JP2006297870A - フッ素樹脂被覆物、それを用いた厨房器具及びフッ素樹脂被覆物の製造方法 - Google Patents

フッ素樹脂被覆物、それを用いた厨房器具及びフッ素樹脂被覆物の製造方法 Download PDF

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晃久 細江
Shinji Inasawa
信二 稲澤
Nobumasa Matsushita
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Abstract

【課題】金属基板層上に設けられたフッ素樹脂被膜層を傷めず、該フッ素樹脂被膜層と金属基板層との接着性を損なうことなく、該フッ素樹脂被膜層表面に表示層を設けた、トップコート層を設けなくてもよいフッ素樹脂被覆物を製造する。
【解決手段】金属基板層と、この金属基板層の少なくとも片面に形成されたフッ素樹脂被膜層と、このフッ素樹脂被膜層上の一部分を親水化しパターンを表現するように形成された親水化部分と、この親水化部分を覆う表示層とを有するフッ素樹脂被覆物を製造する。
【選択図】 図2

Description

本発明は、フッ素樹脂被覆物、それを用いた厨房器具及びフッ素樹脂被覆物の製造方法に関する。
調理用器物の内表面にフッ素樹脂被膜層を形成する方法として、
・金属基板層であるアルミニウム層又はアルミニウム合金層の表面にエッチングを施した後、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)分散液又はカーボンブラック等の充填剤を含有させたPTFE分散液を塗布し、乾燥・焼付し、プレス成形する方法
・金属基板層であるアルミニウム層又はアルミニウム合金層表面にエッチングを施した後、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)フィルムをラミネートし、プレス成形する方法
等が知られている。
前記内表面にフッ素樹脂被膜層を形成した調理用器物に目盛、模様、文字等の表示を入れる方法として、
・金属基板層にフッ素樹脂被膜層を形成した後、調理用器物に成形する前又は調理用器物に成形した後、プレス成形等により物理的に目盛、模様、文字等を表示する凹凸を設け、その陰影を利用する方法(刻印による方法)
・前記方法により設けた凹部に更にフッ素樹脂被膜層と異なる色を有するフッ素樹脂塗料又はフッ素樹脂インキを塗布又は印刷する方法
が知られている(特許文献1参照)。
前記刻印により表示を入れる方法が採用されている理由は、フッ素樹脂被膜層が非粘着性のためである。フッ素樹脂被膜層が非粘着性のため、その表面に塗料又はインキを単に塗布又は印刷するだけでは耐久性のある表示を形成することができない。
前記刻印による方法とは別に、調理用器物の内表面に表示を入れる方法として、
・金属基板層にフッ素樹脂被膜層を形成した後、表示層を設けるための印刷又は塗装を行い、更にその上にフッ素樹脂トップコート層を形成した後プレス成形することにより調理用器物の内表面に表示を入れる方法
・金属基板層をプレス成形した後フッ素樹脂被膜層を形成し、次いで印刷を行い、更にその上にフッ素樹脂トップコート層を形成することにより調理用器物の内表面に表示を入れる方法
が知られている(例えば特許文献2参照)。
特公平7−102656号公報(例えば段落[0002]及び段落[0025]参照) 特開平4−331150号公報(例えば特許請求の範囲及び段落[0025]参照)
特許文献1に記載の調理用器物、例えば炊飯器内釜の場合、表示は全てフッ素樹脂被膜層を形成した後、刻印を打刻することにより、又は打刻した刻印に更にフッ素樹脂塗料又はフッ素樹脂インキを埋入することによりなされている。しかし、前記刻印を設けたものは、製造時に発生するフッ素樹脂被膜層の欠陥による不良品の炊飯器内釜から、再利用のためにフッ素樹脂被膜層を除去して金属基板層を回収し、再利用しようとしても、金属基板層に施されている刻印が残る。フッ素樹脂被膜層を除去した金属基板層上にフッ素樹脂被膜層を形成し直すとフッ素樹脂が刻印を埋めてしまい、既に設けられている刻印のみでは認識し難い表示となる。認識しやすい表示にするために再度刻印を施すと刻印の位置がずれ易い。それゆえ、刻印のある金属基板層の再利用は、製品の品質の点から好ましいことではない。又、フッ素樹脂被膜層が形成された調理用器物として使用された後、金属基板層の再利用のために回収される場合でも、刻印の部分にフッ素樹脂が残り易く、金属基板層から金属を回収して再利用する際に問題が生じ易い。又、金属基板層をそのまま再利用する場合でも、刻印が施されているため、金属基板層としての用途が制限される。
一方、例えば特許文献2に記載のように、金属基板層にフッ素樹脂被膜層を形成した後、目盛、模様、文字等の表示層を形成するために表示用塗料を塗装する場合、被塗装物は接触角の大きいフッ素樹脂被膜層である。そのため、塗装可能な粘度を有する塗料を塗布するとはじき現象が生じ易く、塗装性にやや難があると考えられる。又、前記フッ素樹脂被膜層上に表示層が形成しても、形成した表示層が剥離し易い。そのため、表示層を形成した後すぐに焼き付け、剥離し難い表示層にする必要がある。しかし、焼き付けを行って得られた表示層でも、通常のフッ素樹脂被膜層以外の被膜層上に形成された表示層と比較して、剥離し易い。それゆえ、トップコート層の形成は必須であり、3回の焼き付けが必要である。
又、例えば特許文献2に記載のように、調理用器物の内表面に表示層を設けるために、金属基板層にフッ素樹脂被膜層を形成した後、表示層を設けるための印刷を行う場合には、次のように行う必要がある。
すなわち、印刷として、特許文献2の実施例で実施されているスクリーン印刷を行う場合、スクリーンをフッ素樹脂被膜層上の所定の位置に正確にセットし、印刷を行わなければならない。又、印刷されたインキがフッ素樹脂被膜層の表面ではじき現象が生じないようにするためには、インキとして印刷適正をある程度犠牲にした高粘度のインキを使用しなければならないと考えられる。このようにして形成された表示層でも、前記塗装の場合と同様に、形成された表示層は、通常のフッ素樹脂被膜層以外の被膜層上に形成された表示層と比較して、脆くて剥離し易い。それゆえ、トップコート層の形成は必須であり、3回の焼き付けが必要である。
