JP2007046191A - レーザー光照射による布帛の染色方法 - Google Patents

レーザー光照射による布帛の染色方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 レーザー光を照射することによって反応染料を染着させて、様々な形態の布帛に対して様々な模様を容易に形成することのできる染色方法を提供すること。
【解決手段】 綿などの布帛に対し、反応染料とアルカリ性化合物を含有する染液を含浸させて水分率を調整してから、当該布帛の表面にレーザー光線をスキャニングして所望の領域にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に反応染料を染着させる。予め他の染料で染色された布帛に対してレーザー光を照射することによって、照射領域において重ねて染着させることもできるし、他の染料を退色させながら染着させることもできる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、レーザー光照射による布帛の染色方法に関する。より詳しくは、布帛に対して部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に反応染料を染着させる染色方法に関する。
布帛に対して部分的に染色する方法としては、捺染法が代表的である。しかしながら捺染法は、必ずしも細かい模様を形成するのに適している訳ではないし、いちいち版を作成する必要もあり、小ロットの製品に対して安価かつ迅速に模様を形成するのには適していなかった。これに対し、インクジェット法によって模様を印刷して染料を染着させる方法も行われていて、この方法によれば、比較的細かい模様を印刷することも可能であるし、小ロットの製品に対応するのも容易である。しかしながら、インクジェット法の場合には、ノズルから被染物までを近接させないと細かい模様を形成することができない。したがって、表面の平坦な布帛であれば印刷できるものの、縫製加工品などに対して細かい模様を形成することは困難であった。
特許文献1には、熱可塑性合成繊維からなる布地に分散染料液をパッディングした後、レーザー光を照射して当該照射部分を発熱させて分散染料を繊維内部に拡散染着させる染色加工方法が記載されている。特許文献1の実施例2においては、直径4.5mmに拡散されたレーザー光を1秒間照射しており、ポリエステル繊維が溶融しない温度で繊維内部まで加熱している。しかしながら、レーザー光を照射する範囲が比較的広いので、細かい模様を形成することは困難であった。
特許文献2には、特定の反応性染料混合物に関する発明が記載されている。特許文献2によれば、染色方法の一例として、インクジェット法によるデジタル織物捺染のための捺染インキに上記特定の反応性染料混合物を用いる染色方法が記載されていて、各種のセルロース系繊維材料に対して捺染するのに有用であるとされている。捺染後に乾燥させたインクジェットプリントの固着については、室温でもよいし、各種のエネルギー転換技術を用いてもよいとされていて、多数の手法の中のひとつにレーザーの例示もある。しかしながら、ここでのレーザーの使用は、既に模様が形成されている捺染インクの加熱が目的であって、照射部分のみを染着させるためのものではない。
一方、特許文献3には、一定のビーム径を有するレーザー光線を染色された繊維製品にスキャン照射し、レーザー光線の照射された部分の染料を蒸発させて脱色する方法が記載されており、具体的にはジーンズに脱色模様を形成する例が記載されている。
特開昭59−106589号公報 特開2005−60708号公報(0078欄) 特開平10−102386号公報
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、レーザー光を照射することによって反応染料を染着させて、様々な形態の布帛に対して様々な模様を容易に形成することのできる染色方法を提供することを目的とするものである。
上記課題は、布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に反応染料を染着させることを特徴とする布帛の染色方法を提供することによって解決される。このとき、前記布帛が綿布であることが好適である。また、前記染液が反応染料とともにアルカリ性化合物を含有することも好適である。
