以下、図面を参照して、本発明に係る車両の制駆動制御装置の実施の形態を説明する。
本実施の形態では、本発明に係る車両の制駆動制御装置を、ランフラットタイヤを装備した車輪を備える車両に搭載されるランフラットタイヤ監視装置に適用する。本実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置は、ランフラットタイヤのパンクを検出し、パンクした場合には制動力や駆動力を低下させるための制御を行う。本実施の形態には、ランフラットタイヤのパンクを検出した場合に制動力や駆動力を低下させるための手法と制動力や駆動力を制御するシステムの違いにより3つの形態がある。第1の実施の形態では、制動力制御を行うABSを利用し、ABSが制御に用いる目標スリップ率によって制動力を低下させる。第2の実施の形態では、第1の実施の形態と比較すると、目標スリップ率を輪重に応じて変化させる点で異なる。第3の実施の形態では、制動力制御を行う制動力制御システムと駆動力制御を行う駆動力制御システムを利用し、発生させる制動力や駆動力の上限値を設定することによって制動力や駆動力を低下させる。
図1〜図3を参照して、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置の構成図である。図2は、制動時におけるスリップ率とタイヤ前後力との関係を示す図である。図3は、第1の実施の形態に係る制動時のタイヤ前後力に対して発生する最大滑り速度を示す図である。
ランフラットタイヤ監視装置1は、各車輪のランフラットタイヤを監視し、ランフラットタイヤのパンク状態を検出した場合にはABSを利用して制動力を低下させる。特に、ランフラットタイヤ監視装置1では、制動力を低下させるために、ABSでの制御に用いる目標スリップ率を小さい値にする。そのために、ランフラットタイヤ監視装置1は、空気圧センサ2及びECU[Electronic Control Unit]3を備え、ABS4と通信する。なお、空気圧センサ2が特許請求の範囲に記載するパンク検出手段に相当する。
空気圧センサ2は、ランフラットタイヤに取り付けられ、ランフラットタイヤの空気圧を検出するセンサである。空気圧センサ2では、その検出値を空気圧信号ASとしてECU3に送信する。なお、図1には、空気圧センサ2を1つしか描いていないが、各輪のタイヤに空気圧センサ2がそれぞれ設けられている。
ECU3は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random AccessMemory]などからなる電子制御ユニットであり、ランフラットタイヤ監視装置1の制御装置として機能する。ECU3では、一定時間毎に、空気圧センサ2からの空気圧信号ASを取り入れ、ランフラットタイヤに対する監視制御を行い、目標スリップ率を示す制御信号SSをABS4に送信する。
ECU3では、目標スリップ率に基準値Aをそれぞれ設定する。基準値Aは、ABS4で制御に用いる目標スリップ率の基準となる値である。基準値Aとしては、通常、図2に示すように、制動時にタイヤに発生する前後方向の力(タイヤ前後力)が最も大きくなる(つまり、最も大きな制動力が得られる)ときのスリップ率(例えば、10%)が設定される。
ECU3では、空気圧信号ASに示される空気圧がパンク判定空気圧以上か否かを判定し、空気圧がパンク判定空気圧未満になった場合にはパンクと判定する。パンク判定空気圧は、ランフラットタイヤがパンク状態にあるか否かを判定するための閾値(1気圧かあるいは1気圧より少し大きい値)であり、予め設定される。
空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、ECU3では、目標スリップ率として(基準値A×目標スリップ率変更係数α[0<α<1])を設定する。目標スリップ率変更係数αは、タイヤとホイールとの滑りを抑制するために目標スリップ率を小さくするための係数であり、車両の重量や前後の重量配分などを考慮して予め設定される。目標スリップ率変更係数αとしては、前後輪で同じ値を設定してもよいし、あるいは、FF車やFR車など車種に応じた前後の重量配分など基づいて前後輪で異なる値を設定してもよい。また、目標スリップ率変更係数αは、1より小さい値が設定されるが、0に近い値を設定するほどタイヤとホイールとの滑りを抑制することができる。ECU3では、目標スリップ率を設定すると、目標スリップ率を制御信号SSとしてABS4に送信する。
