JP2007117748A - 鉱物化ヒドロゲルならびに鉱物化ヒドロゲルの作製および使用方法 - Google Patents

鉱物化ヒドロゲルならびに鉱物化ヒドロゲルの作製および使用方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鉱物化ヒドロゲル、ならびに鉱物化ヒドロゲルの作製および使用方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、鉱物化ヒドロゲル、ならびにカルシウム誘導体を含む第1の混合物と、リン酸誘導体を含む第2の混合物と、ヒドロゲルとを組み合わせて、上記ヒドロゲルを含むリン酸カルシウム分散液を形成することにより、鉱物化ヒドロゲルを作製および使用する方法を提供する。上記リン酸カルシウム分散液中の上記ヒドロゲルを架橋して、リン酸カルシウム鉱物が、上記ヒドロゲル内でほぼ均一に分散される鉱物化ヒドロゲルを形成する。
【選択図】なし

Description

本発明は、生体医用またはその他の用途における使用に適した鉱物化ヒドロゲルに関する。
本出願は、参照により本明細書に明確に援用する、先願の2005年10月28日出願の同時係属中の米国仮出願第60/731092号の米国特許法施行規則1.78(a)(4)に基づく利益および優先権を主張するものである。
ヒドロゲルは、親水性ホモポリマーまたはコポリマーの架橋された網目構造が特徴である構造を有する水膨潤性の材料または水で膨潤された材料である。親水性ホモポリマーまたはコポリマーは、フリー形では水溶性であることもあるが、ヒドロゲルでは、共有性、イオン性、または物理的架橋により水に不溶になる(ただし水膨潤性)。物理的架橋の場合においては、結合は、からみ合い、微結晶、または水素結合構造の形をとることがある。ヒドロゲルにおける架橋は、網目構造に構造および物理的な完全性を提供する。
ヒドロゲルは、非晶性、半結晶性、水素結合構造、超分子構造、または親水コロイド凝集体に分類することができる。気孔率、気孔寸法、使用されたヒドロゲル、ゲルポリマーの分子量、橋かけ密度を含めた、多数のパラメーターが、ヒドロゲルの物理的性質に影響する。例えば、架橋密度は、体積平衡膨潤比(「Q」で示される)、圧縮弾性率、通常隣接した架橋の間の距離を特徴とする、架橋網目構造の高分子鎖の間の距離であるメッシュサイズ(ξ)を含めたヒドロゲルの巨視的性質に影響する(Nicholas A. Peppas編、Hydrogels in Medicine and Pharmacy、CRC Press、1986)。気孔寸法および形状、気孔密度、およびその他の要因は、ヒドロゲルの表面特性、光学的性質、および機械的特性に影響を及ぼし得る。
ヒドロゲルは、種々の親水性のポリマーおよびコポリマーから得られている。ポリ(ビニルアルコール)(「PVA」)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(「PHEMA」)、および前記のもののコポリマーは、それらからヒドロゲルが作製されているポリマーの諸例である。ヒドロゲルは、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸およびゼラチンなどの生体高分子、ならびにポリ(エチレングリコール)ジアクリレートで架橋されたゼラチンなどの(半)相互侵入網目構造(「IPN」)ヒドロゲルなどからも形成されている。
ヒドロゲルは、天然組織を模倣することができ、所望の生理的部位での生理活性物質の放出を促進することができる、主としてその高い水分含有量およびゴム状または柔軟な性質により、生体医学的および製薬用途において将来性を発揮してきた。例えば、ヒドロゲルは、インプラント、組織接着剤、背骨用の移植骨片、および半月板および関節軟骨置換などの整形外科処置を含めた、種々の組織処置用途に使用され、かつ/または提案されてきた。特定の組織の処置用途における、また特定の骨組織の処置における通常のヒドロゲル使用の一欠点は、このようなヒドロゲルが、組織の成長および/または石灰化組織の形成を促進するための最適な足場を必ずしも提供しないことである。例えば、通常のヒドロゲルは本質的な骨伝導性特性を有しておらず、したがって、このようなヒドロゲル材料の表面上での、またはその内部での骨組織の形成を適切には促進しない。通常のヒドロゲルは、特定の組織の処置、特に石灰化および/または骨組織処置のための適切な機械的性質、例えば強度、を欠くこともある。
ヒドロゲルの骨伝導特性および/または機械的性質を改善する試みにおいて、例えば、擬似体液などの濃縮されたリン酸カルシウム溶液にヒドロゲルを浸すことによって、カルシウム溶液およびリン酸溶液に交互に上記ヒドロゲルを浸すことによって、また予め調製されたヒドロゲルおよびリン酸カルシウム鉱物を物理的に混合することによって、ヒドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム鉱物が、予め調製されたヒドロゲル(例えば、PHEMAまたはPVA)に組み込まれてきた。
残念ながら、これらの各手法は、特定の欠点を有する。予め形成されたヒドロゲルを浸すことを含む最初の2つの手法は、ヒドロゲル内のリン酸カルシウム鉱物の適切な分布を提供しないことがあり、鉱化プロセス(ミネラル化プロセス)は、制御するのが難しいことがある。さらに、in-situでの(例えば型中での)反応は、実現できないことがある。第3の手法を用いると、ヒドロゲルは、鉱物に適切には結合しないことがあり、鉱物の濃度勾配を有する物品を調製することが難しいことがある。したがって、ヒドロゲルをリン酸カルシウム鉱物と一緒にすることを提供するためのこれらの手法は、顕著な商業的な制限を有することがある。
米国仮出願第60/731092号 Nicholas A. Peppas編、Hydrogels in Medicine and Pharmacy、CRC Press、1986 米国特許第6224893号 米国出願第11/358383号 LeGeros R.Z.、Calcium phosphates in oral biology and medicine、Monograph in Oral Science、Vol. 15、pp. 1〜201 Chow他、「Octacalcium Phosphate」Monograph in Oral Science、Vol. 18、pp. 94-112および130〜148 Peppas他、Adv. Polymer Sci.、153、37 (2000) Anseth他、Journal of Controlled Release、78 (2002)、199〜209 Noguchi他、J. Appl. Biomat. 2、101 (1991) 米国特許第5047055号 米国特許第6733533号 Lin-Gibson他、Biornacromo1ecules、2004、5、1280〜1287
