被検体を透過したX線の線量を測定し、その線量の測定値に基づいて画像を作成して、被検体の検査あるいは診断を行うX線装置は、工業用としては種々の製品の異物検査や欠陥検査などに、また医療用としてはX線透視装置やX線撮影装置などに広く応用されている。このようなX線装置では、被検体内の対象物が微小な場合に、よい検査あるいは診断を行うためには、対象物のできるだけ拡大された像を得ることが望ましい。そのためには、X線発生装置またはそれに用いられるX線管において、X線の発生領域であるX線源(以下、焦点と呼ぶ)の大きさをできるだけ小さくする必要がある。このような要請を受けて、近年焦点の寸法が10μmという微小焦点を有するマイクロフォーカスX線管が普及し始めている。
一方、X線透視などにおいて、高画質のX線画像を得るためには、X線を発生させる電子線電流(以下、X線管電流という)はできるだけ大きいことが要求される。例えば、食品中の異物検査などを感度の低いラインセンサーを使用して検査するX線装置や、生産ライン上を流れている検査物(被検体)の画像をイメージインテンシファイア(I.I.)カメラのシャッター機能を利用して一瞬の静止画像として得るインラインの自動検査X線装置などでは、X線管電流の大電流化による感度向上が要求される。また、医療用X線装置においても、X線フィルム撮影とX線透視を兼用する機器では、撮影時間を短縮するためにX線管電流の大電流化による感度向上が必要となる。
マイクロフォーカスX線管のように、一般に電子線を微小なビームに集束する場合、陰極のグリッド電極が軸対称形状に構成され、これによって電子線のビームの断面形状はほぼ円形となる。このように電子線をあたかも光学レンズ系のように集束させる電極系の構成を電子光学系と呼ぶ。この電子光学系を用いて微小焦点を形成するマイクロフォーカスX線管の構成として、特許文献1や特許文献2や特許文献3などに開示されたものがある。
特開2003−7236号公報
特開2003−317996号公報
特開2005−38825号公報
しかし、マイクロフォーカスX線管では、X線管電流の大電流化を妨げる因子として電子線自身の電荷による空間電荷効果がある。これは電子の持つ電荷によりお互いの電子が反発され、電子線のビーム径が大きくなってしまう効果である。マイクロフォーカスX線管では、通常電子線を集束するために電界または磁界のレンズ作用を利用しているので、上記の空間電荷効果により、X線管電流の大電流化と微小焦点にするための電子線のビーム径の小径化とは相反するものとなっている。すなわち、電子線のビーム電流(X線管電流)が少ない場合には、電界または磁界のレンズ作用が空間電荷効果による電子相互間の反発作用に打ち勝つことができるため、電子線の集束を十分行うことができるが、電子線のビーム電流が多くなると、空間電荷効果による電子相互間の反発作用が大きくなって上記のレンズ作用が機能しにくくなり、電子線の集束を十分に行うことができなくなってしまうという問題がある。
本発明の対象とするマイクロフォーカスX線管の場合のような極めて小さい焦点を得るための電子集束方法としては、特許文献2や特許文献3などに開示されているような、複数のグリッド電極を用いて、電界レンズを形成する方法がある。この方式の代表的なものを図13に示す。図13はマイクロフォーカスX線管用の電子銃の概略構成図である。この電子銃を以下、マイクロフォーカス電子銃と略称する。以下、図13により、マイクロフォーカス電子銃の構造、動作について簡単に説明する。図13において、マイクロフォーカス電子銃200はカソード202と、第1グリッド電極(以下、G1電極という)204と、第2グリッド電極(以下、G2電極という)206と、第3グリッド電極(以下、G3電極という)208とから構成される。カソード202の電子放射面202aから放射された電子線210はカソード202とG1電極204、G2電極206、G3電極208とで形成される電子レンズによって集束されて細いビームとなり、陽極のターゲット212に衝突し、X線を発生させる。
マイクロフォーカス電子銃200のカソード202は酸化物カソードまたは含浸形カソードなどの熱陰極であり、高温で、空間電荷制限領域で用いられる。G1電極204にはカソード電位に対し数十V高い正電位が印加され、G2電極206にはカソード電位に対し数百〜数千V高い正電位が印加される。これらの電圧値は所望のビーム電流値や焦点寸法の値に応じて決定される。カソード202の電子放射面202aから出射した電子はG1電極204の正電位の電圧によって電子線210として引き出される。G1電極204の開口(電子ビーム通過孔)204aを加速されながら通過した電子線210はG2電極206によって更に加速される。ここで、G2電極206とG1電極204の電位差によって電子線210を集束する電子レンズ(カソードレンズ)が形成される。このカソードレンズのレンズ作用によって電子線210は集束される。この集束作用によって電子線210はG2電極206の開口(電子ビーム通過孔)206aの付近にクロスオーバー214と呼ばれる仮想焦点を形成する。
G3電極208には、カソード電位に対し数千V程度の正電位の電圧が印加される。G3電極208はこの電圧によって、他の電極と協調して、クロスオーバー214の像点をターゲット212上に投射する電子レンズ(主レンズ)を形成する。クロスオーバー214から発散した電子線210は、G3電極208によって形成される主レンズによって集束されて、ターゲット212上に微小スポットの像点216を形成する。すなわち、クロスオーバー214を通過した電子線210は発散しながらG3電極208に入射し、G3電極208内ではその近傍に形成される主レンズによって集束され、G3電極208を通過した後には集束されながらターゲット212まで走行し、ターゲット212上に像点216を形成する。この像点216が焦点となる。
次に、従来のマイクロフォーカス電子銃の電子集束系の構造の一例について説明する。図14は特許文献3に示された従来のマイクロフォーカス電子銃の電子集束系の一例の電極の形状とその配置を模式的に示した図である。図14の構成では、マイクロフォーカス電子銃200を構成するG2電極206の開口206aの直径をG1電極204の開口204aの直径よりも小さくしている。カソード202の電子放射面202aから放射された電子線210のうち、その中心軸218から離れた外側の電子は、先ずG1電極204の開口204aの近傍に衝突して除去され、次にG2電極206の開口206aの近傍に衝突して除去される。このようにG1電極204、G2電極206の開口204a、206aは電子線210に対し、絞りの役割を果たしている。このため、G2電極206の開口206aを通過した電子線210は、大部分が中心軸218に近い軌道を走行する電子で構成されることになる。その結果、その後のG3電極208によって形成される電子レンズ(主レンズ)による集束において、球面収差が殆んどなく集束されるので、陽極のターゲット212上に非常に小さい焦点216を形成することができる。
