本発明の第1の態様に従えば、所定方向に配列された複数の第1ノズルを有する第1の液滴噴射ヘッドと、前記第1の液滴噴射ヘッドに対して前記所定方向に移動可能な可動体と、この可動体を前記所定方向に駆動する駆動機構と、前記可動体の前記所定方向に関する位置を検出する位置検出器と、前記可動体に設けられ、この可動体と共に前記所定方向に移動しつつ前記複数の第1ノズルの各々における液滴の噴射状態を検出する噴射状態検出器と、を有する液滴噴射装置が提供される。
この構成によれば、噴射状態検出器を、可動体と一体的に第1ノズルの配列方向に移動させることにより、全ての第1ノズルの噴射状態を検出することができるため、噴射異常が生じている第1ノズルを特定することができる。また、噴射状態検出器が全ての第1ノズルに対してそれぞれ設けられている場合と比べて、その構成が簡単になり、また、部品点数も減るため、液滴噴射装置の製造コストを低減できる。
本発明の液滴噴射装置において、前記噴射状態検出器は、前記所定方向と交差する方向に光を出射する発光素子と、この発光素子からを受光する受光素子とを有してもよく、前記発光素子から前記受光素子に対して出射された光が、前記第1ノズルから噴射された液滴により遮断される構成であってもよい。この構成によれば、発光素子から、第1ノズルの配列方向と交差するように光が出射されるため、発光素子からの光が液滴に瞬間的に遮断されるか否かによって、各ノズルに、ノズル配列方向への噴射方向の曲がり(着弾位置のずれ)が生じているかどうかを容易且つ確実に検出できる。
本発明の液滴噴射装置において、前記第1の液滴噴射ヘッドは、前記複数の第1ノズルの出射口が前記所定方向に配列された液滴噴射面を有してもよく、さらに、前記液滴噴射面のうちの一部の第1ノズルの前記出射口付近のみを覆うパージキャップと、このパージキャップにより覆われた前記第1ノズルの出射口から液体を強制的に排出させる強制排出器とを備えてもよく、前記パージキャップは、前記可動体に設けられてこの可動体と一体的に前記所定方向に移動可能であってもよい。
噴射異常の第1ノズルを含む一部の第1ノズルのみをパージキャップで覆い、これら一部の第1ノズルのみについて、強制的に液体を排出させてパージすることができるため、噴射状態が正常な他のノズルについてパージする必要がない。また、噴射異常のノズルをパージしたときに、その第1ノズルから排出された液体が、パージキャップで覆われていない他のノズルの出射口付近に付着することはなく、他のノズルに噴射異常が引き起こされるのを防止できる。さらに、パージキャップは、噴射状態検出器とともに可動体に設けられているため、噴射異常の第1ノズルの位置までパージキャップを移動させるための駆動機構及び位置検出器を設ける必要がなく、構成が簡単になる。
本発明の液滴噴射装置において、前記噴射状態検出器により、ある第1ノズルの液滴の噴射状態が異常であることが検出されたときに、前記パージキャップは、前記液滴噴射面のうちの、異常が検出された前記第1ノズルの出射口を含む領域を覆ってもよい。この構成によれば、ある第1ノズルの液滴の噴射状態が異常であることが検出されたときに、そのノズルをすぐにパージして噴射異常を回復させることができる。したがって、噴射異常の検出動作及び回復動作を含むメンテナンス全体にかかる時間が短くなる。
本発明の液滴噴射装置において、前記パージキャップの前記所定方向における幅をW、前記第1ノズルの前記所定方向に関するピッチをPとしたときに、W=nP(nは自然数)の関係が成立してもよい。この構成によれば、パージキャップが一部の第1ノズルの出射口を覆うときに、パージキャップの縁が、前記一部の第1ノズルに隣接する第1ノズルに干渉するのを防止できる。
本発明の液滴噴射装置において、前記可動体には、前記パージキャップを、前記液滴噴射面を覆うパージ位置と前記液滴噴射面から離れたパージ準備位置との間で移動させるキャップ駆動機構が設けられてもよく、前記噴射状態検出器により何れかの前記第1ノズルの噴射状態が検出されているときには、前記パージキャップは前記パージ準備位置にあり、さらに、前記可動体は、前記キャップ駆動機構により駆動された前記パージキャップが前記パージ準備位置から前記パージ位置に移動したときに、検出中の前記第1ノズルの出射口を覆う位置にあってもよい。この構成によれば、ある第1ノズルの噴射状態の異常が検出されたときに、可動体を移動させることなくパージキャップをパージ準備位置からパージ位置へ移動させるだけで、異常が検出されたノズルをパージすることができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記噴射状態検出器は、前記強制排出器により前記パージキャップに覆われた前記第1ノズルから液体が強制的に排出された後に、この第1ノズルにおける液滴の噴射状態を再度検出し得る。この構成によれば、噴射状態が異常なノズルをパージした後に、そのノズルが異常状態から回復したかどうかを確認することができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記可動体に、前記液滴噴射面に付着した液体を拭き取るワイパーが設けられていてもよい。この構成によれば、ノズルをパージした後に可動体を移動させることにより、液滴噴射面に付着した液滴をワイパーにより拭き取ることができるため、ワイパーを液滴噴射面に対して移動させるための構成が不要になる。
本発明の液滴噴射装置において、1又は複数の第2ノズルを有し、前記所定方向に移動可能な第2の液滴噴射ヘッドと、この第2の液滴噴射ヘッドを前記所定方向に駆動するヘッド駆動機構と、前記第2の液滴噴射ヘッドの前記所定方向に関する位置を検出するヘッド位置検出器とを備えてもよく、前記噴射状態検出器により、ある第1ノズルの液滴の噴射状態が異常であることが検出されたときには、前記第2の液滴噴射ヘッドをその第1ノズルに対応する位置へ移動させ、その第1ノズルの代わりに前記第2ノズルから液滴を噴射させてもよい。この構成によれば、ある第1ノズルの噴射状態が異常である場合に、第2の液滴噴射ヘッドをその第1ノズルに対応する位置へ移動させて、この第1ノズルの代わりに第2の液滴噴射ヘッドの第2ノズルから液滴を噴射させることができる。
本発明の第2の態様に従えば、所定方向に配列された複数のノズルを有する液滴噴射ヘッドと、前記液滴噴射ヘッドに対して前記所定方向に移動する可動体と、を備え、前記可動体は、前記複数のノズルにおける液滴の噴射状態を検出する検出器と、前記ノズルの出射口を覆うパージキャップと、を有する液滴噴射装置が提供される。
