JP2006291333A - 鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材 - Google Patents

鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐摩耗性を向上するとともに充分な溶接加工性能を有し、プレス金型などに使用する鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材を提供する。
【解決手段】 本発明の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材は、Vの重量%が3.0〜22.0%の範囲内にあり、なおかつ4.9×C重量%≧V重量%≧4.9×C重量%−4.9を満たすCとVを含有することで、基地に層状パーライトが形成されていることとし、さらに、Cr、Mo、Wを含有する場合は、これらの合計重量%を10重量%以下とした。
【選択図】 図1

Description

本発明は、高い耐摩耗性と共に充分な溶接性能を有する鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材に関する。
近年、自動車用車体の高剛性化と軽量化が強く要求されるのに伴い、車体を形成する部材に対する高張力鋼板の占有率が、急激に増加しつつある。また、これと同時に鋼板の高張力化も目覚ましいものがある。高張力鋼板の成形方法は、一般的にプレス金型による冷間プレスもしくは熱間プレスである。プレス金型の摩耗はプレス回数やプレス条件によっても異なるが、とくに冷間プレスでは、耐摩耗性に優れるSKD11(JIS規格)材質が素材として広く普及している。しかしながら、高張力鋼板のように鋼板が進歩するのに伴って、プレス金型への負荷は一段と高まってきている。特に摩耗条件については、SKD11材質の性能をもっても補えなくなりつつある。そこで、これらの現状に対処するため、金型素材を改良する必要性に迫られていた。
材料強化および耐摩耗性向上の手段の一つに、材料中に硬質粒子を分散させる複合化方法(粒子分散型複合法)がある。その製造方法例としては、SiCやWCおよびVC等の強化粒子を鋳鉄溶湯に添加して、凝固後にこれらの強化粒子が基地中に分散した状態を作り上げる(特許文献1参照)ものや、凝固時にVCを分散させて晶出させる方法(特許文献2参照)などがある。凝固時に粒状もしくは球状のVCを晶出かつ分散させる方法については、NiやMnを多量に含有させたオーステナイト系基地のものがある(特許文献3参照)。オーステナイト基地は、VCを粒状化させやすい上に溶接割れや焼き割れの原因となる板状のセメンタイト系炭化物が晶出し難い。よって、現状ではオーステナイト基地のものがほとんどで、パーライト基地のものは見られない。また、素材の靱性を増すためにVCを粒状化もしくは球状化させる方法として、水素などのガス気泡を利用する方法(特許文献5参照)等が提唱されている。
しかし、オーステナイト基地は耐食性にこそ優れているが、熱処理による焼入れが出来ないという欠点が存在する。そのため、高い耐摩耗性が求められる高張力鋼板用プレス金型にとって、オーステナイト基地のものでは金型素材として使用に耐えることが出来ない。そのため、高張力鋼板用プレス金型の金型素材として、少なくとも焼入れが可能な基地(パーライト)を持つ材質の開発が望まれていた。
プレス金型等では形状変更が頻繁に行われるため、金型素材は溶接性に優れていなければならない。基地組織が軟らかいオーステナイト系やフェライト系の材料では、溶接割れ等の問題が起こる頻度は確かに少ない。しかしながら、パーライト系材質である以上は、溶接割れの問題が最も重要となる。特に、炭化物生成元素であるVを多く含有させた場合は、発生した炭化物によって割れを生じることがある。また、網目状の炭化物が連続して晶出した場合や、板状の炭化物が晶出した場合は、炭化物の内部を通じた破壊が起こりやすくなる。その結果、溶接割れや焼き割れを生じることもある。これらの問題を解決するためには、晶出する炭化物を粒状もしくは球状にする方法(特許文献4参照)や、板状の炭化物を晶出させない方法、又はパーライトを適量にする方法等が採用されてきた。ちなみにSKD11では、鋳造組織を鍛造することで炭化物を強制的に粒状や球状に変化させている。
