JP2006300018A - エンジンの可変バルブタイミング装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 位置規制機構を、簡易な構成で実現し、かつその耐久性を高めることが可能なエンジンの可変バルブタイミング装置を提供する。
【解決手段】 位置規制機構100を、ロータ35のベーン37の遅角油圧室39を形成する側面に設けられた有底孔部101aと、該有底孔部101aに前記遅角油圧室39に対して進出後退可能に装着された可動ピン部材102と、前記有底孔部101aにおける可動ピン部材102の背部に進角油圧室38から油圧を供給する連通路103と、該連通路103を介して可動ピン部材102の背部に導入された油圧を保持する逆止弁104とを有し、かつ、前記有底孔部101aが形成されたホルダ102の熱膨張係数を、可動ピン部材102の熱膨張係数よりも大きくする。
【選択図】 図6

Description

本発明は、エンジンの吸気カムシャフト上に設けられた可変バルブタイミング装置に関し、エンジンの動弁機構の技術分野に属する。
従来より、エンジンの運転状態等に応じて吸気弁や排気弁を駆動するカムシャフトのクランクシャフトに対する位相を可変とする可変バルブタイミング装置が知られている。この可変バルブタイミング装置としては、吸気用と排気用の両方を対象とするもの、またはこれらのいずれか一方を対象とするものがあり、その可変範囲も種々設定可能であるが、例えば、吸気用の可変バルブタイミング装置の場合、図13に示すように、吸気弁の開弁時期と排気弁の開弁時期とがオーバーラップする最進角位相と、吸気弁が圧縮上死点を超えてから閉弁される最遅角位相との間で可変とすることが考えられる。このように制御すれば、最進角側においては、内部EGRによりポンピングロスが効果的に低減されると共に、最遅角側においては、吸入容積よりも膨張容積の方が大きくなるアトキンソンサイクルが実現されることによりエンジンのエネルギ効率の向上が達成されることとなる。
ここで、可変バルブタイミング装置としては、例えば、吸気カムシャフト上に該シャフトに対して相対回転可能に設けられ、クランクシャフトに連動して回転する回転ハウジング部材と、吸気カムシャフトに固定されて、前記回転ハウジング部材内で該ハウジング部材に対して相対回転可能とされたロータとを有し、前記回転ハウジング部材の内周面から半径方向内方に延びる仕切壁とロータの半径方向外方へ延びるベーンとで形成された進角用油圧室及び遅角用油圧室への作動油の給排を制御することにより、吸気弁の開弁位相を可変とする構成のものがある。
このような構成の可変バルブタイミング装置においては、エンジンの停止時には、前記各油圧室から作動油が抜けると共に、ハウジング部材は、クランクシャフトの回転が停止するまでの間、該シャフトによりしばらくの間駆動される一方、吸気カムシャフトには、吸気弁を閉側に付勢するリターンスプリングの反力が作用しているので、該吸気カムシャフトの回転にブレーキがかかり、この結果、ロータがハウジング部材に対して最も遅角側の位置で停止することとなる。
したがって、次のエンジン始動は吸気弁の開弁位相が最遅角位相の状態で行われるわけであるが、一般に、エンジン始動の際の吸気弁の位相は、吸気弁の開弁時期と排気弁の開弁時期とがオーバーラップせず、かつ排気弁の閉弁完了時期と吸気弁の開弁開始時期とがあまり離れない位相であることが好ましいので、前述のように、アトキンソンサイクル実現のために吸気弁の開弁位相を遅角側に拡大していると、十分なエンジン始動性が得られなくなるという問題が生じる。特に、低温時においては、燃料の霧化が十分でなく、着火性が悪いため、エンジンの始動が一層困難となる虞がある。
そこで、エンジン始動、詳しくはクランキング時に、可変バルブ機構を作動させて、吸気バルブの位相をエンジンの始動性が良好となる位相まで進角させることが考えられるが、クランキング時は、エンジン回転数が低く、クランクシャフトを基準にする吸気カムシャフトの回転位相を正確に検出することができないので、適切な位相に制御することができず、最進角位相まで進角してしまうこととなる。