本発明の液滴噴射装置において、前記検出器は、前記所定方向と交差する方向に光を出射する発光素子と、この発光素子からを受光する受光素子とを有してもよく、前記発光素子から前記受光素子に対して出射された光が、前記ノズルから噴射された液滴により遮断されてもよい。
本発明の液滴噴射装置において、前記パージキャップは、前記検出器により異常が検出された前記ノズルの出射口を含む領域を覆ってもよい。また、前記パージキャップにより覆われた前記ノズルの出射口から、液体を強制的に排出させる強制排出器をさらに備えてもよい。このような構成により、噴射異常のノズルを含む一部のノズルのみをパージキャップで覆い、これら一部のノズルのみについて、強制的に液体を排出させてパージすることができるため、噴射状態が正常な他のノズルについてパージする必要がなくなる。また、噴射異常のノズルをパージしたときに、そのノズルから排出された液体が、パージキャップで覆われていない他のノズルの出射口付近に付着することはなく、他のノズルに噴射異常が引き起こされるのを防止できる。
本発明の液滴噴射装置において、前記可動体には、前記液滴噴射ヘッドに付着した液体を拭き取るワイパーが設けられてもよい。この構成によれば、ノズルをパージした後に可動体を移動させることにより、液滴噴射面に付着した液滴をワイパーにより拭き取ることができるため、ワイパーを液滴噴射面に対して移動させるための構成が不要になる。
本発明の第3の態様に従えば、所定方向に配列された複数のノズルを有する液滴噴射ヘッドに沿って検出器を移動させながら、前記ノズルの異常を検出することと、前記異常が検出されたノズルをパージキャップでカバーしてパージすることを含む、液滴噴射ヘッドの回復方法が提供される。
本発明の液滴噴射ヘッドの回復方法において、前記異常が検出されたノズルをパージした後に、そのノズルにおける液滴の噴射状態を再度検出することを含んでもよい。こうすることで、噴射状態が異常なノズルをパージした後に、そのノズルが異常状態から回復したかどうかを確認することができる。
本発明の液滴噴射ヘッドの回復方法において、前記検出器は、前記所定方向と交差する方向に光を出射する発光素子と、この発光素子からを受光する受光素子とを含んでもよい。
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、液滴噴射装置として、記録用紙に対してインクを噴射するライン型のインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタに本発明を適用した一例である。
まず、本実施形態のインクジェットプリンタ100の概略構成について説明する。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、記録用紙6の幅方向(走査方向:図1の左右方向)に延び且つその両端においてプリンタ本体5に支持されたライン型のインクジェットヘッド1(第1の液滴噴射ヘッド)と、記録用紙6を図1の前方へ搬送する搬送ローラ2と、インクジェットプリンタ100全体の制御を司る制御装置3(図9参照)などを備えている。インクジェットヘッド1は、チューブ7を介してインクタンク4から供給されたインクを、走査方向に配列された複数のノズル20(図2〜図5参照)から記録用紙6に対して噴射して、所望の文字や画像を記録用紙Pに記録する。また、インクジェットヘッド1により記録された記録用紙6は、搬送モータ8(図9参照)により回転駆動される搬送ローラ2により前方(紙送り方向)へ排出される。
次に、インクジェットヘッド1について説明する。図2〜図5に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズル20及び圧力室14を含むインク流路が形成された流路ユニット200と、この流路ユニット200の上面に配置されて、圧力室14内のインクに噴射圧力を付与する圧電アクチュエータ300とを備えている。
まず、流路ユニット200について説明する。図4、図5に示すように、流路ユニット200はキャビティプレート10、ベースプレート11、マニホールドプレート12、及びノズルプレート13を備えており、これら4枚のプレート10〜13が積層状態で接合されている。このうち、キャビティプレート10、ベースプレート11及びマニホールドプレート12はステンレス鋼製の板である。これら3枚のプレート10〜12に、後述するマニホールド17や圧力室14等のインク流路が、エッチングにより容易に形成される。また、ノズルプレート13は、例えば、ポリイミド等の高分子合成樹脂材料により形成され、マニホールドプレート12の下面に接着される。あるいは、このノズルプレート13も、3枚のプレート10〜12と同様にステンレス鋼等の金属材料で形成されていてもよい。
図2〜図5に示すように、4枚のプレート10〜13のうち、最も上方に位置するキャビティプレート10には、平面に沿って配列された複数の圧力室14が貫通孔状に形成される。これら複数の圧力室14は上下両側から後述の振動板30及びベースプレート11によりそれぞれ覆われている。また、複数の圧力室14は、走査方向(図2の左右方向)に4列に配列されている。各圧力室14は、平面視で紙送り方向(図2の上下方向)に長い、略楕円形状に形成されている。
ベースプレート11の、平面視で圧力室14の両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔15,16が形成されている。また、マニホールドプレート12には、走査方向(図2の左右方向)に延びる3つのマニホールド17が形成されている。これらマニホールド17は、平面視で、走査方向に配列された複数の圧力室14と部分的に重なっている。さらに、このマニホールド17は、後述の振動板30に形成されたインク供給口18に連通しており、インクタンク4(図1参照)からインク供給口18を介してマニホールド17へインクが供給される。また、マニホールドプレート12の、平面視で複数の圧力室14のマニホールド17と反対側の端部と重なる位置には、それぞれ、複数の連通孔16に連なる複数の連通孔19も形成されている。
