以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1の実施形態)
最初に,本発明の第1の実施形態にかかる鋼製セグメントおよびその製造方法について説明する。
まず,図1に基づいて,本実施形態にかかる鋼製セグメントを用いて構築されるシールドトンネルの全体構成について説明する。なお,図1は,本実施形態にかかる鋼製セグメントを用いて構築されたセグメントリングを示す正面図である。
図1に示すように,シールドトンネルは,断面が例えば円形の筒状壁体であるセグメントリング1を,トンネル軸方向に複数連結して構築される。このセグメントリング1は,例えば3種類の鋼製セグメント10A,10B,10Kを組み合わせて構築される。図1の例のセグメントリング1の寸法は,例えば,セグメント外径DO=2000mm,セグメント幅b=750mmである。かかるセグメントリング1は,例えば,2つのAセグメント10Aと,2つのBセグメント10Bと,1つのKセグメント10Kとから構成される。各セグメント10A,10B,10Kの中心角θA,θB,θKは,それぞれ,例えば80°,80°,40°である。また,各セグメント10A,10B,10Kの軸方向の両端面には,複数のボルト孔11が所定ピッチで形成されている。このボルト孔11にボルト(図示せず。)を挿入することで,軸方向に相隣接するセグメントを相互に連結できる。図1の例では,このボルトの設置本数は18本であり,ボルトピッチ中心角θPは20°である。
また,Bセグメント10Bの周方向の一端面と,Kセグメント10Kの周方向の両端面面には,所定の継手角度αr(例えば23°)で傾斜したテーパ面13が形成されており,2つのBセグメント10Bの間にKセグメント10Kを半径方向又は軸方向に挿入できるようになっている。
なお,上記図1の例のセグメントリング1は,5つの鋼製セグメント10A,10B,10Kに5分割(2A+2B+K)された構成であるが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,セグメントリングは,セグメント外径DO(例えば1800〜8300mm)の大きさに応じて,例えば,6分割(3A+2B+K),7分割(4A+2B+K),8分割(5A+2B+K)など,任意の数に分割されてもよい。また,ボルトの設置本数も,例えば18〜58本など任意に設定可能である。
次に,図2A〜Cに基づいて,本実施形態にかかる鋼製セグメントの構成について説明する。図2A〜Cは,本実施形態にかかる鋼製セグメント10を示す分解斜視図,組立斜視図,A−A線断面図である。なお,以下では,鋼製セグメント10として,上記Aセグメント10Aの構成例について説明するが,他のBセグメント10B,Kセグメント10K等も下記のAセグメント10Aと同様にして構成可能であるので,詳細説明は省略する。
図2A〜Cに示す鋼製セグメント10は,鋼板と平鋼を溶接して組み立てられた箱型構造を有し,例えば2本の主桁14A,14Bを備えた2本主桁の鋼製セグメントとして構成されている。この鋼製セグメント10は,その外周面を構成するスキンプレート12と,このスキンプレート12の軸方向両端部に周方向に沿って設置される一対の外主桁14A,14B(以下では,「主桁14」と総称する場合もある。)と,スキンプレート12の周方向両端部に軸方向に沿って配設される一対の継手板16と,スキンプレート12の内周面12aに軸方向に沿って設置され,軸方向に相対向する2本の主桁14を連結する複数(例えば3本)の縦リブ18と,鋼製セグメント10を補強するための例えば2本の補強部材20と,から構成される。以下に,この鋼製セグメント10を構成する各部について詳述する。
スキンプレート12は,セグメント外径DOに応じた所定の曲率で湾曲した矩形状の鋼板で構成される。このスキンプレート12の板厚tは,例えば3〜5mmであり,その軸方向の幅(セグメント幅b)は,例えば750〜1200mmであり,その周方向の長さ(鋼製セグメント10の外周弧長So)は,例えば1200〜3600mmである。かかるスキンプレート12は,鋼製セグメント10の外周側に配設され,トンネル内面の土砂の崩壊を抑えて,外荷重を主桁14,縦リブ18に伝達するとともに,該外荷重の一部を支持する機能を有する。
主桁14(外主桁14A,14B)は,断面が例えば略矩形状の鋼板であり,スキンプレート12の曲率に応じて湾曲した円弧形状を有する。この主桁14の厚さtrは,例えば10〜32mmであり,高さhは,例えば75〜350mmである。この主桁14は,スキンプレート12の内周面12aにおける軸方向両側の端部に,周方向に沿って溶接固定される。かかる主桁14は,鋼製セグメント10の耐荷機構における主メンバーをなし,スキンプレート12,縦リブ18から伝達される荷重を最終的に支持する機能を有する。