この問題に対処可能なものとして、例えば特許文献1には、エンジンの始動時、ロータの位相を最遅角位相よりも所定量進角側に進角させる位置規制機構を有するバルブタイミング調整機構が開示されている。詳しくは、この位置規制機構は、ロータのベーンに、進角油室に対して進退可能とされて側部に鋸歯状部が備えられたピン部材と、該ピン部材の進退方向に対して直交する方向に進退可能とされて前記鋸歯状部に係合可能な係合部を有する係合部材とを有し、エンジンのクランキング時にロータに作用する回転トルク変動によって前記鋸歯状部と係合部との噛み合いが一歯ずつずれ、これにより前記ピン部材が遅角用油圧室側に徐々に突出し、ロータが最遅角位相よりも所定量進角側に進角させるように構成されている。また、この特許文献1に記載の位置規制機構においては、係合状態(位相規制状態)は、進角用油圧室に所定油圧が供給されたときに、該油圧で前記係合部材が後退することにより解除されるようになっている。
特開平11−241608号公報
しかしながら、前記特許文献1に記載の位置規制機構においては、複雑な機構が必要となるだけでなく、前述のように、クランキング時のトルク変動により段階的に前記鋸歯状部と係合部との係合がずれるように構成されているので、前記鋸歯状部及び係合部の耐久性に不安がある。
そこで、本発明は、位置規制機構を、簡易な構成で実現し、かつその耐久性を高めることが可能なエンジンの可変バルブタイミング装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
まず、本願の請求項1に記載の発明は、吸気カムシャフト上に該シャフトに対して相対回転可能に設けられ、クランクシャフトに連動して回転する回転ハウジング部材と、吸気カムシャフトに固定され、前記回転ハウジング部材内で該ハウジング部材に対して相対回転可能とされたロータとを有し、前記回転ハウジング部材の内周面から半径方向内方へ延びる仕切壁とロータの半径方向外方へ延びるベーンとでハウジング部材内に進角用油圧室及び遅角用油圧室が形成されていると共に、これらの油圧室への作動油の給排を制御することにより、吸気弁の開弁位相を、該吸気弁と排気弁の開弁時期がオーバーラップする最進角位相と、吸気弁が圧縮上死点を超えてから閉弁される最遅角位相との間で可変とするエンジンの可変バルブタイミング装置であって、吸気弁の開弁位相が最進角位相よりも所定量遅角側となるように前記ベーンの回転ハウジング部材に対する位置を規制する位置規制機構が設けられており、該位置規制機構が、前記ロータのベーンの遅角用油圧室を形成する側面またはこの側面に対向する回転ハウジング部材仕切壁の側面に設けられた有底孔部と、該有底孔部に前記遅角用油圧室に対して進出後退可能に装着された可動部材と、前記有底孔部における可動部材の背部に進角用油圧室から油圧を供給する連通路と、該連通路を介して可動部材の背部に導入された油圧を保持する油圧保持手段とを有し、かつ、前記有底孔部を形成する部材の熱膨張係数が、可動部材の熱膨張係数よりも大きくされていることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記油圧保持手段は、連通路上に設けられ、進角用油圧室側から前記有底孔部側へのみ作動油を流通させる逆止弁であることを特徴とする。
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記油圧保持手段は、連通路上に設けられたオリフィスであることを特徴とする。
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、前記有底孔部を形成する部材がアルミニウム合金であり、可動部材がスチールであることを特徴とする。
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明において、前記ロータのベーンと回転ハウジング部材の仕切壁との対が複数組設けられており、前記位置規制機構は、この複数組の対のうちの一部にのみ設けられていることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の発明において、前記有底孔部を形成する部材は、ベーンまたは回転ハウジング部材とは別部材とされていることを特徴とする。
次に、本発明の効果について説明する。
まず、請求項1に記載の発明によれば、エンジン始動に際して、進角用油圧室に作動油が供給されると、ロータが回転ハウジング部材に対して進角方向に回転(つまり遅角用油圧室側に回転)し始めると共に、可動部材が進角用油圧室から連通路を介して背部に供給される油圧により遅角用油圧室内に進出する。そして、ロータがさらに進角方向に回転すると、可動部材の先端が仕切壁に当接することとなる。
その場合に、この可動ピン部材の背部の油圧は、油圧保持手段により保持されるので、ロータの進角方向への回転により可動部材の先端が仕切壁に当接しても、該可動部材が有底孔部内に後退しない。つまり、ロータのベーンと仕切壁とが当接する最進角状態となるのが規制されることとなる。したがって、吸気弁の開弁位相が最進角位相でない中間位相領域に保持され、良好な始動性が得られることとなる。