さらに、ノズルプレート13の、平面視で複数の連通孔19にそれぞれ重なる位置には、複数のノズル20が形成されている。図2に示すように、複数のノズル20は、4列に配列された複数の圧力室14のマニホールド17と反対側の端部とそれぞれ重なっており、3つのマニホールド17の間の領域において、走査方向(図2の左右方向)に4列に配列されている。さらに、図2に示すように、隣接するノズル20の列の間で、配列方向に関するノズル20の位置はPだけずれている。つまり、紙送り方向から見ると、4列に配列された複数のノズル20はピッチPで配置されている(図7参照)。尚、ノズルプレート13の下面は、複数のノズル20の出射口25が走査方向に配列された液滴噴射面1aとなっている。また、図4、図5に示すように、各ノズル20は先細り形状に形成されており、その軸線は鉛直方向に平行である。そのため、ノズル20が正常であれば、液滴は鉛直方向下方に噴射される。
そして、図4に示すように、マニホールド17は連通孔15を介して圧力室14に連通し、さらに、圧力室14は、連通孔16,19を介してノズル20に連通している。このように、流路ユニット200内には、マニホールド17から圧力室14を経てノズル20に至る個別インク流路21が複数形成されている。
次に、圧電アクチュエータ300について説明する。図2〜図5に示すように、圧電アクチュエータ300は、流路ユニット200の上面に配置された振動板30と、この振動板30の上面に複数の圧力室14に跨って連続的に形成された圧電層31と、この圧電層31の上面に複数の圧力室14にそれぞれ対応して形成された複数の個別電極32とを有する。
振動板30は、平面視で略矩形状の金属材料からなる導電性を有する板であり、例えば、ステンレス鋼等の鉄系合金、銅系合金、ニッケル系合金、あるいは、チタン系合金などからなる。この振動板30は、キャビティプレート10の上面に複数の圧力室14を覆うように配設されて、接合されている。また、この振動板30は常にグランド電位に保持されており、複数の個別電極32に対向して個別電極32と振動板30との間の圧電層31に厚み方向の電界を作用させる共通電極を兼ねている。
振動板30の上面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電層31が形成されている。この圧電層31は、複数の圧力室14に跨って連続的に形成されている。この圧電層31は、例えば、超微粒子材料を高速で衝突させて堆積させるエアロゾルデポジション法(AD法)を用いて形成できる。その他、ゾルゲル法、スパッタ法、水熱合成法、あるいは、CVD(化学蒸着)法を用いることもできる。さらに、PZTのグリーンシートを焼成することにより得られた圧電シートを振動板30の表面に貼り付けて圧電層31を形成することもできる。
圧電層31の上面には、圧力室14よりも一回り小さい略楕円形の平面形状を有する複数の個別電極32が形成されている。これら個別電極32は、平面視で対応する圧力室14の中央部に重なる位置にそれぞれ形成されている。また、個別電極32は金、銅、銀、パラジウム、白金、あるいは、チタンなどの導電性材料からなる。さらに、複数の個別電極32の一端部(マニホールド17側の端部)からは、それぞれ個別電極32の長軸方向に複数の接点部35が引き出されている。そして、これら複数の接点部35には、フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)等の可撓性を有する配線部材(図示省略)の接点が接合される。複数の個別電極32は、この配線部材を介して、複数の個別電極32に対して選択的に駆動電圧を供給するドライバIC22(図9参照)と電気的に接続されている。尚、複数の個別電極32及び複数の接点部35は、例えば、スクリーン印刷、スパッタ法、あるいは、蒸着法等により形成することができる。
次に、インク噴射時における圧電アクチュエータ300の作用について説明する。複数の個別電極32に対してドライバIC22から選択的に駆動電圧が印加されると、駆動電圧が印加された圧電層31上側の個別電極32とグランド電位に保持されている圧電層31下側の共通電極としての振動板30の電位が異なる状態となり、個別電極32と振動板30の間に挟まれた圧電層31に厚み方向の電界が生じる。ここで、圧電層31の分極方向と電界の方向とが同じ場合には、圧電層はその分極方向である厚み方向に伸びて水平方向に収縮する。そして、この圧電層31の収縮変形に伴って振動板30が圧力室14側に凸となるように変形するため、圧力室14内の容積が減少して圧力室14内のインクに圧力が付与され、圧力室14に連通するノズル20からインクの液滴が噴射される。
ところで、ライン型のインクジェットヘッド1は紙送り方向と直交する方向に多数のノズル20を有するため、何れかのノズル20に塵やエア等が混入して、そのノズル20から液滴を噴射できなくなったり(インクの不吐出)、あるいは、液滴の噴射方向が曲がって着弾位置がずれたりするなどして噴射異常が生じやすい。このように、噴射異常のノズル20がある状態で記録用紙6に記録を行うと、記録された画像等に白すじが生じるなど印字品質が低下することから、本実施形態のインクジェットプリンタ100は、噴射異常のノズル20の出射口25から強制的にインクを排出させて(ノズルパージ)、その噴射異常を回復するメンテナンス動作を行うことが可能に構成されている。
ここで、従来のインクジェットプリンタにおけるノズルパージは、インクジェットヘッドの液滴噴射面に、全てのノズルの出射口を覆うようにパージキャップを取り付けてから、これら全てのノズルから一斉にパージキャップへインクを排出させるのが一般的である。しかし、このようなパージ方法では、あるノズルから排出されて泡立ったインクが、噴射状態が正常な(パージが不要な)別のノズルの出射口付近に付着し、さらに、インク流路の上流に負圧が発生したときにこのインクがノズル内に吸い込まれて、噴射異常が正常であったノズル内にエアが混入して噴射異常が生じてしまうおそれがあった。つまり、噴射異常のノズルをパージしてその噴射状態を回復させたとしても、そのパージによって、噴射状態が正常な別のノズルに噴射異常を生じさせてしまうことになっていた。
そこで、本実施形態のインクジェットプリンタ100は、噴射状態が異常なノズル20を特定し、その異常なノズル20を含む一部のノズル20のみをパージすることが可能に構成されている。
