以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物は、必須成分として、アルカリ金属サリシレート及び/又はアルカリ土類金属サリシレートを含有する。
ここでいうアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属塩であることが好ましく、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩であることがより好ましい。アルカリ土類金属塩としては、例えば下記の一般式(1)で表されるものを挙げることができる。
上記一般式(1)中、Rは炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、Mはアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム及び/又はマグネシウムを示す。Rとしては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられ、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
また、アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性(正塩)アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、中性アルカリ土類金属サリシレートの存在下で、アルカリ土類金属の水酸化物と炭酸ガス又はホウ酸とを反応させることにより得られる過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
アルカリ金属サリシレートやアルカリ土類金属サリシレートは、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
本発明で用いるアルカリ金属サリシレートやアルカリ土類金属サリシレートの全塩基価は任意であるが、通常、全塩基価が500mgKOH/g以下、好ましくは30〜450mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。なおここでいう全塩基価は、JISK2501(1992)の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味している。
本発明におけるアルカリ金属サリシレート及び/又はアルカリ土類金属サリシレートの含有量は任意であるが、組成物全量基準、金属元素換算で0.005〜1.0質量%含有することが好ましい。0.005質量%に満たない場合には、酸価増加の抑制効果および不溶分生成の抑制効果が十分でない恐れがあり、同様の理由から0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらにより好ましく、0.10質量%以上であることが最も好ましい。一方、1.0質量%を越える場合には、燃焼室デポジットの生成に起因するエンジントラブル発生の恐れがあり、同様の理由から0.80質量%以下であることがより好ましく、0.60質量%以下であることがさらにより好ましい。
本発明の潤滑油組成物は、アルカリ金属サリシレート及び/又はアルカリ土類金属サリシレートを含有するものであり、かつ金属系清浄分散剤の含有量の総量が、組成物全量基準、金属元素換算で0.30〜1.0質量%である。
ここでいう金属系清浄分散剤とは、上記アルカリ金属サリシレート及び/又はアルカリ土類金属サリシレートの他に、アルカリ金属スルホネート及び/又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート及び/又はアルカリ土類金属フェネート等が挙げられる。
アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩であり、カルシウム塩が好ましく用いられる。
上記アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が挙げられ、例えば下記の一般式(2)〜(4)で表される化合物を挙げることができる。
上記一般式(2)〜(4)中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、M1、M2及びM3は、それぞれ個別に、アルカリ土類金属、好ましくはカルシウム及び/又はマグネシウムを示し、xは1又は2を示す。
上式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6としては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられ、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
また、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネートとしては、上記のアルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性(正塩)アルカリ土類金属スルホネート、中性(正塩)アルカリ土類金属フェネートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属フェネートや、中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネートの存在下で、アルカリ土類金属の水酸化物と炭酸ガス又はホウ酸とを反応させることにより得られる過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属フェネートも含まれる。
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
本発明で用いる金属系清浄剤の全塩基価は任意であるが、通常、全塩基価が500mgKOH/g以下、好ましくは30〜450mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。なおここでいう全塩基価は、JISK2501(1992)の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味している。
本発明における金属系清浄剤の含有量は、組成物全量基準、金属元素換算で0.30〜1.0質量%である。0.30質量%に満たない場合には、酸価増加の抑制効果および不溶分生成の抑制効果が十分でない恐れがあり、同様の理由から0.40質量%以上であることがより好ましく、0.50質量%以上であることがさらにより好ましい。一方、1.0質量%を越える場合には、燃焼室デポジットの生成に起因するエンジントラブル発生の恐れがあり、同様の理由から0.80質量%以下であることがより好ましく、0.60質量%以下であることがさらにより好ましい。なお、ここでいう金属系清浄剤の含有量とは、上記したアルカリ金属サリシレート及び/又はアルカリ土類金属サリシレートを含めた金属系清浄剤全量を示す。
本発明の潤滑油組成物は、アルカリ金属サリシレート及び/又はアルカリ土類金属サリシレートを含有し、かつ金属系清浄剤を特定量含有するものであり、基油やその他の成分は任意である。
本発明の潤滑油組成物に使用される基油としては、鉱油、合成油又はそれらの混合油を用いることができ、特に限定されるものではなく、通常潤滑油組成物の基油として用いられているものであれば、鉱油、合成油を問わず使用できる。