前記問題は、金属基板層をプレス成形した後フッ素樹脂被膜層を形成し、次いで印刷(例えばスタンプ印刷)を行い、更に、その上にフッ素樹脂トップコート層を形成する場合にも同様に存在する。
本発明は、刻印による表示又は刻印に塗料を埋入することにより表示層を形成する場合の問題を解消することを目的とする。
又、本発明は、刻印を行わずに塗装又は印刷によって表示層を形成し、更にトップコート層を形成する場合に必要となる合計3回の焼き付けの問題を解消することを目的とする。
本発明は、金属基板層と、この金属基板層の少なくとも片面に形成されたフッ素樹脂被膜層と、このフッ素樹脂被膜層上の一部分を親水化しパターンを表現するように形成された親水化部分と、この親水化部分を覆う表示層とを有するフッ素樹脂被覆物である。
本発明のフッ素樹脂被覆物の場合、耐腐食性及び非粘着性の良好なフッ素樹脂被膜層が前記金属基板層の少なくとも片面に設けられている。このため、金属基板層の耐腐食性及び非粘着性を改善することができる。又、本発明では、接触角が大きく、他の被膜形成用組成物を付着させることが容易でないフッ素樹脂被膜層上の一部分を親水化し、この親水化部分を表示層で覆う。この結果、親水化部分と表示層との接着性が良好になり、トップコート層を設けなくても表示層が剥離し難いフッ素樹脂被膜層を得ることができる。又、親水化部分がパターンを表現するように形成されているため、親水化部分を覆う表示層を、パターンを表現するように容易に形成することができる。
なお、前記表示層を形成するための組成物をフッ素樹脂被膜層上に設けるとき、該組成物を、パターンを表現するように形成された親水化部分よりもはみ出して設けても、親水化部分と該組成物から形成された表示層との接着性は大きく、親水化部分に含まれない部分(親水化されていないフッ素樹脂被膜層の表面部分)と該組成物から形成された表示層との接着性は小さい。そのため、親水化部分からはみ出している組成物は、拭き取る、エアガンで除去する等の方法により、容易に除去され得る。この結果、表示層を形成するための組成物を、正確に表示層を形成しようとする部分(パターンを表現するように形成された親水化部分)にのみ形成するという高い精度が求められる作業が必要でなくなり、印刷のみならず、塗装という簡単な方法によっても表示層を設けることができる。又、金属基板層に刻印を施さないため、フッ素樹脂被覆物の製造時に発生するフッ素樹脂被膜層の欠陥による不良品のフッ素樹脂被覆物に使用している金属基板層の再利用のために、フッ素樹脂被膜層を除去して金属基板層を回収し、再利用する場合にも、刻印による問題が起こらない。又、フッ素樹脂被覆物として使用された後、再利用のために回収された場合でも、刻印が施されていないため、フッ素樹脂被膜層の除去が容易で、フッ素樹脂被覆物からの金属基板層の回収が容易である。又、フッ素樹脂被覆物から回収された金属基板層がそのまま使用される場合でも、刻印が施されていないため、金属基板層としての用途の制限が少ない。
又、上記において、前記表示層が、フッ素樹脂塗料から形成されていることが好ましい。この場合には、表示層もフッ素樹脂被膜層から形成されるため、表示層の非粘着性も良好なフッ素樹脂被覆物が得られる。
更に、上記において、前記フッ素樹脂被膜層上の親水化部分の形成が、フッ素樹脂被膜層の表面にエキシマレーザ光又はエキシマランプ光を照射することにより行われたものであることが好ましく、又、前記親水化部分の接触角が90°以下であることが好ましい。
前記フッ素樹脂被膜層上の親水化が、例えばコールドレーザ光であるエキシマレーザ光により行われる場合には、エキシマレーザ光がフッ素樹脂被膜層を透過せず、フッ素樹脂被膜層の表面付近に作用する。このため、フッ素樹脂被膜層の表面付近にエネルギを与えることができ、ここで例えばC−F結合、C−H結合、C−C結合の切断等の化学反応が起こると考えられる。このとき、フッ素樹脂被膜層の表面に接する雰囲気中(例えば空気中)には、水分、酸素等が存在する。このため、これらを巻き込んだ反応が起こり、フッ素樹脂被膜層の表面付近のみの親水化が行われ、フッ素樹脂被膜層の表面付近に水酸基やカルボキシル基等が導入され、該表面を親水化することができると考えられる。なお、このとき、CよりもFと結合しやすく、また照射したエキシマレーザ光のエネルギよりもFと強い結合エネルギを有する元素であるB(183kcal/mol)やAl(158kcal/mol)を共存させておくことが、結合が切れたFがCと結合するのを防ぐ点から好ましい。このようにして、フッ素樹脂被膜層の表面の親水化が行われ、親水化部分の接触角が90°以下になるように改質されることができる。接触角が90°以下になることにより、前記表示層の形成に使用することができる組成物として、水系の組成物の使用が可能となる。又、表示層のフッ素樹脂被膜層への接着性が良好になる。更に、照射部分のみを改質することができるエキシマレーザ光によりフッ素樹脂被膜層上の一部分の親水化が行われるため、所望のパターンを表現するように親水化部分が形成され得る。前記エキシマレーザ光のかわりに、エキシマランプ光を使用することができる。
又、上記において、前記パターンは、目盛、模様及び文字から選ばれる1種若しくはこれらの組み合わせであることが、表示層としての機能が発現し易い点から好ましい。
更に、上記において、前記金属基板層は、アルミニウム層、アルミニウム合金層又は、少なくともアルミニウム層と磁性体層を含む積層材料若しくは少なくともアルミニウム合金層と磁性体層を含む積層材料からなることが好ましい。この場合、フッ素樹脂被覆物は、金属基板層として使用するアルミニウム層、アルミニウム合金層又は、少なくともアルミニウム層と磁性体層を含む積層材料若しくは少なくともアルミニウム合金層と磁性体層を含む積層材料からなる金属基板層の特性である軽量で、熱伝導率が高く、腐食し難いものとなる。
又、本発明は、前記フッ素樹脂被覆物を用いた厨房器具である。本発明の厨房器具は、前述のフッ素樹脂被覆物が有する好ましい特性を有するものとなる。
更に、本発明のフッ素樹脂被覆物は、金属基板層上の少なくとも片面にフッ素樹脂被膜層を形成し、前記フッ素樹脂被膜層上の一部分をパターンを表現するように親水化した親水化部分を形成し、この親水化部分を覆うように表示層を形成することにより製造される。このようにしてフッ素樹脂被覆物が製造される結果、前述のごとき好ましい特性を有する本発明のフッ素樹脂被覆物の製造が容易となる。
