JP2007090232A - 有機性物質含有廃液の処理方法及び装置 - Google Patents

有機性物質含有廃液の処理方法及び装置 Download PDF

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Abstract

【解決課題】水質汚濁防止法による一律排水基準(日平均)である生物学的酸素要求量(BOD)120mg/L未満を安定して達成できる生物発電技術を利用する有機性汚濁物質の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】有機性汚濁物質含有廃液1は原水貯留槽2から生物発電装置5の嫌気性域5aに供給する。一方、生物発電装置5の好気性域5bには、相対湿度を100%に加湿した酸素又は酸素を含む空気を供給する。このとき、酸素又は酸素を含む空気をポンプやファンを用いて生物発電装置5の好気性域5bに流通させてもよく、あるいは熱対流を利用して流通させてもよい。pH制御装置8によって好適pH範囲に維持しながら有機性汚濁物質含有廃液1を嫌気性域5aに通液して電極活性な微生物による酸化反応と酸素による還元反応とを進行させて、発電すると同時に水処理を行う。その後、生物発電装置5の嫌気性域5aの排出口から処理液6を後処理槽10に送り、二次処理水11を得る。
【選択図】図1

Description

本発明は、廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、汚泥などの有機性物質を含む廃水・廃棄物を処理する技術に関し、特に有機性廃水・廃棄物中の有機性物質と空気中の酸素との酸化還元反応を、嫌気性微生物による酸化反応と、酸素の還元反応に分離することによって発電を行う技術とそれに伴う処理対象物の分解処理作用を利用する廃水・廃棄物処理技術に関する。
有機性汚濁物質を含有する廃水の処理には、従来から好気性の生物処理法が多く用いられているが、この方法はエネルギー消費が多く、かつ、発生する余剰汚泥の処分が大きな問題になっている。これに対して、高濃度の有機性汚濁物質を含有する廃水や有機性汚泥の処理には、従来から嫌気性処理方式が多用されている。この方式は曝気動力が不要なのでエネルギー消費量が節約できること、余剰汚泥の発生量が少ないので処理費用が廉価であること、かつエネルギー資源として有用なメタンガスを回収できることなどの利点がある。
メタンは天然ガスの主成分であり、優れた燃料であるが、常温・常圧ではガス状のため貯蔵しておくには大型のガスタンクが必要であり、加圧や液化して減容化するには大型又は複雑な設備と多量のエネルギーを要する。また、有機性廃水・廃棄物の嫌気性処理によって得られたメタンをボイラー等で燃焼した場合、得られた熱エネルギーは、現状では、必ずしも有効利用されているとは言えない。一方、電力は様々な機器設備の動力に利用できるだけでなく、長距離の輸送も可能な、利便性に優れたエネルギー形態である。
メタンのような燃料から電力を生産するためには、ガスエンジンあるいはガスタービンが用いられているが、従来から燃料の有する化学エネルギーから動力エネルギーを経て電気エネルギーへ変換する効率は出力規模によって異なることが知られている。例えばガスエンジンにおいては、出力2MWの大型設備の場合、燃料の化学エネルギーから電気エネルギーへの変換効率は約40%であるのに対し、出力10kW程度の小型設備では20〜25%、ガスタービンにおいては100MWの設備では効率30〜35%、1MW級では25〜35%、出力30kWのマイクロガスタービンでは15〜30%である。このようにガスエンジンやガスタービンでは出力規模が小さい場合には電力変換効率が低い。また、設備の維持管理コストを加味すると、大型設備でなければ実質的にエネルギー回収が難しい。
近年、燃料の化学エネルギーを直接電力に変換する燃料電池の技術が進みつつある。最も実用化が進んでいる固体高分子型燃料電池(PEFC)は、1kWという小型設備でも電力変換効率が35〜40%と高く、分散型の発電設備として多方面での利用が期待されている。有機性廃水・廃棄物の嫌気性処理によるメタンのエネルギー回収効率は60〜70%程度であるので、燃料電池を用いたシステムでは20〜30%程度の電力回収効率が期待される。しかし、有機性廃水・廃棄物の嫌気性処理で得られたバイオガスを原料とする場合には、PEFCでは発電の鍵となる触媒が硫化水素やアンモニアガスで被毒するため、バイオガスは、これらの不純物を1ppm以下に除去する必要がある。さらに、一酸化炭素によっても触媒が被毒するため、メタンを水素に改質する際にが発生する一酸化炭素を改質ガス中から10ppm以下にまで除去する必要がある。
一方、微生物を利用して、アノード周辺の電子供与体からの電子を、アノードとカソードを回路として導通することでカソード周辺の電子受容体(主に溶存酸素)に供与して電流を得る方法が報告されている(特許文献1、2、及び3)。また、別の例では微生物に常に不十分な量の有機物を与えて、微生物を飢餓状態に維持することによって効率良く電子を取り出す方法が提案されている(特許文献4)。さらに、別の例では酵素電極の製造方法として、酸化還元酵素の電子メディエータであるレドックス化合物を電極に固定化する方法が提案されている(特許文献5)。
電子メディエータを利用する微生物電池技術として、含水有機性物質又はその分解物を基質として、基質と酸素との酸化還元反応を、嫌気性微生物による酸化反応と、酸素の還元反応に分離することによって発電を行う方法が提案されている(特許文献3及び非特許文献1〜3)。しかし、これらの方法において用いられている電子メディエータの標準電極電位は、一般に微生物電池反応に用いられる嫌気性微生物の最終電子受容物質の標準電極電位と重ならず、有効な電位のカスケードを形成できないという問題がある。例えば、これまでに提案されている電子メディエータとその標準電極電位は、下記表1のとおりである。
Figure 2007090232
一方、一般的な生物電池反応に用いられる嫌気性微生物である硫黄還元菌、酸化鉄(III)還元菌の最終電子受容物質である硫黄及び鉄の標準電極電位は、下記表2のとおりである。
Figure 2007090232
表2より、硫黄還元菌の持つ電子伝達系の末端還元酵素(硫黄還元酵素)は、-0.28Vの標準電極電位を持つ物質を還元することができ、一方、酸化鉄(III)還元菌の持つ電子伝達系の末端還元酵素(酸化鉄(III)還元酵素)は、+0.20Vの標準電極電位を持つ物質を還元することができることがわかる。これらの末端還元酵素は微生物の外膜やペリプラズムに存在しており、菌体外の酸化鉄や0価の硫黄を還元できることから効率的な生物発電のために有効な触媒となり得る。ところが、これまで提案されている電子メディエータの標準電極電位は、表1に示すように、A〜Gの電子メディエータのいずれも鉄還元の標準電極電位よりも低いので、酸化鉄(III)還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位のカスケードを形成できない。同様に、表1C〜Gの電子メディエータは硫黄還元の標準電極電位よりも低いので、硫黄還元酵素−電子メディエータ−アノード間で有効な電位のカスケードを形成できない。表1A及びBの電子メディエータは硫黄還元の標準電極電位よりも高いので、理論上は硫黄還元酵素による還元が可能であるが、電位差が0.3V以上もあり、生物学的な電子伝達が困難である可能性が高い。その上、発電効率を高めるためにはカソードの酸素還元反応に対してできるだけ大きな電位差を生じさせることが求められるが、電子メディエータの電位が高いので0.3V以上の電位差を損失してしまい、エネルギー損失が大きくなる。
そこで、硫黄還元菌を用いた微生物電池系において、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQ-2,6-DS)をアノード区画に添加することにより電子伝達効率の向上を試みる提案がなされた(非特許文献2)。AQ-2,6-DSの標準電極電位は-0.185Vであり、硫黄還元酵素−電子メディエータ間で有効な電位のカスケードを形成するに適当な物質であると考えられる。しかし、提案されている系においては、AQ-2,6-DSは液相中に添加されただけで、アノード(酸化電極)に固定化されていないため、電極との反応性が低く、添加効果は24%の電流値増加に留まっている。また、連続的に発電する場合には、アノード区画内の基質液を更新する際に電子メディエータも一緒に系外に排出されてしまい、常に電子メディエータを添加し続けなければならない、という問題がある。
なお、硫黄還元菌や酸化鉄(III)還元菌に属する微生物の少なくとも一部は、電子メディエータが存在しない環境下でも直接電極に電子を渡すことがある程度は可能であることから、電子メディエータを使用しない微生物電池の技術も提案されている(特許文献6)。しかしながらこの方法では、電子メディエータを系内に保持しなくて良いという長所はあるものの、微生物から電極への電子伝達が効率的には行えないため、電流密度を大きくすることができない。そのため、実用的な発電速度を得ることが難しいという問題があった。