前記染液に布帛を浸漬してから脱液し、その後レーザー光を照射することが好適である。前記染液を布帛に対して噴霧し、その後レーザー光を照射する方法が好適である。布帛の水分率が10〜100%の状態でレーザー光を照射することが好適である。前記染液を含浸させてから乾燥し、その後レーザー光を照射することが好適である。また、レーザー光線をスキャニングすることによって所望の領域にレーザー光を照射することも好適である。
予め他の染料で染色された布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に他の染料と反応染料とを重ねて染着させることが、本発明の好適な実施態様である。また、予め他の染料で染色された布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に反応染料を染着させ、同時に照射領域において選択的に他の染料を退色させることも、本発明の好適な実施態様である。これらの実施態様において、前記他の染料がインジゴであることが好適である。また、前記他の染料がインジゴであり、前記反応染料として青色の染料を用い、インジゴの退色部分の褐変をマスキングすることも好適である。
本発明の染色方法によれば、レーザー光を照射することによって反応染料を染着させて、様々な形態の布帛に対して様々な模様を容易に形成することができる。特に縫製加工品であっても細かい模様を形成することができるし、小ロットの製品に対しても迅速にかつ安価に模様を形成することが可能である。
本発明で染色に供される布帛の素材は特に限定されず、反応染料によって染着の可能なものであればよい。しかしながら、熱可塑性樹脂からなる繊維を用いた場合には、細く絞り込んだ高エネルギー密度のレーザー光線が照射された場合に、繊維が溶融するおそれがあり好ましくない。したがって、そのような場合に炭化する繊維、例えば、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維の方が好適に用いられる。反応染料による染着性などから、セルロース系繊維が好適に使用される。特に好適に使用される繊維素材は綿である。
布帛の形態は特に限定されず、織布、編地、不織布のいずれであっても構わない。縫製加工前の反物であれば、連続的にレーザー光照射を行うことも可能である。本発明で染色操作に供される布帛が、縫製加工されているものである場合に、本発明の染色方法で染色する利益が大きい。縫製加工されているものは、布帛を縫い合わせた部分や、重なり部分、折れ曲がり部分などが厚くなるので、染色加工面を平坦に保つことが困難である。染色加工面を平坦に保つことができない場合には、捺染の版を沿わせることも困難であるし、インクジェットによる細かい印刷も困難であるが、レーザー光線の場合には、並行光を照射したり焦点深度を深く設定したりすることによって、細かい模様を形成することが可能である。また、本発明で使用する布帛が、予め染色されているものであってもよい。この場合については、別途詳細に説明する。
本発明で使用される反応染料は、繊維中の水酸基やアミノ基などと反応することの可能な官能基を有する染料である。反応染料の種類は特に限定されず、トリアジン系、ピリミジン系、ビニルスルホン系などの各種の反応染料を使用することができる。このとき、複数種類の反応染料を同時に用いても構わないし、反応染料以外の染料と同時に用いても構わない。
前記反応染料を含有する染液は通常水溶液であり、アルカリ性化合物を含有するものであることが好ましい。アルカリ性化合物が共存することによって反応性染料と繊維の官能基との反応が進行しやすくなる。アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどが好適なものとして例示される。また同時に、水に対する染料の溶解性を改善するヒドロトロープ剤を含有することも好ましく、代表的なものとしては尿素が例示される。尿素はまた、保水剤としても働くことができ、レーザー照射時の化学反応を助ける働きが期待できる。上記各成分の一般的な配合量は、反応染料の濃度が1〜100g/L、アルカリ性化合物の濃度が1〜50g/L、尿素の濃度が10〜300g/Lである。