又、上記において、前記表示層は、フッ素樹脂塗料からなることが好ましい。この場合には、前述のごとく、表示層もフッ素樹脂被膜層になるため、表示層の非粘着性も良好なフッ素樹脂被覆物が得られる。
さらに、上記において、前記フッ素樹脂被膜層の表面にエキシマレーザ光又はエキシマランプ光を照射して前記フッ素樹脂被膜層の表面の一部分を親水化するのが好ましい。この場合には、前述のごとく、フッ素樹脂被膜層上の表面付近の一部分がパターンを表現するように親水化され、表示層の形成が容易になる。
本発明のフッ素樹脂被覆物は、前記フッ素樹脂被膜層上の一部分を親水化しパターンを表現するように形成された親水化部分を覆う表示層を有する。このため、表示層の形成が容易で、表示層とフッ素樹脂被膜層との接着性は良好であり、フッ素樹脂被覆物は、トップコート層なしで使用することができる。
また、本発明のフッ素樹脂被覆物の場合、表示層は刻印なしに前記フッ素樹脂被膜層上に形成される。このため、例えばフッ素樹脂被覆物の製造時に金属基板層上に形成されたフッ素樹脂被膜層に欠陥がある場合でも、該フッ素樹脂被膜層を除去し、新しいフッ素樹脂被膜層を形成し直すことにより、欠陥のないフッ素樹脂被覆物に作り直すことができる。この結果、金属基板層を有効に利用することができる。又、フッ素樹脂被覆物が使用された後、再利用のために回収された場合でも、刻印がないため、フッ素樹脂被膜層が除去され易く、金属基板層からの金属の回収が容易である。又、フッ素樹脂被膜層が除去された金属基板層がそのまま使用される場合でも、刻印が施されていないため、金属基板層としての用途の制限が少ない。
このような本発明のフッ素樹脂被覆物は、本発明の製造方法により,容易に製造することができる。又、本発明のフッ素樹脂被覆物を用いた厨房器具とすることができる。
本発明のフッ素樹脂被覆物を用いた厨房器具の一例を図1及び図2に示す。図1は、炊飯器釜1の説明図であり、その内側にフッ素樹脂被膜層2が設けられており、フッ素樹脂被膜層2の表面に表示層3が設けられている。図2は、表示層3が設けられている部分の垂直方向断面説明図であり、金属基板層4を被覆するフッ素樹脂被膜層2の上に表示層3が設けられていることを示している。なお、表示層3は、パターンを表現するように形成された親水化部分5の上に設けられている。
一方、図3は、従来の炊飯器釜1aであり、その内側にフッ素樹脂被膜層2aが設けられており、フッ素樹脂被膜層2aの表面に刻印が打刻され、その中に表示層が埋入された目盛6aが形成されている。図4は、目盛6aの部分の垂直方向断面説明図であり、金属基板層4aを被覆するフッ素樹脂被膜層2aに刻印5aが打刻され、刻印5aに表示層3aが埋入されていることが示されている。
本発明のフッ素樹脂被覆物は、金属基板層と、この金属基板層の少なくとも片面に形成されたフッ素樹脂被膜層と、このフッ素樹脂被膜層上の一部分を親水化しパターンを表現するように形成された親水化部分と、この親水化部分を覆う表示層とを有するフッ素樹脂被覆物である。
[金属基板層]
前記金属基板層としては、フッ素樹脂被覆物の製造に使用される金属基板層が特に制限なく使用され得る。該金属基板層の好ましい具体例としては、例えばアルミニウム層、アルミニウム合金層(例えばアルミニウムを50重量%以上含有し、その他の成分としてケイ素等を含有するアルミニウム合金層)、少なくともアルミニウム層と磁性体層を含む積層体層若しくは少なくともアルミニウム合金層と磁性体層を含む積層体層(例えばIHジャー等に使用されるステンレス−アルミニウム合金クラッド層)等が挙げられる。該金属基板層は、その表面にエッチング処理が施され、その上に形成されるフッ素樹脂被膜層との接着性をよくするようにしたものが好ましい。
前記金属基板層が、アルミニウム層、アルミニウム合金層又は少なくともアルミニウム層と磁性体層を含む積層体層若しくは少なくともアルミニウム合金層と磁性体層を含む積層体層からなる場合、軽量で、熱伝導率が高く、腐食し難いフッ素樹脂被覆物が得られる。
[フッ素樹脂被膜層]
前記金属基板層の少なくとも片面に形成されるフッ素樹脂被膜層は、1層からなるフッ素樹脂被膜層であってもよく、2層以上からなるフッ素樹脂被膜層であってもよい。
前記フッ素樹脂被膜層が、1層からなるフッ素樹脂被膜層である場合、フッ素樹脂被膜層の形成が容易である。又、該フッ素樹脂被膜層は、非粘着性の良好なピュアコート層であってもよく、又、顔料や染料、充填剤、接着性改良剤等を添加し、色合、金属基板層の変色を目立たなくする性質、下地を隠蔽する性質、フッ素樹脂被膜層の硬度、金属基板層との接着性等を改良した層であってもよい。
一方、前記フッ素樹脂被膜層が、例えば2層からなる場合、金属基板層の表面に第1層として着色又は下地を隠蔽する充填剤を含むフッ素樹脂被膜層を設け、この第1層の上に第2層として実質的に充填剤を含まない(意図せずに紛れ込む充填剤以外に充填剤を加えていない)フッ素樹脂被膜層を設けることができる。この場合には、第1層を形成するフッ素樹脂被膜層に充填剤を加えることによりフッ素樹脂被膜層を着色させ、金属基板層の変色を目立たなくする又は下地を隠蔽することができる。又、前記充填剤の使用により耐摩耗性を向上させることができる。第2層を形成するフッ素樹脂には、非粘着性を良好にするために、実質的に充填剤を加えていない樹脂を使用するのが好ましく、形成する層は、ピュアコート層であるのが好ましい。本発明のフッ素樹脂被覆物を、例えば飯器分野で使用する場合、飯の性質上高い非粘着性が要求されるため、第2層は実質的に充填剤を含まないフッ素樹脂ピュアコート層であるのが好ましい。
形成される前記フッ素樹脂被膜層が1層からなる場合の厚さとしては、膜厚が20〜35μmであるのが好ましい。膜厚が前記範囲内の場合、ピンホールが生じ難く、又、フッ素樹脂被膜層にクラックが生じ難い。なお、フッ素樹脂被膜層が2層以上からなる場合も同じで、合計膜厚が20〜35μmであるのが好ましい。例えば2層積層する場合の膜厚の比としては、第1層/第2層が1/0.5〜1/1.5であるのが、金属基板層の変色を目立たなくする又は下地を隠蔽することができ、且つ、非粘着性を良好にすることができる点から好ましい。