マイクロフォーカスX線管及びそれを使用したX線装置では、上記のごとく、高画質の透視画像を得るためや撮影時間を短縮するためなどを目的として、微小焦点とともに大きなX線管電流の得られる電子集束系が必要とされる。マイクロフォーカス電子銃200においては、ターゲット212上の焦点216の寸法はクロスオーバー214の直径、電子線210の発散角度(電子線210がクロスオーバー214からG3電極208に向けて走行する時の拡がり角度)、空間電荷効果による項などの関数で与えられる。G2電極206の開口206aの付近に形成されるクロスオーバー214の直径をより小さくすることによって、ターゲット212上の焦点216の寸法(直径)を微小化することが可能となるが、上記した従来のマイクロフォーカス電子銃200では、G2電極206についても開口206aの直径を小さくして電子線210に対する絞りの役割を持たせており、中心軸218から遠い軌道の電子線210を除去して、クロスオーバー214の寸法(直径)を微小化している。そのため、G2電極206の開口206a近傍には多くの高エネルギーの電子が衝突し、その衝突部分が高温となり、熱膨張によりグリッド電極間隔の変化が起り、電子線の集束を悪化させるほか、放電を引き起こす原因にもなり得る。これらの現象は電子線210の電流量(X線管電流)が大きくなる程顕著となる。
また、上記した従来のマイクロフォーカス電子銃200では、陽極のターゲット212からの反射電子を防ぐ手段が十分には施されていない。マイクロフォーカスX線管では、大略40kVから150kV程度のX線管電圧で使用される。使用中、ターゲット212の焦点216に衝突した電子線210のうちの一部の電子が焦点216から反射することが知られている。この反射電子は最大で、X線管電圧によって加速されたエネルギーと同じエネルギーを持つため、マイクロフォーカス電子銃200の周辺にまで到達する。マイクロフォーカス電子銃200では、複数のグリッド電極に異なる電位のグリッド電圧が印加されるため、各グリッド電極間は絶縁されており、複数のグリッド電極は絶縁物220で支持されている。この絶縁物220に反射電子が入射すると、絶縁物220に電荷が蓄積し帯電する。絶縁物220の帯電電荷量が多くなると、絶縁物220と周囲の電極との放電やグリッド電極間の放電が起ることになる。更に、絶縁物220の帯電によってグリッド電極の電位が印加電圧値からずれることで、マイクロフォーカス電子銃における電子線の集束特性に悪影響を与えることになる。
上記に鑑み、本発明では、電子集束系における電子ビームの集束効率を向上するとともに、反射電子による絶縁物への帯電を防止し、微小焦点、大電流のマイクロフォーカスX線管とそれを用いたX線装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明のマイクロフォーカスX線管は、電子線を発生するカソードと、電子線を細い線状ビームに集束するために電子線の経路に配置される複数個のグリッド電極から成る電子集束系とを有する陰極と、電子線が衝突することによりX線を発生するターゲットを有する陽極と、陰極と陽極とを絶縁支持し、真空気密に封入する外囲器とを備え、陰極の電子集束系の複数個のグリッド電極はそれぞれ電子線を通過させるための開口を有し、それぞれのグリッド電極にカソードを基準にした電位を印加することにより電子線を集束するための電子レンズを形成し、グリッド電極を絶縁支持するグリッド電極絶縁支持部を持つマイクロフォーカスX線管において、前記電子集束系は少なくとも3個のグリッド電極から成り、前記グリッド電極のうちの前記カソードに最も近接するグリッド電極(以下、G1電極という)の開口の内周面は、その直径がカソード側で最も小さく、ターゲット側で最も大きく、その中間ではターゲット側に行くにつれて増加し、または少なくとも減少しないように形成されている(請求項1)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G1電極の開口の内周面は1個のテーパー面で形成されており、その直径はカソード側で最小となっている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G1電極の開口の内周面は2個以上のテーパー面を接続して形成されており、その直径はカソード側で最小となっている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G1電極の開口の内周面は曲面で形成されており、その直径はカソード側で最小となっている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記グリッド電極のうち前記カソードに2番目に近接するグリッド電極(以下、G2電極という)の開口の直径は前記G1電極の開口の最小直径の1/2以上である。
また本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記グリッド電極のうち前記カソードに3番目に近接するグリッド電極(以下、G3電極という)の開口の内周面は、その直径がカソード側で最も大きく、ターゲット側で最も小さく、その中間ではターゲット側に行くにつれて減少し、または少なくとも増加しないように形成されている(請求項2)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G3電極の開口の内周面は、その直径がカソード側で最も小さく、ターゲット側で最も大きく、その中間ではターゲット側に行くにつれて増加し、または少なくとも減少しないように形成されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G3電極の開口の内周面は1個のテーパー面で形成されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G3電極の開口の内周面は2個以上のテーパー面を接続して形成されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G3電極の開口の内周面は1個以上のテーパー面と1個以上の円筒面を接続して形成されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G3電極の開口の内周面は曲面で形成されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記G3電極の開口の内周面は1個以上の曲面と1個以上のテーパー面を接続して形成されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、大略底付き円筒形状で、金属材料から成る陰極カバーを備え、該陰極カバーは前記電子集束系及び前記グリッド電極絶縁支持部を覆い、前記底付き円筒の底面が前記ターゲットに対向するように配設され、前記底付き円筒の底面に電子線の通過する開口が設けられている(請求項3)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記陰極カバーの開口は前記電子集束系の中心軸と同軸であり、その開口の大きさは前記ターゲット上に前記電子線の衝突によって形成される焦点(X線源)から前記グリッド電極絶縁支持部の絶縁物を直視できないように隠すことができる大きさである。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記陰極カバーは接地されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記陰極のカソードに接地電位が付与されている。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、前記陽極は回転陽極である。
