JP2006290632A - フェライト焼結体及びその製造方法並びにこれを用いた電子部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】 従来のMn−Zn系フェライト焼結体に比べて最大磁束密度を大幅に改善し、特に100℃の高温において高い最大磁束密度を有し、品質の安定したフェライト焼結体およびこれを用いた電子部品を提供する。
【解決手段】 フェライト焼結体であって、主組成が68mol%<Fe≦80mol%、3mol%≦ZnO≦15mol%、残部酸化マンガンからなり、焼結体断面における5μm以上の空孔が、焼結体表面から100μmの深さの範囲において焼結体表面方向の長さ100μmあたり10個未満であることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、100℃程度の高温で高い最大磁束密度を有するMn−Zn系フェライト焼結体およびそれを用いた電子部品に関する。
近年、各種電子機器においてLSIの高集積化、多機能化および高速化が進んでおり、それに電力を供給する電源系にも高パワーが要求されてきている。例えば、ノート型パソコンを例に挙げると、CPUの高速化、記憶装置の大容量化・高速化などにともなう多機能・高品位の流れとして、使用されるDC−DCコンバータにも大電流化への対応が要求される。また、部品の集積度が上がってくると電子部品からの発熱により回路周辺の温度が上昇し、使用される電子部品の使用環境温度は100℃近くに達する。したがって高性能なCPUを用いたノート型パソコンに使用されるDC−DCコンバータには、実際に使用される環境温度において、大電流化に対応したものであることが必要とされる。
また、EV(電気自動車)、HEV(ハイブリッド電気自動車)等に使用される車載用のDC−DCコンバータ等においても、その使用環境温度が広く、100℃以上でも所定の性能を維持する必要があり、かかる場合でも高温対応・大電流化対応が要求される。
これら高温対応・大電流化対応の要請は、DC−DCコンバータを構成するチョークコイル、更には当該チョークコイルの構成部品である磁性コアにも及ぶ。すなわちチョークコイルには、高温下においても、高い電流値までインダクタンス値が低下しないことが求められ、また磁性コアには、数百kHzの周波数で使用可能であり、高温下においても、高い電流値まで磁気飽和しにくい高い飽和磁束密度を有するものが要求される。
磁性コアとしては、金属系磁性材料と比較して高い抵抗値を有し、高周波でも使用可能であるとともに、価格が安いというメリットを有するフェライトが多く利用されてきた。特にMn−Zn系フェライトはNi−Zn系フェライトに比べて飽和磁束密度が高いことから、大電流対応のコア材として適している。
従来、DC−DCコンバータ用チョークコイルに用いられるものも含め、Mn−Zn系フェライトでは50〜55mol%程度のFeを含有するのが一般的であるが、かかるFe含有量を増加させることで最大磁束密度が向上することが知られている。しかし、60mol%を超える多量のFeを含有する組成においては、単結晶では高い最大磁束密度を有するMn−Zn系フェライトが得られても、粉末冶金的な方法により最大磁束密度の高いMn−Zn系フェライト焼結体を得ることは、以下に述べる理由により困難であった。すなわち、Mn−Zn系フェライトを製造する場合、焼結工程でFeが還元されてFeO・Feとなる。かかるスピネル化反応に伴いFeの酸素が放出される必要があるが、Feが大幅に過剰な組成では、酸素の放出が不十分となり、Feが異相(ヘマタイト相)として残存しやすく、高磁気特性(高磁束密度)を得ることができない。また、スピネル化反応および焼結の進行が妨げられる結果、密度の高い焼結体を得ることができず、必然的に高い最大磁束密度は得られない。
これらに対し最大磁束密度を高める試みとして、特許文献1では、主成分としてモル比で62〜68%のFe、16〜28%のMnO及び10〜16%のZnOから成り、副成分としてCaO、SiO、ZrO及びCoOの少なくとも1種を含むフェライト材を焼成しMn−Zn系フェライト得る製造方法において、フェライト材に有機バインダを還元剤として添加し、不活性ガス中で焼成し、ウスタイト相やヘマタイト相などの異相が生じることの無い高飽和磁束密度を有するMn−Zn系フェライトの製造方法が開示されている。また、一般的にフェライトの磁気特性は温度に対して影響を受けやすく、Mn−Zn系フェライトは室温では高い最大磁束密度を有するものの、温度の上昇とともに最大磁束密度は減少し、100℃程度の高温では室温に比べて、最大磁束密度は通常20〜25%程度低下する。このような最大磁束密度の低下は、チョークコイルとしたときに直流重畳特性の劣化につながる。そこで、特に100℃の高温において、高い最大磁束密度を有するフェライト焼結体として、酸化鉄の含有量が60〜85mol%、酸化亜鉛の含有量が0〜20mol%、および残部が酸化マンガンから成り、100℃で450mT以上の高い最大磁束密度が得られ、温度に対する最大磁束密度の変化率が小さいフェライト焼結体が開示されている(特許文献2)。
特開平6−333726号公報 特開平11−329822号公報
特許文献2には100℃の高温で高い最大磁束密度を有するMn−Znフェライトが開示されているが上記Fe過剰組成では、製造条件の変動により、安定的に高い最大磁束密度を有するMn−Zn系フェライトを得ることが困難であるという問題があった。すなわち、大幅にFe過剰な組成のフェライト焼結体を製造する場合、Fe含有量が50〜55mol%である一般的なMn−Zn系フェライトに比べて、スピネル化反応をいっそう促進・制御する必要があることから、高い最大磁束密度を再現性よく実現することが困難であった。特に、焼結体の最大磁束密度としては優れた特性を示しつつも、磁性コアとして電子部品を構成した場合にインダクタンス値などの特性のばらつきが生じたり、表面にチッピングなどの欠陥が発生したり、品質が安定しない場合があった。