図6、図7に示すように、インクジェットヘッド1の直下の位置には、液滴噴射面1aに対向する可動体40が、インクジェットヘッド1に対して走査方向(ノズル20の配列方向)にガイド軸41に沿って移動可能に配設されており、この可動体40は、可動体駆動モータ42(駆動機構:図9参照)により走査方向に駆動される。また、走査方向に平行なスケール43aを含み、可動体40の走査方向の位置を検出するリニアエンコーダ43(位置検出器:図9参照)も設けられている。尚、インクジェットヘッド1のノズル20から記録用紙6に対してインクを噴射して記録する際には、この可動体40は、記録用紙6の搬送経路に対して走査方向一方側(図6の右側)の待機位置において待機している。一方、インクジェットプリンタ100の制御装置3(図9参照)に対してメンテナンスの指令が入力されたときには、可動体40は待機位置から記録用紙6の搬送経路を横切るように左方へ移動する。
可動体40の上部には、複数のノズル20の各々における液滴の噴射状態を検出する噴射状態検出部44(噴射状態検出器)が設けられている。この噴射状態検出部44は、可動体40の後端部に位置する壁部40aに設けられ、前方(ノズル配列方向と直交する方向)にレーザー光を出射する発光素子44aと、可動体40の前端部に位置する壁部40bに設けられ、発光素子44aから出射されたレーザー光を受光する受光素子44bを有する。発光素子44aと受光素子44bは、可動体40と一体的に走査方向に移動可能である。そして、あるノズル20の直下(ノズル20の軸線の延長線上)に可動体40が位置している状態で、このノズル20から正常に(鉛直方向下方に)液滴が噴射されると、発光素子44aから前方へ出射されたレーザー光は鉛直方向下方に噴射された液滴により瞬間的に遮断されるので、受光素子44bによる受光が途切れることになり、このノズル20の噴射状態が正常であることが検出される。一方、このノズル20から液滴が噴射されなかった場合や、液滴の噴射方向が走査方向に曲がっている場合は、発光素子44aから前方へ出射されたレーザー光が液滴に遮断されず、受光素子44bによる受光が途切れないため、このノズル20の噴射状態が異常であることが検出される。従って、これらの一連の動作を全てのノズル20に関して行うことにより、噴射状態が異常であるノズル20を特定することが可能になる。
さらに、可動体40の2つの壁部40a,40bの間の中央部に位置する凹部40cには、前後方向(紙送り方向)に長い平面視矩形状のパージキャップ45が設けられており、このパージキャップ45は可動体40と一体的に走査方向に移動可能である。また、可動体40には、パージキャップ45を上下に駆動するキャップ駆動モータ46(キャップ駆動機構:図9参照)が設けられている。パージキャップ45はキャップ駆動モータ46により駆動されて、液滴噴射面1aに接触する上方のパージ位置(図7の破線の位置)から、液滴噴射面1a下方の凹部40cに収まるパージ準備位置(図7の実線の位置)まで移動可能に構成されている。尚、パージキャップ45は、液滴噴射面1aに確実に密着できるように、合成樹脂材料やゴム材料等のある程度の可撓性を有する材料により形成されている。
図6に示すように、パージキャップ45の長手方向(紙送り方向)の長さはインクジェットヘッド1よりも長くなっている。また、図8に示すように、パージキャップ45の幅(走査方向の長さ)Wは、紙送り方向から見たときのノズル20(図8の一点鎖線の位置)のピッチPの3倍、即ち、W=3Pとなっている。そして、パージキャップ45がパージ位置にあるときには、走査方向にピッチPを空けて隣接する3つのノズル20の出射口25付近の領域のみがパージキャップ45に覆われる。さらに、このとき、パージキャップ45の走査方向中央部は、このパージキャップ45が覆う3つのノズル20のうちの中央のノズル20の直下の位置にある。そのため、図8に示すように、パージ位置にあるパージキャップ45の縁が、このパージキャップ45が覆う3つのノズル20の走査方向両側に隣接する2つのノズル20の出射口25と重なって干渉することはない。
また、図6、図7に示すように、パージキャップ45には、チューブ47を介して吸引ポンプ48(強制排出器:図9参照)が接続されている。そして、パージキャップ45がパージ位置にある状態で、吸引ポンプ48によりパージキャップ45で覆われた3つのノズル20内のインクを吸引することにより、これらのノズル20からパージキャップ45へインクを強制的に排出させるようになっている。
さらに、以上説明した可動体40、噴射状態検出部44、パージキャップ45、及び、吸引ポンプ48などにより、噴射状態が異常であるノズル20を特定して、さらに、その噴射異常のノズル20をパージする一連のメンテナンス動作は、インクジェットプリンタ100全体の制御を司る制御装置3により制御される。
まず、この制御装置3の構成について図9のブロック図を参照して簡単に説明する。制御装置3は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、インクジェットプリンタ100の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等からなる。
この制御装置3は、PC等の入力装置60から入力された印字データに基づいてインクジェットヘッド1のインク噴射動作を制御するヘッド制御部50と、入力装置60から入力された印字データに基づいて搬送モータ8による記録用紙6の搬送動作を制御する用紙搬送制御部51を有する。また、リニアエンコーダ43から入力された可動体40の位置情報に基づいて可動体駆動モータ42を制御して可動体40を移動させるとともに、キャップ駆動モータ46及び吸引ポンプ48を制御して噴射状態検出部44で噴射異常が検出されたノズル20をパージするという、一連のメンテナンス動作を制御するメンテナンス制御部52などを備えている。尚、これらヘッド制御部50、用紙搬送制御部51、及び、メンテナンス制御部52は、それぞれ、CPU、ROM、RAM、及び、これらを接続するバスなどにより構成されている。
次に、主にメンテナンス制御部52により行われるメンテナンス制御について、図10のフローチャートと図11〜図14を参照して詳細に説明する。尚、以下の説明におけるSi(i=10,11,12・・・)は図10のフローチャートの各ステップを示している。本実施形態のインクジェットヘッド100のメンテナンス動作では、パージキャップ45が一度に覆うことができる3つのノズル20からなるノズル20の組ごとに噴射状態の検出を行い、各ノズル組の3つのノズル20のうち少なくとも1つのノズル20の噴射状態が異常であると検出されたときに、そのノズル組の3つのノズル20に対して同時にパージする。
