長550nmにおける光エネルギー吸収係数を0.1以下に抑えることができ、透明度の高い低放射率積層体1、10を製造することが可能となる。
Ag層4、13、16としては、銀薄膜が最も好ましいが、AgにPd、Au、In、Zn、Sn、Al、Cu等の金属をドープしたものでも良い。また、誘電体層3、6、12、15、18としては、Zn、Sn、Ti、In、Bi、Ta、Al、Zrからなる群より選べられる少なくとも1種の金属の酸化物であれば十分な可視域での透明性を確保できる。
一方、保護金属層5、14、17は隣接するAg層を保護するための犠牲層である。詳細には、Ag層4、13、16の上に直接誘電体層を反応性スパッタで形成すると、スパッタの際、Ag層4、13、16が酸素と結合して劣化しやすいため、その結合を阻止するために設けるものである。保護金属層5、14、17の成膜材料としては、Ti、Zn、Zn−Sn合金を用いることができる。
本発明をさらに詳細に説明するため、以下に実施例を示す。
(実施例1)
第1の透明誘電体層
インライン型スパッタ装置(株式会社アルバック製SCH−3030)にZn、AgおよびTiの3種類のターゲットを取り付けた。次に、基板として厚さ3mmのソーダライムガラス板を用意し、これを装置内に入れた状態で真空排気を行った。続いてOガスを導入し装置内圧力を0.5Paとした後、Znターゲットに直流(DC)電力を印加し放電を開始した。放電パワーは1kWとした。そして、上記ガラス基板を搬送しターゲット前面を通過させることで、基板上に膜厚17nmのZnO膜からなる第1の透明誘電体層を形成した。
Ag層
続いてスパッタ装置内にArガスを導入し、AgターゲットにDC電力を供給して放電を開始した。放電パワーは0.25kWとした。そして上記ZnO膜が形成されたガラス基板を搬送してAgターゲット前面を通過させ、膜厚9nmのAg層を形成した。
保護金属層および第2の透明誘電体層
さらにArガスの導入を続けながら、今度はTiターゲットにDC電力を供給し放電を開始した。放電パワーは0.2kWとした。そしてガラス基板を搬送しTi膜からなる保護金属層を形成した。そしてこの上に、上記第1の透明誘電体層を成膜した場合と同様の条件で膜厚35nmのZnO膜(第2の透明誘電体層)を形成した。第2の透明誘電体層を形成する際に、上記保護金属層であるTi膜はAg層の犠牲層として働き、酸化されてTiOx膜(3nm)となった。
酸窒化チタン膜
最後に、NガスとOガスの比が95:5の雰囲気下、Tiターゲットに放電パワー3kWでDC電力を供給し放電を開始した。そして、ここに上記ガラス基板を搬送し、Tiターゲット前面を通過させて膜厚15nmの酸窒化チタン膜を形成した。
低放射率積層体
以上の手順により、本発明の、ガラス基板/ZnO(第1の透明誘電体層)/Ag(Ag層)/TiOx(保護金属層)/ZnO(第2の透明誘電体層)/TiNxOy(酸窒化チタン膜)の構成の低放射率積層体が形成された。ここで、保護金属層とはTi金属層の酸化された部分と酸化されずに残った金属部分を合わせて保護金属層と呼ぶ。
各層の膜厚を再度まとめると、第1の透明誘電体層17nm/Ag層9nm/保護金属層3nm/第4層第2の透明誘電体層35nm/酸窒化チタン膜15nmである。
また、1パス(片道一回通過)で成膜した場合の各膜の厚さと、およその搬送速度との関係を以下の(表1)に示す。
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、ガラス基板上に、ZnO(第1の透明誘電体層。25nm厚)/Ag(第1のAg層。8nm厚)/TiOx(第1の保護金属層。3nm厚)/ZnO(第2の透明誘電体層。67nm厚)/Ag(第2のAg層。13nm厚)/TiOx(第2の保護金属層。3nm厚)/ZnO(第3の透明誘電体層。20nm厚)/TiNxOy(酸窒化チタン膜。15nm厚)をこの順で積層した。
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、ガラス基板上に、ZnO(第1の透明誘電体層)/Ag(Ag層)/TiOx(保護金属層)/ZnO(第2の透明誘電体層)を積層した。本比較例は実施例1の酸窒化チタン膜がない構成である。それぞれの層の膜厚は実施例1と同じである。
(比較例2)
実施例1と同様の方法で、ガラス基板上に、ZnO(第1の透明誘電体層)/Ag(Ag層)/TiOx(保護金属層)/ZnO(第2の透明誘電体層)/SiNx(窒化ケイ素膜)を積層した。本比較例は、実施例1の酸窒化チタン膜の代わりに窒化ケイ素膜を積層したものである。窒化ケイ素膜については、Nガス雰囲気下、Siターゲットに2kWの高周波電力を供給して積層したものである。それぞれの層の膜厚は実施例1と同じである。尚、15nm厚の窒化ケイ素膜を成膜する際の搬送速度(1パス)は約170mm/minであった。
実施例1、2および比較例1、2で形成した積層体からそれぞれ試験片を切り出し、耐擦傷性を以下の方法で評価した。
スクラッチ試験
サファイア圧子に荷重をかけながら、各試験片を固定したステージを移動させ、試験片表面上を移動させる。荷重を5g、10g、15gの3段階に変化させ擦り傷の発生状態を目視で確認した。ステージ移動速度は50mm/minとした。この結果を表2に示す。
表2に記載のスクラッチ試験結果から明らかなように、本発明の実施例1および2では荷重15gまで傷が付かなかった。一方、保護膜のない比較例1では荷重5gで傷が付き、窒化ケイ素膜を保護膜とした比較例2では荷重10gまでは問題がなかったが、荷重15gで傷が付いた。上記結果より、本発明の低放射率積層体は、酸窒化チタン膜からなる保護膜によって耐擦傷性が向上していること、および、従来の窒化ケイ素膜以上の耐擦傷性を有することが判明した。
本発明の低放射率積層体は高度の耐擦傷性を有するため、製造工程におけるハンドリングを容易にし、生産歩留まりを向上させることができる。また、直流スパッタ装置のみを使用して一貫した成膜積層が可能で製造工程を簡略化できる。したがって、住宅やビル等の建築に使用する産業用複層ガラスとして好適である。
本発明に係る低放射率積層体の一例を示す断面図 本発明に係る低放射率積層体の他の例を示す断面図
符号の説明
1、10…低放射率積層体、2、11…透明基板、3、12…第1の透明誘電体層、4…Ag層、5…保護金属層、6、15…第2の透明誘電体層、7、19…酸窒化チタン膜、13…第1のAg層、14…第1の保護金属層、16…第2のAg層、17…第2の保護金属層、18…第3の透明誘電体層。