ABS4では、車体速と車輪速から車輪のスリップ率を求め、スリップ率が目標スリップ率に達したか否かを判定する。そして、ABS4では、スリップ率が大きくなって目標スリップ率に達した場合にはブレーキ油圧を減少させて制動力を減少させ、スリップ率がある程度低下するとブレーキ油圧を増加させて制動力を増加させる。この制動力の増減サイクルが繰り返られることによって、車輪がロックせずに、減速していく。
特に、ABS4では、ECU3からの制御信号SSに示される目標スリップ率に基づいて上記制御を行う。この目標スリップ率は、ランフラットタイヤがパンクしている場合には基準値Aより小さい値(A×α)が設定されている。したがって、パンクしている場合、通常の制御より、制動力の増減サイクルの減少させる間隔が短くなるとともに制動力を減少させている期間も長くなる。その結果、パンク状態のランフラットタイヤとホイールとの滑りが抑制される。
図3には、制動時におけるタイヤ前後力の大きさに対する最大滑り速度(タイヤとホイールとの滑っている速度であり、滑っていない場合が0である)の大きさを示している。一点鎖線で示すように、ランフラットタイヤの空気圧が規定値のときには、ABS制御を行うと、制動中にタイヤ前後力が大きくなっても最大滑り速度は殆ど大きくならない。しかし、破線で示すように、ランフラットタイヤがパンクしたときには、目標スリップ率を基準値Aに固定してABS制御を行うと、制動中にタイヤ前後力が大きくなるのに従って最大滑り速度は大きくなっていく。したがって、急ブレーキの場合には、タイヤがホイールに対して速い速度で滑ることになる。ここで、ECU3による制御を行うと、太い実線で示すように、目標スリップ率を基準値A×目標スリップ率変更係数αに変更してABS制御が行われ、制動中にタイヤ前後力が大きくなっても最大滑り速度の増加が抑えられる。したがって、急ブレーキの場合でも、タイヤがホイールに対しての滑る速度が抑制され、タイヤがホイールに対して滑り難くなる。
なお、目標スリップ率については、四輪で1つの目標スリップ率を設定してもよいし(したがって、パンクした場合には四輪全て小さい目標スリップ率によってABS制御される)、各輪個別に目標スリップ率を設定してもよいし(したがって、パンクした場合にはパンク輪だけ小さい目標スリップ率によってABS制御される)、前輪と後輪とで別々に設定してもよい(したがって、前輪がパンクした場合には前輪だけ小さい目標スリップ率によってABS制御され、後輪がパンクした場合には後輪だけ小さい目標スリップ率によってABS制御される)。
図1を参照して、ランフラットタイヤ監視装置1の動作について説明する。特に、ECU3における監視制御については図4のフローチャートに沿って説明する。図4は、図1のECUにおける監視制御の流れを示すフローチャートである。
各輪の空気圧センサ2では、ランフラットタイヤの空気圧を検出し、その検出値を空気圧信号ASとしてECU3に送信している。
ECU3では、目標スリップ率に基準値Aをそれぞれ設定する(S10)。また、ECU3では、車輪毎に、空気圧信号ASを受信し、空気圧信号ASに示される空気圧を取得する(S11)。そして、ECU3では、車輪毎に、ランフラットタイヤがパンクしているか否か(空気圧がパンク判定空気圧以上か否か)を判定する(S12)。
S12にてパンクしていると判定した場合、ECU3では、目標スリップ率に(基準値A×目標スリップ率変更係数α)を設定する(S13)。一方、S12にてパンクしていないと判定した場合、目標スリップ率は基準値Aのままである。そして、ECU3では、目標スリップ率を示す制御信号SSをABS4に送信する(S14)。
ABS4では、制御信号SSを受信し、目標スリップ率を取得する。そして、ABS4では、制動時に、取得した目標スリップ率に基づいてABS制御を行う。タイヤがパンクしていない場合、ABS制御中、目標スリップ率Aに基づいて制動力が周期的に抜かれ、ロックすることなく車両が減速する。一方、タイヤがパンクしている場合、ABS制御中、少なくともパンクした車輪については目標スリップ率A×αに基づいて通常より制動力を抜くタイミングが早くなり、制動力を抜いている長さも長くなるが、ロックすることなく車両が減速する。そのため、タイヤのホイールに対する滑りが抑制される。
