JP2006300855A - 有機部材を具備する構造体の寿命推定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】有機部材を具備する配線基板などの構造体について、試験時に晒される温度環境下での材料特性の変化をも考慮しつつ、高精度の信頼性評価を得ることのできる寿命試験方法を提供する。
【解決手段】(1)有機部材を具備する構造体の寿命推定方法であって、(a)前記有機部材について、異なる温度において破壊強度の時間依存性を測定し、この測定結果から破壊強度の時間依存性を示す強度予測式を求める工程、(b)前記構造体について、シミュレーションモデルを用いて応力の時間依存性を示す応力曲線を求める工程、(c)(a)の強度予測曲線と(b)の応力曲線との交点を前記構造体の寿命として決定する工程、とを具備する。
【選択図】図5
【解決手段】(1)有機部材を具備する構造体の寿命推定方法であって、(a)前記有機部材について、異なる温度において破壊強度の時間依存性を測定し、この測定結果から破壊強度の時間依存性を示す強度予測式を求める工程、(b)前記構造体について、シミュレーションモデルを用いて応力の時間依存性を示す応力曲線を求める工程、(c)(a)の強度予測曲線と(b)の応力曲線との交点を前記構造体の寿命として決定する工程、とを具備する。
【選択図】図5
Description
本発明は、有機部材を具備する構造体の寿命推定方法に関し、特に、有機絶縁材料により構成される配線基板などの機械的な寿命を短時間かつ高精度に予測する有機部材を具備する構造体の寿命推定方法に関する。
近年、LSIの集積度の増加並びに伝送信号の高速化に伴い、これを実装するために用いられる半導体素子収納用パッケージ等の配線基板はタングステンやモリブデンをメタライズとして用いるセラミック製のものから低抵抗の銅箔配線を用いることのできる有機樹脂製に置き換わってきている。
このような有機樹脂製の配線基板を構成する絶縁層は、通常、高強度化をはかるためにガラスクロスを用いて複合化されており、しかも有機樹脂材料は元々セラミック材料に比較して吸湿性が高いものであるものの、LSIを保護する半導体素子収納用パッケージとしてはセラミック製のパッケージと同レベルの信頼性を要求されていることはいうまでもない。そのため、このような有機樹脂製の配線基板についても、開発段階から信頼性評価が行われているが、信頼性評価の方法としては、被験体として従来より実際の製品を用いて、例えば温度サイクル試験や熱衝撃試験が実施されている(例えば、特許文献1参照)。
また、最近では、上記した温度サイクル試験等に代わる信頼性試験方法として、温度サイクル試験や熱衝撃試験に比べてより短時間に信頼性の評価が可能な機械荷重による疲労試験が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開平10−90349号公報
特開2000−97833号公報
しかしながら、上記した温度サイクル試験や熱衝撃試験を行う場合、用いる被検体は実際の製品と同じ構造を有するものを用いなければならず、特に、有機樹脂材料の選定の段階では製品形状の被験体の作製は時間と手間がかかる上に、作製した被験体が構造的に完成度の低い場合があり、材料選定の段階において有機樹脂材料の特性以外の因子による影響を払拭できない状態で信頼性試験が行われるという問題があった。
また、温度サイクル試験や熱衝撃試験は、例えば表面実装部品が実装された配線基板を高温の気体や液体と低温の気体や液体に交互にさらすことにより、当該配線基板に熱的なひずみを生じさせるものであるが、上記の信頼性試験では、各温度にさらされる時間が、気体の場合に15分以上、液体の場合に5分以上が必要となるものである。このため1サイクルの所要時間が気体の場合に30分以上、液体でも10分以上となり、例えば1000サイクルの試験を行おうとすると気体の場合で20日以上、液体の場合で7日以上と大変長い期間を要するために、製品開発における信頼性評価期間の長さが全体の開発期間の長期化の原因となっていた。
