JP2006301232A - 光反射鏡、その製造方法およびプロジェクター - Google Patents

光反射鏡、その製造方法およびプロジェクター Download PDF

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正一 武井
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Abstract

【課題】基材と反射膜との間に浸入した水分によって惹起される反射膜の腐食を抑制することができる光反射鏡を提供することである。
【解決手段】基材の表面に反射膜を被着させた光反射鏡100であって、前記基材には、像を投写するための光反射面となる中央部分を囲むように、前記反射膜表面の周辺部63に突起部64を設けたものである。前記反射膜表面の中央部分は、鋭角な突起のない、なめらかな面であり、反射率が96%以上であり、具体的には中央部分の表面粗さRzが0.5μm以下である
【選択図】 図1

Description

本発明は、プロジェクターやプロジェクションテレビ等において結像用および照明用として使用するのに好適な光反射鏡、その製造方法およびプロジェクターに関する。
映像を投写するプロジェクターは、前面型プロジェクターと、背面型プロジェクターとに分類される。前面型プロジェクターは、反射型スクリーンを部屋の壁際に配置し、液晶表示素子や投写レンズ等を含むプロジェクターユニットを部屋の中央部に配置して、投写レンズからスクリーンへ向かって変調光を投写し、スクリーンに画像等を表示する。観視者はスクリーンで反射した変調光を見る。一方、背面型プロジェクターは、液晶表示素子や投写レンズ等を含むプロジェクターユニットがボックス型の筺体の内部に配置され、さらに透過型スクリーンが筺体の前面部に設けられているものである。観視者は筺体の外側からスクリーンを透過した変調光を見るようになっている。
近時、大画面、例えば対角70インチから100インチの画面を有する背面型プロジェクターが研究されている。このような大画面を有する背面型プロジェクターでは、投写レンズからスクリーンまでの距離を2m以上も長くとることが必要になり、筺体がかなり大きくなる。そこで、投写レンズとスクリーンとの間にミラーを配置し、筺体の奥行きを小さくするようになっている。
しかし、投写レンズとスクリーンとの間に配置されるミラーとして、ガラス製の表面反射ミラーを使用すると、大画面の背面型プロジェクターにおいて、ミラーの面積は1.5m×1.1m以上となる。しかも、ガラスは脆く、割れやすいため、厚さを5mm以上にすると、ミラーの重さが20kg以上になり、装置全体では100kg以上にもなるという問題点が生じる。
そこで、特許文献1には、投写レンズとスクリーンとの間に配置されるミラーを、比重もガラスの60パーセント程度と小さいプラスチックで作ることが提案されている。特許文献1に記載のミラーは、透明なプラスチックシートの一面に銀やアルミニウム等の反射性金属を蒸着してなるものである。
一方、背面型プロジェクターは、より一層の薄型化が要求されている。すなわち、図10に示すように、従来の背面型プロジェクターは、筺体の内部に背面ミラー21が配置され、光学エンジン22から投写された画像を背面ミラー21で反射してスクリーン23に画像を表示する。このような垂直投写方式では、画角が80°で投写距離L1は900mm以上となるため、プロジェクターの厚みL2も500mm以上になる。
これに対して、近時提案されている薄型化された背面型プロジェクターでは、図11に示すように、光学エンジン22から投写された画像を非球面ミラー24を用いて斜め投写し、これを背面ミラー25で反射してスクリーン23に画像を表示する。このため、160°という超広画角が可能となり、投写距離L1は200mmとなり、プロジェクターの厚みL2も200mm以下に薄型化することが可能になる。また、プロジェクターの装置構成によっては、さらに複数の平面ミラーや非球面ミラーを使用して、画像を順次反射させながら投写する場合もある。
ところが、非球面ミラー24や背面ミラー25という複数の反射鏡で画像を順次反射させながら投写するため、各反射鏡の反射率が高くないと、スクリーン23に表示される画像は暗いものとなる。そこで、反射率の高い反射鏡として、特許文献2には、基材上に特定の銀の反射膜を形成して、可視光領域で反射率を98%以上にした反射鏡が記載されている。
特開平7‐230072号公報 特開2003‐114313号公報([0073]、[0081])
基材、特にプラスチック基材上に銀を含む反射膜を被着させた光反射鏡では、反射膜の周辺部における基材と反射膜との接合力が低いために、当該周辺部の基材と反射膜との間に水分が浸入し、周辺部から徐々に反射膜の腐食が進行し、遂には反射膜が基材から剥離してしまうという問題がある。
従って、本発明の課題は、基材と反射膜との間に浸入した水分によって惹起される反射膜の腐食を抑制することができる投写用光反射鏡を提供することである。
上記課題を解決するための本発明の光反射鏡は以下の構成からなる。
(1)基材の表面に反射膜を被着させた光反射鏡であって、前記基材には、像を投写するための光反射面となる中央部分を囲むように、前記反射膜表面の周辺部に突起部が設けられていることを特徴とする光反射鏡。
(2)前記突起部は、高さが0.01〜0.05mm、幅が0.01〜0.05mmであることを特徴とする(1)に記載の光反射鏡。
(3)前記反射膜表面の中央部分は、鋭角な突起のない、なめらかな面であり、反射率が96%以上であることを特徴とする(1)に記載の光反射鏡。
(4)中央部分の表面粗さRzが0.5μm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の光反射鏡。
(5)前記反射膜の中央部分が、X線回折による(111)ピーク強度がその他のピーク強度の合計の20倍以上であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の光反射鏡。
(6)前記反射膜の厚みが100〜200nmであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の光反射鏡。
(7)基材が熱硬化性樹脂からなるプラスチック基材である(1)〜(6)のいずれかに記載の光反射鏡。
(8)前記プラスチック基材は、不飽和ポリエステル樹脂7〜19質量%、熱可塑性樹脂6〜19質量%、無機充填剤70〜84質量%、強化繊維5質量%以下および硬化剤0.1〜3質量%からなる熱硬化性樹脂組成物を成形したものであることを特徴とする(7)に記載の光反射鏡。
本発明の光反射鏡の製造方法は以下の構成からなる。
(9)熱硬化性樹脂組成物を成形してプラスチック基材を得、このプラスチック基材の表面に反射膜を被着させる光反射鏡の製造方法であって、
