本発明は、車体のロールを抑制するロール抑制装置を備えた車両用サスペンションシステムに関する。
車両用サスペンションシステムは、例えば、サスペンションスプリング,ショックアブソーバ,スタビライザ装置,車高調整装置等を備えている。例えば、スタビライザ装置は、車体のロールを抑制する装置である。そのスタビライザ装置は、一般的に、前後1対のスタビライザバーを有し、車体のロール量に応じてスタビライザバーが捩られて(ねじられて)弾性力が発生することにより、車体のロールを抑制する。車高調整装置は、車高を調整する装置であり、下記特許文献1には、エア・スプリングを備えた車両用サスペンションシステムにおいて、各車輪に対応するエア・スプリングのエア圧力を変化させることによって、車高を調整する装置が記載されている。
特開平11−291732号公報
上記特許文献1には、車高調整時に後方の左右輪に対応するエア・スプリングを連通させ、それらのエア圧力を同時に調整することによって、後方の左右輪の各々に対応する車体の部分の車高を同時に調整する技術が記載されている。しかしながら、例えば、旋回によって車体がロールした状態で、後方の左右輪の各々に対応するエア・スプリングが連通させられた場合には、エア圧力の高い旋回外輪側のエア・スプリングからエア圧力の低い旋回内輪側のエア・スプリングにエアが移動して、エア・スプリングによる車体のロールを抑制する効果が低下する虞がある。また、例えば、ショックアブソーバ等の失陥によっても、サスペンションシステムの車体のロールを抑制する効果が低下する虞がある。それらの例のように、エア・スプリング,ショックアブソーバ等のサスペンションシステム自身の構成要素に起因して、車体のロールを抑制する効果が低下する虞があるのである。本発明は、そういった実情に鑑みてなされたものであり、車体のロールを抑制する効果を良好に保つように構成された車両用サスペンションシステムを得ることを課題としてなされたものである。
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、車体のロールを抑制する効果であるロール抑制効果が可変となるロール抑制装置を備え、当該サスペンションシステムの他の構成要素によるロール抑制効果が低下する場合に、ロール抑制装置によるロール抑制効果を増大させるように構成されたことを特徴とする。
本発明の車両用サスペンションシステムによれば、ロール抑制装置以外の他の構成要素による車体のロール抑制効果が低下する場合に、ロール抑制装置によるロール抑制効果を増大させて、サスペンションシステム全体の車体のロールを抑制する効果を良好に保つことができる。なお、本発明の車両用サスペンションシステムの各種態様およびそれらの作用および効果については、以下の、〔発明の態様〕の項において詳しく説明する。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(5)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、それぞれ相当する。
(1)車体のロールを抑制するロール抑制装置を備えたサスペンションシステムであって、
前記ロール抑制装置が、車体のロールを抑制する効果であるロール抑制効果が可変となる構造とされ、
当該サスペンションシステムの他の構成要素によるロール抑制効果が低下する場合に、前記ロール抑制装置によるロール抑制効果を増大させるように構成されたことを特徴とする車両用サスペンションシステム。
一般的なサスペンションシステムは、例えば、サスペンションスプリング,ショックアブソーバ,スタビライザ装置等の構成要素を備えている。それらの機能が正常に発揮されない状態が生じると、車体のロールを抑制する効果が低下する場合がある。具体的には、例えば、サスペンションスプリングが、エア・スプリングによって構成されている場合には、例えば、エア圧の低下に起因してエア・スプリングのばね定数が低下し、エア・スプリングによって車体のロールを抑制する効果が低下する場合がある。また、例えば、減衰力調節機構を備えたショックアブソーバにおいて、減衰力調節機構等の不調に起因して充分な減衰力が発揮されず、車体のロールを抑制する効果が低下する場合がある。また、サスペンションシステムは、例えば、車高調整装置を備えている場合がある。詳細は後述するが、例えば、車高調整装置による車高調整が行われる際に、車体のロールを抑制する効果が低下する場合がある。
上述のように、通常のサスペンションシステムには、それ自身の構成要素に起因して、車体のロールを抑制する効果が低下する虞がある。しかしながら、本項に記載のサスペンションシステムは、車体のロールを抑制するロール抑制装置を備えている。そのロール抑制装置は、車体のロール方向と逆方向のロールモーメント、つまりロール抑制モーメントを発生させてロールを抑制するものである。本項のロール抑制装置によるロールの抑制によって、車体のロール速度の減少、車体のロール量の減少等のロール抑制効果が得られる。また、そのロール抑制装置は、自身による車体のロール抑制効果を変化させることができ、例えば、ロール抑制効果を増大させることにより、車体のロール速度、車体のロール量等をより減少させることができる。そのため、本項に記載のサスペンションシステムによれば、ロール抑制装置以外の他の構成要素による車体のロール抑制効果が低下する場合にロール抑制装置によるロール抑制効果を増大させて、サスペンションシステム全体の車体のロールを抑制する効果を良好に保つことができる。
本項のロール抑制装置は、例えば、スタビライザバーとそのスタビライザバーの剛性を変化させる電磁モータ等を備えたアクチュエータとを含んで構成されるアクティブスタビライザ装置(以後、単に「スタビライザ装置」と略記する場合がある)とすることができる。そのスタビライザ装置によれば、スタビライザバーの剛性を変化させることによってロール抑制効果を増減させることができる。なお、アクティブスタビライザ装置については後に詳述する。また、ロール抑制装置は、例えば、電磁モータ等を備えたアクチュエータを有して車体と車輪とを接近・離間させる力を発生させるアクティブサスペンション装置とすることができる。そのアクティブサスペンション装置によれば、例えば、旋回外輪と車体とを離間させる力を大きくするとともに、旋回内輪と車体とを離間させる力を小さくする(あるいは、接近させる力を大きくする)ことによってロール抑制効果を増大させることができる。さらにまた、ロール抑制装置は、例えば、減衰力調節機構を備えたショックアブソーバ等のように受動的にロールを抑制する装置とすることができる。その受動的にロールを抑制する装置によってもロール抑制効果を変化させることが可能である。なお、車体のロール量をより効果的に減少させるには、アクティブスタビライザ装置等のように積極的にロールを抑制する力を発生させ得る動力源を備えた装置が望ましい。