また,本実施形態にかかる2本の主桁14は,鋼製セグメント10の軸方向の両端に配置されており,その外側面14aは,軸方向に隣接する他の鋼製セグメント10との接合端面となる。さらに,主桁14には,複数(例えば4つ)のボルト孔11が所定間隔で貫通形成されている。このため,かかるボルト孔11に挿通されるボルトによって,トンネルの軸方向に相隣接する2つの鋼製セグメント10を,相互にボルト接合することができる。
継手板16は,断面が例えば略矩形状の平坦な鋼板である。この継手板16の厚さtj及び高さhjは,例えば,上記主桁14の厚さtr及び高さhと同程度である。この継手板16は,スキンプレート12の内周面12aにおける周方向両端部に軸方向に沿って溶接固定される。かかる継手板16は,鋼製セグメント10の軸方向の両端に配置されており,その外側面16aは,周方向に隣接する他の鋼製セグメント10との接合端面となる。さらに,継手板16には,複数(例えば4つ)のボルト孔15が所定間隔で貫通形成されている。このため,かかるボルト孔15に挿通されるボルトによって,トンネルの周方向に相隣接する2つの鋼製セグメント10を,相互にボルト接合することができる。
縦リブ18は,例えば断面略L字状に折り曲げ加工された鋼板である。この縦リブ18は,図2Cに示すように,例えば,スキンプレート12に対して略垂直に接合される起立部18aと,この起立部18aに対して略垂直な平坦部18bとからなる断面略L字形の構造を有する。この縦リブ18の厚さtSは,例えば7〜12mmであり,幅bS(平坦部18bの幅)は,例えば72〜89mmである。また,縦リブ18の高さhS(起立部18aの高さ)は,例えば68〜343mmであり,主桁14の高さhよりも所定長(例えば7mm程度)だけ低くなるように調整されている。これにより,スキンプレート12の内周面12a上に,主桁14及び縦リブ18を起立させて配設した場合には,縦リブ18の平坦部18b上面が,主桁14の内周側の端面14cよりも上記所定長だけ窪んだ位置(スキンプレート12側)に位置付けられる。この結果,後述する補強部材20を設置したときに,内フランジ22が,主桁の端面14cよりも突出しないように,例えば,内フランジ22の内周面と主桁の端面14cとを相互に面一にすることができる。
かかる構成の複数の縦リブ18は,スキンプレート12の内周面12a上に,主桁14に対して垂直な方向(即ち,軸方向)に延びるように配設され,軸方向両側に配置され相互に対向する2本の主桁14を軸方向に連結する。この際,複数本(図2の例では3本)の縦リブ18が,スキンプレート12に沿って所定間隔で,相互に平行に配列される。なお,縦リブ18の設置本数は,上記3本の例に限定されず,セグメント外径DO,要求される鋼製セグメント10の強度等に応じて,任意の複数本の縦リブ18を設置してもよい。
以上のような縦リブ18は,シールド掘削機のシールド推進のためのジャッキの反力を受ける機能のみならず,セグメントリング1の耐荷機構として,荷重の伝達部材及び座屈防止材としても機能する。また,この縦リブ18は,後述する補強部材20の内フランジ22を溶接固定するための支持台としても機能する。
以上のようなスキンプレート12,主桁14,継手板16,及び縦リブ18を相互に接合することによって,内周側の一面が開放された箱型構造を有する鋼製セグメント10が組み立てられる。
さらに,本実施形態にかかる鋼製セグメント10は,図2A〜Cに示すように,鋼製セグメント10の内周側に,2本の補強部材20が取り付けられる点が特徴的である。以下に,この補強部材20について詳細に説明する。
補強部材20は,鋼製セグメント10の内周側に周方向に沿って取り付けられる内フランジ22と,内フランジ22の外周面22aとスキンプレート12の内周面12aとを連結する複数の連結リブ24と,から構成される。
内フランジ22は,例えば,鋼製セグメント10の内径に応じた曲率で湾曲した帯状鋼板で構成される。この内フランジ22の板厚tfは,例えば3〜20mm(特に6〜8mm)である。また,内フランジ22の長手方向の長さ(周方向に沿った長さ)は,鋼製セグメント10の内周弧長Siと同程度であり,例えば1100〜3300mmである。また,内フランジ22の幅tfは,例えば80〜200mm程度であり,内フランジ12の板厚tfの例えば12.5倍程度とすることができる。