このメンテナンス制御は、白すじの発生などの印字不良が生じていることが使用者の目視により確認されたときなどに、PC等の入力装置60からメンテナンス制御部52にメンテナンス指令が入力されて実行される。まず、可動体駆動モータ42を制御して、記録用紙6の搬送経路に対して走査方向一方側(図11の右側)の待機位置にある可動体40を、図11(a)に示すように、最初の(最も右側に位置する)ノズル組に属する右端のノズル20aの直下の位置に移動させてから(S10)、発光素子44aからレーザー光を前方に出射させる(S11)。そして、この最初のノズル組の3つのノズル20(20a〜20c)からそれぞれインクを噴射させて、これら3つのノズル20a〜20cの噴射状態をそれぞれ検出する(S12)。
即ち、可動体40が右端のノズル20の直下に位置している状態で、まず、メンテナンス制御部52からの指令を受けたヘッド制御部50によりドライバIC22を制御してノズル20aからインクを噴射させる。ここで、図11(a)に示すように、このノズル20aからはその軸線に沿って鉛直下方へ正常にインクが噴射される。この場合、発光素子44aから出射されたレーザー光が液滴に瞬間的に遮られて受光素子44bに到達しなくなることから、このノズル20aの噴射状態が正常であることが検出される。尚、このとき、パージキャップ45は液滴噴射面1aから離れたパージ準備位置にあり、レーザー光がパージキャップ45に干渉されることはない。また、ノズル20から噴射された液滴はパージ準備位置にあるパージキャップ45により受け止められる。次に、可動体駆動モータ42により可動体40をピッチPだけ左方へ移動させて中央のノズル20bの直下に位置させてから、ノズル20bからインクを噴射させると、図11(b)に示すように、このノズル20bからも鉛直下方にインクが噴射され、噴射状態検出部44により噴射状態が正常であることが検出される。さらに、可動体40をピッチPだけ左方へ移動させて左端のノズル20cの直下に位置させてから、ノズル20cからインクを噴射させると、図11(c)に示すように、このノズル20cからも鉛直下方にインクが噴射され、噴射状態検出部44により噴射状態が正常であることが検出される。
このように、ノズル組の3つのノズル20a〜20cの噴射状態が全て正常であると検出された場合には(S13:Yes)、これらのノズルをパージする必要はなく、また、全ノズル20の噴射状態検出が完了していないことから(S14:No)、次のノズル組の右端のノズル20dの位置に可動体40を移動させる(S15)。
次に、図12(a)〜(c)に示すように、前述した最初のノズル組の場合と同様にして、噴射状態検出部44により2番目のノズル組の3つのノズル20(20d〜20f)の噴射状態をそれぞれ検出する(S12)。ここで、図12(a)に示すように、右端のノズル20dからはインクが鉛直下方に噴射されており、このノズル20dの噴射状態は正常であると検出される。しかし、図12(b)に示すように、中央のノズル20eにおいては、インクの液滴は鉛直方向に対して左方へ曲がった(傾いた)方向に噴射されている。この場合には、発光素子44aから出射されたレーザー光が液滴に遮られず、常に受光素子44bに受光され続けることから、ノズル20eの噴射状態が異常であることが検出される。また、図12(c)に示すように、左端のノズル20fは、インクの液滴が噴射されない状態(不吐出の状態)となっている。この場合も、発光素子44aから出射されたレーザー光が液滴に遮られないため、ノズル20fの噴射状態が異常であることが検出される。
このように、3つのノズル20d〜20fの何れかの噴射状態が異常であると検出された場合には(S13:No)、以下のようにしてノズルをパージする。まず、図13に示すように、可動体駆動モータ42により可動体40を中央のノズル20eの直下の位置に移動させてから(S16)、キャップ駆動モータ46によりパージキャップ45を上方へ駆動することにより、液滴噴射面1aの3つのノズル20d〜20fの出射口25付近のみを覆い、液滴噴射面1aに接触するパージ位置へ移動させる(S17)。この状態で、パージキャップ45にチューブ47を介して接続された吸引ポンプ48によりパージキャップ45内を吸引減圧して、3つのノズル20d〜20fのそれぞれの出射口25からインクをパージキャップ45内へ強制的に排出させる(S18)。その後、キャップ駆動モータ46によりパージキャップ45を下方へ駆動して、パージ準備位置に戻す(S19)。
尚、図8に示すように、パージキャップ45の幅Wはノズル20のピッチPの3倍となっている(W=3P)。このため、パージキャップ45がパージ位置にあるときに、パージキャップ45により覆われる3つのノズル20d〜20fの両側にそれぞれ隣接する、2つのノズル20の出射口25にパージキャップ45の縁が重なって干渉することがない。したがって、このパージによって、隣接する正常な2つのノズル20にエアが混入して噴射異常が引き起されるなどの悪影響が生じることはない。
さらに、吸引ポンプ48によりパージキャップ45に覆われた3つのノズル20d〜20fからインクが強制的に排出された後に、図14(a)〜(c)に示すように、噴射状態検出部44により、これら3つのノズル20d〜20fにおける液滴の噴射状態を再度検出する(S12)。こうすることにより、噴射状態が異常なノズル20(20e,20f)をパージした後に、それらのノズル20が噴射異常から回復したかどうかを確認することができる。
そして、ノズルパージによりノズル20の噴射異常が回復したことが確認されると(S13:Yes)、可動体40を左方へ移動させて、次のノズル組の噴射状態の検出に移る。以上の一連の動作を繰り返し行い、全てのノズル20に関して噴射状態が正常であることが検出されたときには(S14:Yes)、発光素子44aからのレーザー光の出射を停止して(S20)メンテナンス制御を終了し、リターンする。
以上説明した実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、次のような効果が得られる。