(2)当該サスペンションシステムが、自身が作動させられることによって車高を調整する車高調整装置を備え、
前記ロール抑制装置が、前記車高調整装置の車高調整に起因して前記他の構成要素によるロール抑制効果が低下する場合に、前記ロール抑制装置によるロール抑制効果を増大させるように構成された(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載のサスペンションシステムは車高調整装置を備えている。その車高調整装置によって車高調整がなされる際には、後に具体例を示すが、車体と車輪との離間間隔が変化させられる際に、車体のロールを抑制する効果が低下する場合がある。具体的には、例えば、旋回時に、前方と後方との少なくとも一方の互いに隣り合う左右の車輪に対応する位置の車高が同時に調整される場合には、旋回時に車体に加わるロールモーメントの影響により、旋回外輪側の車体は上昇し難くかつ下降し易い傾向となり、旋回内輪側の車体は上昇し易くかつ下降し難い傾向となる。例えば、車体を下降させる場合には、旋回外輪側の車体が旋回内輪側よりも下降し易く、車高調整に起因してロール量が増加する場合がある。すなわち、車体のロールを抑制する効果が低下する場合があるのである。その場合には、例えば、車高調整装置が車体とサスペンションスプリングとの間に配設されているとすると、サスペンションスプリングが車体を支えてロール量の増加を抑制する効果、つまり、サスペンションスプリングによるロール抑制効果が低下する。上記具体例のように、車高調整に起因して前記他の構成要素によるロール抑制効果が低下する場合に、ロール抑制装置によるロール抑制効果を増大させることにより、サスペンションシステム全体の車体のロールを抑制する効果を良好に保つことができる。なお、車高調整装置の態様は、特に限定されないが、例えば、互いに隣り合う左右の車輪の各々に対応して設けられてそれぞれに作動流体が流入・流出させられることによって車体と車輪との距離を変化させる一対の流体容器を備えるものとすることができる。
(3)前記車高調整装置が、
互いに隣り合う左右の車輪の各々に対応して設けられてそれぞれに作動流体が流入・流出させられることによって車体と車輪との距離を変化させる一対の流体容器と、
車高調整時にそれら一対の流体容器を互いに連通させる流体通路と、
車高調整時に、その流体通路を介して、前記一対の流体容器内の流体圧を増減させることにより、それらの各々に作動流体を流入・流出させる作動流体供給装置と
を含んで構成された(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、車高調整装置の具体的な構成を示す態様である。本項に記載の車高調整装置は、作動流体を収容する流体容器を備えている。その流体容器は、例えば、作動流体の流入・流出によって移動させられるピストンを備えたシリンダ機構とすることができる。その場合には、ピストンとシリンダハウジングとの相対移動によって車体と車輪との距離を変化させることができる。流体容器に収容させる作動流体は、液体,気体等の流体を用いることができる。例えば、作動流体を液体とすれば、流体容器を、車高調整時以外に車体と車輪との距離が変化しないものとすることができる。また、例えば、作動流体を気体(ガス)とすれば、流体容器を、車高調整時以外に車体と車輪との距離が変化するもの、つまり、流体容器にエア・スプリングとしての機能を持たせることができる。
本項に記載の車高調整装置は、車高調整時に一対の流体容器が流体通路によって連通させられる。そのため、左右の車輪の各々と車体との距離を同時に調節することが可能であるが、例えば、旋回によって車体がロールした状態で車高調整が行われた場合には、流体圧力の高い旋回外輪側の流体容器から流体圧力の低い旋回内輪側の流体容器に作動流体が移動して、車体のロール量が増加する場合がある。つまり、旋回外輪側のサスペンションスプリングの弾性力によって車体が支えられ、ロールを抑制する作用が生じているが、そのサスペンションスプリングによるロール抑制効果が、車高調整に起因して低下する場合があるのである。具体的には、例えば、上述のように、流体容器が、サスペンションスプリングと車体との間に挟まれて配設されている場合には、作動流体の移動に伴って流体容器の高さ方向の寸法が変化するために、サスペンションスプリングによってロールを抑制することが困難になるのである。すなわち、サスペンションスプリングによるロール抑制効果が低下するのである。その様な場合に、例えば、ロール抑制装置としてのアクティブスタビライザ装置によるロール抑制効果を増大させれば、ロール量の増加を抑制することができる。
(4)前記一対の流体容器の各々が、前記作動流体としてのガスを収容するガス室を有し、左右の車輪の各々と車体との接近・離間に応じて前記ガス室の容積が減少・増加させられる構造とされるとともに、前記ガス室内のガスの圧力によって左右の車輪の各々と車体とを互いに離間させる向きの弾性力を発生させるガス・スプリングとして機能する構造とされた(3)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の流体容器は、ガス・スプリングとして機能するものである。ガス・スプリングは、車輪と車体との接近・離間に応じてガスの圧縮量を増減させ、車体を支える弾性力を増減させる。さらに、作動流体供給装置によってガス・スプリングにガスを供給すれば、ガス室内のガス圧が上昇してガス・スプリングのばね定数が増加し、車高を高くすることができる。逆にガスを排出させれば、車高を低くすることができる。すなわち、本項に記載の態様は、車高調整装置がサスペンションスプリングとしての機能を有する態様である。なお、サスペンションスプリングが車高調整機能を有している態様であると捉えることもできる。
(5)前記ロール抑制装置が、両端部の各々が左右の車輪の各々に連結されるスタビライザバーと、そのスタビライザバーの剛性を自身の作動によって変化させるアクチュエータとを含んで構成されるスタビライザ装置を備え、
