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ステンレス熱延鋼材の酸洗方法及び製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】塩酸溶液を用いて効率的に酸洗処理を行い、その酸洗時間を短縮することのできるステンレス熱延鋼材の酸洗方法及びその酸洗方法を用いたステンレス熱延鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】ステンレス熱延鋼材を酸洗液により酸洗するにあたり、該酸洗液は、Feイオン、Crイオン、Niイオンの少なくとも一つ以上を含み、Fe、Cr、Niの各イオンの総和量が50〜200g/Lであり、さらに、塩化ニッケルおよび10〜100g/Lの塩化ナトリウムを含む塩酸溶液である。また、本発明のステンレス熱延鋼材は、フェライト系ステンレス鋼からなる熱延板または熱延焼鈍板に、予備脱スケール処理を施した後、上記酸洗を行うことで得られる。
【選択図】図1

Description

本発明は、ステンレス熱延鋼材の酸洗方法及び製造方法に関し、特に塩酸溶液による酸洗を行うにあたって、酸洗処理に要する時間を短縮させるのに効果的な酸洗方法及びその酸洗方法を用いたステンレス熱延鋼材の製造方法に関する。
ステンレス鋼を製造する工程においては、熱延または焼鈍時に生成したスケールや表面の脱Cr層を除去するために、硫酸、塩酸、硝酸、弗酸などの酸、またはそれらの混合酸に鋼を浸漬して地鉄を溶解する、いわゆる酸洗処理が行なわれる。そして、酸洗処理に用いられる酸洗液としては、現在では、硝酸と弗酸の組み合わせによる混合酸液がその処理能力の優位性から多く用いられている。しかし、硝酸や弗酸を用いる方法は、酸洗処理時に硝酸が分解して有害なNOxガスや弗化水素ガスが多量に発生し、環境上大きな問題がある。このため、排ガスを浄化処理する必要があるが、近年の公害規制の強化とともにその処理費用は著しく増大している。また、弗酸は毒性が強いため、これを使用する酸洗作業では常に危険が伴い、その取り扱いには注意しなければならない。このような背景から、近年では酸洗液として硝酸や弗酸の酸洗液を用いない酸洗方法の開発が強く求められている。
このような現状の中で、酸洗液として塩酸を用いた酸洗方法が開発されている。塩酸は硝酸と弗酸の混合酸液を用いる酸洗方法よりも酸洗能力は劣るものの、硝酸や弗酸に比べて酸洗液のコスト、および廃液処理に要する設備コストが安価であるという利点がある。例えば、塩酸を用いた酸洗能力を向上させる技術として、特許文献1では、塩酸溶液中に過酸化水素を注入する方法が開示されている。さらに、特許文献2では、塩酸溶液中へ亜硫酸水素ナトリウムを添加する方法が開示されている。さらに、特許文献3では、塩化ナトリウム又は塩化カリウムを含む中性塩電解質水溶液で塩素イオンのスケール侵食機能を活用した方法が挙げられている。
特開昭63年第216986号公報 特開平10年第72686号公報 特公昭53年第23245号公報
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では酸洗処理時の過酸化水素の分解が早く、大量の補給を余儀なくされるため、安定した酸洗液の維持が困難であり、操業コストが嵩むといった問題がある。また、過酸化水素の多量添加はピッティングを生じさせ酸洗後の表面性状も劣化する。
特許文献2に記載されている技術では、有害な亜硫酸ガスを発生するため、公害上大きな問題がある。
さらに、特許文献3に記載された技術は、ステンレス冷延鋼板の酸洗方法に関するものであり、除去すべき黒皮スケールや脱Cr層が厚い熱延板や熱延焼鈍板には適用できない。また、工業的な塩酸酸洗においては、母材溶解による溶液中への金属イオンの溶出は避けられず、塩化ナトリウムや塩化カリウムの添加によって増加する溶液中の遊離塩素イオンは、金属イオンと錯体を形成する。このため、実効的な遊離塩素イオンを十分に確保できないため、不動態皮膜の破壊も不十分となり、ステンレス熱延鋼板の酸洗能力を大幅に向上するには至らない。