特開2000−133327号公報 特開2000−133326号公報 特表2002−520032号公報 米国特許4652501号明細書 特開昭57-69667号公報 特許3022431号公報 特願2005-088158号明細書 Roller et al., 1984, Journal of Chemical Technology and Biotechnology 34B: 3-12 Bond et al., 2002, SCIENCE 295: 483-485 Park et al., 2000, Biotechnology Letters 22: 1301-1304
上記の実用的な発電速度を得る課題を解決するための手段として、本発明者らは、一方の電極をpH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある電子メディエータ固定化アノードとし、他方の電極をカソードとして、前記カソードとアノードとを電気的に接続して閉回路を形成し;前記アノードを嫌気性下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液又は懸濁液と接触させて、前記有機性物質を電子供与体とする微生物による酸化反応を進行させ;前記カソードと前記溶液又は懸濁液とを電解質膜を介して離隔して、前記カソードにおいて酸素を電子受容体とする還元反応を進行させ;こうして、生物反応系における酸化反応を促進して発電を行うことを特徴とする発電方法並びにかかる発電方法を実施するための装置を提供するに至った(特許文献7)。
このような生物発電方法及び装置において、嫌気性微生物に対する電子供与体として畜産廃棄物、し尿、食品廃棄物、汚泥などの有機性汚濁物質を含む廃水及び廃棄物(本明細書において「廃液」ともいう)を利用することにより、有機性廃水及び廃棄物の環境負荷を低減するとともに、何らエネルギー変換装置を介さず、またガスタンクや改質器などの周辺装置も不要で、有機性廃水及び廃棄物中の有機物の持つ化学エネルギーを、直接電力に変換することができるばかりでなく、有機性汚濁物質含有廃液の浄化処理が可能となることを知見した。本発明は、上述のような生物発電技術を用いて、効率的に有機性汚濁物質含有廃液の環境負荷を低減すると共に電気エネルギーを得ることができる処理方法及び装置を提供することを目的とする。
具体的には、生物発電装置から得られる処理水をさらに処理して、水質汚濁防止法による一律排水基準(日平均)である生物学的酸素要求量(BOD)120mg/L未満を安定して達成できる有機性汚濁物質の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
本発明によれば、嫌気性条件下で生育可能な微生物及びpH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備する生物発電装置を利用する有機性汚濁物質含有廃液の処理方法であって、該有機性汚濁物質含有廃液を該生物発電装置の嫌気性域に供給し、該嫌気性域内での有機性汚濁物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを進行させて、該有機汚濁物質含有廃液の汚濁負荷の低減を行うとともに発電を行う微生物処理・発電工程と、該微生物処理・発電工程により得られる処理水の汚濁負荷を更に低減させる後処理工程と、を含む有機性固形汚濁物質含有廃液の処理方法が提供される。
本発明において処理することができる有機性汚濁物質含有廃液としては、生分解可能な物質を含む液体、分散液、懸濁液、スラリーなどの流体であればよく、例えば食品加工工場廃水、し尿等を挙げることができる。また、コーヒー粕や廃ビール酵母、おからなどのような食品加工残渣、食品残渣(生ごみ)、廃紙、家畜糞尿、余剰汚泥等の有機性固体廃棄物をミルや石臼、超音波照射のような機械的破砕、酸やアルカリ処理、オゾン処理のような化学処理あるいは熱処理等を用いて、微細粒子として分散または懸濁および/または溶解性物質に変換され、被処理液から容易に分離できない状態に変化させたものも処理することができる。また、有機性汚濁物質含有廃液を予め生物処理し、該汚濁物質を低分子化させたものも処理することができる。
本発明の処理方法は、有機性汚濁物質を最初に生物発電装置で処理し、その後、処理液を後処理する2工程を含む。まず、生物発電装置を利用する微生物処理・発電工程について説明する。
本発明において、有機性汚濁物質含有廃液中の有機性汚濁物質は、嫌気性条件下で生育可能な微生物及びpH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備する生物発電装置の嫌気性域内で嫌気性微生物による分解作用を受けて、汚濁負荷の少ない物質に変換される。
汚濁負荷の指標としては、BOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)、窒素濃度、リン濃度から選択されるいずれか1種以上を用いることが好ましく、特にBODが好ましい。
本発明において用いることができる生物発電装置は、嫌気性条件下で生育可能な微生物及び電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、カソードを含む好気性域と、嫌気性域及び好気性域を流体連通状態に画定する隔膜と、を具備する。電子メディエータ固定化アノードは、電子メディエータを電極基材に固定化したものであり、pH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある。嫌気性域には有機性汚濁物質含有廃液を供給するための供給口が設けられている。嫌気性域に供給された有機性汚濁物質含有廃液中の有機性汚濁物質を基質として、嫌気性域内の嫌気性微生物が酸化反応を進行させ、一方、好気性域内では、カソードにおいて酸素を電子受容体とする還元反応を進行させる。こうして、生物反応系における酸化反応を促進して発電を行う生物発電装置である。
嫌気性域内に存在する微生物としては、細胞外膜(細胞膜外)で電子をアノードで捕捉しやすい、電極に最終電子伝達を行える微生物(本明細書及び特許請求の範囲で「電極活性な微生物」という)を利用することが望ましい。電極活性な微生物としては、硫黄S(0)還元菌、酸化鉄(III)Fe(III)還元菌、二酸化マンガンMnO2還元菌、脱塩素菌などが好ましく用いられる。このような微生物として、例えば、Desulfuromonas sp.、Desulfitobacterium sp.、Clostridium thiosulfatireducens sp.、Acidithiobacillus sp.、Geothrix sp.、Geobacter sp.、Shewanella putrefaciens sp.などが特に好ましく用いられる。特に、硫黄還元菌は、最終電子受容体である硫黄の標準電極電位が-0.28Vと非常に低いので、酸化鉄(III)還元菌よりも低い電位を有する電子メディエータに電子を伝達することができ、エネルギー的に有利である。このような硫黄還元活性を有する微生物として、例えば、Desulfuromonas sp.、Desulfitobacterium sp.、Clostridium thiosulfatireducens sp.、Acidithiobacillus sp.などが好ましく用いられる。
本発明で用いる生物発電装置のアノードを構成する電極基材としては、導電性を有する多孔質基材を好ましく挙げることができ、具体的には多孔質グラファイト、カーボンペーパー、グラファイトクロス、グラファイトフェルト、活性炭繊維、カーボンブラックの成型品、カーボンナノチューブの成型品、気相成長炭素繊維の成型品などを好ましく挙げることができる。
本発明で用いる生物発電装置のアノードに固定化される電子メディエータとしては、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、イソアロキサジン誘導体からなる群より選択される物質が使用できる。より具体的には、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルアミノベンゾキノン類(TMABQ)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)およびこれらの誘導体、例えばアントラキノン-2-カルボン酸(AQ-2-C)、1-アミノアントラキノン(AAQ)、1,5-ジアミノアントラキノン(1,5-DAAQ)、アントラキノン-2-スルホン酸(AQ-2-S)、1,5-ジアミノアントラキノン-2-スルホン酸(1,5-DAAQ-2-S)、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQ-2,6-DS)、アントラキノン-2,7-ジスルホン酸(AQ-2,7-DS)、アントラキノン-1,5-ジスルホン酸(AQ-1,5-DS)、1,5-ジアミノアントラキノンジスルホン酸(1,5-DAAQDS)、2-エチルアントラキノン(2-EAQ)、2-メチル-1,4-ナフトキノン(2-M-1,4-NQ)、2-メチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(2-M-5-A-1,4-NQ)、2-ブロモ-3-メチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(2-Br-3-M-5-A-1,4-NQ)、2,3-ジメチル-1,4-ナフトキノン(2,3-DM-1,4-NQ)、2,3-ジメチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(2,3-DM-5-A-1,4-NQ)、ラパコール(LpQ)、2-ヒドロキシ-3-(3-メチル-2-ブテニル)-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(ALpQ)、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸(1,2-NQ-4-S)、2,3,5-トリメチルベンゾキノン(2,3,5-TMABQ)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)およびこれらの誘導体からなる群より選択される物質が好ましく用いられる。