そのスタビライザ装置が、前記他の構成要素によるロール抑制効果が低下する場合に、前記スタビライザバーの剛性を増大させることによってロール抑制効果を増大させるように構成された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項のスタビライザ装置は、車体のロール量に応じてスタビライザバーが捩れる(ねじれる)ことによって、ロールを抑制する弾性力を生じさせる。そのスタビライザバーの剛性を増大させれば、車体のロール量が比較的小さい状態で比較的大きなロール抑制効果が得られる。なお、本項に記載の態様において、アクチュエータによって変化させられるスタビライザバーの剛性は、見かけの剛性であり、例えば、車体のロール量に対するロールを抑制する弾性力の大きさの程度を変化させることにより見かけの剛性を変化させることができる。すなわち、ロール量が等しい状態であっても、ロールを抑制する弾性力が大きい場合はロール抑制効果が比較的大きくなり、ロールを抑制する弾性力が小さい場合はロール抑制効果が比較的小さくなるのである。具体的な構成は、例えば、スタビライザバーの左右のいずれかの部分と車輪との間に電動モータ等の動力源を備えたアクチュエータを設け、そのアクチュエータによってスタビライザバーの左右の部分を相対回転させることによって、スタビライザバーの捩れ量を変化させ、見かけの剛性を変化させることができる。また、例えば、次の項に示すように、スタビライザバーの中央においてその左右の部分を連結するようにアクチュエータを設けることもできる。
(6)前記スタビライザバーが、左側の車輪に連結される左側バーと右側の車輪に連結される右側バーとを含んで構成され、
前記アクチュエータが、前記左側バーと前記右側バーとを相対回転させるものであり、
前記スタビライザ装置が、前記他の構成要素によるロール抑制効果が低下した場合に、前記スタビライザバーの相対回転量を変化させることによって自身によるロール抑制効果が増大するように構成された(5)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載のスタビライザ装置は、例えば、左右のバーの各々の車輪と連結される端部と反対側の端部がアクチュエータによって連結された態様とすることができる。その場合には、車体がロールした際に、左右のバーの各々の捩れ量を増加させる向きに、左右のバーを相対回転させれば、ロール抑制効果を増大させることができる。
(7)前記ロール抑制装置が、前記他の構成要素によるロール抑制効果が低下した場合に、その他の構成要素によるロール抑制効果の低下量に基づいて自身によるロール抑制効果を増大させるように構成された(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様によれば、例えば、その他の構成要素によるロール抑制効果の低下量が大きいほど、ロール抑制装置によるロール抑制効果の増加量を大きくすることができる。また、例えば、他の構成要素によるロール抑制効果の低下分が、ロール抑制装置によるロール抑制効果の増加分によって相殺されるようにすることができ、車体のロールを抑制する効果が低下していない状態と同様の状態を保つことができる。
(8)当該サスペンションシステムが、前記ロール抑制装置を制御することによってそれによるロール抑制効果を変化させる抑制装置制御装置を備えた(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様によれば、抑制装置制御装置によってロール抑制装置を制御し、適切に車体のロールを抑制することができる。
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
1. 車両用サスペンションシステム.
図1に、本発明の一実施例である車両用サスペンションシステム10(以後、単に「サスペンションシステム」と略記する)を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、各車輪16に対応して設けられて各車輪16と車体とを接近離間可能に連結する独立懸架式のサスペンション装置20と、車両の前輪側および後輪側の各々に配設されて車体のロールを抑制する2つのスタビライザ装置22とを含んで構成されている。なお、本実施例において、サスペンション装置20は4つ設けられているが、図には2つのサスペンション装置20が示されている。
2. サスペンション装置.
図2には、サスペンション装置20の一部分と、一方のスタビライザ装置22の車両前方の車幅方向の中央から一方側の車輪16にかけての部分とが概略的に示されている。サスペンション装置20は、一般によく知られたダブルウィシュボーン式のものであり、一端部が車体に回動可能に連結されるとともに他端部が車輪16に連結された車輪支持部材としてのアッパアーム30およびロアアーム32を備えている。それらアッパアーム30およびロアアーム32は、車輪16と車体との接近離間(相対的な上下動の意味)に伴い、上記一端部(車体側)を中心に回動させられ、上記他端部(車輪側)が車体に対して上下させられる。また、サスペンション装置20は、ショックアブソーバ34と、エア・スプリング36とを備えている。それらショックアブソーバ34およびエア・スプリング36は、それぞれ、それらの一端部が車体側のマウント部に、他端部がロアアーム32に連結されている。このような構造から、サスペンション装置20は、車輪16と車体とを弾性的に相互支持するとともに、それらの接近離間に伴う振動に対する減衰力を発生させる機能を果たすものとなっている。
本実施例において、エア・スプリング36は、ショックアブソーバ34のピストンロッドに固定されたエアチャンバ37と、ショックアブソーバ34のシリンダに固定されたエアピストン38とを備えている(図3参照)。それらエアチャンバ37とエアピストン38とが、ダイヤフラムによって気密性を保ったまま接近・離間可能に接続されて、それらの接近・離間に応じてエア・スプリング36内の容積が減少・増加するようにされている。すなわち、エア・スプリング36内には、ショックアブソーバ34の伸縮に伴い(車輪16と車体との接近・離間に応じて)容積が変化するガス室39が形成されている。また、エア・スプリング36は、作動流体としての空気を収容するとともに車輪16と車体との接近・離間に応じてガス室39の容積を変化させてサスペンションスプリングの一種であるガス・スプリングとして機能する流体容器の一例であり、ガス室39に充填された作動流体たるエアの弾性力によって車体を支えるものとされている。
サスペンション装置20は、エア・スプリング36のガス室39のエア圧を変化させるエア圧調節装置40(作動流体供給装置の一種である)を備えており、エア・スプリング36のエア圧を増減させることによって車高を上昇・下降させることができる。そのエア圧調節装置40を図3に模式的に示す。なお、本サスペンションシステム10の構成要素であるエア・スプリング36等が、右前(FR),左前(FL),右後(RR),左後(RL)のうちのどの車輪16に対応しているかを明確にするため、図や本文において符号の後に記号(FR,FL,RR,RL)を付す場合がある。エア圧調節装置40は、自身が備えるモータの駆動力によって圧縮エアを吐出するコンプレッサ42,および圧縮エアの水分を除去するドライヤ44を備えている。ドライヤ44は、エア通路46を介して、各車輪16に対応するサスペンション装置20のエア・スプリング36と接続されている。また、エア圧調節装置40は、各エア・スプリング36に対応して設けられた常閉型の制御バルブ48(電磁弁)を備えており、それらの制御バルブ48を個別に,あるいは同時に開閉させることによって各エア・スプリング36とエア通路46とを個別に,あるいは同時に連通・遮断させることができる。