まず、布帛に対し、上記反応染料を含有する染液を含浸させる。含浸させる方法は特に限定されず、染液の中に布帛を浸漬してもよいし、染液を布帛に噴霧してもよい。含浸させるときの温度は特に限定されないが、好適には0〜50℃である。本発明においては、レーザーを照射した領域についてのみ選択的に反応染料を染着させるので、レーザー照射しない部分については、できるだけ染着しないほうが好ましい。したがって、含浸させるときの温度は、より好適には30℃以下であり、作業性を考慮すれば、室温で含浸させるのが好ましい。
含浸させる際の好適な方法の一つは、染液に布帛を浸漬してから脱液し、その後レーザー光を照射する方法である。この方法によれば、布帛の全体に均一に染液を含浸させることができるので、染色ムラの少ない染色物を得ることができる。浸漬においては、布帛の全体に均一に染液が浸み込むだけの時間浸漬すれば十分であり、引き続き脱液する。脱液する方法は特に限定されず、マングルなどを用いて対向するロール間で絞ってもよいし、ねじって絞ってもよいし、遠心式の脱水機を用いて絞ってもよい。脱水後の含水率は染液の含有量に対応するものであり、これが多いほど製品が濃色に染色されることになる。
また、含浸させる際の別の好適な方法は、染液を布帛に対して噴霧し、その後レーザー光を照射する方法である。この方法によれば、主として布帛の表面に染液が含浸されることになり、布帛全体に対する染液の含浸量を少なめにすることが可能である。レーザー光の照射によって染着される部分は主として布帛の表面であると考えられるので、この方法によってもレーザー光の照射による染着は十分に可能である。一方で、未照射部分については染料の含浸量が少ないために、照射後の洗浄操作で染料の除去が容易であり、染料の残存を少なく抑制することが可能である。結果として、レーザーを照射した部分と未照射の部分とのコントラストの大きい染色物を得ることが容易である。ただし、布帛の全体を染液に浸漬する方法に比べると染色ムラが発生しやすいので、用途に応じて適宜採用されることになる。
レーザー光を照射する際の布帛の水分率は特に限定されないが、100%以下であることが好ましい。水分率が高すぎると、レーザー照射のエネルギーが水分蒸発に消費されるために着色が不十分になるおそれがある。少ないエネルギーで濃色に着色させるためには、水分率は低いほうが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましい。このように低い水分率でレーザー照射するためには、染液を含浸させてから乾燥操作を施すことが好ましい。一方、レーザー照射による布帛表面の損傷を防止するためには、一定以上の水分率でレーザー照射するほうが好ましい場合もある。例えば、大きなコントラストが要求されない模様を形成するが、布帛の風合いを損ねたくないような場合である。この場合、水分率は好適には10%以上であり、より好適には20%以上であり、さらに好適には50%以上である。ここで、水分率(%)とは、大気中に放置されて平衡水分率に達している試料の重量を100としたときに、それに加えて含まれている水分の量である。
レーザー光の照射方法は特に限定されないが、通常絞り込んだビームをスキャニング(走査)することによって布帛表面にレーザー光を照射する。レーザー光をスキャニングする方法は特に限定されず、被照射物を固定しておいてレーザー光を二次元的に走査しても構わないし、被照射物を移動させながら、それと交わる方向に一次元的に操作しても構わない。回転運動の可能な反射ミラーなどを使用して走査することができ、光路中のシャッターを開閉することにより、所望の照射パターンに対応した部分にのみレーザー光を照射することができる。
レーザー光の波長は特に限定されず、繊維素材又は染料に吸収される波長の光であればよい。しかしながら、紫外線は染料分子を分解させるおそれが高いので、400nm以上であることが好ましい。さらに、可視光域は染料によって吸収の程度が変化しやすいので、赤外線(波長800nm〜100μm)レーザーであることがより好ましい。レーザーの種類は特に限定されず、ガスレーザー、固体レーザーあるいは半導体レーザーのいずれを使用することもできる。なかでも、高出力の赤外線レーザーである炭酸ガスレーザーが好適に使用される。レーザーの出力は、通常1〜1000Wの範囲で、用途に応じて選択される。