加えて、有底孔部を形成する部材の熱膨張係数が、可動部材の熱膨張係数よりも大きくされているから、エンジンの始動後、該エンジンが温まってくると、有底孔部を形成する部材が可動部材よりも大きく膨張して有底孔部と可動ピン部材との間に隙間が生じることとなる。したがって、可動部材の先端がベーンまたは仕切壁に当接した状態において、ベーンの進角用油圧室側の側面に進角用油圧が加わると、可動部材の背部の作動油がこの隙間を介して遅角用油圧室内へ漏れ、可動部材が有底孔部内に後退することとなる。すなわち、最進角位相の達成が可能となる。
加えて、背景技術に記載の位置規制機構のような、エンジンのクランキング時にロータに作用する回転トルク変動によって前記鋸歯状部と係合部との噛み合いを一歯ずつずれさせるような複雑な構成ではなく、簡易な構成とされているので、耐久性が向上することとなる。
そして、請求項2に記載の発明によれば、油圧保持手段は逆止弁であるから、可動部材の背部に導入された作動油を確実に保持することができる。また、油圧保持手段を容易に構成することができる。
また、請求項3に記載の発明によれば、油圧保持手段は、オリフィスであるから、可動部材の背面側に導入された作動油が徐々に漏れることとなる。したがって、エンジンの始動後、エンジンが温まるのを待つことなく、最進角位相への制御が可能となる。また、請求項2同様、油圧保持手段を容易に構成することができる。
また、請求項4に記載の発明によれば、前記有底孔部を形成する部材がアルミニウム合金であり、可動部材がスチールであるから、一般的な素材を用いて容易に請求項1の構成を実現することができる。
ところで、前述のように、温間時に可動部材と有底孔部との隙間から作動油が漏れると、位相制御が安定しなくなるのではと懸念が生じるかもしれないが、請求項5に記載の発明によれば、ロータのベーンと回転ハウジング部材の仕切壁との対が複数組設けられており、前記位置規制機構は、これらの複数組の対のうちの一部にのみ設けられているから、可動部材と有底孔部との隙間から作動油が漏れたとしても、位置規制機構が設けられていない対によって位相制御が安定して行われることとなる。
なお、例えば、ロータ全体を例えばアルミニウム合金で構成すると、エンジン温度の変化により、ロータ自体が、ベーン先端と回転ハウジング部材内面との間に隙間が生じるほど収縮したり、これらが摺動不能なほどに膨張する虞があるが、請求項6に記載の発明によれば、有底孔部を形成する部材は、ベーンまたは回転ハウジング部材とは別部材とされているから、このような懸念が生じることがない。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るエンジン1には、図外のクランクシャフト(符号2を付す)に平行に配置され、シリンダヘッド3とカムキャップ4とで回転自在に支持された、吸気カムシャフト5及び排気カムシャフト6が備えられている。これらのカムシャフト5,6の一端部近傍には、該カムシャフト5,6に対して所定範囲内で相対回転可能なスプロケット7,8が嵌合されると共に、これらのスプロケット7,8とクランクシャフト2側のスプロケットとの間にチェーン9が巻き掛けられている。そして、クランクシャフト2の回転に伴い、前記チェーン9を介して、両スプロケット7,8及び両カムシャフト5,6が回転し、これにより、カムシャフト5,6にそれぞれ固設された複数のカム10…10,11…11を介して、複数の吸気バルブ12…12及び排気バルブ13…13が開閉駆動される。なお、図示しないシリンダブロック及びシリンダヘッド3のカムキャップ4側の端面には、該端面を覆うフロントカバー14が取り付けられている。
また、このエンジン1には、前記クランクシャフト2に対するカムシャフト5の回転位相角(すなわちクランクシャフト2に対する吸気バルブ12…12の開閉時期の位相角)を変更する可変バルブタイミング装置20が設けられている。
この可変バルブタイミング装置20は、吸気カムシャフト5のスプロケット7側の端部に設けられた油圧式位相可変機構21と、該位相可変機構21の進角用油圧室38…38及び遅角用油圧室39…39(図2参照)に供給する油圧を制御する油圧制御弁22とを有する。