また、エア圧調節装置40は高圧タンク50を備えており、その高圧タンク50に圧縮エアを蓄えることができる。その高圧タンク50は、常閉型のタンクバルブ52を介してエア通路46と接続されている。そのタンクバルブ52が開いた状態において、コンプレッサ42から吐出される圧縮エアが高圧タンク50に収容され,あるいは制御バルブ48のいずれかが開状態にされていれば高圧タンク50に収容された圧縮エアがエア通路46を介してガス室39に供給される。すなわち、ガス室39のエア圧力を上昇させる場合には、高圧タンク50に収容された圧縮エア,およびコンプレッサ42から吐出される圧縮エアを供給することができるようにされているのである。さらに、エア圧調節装置40には、コンプレッサ42とドライヤ44とを接続するエア通路46から圧縮エアを装置外へ排気する常閉型の排気バルブ54が設けられている。その排気バルブ54によって、ガス室39の圧縮エアを排気して、ガス室39のエア圧力を低下させることができる。さらにまた、エア圧調節装置40には、圧力センサ56が設けられており、その圧力センサ56によってエア通路46を介して各ガス室39,高圧タンク50内の圧力を取得することができる。
各車輪16に対応するサスペンション装置20の各々には、車体と各車輪16との距離を検出するためのストロークセンサ60が設けられている。そのストロークセンサ60は、回転アーム62を備え、その回転アーム62の回転位置に応じて出力される抵抗値が変化する抵抗式のセンサである。4つのストロークセンサ60は、それぞれが各車輪16FR,FL,RR,RLに対応して配設されており、それらの各々の本体部が車体に固定されるとともに、回転アーム62がロアアーム32に連結されている。その回転アーム62は、各車輪16の車体に対する接近離間に応じて回動するロアアーム32によって回転させられることにより、各車輪16と車体との距離に応じた抵抗値を出力する。それらストロークセンサ60の出力値に基づいて、各車輪16に対応する車体の部分の車高を取得することができる。
3. スタビライザ装置.
前後のスタビライザ装置22の各々は、両端部において左右の車輪16を支持するロアアーム32(図2参照)に連結されたスタビライザバー70を備えている。そのスタビライザバー70は、中央部で分割されており、一対のスタビライザバー部材、すなわち右側バーとしての右スタビライザバー部材72と左側バーとしての左スタビライザバー部材74とを含む構成のものとされている。それら一対のスタビライザバー部材72,74がアクチュエータ80を介して相対回転可能に接続されており、大まかに言えば、スタビライザ装置22は、アクチュエータ80が、左右のスタビライザバー部材72,74を相対回転させることによって(図の矢印,点線矢印を参照のこと)、スタビライザバー70全体の見かけ上の剛性を変化させて車体のロール抑制を行う。なお、図2には、右スタビライザバー部材72および左スタビライザバー部材74の一方が示されている。
各スタビライザバー部材72,74は、それぞれ、略車幅方向に延びるトーションバー部90と、トーションバー部90と一体化されてそれと交差して概ね車両前方あるいは後方に延びるアーム部92とに区分することができる。各スタビライザバー部材72,74のトーションバー部90は、アーム部92に近い箇所において、車体の一部であるスタビライザ装置配設部94に固定的に設けられた支持部材96によって回転可能に支持され、互いに同軸に配置されている。それらトーションバー部90の端部(車幅方向における中央側の端部)の間には、上述のアクチュエータ80が配設されており、後に詳しく説明するが、各トーションバー部90の端部は、それぞれ、そのアクチュエータ80に接続されている。一方、アーム部92の端部(トーションバー部90側とは反対側の端部)は、上述のロアアーム32に設けられたスタビライザバー連結部98に、それと相対回転可能に連結されている。
アクチュエータ80は、図4に模式的に示すように、電動モータ100と、電動モータ100の回転を減速する減速機102とを含んで構成されている。これら電動モータ100および減速機102は、アクチュエータ80の外殻部材であるハウジング104内に設けられている。ハウジング104は、ハウジング保持部材106によって、回転可能かつ軸方向(略車幅方向)に移動不能に、車体に設けられたスタビライザ装置配設部94に保持されている。図2から解るように、ハウジング104の両端部の各々には、2つの出力軸110,112の各々が延び出すように配設されている。それら出力軸110,112のハウジング104から延び出した側の端部が、それぞれ、各スタビライザバー部材72,74の端部と、セレーション嵌合によって相対回転不能に接続されている。また、図4から解るように、一方の出力軸110は、ハウジング104の端部に固定して接続されており、また、他方の出力軸112は、ハウジング104内に延び入る状態で配設されるとともに、ハウジング104に対して回転可能かつ軸方向に移動不能に支持されている。その出力軸112のハウジング104内に存在する一方の端部が、後に詳しく説明するように、減速機102に接続され、その出力軸112は、減速機102の出力軸を兼ねるものとなっている。
電動モータ100は、ハウジング104の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のステータコイル114と、ハウジング104に回転可能に保持された中空状のモータ軸116と、モータ軸116の外周においてステータコイル114と向きあうようにして一円周上に固定して配設された永久磁石118とを含んで構成されている。電動モータ100は、ステータコイル114がステータとして機能し、永久磁石118がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。