また、本発明のX線発生装置は、本発明のマイクロフォーカスX線管と、該X線管に高電圧を供給する高電圧電源部と、前記X線管の陰極の複数個のグリッド電極にグリッド電圧を供給するグリッド電源部と、前記X線管の電極及び/または外囲器を支持するX線管支持部と、前記X線管と前記高電圧電源部と前記グリッド電源部と前記X線管支持部を内包し、支持する容器と、該容器内に充填され、前記X線管及びその他の構成要素を浸漬して絶縁する絶縁油と、該絶縁油の膨張、収縮を緩衝するために前記容器に取り付けられたベローズを含む。
また、本発明のX線装置は、本発明のX線発生装置と、該X線発生装置から放射され、被検体を透過したX線を検出するX線検出装置と、該X線検出装置から出力される検出X線量に対応する信号を入力して被検体のX線画像を作成する画像形成装置と、前記X線発生装置、前記X線検出装置及び前記画像形成装置を制御する制御装置を有する。
本発明のマイクロフォーカスX線管は、陰極の電子集束系を構成する複数個のグリッド電極のうちG1電極の開口の内周面をその直径がカソード側からターゲット側に行くにつれて広がるようにしているので、G1電極の開口の近傍における電位分布は従来品より外側に広がったものとなり、電子集束系の中心軸から離れた外側の軌道を走行する電子線(以下、外側の電子線という)に対し、より外側へ向かうような力を作用することになり、外側の電子線によって形成されるクロスオーバーは従来品よりカソードから離れた位置に形成される。これに対し、電子集束系の中心軸の近くの内側の軌道を走行する電子線(以下、内側の電子線という)は上記の電位分布の変化による影響を殆んど受けず、内側の電子線によるクロスオーバーは従来品とほぼ同じ位置に形成される。従来品では、外側の電子線によるクロスオーバーと内側の電子線によるクロスオーバーとでは位置に若干の差があり、前者が後者よりカソードに少し近い位置に形成されていたため、クロスオーバー全体としてその直径は大きなものとなっていた。本発明では、電子集束系の改良により外側の電子線のクロスオーバーの位置と内側の電子線のクロスオーバーの位置がほぼ一致させることができ、クロスオーバー全体としての直径も従来品より小さくできるようになった。クロスオーバーの直径が小さくなることにより、ターゲット上の焦点も小さくすることが可能となった。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G1電極の内周面を1個のテーパー面で形成し、ターゲット側に行くにつれて直径が大きくなるようにしているので、G1電極の開口の近傍における電位分布は従来品より外側に広がったものとなる。その結果、外側の電子線の軌道が広がり、そのクロスオーバーがカソードからより離れた位置に形成されて、内側の電子線のクロスオーバーに接近するため、クロスオーバー全体の直径を小さくすることができる。また、テーパー面のテーパー角度を変えるだけで、その近傍の電位分布を変えることができるので、G1電極の簡単な構造変更で、G1電極近傍における外側の電子線の軌道を容易に修正することができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G1電極の開口の内周面が2個以上のテーパー面を接続して形成されているので、それぞれのテーパー面のテーパー角度を変えたり、テーパー面の長さを変えたりして、G1電極の開口の近傍における電位分布をかなり広範囲に変えることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G1電極の開口の内周面がターゲット側に行くにつれて直径が大きくなる曲面で形成されているので、テーパー面の場合と同様にG1電極の開口の近傍における電位分布は従来品より外側に広がったものとなり、外側の電子線の軌道を広げ、クロスオーバー全体の直径を小さくすることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G2電極の開口の直径をG1電極の最小直径の1/2以上とし、G1電極のものとほぼ同程度としているので、カソードから放射され、G1電極の開口を通過した電子線はG2電極に衝突することは殆んどなくなり、大きな電子線電流(X線管電流)が確保される。また、G2電極に電子線が衝突しなくなったことにより、G2電極の開口近傍が過熱されることがなくなるため、それに起因する放電現象もなくなり、X線管は安定した動作を維持することができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G3電極の開口の内周面をその直径がカソード側からターゲット側に行くにつれて狭くなるようにしているので、G3電極の開口附近における電位分布は従来品よりも内側に狭まったものとなり、外側の電子線に対し、より内側に向かうような力を作用することになり、外側の電子線によってターゲットの近傍に形成されるクロスオーバー(以下、ターゲット側クロスオーバーという)は従来品よりカソードに近い位置に形成される。これに対し、内側の電子線は上記の電位分布の変化による影響を殆んど受けず、内側の電子線によるターゲット側クロスオーバーは従来品とほぼ同じ位置に形成される。外側の電子線はG1電極による電位分布の修正でカソードに近い側のクロスオーバー(以下、カソード側クロスオーバーという)がカソードから離れた位置に形成されているため、そのターゲット側クロスオーバーを従来品よりカソードから離れた位置に形成することになるが、上記のG3電極による電位分布の修正で電子軌道の修正が行われ、適当な位置、すなわち内側の電子線によるターゲット側クロスオーバーとほぼ同じ位置に形成され、電子線全体として小径のターゲット側クロスオーバーが得られる(請求項2)。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G3電極の開口の内周面をその直径がカソード側からターゲット側に行くにつれて広くなるようにしているので、G3電極の開口附近における電位分布は従来品よりも外側に広がったものとなり、外側の電子線に対し、より外側に向かうような力を作用することになり、外側の電子線のターゲット側クロスオーバーは従来品よりカソードから離れた位置に形成される。