噴射状態検出部44を、可動体40と一体的に走査方向(ノズル20の配列方向)に移動させることにより、全てのノズル20の噴射状態を検出することができるため、噴射異常が生じているノズル20を特定することができる。また、噴射状態検出部が全てのノズル20に対してそれぞれ設けられている場合と比べると構成が簡単であり、また、部品点数も減るため、インクジェットプリンタ100の製造コストを低減できる。
また、パージキャップ45は、可動体40と一体的に走査方向に移動し、さらに、パージ準備位置からパージ位置へ移動したときには、噴射異常のノズル20を含む3つのノズル20の出射口付近のみを覆う。従って、それら3つのノズル20についてのみパージすることができ、それ以外のノズル20についてはパージしない。また、3つのノズル20をパージしたときにこれらのノズル20から排出されたインクが、これら3つのノズル20以外の、パージキャップ45で覆われていない他のノズル20の出射口25付近に付着することがなく、ノズルパージによって引き起こされる別のノズル20の噴射異常を極力防止できる。
噴射状態検出部44の発光素子44aからは、走査方向(ノズル20の配列方向)と直交するように光が出射される。こうすることにより、印字品質に悪影響を及ぼす、走査方向への噴射方向の曲がり(着弾位置のずれ)がノズル20に生じているかどうかを、発光素子44aからの光が液滴に瞬間的に遮断されるか否かによって容易且つ確実に検出できる。
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
1]前記実施形態のインクジェットプリンタ100は、可動体40を各ノズル20の直下の位置に一旦停止させた状態で、そのノズル20からインクを噴射させてノズル20の噴射状態を検出しているが(図12参照)、図15に示すように、可動体40を連続的に移動させながら、可動体40がノズル20の直下の位置に到達するタイミングで、そのノズル20からインクを噴射させてもよい。ノズル20の噴射状態が正常である場合には、図15の実線で示すように可動体40がノズル20のほぼ直下の位置に到達したときに、噴射された液滴が発光素子44aから出射されたレーザー光を瞬間的に遮断することになる。一方、図15に示すように、ノズル20から噴射された液滴の噴射方向が鉛直方向に対して左方に曲がっている場合には、図15の破線で示すように可動体40がノズル20の直下の位置を越えてさらに左方へ移動したときに、ノズル20から噴射された液滴が発光素子44aから出射されたレーザー光を瞬間的に遮断することになる。したがって、レーザー光が遮断されたときの可動体40の位置の、ノズル20の直下の位置に対するズレ量が所定の許容ズレ量を超えたときには、そのノズル20の噴射状態が異常であると検出される。
2]前記実施形態のインクジェットプリンタ100は、パージキャップ45が一度に覆うことができる3つのノズル20からなるノズルの組ごとに噴射状態の検出を行い、各ノズル組の3つのノズル20のうち少なくとも1つのノズル20の噴射状態が異常であると検出されたときに、3つのノズル20に対して同時にパージするように構成されている(図13、図14参照)。一方、図16に示すように、あるノズル20の噴射状態が異常であると検出されたときに、すぐに、パージキャップ45を噴射異常のノズル20の出射口25を覆うようにパージ位置に移動させて、そのノズル20をすぐにパージするように構成されていてもよい。
この変更形態でも、図16(a)に示すように、可動体40がノズル20の直下に位置している状態でノズル20からインクの液滴が噴射され、液滴がレーザー光を瞬間的に遮断するか否かにより噴射状態検出部44によりノズル20の噴射状態が検出される。このとき、パージキャップ45は液滴噴射面1aから離れたパージ準備位置にある。ここで、噴射状態が異常であると検出されたときには、図16(b)に示すように、パージ準備位置にあるパージキャップ45が直ちにキャップ駆動モータ46(図9参照)により上方へ駆動されて、液滴噴射面1aの、噴射異常のノズル20の出射口25付近を覆うパージ位置へ移動するようになっている。言い換えれば、可動体40は、噴射状態検出部44が、あるノズル20の噴射状態を検出している間は、パージキャップ45をパージ準備位置から上方のパージ位置へ移動するだけでそのノズル20の出射口25を覆うことができるような位置にある。この構成によれば、あるノズル20の噴射状態の異常が検出されたときに、可動体40を走査方向に移動させることなくパージキャップ45をパージ位置に移動させるだけで、そのノズル20の出射口25をパージキャップ45で覆ってすぐにパージすることができる。したがって、ノズル20の噴射異常の検出動作及びその回復動作を含むメンテナンス動作全体にかかる時間が短くなる。
これとは逆に、噴射状態検出部44により全てのノズル20の噴射状態を検出した後に、改めて、噴射状態が異常であることが検出されたノズル20の直下の位置に可動体40を移動させて、噴射異常のノズル20のパージを行うように構成されていてもよい。
3]可動体に、ノズルパージ後に液滴噴射面に付着したインクを拭き取るワイパーが設けられていてもよい。例えば、図17に示すように、可動体40Aの、パージキャップ45よりも右側(噴射状態検出時における可動体40Aの移動方向と反対側)に、上下に延びるワイパー65が設けられている。このワイパー65は、ゴム部材等の可撓性を有する材料からなり、可動体40Aに設けられた駆動機構により上下に駆動されるようになっている。そして、あるノズル20がパージされた後に、ワイパー65を上方に駆動しその先端が液滴噴射面1aに接触した状態で、可動体40Aを左方へ移動させることにより、ノズルパージの際にノズル20の出射口25付近に付着したインクがワイパー65により拭き取られる。この構成では、ワイパー65が可動体40Aと一体的に左右方向(走査方向)に移動するので、インクを拭き取るために液滴噴射面1aに対してワイパー65を移動させるための構成が不要になる。
4]パージキャップ45がパージ位置にあるときに一度に覆うノズル20の出射口25の数は、前記実施形態の3つに限定されるものではない。但し、一度に覆う出射口25の数が多いと、噴射異常のノズル20をパージする際に、このノズル20と同時に覆われる、噴射状態が正常なノズル20の数が多くなってしまうため、これら正常なノズル20の出射口25付近に排出されたインクが付着して、噴射異常を引き起こす確率が高くなる。この点から、パージキャップ45が一度に覆う出射口25の数はできるだけ少ないことが好ましく、パージキャップ45が1つの出射口25のみを覆うことが最も好ましい。