減速機102は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)120,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)122およびリングギヤ(サーキュラスプライン)124を備え、ハーモニックギヤ機構(ハーモニックドライブ機構(登録商標),ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構等とも呼ばれる)として構成されている。波動発生器120は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボール・ベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸116の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ122は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯が形成されている。このフレキシブルギヤ122は、先に説明した出力軸112に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、出力軸112は、モータ軸116を貫通しており、それから延び出す端部にフレキシブルギヤ122の底部が固着されることで、フレキシブルギヤ122と出力軸112とが接続されているのである。リングギヤ124は、概してリング状をなして内周に複数(フレキシブルギヤの歯数よりやや多い数、例えば2つ多い数)の歯が形成されたものであり、ハウジング104に固定されている。フレキシブルギヤ122は、その周壁部が波動発生器120に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ124と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。波動発生器120が1回転(360度)すると、つまり、電動モータ100のモータ軸116が1回転すると、フレキシブルギヤ122とリングギヤ124とが、それらの歯数の差分だけ相対回転させられる。ハーモニックギヤ機構はその構成が公知のものであることから、本減速機102の詳細な図示は省略し、説明はこの程度の簡単なものに留める。
以上の構成から、電動モータ100が回転させられる場合、つまり、アクチュエータ80が作動する場合に、右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とが相対回転させられ(詳しくは、それらの各トーションバー部90が相対回転させられ)、右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とによって構成された1つのスタビライザバー70が、捩られることになるのである。そのスタビライザバー70が捩られることによって発生する弾性力は、左右の各々の車輪16と車体とを接近あるいは離間させ、ロールを抑制する力、つまり、ロール抑制モーメントとして作用することになる。つまり、本スタビライザ装置22では、アクチュエータ80の作動によってスタビライザバー70の捩れ量を変化させ、車体のロール量に対するロール抑制モーメントの大きさ,すなわち,見かけの剛性を変化させることにより、ロール抑制効果を変化させる構成の装置とされているのである。
なお、アクチュエータ80には、ハウジング104内に、モータ軸116の回転角度、すなわち、電動モータ100の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ130が設けられている。モータ回転角センサ130は、本アクチュエータ80ではエンコーダを主体とするものであり、それによる検出値は、電動モータ100の通電相の切換に利用されるとともに、左右のスタビライザバー部材72,74の相対回転角度(相対回転位置)を取得するために利用される。
4. 電子制御ユニット.
本サスペンションシステム10は、図1に示すように、サスペンション装置20およびスタビライザ装置22、詳しくは、各種のバルブ48等やアクチュエータ80の作動を制御する制御装置である電子制御ユニット(ECU)200(以下、単に「ECU200」という場合がある)を備えている。そのECU200は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されている。ECU200には、前述の圧力センサ56,ストロークセンサ60,上述のモータ回転角センサ130とともに、操舵量としてのステアリング操作部材の操作量であるステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ210,車両走行速度(以下、「車速度」と略す場合がある)を検出するための車速度センサ212,および,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ214が接続されている。(図1では、それぞれ「P」,「S」,「θ」,「δ」,「V」,「G」と表されている)。
また、ECU200は、インバータ134にも接続され、ECU200は、そのインバータ134に各種の制御指令を送信することによって、インバータ134からアクチュエータ80に駆動電力を供給する。さらに、ECU200は、駆動回路220(図3)に接続され、その駆動回路220に各種の制御指令を送信することによって、駆動回路220からコンプレッサ42,各種のバルブ48等に駆動電力を供給する。なお、駆動回路220は複数設けられているが、図3において、1つにまとめて示した。なお、ECU200は、ROM,RAM等を含んで構成される記憶部230を備えており、その記憶部230には、後に説明する車高調整プログラム,ロール抑制制御プログラム等のプログラム、車高調整,ロール抑制等の制御に関する各種のデータ等が記憶されている。
5. 車高調整制御.
ECU200による車高調整制御について説明する。車高調整制御は、マニュアルモードとオートモードとがあり、それらのいずれかが運転者によって選択される。マニュアルモードが選択された場合には、運転者によって目標車高(高、標準、低のいずれか)が選択され、車高が選択された目標車高になるように調整される。そのマニュアルモードは、本願発明との関連性が低いため説明を省略し、本願発明との関連性が高いオートモードについて説明する。