位相可変機構21は、図2、図3に示すように、内周面から半径方向内方へ延びる複数の仕切壁30…30を有する中空のハウジング31と、該ハウジング31の蓋部材32とを含み、ハウジング31と蓋部材32とが複数のボルト33…33によりスプロケット7に一体に固定された構造とされている。また、位相可変機構21は、前記ハウジング31に収容され、半径方向外方へ延びる複数の(より詳しくは、ハウジング31の仕切壁30と同数の)ベーン37…37を有するロータ35を含み、ロータ35が中心部の単一のボルト34により吸気カムシャフト5に一体に固定された構造とされている。各ベーン37…37は、スプロケット7とハウジング31と蓋部材32とロータ35とで囲まれた空間を、進角用油圧室38…38と遅角用油圧室39…39とに画成している。
油圧制御弁22は、図4に示すように、中空のバルブケース41と、該ケース41内で軸方向に移動可能なスプール42と、該スプール42を1方向に付勢するスプリング43とを有する。前記スプール42の軸方向の移動量は、図示しないコントロールユニットで駆動が制御されるアクチュエータ、例えば電磁ソレノイドなどで調整される。油圧制御弁22には、1つの入力ポート44と、2つのドレンポート45,46と、進角用出力ポート47と遅角用出力ポート48とが設けられている。そして、入力ポート44には、クランクシャフト2の回転に連動して作動する機械式の油圧ポンプに連通する油圧供給油路50が接続され、進角用出力ポート47及び遅角用出力ポート48には、前記進角用油圧室38…38及び遅角用油圧室39…39にそれぞれ連通する進角用油路51及び遅角用油路52が接続されている。
そして、この油圧制御弁22のスプール42の軸方向の移動量を制御することにより、進角用油路51及び遅角用油路52と入力ポート44との連通度、及びドレンポート45,46との連通度が変化し、前記進角用油圧室38…38及び遅角用油圧室39…39に供給される進角用油圧及び遅角用油圧が制御されるようになっている。
ここで、本実施の形態においては、前記ベーン37…37及び仕切壁30…30の配設位置、形状等は、吸気バルブ12…12の開弁時期が、前述の図13に示すように、該吸気バルブ12…12と排気バルブ13…13の開弁時期がオーバーラップする最進角位相と、吸気バルブ12…12が圧縮上死点を超えてから閉弁される最遅角位相との間で変更可能なように設定されている。
また、本エンジン1は、温間時、図5のマップに示すように、エンジン回転数及びエンジン負荷に基づいて吸気バルブ12…12の開弁位相が制御されるようになっている。すなわち、吸気バルブ12…12の開弁位相は、エンジン負荷が高くかつエンジン回転数が低中回転の領域にあるときに最も進角され、ポンピングロスの低減が図られるるようになっている。これに対し、この領域から離れるほど、詳しくは、エンジン回転数が低くまたは高くなるほど、またエンジン負荷が小さくなるほど遅角側に制御され、前述のアトキンソンサイクルが達成されるようになっている。
ここで、本実施の形態に係る可変バルブタイミング装置20には、吸気バルブ12…12の開弁位相を最進角位相よりも所定量遅角側に規制する位置規制機構100が設けられている。
この位置規制機構100は、図2に示すように、全てのベーン37…37に設けられているのではなく、単一のベーン37に設けられており、図6に示すように、該ベーン37を回転方向に貫通する貫通孔37aと、該貫通孔37aにねじ込まれ、遅角用油圧室39側に開口する有底孔部101aを有する筒状のホルダ101と、該ホルダ101の有底孔部101aに前記遅角用油圧室39に対して進出後退可能に装着された可動ピン部材102と、前記有底孔部101aにおける可動ピン部材102の背部と進角用油圧室38とを連通する連通路103と、該連通路103上に設けられ、進角用油圧室38側から前記有底孔部101a側へのみ作動油を流通させる逆止弁104とを有している。なお、この逆止弁104は、可動ピン部材102の背部に導入された油圧を保持する油圧保持手段として機能する。
ホルダ101は、有底孔部101aに可動ピン部材102が嵌め込まれた後、可動ピン部材102の脱落防止のために遅角油室側39の端部が内側に折り曲げられている。なお、この折り曲げた部分の先端開口101bと可動ピン部材102の外周面との間には、隙間が設けられている。
可動ピン部材102の長さ(回転方向長)は、該ピン部材102が図8に示すように遅角用油圧室39側へ最も進出して、仕切壁30の側面に当接した状態において、吸気バルブ12…12の開弁位相が最進角位相よりも所定量遅角側となる長さに設定されている。
