以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明のゴルフクラブおよびゴルフクラブヘッドを詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るゴルフクラブヘッド20を備えて構成される、ゴルフクラブ10を示す分解斜視図である。図2は、図1に示すゴルフクラブヘッドの正面図である。また、図3は、図1のA−A線による断面図である。
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係るゴルフクラブヘッド20は、いわゆる中空ゴルフクラブヘッドであり、ゴルフクラブシャフト40と接合されてゴルフクラブ10を構成している。ゴルフクラブヘッド20は、フロント体12と、バック体14とが接合されて構成されている。
フロント体12は、金属部材21とFRP層60とから構成されている。金属部材21は、フェース部22を成す板状の金属層50の周縁部に、突出部52が設けられた形状となっており、断面が略コの字状となっている。ゴルフクラブヘッド20のフェース面23は、金属層50の表面で構成されている。バック体14も断面が略コの字状の部材であり、フロント体12の突出部52の突出端と、端面が溶接接合されている。図1および図3には、フロント体12とバック体14との溶接部分15を示している。ゴルフクラブヘッド20の、クラウン部26、ソール部24およびサイド部28は、フロント体12の一部とバック体14の一部とから構成されている。
また、図1に示すように、ホーゼル部30は、ゴルフクラブシャフト40をゴルフクラブヘッド20に固定するものであり、クラウン部26に設けられている。このホーゼル部30には、ゴルフクラブシャフト40が挿入される開口部32が設けられている。ゴルフクラブシャフト40は、ゴルフクラブヘッド20にソケット42を介して固定される。このソケット42には、ゴルフクラブシャフト40を挿通可能な開口部44が設けられている。
第1の実施形態では、フェース部22は、金属層50とFRP層60とからなる。上述のように、フェース部22の金属層50は、金属部材21の一部分である。ゴルフボールを打撃するフェース面23は、この金属層50の表面となっている。また、この金属層50には、ヒールからトウに向かう方向に伸びたスコアラインLが、例えば3本平行に形成されている。金属層50は、例えばチタン合金である。フェース部22は、この金属層50のフェース面23と反対の側の表面である裏面29に、FRP層60が接着接合されて構成されている。
図4(a)および(b)には、図3に示すゴルフクラブヘッド20の断面図のうち、フェース部22について拡大して示す。本発明においてFRP層60は、強化繊維によりマトリクス樹脂を強化された強化繊維層62と、接着剤層64とからなる。FRP層60の構造については、後に詳述する。
第1の実施形態のゴルフクラブヘッドは、図4(a)および(b)に示すように、金属層50のフェース面23に垂直な方向の厚さをWとし、フェース面23の中央部分における、フェース面23から金属層50とFRP層60の接合面(すなわち、裏面29)までの距離をDとすると、厚さWおよび距離Dが、下記式(1)または下記式(2)のいずれか一方を満たすことを特徴とする。すなわち、第1の実施形態のゴルフクラブヘッドでは、金属層50とFRP層60の接合面が、図4(a)にXで示す範囲にあるか、または、図4(b)にYで示す範囲にある。
W/10<D<W・3/8 ・・・(1)
W・5/8<D<W・9/10 ・・・(2)
なお、図4(a)は、上記厚さWおよび距離Dが、式(1)を満たす場合の例について示す図であり、図4(b)は、上記厚さWおよび距離Dが、式(2)を満たす場合の例について示す図である。図4(a)に示す例では、金属層50の厚さ(すなわち上記の距離D)は、例えば0.8mmであり、FRP層60の厚さは、例えば3.4mmである。FRP層60のうち、強化繊維層62の厚さは、例えば3.2mmであり、接着剤層64の厚さは、例えば0.2mmである。図4(b)に示す例では、金属層50の厚さ(すなわち上記の距離D)は、例えば、3.1mmであり、FRP層60の厚さは、例えば1.1mmである。FRP層60のうち、強化繊維層62の厚さは、例えば0.9mmであり、接着剤層64の厚さは、例えば0.2mmである。
仮に、フェース部22の中立面の近傍に、金属層50と繊維強化プラスチック層60の接合面が位置する場合(例えば、W・3/8≦D<≦W・5/8を満たす場合)、ゴルフボールを打撃する度に、接合面に比較的大きな剪断応力が働く。第1の実施形態のゴルフクラブヘッドでは、金属層50と繊維強化プラスチック層60の接合面は、図4(a)にXで示す範囲か、または、図4(b)にYで示す範囲にあり、接合面は、フェース部22の中立面の近傍に位置していないので、ゴルフボールを打撃したとしても、接合面には比較的小さな剪断応力しか作用しない。このため、比較的高い耐久性能をもったゴルフクラブヘッドが得られる。また、金属層50と繊維強化プラスチック層60の接合面が、フェース部22のごく近傍に位置する場合(例えば、D≦W/10を満たす場合)、すなわち、金属層50の厚さがごく薄い場合、ゴルフボールを打撃した際の打感は、過度に柔らかくなってしまう。本発明の第1の実施形態のゴルフクラブヘッドでは、距離D(すなわち金属層50の厚さ)が、少なくともW/10<Dであるため、適度な柔らかさの打感が得られる。また、適度な厚みの金属層によって打球時に金属音が発生するので、得られる打感もさらに好適となる。
ゴルフクラブヘッド20のフェース面23の表面積は、例えば、40.0cm2である。本発明の第1の実施形態のゴルフクラブヘッドでは、このような、例えばフェース面の面積が30.0cm2以上ある、比較的フェース面の面積が大きい中空ゴルフクラブヘッドであっても、充分に高い耐久性が得られる。
なお、図3は、金属層50およびFRP層60の厚みが、フェース部22全体に渡って略同一であり、上記式(1)および式(2)が、フェース部22全体に渡って成り立つ場合の図である。本発明のゴルフクラブヘッドでは、金属層50およびFRP層60の厚みは、フェース部22全体に渡って略同一でなくてもよい。例えば、図5に示すように、フェース部22の厚み(フェース面23の法線方向の厚み)は、フェース面の中央部近辺とフェース面22の端部近辺とで異なっていてもよい。例えば、図5に示すように、フェース面の中央部近辺に比べて、フェース端部近辺の厚みが薄くなっていてもよい。本発明のゴルフクラブヘッドでは、フェース部全体のうち、少なくとも、フェース面の中央部において、上記厚さWおよび上記距離Dが、式(1)または式(2)を満たしていればよい。
ここで、フェース面の中央部近辺の厚みとは、フェース部22のフェース面23上の重心位置の厚みを指す。フェース部22のフェース面23上の重心位置とは、特開2003−246023号公報に開示された方法により測定されたものである。