布帛表面におけるレーザービームの直径は、絞り込まれているほうが、高精細な模様を形成しやすくて好ましい。具体的には1/eの値として直径2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。しかしながら、ビーム径が小さすぎると走査速度が速くなりすぎて制御が困難になるし、局所的に過熱されるおそれもある。したがって、ビーム径は0.01mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましい。
レーザー光が照射されたときの布帛表面の温度は、短時間で局所的に高温になると考えられるが、その具体的な温度は不明である。布帛の最表面は高温になるけれども、内部は必ずしも高くなくても良いと考えられる。例えば、日油技研工業株式会社製の示温材「サーモラベル」を使用して、当該ラベルに対してレーザー照射を行った場合、少なくとも80℃のラベルが変色する程度の条件でレーザー光を照射すればよい。また、レーザー光の好適な照射量は、布帛の水分率によっても変化し、水分率が高いほど多量のレーザー光を照射しなければ染着しない傾向にある。短時間で熱が加えられるので、布帛表面に存在する毛羽は、熱の逃げ場がなくて高温になりやすい。したがって、加熱溶融しない繊維、例えば綿などの場合には、布帛表面に存在する毛羽が焼き切れて、その量が減少するような条件でレーザー照射することが好ましく、このような条件であっても布帛本体の損傷はそれほど大きくない。
本発明の染色方法においては、予め他の染料で染色された布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射してもよい。このとき、照射する条件によっては、他の染料で染色された上に、反応染料を重ねて染色することができる。通常、他の染料が脱色しない程度の比較的少ない照射量である場合にこのような染色を施すことが可能である。ここで、他の染料とは、染料の種類又は配合が異なっていれば良く、反応染料であっても構わない。用途の面から特に好適なものはインジゴである。
また、本発明の染色方法において、予め他の染料で染色された布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に反応染料を染着させ、同時に照射領域において選択的に他の染料を退色させることも好ましい。この場合には、照射領域において未照射部分に比べて染色濃度の低い模様を形成することができ、その上、その未照射部分に対して、反応染料で染色することが可能である。この場合も、好適な他の染料としてはインジゴが挙げられる。インジゴは比較的分子量の低い染料でもあり、比較的容易に脱色させることが可能である。
ジーンズなどのインジゴ染色した布帛に対して、レーザー光線を照射することによって、照射部分が脱色された脱色模様を形成する方法(例えば特許文献3)が知られているが、脱色と同時に脱色部分が褐変することが避けられない。このような場合、青色の反応染料を含有する染液を含浸させてからレーザー光を照射することによって、脱色部分に青色の染料が染着し、脱色部分の褐色を薄青色でマスキングすることが可能である。この場合、褐変のない、きれいな脱色模様を形成することが可能である。また逆に、黄色の反応染料を含有する染液を含浸させてからレーザー光を照射することによって、脱色部分に黄色の染料が染着し、脱色部分の褐色を強調することも可能である。この場合、独特の色褪せ感を有する脱色模様を形成することが可能である。
レーザー照射した後で、ソーピングを施して未染着の染料を除去し、水洗して乾燥することによって染色物を得ることができる。本発明の染色方法によって得られた布帛は、レーザー光を照射した部分に選択的に反応染料を染着させることができ、細かい模様を形成することも可能である。描画パターンはコンピュータでレーザー光線の走査条件をコントロールすることによって調整できるので、版を作成する必要もなく、小ロット製品であっても容易に模様を形成することが可能である。また、照射するレーザー光の量を調整することによって、上述のように、染色したり、脱色と染色を同時に進行させたりすることも可能である。すなわち、様々な模様の形成を容易に行うことができ、各種衣料品などに使用することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。