JP2006298671A - 熱光起電力発電用エミッタ材料 - Google Patents

熱光起電力発電用エミッタ材料 Download PDF

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Abstract

【課題】 室温から高温にわたって優れた機械的強度を有し、TPV発電機の作動温度での耐熱性、耐酸化性、耐熱衝撃性に優れ、かつ、GaSb光電変換セルに適した高い選択放射率を示す熱光起電力発電用エミッタ材料を提供する。
【解決手段】 本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料は、熱により選択的な波長で強い放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、Alと、一般式(MEr1-xAl12で表わされるM(Mは、Yb及びTmのうち少なくとも1つ)、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体からなり、前記xが0.05以上0.5以下であることを特徴とする。
【選択図】 図4

Description

本発明は熱光起電力発電技術に用いるエミッタ材料に係り、より具体的には、高温に加熱されたエミッタからの放射をその放射波長ピークの感度に整合した光電変換セル(PVセル)で受けて高効率に電力変換する固体素子発電システムである熱光起電力(TPV:Thermo-Photo-Voltaic)発電技術において用いる、選択的な波長で高い放射率を有する選択エミッタ材料に関する。
地球温暖化、化石燃料の枯渇など地球環境悪化への対応が緊急の課題となっていることから、環境への負荷が小さく、高効率で信頼性が高い発電システムが求められている。このような条件を満たす発電システムの有望な候補としてTPV発電技術が挙げられる。TPV発電技術では1000℃から2000℃程度に加熱されたある種の固体物質(エミッタ)からの放射エネルギーを波長フィルタリングして光電変換セルに照射することにより、高効率に電力を得ることができる。太陽光発電ではセルの受ける光のスペクトル分布は決まっているが、TPV発電技術では主にエミッタ材料の種類によりスペクトルを人為的に操作することが可能である。また、TPV発電技術のおいては、光照射密度が極めて高いなど、太陽光発電とは質及び量的にも優れていることが特徴である。
こうしたTPV発電機を従来の熱利用システムに組み込み、発生した高熱を利用して発電することにより、総合発電効率を高めることもできる。また、化石燃料の燃焼、太陽光集光熱、放射性同位体崩壊熱等、多種の熱源を適用できることや稼動部がないため低騒音且つ保守性に優れるなどの特徴をもっており、需要地近接型の小規模分散電源への応用が進められている。
TPV発電技術は、1000℃から2000℃程度に加熱されたある種の固体物質(エミッタ)からの放射エネルギーを波長フィルタリングして光電変換セルに照射することにより、高効率に電力を得るシステムであることから、従来から光電変換セルの感度領域に適合した強い放射光を出す材料の開発が進められてきた。TPV発電用のエミッタ材料には、広い波長帯域にわたって放射光を出す灰色体放射体と、希土類元素の4f軌道遷移を利用した希土類選択エミッタがある。希土類元素は6s、6p軌道に3個の電子をもつ3価の状態になりやすく、例えばホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)の4f殻電子系は、それぞれ10個、11個、12個、13個の電子をもつ多電子系であり、その高いエネルギー準位から低いエネルギー準位への遷移が起こると、そのエネルギー差は光として放出される。4f殻電子系は固体の結合に直接関与していないので、エネルギー準位は母材によって大きく変わることはない。よって、希土類イオンのf殻電子系は、固体中に合っても孤立した原子のように鋭く温度変化に対して安定な発光スペクトルを示す。Yb、Tm、Er、Hoのピーク波長はそれぞれ1.1μm、1.3μm、1.5μm、2.0μmである。
太陽光スペクトルのピーク波長は約550nmであり、太陽光発電では感度領域がそれに近いSi光電変換セルが使用される。Siのバンドギャップは1.1eVで、その吸収端は約1100nmである。即ち、1100nmより波長の短い光のみが発電に寄与する。1100nmという波長は、黒体放射スペクトルのピーク波長で2500℃以上に相当し、このような高温で使用できるエミッタ材料や熱源は限られることから、Si光電変換セルを熱光起電発電技術に適用すると高効率での発電は難しい。そこで、熱光起電発電技術には、長波長の光でも発電できる低バンドギャップの光電変換セルが適用され、現状では0.8〜1.7μmの感度領域を持つGaSbセルが一般的に使用される。