このランフラットタイヤ監視装置1によれば、ランフラットタイヤがパンクした場合、目標スリップ率を通常より小さい値とすることにより、パンクしているタイヤのホイールに対する回転方向の滑りを抑制することができる。その結果、タイヤのリム接触部の磨耗を抑えることができ、タイヤの耐久性が向上する。また、タイヤとホイールとの滑りが抑制されるので、車輪速センサによる検出精度の低下も抑制でき、車輪速センサを用いるシステム(例えば、ABS4)における制御も高精度に行うことができる。
図5〜図8を参照して、第2の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置11について説明する。図5は、第2の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置の構成図である。図6は、図5のECUに保持される輪重−目標スリップ率変更係数マップである。図7は、制動時における輪重と最大滑り速度との関係を示す図である。図8は、第2の実施の形態に係る制動時のタイヤ前後力に対して発生する最大滑り速度を示す図である。なお、ランフラットタイヤ監視装置11では、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
ランフラットタイヤ監視装置11は、ランフラットタイヤ監視装置1と同様の装置であり、目標スリップ率の設定方法だけが異なる。ランフラットタイヤ監視装置11では、タイヤのホイールに対する滑りを更に抑制するために、車輪に加わっている荷重(輪重)に応じて目標スリップ率を設定する。そのために、ランフラットタイヤ監視装置11は、空気圧センサ2、輪重センサ12及びECU13を備え、ABS4と通信する。なお、輪重センサ12が特許請求の範囲に記載する荷重検出手段に相当する。
輪重センサ12は、車輪に加わる荷重を検出するセンサである。輪重センサ12では、タイヤに取り付けられた圧電素子からタイヤの接地荷重を取得し、この接地荷重を輪重としている。輪重センサ12では、その検出値を輪重信号WSとしてECU13に送信する。なお、図5には、輪重センサ12を1つしか描いていないが、各輪に輪重センサ12がそれぞれ設けられている。
ECU13は、CPU、ROM、RAMなどからなる電子制御ユニットであり、ランフラットタイヤ監視装置11の制御装置として機能する。ECU13では、一定時間毎に、空気圧センサ2からの空気圧信号AS及び輪重センサ12からの輪重信号WSを取り入れ、ランフラットタイヤに対する監視制御を行い、目標スリップ率を示す制御信号SSをABS4に送信する。ECU13ではECU3と目標スリップ率の設定方法だけが異なるので、目標スリップ率の設定方法について詳細に説明する。
輪重が大きくなるほど、タイヤに発生する前後力も大きくなるので、タイヤとホイールとの滑り速度も増加する。そのため、FFなどの前後で重量配分差の大きい車両あるいは各座席における乗員の有無や重い荷物の積載によって、車輪間で加わる荷重が異なると、車輪間で最大滑り速度が異なってくる。そのため、ランフラットタイヤがパンクしたときに目標スリップ率に一律に小さくした場合、加わっている荷重が大きい車輪では、図7の二点鎖線で示すように、最大滑り速度が大きくなる。そこで、図7の実線で示すように、加わっている荷重が大きい車輪でも、最大滑り速度が変化しないようにする必要がある。
ECU13では、空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、パンク輪の輪重信号WSに示される輪重に基づいて輪重−目標スリップ率変更係数マップから目標スリップ率変更係数αを抽出する。輪重−目標スリップ率変更係数マップは、図6に示すマップであり、目標スリップ率変更係数の輪重依存係数である。このマップは、ランフラットタイヤがパンクした場合に輪重の大きさに関係なく最大滑り速度を一定とするための目標スリップ率変更係数αが設定され、輪重が大きくなるに従って小さな値の係数が設定される。このマップは、車両の重量配分などを考慮して予め設定され、ECU13に保持されている。目標スリップ率変更係数αを抽出すると、ECU13では、目標スリップ率として(基準値A×目標スリップ率変更係数α)を設定し、目標スリップ率を制御信号SSとしてABS4に送信する。