前記フッ素樹脂被膜層の形成に使用されるフッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、あるいはエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、PTFE、PFA及びFEPの単独使用又は2種以上の併用が、被膜が良好な非粘着性を有する点から好ましい。
前記フッ素樹脂被膜層に含有される顔料、染料、充填剤、接着性改良剤等には特に限定はなく、従来からフッ素樹脂被覆物の製造に使用されているものであれば使用することができる。
例えば前記充填剤の例としては、マイカ(雲母)等の無機系充填剤や、フッ素樹脂の焼付温度である380〜400℃の焼付に耐え得る耐熱性を有するポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルホン(PES)等の有機粉末のいずれか1種又は2種以上の混合物等の有機系充填剤が挙げられる。これらのうちでは、マイカが外観の点から好ましく、有機系充填剤が下地の隠蔽性、耐摩耗性の向上、下地との密着性向上、耐食性の点から好ましく、マイカ及び有機系充填剤の併用が両者の特徴を併有する点から好ましい。有機系充填剤としてPAIを使用する場合、耐摩耗性及び耐食性の点から、特に好ましい。
前記無機系充填剤、例えばマイカの使用量は、フッ素樹脂に対して0.5重量%以上、10重量%以下であるのが好ましい。前記範囲内の場合、下地である金属基板層の隠蔽性が良好であり、耐摩耗性も向上する。又、下地表面に一般に施されているエッチングにより形成されているアンカー部に入り込み易く、下地との密着性が良くなる。
前記有機系充填剤の使用量は、フッ素樹脂に対し、0.1重量%以上、
10重量%以下であるのが好ましい。前記範囲内の場合、所望の着色や隠蔽性が得られる。前記有機系充填剤を使用すると、下地の隠蔽性、耐摩耗性の向上の他に、下地との密着性向上という効果も得られる。つまり、これらは金属基板層、特にアルミニウム層との接着性がよいため、無機充填剤と併用すると無機充填剤の添加による接着性の低下を補うことができる。
[親水化部分]
前記フッ素樹脂被膜層上の親水化部分というのは、親水化されたフッ素樹脂被膜層の表面が親水化されていないフッ素樹脂被膜層よりも水との親和性が向上している部分のこと、好ましくは水で濡れる程度に水との親和性が向上している部分のことである。例えば、親水化されたフッ素樹脂被膜層の表面に水滴を滴下した場合の接触角が、90°以下、更に30°以下であるのが、その後形成される表示層が、親水化部分に形成され易く、親水化されていないフッ素樹脂被膜層の表面上に形成され難くなる点から好ましい。
又、親水化されたフッ素樹脂被膜層の表面は、親水化されていないフッ素樹脂被膜層の表面と比較して、膜厚の減少が2μm以下、更に1μm以下、特に実質的に0であるのが、フッ素樹脂被膜層の耐食性の点から好ましい。
前記親水化部分は、例えば前記フッ素樹脂被膜層の表面にエキシマレーザ光、例えばC−F結合エネルギ128kcal/mol以上のエネルギを有するエキシマレーザ光(例えばArFレーザ光(波長193nm)147kcal/mol、Fレーザ光(波長157nm)181kcal/mol)や、エキシマランプ光(例えばArFランプ光(波長126nm)225.4kcal/mol、Krランプ光(波長146nm)194.5kcal/mol、Xeランプ光(波長172nm)165kcal/mol)を照射する等の方法により形成することができる。このように、照射する光が光子エネルギ128kcal/mol以上のエキシマレーザ光やエキシマランプ光の場合には、照射された光がフッ素樹脂被膜層を透過せず、フッ素樹脂被膜層の表面で吸収され、フッ素樹脂被膜層の表面近傍に存在するC−F結合等が切断され、フッ素樹脂被膜層の表面に存在するフッ素原子の量が減少し、濡れ性が向上すると考えられる。親水化部分は、例えば親水化前の接触角が120°であったものが、親水化後には40°以下、更には30°以下になるというように親水化される。一般に、接触角が40°以下、更には30°以下程度になると濡れ性が良好となり、表示層の形成が容易になる。この場合、フッ素樹脂被膜層と金属基板層との接着性を劣化させることなく、また、フッ素樹脂被膜層の内部にまで損傷を与えることなく、フッ素樹脂被膜層の表面を効率的に親水化することができる。(例えばエキシマレーザ光として、ArFレーザ光を水の存在下で照射する場合、レーザエネルギ密度25mJ/cm、照射回数6000ショットで水との接触角は約30°、0.1重量%ホウ酸水溶液の存在下で照射する場合、レーザエネルギ密度25mJ/cm、照射回数4000ショットで水との接触角は約0°になる。又、Xeランプ光を水の存在下で9分間照射する場合、水との接触角が約40°になる。)前記エキシマレーザ光やエキシマランプ光の照射によるフッ素樹脂被膜層の表面の親水化は、フッ素樹脂被膜層の表面に存在するC−F結合が切断され、C−F結合に由来するフッ素樹脂被膜層の表面の非粘着性が低減し、表示層を形成するための組成物(塗料又はインキ)との濡れ性が向上することによると考えられる。(例えばエキシマレーザ光として、前記のようにArFレーザ光を照射した場合、ArFレーザ光を照射した表面のXPS測定の結果から、脱フッ素反応が起こり親水化されていることを、又、赤外分光測定の結果から、3300cm−1にOH基の吸収が存在し、露光部分のみにOH基が置換されていることを確認することができる。また、親水化された表面のエポキシ接着剤との接着強度が約110kg/cmと、親水化前の約650倍になることを確認することができる。)親水化部分は、刻印の場合のように深く彫り込まれる必要はなく、たとえ彫り込まれるとしても、前述のごとく2μm程度以下、例えば1μm以下である。
エキシマレーザやエキシマランプで表面を親水化させる場合、エキシマレーザ光やエキシマランプ光がフッ素樹脂被膜層を透過せず内部まで到達しないため、フッ素樹脂被膜層の内部まで損傷を与えることが少ない。このことは、エキシマレーザ光やエキシマランプ光が照射され、表面が親水化され、更にフッ素樹脂被膜層と異なる被膜を設けた試料を用いて、例えば後述するおでん耐食性試験を行う等の方法により確認することができる。