希土類元素を用いた選択エミッタは、初期には希土類酸化物の焼結体が使用されていたが、希土類酸化物は一般的に焼結しにくく、希土類元素の放射スペクトル強度も弱かった。そこで、希土類酸化物を炭化ケイ素などの基材の上に積層したものが開発されたが、表層の選択放射体は選択波長以外では光学的に透明なので、選択放射体が薄い場合や基材の放射率が高い場合には表層の選択放射体を通して基材の放射光が現れて単色性が失われ選択放射効率が低下する。
これを改善するための工夫として、特許文献1等に記載のように、希土類金属元素を含むファイバー形状エミッタが開発された。直径約10μmのファイバー状にすることにより、放射光に基材の影響がなくなり、熱応力が緩和されて耐熱衝撃性が改善でき、熱容量も小さいので昇温が速くなり、装置始動から定常作動までのタイムラグが小さくなるので、バックアップ電源も小容量ですむという利点がある。しかし、最大の欠点は機械的強度が極めて低いため、振動はもちろん手で触れても壊れるほど脆い。また、ネット状のエミッタの間隙から燃焼炎が外部へ吹き出すと、エミッタの放射光だけでなく燃焼炎の放射光も重畳されるようになり、放射光の単色性が阻害されるという問題もある。
一方、NASAでは特許文献2、非特許文献1に記載のように、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)単結晶にEr(1.5μm発光)及びHo(2.0μm発光)をドープしたエミッタを開発し、高い発光効率が得られている。しかしながら、単結晶への発光希土類元素のドープはあまり濃度を上げられないこと、単結晶は耐熱衝撃性や機械的強度に問題があるという欠点がある。
これらの欠点を改善した材料として特許文献3に、室温から高温にわたって優れた機械的強度を有し、TPV発電機の作動温度での耐熱性、耐酸化性、耐熱衝撃性に優れ、高い選択放射率を示す希土類含有酸化物セラミックス複合材料エミッタ材料について記載されている。しかしながら、同明細書ではEr、Yb、Nd、Hoのうち少なくとも一種類の希土類元素を含む希土類含有酸化物セラミックス複合材料エミッタ材料について記載されているが、選択放射光のピーク幅を広げることについての言及はなく、またそのための具体的な組成についての記載もない。
米国特許第5080963号 米国特許第5080724号 特開2000−272955号公報 NASA Technical Memorandum 103290 "Reappraisal Solid Selective Emitters"
前述のように、TPV発電技術用の光電変換セルとして、GaSbセルが主に使用されている。光電変換セルの量子効率、即ち照射されたフォトン数に対する単位時間に外部回路に流れ出る電子数の比には波長依存性がある。図1に29th IEEE Photovoltaic Specialists Conference 2002 Proceedings, L. M. Fraas, et. al., "ELECTRICITY FROM CONCENTRATED SOLAR IR IN SOLAR LIGHTING APPLICATIONS" に記載されているGaSbセルの量子効率の波長依存性を示す。GaSbセルは0.8〜1.7μmの光を高い効率で電力に変換することができる。さらには、セル表面の反射防止膜を最適化することにより、感度領域内でほぼ同じ量子効率で変換することが可能になる。
図2に、耐熱性、耐酸化性、耐熱衝撃性に優れた特許文献3に記載の、AlとErAl12からなる酸化物セラミックス複合材料の1900Kでの放射スペクトルを示す。この材料の選択放射光のピーク波長は1.3〜1.7μmであり、これらの放射光がGaSbセルの感度領域0.8〜1.7μm内にあり、光電変換に寄与している。しかしながら、熱光起電力発電の起電力がさらに優れたシステムが要求されている。そのため、GaSbセルの感度領域0.8〜1.7μm内において、特許文献3に記載のAlとErAl12からなる酸化物セラミックス複合材料を超える放射エネルギー強度の大きいエミッタ材料が求められている。
本発明は、上記問題点を鑑みなされたものであり、室温から高温にわたって優れた機械的強度を有し、TPV発電機の作動温度での耐熱性、耐酸化性、耐熱衝撃性に優れ、かつ、GaSb光電変換セルに適した高い選択放射率を示す熱光起電力発電用エミッタ材料を提供することを目的とする。
本発明者らは室温から高温にわたって優れた機械的特性を有し、高温における組織の熱安定性が飛躍的に改善された酸化物セラミックス複合材料を得るべく鋭意研究を重ねた結果、特定の組成の金属酸化物の凝固体が選択エミッタ材料として好適であることを見出した。