また、本来高い最大磁束密度が期待されるFe含有量が60mol%を超えるFe過剰組成では、焼結体密度が4.9×10kg/m未満であり、理論密度(5.1〜5.2×10kg/m)と比べて十分な水準にはない。そのため適用する組成から期待される高い最大磁束密度を十分に引き出しているとは言いがたい。また、特許文献1では、上述のヘマタイト相等の異相の生成を抑え、高い最大磁束密度を得られる製造方法が開示されているが、100℃での最大磁束密度をはじめ、本発明で問題としている高温環境下での要求特性を満足しているとは言いがたい。ここで100℃程度の高温での最大磁束密度を向上するためには、温度上昇に伴う最大磁束密度の低下を補うため常温での最大磁束密度の絶対値を高める、または温度上昇に伴う最大磁束密度の低下率を低減することが必要とされる。これに対して特許文献1で適用されている組成では、常温での最大磁束密度に対する100℃での最大磁束密度の変化率が大きく、また常温での最大磁束密度もそれを補うだけの水準にあるとは言えず、結果的に100℃の高温で高い最大磁束密度を得ることが困難であった。したがって、高温で高い最大磁束密度を有し、かつ欠陥等の発生しにくい品質の安定したフェライト焼結体が望まれていた。
本発明は、かかる問題に鑑み、従来のMn−Zn系フェライト焼結体に比べて最大磁束密度を大幅に改善し、特に100℃の高温において高い最大磁束密度を有し、品質の安定したフェライト焼結体およびこれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
本発明のフェライト焼結体は、主組成が68mol%<Fe≦80mol%、3mol%≦ZnO≦15mol%、残部酸化マンガンからなり、焼結体断面における5μm以上の空孔が、焼結体表面から100μmの深さの範囲において焼結体表面方向の長さ100μmあたり10個未満であることを特徴とする。かかる発明によって、100℃での最大磁束密度が高く、品質の安定したフェライト焼結体を提供することができる。
また、前記フェライト焼結体において、焼結体密度は4.95×10kg/m以上であることが、高最大磁束密度、高品質を得る観点から好ましい。
さらに、前記焼結体はその表面の少なくとも一部が加工処理されていることが好ましい。加工処理されていることにより、焼結体表面の欠陥が除去され、高品質のフェライト焼結体を得ることができる。
さらに、前記焼結体は、同種または異種の磁心と突き合わせて使用する磁心であり、前記表面の少なくとも一部は、前記磁心の突合せ面の少なくとも一部であることを特徴とする。突合せ面に加工処理された欠陥の少ない部分を配することは、高最大磁束密度化のために大幅にFe過剰とした組成を有するフェライト焼結体で磁気回路を構成する場合においても、突合せ部分に起因する特性変動を抑えることに寄与する。
また、本発明の電子部品は前記いずれかのフェライト焼結体を磁心とし、該磁心に巻線を巻設したことを特徴とする。
また、本発明のフェライト焼結体の製造方法は、フェライト粉末にバインダを添加後、成形し、焼結するフェライト焼結体の製造方法であって、前記フェライト焼結体は主組成が68ol%<Fe≦80mol%、3mol%≦ZnO≦15mol%、残部酸化マンガンからなり、室温から焼結温度まで昇温する途中の700〜1000℃の温度範囲での焼結雰囲気の酸素量を0.1vol%以下とし、かつ前記温度範囲での昇温速度を50〜300℃/時間とすることを特徴とする。かかる製造方法によって、高最大磁束密度を有するとともに、表面に空孔の少ないフェライト焼結体を得ることができる。
さらに、空孔の少ない高密度の焼結体を得るためには、室温から焼結温度まで昇温する途中の1000℃以上の温度範囲での昇温速度を50〜300℃/時間とすることが好ましい。
本発明によれば、最大磁束密度を大幅に改善し、特に100℃の高温において、高い水準の最大磁束密度を有するとともに、品質の安定したフェライト焼結体を得ることができる。また、かかるフェライト焼結体を用いることは、100℃程度の高温環境において大電流に対応したチョークコイル等の電子部品の品質安定化に寄与する。また、本発明によれば、従来製造することが困難であった大幅にFe過剰な組成域において、高い最大磁束密度を有し、表面の空孔が少ないフェライト焼結体を安定に製造することが可能となる。
以下、本発明を実施例とともに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明に係るフェライト焼結体は、例えば通常のMn−Zn系フェライトの製造に適用される粉末冶金的方法によって製造することができる。すなわち主原料であるFe、MnO(本発明ではMnを使用した)、ZnOを所定の割合で秤量し、ボールミル等で混合した後仮焼し、さらにボールミル等で粉砕する。粉砕した原料粉にバインダ等を添加した後スプレードライヤー等で造粒し、成形に供する。得られた成形体を焼結してフェライト焼結体を得る。