このため、このような構成のG3電極を備えた電子集束系は、G1電極による電位分布の修正で、外側の電子線のカソード側クロスオーバーがカソードにより近い位置に形成された場合に、その外側の電子線の電子軌道の修正に適している。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G3電極の開口の内周面が1個のテーパー面で形成されているので、内周面の直径はテーパー面のテーパー角度を変えることで、増加させ、または減少させることができる。また、テーパー面のテーパー角度を変えることで、G3電極の開口近傍には容易に多種類の電位分布を作ることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G3電極の開口の内周面が2個以上のテーパー面を接続して形成されているので、それぞれのテーパー面のテーパー角度を変えたり、テーパー面の長さを変えたりして、G3電極の開口近傍における電位分布をかなり広範囲に変えることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G3電極の開口の内周面が1個以上のテーパー面と1個以上の円筒面を接続して形成されているので、それぞれのテーパー面のテーパー角度を変えたり、それぞれの面の長さを変えたりして、G3電極の開口近傍における電位分布をかなり広範囲に変えることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G3電極の開口の内周面が曲面で形成されているので、テーパー面の場合と同様に、内周面の直径は曲面の形状を変えることで増加させ、または減少させることができる。また、曲面の形状変更により、G3電極の開口の近傍には容易に多種類の電位分布を作ることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、G3電極の開口の内周面が1個以上の曲面と1個以上のテーパー面を接続して形成されているので、それぞれの曲面の形状やテーパー面のテーパー角度を変えたり、それぞれの面の長さを変えたりして、G3電極の開口近傍における電位分布をかなり広範囲に変えることができる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、底付き円筒形状で、金属材料から成る陰極カバーによって、電子集束系とグリッド電極絶縁支持部が覆われているので、ターゲットの焦点からの反射電子は導電性を有する陰極カバーに衝突し、電子集束系やグリッド電極絶縁支持部などに直接衝突することが少なくなった。その結果、グリッド電極絶縁支持部の絶縁物やその他の絶縁物に反射電子が帯電し、その帯電による電位によって電子集束系に電気的障害を与えるようなことは防止される。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、陰極カバーの開口の大きさがターゲット上の焦点からグリッド電極絶縁支持部の絶縁物を直視できないように隠すことができる大きさとしているため、ターゲットの焦点からの反射電子が直接上記絶縁物に衝突することがなくなるので、上記絶縁物に反射電子が帯電して放電を起こしたり、グリッド電極の電位に変化を生じさせたりすることはなくなり、電子集束系の動作は安定したものとなる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、陰極カバーが接地されているので、ターゲットの焦点からの反射電子が陰極カバーに衝突しても、それらの反射電子は陰極カバーに帯電することなく、アースに流れるので、反射電子の帯電による電気的な障害は取り除かれる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、陰極のカソードに接地電位を付与しているので、陰極の電子集束系のグリッド電極に印加するグリッド電圧もX線管電圧に比べて低い電圧となり、X線管の陰極全体及びグリッド電圧発生回路の絶縁は特別な配慮が必要なくなる。それに伴ない、陰極の電気的な制御も簡易なものとなる。
また、本発明のマイクロフォーカスX線管では、陽極を回転陽極としているので、微小焦点にもかかわらず、大きな電気的負荷を印加することが可能となり、大きな線量の X線を放射することにより、高精細なX線画像を得ることができる。
また、本発明のX線発生装置では、本発明のマイクロフォーカスX線管を内包しているので、このX線管の微小焦点と大きなX線管電流の利点を生かして、高精細なX線画像を得ることができ、また、X線管の焦点からの反射電子による絶縁物への帯電が防止されたことにより、安定した動作を維持することができる。
また、本発明のX線装置では、その構成要素であるX線発生装置が本発明のマイクロフォーカスX線管を内包しているので、このX線管の微小焦点と大きなX線管電流の利点を生かし、高精細なX線画像が得られるとともに、安定した動作を長く維持することができる。
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しながら説明する。先ず、図1〜図9を用いて、本発明に係るマイクロフォーカスX線管の一実施例の構造及び動作について説明する。図1は本発明に係るマイクロフォーカスX線管の一実施例の全体構造図、図2は図1の要部である陰極部の拡大図、図3は図1の要部となる電子集束系の概略構成図、図4は従来のマイクロフォーカスX線管の電子集束系の概略構成図、図5は本実施例の電子集束系のG1電極及びG2電極附近での電子軌道の計算例を示す図、図6は従来のマイクロフォーカスX線管の電子集束系のG1電極及びG2電極附近での電子軌道の計算例を示す図、図7は従来のマイクロフォーカスX線管の電子集束系における電子線の集束状況を説明するための図、図8は本実施例の電子集束系における電子線の集束状況を説明するための図、図9は本実施例と従来品とのターゲット上に形成される焦点の電流密度分布の比較を示した図である。
図1において、本実施例のマイクロフォーカスX線管(以下、X線管と略称する)10は、電子線を発生する陰極12と、電子線が衝突してX線を発生する陽極14と、陰極12と陽極14を真空気密に内包し、絶縁支持する外囲器16とから構成される。本実施例のX線管10では、マイクロフォーカス(微小焦点)が得られ、かつ大きなX線管電流で動作させることができる陰極12の構成に特徴がある。陰極12の構成、動作については、後で図2〜図9を用いて詳しく説明する。それに先立って、陰極12を除いた全体構造について図1により説明する。