即ち、本発明は、熱により選択的な波長で放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、Alと、一般式(MEr1-xAl12で表わされるM(Mは、Yb及びTmのうち少なくとも1つ)、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体からなり、前記xが0.05以上0.5以下であることを特徴とする熱光起電力発電用エミッタ材料に関する。
また、本発明は、熱により選択的な波長で放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、Alと、一般式(YbEr1−xAl12で表わされるYb、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体からなり、前記xが0.05以上0.5以下であることを特徴とする熱光起電力発電用エミッタ材料に関する。
また、本発明は、熱により選択的な波長で放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、Alと、一般式(TmEr1−yAl12で表わされるTm、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体からなり、前記yが0.05以上0.5以下であることを特徴とする熱光起電力発電用エミッタ材料に関する。
本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料は、室温から高温にわたって優れた機械的強度を有し、TPV発電機の作動温度での耐熱性、耐酸化性、耐熱衝撃性に優れ、高い選択放射率を示す。
本発明では選択放射エミッタ材料の性能を評価するために選択放射効率ηSEFを定義した。本発明ではTPV発電技術用の光電変換セルとして最もよく使用されるGaSbセルを対象としているため、エミッタの全放射エネルギー(Etotal)に対する0.8〜1.7μmの範囲の放射エネルギー(選択放射エネルギーE0.8−1.7μm)の比を選択放射効率ηSEFとした(次式参照)。

選択放射効率ηSEF=(選択放射エネルギーE0.8-1.7μm)/(全放射エネルギーEtotal

但し、本発明の場合、光電変換セルをTPV発電機に一般的に用いられるGaSbセル(感度領域0.8〜1.7μm)としたが、同範囲の感度領域の光電変換セルであればGaSbセルに限るものではない。熱光起電力発電での光起電力は、選択放射エネルギーE0.8-1.7μmと光電変換セルの量子効率との積により求まるが、GaSbセルの量子効率は、図1に示したように0.8〜1.7μmの波長範囲内で、ほぼ一定の値を示していることから、上記の選択放射効率ηSEFにより、熱光起電力発電の効率を評価することができる。
本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料は、熱により選択的な波長で放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、焼結体ではなく、Alと、一般式(MEr1-xAl12で表わされるM(Mは、Yb及びTmのうち少なくとも1つ)、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体であり、前記xが0.05以上0.5以下であることを特徴とする。特に好ましくは、本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料は、Alと、一般式(YbEr1−xAl12で表わされる複合酸化物とから構成される凝固体(以下、Al/(YbEr1−xAl12凝固体と表わす)である。(YbEr1−xAl12は、Yb、ErおよびAlの酸化物から構成されており、ErAl12結晶構造のErの一部がYbで置換されたガーネット構造を有する複合酸化物である。本発明において、前記xは0.05以上0.5以下である。
xが0.05以上0.5以下である本発明のAlと、一般式(YbEr1−xAl12で表わされる複合酸化物とから構成される凝固体(以下、Al/(YbEr1−xAl12凝固体と表わす)は、AlとYbAl12とから構成される凝固体(以下、Alと/YbAl12凝固体と表わす)、およびAlとErAl12とから構成される凝固体(以下、Alと/ErAl12凝固体と表わす)、のいずれよりも、GaSbセルの感度領域0.8〜1.7μm内において、大きい放射エネルギー強度を示す。
Al/(YbEr1−xAl12凝固体の場合、ErイオンとYbイオンとではそれぞれのエネルギー準位の中にお互いに近い準位がある。つまり、Ybイオンの励起光がErイオンとイオン間相互作用することでErイオンを励起するというメカニズムも考えられ、これによりYb添加によるErイオン濃度の減少で1.5μmのピーク強度が下がらないともいえるが、そのメカニズムは明らかではない。なお、本発明は、前記メカニズムによって限定されるものではない。