これらの電子メディエータを電極基材に固定するには、電子メディエータの酸化還元を阻害したり、電子メディエータの標準電極電位を大きく変動させてしまうことがないような固定化方法を用いることが好ましい。また、電子メディエータと電極基材とは導電性を有するような形態で結合されていることが望ましいが、電子メディエータと電極基材間の距離が200Åよりも接近が可能なように配置されていれば、電子メディエータと導電性基材とは直接結合していなくともよく、なんらかのスペーサーを介して結合していても良い。例えば、アミノスチレンなどの重合した繊維や、ポリアクリルアミド、ポリイミド、ポリアリルアミンなどの官能基を持った樹脂をスペーサーとして用いても良い。この場合、両者間の距離が100Åよりも近ければ、電子がこの間の距離を移動することができるので導電性が維持される。さらに、電子メディエータと電極基材との結合は、水環境中で安定で且つ容易に分解されない形態であることが望ましい。これらの条件を満たす固定化方法として、下記表-3及び表-4に示す化学結合方法が好ましく用いられる。
Figure 2007090232
Figure 2007090232
したがって、本発明において、電子メディエータを電極基材に固定化するには、使用する電極基材と電子メディエータとの組み合わせに応じて、表-3及び表-4に示す方法から適切な化学修飾及び結合方法を選択することができる。
本発明で用いる発電装置においては、カソードの少なくとも一部を、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維材料で構成し、その空隙中に水素イオンを含む水/空気/電子の界面、すなわち空気(酸素)と水素イオンと電子とを隣接させる場を構築することが好ましく、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めて、空気中の酸素の還元反応(電極反応)を促進できる。例えば、微細孔を有する導電性の多孔質材料に樹脂バインダで導電性粒子(カーボン、不活性金属、金属酸化物など)を結着したものをカソードとして用いることで、毛細管現象及び表面の親水化等により水を効果的に吸い上げて、微細孔内部に水/空気の接触界面を形成させて、空気中の酸素と水とを効率良く接触させて酸素の還元反応を促進することができる。カソードとして用いることができる電極基材としては、多孔質グラファイト、カーボンペーパー、グラファイトクロス、グラファイトフェルト、活性炭繊維、カーボンブラックの成型品、カーボンナノチューブの成型品、気相成長炭素繊維の成型品などを好ましく挙げることができる。
さらに、カソードに白金族元素、銀、遷移金属元素から選ばれる少なくとも一種類を含有する合金あるいは化合物からなる触媒を担持することが好ましく、空気中の酸素の還元反応(電極反応)を促進できる。白金族元素とは白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)またはイリジウム(Ir)を指し、いずれも電極触媒として有効である。また、ニッケル(Ni)、ビスマス(Bi)、チタン酸化物をドープした銀粉末を担持したもの、ファーネスブラック又はコロイド状グラファイトに銀を担持したもの、鉄(Fe)、コバルト(Co)、フタロシアニン、ヘミン、ペロブスカイト、Mn4N、金属ポルフィリン、MnO2、バナジン酸塩、またはY2O3-ZrO2複合酸化物を用いたものについても電極触媒として好ましく用いることができる。
本発明で用いる生物発電装置において、アノードとカソードとは電力利用機器に接続されて閉回路を形成する。その一方で、有機性汚濁物質の還元能を無駄なく電気エネルギーとして取り出すためには、有機性汚濁物質が酸化剤(被還元物質)、即ち空気中の酸素と接触して還元能を消費させないように、有機性汚濁物質と空気中の酸素が接触しないように両者を隔離する必要がある。これらの条件を同時に満たすためには、カソードと電極活性な微生物及び有機性汚濁物質を含む溶液又は懸濁液とを隔膜、例えば固体高分子電解質膜で隔てることが望ましい。このような構造をとることにより、カソードは空気中の酸素と容易に接触することができ、また隔膜中に存在する水を介して水素イオンの受給または水酸化物イオンの排出を行うことができる。また、隔膜はできるだけ空気中の酸素を透過させないものがよい。
このような隔膜としては、親水性があり高い陽イオン交換能を有するスルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換膜(陽イオン交換膜)や、第4級アンモニウム塩を有する水酸化物イオン交換膜(陰イオン交換膜)などが好ましく用いられる。また、より安価な隔膜として主鎖部のみをフッ素化したフッ素樹脂系イオン交換膜や、芳香族炭化水素系膜も利用できる。このようなイオン交換膜としては、例えばIONICS製NEPTON CR61AZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA CM-1または同CMB、旭硝子製Selemion CSV、IONICS製NEPTON AR103PZL、トクヤマ製NEOSEPTA AHA、旭硝子製Selemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。陽イオン交換膜は、カソードでの酸素の還元に必要な水素イオン及び水をアノードからカソードへ供給するために用いることができ、陰イオン交換膜は、水と酸素との反応から発生した水酸化物イオンをカソードからアノードへと供給するために用いることができる。
また、嫌気性域と好気性域とを隔離するために用いる隔膜としては、陰イオン交換膜を用いることもできる。具体的には、アンモニウムヒドロキシド基を有するヒドロキシドイオン交換膜を好ましく挙げることができる。このような陰イオン交換膜としては、例えば、IONICS製NEPTON AR103PZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA ALE、旭硝子製Selemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。この場合、嫌気性域に存在する有機酸などの陰イオン性の有機性物質が隔膜を透過して好気性域に至る(いわゆるクロスフローの現象)と、そこで酸素の消費が行われて有機物が無駄に酸化されるとともに好気性域において好気性の微生物が増殖してカソードを汚染することになるので、用いる陰イオン交換膜は分子篩い効果を持ち、酢酸などの分子量60以上の陰イオンを透過しにくい性質を持っていることが望ましい。このような性質を持つ陰イオン交換膜としては例えばアストム製ネオセプタALE04-4 A-0006膜がある。
さらに、本発明で用いる生物発電装置に設けることができる隔膜としては、官能基を有しないMF(マイクロフィルタ)、UF(ウルトラフィルタ)膜やセラミック、焼結ガラスなどの多孔質濾材、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン製の織布等を用いることができる。これらの官能基を有しない隔膜は、孔径が5μm以下で、非加圧条件でガスを透過しないものが好ましく、例えば、Schweiz Seidengazefabrik製のPE-10膜、Flon Industry製のNY1-HD膜などの市販品を好ましく用いることができる。
次に、後処理工程について説明する。
本発明の処理方法における後処理工程は、凝集沈殿工程、活性炭濾過工程、好気性微生物による分解処理工程、嫌気性微生物による分解処理工程、脱窒工程、脱リン工程、酸分解工程、電極活性な微生物による酸化還元処理工程から選択されるいずれか1種以上であることが好ましく、生物発電装置からの処理水を嫌気性域に供給し、該嫌気性域内での有機性汚濁物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と、好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを進行させて、該有機汚濁物質含有廃液の汚濁負荷の低減を行う電極活性な微生物による酸化還元処理工程であることが特に好ましい。
凝集沈殿工程としては、例えば硫酸アルミニウムやポリアクリルアミドなどの凝集剤添加による凝集沈殿工程を用いることができる。好気性微生物による分解処理工程は、曝気や散水濾床への散布等により行うことができ、嫌気性微生物による分解処理工程はメタン発酵等を利用することができる。脱窒工程としては、脱窒槽と硝化槽を配備した窒素除去装置を用いることができる。脱リン工程としては、嫌気槽と好気槽を配したリン除去装置、リン鉱石を配したリン除去装置などを用いたり、塩化マグネシウムとアルカリを添加したりすることができる。酸化分解工程としては、オゾンや過酸化水素、過マンガン酸カリウム、フェントン反応によるヒドロキシラジカル、紫外線照射等を用いることができる。