特開平10−121167 号公報 特開2003−001344号公報 特開2000−313934号公報 特開2003−13171号公報 特許番号 第3296509号
発明が解決しようとする課題を、高張力鋼板の冷間プレス用金型素材の例を用いて解説する。ただし、本発明品は高張力鋼板の冷間プレス用金型素材に限らず、耐摩耗性を必要とする各種部品素材への適用も可能である。現在、高張力鋼板の冷間プレス用金型素材として最も普及しているSKD11(JIS規格)には、以下の問題が存在する。
SKD11等の鋼材は、通常は鍛造および圧延によって炭化物を分断もしくは微細化された後、ブロック形状で提供される。そのため、所望の形状を得るにはブロック形状から望みの形状を削り出さなければならない。その結果、素材の歩留まりは極端に低下する。この問題を解決する手段として、SKD11相当成分の材質を鋳造法で作製して、歩留まりを向上させる方法がある。しかしこの方法では、炭化物が網目状に連続した組織や板状炭化物組織となってしまうため、溶接や焼入れ時に割れを生じる可能性が高い。よって、鍛造および圧延による炭化物の分断と微細化の工程を組み込まない限り、鋳造状態のSKD11材質では溶接や焼き入れ時の割れ問題を解決出来ない。そこで、鋳造時にあらかじめ炭化物を微細化させて溶接や焼き入れ時の割れを防止することが解決しようとする課題である。
また、SKD11製の冷間プレス金型に対し、摩耗条件が特に厳しい金型形状面にVC、TiC、WC層などを形成させる処理がある。しかしながら、現在の高張力鋼板のプレスでは、これらの層が脱落してしまうケースがままある。このため、各種表面処理層と母材の密着性を改善することも重要な課題の一つである。
高張力鋼板の冷間プレス用金型素材は、過酷な成型条件に対応するために十分な硬度を有していなければならない。このため、焼入れによる硬度上昇が望めないオーステナイト系やフェライト系の素材では、当然使用に耐えることが出来ない。即ち、ある程度の焼入れ性を有した上で、溶接割れや焼き割れを生じない材料というものが求められている訳である。そこで、素材をパーライト系材質とすることが課題となる。
以上の経緯で、発明者等はパーライト基地組織中に粒状もしくは球状のVCを分散させた鋳造材である、鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材の開発に着手した。
本発明の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材は、高い耐摩耗性を有しつつ割れを生じ難いとされる粒状又は球状のVC(バナジウム炭化物)と、鉄基地の中でも高硬度・高強度・焼入れ性等を併せ持つパーライト基地の組み合わせで構成されなければならない。
NiもしくはMnを多量に添加したオーステナイト基地では、チル(レデブライト組織)と呼ばれる鉄系炭化物(FeC)の発生率は低い。また、たとえ少量のチルが発生した場合でも、基地自体が軟らかいために焼入れや溶接で割れるケースは極めて稀である。だが、その他のプレス金型素材として満たすべき性質(硬度・強度・焼入れ性等)をクリアすることが出来ない。このため、少なくとも焼入れが可能なパーライト基地である必要性がさらに強まる。また、溶接割れや焼き割れの防止には、炭化物の形状を粒状もしくは球状にした上で分散させる必要がある。
パーライト基地を持つ鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材を作るには、まず基地中に適量のCを残留させなければならない。ここで問題となるのは、その手段である。発明者等は、各種成分の溶湯を作製して各種の実験を行うことにより、焼入れ可能なレベルのCが基地中に残留する際の、Cとバナジウムの重量関係を求めた。この結果、4.9×C重量%≧V重量%であれば基地はパーライトとなって焼入れが可能となることが分かった。しかしながら、これと同時に基地中のC量が多くなり過ぎると、Cと鉄が反応してチル(レデブライト組織)と呼ばれるFeC系の板状セメンタイトが生成することも見つけた。さらに、この板状セメンタイトが任意の断面で5%以上の面積を占めた場合は、焼き割れや溶接割れを起こすことが判明した。結局、板状セメンタイトを生成させないためには、V重量%≧4.9×C重量%−4.9を満たすことが必要条件であると分かった。