なお、例えばコールドレーザであるエキシマレーザの代わりに、ホットレーザである炭酸ガスレーザやYAGレーザを用いた場合には、レーザマーキング(被膜表面の刻食)や被膜内部の刻食のような被膜損傷が起こる。フッ素樹脂被膜層は、フッ素樹脂粉末の分散液の塗布・乾燥・焼付により形成されるため、本来、多孔性である。そのため、炭酸ガスレーザを用いた場合のようにレーザマーキング(被膜表面の刻食)が起こる程度の照射であっても、長期間の使用により、被膜欠陥が深部にまで到達するようになり、耐食性に問題が生じ易い。一方、長波長のYAGレーザ光を照射すると、フッ素樹脂被膜層を通過して下地の基体金属層を加熱し、その付近のフッ素樹脂被膜層を損傷させる結果、腐食が速くなる。
前記親水化部分は、フッ素樹脂被膜層上の一部分がパターンを表現するように親水化されることにより形成され、その後形成される表示層が、この親水化部分を覆う。表示層を形成するための組成物で該親水化部分を覆うとき、該組成物とパターンを表現するように形成された親水化部分との接着性は大きい。一方、親水化部分以外の部分(親水化されていないフッ素樹脂被膜層の表面部分)と前記組成物との接着性は小さい。このため、前記組成物が親水化部分からはみ出していても、その部分の組成物を、拭き取る、エアガンで除去する等の方法により容易に除去することができる。この結果、表示層を形成するための組成物を、正確にパターンを表現するように形成された親水化部分の上にのみ形成するという高い精度が求められる作業が必要でなくなり、印刷のみならず、塗装という簡単な方法によっても表示層を形成することができる。
前記パターンとしては、本発明のフッ素樹脂被覆物に付けられる目盛、模様及び文字から選ばれる1種若しくはこれらの組み合わせが挙げられる。このようなパターンを表現するように、例えば親水化したフッ素樹脂被膜層の表面上に表示層を形成することにより、耐久性のある表示層を、刻印を施すことなく、又、フッ素樹脂被膜層を形成した後、表示層の形成を行い、更にその上にフッ素樹脂トップコート層を形成し、各層を形成する毎に焼結を行うという煩雑な工程を経ることなく、形成することができる。
[表示層]
前記表示層は、該表示層を形成するための組成物、例えば塗料又はインキを、親水化部分を覆うように塗布又は印刷した後、乾燥(自然乾燥、加熱乾燥、自然硬化及び自然硬化を含む)、更に要すれば焼結を行うことにより形成される。
前記表示層の形成は、従来、ジャー炊飯器等に多用されてきたプレスによる刻印又は刻印及びその後の表示層の形成とは異なり、親水化部分の表面を表示層を形成するための組成物で覆い、パターンを表現するようにすることにより行われる。そのため、たとえフッ素樹脂被覆物に設けられたフッ素樹脂被膜層に欠陥がある場合でも、該フッ素樹脂被膜層を除去し、新しいフッ素樹脂被膜層を形成し直すことにより、欠陥のないフッ素樹脂被覆物に作り直すことができ、金属基板層を有効に利用することができる。又、フッ素樹脂被覆物として使用された後、再利用のために回収された場合でも、刻印がないためフッ素樹脂被膜層が除去され易く、金属基板層からの金属の回収が行い易い。又、金属基板層をそのまま使用する場合でも、刻印が施されていないため、用途の制限が少ない。
なお、前記表示層の形成のために刻印を施すことがないとは、表示層を形成するために打刻することがないという意味であり、表示層を形成するため以外の目的で打刻する場合、既に打刻してある場合等を排除するものではない。前記のように刻印がある場合でも、更に表示層を形成する場合に、フッ素樹脂被膜層上に親水化部分をパターンを表現するように形成し、この親水化部分を覆う表示層を形成する場合は、本発明の範囲に含まれる。
また、前記表示層の形成は、従来、フッ素樹脂被膜層を形成した後、目盛、模様及び文字から選ばれる1種若しくはこれらの組み合わせの表示をするための塗膜の形成又は印刷を行い、更にその上にフッ素樹脂トップコート層を形成する場合に、各層を形成する毎に焼結を行う必要があった。それゆえ、フッ素樹脂被覆物を製造するために合計3回の焼結が必要であった。しかし、本発明の場合には1回又は2回の焼結でよい。表示層としてフッ素樹脂製の表示層でない通常の表示層を設ける場合、自然乾燥、加熱乾燥、自然硬化、加熱硬化等を行うことにより、焼結を行うことなく表示層を形成することができる。一方、表示層としてフッ素樹脂製の表示層、例えばフッ素樹脂塗料からの表示層を設ける場合、表示層の形成のために、2回目の焼結を行うのが好ましい。なお、本発明において、表示層を形成した後、更にフッ素樹脂トップコート層を積層する場合を排除するものではない。この場合、2回目又は3回目の焼結が必要であるが、従来法と比較して、本発明の場合、表示層を形成する表面がすでにパターンを表現するように親水化されているため、表示層の形成が容易であり、形成された表示層は剥離し難い。
更に、前記表示層は、前記フッ素樹脂被膜層と異なる色調を有する表示層であるのが好ましい。前記色調が異なるとは、色合が異なること、光沢が異なること等、目視したときに異なることが認識できることをいう。具体的には、例えば色差として3以上の差がある場合、色調が異なると認識できる。
なお、以下の説明は、便宜上、表示層を形成するための組成物(以下、組成物が塗料の場合を表示用塗料、組成物がインキの場合を表示用インキともいう)のうちの表示用塗料を使用する場合について行う。表示用塗料及び表示用インキの主たる違いは、表示用塗料に使用する有効成分を用いて表示用インキを調製する場合に使用する溶剤が異なること及び調製した表示用インキをフッ素樹脂被膜層の表面に付着させる方法が印刷と異なることである。
前記表示用塗料としては、親水化されたフッ素樹脂被膜層の表面上に塗装することができる表示用に使用する非フッ素樹脂塗料、フッ素樹脂塗料(以下、それぞれ表示用非フッ素樹脂塗料、表示用フッ素樹脂塗料という)が挙げられ、特に限定はない。ただし前記表示用塗料として表示用フッ素樹脂塗料を使用する場合には、親水化されたフッ素樹脂被膜層の表面上に形成される表示層もフッ素樹脂製の表示層になるため、表示層での非粘着性の低下が少なく、調理や洗浄時に摩滅や剥がれ等のダメージを受け難く、耐久性がよくなる。また、いずれもフッ素樹脂製の被膜同士であるため、フッ素樹脂被膜層上の親水化部分と表示層とが一体に融着し易く、接着力も高くなる。
