JP2006524204A - ラクトンの立体選択的な合成方法 - Google Patents

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Abstract

ビオチンの合成において中間体として使用することができるキラルなラクトンを立体選択的に合成するための方法が記載されている。本発明の方法は、環状meso−カルボン酸無水物がキラルなアルコールを用いて開環を伴ってジカルボン酸モノエステルに変換される反応順序を含む。環状meso−カルボン酸無水物およびキラルなアルコールから得られるジカルボン酸モノエステルに関して、反応はジアステレオ選択的に進行する。この反応は、ジカルボン酸モノエステルのジアステレオマー純度を改善する特定の触媒の存在下で行われる。

Description

発明の詳細な説明
本発明は、一般式(I)で表されるキラルなラクトンの立体選択的な合成方法に関する。
Figure 2006524204

(式中、Rは、ベンジル、α−フェニルエチル、アリル、1−フリル、2−フリル、1−チエニル、2−チエニルまたはp−メトキシベンジルである)
本方法は、環状カルボン酸無水物を特定の触媒の存在下においてキラルなアルコールによりジアステレオ選択的にエステル化することを含む。
本発明は、環状meso−カルボン酸無水物を、キラルなアルコールを用いて開環を伴ってジカルボン酸モノエステルに変換する反応順序に関する。環状meso−カルボン酸無水物およびキラルなアルコールから得られるジカルボン酸モノエステルに関し、反応はジアステレオ選択的に進行する。本発明による方法の好ましい実施形態において、ジカルボン酸モノエステルのエステル基は、ラクトンに再環化するヒドロキシカルボン酸を得るために、反応順序のさらなるステップにおいて選択的に還元される。環状meso−カルボン酸無水物から得られるラクトンに関し、その反応順序は完全にエナンチオ選択的に進行する。
キラルなアルコールを用いて環状meso−カルボン酸無水物からのラクトンのエナンチオ選択的合成が技術水準として知られている。
欧州特許出願公開第161580号明細書は、ビオチンの合成において中間体として使用することができるキラルなラクトンを製造するための方法を開示している。第1の反応ステップにおいて、cis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンが触媒の存在下で特定のキラルな第二級アルコールと反応させられる。第三級アミン、例えば、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、p−ジメチルアミノピリジン、または例えば、トリエチルアミンなどの低級アルキル残基を含有するトリアルキルアミンなどが好適な触媒として述べられている。これに続いて、形成されたジカルボン酸モノエステルのエステル基の選択的な還元がホウ化水素錯体(complex borohydride)を用いて行われ、形成されたヒドロキシカルボン酸がラクトンに再環化させられる。したがって、ラクトンは、選ばれた反応条件に依存して61.3%ee〜95.8%eeの光学純度での粗生成物として得られる。
例えば、95%の光学純度は、97.5%の所望のエナンチオマーに加えて、2.5%の所望でないエナンチオマーも存在することを意味する。最終生成物のこの不純物の結果として、欧州特許出願公開第161580号明細書に開示された方法は、一方では、所望される反応生成物の収量が所望でないエナンチオマーの含有量によって低下し、また他方では、反応生成物を事前の複雑な精製(再結晶、エナンチオマー分離など)を伴うことなくさらなる合成において使用することができないという欠点を有する。多段階のエナンチオ選択的な合成の場合、何らかのさらなる操作ステップには相当の費用が伴い、とりわけ、実際にこのことは常に全体的な収率のさらなる低下をもたらす。
欧州特許出願公開第161580号明細書に開示された方法のさらなる欠点は、それに開示された触媒(例えば、トリメチルアミンまたはDABCOなど)が水溶性であり、その結果、その回収が、複雑かつコストの高い分離手法によってのみ可能であるということである。
したがって、技術水準の方法を上回る利点を有する、ラクトンを環状カルボン酸無水物からエナンチオ選択的に合成するための方法が求められている。
この課題は特許請求項の主題によって達成される。
驚くべきことに、下記の一般式(II)で表される環状カルボン酸無水物を、
Figure 2006524204

(式中、Rは、ベンジル、α−フェニルエチル、アリル、1−フリル、2−フリル、1−チエニル、2−チエニルまたはp−メトキシベンジルである)
下記の一般式(III)で表されるキラルなアルコールを用いてエステル化するための方法におけるジアステレオ選択性は、
Figure 2006524204