以上より、本発明は、係る従来の問題点に省みてなされたもので、塩酸溶液を用いて効率的に酸洗処理を行い、その酸洗時間を短縮することのできるステンレス熱延鋼材の酸洗方法及びその酸洗方法を用いたステンレス熱延鋼材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために、塩酸溶液中での脱スケール挙動ついて詳細に検討した。その結果、ステンレス熱延鋼板の塩酸酸洗工程において、塩酸溶液へ塩化ナトリウムと塩化ニッケルを複合添加することにより、ステンレス鋼の不動態皮膜の破壊作用に効果を有する遊離塩素イオンを増加させ、飛躍的に酸洗能力を向上させることが可能となることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]ステンレス熱延鋼材を酸洗液により酸洗するにあたり、該酸洗液は、Feイオン、Crイオン、Niイオンの少なくとも一つ以上を含み、Fe、Cr、Niの各イオンの総和量が50〜200g/Lであり、さらに、塩化ニッケルおよび10〜100g/Lの塩化ナトリウムを含む塩酸溶液であることを特徴とするステンレス熱延鋼材の酸洗方法。
[2]前記[1]において、前記塩化ニッケルを1〜50g/Lの添加量で添加することを特徴とするステンレス熱延鋼材の酸洗方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記塩酸溶液の濃度は5〜30%であることを特徴とするステンレス熱延鋼材の酸洗方法。
[4]フェライト系ステンレス鋼からなる熱延板または熱延焼鈍板に、予備脱スケール処理を施した後、[1]〜[3]のいずれかに記載の酸洗を行うことを特徴とするステンレス熱延鋼材の製造方法。
本発明によれば、ステンレス熱延鋼材の酸洗処理が効率的に行え、その結果、酸洗時間を従来に比べ、短縮することが可能となる。
ステンレス熱延鋼材のスケールおよび表面の脱Cr層を酸洗により除去する場合、母材溶解による酸洗液への金属イオンの溶出が工業上不可避であり、これらの金属イオンは塩素イオンと錯体を形成し、酸洗促進の役割を果たす遊離塩素量の低下を招くため、一般的に酸洗能力が低下する。しかし、本発明によれば、酸洗能力を大幅に向上させることが可能であり、酸洗ラインの通板速度の増速などで産業上格段の効果を奏することとなる。
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明を完成するに至った実験結果について説明する。
例えば、特許文献3に記載されているように、塩化ナトリウムや塩化カリウムを添加することにより溶液中の塩素イオンを増加させて、ステンレス鋼の不動態皮膜の破壊作用を促進する技術がある。そこで、本発明者らは、まず、塩酸溶液による酸洗において、塩化ナトリウムを添加することにより溶液中の塩素イオンを増加させ、酸洗能力に及ぼす塩化ナトリウム添加の影響を調べた。
通常の方法で製造したSUS430の熱延焼鈍板を用いて、ショットブラスト処理による予備脱スケール処理を施した後、酸洗処理を行い、この時の酸洗減量を調査した。実験を行うにあたって、酸洗液として、金属イオンを含まない市販の塩酸試薬に普通鋼、SUS材を溶解して液中のFe、Cr、Niイオンの総量(以下、金属イオン総量と呼ぶ)を0、50、125、200、250g/Lと変化させたのち、塩酸濃度を11%に調合した。さらに、これらの塩酸溶液へ塩化ナトリウムを10、50、75、100、120g/Lと添加した溶液と無添加の溶液を作製した。以上により作製した塩酸溶液を80℃の温度に保ち、この塩酸溶液にSUS430の熱延焼鈍板の試験片を60秒浸漬させ、この時の酸洗減量を調べた。なお、酸洗減量は、30mm×40mmの熱延焼鈍板を用いて酸洗前後での重量変化を測定し、単位面積あたりの酸洗減量を算出して評価を行なった。
得られた結果を図1に塩化ナトリウム添加量と酸洗減量との関係として示す。図1より、塩酸溶液中に金属イオンが存在しない場合は、塩化ナトリウム添加により酸洗減量は増加する。これは、塩化ナトリウム添加により遊離した塩素イオンが増加し、不動態皮膜を破壊して酸洗が促進されたものと考えられる。また、塩化ナトリウムが無添加の場合は、金属イオン総量が増加するに従い、酸洗減量が低下している。これは、金属イオン総量が増加するに従い、溶液中の遊離した塩素イオンが錯体に取り込まれて減少しているものと考える。さらに、金属イオン総量が増加するほど、塩化ナトリウム添加による酸洗促進効果は小さくなり、金属イオン総量が250g/Lの酸液では、塩化ナトリウム添加による効果はほとんど認められない。これは、金属イオン総量が多い場合は、塩化ナトリウムを添加して遊離塩素イオンを増加させようとしても、金属イオンとの錯体形成により実効的な遊離塩素イオン量の増加は抑制されるためと考えられる。そして、金属イオン総量が200g/Lを超えた場合は、実効的な遊離塩素イオン量はほとんど増加せず、酸洗促進効果がないものと考えられる。