Claims (7)

  1. 透明基板上に、基板側から順に第1の透明誘電体層、Ag層、保護金属層および第2の透明誘電体層が形成されてなる低放射率積層体において、第2の透明誘電体層の上に、さらに酸窒化チタン膜が形成されていることを特徴とする低放射率積層体。
  2. 透明基板上に、基板側から順に第1の透明誘電体層、第1のAg層、第1の保護金属層、第2の透明誘電体層、第2のAg層、第2の保護金属層および第3の透明誘電体層が形成されてなる低放射率積層体において、第3の誘電体層の上に、さらに酸窒化チタン膜が形成されていることを特徴とする低放射率積層体。
  3. 前記酸窒化チタン膜の組成をTiNxOyと表記したとき、原子比x/(x+y)が0.1以上0.9以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の低放射率積層体。
  4. 前記酸窒化チタン膜の膜厚が3nm以上50nm以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の低放射率積層体。
  5. 前記酸窒化チタン膜の、波長550nmにおける光エネルギー吸収係数が0.1以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の低放射率積層体。
  6. 前記Ag層が、AgにPd、Au、In、Zn、Sn、Al、Cuからなる群より選ばれる1種類以上の金属をドープしたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の低放射率積層体。
  7. 前記透明誘電体層が、Zn、Sn、Ti、In、Bi、Ta、Al、Zrからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の低放射率積層体。



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