(Rは、下記の一般式(IV a〜IV f)で表される残基であり、
Figure 2006524204

(式中、
は、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、C〜C−アルキルまたはC〜C−アルコキシであり、
は、水素、ヒドロキシル、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシまたはフェニルであり、
は、C〜C−シクロアルキル、塩素もしくはメチルによって置換されてもよいフェニル、ピリジル、ピロリル、チエニルまたはフリルであり、
は水素またはC〜C−アルキルであり、
はC〜C−アルキルまたはフェニルであり、
Aはイオウ原子またはメチレン基であり、qは、Aがイオウ原子であるときには整数1であり、あるいは、qは、Aがメチレン基であるときには1または2の整数であり、かつ
Bは、イオウ原子、−SO−またはメチレン基である)
この方法が
(a)環状カルボン酸無水物をキラルなアルコールと、下記の一般式(V)で表される触媒の存在下で接触させるステップが含まれるとき、改善され得ることが見出された。
Figure 2006524204

(式中、
Qは窒素またはリンであり、かつ
、RおよびR10はそれぞれが独立して、
(i)2つまでのメチレン基が酸素によって置換されてもよいC〜C18−アルキル、または
(ii)1つのメチレン基が酸素によって置換されてもよいフェニル−C〜C−アルキル、または
(iii)フェニル
であり、ただし、
基、R基およびR10基の1つがフェニルであるとき、他の2つの基はフェニルではなく、かつ
、RおよびR10はそれぞれがC〜C18−アルキルであるとき、これら3つの置換基の少なくとも1つ(R、RまたはR10)は少なくとも3個の炭素原子を含む)
本明細書において、用語「アルキル」は、そのもの自体または「アルコキシ」の一部として、直鎖または分岐であってよい。
好ましい実施形態において、R基、R基およびR10基はそれぞれが独立して、下記の意味を有する:C〜C16−アルキル、より好ましくは、例えば、n−プロピルまたはiso−プロピルなどのプロピル;例えば、n−ブチル、sec−ブチル、iso−ブチルまたはtert−ブチルなどのブチル;例えば、n−ペンチルまたはneo−ペンチルなどのペンチル;ヘキシル;ヘプチル;オクチル;ノニル;デシル;ウンデシル;ドデシル;トリデシル;テトラデシル;ペンタデシルまたはヘキサデシル。
本発明の好ましい実施形態において、R基、R基およびR10基における2つまでのメチレン基が独立して酸素によって置換されている。しかしながら、好ましくは、残基Qに直接に結合しているメチレン基が酸素によって置換されない。好ましくは、末端メチレン基もまた好ましくは、酸素原子によって置換されない。2つのメチレン基が酸素によって置換されているとき、基内の2つの酸素原子は、好ましくは、少なくとも1つのメチレン基によって互いに隔てられている。
、RまたはR10が、1つのメチレン基が酸素によって置換されるフェニル−C〜C−アルキルであるとき、基は、例えば、フェニル−C〜C−アルコキシであり得る。
環状カルボン酸無水物とキラルなアルコールとの反応では、基本的には下記の一般式(VI)および一般式(VII)で表される2つのジアステレオマー関係にある、遊離カルボン酸の形態またはそれらの塩の形態として存在し得る、ジカルボン酸モノエステルが生じる。
Figure 2006524204
一般式(VI)および一般式(VII)で表されるジカルボン酸モノエステルにおいて、Rは上記の意味を有し、Zは一般式(III)で表されるキラルなアルコールのエステル化された形態(すなわち、一般式RCH(CH)−で表される適切な基)であり、Yは、選ばれる反応手順に依存して、プロトン(H)、金属カチオン(metal cation)、または一般式(V)で表される触媒のプロトン化された第四級カチオン(HQ10)のいずれかである。
一般式(VI)で表されるジカルボン酸モノエステルにおけるYがプロトンであるとき、「ジカルボン酸モノエステル」は一般式(VI a)で表されるジカルボン酸モノエステルである;Yが金属カチオンであるとき、「ジカルボン酸モノエステル」は、一般式(VI b)で表される、ジカルボン酸モノエステルの適切な金属塩である;また、Yが一般式(V)で表される触媒のプロトン化された第四級カチオンであるとき、「ジカルボン酸モノエステル」は、一般式(VI c)で表される、ジカルボン酸モノエステルの適切な第四級のアンモニウム塩またはホスホニウム塩(以降、第四級アンモニウムジカルボン酸モノエステル、または第四級ホスホニウムジカルボン酸モノエステルをいう)である。
一般式(V)で表される触媒の使用によって、一般式(VI)で表されるジカルボン酸モノエステルは、一般式(VII)で表されるジカルボン酸モノエステルのジアステレオマー純度を上回る改善されたジアステレオマー純度で得られる。
本発明による方法の好ましい実施形態において、一般式(II)で表される環状カルボン酸無水物における置換基Rはベンジルである。すなわち、一般式(II)で表される環状カルボン酸無水物は好ましくはcis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンである。
一般式(III)で表されるキラルなアルコールが技術水準として知られている。例えば、欧州特許出願公開第161580号明細書を参照することができる。本発明による方法の好ましい実施形態において、一般式(III)で表されるキラルなアルコールにおける置換基Rは一般式(IV d)で表される残基である。さらに、一般式(IV d)で表される残基において、Rが水素またはヒドロキシルであり、Rが、塩素もしくはメチルによって置換されてもよいフェニルであるか、あるいはチエニルまたは2−フリルであることが特に好ましい。本発明による方法の特に好ましい実施形態において、キラルなアルコールは(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールである。本発明によれば、キラルなアルコールのエナンチオマー純度は好ましくは少なくとも90%eeであり、より好ましくは少なくとも98%eeであり、特に少なくとも99%eeである。