以上により、焼入れ可能なパーライト基地を有しつつ、割れの原因となるセメンタイト(FeC)系の板状炭化物を発生させない為には、CとVの量関係が4.9×C重量%≧V重量%≧4.9×C重量%−4.9でなければならないことを見出した。
さらに、高張力鋼板のプレス成形に耐え得るような高い耐摩耗性を持たせるには、Vの量が少なくとも3.0重量%以上は必要であることが判明した。また、V量が22.0重量%を上回る場合、板状炭化物量が急激に増加し始めることが分かった。この板状炭化物の生成には、Vが強い炭化物生成元素であることが関係している。以上より、Vの量範囲は3.0%〜22.0重量%以内でなくてはならないことを発見した。
上記VとCの関係式4.9×C重量%≧V重量%≧4.9×C重量%−4.9において、Vが3.0〜22.0重量%の場合、C量は0.6〜5.4重量%の範囲でも良いことになる。よって、十分な耐摩耗性を有するためには、C量を1.0重量%以上としてVC炭化物量を確保しなければならない。また、C量が4.5重量%以上になると板状炭化物が急激に生成し始めた。これは、Cの増加によって過共晶成分となり、凝固形態が変化する事と関連していると考えられる。以上により、C量は1.0〜4.5重量%が適正範囲と判断された。
セメンタイト系炭化物の発生を減らす方法としては、Fe−C系状態図における安定系(1,153℃)と準安定系(1,147℃)の温度差を拡張すると効果が高い。そこで発明者等は、この温度差を拡げる働きを持つSiに着目し、Fe−C−V−Siの相互関係について研究した。Siは黒鉛化元素であり、黒鉛を生成しない鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材においてもチル発生を抑止する効果が確認された。具体的には、Si重量%を0.3重量%以上とした場合にチルが抑制出来た。また、Si量が3.0重量%を越えると、パーライト部のフェライトにSiが固溶してシリコンフェライトが生成される。すると、靱性が低下してしまうことが分かった。以上により、Si重量%は0.3〜3.0重量%が適正範囲と判断された。
VCの量と耐摩耗性の関係を調べた結果、VCの面積率は少なくとも6.0%以上が好ましいと分かった。また、VCの面積率が32.0%以上になると、耐摩耗性は増すものの、板状炭化物の生成とその割れや、粒状もしくは球状のVCが凝集することが分かった。以上の理由で、VCの面積率は6.0〜32.0%とした。
後述するように、VCの粒状化もしくは球状化の度合いは、接種量や冷却速度と密接な関係がある。そこでまず始めに、VCの粒状化もしくは球状化の度合と割れの関係を見出す目的で、焼き入れ試験と溶接試験を行った。その結果、VCの50%以上が粒状化又は球状化すると、問題となる割れを生じないことが分かった。
次に、晶出するVCが粒状化もしくは球状化した際、核となる物質について研究した。これには、本発明材成分の溶湯に、各種物質を添加(接種)することでおこなった。その結果、VCの核となり得る元素としては、TiとMgの2種類の効果が特に高かった。また、VCの50%以上が粒状化もしくは球状化する時のTi添加量は、溶湯重量に対してTi純分で0.05〜0.3重量%の時であった。同じくMgの場合は、溶湯重量%に対してMg純分で0.015〜0.1重量%時が適量範囲と判断された。TiおよびMgは、それぞれの添加量を下回るとVCの粒状化は不十分となり、逆に超過した場合は粒状VCの凝集偏析が見られた。接種剤としては、純Tiや純Mgの形ではなくFe−TiやFe−Mgのような合金であっても問題ない。つまり、溶湯に対して所定量のTi又はMgが添加されていれば良い。接種の時期は、鋳込み前や注湯と同時或いは鋳型内のいずれであっても構わない。勿論、球状黒鉛鋳鉄の球状化処理と同様な処理方法でも良い。