次に、本発明においてフェライト焼結体および製造方法を限定した理由について説明する。本発明に係るフェライト焼結体の主成分組成は、68mol%<Fe≦80mol%、3mol%≦ZnO≦15mol%、残部酸化マンガンであるが、主成分組成をかかる範囲に限定することにより、測定磁界1000A/mで測定した100℃における最大磁束密度が520mT以上、キュリー温度が410℃以上の、従来に比べて非常に高い水準の最大磁束密度を有し、かつ最大磁束密度の温度変化の小さいフェライト焼結体を得ることができる。キュリー温度が高温側に移行すればするほど最大磁束密度の温度変化は小さくなる傾向を示す。キュリー温度を410℃以上とすることにより、20℃での最大磁束密度に対する100℃での最大磁束密度の変化率を10%以下とすることが可能となる。Feの含有量が50〜55mol%である従来のMn−Zn系フェライトにおいては、かかる変化率が20〜25%程度と大きいため、電子部品の発熱による回路周辺の温度上昇により、最大磁束密度が低下する問題があったが、最大磁束密度の温度変化が小さい上記フェライト焼結体を用いることによって、かかる問題を解決し、これを組み込んだ電子機器の設計を容易ならしめることができる。Feの含有量が68mol%以下となると、100℃において520mT以上の高い最大磁束密度と410℃以上のキュリー温度が得られない。一方、80mol%を超えると異相であるヘマタイト相が残存しやすいとともに、透磁率等の軟磁気特性の劣化および最大磁束密度の低下を招き、やはり100℃において520mT以上の高い最大磁束密度が得られない。また、ZnOの含有量が3mol%≦ZnO≦15mol%の範囲を外れると最大磁束密度が低下し、520mT以上の最大磁束密度を得ることができない。これら主成分組成は、より好ましくは、68mol%<Fe≦75mol%、3mol%≦ZnO≦12mol%、残部酸化マンガンとすることにより、測定磁界1000A/mで測定した100℃における最大磁束密度が540mT以上の、従来に比べて極めて高い最大磁束密度を有するフェライト焼結体を得ることが可能となる。また、本発明に係るフェライト焼結体は、100℃を超える高温においても従来のMn−Zn系フェライトに比べて高い最大磁束密度を有する。特に、68mol%<Fe≦75mol%、3mol%≦ZnO≦12mol%、残部酸化マンガンの組成を有する本発明のフェライト焼結体は、150℃においても490mT以上の最大磁束密度を有するため、例えば耐熱性要求の強い自動車等の用途にも適用が可能である。なお、最大磁束密度は、測定印加磁界の大きさによって変化するので、本発明では、1000A/m印加時の磁束密度を最大磁束密度とした。
さらに、本発明では、焼結体断面における5μm以上の空孔が、焼結体表面から100μmの深さの範囲において焼結体表面方向の長さ100μmあたり10個未満であることを特徴とする。フェライト焼結体の組成として、前述のFe過剰な組成を適用する場合、焼結体としての特性やそれを磁心として用いた場合の電子部品の特性がばらつくことがあり、これが焼結体表面付近の空孔に起因することが明らかになったものである。前記空孔は、焼結まま(as−sintered)の状態で焼結体表面から100μmの深さに発生しやすい。5μm以上の空孔は、磁気ギャップとしての影響が大きいことから、5μm以上の空孔が焼結体表面方向の単位長さ100μmあたり10個以上あるとインダクタンス値への影響が大きくなる。例えば、フェライト焼結体を同種または異種の磁心と突き合わせて使用する場合に、その突合せ面でギャップ調整を行い、インダクタンス値を設定するが、突合せ面の表面付近に前記の粗大空孔が多数存在するとインダクタンス値のずれやばらつきが生じてしまう。これは、ギャップを形成しない突合せ面でも、同様である。また、本発明のフェライト焼結体の結晶粒径は、5μm前後であり、焼結体表面から100μmの深さの範囲で前記結晶粒径と同等以上の5μm以上の空孔が多くなると、カケなどの欠陥が発生しやすい。そして、前記粗大空孔の量が多くなると最大磁束密度自体も低下するようになる。さらに、10μm以上の空孔が、前記焼結体表面から100μmの深さの範囲において焼結体表面方向の長さ100μmあたり5個未満であることが好ましい。大きさが10μm以上の特に粗大な空孔の存在は、特に焼結体表面の強度の低下を招き、該空孔が100μmあたり5個以上あることは、表面方向の長さの1/2以上に空孔があることになり、カケ・剥がれなどの欠陥や特性のばらつきが生じやすい。なお、前記粗大空孔は、焼結体のうち拡散距離が長い部分に発生しやすいので、焼結まま(as−sintered)の試料であれば当該部分の表面で評価すればよい。例えば、直方体形状であれば最大寸法方向の端面、厚みが径方向の幅と同じかそれ以上であるリング試料であれば厚み方向の表面、鼓型形状であれば軸方向の端面、E型系のコアであれば中足または両腕部の先端面とし、その中央部分で評価する。具体的には、該部分での断面を、400〜1000倍で観察し、観察像において確認される空孔の最大直径をもって空孔の大きさとする。そして、表面から100μmの深さの領域で5μm以上の空孔の数を計数し、計数した領域の表面方向の長さで除して、長さ100μmあたりの個数に換算する。表面方向には、200μm以上にわたって計数することが好ましい。
大幅にFe過剰な組成を適用したフェライト焼結体の表面に前記粗大空孔が多く生成しやすい理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。大幅にFe過剰な組成では多くのFeすなわち三価のFeを、二価に還元する必要があり、表面付近は、焼結において内部から拡散してくる酸素が最後まで存在する領域であるため、焼結しにくいものと考えられる。また、表面付近は雰囲気の影響を受けやすく、再酸化もしやすい。
これに対して、本発明に係る製造方法により、大幅にFe過剰な組成を有するフェライト焼結体の表面付近において、粗大な空孔の生成を抑制することが可能である。すなわち、本発明者は、室温から焼結温度まで昇温する途中の700〜1000℃の温度範囲での焼結雰囲気の酸素量を0.1vol%以下とし、かつ前記温度範囲での昇温速度を50〜300℃/時間とすることが、前記表面付近の粗大な空孔の生成抑制に効果があることを見出した。焼結まま(as−sintered)の状態、すなわち後加工を施さない状態でも表面付近に粗大な空孔の少ない焼結体が得られる。フェライト粉末にバインダを添加後、成形して得られた成形体は、およそ600℃までの脱バインダの際にバインダの分解ガス等によって還元される。バインダ量等を適正化することによって、脱バインダ終了時におけるスピネル化率を100%近くまで高めることが可能である。