図8には、制動時におけるタイヤ前後力の大きさに対する最大滑り速度の大きさを示している。一点鎖線、破線は、第1の実施の形態の図3と同様に、ランフラットタイヤの空気圧が規定値のときにABS制御を行った場合、ランフラットタイヤがパンクしたときに目標スリップ率を基準値Aに固定してABS制御を行った場合を示してしている。また、二点鎖線は、第1の実施の形態における目標スリップ率を基準値A×目標スリップ率変更係数α(固定値)に変更してABS制御が行った場合を示している。ECU13による制御を行うと、太い実線で示すように、目標スリップ率を基準値A×目標スリップ率変更係数α(輪重に応じた可変値)に変更してABS制御が行われ、制動中にタイヤ前後力が大きくなっても最大滑り速度の増加が極力抑えられる。この際、輪重が大きくなるのに応じて小さな目標スリップ率が設定されているので、図7の実線で示すように、加わっている荷重が大きい車輪でも最大滑り速度は大きくならず、輪重に関係なく略一定になっている。したがって、急ブレーキの場合でも、タイヤがホイールに対して滑る速度が極力抑制され、タイヤがホイールに対して滑り難くなる。
なお、目標スリップ率については、各輪個別に目標スリップ率を設定してもよいし(したがって、パンクした場合にはパンク輪だけ小さい目標スリップ率によってABS制御される)、前輪と後輪とで別々に設定してもよい(したがって、前輪がパンクした場合には前輪だけ小さい目標スリップ率によってABS制御され、後輪がパンクした場合には後輪だけ小さい目標スリップ率によってABS制御される)。
図5及び図6を参照して、ランフラットタイヤ監視装置11の動作について説明する。特に、ECU13における監視制御については図9のフローチャートに沿って説明する。図9は、図5のECUにおける監視制御の流れを示すフローチャートである。
各輪の輪重センサ12では、輪重を検出し、その検出値を輪重信号WSとしてECU13に送信している。ECU13では、車輪毎の輪重信号WSを受信している。ランフラットタイヤ監視装置11では、S20〜S22については、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置1のS10〜S12と同様の動作を行う。
S22にてパンクしていると判定した場合、ECU13では、パンク輪の輪重信号WSから輪重を取得する(S23)。そして、ECU13では、保持している輪重−目標スリップ率変更係数マップを参照し、そのパンク輪の輪重に応じた目標スリップ率変更係数αを抽出する(S24)。さらに、ECU13では、目標スリップ率に(基準値A×目標スリップ率変更係数α)を設定する(S25)。一方、S22にてパンクしていないと判定した場合、目標スリップ率は基準値Aのままである。そして、ECU13では、目標スリップ率を示す制御信号SSをABS4に送信する(S26)。
ABS4では、第1の実施の形態と同様の制御を行う。特に、タイヤがパンクしている場合、目標スリップ率がパンク輪の輪重に応じて小さい値に設定されている。そのため、パンク輪の輪重が大きい場合でも、輪重に応じて最大滑り速度が大きくならず、タイヤのホイールに対する滑りが極力抑制される。
このランフラットタイヤ監視装置11によれば、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置1と同様の効果を有する。さらに、ランフラットタイヤ監視装置11では、ランフラットタイヤがパンクした場合、輪重が大きくなるほど目標スリップ率を小さな値とすることにより、車両に前後の重量配分差及び座席に座っている乗員の有無や積載物などによってパンク輪の輪重が大きくなっていても、パンクしているタイヤのホイールに対する回転方向の滑りが大きくなることはなく、滑りを極力抑制することができる。
図10〜図13を参照して、第3の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置21について説明する。図10は、第3の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置の構成図である。図11は、FF車両におけるタイヤ前後力と最大滑り速度との関係を示す図である。図12は、第3の実施の形態に係る制動時のタイヤ前後力に対して発生する最大滑り速度を示す図である。図13は、第3の実施の形態に係る駆動時のタイヤ前後力に対して発生する最大滑り速度を示す図である。なお、ランフラットタイヤ監視装置21では、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