VCの粒状化もしくは球状化の度合いは、接種以外に冷却速度によっても変化することを発見した。即ち、冷却速度が大きいほど粒状化もしくは球状化の度合いが高くなる。具体的には、共晶凝固以前の冷却速度が2.7℃/sec以上になると、VCの粒状化もしくは球状化の度合いは一段と高くなる。冷却速度の大きい薄肉物に於いては、自然冷却でもVCが十分に球状化する。ところが冷却速度の小さい厚肉鋳物の場合は、冷却速度を高める為の工夫が必要である。これには、冷やし金を用いるのも一つの方法である。またその他に、鋳込み温度を下げても同様の効果が得られることを発見した。この理由としては、共晶凝固に到達する時間が短くなることと、成分の影響が考えられる。成分の影響とは、Fe、C、Vの3元素の含有量によって初晶生成温度が変化する事を指している。通常、溶湯鋳込み時には初晶温度より高い温度で鋳込むため、低い温度で鋳込むには初晶温度が低くなるような成分割合に調整する必要がある。今、CとVが4.9×C重量%≧V重量%≧4.9×C重量%−4.9の関係にあるとすると、初晶生成温度が1,520℃以下となるためには、C含有量を1.0〜3.5重量%としなければならないことが分かった。初晶生成温度を1,520℃以下にするということは、同時に鋳込み温度を1,330℃〜1,600℃の範囲で行わなければならない。この様に、CとVの重量%バランスを適正化することで、球状化の度合いが増したものと考えられる。
VCを除く板状や網目状の炭化物と、焼き割れ及び溶接割れの関係について調査した。その結果、使用上で問題となる焼き割れや溶接割れは、板状や網目状の炭化物が5%以上となった時に発生することが分かった。
また、本発明材にCr、Mo、Wを含有させる場合は、これらの金属元素に起因する炭化物(M型等のVC以外の炭化物)の発生に注意を払わなければならない。具体的には、Cr、Mo、Wの合計重量%が10重量%以下となるようにする必要がある。
次に、本発明材の表面に硬化処理を施した場合について調べた。この処理はTD処理と呼ばれ、プレス金型の強化処理法として一般的なものとして知られている。この処理法の特徴は、表面処理でVC層が形成されることである。即ち、本発明材中で析出するVCと基本的に同じ物質である。
TD処理済みの試料表面付近を詳細に検証した結果、材質中の粒状VCと表面のTD処理層(VC層)は、互いに融合している事が確認された。この状態は、あたかも表面のVC層にくさび型の粒状VCが打ち込まれた様に思えた。またこの現象は、被膜層と素材の密着性に大きく貢献している事は明らかである。以上より、本発明材は、TD処理並びに他の類似被膜処理によって通常の素材よりも強固な被覆層を築き上げることが出来る。
以上をもって、素材中に粒状もしくは球状のVCが分散し、尚かつ焼き入れ可能なパーライト基地の耐摩耗鋳造材を作ることが出来た。また、接種や冷却速度及び鋳込み温度の調整により、VCの粒状又は球状化が容易となった。その結果として、焼き割れや溶接割れを生じない高耐摩耗材料の製造が可能となった。
本発明材中のCとVは、両者が4.9×C重量%≧V重量%≧4.9×C重量%−4.9の関係にある時、パーライト基地を形成する。したがって、高い耐摩耗性と十分な溶接加工性能を併せ持っている。また、V重量%を3.0%〜22.0重量%の範囲内としたことで、本発明材を製造する際には鋳造性と耐摩耗性を損なうことがない。
本発明材にCr、Mo、W等の合金元素を含有させる場合は、これらの合計重量%の制限を10重量%以下としたため、前記Cr、Mo、Wに起因した炭化物の発生は抑えられる。
本発明材にVC以外の炭化物が析出した場合は、これらの単位面積当たりの面積率を5%以下とすることで、十分な溶接加工性能を持たせることが可能となる。
本発明材の製造は、鋳造法にておこなわれる。そのため、原材料の無駄を省くことと製造の簡素化を可能にしている。
本発明材にTD表面処理を行うと、材料内部のVCと被膜層のVC層が相互結合して被膜層の安定度を上げる。そのため、耐摩耗性を一段と向上させることが出来る。
本発明材中のVCを粒状化させる代表的な方法の「接種」は、前記発明品の溶湯重量に対して、Ti純分で0.05〜0.3重量%もしくはMg純分で0.015〜0.1重量%を添加(接種)することで、VCの粒状化かつ均一な分散を実現できる。
本発明材中のVCは、50%以上が粒状化もしくは球状化することとしたため、十分な溶接加工性能を有することが出来る。
本発明材の溶湯鋳込み温度は、1,330℃〜1,600℃の範囲とした。これにより、前記接種以外の方法でVCの粒状化を促進させることが可能である。