前記表示用フッ素樹脂塗料の具体例としては、例えば平均粒子径5μm以上、好ましくは30μm以下のフッ素樹脂粒子Aと、平均粒子径1μm以下好ましくは0.1μm以上のフッ素樹脂粒子Bとを液状媒体中に分散させた塗料であって、次式で示されるB粒子の割合、
B粒子の割合=B/(A+B)
が20重量%以上80重量%以下である表示用フッ素樹脂塗料等を挙げることができる。
A粒子は膜形成性に優れているが、液状媒体に分散させるとA粒子の粒子間で不可逆的な凝集を起こし易い。そのため、膜形成性には劣るが分散性に優れたB粒子でA粒子の周囲を包接した複合粒子を形成することにより、膜形成性を保持したまま不可逆凝集を起こし難い安定性に優れた粒子を得ることができる。しかも湿式塗料としたことにより、膜厚を数μm〜数十μmの任意の範囲で容易に制御可能となる。
A粒子としては、PTFE、PFA、FEP、ETFE、CTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)及びこれらの重合体2種以上の混合物を用いることができる。これらのうちでは、膜形成性に優れている点から、PFA、FEP、ETFE、CTFE及びこれらの2種以上の混合物が好ましい。
A粒子の平均粒子径は5μm以上であればよいが、平均粒子径10μm以上30μm以下であるのが、膜形成性に優れている点から好ましい。粒子の形状は、球状であるのが、膜形成性がよくなるため好ましい。
B粒子としては、PTFE、PFA、FEP、ETFE、CTFE、PVdF及びこれらの2種以上の混合物を用いることができる。これらのうちでは、PFA、FEP、ETFE、CTFE及びこれらの2種以上の混合物であるのが好ましい。
B粒子の平均粒子径は1μm以下であればよいが、平均粒子径0.5μm以下であるのが、凝集防止効果に優れている点から更に好ましい。B粒子の形状としては、球状であるのが、A粒子との複合粒子形成性及び製膜時の膜形成性がよくなる点から好ましい。
A粒子とB粒子との使用割合としては、A粒子の膜形成性があまり低下しない範囲で、A粒子の不可逆凝集を防止できるような量のB粒子を添加するのが好ましい。B粒子の割合を20重量%以上とすることにより、A粒子の不可逆凝集を防止することができ、80重量%以下にすることにより、A粒子の膜形成性の低下を少なくすることができる。特に塗料等の安定性の面から25重量%以上とすることが好ましく、膜形成性の点から45重量%以下とすることが好ましい。前記表示用フッ素樹脂塗料を使用した場合、高度な膜形成性と容易な膜厚制御性を保持しつつ、不可逆凝集を起こさない、すなわち、簡単な撹拌等で容易に再分散可能で工業的に有利に利用可能な表示用フッ素樹脂塗料を得ることができる。
前記液状媒体としては、水、極性有機溶媒、非極性有機溶媒及びこれらの混合物を用いることができるが、特に取扱性や公害防止の観点から水が好ましい。
又、液状媒体に必要により分散助剤として界面活性剤が添加される。該界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系の界面活性剤が好ましい。これらは単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。なかでもノニオン系界面活性剤が好ましい。
前記表示用フッ素樹脂塗料の製造方法としては、
(1)A粒子を液状媒体中に分散させたのち、B粒子を粉末状で添加混合する、
(2)A粒子を液状媒体中に分散させたのち、B粒子を予め液状媒体に分散させてある分散液と混合する、
(3)B粒子の分散液にA粒子を粉末状で添加混合する、
(4)A粒子、B粒子共に粉末状で混合した後液状媒体に分散させる、
等の方法があるが、これらに限定されるものではない。
前記表示用フッ素樹脂塗料中には、前記表示層の色調をフッ素樹脂被膜層の色調と異ならせるために、例えばカーボンブラックやマイカ等の金属粉、酸化チタン等の金属酸化物粉、各種顔料で被覆したマイカ等を使用することができる。これらのうちでは、酸化チタン、カーボンブラック、各種顔料で被覆したマイカのいずれか又はその混合物を用いるのが、良好な外観、印象を与えることができる点から好ましい。
このようにして得られる表示用フッ素樹脂塗料は、例えば静電塗装用の樹脂粉末を液状媒体に分散させ、湿式塗料化したものに相当する。又、この塗料は、高度な膜形成性、すなわち、1回で厚膜を形成しても欠陥のない塗膜の形成が可能な膜形成性を保持しつつ、数μm〜数十μmまでの任意の膜厚、例えば5〜50μmの任意の膜厚の塗膜に制御可能な塗料となる。
前記説明では、表示用フッ素樹脂塗料の製造に使用するフッ素樹脂粒子として2種の粒子を使用する場合について説明したが、該2種の粒子の代わりに1種の粒子を使用した表示用フッ素樹脂塗料を製造し、使用してもよい。
前記表示層を形成する表示用フッ素樹脂塗料は、エナメル、水性デイスパージョン等いずれの形態で用いてもよい。これらを親水化部分に塗布する方法としては、スプレー塗装等の方法が代表例としてあげられるが、これに限定されるものではない。(なお、表示用フッ素樹脂塗料の代わりに表示用フッ素樹脂インキを使用する場合、インクジェット、スクリーン印刷、凸版印刷等の方法により印刷すればよい。)
前記表示用フッ素樹脂塗料を塗布したのち、好ましくはフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結させる。この加熱方法としては、代表的には、熱風により全体または塗布部のみを加熱する方法、輻射熱により全体または塗布部のみを加熱する方法、伝熱により塗布部の外側から加熱する方法等があげられる。しかし、これの方法に限定されるものではない。
前記のごとき表示用フッ素樹脂塗料を使用してパターンを表現するように形成された親水化部分を覆うように表示層を形成する場合、表示層の非粘着性や耐久性をフッ素樹脂被膜層に近いものにすることができる。
[フッ素樹脂被覆物の製造]
本発明のフッ素樹脂被覆物を製造する方法としては、プレコート法、アフターコート法、前記方法を組合せた方法等が挙げられ、いずれの方法によってもよい。
前記プレコート法は、予め金属基板層の少なくとも片面にフッ素樹脂被膜層を形成し、更にこのフッ素樹脂被膜層上の一部分をパターンを表現するように親水化した後、この親水化部分を覆うように表示層を形成し、次いでプレス成形等で所定の形状に成形してフッ素樹脂被覆物を製造する方法である。