前記プラスチック基材の周辺部に対応する部分と中央部分に対応する部分との境界部に凹部を設けた金型を使用して、前記プラスチック基材を成形し、プラスチック基材の周辺部に反射膜表面の中央部分を囲むように突起部を設けることを特徴とする光反射鏡の製造方法。
(10)前記金型は、前記プラスチック基材の周辺部に対応する金型部材と、中央部分に対応する金型部材とを有し、両金型部材が一体に結合された状態での当該両金型部材間にすき間がある金型である(9)に記載の光反射鏡の製造方法。
本発明のプロジェクターは、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の光反射鏡を具備する。すなわち、本発明の反射鏡は、プロジェクターやプロジェクションテレビなどにおいて、マイクロデバイス(MD)で像を作った光をスクリーンに投射する間に像の拡大鏡として使用する、いわゆる結像用として、あるいは映像素子の前の段階で光源からの光を素子に集める、いわゆる照明用として使用される。
上記(1)または(2)に記載の光反射鏡発明によれば、反射膜表面の周辺部に設けた突起部がいわば堰となって、周辺部で基材と反射膜との間に浸入した水分が中央部分にまで浸入するのを阻止するため、反射面となる中央部分の反射膜が腐食するのを抑制することができるという効果がある。
上記(3)〜(6)に記載の光反射鏡によれば、反射率の高い光反射鏡が得られる。上記(7)または(8)に記載の光反射鏡によれば、軽量で安価なプラスチック基材を用いて簡単に製造でき、しかも熱硬化性樹脂であるため、耐熱性に優れている。
上記(9)または(10)に記載の製造方法によれば、プラスチック基材の成形と同時に反射膜表面の周辺部に突起を形成できるので、工程数を増やすことなく、簡単にかつ安価に反射特性の優れた光反射鏡を製造することができる。
本発明の一実施形態に係る光反射鏡は、プラスチック基材表面に銀を含む反射膜を被着させて形成したものである。
図1は、この実施形態に係るプロジェクター用光反射鏡100を示しており、反射膜表面には像を投写するための光反射面となる中央部分62とその周辺部63とがある。周辺部63は中央部分62に対して下向き傾斜面となっている。また、中央部分62と周辺部63との境界部分または該境界部分に近い周辺部63には、図2に示すように、突起部64が形成されている。この突起部64は、中央部分62を囲むように反射膜表面の全周にわたって設けられている。図2は図1のA部分の拡大図である。
中央部分62の表面粗さRzが0.5μm以下、好ましくは0.05〜0.4μmであるのがよい。中央部分62の表面粗さRzが0.5μmを超えると、中央部分62での反射率が低下し、後述するように反射率を96%以上にすることが困難になる。特に、中央部分62の反射膜表面は、鋭角な突起のない、なめらかな面であり、反射率が96%以上となるように形成される。
前記突起部64の寸法は特に限定されるものではないが、高さが0.01〜0.05mm、幅(特に頂部の幅)が0.01〜0.05mm程度であるのがよい。これにより、反射膜の腐食を防止する堰としての機能を充分に果たすことができる。
周辺部63に突起部64を形成する場合、プラスチック基材の成形時に成形と同時に突起部64を形成するのが好ましい。
以下、周辺部63に突起部64を形成したプラスチック基材の製造方法について説明する。
図3はプラスチック基材50を成形するための金型を示している。金型は下型67と上型68とからなり、上型68は、プラスチック基材の周辺部に対応する金型部材65と、中央部分に対応する金型部材66とからなり、これらの金型部材65、66はボルトなどで一体に固定されている。
ここで、中央部分62は、投写光を反射させるため、金型表面も平滑である必要がある。具体的にはJIS B 0601−2001で規定される表面粗さRzが0.5μm以下、好ましくは0.4μm以下であるのがよい。
成形されたプラスチック基材の中央部分62は、PV値が0.5μm以下で、かつ鋭角な突起のない、なめらかな面である。
図2に示す突起部64は、図4に示すように金型部材65と金型部材66との間に設けた所定の隙間Cに熱硬化性樹脂の一部が流れ込むことにより形成される。
隙間Cの幅は0.01〜0.05mm程度であるのが適当である。隙間Cの幅が、これよりも小さいと、反射膜周辺に腐食防止に有効な突起部64を形成することが困難になる。また、これ以上大きくなると、突起部64が大きくなるため、材料の流入が多くなり成形圧力が掛からなくなる。
また、突起部の高さは、これ以上低いと、腐食防止の役割を果たさなくなり、逆にこれ以上高くなると、投写光の光路を妨げるおそれがある。
成形されるプラスチック基材50は、その熱変形温度を考慮すると熱硬化性樹脂成形品が使用可能である。このような熱硬化性樹脂成形品としては、熱変形温度が130℃以上であれば特に限定されるものではなく、例えば不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネートなどの各種の熱硬化性樹脂が使用可能である。特に不飽和ポリエステル樹脂を使用するのが好ましい。
不飽和ポリエステル樹脂を使用する場合、熱硬化性樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂7〜19質量%、熱可塑性樹脂6〜19質量%、無機充填剤70〜84質量%、強化繊維5質量%以下および硬化剤0.1〜3質量%からなるのがよく、これを成形して所定形状の基材を得る。
不飽和ポリエステル樹脂は、α,β-不飽和二塩基酸またはその無水物からなる酸成分と多価アルコールとを重縮合して得られる不飽和ポリエステル(プレポリマー)と重合性単量体とを混合した液状樹脂であり、不飽和ポリエステルを65〜75質量%、重合性単量体を35〜25質量%の割合で含有する。
この不飽和ポリエステル樹脂に使用されるα,β-不飽和二塩基酸またはその無水物としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの1種または2種以上の酸またはその無水物が挙げられ、特にマレイン酸またはその無水物またはフマル酸が好適に用いられる。また、多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して使用することができる。
さらに、α,β-不飽和二塩基酸またはその無水物、多価アルコールに、必要に応じて飽和二塩基酸またはその無水物を加えて重縮合してもよい。飽和二塩基酸またはその無水物としては、例えばフタル酸またはその無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して使用することができる。
また、上記多価アルコールの他に必要に応じて、1,3−プロパンジオール、1,3−プタンジオール、1,4−プタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの1種または2種以上を上記多価アルコールに混合して使用することができる。