上記オートモードが選択された場合にECU200によって行われる車高調整制御のフローチャートを図5に示し、そのフローチャートに沿って車高調整制御について説明する。本実施例において、ECU200は、車高調整プログラムを実行することにより、車速度に応じて車高を変化させる車速度感応車高制御を行う。そのため、ステップ11(以後、ステップ11を「S11」と略記し、他の符号についても同様とする)において、車速度センサ212によって取得された車速度に基づいて、目標車高(高:Hh,標準:Hm,低:Hlのうちのいずれか)が決定される。具体的には、低速走行時(例えば、車速度が時速30km未満)には目標車高が標準的な車高Hmより高く設定された目標車高Hhにされ、中速走行時(例えば、車速度が時速60km未満)には目標車高が標準的な目標車高Hmにされ、高速走行時(例えば、車速度が時速60km以上)には目標車高が標準的な車高より低く設定された目標車高Hlにされる。なお、本実施例において、現時点から設定時間前までの間に取得された車速度の平均が演算されており、その平均車速度の大きさに基づいて、車両の走行状態が低速走行,中速走行,高速走行のいずれかであるかが判断される。また、目標車高が頻繁に変化しないように、走行状態が変化した後、設定された時間その変化後の走行状態が継続しないと目標車高が切り換わらないようにされている。
S12において、4つの車輪16の各々に対応する位置における実際の車高である実車高(HFR,HFL,HRR,HRL)が、それぞれストロークセンサ34FR,FL,RR,RLの抵抗値に基づいて個別に取得される。具体的には、本実施例において、4つの車輪16の各々に対応する位置において、現時点から設定時間前までの間に取得された車高の平均値が演算されており、その平均車高が上記各位置の実車高とされるのである。
4つの車輪16の各々に対応する位置の実車高が取得されると、S13において、後方の左右車輪16の各々に対応する位置の実車高の平均値である後方車高平均値(HRA=(HRR,+HRL)/2)が演算される。それは、本実施例の車高調整制御では、前方の左右車輪16の各々に対応する位置の車高は個別に調整されるが、後方の左右車輪16の各々に対応する位置の車高は同時に調整されるためである。すなわち、不整地等で4輪独立に車高調整を行う場合には、それら全てを目標車高に調節することが困難であるため制御のハンチングが生じて車高が目標車高に収束せずに制御が繰り返し行われてしまう場合があるが、後方の車高を平均して同時に調整することによって、不整地等で車高調整を行う際に制御のハンチングが生じることを防ぐことができるのである。なお、前方の左右車輪16の各々に対応する位置を「前方左右位置」と、後方の左右車輪16に対応する位置を「後方位置(または、「後方左右位置」)」と称する場合がある。
S14において、決定された目標車高Hx(x=h,m,lのいずれか)から前方左右位置および後方位置の各々の実車高HFR,HFL,HRAが引かれて、目標車高と実車高との偏差ΔHFR,ΔHFL,ΔHRAが演算される。それら偏差ΔHFR,ΔHFL,ΔHRAの絶対値が、いずれも設定値D1を超えない場合には、実車高は目標車高と概ね等しい状態であり、S15において、判定がNOとされ、車高調整制御の一回の処理が終了する。その偏差ΔHFR,ΔHFL,ΔHRAのいずれかの絶対値が、設定値D1を超えた場合には、車高調整が必要であり、S15において、判定がYESとされ、S16以下の処理が行われる。なお、設定値D1は、車高調整によって実車高を変化させる得る最大量と比較して十分小さい値に設定されている。
S16において、偏差ΔHFR,ΔHFL,ΔHRAのうちの絶対値が最大となる偏差ΔHmaxの位置を調整対象位置として、その調整対象位置に位置するエア・スプリング36のガス室39のエア圧の調整が開始される。エア圧の調整は、最大の偏差ΔHmaxの符号が正・負いずれの値であるか、調整対象位置がどこであるか、によって各種バルブの制御が異なる。最大の偏差ΔHmaxが正の値の場合は、実車高が目標車高よりも低いため、実車高を上げるためにガス室39のエア圧を増圧すべく、駆動回路220を介した駆動電力の供給によってタンクバルブ52が開状態にされるとともに、コンプレッサ42から圧縮エアが吐出されてエア通路46に圧縮エアが供給される。逆に、最大の偏差ΔHmaxが負の値の場合は、実車高を下げるためにガス室39のエア圧を減圧すべく、排気バルブ54が開状態にされてエア通路46の圧力が大気圧状態にされる。なお、ECU200により、圧縮エアの排気時以外の状態において、圧力センサ56の検出値に基づいて高圧タンク50内の圧力が設定範囲内に保たれるようにコンプレッサ42のモータが制御される。
また、S16において、上述のように最大の偏差ΔHmaxの符号によって増圧、減圧いずれかが選択されるとともに、調整対象位置に対応するエア・スプリング36に対応する制御バルブ48が駆動電力の供給によって開状態にされる。偏差ΔHFR,またはΔHFLが最も大きい場合には、制御バルブ48FRまたはFLが開状態にされ、エア・スプリング36FRまたはFLのガス室39のエア圧の調整が開始される。一方、偏差ΔHRAが最も大きい場合には、2つの制御バルブ48RRおよびRLが開状態にされ、車両後方に位置する2つのエア・スプリング36RR,RLのガス室39のエア圧の調整が同時に開始される。なお、2つの制御バルブ48RR,RLが開状態にされた状態において、後方左右のエア・スプリング36RR,RLの各々のガス室39は、互いにエア通路によって連通させられることとなる。そのため、後方位置の車高調整時には、エア・スプリング36RR,RLのエア圧は互いに等しくなる。なお、後述するように、旋回時に後方位置の車高調整がなされた場合には、エア・スプリング36RR,RLのエア圧は互いに等しくなることにより、それらエア・スプリング36RR,RLによるロールの抑制効果が低下する。
エア圧の調整が開始された後、S17において、上述のS12〜S14と同様な処理によって、調整対象位置の実車高が再度取得され、調整対象位置の偏差ΔHy(y=FR,FL,RA)が演算される。なお、調整対象位置が後方位置である場合には、後方の左右車輪16の各々に対応する実車高が取得されるとともに、それらに基づいて後方車高平均値が演算される。そして、S18において、偏差ΔHyが設定値D1未満になるまでS17の処理が繰り返される。偏差ΔHyが設定値D1未満になると、S18の判定がYESとなり、S19の処理が実行される。S19において、開状態にされていた制御バルブ48への駆動電力の供給が停止され、その制御バルブ48が閉状態にされる。その後、タンクバルブ52または排気バルブ54への駆動電力の供給が停止され、そのバルブ52等が閉状態にされる。
以上の処理が一通り実行されることによって、前方左右位置、または、後方位置のいずれかの車高が調整される。この車高調整制御は、比較的短い時間間隔で繰り返し実行され、前方左右位置、および後方位置の全ての車高が目標車高となるように(詳しくは、実車高と目標車高との差が設定値D1未満)調整される。また、前方左右位置、および後方位置の全てにおいて目標車高となっている場合でも、車高調整制御は実行され、S15の判定がNOとなる場合には車高調整が行われず、S15の判定がYESとなる場合に車高調整が行われるようにされている。
6. ロール抑制制御.