本発明の他の熱光起電力発電用エミッタ材料は、Alと、一般式(TmEr1−yAl12で表わされる複合酸化物とから構成される凝固体(以下、Al/(TmEr1−yAl12凝固体と表わす)である。(TmEr1−yAl12は、Tm、ErおよびAlの酸化物から構成されており、ErAl12結晶構造のErの一部がTmで置換されたガーネット構造を有する複合酸化物である。本発明において、前記yは0.05以上0.5以下である。
yが0.05以上0.5以下である本発明のAl/(TmEr1−yAl12凝固体は、AlとTmAl12とから構成される凝固体(以下、Al/TmAl12凝固体と表わす)、およびAl/ErAl12凝固体、のいずれよりも、GaSbセルの感度領域0.8〜1.7μm内において、大きい放射エネルギー強度を示す。
本発明の他の熱光起電力発電用エミッタ材料は、Alと、一般式(YbTmEr1-x-yAl12で表わされる複合酸化物とから構成される凝固体(以下、Al/(YbTmEr1-x-yAl12凝固体と表わす)である。(YbTmEr1-x-yAl12は、Yb、Tm、ErおよびAlの酸化物から構成されており、ErAl12結晶構造のErの一部がYbおよびTmで置換されたガーネット構造を有する複合酸化物である。前記式で表わされる凝固体のxとyの合計は0.05以上0.5以下である。
xとyの合計が0.05以上0.5以下である本発明のAl/(YbTmEr1−x−yAl12凝固体は、Al/TmAl12凝固体、Al/YbAl12凝固体、およびAl/ErAl12凝固体のいずれよりも、GaSbセルの感度領域0.8〜1.7μm内において、大きい放射エネルギー強度を示す。
Al/(YbEr1−xAl12凝固体(但し、0.05≦x≦0.5)、Al/(TmEr1-yAl12凝固体(0.05≦y≦0.5)、およびAl/(YbTmEr1−x−yAl12凝固体(但し0.05≦x+y≦0.5)は、それぞれ、共晶組成であり、各成分は結晶相からなり、Alと複合酸化物とは、3次元的に複雑に絡み合ったユニークな組織構造をしている。
本発明によれば、AlとErとYb及び/又はTmを含む複合酸化物との凝固体とし、これら希土類元素の含有量を制御することで、より高い選択放射効率を示す熱光起電力発電用エミッタ材料とすることができる。
本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料である凝固体は、構成元素の酸化物の融液を凝固させて得られる。2種以上の金属酸化物を含む結晶組織を有する凝固体であるため、Yb、Tm、Erの希土類金属元素を含む酸化物の単体の場合と比べて融点が低く、共晶組成近傍では融液の粘性も低いため、比較的穏やかな温度条件、成長条件で製造可能であり、二つ以上の結晶が複雑に絡み合って成長していることから優れた高温強度特性を有し、単相の単結晶と比較して諸特性の方位依存性が少ないという特徴を有する。これによって、製造が容易で且つ必要な強度及び熱安定性を有し、且つYb、Tm、Erの希土類金属元素を多量に含むことができるので選択放射効率の高いエミッタを得ることが可能になる。
本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料である凝固体は、2種類以上の金属酸化物の融液を凝固させて2種類以上の酸化物の結晶組織として得られ、凝固体を構成する酸化物はいずれも単結晶又は多結晶の結晶相であり、これらの複数の結晶相は凝固条件を制御して3次元的に絡み合った、或いは海島構造の組織構造を有することができるが、本発明の目的のためには、そのような組織に限定されず、2種類以上の酸化物の融液を凝固させて2種類以上の酸化物の結晶組織として得られる凝固体であれば良い。また、凝固条件を制御して、結晶組織中にポア又は空隙或いはコロニーのない組織を得ることができる。
本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料は、前述のように、酸化物の融液を凝固させて得られる2種類以上の酸化物を含む凝固体であって、凝固体に含まれる酸化物、即ち、酸化物複合材料を構成する複合酸化物がErとYb及び/又はTmを含むことを特徴としている。例えば、Al/(YbEr1−xAl12組成場合、Al、Yb、Erの混合物の融液からの共晶反応を利用して得られる凝固共晶セラミックスであり、Al単結晶とErの一部がYbに置換された(YbEr1−xAl12単結晶が3次元的に複雑に絡み合ったユニークな組織構造をしているため、1)融点直下の約1800℃まで室温強度を保持することができる。2)空気中の1700℃において500時間熱処理後も重量変化、組織変化及び強度低下を起こさず優れた熱安定性を示すなど、従来の材料には見られなかった高温特性を有する。また、熱伝導率は放射特性を決める重要な因子であるが、本発明の熱光起電力用エミッタ材料はこれまでにNASAが開発しているYAGベースの選択エミッタより高い熱伝導度を有しており、選択エミッタ材料として優れている。