不飽和ポリエステル樹脂に使用される重合性単量体としては、例えばスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン、p−メチルスチレン、メチルメタクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して使用することができる。重合性単量体は、その所定量を不飽和ポリエステルと混合して不飽和ポリエステル樹脂に含有させるが、不飽和ポリエステルの調製時にその一部を添加することもできる。不飽和ポリエステル樹脂の配合量は、樹脂組成物中に7〜19質量%、好ましくは8〜13質量%である。
前記樹脂組成物に配合される熱可塑性樹脂としては、例えばスチレン系共重合体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル系共重合体、変性ABS樹脂、ポリカプロラクトン、変性ポリウレタンなどが挙げられる。特に、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル系共重合体のようなアクリル系樹脂(共重合体を含む)、ポリ酢酸ビニル、スチレン−酢酸ビニル共重合体のような酢酸ビニル系樹脂(共重合体を含む)が、分散性、低収縮性、剛性の点で好ましい。熱可塑性樹脂の配合量は、樹脂組成物中に6〜19質量%、好ましくは8〜12質量%である。
前記樹脂組成物に配合される無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、マイカ、タルク、グラファイト、カーボンブラック、アスベスト、水酸化アルミニウムなどの公知の無機充填剤が挙げられる。無機充填剤は平均粒径が0.1〜60μmの範囲にあることが好ましく、その形状は破砕状であることが好ましい。無機充填剤の配合量は、樹脂組成物中に70〜84質量%である。
前記樹脂組成物に配合される強化繊維は、成形品の強度を高めることができる。使用される強化繊維としては、例えばガラス繊維、カーボン繊維(炭素繊維)、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、アモルファス繊維、有機繊維などがあげられ、これらは1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
強化繊維は繊維長が1〜3mmで繊維径が5〜100μmであるのが好ましい。また、強化繊維の配合量は、樹脂組成物中に0〜5質量%であるのが好ましい。繊維長が長くなったり、配合量が5質量%を超えたりすると、後述するようにPV値が0.5μmを超え、鋭角な突起のない、なめらかな成形面を得ることが困難になる。
不飽和ポリエステル樹脂の硬化反応を開始させる硬化剤としては、例えばt−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなど有機過酸化物が挙げられる。硬化剤の配合量は、樹脂組成物中に0.1〜3質量%である。
さらに、前記熱硬化性樹脂組成物には、成形品を金型から容易に脱型できるように内部離型剤を配合してもよい。内部離型剤としては、例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウムなどの脂肪族金属塩が挙げられる。内部離型剤の配合量は、樹脂組成物中に0.1〜3質量%程度でよい。
また、前記熱硬化性樹脂組成物に、必要に応じて顔料などの着色剤、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどの増粘剤を配合してもよい。
本発明におけるプラスチック基材50は、前記熱硬化性樹脂組成物を前記した金型内に注入し、135〜180℃の温度で加熱硬化させて成形される。成形方法としては、射出成形(インジェクション成形)、トランスファー成形、圧縮成形などの、通常の熱硬化性樹脂の成形に用いられる方法が挙げられる。
前記熱硬化性樹脂組成物は、成形品表面の平滑性、寸法安定性を確保するうえで、成形時の成形収縮率が0.05〜−0.10%であるのが好ましい。成形収縮率は、常温の成形品と常温の金型の寸法を比較して、その割合を示した値であり、(金型寸法−成形品寸法)/金型寸法から算出される。
次に、得られたプラスチック基材50の表面に、銀を含む反射膜を形成する。このとき、プラスチック基材の表面に、後述する方法によって銀を含む反射膜を直接形成してもよく、あるいは反射膜と基材との間に密着性向上膜を介在させてもよい。さらに、前記反射膜の表面に、2層以上の反射増加膜を形成してもよい。反射増加膜は、例えば、反射膜表面に、少なくとも高屈折率の第一透明誘電体層と低屈折率の第二透明誘電体層とをこの順に積層した膜が挙げられるが、積層順序は特に制限されない。第二透明誘電体層の表面には、さらに高屈折率または低屈折率の透明誘電体層を積層(例えば高屈折率および低屈折率の透明誘電体層を交互に積層)することができる。なお、反射増加膜は、経済性を考慮すると、5層以下であるのがよい。
以下、プラスチック基材の表面に、密着性向上膜、反射膜および反射増加膜をこの順に形成する場合について説明するが、反射膜のみの場合、密着性向上膜と反射膜とを形成する場合、反射膜と反射増加膜とを形成する場合についても同様にして適用可能である。
本発明の好ましい実施形態では、図5に示すように、プラスチック基材50の表面に、Cr、CrO、Cr23、Y23、LaTiO3,La2Ti38,SiO2,TiO2およびAl23から選ばれる少なくとも1種からなる密着性向上膜51と、銀を含む反射膜52と、Y23、MgF2、LaTiO3,La2Ti38,SiO2,TiO2およびAl23からなる群より選ばれる化合物から形成される第一透明誘電体層53および第二透明誘電体層54を含む反射増加膜とが前記基材50側からこの順に積層される。
密着性向上膜51は反射膜52とプラスチック基材50との密着性を高めると共に、水分がプラスチック基材50を透過して反射膜52に接触し反射膜52を腐食してしまうのを有効に防止する機能を有する。密着性向上膜51の厚さは密着性を考慮して10〜200nm、好ましくは30〜80nmが好ましい。密着性向上膜51の厚さが10nm未満では、密着性が劣化し易くなると共に、水分がプラスチック基材50を透過して反射膜52に接触するのを有効に防止するのが困難となってしまう。また、密着性向上膜51は密着性が良好である限りできるだけ薄いほうが望ましいことから、密着性向上膜51の厚さは200nm以下が好ましい。
銀からなる反射膜52は厚さが100〜200nm、好ましくは70〜130nmであるのが好ましい。反射膜52の厚さが100nm未満では、光が透過し易くなり反射率が低くなる。一方、反射膜52の厚さが200nmを超えても反射率が向上せず、また銀は材料コストがかかるため、反射膜52の厚さが不必要に厚いことは好ましくない。