また、信頼性試験として上述した機械荷重による疲労試験を用いた場合、荷重の繰り返し頻度を高めることにより評価期間の短縮を図ることができるものの、上記の温度サイクル試験や熱衝撃試験の時と同じように、実際の製品と同じ形状の試料が必要であり、この場合も材料選定の段階にあっても被験体の作製に時間と手間がかかっている。また、この機械荷重による疲労試験方法は、通常、室温における被験体の純機械的な疲労による信頼性を評価するものであり、被験体の評価が温度依存性まで考慮されたものではない。そのため信頼性試験において有機樹脂材料の高温時の熱による劣化および低温時における降伏応力の変化が考慮されていないものであることから、このような疲労試験では被験体として用いる各材料の強度劣化や靭性が急激に劣化する降伏応力特性に適応した高精度の評価結果を得ることができないという問題があった。
従って本発明は、有機部材を具備する配線基板などの構造体について、試験時に晒される温度環境下での材料特性の変化をも考慮しつつ、高精度の信頼性評価を得ることのできる寿命試験方法を提供することを目的とする。
本発明の有機部材を具備する構造体の寿命推定方法は、(1)有機部材を具備する構造体の寿命推定方法であって、(a)前記有機部材について、異なる温度において破壊強度の時間依存性を測定し、この測定結果から破壊強度の時間依存性を示す強度予測曲線を求める工程、(b)前記構造体について、シミュレーションモデルを用いて応力の時間依存性を示す応力曲線を求める工程、(c)(a)の強度予測曲線と(b)の応力曲線との交点を前記構造体の寿命として決定する工程、とを具備することを特徴とする。
また上記有機部材を具備する構造体の寿命推定方法では、(2)前記強度予測曲線が、前記有機部材を温度T1で放置した後に、前記温度T1よりも低い温度T2において測定した破壊強度を用いて得られたものであること、(3)前記応力曲線が、前記構造体の粘弾性解析により求められたものであること、が望ましい。
本発明は、有機部材について異なる温度において評価した破壊強度のパラメータと応力シミュレーション結果との関係によって寿命を推定する方法であるために、試験時に晒される温度環境下での材料特性の変化をも考慮しつつ、高精度の信頼性評価を得ることができる。
本発明にかかる有機部材を具備する構造体の寿命推定方法は、(a)強度予測曲線を求める工程と、(b)シミュレーション技術により応力曲線を求める工程、および、これら(a)(b)工程の組合せによって成り立っている。
(a)強度予測曲線を求める工程
有機部材を具備する構造体である被検体の寿命推定を行うに当たり、本発明では、予め、寿命の基準とする有機部材の強度予測式(曲線的変化も含む)をたてて強度予測曲線を求める。
有機部材を具備する構造体である被検体の寿命推定を行うに当たり、本発明では、予め、寿命の基準とする有機部材の強度予測式(曲線的変化も含む)をたてて強度予測曲線を求める。
一般に、高分子材料を主成分とする有機部材は高温では延性に富むが、低温では脆化し、破断伸びが著しく低下する特徴をもつものであり、一方、高温で長期間保持されることにより熱的に酸化し強度が低下することが知られている。
したがって、温度サイクル試験などの信頼性試験では、このサイクル試験の高温側保持過程で強度が低下し、その強度が発生応力よりも小さくなった時点の低温側の温度で破壊が発生すると考えられている。なお、ここで用いられる有機部材としては、配線基板の絶縁層用有機樹脂として用いられる有機樹脂については殆どの材料を用いることができるが、特に、高耐熱性、耐食性などに優れているという理由からエポキシ樹脂、アクリル樹脂、APPEなどが好適である。
また、本発明の強度予測曲線を求める工程において用いる有機部材の試料形状はJISの強度試験片などのような短冊状あるいはダンベル状の試料が好適である。
図1は、本発明にかかる有機部材について異なる温度環境下で評価した破壊強度の時間依存性を示すグラフである。この場合、破壊強度とは引張強度のことであり、図1中の測定点が実測値、その実測値に沿って描いた曲線が強度予測曲線である。