本実施例において、ECU200により、上述の車高調整制御と並行して、車体のロールを抑制するロール抑制制御が行われる。ECU200によるロール抑制制御のフローチャートを図6に示し、そのフローチャートに沿ってロール抑制制御について説明する。本実施例において、ECU200は、ロール抑制プログラムを短い時間間隔で繰り返し実行することにより、スタビライザ装置22に、走行状態(車速度、横加速度等)に応じたロール抑制モーメントを発揮させてロールの抑制を行う。なお、ECU200は、ロール抑制プログラム,車高調整プログラム等を時分割で実行している。
なお、ロール抑制制御において、通常の場合には標準的な制御が行われるのに対し、サスペンションシステム10のスタビライザ装置22以外の構成要素によるロールを抑制する効果(ロール抑制効果)が低下する場合には、スタビライザ装置22のロール抑制効果を高めてロールを抑制する制御が行われる。例えば、車高調整が行われた際に、その車高調整に起因してエア・スプリング36によるロール抑制効果が低下する場合があり、その場合には、スタビライザ装置22のロール抑制効果を高める制御が行われる。具体例を挙げて説明すると、上述したように、後方左右位置の車高調整がなされる際には、左右のエア・スプリング36の各々のガス室39が連通させられ、そのエア圧が等しくなるようにされている。そのため、旋回時に車体がロールした状態で後方左右位置の車高調整がなされた場合には、エア圧の高い旋回外輪側のエア・スプリング36から、エア圧の低い旋回内輪側のエア・スプリング36にエアが移動し、後方のエア・スプリング36が発生するロール抑制モーメントが低下する、すなわち、後方のエア・スプリング36によるロール抑制効果が低下してしまうのである。
そこで、本実施例において、サスペンションシステム10のスタビライザ装置22以外の構成要素によるロール抑制効果が低下する場合に、ロール抑制装置のロール抑制効果を増大させる制御の一例として、旋回時に後方左右位置の車高調整が同時になされてエア・スプリング36によるロール抑制効果が低下する場合に、スタビライザ装置22のロール抑制効果を高めてロールを抑制する制御について説明する。すなわち、本実施例のロール抑制制御において、旋回時に後方左右位置の車高調整が同時になされたことが検知され、その際にはスタビライザ装置22のロール抑制効果が高められるのである。制御の詳細については、以下に述べる。
S21において、車速度センサ212の検出信号に基づいて車速度Vが、操作角センサ210の検出信号に基づいて操作角δが、横加速度センサ214の検出信号に基づいて実横加速度Gyが取得される。S22において、車速度Vおよび操作角δに基づいて、推定横加速度Gycが演算される。S23において、実横加速度Gyと推定横加速度Gycとに基づいて、制御時に使用される制御横加速度Gy*が演算される。その制御横加速度Gy*は次の式によって求められる。
[式1] Gy*=K1・Gyc+K2・Gy
なお、本実施例において、K1およびK2は、走行試験の結果に基づいてロールを効果的に抑制できるように予め設定された係数とされている。また、それらK1およびK2は、例えば、それらの和が1になるように設定された値とすることや、車速度V,操作角δ,実横加速度Gy等に基づいて変化する値とすることもできる。
S24,S25において、旋回時に後方左右位置の車高調整が同時になされているか否かが検知される。まず、S24において旋回中か否かの判定がなされ、制御横加速度Gy*が設定値Aよりも大きい場合には、旋回中であると判定される。設定値Aは、その大きさの横加速度が車体に作用してもほとんどロールしない程度の大きさに設定されている。S24において旋回中であると判定されると、次に、S25において、後方左右位置のエア・スプリング36RR,RLの各々に対応する制御バルブ48RR,RLの制御信号が出力されているか否かによって、後方左右位置の車高調整が同時になされているか否かが判定される。後方左右位置の2つの制御バルブ48RR,RLの両者を開状態にすべく、それら両者に駆動電流を供給するように制御信号が出力されている場合は、後方左右位置の車高調整が同時になされていると判定される。そして、S24,S25の少なくとも一方の条件が満たされない場合には、通常のロール抑制制御であるS26〜S29の処理が行われ、S24,S25の両方の条件が満たされる場合にはロール抑制効果を増加させるロール抑制制御であるS30〜S32の処理が行われる。
S26〜S29の通常のロール抑制制御について説明する。S26において、車速度Vに基づいて、車両の前方と後方とのロール剛性配分が決定される。すなわち、車速度に応じて設定されたロール剛性配分がロール剛性配分マップとしてECU200の記憶部230に記憶されており、そのロール剛性配分マップから車速度に応じたロール剛性配分を読み出すことによってロール剛性配分の決定がなされるのである。なお、本実施例において、ロール剛性配分は、車速度が比較的小さい状態では前方の配分が比較的小さく、車速度が比較的大きい状態では前方の配分が比較的大きくなるように設定されている。
S27において、前後のスタビライザ装置22の各々のアクチュエータ80によって、ロールを抑制するために発生させる目標トルクの大きさが決定される。具体的に説明する。図7,図8に示すように、前後のスタビライザ装置22の各々について、制御横加速度Gy*に応じて設定された目標トルク値が標準トルクマップとしてECU200の記憶部230に記憶されている。また、標準トルクマップは、目標ロール剛性配分に応じて複数記憶されており、上記S26において決定された目標ロール剛性配分に対応するマップが選択される。その選択されたマップから制御横加速度Gy*に応じた目標トルク値が読み出されて、目標トルクが決定される。例えば、目標ロール剛性配分が、前方の配分が比較的低くされるとともに後方の配分が比較的高くされている場合には、前方の目標トルクが図7において最も下側に位置するマップから読み出された目標トルク値とされ、後方の目標トルクが図8において最も上側に位置するマップから読み出された目標トルク値とされるのである。
前後の目標トルクの大きさが決定されると、S29において、その目標トルクに応じた電流を前記スタビライザ装置22の各々の電動モータ100に供給する旨の制御指令が前後のインバーター104になされる。そのインバーター104によって電動モータ100に指令された電流が供給されることにより、前後のスタビライザバー70の各々の左右のスタビライザバー部材72,74が相対回転させられて、ロールを抑制するロール抑制モーメントの大きさが調整される。そのロール抑制モーメントによって車体のロールが抑制される。
S24およびS25の条件がいずれも満たされた場合には、旋回時に後方左右位置の車高調整が同時になされてロール抑制効果が低下しているため、S30〜S32のロール抑制効果低下時のロール抑制制御が行われる。S30〜S32において、上記S26〜S29とほとんど同様な処理が行われるため、異なる部分を中心に説明する。S30において、S26と同様に目標ロール剛性配分が決定される。
S31において、上記S27と同様な処理によって、前方の目標トルクが図7に示す標準トルクマップから読み出される。一方、後方の目標トルクは、図9に示すロール抑制効果低下時のトルクマップから読み出される。そのロール抑制効果低下時のトルクマップは、車高調整時における後方のエア・スプリング36によるロール抑制効果の低下量が補われるように、標準トルクマップ(図において破線で示す)よりも大きく設定されている。すなわち、後方のスタビライザ装置22のロール抑制効果が、車体のロールに対して後方のエアスプリング36が発生するロール抑制モーメントのロール抑制効果と同程度増大させられるのである。そのため、S32において、後方のスタビライザ装置22の電動モータ100には、S29の処理と比較して大きな電流が供給され、後方のスタビライザ装置22が発生するロール抑制モーメントが大きくなる。従って、車高調整時におけるロール抑制効果の低下の影響による車体のロール量の増加が抑制され、車体のロールを抑制する効果が良好に保たれる。
7. その他.