図1において、陽極14はX線管としての許容負荷を大きくするために回転陽極形の構造を採用している。この陽極(以下、回転陽極とも呼ぶ)14はこれに限定されず、固定陽極形のものでもよい。回転陽極14はX線発生源となる円盤状のターゲット18と、ターゲット18を支持するロータ20と、ロータ20を支持する回転軸22と、回転軸22を回転自在に支持する軸受24と、軸受24を支持する固定部26などから構成される。この回転陽極14は全体として汎用の医療用回転陽極X線管のものとほぼ同じ構造をしている。ターゲット18は傘型で円盤状をしており、タングステンまたはその合金などの高原子番号で、高融点の金属材料から成る。ターゲット18の傾斜面には、陰極12からの細いビーム状の電子線50が衝突し、焦点28が形成される。
次に、外囲器16は、回転陽極14のターゲット18と陰極12の先端部を囲み、アース(接地)電位に保持される大径部30と、回転陽極14の固定部26と結合されて、これを絶縁支持する陽極絶縁部32と、陰極12を絶縁支持する陰極絶縁部34とから構成される。大径部30は大略円板状の円板部36と、大略円筒状をした大径肉厚の円筒部38とが結合されたもので、円板部36と円筒部38は銅やステンレス鋼などの金属材料から成る。円板部36の回転陽極14のターゲット18上の焦点28に近接する部分に設けた開口36aにX線放射窓40が取り付けられる。円板部36の開口36aの形状はX線放射窓40の形状に合わせて加工され、円形や長方形などがあるが、通常は円形である。X線放射窓40はX線透過性の良いベリリウムなどから成り、窓枠などを介して、円板部36の開口36aに溶接またはろう付けによって結合されている。陽極絶縁部32は回転陽極14のロータ20の外径より少し太い円筒部42と、大径部30の円筒部38に結合するためにコーン状に広げられたフレア部44と、回転陽極14の固定部26と結合するための陽極接続部46とから構成される。陽極絶縁部32は大部分が耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁物から成り、両端の大径部30の円筒部38や回転陽極14の固定部26との接続部分には絶縁物となじみの良い金属材料が使用されている。大径部30の円筒部38の側面には、回転陽極14の中心軸48とほぼ直交する方向に、陰極絶縁部34が結合されている。陰極絶縁部34は細い外径の円筒形状をしており、その一端において、大径部30の円筒部38の側面に結合され、その他端において陰極12のステム70と結合されている。陰極絶縁部34の大部分は耐熱性ガラスまたはセラミックなどの絶縁物から成る。
図1において、外囲器16の大径部30の円筒部38の中心軸と回転陽極14の中心軸48はほぼ一致し、回転陽極14のターゲット18は大径部30のほぼ中心に位置することになる。陰極12の中心軸が回転陽極14のターゲット18上の焦点28にほぼ一致するように、陽極絶縁部32は大径部30の円筒部38の側面に結合される。その結果、陰極12からの電子線50はターゲット18上の焦点28に衝突し、焦点28で発生したX線52は大径部30の円板部36に取り付けられたX線放射窓40を通して外部に(図示の上方に)取り出される。
次に、図2〜図9を用いて、本実施例のX線管10の要部である陰極12の構成と動作について説明する。先ず、図2により、X線管10の陰極12の構造について説明する。図2において、図2(a)は陰極の全体構造図、図2(b)は陰極の電子集束系の拡大図である。図2において、陰極12は電子線50を発生するカソード54と、電子線50を集束する電子集束系56と、カソード54を支持するカソード支持体58と、電子集束系56を構成する3個のグリッド電極60、62、64を絶縁支持する電子集束系絶縁体66と、電子集束系絶縁体66を覆う陰極カバー68と、カソード54や電子集束系56などを支持するステム70などで構成される。
カソード54は、酸化物または含浸形のカソードで、加熱用のヒータを備えている。カソード54は、ヒータの加熱によって1000K以上の高温で動作し、熱電子を放射する。カソード54は底付きの円筒形状をしており、円筒の内側にヒータが絶縁して配設され、円筒の底の外表面(以下、電子放射面という)54aから熱電子が放射される。カソード54はカソード支持体58に支持され、更に電子集束系56を介して電子集束系絶縁体66に支持される。電子集束系56は本実施例では3個のグリッド電極60、62、64で構成される。すなわち、カソード54に最も近い第1グリッド電極(以下、G1電極と略称する)60と、次に近い第2グリッド電極(以下、G2電極と略称する)62と、3番目に近い第3グリッド電極(以下、G3電極と略称する)64である。電子集束系56を構成するグリッド電極の個数は3個に限定されず、4個以上であってもよい。3個のグリッド電極60、62、64はそれぞれ中心部に電子線50を通す開口60a、62a、64aを有し、カソード54と回転陽極14のターゲット18との間に、カソード54の側からG1電極60、G2電極62、G3電極64の順で、適当な間隔をとって同軸に配置される。
電子集束系56の中で、G1電極60とG2電極62は板状体で、その中心部に小さい直径の開口60a、62aが設けられており、全体としては取り付けなどを考慮してカップ状に形成されている。G3電極64は中心部に大きな開口64aが設けられており、全体としては円筒形に近い形状をしている。本実施例では、G1電極60の開口60aの内周面は電子集束系56の中心軸72に対しテーパーの付いた面74に加工されており、その内径はカソード54側で最も小さくなっている。このテーパー面74は後で説明する如く、G1電極60とG2電極62との間に形成されるカソードレンズの集束効率を改善するものである。テーパー面74のテーパー角度は図示の例では約27°となっているが、このテーパー角度は電子集束系の構成に応じて適宜変えられる。G2電極62の開口62aの内周面は従来品と同様電子集束系56の中心軸72と平行な円筒面である。また、G3電極64の開口64aの内周面も電子集束系56の中心軸72に対しテーパーの付いた面76に加工されており、その内径はカソード54側で最も大きくなっている。このテーパー面76は、図示のものでは約15°となっているが、このテーパー角度も電子集束系の構成に応じて適宜変えられる。また、G2電極62の開口62aの内径はG1電極60の開口60aの最小内径の1/2以上としている。これは、電子線50の中心軸72から離れた位置を走行する電子がG2電極62の開口62aの近傍に衝突するのを防止するためであり、通常G2電極62の開口62aの内径はG1電極60の開口60aの最小内径とほぼ同程度の寸法に設定されている。G1電極60、G2電極62、G3電極64の開口60a、62a、64aの形状と寸法及びそれぞれの間の間隔は、所望の焦点寸法やそれぞれのグリッド電極60、62、64に印加する電圧と関係して決定される。このグリッド電極に印加する電圧(以下、グリッド電圧という)はカソード54に印加する電位(以下、カソード電位または陰極電位という)を基準にして指定される。また、グリッド電極60、62、64の材料としては耐熱性金属材料が用いられるが、本発明ではグリッド電極60、62、64に入射する高エネルギーの電子線は従来品に比べて少なくなるので、ステンレス鋼などが使用可能となり、従来品の如くモリブデンなどの高融点金属材料を使用せずに済む。これにより材料費や加工費などの低減が期待できる。