本発明材の溶湯については、注湯後の前記鋳込み温度から共晶開始温度までの冷却速度を2.7℃/sec以上としたため、粒状もしくは球状VCの析出量をより多くすることが可能である。
以下、本発明を実施するための形態である、鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材の一例を、図を参照しながら説明する。
以下、本発明の第1の実施の形態である鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材について説明する。尚、これ以降の粒状パーライトという表現は、球状パーライトの場合も含むこととする。
本発明材はFeを主成分として少なくともC、Si、Vを含有しており、これにMn、Cr、Mo、Wおよび不可避的不純物が加わることによって形成される。また、その中のCとVの重量%が4.9×C重量%−4.9≦V重量%≦4.9×C重量%の関係を満たすことにより、パーライト基地にVCが析出していることを特徴とする。
図1は、本発明材において、CとVの重量%と基地組織の関係を示している。また、図1の(a)〜(e)は、Cを3.5重量%に固定した際の、V重量%による組織の変遷を図示したものである。図1は、C重量%が1.5、2.0、2.5、4.0のそれぞれについて、V重量%と組織の関係を同様に調査し、基地組織とV及びCの関係を求めたものである。
図2は、本発明材に関する、Cとブリネル硬度(HB)の関係を示したものである。図2(a)はCが1.5重量%時、図2(b)はCが2.5重量%時、図2(c)はCが3.5重量%時をそれぞれ示している。この図2により、4.9×C重量%−4.9≦V重量%≦4.9×C重量%の範囲において本発明材が層状パーライトもしくは層状パーライト+粒状パーライトの領域になり、硬度が十分に確保されていることが分かる。
図3は、本発明材(C:2.95重量%、V:12.5重量%、Si:2.1重量%)とSKD11材における摩耗速度と比摩耗量の関係を示したものである。このデータは大越式迅速摩耗試験機による摩耗試験から得られたもので、摩耗距離200m、荷重125Nの条件による。図3で示すように、本発明材は、従来のSKD11(焼入れ)材質よりも比摩耗量が著しく減少している。これは即ち、耐摩耗性が飛躍的に向上している事を示唆している。
図4は、本発明材を溶接したときの様子である。図4(a)は、C:3.5重量%かつV:13.5重量%の場合(図1(d))を示し、図4(b)はC:3.5重量%かつV:12.0重量%の場合を、図4(c)はC:3.5重量%かつV:10.5重量%の場合(図1(e))をそれぞれ示している。溶接方法は、共材の棒を常温で試験片上に乗せ、TIG溶接にて溶接をおこなう方式とした。溶接後、溶接箇所を詳細に観察した。図4(a)で示す層状パーライト組織の場合は、割れが一切観察されなかった。また、図4(b)は層状パーライト+VC以外の炭化物から成る場合であるが、この成分は層状パーライト領域との境界線に極めて近い箇所にある。よって、VC以外の炭化物量は単位面積当たりで5%以下に収まっている。直線状の縦割れは見られるが、あまり問題がない程度だと思われる。図4(c)で示すようにVC以外の炭化物がさらに多くなった試料では、図4(b)以上に多くの縦割れが発生し、剥離の原因となる横割れも観察された。このことから、VC以外の炭化物は溶接性を劣化させる原因となるため、単位面積当たりで5%以下の面積率であることが望ましいと分かった。
したがって本発明材の溶接性は、4.9×C重量%−4.9≧V重量%の領域では溶接性が悪く、V重量%≧4.9×C重量%−4.9の領域では溶接性が優れている。しかし、本発明材を十分に予熱すると割れは減少する傾向が見られることが分かった。また、予熱温度が高いほど割れは少なくなった。よってこの意味では、予熱を十分に行えば低Cでも割れが発生することはないと言える。
以上により、本発明材は4.9×C重量%≧V重量%の時に耐摩耗性に優れ、なおかつV重量%≧4.9×C重量%−4.9のときには溶接性に優れる事が分かる。言い換えると、V重量%が4.9×C重量%≧V重量%≧4.9×C重量%−4.9を満たすとき、耐摩耗性と溶接性能の両者を高いレベルで確保出来る。