第一透明誘電体層53および第二透明誘電体層54は多層干渉層による高反射膜、すなわち反射増加膜を構成している。従って、これらの厚さはその屈折率および光の波長によって適宜決定される。また、第二透明誘電体層54の屈折率が第一透明誘電体層53の屈折率よりも大きい。例えば、第一透明誘電体層53にMgF2、第二透明誘電体層54にLa2Ti38を用いて可視光領域で最高の反射率とする場合、第一透明誘電体層53の厚さは73nm程度であり、第二透明誘電体層54の厚さは60nm程度となる。
なお、第一透明誘電体層53および第二透明誘電体層54からなる反射増加膜は反射膜52を保護する作用もなし、反射増加膜によって大気中に含まれる水分等が反射膜52に接触し、反射膜52に腐食等が発生するのを有効に防止することができる。
銀を含む反射膜52は、第一透明誘電体層53側の表面X線回折による(111)ピーク強度がその他のピーク強度の合計の20倍以上である。これは、結晶の配向性が高くかつ結晶密度が高く緻密であり、さらに反射膜の性質が均質であることを意味している。これにより、反射率低下の大きな原因となる光の膜内への吸収や散乱が抑制される。すなわち、光の吸収は、光のエネルギーが膜内で熱に変換されて失われることを意味しており、膜内に不純物等の欠陥があると生じる。
また、反射膜52は、原子間力顕微鏡(AFM)による観察によって測定される算術平均粗さが3nm(μmに換算すると0.003μmである)以下である。原子間力顕微鏡とは、探針を付けたカンチレバーを試料表面に近づけると、原子間力によってカンチレバーがたわむのを利用して、その変位をレーザー反射光で検知し、表面の凹凸をナノメーターオーダーで画像化することができる顕微鏡をいう。このような原子間力顕微鏡で測定される表面粗さが3nm以下であるということは、反射膜52が実質的に平坦であることを意味する。これにより、反射率低下の大きな原因となる層表面での光の散乱が抑制される。
従って、以上の点から、反射膜52は緻密で平坦であるため、光の散乱や吸収を抑制して高い反射率を実現していると考えられる。
また、第二透明誘電体層54は基材50と反対側の表面の算術平均粗さが5nm以下である。これにより、第二の透明誘電体層54は平坦であるため、反射膜52と共に、光の散乱や吸収を抑制して高い反射率の実現に寄与している。
次に、反射鏡を作製する方法について説明する。図6はこの反射鏡を作製するのに使用する薄膜形成装置の概略を示している。以下の薄膜形成方法は、蒸発材料9および必要なら成膜条件を変えることにより、1つの薄膜形成装置で連続的にプラスチック基材50上に膜形成を行えるようにしたものである。
まず、プラスチック基材50の表面に密着性向上膜51を形成する場合について説明する。図6に示す薄膜形成装置におけるチャンバ11内の下部には蒸発材料9をボート1に収容保持した蒸発源20が配置されている。この蒸発源20に対向するように、チャンバ11内の上部には、基材50を保持するための基材保持部2が設けられている。密着性向上膜51を形成するための蒸発材料9としては、LaTiO3,La2Ti38,SiO2,TiO2,Al23を用いることができる。
基材保持部2は導電性材料からなっていて、高周波電力供給電源(RF)5からの高周波電力が、マッチング装置(MN)4および直流遮蔽フィルタとしてのコンデンサ7を介して印加されるようになっている。なお、コンデンサ7は、可変コンデンサを用いてマッチング回路の一部として機能させてもよい。さらに、基材保持部2には、直流電圧印加電源(DC)6の陰極側が、高周波遮蔽フィルタとしてのコイル8を介して接続されている。高周波電力供給電源5の基材保持部2とは反対側の端子は直流電圧印加電源6の陽極側と接続されていて、これらは接地されている。
ボート1は、例えば、それ自身が電気抵抗の高い材料からなっていて、例えば交流電源からなる加熱電源3からの電力供給を受けて、蒸発材料9を蒸発させるための熱を発生する。ボート1には、さらに、直流電圧印加電源6の陽極側が接続されている。
チャンバ11内の空間は、排気ダクト12および排気バルブ13を介して真空ポンプ14によって排気され、薄膜形成期間中において、所定の真空状態とされる。チャンバ11内に不活性ガス(例えばアルゴンガス等)および反応性ガス(例えば酸素ガス)を供給するために、チャンバ11には、流量制御装置(MFC)24およびガス供給配管25を介して、不活性ガス供給源21および反応性ガス供給源23が接続されている。不活性ガス供給源21からの供給/停止は、弁21aを開閉することによって行われる。反応性ガス供給源23からの供給/停止は、弁23aを開閉することによって行われる。
チャンバ11内の真空度は、真空度計15によって計測され、この真空度計15の出力に基づき、流量制御装置24は、マイクロコンピュータ等からなる制御装置30によって制御されるようになっている。これにより、不活性ガス供給源21および反応性ガス供給源23からのガス供給量は、チャンバ11内の真空度が所定値に保持されるように制御される。密着性向上膜51を得るためには、チャンバ11内の層形成時の真空度は1.0×10-2〜5.0×10-2Pa、好ましくは2.0×10-2〜3.0×10-2Paであるのがよい。このとき、酸素ガス濃度は約1.0×10-2〜3.0×10-2Paの範囲内で調整される。
プラスチック基材50の表面における薄膜の形成速度を計測するために、基材保持部2に関連して膜厚モニタ17が設けられている。この膜厚モニタ17の出力信号は、制御装置30に入力されていて、この制御装置30は、膜厚モニタ17の出力に基づいて加熱電源3の出力を制御するようになっている。こうして、薄膜の形成速度が所望の値となるように、ボート1への通電量が制御され、蒸発材料9の蒸発量が調整される。金属酸化膜である密着性向上膜51を得るためには、当該金属酸化膜の形成速度は5〜20Å/秒、好ましくは13〜18Å/秒であるのがよい。
高周波電力供給電源5は、例えば周波数10〜50MHzの高周波電源でよいが、一般的な13.56MHzに設定すればよく、放電電極としての基材保持部2の単位面積(cm2)当たり出力50〜800mW、好ましくは85〜170mWの高周波電力を基材保持部2に印加する。これに応じた高周波電界がチャンバ11内で形成されることによって、チャンバ11内ではガス供給配管25から供給されるガスおよび蒸発材料9から蒸発した蒸発物からなるプラズマが生成することになる。このプラズマ中のイオン化された粒子のうち、正に帯電したものは、直流電圧印加電源6から基材保持部2に印加された直流バイアスによって、基材50の表面へと引き寄せられる。直流電圧印加電源6からの印加電圧は100〜400V、好ましくは180〜230Vであるのがよい。