ランフラットタイヤ監視装置21は、各車輪のランフラットタイヤを監視し、ランフラットタイヤのパンク状態を検出した場合には制動力制御システムを利用して制動力を低下させるとともに駆動力制御システムを利用して駆動力を低下させる。特に、ランフラットタイヤ監視装置21では、制動力を低下させるために制動力制御システムで制御する制動力に上限値(制動力リミット)を設け、駆動力を低下させるために駆動力制御システムで制御する駆動力に上限値(駆動力リミット)を設ける。そのために、ランフラットタイヤ監視装置21は、空気圧センサ2、タイヤ前後力センサ22及びECU23を備え、制動力制御システム24及び駆動力制御システム25と通信する。なお、タイヤ前後力センサ22が特許請求の範囲に記載する前後力検出手段に相当する。
タイヤ前後力センサ22は、タイヤに発生する前後方向の力を検出するセンサである。タイヤ前後力センサ22では、タイヤに取り付けられた複数の圧電素子からタイヤの接地圧をそれぞれ取得し、その接地圧の形状の変化からタイヤ前後力を推定する。タイヤ前後力センサ22では、その検出値を前後力信号FSとしてECU23に送信する。前後力信号FSに示されるタイヤ前後力は、大きさと方向を示しており、プラス値の場合(駆動時)にはタイヤに発生している前方向の力であり、マイナス値の場合(制動時)にはタイヤに発生している後方向の力である。なお、図10には、タイヤ前後力センサ22を1つしか描いていないが、各輪のタイヤにタイヤ前後力センサ22がそれぞれ設けられている。
ECU23は、CPU、ROM、RAMなどからなる電子制御ユニットであり、ランフラットタイヤ監視装置21の制御装置として機能する。ECU23では、一定時間毎に、空気圧センサ2からの空気圧信号AS及びタイヤ前後力センサ22からの前後力信号FSを取り入れ、制動時にはランフラットタイヤに対する制動時監視制御を行い、制動力リミットを示す制動制御信号BSSを制動力制御システム24に送信するとともに、駆動時にはランフラットタイヤに対する駆動時監視制御を行い。駆動力リミットを示す駆動制御信号DSSを駆動力制御システム25に送信する。
制動時監視制御について説明する。制動時には、ランフラットタイヤがパンクしている場合、タイヤに発生する後方向の力がある値より大きくなるとタイヤがホイールに対して滑り始める。したがって、ランフラットタイヤがパンクしている場合でも、制動時にはその後方向の力がある値を超えないような範囲で制動力を発生させると、タイヤがホイールに対して滑らない。
制動時(例えば、ブレーキペダルが踏み込まれている場合)、ECU23では、第1の実施の形態と同様に、空気圧信号ASに示される空気圧がパンク判定空気圧以上か否かを判定し、パンクしているか否かを判定する。パンクしているランフラットタイヤがある場合、ECU23では、パンク輪の前後力信号FSに示されるタイヤ前後力がタイヤ後力リミットBLより小さくなったか否かを判定する。タイヤ後力リミットBLは、ランフラットタイヤがパンクした場合に制動時にタイヤがホイールに対して滑りを生じないタイヤに発生している後方向の力の最大値であり、実験によって予め計測される。タイヤ後力リミットBLは、タイヤ前後力が制動時にはマイナス値で示されるので、マイナス値で設定される。
パンク輪のタイヤ前後力がタイヤ後力リミットBLより小さいくなった場合、ECU23では、制動力リミットを制動制御信号BSSとして制動力制御システム24に送信する。制動力リミットは、制動時にタイヤ後力リミットBL以上の後方向の力がタイヤに発生しないようにするための制動力の上限値であり、タイヤ後力リミットBLや車両の重量配分などを考慮して予め設定される。パンク輪のタイヤ前後力がタイヤ後力リミットBL以上の場合、ECU23では、制動制御信号BSSを送信しない。
駆動時監視制御について説明する。駆動時には、ランフラットタイヤがパンクしている場合、タイヤに発生する前方向の力がある値より大きくなるとタイヤがホイールに対して滑り始める。したがって、ランフラットタイヤがパンクしている場合でも、駆動時にはその前方向の力がある値を超えないような範囲で駆動力を発生させると、タイヤがホイールに対して滑らない。