逆止弁104は、前記連通路103を利用して構成されており、該連通路103の有底孔部101a側に形成された拡径部103aと、該拡径部103aに収納されたチェックボール105と、前記有底孔部101aの底部に圧入され、図7に示すような三つ葉状の開口106aを有するスプリングシート106とを有している。このスプリングシート106の開口106aは、図7に示すように、進角用油圧室38から有底孔部101aにおける可動ピン部材102の背部への作動油の流通が阻害されないように、最大直径が前記チェックボール105の直径よりも小さくされ、かつ作動油の流通時にチェックボール105が有底孔部101a内に移動しないように、最小直径がチェックボール105の直径よりも大きくされている。
図6に示すように、前記可動ピン部材102の連通路103側の底面には筒状凹部102aが設けられていると共に、該筒状凹部102aの底面とスプリングシート106との間にはコイルスプリング107が介設されている。このコイルスプリング107は、可動ピン部材102が仕切壁39に当接したときに該可動ピン部材102の底面がスプリングシート106の周縁に設けられたフランジ部に当接したときの衝撃を緩和するのを目的として設けられており、いずれの油圧室38…38,39…39にも油圧が供給されていない状態において、可動ピン部材102の底面とスプリングシート106との間に所定量の隙間が確保されるように、該可動ピン部材102を遅角用油圧室39側に付勢している。なお、衝撃があまり大きくない場合等は設けなくてもよい。
ここで、前記ホルダ101の熱膨張係数は、可動ピン部材102の熱膨張係数よりも大きくされている。詳しくは、ホルダ101はアルミニウム合金を用いて形成され、可動ピン部材102はスチール(鋼)を用いて形成されている。なお、位相可変機構21を構成するハウジング31、蓋部材32、ロータ35、スプロケット7等は、スチール(鋼)を用いて形成されている。
ベーン37の貫通孔37aの内径は、エンジン温度が所定温度以下の状態(例えば、吸気バルブ12…12の位相可変制御が難しい50〜60℃以下の状態)において、該貫通孔37aの内周面とホルダ101の外周面(ネジ部を除く)との間に所定量の隙間が生じるように、ホルダ101の外径よりも若干大きな径に設定されている。これは、エンジン1が暖まるにつれて、ホルダ101が半径方向外方に膨張可能とすることを目的としている。
他方、ホルダの101の有底孔部101aの内径は、エンジン温度が前記所定温度以下の状態において、該有底孔部101aの内周面と可動ピン部材102のフランジ部102bの外周面との間に隙間が生じず、かつホルダ101の有底孔部101a内で可動ピン部材102が回転方向に摺動可能な、フランジ部102bの外径とほぼ同じ径に設定されている。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
まず、エンジン1の停止状態において、乗員がエンジン1を作動させようとしてイグニッションスイッチをON操作すると、スタータモータが作動してエンジン1のクランキングが開始すると共に、機械式の油圧ポンプが作動を開始する。なお、イグニッションスイッチのON操作時には、進角用油圧室38…38及び遅角用油圧室39…39内の作動油は抜けた状態となっている。また、イグニッションスイッチがONとされた直後から、コントローラにより、吸気バルブ12…12の開弁位相が最進角位相となるように、つまり、進角用油圧室38…38に進角用油圧が供給されるように油圧制御弁22が制御される。
そうすると、クランキング中に、進角用油圧室38…38内に作動油が供給され始め、図6に矢印アで示すように、ロータ35がハウジング31に対して進角方向に回転(つまり遅角用油圧室39側に回転)し始める。また、これと同時に、可動ピン部材102が進角用油圧室38から連通路103を介して背部に供給される進角用油圧により徐々に遅角用油圧室39内に進出することとなる。そして、ロータ35がさらに進角方向に回転すると、図8に示すように、可動ピン部材102の先端が仕切壁30に当接することとなる。
その場合に、この可動ピン部材102の背部の作動油は、逆止弁104により進角用油圧室38側に戻るのが阻止されると共に、エンジン始動時等のエンジン温度が所定温度以下の状態においては、有底孔部101aの内周面と可動ピン部材102のフランジ部102bの外周面との間からも漏れることがないので、可動ピン部材102が遅角用油圧室39内に進出した図8に示す状態が保持され、この結果、ベーン37の進角用油圧室38側の側面に進角用油圧が加わっても、ベーン37がハウジング31に対してこれ以上進角方向に回転するのが規制されることとなる。したがって、エンジン1のクランキング時に、吸気バルブ12…12の位相が最進角位相よりも所定量遅角側の中間位相領域に保持され、良好な始動性が得られることとなる。