電子集束系56の3個のグリッド電極60、62、64の支持は、各グリッド電極間の絶縁を保つために2個の棒状の絶縁物66aから成る電子集束系絶縁体66によって行われる。この棒状の絶縁物66aは耐熱性ガラスなどから成るが、この絶縁物66aとグリッド電極60、62、64との結合は、それぞれのグリッド電極の外周に溶接などで取り付けた取付金具66bに絶縁物66aを溶着することによって行われる。絶縁物66aとしては耐熱性ガラス以外にセラミックが用いられる場合もあるが、その場合には絶縁物66aと取付金具66bはろう付けなどで結合される。電子集束系絶縁体66はリング状の支持体78を介してステム70に支持される。ステム70は円板状の絶縁物から成る支持板70aと、この支持板70aを貫通する複数本のリード線80と、支持板70aの外周に結合されたリング状の接続筒70bと、支持体78を支持する円筒状の電子集束系支持部70cなどから構成される。支持板70aはセラミックなどの耐熱性絶縁物から成り、支持板70aとリード線80、接続筒70b、電子集束系支持部70cとはろう付けにより結合されている。リード線80はヒータ加熱電圧、カソード電位、グリッド電圧などを供給するためのものである。接続筒70bは支持板70aの材料となじみの良い金属材料から成り、外囲器16の陰極絶縁部34の端部に設けられた円筒状の接続金具34aに溶接などによって結合される。この結合によって陰極12全体が外囲器16に支持される。また、この結合時に、回転陽極14のターゲット18と陰極12の先端部との間隔が調整される。電子集束系支持部70cは薄肉の円筒で、リード線80を囲むように配置され、その一端は支持板70aに結合され、その他端は電子集束系絶縁体66を支持する支持体78に結合されている。この電子集束系支持部70cの側面には複数個の開口が設けられており、この開口を用いて、リード線80と陰極12の各電極との電気的接続が行われる。
電子集束系56と回転陽極14のターゲット18との間には、ターゲット18からの反射電子が陰極12の電子集束系56やその他の部分に到達しないようにするため、ステンレス鋼などの耐熱性金属材料から成る陰極カバー68が配置される。この陰極カバー68は底付きの円筒形状をしており、その円筒部68が外囲器16の大径部30に直接接続されている。陰極カバー68と大径部30との接続は、直接結合してもよいが、間に金属材料などからなる媒体を介して接続してもよい。陰極カバー68のターゲット18に対向する面(底面)68bには電子線50が通過するための開口84が設けられており、陰極カバー68は電子集束系56や電子集束系絶縁体66を覆うように配置されている。陰極カバー68の開口84の直径は電子集束系56のG3電極64の開口64aの直径よりも大きいが、グリッド電極60、62、64を絶縁支持する電子集束系絶縁体66の2本の絶縁物66aの間隔より小さくしている。すなわち、陰極カバー68の開口84の大きさはターゲット18上の焦点28から絶縁物66aが直視できないように隠す大きさとしている。これにより、ターゲット18の焦点28からの反射電子が絶縁物66aに到達するのを防止している。陰極カバー68は、その開口84が電子集束系56の中心軸72と同軸で、G3電極64の開口64aに近接するように配置されている。また、陰極カバー68は外囲器16の大径部30と接続されることで、大径部30と同電位となり、アース電位に保持される。このように、陰極12の電子集束系56及びその周辺部をアース電位の陰極カバー68にて覆い、かつターゲット18に対向する底面68bの電子線50の通過する開口84を必要最小限の面積の穴とすることにより、ターゲット18の焦点28からの反射電子は陰極カバー68や大径部30に向かい、その後アースに流れて行くことになるので、電子集束系絶縁体66の絶縁物66aに帯電することを防止することができる。
次に、図3〜図9を用いて、本実施例のX線管の電子集束系における電子線の集束状況を従来品の電子集束系と比較しながら説明する。図3と図4には本実施例と従来品の電子集束系の概略構成と電子線の概略形状を示す。また、図5と図6には本実施例と従来品の電子集束系のG1電極及びG2電極附近での電子軌道の計算例を示す。図3と図4において、本実施例の電子集束系56と従来品の電子集束系86とを比較すると、G1電極とG3電極の開口の内周面の形状とG2電極の開口の直径が異なる。すなわち、従来品のG1電極88とG3電極92の開口88a、92aの内周面が電子集束系の中心軸72に対し平行であるのに対し、本実施例のG1電極60とG3電極64の開口60a、64aの内周面はテーパー面74、76であり、G1電極60のテーパー面74はテーパー角度が約27°で、ターゲット18側に行くにつれて内周面の直径が大きくなるものであり、G3電極64のテーパー面76はテーパー角度が約15°で、ターゲット18側に行くにつれて内周面の直径が小さくなるものである。また、本実施例のG2電極62の開口62aの直径は従来品のG2電極90の開口90aの直径よりも格段に大きく、G1電極60の開口60aの最小直径とほぼ同程度になっている。電子集束系の各グリッド電極に印加されるグリッド電圧は、両方のX線管でほぼ同じ電圧が印加され、G1電極60、88には数十Vの正電位が、G2電極62、90には数百〜数千Vの正電位が、G3電極64、92には数千Vの正電位が、それぞれ印加される。これらのグリッド電圧はいずれもカソード電位を基準にしたものである。また、X線管の陰極(カソード)と陽極(ターゲット)との間にはX線管電圧が印加される。この結果、電子線50の集束において、G2電極の近傍に形成されるクロスオーバー(カソード側クロスオーバー)については、本実施例のクロスオーバー94は従来品のクロスオーバー96よりG2電極から離れた位置に形成され、またターゲット18上の焦点28の寸法については本実施例のもののほうが従来品のものより若干小さ目になっている。また、図5と図6を比較して判るように、従来品のG2電極90の開口90aの近傍に一部の電子線50が衝突しているのに対し、本実施例のG2電極62では開口62a近傍への電子線50の衝突の恐れは全くなくなっている。