かかる内フランジ22は,鋼製セグメント10の内周側における2つの主桁14間に,該主桁14と例えば平行となるように配設される。具体的には,内フランジ22は,鋼製セグメント10の周方向両端に配置された一対の継手板16を,鋼製セグメント10の内周側で連結するようにして架け渡され,この一対の継手板16間に平行に配列された複数の縦リブ18に接合される。このように配設するために,例えば,内フランジ22の長手方向の両端面22bは,上記各継手板16の内側面16bにそれぞれ溶接固定され,内フランジ22のうち上記各縦リブ18の平坦部18bに接触する部分は,当該各平坦部18bに対して溶接固定されている。
連結リブ24は,例えば略矩形状の鋼板で構成され,上記内フランジ22とスキンプレート12とを連結する機能を有する。この連結リブ24の板厚は,例えば3〜20mm(特に6〜8mm)であり,連結リブ24の高さは,例えば上記縦リブの高さhSと同程度であり,連結リブ24の幅は,例えば,相隣接する縦リブ18の間隔未満である。
また,かかる連結リブ24は,内フランジ22の湾曲形状に応じて湾曲した第1の端面24aと,この第1の端面24aと対向し,スキンプレート12の湾曲形状に応じて湾曲した第2の端面24bとを有する。この連結リブ24は,第1の端面24a側で内フランジ22の外周面22aに溶接固定され,第2の端面24b側でスキンプレート12の内周面12aに溶接固定される。
この連結リブ24は,例えば,内フランジ22の外周面22aに,所定間隔で複数設置される。この連結リブ24の設置数は,例えば上記縦リブ18の設置数に応じて決定され,具体的には,縦リブ18の設置数+1に決定される。例えば,図2の例では,縦リブ18の設置数が3本であり,この3本の縦リブ18によって,箱型構造の鋼製セグメント10の内部空間は,4つの小空間(相隣接する縦リブ18間の空間,或いは,縦リブ12と継手板16との間の空間)に区分されている。そこで,該4つの小空間内でそれぞれ,内フランジ22とスキンプレート12とを連結するために,4つの連結リブ24が設置されている。勿論,縦リブ18の設置数は,上記例に限定されず,縦リブ18の設置数に応じて,例えば,2つ,3つ,5つ以上であってもよい。
また,内フランジ22に対する各縦リブ18の設置位置は,図2B及びCに示すように,補強部材20を鋼製セグメント10に取り付けた時に,各縦リブ18が,上記各小空間の中央部(つまり,相隣接する縦リブ18間の中央部,縦リブ12と継手板16との間の中央部)に配置されるように調整されている。また,各連結リブ24は,主桁14と平行となるような向きで周方向に沿って一列に配設される。
このような設置数及び配置で各連結リブ24を設置することにより,内フランジ22とスキンプレート12とを周方向に沿って均等に連結できる。なお,連結リブ24は,内フランジ22に対し,主桁14と垂直となるような向きで配設されてもよいし,或いは,周方向に沿って複数列で又はジグザグに並ぶように配設されてもよい。
以上のような内フランジ22および連結リブ24からなる補強部材20は,鋼製セグメント10の内周側に周方向に沿って,例えば,主桁14と平行となるようにして,1又は2本以上取り付けられる。図2の例では,2本の補強部材20が,鋼製セグメント10の内周側における2本の主桁14間に,軸方向に均等な間隔で取り付けられている。
以上,第1の実施形態にかかる鋼製セグメント10の構成について説明した。上記のように,第1の実施形態では,例えば2本の補強部材20を鋼製セグメント10の内周側の主桁14間に取り付けている。これにより,当該補強部材20の内フランジ22の断面と,補強部材20に対応する部分のスキンプレート12の断面を,主桁の有効断面に算入することができるようになる(後述の図5(c)参照)。従って,鋼製セグメント10における主桁の断面性能を向上させることができる。
次に,上記のような鋼製セグメント10の製造方法について説明する。
まず,上述した鋼製セグメント10の基本メンバーであるスキンプレート12と,例えば2本の主桁14と,一対の継手板16と,複数本の縦リブ18とを,例えば隅肉溶接により相互に接合することによって,内周側の一面が開放された箱型構造を有する鋼製セグメント10を組み立てる(図2A参照)。