本実施例において使用したレーザー照射装置は、イージーレーザー社製「Marcatex 250flexi」である。使用されているレーザーは炭酸ガスレーザー(波長:10.6μm)であり、その標準出力は100Wである。当該装置は、炭酸ガスレーザーから出射されたレーザー光線を、互いに回転軸が直交する、回転可能な2枚の反射ミラーで順次反射させることによって、照射面に対して二次元状に走査して照射できるものである。レーザー光を照射するに際しては、光路中のシャッターを開閉することにより、所望の照射パターンに対応した部分にのみレーザー光を照射することができる。布帛上に照射されるレーザービームの直径(1/e)は約0.8mmである。
照射パターンはビットマップイメージデータをコンピュータから入力することによって設定した。照射試験に際しては、ビットマップの各ピクセル当りの照射時間を20〜400μs(マイクロ秒)の範囲内で変更することによって、布帛面への照射量を調整した。当該装置が採用している描画ソフトウエア中にはその他にも設定されるべきパラメータが多数あり、さらにレーザー出力の変動や光路中での損失が発生することなども考慮すれば、実際に布帛面上に照射されたレーザー光のエネルギー量は必ずしも明らかではない。したがって、以下の実施例中においては、上記ピクセル当りの照射時間の値を使用して照射条件を説明する。この照射時間は、実際の照射エネルギーに比例するものであると考えられるので、これによって相対的な比較が可能である。
実施例1
3種類の反応染料を同時に含有する染液を調整した。染液中の各成分の含有量は以下のとおりである。これらの3種類の染料は、セルロース系繊維の原反染め向けの染料であり、推奨ベーキング条件が150℃、4分というものである。染色に供する布帛としては、約12×35cm程度の綿織物からなる試験片を用いた。
日本化薬株式会社製反応染料「Kayacion P-N3R (Yellow)」 10g/L
日本化薬株式会社製反応染料「Kayacion P-4BN (Red)」 6g/L
日本化薬株式会社製反応染料「Kayacion P-3R (Blue)」 5g/L
炭酸ナトリウム 20g/L
尿素 100g/L
常温の染液の中に、試験片を10秒間浸漬してから引き上げ、マングルを通して脱水した。このときマングル処理の条件を変更して水分率が、60%、70%、80%及び90%の試料をそれぞれ2つずつ作成した。また、試験片に対して上記染液をスプレーを用いて噴霧し、噴霧量を調整して水分率が10%、20%、30%、40%及び50%の試料をそれぞれ2つずつ作成した。これらの水分率の試料のうちの1つをそのままレーザー照射に供すると共に、他の1つを自然乾燥させて(すなわち水分率0%として)レーザー照射に供した。
レーザー照射は、水分率が10〜90%の試料については、前述のピクセル当りの照射時間を、30〜400μsの範囲で16段階に変化させ、それぞれ2×2cm角の領域を照射した。また、自然乾燥した試料については20〜300μsの範囲で16段階の照射時間を設定し、これもそれぞれ2×2cm角の領域を照射した。レーザー照射を行った後で、5分間水洗し、ソーピング剤を2mL/L含有するソーピング液を用いて85℃で15分間ソーピングした後、70℃で5分、40℃で5分すすいで、脱水、乾燥して染色物を得た。ソーピング剤としては株式会社日新化学研究所製の精練洗浄剤「デスパートN−211S」を使用した。得られた染色物の染色状況について、目視観察して、その結果を表1にまとめた。
Figure 2007046191
表1において、×印は全く染着されず、周辺のレーザー未照射部分と区別がつかないところである。○印は染料が染着され、色調が良好な部分である。○印が付されている範囲のうち、照射時間の短いところでは染着濃度が低くなる傾向が認められた。△印は染着された色調の変化、特に褐変が認められた範囲であるが、照射時間の短いところでは○印との差は僅かであり、照射時間の長いところでは変色が顕著になる。したがって、△印は求められる色調によっては使用可能な範囲である。