次に、図7と図8を用いて、従来品と本実施例の電子集束系における電子線の集束状況について説明する。両図において簡単のため、電子線50としては、電子集束系の中心軸72の近くを走行する内側の電子線と、中心軸72から離れて走行する外側の電子線を代表として選び、電子線の走行も直線で近似して、それぞれの電子線の集束状況を説明することにした。図7において、従来品の電子集束系86のG1電極88、G2電極90、G3電極92の開口88a、90a、92aの内周面は上記の如く中心軸72と平行で、G2電極90の開口90aの直径は小さくなっている。このような構成の電子集束系86では、内側の電子線98はG2電極90の開口90aからG3電極92側に少し寄った位置にカソード側クロスオーバー(以下、内側ビームカソード側クロスオーバーという)100を形成し、更にターゲット18上にターゲット側クロスオーバー(以下、内側ビームターゲット側クロスオーバーという)101を形成する。これに対し、外側の電子線102はG2電極90の開口90aの中にカソード側クロスオーバー(以下、外側ビームカソード側クロスオーバーという)104を形成し、更にターゲット18の少し手前にターゲット側クロスオーバー(以下、外側ビームターゲット側クロスオーバーという)105を形成する。その結果、従来品の電子集束系86ではターゲット18上には少し大きめの微小焦点が形成される。また、従来品の電子集束系86ではG2電極90の開口90aの直径が小さいため、図6に示す如く、外側の電子線102のうちの一部である、より外側のものはG2電極90の開口90aの近傍に衝突し、G2電極90を温度上昇させる原因となっていた。
図8において、本実施例の電子集束系56では、G1電極60とG3電極64の開口60a、64aの内周面にテーパー面74、76を設け、G2電極62の開口62aの直径をG1電極60の開口60aの最小直径とほぼ同じぐらいにしている。このような構成の電子集束系56では、図5に示す如く、G1電極60とG2電極62との間の電位分布が改善され、両電極によってこの部分に形成されるカソードレンズによる電子線50の集束がゆるやかとなり、特に外側の電子線110に対する集束がゆるやかとなっている。また、G3電極64によって形成される主レンズによる電子線50の集束はきつくなっており、特に外側の電子線110に対する集束がきつくなっている。カソード54の電子放射面54aから放射された内側の電子線106はG1電極60とG2電極62で形成されるカソードレンズにより集束されて、従来品の電子集束系86の場合とほぼ同様に、G2電極62の開口からG3電極64に少し寄った位置に内側ビームカソード側クロスオーバー108を形成し、更にG3電極64によって形成される主レンズにより集束されてターゲット18上に内側ビームターゲット側クロスオーバー109を形成する。また、外側の電子線110は改善されたカソードレンズによってゆるやかに集束されて、従来品の電子集束系86の場合よりもカソード54から離れた、内側ビームカソード側クロスオーバー108とほぼ同じ位置に外側ビームカソード側クロスオーバー112を形成する。その結果、内側ビームカソード側クロスオーバー108の位置と外側ビームカソード側クロスオーバー112の位置がほぼ一致するために、小径のカソード側クロスオーバー94が得られる。更に、外側の電子線110は従来品よりカソード54から離れた位置にある外側ビームカソード側クロスオーバー112から出発するが、G3電極64に形成される改善された主レンズによってきつく集束されて、ターゲット18上に外側ビームターゲット側クロスオーバー113を形成する。その結果、ターゲット18上には内側ビームターゲット側クロスオーバー109と外側ビームターゲット側クロスオーバー113とが一緒になった、小径のクロスオーバー94に対応する小さい焦点が得られる。
また、本実施例では、電子集束系56のG3電極64の開口64の内周面を、その直径がターゲット18側に行くにつれて小さくなるテーパー面76としたが、このテーパー面76はこれに限定されず、逆傾斜の場合もあり得る。すなわち、外側の電子線110をきつく集束する場合には、テーパー面76は図8に示したような傾斜で形成され、反対に外側の電子線110をゆるく集束する場合には、テーパー面76はその直径がターゲット18側に行くにつれて大きくなるように形成される。また、テーパー面76のテーパー角度は外側の電子線110を主レンズで集束する場合のきつさ及びゆるさの度合いに応じて変えられる。
また、図8において、本実施例の電子集束系56では、G2電極62の開口62aの直径を従来品のG2電極に比べ格段に大きくしているので、図5に示す如く、外側の電子線110もG2電極62に衝突することなく集束される。その結果、G2電極62が電子線50によって加熱されて、高温になることはなくなるので、グリッド電極間で放電したりする問題もなくなった。
図9は、本実施例と従来品とのターゲット上に形成される焦点の電流密度分布を比較して示したものである。図9において、横軸はターゲット上の位置座標、縦軸は電子線の電流密度である。図において、カーブAは本実施例のもの、カーブBは従来品のものである。本実施例の場合、同じX線管電流では電子線の電流密度は従来品に比べ、大幅に増加し、焦点寸法も小さくなっている。ターゲット上の焦点寸法としては、本実施例のものは従来品に比べ、約20%程度小さいものが得られている。本実施例の電子集束系では、X線管電流を増加しても、電子線の集束状況は殆んど変化することがないので、微小焦点を維持することができる。
図10には、本発明に係るマイクロフォーカスX管のG1電極及びG3電極の開口の内周面の形状の他の例を示す。本実施例のX線管10では電子集束系56のG1電極60及びG3電極64の開口60a、64aの内周面の形状としてテーパー面74、76を示したが、開口60a、64aの内周面の形状はこれに限定されず、図10に示すような他の形状であってもよい。図10の各図はG1電極またはG3電極(以下、グリッド電極で代表する)の中心軸72の上側断面を示したものである。図10(a)の第1の他の例では、グリッド電極114の開口114aの内周面は第1のテーパー面116と第2のテーパー面118を接続して形成されており、テーパー面の傾斜角度は第1のテーパー面116の方が大きい。図10(b)の第2の他の例では、グリッド電極114の開口114aの内周面は第1のテーパー面116と円筒面120と第2のテーパー面118を接続して形成されている。図10(c)の第3の他の例では、グリッド電極114の開口114aの内周面は3個のテーパー面、すなわち第1のテーパー面116と第2のテーパー面118と第3のテーパー面121を接続して形成されている。上記のテーパー面はいずれも開口114aの内周面の直径が右側に行くにつれて、すなわちカソード54から離れるにつれて小さくなっている。図10(d)の第4の他の例では、グリッド電極114の開口114aの内周面は曲面122で形成されている。図10(e)の第5の他の例では、グリッド電極114の開口114aの内周面は曲面122とテーパー面116を接続して形成されている。上記の曲面122も開口114aの内周面の直径は右側に行くにつれて小さくなっている。図10(f)〜図10(g)の第6〜第10の他の例は図10(a)〜図10(e)の第1〜第5の他の例の構造図の左右を反転させたもので、それぞれのグリッド電極の開口の内周面の直径は右側(ターゲット側)に行くにつれて増加するか、または少なくとも減少しないように形成されている。逆に、図10(a)〜図10(e)の第1〜第5の他の例のそれぞれのグリッド電極の開口の内周面の直径は右側(ターゲット側)に行くにつれて減少するか、または少なくとも増加しないように形成されている。