一方、プラズマ中の解離した電子は、直流電圧印加電源6の陽極側に接続されたボート1へと引き寄せられることになる。このとき、蒸発源20からは蒸発材料9が継続的に蒸発しているので、蒸発粒子と電子との衝突により、プラズマの足が蒸発源20に下りたような形状の発光体が蒸発源20の近傍に見られる。そして、蒸発源20の近傍に集まった電子は、接地され陽極側に接続されているボート1に吸い込まれ、ボート1上の蒸発材料9に衝突する。これによって、蒸発材料9は、ボート1による加熱と、電子の衝突とによってその蒸発が促進されることになる。すなわち、蒸発材料9への集中的な電子衝突によって低温で蒸発を促進させる効果(デポジションアシスト効果)が得られる。
図6に示されるように、チャンバ11は、直流電圧印加電源6および高周波電力供給電源5のいずれにも接続されておらず、また接地もされていない。すなわち、チャンバ11は、電気的に浮遊状態となっている。このため、基材保持部2とチャンバ11との間での高周波放電が起こることもなく、チャンバ11内のプラズマ中の荷電粒子がチャンバ11の内壁に引き寄せられることもない。従って、プラズマ中の陽イオン化した粒子またはプラスに荷電した粒子は、基材50の表面へと効率的に導かれ、プラズマ中の負の荷電粒子である電子は、ボート1上の蒸発材料9へと集中的に導かれることになる。これにより、良好な薄膜形成を実現できるとともに、電子ビームによる蒸発材料9の蒸発促進を効率的に行える。さらには、チャンバ11の内壁に蒸発材料が付着することを抑制することができる。
チャンバ11内においてプラズマが安定すると、蒸発材料9へのプラズマから電子ビームの照射によって、蒸発材料9はプラズマに吸上げられるように蒸発する。そこで、基材50に付着する蒸発材料9の付着速度を一定に保持するために、膜厚モニタ17の出力に基づき、制御装置30は、加熱電源3の出力を下げる。すなわち、ボート1への通電電流または通電電圧を下げる。これにより、蒸発速度が調節される。
プラズマから供給される電子ビームにより蒸発材料9の蒸発が促進されるので、ボート1の加熱電流値は低く抑えることができるから、比較的低い加熱温度で蒸発材料9の蒸発を継続して維持することができ、プラズマの作用を利用した蒸着による薄膜形成を行える。
この装置における薄膜形成の特徴は、不活性ガスのチャンバ11への供給方法にある。すなわち、薄膜形成の初期段階においては、ガス供給配管25から比較的大きな流量でチャンバ11へガスが供給され、蒸発材料9からの蒸発が活発になると、ガス供給配管25からのガス供給量が減少させられ、これにより、蒸発材料9からの蒸発が活発でない薄膜形成の初期段階においては、ガス供給配管25から供給される不活性ガスのプラズマがチャンバ11内に形成される。蒸発材料9からの蒸発が活発になると、ガス供給配管25からのガス供給量が減少し、蒸発材料9からの蒸発粒子が支配的となった組成のプラズマがチャンバ11内に形成されるに至る。
このようにして、薄膜形成の初期段階に不活性ガスをチャンバ11に導入することにより、チャンバ11内に安定したプラズマを速やかに形成することができる。これによって、プラズマの作用を利用した薄膜形成を初期段階から行うことができるので、良好な密着性の薄膜である密着性向上膜51を基材50の表面に形成することができる。
図7は、薄膜形成のより具体的なプロセスを説明するための図である。この図には、薄膜を基材50の表面に形成する場合に、不活性ガス供給源21から不活性ガスをチャンバ11内に供給しながら薄膜形成を行うプロセスの一例が記載されている。具体的には、図7(a)はガス供給量の時間変化を示し、図7(b)はチャンバ11内の真空度の時間変化を示し、図7(c)はボート1の加熱電流値の時間変化を示している。
薄膜形成処理の開始前の期間T1には、制御装置30は、排気バルブ13を開き、真空ポンプ14によりチャンバ11内の雰囲気が排気されて、チャンバ11内の真空度が例えば約10-3Paに保持される。この状態から、制御装置30は、時刻t10に弁21a,23aを開いて、不活性ガス供給源21および反応性ガス供給源23からのガスの供給を開始させる。制御装置30は、時刻t10に弁21a,23aを開いて、不活性ガス供給源21および反応性ガス供給源23からのガスの供給を開始させる。このガス供給が開始された後には、制御装置30は、真空度計15の出力信号をモニタすることによって、チャンバ11内の真空度を、例えば2×10-2Paに保持するように流量制御装置24を制御する。
これによって、ボート1への通電が開始されて蒸発材料9が加熱される期間T2には、高周波電力供給電源5から印加される高周波電界によって、チャンバ11内でプラズマが生成される。このプラズマ中のイオン化された不活性ガスの原子や分子は、直流電圧印加電源6から基材保持部2に与えられている直流バイアスによって、基材50へと導かれる。この不活性ガスの原子や分子が基材50に衝突することによって、期間T2中に基材50の望ましくない昇温が生じる場合には、基材50の下方にシャッタ18を設けて、基材50に向かう不活性ガスを阻止すればよい。
期間T2には、制御装置30は加熱電源3を制御して、ボート1への通電を開始する。これに伴って、ボート1への加熱電流値が上昇し、期間T2の終期には、例えば150Aに達するようにする。チャンバ11内におけるプラズマが安定する時刻t11において、制御装置30の制御下にある駆動装置(図示せず)によってシャッタ18が開かれ、これにより、薄膜の形成が開始される。蒸発材料9の蒸発により、蒸発粒子がプラズマ中へと導かれることになるから、一定の流量でガス供給配管25からチャンバ11内にガスを供給すれば、チャンバ11内の真空度が下がる。
ところが、制御装置30は、チャンバ11内の真空度が一定値(例えば2×10-2Pa)に保持されるように流量制御装置24を制御して、ガス供給配管25を介するガス供給量を調整する。その結果、蒸発材料9からの蒸発量の増大に伴って、参照符号Aで示すように、チャンバ11への不活性ガス導入量が減少していく。従って、薄膜形成が行われている期間T3の初期においては、プラズマの組成は、不活性ガスに支配されているが、このプラズマの組成は、速やかに蒸発材料9の蒸発物によって支配された組成へと変化していく。密着性向上膜51を得るためには、蒸発材料9からの蒸発量の増大に伴って、参照符号Aで示すように、チャンバ11への不活性ガス導入量が減少していくため、参照符号Cで示すような時間変化を示すように制御される。また、蒸発材料9からの蒸発量の増大に伴って、チャンバ11への酸素ガス導入量は増加することになる。
一方、プラズマからの電子の供給によって、蒸発材料9からの蒸発が促進されるので、膜厚モニタ17の出力に基づくフィードバック制御によって、加熱電源3からボート1に供給される電流が参照符号Bで示すように減少することになる。例えば約2〜3秒の期間を経て、電流値は150Aから80Aへと低下する。このため、蒸発材料9は、通常の蒸着やイオンプレーティングにおけるよりも低温状態でその蒸発が進行することになるから、蒸発源20からの輻射熱によって基材50が過度に昇温されることがない。