したがって、1つまたは複数の前述の欠点を克服する、鉱物化(ミネラル化された)ヒドロゲルならびに鉱物化ヒドロゲルの作製および使用方法を提供することが有益であろう。
本発明は、リン酸カルシウム鉱物がヒドロゲルポリマー内に分散される、鉱物化ヒドロゲルならびに鉱物化ヒドロゲルの作製および使用方法を提供する。一実施形態においては、カルシウム誘導体を含む第1の混合物と、リン酸誘導体を含む第2の混合物と、ヒドロゲル前駆体とを一緒にすることによって、リン酸カルシウム分散液を形成して、ヒドロゲル前駆体を含むリン酸カルシウム分散液を形成することができる。次いで、リン酸カルシウム分散液中に存在するヒドロゲル前駆体を架橋して、リン酸カルシウム鉱物を鉱物化ヒドロゲル内にほぼ均一に分散させ得る、鉱物化ヒドロゲルを形成する。リン酸カルシウム分散液および/または鉱物を、生体骨および/または他の石灰化組織を模倣する、カルシウム欠損アパタイトなどの所望の形態に改変するための、任意選択による処置を用いてもよい。
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、上述の本発明の一般的な記述、および以下の詳細な記述と共に、本発明の諸実施形態を示す添付図面は、本発明を説明するものである。
図1は、本発明の一実施形態による、鉱物化ヒドロゲルの形成方法をまとめたフローチャートである。10および12において、カルシウム誘導体を含む第1の混合物、およびリン酸誘導体を含む第2の混合物が別々に調製され、14において一緒にされて、リン酸カルシウム分散液が形成される。一緒にされる前に、第1および第2の混合物の片方または両方に、ヒドロゲル前駆体を添加することができる。あるいは、ヒドロゲル前駆体を、第1および第2の混合物が一緒にされてリン酸カルシウム分散液が形成される間に、または形成された後に添加することもできる。いずれの場合でも、次いで16において、リン酸カルシウム分散液に含まれたヒドロゲル前駆体を架橋して、リン酸カルシウム鉱物を含む鉱物化ヒドロゲルを形成する。18において、リン酸カルシウム鉱物を改変するための任意選択によるpH処理を実施することもできる。これらの各ステップは、以下に詳述される。
第1および第2の混合物の調製
一実施形態においては、10において、第1の混合物は、カルシウム誘導体、任意選択のヒドロゲル前駆体、および水性担体(例えば、脱イオン水、または水と有機溶媒の混和溶液)を含む。適切なカルシウム誘導体には、CaC12、Ca(OH)2、およびCa(NO3)2が含まれる。カルシウム誘導体を水性担体と一緒にして、水性カルシウム分散液を形成することができる。任意選択によるヒドロゲル前駆体を通常の混合方法で水性分散液と一緒にすることができる。
別の実施形態においては、12において、第2の混合物は、リン酸誘導体、任意選択によるヒドロゲル前駆体、および水性担体を含む。適切なリン酸誘導体の例には、K2HPO4、Na2HPO4、H3PO4、および(NH4)2HPO4が含まれる。リン酸誘導体を水性担体と一緒にして、水性リン酸塩分散液を形成することができる。次いで、任意選択によるヒドロゲル前駆体を通常の方法を用いて水性リン酸分散液と一緒にすることができる。
本明細書では、「ヒドロゲル前駆体」という用語は、ヒドロゲルに加工し得る、ヒドロゲルおよびヒドロゲルポリマー原料物質(例えば、ヒドロゲルを形成する、マクロマー、モノマー、オリゴマー、ホモポリマー、コポリマー、および/または(半)相互侵入網目構造高分子(IPN))を示す。適切なヒドロゲル前駆体は、ポリ(ビニルアルコール)(「PVA」)、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(「PEGDMA」)などのポリ(グリコール)、ポリ(エチレングリコール)ジアクレート(「PEGDA」)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(「PHEMA」)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、加水分解されたポリ(アクリロニトリル)、ポリ(エチレンイミン)、エトキシル化ポリ(エチレンイミン)およびポリ(アリルアミン)、ポリペプチド、ならびにこれらのもののモノマー、オリゴマー、マクロマー、コポリマーおよび/またはその他の誘導体を含めた種々のポリマー材料から得ることができる。特定の実施形態においては、生体高分子も使用されることがある。適切な生体高分子には、ヒアルロン酸などの陰イオン性生体高分子、キトサンなどの陽イオン性生体高分子、コラーゲン、ゼラチン、フィブリンなどの両親媒性ポリマー、およびデキストランやアガロースなどの中性生体高分子が含まれる。相互侵入網目構造高分子(例えば、水溶性ポリマーと水不溶性ポリマーの組合せ)、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質で変性またはグラフトされたポリマー、およびカルシウムまたはリン酸誘導体で改変された主鎖を有するポリマーも、特定の実施形態での使用に適していることがある。特定の実施形態での使用に適していることがある更なるポリマーは、Langer他の米国特許第6224893号に記載されているが、その内容の全体は、参照により本明細書に援用する。適切なヒドロゲルブレンドは、その全体を参照により本明細書に援用する「Blend Hydrogels and Methods of Making」と題する米国特許出願第11/358383号に記載されている。
ヒドロゲル前駆体が、第1および第2の混合物の両方に添加される場合、各混合物に用いられるヒドロゲル前駆体は、同一のヒドロゲル前駆体でよい。あるいは、これらのヒドロゲル前駆体は、互いに異なっても、互いに架橋することができればよい。一実施形態においては、約10重量/重量%のヒドロゲル前駆体を、各混合物に添加することができる。
本発明の特定の実施形態においては、ヒドロゲル前駆体はポリ(ビニルアルコール)、またはその誘導体である。ポリ(ビニルアルコール)は、酢酸ビニルをフリーラジカル重合させてポリ酢酸ビニルを形成し、次いで加水分解してPVAを得ることによって製造することができる。加水分解は完全には進まず、ポリマー鎖に沿ったいくつかの点においてペンダント酢酸基を残す。加水分解反応の程度によって、PVAの加水分解の度合いが決まる。市販のPVAは、ある場合には、98%を超える加水分解度を有し得る。PEGDAおよびPEGDMAも、特定の実施形態での使用に適する。