また、この結果は評価の対象である有機部材を高温(T1)側の温度環境下に一定時間放置したものを、次に前記放置温度T1よりも低い温度環境下において引張強度試験を行ったものである。横軸に温度T1での放置時間t、縦軸に引張強度をプロットすると、強度は時間に依存して指数関数的に劣化していき、長時間放置後は強度が一定の値に近づく傾向がある。このように有機部材を長時間放置した後に強度が一定値に近づくのは、有機部材を高い温度放置した場合引張強度は低下するが、これは有機部材の酸化による劣化に起因していると考えられている。つまり、有機部材中において、ある温度では酸化する分子の量が有限であるために、図1に示されるように有機部材の引張強度はある時間で一定の強度に落ち着くような挙動を示すのである。
このような結果を基にして、有機部材の引張強度が一定の引張強度以下には低下しないと仮定すると、任意の時間後の強度は、初期の引張強度と劣化が下限値まで進行した長時間放置後の引張強度の差として、放置時間tに依存して指数関数的に劣化する式(数1)で表すことができる。ここで、σ0は初期強度、σはある時間放置後の強度、σ∞は加熱によって劣化した強度の下限値を示す。つまり、破壊強度は放置時間とともに初期の破壊強度と劣化が下限値まで進行した長時間高温放置後の破壊強度との差に比例して指数関数的に劣化しており、反応速度定数(k)はアレニウスの式数2(式中A:頻度因子、E:活性化エネルギー、R:気体定数、T:放置温度)に従うことを特徴とする。
次に、引張強度と放置時間を対数近似し数1より各温度での反応速度係数kを求める。ここで、頻度因子Aと活性化エネルギーEは材料に固有の値であり、Rは気体定数である。
この場合、図1に示す強度予測曲線は2つ以上の温度環境下にそれぞれ放置させた有機部材からなる被験体について引張強度の時間依存性を評価し、数1から求めた反応速度係数kと放置温度を数2式に代入して、化学反応論に基づいて頻度因子Aと劣化の活性化エネルギーEを算出して、放置時間と引張強度の関係として表したものである。
即ち、本発明に係る強度予測式は用いる有機部材を温度T1で放置した後に、前記温度T1よりも低い温度T2において測定した破壊強度を用いて得られたものが好ましいが、特に、有機部材となる有機樹脂材料を高温放置して劣化させ、この有機樹脂材料が脆性挙動を示す低温側の温度において引張り試験を行うことで温度サイクル試験を模擬して強度(破壊強度)を求めるものである。
また、本発明にかかる強度予測式とその予測曲線は破壊強度を脆化温度以下の破壊ひずみと動的粘弾性測定より求めた弾性率の積によって推定することもでき、これら破壊強度もしくは脆化温度以下の破壊ひずみと動的粘弾性測定より求めた弾性率との積によって推定される破壊強度を用いて劣化強度式である数1から算出することもできる。
そして、本発明の方法は同一条件での試験数を増やして強度のばらつきを評価することによりばらつきを考慮した強度曲線とすることもできる。
さらには、低温での脆化挙動における強度を統計的に整理する手法としてはワイブル分布関数を適用させることが適しているが、上記数1式で予測する強度にばらつきを考慮することでばらつきを加味した寿命推定を行うこともできる。
この場合、製品の寿命には材料強度以外の種々の因子が影響する。そのため数1式を用いて平均強度を予測すると、ワイブル係数の値によって推定する寿命値が影響を受ける。そこで数1式で予測する強度を、例えばワイブル分布関数の尺度母数に相当する破壊確率63%程度の強度にすることで、より精度のより寿命推定が可能となる。
(b)シミュレーション技術により応力曲線を求める工程
本発明にかかる(b)工程は、被検体である有機部材を具備する構造体についての温度や時間に依存した変形挙動を考慮するために、粘弾性解析を用いて発生する最大主応力を求めるものである。有機部材を具備する構造体について応力計算を行うために緩和弾性率と温度の関係を表すマスターカーブを以下の手順で求める。
本発明にかかる(b)工程は、被検体である有機部材を具備する構造体についての温度や時間に依存した変形挙動を考慮するために、粘弾性解析を用いて発生する最大主応力を求めるものである。有機部材を具備する構造体について応力計算を行うために緩和弾性率と温度の関係を表すマスターカーブを以下の手順で求める。