一般式(V)で表される触媒における置換基R、RおよびR10は、本発明による方法の好ましい実施形態において、それぞれが独立してC〜C12−アルキルである。本発明による方法のより好ましい実施形態において、一般式(V)で表される触媒は、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミンおよびトリブチルホスフィンからなる群から選択され、特に好ましくは、触媒は、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミンおよびトリブチルホスフィンからなる群から選択される。
一般式(V)で表される触媒の使用、特に、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミンまたはトリブチルホスフィンの使用は、エステル化の改善されたジアステレオ選択性に加えて、触媒が事実上水に不溶性であるというさらなる利点を有しており、このことはそれらの回収を簡単にし、したがって、プロセスの全体的なコストを低下させる。
環状カルボン酸無水物とキラルなアルコールとの触媒の存在下での反応は、好ましくは、不活性気体の雰囲気下で、例えば、窒素下またはアルゴン下で、好ましくは−50℃〜+60℃の温度で、特に−20℃〜+20℃の温度で行われる。
本発明による方法の好ましい実施形態において、キラルなアルコールに対して、0.8モル当量〜1.2モル当量、好ましくは0.9モル当量〜1.1モル当量、特に1モル当量の環状カルボン酸無水物が使用される。
本発明による方法において、使用される環状カルボン酸無水物に対して、好ましくは0.01モル当量〜1.5モル当量、特に0.95モル当量〜1.05モル当量または0.05モル当量〜0.2モル当量の触媒量の触媒が使用される。
環状カルボン酸無水物とキラルなアルコールとの反応は、好ましくは、不活性な無水有機溶媒中で行われる。溶媒として、特に、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソールおよびクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素;例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテル;例えば、モノグリム、ジグリムおよびトリグリムなどのポリエーテル;例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンおよび石油エーテルなどの炭化水素;例えば、塩化メチレンおよびクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;または、同様に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは二硫化炭素を挙げることができる。非極性溶媒、好ましくは芳香族炭化水素、特にトルエンが好ましい。例えば、トルエンなどの非極性溶媒は、反応条件に依存して、得られる一般式(VI)で表されるジカルボン酸モノエステルを一般式(VI a)で表される遊離ジカルボン酸モノエステルとして沈殿させることができ、その結果、高いジアステレオマー純度でそれを単離することができ、またこれを中間ステップとしてもよいという利点を有する。
本発明による方法の工程における環状カルボン酸無水物のキラルなアルコールによるエステル化によって得られる一般式(VI)で表されるジカルボン酸モノエステルは、一般式(I)で表されるラクトンに再変換することができる。この目的のために、本発明によれば、ラクトンに環化できるヒドロキシカルボン酸を得るため、ジカルボン酸モノエステルのエステル基が好適な選択的還元剤によって還元される。ジカルボン酸モノエステルのエステル基の選択的な還元はエステル化の直後に行うこともできるが、得られたジカルボン酸モノエステルを、これを選択的還元剤と反応させる前にまず単離することも可能である。単離は、一般式(V)で表される触媒との第四級アンモニウム塩または第四級ホスホニウム塩[一般式(VI c)で表される第四級アンモニウムジカルボン酸モノエステルまたは第四級ホスホニウムジカルボン酸モノエステル]を形成させた後で、あるいは、遊離酸[一般式(VI a)で表されるジカルボン酸モノエステル]を形成させた後で、あるいは、好ましくは、金属塩[一般式(VI b)で表されるジカルボン酸モノエステル金属塩]に変換した後で行うことができる。
好ましい実施形態において、本発明による方法は、遊離酸または一般式(VI c)で表される第四級アンモニウムジカルボン酸モノエステルもしくは第四級ホスホニウムジカルボン酸モノエステルをもたらす場合、ステップ(a)に加えて、ステップ(a)で得られるジカルボン酸モノエステルのこの形態を一般式(VI b)で表される金属塩に変換するステップ(b)を含む。
本発明のこの実施形態によれば、一般式(VI a)または一般式(VI c)で表される、遊離酸または第四級アンモニウムジカルボン酸モノエステルもしくは第四級ホスホニウムジカルボン酸モノエステルは、好ましくはアルカリ金属塩に変換され、より好ましくはリチウム塩に変換され、そして一般式(VI b)で表される下記のジカルボン酸モノエステル金属塩がそれにより得られる。
Figure 2006524204