G1電極としては、この開口の内周面の形状によって、外側の電子線をゆるく集束するような電位分布をG1電極の近傍に作る必要性から、第1の実施例のG1電極や図10(f)、図10(i)などの、開口の内周面の直径がターゲット側(図示の右側)に行くにつれて増加するか、または少なくとも減少しないように形成されているもので、構造の簡単なものが適している。これに対し、G3電極としては、第1の実施例の如く、外側の電子線をきつく集束するような電位分布をG3電極の近傍に作る必要がある場合と、その他に外側の電子線をゆるく集束するような電位分布をG3電極の近傍に作る必要がある場合とがあるため、図2の本実施例のG3電極64や図10(a)〜図10(e)などの開口の直径がターゲット側に行くにつれて減少するか、または少なくとも増加しないように形成されているものと、図2の本実施例のG3電極64を左右反転させたものや図10(f)〜図10(g)などの、開口の直径がターゲット側に行くにつれて増加するか、または少なくとも減少しないように形成されているものの両方が適している。
次に、図11を用いて、本発明に係るX線発生装置の一実施例について説明する。図11は、本実施例のX線発生装置の構成図である。図11において、本実施例のX線発生装置130は、本発明に係るマイクロフォーカスX線管10と、X線管10を内包する容器132と、X線管10の回転陽極14及び陰極12に高電圧を供給する高電圧発生回路134と、X線管10の陰極12の電子集束系を構成するグリッド電極にグリッド電圧を供給するグリッド電圧発生回路136と、X線管10の回転陽極14を回転駆動するステータ138と、X線管10や高電圧発生回路134やグリッド電圧発生回路136などを絶縁するための絶縁油140と、制御回路142などから構成される。
容器132は通常金属板などから成る筐体で、形状は直方体のものが多い。容器132内にはX線管10以外に高電圧発生回路134やグリッド電圧発生回路136などが含まれ、絶縁油140が充填されている。容器132の内壁の一部で、X線管10の回転陽極14のターゲット18に近い部分には防X線のために鉛板などが張られている。X線管10の回転陽極14と高電圧発生回路134とグリッド電圧発生回路136は絶縁物などから成る支持体を介して容器132の内壁に支持されている。X線管10の外囲器16の大径部30は容器132の内壁に直接支持され、その内壁のX線管10のX線放射窓40に対向する部分に、X線を外部に取り出すための開口(X線放射口)144が設けられている。ステータ138はX線管10の回転陽極14のロータの周囲に配置され、容器132の内壁などに絶縁物を介して支持される。
高電圧発生回路134は高電圧変圧器と整流回路などで構成され、制御回路142から商用周波数の交流電圧が低電圧リード線146を経由して供給されて、これを高電圧変圧器にて交流の高電圧に昇圧した後、整流回路で整流する。高電圧発生回路134としては通常中性点接地方式が用いられ、正の高電圧と負の高電圧を発生する。正の高電圧は高電圧リード線148を経由してX線管10の回転陽極14へ、負の高電圧は高電圧リード線148及びグリッド電圧発生回路136を経由してX線管10の陰極12へ供給される。グリッド電圧発生回路136は電圧調整器と絶縁変圧器と整流回路などから構成される。本実施例ではグリッド電圧がグリッド電極毎に異なるので、3個のグリッド電圧を発生するために、電圧調整器などは3組用いられている。グリッド電圧発生回路136では制御回路142から供給される商用周波数の交流電圧を電圧調整器で適当な電圧値に調整して、絶縁変圧器にて絶縁した高電位の交流電圧とした後、整流回路で整流してグリッド電圧とする。グリッド電圧はグリッド電圧発生回路136からグリッドリード線150及びX線管10のステム70のリード線を経由して、電子集束系56のG1電極、G2電極及びG3電極に供給される。また、グリッド電圧発生回路136には陰極12のカソード54を加熱するためのヒータの電源回路も含まれている。ヒータ電源回路は電圧調整器と絶縁変圧器などから構成され、制御回路142から供給された商用周波数の交流電圧を電圧調整器で適当な電圧値に調整した後、絶縁変圧器にて絶縁した高電位のヒータ加熱電圧とする。ヒータ加熱電圧はグリッド電圧発生回路136からヒータリード線152及びステム70のリード線を経由してカソード54のヒータに供給される。
制御回路142は、X線管10を動作させるための電源部154と、X線管10の動作を制御する制御部156などから構成される。電源部154には、高電圧発生回路134の1次電源やグリッド電圧発生回路(ヒータ加熱回路を含む)136の1次電源やステータ駆動電源などが含まれる。制御部156には、X線管10の負荷などを制御するためのコンピュータ(CPU)などが含まれる。この制御回路142は上記の如くX線発生装置130に組み込まれる場合もあるが、多くの場合はX線装置の制御装置の中に含まれ、この制御装置によってX線発生装置の制御が行われる。
次に、図12を用いて、本発明に係るX線装置の一実施例について説明する。図12は本発明に係るX線装置の一実施例の概略構成図である。図12において、本実施例のX線装置160は、X線を発生するX線発生装置130と、被検体162を透過したX線量を検出するX線検出装置164と、X線検出装置164からの出力信号に基づいて被検体162のX線画像を形成する画像形成装置166と、X線発生装置130、X線検出装置164、画像形成装置166の動作を制御する制御装置168などから構成される。ここで、X線発生装置130は図11に示したような本発明に係るX線発生装置で、その中には本発明に係るマイクロフォーカスX線管10が含まれている。
X線検出装置164としては、ラインセンサーのようにX線検出素子を線状に配列したものや、イメージインテンシファイア(I.I.)などのようにX線検出素子を面状に配列したものなどが用いられる。X線検出装置164では、通常X線素子から受光したX線量に対応した強度の電気信号が出力されるので、画像形成装置166ではX線検出装置164からの線状または面状に分布した電気信号に基づいて、面状画像であるX線画像を形成する。また、X線検出手段としてX線フィルムを用いる場合には、X線フィルムがX線検出装置164に対応し、フィルム現像装置などが画像形成装置166に対応することになる。制御装置168では、マイクロフォーカスX線管10を駆動するための条件の制御、X線検出装置164のX線検出動作の制御や画像形成装置166の画像作成動作の制御などを行う。また、制御装置168は、X線発生装置130をはじめとする他の装置への電源電圧の供給なども行う。
本発明に係るX線発生装置やX線装置では、本発明に係るマイクロフォーカスX線管を内包しているので、微小焦点と大きなX線管電流が得られ、微小焦点によるX線拡大撮影による診断や微細な内部構造の非破壊検査において高精細なX線画像が得られるとともに、安定した動作を長く維持することができる。