特定の実施形態においては、以下により詳細に記載されるように、第1および第2の混合物を一緒にするときに、カルシウム欠損アパタイトを形成するように、F-、C1-、Na+、K+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、HPO4 2-、CO3 2-、および/またはSO4 2-(またはそれらの塩類)などのイオンが、第1および/または第2の混合物に添加されてもよい。
場合によっては、以下に記載されるように、ヒドロゲル前駆体の架橋を促進するために、光開始剤などの放射線感受性材料が、第1および/または第2の混合物に(または、その後、リン酸カルシウム分散液に)添加されることがある。IRGACURE(登録商標)の商標の光開始剤(Ciba Specialty Chemicalsから入手可能)は、適切な放射線感受性材料のグループの一例である。他の任意選択による添加剤には、ポリマー混合物に通常添加される、生体適合性の保存料、界面活性剤、顔料、および/またはその他の添加剤が含まれる。
第1および第2の混合物の性質および/または物理的特性は、担体のタイプおよび量、ならびに担体に添加されるヒドロゲル前駆体のタイプおよび濃度に応じて変わりうる。特定の実施形態においては、これらの混合物は、通常の溶液に類似した諸特性を有することになる。他の実施形態、例えばPVAヒドロゲル前駆体を利用する実施形態においては、混合物は、追加の架橋ステップなしのヒドロゲルに類似した諸特性(例えば、水膨潤性)をもつことがある。
[第1および第2の混合物の混合]
14において、リン酸カルシウム鉱物(一般的に、沈殿から形成される、ナノ〜マイクロのサイズの粒子)を含むリン酸カルシウム分散液を形成するのに適した条件下で、第1および第2の混合物を一緒にすることができ、この分散液中にヒドロゲル前駆体は、分散、溶解され、あるいはその他の方法で含まれる。本明細書では、「リン酸カルシウム分散液」という用語は、本明細書に記載された、カルシウム誘導体とリン酸誘導体とを一緒にすることにより形成される、分散液、スラリー、溶液、およびその他の混合物を広く包含する。第1および第2の混合物が一緒にされる条件は、カルシウム誘導体とリン酸誘導体との間生じる反応に影響を及ぼすことがある。
第1および第2の混合物を一緒にする順序は変えてよい。一実施形態においては、第2の混合物を、制御された速度で、かつ継続的に撹拌しながら第1の混合物に添加して、所望のリン酸カルシウム分散液を形成する。別の実施形態においては、第1の混合物を、制御された速度で、かつ継続的な撹拌をしながら、第2の混合物に添加して、所望のリン酸カルシウム分散液を形成する。
反応温度も変えてよい。一実施形態においては、これらの混合物を、室温、すなわち約25℃の温度で一緒にすることができる。別の実施形態においては、これらの混合物を、生理的温度、すなわち約37℃の温度で一緒にすることができる。別の実施形態においては、これらの混合物を、約25℃および約37℃の間の温度で一緒にすることができる。
変えてよい更なる条件には、雰囲気(例えば、空気、不活性ガスまたはCO2)、各混合物中のカルシウムおよび/またはリン酸誘導体の濃度、カルシウム:リン酸のイオンの比、および第1および第2の混合物のpHが含まれる。これらの条件は、第1および第2の混合物が一緒にされるときに形成される1種または複数のリン酸カルシウム鉱物に影響を及ぼすことがある。形成され得るリン酸カルシウム鉱物のタイプには、非晶質リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、カルシウム欠損アパタイト、およびヒドロキシアパタイトが含まれる。
本発明の諸実施形態により形成された非晶質リン酸カルシウム鉱物は、X線回折(XRD)による特徴解析からの通常の結晶ピークを示さず、固定した化学構造をもたないことがあるが、そのかわりに、その実質的に非結晶性および/またはナノ結晶性の構造により特徴付けられる。
本発明の諸実施形態により形成されたリン酸二カルシウム二水和物は、次式で表される。
CaHPO4・2H2O
本発明の諸実施形態により形成されたカルシウム欠損アパタイトは、次式で表され、
(Ca, M)10 (PO4, CO3, X)6(OH, F, C1)2
上式中、Mは、Na+、K+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などの、少量のイオンおよび/または微量元素を含み、XはHPO4 2-またはSO4 2-である。カルシウム欠損アパタイト中の少量のイオンの存在は、(塩の形でなどの)上記イオンを第1および/または第2の混合物に添加することにより実現することができる。
本発明の諸実施形態により形成されたヒドロキシアパタイトは、次式で表される。
Ca10(PO4)6(OH)2
一実施形態においては、第1の混合物中のカルシウムイオンおよび第2の混合物中のリン酸イオンの濃度は、約0.1mMおよび約5Mの間でよく、より詳しくは約0.5Mおよび約2Mの間でよい。別の実施形態においては、第1の混合物は、約1Mの濃度のカルシウムイオンを含み、第2の混合物は、約0.67Mの濃度のリン酸基を含む。
第1および第2の混合物中の得られるCaイオンとリン酸イオンの比は、約1:1〜約2:1の範囲となることがある。約1:1および約1.5:1の間の比は、非晶質リン酸カルシウム鉱物の形成を促進することがある。約1.5:1および約2:1の間の、より特には約1.5:1および約1.67:1の間の比は、カルシウム欠損鉱物の形成を促進することがある。