以下、フェース部22のフェース面23上の重心位置の測定方法について、簡略に述べる。フェース部22のフェース面23上における重心位置の測定方法は、上部に中心測定対象物(ゴルフクラブヘッド)を支持する支持部を備えた中心測定器によって求められる。中心測定器は、この支持部が測定対象物を平衡に支持する測定対象物の位置を知ることができるものである。すなわち、中心の測定方法は、ゴルフクラブヘッドを、支持部に載せ、手を離しても落ちない平衡な位置を探しだすものである。なお、支持部は平面または3点以上で支持する形態であることが好ましい。また、支持部の面積は、15mm2以下であることが好ましい。また、支持部の面積の下限はゴルフクラブヘッドが支えられる限り特に限定されるものではない。支持部の面積は、平面であれば平面部分の面積、3点以上で支持する形態であれば各点を結んだ図形の面積によって示される。このように、支持部の面積を上記範囲に設定することによって、より正確に中心を求めることができる。本発明においては、このようにして測定して特定された位置をゴルフクラブヘッドの重心位置という。
なお、飛距離等の打撃性能や好適な打感を維持しつつ、高い耐久性を得るためには、ゴルフクラブヘッドのヘッド部22の厚さWは、3.0mm〜5.0mmであることが好ましい。
なお、本願第1の実施形態のゴルフクラブヘッドのフェース部22は、マトリクス樹脂が含浸された強化繊維層(強化繊維プリプレグ)の一方の表面に接着剤が積層されて、この強化繊維プリプレグが、金属層50の裏面29に接着剤を介して接合され、強化繊維プリプレグが硬化されると同時に接着剤も硬化されることで、金属層50に接合された繊維強化プラスチック層(FRP層60)が形成されることで作製されたものである。
フェース部22の作製手順について詳述すると、まず、フロント体12とバック体14が溶接されていない状態で、フロント体12の金属層50の裏面29をブラスト処理し、表面粗さを増大させる(表面を粗くする)。このブラスト処理では、例えばガラスビーズの100番等を使用すればよい。そして、炭素樹脂等の強化繊維に、エポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させ(いわゆるプリプレグを行い)、このマトリクス樹脂が含浸された強化繊維層(強化繊維プリプレグ)の一方の表面に、接着剤を積層する。そして、接着剤が積層された強化繊維プリプレグの、上記一方の表面が、接着剤を介して金属層50の裏面29に当接するように、強化繊維プリプレグを金属層50の裏面29表面に配置する。その後、マトリクス樹脂が含浸された強化繊維層(強化繊維プリプレグ)が複数層積層されて、所定の厚さ(積層数)の強化繊維プリプレグ層が形成される。そして、強化繊維プリプレグと接着剤が同時硬化される。フェース部22は、このように、接着剤層と強化繊維プリプレグ層とを同時硬化させることで、金属層50の裏面29の側に、この裏面29に接合されたFRP層60が形成されている。硬化の際は、全体の温度を上昇させて、接着剤層および強化繊維プリプレグ層を熱硬化している。このように、接着剤層と強化繊維プリプレグとを同時硬化させて、金属層とFRP層とを接合する(金属層に接合されたFRP層を形成する)方式を、以降、コキュア方式という。なお、強化繊維プリプレグ層における強化繊維層62の強化繊維の配向については、特に限定されるものではく、一方向に整列して配置するか、またはクロス(織布)の状態で使用してもよい。更に、このような強化繊維プリプレグが1または複数(層)重ねて設けられたものであっても、本発明においては、1層の強化繊維プリプレグ層とする。
なお、本発明のゴルフクラブヘッドのフェース部22は、金属層50の、フェース面23と反対の側の表面である裏面29に接着剤が塗布された状態で、マトリクス樹脂が含浸された強化繊維層(強化繊維プリプレグ)が接着剤上に配置されて、この強化繊維プリプレグが硬化されると同時に接着剤も硬化されることで、金属層50に接合された繊維強化プラスチック層(FRP層60)が形成されることで作製されたものであってもよい。
金属層50を例えばチタン合金とした場合、チタン合金は鉄系合金と異なり、表面に酸化チタンの不働態被膜が強固に成形される。このため、仮に、マトリクス樹脂が硬化された後の、硬化済みの板状のFRP層が、チタン合金からなる金属層50と接着剤によって接合されたとしても、接着力は比較的弱く、ゴルフクラブヘッドの耐久性は非常に低くなる。本願発明の第1の実施形態のゴルフクラブヘッド20では、上述のコキュア方式によって、金属層50の裏面29の側にFRP層60を形成している。このようなコキュア方式によれば、金属層50の裏面29の側に、この裏面29と強固に結合されたFRP層60を形成することができる。これは、マトリクス樹脂と接着剤を同時硬化させる際、マトリクス樹脂を構成する高分子と接着剤を構成する高分子とが入り乱れた状態で、双方が強固に結合した状態で硬化されるからである。
また、本発明の第1の実施形態のゴルフクラブヘッド20では、図3に示すように、フロント体12とバック体14の溶接部分15は、金属層50とFRP層60との接合面と略平行で、この接合面からゴルフクラブの後部に向けて30mm離間した仮想平面Pよりも、ゴルフクラブヘッド20の後方側にある。
本願発明の第1の実施形態のゴルフクラブヘッド20では、フロント体12とバック体14の溶接部分15をこのような位置とすることで、溶接の際に、金属層50とFRP層60との接合部分まで伝わる熱を低減させている。これにより、溶接の際に伝わってきた熱によって、金属層50とFRP層60との接合部分において、FRP層60(強化繊維層62および接着剤層64)が微小なクラック破壊を起こすことを防止し、ゴルフクラブヘッドの高い耐久性を実現している。より高い耐久性を実現するには、ゴルフクラブヘッド20では、金属層50とFRP層60との接合面と略平行で、この接合面からゴルフクラブの後部に向けて、例えば40mm離間した仮想平面よりも、ゴルフクラブヘッド20の後部側にあることが好ましい。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態に係るゴルフクラブヘッドについて説明する概略断面図である。図6に示すゴルフクラブヘッドは、図1〜図5に示すゴルフクラブヘッド20と同様、中空ゴルフクラブヘッドである。以下、ゴルフクラブヘッド20と同様の構成については、上記ゴルフクラブヘッド20と同じ番号を用いて示し、詳細な説明については省略する。
第2の実施形態は、フェース部22が、金属層50とFRP層60に加え、更にもう1層の金属層70とを含んで構成された、3層構造になっていることを特徴としている。フェース部22は、一方の表面がフェース面23を成す第1の金属層50と、第1の金属層50の裏面29に接合されたFRP層60と、FRP層60の、第1の金属面との接合面(裏面29)と反対の側の面に接合された第2の金属層70とからなる3層構造である。