以上のように、この実施形態によれば、チャンバ11に不活性ガスを導入した状態で薄膜形成を開始することにより、薄膜形成の初期段階からチャンバ11内に良好なプラズマを生成させることができる。これにより、蒸発材料は初期段階からプラズマの作用を受けながら基材50に効率的に導かれる。その結果、密着性の良好なLaTiO3,La2Ti38,SiO2,TiO2およびAl23から選ばれる少なくとも1種からなる密着性向上膜51を効率よく形成することができる。
密着性向上膜51の形成後、蒸発源20のボート1に蒸発材料9として銀材料を収容保持させ、密着性向上膜51の形成と同様にして、基材50上の密着性向上膜51の表面に銀層を形成させ、反射膜52を得る。このとき、酸素ガス等の反応性ガスを供給するための反応性ガス供給源23は使用されない。また、銀の反射膜52を得る場合、チャンバ11内の真空度は1.0×10-2〜5.0×10-2Pa、好ましくは2.5×10-2〜3.5×10-2Paであるのがよく、反射膜52の形成速度は10〜20Å/秒、好ましくは15〜18Å/秒であるのがよい。
銀の反射膜52を形成した後、蒸発材料9としてMgF2またはSiO2をボート1に収容保持させ、密着性向上膜51の形成と同様にして、反射膜52の表面にMgF2またはSiO2からなる第一の透明誘電体層53を形成する。
ついで、蒸発材料9としてLaTiO3,La2Ti38,SiO2,TiO2,Al23を使用して、密着性向上膜51の形成と同様にして、第一透明誘電体層銀層53の表面にLaTiO3,La2Ti38,SiO2,TiO2およびAl23から選ばれる少なくとも1種からなる第二透明誘電体層54を形成する。
ボート1への各蒸発材料9の供給には、例えばコート材料供給器(図示せず)からボート1に密着性向上膜51、反射膜52、第一および第二の透明誘電体層53,54の各材料をこの順に供給し、それぞれ所定の成膜条件にて順次蒸発を行わせ、基板50の表面に連続的に膜形成を行わせてもよい。
これらの薄膜形成の間、基材50は60℃以下に保持されている。従って、プラスチック基材50の表面に前記した各膜(層)51〜54を形成するのに好適である。例えばポリカーボネートの耐熱温度は120〜130℃、ポリメタクリル酸メチルの耐熱温度は80℃程度であるので、これらのプラスチック基材50に対して各膜(層)51〜54を順次積層形成することができる。
このように、この薄膜形成方法によれば、チャンバ11内へプラズマを形成するためのガスが供給されるので、薄膜形成初期においてチャンバ11内に速やかにプラズマを生成することができる。これによって、薄膜形成の初期段階から、プラズマの作用を利用した各膜(層)51〜54の作製が可能となり、密着性および耐久性に優れた反射鏡を得ることができる。
また、チャンバ11内へのガス供給量は、薄膜形成初期に多く、その後は少なくするため、チャンバ11内に供給された不活性ガスの原子や分子が基材50に衝突することによる基材50の温度上昇を抑制することができる。
さらに、直流印加電圧電源6から印加される直流電界により、プラズマ中のプラスに帯電した粒子または陽イオン化した粒子は、基材50方向へと加速されて飛来し、基材50と衝突し、基材50表面に堆積する。これによって、被膜の形成がなされることになる。一方、負の電荷をもつ電子は、陽極側となるボート1へと加速されて、ボート1上の蒸発材料9に集中的に衝突して、蒸発材料9に蒸発のためのエネルギーを与える。こうして、熱エネルギーに代わる高いエネルギーを得た蒸発材料9は、低温でも容易に蒸発して、チャンバ11内のプラズマ形成領域へと蒸発していく。すなわち、チャンバ11内に形成されたプラズマ中の電子が蒸発材料9へと導かれ、これによって材料の蒸発を促進する、いわゆるデポジションアシスト効果が得られるため、抵抗加熱等による蒸発材料9の加熱エネルギーを格段に低減することができる。その結果、プラスチック基材50の温度上昇を抑制することができるので、より低温状態での薄膜形成が可能になる。
蒸発材料9からの蒸発量は、加熱手段に与えるエネルギーおよび直流電圧印加電源6の出力を前記範囲内に制御することによって調整される。また、蒸発材料9の粒子の基材50への衝突エネルギーは、直流電圧印加電源6の出力を前記範囲内に制御することによって調整される。これにより、蒸着物質には、基材50表面への単なる堆積でなく、基材50表面に形成された蒸着物質層の原子または分子配列を安定な状態に再配列させるのに充分なエネルギーを与えることができる。さらに、蒸着物質の粒子に、基材50内に浸透して順応させるのに充分なエネルギーも与えることができる。
このため、本発明では、平坦で膜内欠陥が殆どなく、緻密で密着性に優れた膜51〜54が得られ、反射膜52の場合は殆ど純粋な銀の単結晶層に近い銀膜となる。
本発明では、基材の形状は特に制限されない。従って、例えば図8に示すような複雑な形状のプラスチック基材55を用いて、その表面に前記した膜51〜54の層構成からなる銀の反射膜56を直接形成することができる。また、本発明は、非球面ミラーなどを作製するのに好適である。
本発明における銀を含む反射膜は、結晶の配向性が良好(一方向に揃っている)な単結晶質のものとなっているので、以下のような利点がある。
(1)波長が420〜700nmでの広い波長帯域(略可視光領域)での光の反射率が96%以上と高い。
(2)光の入射角が10〜50°の範囲において反射率の変化量が0.5%以下と小さい。
(3)プラスチック基材等との密着性に優れる。
(4)密着性に優れることから、腐蝕が少なく耐久性が飛躍的に改善される。
このようにして、表面粗さが非常に小さく実質的に平坦で、しかも結晶の配向性がきわめて良好な単結晶質である銀を含む反射膜を前記したプラスチック基材50の表面に蒸着される。このとき、反射膜の表面は、プラスチック基材50の表面状態を殆どそのまま反映され再現したものになるが、本発明におけるプラスチック基材50の中央部分は、PV値が0.5μm以下で、かつ鋭角な突起のない、なめらかな面であるので、反射膜の有する高い反射率を損なうことがなく、反射率が96%以上となる。
更に、本発明の光反射鏡は、反射膜表面の周辺部に、像を投写するための光反射面となる中央部分62を囲むように突起部を設けており、腐食防止の効果を有する。
よって、本発明の光反射鏡は、その優れた特性を利用して、下記に例示するような様々な用途に好適に使用することができる。
A.MDプロジェクション・プロジェクタ装置用の反射鏡。
B.DLPプロジェクタ用のライトトンネル(角筒状の基体の内面に銀膜および透明誘電体層を形成した光学部品)。
C.天体望遠鏡、双眼鏡などの反射鏡。
D.各種光学装置のアルミニウム反射層を用いた反射鏡の代替品。