第1および第2の混合物は、非晶質リン酸カルシウムの形成を促進する方法で一緒にされるが、リン酸カルシウムのより結晶性の形(例えば、カルシウム欠損アパタイト)が望ましいときは、上記リン酸カルシウム分散液を、上記非晶質リン酸カルシウムを結晶性の形に変換するのに適したpH環境中でさらに処理することができる。一実施形態においては、リン酸カルシウム分散液のpHを、約6.5および約7.5の間(すなわち、ほぼ中性のpH)に、より特には約7.2および約7.4の間に調節して、非晶質リン酸カルシウムから結晶性の形への変換を促進することができる。別の実施形態においては、pHは、7.5を超えるpH(すなわち、塩基性分散液)に、より特には約10および11の間に調節して、異なる反応速度および/またはキネティクスで非晶質リン酸カルシウムを結晶性の形に変換することができる。例えば、リン酸カルシウム分散液は、アンモニア溶液または水酸化ナトリウム溶液などの塩基性溶液、あるいはリン酸緩衝生理食塩水またはトリス緩衝液などの緩衝溶液と一緒にすることができる。非晶質リン酸カルシウムの結晶性リン酸カルシウムへの変換についての、さらなる記述は、LeGeros R.Z.、「Calcium phosphates in oral biology and medicine」Monograph in Oral Science、Vol. 15、pp. 1-201、およびChow他、「Octacalcium Phosphate」Monograph in Oral Science、Vol. 18、pp. 94-112および130-148に見出すことができる。別の実施形態においては、鉱物化ヒドロゲルの形成後に、同様のpH処理を用いることもできる。
一実施形態においては、カルシウム欠損アパタイトの形成を促進するために、リン酸カルシウム分散液が形成され、かつ/または処理される。他のリン酸カルシウム鉱物とは対照的なカルシウム欠損アパタイトの一利点は、カルシウム欠損アパタイトは、身体中の生体アパタイトをより近く模倣することが知られており、したがって、他のリン酸カルシウム鉱物に比べて改善された骨伝導性をもたらすことができることである。
上記混合物の性質および/または物理的特性も、リン酸カルシウム分散液の特性に影響を及ぼすことになる。特定の実施形態においては、リン酸カルシウム分散液は、通常の分散液に類似した特性を有することになる。他の実施形態、例えばPVAヒドロゲル前駆体を利用する実施形態においては、リン酸カルシウム分散液は、追加の架橋ステップのないヒドロゲルに類似した特性(例えば水膨潤性)をもつことがある。
下記に記載したヒドロゲル前駆体の架橋の前に、リン酸カルシウムを連続的な混合にかけて、ほぼ均一な分散液を得ることができる。あるいは、分散液を遠心分離機にセットし、十分な力をあたえて、分散液中にリン酸カルシウム鉱物濃度勾配を生じさせることができる。
[ヒドロゲル前駆体の架橋]
所望のリン酸カルシウム分散液を形成した後、16において、この分散液中のヒドロゲル前駆体を任意選択により架橋して鉱物化ヒドロゲルを形成し、この鉱物化ヒドロゲル中にリン酸カルシウム鉱物が分散され、かつ/または鉱物化ヒドロゲル内に分配される。光開始、照射、物理的架橋(例えば、凍結融解法)、および化学架橋を含めた種々の手法が、ヒドロゲル前駆体を架橋するのに使用することができる。
本発明の一実施形態においては、架橋は、リン酸カルシウム分散液を紫外線または青色可視光(本明細書でまとめて「UV/Vis照射」とよぶ)に暴露ことにより行われる。この実施形態においては、IRGACURE(登録商標)商標の開始剤などの光開始剤を、リン酸カルシウム分散液と、またはリン酸カルシウム分散液の形成に使用された混合物の1つと混合することができる。一実施形態による適切なUV/Vis照射源は、約200〜700nmの間の、より特には約320nm〜約700nmの間の、さらに特に約350〜520nmの間の範囲の波長で操作し得る。UV/Vis照射源に適したエネルギーレベルは、約10μW/cm2および約20W/cm2の間に及び得る。特定の一実施形態においては、約365nmの波長および300μW/cm2のエネルギーレベルが適切であり得る。電子ビーム、またはCo60源の使用によるなどのガンマ線照射による架橋も、本発明の諸実施形態により、使用することができる。
別の実施形態においては、例えばPeppas他、Adv. Polymer Sci.、153、37 (2000)に記載されている通常の凍結融解技術によって、物理架橋を実現することができる。
リン酸カルシウム分散液(または第1もしくは第2の混合物)に添加するのに適した化学架橋剤の例には、メタノールなどの溶媒の存在下におけるホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのモノアルデヒド、またはグルタルアルデヒドが含まれる。他の適切な架橋剤には、ウレタン結合を生じ得るジイソシアネート化合物、またはエポキシ化合物が含まれる。アミド基転移反応を触媒して、タンパク質中でN-ε-(γ-グルタミル)リジン架橋を形成する、カルシウム非依存性の微生物トランスグルタミナーゼなどの酵素を用いて行われる架橋も、本発明の諸実施形態により、適切であり得る。
諸架橋技術を組み合わせることも、本発明において利用することができる。例えば、凍結融解サイクルを使用して物理的架橋を提供し、次いで照射または光開始によってより完全な架橋を提供することができる。他の例としては、化学架橋に次いで照射または光開始することができ、あるいは、凍結融解ステップを、化学、照射または光開始のいずれかによる架橋の後に行うことができる。
第1および/または第2の混合物に添加されるヒドロゲル前駆体のタイプ、濃度および化学的性質(例えば、分子量)、ならびに使用される架橋技術は、形成されるヒドロゲルの性質および/または特性に影響を及ぼし得る。例えば、ヒドロゲルの膨潤比、水分、メッシュおよび/または気孔サイズは、このヒドロゲル材料のタイプ、分子量および濃度を調節することにより変えることができる。また、得られるヒドロゲルは、このヒドロゲルの化学的性質を変えることによりin vitroおよび/またはin vivoで生分解性、または安定であるように形成することができる。例えば、PEGDAから形成されたヒドロゲルは、一般的に生物安定性であるが、ポリ(乳酸)とPEGDAのコポリマーから形成されるヒドロゲルは、制御可能な分解特性を有するように形成することができる(例えば、Anseth他、Journal of Controlled Release、78 (2002)、199-209参照)。
さらに、上記タイプの使用されたヒドロゲル前駆体は、接着性などの増強された性質をもたらしうる。例えば、PEDGA、PEDGAの相互侵入網目構造、およびゼラチン(Ca依存性酵素により架橋されたゼラチンを含む)は、増強または改善された接着性を有することがある。非ヒドロゲル相またはフィラー(例えば、固体フィラー)のヒドロゲル中への添加も、架橋前または架橋後のどちらでも、ヒドロゲルの諸性質を改変することがある。鉱物化ヒドロゲルを形成するためにヒドロゲル前駆体を架橋するために用いられた方法も、ヒドロゲルの諸性質に影響を及ぼすことがある。特定の実施形態においては、ヒドロゲルが形成される前または後に、更なる生物活性薬剤を、ヒドロゲル中に組み込むことができる。適切な生物活性薬剤の例には、それだけには限らないが、骨形態形成タンパク質(「BMP」)などのタンパク質、成長因子、鎮痛剤や抗生物質などの医薬品、酵素および/または遺伝子が含まれる。