駆動時(例えば、アクセルペダルが踏み込まれている場合)、ECU23では、制動時と同様に、ランフラットタイヤがパンクしているか否かを判定する。パンクしているランフラットタイヤがある場合、ECU23では、パンク輪の前後力信号FSに示されるタイヤ前後力がタイヤ前力リミットDLを超えたか否かを判定する。タイヤ前力リミットDLは、ランフラットタイヤがパンクした場合に駆動時にタイヤがホイールに対して滑りを生じないタイヤに発生している前方向の力の最大値であり、実験によって予め計測される。タイヤ前力リミットDLは、タイヤ前後力が駆動時にはプラス値で示されるので、プラス値で設定される。
パンク輪のタイヤ前後力がタイヤ前力リミットDLを超えた場合、ECU23では、駆動力リミットを駆動制御信号DSSとして制動力制御システム24に送信する。駆動力リミットは、駆動時にタイヤ前力リミットDL以上の前方向の力がタイヤに発生しないようにするための制動力の上限値であり、タイヤ前力リミットDLや車両の重量配分などを考慮して予め設定される。パンク輪のタイヤ前後力がタイヤ前力リミットDL以下の場合、ECU23では、駆動制御信号DSSを送信しない。
なお、制動時と駆動時とでは荷重の移動が異なり(制動時には前荷重となり、駆動時には後荷重となる)、特に、車両の重量配分が前後で異なる場合には顕著である。そのため、タイヤがホイールに対して滑り始めるときのタイヤに発生する力が制動時と駆動時とで異なる。この要因としては、タイヤの摩擦係数の荷重依存性が考えられる。例えば、フロント側が重いFF車の場合、制動時の前荷重が顕著となるので、図11に示すように、タイヤが滑り始めるときのタイヤ前後力の大きさが駆動時より制動時の方が大きくなる。この場合、タイヤ後力リミットBLの大きさとタイヤ前力リミットDLの大きさを同じ値にするのではなく、タイヤ後力リミットBLの大きさをタイヤ前力リミットDLの大きさより大きくするとよい。そして、このBL,DLの大きさに応じて制動力リミット、駆動力リミットもそれぞれ設定する。このように設定することによって、制動時にはより大きな制動力を発生させることができ、走行性能を向上させることができる。ちなみに、FR車などの車両の前後で重量配分がほぼ等しい場合には、タイヤ後力リミットBLの大きさとタイヤ前力リミットDLの大きさを同じ値にするとよい。
制動力制御システム24は、ブレーキ油圧を制御し、ブレーキ操作や車両の挙動などに応じて適正な制動力を発生させる。制動力制御システム24では、ABS制御も行う。特に、制動力制御システム24では、ECU23からの制動制御信号BSSを受信した場合、制動制御信号BSSに示される制動力リミットを上限値として制動力を発生させる。この制動力リミットは、ランフラットタイヤがパンクしている場合にタイヤがホイールに対して滑りを発生しない制動力の上限値が設定されている。したがって、ランフラットタイヤがパンクしている場合、通常の制御より小さい制動力しか発生しない。そのため、タイヤにもタイヤ後力リミットBLを超える後方向の力が発生せず、パンク状態のランフラットタイヤとホイールとの滑りが防止される。
図12には、制動時におけるタイヤ前後力の大きさに対する最大滑り速度の大きさを示している。一点鎖線で示すように、ランフラットタイヤの空気圧が規定値のときには、制動力制御システム24で通常の制御を行うと、制動中にタイヤ前後力が大きくなっても最大滑り速度は殆ど大きくならない。しかし、破線で示すように、ランフラットタイヤがパンクしたときには、制動力リミットを設けないと、制動中にタイヤ前後力が大きくなると、最大滑り速度は大きくなっていく。したがって、急ブレーキの場合には、タイヤがホイールに対して速い速度で滑ることになる。ここで、ECU23による制動時監視制御を行うと、太い実線で示すように、制動力リミットが設けられるので、制動中にタイヤ前後力がタイヤ後力リミットBLを超えないので、最大滑り速度が0に保持される。したがって、急ブレーキの場合でも、タイヤがホイールに対して滑らない。