図5は、本発明材(図5(a))およびSKD11(図5(b))にTD処理を行った際の様子である。図5(b)のSKD11表面には、薄いTD処理層(VC層)が形成されている。しかし、TD処理層(VC層)と素材内部のVCが相互に結合している様子は見られない。これに対して図5(a)に示した本発明材表面には、図5(a)よりも明確に厚いVC層が形成されているばかりか、TD処理層と素材内部に存在するVCが相互に結合している様子がわかる。この結合により、TD処理層の密着性はより強固なものとなっている。
図6は、本発明材の溶湯にFe−Tiの接種を行った場合と行わなかった場合の組織である。図6(a)にベースとなるFe−Ti接種なしの組織を、図6(b)にFe−Tiを0.28重量%接種時の組織を、図6(c)に0.4重量%接種時の組織を示す。図6(a)の状態では、粒状化が不十分である。図6(b)ではVCの粒状化が均一に行われている。また、図6(c)では粒状VC同士が凝集している。これにより、Fe−Tiの最適接種重量%は0.2〜0.3重量%の範囲内であることが分かった。これはTi純分に換算すると、0.05〜0.3重量%である。もっともVCの粒状化は、Fe−Ti以外にMgの接種でも効果がある。MgについてもFe−Tiと同様の試験を行った結果、Mg純分で0.015〜0.1重量%の添加が適量であることが分かった。
図7に、本発明材に関してVCの粒状化率が40%時の組織写真を示す。この状態では、溶接による割れが確認された。ところが、接種および冷却速度の調整で粒状化率を50%以上にしたものでは、割れを生じることが無くなった。
図8に、本発明の第2の形態の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材において、共晶凝固が開始するまでの冷却速度に差がある場合の比較を示す。図8(a)は試料の肉厚が50mm時の組織で、共晶凝固開始までの冷却速度は2.0℃/secであり、VCの粒状化は不十分である。図8(b)は試料の肉厚が20mm時の組織で、共晶凝固開始までの冷却速度は2.7℃/secであり、VCの形状は粒状が主体である。
図9に、本発明材の鋳込み温度と組織の変化を示す。図9(a)は鋳込み温度が1,580℃時のもので、粒状化不十分のVCもVCの凝集も見られない。図9(b)は鋳込み温度が1,670℃時のもので、粒状化不十分のVCが多く出ている。鋳込み温度が低い場合は、共晶凝固に到達するまでの時間が短くなる。そのため、接種時に生成されたVCの核となる物質が相当量残存することになるので、VCが粒状化し易いと考えられる。逆に鋳込み温度が高い場合は、VCの核が消失するため粒状化し難くなると考えられる。
図10に、本発明材に関して、CおよびVの重量%と、初晶で析出する物質の種類および析出温度と基地種を盛り込んだグラフを示す。通常、鋳込み時は溶湯の鋳型内における温度低下を考慮して、初晶生成温度より80〜100℃高い温度で注湯しないと湯境等が発生する。また、1,600℃以上の温度で注湯を行うには溶湯温度を1,700℃以上に上げる必要があり、炉材の耐火度と相俟って製造が困難となる。さらに、前述のようにVCの核物質のフェーディング(核の消失)を考慮すると、出来るだけ低温で鋳込むことが好ましい。
図10より、焼入れ性が良く溶接割れを発生しない層状パーライトもしくは層状パーライト+粒状パーライト領域で、尚かつ初晶温度が1,520℃以下となるためには、Cが1.0〜3.5重量%、Vが3.0〜14.7重量%の範囲内(図10の斜線領域)になければならない。本発明材をこの範囲で製造することで、VC粒状化率の高い材料を得られる。その他、冷やし金等の使用によってVCの粒状化率をさらに上げることも可能である。