まず、有機部材を具備する構造体について動的粘弾性特性評価(DMA)により緩和弾性率の温度変化について周波数を変えて評価する。なお、本発明のシミュレーション技術により応力曲線を求める工程においてシミュレーション時に想定する構造体の試料形状は、例えば、薄型矩形状の半導体素子収納用パッケージやビルドアップ配線基板などが好適であり、また、用いる有機部材は上述の強度予測式を求める工程において用いる有機部材であることはゆうまでもない。
図2は本発明で作成したエポキシ樹脂の緩和弾性率のマスターカーブを示す図である。次に、上記動的粘弾性特性評価(DMA)において評価した緩和弾性率において周波数を緩和時間t’に換算し、時間と弾性率の関係を求める。この場合、被験体である構造体を構成する有機部材のガラス転移温度から50℃高い温度を基準温度T0とし、この基準温度T0の緩和弾性率曲線に対応するように各温度Tの貯蔵弾性率曲線を時間軸に対して平行にシフトさせて図2に示す1本のマスターカーブを求める。
図3は、本発明で作成したエポキシ樹脂のシフト量と温度の関係を示す図である。次に、上記したマスターカーブを得る際に求めたシフト量と温度Tの関係を次式で表されるWilliams−Landel−Ferry(WLF)式より近似する。ここでC1、C2は定数である。1はWLF式の近似曲線である。
なお、有機部材の種類によってはWLF式ではなく、アレニウスプロットの方がシフト量と温度の関係をよく近似できる場合もある。この場合はWLF則ではなく、アレニウスプロットを用いてシフト量と温度の関係を定式化すればよい。
図4は、本発明で作成したエポキシ樹脂の緩和弾性率と換算時間の関係を表す図である。以上の方法で求めたマスターカーブとシフト量aT0(T)から、測定温度Tと物理時間tを指定すれば換算時間t’が決まり、緩和弾性率Erを求めることができる。また、構造体を構成するその他の有機部材においても同様にマスターカーブとシフト量を求めて粘弾性解析を行う。
(c)寿命推定
図5は、強度予測曲線とシミュレーションによる最大主応力から寿命時間を算出する方法を示す図である。本発明では、図5に示すように、(a)強度予測曲線を求める工程と、(b)シミュレーション技術により応力曲線を求める工程とを組み合わせて有機部材を具備する構造体の寿命を推定する。この場合、(a)の強度予測曲線と(b)の応力曲線との交点を前記構造体の寿命として決定するものである。こうして有機部材の熱によって劣化していく破壊強度が、シミュレーション技術の工程で求めたモデルに発生する最大主応力以下となる時間を寿命時間として算出できる。2は強度予測曲線、3は応力曲線、4は強度予測曲線と応力曲線との交点を示すものである。
図5は、強度予測曲線とシミュレーションによる最大主応力から寿命時間を算出する方法を示す図である。本発明では、図5に示すように、(a)強度予測曲線を求める工程と、(b)シミュレーション技術により応力曲線を求める工程とを組み合わせて有機部材を具備する構造体の寿命を推定する。この場合、(a)の強度予測曲線と(b)の応力曲線との交点を前記構造体の寿命として決定するものである。こうして有機部材の熱によって劣化していく破壊強度が、シミュレーション技術の工程で求めたモデルに発生する最大主応力以下となる時間を寿命時間として算出できる。2は強度予測曲線、3は応力曲線、4は強度予測曲線と応力曲線との交点を示すものである。
即ち、本発明にかかる(a)工程は、このように、温度サイクル試験の高温時における熱劣化を考慮して該被検体を高温放置し、低温時における脆化を考慮して低温状態で引張り試験を行うことで温度サイクル試験における温度依存性を再現して材料評価を行うことができる。以上のような試験の方法であれば、該被検体の強度劣化は高温放置時間だけで求めることができ、従来の温度サイクル試験や熱衝撃試験では多大に必要であった試験時間を大幅に短縮することができる。
また、(b)工程は、シミュレーションによって実際の製品形状での発生応力を求め、寿命推定を行うために、破壊応力を求めるための該被検体は寿命推定基準とする有機絶縁材料の試験片形状であり、実際の製品形状への加工を必要とせず試験期間を短くすることができる。