そして、エンジン1の始動完了後、時間が経過してエンジン1が温まってくると、ホルダ101の熱膨張係数が可動ピン部材102の熱膨張係数よりも大きくされていることに起因して、ホルダ101が可動ピン部材102よりも大きく膨張し、有底孔部101aの内周面と可動ピン部材102のフランジ部102bの外周面との間に隙間X(図9参照)が生じることとなる。したがって、可動ピン部材102の先端が仕切壁30に当接した状態において、ベーン37の進角用油圧室39側の側面に進角用油圧が加わると、可動ピン部材102の背部の作動油がこの隙間Xを介して矢印イで示すように遅角用油圧室39内へ漏れ、可動ピン部材102が有底孔部101a内に後退することとなる。すなわち、エンジン1の温間状態においては、図5に示すマップにしたがって、吸気バルブ12…12の開弁位相を、最進角位相と最遅角位相の間の範囲で制御することが可能となる。
以上のように、本実施の形態によれば、簡易な構成で、エンジン始動時における吸気バルブ12…12の開弁位相を最進角側よりも所定量遅角側に規制することができる。
加えて、背景技術に記載の位置規制機構のような、エンジンのクランキング時にロータに作用する回転トルク変動によって前記鋸歯状部と係合部との噛み合いを一歯ずつずれさせるような複雑な構成ではなく、簡易な構成とされているので、耐久性が向上することとなる。
また、油圧保持手段は逆止弁104であるから、可動ピン部材102の背部に導入された油圧を確実に保持することができる。また、油圧保持手段を容易に構成することができる。
また、有底孔部101aを有するホルダ101がアルミニウム合金であり、可動ピン部材102がスチールであるから、一般的な素材を用いて容易に位置規制機構100を構成することができる。
また、前記位置規制機構100は、複数のベーン37…37のうちの1つのベーン37にのみ設けられているから、可動ピン部材102とホルダ101の有底孔部101aとの隙間Xから作動油が漏れたとしても、位置規制機構101が設けられていない残りのベーン37…37によって位相制御が安定して行われることとなる。
また、有底孔部101aが形成されたホルダ101のみがアルミニウム合金を用いた別部材とされ、ベーン37とハウジング31とは同一の素材(スチール)を用いて形成されているから、例えば、ロータ35全体をアルミニウム合金で構成した場合のように、エンジン温度の変化によってベーン37の先端とハウジング31内面との間に隙間が生じるほど収縮したり、これらが摺動不能なほど膨張する虞がない。
なお、第1の実施の形態においては、特許請求の範囲の油圧保持手段を、逆止弁104で構成したが、例えば、オリフィスで構成してもよく、以下、この例について、第2、第3の実施の形態として説明する。なお、説明に際しては、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。また、位置規制機構以外のものについては、第1の実施の形態と同一であるので、説明は省略すると共に、引用する必要がある場合は同一の符号を用いる。
すなわち、第2の実施の形態に係る位置規制機構110においては、図10に示すように、連通路113の進角用油圧室38側の部分に絞り部(オリフィス)113aが設けられている。なお、スプリングシート114の孔114aは、連通路113とほぼ同径の円形孔とされている。
これによれば、イグニッションスイッチのONにより、クランキングが開始すると、進角用油圧室38内に作動油が供給され始め、矢印ウで示すように、ロータ37がハウジング31に対して進角方向に回転(つまり遅角用油圧室39側に回転)し始める。また、これと同時に、可動ピン部材112が進角用油圧室38から絞り部113aを有する連通路113を介して背部に供給される進角用油圧で付勢されて遅角用油圧室39内に進出することとなる。そして、ロータ35がさらに進角方向に回転すると、図11に示すように、可動ピン部材112の先端が仕切壁30に当接することとなる。
その場合に、第2の実施の形態においては、油圧保持手段が絞り部(オリフィス)113aにより構成されているから、可動ピン部材112の先端が仕切壁30に当接した場合、ベーン37の進角用油圧室38側の側面に進角用油圧が加わると、可動ピン部材112の背部の作動油が、絞り部113aを有する連通路113を介して矢印エで示すように進角用油圧室38内に徐々に漏れ、ベーン37がハウジング31に対して徐々に進角方向に回転することとなる。その場合に、この漏れに要する時間が、エンジン1の始動完了に要する時間に若干の余裕を加えた所定時間となるように絞り部113aの径を設定しておけば、エンジン1のクランキング中、可動ピン部材112が遅角用油圧室39内に進出した状態に保持され、吸気バルブ12…12の位相が最進角位相でない中間位相領域近傍に保持され、良好な始動性が得られることとなる。