E.基材がプラスチックであるので、成形により表面に所定の凹凸が形成された異形プラスチック基材に反射膜を被覆した高反射異形ミラー等。
次に、本発明の光反射鏡をプロジェクターに適用した場合を例に挙げて説明する。本発明にかかるプロジェクターは、液晶表示素子等の空間変調素子から出射した変調光を投写するための投射レンズと、本発明にかかる光反射鏡と、この反射鏡で反射した光を受ける透過型スクリーンとを備える。このような背面型プロジェクターは、前記した図10に示したものや、図11に示したものが挙げられる。特に奥行き寸法が小さい図11に示したプロジェクターは、複数のミラーを組み合わせて使用することから、反射率の高いミラーが要望されるので、本発明の光反射鏡は当該プロジェクターの非球面ミラー24や背面ミラー25として好適に使用可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
下記に示す各成分を表1に示す割合で混合し、ニーダーにて常温で混練して熱硬化性樹脂組成物を得た。
不飽和ポリエステル樹脂:日本ユピカ(株)製の商品名「ユピカ7123」
熱可塑性樹脂:日本ユピカ(株)製の商品名「A−25」
無機充填材:日東粉化工業(株)製の商品名「NS−200」
硬化剤(A):日本油脂(株)製の商品名「パーヘキサHC」
硬化剤(B):日本油脂(株)製の商品名「パーブチルZ」
離型剤:旭電化工業(株)製の商品名「エフコ・ケムZNS−P」

Figure 2006301232
得られた熱硬化性樹脂組成物を圧縮成形用金型に投入し、50tトランスファ成形機(王子機械(株)製)にて圧縮成形を行い、厚さ2mmのプラスチック基材を得た。成形条件は、以下の通りである。
成形温度:165℃
型締圧力:150kgf/cm2
注入圧力:30kgf/cm2
硬化時間:3分
金型としては、図3、図4に示す金型を使用した。成形されたプラスチック基材は、反射膜の中央部分に相当する部位の表面粗さRzが0.4μmであった。また、前記金型は隙間Cを有するため、反射膜表面の周辺部と中央部分の境界に相当する部位に高さが0.03mm、幅が0.03mmの突起部を形成することができた。なお、周辺部の幅(すなわち外周部から突起までの幅)は約1mmである。
成形後、脱型したプラスチック基材の表面に加工を施すことなく、下記(i)〜(iv)の順に各層を直接積層し、光反射鏡を作製した。
(i) 密着性向上膜51:チタン酸ランタンLaTiO3(厚さ40nm)
(ii) 反射膜52:銀Ag(厚さ100nm)
(iii)第一透明誘電体層53:フッ化マグネシウムMgF2(厚さ73nm)
(iv) 第二透明誘電体層54:チタン酸ランタンLa2Ti38(厚さ60nm)
各層の作製条件は以下の通りである。
(I)密着性向上膜51
蒸発材料9:Y23(純度99%)
チャンバ11内への導入ガス:Arガスおよび酸素ガス
高周波電力供給電源5からの基材保持部2への印加電力:周波数13.56MHzで85mW/cm2(基材保持部2の単位面積当たりの印加電力)
直流印加電源6:陰極側を基材保持部2に接続し、陽極側をボート1に接続
直流印加電源6から基材保持部2への印加電圧:230V
チャンバ11:接地されていない電気的に浮遊状態
23層の形成速度:15Å/秒以下
(A)Y23層形成の初期段階(図7の期間T2)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:350A(T2終期)
(B)Y23層の形成段階(図7の期間T3)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:230A(T3終期)
かくして厚さ40nmのY23層を基材50表面に作製することができた。この薄膜作製の全期間を通じて基板50の表面温度は40℃未満に保持されていた。
加熱電源3からボート1への通電電流:230A(T3終期)
かくして厚さ40nmのLaTiO3層を基材50表面に作製することができた。この薄膜作製の全期間を通じて基板50の表面温度は40℃未満に保持されていた。
(II) 反射膜52
蒸発材料9:銀(純度99.9%)
チャンバ11内への導入ガス:アルゴンガス
高周波電力供給電源5からの基材保持部2への印加電力:周波数13.56MHzで85mW/cm2(基材保持部2の単位面積当たりの印加電力)
直流印加電源6:陰極側を基材保持部2に接続し、陽極側をボート1に接続
直流印加電源6から基材保持部2への印加電圧:230V
チャンバ11:接地されていない電気的に浮遊状態
反射膜の形成速度:5〜18Å/秒
(a)反射膜形成の初期段階(図7の期間T2)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:280A(T2終期)
(b)反射膜の形成段階(図7の期間T3)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:約210A(T3終期)
かくして厚さ110nmの反射膜をY23層の表面に作製することができた。この反射膜作製の全期間を通じて基板50の表面温度は、40℃で反応するサーモシールが僅かに反応したことから、40〜45℃程度に保持されていた。
(III) 第一透明誘電体層53
蒸発材料9:フッ化マグネシウムMgF2(純度99.9%)
チャンバ11内への導入ガス:Arガス
高周波電力供給電源5からの基材保持部2への印加電力:周波数13.56MHzで85mW/cm2(基材保持部2の単位面積当たりの印加電力)
直流印加電源6:陰極側を基材保持部2に接続し、陽極側をボート1に接続
直流印加電源6から基材保持部2への印加電圧:230V
チャンバ11:接地されていない電気的に浮遊状態
MgF2層の形成速度:15Å/秒以下
(A)MgF2層形成の初期段階(図7の期間T2)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:350A(T2終期)
(B)MgF2層の形成段階(図7の期間T3)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:230A(T3終期)
かくして厚さ54nmのMgF2層を反射膜の表面に作製することができた。このMgF2層作製の全期間を通じて基板50の表面温度は、40℃以上で反応するサーモシールが反応しなかったことから40℃未満に保持されていた。
引き続き、
蒸発材料9:酸化イットリウムY23(純度99%)
チャンバ11内への導入ガス:Arガスおよび酸素ガス
高周波電力供給電源5からの基材保持部2への印加電力:周波数13.56MHzで85mW/cm2(基材保持部2の単位面積当たりの印加電力)
直流印加電源6:陰極側を基材保持部2に接続し、陽極側をボート1に接続
直流印加電源6から基材保持部2への印加電圧:230V