図7は、図6に示すゴルフクラブヘッド20の断面図のうち、フェース部22について拡大して示す図である。第2の実施形態のゴルフクラブヘッドは、図7に示すように、フェース部22の、フェース面23と垂直方向の厚さをW、フェース面23の中央部分における、フェース面23から第1の金属層50とFRP層60の接合面(裏面29)までの距離をD1、フェース面23から、FRP層60と第2の金属層70との接合面までの距離をD2とすると、WおよびD1が下記式(3)を満たし、かつ、WおよびD2が下記式(4)を満たす。すなわち、第1の実施形態のゴルフクラブヘッドでは、金属層50とFRP層60との接合面が、図7にX’で示す範囲にある。また、FRP層60と金属層70との接合面が、図7にY’で示す範囲にある。
W/20<D1<3・W/20 ・・・(3)
5・W/20<D2<19・W/20 ・・・(4)
ここで、金属層50とFRP層60、FRP層60と金属層70とは、それぞれ接着剤によって接合されている。金属層50とFRP層60、およびFRP層60と金属層70とは、それぞれ同時に、コキュア方式で接合されている。すなわち、マトリクス樹脂が含浸された強化繊維プリプレグ層の一方の表面が、金属層50の表面29と接着剤を介して当接され、かつ強化繊維プリプレグ層の他方の表面が、金属層70のフェース面23の側の表面25と接着剤を介して当接されて、強化繊維プリプレグ層と接着剤層とが同時硬化されて、3層構造のフェース部22が形成されている。
フェース部22の作製手順について、より詳細に説明する。まず、第1の実施形態と同様に、金属部材21の金属層50の裏面29、および板状の金属層70の表面25をブラスト処理し、表面粗さを増大させる(表面を粗くする)。そして、マトリクス樹脂が含浸された強化繊維層(強化繊維プリプレグ)の一方の表面に、接着剤を積層する。そして、接着剤が積層された強化繊維プリプレグの、上記一方の表面が、接着剤を介して金属層50の裏面29に当接するように、強化繊維プリプレグを金属層50の裏面29表面に配置する。その後、強化繊維プリプレグが複数層積層される。複数の強化繊維プリプレグのうち、最後に積層される強化繊維プリプレグは、一方の表面に接着剤が積層された強化繊維プリプレグであり、接着剤が積層されていない側の表面が、これまで積層された強化繊維プリプレグと当接されている。この状態では、複数の強化繊維プリプレグが積層されてなる強化繊維プリプレグ層は、一方の表面が、金属層50の表面29と接着剤を介して当接され、他方の表面に接着剤が積層されている。そして、この接着剤に金属層70が当接され、強化繊維プリプレグ層と接着剤が同時硬化されて、金属層50および金属層70にFRP層60が接合した、3層構造のフェース部22が形成されている。FRP層60は、図7に示すように、接着剤層64と、強化繊維によりマトリクス樹脂を強化された強化繊維層62と、接着剤層66とからなる。
なお、本発明のゴルフクラブヘッドのフェース部22は、金属層50の裏面29と、金属層70の表面25にそれぞれ接着剤を塗布し、これら金属層50と金属層70とで、強化繊維プリプレグを挟んだ状態で、接着剤層と強化繊維プリプレグとが同時硬化されて、金属層50および金属層70にFRP層60が接合した、3層構造のフェース部22が形成されていてもよい。
硬化の際は、全体の温度を上昇させて、接着剤層および強化繊維プリプレグを熱硬化している。このように、各層を熱硬化によって接合するために全体の温度を上昇させた場合、各層は熱膨張を起こす。金属層50の厚みと金属層70の厚みとが異なっていると、金属層50と強化繊維プリプレグと金属層70とを積層した積層体全体の温度を上昇させた場合、この積層体には反りが生じる。この反りの発生を防ぐために、金属層50と強化繊維プリプレグと金属層70とを、それぞれ同時にコキュア方式で接合する場合、金属層50の厚さと金属層70の厚さとは、略同一であることが好ましい。具体的には、フェース部22のフェース面23の中央部において、金属層70の厚さは、金属層50の厚さの80〜120%であることが好ましい。
第2の実施形態において、金属層50の厚さ(すなわち上記の距離D1)は例えば0.4mmである。また、金属層70の厚さも例えば0.4mmである。また、強化繊維層62の厚さは例えば3.2mmであり、接着剤層64と接着剤層66の厚さは、それぞれ0.1mmである。FRP層60の厚さは、全体で3.4mmとなっている。
第2の実施形態においても、金属層50とFRP層60との接合面、およびFRP層60と金属層70との接合面は、それぞれ、フェース部22の中立面の近傍に位置していないので、ゴルフボールを打撃したとしても、接合面には比較的小さな剪断応力しか作用しない。このため、比較的高い耐久性能をもったゴルフクラブヘッドが得られる。また、第2の実施形態のゴルフクラブヘッドにおいても、距離D1(すなわち金属層50の厚さ)が、少なくともW/20<Dの範囲にあるため、適度な柔らかさの打感が得られる。また、適度な厚みの金属層によって打球時に金属音が発生するので、より好適な打感が得られる。
次に、第3の実施形態について説明する。図8は、本発明の第3の実施形態に係るゴルフクラブヘッドを示す概略断面図である。本発明の第3の実施形態に係るゴルフクラブヘッド80は、いわゆるアイアンゴルフクラブヘッドである。ゴルフクラブヘッド80は、上記第1の実施形態と同様に、金属層50とFRP層60とが積層された2層積層構造の、板状のフェース部22を有する。なお、第3の実施形態において金属層50は、板状(平板状)であり、突出部は有していない。ゴルフクラブヘッド80は、ソール部84、本体ブレード部86および図示しない本体サイド部で囲まれた開口部85を有する、枠体構造のゴルフクラブヘッド本体81に、板状のフェース部22が接合されて構成されている。
ソール部84、本体ブレード部86および図示しない本体サイド部それぞれの、開口部85の外周に対応する部分には、板状のフェース部22と当接する当接部89が設けられている。板状のフェース部22は、周縁部分がこの当接部89と当接・接合されて、開口部85に配置されている。板状のフェース部22は、ゴルフクラブヘッド本体81に、例えば、接着剤による接着、または「かしめ」などによって接合されている。
板状のフェース部22は、金属層50とFRP層60とが、上述のコキュア方式によって接合されて構成されている。第3の実施形態のゴルフクラブヘッド80では、この板状のフェース部22が、金属層50の表面がフェース面となるように、ゴルフクラブヘッド本体81の開口部に配置されている。第3の実施形態のゴルフクラブヘッドでは、少なくとも、板状のフェース部22のフェース面23の中央部分は、板状のフェース部22のバック側が開放されている。ここで、バック側が開放されているとは、フェース部22を構成するFRP層60の、フェース面23の側と反対の側の表面68に、ゴルフクラブヘッド本体81が接触していないことをいう。