そして、エンジン1のクランキング開始後、上記所定時間を経過すれば、該エンジン1が温まったか否かにかかわらず、最進角位相への制御が可能となる。また、第1の実施の形態同様、油圧保持手段を容易に構成することができる。
そして、エンジン1の始動完了後、時間が経過してエンジン1が温まってくると、ホルダ111の熱膨張係数が可動ピン部材112の熱膨張係数よりも大きくされていることに起因して、ホルダ111が可動ピン部材112よりも大きく膨張し、有底孔部111aの内周面と可動ピン部材112のフランジ部112bの外周面との間に隙間が生じることとなる。したがって、可動ピン部材112の先端が仕切壁30に当接した状態において、ベーン37の進角用油圧室38側の側面に進角用油圧が加わると、可動ピン部材112の背部の作動油が、前記絞り部113aを有する連通路113を介して進角用油圧室38内に漏れるだけでなく、前記隙間を介して遅角用油圧室39内へ漏れ、可動ピン部材112が有底孔部111a内に、第1の実施の形態の場合よりも、早く後退することとなる。したがって、より速やかに、最進角位相への制御が可能となる。
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態に係る位置規制機構120においては、図12に示すように、スプリングシート126に、ホルダ121に形成された連通路123の径よりも小径の孔126aが設けられている。これによれば、ロータ35が進角方向に(遅角用油圧室39側に)回転して可動ピン部材122の先端が仕切壁30に当接すると、可動ピン部材122の背部の作動油が、スプリングシート126の孔126aを介して漏れることとなり、また、エンジン1が温まってくると、有底孔部121aの内周面と可動ピン部材122のフランジ部122bの外周面との間に隙間が生じ、第2の実施の形態同様の作用効果が得られることとなる。
なお、前記各実施の形態においては、1つのベーンにのみ位置規制機構を設けたが、全てのベーンに設けない限り、2つのベーンや3つのベーンに設けてもよい。
また、位置規制機構100,110,120をベーン37に設けたが、ベーン37における遅角油圧室39側の側面に対向する仕切壁30の側面に設けてもよい。なお、この場合、可動ピン部材102,112,122は、仕切壁30から遅角用油圧室39内に所定量突出するようにすればよい。また、この場合においても、全ての仕切壁30…30に設けない限り、2つの仕切壁30,30や3つの仕切壁30…30に設けてもよい。
また、有底孔部101a,111a,121aはホルダ101,111,121に設けたが、前述した膨張による問題が許容範囲内であれば、ベーン37に直接設けてもよい。
最後に、特許請求の範囲の構成要素と実施の形態の構成要素との対応について説明しておく。まず、特許請求の範囲の請求項1におけるクランクシャフトは実施の形態のクランクシャフト2に対応し、吸気カムシャフトは吸気カムシャフト5に対応し、排気弁は排気バルブ13…13に対応し、吸気弁は吸気バルブ12…12に対応し、仕切壁は仕切壁30…30に対応し、回転ハウジング部材はハウジング31に対応し、ロータはロータ35に対応し、ベーンはベーン37…37に対応し、進角用油圧室は進角用油圧室38に対応し、遅角用油圧室は遅角用油圧室39に対応し、位置規制機構は位置規制機構100,110,120に対応し、有底孔部を形成する部材はホルダ101,111,121に対応し、有底孔部は有底孔部101a,111a,121aに対応し、可動部材は可動ピン部材102,112,122に対応し、連通路は連通路103,113,123に対応し、油圧保持手段は、第1の実施の形態の逆止弁104、第2の実施の形態の連通路の絞り部113a、第3の実施の形態のスプリングシートの孔126aに対応する。また、請求項2の逆止弁は逆止弁104に対応する。また、請求項3のオリフィスは、第2の実施の形態の連通路の絞り部113a、第3の実施の形態のスプリングシートの孔126aに対応する。
本発明は、エンジンの吸気カムシャフト上に設けられた可変バルブタイミング装置に広く適用することができる。