以上詳述したように、本発明の寿命推定法は、寿命対象とする有機部材の破壊強度の経時変化を高温放置試験により予め求めて強度予測式を作成するとともに、シミュレーションで該構造体に発生する応力を求め、前記強度予測式から求めた強度が、前記応力よりも低くなるときにき裂が発生するという関係をもって該構造体の寿命を推定することを特徴とする寿命推定方法である。この方法により、実際の製品の信頼性試験の評価期間を短縮することが可能であり、また、信頼性評価用の製品作製の加工時間と手間をも短縮できる。
本発明の寿命推定方法の実施例として、ビルドアップ配線基板を対象として寿命推定を行った。このビルドアップ配線基板は複数の有機材料から構成されており、−55℃⇔125℃(各15分間保持)の温度サイクル試験においてエポキシ樹脂を主成分とするビルドアップ絶縁層に発生するクラックが不良原因となっている。
(a)強度予測曲線を求める工程
本実施例ではビルドアップ配線基板の寿命推定を行うため、それに用いられる有機部材の強度評価を行い強度予測式を作成した。
本実施例ではビルドアップ配線基板の寿命推定を行うため、それに用いられる有機部材の強度評価を行い強度予測式を作成した。
まず、シート状に積層したビルドアップ絶縁材料をダンベル形状の引張り試験片へと加工し、85℃、125℃、150℃の3温度で100〜2000時間放置した。この試験片の引張り試験を−55℃で行い、平均強度と放置時間の関係をプロットした。各温度における強度の変化を最小二乗法を用いた近似曲線により近似し、反応速度係数kを求めた。このkの値をアレニウスプロットしたところ、活性化エネルギーEは約14kcal/molを得た。活性化エネルギー14Kcal/molは樹脂材料の熱酸化の活性化エネルギーに一致している。また、初期状態で15本の引張り試験を行い得られた強度をワイブル分布関数により整理した。得られた破壊確率63%の強度予測式を数7式および数8式に示す。
次に、85℃、125℃、150℃におけるビルドアップ絶縁材料の強度予測曲線を図1に試験結果とともに示した。両者はよく一致しており、数7式および数8式により破壊の経時変化を精度よく予測することができている。
次に、破壊強度を求める手段として、破壊ひずみと弾性率から予測する方法も検証した。図6は、本発明に用いたエポキシ樹脂の測定温度と破壊ひずみの関係を示す図である。図6は−100℃から125℃における破壊ひずみをプロットしたものである。−30℃以下ではエポキシ樹脂が脆化して破壊ひずみがほぼ一定になっている。つまり、脆化温度以下の破壊ひずみが分かれば、その他の脆化温度以下の破壊ひずみを求めることなく弾性率の温度依存性から破壊強度を推定することができる。
表1から、−30℃以下の破壊ひずみは全て−30℃の破壊ひずみ0.0234を代用して推定した。脆化温度以下である−30℃以下であれば推定した破壊強度と引張り試験における破壊強度が良く一致を示している。この手法を用いれば、例えば同じ材料で低温域の温度を変化させて寿命推定を行う場合に、引張り強度測定を行う時間を大幅に短縮できる。
(b)シミュレーション技術により応力曲線を求める工程
本実施例のビルドアップ配線基板モデルを構成する有機材料を粘弾性体近似して発生する最大主応力を求めた(図3参照)。はじめに各有機材料の応力計算を行うために緩和弾性率と温度の関係を表すマスターカーブを作成した。緩和弾性率はセイコー電子工業製DMS6100型で評価した。例としてエポキシ樹脂の緩和弾性率のマスターカーブ作成の手順を以下に示す。
本実施例のビルドアップ配線基板モデルを構成する有機材料を粘弾性体近似して発生する最大主応力を求めた(図3参照)。はじめに各有機材料の応力計算を行うために緩和弾性率と温度の関係を表すマスターカーブを作成した。緩和弾性率はセイコー電子工業製DMS6100型で評価した。例としてエポキシ樹脂の緩和弾性率のマスターカーブ作成の手順を以下に示す。
まず、測定温度を固定して、可振周波数を1、3、6、10、30、60および100Hzとし、緩和粘弾性を評価した。
次に温度を固定し、周波数と弾性率の関係を求めた。固定する温度は25℃から250℃までとした。ここで、周波数を緩和時間t’に換算し、時間と弾性率の関係をプロットした。
基準温度T0を230℃として各温度Tの貯蔵弾性率曲線を基準温度T0の緩和弾性率曲線に時間軸に対して平行にシフトさせ、1本のマスターカーブを作成した。