本発明において特に好ましい後処理工程は、嫌気性域内での有機性汚濁物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と、好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを進行させて、該有機汚濁物質含有廃液の汚濁負荷の低減を行う電極活性な微生物による酸化還元処理工程である。電極活性な微生物による酸化還元処理工程は、上述の生物発電装置と基本的に同じ構成であってもよい第2の生物発電装置を用いて行うことが好ましい。後処理工程に生物発電装置を用いることは、曝気のための動力や、凝集剤、活性炭などの薬剤を必要としない点で有利である。
また、後処理工程に第2の生物発電装置を用いる場合には、第2の生物発電装置のアノードは、微生物処理・発電工程において用いる生物発電装置のアノードよりも高い標準電極電位(E0’)を有することが好ましい。微生物処理・発電工程において用いる生物発電装置におけるよりも高い標準電極電位を有するアノードを用いることにより、微生物処理・発電工程では除去できなかった低濃度のBODレベルまで有機性汚濁物質を除去することが容易となる。アノードの標準電極電位を異ならせるためには、アノードに固定する電子メディエータの種類を異種とすればよい。具体的には、微生物処理・発電工程における生物発電装置のアノードに固定する電子メディエータよりも高い標準電極電位(E0’)、例えば-0.13Vより高い標準電極電位(E0’)を有する電子メディエータを第2の生物発電装置のアノードに固定することで達成される。
第2の生物発電装置のアノードに固定することができる電子メディエータとしては、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、イソアロキサジン誘導体、ユビキノン誘導体、シトクローム誘導体、鉄スメクタイト誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を好ましく挙げることができる。具体的には、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルアミノベンゾキノン類(TMABQ)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、ユビキノン(UQ)、1,4−ベンゾキノン(1,4--BQ)、シトクロームa、シトクロームb、シトクロームc、ノントロナイト及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を好ましく挙げることができる。
これらの電子メディエータをアノードに固定するには、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、イソアロキサジン誘導体、ユビキノン誘導体などのキノン系物質については、微生物処理・発電工程で用いる生物発電装置のアノードへの固定と同様の表-3及び表-4に示す化学結合方法を用いることができる。
電子メディエータとしてシトクロームおよびその誘導体を電極基材に固定化する方法としては、N-サクシイミジル-3-マレイミドプロピオン酸を、予めアノード導電性基材に導入しておいたアミノ基に脱水縮合させ、これにシトクロームのシステイン残基の持つチオール基を求核付加させ、結合させる方法がある。具体的には、例えば導電性基材としてグラファイトを用いた場合、これにスルファニル酸と亜硝酸塩を作用させジアゾカップリング反応によってスルホン酸基を導入する。これにオキサリルクロリドを反応させてスルホニルクロリドとし、THF溶媒中で1,3-プロパンジアミン等のジアミンを作用させアミノ基を導入する。導入されたアミノ基に対して等モルもしくはそれ以上の量のN-サクシイミジル-3-マレイミドプロピオン酸を添加し、ジシクロヘキシルカルボジイミドの共存下で反応させることにより、N-サクシイミジル-3-マレイミドプロピオン酸のカルボキシ基とグラファイト上のアミノ基とのアミド結合が形成され、マレイミドの単分子層が形成される。固定化されたマレイミドに対して等モルもしくはそれ以上の量のシトクロームを添加し、シトクロームのシステイン残基の持つチオール基をマレイミドに求核付加させることにより、最終的にシトクロームをグラファイト表面に固定化することができる。さらに、鉄スメクタイトを固定化する方法としては、鉄スクメタイトをボールミル等で粉砕し、ナフィオン(デュポン社、登録商標)/イソプロパノール溶液か、ポリアクリル酸/メタノール溶液に懸濁してカーボンブラック粉末と混合し、多孔質グラファイト板などに塗布する方法がある。
後処理工程において用いることができる第2の生物発電装置におけるカソードや隔膜及び電極活性な微生物などは、微生物処理・発電工程で利用する生物発電装置におけるカソードや隔膜及び電極活性な微生物と同じ構成でよい。ただし、第2の発電装置に配備するアノード-カソード間の回路には電力利用機器を介させず、導線を用いて無負荷もしくはきわめて低い負荷で回路を形成させることも好ましい。無負荷もしくはきわめて低い負荷で回路を形成することにより、第2の発電装置に配備する比較的高い標準電極電位(E0’)を持つ電子メディエータであってもアノードにおいて効率的に酸化され易くなる。
したがって、本発明によれば、嫌気性条件下で生育可能な微生物及びpH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備する生物発電装置;及び該生物発電装置からの処理水の汚濁負荷をさらに低減させる後処理槽を具備する有機性汚濁物質含有廃液の処理装置も提供される。
本発明の処理装置の生物発電装置及び後処理槽は、本発明の処理方法において説明した装置であることが好ましい。
本発明の処理方法及び装置によれば、水処理効率の向上と発電電力量の増加という相反する要求を同時に満たすことができる。例えば、特にセルロースなどの比較的生分解速度の遅い物質を含む廃液を連続的に処理する場合、生物発電装置単独では嫌気性域内において微生物による有機性物質の酸化反応が進行してBODが低下してくる。特にBODが1000mg/Lを下回った時点で、徐々に嫌気性域内の酸化還元電位(ORP)が上昇(酸化的状態に変化)し、同時に発生電流量が低下するという現象が観察される。これによって、BODの除去速度が低下して、低濃度までのBOD除去が困難になる。すなわち、BOD濃度が低い条件では電流発生量が減り、それと同時に嫌気性域でのBOD負荷低減速度が低下する。この現象の原因について、本発明者らは鋭意検討し、以下の知見を得た。嫌気性域内のBODが低下してくると有機物から微生物への還元力の供給が低下し、微生物体内の還元性物質である還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の濃度が低下する。すると末端還元酵素または菌体外放出電子媒体(メナキノン誘導体など)のうち還元型になっているものの濃度も低下する。この状態では、アノードに固定化されている電子メディエータを還元する頻度も低下する。すると、微生物側の還元反応律速によって還元型の電子メディエータ供給速度が低下し、これをアノードが酸化することによって発生する電流量も低下する。特に電子メディエータ固定化アノードとして標準電極電位(E’)が低い物質を用いている場合には、BODが低下して還元力が低下し、嫌気性域内の酸化還元電位(ORP)が電子メディエータ固定化アノードの持つ酸化還元電位以上に上昇してしまうと、電子メディエータが還元型で存在できなくなり、結果としてほとんど電流が流れなくなってしまう。
しかし、一方で、生物発電装置からなるべく大きな電力を得るためには、アノード-カソード間の電位差を大きくすることが必要で、そのために電子メディエータ固定化アノードは標準電極電位が-0.13V〜-0.28Vの範囲内で且つ-0.28Vに近いなるべく低い電位を有することが望ましい。結局、処理水BOD濃度を低くするためには電子メディエータ固定化アノードの標準電極電位はなるべく高いものが良く、一方で発電装置として大きな電力を得るためには電子メディエータ固定化アノードの標準電極電位はなるべく低いものが望ましいという相反する要求が存在することになる。
本発明の処理方法及び装置は、微生物処理・発電工程もしくは生物発電装置内において低い標準電極電位を有する電子メディエータ固定化アノードを用いることで高発電量を確保し、後処理工程もしくは第2の生物発電装置内において高い標準電極電位を有する電子メディエータ固定化アノードを用いることで高いBOD分解能を確保することが可能となり、良好な処理水水質と高い発電能力を同時に実現することができる。
また、生物発電装置単独の有機性物質処理方法では、活性汚泥法などの好気性微生物による生物処理に比べて汚泥の発生量が少なく、余剰汚泥の処理費用が少なくて済むという特徴を有する。しかし反面、余剰汚泥の発生量が少ないために、余剰汚泥中に取り込まれる窒素やリンが少なく、処理水中に流出する窒素やリンの濃度が高くなることもある。本発明の処理方法及び処理装置によれば、微生物処理・発電装置からの処理水を後処理工程又は後処理槽にて処理することで、処理水中の窒素やリンなどを除去することができる。