第3の実施形態は、第1の実施形態に対し、アイアンゴルフクラブヘッドである点で相違しているのみであり、フェース部22の特徴については、第1の実施形態と同様である。すなわち、第3の実施形態のゴルフクラブヘッド80においても、図4に示すように、金属層50のフェース面23に垂直な方向の厚さをWとし、フェース面23の中央部分における、フェース面23から金属層50と繊維強化プラスチック層の接合面(すなわち、裏面29)までの距離をDとすると、厚さWおよび距離Dは、上記式(1)または下記式(2)のいずれか一方を満たす。すなわち、第3の実施形態のゴルフクラブヘッドでも、金属層50と繊維強化プラスチック層の接合面が、図4(a)にXで示す範囲にあるか、または、図4(b)にYで示す範囲にある。
第3の実施形態のゴルフクラブヘッドも、第1の実施形態のゴルフクラブヘッドと同様、高い耐久性が得られる。また、距離D(すなわち金属層50の厚さ)が、少なくともW/10<Dであるため、適度な柔らかさの打感が得られる。また、適度な厚みの金属層によって打球時に金属音が発生するので、より好適な打感が得られる。
なお、図8では、金属層50およびFRP層60の厚みが、フェース部22全体に渡って略同一であり、上記式(1)および式(2)が、フェース部22全体に渡って成り立つ場合の図である。第3の実施形態のゴルフクラブヘッドも、第1の実施形態のゴルフクラブヘッド同様、金属層50およびFRP層60の厚みは、フェース部22全体に渡って略同一でなくてもよい。例えば、図9に示すように、フェース部22の厚み(フェース面23の法線方向の厚み)は、フェース面の中央部近辺とフェース面22の端部近辺とで異なっていてもよい。例えば、フェース面の中央部近辺に比べて、フェース端部近辺の厚みが薄くなっていてもよい。本発明のゴルフクラブヘッドでは、フェース部全体のうち、少なくとも、フェース面の中央部において、上記厚さWおよび上記距離Dが、式(1)または式(2)を満たしていればよい。
次に、第4の実施形態について説明する。図10は、本発明の第4の実施形態に係るゴルフクラブヘッドを示す概略断面図である。図10に示すゴルフクラブヘッドは、図8に示すゴルフクラブヘッド80と同様、アイアンゴルフクラブヘッドである。以下、ゴルフクラブヘッド80と同様の構成については、上記ゴルフクラブヘッド80と同じ番号を用いて示し、詳細な説明については省略する。第4の実施形態は、第2の実施形態に対し、アイアンゴルフクラブヘッドである点で相違しているのみであり、フェース部22の特徴については、第2の実施形態と同様である。すなわち、第4の実施形態のゴルフクラブヘッド80においても、図4に示すように、フェース部22が、金属層50とFRP層60に加え、更にもう1層の金属層70とを含んで構成された3層構造になっている。
第4の実施形態は、第2の実施形態に対し、アイアンゴルフクラブヘッドである点で相違しているのみであり、フェース部22の特徴については、第2の実施形態と同様である。すなわち、第4の実施形態についても、第2の実施形態のゴルフクラブヘッドと同様、図7に示すように、フェース部22の、フェース面23と垂直な方向の厚さをW、フェース面23の中央部分における、フェース面23から第1の金属層50とFRP層60の接合面(裏面29)までの距離をD1、フェース面23から、FRP層60と第2の金属層70との接合面までの距離をD2とすると、WおよびD1が上記式(3)を満たし、かつ、WおよびD2が上記式(4)を満たす。
第2の実施形態と同様、第4の実施形態についても、金属層50とFRP層60、およびFRP層60と金属層70とは、それぞれ同時に、コキュア方式で接合されることが好ましい。また、金属層50とFRP層60と金属層70とを、同時にコキュア方式で接合する場合、金属層50の厚さと金属層70の厚さとは、略同一であることが好ましい。具体的には、フェース部22のフェース面23の中央部において、金属層70の厚さは、金属層50の厚さの80〜120%であることが好ましい。
第4の実施形態において、金属層50の厚さ(すなわち上記の距離D1)は例えば0.4mmであり、金属層70の厚さは例えば0.4mmである。また、強化繊維層62の厚さは例えば3.2mmであり、接着剤層64と接着剤層66の厚さは、それぞれ0.1mmである。FRP層60の厚さは、全体で3.4mmとなっている。第4の実施形態においても、比較的高い耐久性能をもったゴルフクラブヘッドが得られる。また、第4の実施形態のゴルフクラブヘッドにおいても、距離D1(すなわち金属層50の厚さ)が、少なくともW/20であるため、適度な柔らかさの打感が得られる。また、適度な厚みの金属層によって打球時に金属音が発生するので、より好適な打感が得られる。
以上、第1〜第4の実施形態のゴルフクラブヘッドでは、金属層50の材質をチタンとした。本発明のフェース部22を構成する金属層50およびFRP層60の材質は、特に限定されるものではない。金属層としては、例えば、ステンレス鋼、マルエージ鋼、鉄、アルミニウム、チタン、チタン合金、銅、黄銅、ニッケル、ニクロム、錫、鉛、マグネシウム、金、銀、白金、およびその他種々の金属及び合金などにより構成されるものが例示される。
上述のステンレス鋼としては、例えば、日新製鋼社製、NSSHT1770(商品名(組成:Fe−0.04C−1.5Si−0.3Mn−0.03P−0.004S−7.2Ni−14.7Cr−0.7Cu−0,4Ti−0.009N))が例示される。
また、上述のマルエージ鋼としては、例えば、日立金属社製、YAG250(商品名(組成:Fe−18Ni−8Co−5Mo−0.4Ti−0.1Al))、YAG300(商品名(組成:Fe−18Ni−9Co−5Mo−0.9Ti−0.1Al))、およびYAG350(商品名(組成:Fe−18Ni−12Co−4Mo−1.7Ti−0.1Al))が例示される。
さらに、上述のチタン合金としては、神戸製鋼所社製、TVC(商品名(組成:Ti−13V−11Cr−3Al))、およびJFEホールディング社製(旧 日本鋼管社製)、SP700(商品名(組成:Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Fe))が例示される。
ただし、飛距離や打感等、良好な打撃性能のゴルフクラブを得るには、フェース部を構成する金属層の材質は、チタン合金であることが好ましい。本発明のゴルフクラブヘッドでは、フェース部を構成する金属層をチタン合金とした場合でも、高い耐久性能を実現できる。
また、本実施形態のFRP層は、強化繊維によりマトリクス樹脂を強化されたものである。この強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、および窒化珪素繊維などの無機繊維、アラミド繊維、ポリアリレ−ト繊維、ポリエチレン繊維、およびポリエステル繊維などの有機繊維、またはチタン繊維、アモルファス繊維、およびステンレス鋼繊維などの金属繊維が例示される。また、強化繊維としては、先の例示したものの中から、複数種を選択し、それを強化繊維として用いてもよい。また、強化繊維の配向については、特に限定されるものではく、一方向に整列して配置するか、またはクロス(織布)の状態で使用してもよい。更に、これらの強化繊維またはクロスが1または複数(層)重ねて設けられたものであっても、本発明においては、1層のFRP層とする。