上述のとおり、本発明の特定の実施形態は、追加の架橋ステップなしに、鉱物化ヒドロゲル材料を形成することができる。例えば、特定のPVAポリマーは、第1および第2の混合物が調製されるときに、ヒドロゲルを形成することができる。このような場合において、最終の架橋ステップは任意選択であるが、鉱物化ヒドロゲルの特定の特性をさらに改善することがある。
前述の方法においては、鉱物化ヒドロゲルの形態は、個別の用途および所望の結果に応じて変えることができる。特定の用途においては、例えば、リン酸カルシウム誘導体を鉱物化ヒドロゲル全体にほぼ均一および/または一様に分散し、かつ/または分配することが望ましいことがある。これらの用途においては、バルク鉱物化ヒドロゲルを、本明細書に記載のとおり、第1および第2の混合物を一緒にすること、および架橋することにより形成することができる。別法として、第1および第2の混合物を所望の型中で混合して、インプラントを形成することができる。
他の実施形態においては、リン酸カルシウム鉱物の均一な分布またはリン酸カルシウム鉱物の濃度勾配を有する表面領域が望ましいことがある。これは、種々の形態または濃度のリン酸カルシウム鉱物を有する、別々に形成された鉱物化ヒドロゲルの複数の層を適用することにより実現できる。さらに、鉱物化ヒドロゲルの層を、通常のヒドロゲルの層と接着させることが望ましいことがある。
本発明の鉱物化ヒドロゲルは、インプラントおよび/またはインプラントコーティングとして、整形外科および脊髄の用途、骨移植および/または骨セメント、接着剤/固定材、オルソバイオロジクス(例えば、組織工学の足場および構成)、鉱物化フィラー、薬物、成長因子および遺伝子送達を含めた広範囲の医療用途、および歯科用途に使用することができる。一実施例においては、鉱物化ヒドロゲルは、例えば、Noguchi他、J. Appl. Biomat. 2、101 (1991)に記載された人工関節軟骨、または人工半月板もしくは関節軸受構成部品を提供するのに使用できる。上記ヒドロゲルは、顎関節、近位指節間関節、中手指節関節、中足指節関節を治療または代替するのに、あるいは股関節の治療に使用することもできる。
別の実施形態において、本発明の鉱物化ヒドロゲルは、椎間板の髄核を代替または修復するのに使用することができる。腰椎の変形性椎間板疾患は、椎間板の脱水症および脊柱単位の生体力学的機能の損失により特徴付けられる。最近の手法は、髄核と呼ばれる椎間板の中央部分だけを代替することである。この手法は、より侵襲的でないポステリアサージャリを伴い、かなり迅速に行うことができる。BaoおよびHighamは、米国特許第5047055号に記載された、髄核代替に適したPVAヒドロゲルを開発した。約70%の水を含む上記ヒドロゲル材料は、加荷重に応じて水を吸収し水を放出するという点で、自然の髄核に類似的にふるまう。
本発明の鉱物化ヒドロゲルは、天然のヒトの脊椎円板の一部または全部を代替する脊椎円板補綴に使用することもできる。一例として、脊椎円板補綴は、柔軟な髄核、柔軟な編上げ繊維輪、および終板を含むことができる。上記ヒドロゲルは、例えば、柔軟な髄核に使用することができる。脊椎円板補綴は、例えば、Lozierの米国特許第6733533号に記載されている。
一実施形態によれば、本発明の鉱物化ヒドロゲルは、本明細書に記載された諸タイプのインプラント可能な補綴具に形成することができる。このようなインプラントは、最初に第1の混合物をインプラント型中に入れることにより形成することができる。次いで、第2の混合物を、迅速に混合し、かつ/または第1の混合物中に注入してよい。次いで、得られるリン酸カルシウム分散液を、本明細書に記載された方法によって架橋して、鉱物化ヒドロゲルインプラントを形成することができる。別の加工方法には、溶液キャスティング、射出成形、または圧縮成形が含まれる。一般的には、これらの方法は、架橋の前または架橋の後に使用することができる。
本発明の別の実施形態によれば、第1および第2の混合物を混合する前に、混合と同時に、または混合直後に、鉱物化ヒドロゲルを生理的部位に送達することができる。図2A〜2Bは、第1および第2の混合物を混合し、これらの混合物を生理的部位に送達することができる器具20の概略図である。器具20は、シリンジ22、プランジャー24、およびカニューレ26を含む。シリンジ22は、第1および第2の混合物を各溜め30、32に分離するための仕切板28を含む。プランジャー24は、ボタン34、仕切板28に対して摺動するチャネル38を有し、第1および第2の混合物をカニューレ26中に供給するための軸36を含む。本実施形態においては、第1および第2の混合物は、最初にカニューレ26で混合される。
別の一実施形態においては、第1および第2の混合物用の別々のプランジャー24を、第1および第2の混合物が別々に送達できるように利用することができる。更なる一実施形態においては、シリンジ22および/またはカニューレ26は、第1および第2の混合物が、カニューレ26を出る後まで接触しないように二重管構造を有することができる。次いで、上記水膨潤性材料を、送達および成形後に架橋し、かつ/または水和させて、ヒドロゲルを提供することができる。
以下の実施例は、本発明を例示するために提供され、それを限定するものではない。
[実施例]
(実施例1A)
室温で、同量のCaCl2・2H2O (1M)およびNa2HPO4 (0.67M)を反応させた。沈殿物をろ過し乾燥させて、リン酸カルシウム粉末を得た。次いで、上記リン酸カルシウム粉末を、FTIRおよびSEMで分析し、その結果はリン酸二カルシウム(DCPD)が生じたことを示した。FTIRスペクトルは、Bruker Vertex 70分光計(米国、マサチューセッツ州、Billerica、Bruker Optics Inc.)を用いて得、SEM写真は、LEO(登録商標)1550変圧電界放射型SEM(米国、ニューヨーク州、Thornwood、Carl Zeiss SMT Inc.)を用いて得た。図3Aは、リン酸カルシウム材料のFTIRスペクトルである。図4Aは、リン酸カルシウム材料のSEM写真である。
(実施例1B)
室温で、同量のCaCl2・2H2O (1M)およびNa2HPO4 (0.67M)を反応させた。得られたリン酸カルシウム分散液を、1M NaOHを用いて10および12の間のpHに調節した。沈殿をろ過し乾燥させて、リン酸カルシウム粉末を得た。上記リン酸カルシウム粉末を、FTIRおよびSEMで分析し、その結果はカルシウム欠損アパタイトが生じたことを示した。図3Bは、リン酸カルシウム材料のFTIRスペクトルである。図4Bは、リン酸カルシウム材料のSEM写真である。したがって、リン酸カルシウム材料のpHを制御することにより、カルシウム欠損アパタイトが形成された。