具体的には,まず,スキンプレート12,2本の主桁14及び2本の継手板16を,一面が開放された箱形に組み立てて,スキンプレート12と各主桁14との接合部,スキンプレート12と各継手板16との接合部,並びに各主桁14と各継手板16との接合部を,隅肉溶接によりそれぞれ固定する。次いで,この箱型構造の内部に,例えば3本の縦リブ18を,主桁14に対して垂直な方向(軸方向)に,相互に所定間隔で配置し,各縦リブ18の起立部18aの端面と,スキンプレート12の内周面12aとを,隅肉溶接により固定するとともに,各縦リブ18の軸方向両側の端面18cと,各主桁14の内側面14bとを,隅肉溶接により固定する。
さらに,上記内フランジ22と複数の連結リブ24とからなる補強部材20を,取り付け本数分だけ組み立てる(図2A参照)。具体的には,図2Aに示すように,上記内フランジ22の外周面22aの所定位置に,複数の連結リブ24の第1の端面24a側を,例えば隅肉溶接によりそれぞれ接合して,例えば2本の補強部材20を組み立てる。
なお,上記のような鋼製セグメント10の箱型構造の組立工程と,上記補強部材20の組立工程は,どちらを先に行ってもよい。
その後,上記のように組み立てられた2本の補強部材20を,上記のように箱型に組み立てられた鋼製セグメント10の内周側の主桁14間に,周方向に沿って取り付ける。
具体的には,内フランジ22の長手方向の両端面22bを上記継手板16の内側面16bに対して,例えば隅肉溶接により接合するとともに,内フランジ22の胴体部の各箇所を上記各縦リブ18の平坦部18bに対して,例えば隅肉溶接により接合する。さらに,各連結リブ24の第2の端面24b側を,相隣接する縦リブ18間に位置するスキンプレート12の内周面12aに対して,例えば隅肉溶接によりそれぞれ接合する。この際,2本の内フランジ22によって鋼製セグメント10の内周側の面全体が塞がれているわけではなく,2本の内フランジ22の間,および各内フランジと主桁14との間には隙間が空いている。このため,作業員は,当該隙間を利用して,スキンプレート12に対する連結リブ24の溶接作業を行うことが可能である。なお,上記のような内フランジ22の溶接工程と,各連結リブ24の溶接工程の先後は問わない。
このような補強部材20の取り付け作業は,上記複数箇所を隅肉溶接するだけでよいので,溶接部材数及び溶接箇所数が少なく,容易かつ迅速に実行することができる。従って,当該補強部材20を備えた鋼製セグメント10の製造作業は,より多い本数の主桁14,特に中主桁を備えた鋼製セグメント10を製造する作業と比して,作業員の加工手間,難易度,及び加工コストを大幅に低減することができる。
(第2の実施形態)
次に,図3A,Bに基づいて,本発明の第2の実施形態にかかる鋼製セグメント10について説明する。図3A,Bは,第2の実施形態にかかる鋼製セグメント10を示す分解斜視図と,組立斜視図である。なお,第2の実施形態は,上述した第1の実施形態と比べて,補強部材20の設置本数が異なるのみであり,その他の機能構成および製造方法は,上記第1の実施形態と同一であるので,詳細説明は省略する。
図3A,Bに示すように,第2の実施形態にかかる鋼製セグメント10は,2本主桁の鋼製セグメントであり,この鋼製セグメント10の内周側には,1本の補強部材20が周方向に沿って取り付けられている。この1本の補強部材20は,2本の主桁14(外主桁14A,14B)間の軸方向中心に位置するように配設されている。
このように,補強部材20を1本のみ設置した場合であっても,当該補強部材20の内フランジ22の断面と,当該補強部材20に対応する部分のスキンプレート12の断面を,有効断面に算入することができるので,鋼製セグメント10の主桁14の断面性能を向上させることができる。この際,内フランジ22の断面積を大きくしたり,スキンプレート12の板厚tを厚くしたりすれば,主桁の有効断面が増加するので,断面性能をさらに向上させることが可能である。また,この第2の本実施形態では,補強部材20を1本しか取り付けないので,上記第1の実施形態と比べると,主桁の断面性能は低下するが,補強部材20の取り付け本数が少ないので,作業員の加工手間をより省力化できるとともに,加工コスト及び材料コストをより低減できる。
(第3の実施形態)
次に,図4A,Bに基づいて,本発明の第3の実施形態にかかる鋼製セグメント10について説明する。図4A,Bは,第3の実施形態にかかる鋼製セグメント10を示す分解斜視図,組立斜視図である。なお,第3の実施形態は,上述した第1の実施形態と比べて,主桁14の設置本数と縦リブの設置態様が異なるのみであり,その他の機能構成および製造方法は,上記第1の実施形態と同一であるので,詳細説明は省略する。