また、マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、およびフェノール樹脂などの熱硬化性マトリクス樹脂が例示される。
なお、マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。このマトリクス樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂(ビスフェノールA、F、S系エポキシ樹脂、ノボラック系エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA系エポキシ樹脂)、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンまたはトリグリシジル−p−アミノフェノールなどのグリシジルアミン系エポキシ樹脂、および複素環式エポキシ樹脂が例示される。さらに、マトリクス樹脂としては、これらの他種々のエポキシ樹脂から選択される1種又は複数種を使用することもできる。本実施形態におけるマトリクス樹脂としては、特に、ビスフェノールA、F、Sグリシジルアミン系エポキシ樹脂が好適である。
また、硬化剤としては、アミン系硬化剤、例えば、ジシアンジアミド(DICY)、ジアミノジフェニルスルフォン(DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM);酸無水物系、例えばヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(MHHPA)などが例示される。硬化剤としては、特に、アミン系硬化剤を好適に使用することができる。
なお、プリプレグ強化繊維としては、例えば、東レ社製のP3251S−15(商品名) UDプリプレグ、または東レ社製のF6343B−05P(商品名) クロスプリプレグなど、予め、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸された製品を用いてもよい。
なお、接着剤としては、プリプレグのマトリクス樹脂との相溶性の高いものを使用することが好ましい。例えば、ヘンケル社製の9432NA(商品名)、E60HP(商品名)、E30HP(商品名)が例示される。なお、接着剤の接着層の厚さは、0.03〜1.0mmとすることが好ましい。
さらに、本発明のゴルフクラブヘッドにおけるフェース部22は、金属層と強化繊維プリプレグとの境界に樹脂フィルムを設け、この樹脂フィルムによって、金属層と強化繊維プリプレグとを接合してもよい。
また、樹脂フィルムとしては、例えば、ポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、変性ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチルセルロース樹脂、および酢酸セルロース樹脂などの熱可塑性樹脂フィルムが例示される。
なお、この樹脂フィルムは、プリプレグのマトリクス樹脂との相溶性の高いものを使用することが好ましい。例えば、マトリクス樹脂にエポキシ系樹脂などを使用した場合には、樹脂フィルムとしては、ポリウレタン樹脂、変性ナイロン樹脂フィルムなどが好適である。この樹脂フィルムの厚さは、0.03〜1.0mmとすることが好ましい。
本発明のゴルフクラブヘッドにおいては、フェース部22のフェース面23の重心位置における厚みは、3.0〜5.0mmであることが好ましい。
本発明のゴルフクラブヘッドは、2008年に予定されているルール改正に合わせ、フェース面の反発係数を0.77〜0.83の範囲とすることが好ましい。本発明では、中空ゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブヘッドのいずれの場合においても、フェース部を支持する支持体の構造(形状や厚み)や接合方法などを、従来から大きく変更することなく、ゴルフクラブヘッドの耐久性を向上させている。このため、本発明のゴルフクラブヘッドは設計の自由度が高く、限られた反発係数の条件の下、高い耐久性を実現するとともに、打ち出したゴルフボールのスピン量やゴルフボールの打ち出し角を最適化する種々のゴルフクラブを、幅広く設計することができる。
本発明は、基本的に以上のようなものである。以上、本発明のゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
以下、本発明のゴルフクラブの実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。本実施例においては、まず、下記表1に示す複数の中空ゴルフクラブヘッド(実施例1〜実施例17および比較例1〜比較例4)について、耐久性、飛距離、打球感を評価項目として、評価を行なった。表1には、各項目の評価結果を併せて示している。下記表1に示す各評価項目のうち、耐久性、飛距離、および打球感については、比較例1を基準(100)として、その相対的な数値で評価した。そして、各ゴルフクラブヘッドについて、耐久性、飛距離、および打球感それぞれの評価項目の値を合計した値を算出した。
なお、本実施例においては、横浜ゴム株式会社製 TRX−DUO M40(商品名)用のゴルフクラブシャフトを各ゴルフクラブヘッドに取り付けてゴルフクラブを作製し、以下に示す試験を行った。このゴルフクラブの長さは、45インチである。
また、本実施例の各試験は、特に断りがないかぎり、ゴルフボールには、横浜ゴム社製TRX(商品名)ボールを用いた。
下記表1に示す耐久性は、エアーキャノン試験機を用いて、ゴルフボールを50m/秒の速度で実施例および比較例の各ゴルフクラブヘッドのフェース部の中心部に衝突させて、破壊するまでの打球数を測定した。この場合、比較例1の破壊するまでの打球数を100として、各実施例および各比較例の強度を数値で表した。
下記表1に示す飛距離については、各実施例および比較例のゴルフクラブについて、ヘッドスピードが34m/秒〜50m/秒の範囲のアマチュアゴルファとプロゴルファとの合計100人の各人に各10球ずつ打撃して得られた平均値である。
下記表1に示す打感については、ヘッドスピードが34m/秒〜50m/秒の範囲のアマチュアゴルファとプロゴルファとの合計100人の各人に試打させて評価した。評価方法としては、各人に、実施例および他の比較例の打感を「金属音しすぎる」(3〜5)、「ちょうど良い」(−2〜2)、および「金属音しなさすぎる」(−3〜−5)で点数を付けてもらい、その平均値を求めて、各実施例および各比較例の打感を−5〜5の数値で評価した。
実施例1〜実施例17、および比較例1〜比較例4に示すゴルフクラブヘッドは、いずれも、中空ゴルフクラブヘッドであり、フェース部が金属層とFRP層との2層構造で、金属層の表面がゴルフボールを打撃するフェース面となっている。