しかし、脱バインダ終了後の700〜1000℃では、平衡酸素分圧が低く、再酸化しやすいため、当該温度領域での雰囲気の酸素濃度を0.1vol%以下とする。より好ましくは0.01vol%以下である。さらに、700〜1000℃での昇温速度を50〜300℃/時間とする。酸素濃度を下げることには限界があるため、再酸化を抑えるためには前記温度範囲における滞留時間を短くする必要がある。昇温速度が50℃/時間未満となると再酸化の影響が大きくなり空孔が増える。かかる観点からは、処理時間は短いほど、すなわち昇温速度は速いほど好ましい。但し、300℃/時間超とすると耐火セラミックス等の炉材が割れやすくなる、大電力が必要になるなど装置への負荷が大きくなるため好ましくない。700〜1000℃の温度範囲での昇温速度は、連続で昇温する場合、間で温度保持をする場合にかかわらず、700℃から1000℃に至る温度範囲、すなわち300℃をそれに要した処理時間で除した値を用いる。
Fe量が68mol%以下の場合にも昇温速度を制御する場合があるが、本発明における700〜1000℃の温度範囲での昇温速度を規定する意義および効果はそれと異なる。例えば、Fe量が52mol%前後である高透磁率材における昇温速度の制御は、粒内空孔、粒径の制御を目的とし、主として透磁率の向上を意図している。また、Fe量が65mol%前後の高最大磁束密度材においても昇温速度を制御する場合があるが、この場合最大磁束密度の増加を図るために昇温速度を遅くすることを趣旨としている。Feが大幅に過剰な場合とそうでない場合とでは、還元によってFe3+からFe2+とし、それを維持しなければならないFeの量に大きな差があるので、雰囲気、昇温速度が焼結体組織、特性に与える影響およびその機構は大きく異なるのである。本発明では、700〜1000℃の温度範囲での昇温速度を50〜300℃/時間と速くすることによって、特に表面付近の粗大な空孔の量を低減する。昇温速度はより好ましくは、150〜300℃/時間である。
さらに、1000℃以上の温度範囲の昇温速度も、50〜300℃/時間とすることが好ましい。1000℃以上の温度範囲では、700〜1000℃の温度範囲に比べて平衡酸素分圧は高く、焼結体表面の空孔の生成への影響は小さいが、焼結体全体において空孔の少ない、高密度の焼結体を得る観点からは、該範囲での昇温速度も速くし、処理時間を短くすることが好ましい。昇温速度が、50℃/未満となると焼結体密度が低下し、最大磁束密度も低下する。但し、300℃/時間超とすると耐火セラミックス等の炉材が割れやすくなる、大電力が必要になるなど装置への負荷が大きくなるため好ましくない。昇温速度はより好ましくは、150〜300℃/時間である。
また、本発明においては、焼結温度は、1150℃〜1250℃の範囲とすることが好ましい。焼結温度が1150℃未満となると焼結体密度が低下するとともに異相であるヘマタイト相が生成しやすくなり、最大磁束密度が低下する。また、1250℃を超えると焼結体中に異常粒成長した粗大粒が生成するため最大磁束密度等の磁気特性が低下する。また、理由は明らかではないが、本発明の組成範囲においては、焼結温度を上げても焼結体密度は上昇せず、逆に1250℃を超えると焼結体密度が低下する。
700〜1000℃の温度範囲での雰囲気の酸素濃度と処理時間の好ましい範囲は、前記の通りであるが、高い磁気特性を得るためには、それ以外の温度範囲での雰囲気の酸素濃度も0.1vol%以下であることが好ましい。例えば、700℃未満の温度では、バインダによる還元効果を維持発揮させるためには、雰囲気の酸素濃度が低いことが好ましい。また、1000℃から焼結温度に至る工程も、700℃〜1000℃の温度範囲に比べれば平衡酸素分圧は高くなるが、異相抑制・高磁気特性のためには雰囲気の酸素濃度は低いことが好ましい。さらに、冷却工程では、昇温工程と異なり高密度化が完了しているため、粗大な空孔の発生の影響は無視できるものの、再酸化による異相の生成を抑えるためには雰囲気の酸素濃度を低く、かつ冷却速度も速くすることが好ましい。例えば、焼結温度から700℃までの冷却速度を100〜250℃/時間とすればよい。700〜1000℃以外の温度範囲における焼結工程の雰囲気の酸素量は、より好ましくは0.01vol%以下である。雰囲気ガスのうち酸素以外の成分は不活性ガスを用いることができるが、量産性の観点から窒素を使用することが望ましい。さらに酸素濃度制御を不要として工程を簡略化する観点からは、窒素中とすることが望ましい。また、H、CO、炭化水素等の還元性ガスを用いることによって、スピネル化反応の促進、焼結性向上を図ることもできる。
さらに本発明にかかるフェライト焼結体の密度は4.95×10kg/m以上であることが好ましい。かかる範囲に限定するのは、Fe含有量が68mol%<Fe≦80molである大幅にFe過剰の本発明の組成を適用し、表面付近の粗大な空孔を低減しても、焼結体全体の密度が上記範囲を下回ることは、焼結体表面付近だけでなく、全体で空孔が多くなることを意味するからである。このことは100℃において520mT以上の高い最大磁束密度が得られなくなり、直流重畳特性等の電子部品の性能が十分に向上しなくなることにつながる。また、焼結体密度を4.95×10kg/m以上とすることは焼結体全体の強度向上にもつながり、欠陥の発生を抑えることにも寄与する。