図4A,Bに示すように,第3の実施形態にかかる鋼製セグメント10は,相互に平行な3本の主桁14A〜Cを備えた3本主桁の鋼製セグメントである。これら3本の主桁14A〜Cうち,スキンプレート12の軸方向両端部に配された2本の主桁14A,Bは,上記第1の実施形態の外主桁14A,14Bと同様の外主桁を構成し,真ん中の1本の主桁14Cは中主桁を構成する。この中主桁14Cの長手方向両端は,一対の継手板16の内側面16bに,例えば隅肉溶接によりそれぞれ接合されている。
また,中主桁14Cと一方の外主桁14Aとの間には,セグメント幅bの約半分の長さの複数の縦リブ18Aが所定間隔で平行に配設され,さらに,中主桁14Cと他方の外主桁14Bとの間には,セグメント幅bの約半分の長さの複数の縦リブ18Bが,上記縦リブ18Aと同列に配設されている。これらの各縦リブ18A,18Bの一端は,中主桁14Cの各側面14dに対して,例えば隅肉溶接によりそれぞれ接合され,各縦リブ18A,18Bの他端は,外主桁14の内側面14bに対して,例えば隅肉溶接によりそれぞれ接合されている。また,これらの各縦リブ18A,18Bは,上述した縦リブ18と同様,鋼板を折り曲げ加工して形成され,起立部18aと平坦部18bとからなる断面略L字形の構造を有している。
このような3本主桁の鋼製セグメント10の内周側に,2本の補強部材20が取り付けられている。一方の補強部材20は,中主桁14Cと一方の外主桁14Aとの間の中央に,他方の補強部材20は,中主桁14Cと他方の外主桁14Bとの間の中央に,周方向に沿ってそれぞれ取り付けられている。各補強部材20の内フランジ22は,各縦リブ18A又は18Bの平坦部18bと,継手板16に対して,例えば隅肉溶接により接合されている。また,各補強部材20の各連結リブ24は,相隣接する縦リブ18A又は18B間,若しくは縦リブ18A又は18Bと継手板16との間において,スキンプレート12の内周面12aに対して,例えば隅肉溶接によりそれぞれ接合されている。
このようにして,3本主桁の鋼製セグメント10の相対向する主桁14間に,補強部材20をそれぞれ1本ずつ,合計2本取り付けることによって,当該補強部材20の内フランジ22の断面と,当該補強部材20に対応する部分のスキンプレート12の断面を,有効断面に算入することができる。このため,主桁の有効断面積が増加するので,鋼製セグメント10の主桁の断面性能を向上させることができる。第3の本実施形態では,3本主桁の鋼製セグメント10に強部材20を2本取り付けるので,上記第1の実施形態にかかる2本主桁の鋼製セグメント10と比べて,より高い断面性能を発揮することが可能である。
以上,本発明の第1〜第3の実施形態にかかる鋼製セグメント10についてそれぞれ説明した。上記実施形態にかかる鋼製セグメント10では,鋼製セグメント10の内周側において,主桁14自体に直接的に内フランジを取り付けるのではなく,主桁14の間で主桁14と離隔した箇所に,1本又は複数本の内フランジ22を取り付け,該内フランジ22とスキンプレート12を複数の連結リブ24で連結している。これにより,補強材としての内フランジ22の断面だけではなく,当該内フランジ22に対して連結リブ24を介して連結されている部分(主桁14から離隔した部分)のスキンプレート12の断面をも有効利用して,主桁の有効断面を増大させることができる。従って,鋼製セグメント10の主桁の断面性能を向上させ,セグメントリング1の耐荷性能を向上できる。
(主桁の応力計算)
次に,上記のような第1〜第3の実施形態にかかる鋼製セグメント10の断面性能が向上されていることを説明するため,鋼製セグメントの設計における主桁の応力計算の手法について説明する。
鋼製セグメントには,スキンプレートの外側から土水圧などの荷重が作用するが,この外荷重は,主に,主桁が受け持つことになる。そこで,鋼製セグメントの設計時には,主桁を,上記荷重による曲げモーメントMと軸力Nを受ける真直梁として考えて,下記の主桁の応力計算式(数式1)に基づいて,最大応力度(外縁応力度σo,内縁応力度σi)が計算される。
この数式1において,
σo :外縁応力度(N/mm2)
σi :内縁応力度(N/mm2)
N :セグメントリングの軸力(N)
M :セグメントリングの曲げモーメント(N・mm)
A :主桁の有効断面積(mm2)
ZO :外縁側断面係数(mm3)
Zi :内縁側断面係数(mm3)
である。
また,上記数式式1における外縁側断面係数ZO及び内縁側断面係数Ziは,断面二次モーメントI,外縁側図心距離yO及び内縁側図心距離yiを用いて,下記の数式2で算出される。