実施例1〜17、および比較例1〜比較例4に示すゴルフクラブのうち、耐久性、飛距離、打球感それぞれの評価項目の合計値が最も大きい実施例1のゴルフクラブヘッドは、フェース部の金属層がTi合金(JFE製 SP700;Ti−4.5AL−3V−2Fe−2Mo)からなる。また、各実施に示すゴルフクラブヘッドの、クラウン部、ソール部、サイド部は、いずれも神戸製鋼社製、KS120(商品名)で構成されており、ネック部は純チタンである。
また、実施例1に示すゴルフクラブヘッドのフェース部のFRP層(繊維強化プラスチック層)は、東レ製 P2253F−17が、複数(計20層)積層されて構成されている。FRP層の積層構成は、{45/0/−45/90(60/−60)2}Sとなっている。実施例1に示すゴルフクラブヘッドは、距離Dおよび厚みWが、上記(1)式を満たしている。また、実施例1に示すゴルフクラブにおける溶接位置の、フェース面のクラウン部側の端部からの距離(離間量)は、金属層とFRP層との接合面と略平行で、この接合面からゴルフクラブの後部に向けて40mm離間した平面上の位置となっている。また、実施例1に示すゴルフククラブヘッドの2層構造のフェース部は、金属層とFRP層とがコキュア方式で接合されて構成されている。
なお、表1において、フェース中央部近辺の肉厚とは、上述した各ゴルフクラブヘッドのフェース面の重心位置における厚み(フェース面に垂直な方向の厚さ)である。実施例1のゴルフクラブヘッドは、フェース部22全体の厚さ(金属層の厚さと、FRP層の厚さとを合計した厚さ)Wは4.2mmである。また、金属層の厚さ(距離Dに対応)は0.8mmである。FRP層は、強化繊維層と接着剤層からなり、強化繊維層の厚さは3.2mm、接着剤層の厚さは0.2mmである。実施例1に示すゴルフクラブヘッドは、金属層の厚さ、すなわちフェース面から金属層とFRP層との接合面までの距離Dが、上記式(1)を満たす範囲内にある(図4(a)参照)。これに対して、比較例1に示すゴルフクラブヘッドでは、金属層の厚さは2.0mmであり、FRP層の厚さは2.2mmである(強化繊維層2.0mm+接着剤層0.2mm)。比較例1では、金属層の厚さとFRP層の厚さとは略同一となっている。比較例1に示すゴルフクラブヘッドでも、フェース部22全体の厚さWは4.2mmであり、実施例1のゴルフクラブヘッドと同等である。金属層の厚さとFRP層の厚さとが略同一であり、金属層とFRP層の接合面がフェース部の中立面近傍に位置する、比較例のゴルフクラブヘッドに比べて、金属層とFRP層の接合面が中立面近傍から離間している実施例1のゴルフクラブヘッドの方が、耐久性は高くなっている。また、比較例1のゴルフクラブヘッドに比べて、実施例1のゴルフクラブヘッドの方が、飛距離や打感の評価値も向上している。これは、実施例1のゴルフクラブヘッドの金属層の方が、比較例のゴルフクラブヘッドの金属層に比べて薄く、金属層が適度な厚さとなっているからである。同様に、比較例2,3,4も、実施例との差は歴然である。特に、比較例3は、金属層0.2と薄く打球感が悪い。
実施例2および実施例3に示す各ゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、金属層の厚さとFRP層の厚さとが異なっている。金属層の厚さ、FRP層の厚さ、および接着剤の厚さを合計したフェース部の総厚については、実施例2および実施例3に示す各ゴルフクラブヘッドは、全て実施例1に示すゴルフクラブヘッドと同様の厚さとなっている。
上記実施例1に示すゴルフクラブヘッド、および実施例2および実施例3に示すゴルフクラブヘッドは、金属層の厚さ、すなわちフェース面から金属層とFRP層との接合面までの距離Dが、上記式(1)を満たす範囲内にある(図4(a)参照)。比較例1に示すゴルフクラブヘッドに比べて、実施例2および実施例3に示すゴルフクラブヘッドでは、耐久性の評価値がいずれも向上している。なお、実施例1に示すゴルフクラブヘッド、実施例2および実施例3に示すゴルフクラブを比較してわかるように、距離Dが上記式(1)を満たす範囲内にある場合、フェース面から金属層とFRP層との接合面までの距離Dが、フェース部の中立面から離れるに従って、ゴルフクラブヘッドの耐久性は向上している。
なお、比較例3に示すゴルフクラブヘッドは、金属層の厚さが非常に薄く(0.2mm)、フェース面から金属層とFRP層との接合面までの距離Dが、上記式(1)を満たす範囲外となっている(図4(a)参照)。比較例3に示すゴルフクラブヘッドでは、耐久性の評価値は、比較例1に示すゴルフクラブヘッドに比べて向上しているが、充分ではない。また、打感の評価値については、比較例1に示すゴルフクラブヘッドに比べても、著しく低くなっている。
実施例4〜実施例7に示す各ゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、金属層の厚さとFRP層の厚さとが異なっている。金属層の厚さと、FRP層の厚さとを合計したフェース部の総厚Wについては、実施例4〜実施例7に示す各ゴルフクラブヘッドは、全て実施例1に示すゴルフクラブヘッドと同様の厚さとなっている。上記実施例1に示すゴルフクラブヘッド、および実施例6〜10に示すゴルフクラブヘッドは、金属層の厚さ、すなわちフェース面から金属層とFRP層との接合面までの距離Dが、上記式(2)を満たす範囲内にある(図4(b)参照)。比較例1に示すゴルフクラブヘッドに比べて、実施例4〜実施例7に示すゴルフクラブヘッドでは、耐久性の評価値がいずれも向上している。なお、実施例4〜実施例7に示すゴルフクラブの中では、耐久性の評価値は、実施例6に示すゴルフクラブヘッドが最も高くなっている。
なお、比較例2および4に示すゴルフクラブヘッドは、いずれも、金属層とFRP層の接合面がフェース部の中立面近傍に位置し、フェース面から金属層とFRP層との接合面までの距離Dが、上記式(1)を満たす範囲外となっている(図4(a)参照)。比較例2および4に示すゴルフクラブヘッドとも、耐久性、飛距離、打感のいずれについても、比較例1に示すゴルフクラブヘッドと略同等の低い値しか得られていない。
実施例8〜実施例17に示す各ゴルフクラブヘッドは、ゴルフクラブにおける溶接位置の、フェース面のクラウン部側の端部からの距離(離間量)が、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと異なっている。実施例8に示すゴルフクラブヘッドは、上記離間量が30mmであり、実施例9に示すゴルフクラブヘッドは、上記離間量が20mmであり、実施例10に示すゴルフクラブヘッドは、上記離間量が10mmである。実施例1に示すゴルフクラブヘッド、実施例8〜実施例10に示すゴルフクラブヘッドを比較してわかるように、離間量が小さくなる、すなわち、溶接部分がフェース面に近づくにしたがって、ゴルフクラブヘッドの耐久性の評価値は減少している。