(実施例2)
約2000および5000g/molの間の分子量を有する、10重量/重量%PEGDMAマクロマー(Lin-Gibson他、Biomacromo1ecules,2004,5,1280-1287に記載のとおりに合成)、CaCl2・2H2Oの1M溶液、および0.05〜1重量/重量%(PEGDMAの濃度に対して)IRGACURE(登録商標)2959の商標の光開始剤(Ciba Specialty Chemicals)を含む第1の混合物を調製した。10重量/重量%PEGDMAマクロマー、Na2HPO4の0.67M溶液、および0.05〜1重量/重量%(PEGDMAの濃度に対して)IRGACURE(登録商標)2959ブランドの光開始剤を含む第2の混合物も調製した。
40μLの第1の混合物を、高さが3mmで厚さが6mmの円筒形の型に注入した。次いで、40μLの第2の混合物を、上記型に注入した。リン酸カルシウム分散液が急速に生じた。次いで、上記リン酸カルシウム分散液を、長波長UV源(365nm、300μW/cm2)に10〜30分間暴露して、ヒドロゲルを架橋し、鉱物化ヒドロゲルを形成した。
(実施例3)
約140,000g/molの分子量を有する、10重量/重量%ポリ(ビニルアルコール)(「PVA」)ポリマー、およびCaCl2・2H2Oの1M分散液を、25重量/重量%ジメチルスルホキシド(「DMSO」)の水性分散液に添加することによって、第1の混合物を調製した。10重量/重量%の同じPVAポリマー、およびNa2HPO4の0.67M分散液を、25重量/重量%DMSOの水性分散液に添加することにより、第2の混合物を調製した。
第1および第2の混合物を、3/16インチのチップを有するDUO-PAK(登録商標)ブランドのツイストロック式カートリッジ(McMaster-Carrから市販)に別々に装入した。上記カートリッジを、分配ガン(dispensing gun)に接続し、第1および第2の混合物を分配ガンからスタティックミキサーを通して型中に注入した。上記型を、通常の凍結融解サイクルまたは通常の架橋技術にかけて、ヒドロゲルを架橋して、鉱物化ヒドロゲルを形成することができた。
(実施例4)
IRGACURE(登録商標)2959ブランドの光開始剤(2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン、Ciba Specialty Chemicals)0.05gを、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA、Aldrich Inc.、数平均分子量約575、水溶性)5mLに溶解させた。得られたPEGDA溶液を1M CaCl2 5mLと混合して、第1の混合物を形成した。Na2HPO4の0.67M溶液も調製して、第2の混合物を形成した。第2の混合物を、磁力撹拌プレートで中程度に撹拌しながら(0〜10目盛の3〜4の速度)、第1の混合物に一滴ずつ添加して分散液を形成した。分散液の撹拌を更に15〜30分間継続した。次いで、分散液を、0.25インチの直径および0.25インチの厚さを有する、数個の超高分子量ポリエチレン製円筒型に移した。次いで、上記型をガラス片上に置き、Mylarフィルムで覆った。UV箱(400Wの電球電力ならびに315および400nmの間の最適化波長のLOCTITE(登録商標) ZETA(登録商標)7411-S Flood System)中で分散液の光重合を3分間実施して、鉱物化ヒドロゲルを形成した。型から取り出した後、数個のゲルサンプルを、1M NaOH溶液中に浸した。Caおよびリン酸誘導体が全く含まれないこと以外は同じ方法で、対照のゲルサンプルを調製した。
図5A〜5Cは、上記に記載のとおり形成した数個のサンプルの写真を示す。図5Aは、2個の鉱物化サンプルおよび2個の対照サンプルを示す。1個の鉱物化サンプルおよび1個の対照サンプルをNaOHに浸した。4個のサンプルすべては、水に接触したときに膨潤し、NaOHに浸したサンプルは、より大きく膨潤した。
図5B〜5Cは、Zeiss Stemi 2000-C顕微鏡(米国、ニューヨーク州、Thornwood、Carl Zeiss SMT Inc.)を用いた光学顕微鏡を使用して得られた、対照サンプル(5A)および鉱物化サンプル(5B)の顕微鏡写真を示す。明らかに、鉱物化サンプルで、リン酸カルシウム鉱物のほぼ均一な分散が見られる。
別法として、型に添加される前にリン酸カルシウム分散液を遠心分離すること以外は実施例4にしたがって、鉱物化ヒドロゲルを調製する。得られる鉱物化ヒドロゲルは、リン酸カルシウム鉱物の濃度勾配を含む。
(実施例5)
ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(PEGDMA、数平均分子量約4000、水溶性)マクロマーを、文献(Lin-Gibson他,Biomacromolecules,2004,5,1280-1287)に記載のとおりに合成した。PEGDMA 0.28gおよびIRGACURE(登録商標)2959ブランドの光開始剤0.0003g(PEGDMAマクロマーに対して約0.1重量%)を、1M CaCl2 1.0mL溶液中に溶解させることによって、第1の混合物を調製した。Na2HPO4の0.67M溶液1.0mLを調製することによって、第2の混合物を用意した。磁力撹拌プレートで中程度に撹拌しながら(0〜10目盛の3〜4の速度)、第1の混合物に一滴ずつ添加して、リン酸カルシウム分散液を形成した。リン酸カルシウム分散液の撹拌を更に15〜30分間継続した。PEGDMA 0.2gを脱イオン水1.8g中に、Irgacure 2959ブランドの光開始剤(2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン、Ciba Specialty Chemicals)0.0002g(PEGDMAマクロマーに対して0.1重量%)とともに溶解することによって、10重量%光開始剤入りEGDMA溶液を調製した。カルシウムまたはリン酸材料は、10重量%光開始剤入りPEGDMA溶液に全く添加しなかった。0.25インチの直径および0.25インチの厚さを有する、数個の超高分子量ポリエチレン円筒型をガラス片上に置き、10重量%光開始剤入りPEGDMA溶液で部分的に充填した。次いで、これらの型をMylarフィルムで覆った。UV箱(400Wの電球電力ならびに315および400nmの間の最適化波長のLOCTITE(登録商標)ZETA(登録商標)7411-S Flood System)中で、部分的に充填した型の光重合を4分間実施して、PEGDMAヒドロゲルを形成した。次いで、リン酸カルシウム分散液を、架橋したPEGDMAヒドロゲル上に添加して、上記型を満たした。Mylarフィルムで上記充填済み型を再び覆った。リン酸カルシウム分散液の光重合を再び同じ条件で実施して、PEGDMAヒドロゲルの最下層、および鉱物化PEGDMAヒドロゲルの最上層を有する、複合ヒドロゲルを形成した。