この場合,上記数式1によって算出される最大応力度(外縁応力度σo,内縁応力度σi)が,それぞれ,鋼製セグメント10の材料特性等によって定まる許容応力度σomax,σimax以下となるように設計しなければならない。当該最大応力度(外縁応力度σo,内縁応力度σi)を小さくするためには,数式1によれば,主桁の有効断面積Aを大きくする,外縁側断面係数ZOを大きくする,或いは,内縁側断面係数Ziを小さくする必要であることが分かる。
また,上記数式1に基づく主桁の応力計算に用いる主桁の断面性能は,「トンネル標準示方書(シールド工法編)第51条」の規定に従って,図5(a)(b)に示す斜線部分を有効断面として定める。つまり,数式1における主桁の有効断面積Aは,図5(a)(b)に示す斜線部分の面積の合計に決定される。なお,図5(a)は,従来の2本主桁の鋼製セグメント110の軸方向(セグメント幅方向)の断面を示し,図5(b)は,従来の3本主桁の鋼製セグメント210の軸方向の断面を示す。
また,この図5において,
b :セグメント幅
h :主桁の高さ
tr :主桁の厚さ
t :スキンプレートの厚さ
YO :外縁側図心距離
Yi :内縁側図心距離
n−n:主桁有効断面の図心線
f :内フランジの高さ
tf :内フランジの厚さ
である。
具体的には,図5(a)に示す従来の2本主桁の鋼製セグメント110の場合,主桁の有効断面積Aには,2本の外主桁14A,14Bの断面積(h×tr)だけでなく,スキンプレート12の両側部分12bの断面積(25t×t)が含まれる。このスキンプレート12の両側部分12bは,各外主桁14A,14Bが接合されているスキンプレート12の端部から,軸方向に所定幅(25t)の範囲内にある部分である。
さらに,図5(b)に示す従来の3本主桁の鋼製セグメント210の場合,主桁の有効断面積Aには,2本の外主桁14A,14Bの断面及び1本の中主桁14Cの断面だけでなく,上記スキンプレート12の両側部分12bの断面積(25t×t)と,スキンプレート12の中央部分12cの断面積(50t×t)とが含まれる。このスキンプレート12の中央部分12cは,中主桁14Cが接合されているスキンプレート12の中央部両側で,所定幅(50t)の範囲内にある部分である。
このように,主桁の有効断面には,スキンプレート12と主桁14とが溶接などにより強固に固定されていることを条件として,スキンプレート12の一部12b,12cの断面を算入できる。この理由は,主桁14にスキンプレート12が固定されているときは,そうでないときよりも,主桁14の強度が向上するからである。また,このように有効断面に算入できるスキンプレート12の部分12b,12cの寸法は,スキンプレート12の厚さtが大きいほど大きくなる。
ところで,上述したように,主桁の最大応力度(外縁応力度σo,内縁応力度σi)を小さくして断面性能を向上させるための手法の一つとしては,図5に示したような主桁の有効断面積Aを大きくする手法が考えられる。有効断面積Aを大きくするためには,主桁14の厚さtrやスキンプレート12の厚さtを大きくすればよいが,材料コスト面や設置スペース面での制約があり,無制限に大きくすることはできない。また,主桁14の設置本数を増加させる手法も考えられるが,図5(b)に示すような中主桁14Cを有する鋼製セグメント210は,製造加工が困難であり,製造コストが増加するという問題があった。
そこで,上述した本発明の第1〜第3の実施形態にかかる鋼製セグメント10では,主桁厚trやスキンプレート厚t,主桁設置数を増加させるのではなく,補強部材20を取り付けることによって,主桁の有効断面積Aを増大させ,主桁の断面性能を向上させている。
具体的には,図5(c)は,上記第1の実施形態にかかる2本の補強部材20が取り付けられた2本主桁の鋼製セグメント10の断面を示す。図5(c)に示すように,鋼製セグメント10に,内フランジ22及び連結リブ24からなる補強部材20を取り付けることによって,主桁の有効断面積には,2本の外主桁14A,14Bの断面積(h×tr),スキンプレート12の両側部分12bの断面積(25t×t)だけでなく,2本の内フランジ22の断面積(f×tf),さらには,当該内フランジ22と連結リブ24を介して連結されているスキンプレート12の部分12dの断面積(25t×t)もが含まれるようになる。このスキンプレート12の部分12dは,スキンプレート12における連結リブ24の接合箇所から軸方向両側に,所定の有効幅(例えば25t)の範囲内にある部分である。このスキンプレート12の部分12dは,主桁14A,14Bから離隔した箇所にあり,図5(a)の従来の2本主桁の鋼製セグメント110では,有効断面に算入されなかった部分である。