以上のように、本発明によれば、簡易な装置により、効率的に廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、汚泥などの有機性汚濁物質を含む廃液を処理しつつ、電気エネルギーを得ることができるばかりでなく、水質汚濁防止法の一律排水基準(日平均)である生物学的酸素要求量(BOD)120mg/L未満の処理水を安定的に得ることができる。
好ましい実施形態
添付図面を参照しながら本発明を更に詳細に説明するするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明の有機性汚濁物質含有廃液の処理装置のフロー図である。図1において、本発明の処理装置は、隔膜5cによって画定された嫌気性域5a及び好気性域5bを具備する生物発電装置5と、後処理槽10と、を含む。後処理槽10は、有機性汚濁物質含有廃液1の性状にもよるが、凝集沈殿槽、活性炭濾過槽、好気性微生物分解槽、嫌気性微生物分解槽、脱窒槽、脱リン槽、脱硫槽などである。生物発電装置5と後処理槽10との間には、処理液を後処理槽10に供給するための配管6及びポンプが接続されている。生物発電装置5の嫌気性域5aにはpH調整用薬剤貯留槽7及びpH制御装置8からの配管がそれぞれ接続されている。図1に示す処理装置には、有機性汚濁物質含有廃液1を貯留する原水貯留槽2及び原水貯留槽2から有機性汚濁物質含有廃液1を生物発電装置5に供給するための配管及びポンプが設けられている。
図2は生物発電装置5の具体例を示す。例えば、図2に示す生物発電装置の一具体例は、電子メディエータを固定化した生物発電用アノード51を含む嫌気性域54、隔膜(電解質膜)52、および多孔質カソード53を含む好気性域55が三重の筒状体をなすことによって構成されている。筒状体の最内隔空間形態である嫌気性域54には電子伝達嫌気性微生物を含む溶液又は懸濁液を予め入れておく。嫌気性域54には、原水貯留槽2から有機性物質を含む有機性汚濁物質含有廃液1(「基質」ともいう)を流す。筒状体の最外隔空間形態である好気性域55には分子状酸素を含む空気を存在させる。好気性域55には、分子状酸素を供給する手段(図示せず)が設けられている。好気性域55内に配置されている多孔質カソード53は、カソードの少なくとも一部が、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維状材料によって形成されている。嫌気性域54と好気性域55とを隔離する隔膜52は、物質交換係数が大きな隔膜、たとえばDuPont社製のNafion(登録商標)、アストム社製ネオセプタ(登録商標)などの固体高分子電解質膜で構成されている。
嫌気性域54内では、有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応が進行し、好気性域55内では、酸素を電子受容体とする還元反応が進行する。こうして、アノード51とカソード53の間に電位差が生じる。この状態でアノード51とカソード53とを導線56によって電力利用機器に電気的に接続することにより電位差電流が流れ、一方、電解質膜52を介して嫌気性域54と好気性域55の間でイオンが移動することにより、閉回路が形成される。反応が進行するにつれて、嫌気性域54には水素イオンが発生し、嫌気性域の水溶液は酸性を呈する。一方、好気性域55には水酸化物イオンが発生して好気性域55内に発生する水はアルカリ性溶液となる。
発電ユニットを構成する筒状体の内径は、基質の流動性に応じ、数mmから数cm、場合によっては数十cmに設定することができる。図2に示すような発電ユニットは、適当な材料の支持層またはケーシングで保持することによりその物理的強度を増すことができる。この場合、筒状体を更に外殻で被包して外殻と筒状体との間の空間を空気室とし、空気室に空気を供給及び排出する手段を形成するようにしてもよい。
図2に示した実施形態においては、アノード51、隔膜52及びカソード53を円筒形とする3層構造を採用し、隔膜52を介してアノード51とカソード53とを配置している。このような構成とすることによって、アノード51及びカソード53の表面積を大きくし、アノード51が基質と効率良く接触して基質の動かないデッドゾーンをできるだけ小さくすることができるので、アノード51とカソード53との間でイオン交換が効率良く行われると同時に、アノード51とカソード53は電気的に絶縁され、有機性物質(基質)の電子が効率良くアノード51に受け渡されることになる。また、多孔質カソード53の空隙中に空気と水との接触界面を存在させた状態で空気と接触させることにより、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることができ、電極上での酸素の還元反応を効率良く進行させることができる。
図2に示すような三層筒状体の生物発電装置においては、用途に応じてアノードを含む嫌気性域を外側に、カソードを含む好気性域を内側に配置し、好気性域に空気を流通させる手段を配して該装置を基質液中に設置することで、発電運転を行うこともできる。また、この場合、筒状体を例えばU字型に形成し、両端を基質液の液面から出して、筒内部の空間に空気が流通できるようにしてもよい。このように好気性域を内筒とする構成の場合には、好気性域の内筒の内径を数mm程度またはそれ以下に小さくしても閉塞の生じる心配がない点が有利である。更に、三層筒状体において、内側の筒状体を多孔質カソードを含む好気性域、外側の筒状体をアノードを含む嫌気性域とすると、カソードに比較して外側のアノードの表面積を大きくすることができるので有利である。さらにアノードの表面積を広くするため、アノードの表面に凹凸や襞をもたせることも可能である。一方、カソード側の内径は、反応効率も関係するが、空気が容易に流通するだけの径があれば良く、閉塞の危険性がほとんどないため、内径を数mm程度またはそれ以下まで小さくすることが可能である。この場合、筒状体を更に外殻で被包して筒状体の外側空間を基質の流れる微生物反応室とし、微生物反応室に基質を供給及び排出する手段を配置することによって装置を構成することができる。
また、図2に示すような筒状形態又は他の形態の生物発電ユニットを複数個並べて、生物発電装置を構成することもできる。例えば、図3には、図2の生物発電ユニットを複数個並べた形態を示し、図7には平板状の生物発電ユニット(実験用生物発電装置)の形態を示す。
図3に示す生物発電装置においては、図2に示すようなアノード51の内筒、隔膜52及びカソード53の外筒から構成される三層筒状体(発電ユニット)が複数本、外殻によって形成される空気室57の中に配置されている。基質は、流入ポンプにより流入部59を介して複数配置された発電ユニットの内部54へ分配注入される。ここで酸化分解を受けた基質は、流出部60を介して反応容器の外へ出た後、処理液6として系外へ排出される。反応容器内に蓄積した微生物菌体及び汚泥は、経時的に余剰汚泥排出口63を開くことにより排出される。また、同じく排出口63より、水、不活性ガス、嫌気ガスを注入することにより反応容器内を逆洗、空洗することができる。反応容器内で嫌気性ガスが発生した場合は、排気口69から排出することができる。この嫌気性ガスを貯留して空洗に使用してもよい。
一方、多孔質カソード53に酸素を供給するため、ブロワを用いて空気導入口64から空気室57へ通気を行うことができる。ただし用途に応じて強制換気が必要でない場合には、空気室57を取り外して、各発電ユニットの外筒であるカソード53が外気に触れるように装置を構成してもよい。通気された空気は、空気室57内の発電ユニットの間の空間55を流れ、カソード53と接触した後に、排気口65から排出される。また、カソード53での還元反応により生成した水は、水蒸気として排気口65から排出されるか、凝縮水として凝縮水ドレイン66から排出される。
導線56は、アノードとの接続部67により複数の発電ユニットの内筒に、またカソード53との接続部68により複数の発電ユニットの外筒に電気的に接続される。この際、導線56は、周囲の環境と電気的に絶縁し、電気的短絡及び導線表面での酸化還元反応が起こらないようにすることが必要である。
なお、図3に示す装置についても、図2に関して上記に説明したのと同様に、カソードを内筒、アノードを外筒として各発電ユニットの筒状体を構成し、各筒状体内部空間へ空気を供給し、発電ユニットの筒状体の外側のアノードに基質を接触させるようにすることもできる。
カソードについては、いかに効率良く電極上での酸素の還元反応を進行させるかが課題となる。このためには、カソードの少なくとも一部を、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維状材料によって形成して、このカソードの空隙中に空気と水との接触界面を存在させた状態で空気と接触させることにより、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることが好ましい。