上記型をリン酸カルシウム分散液で完全に充填し架橋して鉱物化ヒドロゲルを形成したこと以外は、上記に記載の方法で第1の対照サンプルを調製した。上記型を、10重量%光開始剤入りPEGDMA溶液で完全に充填し架橋して、PEGDMAヒドロゲルを形成したこと以外は同じ方法で、第2の対照サンプルを形成した。
図6A〜Bは、上記に記載のとおりに形成した数個のサンプルの写真を示す。サンプル1および2は、それぞれ第1および第2の対照サンプルの写真である。サンプル3および4は、異なる厚さの鉱物化PEGDMAヒドロゲル層およびPEGDMAヒドロゲル層を有する、2層複合ヒドロゲルである。
図6Bは、鉱物化PEGDMAヒドロゲルの最上層およびPEGDMAヒドロゲルの最下層を有する2層サンプルの拡大写真を示す。
別法として、最初にリン酸カルシウム分散液を上記型に添加し光重合し、次いでPEGDMA溶液を添加し光重合すること以外は実施例5において上に記載のとおりに調製して、最下層が鉱物化PEGDMAヒドロゲル、かつ最上層がPEGDMAヒドロゲルの重層構造ヒドロゲルが得られる。
(実施例6)
実施例1のとおりに、FTIR、XRDおよびSEMで実際に示された非晶質リン酸カルシウムを得るための、カルシウムおよびリン酸濃度とpH制御とを用いて、ヒドロゲルを含まないリン酸カルシウム鉱物を調製する。次いで、上記非晶質リン酸カルシウムを、上に記載のとおりに適切なpH調節を用いて、カルシウム欠損アパタイトに変換することができる。別法として、上に記載のとおりに、FTIR、XRDおよびSEMで実際に示されたカルシウム欠損アパタイトを得るための、Caおよびリン酸濃度とpH制御とを用いる以外は実施例1のとおりに、ヒドロゲル無しのリン酸カルシウム鉱物を調製することができる。
(実施例7)
実施例2により、第1および第2の混合物を調製し、これらを混合する。架橋の前に、リン酸カルシウム分散液をリン酸緩衝生理食塩溶液(pH約7.4)と最大約24時間混合し、非晶質リン酸カルシウムが、カルシウム欠損アパタイトおよび/またはその他の結晶性リン酸カルシウムへ所望の変換をするまで、乾燥させたサンプルをFTIR、XRDおよびSEMで定期的に試験する。また、サンプルの内部の微細構造を、光学顕微鏡法または同様の方法を用いて確める。さらに、サンプルの機械的性質を、ASTM標準規格による通常の機械的試験手順を用いて試験する。
(実施例8)
実施例2にしたがって、第1および第2の混合物を調製する。実施例3に記載のとおり、分配ガンに接続された3/16インチチップを有するDUO-PAK(登録商標)カートリッジ中に、各混合物を別々に装入する。第1および第2の混合物を、上記分配ガンからスタティックミキサーを通して、型またはペトリ皿中に分配する。物理的または化学架橋により架橋し、光学顕微鏡法、XRD、FTIRおよびSEMを用いて、上記ヒドロゲルの特性を明らかにする。
(実施例9)
PEGDMA 0.28gおよびIRGACURE(登録商標)2959ブランドの光開始剤0.0003g(PEGDMAマクロマーに対して約1重量%)を、0.1M CaCl2溶液1.0mL中に溶解することにより第3の混合物を調製すること以外は実施例5に記載のように重層構造のヒドロゲルを調製する。0.067M Na2HPO4溶液1.0mLも調製して、第4の混合物を形成する。第4の混合物を、磁力撹拌プレートで中程度の撹拌(0〜10の目盛で3〜4)をしながら、一滴ずつ第3の混合物に添加して、追加のリン酸カルシウム分散液を形成する。この追加のリン酸カルシウム分散液を、実施例5に記載の予め形成した2層ヒドロゲルの上から、型中に充填する。次いで、上記型をMylarフィルムで覆い、実施例5に記載の条件下で光重合させて、最上2層がリン酸カルシウム濃度勾配を提供する3層ゲルを形成する。別法として、最下2層がリン酸カルシウム濃度勾配を形成し、最上層がPEGDMAゲルになるように、これらの層の順序を変えることができる。
本発明をその1つまたは複数の実施形態の記載により例示し、これらの実施形態をかなり詳細に記載したが、これらは、添付の特許請求の範囲の範囲を、このような詳細にまで、制限、または何ら限定するものではない。追加の利点および変更形態は、当分野の技術者は容易に思いつくであろう。したがって、本発明はそのより広い態様において、提示し、記載した、個々の詳細、代表的な器具および方法、ならびに例示的な実施例に限定されない。したがって、本発明の一般的な概念の範囲から逸脱することなく、このような詳細から新しい試みがなされてもよい。
Fig.1は、本発明の一実施形態による鉱物化ヒドロゲルの形成方法を示すフローチャートである。 Fig.2A及びFig.2Bは、本発明の一実施形態による鉱物化ヒドロゲルを送達するための器具を示す図である。 Fig.3A及びFig.3Bは、実施例1により形成されたサンプルのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルである。 Fig.4A及びFig.4Bは、実施例1により形成されたサンプルの走査型顕微鏡(SEM)写真である。 Fig.5A〜5Cは、実施例4により形成されたサンプルの写真である。 Fig.6A及びFig.6Bは、実施例5により形成されたサンプルの写真である。
符号の説明
22 シリンジ
24 プランジャー
26 カニューレ
28 仕切板
30 溜め
32 溜め
34 ボタン
38 チャネル
36 軸

Claims (27)

  1. 鉱物化ヒドロゲルの調製方法であって、
    カルシウム誘導体を含む第1の混合物、およびリン酸誘導体を含む第2の混合物を調製するステップであって、前記第1および第2の混合物の少なくとも1つが、少なくとも1種のヒドロゲル前駆体をさらに含むステップと;
    前記第1の混合物および前記第2の混合物を一緒にして、少なくとも1種のヒドロゲル前駆体を含むリン酸カルシウム分散液を形成するステップと;
    前記リン酸カルシウム分散液中の前記ヒドロゲル前駆体を架橋して、前記鉱物化ヒドロゲルを形成するステップとを含む方法。