このように,本実施形態にかかる鋼製セグメント10では,主桁の有効断面に,内フランジ22の断面と,この補強部材20に対応するスキンプレート12の部分12dの断面とを算入することができる。このため,例えば,主桁14及びスキンプレート12の寸法が同一である場合に,図5(c)の例の補強部材20付きの鋼製セグメント10の有効断面積Aは,図5(a)に示す従来の2本主桁の鋼製セグメント10の有効断面積Aと比べて約1.5倍程度と大幅に大きくなっており,図5(b)に示す従来の3本主桁の鋼製セグメント10の有効断面積Aと比べても同程度となっている。
なお,ここでは,当該スキンプレート12の部分12dの有効幅として,本願発明者らによる実験及び研究により得られた値である「25t」の例を挙げた。しかし,この有効幅「25t」の「25」という係数値は,最低限確保可能な有効幅を示す値であり,本発明はかかる例に限定されない。例えば,当該部分12dの有効幅「βt」を表す計数値βは,より大きい値(例えば,β=30,35,40又は50など)に設定することも可能である。
このように,本実施形態では,主桁を追加設置する場合と比べて設置が容易な補強部材20を取り付けるだけで,主桁の有効断面積Aを増大させることができる。このため,簡易な構造により,主桁の断面性能を向上させ,鋼製セグメント10の耐荷性能を高めることができる。
従って,鋼製セグメント10の主桁14の設置数を減少させたとしても,上記補強部材20の補強作用により,主桁設置数が多い鋼製セグメントと同等以上の断面性能を発揮することが可能となる。例えば,図2Bに示したような2本の補強部材20付きの2本主桁の鋼製セグメント10であっても,補強部材20が取り付けられていない3本主桁の鋼製セグメント210(図5(b)参照)と比べて,同等以上の断面性能を発揮することが可能となる。同様に,図3Bに示したような2本の補強部材20付きの3本主桁の鋼製セグメント10であっても,補強部材20が取り付けられていない4本主桁の鋼製セグメント(図示せず。)と比べて,同等以上の断面性能を発揮することが可能となる。
よって,鋼製セグメント10の主桁14の設置数を低減することができるので,鋼製セグメント10の製造加工作業を容易かつ迅速に実行でき,加工コストを低減できる。さらに,鋼製セグメント10の重量及び鋼材使用量も低減でき,材料コストを低減できる。よって,加工作業が容易な鋼製セグメント10を低コストで製造できるので,生産性を大幅に向上させることができる。特に,2本主桁の鋼製セグメント10に補強部材20を取り付けた場合には,中主桁を有さない簡易な構造であるにもかかわらず,十分な強度が得られるので,加工作業が困難で加工精度も求められる3本主桁の鋼製セグメント210と比べて,加工作業の容易さ,加工コスト及び材料コストの面で大いに有益である。
次に,本発明の実施例について説明する。以下の実施例は,上記第1の実施形態にかかる2本主桁の鋼製セグメント10(実施例),従来の2本主桁の鋼製セグメント110(比較例1),及び従来の3本主桁の鋼製セグメント210(比較例2)を,相互に同程度の断面性能を有するように設計した結果を示すものである。なお,以下の実施例に使用した各数値は,あくまで参考値であり,本発明は,以下の実施例に限定されるものではない。
まず,本実施例の設計条件について説明する。本実施例では,主桁14やスキンプレート12等の各部材の寸法を多様に変化させて,当該各寸法に基づいて算出される上記有効断面積A,外縁側断面係数ZO,内縁側断面係数Ziと,設定した軸力Nと曲げモーメントMとを用いて,上記数式1に従って外縁応力度σo,内縁応力度σiをそれぞれ算出して,発生応力度照査を行った。そして,この外縁応力度σo,内縁応力度σiが,上記許容応力度度σomax,σimax以下となるように,上記各部材の寸法を設計した。この設計では,比較例1,2,及び本実施例にかかる鋼製セグメント10における主桁の有効断面を,上記図5(a)〜(c)の斜線部分の断面に設定して,設計を行った。
なお,上記設計では,設定する軸力Nと曲げモーメントMの大きさによって,発生応力度に対して有効断面積Aが大きく影響するか,或いは,断面係数ZO,Ziが大きく影響するかは様々である。このため,下記表2に示す各設計値は,ある程度の傾向を表す一例にすぎず,本発明は,以下の実施例に限定されるものではない。