図4に生物発電装置において採用することのできるカソードの構造の一例を断面図で示す。図4(A)は、隔膜52及びカソード53の構造の断面を示したものであり、図4(B)は、図4(A)を空気室側55から見た図である。また、図4では、隔膜52が陽イオン交換膜である場合の反応系を示す。図4に示すカソードは、多孔質のマトリックス20に、好ましくは白金族元素、銀、遷移金属元素から選ばれる少なくとも一種類を含有する合金あるいは化合物からなる触媒21を担持する構造を有し(図4(A))、空気室側55から見た場合網目状の構造を呈している(図4(B))。このような構成を取ることにより、カソード53が、水面または隔膜を経由する水を基材の親水性によって吸い上げつつ空気中の酸素と接触することができ、電極のミクロな構造中に空気ネットワーク22と水溶液ネットワーク23を持つことによって空気/水接触界面の面積を増大させ、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることができる。酸素と水素イオンが触媒21上で反応することにより、空気中の酸素の還元反応を促進することができる。
図4(C)に、生物発電装置において採用することのできるカソード構造の別の一例を示す。図4(C)においても、隔膜52が陽イオン交換膜である場合の反応系を示す。図4(C)に示すカソードは、隔膜52と同じ材料からなる溶液を、多孔質のマトリックス20の隔膜52との接合面側に塗布して乾燥させることによって、隔膜構造体の一部を多孔質マトリックス20の微細孔内部に浸入させたものである。このような構成を取ることにより、イオン交換および触媒の利用率を向上させ、空気中の酸素の還元反応を促進することができる。
次に、図1に示す処理装置での有機性汚濁物質含有廃液の処理方法を説明する。図1の処理装置では、有機性汚濁物質含有廃液1を原水貯留槽2に貯留しておき、送液ポンプを作動させて、有機性汚濁物質含有廃液1を生物発電槽5の嫌気性域5aに供給する。一方、生物発電装置5の好気性域5bには、相対湿度を100%に加湿した酸素又は酸素を含む空気を供給する。このとき、酸素又は酸素を含む空気をポンプやファンを用いて生物発電装置5の好気性域5bに流通させてもよく、あるいは熱対流を利用して流通させてもよい。
pH制御装置8によって測定された生物発電装置5の嫌気性域5a内の有機性汚濁物質含有廃液のpHに基づいて、pH調整用薬剤溶液貯留槽7からpH調整薬剤(酸、アルカリ、又はpH緩衝液)が生物発電装置5の嫌気性域5aに供給され、生物発電装置5の嫌気性域5a内液のpHを10.5〜6.5の範囲に維持する。嫌気性域5a内の有機性汚濁物質含有廃液の温度は、電極活性な微生物の活性を維持する温度、例えば10℃〜45℃に維持する。この条件にて、有機性汚濁物質含有廃液を嫌気性域5a内に24時間〜240時間の滞留時間で通液する。
その後、生物発電装置5の嫌気性域5aの排出口から処理液6を後処理槽10に送液し、凝集沈殿、活性炭濾過、好気性微生物分解、嫌気性微生物分解、脱リン、脱窒、脱硫などの後処理を行い、二次処理水11の汚濁負荷指標を排出基準以下まで低減させる。
図5は、本発明の処理装置の別の実施形態を示すフロー図である。図1の処理装置と重複する構成の説明は省略する。
図5に示す処理装置は、原水貯留槽2と生物発電装置5との間に、低分子化槽3をさらに具備する。低分子化槽3はpH制御装置8aを具備し、pH調整薬剤貯留槽7からアルカリ薬剤を供給するための配管と接続されている。pH調整薬剤貯留槽7は、生物発電装置5の嫌気性域5a及び低分子化槽3の両方にアルカリ薬剤を供給する。
図5に示す処理装置における有機性汚濁物質含有廃液1の処理について説明する。有機性汚濁物質含有廃液1は原水貯留槽2から低分子化槽3に送られる。低分子化槽3には有機性汚濁物質を分解する嫌気性微生物(有機性汚濁物質分解嫌気性微生物)が存在しており、pH制御装置8aによって測定された低分子化槽3内の有機性汚濁物質含有廃液1のpHに基づいてpH調整用薬剤溶液貯留槽7からpH調製薬剤(酸、アルカリ、又はpH緩衝液)が低分子化槽3に供給され、低分子化槽3内の有機性汚濁物質含有廃液1のpHを4.0〜6.5の範囲に維持する。低分子化槽3内の有機性汚濁物質含有廃液1の温度は、有機性汚濁物質分解嫌気性微生物の活性を維持する温度、例えば10℃〜45℃に維持する。この条件にて、有機性汚濁物質含有廃液1を低分子化槽3内に24時間〜240時間滞留させることにより、有機性汚濁物質分解嫌気性微生物が有機性汚濁物質を単糖類、オリゴ糖、アミノ酸、及びペプチドに分解し、さらに揮発性有機酸まで分解して、低分子化被処理液が形成される。
次いで、低分子化被処理液を送液ポンプによって生物発電装置5の嫌気性域5aに供給する。一方、生物発電装置5の好気性域5bには、相対湿度を100%に加湿した酸素又は酸素を含む空気を供給する。このとき、酸素又は酸素を含む空気をポンプやファンを用いて生物発電装置5の好気性域5bに流通させてもよく、あるいは熱対流を利用して流通させてもよい。
pH制御装置8によって測定された生物発電装置5の嫌気性域5a内の低分子化被処理液のpHに基づいて、pH調整用薬剤溶液貯留槽7からpH調整薬剤(酸、アルカリ、又はpH緩衝液)が生物発電装置5の嫌気性域5aに供給され、生物発電装置5の嫌気性域5a内液のpHを10.5〜6.5の範囲に維持する。嫌気性域5a内の低分子化被処理液の温度は、電極活性な微生物の活性を維持する温度、例えば10℃〜45℃に維持する。この条件にて、低分子化被処理液を嫌気性域5a内に24時間〜240時間の滞留時間で通液する。
その後、生物発電装置5の嫌気性域5aの排出口から処理液6を後処理槽10に送り、図1について説明したような後処理を行い、二次処理水11を得る。
図6は本発明の処理装置のまた別の実施形態を示すフロー図である。図1及び図5の処理装置と重複する構成の説明は省略する。
図6に示す処理装置は、生物発電装置5の嫌気性域5aからの処理水6を受け入れて後処理する後処理槽10を具備する。後処理槽10は、第2の生物発電装置である。後処理槽10は、隔膜10cによって嫌気性域10aと好気性域10bとに区分されている。嫌気性域10aには、生物発電装置5の嫌気性域5aに設けられているアノード(図示せず)よりも高い標準電極電位を有する電子メディエータ固定化アノード(図示せず)が設けられている。嫌気性域10aに含まれる嫌気性微生物は、生物発電装置5で使用したものと同じでよい。また、隔膜10cも生物発電装置5で使用したものと同じでよい。好気性域10bの構成も生物発電装置5の好気性域5bと同じであるが、アノードとカソードとが直接結線されていて、アノードとカソードとの間での電子の移動により生じる電力はほとんどがアノードでの電子メディエータの酸化に消費される点で異なる。嫌気性域10aには、pH調整用薬剤貯留槽7及びpH制御装置8bからの配管がそれぞれ接続されている。
図6に示す処理装置における有機性汚濁物質含有廃液1の処理方法は、図5について説明した態様と同じである。生物発電装置5の嫌気性域5aからの処理水6は、後処理槽10の嫌気性域10aに送られる。後処理槽10の嫌気性域10a内の処理水6のpHをpH制御装置8bによってpH6.5〜10.5の範囲に制御する。嫌気性域10a内の処理水6の温度は、電極活性な微生物の活性を維持する温度、例えば10℃〜45℃に維持する。この条件にて、処理水6を嫌気性域10a内に24時間〜240時間の滞留時間で通液し、二次処理水11の汚濁負荷指標、特にBODを排出基準以下まで低減させる。
図示した実施形態においては、二次処理水11はそのまま排出されているが、二次処理水11の汚濁指標が環境基準に満たない場合には、後処理槽10に循環させる配管及びポンプを具備する構成として更なる後処理を行ってもよく、あるいは複数種類の後処理槽10を配管及びポンプで連結させても良い。
また、図5及び図6に示す実施形態では、低分子化槽3を用いたが、低分子化槽3に代えてあるいは低分子化槽3に加えて、可溶化槽を使用してもよい。可溶化槽では、石臼やミルなどの機械的粉砕又は超音波粉砕による機械的可溶化処理、蒸煮又は爆砕による物理的可溶化処理、水熱電気分解による可溶化処理、酸、アルカリ、オゾン、次亜塩素酸、過酸化水素などの化学物質による可溶化処理のいずれかにより、有機性汚濁物質含有廃液1は可溶化有機性物質を含む有機性汚濁物質含有廃液に変換される。この態様は有機性汚濁物質が媒体に溶解、分散又は懸濁しにくい固体である場合に好適である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
図7に示す実験用の生物発電装置を用い、後処理槽として好気性生物処理槽を導入した場合(実施例1)、後処理槽として第2の生物発電装置を導入した場合(実施例2)、後処理槽として回分式活性汚泥槽を導入した場合(実施例3)及び後処理を行わなかった場合(比較例1)の水処理性能及び発電性能を比較した。
<生物発電装置>
図7に示す生物発電装置は、嫌気性域となるアノード区画用の1辺の長さ200mm(内寸180mm)、厚さ50mm(内寸40mm)のセルフレーム37と、好気性域となるカソード区画用の1辺の長さ200mm、厚さ20mmのセルフレーム38とを隣接配置して積層構造体(発電ユニット)とした。セルフレーム38内部には、燃料電池用の空気極として一般的に用いられるカラム状の気体の流路が刻まれている。セルフレーム37とセルフレーム38との積層構造体内部に、アノード51、隔膜52及びカソード53を燃料電池において一般的に行われるホットプレス法(100℃〜200℃に加温しながら加圧)を用いて順に接着させ、セルフレーム37内部に嫌気性域5aを形成し、セルフレーム38内部に好気性域5bを形成した。また、図示していないが、アノード51及びカソード53を導線により電気的に直列に接続して、電流量計(電力利用機器)を介して閉回路を形成した。