一方、塩化ナトリウムを120g/L添加した溶液では、金属イオン総量によらず、固溶せずに塩化ナトリウムの析出が認められ、塩化ナトリウムを120g/L添加した酸洗減量はいずれの場合も100g/Lの場合とほとんど同じであった。このことから、塩酸溶液中へ添加できる塩化ナトリウム量の上限は100g/Lであるものと考えられる。
以上より、金属イオンが存在する塩酸溶液中では特許文献3に記載されているような塩化ナトリウム添加による酸洗促進作用は小さいことがわかる。
そこで、本発明者らは、金属イオンが存在する塩酸溶液へ塩化ナトリウムを添加した場合に増加する塩素イオンを、遊離塩素イオンとして有効活用できるように、数々の添加剤を調査した。その結果、塩化ナトリウムに加え、塩化ニッケルを複合添加することで飛躍的に酸洗能力が向上することを見出した。以下にその実験内容について詳細に説明する。
通常の方法で製造したSUS430の熱延焼鈍板を用いて、ショットブラスト処理による予備脱スケール処理を施した後、酸洗処理を行い、この時の酸洗減量を調査した。実験を行うにあたって、酸洗液として、Fe、Cr、Niの金属イオン総量が125g/Lである11%塩酸溶液を調合したのち、塩化ナトリウムを75g/L添加し、さらに塩化ニッケルを1、5、10、20、35、50、75g/L添加した溶液と無添加の溶液を作製した。以上により作製した塩酸溶液を80℃の温度に保ち、この塩酸溶液にSUS430の熱延焼鈍板の試験片を60秒浸漬させ、この時の酸洗減量を調べた。得られた結果を図2に塩化ナトリウム添加量と酸洗減量との関係として示す。図2より、前述の実験(図1)では金属イオンの存在する塩酸溶液への塩化ナトリウム添加による酸洗促進作用は小さかったが、塩化ナトリウムに塩化ニッケルを複合添加した場合は、塩酸溶液中に金属イオンが存在する場合でも酸洗促進作用があり飛躍的に酸洗能力が向上することがわかる。その効果は塩化ニッケル添加量が1g/L以上から顕著である。また、50g/Lを超えて添加しても酸洗促進効果は飽和傾向になる。よって、塩化ニッケルの添加量は1〜50g/Lとすることが好ましい。
この飛躍的な酸洗促進効果は、塩化ニッケル添加による塩素イオン量増大の効果のみでは説明がつかない。本発明者らは、金属イオンが存在する塩酸溶液への塩化ニッケル添加が、金属イオンと塩素イオンの錯体平衡に何らかの変化を与えて、錯体に固定されて有効に作用しなかった塩素イオンを遊離塩素イオンとして解放することにより、酸洗促進作用が生じたものと考えている。
以上のように、金属イオンを含む塩酸溶液へ塩化ナトリウムを添加して、酸洗促進に有効となる塩素イオンの増大を図る場合、塩化ナトリウムに加え、塩化ニッケルを複合添加することで十分な遊離塩素イオン量を確保できる。よって、本発明においては、酸洗液により酸洗するにあたり、塩化ニッケルおよび塩化ナトリウムを含む塩酸溶液を用いることとする。この場合、塩化ニッケル添加の効果は1g/L以上において顕著であり、また、50g/Lを超えた添加では効果が飽和傾向にあるため、1〜50g/Lとすることが望ましい。さらに、塩化ニッケルは、無水、水和物のいずれを用いてもよい。
上記のように、工業的に塩酸酸洗を行なう場合、母材溶解によるFe、Cr、Niなどの金属イオンの溶出は避けられず、これらの金属イオンは、溶液中の塩素イオンと錯体を形成し、酸洗促進に有効となる遊離塩素イオン量を減らしてしまう。このため、溶液中の金属イオン総量は少ないほうが望ましいが、溶液中の金属イオン量を低減するために、陰イオン交換樹脂等を活用する方法を用いると操業コストの高騰を招く。母材溶解による金属イオンの溶出は避けられず、金属イオン総量を50g/L未満に管理することは工業的に困難であることから、本発明ではFe、Cr、Niの各イオンの総和量を50g/L以上とする。また、200g/Lを超えた場合は塩化ナトリウムおよび塩化ニッケルを複合添加しても、十分な遊離塩素イオン量を確保できないため、200g/L以下とする。