このようにして,本主桁の鋼製セグメント110(比較例1)と,従来の3本主桁の鋼製セグメント210(比較例2)と,本実施例に係る2本の補強部材20が取り付けられた2本主桁の鋼製セグメント10(実施例)を設計した。この設計は,下記の表1に示すようなセグメント外径DOが異なる4種類のタイプ(S37,S49,S63,S72〜の鋼製セグメントについて,それぞれ行った。なお,この鋼製セグメント10のタイプS37,S49,S63,S72は,土木学会・日本下水道協会共編「シールド工事用標準セグメント」(平成13年7月1日改正)の規定による標準鋼製セグメントの形状・寸法に従う物である。以上のような設計結果を表2に示す。
以下に,表2に基づいて,相互にほぼ同一の断面性能を有するように設計された比較例1,2の鋼製セグメント110,210と,本実施例の鋼製セグメント10とを比較する。
まず,本実施例にかかる補強部材20付きの2本主桁の鋼製セグメント10と,比較例1にかかる2本主桁の鋼製セグメント110とを比較する。表2に示すように,本実施例の鋼製セグメント10では,比較例1の鋼製セグメント110と比べて,主桁14の厚さtrが約半分程度で済む。この結果,補強部材20を追加設置したとしても,本実施例の鋼製セグメント10の1リング当たりの重量は,比較例1と比べて,約85〜93%(平均で約87.5%)あり,大幅に低減されている。従って,2本主桁の鋼製セグメントを製造する場合には,比較例1のような厚い主桁14を用いるよりも,本実施例のように補強部材20を取り付けた方が,鋼材使用量を低減して,材料コストを大幅に削減できるので,経済性に優れるといえる。
次に,本実施例にかかる補強部材20付きの2本主桁の鋼製セグメント10と,比較例2にかかる3本主桁の鋼製セグメント210とを比較する。まず,特筆すべきは,本実施例の2本主桁の鋼製セグメント10は,比較例2の3本主桁の鋼製セグメント10と比べて,主桁設置本数が一本少ないにもかかわらず,同等の断面性能を発揮している点である。上述したように,中主桁14Cを備えた3本主桁の鋼製セグメント210は,主桁14の設置本数が多いばかりか,縦リブ18の設置本数も多いため,溶接箇所数が増え,各部材の加工精度も要求される。このため,3本主桁の鋼製セグメント210は,2本主桁の鋼製セグメント110と比べて,製造加工が困難であり,加工コストが増大するという短所があった。
しかし,本実施例のように,2本主桁の鋼製セグメント10で,3本主桁の鋼製セグメント210と同程度の断面性能を発揮することができれば,中主桁14Cを設置しなくて済むので,溶接箇所数を削減でき,加工精度も3本主桁の場合ほど要求されなくなる。従って,本実施例の2本主桁の鋼製セグメント10は,比較例2の3本主桁の鋼製セグメント210よりも,鋼製セグメントの製造加工作業が容易になり,加工コストを削減することができ,製作性に優れるといえる。
さらに,本実施例の鋼製セグメント10は,比較例2の鋼製セグメント210と比べて,スキンプレート厚tが同程度であるにもかかわらず,主桁厚trが13〜34%程度も薄くなっており,さらに,主桁14の設置数も1本少ない。この結果,補強部材20を追加設置したとしても,本実施例の鋼製セグメント10の1リング当たりの重量は,比較例2と比べて,約96%前後であり,若干低減されている。従って,本実施例の2本主桁の鋼製セグメント10は,比較例2の3本主桁の鋼製セグメント210よりも,鋼材使用量を低減して,材料コストを削減でき,経済性に優れるといえる。
以上の実施例で説明したように,本発明の第1の実施形態にかかる2本主桁の鋼製セグメント10によれば,構造設計における主桁14の有効断面に算入できるスキンプレート12の部分を増加させて,セグメントリング1の耐荷性能を向上させることができる。従って,加工コスト及び材料コスト増の原因となる中主桁14Cを有する3本主桁構造の鋼製セグメント210と,同等以上の断面性能を有する2本主桁構造の鋼製セグメント10を実現できる。この2本主桁構造の鋼製セグメント10は,3本主桁構造の鋼製セグメント210よりも,製造加工作業が容易で,より少ない鋼材使用量及び製造コストで製造できるという利点がある。
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば,縦リブ18の断面形状は,上記実施形態のような略L字形の例に限定されず,内フランジ22を溶接固定可能な形状であれば,例えば,T字形,コの字形,くの字形,円弧形,鈎形,直線形など,任意の形状であってもよい。
また,上記実施形態では,鋼製セグメント10に対する補強部材20の設置数は1,2本であったが,かかる例に限定されず,鋼製セグメント10に3本以上の補強部材20を取り付けて,主桁の断面性能を更に向上させるようにしてもよい。