(式中、Rは、ベンジル、α−フェニルエチル、アリル、1−フリル、2−フリル、1−チエニル、2−チエニルまたはp−メトキシベンジルであり、Zは一般式(III)で表されるキラルなアルコールのエステル化された形態(すなわち、一般式RCH(CH)−の適切な基)であり、Yはアルカリ金属カチオン、好ましくはLiである)。
本発明による方法の好ましい実施形態において、cis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンをステップ(a)において(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールと反応させ、得られたジカルボン酸モノエステルの遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩は、下記の式のリチウム塩に変換される。
Figure 2006524204
驚くべきことに、ジカルボン酸モノエステルの遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩の、金属塩への変換は、得られるジカルボン酸モノエステル金属塩が改善されたジアステレオマー純度で沈殿し得るという利点を有することが見出されている。したがって、沈殿物のジアステレオマー純度は、環状カルボン酸無水物とキラルなアルコールとの反応から直ちに得られ、かつ、反応条件に依存して、溶解または懸濁された形態(それにより、この場合、ジカルボン酸モノエステルの遊離カルボン酸官能基はすべてまたは一部が一般式(V)で表される触媒のプロトン化された第四級アンモニウム塩または第四級ホスホニウム塩の形態で存在し得る)で存在し得る反応生成物のジアステレオマー純度よりも高い。ジカルボン酸モノエステルが金属塩として沈殿させるならば、水と事実上混和しないかまたは非常にわずかしか混和しない非極性溶媒が好ましく、トルエンが特に好ましい。
ジカルボン酸モノエステルの遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩の、金属塩への変換は、例えば、ジカルボン酸モノエステルの遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩に対応する金属水酸化物と接触させることによって達成することができる。好適な金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムであり、そのなかでも、水酸化リチウムが特に好ましい。
反応温度は好ましくは10℃〜60℃であり、より好ましくは20℃〜50℃である。ジカルボン酸モノエステルに対して、好ましくは1モル当量〜2モル当量、より好ましくは1モル当量〜1.5モル当量、特に1.01モル当量〜1.3モル当量の金属水酸化物が添加される。金属水酸化物は好ましくは水溶液で添加され、水溶液の濃度は好ましくは0.1mol/l〜4mol/lであり、より好ましくは0.3mol/l〜1.5mol/lである。
本発明による方法の好ましい実施形態において、本発明の方法は、ステップ(a)に加えて、または、ステップ(a)およびステップ(b)に加えて、ステップ(a)で得られるジカルボン酸モノエステル(遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩であっても)、またはステップ(b)で得られるジカルボン酸モノエステル金属塩を、エステル基に対して選択的である還元剤と接触させるステップ(c)を含む。
エステル基を選択的に還元し、しかし、遊離カルボキシル基またはその金属塩もしくは第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩の形態を還元しない還元剤が当業者には知られている。例えば、H.C.Brownら、Acc.Chem.Res.25、17(1992)および、V.K.Singh、Synthesis、605(1992)を参照することができる。本発明によれば、選択的還元剤は、好ましくは、ホウ化水素錯体(complex borohydride)であり、例えば、LiBH、NaBHまたはKBHなどであり、特にLiBHである。
驚くべきことに、ステップ(b)におけるジカルボン酸モノエステルの遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩の、金属塩への変換の後では、ステップ(c)における選択的還元剤(特にLiBH)の要求量を著しく低下させることができることが見出されている。さらには、驚くべきことに、ジカルボン酸モノエステルの遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩の、リチウム塩への変換の後では、反応生成物(すなわち、一般式(I)で表されるラクトン)の収量が、特にLiBHを還元剤として使用したとき、使用された選択的還元剤の量の減少にもかかわらず増大することが見出されている。