駆動力制御システム25は、スロットル開度を制御し、アクセル操作や車両の挙動などに応じて適正な駆動力を発生させる。駆動力制御システム25では、急加速などによるホイールスピンを防止するためのトラクションコントロールも行う。特に、駆動力制御システム25では、ECU23からの駆動制御信号DSSを受信した場合、駆動制御信号DSSに示される駆動力リミットを上限値として駆動力を発生させる。この駆動力リミットは、ランフラットタイヤがパンクしている場合にタイヤがホイールに対して滑りを発生しない駆動力の上限値が設定されている。したがって、ランフラットタイヤがパンクしている場合、通常の制御より小さい駆動力しか発生しない。そのため、タイヤにもタイヤ前力リミットDLを超える前方向の力が発生せず、パンク状態のランフラットタイヤとホイールとの滑りが防止される。
図13には、駆動時におけるタイヤ前後力の大きさに対する最大滑り速度の大きさを示している。一点鎖線で示すように、ランフラットタイヤの空気圧が規定値のときには、駆動力制御システム25で通常の制御を行うと、駆動中にタイヤ前後力が大きくなっても最大滑り速度は殆ど大きくならない。しかし、破線で示すように、ランフラットタイヤがパンクしたときには、駆動力リミットを設けないと、駆動中にタイヤ前後力が大きると、最大滑り速度は大きくなっていく。したがって、急加速の場合には、タイヤがホイールに対して速い速度で滑ることになる。ここで、ECU23による駆動時監視制御を行うと、太い実線で示すように、駆動力リミットが設けられるので、駆動中にタイヤ前後力がタイヤ前力リミットDLを超えないので、最大滑り速度が0に保持される。したがって、急加速の場合でも、タイヤがホイールに対して滑らない。
図10を参照して、ランフラットタイヤ監視装置21の動作について説明する。ここでは、制動時の動作と駆動時の動作について説明する。特に、ECU23における制動時の監視制御については図14のフローチャートに沿って説明し、ECU23における駆動時の監視制御については図15のフローチャートに沿って説明図する。図14は、図10のECUにおける制動時の監視制御の流れを示すフローチャートである。図15は、図10のECUにおける駆動時の監視制御の流れを示すフローチャートである。
各輪の空気圧センサ2では、ランフラットタイヤの空気圧を検出し、その検出値を空気圧信号ASとしてECU23に送信している。また、各輪のタイヤ前後力センサ22では、タイヤ前後力を検出し、その検出値を前後力信号FSとしてECU23に送信している。ECU23では、車輪毎の空気圧信号AS及び前後力信号FSを受信している。
まず、制動時の動作について説明する。ランフラットタイヤ監視装置21では、S30,S31については、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置1のS11,S12と同様の動作を行う。
S31にてパンクしていると判定した場合、ECU23では、パンク輪の前後力信号FSからタイヤ前後力を取得する(S32)。そして、ECU23では、そのタイヤ前後力がタイヤ後力リミットBLより小さいか否かを判定する(S33)。S33にてタイヤ前後力がタイヤ後力リミットBLより小さいと判定した場合、ECU23では、制動力リミットを示す制動制御信号BSSを制動力制御システム24に送信する(S34)。S31にパンクしていないと判定した場合又はS33にてタイヤ前後力がタイヤ後力リミットBL以上と判定した場合、制動力リミットは送信されない。
タイヤがパンクしていない場合、制動力制御システム24では、ブレーキ操作や車両の挙動などに基づいてブレーキ油圧を制御し、所定の制動力を発生させる。そのため、車両には最適な制動力が作用し、減速する。一方、タイヤがパンクしている場合、制動力制御システム24では、制動制御信号BSSを受信し、制動力リミットを取得する。そして、制動力制御システム24では、ブレーキ操作や車両の挙動などに基づきかつ制動力リミットを制動力の上限としてブレーキ油圧を制御し、制動力リミットを上限とした制動力を発生させる。そのため、車両はその制動力によって減速するが、制動力は制動力リミットを超えない。その結果、タイヤに発生する後方向の力がタイヤ後力リミットBLを超えず、タイヤがホイールに対して滑らない。
次に、駆動時の動作について説明する。ランフラットタイヤ監視装置21では、S40,S41については、第1の実施の形態に係るランフラットタイヤ監視装置1のS11,S12と同様の動作を行う。