前記アフターコート法は、先にプレス成形等で金属基板層を所定の形状に成形し、次いで成形した金属基板層の少なくとも片面にフッ素樹脂被膜層を形成し、フッ素樹脂被膜層上の一部分をパターンを表現するように親水化した後、この親水化部分を覆うように表示層を形成することによりフッ素樹脂被覆物を製造する方法である。
前記プレコート法及びアフターコート法を組合せた方法としては、例えば金属基板層の少なくとも片面にフッ素樹脂被膜層を形成し、プレス成形等で所定の形状に成形した後、例えばエキシマレーザ光を照射してフッ素樹脂被膜層上の一部分をパターンを表現するように親水化した後、この親水化部分を覆うように表示層を形成し、フッ素樹脂被覆物を製造する方法である。
フッ素樹脂被覆物にプレス成形する前に表示層を形成するプレコート法の場合には、平板上に表示層を形成することになり、表示層の形成が容易である。一方、フッ素樹脂被覆物にプレス成形した後に表示層を形成するアフターコート法の場合には、その後プレス成形されることがないので、プレス成形により表示層が損傷を受けることはない。前記フッ素樹脂被覆物にプレス成形する前に表示層を形成する場合には、表示層を形成した後、更にピュアコート層を設けることにより、表示層の損傷を防止することができる。ピュアコート層を設ける場合、充填剤等が含まれないため、フッ素樹脂被覆物の表面の非粘着性を高くすることができる。
このようにして製造される本発明のフッ素樹脂被覆物には、更にトップコート層が設けられていてもよい。なお、前記ピュアコート層を設ける場合、トップコート層を設けることはない。又、本発明のフッ素樹脂被覆物を形成する金属基板層には刻印がない。そのため、たとえフッ素樹脂被膜層に欠陥が見つかった場合でも、該フッ素樹脂被膜層を除去し、新たにフッ素樹脂被膜層を設けることにより、本発明のフッ素樹脂被覆物にすることができ、金属基板層を再利用することができる。又、フッ素樹脂被覆物として使用された後、再利用のために回収された場合でも、金属基板層に刻印がないため、金属基板層を再利用することができる分野が広くなる。
前記のごとき本発明のフッ素樹脂被覆物を、例えば少なくとも片面にフッ素樹脂被膜層を形成した金属基板層の該フッ素樹脂被膜層上の一部分を親水化し、親水化部分を覆うように表示層を形成するという簡単な方法で製造することができる。
[フッ素樹脂被覆物]
本発明のフッ素樹脂被覆物は、前記フッ素樹脂被膜層が前記金属基板層の少なくとも片面に形成されており、前記フッ素樹脂被膜層上の一部分をパターンを表現するように形成された親水化部分を覆うように表示層が形成されているものである。そして、本発明のフッ素樹脂被覆物は、このようなものである限り特に限定はない。本発明のフッ素樹脂被覆物を用いた具体例として、例えばジャー炊飯器、電子ジャー、保温ジャー、炊飯器、餅つき器等の飯器の内釜又は内容器、グリルパン、ホットプレート、フライパン、オートベーカリーのパンケース等の調理用のパン、プレート又はケースで代表される飯器以外の調理用器物の内表面にフッ素樹脂被膜を形成した調理用器物、オイルポット、へら等の前記以外のキッチンで使用される器具等の厨房器具等が挙げられる。
次に、本発明を実施例に基づき更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(使用する材料及び試料作成方法)
1 金属基板
(株)神戸製鋼所製、板厚2.5mmのASB材を、陽極として塩化アンモニウム水溶液中25クーロン/cmの電気量で電気化学的にエッチング処理を行い、表面に微細な凹凸を形成させたもの。
2 フッ素樹脂被膜層
ダイキン工業(株)製、D−1F(PTFEディパージョン)を金属基板上に塗布して乾燥させた後、400℃で10分間焼付け、被膜厚さを30μmとなるようにしたもの。
3 親水化
ArFエキシマレーザ光を、0.1重量%ホウ酸水溶液の存在下、レーザエネルギ密度25mJ/cmで、4000ショット照射することにより親水化。
4 表示層
後述する製造例1で製造した表示用フッ素樹脂塗料を、パターンを表現するように形成された親水化部分を覆うようにインクジェット方式で塗布した後、150℃で10分間乾燥させた後、親水化部分からはみ出した表示用フッ素樹脂塗料粉末をエアガンで除去し、400℃で10分間焼付けることにより、形成した厚さ10μmのもの。
(評価方法)
1 親水化
フッ素樹脂被膜層の表面を10×10mmの大きさに親水化した試料を得、得られた試料の表面に純水0.02mlを滴下し、測定装置として協和界面科学(株)製のCA−Aを用いて25℃で接触角を測定。
2 親水化部分の膜厚減少
レーザ顕微鏡(キーエンス社製、VK−8500)を用いて倍率1000倍で親水化部分と非親水化部分との段差を測定。
3 親水化部分の膜内部の評価
フッ素樹脂被膜層で被覆した金属基板をプレス成形せずに、親水化部分を含むように100×100mmの大きさに切断し、得られたカットピースを、市販の「おでんのもと」25gを1Lの水にとかした中に入れ、90〜100℃で100時間加熱した後取り出し、親水化部分のフッ素樹脂被膜層と金属基板層との界面の腐食の有無を調べる。
4 表示層の密着性
表示層を形成した面にナイフで下地に達する碁盤目(1mm間隔の100ます)を形成し、この面にセロテープ(登録商標)を押し付け、直ちに引き剥がす試験を20回繰り返し、100ますのうち残っている個数を数える。
5 非粘着性
砂糖の固着試験による(図5参照)。
表示層を設けた評価試料12の上に、内径25.4mmのステンレスリング11を置き、その中に砂糖13を5g入れ、加熱して溶解させて冷却させた後、ステンレスリング11にバネばかり14をセットし、水平方向に引張り、ステンレスリング11が評価試料12から離れるときの荷重F(kg)を測定。非粘着性が優れている程離れるときの荷重が小さくなる。
6 耐磨耗性
得られた内釜を用いて、米とぎテスト500回を行い、外観評価を行い、目盛の消え具合を評価。
[製造例1]
平均粒子径約20μmのPFA球状粒子からなる粉体(du Pont社製MP102)329gを、水309g及び界面活性剤(三洋化成工業(株)製オクタポール80)62gを混合した液状媒体中に分散させ、これに平均粒子径0.4μmのPFA球状粒子47重量%、界面活性剤6重量%、水47重量%からなるPFA分散液(ダイキン工業(株)製AD−2−CR)300gを加え、充分に混合して表示用フッ素樹脂塗料を調製した。