図7に示す生物発電装置の電流量計を含めた外部回路の抵抗は約1Ωであり、内部抵抗は50Ω程度であった。嫌気性域5aには、運転開始前に電極活性な微生物の集積培養体20mLを添加した。
以下、生物発電装置で用いたアノード、隔膜及びカソードを説明する。
<アノード>
アノード基材としてカーボンペーパー(Electrochem社EC-TP1-060)を用い、アノード基材に固定化する電子メディエータとしてアントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQ-2,6-DS)を用いた。
市販のAQ-2,6-DSをAQ-2,6-DSに対して1/2モルに相当する量のスルホランとオキシ塩化リンとを含むアセトニトリル溶液中70℃条件下で1時間反応させ、スルホン酸基を酸クロリド化した。これを氷冷しながら濾過して氷水で洗浄後乾燥させ、AQ-2,6-DSクロリドの粉末を得た。
一方、市販のVulcan XC-72R(Cabot)カーボンブラック10gに対して、スルファニル酸と亜硝酸塩10mmolを作用させ、ジアゾカップリング反応によってカーボンブラックへスルホン酸基を導入した。導入したスルホン酸基は、オキサリルクロリドを使用してスルホニルクロリドにした。さらにTHF(テトラヒドロフラン)溶媒中において1,3-プロパンジアミンを作用させ、カーボンブラック表面へアミノ基を導入した。得られたアミノ化カーボンブラックのアミノ基の導入密度を滴定によって求めたところ、500μmol/gであった。
得られたアミノ化カーボンブラック20g、上述したAQ-2,6-DSクロリド100mmol及び、トリエチルアミン8mLをDMF(ジメチルフォルムアミド)溶媒中において50℃で24時間反応させ、乾燥させた。これをNafion(登録商標)5%イソプロパノール溶液へ分散させ、カーボンペーパー(Electrochem社EC-TP1-060)へ塗布し、乾燥させた。
アノードの標準電極電位は、-0.23Vであった。
<隔膜>
隔膜52として、陽イオン交換膜(Dupont製Nafion115:Dupont社登録商標)を使用した。
<カソード>
カソード53は、白金を担持したカーボンブラックとNafion(Dupont社登録商標)5%イソプロパノール液のスラリーをカーボンペーパー(Electrochem社EC-TP1-060)へ塗布し、乾燥させた触媒担持カーボンペーパー53aと、コレクター53bとの組み合わせとした。
<第2の生物発電装置>
アノード以外は、上述の生物発電装置と同じ構成であり、嫌気性域には、運転開始前に電極活性な微生物の集積培養体を20mL添加した。アノードは、以下のように調製した。
アノード基材としてカーボンペーパー(Electrochem社EC-TP1-060)を用い、アノード基材に固定化する電子メディエータとして5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン(5-H-1,4-NQ)を用いた。
アルドリッチ社製の5-H-1,4-NQ 5gを20%(v/v)クロロスルホン酸/ジクロロメタン溶液100mLに溶解させ、濃硫酸2mLの共存下で室温で20時間反応させてスルホン酸クロリド基を導入した。
一方、市販のVulcan XC-72R(Cabot)カーボンブラック10gに対して、スルファニル酸と亜硝酸塩10mmolを作用させ、ジアゾカップリング反応によってカーボンブラックへスルホン酸基を導入した。導入したスルホン酸基は、オキサリルクロリドを使用してスルホニルクロリドにした。さらにTHF(テトラヒドロフラン)溶媒中において1,3-プロパンジアミンを作用させ、カーボンブラック表面へアミノ基を導入した。得られたアミノ化カーボンブラックのアミノ基の導入密度を滴定によって求めたところ、500μmol/gであった。
得られたアミノ化カーボンブラック20g、5-H-1,4-NQ クロリド100mmol及び、トリエチルアミン8mLをDMF(ジメチルフォルムアミド)溶媒中において50℃で24時間反応させ、乾燥させた。これをNafion(登録商標)5%イソプロパノール溶液へ分散させ、カーボンペーパー(Electrochem社EC-TP1-060)へ塗布し、乾燥させた。
アノードの標準電極電位は、-0.10Vであった。
<被処理水:有機性汚濁物質含有廃液>
有機性汚濁物質含有廃液には、多糖類を主成分とするBOD2g/Lの食品工場廃液を予め嫌気条件のジャーファメンター(低分子化槽)内でpH5.0〜6.0、35℃、48時間、攪拌速度50rpmで生物学的に低分子化処理したものを用いた。このようにして作製した発電装置流入水(被処理水)のBODは約1.7 g/Lで安定していた。
<電極活性な微生物集積培養体>
クロボク土0.1gを植種源とし、130mL容のバイアル瓶にHandbook of Microbial Media (Atlasら1997, CRC Press)に記載されているDesulfuromonas培地(表-5)を100mL注入して、気相を窒素ガス置換したものに添加し、密閉して、28℃の温度条件下で振とう培養し、2週間後に菌液5mLを新しく調製したバイアル瓶に植え継ぐという操作を5回繰り返し、10週間後に得られた菌液を嫌気性微生物集積培養体とした。なお、植種元である土壌は特にクロボク土に限定するものではなく、ローム土やシルトであってもよい。
Figure 2007090232
<生物発電装置の運転>
運転開始から10日間は、微生物が嫌気性域(微生物反応室)内に付着するのを待つため被処理水の通液を行わず、Handbook of Microbial Media (Atlasら1997, CRC Press)に記載されているDesulfuromonas培地(表-5)を嫌気性域(微生物反応室)側に充填して硫黄還元菌の優占化を促した(馴化)。その後10日間は、被処理水の滞留時間を10日間として馴養運転を行い、運転開始後20日より嫌気性域内での滞留時間を3日間とする通常運転にして、アノード、カソード間の電流量及び電圧を測定した。
本実施例では、馴養運転期間中を含めて、常にカソード・アノード間は電気的に接続した状態とし、最大の電力量が得られるよう可変抵抗を調整した。
好気性域5aでは、生物発電装置5の空気導入口67より相対湿度が100%になるよう調整した加湿空気を通気し、各好気性域5bを通過させた後、排出口66より排気するようにした。各好気性域5bにおいて発生した余剰のアルカリ性水溶液は、経時的に少量の水を通水して洗い落とした。
生物発電装置5の有効容積は、嫌気性域(微生物反応室)5aは1300mL、好気性域(空気反応室)5bは200mLであり、滞留時間が、被処理水は3日、空気は1分間となるように供給速度を調整した。電極の総表面積は、アノード、カソードともに300cm2とした。実験は30℃の恒温槽の中でおこなった。
本実施例では、上述のように構成した生物発電装置5及び後処理槽10を図1に示すように配置し、生物発電装置5からの馴養運転及び通常運転時の処理水6を後処理槽10に供給して後処理を行い、二次処理水を得た。
後処理槽10である好気性生物処理槽は以下のようにして構築した。有効容積1Lの曝気槽を作製し、散気管を配して底部より0.3L/minの速度で空気を通気した。曝気槽内には微生物担体としてアタックス製発泡ポリプロピレンろ材(平均粒径3cm)を0.5L投入し、流出しないよう金網で保持した。さらに曝気槽の後段に有効容積1Lの沈殿槽を配し、上澄み水のみを処理水として排出する構造とした。曝気槽に下水処理場の曝気槽汚泥100mLを投入し、酢酸ナトリウムを0.5g/L、塩化アンモニウムを50mg/Lとなるように添加して5日間曝気した。
本実施例では、上述のように構成した生物発電装置5及び後処理槽10を図6に示すように配置し、生物発電装置5からの馴養運転及び通常運転時の処理水6を後処理槽10に供給して後処理を行った。
後処理槽としての第2の生物発電装置10の馴化・馴養運転条件は生物発電装置5での馴化・馴養運転条件に準じ、生物発電装置5からの処理水6を通水することによって馴養運転及び通常運転を行い、二次処理水を得た。
本実施例では、処理水6を嫌気工程と好気工程を設けた回分式活性汚泥法を用いて処理した。回分式活性汚泥法の実験装置は、有効容積400mLの反応槽を用い、下水処理場のエアレーションタンクから採取した活性汚泥300mLを入れ、表-6に示す合成下水を用いて、原水流入15分(9.6mL/min)、撹拌2時間、撹拌および曝気4.5時間、沈殿45分、排水および排泥30分のサイクルで、2週間馴致運転した。馴致運転終了後、原水を処理水に切り換え、同様の回分運転をした。処理水をいったん貯留槽に貯留し、適宜回分式活性汚泥反応槽に供給し、二次処理水を得た。
Figure 2007090232
比較例1
生物発電装置5からの処理水6をそのまま採取し、二次処理水とした。
<試験>
通常運転を30日間行った期間のうち、二次処理水の水質が安定した10日目以降の実施例1、2、3と比較例1における二次処理水のBOD濃度および全リン、オルト-リン濃度を表-7に記す。
Figure 2007090232