表1からわかるように、水分率が高くなるほど長いレーザー照射時間を要している。このことから、水分の存在によってレーザー照射による温度上昇が抑えられていることがわかる。水分率の高い試料に対してレーザー照射した場合に比べて、それを乾燥させた試料にレーザー照射した方が濃色に染着された。また、もともと染液の含有量の多いもの(含浸させたときの水分率が高いもの)ほど、濃色に染着された。したがって、濃色に染色するためには、多くの染液を含浸させてから乾燥して得られた試料にレーザー照射するのが好ましい。含浸方法については、浸漬した場合には噴霧した場合に比べて未照射部分が着色しやすくなるので、噴霧する方が、形成される模様のコントラストを大きくできることがわかった。
照射量が大きいときの褐変については、基材の面が焦げたことによるものと、染料成分が変色したものの両方の要因が考えられる。これを確認するために、原料の布帛に対して染液を含浸させずにそのまま(水分率0%)照射する試験と、染料を含まない水のみを含浸させて水分率を60%にした試料について、強度を変えてレーザーを照射した。その結果、水分率0%の場合には照射時間が50μsくらいから焦げ色が観察されるようになったが、水分率60%の場合には、照射時間400μsでも焦げ色は観察されなかった。したがって、水分率が高い状態でレーザー照射した場合の褐変は染料の熱による変色のためであり、乾燥した状態でレーザー照射した場合の褐変は染料の変色に加えて、生地の焦げ色も寄与しているものと考えられる。したがって、基材表面の保護と言う観点からは、水分が残存する状態でレーザー照射した方がよいことがわかった。
レーザー照射したときに、布帛の温度がどの程度上昇しているのかを推定するために、日油技研工業株式会社製の示温材「サーモラベル」を使用して、当該ラベルに対してレーザー照射を行った。その結果、80℃のラベルが照射時間45〜55μs程度で呈色し、90℃のラベルが照射時間60〜65μs程度で呈色することがわかった。乾燥試料の場合の好適照射時間が5、60μs以下であったことから考えると、かなりの低温である。今回の反応染料を通常の生地染めや原反染めに使用した場合の好適な推奨ベーキング条件が150℃、4分であることを考慮すれば、極めて短時間に表面の一部だけが高温になっていると考えることができる。また、一定量以上レーザー光を照射した試料を実体顕微鏡で観察したところ、照射面の毛羽が消失していることがわかった。布帛本体は大きく損傷を受けない場合であっても、熱を伝達して逃がすことのできない毛羽は焼き切れるようである。以上のようなことから、絞り込まれた高強度のレーザー光が極めて短時間照射される場合には、局所的な加熱条件の制御が重要である。
実施例2
1種類の反応染料を含有する染液を3種類調整し、それぞれの染液を用いて染色操作を行った。各染液中の各成分の含有量は以下のとおりである。
[黄色染液]
日本化薬株式会社製反応染料「Kayacion P-N3R (Yellow)」 20g/L
炭酸ナトリウム 20g/L
尿素 100g/L
[赤色染液]
日本化薬株式会社製反応染料「Kayacion P-4BN (Red)」 20g/L
炭酸ナトリウム 20g/L
尿素 100g/L
[青色染液]
日本化薬株式会社製反応染料「Kayacion P-3R (Blue)」 20g/L
炭酸ナトリウム 20g/L
尿素 100g/L
染色に供する布帛としては、約12×35cm程度のインジゴデニム試験片を下記の3種類(ワン・ウォッシュ品、フェード品、ブリーチ品)につき、各4枚ずつ用いた。インジゴデニム試験片は、ロープ染色したインジゴ染色綿糸を用いた15オンスのツイル織物である。ワン・ウォッシュ品は生機を1回だけ水洗したものであり、フェード品はさらに少量の次亜塩素酸ナトリウムで漂白したものであり、ブリーチ品はそれよりも多い量の次亜塩素酸ナトリウムで漂白したものである。ワン・ウォッシュ品、フェード品、ブリーチ品の順に濃色である。
常温の染液の中に、上記3種類のインジゴデニム試験片を10秒間浸漬してから引き上げ、マングルを通して脱水し、水分率が70%の試料をそれぞれ3つずつ作成した。これを実施例1と同様に自然乾燥させてレーザー照射に供した。また、比較として染液に浸漬する前の原料のインジゴデニム試験片についても、レーザー照射に供した。レーザー照射は、ピクセル当りの照射時間を、30〜400μsの範囲で16段階に変化させ、それぞれ2×2cm角の領域を照射した。レーザー照射を行った後で、実施例1と同様にソーピングを行い、脱水、乾燥して染色物を得た。得られた染色物の染色状況について、目視観察した。