本発明材に関して、CおよびVの重量%と基地組織の関係をグラフ化したもので、図1(a)〜(e)は組織写真を、図1(f)は成分分析結果と組織の関係を示す。 本発明材に関する V重量%とブリネル硬度(HB)の関係を示したもので、図2(a)はCが1.5重量%の場合を、図2(b)はCが2.5重量%の場合を、また図2(c)はCが3.5重量%の場合をそれぞれ示している。 本発明材に関する耐摩耗試験の結果を、SKD11材質と比較したものとして示す。 本発明材に関して溶接時の写真を示す。図4(a)はC:3.5重量%かつV:13.5重量%の場合を、図4(b)はC:3.5重量%かつV:12.0重量%の場合を、図4(c)はC:3.5重量%かつV:10.5重量%の場合をそれぞれ示す。 本発明材の製造方法に関して、TD処理を行った際の写真をSKD11の結果とともに示す。図5(a)は本発明の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材の結果を、図5(b)はSKD11の結果を示す。 本発明材の製造方法に関して、鋳込み時におけるFe−Ti接種量と基地組織の関係を示す。図6(a)は接種なしの場合、図6(b)はFe−Ti接種量が0.28重量%の場合、また、図6(c)はFe−Ti接種量が0.4重量%の場合をそれぞれ示す。 本発明材の製造方法に関して、VCの粒状化率が40%の時の組織写真を示す。 本発明材の製造方法に関して、製造物の表面付近と中心付近の組織写真を示しており、図8(a)は試料の肉厚が50mmで、共晶凝固開始までの冷却速度が2.0℃/secの試料組織を示し、図8(b)は試料の肉厚が20mmで、共晶凝固開始までの冷却速度が2.7℃/secの試料組織を示す。 本発明材の製造方法に関して、鋳込み温度の変化と組織の関係を示す。図9(a)は鋳込み温度が1,580℃時の組織写真、図9(b)は鋳込み温度が1,670℃時の組織写真である。 本発明材の製造方法に関して、CおよびVの重量%と、初晶で析出する物質の種類および析出温度から基地種までを対応させた図を示す。

Claims (8)

  1. 鉄を主成分として、VとCの含有量の関係が4.9×C重量%≧V重量%≧4.9×C重量%−4.9の範囲にあり、かつV含有量が3.0〜22.0重量%、C含有量が1.0〜4.5重量%、Si含有量が0.3〜3.0重量%の範囲にあり、鋳放しでの基地組織は層状パーライトを主体とするものであり、同じく鋳放し状態で切断面を2次元的に観察したときの炭化バナジウム(VC)の面積率が6.0〜32.0%で、さらにそのうちの50%以上が粒状もしくは球状であることを特徴とする鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
  2. 接種剤として、溶湯重量に対してTi純分で0.05〜0.3重量%のTiを含む接種剤もしくはMg純分で0.015〜0.1重量%のMgを含む接種剤を、鋳込み前もしくは鋳込み時に添加することを特徴とする請求項1記載の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
  3. 共晶凝固開始前の冷却速度が2.7℃/sec以上になるようにすることを特徴とする請求項1〜2に記載の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
  4. 冷却速度を速めるために、鋳物の肉厚を薄くするか、もしくは冷やし金をもちいることを特徴とする請求項1〜3に記載の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
  5. Cを1.0〜3.5重量%かつVを3.0〜14.7重量%含有することにより、初晶生成温度を1,520℃以下とし、鋳込み温度を1,330℃〜1,600℃の範囲としたことを特徴とする請求項1〜4に記載の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
  6. バナジウム炭化物(VC)を除く他の炭化物の面積率が5%以下であることを特徴とする請求項1〜5に記載の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
  7. Cr、Mo、Wを含有させる場合は、これらの合計重量が10重量%以下であることを特徴とする請求項1〜6に記載の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
  8. 表面処理により生成させた各種炭化物層が、素材中のバナジウム炭化物と互いに結合することで、強固に固定された状態であることを特徴とする請求項1〜7に記載の鉄−バナジウム炭化物系耐摩耗鋳造材。
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