フェライト焼結体の最大磁束密度は焼結体密度に依存する。本発明に係る非常にFe過剰の組成では、高い最大磁束密度が期待されるものの、焼結体密度が上がりにくく、この点がかかる組成における最大磁束密度向上の妨げとなっていた。一般的には、粉末冶金的方法により焼結体を作製する場合、焼結温度を高くすることによって高密度化を図ることが可能である。しかし、本発明の組成を有するフェライトを0.1vol%以下の酸素濃度の雰囲気で焼結する場合においては、焼結温度を高くすることは焼結体密度の向上に対して有効に寄与しない。これに対して、成形に供するフェライト粉末の比表面積を3000〜7000m/kgの範囲とすることで、Fe含有量が68mol%<Fe≦85molである非常にFe過剰の組成であっても、組織が均一で、かつ4.9×10kg/m以上の高い密度を有する焼結体が得られ、4.95×10kg/m以上の焼結体密度を得ることも可能とする。フェライト粉末の比表面積を3000〜7000m/kgとするのは、3000m/kg未満であると焼結体密度が十分に上がらず、7000m/kgを超えると粉末の取り扱いが困難になるとともに、比表面積を粉砕時間で制御する場合に粉砕工程に多大な時間を要するため生産性に劣るからである。また、7000m/kgを超える非常に細かいフェライト粉末を用いると、焼結体に異常粒成長した粗大粒が発生し、焼結体の強度が低下するほか磁気特性が劣化する。フェライト粉末の比表面積は、より好ましくは4000〜7000m/kgであり、かかる範囲とすることで、より高い焼結体密度および最大磁束密度を得ることができる。フェライト粉末の比表面積は、粉砕時間等の粉砕条件によって制御することができる。なお、比表面積はBET法により測定する。
また、焼結体中の全Fe量に対するFe2+の割合を以下のように規定する範囲であることが好ましい。すなわち、数1で決まるRcalに対して、焼結体中の全Fe量中のFe2+の割合R(%)をRcal−2≦R≦Rcal+0.3の範囲とする。Fe2+は、Fe3+等主成分をなす他のイオンとは逆の正の磁気異方性を示すため、その存在はフェライト全体の磁気異方性への寄与を通じて初透磁率等の温度特性等(例えば、いわゆるセカンダリーピーク温度のシフト)に影響を与えることが知られている。また、同時にFe2+の存在は電気抵抗にも影響を与えることもよく知られている。しかし、本発明者らは、Fe2+の量がかかる初透磁率の温度特性の他、最大磁束密度にも大きな影響を与えることを見出した。
一般にスピネル系フェライトはMe・Fe(Me:二価の金属イオン)の組成式で表されるが、Feが50mol%を超える場合、過剰なFeはFe2+として存在することとなる。Mn−Zn系フェライトのFeの含有量をX(mol%)とし、三価の金属イオンは全てFe3+で占めると仮定すると、計算上の全Fe量中のFe2+の割合Rcal(%)は数1のように表せる。
以下詳細に説明する。Feの含有量をX(mol%)とすると、(Mn+Zn)の含有量Y(mol%)は(100−X)となり、(Mn+Zn)とスピネル相を形成するのに必要なFeの量も(100−X)mol%となる。よって余分なFe量A(mol%)は、
A=X−(100−X)=2・X−100
となる。この余分なFeは、スピネル化反応によって(2/3)FeO・Feになる。このFeOがFe2+であり、その量B(mol%)は、
B=(2X−100)×2/3=(4X−200)/3
となる。よって、全Fe量(2X)中のFe2+の割合Rcal(%)は、
cal=100・{(4X−200)/3}/2X=200・(X−50)/3X
となり、Rcal(%)は数1のように表せることになる。
しかし、実際のフェライト焼結体では、製造条件によってFe2+の量が変動するため、Fe2+の割合は必ずしもRcalの値とはならない。製造条件によって変動するFe2+の割合をRcal−2≦R≦Rcal+0.3の範囲とすることで、従来に比べて極めて高い最大磁束密度が得られる。焼結体中の全Fe量中のFe2+の割合Rを上記範囲とする理由は以下の通りである。Fe2+の割合Rが、Rcal−2.0よりも小さくなると異相としてヘマタイト相が残存し、最大磁束密度が低下する。一方、Fe2+の割合がRcal+0.3を超えるとウスタイト相が生成しやすく、やはり最大磁束密度が低下する。Fe2+の割合が本発明の範囲を超えると異相が生成しやすくなるが、異相が存在しない場合であっても、Fe2+の割合が変化すると最大磁束密度が変化する。すなわち単純な異相の有無だけではなく、Fe2+の割合によって最大磁束密度が変化するのである。例えば、異相が存在しない場合であっても、Fe2+の割合が前記範囲から外れると最大磁束密度が低下する。なお、Fe2+を制御すると焼結体密度も変化するが、その影響以上に最大磁束密度が変化する。
本発明において焼結体中のFe2+量は、焼結体を強リン酸に溶解し、ジフェニルアミン−4−スルフォン酸ナトリウムを指示薬として重クロム酸カリウム標準溶液で滴定することによって決定できる。また、全Feの量は、塩酸にて試料を分解し、過酸化水素でFe(Fe2+、Fe3+)の内のFe2+をFe3+へ酸化させすべてFe3+とし、その後塩化第一スズでFe3+からFe2+へ還元した後、重クロム酸カリウム標準溶液で滴定することによって決定できる。
Fe2+量を制御して高い最大磁束密度を得るために、成形に供するフェライト粉末のスピネル化率Sを10〜60%、かつバインダ添加量V(wt%)を1.3−0.02×S≦V≦2.3−0.02×Sの範囲とすることが好ましい。ここで本発明におけるスピネル化率は、粉末X線回折パターンにおけるスピネル相の311ピーク(スピネル相の最大強度を示すピーク)の強度I311とヘマタイト相の104ピーク(ヘマタイト相の最大強度を示すピーク)の強度I104との和(I311+I104)に対するI311の割合を用いた。また、バインダ添加量とは、フェライト粉末の重量とバインダ成分の重量の和に対するバインダ成分の重量の割合をいう。
スピネル化率、バインダ添加量を上記範囲に限定した理由は以下の通りである。 成形に供するフェライト粉末のスピネル化率が10%未満となると、焼結後の変形が大きくなるため寸法精度が落ちるほか、焼結工程において還元しなければならないFe3+の量が多くなるため、粗大な空孔が生成しやすいからである。さらに、焼結工程を経た後でも焼結・スピネル化反応が不十分となり、異相としてヘマタイト相が残存しやすく、最大磁束密度が低下するからである。また、スピネル化率が60%を超えると、異相であるウスタイト相が生成しやすいとともに、高い最大磁束密度を得るための最適バインダ添加量の水準が大きく低下することから、異相の抑制と成形性の維持の両立が困難になるからである。さらに、スピネル化率は、より好ましくは10%以上、かつ40%未満である。成形性・成形体強度維持の観点からはバインダ添加量を多くすることが望ましいが、バインダ添加量が多すぎると過還元になりやすい。スピネル化率を10%以上、かつ40%未満とすることで、1.5%以上のバインダを添加しても高い最大磁束密度を維持することが可能となる。