まず、染液に浸漬せずにレーザー照射した比較試料の結果について説明する。脱色加工未処理品、フェード品及びブリーチ品のいずれであっても、ピクセル当りの照射時間が30〜40μsでは微かに脱色する程度であるが、照射時間が長くなるほど脱色が顕著に認められるようになった。そして照射時間が長くなるほど脱色部分が薄い褐色に変色することが認められた。元の色の薄いものほど、より短い照射時間で脱色が可能である。
これに対し、染液に浸漬させてからレーザー照射した試料については、3色のいずれにおいても30〜50μsの範囲において、インジゴの色の上に重ねる形での染色が可能であった。70μsを超えると、インジゴの色は薄くなってくるものの、反応染料の影響による着色が認められるようになる。例えば、青色の反応染料を使用した場合には、照射時間を長くするほど、インジゴの色は薄くなるが、反応染料に由来すると考えられる青色の影響で、脱色部分の褐変がマスキングされ、褐変のない脱色模様を形成することが可能であった。また、黄色の反応染料を使用した場合にも、照射時間を長くするほどインジゴの色は薄くなるが、反応染料に由来すると考えられる黄色の影響で、脱色部分の褐変が強調され、独特の色褪せ感を感じさせる脱色模様を形成することが可能であった。このように、レーザーの照射量をコントロールすることによって、インジゴの脱色の程度と反応染料の染着の程度を制御することができ、様々な模様の形成に使用できることがわかった。
実施例3
未染色の綿デニム生地のパンツを3本準備し、それぞれのパンツに対して実施例2と同じ3種類の染液をそれぞれ全体に噴霧し、含水率が約20%になるようにした。これを実施例1と同様に自然乾燥させてレーザー照射に供した。レーザー照射は、ピクセル当りの照射時間を、30〜400μsの範囲で16段階に変化させ、バラの花の図柄(18.2×15.5cm)、夢という漢字(22.2×15.0cm)、及び龍の図柄(25.5×12.4cm)をそれぞれ照射した。レーザー照射を行った後で、実施例1と同様にソーピングを行い、脱水、乾燥して染色物を得た。得られた染色物の染色状況について、目視観察した。その結果、3種類の染液いずれについても上記各模様が鮮明に形成されていることが確認された。

Claims (12)

  1. 布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に反応染料を染着させることを特徴とする布帛の染色方法。
  2. 前記布帛が綿布である請求項1記載の布帛の染色方法。
  3. 前記染液が反応染料とともにアルカリ性化合物を含有する請求項1又は2記載の布帛の染色方法。
  4. 前記染液に布帛を浸漬してから脱液し、その後レーザー光を照射する請求項1〜3のいずれか記載の布帛の染色方法。
  5. 前記染液を布帛に対して噴霧し、その後レーザー光を照射する請求項1〜3のいずれか記載の布帛の染色方法。
  6. 布帛の水分率が10〜100%の状態でレーザー光を照射する請求項1〜5のいずれか記載の布帛の染色方法。
  7. 前記染液を含浸させてから乾燥し、その後レーザー光を照射する請求項1〜5のいずれか記載の布帛の染色方法。
  8. レーザー光線をスキャニングすることによって所望の領域にレーザー光を照射する請求項1〜7のいずれか記載の布帛の染色方法。
  9. 予め他の染料で染色された布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に他の染料と反応染料とを重ねて染着させる請求項1〜8のいずれか記載の布帛の染色方法。
  10. 予め他の染料で染色された布帛に対し、反応染料を含有する染液を含浸させてから、部分的にレーザー光を照射することによって、照射領域において選択的に反応染料を染着させ、同時に照射領域において選択的に他の染料を退色させる請求項1〜8のいずれか記載の布帛の染色方法。
  11. 前記他の染料がインジゴである請求項9又は10記載の布帛の染色方法。
  12. 前記他の染料がインジゴであり、前記反応染料として青色の染料を用い、インジゴの退色部分の褐変をマスキングする請求項10記載の布帛の染色方法。
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