鉱油系基油を例示すれば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を1種または2種以上を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の鉱油系潤滑油基油やノルマルパラフィン等が挙げられる。
また、合成系基油を例示すれば、ポリ−α−オレフィン(ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
本発明において潤滑油基油は、2種類以上の鉱油系基油、又は2種類以上の合成油系基油の混合物であって差し支えなく、鉱油系基油と合成油系基油の混合物であっても差し支えない。そして、上記混合物における2種類以上の基油の混合比は、任意に選ぶことができる。
本発明におけるこれら潤滑油基油は、その動粘度に格別の限定はないが、100℃における動粘度の下限値は1mm2/s、好ましくは2mm2/sであり、一方、100℃における動粘度の上限値は20mm2/sであることが望ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度を1mm2/s以上とすることによって、油膜形成が十分であり、潤滑性により優れ、また、高温条件下での基油の蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。
また、本発明におけるこれら潤滑油基油は、その粘度指数に格別の限定はないが、粘度指数は80以上、好ましくは90以上、特に好ましくは110以上であることが望ましい。粘度指数を80以上とすることによって、長期間使用後の摩耗防止性に優れた組成物を得ることができる。
本発明の潤滑油組成物は、エンジン各部の摩耗を防止する観点から、リン系添加剤をさらに含有することが好ましい。
ここでいうリン系添加剤としては、硫黄を含有しないリン系極圧剤や、硫黄を含有するリン−硫黄系極圧剤が挙げられる。
リン系極圧剤としては、リン酸、亜リン酸、リン酸エステル類(リン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類及びリン酸トリエステル類を含む)、亜リン酸エステル類(亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類及び亜リン酸トリエステル類を含む)、及びこれらの塩(アミン塩又は金属塩)が挙げられる。リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類としては、通常炭素数2〜30、好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基を有するものが用いられる。
また、リン−硫黄系極圧剤としては、チオリン酸、チオ亜リン酸、チオリン酸エステル類(チオリン酸モノエステル類、チオリン酸ジエステル類、チオリン酸トリエステル類を含む)、チオ亜リン酸エステル類(チオ亜リン酸モノエステル類、チオ亜リン酸ジエステル類、チオ亜リン酸トリエステル類を含む)、及びこれらの塩、並びにジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。チオリン酸エステル類及びチオ亜リン酸エステル類としては、通常炭素数2〜30、好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基を有するものが用いられる。
上記の極圧剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
本発明では、上記の極圧剤の中でもジチオリン酸亜鉛が特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛としては、例えば下記一般式(5)で表される化合物を例示できる。
上記一般式(5)中のR7、R8、R9及びR10は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、及び炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
R7、R8、R9及びR10としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基及びテトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基及びオレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基及びテトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基及びシクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基及びプロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基及びナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基及びドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基及びジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基等が例示できる。なお、上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法は特に限定されず、任意の従来方法を採用して製造することができる。具体的には、例えば、上記式(5)中のR7、R8、R9及びR10に対応する炭化水素基を有するアルコール又はフェノールを五硫化ニリンと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成できる。なお、使用する原料アルコール等によって、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は異なる。
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、排ガス浄化装置の触媒被毒を抑制する点から、組成物全量を基準として、リン元素換算量で、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.08質量%以下、特に好ましくは0.06質量%以下である。また、ジチオリン酸亜鉛の含有量は、耐摩耗性向上効果の点から、組成物全量を基準として、リン元素換算量で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上である。
本発明の潤滑油組成物は、酸化劣化を抑制する観点から、フェノール系酸化防止剤をさらに含有することが好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシフェニル基置換脂肪酸と炭素数4〜12のアルコールとのエステルであるヒドロキシフェニル基置換エステル系酸化防止剤(オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等)及びビスフェノール系酸化防止剤が好ましく、ヒドロキシフェニル基置換エステル系酸化防止剤がより好ましい。また、分子量が240以上のフェノール系化合物は、分解温度が高く、より高温条件においてもその効果が発揮されるため、好ましい。
フェノール系酸化防止剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。その含有量が0.01質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、フェノール系酸化防止剤の含有量が5質量%を超える場合、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