本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料は、Alと(YbEr1−xAl12との凝固体の場合、下記の方法で製造することができる。最初に、Al、Yb、Erの粉末を所望する成分比率のセラミックス複合材料を生成する割合で混合し、混合粉末を調製する。混合方法には特別な制限はなく、公知の混合方法を採用することができる。ついで、この混合粉末を公知の溶解炉、例えば、アーク溶解炉を用いて、両原料が溶解する温度、例えば、1900〜1950℃に加熱して溶解する。
引き続き、上記の溶解物をそのままルツボに仕込み凝固させるか、或いは、上記溶解物を一旦凝固させた後に粉砕し、粉砕物をルツボに仕込み、次いで溶解させて凝固させることにより、本発明の酸化物セラミックス複合材料を製造する。別の方法として、上記溶解物を所定の温度に保持した後ルツボに鋳込み、冷却して凝固体を得る方法も採用することができる。
これらの凝固の際に、限定するわけではないが、溶解凝固の際の雰囲気圧力を制御し、また一方向凝固し結晶成長を制御することにより、構成結晶相が相互に三次元的に絡み合った或いは海島構造の組織を有し、かつ気泡又はボイド或いはコロニーのない結晶組織からなる凝固体を得ることができる。このような凝固体は、高温強度及びクリープ特性などの熱安定性のより優れた熱光起電力用エミッタ材料となる。このような凝固体を製造するためには、溶解凝固の際の雰囲気圧力として4×10Pa以下が望ましく、0.13Pa以下がより好ましい。また、一方向凝固のためにルツボの移動速度、換言すると酸化物セラミックス複合材料の成長速度として1〜100mm/時間が好ましい。
熱光起電力発電用エミッタ材料が、Alと一般式(TmEr1-yAl12で表わされる複合酸化物とから構成される凝固体(0.05≦y≦0.5)、およびAlと一般式(YbTmEr1−x−yAl12で表わされる複合酸化物とから構成される凝固体(但し0.05≦x+y≦0.5)の場合も、各構成元素の酸化物を原料として用いて、前記Alと(YbEr1−xAl12との凝固体の製造方法と同様な方法で製造することができる。
本発明に係る凝固体を選択エミッタとして使用するには、エミッタ材料として必要な形状、例えば、薄膜の場合には、一方向凝固法で製造したバルク素材を切断し薄片化すればよい。また、ファイバー状の素材が必要であれば、溶解ルツボの底に所定の穴をあけて、その穴からメルトを引き出しながらファイバー化する方法やメルトに所定の空隙を有した管を浸漬し、毛細管現象によってファイバー化する方法を採用すればよい。いずれの方法によっても、融液からの凝固プロセスであって、その凝固過程を制御することにより、2種類の酸化物結晶が3次元的に複雑に絡み合ったユニークな組織構造を有した高温特性の優れたエミッタ材料を得ることが可能である。
また、本発明に係る凝固体を構成する2種以上の酸化物の内、Yb、Tm、Erを含まない金属酸化物相をエミッタ表面から一定の深さまで除去した表面構造にすると、TPV発電技術に用いる選択エミッタに必要な機械的強度や耐熱性を有しながら、選択的な波長での放射率を改良することができるので好ましい。
以下に、本発明の実施例を示す。
(実施例1〜10)
原料としてα−Al粉末、Er粉末、Yb粉末及び/又はTm粉末を表1に示した割合でエタノール溶媒を用いた湿式ボールミルで混合し、得られたスラリーからロータリーエバポレーターを用いてエタノールを除去した。
得られた混合粉末をチャンバー内に設置されたモリブデンルツボに仕込み、0.013Paの雰囲気圧力に維持して、高周波コイルを用いてルツボを1900〜2000℃に加熱して混合粉末を溶解し、30分間保持した後に、内径40mm×高さ200mmのモリブデン鋳型に鋳込んでインゴットを作製した。得られたインゴットを外径50mm×高さ200mm×厚さ2mmのモリブデンルツボに仕込み、同一の雰囲気下において1920℃で溶解した後に、ルツボを5mm/時間の速度で下降し一方向凝固させ、φ40mm×70mmの凝固体を得た。
一例として、実施例3で、このようにして得られたAlと(Yb0.2Er0.8Al12との凝固体の凝固方向に垂直な断面組織の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。図3において黒い部分がα−Al相で、白い部分がAl、Yb,Erから生成される複合酸化物である(Yb0.2Er0.8Al12相である。この凝固体はコロニーやポアが存在しない均一な組織を有している。