実施例11および実施例12に示す各ゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、金属層の材質が異なっている。実施例11、実施例12に示すゴルフクラブヘッドは、フェース材質がいずれもマレージング鋼となっている。実施例1に示すゴルフクラブヘッドと実施例11に示すゴルフクラブヘッドとを比較してわかるように、金属層の材質がマレージング鋼である場合、金属層の材質がチタンである場合に比べて、耐久性の評価値が低い。また金属層の材質がマレージング鋼であると、金属層の材質がチタンである場合に比べて、特に、飛距離や打感の評価値が低下している。フェース部を構成する金属層の材質は、チタンであることが好ましい。
実施例13および実施例14に示す各ゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、FRP層の厚さ、およびフェース部の総厚が異なっている。金属層の厚さについては、実施例13および実施例14に示す各ゴルフクラブヘッドは、いずれも実施例1に示すゴルフクラブヘッドと同様の厚さとなっている。実施例13および実施例14に示すゴルフクラブヘッドは、いずれも金属層の厚さ、すなわちフェース面から金属層とFRP層との接合面までの距離Dが、上記式(1)を満たす範囲内にある(図4(a)参照)。実施例13に示すゴルフクラブヘッドは、フェース部の総厚が2.8mmと比較的薄い。実施例13に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、耐久性が著しく低くなっている。また、実施例14に示すゴルフクラブヘッドは、フェース部の総厚が5.2mmと比較的厚い。実施例14に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、飛距離や打感が著しく低くなっている。本発明のゴルフクラブヘッドにおいて、フェース部の総厚は、3.0mm〜5.0mmであることが好ましい。
実施例15に示すゴルフクラブヘッドは、マトリクス樹脂が硬化された後の、硬化済の板状の強化繊維層(FRP)が、接着剤や、接着剤が表面に積層された強化繊維プリプレグによって金属層に接合されて、2層構造のフェース部が構成されている点で、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと異なっている。このような実施例15に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、耐久性が著しく低くなっている。これは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比較して、チタンからなる金属層と強化繊維層との接合強度が比較的低いためである。ゴルフクラブヘッドが、コキュア方式によって作製されたものであるか、硬化済みの板状の強化繊維層(FRP)が金属層に接合されて作製されたものであるかの判断は、ヘッドを切断して拡大して観察するだけでも判断できるし、接合部の組織を分析すれば、硬化層が2層になっているか1層になっているかで判断できる。
実施例16に示すゴルフクラブヘッドは、金属層の厚さ、FRP層の厚さ、および、金属層とFRP層とを接合する接着剤層の厚さが、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと異なっている。実施例19に示すゴルフクラブヘッドは、金属層の厚さが0.5mm、FRP層の厚さが2.5mmであり、接着剤層の厚さが1.2mmとなっている。実施例16に示すゴルフクラブヘッドでは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、フェース部の総厚に対する接着剤層の厚さの割合は、比較的大きくなっている。このような、実施例16に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッド、また、比較例に示すゴルフクラブヘッドに比べても、耐久性が著しく低くなっている。
実施例17に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドとフェース面の面積が異なっている。実施例17に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比較して、耐久性がほぼ同等であるが、飛距離や打感の評価値については著しく低くなっている。フェース面の面積が大きい方が、飛距離や打感については向上するが、ゴルフクラブヘッドの耐久性は、相反して低くなることが一般的に知られている。本発明のゴルフクラブヘッドでは、フェース面の面積が例えば30cm2以上といった、フェース面の面積が比較的大きい中空ゴルフクラブヘッドであっても、高い耐久性能を実現している。
本実施例においては、また、下記表2に示す複数のアイアンゴルフクラブヘッド(実施例1〜実施例10、および比較例1〜比較例3)について、耐久性、飛距離、打球感を評価項目として、評価を行なった。表2には、各項目の評価結果を併せて示している。下記表2に示す各評価項目は、上記表1の場合と同様の測定条件によって得られた、上記表1と同様の数値である。実施例1〜実施例10、および比較例1〜比較例3に示すゴルフクラブヘッドはいずれも、フェース部が、2枚の金属層と、これら金属層に挟まれたFRP層とからなる3層構造となっている。
実施例1〜実施例10、および比較例1〜比較例3に示すゴルフクラブのうち、耐久性、飛距離それぞれの評価項目の合計値が最も大きい実施例1のゴルフクラブヘッドは、フェース部の金属層がTi合金(日立金属製;18Ni−9Cr−5MO−0.9Ti−0.1Al)からなる。また、各実施例に示すゴルフクラブヘッドの、ソール部、本体ブレード部は、いずれもSUS630(17Cr−4Ni−4Cu−0.15Nb)で構成されており、ネック部は純チタンである。また、実施例1に示すゴルフクラブヘッドのフェース部のFRP層(繊維強化プラスチック層)は、東レ製 P2253F−17が、複数(計20層)積層されて構成されている。FRP層の積層構成は、{45/0/−45/90(60/−60)2}Sとなっている。また、実施例1に示すゴルフクラブヘッドは、距離D1、距離D2、およびフェース部の総厚Wが、上記(3)式を満たしている。
実施例1のゴルフクラブヘッドは、フェース部22全体の厚さ(2つの金属層の厚さと、FRP層の厚さ、さらに接着剤層の厚さとを合計した厚さ)Wが4.2mmである。なお、フェース面を成す金属層(第1の金属層)の厚さ(距離D1に対応)は0.4mmであり、FRP層の厚さは3.4mmである。そして、FRP層の裏面の側に設けられた金属層(第2の金属層)の厚さは0.4mmである。FRP層は、強化繊維層と、この強化繊維層の両面に設けられた接着剤層とからなる。強化繊維層の厚さは3.2mmであり、両面の接着剤層の厚さはそれぞれ0.1mmで、両面で0.2mmとなっている。実施例1に示すゴルフクラブヘッドは、フェース面から第1の金属層とFRP層の接合面までの距離(第1の金属層の厚さ)D1、フェース面から、FRP層と第2の金属層との接合面までの距離(第2の金属層)D2が、それぞれ上記式(3)および式(4)を満たしている(図5参照)。