5]前記実施形態のインクジェットプリンタ100は、ライン型インクジェットヘッド1の何れかのノズル20の噴射状態が異常であるときにこのノズル20をパージするように構成されているが、噴射異常のノズル20の代わりに、インクジェットヘッド1とは別の補助ヘッドのノズルからインクを噴射させるように構成されていてもよい。
図18に示すように、この変更形態のインクジェットプリンタ100Bは、記録用紙6の幅方向(走査方向:図1の左右方向)に延びるライン型のインクジェットヘッド1と、記録用紙6を図1の前方へ搬送する搬送ローラ2と、インクジェットプリンタ100Bの全体動作を制御する制御装置3B(図20参照)を有する。そして、インクジェットヘッド1のノズル20(第1ノズル:図2〜図5参照)から記録用紙6にインクが噴射され、画像等が記録された記録用紙6が搬送ローラ2により前方へ搬送されるように構成されている。また、前記実施形態と同様に、インクジェットヘッド1の下方には、走査方向に移動可能な可動体40(図6参照)が配設されており、さらに、この可動体40の上部には、発光素子44aと受光素子44bとを有する噴射状態検出部44(図6参照)が設けられている。
さらに、このインクジェットプリンタ100Bは、インクジェットヘッド1の前方において走査方向に移動可能なキャリッジ70と、このキャリッジ70に設けられた補助ヘッド71(第2の液滴噴射ヘッド)とを備えている。これらキャリッジ70と補助ヘッド71は、ヘッド駆動モータ72(ヘッド駆動機構:図20参照)により走査方向に駆動される。また、走査方向に平行なスケール73aを含み、補助ヘッド71の走査方向の位置を検出するリニアエンコーダ73(ヘッド位置検出器:図20参照)も設けられている。
図19に示すように、補助ヘッド71は、圧力室やノズルの数の違いを除けば、ライン型のインクジェットヘッド1とよく似た構造を有する。即ち、補助ヘッド71は、圧力室84及びノズル90を含むインク流路が形成された流路ユニット82と、この流路ユニット82の上面に配置された圧電アクチュエータ83とを有する。流路ユニット82には、走査方向に1列に配列された4つの圧力室84と、これら4つの圧力室84にそれぞれ連通し、同じく走査方向に1列に配列された4つのノズル90(第2ノズル)と、4つの圧力室84に連通するマニホールド87が形成されている。ここで、走査方向に配列された4つのノズル90のピッチは、インクジェットヘッド1の各ノズルの列のピッチ(図2におけるPの4倍)と等しくなっている。また、図18、図19に示すように、マニホールド87は、4つの圧力室84を覆う圧電アクチュエータ83の振動板92に形成されたインク供給口88、及び、チューブ89を介してインクタンク4に接続されている。そして、流路ユニット82内には、マニホールド87から4つの圧力室84を介して4つのノズル90に至る、4つの個別インク流路が形成されている。
また、圧電アクチュエータ83は、インクジェットヘッド1の圧電アクチュエータ300(図2〜図5参照)とほぼ同様の構成を有する。即ち、圧電アクチュエータ83は、4つの圧力室84を覆う振動板92、この振動板92の上面に形成された圧電層93、及び、圧電層93の上面において4つの圧力室84にそれぞれ対応して配置された4つの個別電極94とを備えている。そして、4つの個別電極94には、ドライバIC95(図20参照)から選択的に駆動電圧が印加されるようになっている。
図20に示すように、制御装置3Bは、PC等の入力装置60から入力された印字データに基づいてインクジェットヘッド1のインク噴射動作を制御するヘッド制御部97、印字データに基づいて搬送ローラ2を回転駆動する搬送モータ8を制御する用紙搬送制御部96、リニアエンコーダ43から入力された可動体40の位置情報に基づいて可動体駆動モータ42を制御して可動体40を移動させ、噴射状態検出部44により複数のノズル20の噴射状態をそれぞれ検出するという一連の動作を制御する検出制御部98、および補助ヘッド71を制御する補助ヘッド制御部99などを備えている。尚、これらヘッド制御部97、用紙搬送制御部96、検出制御部98、及び、補助ヘッド制御部99は、それぞれ、CPU、ROM、RAM、及び、これらを接続するバスなどにより構成されている。
そして、噴射状態検出部44により、インクジェットヘッド1のあるノズル20の噴射状態が異常であると検出されたときには、検出制御部98は、ヘッド制御部97に対してそのノズル20からインクを噴射させない指令を送るとともに、補助ヘッド制御部99に対しては、噴射異常のノズル20の代わりに補助ヘッド71の何れかのノズル90からインクを噴射させる指令を送る。すると、補助ヘッド制御部99は、リニアエンコーダ73から入力された補助ヘッド71の位置情報に基づいてヘッド駆動モータ72を制御し、補助ヘッド71の1つのノズル90の位置が、インクジェットヘッド1における噴射異常ノズル20の走査方向に関する位置と同じになるように、補助ヘッド71を移動させる。さらに補助ヘッド制御部99は、ドライバIC95を制御してノズル90からインクの液滴を噴射させる。このように、インクジェットヘッド1のあるノズル20の噴射状態が異常である場合に、そのノズル20を特定することによって、補助ヘッド71のノズル90により噴射異常のノズル20を補完することができ、印字品質の低下を防止できる。
尚、補助ヘッド71のノズル90は必ずしも複数である必要はないが、ノズル90が複数あると、インクジェットヘッド1の2以上のノズル20の噴射状態が同時に異常となったとき、補助ヘッド71のノズル90による補完が容易になる。即ち、図19に示すように、補助ヘッド71が、インクジェットヘッド1の各ノズル20の列と等しいピッチ(=4P)で走査方向に配列された複数のノズル90を備えていると、補助ヘッド71を走査方向に移動させることなく、走査方向に隣接するインクジェットヘッド1の2以上のノズル20を同時に補完することができる。
6]発光素子44aから出射されるレーザー光が、走査方向(ノズル配列方向)と直交している必要はなく、90度以外の角度をもって交差している場合でも、走査方向に関する噴射方向の曲がりを検出することは可能である。