上記実施例において、ロール抑制プログラムと、ECU200のロール抑制プログラムを実行する部分とを含んで、ロール抑制装置たるスタビライザ装置を制御する抑制装置制御装置が構成されている。なお、ECU200のロール抑制プログラムのS24とS25を実行する部分を含んで、ロール抑制効果の低下を検知するロール抑制効果低下検知部が構成されている。また、ロール抑制効果低下時のトルクマップとECU200のロール抑制プログラムのS31を実行する部分とを含んで、ロール抑制効果を増大させるロール抑制効果増大部が構成されている。上記実施例において、エア・スプリング36およびエア圧調節装置40を含んで、車高調整装置が構成されている。また、車高調整制御プログラムと、ECU200の車高調整制御プログラムを実行する部分とを含んで、車高調整装置を制御する車高調整装置制御装置が構成されている。
上記実施例において、後方の左右車輪16に対応する位置の車高が同時に調整されたが、前方の左右車輪16に対応する位置の車高が同時に調整された場合であっても、エア・スプリング36によるロール抑制効果の低下時に、スタビライザ装置22のロール抑制効果を増大させて、車体のロール量の増加を抑制することができる。また、上記実施例において、車高調整時に後方の左右車輪16に対応する位置のエア・スプリング36が連通させられたが、それらを連通させずに同時に車高調整するサスペンションシステムにおいても、車高調整に起因して他の構成要素のロール抑制効果が低下する場合には、スタビライザ装置22等のロール抑制効果を増大させて、車体のロール量の増加を抑制することができる。さらにまた、上記実施例において、車高調整に起因してサスペンションスプリングによるロール抑制効果が低下した場合に、スタビライザ装置のロール抑制効果が増大させられたが、その他の要因、例えば、ショックアブソーバの失陥等の際に、スタビライザ装置のロール抑制効果を増大させることができる。
上記実施例において、エア・スプリング36が車高調整機能を有するものであったが、サスペンションスプリングと車高調整装置とが別体にされている場合であっても、車高調整に起因してサスペンションスプリングによるロール抑制効果が低下した際に、スタビライザ装置のロール抑制効果を増大させて、車体のロール量の増加を抑制することができる。例えば、サスペンションスプリングの上部と車体のマウント部との間に、油圧ジャッキ式の車高調整装置が配設されていた場合であっても、車体のロール量の増加を抑制することができる。
上記実施例において、ECU200が、ロール抑制制御と車高調整制御とを行っていたが、サスペンションシステムに2つのECUを設け、一方のECUによってロール抑制制御を行い、他方のECUによって車高調整制御を行うこともできる。その場合には、車高調整制御を行うECUからロール抑制制御を行うECUへ、後方左右位置の車高調整を行う旨の信号を送信するようにすることにより、後方左右位置の車高調整が行われていることを検知することができる。また、制御バルブ48RR,RLへの駆動電流が供給されているか否かを検出することによっても、後方左右位置の車高調整が行われていることを検知することができる。
請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムを模式的に示す図である。
上記サスペンションシステムの一部を模式的に示す図である。
上記サスペンションシステムのエア・スプリングのエア圧を調整するエア圧調節装置を模式的に示す図である。
上記サスペンションシステムのスタビライザ装置のアクチュエータの断面を示す図である。
上記サスペンションシステムの電子制御ユニットによって行われる車高調整制御のフローチャートを示す図である。
上記サスペンションシステムの電子制御ユニットによって行われるロール抑制制御のフローチャートを示す図である。
ロールを抑制するために前方のスタビライザ装置のアクチュエータによって発生させる目標トルクが記録されたマップを模式的に示す図である。
ロールを抑制するために後方のスタビライザ装置のアクチュエータによって発生させる目標トルクが記録されたマップを模式的に示す図である。
エア・スプリングのロール抑制効果低下時に、ロールを抑制するために後方のスタビライザ装置のアクチュエータによって発生させる目標トルクが記録されたマップを模式的に示す図である。
符号の説明
10:車両用サスペンションシステム 16:車輪 20:サスペンション装置 22:スタビライザ装置 34:ショックアブソーバ 36:エアスプリング(流体容器) 39:ガス室 40:エア圧調節装置(作動流体供給装置) 46:エア通路(流体通路) 70:スタビライザバー 72:右スタビライザバー部材(右側バー) 74:左スタビライザバー部材(左側バー) 80:アクチュエータ 90:トーションバー部 92:アーム部 100:電動モータ 200:電子制御ユニット[ECU] 230:記憶部 Hh,Hm,Hl:目標車高 Hx(x=h,m,l):決定された目標車高 HFR,HFL,HRR,HRL:実車高 HRA:後方車高平均値[HRA=(HRR+HRL)/2] ΔHFR,ΔHFL,ΔHRA:目標車高と実車高との偏差 ΔHmax:絶対値が最大の偏差 ΔHy(y=FR,FL,RA):調整中に再取得された偏差 θ:モータ回転角 δ:操作角 V:車速 Gy:実横加速度 Gyc:推定横加速度 Gy*:制御横加速度