次に、上記のマスターカーブを得る際に求めたシフト量と温度Tの関係をWilliams−Landel−Ferry(WLF)式より近似しシフト量と温度Tの関係を求めた。図3中の1はWLF近似線を表している。近似式を数9式に示した。
以上の方法で求めたマスターカーブとシフト量aT0(T)から、測定温度Tと物理時間tを指定すれば換算時間t’が決まり、緩和弾性率Erを求めることができる。ビルドアップ配線基板を構成するその他の有機材料(アンダーフィル、ソルダーレジスト、コア層)においても同様にマスターカーブとシフト量aT0(T)を求めて粘弾性解析を行った。
図7は、本発明の解析モデルの形状を示す図である。解析モデルはエポキシ樹脂と複数の有機材料が積層構造を成している有機積層基板5と金属からなる枠体6と電子部品7から成る構造体であり、1/4対象モデルをソリッド要素にて作成した。解析条件は温度サイクル試験条件に合わせて125℃から−55℃に降温した。冷却速度は10℃/5秒とした。解析は有限要素法解析ソフトMARCを用いて計算を行った。
図8は、本発明のエポキシ樹脂に生じる最大主応力分布を示す模式図である。解析の結果、エポキシ樹脂に生じる最大主応力は半導体素子7の角部に集中して発生しており、最大値は95.6MPaであった。この応力集中箇所は実際の製品のクラック発生箇所と一致していた。有機部材であるエポキシ樹脂には最大主応力が生じ、8が応力集中箇所である。
(c)寿命推定
温度サイクル試験では、高温側温度の保持過程でエポキシ樹脂の強度が低下し、低温側保持温度で延性が低下することでクラックが発生する。エポキシ樹脂の強度予測式数7式および数8式に粘弾性解析で算出した95.6MPaを代入すると、寿命時間は268時間と算出される。高温側保持時間は1サイクルあたり15分間であるから、高温側の累積時間が268時間になるのは1072サイクル後である。したがって、このパッケージの寿命サイクル数は1072サイクルと推定される。
温度サイクル試験では、高温側温度の保持過程でエポキシ樹脂の強度が低下し、低温側保持温度で延性が低下することでクラックが発生する。エポキシ樹脂の強度予測式数7式および数8式に粘弾性解析で算出した95.6MPaを代入すると、寿命時間は268時間と算出される。高温側保持時間は1サイクルあたり15分間であるから、高温側の累積時間が268時間になるのは1072サイクル後である。したがって、このパッケージの寿命サイクル数は1072サイクルと推定される。
実際の製品試料を−55℃〜125℃の温度サイクル試験に投入し、試験結果をワイブルプロットした。破壊確率63%のサイクル数は1195サイクルであり、推定結果とよい一致を示した。
そして、従来、温度サイクル試験や耐熱衝撃試験では2ヶ月以上の日数を要していたものが、上記した本発明の寿命推定方法を用いた場合には、予め行う材料強度の評価に1週間から1ヶ月を要するものの、この材料強度特性がわかっている場合には、シミュレーションによる応力および寿命推定に要する日数は1日であった。
5 有機積層基板
6 枠体
7 半導体素子
8 応力集中箇所
6 枠体
7 半導体素子
8 応力集中箇所
Claims (3)
- 有機部材を具備する構造体の寿命推定方法であって、
(a)前記有機部材について、異なる温度において破壊強度の時間依存性を測定し、この測定結果から破壊強度の時間依存性を示す強度予測曲線を求める工程、
(b)前記構造体について、シミュレーションモデルを用いて応力の時間依存性を示す応力曲線を求める工程、
(c)(a)の強度予測曲線と(b)の応力曲線との交点を前記構造体の寿命として決定する工程、
とを具備することを特徴とする有機部材を具備する構造体の寿命推定方法。 - 前記強度予測曲線が、前記有機部材を温度T1で放置した後に、前記温度T1よりも低い温度T2において測定した破壊強度を用いて得られたものである請求項1記載の有機部材を具備する構造体の寿命推定方法。
- 前記応力曲線が、前記構造体の粘弾性解析により求められたものである請求項1または2記載の有機部材を具備する寿命推定方法。
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