また、塩酸溶液への塩化ナトリウム添加によって酸液中の塩素イオンが増加し、不動態皮膜の破壊へ有効に作用し、酸洗能力が向上する。その効果は塩化ナトリウムの添加が10g/L未満では不十分であり、100g/Lを超えて添加しても、溶液中で飽和に達して析出するため、10g/L以上100g/L以下とする。
塩酸溶液の酸濃度は、5%未満ではステンレス熱延鋼材の酸洗において十分な酸洗量を確保できず、また、30%を超えた酸濃度では、ピッティングなどにより酸洗後の表面性状が劣化しやすくなるため、5〜30%とすることが望ましい。なお、ここで、塩酸濃度の「%」は重量%を示している。
本発明は、鋼材の酸洗前処理および鋼種によらず、効果を奏するものである。しかし、工業生産する上で酸洗工程を一層効率良く行うためには、脱スケールにおいて一般に行なわれる酸洗前のメカニカルな予備脱スケール処理をすることが好ましい。メカニカルな予備脱スケール処理としては、例えば、ショットブラスト、あるいはベンディングなどである。
また、難脱スケール鋼材であるNi含有オーステナイト系ステンレス鋼やMo含有ステンレス鋼よりも、フェライト系ステンレス鋼において、本発明はより効果的である。とくにフェライト系ステンレス鋼からなる熱延板または熱延焼鈍板に、予備脱スケール処理を施した後、上記の本発明の酸洗工程を経てステンレス鋼材を製造することが好ましい。
さらに、SUS430鋼などの最終製品での高水準の鋼板表面の白色度、光沢度が要求される製品については、本発明の塩酸酸洗の次工程として、硝弗酸などによる仕上酸洗を行なってもよい。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
通常の方法で製造したSUS410L、SUS430の熱延板、および熱延焼鈍板を表1に示す酸洗前処理した後、表1に示す条件にて酸洗を行ない、ステンレス鋼板を製造し、酸洗減量を調べた。得られた結果を表1に併せて示す。なお、実験方法等は前述した図1の方法と同様である。
Figure 2007107044
表1に示されるとおり、本発明例に該当するFe、Cr、Niの金属イオン総量が50〜200g/Lである塩酸溶液に10〜100g/Lの塩化ナトリウムと塩化ニッケルを複合添加した実験No.1〜6、12、13、16、18〜24、30、31、34、36は、酸洗減量が大幅に優れている。
一方、塩化ナトリウムおよび塩化ニッケルを添加していない実験No.7、25、および塩化ナトリウムのみを単独で添加した実験No.8〜10、15、17、26〜28、33、35、さらに塩化ナトリウムと塩化ニッケルは本発明範囲であるが塩酸溶液中のFe、Cr、Niの各イオンの総量が本発明範囲外の実験No.14、32は、本発明例と比較して、酸洗減量が少なく、効率よく酸洗が行われていない。
本発明の酸洗方法は、酸洗処理が効率的に行え、その結果、酸洗時間を従来に比べ、短縮することが可能となるので、ステンレス熱延鋼材に限らず、あらゆる鋼板に対しても利用が可能となりうる。
酸洗液中の塩化ナトリウムの添加量と酸洗減量、および金属イオン総量との関係を示す図である。 酸洗液中の塩化ニッケルの添加量と酸洗減量との関係を示す図である。

Claims (4)

  1. ステンレス熱延鋼材を酸洗液により酸洗するにあたり、該酸洗液は、Feイオン、Crイオン、Niイオンの少なくとも一つ以上を含み、Fe、Cr、Niの各イオンの総和量が50〜200g/Lであり、さらに、塩化ニッケルおよび10〜100g/Lの塩化ナトリウムを含む塩酸溶液であることを特徴とするステンレス熱延鋼材の酸洗方法。
  2. 前記塩化ニッケルを1〜50g/Lの添加量で添加することを特徴とする請求項1に記載のステンレス熱延鋼材の酸洗方法。
  3. 前記塩酸溶液の濃度は5〜30%であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス熱延鋼材の酸洗方法。
  4. フェライト系ステンレス鋼からなる熱延板または熱延焼鈍板に、予備脱スケール処理を施した後、請求項1〜3のいずれかに記載の酸洗を行うことを特徴とするステンレス熱延鋼材の製造方法。
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