チャンバ11:接地されていない電気的に浮遊状態
23層の形成速度:15Å/秒以下
(A)Y23層形成の初期段階(図3の期間T2)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:350A(T2終期)
(B)Y23層の形成段階(図7の期間T3)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:230A(T3終期)
かくして厚さ20nmのLaTiO3層を基材50表面に作製することができた。この薄膜作製の全期間を通じて基板50の表面温度は40℃未満に保持されていた。
(IV) 第二透明誘電体層54
前記2層に代えてLa2Ti38を使用した他は前記(I)と同様にして、Y23層の表面に厚さ50nmのLa2Ti38層を作製した。このLa2Ti38層作製の全期間を通じて基板50の表面温度は、40℃以上で反応するサーモシールが反応しなかったことから40℃未満に保持されていた。
実施例1で得た光反射鏡について、以下の評価試験を行った。
1.表面状態
反射膜表面の表面状態およびPV値を非接触三次元輪郭測定機(三鷹光機(株)製の商品名「NH−3SP」)により測定した。その結果を図9に示す。図9は対物レンズの倍率100倍で測定された反射膜表面の三次元形状を示している。図9から、反射膜中央部の表面は、鋭角な突起のない、なめらかな面であることがわかる。また、同図から測定される高さ(厚み)方向の最大値は0.21μm、最小値は−0.20μmであるので、PV値は約0.4μmとなる。
2.可視光領域での反射率測定
可視光領域(波長:約350〜750nm)での反射率をレンズ反射率測定器(オリンパス(株)のUSPM−RU)にて測定した。その結果、中央部の反射率は98%であった。
なお、密着性向上膜51としてCr、CrO、Cr23、Y23、La2Ti38,SiO2,TiO2およびAl23のいずれかを用いた場合、第一透明誘電体層53としてSiO2、23を用いた場合、および第二透明誘電体層54としてLaTiO3,SiO2,TiO2およびAl23のいずれかを用いた場合、いずれも上記実施例と同様な特性を有する反射鏡が得られた。
3.腐食試験
[耐湿度試験]
実施例1で得た光反射鏡を温度60℃、湿度95%の雰囲気に100時間保持したときの腐食の進行性を調べた。その結果、突起部の外側である周辺部には腐食が発生したのに対し、突起部の内側である中央部分には腐食が認められなかった。
一方、ガラス基材の表面に反射膜を被着させた平面ミラーでは、周辺部に突起がないので、外周部で発生した腐食の進行は外周から約3mm程度まで進行した。
このことから、突起部の存在は、突起部の外で発生した腐食の進行を突起部内側の光反射領域への進行を阻止する作用を果たしていることを確認した。
4.X線回折による(111)ピーク強度
X線回折装置(理学電気社製のRINT1400V型)を用い、X線出力50kV‐200mA、測定範囲2θ=10°〜100°、発光スリット−散乱スリット−受光スリット:1°−1°−0.3mmにて測定した。その結果、実施例の中央部分における反射膜52は、(111)ピーク強度がその他のピーク強度の合計の約23倍であった。
本発明の一実施形態にかかる投写用光反射鏡を示す概略正面図である。 図1に示すA部の拡大図である。 本発明におけるプラスチック基材の成形用金型の概略断面図である。 図3に示すB部の拡大図である。 本発明の一実施形態にかかる光反射鏡を示す断面図である。 本発明の光反射鏡を製造するための薄膜形成装置の一例を示す概念図である。 薄膜形成のプロセスを示す説明図である。 本発明の光反射鏡の適用例を示す斜視図である。 実施例1で得た反射膜の表面状態を三次元表示したグラフである。 背面プロジェクターの原理を示す説明図である。 薄型背面プロジェクターの原理を示す説明図である。
符号の説明
1:ボート、3:加熱電源、4:マッチング装置、5:高周波電力供給電源、6:直流電圧印加電源、9:蒸発材料、11:チャンバ、20:蒸発源、50:プラスチック基材、51:誘電体層、52:反射層、53:第一透明誘電体層、54:第二透明誘電体層、55:プラスチック基材、56:反射膜、62:中央部分、63:周辺部分、64:突起部、100:プロジェクター用反射鏡

Claims (11)

  1. 基材の表面に反射膜を被着させた光反射鏡であって、前記基材には、像を投写するための光反射面となる中央部分を囲むように、前記反射膜表面の周辺部に突起部が設けられていることを特徴とする光反射鏡。
  2. 前記突起部は、高さが0.01〜0.05mm、幅が0.01〜0.05mmであることを特徴とする請求項1に記載の光反射鏡。
  3. 前記反射膜表面の中央部分は、鋭角な突起のない、なめらかな面であり、反射率が96%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光反射鏡。
  4. 中央部分の表面粗さRzが0.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光反射鏡。
  5. 前記反射膜の中央部分が、X線回折による(111)ピーク強度がその他のピーク強度の合計の20倍以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光反射鏡。
  6. 前記反射膜の厚みが100〜200nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光反射鏡。
  7. 基材が熱硬化性樹脂からなるプラスチック基材である請求項1〜6のいずれかに記載の光反射鏡。
  8. 前記プラスチック基材は、不飽和ポリエステル樹脂7〜19質量%、熱可塑性樹脂6〜19質量%、無機充填剤70〜84質量%、強化繊維5質量%以下および硬化剤0.1〜3質量%からなる熱硬化性樹脂組成物を成形したものであることを特徴とする請求項7に記載の光反射鏡。
  9. 熱硬化性樹脂組成物を成形してプラスチック基材を得、このプラスチック基材の表面に反射膜を被着させる光反射鏡の製造方法であって、
    前記プラスチック基材の周辺部に対応する部分と中央部分に対応する部分との境界部に凹部を設けた金型を使用して、前記プラスチック基材を成形し、プラスチック基材の周辺部に反射膜表面の中央部分を囲むように突起部を設けることを特徴とする光反射鏡の製造方法。
  10. 前記金型は、前記プラスチック基材の周辺部に対応する金型部材と、中央部分に対応する金型部材とを有し、両金型部材が一体に結合された状態での当該両金型部材間にすき間がある金型である請求項9記載の光反射鏡の製造方法。
  11. 請求項1〜8のいずれかに記載の光反射鏡を具備したことを特徴とするプロジェクター。
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