7]走査方向への噴射方向の曲がりを検出できる噴射状態検出部44に加えて、さらに、走査方向にレーザー光を出射する発光素子とこの光を受光する受光素子をインクジェットヘッド1の走査方向両端にそれぞれ設けて、紙送り方向に関する噴射方向の曲がりも検出できるようにしてもよい。
8]発光素子は、レーザー光を出射するものに限らず、可視光等の他の種類の光を出射するものであってもよい。さらに、噴射状態検出部としては、発光素子及び受光素子を有する光学式のものに限られず、種々の型式のものを採用できる。例えば、可動体の液滴噴射面と対向する面に設けられた電極を有し、帯電したインクの液滴が電極に向けて噴射されたときに、電極表面の電位の変化から液滴の着弾位置を認識して、噴射状態を検出するものであってもよい。
図21Aは、本発明の実施形態における可動体40を、インクジェットヘッド1の液滴噴射面1a側から見た図である。本発明の実施形態では、ノズルから噴射された液滴が、発光素子44aから受光素子44bに出射されるレーザー光を通過しない場合に、そのノズルの噴射状態の異常が検出される。すなわち、ノズルから噴射された液滴がレーザー光(図21Aの破線)の軌跡上を通過すれば、レーザー光を遮ることにより、そのノズルの噴射方向の異常は検出されなくなる。より詳細には、液滴が所望の位置(ノズル噴射口から鉛直下方)からレーザー光の軌跡上でオフセットしていても、そのようなオフセットは、図21Aに記載の検出系では検出できない。これを解決するための変更形態について、以下に説明する。
9]図21Bに示した可動体140は、壁部40aに取り付けられた第1の発光素子44aおよび第2の発光素子144aと、壁部40bに取り付けられた第1の受光素子44bおよび第2の受光素子144bとを有する。第1の発光素子44aから出射された第1のレーザー光151は、所望の位置X(ノズル噴射口の鉛直下方)を通過して第1の受光素子44bに受光される。第2の発光素子144aから出射された第2のレーザー光152は、所望の位置Xを通過して第2の受光素子144bに受光される。第1の発光素子44aおよび第1の受光素子44bは、第1のレーザー光151の軌跡が紙送り方向に対して傾斜するように配置されており、第2の発光素子144aおよび第2の受光素子144bは、第2のレーザー光152の軌跡が紙送り方向に対して傾斜するとともに、第1のレーザー光151と位置Xで交差するように配置されている。このような構成によれば、第1の受光素子44bおよび第2の受光素子144bのいずれにも、液滴によるレーザー光の遮断が検知された時は、液滴が所望の位置Xに噴射されていることがわかる。なお、第1の発光素子44aおよび第1の受光素子44bは、第1のレーザー光151の軌跡が紙送り方向に対して平行であり、かつ位置Xを通過するように配置されてもよい。その場合、第2の発光素子144aおよび第2の受光素子144bは、第2のレーザー光152の軌跡が、第1のレーザー光151の軌跡に対して傾斜するとともに、第1のレーザー光151と位置Xで交差するように配置されてもよい。
10]また、図22Aおよび図22Bに示した別の形態の可動体150は、壁部40aに摺動可能に取り付けられた第1の環状アーム150aと、壁部40bに摺動可能に取り付けられた第2の環状アーム150bと、第1の環状アーム150aに取り付けられた発光素子44aと、第2の環状アーム150bに取り付けられた受光素子44bと、可動体150の下方部に設けられ、第1および第2の環状アームを壁部40aおよび40bに沿って摺動させる駆動モータ(不図示)を有する。第1および第2の環状アームは、環状アームの半径方向に延在する図示しない支持部によって連結されている。この支持部の長手方向中央が駆動モータのスピンドル(不図示)により軸支されている。駆動モータによって第1および第2の環状アームが、所望の位置X(ノズル噴射口の鉛直下方)を中心として、壁部40aおよび40bに沿って摺動することにより、発光素子44aおよび受光素子44bはそれぞれ、図22Aに示す第1位置(151a、151b)と図22Bに示す第2位置(152a、152b)との間を移動することができる。発光素子44aおよび受光素子44bは、第1位置(151a、151b)および第2位置において(152a、152b)、発光素子44aから出射されたレーザー光が、所望の位置Xを通過して受光素子44bに受光されるように、第1および第2の環状アーム上に配置されている。まず発光素子44aおよび受光素子44bが第1位置(151a、151b)に配置されるように第1および第2の環状アームを摺動させ、発光素子44aから出射されたレーザー光が、ノズルから噴射された液滴によって遮断されるかについて、受光素子44bによって検知する。レーザー光が液滴により遮断されることが検知されれば、液滴は、第1位置(151a、151b)におけるレーザー光の軌跡上に噴射されていることがわかる。次に、発光素子44aおよび受光素子44bが第2位置(152a、152b)に配置されるように第1および第2の環状アームを摺動させ、発光素子44aから出射されたレーザー光が、ノズルから噴射された液滴によって遮断されるかについて、受光素子44bによって検知する。レーザー光が液滴により遮断されることが検知されれば、液滴は、第2位置(152a、152b)におけるレーザー光の軌跡上に噴射されていることがわかる。このような構成によれば、受光素子44bが第1位置(151b)および第2位置(152b)のいずれにおいても、レーザー光の遮断を検知した時は、液滴が所望の位置Xに噴射されていることがわかる。なお、発光素子44aおよび受光素子44bの配置位置の移動は、検査対象ノズルごとに行われなくてもよい。例えば、発光素子44aおよび受光素子44bを第1位置(151a、151b)に配置した状態で全ノズルを検査し、次に、発光素子44aおよび受光素子44bを第2位置(152a、152b)に移動させ、発光素子44aおよび受光素子44bを第2位置(152a、152b)に配置した状態で全ノズルを検査してもよい。
11]前記実施形態及びその変更形態は、記録用紙にインクを噴射するインクジェットプリンタに本発明を適用した例であるが、これ以外の用途に用いられる液滴噴射装置に本発明を適用することもできる。例えば、導電ペーストを噴射して基板上に配線パターンを形成したり、有機発光体を基板に噴射して有機ELディスプレイを形成したり、あるいは、光学樹脂を基板に噴射して光導波路等の光学デバイスを形成したりする、種々の液滴噴射装置に本発明を適用できる。