本発明の第1の実施の形態に係るエンジンの可変バルブタイミング装置の平面図である。 図1のA−A断面図である。 図2のB−B断面図である。 油圧制御弁の説明図である。 エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた吸気バルブの開弁位相を示すマップである。 図3のC−C断面図である。 スプリングシートの単品平面図である。 吸気弁の開弁位相が位置規制機構によって最進角位相よりも所定量遅角側に規制されているときの図6相当の図である。 吸気弁の開弁位相が最進角位相に制御されているときの図6相当の図である。 第2の実施の形態に係るエンジンの可変バルブタイミング装置についての図6相当の図である。 第2の実施の形態について、吸気弁の開弁位相が位置規制機構によって最進角位相よりも所定量遅角側に規制されているときの図6相当の図である。 第3の実施の形態に係るエンジンの可変バルブタイミング装置についての図6相当の図である。 吸気バルブの開弁位相制御の説明図である。
符号の説明
1 エンジン
2 クランクシャフト
5 吸気カムシャフト
12…12 吸気バルブ(吸気弁)
13…13 排気バルブ(排気弁)
30…30 仕切壁
31 ハウジング(回転ハウジング部材)
35 ロータ
37…37 ベーン
38 進角用油圧室
39 遅角用油圧室
100,110,120 位置規制機構
101,111,121 ホルダ(有底孔部を形成する部材)
101a,111a,121a 有底孔部
102,112,122 可動ピン部材(可動部材)
103,113,123 連通路
104 逆止弁(油圧保持手段)
113a 連通路の絞り部(オリフィス)
126a スプリングシートの孔(オリフィス)

Claims (6)

  1. 吸気カムシャフト上に該シャフトに対して相対回転可能に設けられ、クランクシャフトに連動して回転する回転ハウジング部材と、吸気カムシャフトに固定され、前記回転ハウジング部材内で該ハウジング部材に対して相対回転可能とされたロータとを有し、前記回転ハウジング部材の内周面から半径方向内方へ延びる仕切壁とロータの半径方向外方へ延びるベーンとでハウジング部材内に進角用油圧室及び遅角用油圧室が形成されていると共に、これらの油圧室への作動油の給排を制御することにより、吸気弁の開弁位相を、該吸気弁と排気弁の開弁時期がオーバーラップする最進角位相と、吸気弁が圧縮上死点を超えてから閉弁される最遅角位相との間で可変とするエンジンの可変バルブタイミング装置であって、
    吸気弁の開弁位相が最進角位相よりも所定量遅角側となるように前記ベーンの回転ハウジング部材に対する位置を規制する位置規制機構が設けられており、
    該位置規制機構が、
    前記ロータのベーンの遅角用油圧室を形成する側面またはこの側面に対向する回転ハウジング部材仕切壁の側面に設けられた有底孔部と、
    該有底孔部に前記遅角用油圧室に対して進出後退可能に装着された可動部材と、
    前記有底孔部における可動部材の背部に進角用油圧室から油圧を供給する連通路と、
    該連通路を介して可動部材の背部に導入された油圧を保持する油圧保持手段とを有し、
    かつ、前記有底孔部を形成する部材の熱膨張係数が、可動部材の熱膨張係数よりも大きくされていることを特徴とするエンジンの可変バルブタイミング装置。
  2. 請求項1に記載のエンジンの可変バルブタイミング装置であって、
    前記油圧保持手段は、連通路上に設けられ、進角用油圧室側から前記有底孔部側へのみ作動油を流通させる逆止弁であることを特徴とするエンジンの可変バルブタイミング装置。
  3. 請求項1に記載のエンジンの可変バルブタイミング装置であって、
    前記油圧保持手段は、連通路上に設けられたオリフィスであることを特徴とするエンジンの可変バルブタイミング装置。
  4. 請求項1から請求項3のいずれかに記載のエンジンの可変バルブタイミング装置であって、
    前記有底孔部を形成する部材がアルミニウム合金であり、
    可動部材がスチールであることを特徴とするエンジンの可変バルブタイミング装置。
  5. 請求項1から請求項4のいずれかに記載のエンジンの可変バルブタイミング装置であって、
    前記ロータのベーンと回転ハウジング部材の仕切壁との対が複数組設けられており、
    前記位置規制機構は、この複数組の対のうちの一部にのみ設けられていることを特徴とするエンジンの可変バルブタイミング装置。
  6. 請求項1から請求項5のいずれかに記載のエンジンの可変バルブタイミング装置であって、
    前記有底孔部を形成する部材は、ベーンまたは回転ハウジング部材とは別部材とされていることを特徴とするエンジンの可変バルブタイミング装置。
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