また、本発明の潤滑油組成物としては、酸化劣化を抑制する観点から、アミン系酸化防止剤をさらに含有することが好ましい。
アミン系酸化防止剤としては、具体的には、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。これらのアミン系酸化防止剤が有するアルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分枝のアルキル基が好ましく、炭素数4〜12の直鎖又は分枝のアルキル基がより好ましい。
アミン系酸化防止剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。その含有量が0.01質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、アミン系酸化防止剤の含有量が5質量%を超える場合、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。なお、アミン系酸化防止剤は不溶分生成の原因となる場合があり、このような場合はアミン系酸化防止剤は含有しないことが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物は、摩耗防止の観点から、無灰硫黄系化合物を含有することが好ましい。
無灰硫黄系化合物としては、硫化油脂、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリスルフィド、ジチオカーバメート類、チアジアゾール類、及び硫黄を構成元素として含有するフェノール系無灰酸化防止剤などが好適である。
硫化油脂としては、例えば、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などの油;硫化オレイン酸などの二硫化脂肪酸;及び硫化オレイン酸メチルなどの硫化エステルを挙げることができる。
硫化オレフィンとしては、例えば下記一般式(6)で示される化合物を挙げることができる。
R11 ― Sx ― R12 (6)
一般式(6)において、R11は炭素数2〜15のアルケニル基を示し、R12は炭素数2〜15のアルキル基またはアルケニル基を示し、xは1〜8の整数を示す。
上記一般式(6)で示される化合物は、炭素数2〜15のオレフィン又はその2〜4量体を硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得ることができる。オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましく用いられる。
ジヒドロカルビルポリスルフィドは、下記一般式(7)で示される化合物である。
R13 ― Sy ― R14 (7)
一般式(7)において、R13及びR14は、それぞれ個別に、炭素数1〜20のアルキル基(シクロアルキル基も含む)、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、yは2〜8の整数を示す。
上記R13及びR14の例としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、及びフェネチル基などを挙げることができる。
ジヒドロカルビルポリスルフィドの例の好ましいものとしては、具体的には、ジベンジルポリスルフィド、ジ−tert−ノニルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、ジ−tert−ブチルポリスルフィド、ジオクチルポリスルフィド、ジフェニルポリスルフィド、及びジシクロヘキシルポリスルフィドなどが挙げられる。
ジチオカーバメート類としては、下記一般式(8)又は(9)で示される化合物が好ましい具体例として挙げられる。
一般式(8)及び(9)において、R15、R16、R17、R18、R19及びR20はそれぞれ個別に、炭素数1〜30、好ましくは1〜20の炭化水素基を示し、R21は水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基、好ましくは水素原子又は1〜20の炭化水素基を示し、eは0〜4の整数を、fは0〜6の整数を示す。
上記炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
チアジアゾール類としては、例えば、下記一般式(10)で示される1,3,4−チアジアゾール化合物、一般式(11)で示される1,2,4−チアジアゾール化合物及び一般式(12)で示される1,4,5−チアジアゾール化合物を挙げることができる。
一般式(10)〜(12)において、R22、R23、R24、R25、R26及びR27は、各々同一でも異なっていてもよく、それぞれ個別に、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、g、h、i、j、k、及びlは、それぞれ個別に、0〜8の整数を表す。
上記炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
また、硫黄を構成元素として含むフェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
上記の中でも、より優れた熱・酸化安定性が得られる点から、ジヒドロカルビルポリスルフィド、ジチオカーバメート類及びチアジアゾール類が好ましく用いられる。
本発明において、無灰硫黄系化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、硫黄元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.04質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、0.2質量%を超える場合、潤滑油組成物の高硫黄化による排ガス浄化装置への悪影響が大きくなる傾向にある。
また、本発明の潤滑油組成物は、酸化劣化を抑制し、また摩耗を防止する観点から、有機モリブデン化合物を含有することが好ましい。
有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の有機モリブデン錯体が挙げられる。
モリブデンジチオホスフェートとしては、具体的には例えば、下記一般式(13)で表される化合物が挙げられる。
上記一般式(13)中、R28、R29、R30及びR31は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基、又は炭素数6〜18、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ個別に、硫黄原子または酸素原子を示す。
アルキル基として好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。
(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる、全ての置換異性体が含まれる。
好ましいモリブデンジチオホスフェートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオホスフェートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/または構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
モリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には例えば、下記一般式(14)で表される化合物を用いることができる。
上記一般式(14)中、R32、R33、R34及びR35は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基、又は炭素数6〜24、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY5、Y6、Y7及びY8は、それぞれ個別に、硫黄原子または酸素原子を示す。
アルキル基として好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。
(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる、全ての置換異性体が含まれる。また、上記構造以外のモリブデンジチオカーバメートとしては、WO98/26030あるいはWO99/31113に開示されるようなチオ又はポリチオ−三核モリブデンにジチオカーバメート基が配位した構造を有するもの等が挙げられる。
好ましいモリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/または構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
また、これら以外の硫黄を含有する有機モリブデン錯体としては、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
本発明において硫黄を構成元素として含む有機モリブデン化合物を用いると、熱・酸化安定性の向上効果に加えて摩擦低減効果を得ることができるので好ましく、中でもモリブデンジチオカーバメートが特に好ましい。
本発明において、有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.04質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
また、本発明の潤滑油組成物は、清浄性及びスラッジ分散性の点から、無灰分散剤を更に含有することが好ましい。かかる無灰分散剤としては、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド及びそれらの誘導体が挙げられる。代表的なコハク酸イミドは、高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基で置換されたコハク酸無水物と、1分子当り平均4〜10個(好ましくは5〜7個)の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基は、数平均分子量が700〜5000のポリブテン(ポリイソブテン)であることが好ましく、数平均分子量が900〜3000のポリブテン(ポリイソブテン)であることがより好ましい。
本発明の潤滑油組成物において好ましく用いられるポリブテニルコハク酸イミドとしては、例えば、下記一般式(15)又は(16)で表される化合物が挙げられる。
一般式(15)又は(16)におけるPIBはポリブテニル基を示し、高純度イソブテンあるいは1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒あるいは塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られるポリブテンから得られるものであり、ポリブテン混合物中において末端にビニリデン構造を有するものが通常5〜100mol%含有される。また、スラッジ抑制効果に優れる点からnは2〜5の整数、好ましくは3〜4の整数であることが望ましい。
一般式(15)又は(16)で表されるコハク酸イミドの製造法としては特に制限はないが、例えば、上記ポリブテンを塩素化したもの、好ましくは上記高純度イソブテンをフッ化ホウ素系触媒で重合させた高反応性ポリブテン(ポリイソブテン)、より好ましくは塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンを無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。なお、ビスコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸をポリアミンの2倍量(モル比)反応させれば良く、モノコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸とポリアミンを等量(モル比)で反応させれば良い。これらの中では、スラッジ分散性に優れる点から、ポリブテニルビスコハク酸イミドであることが好ましい。
なお、上記製造法において用いられるポリブテンには、製造過程の触媒に起因する微量のフッ素分や塩素分が残留し得るので、吸着法や十分な水洗等の適切な方法によりフッ素分や塩素分が十分除去されたポリブテンを用いることが好ましい。フッ素や塩素の含有量としては、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、更に好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下である。
また、ポリブテンと無水マレインとの反応によりポリブテニルコハク酸無水物を得る工程では、従来、塩素を用いる塩素化法が適用されることが多い。しかし、この方法では、コハク酸イミド最終製品中に多量の塩素(例えば、約2000〜3000質量ppm)が残留する結果となる。一方、塩素を用いない方法、例えば上記高反応性ポリブテンを用いた場合及び/又は熱反応法では、最終製品中に残る塩素を極めて低いレベル(例えば、0〜30質量ppm)に抑えることができる。従って、潤滑油組成物中の塩素含有量を0〜30質量ppmの範囲の量に抑えるためには、上記塩素化法を用いず、上記高反応性ポリブテンを用いる方法及び/又は熱反応法によって得られたポリブテニルコハク酸無水物を用いることが好ましい。
また、ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記一般式(15)又は(16)で表される化合物に、ホウ酸等のホウ素化合物や、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸等の含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和又はアミド化した、いわゆる変性コハク酸イミドとして用いることができる。特に、ホウ酸等のホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)コハク酸イミドは、熱・酸化安定性の面で有利である。