ジカルボン酸モノエステルの還元はその場で行うことができ、または、その単離の後でもまた行うことができる。選ばれる反応条件に依存して、一般式(VI)で表されるジカルボン酸モノエステルは一般式(VI a)で表されるプロトン化された形態で存在するか、または、一般式(VI c)で表される第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩(この場合、第四級アンモニウム基もしくは第四級ホスホニウム基は一般式(V)で表される触媒に由来する)として存在するか、または、一般式(VI b)で表される金属塩(これはステップ(b)において形成される)として存在する。本発明による方法の好ましい実施形態において、ジカルボン酸モノエステルの遊離カルボン酸官能基は、選択的還元剤との反応に先立って、金属塩に変換される[ステップ(b)]。
還元は好ましくは、不活性な気体の雰囲気下で、例えば、窒素下またはアルゴン下で、好ましくは、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、またはグリコールもしくはジエチレングリコールのエーテル(例えば、ジグリム)などのエーテルなどの不活性な有機溶媒で行われる。
反応温度は好ましくは0℃〜60℃であり、より好ましくは30℃〜45℃である。
本発明による方法がステップ(a)およびステップ(c)を含み、ステップ(b)(すなわち、中間体金属塩の形成)を含まないとき、好ましくは2モル当量〜3モル当量、より好ましくは2.2モル当量〜2.6モル当量の選択的還元剤が、ジカルボン酸モノエステル(遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩)のモル量に対して添加される。本発明による方法が、ステップ(a)、ステップ(b)およびステップ(c)を含むとき、好ましくは1モル当量〜2モル当量、より好ましくは1.1モル当量〜1.5モル当量の選択的還元剤が添加される。
選択的還元剤は、好ましくは、溶媒としての不活性なエーテル中に添加され、この場合、テトラヒドロフランおよびジオキサンが特に好ましい。これらの不活性なエーテルと、不活性な芳香族炭化水素(例えば、トルエンなど)との混合物もまた好適である。
本発明による方法が、ステップ(a)、ステップ(b)およびステップ(c)を含むとき、好ましい実施形態において、還元は、2モル当量まで、好ましくは、0.5モル当量〜1.5モル当量の水の添加とともに行われる。水は、ジカルボン酸モノエステル金属塩と一緒に添加してもよく、あるいは、例えばテトラヒドロフランなどの溶媒に溶解してもよく、または別々に添加してもよい。
好ましい実施形態において、本発明による方法はステップ(a)およびステップ(c)を含み、この場合、選択的還元剤はホウ化水素錯体(complex borohydride)である。
ステップ(a)およびステップ(c)を含む本発明による方法のより好ましい実施形態において、ステップ(a)における触媒は、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミンおよびトリブチルホスフィンからなる群から選択され、ステップ(c)における還元剤は水素化ホウ素金属である。
ステップ(a)およびステップ(c)を含む本発明による方法の特に好ましい実施形態において、触媒は、トリブチルアミン、トリヘキシルアミンまたはトリオクチルアミンであり、環状カルボン酸無水物はcis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンであり、キラルなアルコールは(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールであり、かつ、選択的還元剤は水素化ホウ素リチウムである。
本発明による方法がステップ(a)、ステップ(b)およびステップ(c)を含むさらに特に好ましい実施形態において、ジカルボン酸モノエステルの遊離酸またはその第四級アンモニウム塩もしくは第四級ホスホニウム塩は、ステップ(b)において、リチウム塩に変換される。
下記の実施例は本発明による方法を例示する。
中間体および最終生成物のジアステレオマー純度およびエナンチオマー純度は、例えば、ルーティーンなHPLC測定によって決定することができる。そのような手法は当業者に知られている。
(実施例1:10%トリオクチルアミンを使用したジカルボン酸モノエステルの合成)
0.177g(0.5mmol)の新たに蒸留したトリオクチルアミンを、10℃で、1.68g(5mmol)のcis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンおよび1.14g(5mmol)の(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールを含む35mlのトルエン懸濁物に加えた。懸濁物を20℃で18時間撹拌し、ろ過して、残留物を20mlのトルエンで洗浄した。ろ過残留物を乾燥した。
2.52gの所望の5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートを100%deのジアステレオマー純度および理論の89%の総収率で得られた。
(実施例2:第四級アンモニウムジカルボン酸モノエステルの中間体合成のための、10%トリオクチルアミンを使用したジカルボン酸モノエステルのリチウム塩の合成)
0.12ml(0.5mmol)の新たに蒸留したトリオクチルアミンを、10℃で、1.68g(5mmol)のcis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンおよび1.14g(5mmol)の(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールを含む35mlのトルエン懸濁物に加えた。懸濁物を20℃で18時間撹拌した。これを水酸化リチウムの1N水溶液5.7mlで処理した。懸濁物をろ過し、残留物を25mlの水で洗浄した。ろ過残留物を乾燥した。