[実施例1]
図6に示したように、金属基板上に設けたPTFE被膜層上に1.7重量%ホウ酸水溶液(B(OH)水溶液)21を滴下し、その上に合成石英ガラス22をかぶせた。このようにすることによりPTFE被膜と石英ガラス板の間のホウ酸水溶液が毛細管現象によって一様に広がり、試料表面に薄液層が形成された。ここにArFレーザ光23を照射した。レーザ光照射条件は、前述のごとく、エネルギ密度25mJ/cm、レーザ光照射回数4000ショットであった。レーザ照射時に所望のパターンが表現されるようにマスクパターン24を用いた。25はミラーである。
このようにして得られた親水化部分を形成したPTFE被膜層の表面に、製造例1で得られた表示用フッ素樹脂塗料を、インクジェット方式で塗布した。その後、150℃で10分間乾燥させ、次いで、親水化部分からはみ出した不要な表示用フッ素樹脂塗料粉末をエアガンで除去した。次いで、400℃の炉で10分間処理することにより、表示用フッ素樹脂塗料粉末を焼結させた。
前記試料とは別に、前記と同じ条件でレーザ光照射を行い、接触角、親水化部分の膜内部の評価、表示層の密着性及び非粘着性測定用の親水化部分が形成された試料を作成し、それぞれの測定に使用した。表示層の密着性測定に先立ち、親水化部分の表面状態を評価した。
その結果、レーザ光照射によって、親水化部分の水との接触角が約10°となり、親水化されていた(未照射表面の接触角は約120°であった)。又、レーザ顕微鏡観察の結果、親水化部分と非親水化部分との段差は、0.5μm以下であった。更に、親水化部分の膜内部の評価の結果、親水化部分と非親水化部分で評価結果に差がなく、いずれも腐食がないことが判明した。又、表示層とフッ素樹脂被膜層との密着性は100/100で剥離無し、表示層の非粘着性は2.0kgと良好であることがわかった。
更に、前記試験とは別に、前記と同様にして金属基板上に形成したフッ素樹脂被膜層の表面にジャー炊飯器用内釜に設ける目盛及び文字を形成するためにパターンを表現するように親水化し、該親水化部分を覆うように表示用フッ素樹脂塗料を塗布し、次いで焼付けた後プレス成形して前記内釜を製造した。得られた内釜を用いて米とぎテストを行った結果、目盛が消えないことを確認した。
前記結果をまとめて表1に示す。
Figure 2006297870
本発明のフッ素樹脂被覆物は、金属基板層の少なくとも片面に形成されたフッ素樹脂被膜層上の一部分をパターンを表現するように親水化して形成された親水化部分を覆う表示層を有するフッ素樹脂被覆物である。それゆえ、例えばジャー炊飯器、電子ジャー、保温ジャー、炊飯器、餅つき器等の飯器の内釜又は内容器、グリルパン、ホットプレート、フライパン、オートベーカリーのパンケース等の調理用のパン、プレート又はケースで代表される飯器以外の調理用器物の内表面にフッ素樹脂被膜層を形成した調理用器物等のフッ素樹脂被覆物を用いた厨房器具として好適に使用することができる。
本発明のフッ素樹脂被覆物の一具体例である炊飯器釜を示す説明図である。 図1の表示層3が設けられている部分の垂直方向断面説明図である。 従来のフッ素樹脂被覆物の一具体例である炊飯器釜を示す説明図である。 図3の目盛6aが設けられている部分の垂直方向断面説明図である。 砂糖の固着試験による非粘着性の評価方法に関する説明図である。 フッ素樹脂被膜層をArFレーザ光を用いて親水化する場合の説明図である。
符号の説明
1…炊飯器釜、2…フッ素樹脂被膜層、3…表示層、4…金属基板層、5…親水化部分、1a…炊飯器釜、2a…フッ素樹脂被膜層、3a…表示層、4a…金属基板層、5a…刻印、6a…目盛、11…ステンレスリング、12…評価試料、13…砂糖、14…バネばかり、21…ホウ酸水溶液、22…合成石英ガラス、23…ArFレーザ光、24…マスクパターン、25…ミラー。

Claims (10)

  1. 金属基板層と、この金属基板層の少なくとも片面に形成されたフッ素樹脂被膜層と、このフッ素樹脂被膜層上の一部分を親水化しパターンを表現するように形成された親水化部分と、この親水化部分を覆う表示層とを有することを特徴とするフッ素樹脂被覆物。
  2. 前記表示層が、フッ素樹脂塗料からなることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂被覆物。
  3. 前記親水化部分は、前記フッ素樹脂被膜層の表面にエキシマレーザ光又はエキシマランプ光を照射することにより親水化されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフッ素樹脂被覆物。
  4. 前記親水化部分は、接触角が90°以下となるように親水化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被覆物。
  5. 前記パターンは、目盛、模様及び文字から選ばれる1種若しくはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被覆物。
  6. 前記金属基板層は、アルミニウム層、アルミニウム合金層又は、少なくともアルミニウム層と磁性体層を含む積層体層若しくは少なくともアルミニウム合金層と磁性体層を含む積層体層からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被覆物。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被覆物を用いたことを特徴とする厨房器具。
  8. 金属基板層上の少なくとも片面にフッ素樹脂被膜層を形成し、前記フッ素樹脂被膜層上の一部分をパターンを表現するように親水化した親水化部分を形成し、この親水化部分を覆うように表示層を形成することを特徴とするフッ素樹脂被覆物の製造方法。
  9. 前記表示層が、フッ素樹脂塗料からなることを特徴とする請求項8に記載のフッ素樹脂被覆物の製造方法。
  10. 請求項8または9に記載のフッ素樹脂被覆物の製造方法において、前記フッ素樹脂被膜層の表面にエキシマレーザ光又はエキシマランプ光を照射して前記フッ素樹脂被膜層の表面の一部分を親水化することを特徴とするフッ素樹脂被覆物の製造方法。
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