一方、バインダ添加量を1.3−0.02×S≦V≦2.3−0.02×Sの範囲としたのは、バインダ添加量がかかる範囲から外れると、Fe2+の割合が本発明の範囲を外れるなどして、高い最大磁束密度が得られないからである。成形性の観点からは、バインダ添加量は、さらに1.0〜1.8wt%であることが好ましい。本発明においては、バインダとして有機バインダを使用するが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)などを使用することができる。
次に、本発明で規定するスピネル化率およびバインダ添加量と全Fe量に対するFe2+量の割合との関係について説明する。例えば通常の粉末冶金的方法によって製造する場合、成形に供するフェライト粉末は、所定の条件で仮焼した後、粉砕したものを用いるが、かかる仮焼工程を経た結果、数十%のスピネル化率を持つ。かかるフェライト粉末を成形後、焼結することによって最終的なフェライト焼結体を得るが、該焼結工程における脱酸素反応すなわち還元反応によって上述のスピネル化率が上昇し、焼結工程終了時にはスピネル化率は理想的には100%となる。本発明で規定するFe2+量の割合は、この還元反応によって変化する。本発明に係るフェライト焼結体は従来のMn−Zn系フェライトに比べて大幅にFe過剰であるため、かかる脱酸素反応を促進するためには焼結工程における雰囲気酸素濃度は低いことが好ましい。
また、特許文献2によれば仮焼も窒素中で行なうことが好ましい旨の記載がある他、特許文献1では仮焼後のスピネル化度は60〜90%が必要であるとされる。これらは、多量の酸素を放出する必要があるFe過剰の組成の場合に、焼結前にフェライト粉末の反応をより進めておくという点で好ましいと考えられる。しかし、脱酸素反応は、上述の焼結工程の雰囲気酸素濃度だけではなく、造粒の際添加されるPVA(ポリビニルアルコール)などのバインダ量に大きく左右される。これは、C、Hを主構成元素とするバインダの加熱分解によって還元性ガスが発生し、これが脱酸素反応を促進するからである。脱バインダ工程を大気中で行なう場合、バインダは大気中の酸素と結合してしまうため、かかる還元性の影響は顕在化しないが、脱バインダ・焼結工程を窒素中等の低酸素雰囲気で実施する場合にはその影響が顕著となる。通常、バインダは成形性の観点から一定量添加されるが、後述のようにより細かいフェライト粉末を使用する場合、比表面積が大きくなるため、より多くのバインダを必要とする。この場合、フェライト粉末の還元が過度に進み、最終的に得られるフェライト焼結体においてFe2+量の割合が大きくなるため、本発明の第一の発明に規定するFe2+量の割合RがRcal−2.0≦R≦Rcal+0.3の範囲を超えてしまい、異相としてウスタイト相が確認されるなど、特性の劣化が生じる。
また、これらFe2+量の割合、異相の発生、特性の劣化は、主成分組成や仮焼条件等によってその状況が変化し、大幅にFe過剰な組成のフェライト焼結体の安定製造を困難なものにしていた。これに対し、フェライト粉末のスピネル化率、バインダ添加量および脱バインダから焼結温度保持にいたる工程の酸素濃度を本発明の範囲とすることで、Fe2+量の割合RをRcal−2.0≦R≦Rcal+0.3の範囲とすることが可能であり、その結果高い最大磁束密度を有するフェライト焼結体を得ることができる。
上述のフェライト粉末のスピネル化率は、選択する組成、仮焼雰囲気、仮焼温度等によって制御することができる。仮焼の条件が同じであれば、使用する組成がFe過剰になればなるほど、スピネル化率は低下する。また、仮焼雰囲気中の酸素量が少ないほどスピネル化率が上昇する。仮焼雰囲気の酸素濃度は組成、バインダ量とのバランスで決定されるが、窒素中から大気中の酸素濃度範囲で本発明において規定するスピネル化率を得ることが可能である。量産性・コストの観点からは、大気中で仮焼することが好ましい。また、仮焼温度は、これが高すぎると仮焼後のフェライト粉末が粗大化し、その後の粉砕を困難なものとするため、800℃〜950℃とするのが好ましい。
なお、成形に供するフェライト粉末は、本発明に規定するスピネル化率のものであればよく、仮焼、すなわち混合した素原料粉の固相反応によって得られたものに限らず、例えば水熱合成等によって得られたものも使用することができる。
また、本発明において、副成分としてCaをCaCO換算で0.02wt%≦CaCO≦0.3wt%、SiをSiO換算で0.003wt%≦SiO≦0.015wt%含有させることによって高い体積抵抗率を併せ持ったフェライト焼結体を提供することができる。Caをかかる範囲に限定したのは、CaCO換算で0.02wt%未満であると体積抵抗率向上の効果が得られず、0.3wt%を超えると焼結性が低下し、焼結体密度・最大磁束密度が低下するからである。また、Siを上記範囲に限定したのは、SiOが0.003wt%未満であると体積抵抗率向上の効果が得られず、0.015wt%を超えると焼結体組織中に粗大粒が発生し、磁気特性・体積抵抗率が低下するからである。これら副成分を0.02wt%≦CaCO≦0.3wt%、0.003wt%≦SiO≦0.015wt%の範囲とすることで、Feが大幅に過剰で、Fe2+が非常に多い組成でありながら、通常のMn―Zn系フェライトと同等の0.1Ω・m以上の体積抵抗率を有する、高最大磁束密度・高電気抵抗のフェライト焼結体を提供することができる。