これに対して、比較例1に示すゴルフクラブヘッドでは、第1の金属層の厚さ、および第2の金属層の厚さは、ともに1.8mmであり、FRP層の厚さは0.6mmである。実施例1に示すゴルフクラブヘッドは、フェース面から第1の金属層とFRP層の接合面までの距離(第1の金属層の厚さ)D1、フェース面から、FRP層と第2の金属層との接合面までの距離D2は、いずれも、上記式(3)および式(4)を満たさない。比較例1に示すゴルフクラブヘッドでは、第1の金属層とFRP層の接合面と、FRP層と第2の金属層の接合面とが、ともにフェース部の中立面近傍に位置している。このような比較例のゴルフクラブヘッドに比べて、実施例1のゴルフクラブヘッドの方が、耐久性は高い。また、実施例1のゴルフクラブヘッドの金属層(第1の金属層および第2の金属層)の方が、比較例1のゴルフクラブヘッドの金属層に比べて薄く、金属層は適度な厚さをもっている。このため、比較例1のゴルフクラブヘッドに比べて、実施例1のゴルフクラブヘッドの方が、飛距離や打球感が向上している。
実施例2および実施例3に示す各ゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、金属層の厚さとFRP層の厚さ(詳しくは、強化繊維層の厚さ)とが異なっている。金属層の厚さとFRP層の厚さとを合計したフェース部の総厚については、実施例2および実施例3に示す各ゴルフクラブヘッドは、いずれも実施例1に示すゴルフクラブヘッドと同様の厚さとなっている。上記実施例1に示すゴルフクラブヘッド、および実施例2および実施例3に示すゴルフクラブヘッドでは、フェース面から第1の金属層とFRP層の接合面までの距離(第1の金属層の厚さ)D1、フェース面から、FRP層と第2の金属層との接合面までの距離D2は、いずれも、上記式(3)および式(4)を満たしている(図7参照)。比較例1に示すゴルフクラブヘッドに比べて、実施例2および実施例3に示すゴルフクラブヘッドでは、耐久性の評価値がいずれも向上している。なお、実施例1に示すゴルフクラブヘッド、実施例2および実施例3に示すゴルフクラブを比較してわかるように、距離D1と距離D2が、それぞれ上記式(3)と式(4)とを満たす範囲内にある場合、第1の金属層とFRP層の接合面、およびFRP層と第2の金属層との接合面が、フェース部の中立面から離れるに従って、ゴルフクラブヘッドの耐久性は向上している。
なお、比較例2に示すゴルフクラブヘッドは、いずれも、第1の金属層と第2の金属層の厚さが双方とも比較的厚く、距離D1と距離D2が、それぞれ上記式(3)と式(4)とを満たさない。比較例2に示すゴルフクラブヘッドでも、耐久性、飛距離、打感のいずれについても、比較例1に示すゴルフクラブヘッドと略同等の低い値しか得られていない。
また、比較例3に示すゴルフクラブヘッドは、第1の金属層と第2の金属層の厚さが双方とも非常に薄く(0.2mm)、距離D1と距離D2が、それぞれ上記式(3)と式(4)とを満たさない。比較例3に示すゴルフクラブヘッドでは、耐久性の評価値は、比較例1に示すゴルフクラブヘッドに比べて向上しているが、充分ではない。また、打感の評価値については、比較例1に示すゴルフクラブヘッドに比べても、著しく低くなっている。
実施例4および実施例5に示す各ゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、金属層の材質が異なっている。実施例4および実施例5に示すゴルフクラブヘッドは、フェース材質がいずれもマレージング鋼となっている。実施例1に示すゴルフクラブヘッドと実施例4および実施例5に示すゴルフクラブヘッドとを比較してわかるように、金属層の材質がマレージング鋼である場合、金属層の材質がチタンである場合に比べて、耐久性の評価値が低下する。また金属層の材質がマレージング鋼であると、金属層の材質がチタンである場合に比べて、特に、飛距離や打感の評価値が低下している。
実施例6および実施例7に示す各ゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、FRP層の厚さ、およびフェース部の総厚が異なっている。金属層の厚さについては、実施例6および実施例7に示す各ゴルフクラブヘッドは、いずれも実施例1に示すゴルフクラブヘッドと同様の厚さとなっている。実施例6に示すゴルフクラブヘッドは、フェース部の総厚が2.8mmと比較的薄い。実施例6に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、耐久性が著しく低くなっている。また、実施例7に示すゴルフクラブヘッドは、フェース部の総厚が5.2mmと比較的厚い。実施例7に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、飛距離や打球感が著しく低くなっている。フェース部の総厚は、3.0mm〜5.0mmであることが好ましい。
実施例8に示すゴルフクラブヘッドは、マトリクス樹脂が硬化された後の、フェース部を構成するFRP層が、一旦硬化された状態で金属層の裏面に接着されている点で、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと異なっている。このような実施例8に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、耐久性が著しく低くなっている。
実施例9に示すゴルフクラブヘッドは、金属層の厚さ、FRP層の厚さ、および、金属層とFRP層とを接合する接着剤層の厚さが、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと異なっている。実施例9に示すゴルフクラブヘッドは、第1の金属層の厚さおよび第2の金属層の厚さが、いずれも0.4mmであり、FRP層のうちの、強化繊維層の厚さが2.5mmであり、接着剤層の厚さが1.2mmとなっている。実施例9に示すゴルフクラブヘッドでは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比べて、フェース部の総厚に対する接着剤層の厚さの割合は、比較的大きくなっている。このような、実施例9に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッド、また、比較例に示すゴルフクラブヘッドに比べても、耐久性が著しく低くなっている。
実施例10に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドとフェース面の面積積が異なっている。実施例10に示すゴルフクラブヘッドは、実施例1に示すゴルフクラブヘッドと比較して、耐久性がほぼ同等であるが、飛距離や打感の評価値については著しく低くなっている。フェース面の面積が大きい方が、飛距離や打感については向上するが、ゴルフクラブヘッドの耐久性は、相反して低くなることが一般的に知られている。本発明のゴルフクラブヘッドでは、フェース面の面積が例えば25cm2以上といった、フェース面の面積が比較的大きいアイアンゴルフクラブヘッドであっても、高い耐久性能を実現している。