S41にてパンクしていると判定した場合、ECU23では、パンク輪の前後力信号FSからタイヤ前後力を取得する(S42)。そして、ECU23では、そのタイヤ前後力がタイヤ前力リミットDLより大きいか否かを判定する(S43)。S43にてタイヤ前後力がタイヤ前力リミットDLより大きいと判定した場合、ECU23では、駆動力リミットを示す駆動制御信号DSSを駆動力制御システム25に送信する(S44)。S41にパンクしていないと判定した場合又はS43にてタイヤ前後力がタイヤ前力リミットDL以下と判定した場合、駆動力リミットは送信されない。
タイヤがパンクしていない場合、駆動力制御システム25では、アクセル操作や車両の挙動などに基づいてスロットル開度を制御し、所定の駆動力を発生させる。そのため、車両には最適な駆動力が作用し、走行する。一方、タイヤがパンクしている場合、駆動力制御システム25では、駆動制御信号DSSを受信し、駆動力リミットを取得する。そして、駆動力制御システム25では、アクセル操作や車両の挙動などに基づきかつ駆動力リミットを駆動力の上限としてスロットル開度を制御し、駆動力リミットを上限とした駆動力を発生させる。そのため、車両はその駆動力によって走行するが、駆動力が駆動力リミットを超えない。その結果、タイヤに発生する前方向の力がタイヤ前力リミットDLを超えず、タイヤがホイールに対して滑らない。
このランフラットタイヤ監視装置21によれば、ランフラットタイヤがパンクした場合、制動力及び駆動力に上限を設けることにより、パンクしているタイヤのホイールに対する回転方向の滑りを完全に抑制することができる。その結果、タイヤのリム接触部の磨耗を極力抑えることができ、タイヤの耐久性が向上する。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態ではランフラットタイヤ監視装置に適用し、目標スリップ率あるいは制動力リミットや駆動力リミットをABSあるいは制動力制御システムや駆動力制御システムに送信する構成としたが、このランフラットタイヤに対するこのパンク時の監視制御をABSあるいは制動力制御システム、駆動力制御システムに組み込む構成としてもよい。また、目標スリップ率を用いて制御を行うトラクションコントロール(トラクションコントロールにおける制御では、例えば、実際のスリップ率が目標スリップ率より大きくなった場合には制動力を増大させるような制御を行う)などの他の駆動力や制動力を制御するシステムなどに適用してもよい。
また、本実施の形態ではパンク検出手段として空気圧センサを適用したが、ランフラットタイヤのパンク状態を検出できる他の検出手段を適用してもよい。
また、本実施の形態ではランフラットタイヤがパンクした場合(タイヤの空気圧が1気圧かあるいはほぼ1気圧の場合)にタイヤの滑りを抑制するための各種制御を行う構成としたが、空気圧センサで検出したランフラットタイヤの空気圧が正常時より低下している場合にはその検出した空気圧に応じて各種制御を行う構成でもよく、例えば、空気圧に応じて目標スリップ率変更係数α(つまり、目標スリップ率)を小さくするように制御してもよい。
また、第2の実施の形態では輪重を検出し、輪重に応じて目標スリップ率変更係数を変える構成としたが、FF車、FR車など各車種の重量配分によって車輪に加わっている荷重が判るので、輪重を検出することなく、各車種の重量配分に基づいて目標スリップ率変更係数を予め設定するようにしてもよい。
また、第2の実施の形態では荷重検出手段としてタイヤに取り付けた圧電素子によってタイヤの接地荷重を直接検出するものを適用したが、各座席の着座センサによって人が座っている位置を検出し、その位置から輪重を推定するものなど他のものを適用してもよい。
また、第3の実施の形態では制動力制御システム及び駆動力制御システムを利用して制動力及び駆動力を共に制御する場合に適用したが、制動力又は駆動力の一方のみを制御する場合に適用してもよい。
また、第3の実施の形態では前後力検出手段としてタイヤにおける複数箇所の接地圧の形状の変化からタイヤ前後力を検出するものを適用したが、前後加速度センサによってタイヤ前後力を推定するものなど他のものを適用してもよい。
1,11,21…ランフラットタイヤ監視装置、2…空気圧センサ、3,13,23…ECU、4…ABS、12…輪重センサ、22…タイヤ前後力センサ、24…制動力制御システム、25…駆動力制御システム