また、一般的にFe2+が多くなると体積抵抗率が低下するが、副成分としてCa、Siを所定量添加することで体積抵抗率を0.1Ω・m以上とすることが出来、非常にFe2+が多い組成でありながら一般的なMn−Zn系フェライトと同等の絶縁性を確保し、これを用いる電子部品の設計が複雑化することを回避できる。また、体積抵抗率を0.1Ω・m以上とすることで、コアロスのうち特に渦電流損失を低減することができる。
なお、最大磁束密度の向上、コアロスの低減等の目的から、主成分のMnをさらにCo、Ni、Cu、Ti、Sn、Liで7mol%以下置換してもよい。また、添加物としてNb、Zr、V、Ta、Bi、W、Mo、Alおよび希土類金属(Yを含む)の酸化物その他の化合物を0.2wt%以下含んでもよい。
上記のように、本発明の製造方法によれば、焼結まま(as−sintered)の状態で、焼結体表面付近での粗大空孔を低減することができるが、焼結体の表面の少なくとも一部を加工処理し、その表面層を除去することによって、より確実に粗大空孔を低減し、カケ・剥がれ等の欠陥や特性ばらつきを抑制し、安定した特性・品質を得ることができる。加工処理は、表面層を深さ方向に除去できる方法であればよく、これを特に限定するのではないが、例えば砥粒・砥石による研磨・研削加工、酸によるエッチング加工等でもよい。また、加工処理によって除去する量は、焼結ままの焼結体表面から、深さ方向に100μm以上であることが好ましい。粗大空孔は焼結体表面から100μmまでの深さに生成しやすいため、焼結ままの焼結体表面から、深さ方向に100μm以上を除去することによって、粗大空孔を効果的に除去することができる。特に、加工処理で除去する部分は、同種または異種の磁心と突き合わせて使用する磁心の突合せ面の少なくとも一部であることが好ましい。突合せ面での粗大空孔を加工によって低減することによって、インダクタンスの低下・ばらつきを抑制することができる。しかも、粗大空孔は、例えばE型コアの中足、両腕部分の先端に生成しやすいため、かかる部分を除去することが効果的である。これは、該部分は拡散距離が長くなっている部分であるためと考えられる。前記E型コアを例にとれば、中足および/または両腕部の先端が、前記突合せ面に相当するが、この先端表面を加工処理によって除去すればよい。好ましくは中足および両腕部の先端表面を加工する。
前記本発明のフェライト焼結体を磁心とし、該磁心に巻線を巻設して電子部品を構成することにより、高く、安定した特性を有する電子部品を得ることができる。電子部品としてチョークコイルを例にとれば、前記フェライトは最大磁束密度が高いことから直流重畳特性に優れ、また表面の粗大空孔が少ないことから特性のばらつきが少なくなる。以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
Fe、MnO(Mnを使用)およびZnOを表1に示す組成になるよう秤量し、湿式ボールミルにて4時間混合した後乾燥し、これを窒素中900℃で1.5時間仮焼した。また、一部の組成に対しては、別途大気中850℃にて1.5時間仮焼したものも作製した。これらに添加物としてCaをCaCO換算で0.08wt%、SiをSiO換算で0.006wt%、TaをTa換算で0.03wt%添加し、粉砕粉の比表面積が4000〜7000m/kgになるように粉砕時間を調整して湿式ボールミルにて粉砕し、更にバインダとして表1に示す量のPVAを添加後乾燥、造粒した。造粒後リング状に圧縮成形し、1175℃にて8時間焼結した。700〜1000℃の温度範囲も含めて、室温から1000℃おける昇温速度は150℃/時間である。また、1000〜1175℃での昇温速度は250℃/時間とした。なお、脱バインダから焼結温度保持にいたる工程およびその後の冷却工程とも窒素気流中にて行なった。700〜1000℃での焼結雰囲気の酸素濃度は、0.001〜0.004vol%の範囲であった。また、1000℃〜焼結温度までの焼結雰囲気の酸素量は0.001〜0.006vol%であった。得られた外径25mm、内径15mm、高さ5mmのリング状焼結体について、10kHzでの初透磁率μi、測定磁界1000A/mにおける20℃、100℃および150℃における最大磁束密度(それぞれBm20℃、Bm100℃、Bm150℃とする)を測定するとともに、20℃と100℃での最大磁束密度の変化率も併せて算出した。最大磁束密度Bmの変化率は、100×(Bm20℃−Bm100℃)/Bm20℃より算出した。また、フェライト粉末のスピネル化率、焼結体の密度ds、体積抵抗率ρ、キュリー温度Tcおよび全Fe量中のFe2+量の割合Rも併せて測定した。焼結体密度は水中置換法により測定し、体積抵抗率は切断したリング試料の切断面に導電性ペーストを塗布後二端子法にて測定した。焼結体の結晶粒径は、鏡面研磨後、塩酸エッチングした試料の1000倍の光学顕微鏡写真上に、10cmの線(100μmに相当)を引き、かかる線上に存在する粒子数で100μmを除した値を使用した。結果を表1〜表2に示す。
表1および2に示すように、本発明の範囲内の主成分組成において、特に100℃での最大磁束密度Bmが520mT以上となり、従来に比べて非常に高い最大磁束密度が得られることがわかる。また、体積抵抗率も0.1Ω・m以上であり、従来のMn−Zn系フェライトと同等の水準を得た。また、キュリー温度が410℃以上となり、100℃で520mT以上の高い最大磁束密度を有するとともに、20℃での最大磁束密度に対する100℃での最大磁束密度の変化率が10%以下である温度変化の小さいMn−Znフェライト焼結体が得られることがわかる。さらに、68mol%<Fe≦75mol%、3mol%≦ZnO≦12mol%、残部酸化マンガンとすることにより、100℃において540mT以上の極めて高い最大磁束密度が得られることがわかる。なお、焼結体の結晶粒径は、全試料とも4〜6μmであった。