一般式(15)又は(16)で表される化合物に作用させるホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル類等が挙げられる。ホウ酸としては、具体的には例えばオルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸等が挙げられる。ホウ酸塩としては、ホウ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、より具体的には、例えばメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム、過ホウ酸リチウム等のホウ酸リチウム;メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のホウ酸ナトリウム;メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム;メタホウ酸カルシウム、二ホウ酸カルシウム、四ホウ酸三カルシウム、四ホウ酸五カルシウム、六ホウ酸カルシウム等のホウ酸カルシウム;メタホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム、六ホウ酸マグネシウム等のホウ酸マグネシウム;及びメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル等が挙げられ、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。上記ホウ素化合物を作用させたコハク酸イミド誘導体は、耐熱性、酸化安定性に優れることから好ましく用いられる。
また、一般式(15)又は(16)で表される化合物に作用させる含酸素有機化合物としては、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる。このような含酸素有機化合物を作用させることで、例えば、一般式(15)又は(16)で表される化合物におけるアミノ基又はイミノ基の一部又は全部が次の一般式(17)で示す構造になると推定される。
上記一般式(17)中のR36は、水素原子、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアルケニル基、炭素数1〜24アルコキシ基、又は−O−(R37O)mHで表されるヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレン基を示し、R37は炭素数1〜4のアルキレン基、mは1〜5の整数を示す。これらの中ではアミノ基又はイミノ基の全てにこれら含酸素有機化合物を作用させたものを主成分とするポリブテニルビスコハク酸イミドがスラッジ分散性に優れるため好ましく用いられる。そのような化合物は、例えば、(15)式の化合物1モルに対し(n−1)モルの含酸素有機化合物を作用させることで得られる。このような含酸素有機化合物を作用させたコハク酸イミド誘導体は、スラッジ分散性に優れ、特にヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたものが好ましい。
本発明で用いられる無灰分散剤としてのポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の重量平均分子量は、好ましくは5000以上、より好ましくは6500以上、更に好ましくは7000以上、特に好ましくは8000以上である。重量平均分子量が5000未満では、非極性基のポリブテニル基の分子量が小さくスラッジの分散性に劣り、また、酸化劣化の活性点となる恐れのある極性基のアミン部分が相対的に多くなって酸化安定性に劣るため、本願発明のような長寿命化効果は得られないと考えられる。一方、低温粘度特性の悪化を防止する観点から、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の重量平均分子量は、20000以下であることが好ましく、15000以下であることが特に好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ウォーターズ社製の150−CALC/GPC装置に東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
なお、本発明では、無灰分散剤として、上記のコハク酸イミド及び/又はその誘導体の他、下記一般式(18)で表されるアルキル又はアルケニルベンジルアミン、下記一般式(19)で表されるアルキル又はアルケニルポリアミン、アルキル又はアルケニルコハク酸エステル、マンニッヒ塩基及びこれらの誘導体等を使用することができる。
上記一般式(18)および(19)において、R38およびR39は、それぞれ炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、pおよびrは、それぞれ1〜5の整数を示す。
本発明の潤滑油組成物における無灰分散剤の含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.015質量%以下である。無灰分散剤の含有量が0.005質量%に満たない場合は、十分な清浄性効果が発揮できず、一方、その含有量が0.3質量%を超える場合は、低温粘度特性の悪化及び抗乳化性が悪化するためそれぞれ好ましくない。なお、重量平均分子量が6500以上のコハク酸イミド系無灰分散剤を使用する場合、十分なスラッジ分散性を発揮し、低温粘度特性に優れる点で、その含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、0.005〜0.05質量%とすることが好ましく、0.01〜0.04質量%とすることがより好ましい。
また、高分子量の無灰分散剤を用いる場合、その含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。高分子量の無灰分散剤の含有量が0.005質量%に満たない場合は、十分な清浄性効果が発揮できず、一方、その含有量が0.1質量%を超える場合は、低温粘度特性の悪化及び抗乳化性が悪化するためそれぞれ好ましくない。
また、ホウ素化合物で変性された無灰分散剤を用いる場合、その含有量は、組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。ホウ素化合物で変性された無灰分散剤の含有量が0.005質量%に満たない場合は、十分な清浄性効果が発揮できず、一方、その含有量が0.2質量%を超える場合は、低温粘度特性の悪化及び抗乳化性が悪化するためそれぞれ好ましくない。
また、本発明の潤滑油組成物は、その摩擦特性を更に改善できる点から、無灰摩擦調整剤を含有することが好ましい。無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。
本発明の潤滑油組成物における無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また3質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
また、本発明の潤滑油組成物は、粘度−温度特性を更に改善できる点から、粘度指数向上剤を含有することが好ましい。かかる粘度指数向上剤としては、非分散型又は分散型ポリメタクリレート類、分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられ、中でも重量平均分子量が50,000以下、好ましくは40,000以下、最も好ましくは10,000〜35,000の非分散型粘度指数向上剤及び/または分散型粘度指数向上剤が好ましく用いられる。
非分散型粘度指数向上剤としては、具体的には、下記一般式(20)、(21)及び(22)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(以下、「モノマー(M−1)」という)の単独重合体又はモノマー(M−1)の2種以上の共重合体あるいはその水素化物等が例示できる。