2.53gの所望のリチウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートを98.1%deのジアステレオマー純度で得た。
(実施例3:第四級アンモニウムジカルボン酸モノエステルの中間体合成のための、等モル量のトリブチルアミンを使用したジカルボン酸モノエステルのリチウム塩の合成)
11.93ml(50mmol)の新たに蒸留したトリブチルアミンを、−5℃で、16.82g(50mmol)のcis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンおよび11.64g(51mmol)の(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールを含む100mlのトルエン懸濁物に滴下して加えた。懸濁物を0℃で1時間撹拌し、続いて室温で1時間撹拌した。形成されたトリブチルアンモニウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートの溶液を水酸化リチウムの1N水溶液57ml(57mmol)で処理した。懸濁物を4時間撹拌し、ろ過し、残留物を50mlの水で洗浄した。ろ過残留物を真空中で乾燥した。
27.5gの所望のリチウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートを98.7%deのジアステレオマー純度(HPLCにより決定)および理論の96%の総収率で得た。
(実施例4:ジカルボン酸モノエステルのリチウム塩の還元)
27.4g(48mmol)のリチウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートを、1.35g(62mmol)の水素化ホウ素リチウムを含む50mlのテトラヒドロフラン溶液に加えた。4時間以内に、混合物を20℃で、テトラヒドロフラン中の水の10M溶液5ml(50mmol)で処理した。懸濁物を20℃でさらに2時間撹拌し、次いで40℃で2時間撹拌して、100mlの水および100mlのトルエンで処理した。30分間の撹拌の後、水相を分離し、100mlのトルエンで3回抽出した。有機相を毎回50mlの水で2回洗浄し、コンバインして濃縮した。
10.2gの(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールを理論の89%の総収率で得た。
水相をコンバインして、真空中で部分的に濃縮した。40mlの4M塩酸(160mmol)で酸性化した後、懸濁物を90℃で1時間撹拌した。沈殿したd−ラクトンをろ過により除き、50mlの水で洗浄した。ろ過ケークを真空中で2時間乾燥した。15.12gのd−ラクトン、すなわち、(3aS,6aR)−1,3−ジベンジルジヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4(3H,3aH)−ジオンを粗生成物として98.5%eeのエナンチオマー純度で得た。
(実施例5:様々な触媒の比較)
実施例1に記載される手順と同様にして、cis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンを、場合により異なる量で用いられた異なる触媒を使用して、(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールとトルエン中で反応させた。
それにより得られた結果を下記の表にまとめた。[%de]で得られた適切な5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートのジアステレオマー純度に加えて、用いたcis−1,3−ジベンジルヘキサヒドロ−1H−フロ[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオンの量に対して用いた触媒のモル当量もまた示される。
Figure 2006524204
(実施例6:エステル化直後およびトリブチルアンモニウム塩の単離直後におけるジカルボン酸モノエステルのジアステレオマー純度の比較)
トリブチルアンモニウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートを実施例3に記載される手順と同様にして調製した。しかし、リチウム塩への変換は行わなかった。反応直後および塩の単離後におけるトリブチルアンモニウム塩のジアステレオマー純度を下記の表において対比する。
Figure 2006524204
(実施例7:アルカリ金属塩としてのジカルボン酸モノエステルの単離)
トリブチルアンモニウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラートを実施例3に記載される手順と同様にして種々のアルカリ金属塩に変換し、続いて、実施例4に記載される手順と同様にして水素化ホウ素リチウムで還元した。結果を下記の表において対比し、塩の名称を続いて示す。
Figure 2006524204

リチウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラート
ナトリウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラート
カリウム5−[(S)−2−ヒドロキシ−1−メチル−2,2−ジフェニルエチル]=(4S,5R)−1,3−ジベンジル−2−オキソ−4,5−イミダゾリジンジカルボキシラート

Claims (17)

  1. 下記の一般式(I)で表されるキラルなラクトンを、
    Figure 2006524204

    (式中、Rは、ベンジル、α−フェニルエチル、アリル、1−フリル、2−フリル、1−チエニル、2−チエニルまたはp−メトキシベンジルである)
    下記の一般式(II)で表される環状カルボン酸無水物から、
    Figure 2006524204

    (式中、Rは前記で定義される通りである)
    下記の一般式(III)で表されるキラルなアルコールを用いてエナンチオ選択的合成をするための方法であって、
    Figure 2006524204

    (Rは、下記の一般式(IV a〜IV f)の残基であり、
    Figure 2006524204

    (式中、
    は、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、C〜C−アルキルまたはC〜C−アルコキシであり、
    は、水素、ヒドロキシル、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシまたはフェニルであり、
    は、C〜C−シクロアルキル、塩素もしくはメチルで置換されてもよいフェニル、ピリジル、ピロリル、チエニルまたはフリルであり、
    は水素またはC〜C−アルキルであり、
    はC〜C−アルキルまたはフェニルであり、
    Aはイオウ原子またはメチレン基であり、qは、Aがイオウ原子であるときには整数1であり、あるいは、qは、Aがメチレン基であるときには1または2の整数であり、かつ
    Bは、イオウ原子、−SO−またはメチレン基である))
    (a)前記環状カルボン酸無水物を、前記キラルなアルコールと、下記の一般式(V)で表される触媒の存在下でエステル化するために接触させるステップを含む方法。
    Figure 2006524204

    (式中、
    Qは窒素またはリンであり、かつ
    、RおよびR10はそれぞれが独立して、
    (i)2つまでのメチレン基が酸素によって置換されてもよいC〜C18−アルキル、または
    (ii)1つのメチレン基が酸素によって置換されてもよいフェニル−C〜C−アルキル、または
    (iii)フェニル
    であり、ただし、
    、RおよびR10の1つがフェニルであるとき、他の2つはフェニルではなく、かつ、
    、RおよびR10はそれぞれがC〜C18−アルキルであるとき、これら3つの置換基R、RまたはR10の少なくとも1つは、少なくとも3個の炭素原子を含む。)
  2. 、RおよびR10が、それぞれが独立してC〜C12−アルキルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 、RおよびR10が同一であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
  4. Qが窒素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. がベンジルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. が一般式(IV d)で表される残基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. が水素またはヒドロキシルであり、Rが、塩素もしくはメチルによって置換されてもよいフェニルであるか、あるいはチエニルまたは2−フリルであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
  8. 前記キラルなアルコールが、(S)−1,1−ジフェニル−1,2−プロパンジオールであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. ステップ(a)に加えて、
    (b):ステップ(a)で得られたジカルボン酸モノエステルのこの形態を金属塩に変換するステップ
    を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記金属塩がアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  11. 前記アルカリ金属塩がリチウム塩であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
  12. (c):ステップ(a)で得られたジカルボン酸モノエステルまたはステップ(b)で得られたジカルボン酸モノエステル金属塩を、エステル基に対して選択的である還元剤と接触させるステップ
    を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記選択的還元剤がホウ化水素錯体(complex borohydride)であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
  14. 前記選択的還元剤が水素化ホウ素リチウムであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
  15. 前記還元が0.5モル当量〜1.5モル当量の水を添加して行われることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
  16. ステップ(c)がステップ(a)の直後に行われ、かつ前記選択的還元剤がホウ化水素錯体(complex borohydride)であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
  17. 前記選択的還元剤が水素化ホウ素リチウムであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
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