次に、表1に示した試料について、焼結体断面を鏡面研磨後、表面付近のSEM観察を行なった。代表例として、No14の試料についての観察結果を図1に示す。また、焼結体表面から100μmの深さの範囲における5μm以上の空孔の数を測定したところ、表4に示すように焼結体表面方向の長さ100μmあたり2個であり、表面付近に粗大なポアは特異的に観察されなかった。また、焼結体の取り扱い中、カケ・剥がれ等の欠陥は発生しなかった。
(比較例1)
表1のNo14、No5の組成のものについて、700〜1000℃における昇温速度を30℃/時間とした以外は実施例と同様にしてリング状焼結体を作製した(No15、16)。700〜1000℃における焼結雰囲気の酸素量は0.001〜0.004vol%、1000℃〜焼結温度での焼結雰囲気の酸素量は0.001〜0.006vol%であった。昇温の条件、得られた焼結体の密度、磁気特性等の結果を表3、4に示す。また、この焼結体の断面の表面付近をSEMで観察した結果を図2(No15)、図3(No16)に示す。5μm以上の空孔の数を表4に示すが、粗大な空孔が多数観察され、これらの焼結体では取り扱い中の接触により表面の一部に剥がれが見られた。
(実施例2)
表1のNo14の組成のものについて、1000℃〜焼結温度(1175℃)における昇温速度を30℃/時間とした以外は実施例1と同様にしてリング状焼結体を作製した(No17)。700〜1000℃における焼結雰囲気の酸素量は0.001〜0.004vol%、1000℃〜焼結温度での焼結雰囲気の酸素量は0.001〜0.006vol%であった。昇温の条件、得られた焼結体の密度、磁気特性等の結果を表3、4に示す。また、この焼結体の断面の表面付近をSEMで観察した結果を図4に示す。5μm以上の空孔の数を表4に示すが、表面付近の粗大な空孔の生成の様子は実施例1の条件の場合と大きな差は見られないが、焼結体全体の密度が低化し、実施例1の条件の場合に比べて、最大磁束密度が低下していた。
(実施例3)
表1のNo14の組成のものについて、700℃〜焼結温度(1175℃)における昇温速度を100℃/時間とした以外は実施例1と同様にしてリング状焼結体を作製した。700℃〜焼結温度における焼結雰囲気の酸素量は0.001〜0.006vol%であった。得られた焼結体の密度は、4.99×10kg/m、20℃における最大磁束密度は576mTであり、特性、組織は実施例1の条件の場合とほぼ同等となった。
(比較例2)
表1のNo14の組成のものについて、700〜1000℃における雰囲気の酸素濃度を0.001〜3.5vol%、1000℃〜焼結温度での焼結雰囲気の酸素量を0.007〜0.015vol%とした以外は実施例1と同様の条件でリング状焼結体を作製した(No18)。具体的には、900℃で酸素を一時的に導入することで前記酸素量の変化となった。昇温の条件、得られた焼結体の密度、磁気特性等の結果を表3、4に示す。また、この焼結体の断面の表面付近をSEMで観察した結果を図5に示す。5μm以上の空孔の数を表4に示すが、粗大な空孔が多数観察され、これらの焼結体では取扱い中の接触により表面の一部に剥がれが見られた。すなわち、昇温速度が速くても雰囲気の酸素濃度が高いと焼結体表面の粗大な空孔が多く形成されることがわかった。
(実施例4)
No14の組成で、試料表面に粗大空孔が形成された焼結体について、50℃の塩酸に20分浸漬するエッチングによる加工処理を施し、表面から150μmの部分を除去した。エッチング前440であった透磁率、562mTであった20℃での最大磁束密度は、エッチング後それぞれ520、590mTとなり、表面の粗大空孔の除去とともに最大磁束密度も向上することが確認された。
本発明に係る焼結体の断面の表面付近のSEM観察像である。 比較例の焼結体の断面の表面付近のSEM観察像である。 比較例の焼結体の断面の表面付近のSEM観察像である。 本発明に係る焼結体の断面の表面付近のSEM観察像である。 比較例の焼結体の断面の表面付近のSEM観察像である。

Claims (7)

  1. 主組成が68mol%<Fe≦80mol%、3mol%≦ZnO≦15mol%、残部酸化マンガンからなり、焼結体断面における5μm以上の空孔が、焼結体表面から100μmの深さの範囲において焼結体表面方向の長さ100μmあたり10個未満であることを特徴とするフェライト焼結体。
  2. 焼結体密度が4.95×10kg/m以上であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト焼結体。
  3. 前記焼結体はその表面の少なくとも一部が加工処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト焼結体。
  4. 前記焼結体は、同種または異種の磁心と突き合わせて使用する磁心であり、前記表面の少なくとも一部は、前記磁心の突合せ面の少なくとも一部であることを特徴とする請求項3に記載のフェライト焼結体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のフェライト焼結体を磁心とし、該磁心に巻線を巻設したことを特徴とする電子部品。
  6. フェライト粉末にバインダを添加後、成形し、焼結するフェライト焼結体の製造方法であって、前記フェライト焼結体は主組成が68mol%<Fe≦80mol%、3mol%≦ZnO≦15mol%、残部酸化マンガンからなり、室温から焼結温度まで昇温する途中の700〜1000℃の温度範囲での焼結雰囲気の酸素量を0.1vol%以下とし、かつ前記温度範囲での昇温速度を50〜300℃/時間とすることを特徴とするフェライト焼結体の製造方法。
  7. 室温から焼結温度まで昇温する途中の1000℃以上の温度範囲での昇温速度を50〜300℃/時間とすることを特徴とする請求項6に記載のフェライト焼結体の製造方法。
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