一方、分散型粘度指数向上剤としては、具体的には、下記一般式(23)及び(24)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(以下、「モノマー(M−2)」という)の2種以上の共重合体又はその水素化物に酸素含有基を導入したものや、一般式(20)〜(22)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(M−1)の1種又は2種以上と一般式(23)及び(24)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(M−2)の1種又は2種以上との共重合体、あるいはその水素化物等が例示できる。
上記一般式(20)中、R40は水素原子又はメチル基を示し、R41は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を示す。R41で表される炭素数1〜18のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基等(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)等が例示できる。
上記一般式(21)中、R42は水素原子又はメチル基を示し、R43は水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を示す。R43で表される炭素数1〜12の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(これらアルキル基のシクロアルキル基への置換位置は任意である);ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、二重結合の位置も任意である);フェニル基、ナフチル基等のアリール基:トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基等の炭素数7〜12のアルキルアリール基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である);ベンシル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);等が例示できる。
上記一般式(22)中、Z1及びZ2は、それぞれ個別に、水素原子、炭素数1〜18のアルコキシ基(−OR44:R44は炭素数1〜18のアルキル基)又は炭素数1〜18のモノアルキルアミノ基(−NHR45:R45は炭素数1〜18のアルキル基)を示す。
上記一般式(23)中、R46は水素原子又はメチル基を示し、R47は炭素数1〜18のアルキレン基を示し、E1は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1である。R47で表される炭素数1〜18のアルキレン基としては、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、及びオクタデシレン基等(これらアルキレン基は直鎖状でも分枝状でもよい)等が例示できる。また、E1で表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等が例示できる。
上記一般式(24)中、R48は水素原子又はメチル基を示し、E2は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。E2で表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等が例示できる。
モノマー(M−1)の好ましい例としては、具体的には、炭素数1〜18のアルキルアクリレート、炭素数1〜18のアルキルメタクリレート、炭素数2〜20のオレフィン、スチレン、メチルスチレン、無水マレイン酸エステル、無水マレイン酸アミド及びこれらの混合物等が例示できる。
モノマー(M−2)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
なお、上記(M−1)化合物の中から選ばれる1種又は2種以上のモノマーと(M−2)化合物の中から選ばれる1種又は2種以上のモノマーとの共重合体の共重合モル比は、一般に、モノマー(M−1):モノマー(M−2)=80:20〜95:5程度である。またその製法も任意であるが、通常、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下でモノマー(M−1)とモノマー(M−2)をラジカル溶液重合させることにより容易に共重合体が得られる。
上述した粘度指数向上剤の中でも、低温流動性により優れる点から、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤が好ましい。
本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤の配合量は、組成物全量基準で、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。粘度指数向上剤の含有量が0.1質量%未満の場合、その添加による粘度−温度特性の改善効果が不十分となる傾向にあり、また、10質量%を超える場合、初期の極圧性を長期間維持しにくくなる傾向にある。
本発明の潤滑油組成物においては、その性能をさらに向上させる目的で、必要に応じて、上記添加剤の他にさらに、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤を単独で又は数種類組み合わせて配合しても良い。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
流動点降下剤としては、潤滑油基油の性状に応じて公知の流動点降下剤を任意に選択することができるが、重量平均分子量が50,000を超え150,000以下、好ましくは、80,000〜120,000のポリメタクリレートが好ましい。
消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で配合することができる。
着色剤としては、通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、また任意の量を配合することができる。
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、流動点降下剤では、0.05〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%、着色剤では0.001〜1.0質量%の範囲で通常選ばれる。
また、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、通常、4〜24mm2/sであるが、焼付きや磨耗を抑制する油膜厚さを保持する点、並びに撹拌抵抗の増加を抑制する点から、好ましくは5〜18mm2/s、より好ましくは6〜18mm2/s、さらに好ましくは7〜18mm2/sである。
本発明においては、DME燃料に、メタノールやエタノールなどのアルコール系燃料や、ガソリン、軽油、LPGなどの炭化水素系燃料を混合した燃料であっても良い。その混合比率は特に制限は無いが、燃料全量を基準をとして、DME燃料が3質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは全部がDME燃料の場合である。
上記の構成を有する本発明の潤滑油組成物は、ジメチルエーテル(DME)燃料エンジンに使用された際、試験後のエンジン油の不溶分生成量および酸価増加量が少なく、エンジントラブルの原因となるスラッジ・ワニスの生成を抑制効果に優れ、長時間にわたり使用可能である。