後処理工程として好気性ろ床処理を行った実施例1、第2の生物発電装置を利用して後処理工程を行った実施例2、および嫌気好気工程を設けた回分式生物処理槽を配した実施例3では、二次処理水の水質は安定して100mgBOD/L以下であった。これに対して後処理工程を設けなかった比較例1では二次処理水BODが水質汚濁防止法の一律排水基準(日平均)である150mg/Lを超過した。また全リンおよびオルト-リンに関しては、嫌気好気工程を設けた回分式生物処理槽を配した実施例3において顕著な除去効果が認められた。
実施例1〜3における生物発電装置での通常運転期間中の電圧、電流量を記録した結果を表-8に示す。なお、実施例2については、後処理槽としての第2の生物発電装置における電圧、電流量も掲載する。
Figure 2007090232
いずれの系においても発電装置の発生電力はほぼ同等であった。また、実施例2においては後処理槽として第2の生物発電装置を配備して発電を行っているため、系全体の発電電力量は実施例1や実施例3と比較して1割程度増加した。
以上の結果より、本発明の後処理工程を設けることによって、有機性汚濁物質を含む廃水・廃棄物の処理を行いつつ発電を行う方法において、処理水の汚濁負荷をさらに低減することが可能であることが認められた。
本発明により、廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、汚泥などの有機性汚濁物質を含む有機性廃水・廃棄物の処理において、有機性高分子物質を含む廃水・廃棄物を処理しつつ、効率的に電気エネルギーを得ることができる。
図1は、本発明の有機性汚濁物質含有廃液処理装置の一実施形態例を示す構成概念図である。 図2は、本発明の有機性汚濁物質含有廃液処理装置の生物発電装置の基本構成を示す概念図である。 図3は、図2の生物発電装置をユニットとして構成した生物発電装置の概念図である。 図4は、生物発電装置のカソード構造の一例を示す断面図である。 図5は、本発明の有機性汚濁物質含有廃液処理装置の別の実施形態を示す構成概念図である。 図6は、本発明の有機性汚濁物質含有廃液処理装置のまた別の実施形態を示す構成概念図である。 図7は、実施例において用いた生物発電装置又は第2の生物発電装置の構造を示す概念図である。
符号の説明
1 有機性汚濁物質含有廃液
2 原水貯留槽
3 低分子化槽
4 低分子化被処理液(低分子化有機性物質)供給配管
5 生物発電装置
5a 嫌気性域
5b 好気性域
5c 隔膜
6 処理液
7 pH調整用薬剤溶液貯留槽
8、8a、8b pH制御装置
10 後処理槽
51 アノード(電子メディエータ固定化電極基材)
52 隔膜
53 カソード
53a 触媒担持カーボンペーパー
53b コレクター
54 嫌気性域(微生物室)
55 好気性域(空気室)
64 空気導入口
66 凝縮水ドレイン

Claims (12)

  1. 嫌気性条件下で生育可能な微生物及びpH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備する生物発電装置を利用する有機性汚濁物質含有廃液の処理方法であって、
    該有機性汚濁物質含有廃液を該生物発電装置の嫌気性域に供給し、該嫌気性域内での有機性汚濁物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを進行させて、該有機汚濁物質含有廃液の汚濁負荷の低減を行うとともに発電を行う微生物処理・発電工程と、
    該微生物処理・発電工程により得られる処理水の汚濁負荷を更に低減させる後処理工程と、
    を含む有機性汚濁物質含有廃液の処理方法。
  2. 前記汚濁負荷の指標として、BOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)、窒素濃度、リン濃度から選択されるいずれか1種以上を用いる請求項1に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理方法。
  3. 前記後処理工程は、凝集沈殿工程、活性炭濾過工程、好気性微生物による分解処理工程、嫌気性微生物による分解処理工程、脱窒工程、脱リン工程、酸分解工程、電極活性な微生物による酸化還元処理工程から選択されるいずれか1種以上である請求項1又は2に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理方法。
  4. 前記後処理工程は、前記生物発電装置からの処理水を嫌気性域に供給し、該嫌気性域内での処理水中有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と、好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを進行させて、該処理水の汚濁負荷の低減を行う電極活性な微生物による酸化還元処理工程である請求項1又は2に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理方法。
  5. 前記後処理工程としての電極活性な微生物による酸化還元処理工程において、前記微生物処理・発電工程で用いるアノードよりも高い標準電極電位を有する第2のアノードを用いる請求項4に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理方法。
  6. 嫌気性条件下で生育可能な微生物及びpH7における標準電極電位(E0’)が-0.13V〜-0.28Vの範囲内にある電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備する生物発電装置;及び
    該生物発電装置からの処理水の汚濁負荷をさらに低減させる後処理槽
    を具備する有機性汚濁物質含有廃液の処理装置。
  7. 前記後処理槽は、凝集沈殿槽、活性炭濾過槽、好気性微生物による分解処理槽、嫌気性微生物による分解処理槽、脱窒槽、脱リン槽、酸分解槽、生物発電槽から選択されるいずれか1種以上である請求項6に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理装置。
  8. 前記後処理槽は、電極活性な微生物及び電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備する第2の生物発電装置である、請求項6に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理装置。
  9. 前記後処理槽は、電極活性な微生物及び前記生物発電装置の電子メディエータ固定化アノードよりも高い標準電極電位である第2の電子メディエータ固定化アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備する第2の生物発電装置である、請求項6又は8に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理装置。
  10. 前記発電装置の電子メディエータ固定化アノードに固定されている電子メディエータは、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、イソアロキサジン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
    前記第2の生物発電装置の電子メディエータ固定化アノードに固定されている電子メディエータは、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、イソアロキサジン誘導体、ユビキノン誘導体、シトクローム誘導体、鉄スメクタイト誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8又は9に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理装置。
  11. 前記発電装置の電子メディエータ固定化アノードに固定されている電子メディエータは、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルアミノベンゾキノン類(TMABQ)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)およびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
    前記第2の生物発電装置の電子メディエータ固定化アノードに固定されている電子メディエータは、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルアミノベンゾキノン類(TMABQ)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、ユビキノン(UQ)、1,4−ベンゾキノン(1,4−BQ)、シトクロームa、シトクロームb、シトクロームc、ノントロナイト及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項8〜10の何れか1項に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理装置。
  12. 前記第2の生物発電装置において、アノード及びカソードが直接結線されて閉回路を形成している請求項8〜11のいずれか1項に記載の有機性汚濁物質含有廃液の処理装置。
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