  2. 前記カルシウム誘導体が、無水または水和カルシウム材料であり、前記リン酸誘導体が、無水または水和リン酸塩材料である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記カルシウム誘導体が、CaCl2またはCa(NO3)2から選択される、請求項2に記載の方法。
  4. 前記リン酸誘導体が、K2HPO4、Na2HPO4または(NH4)2HPO4から選択される、請求項2に記載の方法。
  5. 前記ヒドロゲル前駆体が、
    ヒドロゲルから誘導される前駆体;
    ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(グリコール)、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、加水分解されたポリ(アクリロニトリル)、ポリ(エチレンイミン)、エトキシ化ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)の、モノマー、マクロマー、オリゴマー、ホモポリマーまたはコポリマー;
    キトサン、アガロース、ヒアルロン酸、コラーゲンまたはゼラチンから選択される生体高分子;
    (半)相互侵入網目構造ヒドロゲル;
    ペプチド、タンパク質、カルシウム、またはリン酸で修飾されたモノマー、オリゴマー、マクロマー、またはポリマー;
    合成ポリペプチドヒドロゲル;
    あるいはこれらの誘導体、組合せ、またはブレンド、
    の1種または複数から選択される、請求項1の方法。
  6. 前記第1の混合物が、0.1mMおよび5Mの間のカルシウム誘導体を含み、前記第2の混合物が、0.1mMおよび5Mの間のリン酸誘導体を含む、請求項1に記載の方法。
  7. 前記リン酸カルシウム分散液におけるカルシウムイオンとリン酸イオンの比が、約1:1および約2:1の間である、請求項1に記載の方法。
  8. 前記ヒドロゲル前駆体が、前記リン酸カルシウム分散液を形成する前に、前記第1および第2の各混合物に添加される、請求項1に記載の方法。
  9. 前記第1および第2の混合物が、同一または異なるヒドロゲル前駆体を含む、請求項8に記載の方法。
  10. 光開始剤が、前記第1の混合物、前記第2の混合物、または前記リン酸カルシウム分散液に添加され、前記架橋ステップが、光開始ステップを含む、請求項1に記載の方法。
  11. 前記架橋ステップが、光開始ステップ、化学架橋ステップ、物理架橋ステップ、照射ステップ、またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
  12. 前記リン酸カルシウム分散液または前記鉱物化ヒドロゲルのpHまたは温度を調節するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
  13. 前記一緒にするステップおよび架橋ステップの少なくとも1つが、患者の生理的部位で実施される、請求項1に記載の方法。
  14. ヒドロゲル内に均一に分配された、ヒドロゲルおよびリン酸カルシウム鉱物を含む鉱物化ヒドロゲル。
  15. 前記リン酸カルシウム材料が、カルシウム欠損アパタイト、ヒドロキシアパタイト、非晶質リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸三カルシウム、またはこれらの組合せを含む、請求項14に記載の鉱物化ヒドロゲル。
  16. 前記リン酸カルシウム鉱物が、F-、Cl-、Na+、K+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、HPO4 2-、CO2 3-、またはSO4 2-、あるいはこれらの誘導体または組合せから選択される1種または複数のイオンを含む、請求項14に記載の鉱物化ヒドロゲル。
  17. リン酸カルシウム材料が、前記ヒドロゲルの少なくとも一領域内に均一に分配された鉱物化ヒドロゲルを含むインプラント可能な物品。
  18. 前記物品が、インプラント、インプラントコーティング、骨移植、歯科用修復材料、組織工学の足場、または組織接着剤である、請求項17に記載のインプラント可能な物品。
  19. 前記鉱物化ヒドロゲルが、リン酸カルシウム鉱物濃度勾配を含む、請求項17に記載のインプラント可能な物品。
  20. 前記鉱物化ヒドロゲルが、リン酸カルシウム鉱物を含まない少なくとも1つのヒドロゲル層を含む、請求項17に記載のインプラント可能な物品。
  21. 薬物、成長因子、タンパク質担体コーティング、およびこれらの組合せをさらに含む、請求項17に記載のインプラント可能な物品。
  22. 患者の生理的部位に鉱物化ヒドロゲルを形成する方法であって、
    カルシウム誘導体を含む第1の混合物と、リン酸誘導体を含む第2の混合物を一緒にすることによりリン酸カルシウム分散液を調製するステップであって、前記第1および第2の混合物の少なくとも1つが、少なくとも1種のヒドロゲル前駆体をさらに含むステップと;
    前記リン酸カルシウム分散液、または前記第1および第2の混合物のいずれかを、前記患者の生理的部位に送達するステップと;
    前記リン酸カルシウム分散液を、前記生理的部位において架橋して、鉱物化ヒドロゲルを形成するステップとを含む方法。
  23. 前記鉱物化ヒドロゲルが、インプラント、移植片、または接着剤である、請求項22に記載の方法。
  24. 前記送達ステップが、第1および第2の混合物を前記生理的部位に送達するステップを含み、前記調製ステップが前記生理的部位において生じる、請求項22に記載の方法。
  25. 前記架橋ステップが、化学架橋または照射架橋ステップを含む、請求項22に記載の方法。
  26. 鉱物化ヒドロゲルを調製する方法であって、
    カルシウム誘導体を含む第1の混合物、およびリン酸誘導体を含む第2の混合物を調製するステップであって、前記第1および第2の混合物が少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含むステップと;
    鉱物化ヒドロゲルを形成する条件下で、前記第1の混合物および第2の混合物を一緒にするステップとを含む方法。
  27. 前記一緒にするステップが、前記ヒドロゲル前駆体を架橋するステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
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