次に、得られた凝固体から、凝固方向に直角に10×10×0.3厚の薄片を切り出し、両面に鏡面研磨仕上げを施した。次に、この薄片を黒鉛製容器中に入れ、0.013Paの真空中で1600℃の温度で1時間熱処理を行い、表面部分のAl相のみを約100μm還元除去し、これを選択放射特性評価試験片とした。表1に示す試験片の高温での選択放射性能を評価するため、フーリエ分光器と標準黒体炉からなる放射強度測定装置で、放射強度スペクトルを測定した。1900Kで測定したときのAl/(YbEr1−xAl12凝固体及びAl/(TmEr1−yAl12凝固体の各放射スペクトルをそれぞれ図4及び図5に示す。この放射強度スペクトルから選択放射効率を求めた。結果を表1に示す。なお、表1において、xは、一般式(YbEr1−xAl12中のxを示し、yは一般式(TmEr1−yAl12中のyを示す。
(比較例1〜5)
原料としてα−Al粉末とEr粉末を表1に示した割合でエタノール溶媒を用いた湿式ボールミルで混合し、得られたスラリーからロータリーエバポレーターを用いてエタノールを除去した。得られた粉末を実施例と同様の方法で溶解させた後、一方向凝固させφ40mm×70mmの凝固体を得た。得られた凝固体から、実施例と同じ方法によって選択放射特性評価試験片を作製し、放射強度スペクトルを測定した。1900Kで測定したときのAl/(YbEr1−xAl12凝固体及びAl/(TmEr1−yAl12凝固体の各放射スペクトルをそれぞれ図4及び図5に示す。この放射スペクトルから選択放射効率を求めた。結果を表1に示す。
図4と図5に示した実施例と比較例の放射スペクトルより、凝固体中のEr濃度が低下しても直ちにErに由来する1.5μmの放射強度が低下するというわけではなく、特に、Al/(YbEr1−xAl12凝固体ではEr含有量が減少しても、少量であればむしろ強度が大きくなることがわかる。希土類元素のような固体中のイオンからの選択放射光は隣り合ったイオンとの間で発光と吸収を繰り返し、その結果としての光が表面から放射される。従って、一般的には放射強度とイオン濃度の関係はある濃度以下でしか比例関係が成り立たないし、それ以上の濃度ではいわゆる濃度消光現象が起こり放射強度は低下する。本発明でもErイオン濃度が減少したことで、かえって放射強度が増加したことがいえる。
また、表1より、本発明の熱光起電力発電用エミッタ材料は、ErとYb及び又はTmを含む特定の組成の凝固体とすることにより、Al/ErAl12凝固体、Al/YbAl12凝固体、Al/TmAl12凝固体、および本発明の組成範囲外のこれらの混合凝固体よりも高い選択放射効率を示し、優れた熱光起電力発電用エミッタ材料であることがわかる。
Figure 2006298671
GaSbセルの量子効率の波長依存性を示す特性図である。 Al/ErAl12凝固体の放射スペクトル図である。 実施例3で得られたAl/(Yb0.2Er0.8Al12凝固体の凝固方向に垂直な断面組織を示す図面に代える電子顕微鏡写真である。 Al/(YbEr1−xAl12凝固体のxの値を変えたときの放射スペクトル図である。 Al/(TmEr1−yAl12凝固体のyの値を変えたときの放射スペクトル図である。

Claims (3)

  1. 熱により選択的な波長で放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、Alと、一般式(MEr1-xAl12で表わされるM(Mは、Yb及びTmのうち少なくとも1つ)、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体からなり、前記xが0.05以上0.5以下であることを特徴とする熱光起電力発電用エミッタ材料。
  2. 熱により選択的な波長で放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、Alと、一般式(YbEr1−xAl12で表わされるYb、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体からなり、前記xが0.05以上0.5以下であることを特徴とする熱光起電力発電用エミッタ材料。
  3. 熱により選択的な波長で放射光を発する熱光起電力発電用エミッタ材料であって、Alと、一般式(TmEr1−yAl12で表わされるTm、ErおよびAlの複合酸化物とから構成される凝固体からなり、前記yが0.05以上0.5以下であることを特徴とする熱光起電力発電用エミッタ材料。
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